太宰治論 (青 - 佛教大学図書館デジタルコレクション...逆行 (盗...

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Page 1: 太宰治論 (青 - 佛教大学図書館デジタルコレクション...逆行 (盗 賊)(決んほ)闘)(くろ 少女 東 京 わ れ (学生) 給仕 口 白 い エ プ ロ ン

1

女性像を中心として

〔抄録〕

太宰治の女性観について、従来

の研究では、部分的に

一、二の

作品を取り挙げ、考察されただけで、その女性像は、明確に浮か

びあが

ってきたとはいえ

なか

った。本稿

では、総ての作品を、

〈高貴〉な女性、〈平民〉

の女性、〈下層〉

の女性の三

つに分類

し、さらに、前期、中期

、後期

の太宰

の作品区分により、女性像

を読み取り、その全容を明らかにした。

〈高貴〉な女性は、よ

い出自

の女性であるが、太宰は〈精神の

高貴性〉

にも主眼を置き

、〈下層〉であ

っても、その精神はく清

潔〉で、〈美しい〉とする。

女性像の変遷では、前期は傷

つく女性、中期は明るい女性、後

期は死にゆく女性と、〈強

い〉女性が描かれ、後期では、世代交

代が明示されている。

キーワード

"道徳革命、外貌の奥に秘められた、〈下層〉の女性

の魂

の高貴性、世代交代

太宰治の女性観については、従来よりさまざまな研究がなされてい

る。作品中に現れた女性像に夫人

の面影を指摘する等、伝記研究を絡

ませたり、太宰

の描く女性像を

いく

つかの系列に分けて考えたりして

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

いる。

しかし、従来の研究では、部分的に

一,二の作品を取り挙げられただ

けで、太宰治の女性像がはっきり浮かび上がってきたとはいえない。

そこで、本稿では太宰治における全作品の女性の登場人物を総て網羅

し、表を作成することにより、太宰の女性像の全容を明かにしたい。

Page 2: 太宰治論 (青 - 佛教大学図書館デジタルコレクション...逆行 (盗 賊)(決んほ)闘)(くろ 少女 東 京 わ れ (学生) 給仕 口 白 い エ プ ロ ン

太宰治論

(青木

京子)

又、その事を通して、太宰文学には、何が描かれていたのか考察し

ていきたいと思う。

一章

太宰治の女性像

一節

女性の全体像

太宰治の女性像について、〈初出〉

『太宰治全集』におけるすべて

の作品を分析してみると、次

頁以下のような結果になる。

これらの分析によると、太宰

の女性は、〈高貴〉な女性、〈平民〉

の女性、〈下層〉の女性に分類できる。

全作品中、対象とな

った女性は三七四人であるが、〈高貴〉な女性

は、貴族や華族、よい出自

の女性であり、〈下層〉

の女性は、女中、

行儀見習等

「奉公」の女性

、バーの女給、茶店等

「給仕」、遊女、

淫売婦の

「商売女」等、〈下層〉的なイメージの職業についている女

性である。そのどちらにも属さない女性、たとえば、小説家の妻や、

看護婦といった職業婦人等、

一般

の女性を〈平民〉とする。

太宰文学における大部分の女性達は、東京及びその近郊の〈都会〉

育ちではなく、津軽及びその周辺の〈田舎〉出身者である。

〈田舎〉の女性は、「痩せ」

て、「色黒」で、「眼がつり上」り、「無

学」で

「愚鈍」

「騒々し」

くて、「いやな臭

い」

のする女性、「和

服」で

「日本髪」を結

っている女性として造形されている。

これらから読み取れること

は、貧困ゆえ

の下働き

のイメージであ

り、飾り気

のな

い素朴さも窺える。「眼」が

「つり上」が

った容貌か

は、

の〈

コ〉

の姿

る。

っても

綿

浴衣

の質

なも

であ

でも

ージ

であ

の精

は汚

ては

いな

い。

こま

でも

で美

い。

一方

の女

「女

の肩

つ場

が多

「色

で、

「ふ

つく

り」

「笑

が美

「上

であ

る。

に、

「洋

」、

「洋

で、

の色

「赤

の鮮

やか

調

であ

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(

階層

"

貴族…◎

平民…○

下層階級…囗

不明…△

語り手

期前

列車

テツ

さん

青森

少女

汐田

貧しい少女

貧しい

白、

つつましい

恥かしめられ汚され帰郷

私の妻

青森

作家

貧しい少女

無学、

田舎女

無学、

田舎女

思ひ出

叔母

青森

学生

叔母

す教育、

チャ

代理母、

道徳教示

青森

学生

母親

親しめない

叱る母

たけ

青森

学生

女中

教育係

代理母

祖母

青森

学生

祖母

一〇

作法教示、

苦手

たみ

青森

女中

一ロ

世話

年とっ

女中

青森

年とっ

女中

一□

世話

母のさしがね

上の姉

青森

学生

女学生

一〇胸のしめつけられるおもい

美しい女性

すぐ上の姉

青森

女学生

学生

女学

」○モ

デル、

入院

みよ

青森

学生

小間使

一ロ

浴衣に赤い帯

汚れ帰される、

白いエ

プロ

女学生

青森

女学生

女学生

一〇

黒い、

赤面

赤面(クラスメイト)

隣の女学生

青森

学生

女学生

 �

1痩せた

魚服

青森

十五

スワが中心

父親

よそ者

鬼子、

赤い頬

近親相姦、

美しい声

雀こ

童児

青森

タキ

ようつや

0

赤い

頬、

人魂

赤い

頬、

人魂

逆行

(盗

賊)(決闘)(くろんほ)

少女

東京

われ(

学生

)

給仕

白いエプロン

白いエ

プロ

女給

北の城下町

中年

私(

学生

)

女給

一□

痩せた

二人の亭主失う

女給

北の城下町

年若い

私(

学生

)

女給

一ロ小さい瞳

白い頬

女給

北の城下町

十九

私(学生

)

女給

一□花好き

少女

少女

村娘

一□朗々とした声

美声

陰火

(誕

生)(紙の鶴)(水車)(尼)

花嫁

北の国

彼、工場経営

す酒屋の

娘、

黒い

入院、

さかな

臭い

妹二人

一一

白いベ

ール

白いベ

ール

北の国

一〇割烹、

金眼鏡

下の姉

女学生

一〇

黒セルロイド眼鏡

女の

子(ゆり)

三ケ月

子ども

一〇

白い、

気品

おれ(作家

V

一ロ処女でない、

無学

犯される、

無学

卑俗

東京

女(愛人)

一ロ

侮辱、

やな臭い

黄色いドレス、

いやな

臭い

僕(作

家)

一□浅黒い、

三日月眉

白い歯列、

白足

いい

声、

道化の華

銀座

大庭葉蔵

作家

内縁

の夫・

教師

バーの女給

百死、

田舎言葉

心中死、

内縁の夫

真野

東京

二十

看護婦

一〇

左眼

傷痕

正義派

眼の傷痕

笑顔

い号室患者

東京

少女

患者

一〇

美人

ろ号室患者

東京

患者

一〇

微笑

看護婦長

東京

院長(めかけ)

婦長

一〇

女怪

めかけ

二人の娘

東京

 

0

白いパ

ラソル

白いパ

ラソル、

蘇生

婆さま

青森

私(作

家)

祖母

一〇

美しい、

渋い

幽霊、

白蝋の頬

母様

青森

継母

一〇

病身、

継母

継母

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

九三

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太宰治論

(青木

京子)

九四

語り手

期前

叔母

青森

叔母

説教

青森

,

一ロ無学

無学

(十六

魂)

花嫁

(妻)

青森

一□無学

無学

女の子(異人

)

東京

異人

おちぶれた異人・

おちぶれた異人

サフォ

ギリシャ

女詩人

」△

かぐはしい

玩具

棗から二百

蓋れた

私(作家)

0

泣き伏す

哀訴

祖母

袤から二百

里離れた

祖母

0

死、

香料の匂い

悪臭

猿面冠者

棗から二墓

離れた

男(作家)

無学

学、

卑しい

彼は昔の彼ならず

女主人

東京

三十

僕(大家)

質屋女

主人

0

怜悧

細君

東京

僕(大家)

左官

屋の夫

夫の誇り傷

つけた

女(マダム)

東京

僕(大家)

ダム

 

  _.

白いエ

プロン、

白い

青い銘仙

朱の羽織

若い細君

東京

僕(大家)

銀行

奥さん

」○

百合という女の子

母親

東京

僕(大家)

ビイル会社

」○

気品、

白髪

つつ

まし

二十前

僕(大家)

」○

痩せた女

銘仙

ていちゃん

東京

少女

愛人

」○

健康、

眼澄む

女のひと

東京

愛人

百浅黒い、

日本髪

痩せ

た、

日本髪

ロマ

ネスク(仙術太郎)(喧嘩次郎兵

衛)(嘘の三郎)

母者

津軽

惣助(庄屋)

」ロ叱る

蕨取

りの娘

津軽

J 一

油屋

の娘

津軽

J 呻

笛吹くのが上品

上品

習字

師匠

三島

次郎兵衛

師匠

」○

白い、

赤い花の

和服

花嫁

↓死

江戸

三郎(芸術家)

【○

亡き母

母不在

ダスゲマ

イネ

菊ち

ゃん

東京

十七

私(佐野)

給仕

」ロ

利発

白歯

利発

恋の相手

私(佐野)

売春婦

金のかかる女

恋の相手

の代理

めくら草紙

細君

銀座

私(作家)

細君

」○

動物

(狐)

マツ

船橋

十六

私(作家)

駅長の娘

」○

怜悧

懸命

大切、

奥さま

船橋

四十

私(作家)

駅長

,

感じ

がいい

愛想

よい

家人

船橋

私(作家)

小説

」○

泣く

ロマン

チシズム

芸者

船橋

十七、

芸者

」□

皮膚

汚い

芸者

皮膚汚い

看護

船橋

看護婦

b

無表

あらあらしい

雌につ

いて

あこがれの人

東京

十七、

私(作家)

客人

愛人

」□

側女

二階五歳ててなし子

奉公

百洋髪、

貧し

貧しい

女、

狂言の神

女中

浅草

十五、

ぼく(

学生

)

女中

」ロ

眼のすずし

い、

貧し

↓白

くなる、

器量

あげる

器量あげる

女の人(ナポレオン

本牧

十九

愛人

」ロ

南国訛

り、

情死

情死

女学生

長谷

女学生

b

品がよい

精神の女性

虚構の春

東京

私(作家)

」ロ

卑しい

卑しい

有夫の女

東京

愛人

」○

情死、

高潔

生みの老母

〇J

面目な

苦しむ母

久遠の女性

署無口、

働き

雪女

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語り手

期前

創世゚記

マダム

東京

われ(作家)

マダム

貴族

の出

母の笑顔

貴族

の出

HUMA

NLOS

T

青森

私(患者〉

無智、

智、

動物

(鼠

)

.

豊の妻

.

豊の

くり

売春婦

東京

売春

.一

卜世紀騎手

東郷平八郎の母上

賢い母

萱野アキ

青森

三つ

年上

私(学生↓作

女学生

0

白い、

ふつ

くら

無心、

青い

浴衣

赤い

老婆

東京

三十

私(学生↓作

事務

0

黄色い歯

黄色い歯、

悪玉

娘たち

青森

四、

互、

私(学生↓作

家)

(

売春

婦)

0

くつ

くつ

笑う

愛人

立葵の精

立葵の精〔花

あさましきもの

たばこや娘

東京

男(キネマ俳優)

恋人

0

愛く

るしい

無心、

東京

大学

モデル

0

発情

発情

燈籠

私(さき')

東京

卜四

私(女

語り

)

水野

さん(学

生)

恋人

  _.

貧しい、

産しくない

学問無

い、

美し

い、

東京

めかけ

百め

かけ、

日陰者

めかけ

期中

満願

奥さん

三島

私(作

家)

医者

」○

白い、

上品、

悪玉

若い

女のひ

㎜.

小学校先生

苓 

r

簡単

服、

白いパラソル

簡単服、

白いパ

ラソル

姥捨

かず枝

東京↓水

おれ

〔嘉

七)

」□

田舎

臭い女↓

白足

袋、

つつましい

山姥の

圃憚

いいひと帰される

女店員

東京

店員

」○

老妻

水ヒ

四十四、

老妻

皿○

福々しい、

上品

母の

代理、

上品

花燭

とみ

東京

十六、

↓..

トた

男爵

宇女優

」ロ

田舎の女中↓

都会

のモダンガール

虐待、

黄色、

変化

女中

東京

女中

けば

けばしい

卑しい

火の鳥

高野さちよ

奥羽↓

東京

十七↓卜九

条乙彦

面家、

雀家}

女学生ー女優

」◎

よい血

断髪

よい

血、

母、

変化

奥羽

」◎

気品

自殺

八重田数枝

大阪↓

東京

十九

職人

女給

」□

貧しい

リアリスト、

ロマンチシズム、

おめかけ

老母

東京

老母

0

上品

I

ca

n

sp

ea

k

女匚

甲府

私(

作家

)

女工

O

無心

鶴、

黄金

風景

お慶

青森

↓千

私(

作家

)

郵便

女中↓妻

:

 

のろ

くさい、

無智

↓ヒ

魯鈍、

変化

女の狛

千葉

百うす

のろ

うすのろ

富嶽

百景

老婆

御坂

私(作

家)

茶店の老婆

i

  _.

懸命

老母

六十

私(作

家)

老母

」○

端正、

青白

母に似る

娘さん

甲府

私(作家)

私(

作家

)

」○

水蓮

落ちつ

いた人

水蓮(花)

モウパッサンの令嬢

私(作家)

1 一

勇敢

可愛い

清姫

十四

私(作家)

勇敢

」△

おかみさん

吉田

茶店のおかみさ

晴○

肩た

たき

娘さん

吉田

十五

茶店の娘

Lo

純粋、

無報酬

花嫁

吉田

私(作家V

花嫁

」○

欠伸

娘さん

東京

タイピス

智的

罌粟

罌粟(花)

母堂

甲府

上品、

上品

女生徒

お茶の水

團闥

(私)

女学生

b

雌鳥

一女語り「

圓圏

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

九五

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太宰治論

(青木

京子)

九六

語り

期中

電車

の中のおばさん

東京

婦人

δ

厚化

粧、

雌鳥

雌鳥、

体臭

小杉先生

東京

先生

一〇

綺麗

ポオズ

キン

東京

女学生

一〇

可愛い

女らしい

バスの

女の

ひと

東京

婦人

一〇

赤い髪

汚れた着物

お姉さん

東京

白い

手、

細い

白い手

お母さん

東京

O

よそよそしい、

美しい

圓圏

美しい、

弱い女

今井田さんの

奥さλ

、夜学の

先生

0

無智、

ド品

無智、

ト品

懶惰の歌留

ヴィ

ナス

私(

作家

)

気品、

清浄

清浄、

レモンの

匂い

秋風記

K

東京

一.一

十二

私(

作家

)

私(作家〉

母、

0

無心、

せきれい

桔梗(花)

ばん上の

二f六

0

すぐ上の姉

三十四

O

芸者

湯河原

芸者

素直

素直

新樹の言葉

つる

津軽

三十六で死

私(作家)

乳母

0

育、

育ての親

圓團

育ての親

祖母

津軽

私(作家)

祖母

0

自慢

幸吉の妹

津軽

4

.

デパ

ートガール

0

無邪気、

百合

百合(花)

愛と

美について

長女

(

東京

)

二十六

長女

O

鉄道省、

未婚

奉仕

女中

(

東京

)

十七

女中

足の悪い

足悪い

次女

(

東京

)

.

.

°t

.

次女

0

白い、

ミス

H本

吹出物

葉桜と魔笛

島根

O

卜...

他界

島根

↓..

0

.,

レ四で結婚、

無心

無心、

白い

島根

+六↓f

八(死)

1

O

美しい、

腎臓結核

澄んだ声

春の盗賊

女房

獄中

私(作家)

作家

奥さん

0

ヒス

テリi

高徳、

ロマンチ

シズム

家内

作家

O

無頓着

ロマンチ

シズム

八十八夜

女将

信州

四レ前後

笠井さん

笠井

女将

:

 

青白い、

清らか

清らか

女中

信州

卜五、

女中

」□

小さい

r

ゆきさん

東京

↑六

女学生

-

落ちつ

落ちつ

き、

白い

女中

信州

十七、

女中

石白いエ

プロン、

素朴

立葵(花)、

白いエプロン、

素朴

美少

家内

甲府

私(作家)

」○

老婆

甲府

老婆

」○

黄色い

肌、

老婆

甲府

五トくらい

老婆

」○

垢抜け、

孫娘(少女)

甲府

六、

七、

少女

O

青い

桃実、

真珠

青い

桃実(花)、

真珠

ア・

東京

私(芸術家)

0

枯野、

コスモス

コスモス

(花)

畜犬

家内

甲府

卜▼丶一ノ

0

度胸、

落ちつ

度胸、

落ちつ

皮膚

と心

東京

蓬(私)

図案

女学校出

0 _.

醜い、

毛虫

毛虫、

皮膚感覚

東京

器量良

いい

デカダン抗議

半玉〔浪〕

奥羽

私(作家)

芸者

口 

典雅、

汚れ

典雅、

ロマンチック、

汚れ

女中

奥羽

四トちかい

女中

一□

黒、

痩せる

いい

善蔵

を思ふ

百姓女

三鷹

三十五、

私(作家)

百姓女

百蒼黒い

汚れてい

ない、

完璧

完璧

懸命

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語り手

期41

俗天使

三島

私(

作家

)

 

o

聖母、

清楚

聖母

看護婦

水上

看護婦

一〇

笑顔

笑顔

娘さん

水L

一〇泣く

不可解

小さい女中

東京

女中

一ロ

鶏卵落とす

優しい

女給

銀座

女給

上品、

大阪言葉

大阪言葉

美しい兄たち

少女

戸塚

私(

学生

)

給仕

0

ぼんやり

短片集

ダム

私(

学生

)

マダム

狐襟巻

嘘つ

き、

同化力

英学塾女

生徒

女学生

0

Lの発音

同化力

映画の女優

女優

0

かのさしみ

同化力

燈台守の細君

細君

O

羽毛

不倫、

肉体倒錯

すし屋の女中

東京

二十七

私(

作家

)

女中

まじめ

結婚破れる、

まじめ

駆け込み訴へ

マリ

ア(妹)

口百姓、

無智、

ペタニアのマリア

骨細く、

青白い

気高い

マルタ

五十円貰った

百姓女

アル

ト老ハイデル

ベルヒ

故郷

私〔大学生

0

妹(さい

ちゃん)

三島

二十

他人の娘

01

潔、

白い̀

清潔

お母さん

三島

七十近い

O

1

肥る

誰も知らぬ

安井夫人

東京

四十一

團圀

(私)

女学生

0

女王、

ねたみ

芹川さん

東京

細君

0

朝鮮で結婚、

素直

素直

走れメロス

卜六

メロ

内気、

赤面

少女

娘さん

緋マン

トを捧げた

女の決闘

女学生

私(

作家

)

女学生

01_.

医学生、

貧しい、.

人で生き抜く

叮愛い、

人で生

き抜

女房

芸術

忍従、

雌馬、

毛虫

雌馬、

毛虫、

動物の

匂い

古典風

ABULaF 

女の子

十九

美濃十郎

下婢

右汚い、

みじめ

汚い、

素直

 

o

道楽

伯爵の出自

尾上てる

浅草

十三↓十八、

てる

↑行

儀見

習」○しなやか↓気強い

悪い宿命

の影

二十五

翻(私)

もと愛人

 

 

古典人、

くらやみの

古典人

アグ

リパイ

アグリパ

イナ

グライゼンバート

」△

痩、

り眼、

利発、

純粋

利発、

純粋

てる

浅草

てる

行儀見

」□

粗雑、

無礼

三村ひさ

東京

十八

美濃十郎

一〇

月見草、

可憐

月見草

(花)

東京八景

x

青森

一L厂

r

私(

作家

)

私(作家)

芸妓

」□

下品、

無心、

無智

虐待、

田舎へ

帰す

アの

銀座

女給

」□

鎌倉情死

情死

妻の妹

東京

二十二

0

小さい、

陽気

きりぎりす

東京

二十四

亥語彑

0

正しい

正しい、

貧乏

嬉しい

ある画家の母

東京

杉野君

 

o1_.

芸術家の母

美しい

リイズ

」△

白い

ドレス、

令嬢

白い

日傘

令嬢

モデル

女中

云健康、

太る、

素直

白いエプロン、

けない

清貧

江戸

私(作家

)

娘さん

」ロ

赤い旅装

ロマンチシズム

姉〔黄英)

江戸

二十くらい

娘さん

清らか、

白い

蝶、

菊の精

菊の

精(花)、

白い

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

九七

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太宰治論

(青木

京子)

九八

語り手

期中

みみずく通信

女中さん

私(作

家)

女中

無心

ロマン

チシズム

佐渡

少女

佐渡

私(作

家)

娘さん

0

赤いオオヴァ↓都会人

赤↓都

会人

女中

佐渡

私(地質

学者

)

女中

笑う、

リアリス

ト、

令嬢アユ

令嬢

伊豆

二+にはなるまい

私(作

家)

遊女

清潔、

薔徽

清潔、

薔蕨(花)

千代女

女(和子)

練馬

十八

支語

女学

0

瞳病、

いやな子

練馬

0

優しい、

にぎやか

変わる女

吉田まさ子

練馬

友人

貧し

い、

天才

少女

天才少女

金沢ふみ子

練馬

十八

友人

0

立派な文章

うまん燈籠

長女〔初枝)

(東京)

二十六

私(作

家)

長女

O

鉄道省、

くして捨てられる

奉仕して捨てられる

次女

(東京)

二十一

次女

O

小さい、

白い

吹出物

母堂

(東京)

0

優し

く賢明

母屋

祖母

(東京

)

祖母

01_

はっ

りし

た人

ラプン

ツエル

森の中

十四

1 一

美しい、

気高い、

野生の薔薮

気高い、

野生の薔薇

婆さん

老婆

トロ

甘い母

甘い母

女中(さと)

沼津

十三

奉公

百浅黒

い、

左足引きずる

新ハムレッ

ホレーショの

作家

  一

僕より早

く寝

ない

賢母

オフ

ヰリア

1 一

美し

い、

懸命

美しい、

懸命

王妃(ガーツルード)

芸野心

無い、

乳の

匂い

↓悪知

恵、

打算

母性↓変化、

打算

風の便り

継母

故郷

私(作家

)

継母

右痩せて

黒い、

聡明

継母

女中

故郷

十七、

女中

足八文字

眼細

女中

四十

女中

冠痩せる、

女(娘さん)

娘さん

冠気品

簡単

服、

百姓

百姓娘

女房

東京

ト○

気品

しず子

東京

O

おと

なしい

女の人

東京

私(作

家)

病人

0

おと

なしい

おとなしい

女(和子)

東京

二十三

図倒

(私)

1

女学生

 

o1_

虚栄、

清潔

教授の娘、

清潔

奥さま

東京

細君

b

品、

ちつ

上品

十二月十八日

主婦

東京

園閨

(私)

女学校

b

感覚

鈍い

隣の奥さん

東京

卜○

無邪気

お嬢さん

東京

'O1_

可愛

園子

皿○

ゴム鞠

律子と貞

姉律

甲府

二十三

私(作

家)

女学校

一〇

1

落ちつ

く、

模範

模範

妹貞

甲府

十九

女学生

ト○

騒ぐ、

化け猫

化け

三浦君の妹

甲府

二十

娘さん

0

待つ

省線小駅

二十

安語

⊥(私

)

娘さん

0

人間嫌い、

みだら

,

正義と微笑

姉さん

東京

斧川)日記、堂生

 

o1_

犠牲

者、

神聖

立派な精

神↓

変わ

お母さん

東京

.

1

病人、

わがまま

終身

講義

杉野さん

東京

看護婦

皿○

泣く

ロマンチック

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語り手

期中

チョッビ

リ女史

東京

十五、

叔母

O

抜目ない

抜目

ない

洋装の女

娘さん

0

白痴

キン

婆さん

東京

叔母

0

老婆

お孫さん

東京

七つ

子ども

0

はにかむ、

上品

上品

よしちゃ

東京

女学生

0

生意気

生意

少女

東京

十九

、二

十以上

 

女学生

0

赤帯、

素直

素直

鴎座の女の人

東京

四十

事務員

0

続麗な声

綺麗な声

滝田節子

東京

女優

O

新劇女優

お婆さん

東京

五十す

お婆さん

O

遼縁

水仙

静子

東京

二十三

僕(作家

)

草田惣兵衛夫人」◎

冷厳、

軽蔑、

無心

変化

冷厳

玻璃子

東京

子ども

花火

夫入

東京

十七

鶴見

仙之助

(洋

面家)

細君

」○

当惑、

十七結婚

節子

東京

十九

女学生

」o

朗らか、

無邪気

賢明

皮膚感覚

↓強い

松や

東京

女中

犠牲者、

強奪

強奪

解雇

帰去

お嬢さん

青森

私(作家)

中畑さんの嫁

」○

佳い

女の人

五所河原

」○嫁

老母

青森

」○生みの母

母性

菊子姉様

青森

親戚

」○

東京

」○

女の子出産

女の入

青森

給仕

」□トン

カツ屋、

ふざける

叔母

青森

親戚

」○小さい

婆さん、

女中

青森

女中

」ロ

上品

祖母

青森

八十五

祖母

δ元気、

大声

故郷

青森

六十九

私(作家)

」○重態

枯れた草

東京

」○

両手つ

いてたのむ.

ロマン

チシズム

園子

東京

年四ヶ

」○

笑う

東京

義妹

」○

手伝い

娘さん

青森

親戚

」○中畑の娘さん

姪(シゲちゃ

ん)

青森

親戚

」○こだわりない

娘さん

青森

親戚

」o姉の子、

色白

看護

青森

看護

」○

嫂(長兄

)

青森

親戚

」○

笑って迎えた

嫂(次男)

タカさ孟

青森

親戚

」o

泣き出す

おばあさん

青森

親戚

」○

手をにぎりあ

わす

一〇

ひっ

そり

右大

臣実朝

御台所さ

十三

私(奉公人)

信清

女子

」◎

都育

ち、

可愛い

都育ち、

名門

尼御

台さ

親戚

」○

優し

駿河

の局さま

十七

花嫁

皿◎

気性

勝つ

強い

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

九九

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太宰治論

(青木

京子)

一〇

語り手

期中

政のお方さま

継母

継母、

自害

継母

自害

若い母君

二十七

 �

剃髪

剃髪

花吹

お里さん

百姓女

恥ずかしそう

うぶ

娘さん

十六、

可愛い

可愛

い↓女

性の手本

佳日

子(お

嫁さ

ん)

東京

花嫁

0

はにかむ、

桜(

花)

東京

三十すぎ

長女

0

しとやか

いい家庭

東京

三十まえ

次女

0

美しい笑顔

いい家庭

女の子

東京

三つ

次姉の子

0

お母さ

0

十年前

作家

の手帖

女の子

東京

私(作家)

子ども

0

ちゃっ

かり

実利

女の子

東京

子ども

0

純粋な祈り

奥さん

東京

産業戦士

0

無心

無心

アメリカの女達

気障、

不平

気障

不平

散華

御母堂

東京

私(作家)

0

ぬい

もの、

静か

ロマンチシズム

雪の夜の話

私(しゅんこ)

東京

團固

(私)

0

はしゃ

強い

お嫂さん(きみ子)

東京

姉(親戚)

O

おとなしい

遊興戒

吉州(内儀)

江戸

名妓

さりげない

東京

だより

少女

東京

私(作家)

娘さん

0

緑の

蝶、

崇高

蝶、

崇高

津軽

叔母

青森

私(作家)

叔母

0 _,

慕う

代理母

女の'

青森

娘さん

」口

赤い

帯、

月見草

月見

草(花)、

赤い

N君の奥さん

青森

i

 J_.

小柄、

器用

器用

女中さん

肖森

女中

」□

間抜け

間抜

育森

」○

おっ

とり

おっ

とり

娘さん

青森

親戚

」○

白い、

気品

気品

婆さん

青森

親戚

lOJ_.

上品

上品

陽子(長兄長女)

女学生

」○

地主嫁

-

光ちゃ

ん(姉娘)

親戚

」○

手伝い、

素直

東京

」○

二番目の子生む

祖母

青森

四十八

祖母

」○

をばさん

青森

四十

叔母

lOJ_.

古めかしい

若い女

青森

女中

I

 J_.

太る

若い女中

青森

女中

」□

ふくれる

けい子

十九、

親戚

」○

真面目

真面目

たけ

五十

子守

」□

母、

教育係

母、

道徳、

無憂無風

娘さん

娘さん

」○

久留米絣、

白い

白い

歯、

久留米絣

金丸の娘さん

私より一、

二上

友人

」○

老けてない

女の子

十四、

娘さん

」○

他人行儀でない

生みの母

一〇

気高い、

立派

気高

い、

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語り手

期中

貧の意地

女房

江戸品川

原田内

δ

可憐

人魚

の海

人魚

津軽

中堂金

す透明、

さわ

やか

さわやか

八重

(妻

)

津軽

一□妾、

色白

けなげ

津軽

召使

一□

怜悧、

分別

けなげ

金内

の妻

津軽

一〇六年前病

病弱

髭候

の大尽

娘(春

恵)

↓姉

仙台、

青森

男(大

尽)

皿◎

京育

鬼女に変化

妹(お夏

)

仙台

青森

一◎

きかぬ気

鬼女に変化

母親

仙台

 ●

人をあ

やめるけいこ

三人比丘尼

太刀

讃岐

才兵衛

0

懸命

強い、

懸命

花嫁

讃岐

0

人形のように美しい

美しい

猿塚

お蘭

太宰府

1

白坂総右

衛門

子ども

0

美形

名花

の誉

美しい、

強さ

破産

女房

美作

十六

私(合

蔵)

0

わめ

強さ

下女

美作

下女

化け物

お六

美作

行儀見

奥方

の古着

行李

に詰める

赤い太鼓

女房

西陣

徳兵衛

0

丈夫、

なぶ

りもの

強い女

子守女

西陣

子守女

懸命

西陣

十八

0

鼻息

洗い

強い女

女房

西陣

細君

1

O  

悪鬼

につかれたように騒ぐ

口の悪さ

西陣

細君

皿○

不幸

暴露

粋人

奥方

lO

衣装道

大長者

茶屋の婆

婆(茶

」ロ

阿保

おそろしい

芸者

(蕾)

三十九

芸者

a

悶える、

おそろしい、

リアリズム

女房

0

死んだふり

吉野山

茶屋女

私(法師)

茶屋女

素直

茶屋女(都会)

↓田舎女

惜別

東京の女

の人

東京

私(医師V

0J_.

白手

拭あ

ねさま

かぶり

甲斐

甲斐し

さ、

道徳家

東京

子ども

δ

無邪気

覆徳丁忠孝

竹青

下婢

湘南

二つ年上

魚客

下婢

下婢

」口痩せ、

無学、

無学、

女房

」□醜い、

無学

伯父の妾、

無学

竹青

二十

'O

麗人、

艶な声

神女

艶の声

お伽草紙

東京

」○

子ども

を背

負う

女の子

東京

子ども

皿○

主張

主張

瘤取り

お婆さん

四国阿波

七十近い

私(作家)

お婆さん

lOJ_.

腰曲

がらず眼

すずしい

おかみさん

四国阿波

二十六

おかみさん

i

 J_,

色白

陽気

四国阿波

十二、

0

美少女

生意

浦島さん

妹(乙姫)

丹後

十六

私(浦島)

0

無遠慮

残忍

性、

不可解

カチカチ山

少女(兎)

甲州(河口湖)

十六

私(作家)

少女

 

oJ_,

鬼、

処女

残忍

残酷

甲州

(河口湖)

子ども

'OJ_.

下心

下心

アル

テミス

美しい、

女神

処女

残醜

圓個

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

一〇

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太宰治論

(青木

京子)

一〇

晒り

期中

舌切雀(お婆さん)

細君

仙台

二十三(年

上)

私(作家)

召使

無学

無学、

強い

雀(お照るさん)

仙台

7i

 

美声

家、

上品

蓄薇(花〉、

美人

雀(お鈴さ

ん)

仙台

 

',O

丸顔

可愛い

薄明

甲府

三十四

私(作家)

一〇

長女

甲府

五つ

子ども

一Q

赤い下駄

甲府

十六、

一〇

老成

落ち

老成

期後バン

ドラの匣

娘さん

越後

僕(手

紙形

式)

娘さん

δ

父の見解

助手さ

越後

看護

助手

一〇

不機

不可解

三浦正

東京

十八

女学生

看護

助手

一〇

不可解

卑しさ、

不可解

竹中

静子

越後

二十五

看護

助手

一〇

清涼

正しい愛情の人

竹さんのお母さん

大阪

母堂

一〇

偉い人

偉い人、

関西訛り

牧田さん(孔雀)

越後

助手

一〇

可憐

いい人

越後の娘さん

越後

娘さん

一〇

痩せる

死、

人間完

鳴沢イト子

越後

患者

一〇

キン

トト

越後

助手

一〇

眼鏡

うるめ

越後

助手

δ

痩せた

イチャ

越後

助手

 �

淋しそう

カクラン

越後

助手

O

頬赤

女師匠

-東京

師匠

0

新内

女師匠

親といふ二字

長女

津軽

私(作

家)

娘さん

O

桶屋

竹内トキ

二十六

0

処女

貨幣

おかみさん

東京

おかみさん

0

若い小柄

女中

瀬戸内島

四十

女中

  _.

婆さん

瀬戸内島

店員

」○

慾、

やらしい

お酌の女

瀬戸内島

1

女給

百狐、

薄の

薄のろ、

輝かしい

女房

青森

,

薄汚い婆

薄汚

圭悟の嫁

青森

細君

」○

精神

気高

気高

い、

神の如く恐ろしい

圭悟の母

青森

皿o

盲目

盲目

十五年間

女児

津軽

私(作

家V

子ども

」○

老母

津軽

皿○

ちんまり

道徳

の煩悶

やんぬる哉

うちの細君

津軽

私(作

家)

細君

」○

創意工夫

強い女性

隣の細君

東京

細君

δ

ひどい苦労

苦労

苦悩

の年鑑

叔母

津軽

私(作

家)

叔母

」○

たしなめる

勢い

祖母

津軽

九十

祖母

」○

長命

囚鬯義

曾祖母、

津軽

曾祖

母、

皿○

チャンス

若い女性

東京

私(学

生)

娘さん

」○

侮蔑

侮蔑

お篠さん

弘前

二十二、

芸者

細面

古風

細君

伊豆

私(兵

士)

細君

δ

足ひきずる

足ひきずる

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語り手

期後

娘さん(ツネちゃん)

伊豆

はたちくらい

娘さん

δ

のん

気、

抗議

抗議

冬の花火

数枝

東京

↓津

二十九↓三十

夫、教師、

小説

女学校出

すわがまま、

強い女性

母(あ

さ)

青森

四十五

継母

」○継

母、

優し

継母、

優し

い、

睦子

東京

子ど

」○

重い、

蔵様

地蔵様

未帰

還の友に

茶店

の娘さん

仙台

僕(先

生)

給仕

断られる

菊川マサ子

仙台

十九

女学校出

一〇

内気

いい

いい子、

待つ

おかみさん

仙台

おかみさん

一□

厚遇

春の枯葉

節子

津軽

三十一

野中

弥【

国民学校教師

すお高い

強い、

旧式な

田舎女

しづ

津軽

五十四

」○男気の毒

墨痴、

【欟

奥田菊

津軽

二十三

娘さん

一〇

いい人、

洒落

いい人、

強い

若い娘さん

東京

娘さん

一〇

疎開

たずねびと

女の人

仙台

はたち前後

私(作

家)

娘さん

δ

清潔

清潔

東京

一〇

粗末

なモンペ

女の子

東京

子ど

 �

あさ

ましい

おかみさん

仙台

おかみさん

0

強気、

甲高

い声

強気

面圏

親友

交歎

女房

津軽

私(作家

)

O

都会

の女

ロマ

ンチッ

ク、

道徳

淫売

津軽

淫売婦

人生の真実

人生の真実

男女

同権

東京

私(詩人)

0

了解不可能

置徳騨

不可解

下女

東京

十七、

下女

頬赤、

臭い

口臭い

奥さん

東京

細君

O

椅麗

変化

残忍性

おかみさん

東京

おかみさん

0

いぢめられる

めしたき女

千葉

三十前後

めしたき女

色黒、

仕打

吉原

の女

東京

遊女

威厳

変化

威厳、

変化

おいらん

東京

芸者

恐ろしい

恐ろしい、

最初

の女房

O

赤蟻

恐ろしい

二番目

の女房

給仕女

狼、

奇怪

狼、

奇怪

男女

同権

三番目

の女房

四十近い

 

 

下男

扱い

強い女

六十すぎ

屋台

」□

売上

金握る

強い女

いろんな女

J i

 

無学

無学

婆さん教授

教授

痛め

つける

残忍性

トカトントン

青森

」□

女の局員

青森

Jー

O

時田花

青森

はたち前

女中

」□

貴公

子、

凄腕

女房

青森

」○冷たい

冷たい

若い女の人たち

青森

娘さん

皿○

労働歌

メリイクリスマス

シズエ

子ち

ゃん

東京

十二、

↓二

私(作家

)

女学生出

」◎

緑の帽子

東京

広島

三十八

母堂

皿◎

恐怖

しない

母堂、

原爆

ヴィヨンの

おかみさん

浅草

四十前

天語⊥(私)

詩人

(大

谷)

小料理屋

百鋭い語調

鋭い

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

一〇三

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太宰治論

(青木

京子)

一〇四

語り手

田 .

期後

二十六

lI

㎜○

くるくる働く、

天女

匱隧

けがされる

(

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銀行員

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貴婦人

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田舎娘

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野生

蝮、

野生、

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伊豆

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四十くらい

お嫁さん

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叱る

叱る

中井さんの娘さん

伊豆

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毘のばあや

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伊豆

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東京

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東京

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奥さん

 

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東京

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娘さん

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東京

三十前

女中

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聖母

聖母

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東京

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無心

無心

東京

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強い人、

正しい人

次女

11

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語り手

期後

女記

神田

二十八

女記

一〇

女記者

嫉妬、

強い女性

饗応

夫人

奥さ

福島

↓東

(私)

奥さま

献身

召し使い、

献身

ウメちゃん(私)

東京

お手

伝い

」□

けとばしたい

若い女

東京

看護

一〇

ふざけあ

犯人

小森

ひで

東京

十一

鶴(男)

事務

寄宿

女中がわり

東京

肉屋

の娘

一〇

みつがせる

強い女

スズメ

東京

芸者

」□

口あけね

むる

酒の追憶

小梅さ

東京

私(作家)

芸者

身悶

ねえさん芸者

東京

芸者

一□

身悶

おかみ

東京

おかみ

一〇

酒を据える

細君

東京

一〇

のけぞる

桜桃

長女

東京

私(作家)

子ども

次女

東京

子ども

」○

東京

」○

努力

めたい自信

努竣

つめたい自熕

東京

親戚

一〇

 

重態

美男

子と

煙草

女房

東京

私(作家)

0

呆れ

た、

生真面目

眉山

トシちゃん

新宿

はたち前

僕(小説家

V

女中

無智

腎臓結核、

献身

おかみさん

東京

おかみさん

0

初老、

あっ

さり

女類

おかみ

東京

二十六

僕(雑誌者)

おかみ

0

不可解、

動物

渡り

田辺さん

東京

四十

私(出版業)

イデオロギスト

0

痩、

無口

緑のベ

レー帽

社会主義

不道

家庭

の幸福

マサ子

東京

私(役所)

長女

0

学校

東京

0

大金算段

陳弁

みすぼらしい女

東京

0

玉川上水飛込

自殺

人間失

大勢の女の人

青森

姉、

妹、

従姉

0

姉、

妹、

従姉

女中

青森

女中

0

犯す

犯文

圜圈

小母

さん

青森

五十すぎ

おかみさん

0

寄宿

姉(アネサ)

東京

三十

娘さん

0

病身

でもどり、

妹(セッちゃん)

東京

女学

0

命令

悪口

命令

淫売

東京

,

淫売

白痴、

親和

リアの

円光

案内

東京

店員

0

恐ろしい

恐ろしい

車掌

東京

車掌

0

恐ろしい

恐ろしい

喫茶

店の女

東京

給仕

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手紙

隣の娘

東京

はたちくらい

娘さん

」○

歌舞

伎の隣の席

東京

奥さん

」○

市電

の乗客

乗客

」○

わからぬ娘

東京

 

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手製人形

親戚

の娘

東京

親戚

」○

手紙

ツネ子

銀座

女給

有天

の婦人、

年上

情死事

件、

年上

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

一〇五

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太宰治論

(青木

京子)

一〇六

話り手

期後

仙遊

館の娘

}○

手紙を書

きたくる

文化

生(同

志)

女子高等師範

」○

イヤな女

看護

東京

看護婦

」○

手紙

老母

老母

」○

心づくし

心づ

くし

シズ子

甲州

二十八

女記者

」○

女記者

夫と

死別

恐怖

シゲ子

東京

子ども

」○

女児、

牛の尻尾

スタンドバ

アマダ入

京橋

ダム

二階

汚水

グツ

ドバ

細君

埼玉

文士(田島)

」○

後妻

実家円福

先妻

東京

」○

キヌ子

世田谷

十三、

四、

闇屋

」○

闇屋、

気品

.

変化

気品

青木さん

日本橋

三十前後

美容師

」○

戦争

未亡人

清潔

未亡

水原ケイ子

田園調布

三十前

洋画家

皿○

愛人、

愛人

階、

可憐

 こ

〈高貴〉な女性は、太宰作品の昭和八年~昭和十二年にあたる前期

では

一人、昭和十三年~昭和

二十年の中期では十

一人、昭和二十

一年

から晩年

の昭和二十三の後期

では四人、合計十六人であり、全体の約

四パーセントにあたる。その中でも特に、戦後

一九四七年

(昭和二

二年)まで続

いていた

「華族制度」における〈高貴〉な女性は四

パーセントもみられ、太宰は

これらの女性にも視点を注

いでいたこと

がわかる。

〈平民〉の女性は、前期では四十三人、中期は七十人、後期に入る

と百六人で合計二百九人にも

のぼる。これは全体の約五十七パーセン

トを占め、これら〈平民〉の女性

の描写は、やはり

一番多

い。

〈下層〉の女性は、前期では四十

一人、中期、六十七人、後期、四

十人で合計

一四八人になり、全体

の約二十九パーセントの女性がその

割合を占めている。太宰が、

いかに多く<下層〉の女性に主眼をおい

てきたかが明確にわかる。

高貴、平民、下層の女性

(対象)374人 の女性

割 合 合 計 後 期 中 期 前 期 階 層

約4% 16人 4人 11人 1人 古 」包同 貝

約57% 209人 106人

1

70人 43人 平 民

約29% 149人 41人 67人 41人 下 層

年齢について

(明記されているもののみ)

割 合 合 計 後 期 中 期 前 期 年 齢

11% 18人 8人 9人 1人 十代以下

36 62人 8人 40人 14人 十代

28 49人 14人 31人 4人 二十代

12% 21人 8人 10人 3人 三十代

8% 13人 6人 6人 1人 四十代

6/ 11人 3人 8人 0人 五十代以上

100 174人 46人 101人 22人 総 計

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二節

年齢について

年齢では、十代の女性が最も多く、全体

の三十六パーセントを占め

ている。次は二十代の二十八パーセント、続

いて三十代の十ニパーセ

ントである。

これらの分析から判断できることは、徳川封建時代までは、大人と

子どもの区分は十五歳を境として考えられ、青春という時期は存在し

なかった。しかし、近代に入り、欧米思想の輸入により、「青春」と

いう概念が入

ってきて、十五歳前後

の微妙な年齢について、深く考え

 ヨ

 

られるようにな

った。たとえば、樋口

一葉は、『たけくらべ』で、「女

郎」となるべき運命を感知している十四歳の美登利を通して、少女か

ら女

への変身のきしみを見事

に表現している。

このように、太宰も十代と

いう微妙な年齢に焦点をあて、その時代

に集中するさまざまな問題を

テーマにしたのである。十代は、奉公に

出される等、厳しい現実社会

に直面する自立の年齢であり、自己の将

来や運命を考え、葛藤を起こしたりする。又、結婚年齢でもある。女

性の結婚適齢期は、時代により変遷するが、太宰が作家として活躍し

た昭和十年前後~二十年前後

は十代がそれに該当し、女性が嫁ぎ、母

になる変化

の激しい年代であ

る。近代における、「十五歳」は、「成年

・成女式」の年齢であり、三木露風作詞の

「赤とんぼ」では、「十

五で姐やは嫁に行き」と唱わ

れているように、社会

に加わる大人

の年

齢なのである。

十代

の女性は、前期や中期

の作品に多く描かれ、〈田舎〉から〈都

会〉

へ、恋人を追

って出奔し、身を持ち崩して帰郷する女性

(『列車』

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

等)が多く描かれている。

二十代、三十代は、中期、後期作品に頻出し、教師

の妻

(中期

『満願』)であったり、詩人の妻

(後期

『ヴィヨンの妻』)であ

ったり

する。中期の作品では、下働きとして虐待された少女も、「上品」な

警察官

の夫人として変貌

(『黄金風景』)したり、「清潔」で

「美しい」

若妻

(『満願』)等、「上品」で

「生き生き」した女性が活写されてい

る。後期では、「美しい」が、次第

に自己主張する女性

(『おさん』)

が目立ちはじめる。特に

『斜陽』では、旧来の道徳を打破し、新しい

〈道徳革命〉を目指す〈強

い〉女性像が顕著である。

四十代以上になると、極端

に少なくなる。中期

『富嶽百景』

は、「月見草」を眺める老婦人や、お見合相手

の母親

「上品さ」が

見られ、好感を持

つ女性として描かれているが、総じて、『津軽』等

の身内の女性が散見しているだけである。人生五十年といわれた当時

にあ

っては、四、五十代は晩年にあたる。太宰は、そのような穏やか

な老婦人よりも、不遇な少女に焦点をあて、暖かい眼差しを注

いだの

である。

第二章

女性の階層

一節

〈高費〉な女性

〈高貴〉な女性は、前期では、『創世記』

に、「つね日頃より貴族の

出を誇れる傲縦のマダム」としてわずかに見られるだけであるが、中

期では、『火の鳥』、『水仙』等、多くの作品に見出せる。

一〇七

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太宰治論

(青木

京子)

『火

の鳥』

のさちよは、「祖先

のよい血」が流れていたとし、その

母も

「気品高

い」母として、〈高貴〉な階層の出自が窺える。母は夫

の失跡後、跡を追うように自殺するが、娘

のさちよもそれが因子と

なって豹変し、若くして東京

へ出奔し、女給に変身してゆく。その果

てには医学生と自殺までするが、さちよだけが生き残り、女優として

再生してゆく。〈高貴〉な母

は死にゆくが、娘は倨傲の女として造形

され、

一時は身を落としても、廃残

の身

では終らず、蘇生する。「さ

ちよ」は、「幸代」と呼称が漢字表記に変えられ、自立する〈強さ〉

も窺える。しかし、新聞記者

の助七ら三人の男達に、慈愛深く見守ら

れる女性として描かれ、男の方から、「おれは、あの人に、おれの子

供を生ませてやります」と、言われるような、〈女性〉性が強調され

ている。『斜陽』

のかず子が、自ら男の許

へ奔り、愛妾とな

って私生

児を生み、自身の生をも乗り越えてみせるという〈逞しい〉女性像と

は、対照的である。

『水仙』の草田静子も

「伯爵」夫人として造形されている。実家

破産で家出し、無頼の生活の末、衰弱し、死に絶えてしまう。彼女は

とことん零落するが、「貴族

の品位」を保持する女性として描かれて

いる。『右

大臣実朝』の母の尼御台や、前権大納言坊門信清の御女子の御

台所も

「名門」の出自であるが、特に尼御台は、ゆったりと構え、三

  

 

島由紀夫

『鏡子の家』の新劇俳優、舟木収の母親のように、息子の

情事を当然の如く認める鷹揚

な母親像として造形されている。

その他にも、『髭候

の大尽』

(『新釈諸国噺』に収録の際、のち

『女

一〇八

)、

『古

(A)

の伯

人等

にも

る。

て、

にお

〈高

な女

は、

で美

した

て描

いる

し、

れら

の女

「気

で消

に、

の傾

い。

の母

登場

る娘

は、

に絶

こと

らも

に自

の方

にむ

『斜

陽』

のか

のよ

に、

には

ても

一人

しく

ると

いう

い〉

の男

に見

ら、

いこう

る。

でも

『メリ

マス』、

『斜

にそ

『メ

マス』

の母

の娘

「貴

の出

であ

やは

 ア

 

は、

「妻

の誇

の奥

にし

っか

つ、

「女

に相

る女

であ

の対

る女

い。

「わ

で、

ても

のな

い、

『斜

「お

同種

の女

る。

それ

に対

シズ

エ子

、恋

の対

り、

に勤

る進

であ

原爆

、娘

が生

る女

て造

いる

『斜

の母

で、

母親

「ほ

の」

「最

の貴

て象

に描

いる

「お

「無

「可

しく

った

を考

いで

、他

に奉

る〈

い〉

であ

、娘

いてく

るか

ら別

に移

い、

主体

のな

い女

て描

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かれている。さらに、「人と争はず、憎まず、うらまず、美しく生涯

を終」ろうと、反抗のイメージはない。それに対し、娘のかず子は、

火事を起

こすと、「寝巻姿」

で取り乱し、気品を

モットーとする貴族

性は解体しはじめる。生存費がなくなると、「地下足袋」姿で、「ヨイ

マケ」までし、宮家

「奉公」にあがるように仕向けられる。かず

子は意志的な生活者

の性格を帯び

てくるだけでなく、「女中奉公」と

いう、〈最下層〉のイメージ

さへ付与されてくる。かず子の胸には蝮

が宿り、母から生気を吸

いとり、母を犠牲

にして、新時代を生き抜

く、ず太さを身につけてくるのである。生活が逼迫しても、また

「女

大学」にそむいても、逞しく生きようとする〈動物的な女〉に変身す

る。かず子は、従来

の家どう

しの結婚ではなく、妻子ある〈田舎者〉

の上原との

「恋」により、赤ち

ゃんを宿し、「戦闘開始」を宣言する。

自身の

「恋

の冒険

の成就」

のために、「道徳

の過渡期の犠牲者」を自

認し、「こひしいひと

の子を生み育てる事が、私の道徳革命

の完成」

なのだと断言する。彼女は道徳

の束縛

の下に生きず、自由に生きるこ

とを望む。従来の女性には見られなか

った進歩的な女性像である。

第二節

〈平民〉の女性

1、妻像

〈平民〉の女性は、そのほとんどが主人公の妻、母といった身内

女性や、看護婦等の職業婦人

である。その中でも、特

に絶妙な筆致で

描かれているのが妻像である。

「上品」な妻は、前期では、『めくら草紙』

の駅長

の妻が、「感じの

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

いい奥様Lとして描かれるのみであるが、中期では、『満願』の小学

校の先生の若妻が、〈清潔〉な女性として叙述されている。この女性

の呼称も

『めくら草紙』と同様、「奥さま」と描かれ、お医者

「上

品」な妻でさえ、「奥さん」と描かれるのに対し、

一段高

い敬語で表

  

 

いる。

八月

のを

いも

のを見

(略

)ふと

ると

のま

への小

、簡

な姿

が、

つさ

つと

やう

にし

て歩

つた

。白

いパ

ソル

るく

ると

した

(略

)

つき

つほ

ど、

は、

の女

の姿

が美

「美

い」

し、

「白

ル」

〈清

な女

「美

さ」

調

いる

の掌

の時

は、

「夜

に出

い、

お医

のお

が出

て、

「朝

が来

ると

いう

い希

の作

であ

「白

ル」

「清

い太

の光

れ、

の喜

の表

一層

って

いる

の他

『恥』

の小

の妻

「落

つ」

いた

「上

「奥

ま」

と造

れ、

は、

の種

の妻

い。

に入

『斜

の洋

の上

の妻

『饗

の教

に見

『斜

の上

「地

「貧

い服

の女

つも

で、

っても

いく

いの

「心

の美

い」女

、〈

い愛

一〇九

Page 20: 太宰治論 (青 - 佛教大学図書館デジタルコレクション...逆行 (盗 賊)(決んほ)闘)(くろ 少女 東 京 わ れ (学生) 給仕 口 白 い エ プ ロ ン

太宰治論

(青木

京子)

ひと〉として、典型的に叙述されている。『饗応夫人』でも、その婦

人は、「奥さま」と描かれ、次

々と訪れるお客

に対し、精

一杯饗応に

打ち込む。歓待疲れで病気にな

っても、最後まで他人

への奉仕の精神

を忘れな

い美しい女性で、末尾で女中が、「人間といふものは、他

動物と何かまるでちがつた貴

いものを持

つてゐる」としみじみと述懐

しているように、太宰は、善意に根ざした美しい女性の姿を余すこと

なく描写している。

一方、〈強〉く、〈逞し

い〉妻像も、多く見受けられる。前期で

は、ほとんどみられな

いが、中期

になると、『畜犬談』の妻に、世間

の評判のためには、飼犬をも

「殺して」と言う、「男より冷酷で度胸」

のいい妻像が見える。後期に入ると、その像は、

一層顕著である。

『ヴイヨンの妻』や、『おさん』では、最初は、夫に添

って行動をおこ

す、保身的な妻像が描かれるが、徐々に主体性を持ちはじめ、結末で

は、夫を冷笑し、社会

に抗議する像が見受けられる。「軟弱」な夫に

代わ

って、身近かなことからでも革命を果たそうとする〈強〉くて、

エネルギッシ

ュな妻像である。

2

親像

ても

(『思

出』)

や、

る母

(『陰

「母

」)、

の母

(『ロ

マネ

ク』

「嘘

の三

」)

のイ

ージ

の女

ろが

ると

『姥

では

ず枝

よう

に慕

一一〇

宿

の老妻に

「上品さ」がみられ、『火

の鳥』

の朝太郎の老母にも、そ

れが見受けられる。又、『富嶽百景』では、母親像は、「端正」な老母

として表現され、可憐な

「月見草」に擬されている。お見合相手

の母

親には、敬語の意を含む

「母堂」が用いられ、生みの母であるかのよ

うに、孝行したい存在にまで昇華されている。『うまん燈籠』の母親

にも、「母堂」の表記がみえるし、『津軽』

の生母も、「気高」く

「立

派」な母親と表記される。やはり中期には、明るく豊かな女性像が明

示されている。

後期に入ると、『冬

の花火』のあさは、冒頭

では、優しく立派な

「いいお母さん」と叙述されるが、徐々に、罪を犯し、死に至る母と

して造形されてくる。『春

の枯葉』

の節子の母も、やはり傷

つけられ

る母としての描写が読みとれる。『男女同権』の母も、「了解不可能」

な母親像が露見するし、『人間失格』

に至ると、母

の像は破壊された

のか、その存在はきわめて稀薄である。〈強い〉母親像は、全篇を通

して、ほとんどみられな

いといっても過言ではない。

3、職業婦人の像

職業婦人は、看護婦が頻出する。前期では

『道化の華』

の真野とい

う看護婦に美しい女性像が見られるが、その女性の左眼には傷痕があ

り、傷つけられる女性としての意図が窺える。『ロマネスク』

の習字

の師匠も、美しいが死滅する。

中期では、『富嶽百景』

のタイピ

ストや、『新樹の言葉』

のデパート

ガール、『女生徒』

の教師

に、「智的」で洗練された美しさが見られ

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る。又、『俗天使』

『故郷』

の看護婦には、明るさ、懸命さが見ら

れ、やはりこれら中期の女性も、明るい傾向を示している。

後期では、職業も多様化し、店員、女性記者、美容師、闇屋等が見

うけられる。その中でも、『パ

ンドラの匣』

の看護助手、竹さんが、

何よりも〈清潔〉な〈正しい愛情の人〉として描かれ、末尾では、女

の理想像とも

いえる

「永遠の処女」として、〈聖母〉にまで昇華さ

れている。しかし、それ以後の作品になると、教授として

「残忍性」

を発揮する女性

(『男女同権』)が描かれ、又、『父』では新聞社につ

とめる前田さんが、「悪魔」と造形され、最もきらわれる女性として

露呈する。『おさん』

の女記者

も心中するし、『人間失格』

の店員も

「恐ろし

い」世間

の代表とし

て描かれている。太宰

の自殺で未完と

なった

『グ

ッドバイ』

のキヌ子も、「闇屋」として造形され、青木と

いう女美容師も、未亡人として描かれ、やはり破滅のにおいが読み取

れる。

第三節

〈下層〉の女性

1、〈田舎〉

の女性

く下層V

の女性は、全体の約三割にものぼる。

太宰

の生地、津軽は土俗信仰

の地で、死者や神仏の意を伝えるとい

う霊媒者〈イタコ〉を連想させる女性や、深山に住み、怪異をはたら

  

くという伝説的な〈鬼〉、〈妖怪〉、〈山女〉と

いった〈異類〉の女

性が多く描かれている。しかし、本来の意味での〈田舎〉の女性は、

「色が黒」く、〈無学〉で〈愚鈍〉な、津軽及びその周辺の女性であ

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

る。〈

田舎〉の女性でまず考えられるのは、彼

の処女作品

『列車』

のテ

ツさんである。彼女は津軽の

「貧しい育ちの娘」である。その恋人、

汐田は、「大学」に通い、「内福」な、特権階級の青年

であるが、テツ

さんは恋人の愛情だけを頼りに東京

へ出奔する。〈都会〉

に出たテツ

さんは、「白」く、「ふっくり」した、「つつまし」やかな女性に変身

している。しかし、彼女の出奔は、汐田にと

って迷惑以外

のなにもの

でもなく、結局テツさんは、〈劣位〉の〈田舎娘〉ゆえ、〈高貴〉な

男にもて遊ばれ、〈恥かしめられ、汚され、帰郷〉させられる。

このようなカテゴリーの作品に

『思ひ出』がある。ここで、「汚さ

れる」のはみよである。彼女は

「浴衣に赤い帯をしめたあたしい小柄

な小間使」として造形され、〈清潔〉で

「可愛らし」い少女を想起さ

せる。みよは、「赤

い糸」で結ばれた宿命

の女性であり、

いつか必ず

夫婦になりたいと思わせる少女である。結婚するには、うちの人との

論争をさけられな

い不釣り合いな相手

であるが、どんなに反対されて

も必ず打ち勝

ってみせると勇気のわく、素晴らしい少女

でもある。

しかし、このような女性でも、旧家の嫁にはふさわしくなく、みよ

は同じ

「奉公人」の下男に犯され、帰郷させられる。

みよは下男にた

つた

一度よごされたのを、ほかの女中たちに知

られて、私のうちにゐたたまれなくなつたのだ。男は、他にもい

ろいろ悪

いことをしたので、そのときは既に私のうちから出され

てゐた。それにしても、青年はすこし言ひ過ぎた。みよは、やめ

せ、やめせ、とあとで囁いた。とその男の手柄話まで添えて。

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太宰治論

(青木

京子)

純粋無垢な少女が、素行のよくない男にた

った

一度汚されたのを、

他の女中達に知られ、その醜聞に耐えられず帰郷してゆく。農村共同

体の古

い因習に中に存在する

一少女。自己の責任ではなく、同じ仕事

仲間の最悪の男に

一度だけ汚され、泣き寝入りを余儀なくされる。女

性にと

って

一生の傷も、男にと

っては手柄話でしかない矛盾。太宰治

は、無抵抗な弱

い立場の女性

に哀感を覚えるのである。

その他にも、『魚服記』

のスワと父との近親相姦、『めくら草紙』の

マツ子等、〈田舎〉の女性の悲劇が描出されているが、そ

の大半は

「無垢」な少女であり、貧困

ゆえに奉公に出されたり、結婚話が破談

にな

ったり、同族

の男や身持

ちの悪

い男に穢がされ、帰郷させられ

る。一

方、中期では何よりも美

しい〈精神

の女性〉は、『黄金風景』

お慶である。お慶は

「のろくさい」「ぼんやり」「うすみつともない」

「疳にさはる

」「無器用」など

と、「愚鈍さ」を総て保持している奉公

の女性である。支配階級

「私」は、その

「無智な魯鈍の者」の行為

が許せず、お慶を

「虐待」する。

ところが、何年振りかで、

「品のいい」中年婦人に変身したお慶と

再会する。傍

の娘は女中当時

のお慶そ

っくりで、「うすのろ」らしい

表情から、主人公は二十年前

の悪事を甦らせ、苦しみが増幅される。

しかし、虐待されたにもかかわらず、お慶夫婦は、か

っての雇主を

誉め称えている。

「なかなか」お巡りは、うんと力をこめて石をはふつて、「頭の

よささうな方ぢやないか。あのひとは、いまに偉くなるぞ」

一二

「さう

ですとも、さう

ですとも

」お慶

の誇らしげな高

い声

であ

る。「あのかたは、お小さいときからひとり変

つて居られた。目

下のものにもそれは親切に、目をかけて下す

つた」

主人公はお慶

一家の、人間に対する素直な信頼心に熱いものを感じ

ている。恨むのではなく、むしろ感謝さえするお慶の美し

い心は、悔

恨ゆえに心を痛めている主人公

の心を氷解させる。彼女らの信頼心の

厚い態度に勇気づけられ、自己の新しい出発

への光明をそこに見出す

のである。

人間の美しさは、階級的に優位にた

つ主人公よりも、卑賤とされる

っての奉公人のお慶の方が、「精神の気高さ」においては、はるか

に優れている。人間の美

の本質は、階級などとは無関係

であること

を、作者は訴えようとしていたのである。

その他、〈田舎〉

の女性は、『富嶽百景』の茶店

の少女にも見出せ

る。富士の雪化粧に、「お客さん!

起きて見よ!」と懸命に呼びと

め、原稿のすすまな

い時は、「あたしは毎朝、お客さんの書き散らし

た原稿用紙、番号順にそろへるのが、と

つても、たのしい。たくさん

お書きになつて居れば、うれしい」と素直に返答している。無邪気な

少女

「懸命さ」や

「信頼心」、「人間の生き抜く努力に対しての純粋

な声援」に主人公はいたく感動し、素直に感謝している。

中期

の女性は、「虐待」された〈田舎〉

の女性であ

っても、「上品」

な女性に変貌

(『花燭』のとみ等)したり、卑賤であ

っても心の純粋

性を失なわな

い、「明る」く、「上品」な女性が多く描かれている。

『後期』

では、『春

の枯葉』

に見出せる。しつや娘の節子は倹約に

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勤め、家を守る保守的な〈田舎女〉と造形されている。しかし、彼女

らは、生活力の強さを指摘されるのに加え、腑甲斐無

い夫に、冷然と

抗弁する姿勢が窺える。今は疎開者とな

っている菊代にも、〈田舎〉

の人間を批判する〈強さ〉が見られる。

その傾向は、『冬

の花火』

の数枝と等価である。しかし、菊代の母

は、以前の使用人と姦通して自殺しており、数枝の母も、汚され、衰

弱してゆく。

後期

の女性群は、『春の枯葉』

のしつや節子のように、保守的で

っても、どこか抗弁する〈強さ〉が窺える。反対に、『冬の花火』

のあさに見られる優しくて母性的存在の母は、犯され、死滅する傾向

が著しい。

2、〈最下層〉

の女性

太宰治は、〈下層〉

の女性

の中でも、特に最下層の遊女、淫売婦

等、賤劣な女性に暖かい眼ざ

しを注

いでいる。

前期でも、『ダスゲ

マイネ』

「金

のかかる女」や、『二十世紀旗

手』

「けしからぬ宿」の

「娘たち」の記述が散見できるが、特に哀

感をも

って眺められているのは、中期

『富嶽百景』の遊女である。

十月の末に、麓の吉田

のまちの、遊女の

一団体が、御坂峠

へ、

おそらくは年

一度くらゐの開放の日なのであらう、

(略)やつ

て来た。

(略)遊女たち

は、バスケ

ツトからぶちまけられた

一群

の伝書鳩のやうに、はじめは歩く方向を知らず、(略)押し合ひ、

へし合ひしてゐたが、(略)茶店の店頭に並べられて在る絵葉書

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

を、おとなしく選

んでゐるをも

の、佇んで富士を眺めてゐるも

の、暗く、わびしく、見ちや居れない風景であ

つた。

(略)私は、

ただ、見てゐなければならぬのだ。苦しむものは苦しめ。落ちる

のは落ちよ。私に関係したことではない。(略)さう無理につ

めたく装ひ、かれらを見下ろしてゐるのだが、私は、かなり苦し

つた。

主人公は、「年に

一度」の開放日の遊女を見下ろしている。大勢の遊

女は、歩く方向もわからず、固ま

ってうろうろしている。自分の意志

にかかわりなく、男相手の職業につくしか仕方のなか

った哀しい運命

の女性である。

「年に

一度」や、「バスケツトからぶちまけられた

一群

の伝書鳩」

からは、遊廓によって抑圧され、自由を奪われた女性

の悲劇が喚起さ

れ、

一層も

の悲しく哀れである。

遊女達は茶店

の絵葉書を

「おとなしく」選び、「佇ん」

で富士を眺

めている。待ちに待

った大切な休日を、ありきたりな絵葉書を手に取

り、ペンキ絵

のような富士の前で佇むことしか知らない姿を眼のあた

りにして、主人公は不憫で見ておれないのである。

そんな哀れな遊女に、何もしてやれない自分の非力にむなしさを覚

る。

「苦

は苦

るも

のは落

、遊

の幸

る主

のイ

ニー

「私

に関

い」

に装

ては

いな

「か

と吐

いる

こと

らも

では

こと

であ

は、

「こ

つらを

て雄

に祈

=

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太宰治論

(青木

京子)

ことにより、遊女の解放を願うのである。

トンネル付近では、「三十歳くらゐの痩せた遊女」が、「つまらぬ草

花」を

「熱心」に摘んでいる。もう若くもない貧相な遊女であるが、

少女のような〈無心さ〉、〈

いちずさ〉に主人公は、息をのむのであ

る。彼は外面の職業の卑しさ

の奥に秘められた、本当の人間の美しさ

を発見する。

一女性の内奥

に潜む魂

の高貴さに触れ、虚を

つかれるの

である。

このような女性は、『令嬢

アユ』にも具現されている。その女性は

娼婦であるにもかかわらず、最初から〈令嬢〉と表記され、「清潔」、

「綺麗」と叙述されている。〈商売女〉であ

っても、情欲の対象

では

なく、好感を持

って眺め、常

に〈清潔〉な女性として表徴されてい

る。初

めは令嬢の外貌

の美しさ

のみを称えていた主人公は、実直そうな

〈田舎〉のちいさん

への優しさに触れることにより、彼女を

「本当の

令嬢」と認めはじめる。「い

いひとだ。あの令嬢は、

いいひとだ、結

婚したい」とまで考える存在

にな

ってしまう。そして、「令嬢。よ

ぼど、いい家庭のお嬢さんよりも、その、鮎の娘さんのはうが、はる

かにいいのだ、本当の令嬢だ」と誉め称える。

賤なる職業の女性であ

っても、その女性を

一人の人間として眺めた

なら、どのような

「いい家庭

のお嬢さん」よりも、魂が高尚で、〈本

当の令嬢〉なのである。娼婦

であ

っても〈令嬢〉と

いう呼称でくり返

し表現されていることからも、太宰は〈精神

の美しい女性〉を〈令

嬢〉としているのがわかる。

一四

後期の作品、『貨幣』や

『母』、『人間失格』にも、この種の女性が

描かれている。

『貨幣』

ではお酌

の女

に対し、「お前の顔は、どう見た

つて狐以外

のものではな

い」と軽蔑し、「身

のほど知らず

のさもし

い女ばかりゐ

るから日本は苦戦する」と罵倒する。それに対し女は、「女にふざけ

てゐるのは、お前たちだけだよ。(略)馬鹿にするな」と逆襲する。

しかし結局、空襲で窮地においやられた兵隊を助け出す。女は何の欲

も、見栄もなく、罵倒されたことを恨みにも思わず、渾身の力で兵隊

を助け出す。その優しさに対し、主人公は、「私

の暗

一生涯におい

一ばん尊く輝かしく見えました」と最高の賛辞を送

っている。

『母』でも、旅館の女中は、帰還兵に商売のことも忘れ、献身的に

ハむ

尽くす。イ

エスの母

マリアのように、純粋無垢で穢がれのな

い〈聖

母〉、美しい母の典型として造形されている。

『人間失格』でも、賤業の女性の、欲得を越えた精神の美しい姿に

「マリアの円光」を感じ、やはり〈聖母〉にまで高めている。何の欲

もない自然

の美しい好意に主人公は魅せられ、安らぎを覚える。志賀

 ユ

直哉

『暗夜行路』前篇末尾の娼婦のように、謙作が彼の

「空虚」を

満たしてくれる

「唯

一の貴重な物」と感じ、心豊かになれる象徴的な

存在として造形されるのと同じで、何よりも

「輝かしいもの」として

表出されている。

このように、太宰治は、〈下層〉の女性の人間らしい姿に心から感

動している。世間では最も下層として侮蔑された卑し

い職業の女性

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の、欲得を越えた〈精神の美

しい女性〉を称え、人間の美しさは、そ

の外貌

にあるのではなく、内面にあることを主張している。彼女達

は、〈高貴〉な〈令嬢〉や、

この世

で最も

「純粋」

「無償の優し

さ」を誇る〈聖母〉にまで昇華

され、表出されているのである。

太宰治における女性像は、〈高貴〉な女性、〈平民〉の女性、〈下

層〉の女性の、三つに分類でき

る。

よい出自の〈高貴〉な女性

は、前期ではほとんど作品化されていな

いが、中期では、『水仙』等多

数見られ、「美し」く、現実離れした女

性として描かれている。しかし、それらの女性は大抵、「気品」を保

持したままで亡くなり、殊に、母親像にその傾向が著しい。娘の方は

々に自立に向かうが、まだまだ周囲に見守られる状況にある。後期

に入ると、〈高貴〉な女性は

『斜陽』に見出せ、その母親は、「ほん

もの」の

「最後

の貴婦人」として、象徴的に描かれている。生活感

ない母親は、新時代

の現実生活を生ききれず、消滅してしまう。が、

娘はどこまでも逞しく、規範

にはずれても、母を乗り越え、現実生活

を生き抜こうとする。

〈平民〉

の女性では、「美し」く、「上品」な妻像が際立

っている。

前期では、その記述はほとんど見られないが、中期になると、明るい

希望を感じさせる作品

(『満願』等)が多く、〈清潔〉で、〈正しい

愛情〉

の女性などと、表現されている。後期にも、〈上品〉な妻は見

佛教大学大学院紀要

第二七号

(一九九九年三月)

出せるが、その妻像

にも

「かげり」が見えはじめ、「恐ろしい」女と

して変貌したり、死の予兆が感じられたりする。

〈強

い〉女性は、後期の妻に頻出し、夫を冷笑し、社会に抗弁する

姿勢が窺える。

母親像に関しても、前期では、叱る母、亡き母等、負のイメージで

描かれているが、中期に入ると、

一転して、穏やかで曲豆かな母親像が

明示されている。しかし、後期に入ると、母親は死に至

ったり、傷

けられたりし、その存在すら見えな

い作品もみられる。

職業婦人の像についても、前期では、看護婦や、習字師匠に、「美

しさ」はみられるが、眼に傷があ

ったり、亡くな

ったりしていて、そ

の女性像は、やはり、

マイナスのイメージで描かれている。中期

は、デパートガールや事務員、看護婦に、「美しさ」や

「笑顔」がみ

られ、その像は明るい。後期に入ると、職業も多様化し、欲張りで残

忍性

のある〈逞しい〉女性像が際立

っている。

〈下層〉の女性の中で、〈田舎〉の女性は、次

のように変遷してい

く。まず、前期では、そのほとんどが〈無学〉として造形され、汚さ

れ、帰郷させられる作品が多

い。が、中期になると、「虐待」されて

いた〈田舎娘〉も、〈上品〉な妻に変貌している。後期に入ると、津

軽やその周辺の〈田舎の女性〉は、ほとんどみられない。

一方、〈最下層〉の女性は、前期では特筆されていないが、中期、

後期の作品には、内面の美しい女性が描かれている。中期

『富嶽百

景』では、幽閉された遊女の姿を、哀感をも

って眺められ、『令嬢ア

ユ』でも、娼婦を、卑賤であ

っても、〈本当の令嬢〉とし、どのよう

一五

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太宰治論

(青木

京子)

=

いい家庭

のお嬢さんよりも

、〈美し

い〉としている。後期

でも、

『貨幣』等に見られ、献身的

で美しい女性像が読みとれる。

以上のように、太宰治の描く女性は、前期

では傷

つけられる女性、

中期では明るい女性、後期に入ると、母親は死滅するが、妻や職業婦

人は、〈強〉くて、〈逞し〉

い。さらに、若

い娘は、妻や母よりも

層逞しい女性として描かれている。

つまり、旧世代

の女性は衰弱して

いくが、新しい世代の女性はそれを乗り越える〈強さ〉、〈逞しさ〉

を備えている。ここでは、女性の

「世代交代」がは

っきりと浮上して

いるのである。

若く<逞しい〉女性は、従来の男社会の倫理に惑わされないで、新

時代をきり開き、自由にはばたこうとする。

 ぼ

太宰治は、「女性の言葉」を通して、〈にんげんの底からの革命〉

を目ざし、自由で幸福な社会を実現しようとしたのである。特に、今

まで軽視されてきた女性に焦点をあて、女性の解放を希求したのであ

る。

(4)平山和彦

『伝承と慣習

の論理』

(吉川弘文館)

(5)

三木露風作詞

「赤と

んぼ」

『日本唱歌全集』

(音楽之友社)

(6)『三島由紀夫全集

第十

一巻』

(筑摩書房)

(7)江戸時代

に広

く行わ

れた女子

の教訓

書。父母、夫、舅姑

に従順

に仕

え、家

政を治

めることなどを説く。

(8)三谷憲

(太宰治

「満

願」試論)

『京都

語文

二号』

(佛

教大学

語国文学会)

に、女

の呼称

ついての指摘

があり、

これを参考

にし

た。

(9)

『柳田国男全集

一~十

四』

(ちくま文庫)

(10)

『新

約聖書』

(岩波書店)

(11)

『志賀

直哉全集

五巻』

(岩波書店)

(12)「かくめ

い」『太宰治全集

第十巻』

(筑摩書房)

(あ

ょう

文学研究科国文学専攻博士課程)

一九九八年

一〇月

一四日受理

註(1)

『東北

の山岳信

仰』

(山崎数夫)

によ

ると、「イ

コ」とは、東北地方

で口寄

をす

る巫女

のこと

で、全

盲また

は半盲

の女性

で、客

の依頼

に応

じて、

死者や神仏

の意

を語り伝

え、

一時的

に任意

に死者

や神仏

に自分

の体を貸す

(依憑)と信じられ

ている霊媒者

のこと。

(2)太宰治

における三

つの時代区分は、亀井勝

一郎あたり

から提唱

され、

では通説

にな

っている。

(3)

『現代

日本文学全集

4』

(筑摩書房)