を飲みました。 このところ、アンダーカテゴリーの日本 平平田...

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平田竹男 平田竹男 オフ・ザ・ピッチ 戦略 o f f t h e p i t c h vol.02 育成世代の非常事態 を乗り切る施策 短期連載 5大会連続でW杯へ出場している一方で、 U-20W杯やU-17W杯への出場を逃し ている現実。各カテゴリーの日本代表には 今、いったい何が起きているというのか。 そこには、決して無視できないオフ・ザ・ピ ッチの要因があった。 構成◎伊藤亮 Ryo Ito 撮影◎渡辺航滋 Koji WATANABE 20 19 退17 16 20 110 15 12 18 15 12 2000年以降の U-16AFC選手権結果 日本成績 優勝国 開催地 2000 3位 オマーン ベトナム 2002 GL敗退 韓国 UAE 2004 GL敗退 中国 日本 2006 優勝 日本 シンガポール 2008 ベスト4 イラン ウズベキスタン 2010 ベスト4 北朝鮮 ウズベキスタン 2012 準優勝 ウズベキスタン イラン 2014 ベスト8 北朝鮮 タイ 2000 年以降の ドバイ原油価格の推移 2000 年以降の U-19AFC 選手権結果 日本成績 優勝国 開催地 2000 準優勝 イラク イラン 2002 準優勝 韓国 カタール 2004 3位 韓国 マレーシア 2006 準優勝 北朝鮮 インド 2008 ベスト8 UAE サウジアラビア 2010 ベスト8 北朝鮮 中国 2012 ベスト8 韓国 UAE 2014 ベスト8 カタール ミャンマー 原油価格 (ドル/1バレル) 2000 26.09 2001 22.71 2002 23.73 2003 26.73 2004 33.46 2005 49.20 2006 61.43 2007 68.37 原油価格 (ドル/1バレル) 2008 93.78 2009 61.76 2010 78.06 2011 106.03 2012 108.92 2013 105.43 2014 96.66 102 SOCCER CRITIQUE

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平田竹男平田竹男オフ・ザ・ピッチ

戦略

o f f t h e p i t c h

vol.02

育成世代の非常事態を乗り切る施策

短期連載

5大会連続でW杯へ出場している一方で、U-20W杯やU-17W杯への出場を逃している現実。各カテゴリーの日本代表には今、いったい何が起きているというのか。そこには、決して無視できないオフ・ザ・ピッチの要因があった。構成◎伊藤亮 Ryo Ito 撮影◎渡辺航滋 Koji WATANABE

リーマン・ショックと

原油価格高騰の余波

 

このところ、アンダーカテゴリーの日本

代表がアジアで勝てなくなった、という話

をよく聞きます。U

20W杯の大陸別予

選となるAFCU

19選手権では、

2008年大会から4大会連続ベスト8

で敗退。U

17W杯の大陸別予選となる

AFCU

16選手権も、昨年ベスト8で涙

を飲みました。

 

日本サッカーの将来を考えた時、この

結果は非常事態といえます。いったい何が

起きているのか。そこには日本の景気やサ

ッカー界の方針が絡んできます。アンダー

カテゴリーの代表選手の中核をなすの

は、Jリーグ各クラブの下部組織の選手

たちです。現在、Jリーグは各クラブに下

部組織の設置を義務化しています。これ

は若手世代育成の面では素晴らしいこと

です。しかし、2000年代後半から始ま

った経済不況のあおりを受けているカテゴ

リーでもあるのです。

 

2009年のリーマン・ショック。2011

年の東日本大震災。これらの出来事によ

り、日本経済は大きな打撃を受けました。

いまだ親会社に頼る側面の強いJリーグ

のクラブも例外ではありません。加えてJ

リーグは先にUEFAで導入されていたフ

ァイナンシャル・フェアプレー制度を

2012年より導入しました。これにより

「3期連続赤字」「債務超過」を禁じられ

たクラブは、より予算を圧縮する傾向を

強めました。するとどういうことが起こる

か。トップチームはなるべく状態を保ちた

い。この結果、育成部門に影響を与える

可能性が懸念されます。

 

一方で、同じアジアの中東地域は、

2000年代中頃から急激な原油価格の

上昇により、巨万の富を得ました。20

03年まで1バレル=20ドル台だった原油

価格は、2012年には1バレル=110ドル

近くまで急騰。日本経済が激しく落ち込

んだ同じ時期に、中東経済は好景気に沸

きました。結果、中東はこのオイルマネー

をクラブ買収などの投資にあてること

で、サッカー界における存在感を強めてい

きました。Jリーグ創成期がそうであった

ように、有力な人材が来たリーグはレベル

が底上げされます。そしてその影響はア

ンダーカテゴリーにも及ぶのです。このよ

うに日本の若手世代がアジアで勝てなく

なったのは、決して偶然の結果ではないと

言えるでしょう。

打開のカギはU

15、U

12世代

 

この苦しい現状をいかに打開するか。指

導者レベルからのボトムアップと、JFAか

らのトップダウン、双方の施策が必要でし

ょう。まず、Jクラブの下部組織において、

各世代ごとの育成プロフェッショナルとい

える〝腰を据えた〞指導者を作る。U

18

世代はトップチームとの互換性もあるの

で、より重視すべきはU

15、U

12世代で

す。ここに各世代を育成することに誇り

を持って取り組める人物を置き、クラブ

側もしかるべき報酬を払う。厳しい財政

2000年以降のU-16AFC選手権結果

年 日本成績 優勝国 開催地2000 3位 オマーン ベトナム2002 GL敗退 韓国 UAE2004 GL敗退 中国 日本2006 優勝 日本 シンガポール2008 ベスト4 イラン ウズベキスタン2010 ベスト4 北朝鮮 ウズベキスタン2012 準優勝 ウズベキスタン イラン2014 ベスト8 北朝鮮 タイ

2000年以降のドバイ原油価格の推移

2000年以降のU-19AFC選手権結果

年 日本成績 優勝国 開催地2000 準優勝 イラク イラン2002 準優勝 韓国 カタール2004 3位 韓国 マレーシア2006 準優勝 北朝鮮 インド2008 ベスト8 UAE サウジアラビア2010 ベスト8 北朝鮮 中国2012 ベスト8 韓国 UAE2014 ベスト8 カタール ミャンマー

年 原油価格(ドル/1バレル)2000 26.092001 22.712002 23.732003 26.732004 33.462005 49.202006 61.432007 68.37

年 原油価格(ドル/1バレル)2008 93.782009 61.762010 78.062011 106.032012 108.922013 105.432014 96.66

102S O C C E R C R I T I Q U E

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o f f t h e p i t c h

状況でも予算を投下するメリットはあり

ます。有能な若手を育成すれば、他のク

ラブに高い移籍金で売れるからです。ポル

トガルのスポルティング・リスボンは、12歳

のクリスティアーノ・ロナウドをナシオナル

から2万5000ユーロの移籍金で獲得し

た、という例もあります。このような事例

は日本の目指すべき形の一つと言えるの

ではないでしょうか。

 

日本で現在受け皿が少ないといえる中

学生世代に関しては、全国のサッカー少

年団の枠を中学世代まで引き延ばすク

ラブ・組織を作ることも有効かと思いま

す。体制を変えたチームには、JFAが補

助金を出すなどフォローをしてあげれば、

決してない話ではありません。

 

中学生世代にも高円宮

杯U

15大会という全国大

会があり、世代最高峰の大

会と位置付けられていま

す。しかし、全日本少年サッ

カー大会、全国高校サッカ

ー選手権大会に比べ注目

度は低いといわざるをえま

せん。この高円宮杯U

15

大会といった全国大会をよ

りクローズアップし注目度

を高めることで、中学校の

みならずJクラブのU

15

チームもモチベーションを喚

起することができます。

「育成世代は勝ち負けにこ

だわらない方がいい」という

話を聞きますが、それ以前

に魅力的な大会がなけれ

ばチームは生まれません。

大きな成長を遂げる可能

性を秘めた世代に、はっき

りとした目標を与えれば、

面倒を見る親の覚悟も決

まるというものです。

多くの選手が世界との

経験を積めるマッチメイクを

 

そしてJリーグのトップチームも積極的

に生え抜きを使う。10年に1人、20年に

1人の逸材と見込んだ選手は、15歳ぐら

いからトップチームに引き上げ試合に使う

――というのは世界の常識です。レアル・マ

ドリーが「銀河系軍団」と呼ばれ、世界中

からスターを集めた時も、ラウルやカシー

ジャスといった生え抜きの選手はレギュラ

ーでプレーしていました。将来嘱望と見込

んだ選手に、経験をどんどん積み上げさ

せる点では、日本はまだスタートが遅いと

自覚すべきです。

 

これらのボトムアップがあって、最後に

代表チームです。アジアで勝てるようにな

るためには、各世代のマッチメイクによって

可能性を高めることができます。とにか

く世界との経験を積むことで多様なサッ

カーを学ぶのです。

 

アジアには、いまだに対角線にロングボ

ールを蹴り込んでくるサッカーをしてくる

国がありますが、あながち間違った戦略で

はありません。中東のような荒れたピッチ

では、繋ぐよりも確率の高いサッカーがで

きるという考えもあります。国内で戦って

いると、戦術が似たり寄ったりになりがち

なところを、若いうちから世界に出て理

解を深めるのは重要です。

 

といっても中学校、高校がありますか

ら、メンバー選考と日程調整は至難を極

めます。そういう時はA、B、Cと複数チー

ムを作り、行けるメンバーだけで試合を行

う。15人ぐらいの規模で遠征してもいいで

しょう。結果、多くの候補選手が世界を

経験できると同時に試すことができる。

このミッションを遂げるには現場、協会と

もに相当な苦労を要しますが、日本はき

め細かく丁寧で、組織的な動きには世界

でも定評があります。今こそ、その強みを

発揮すべきなのではないでしょうか。

ひらた・たけお1960年生まれ。大阪府出身。1982年、横浜国立大卒業、同年通商産業省(現経済産業省)入省。1988年、ハーバード大ケネディスクール卒業。1989年~1991年産業政策局サービス産業室室長補佐。この間にJリーグ設立、2002年W杯日本開催招致、サッカーくじ創設に携わる。1991~1994年、在ブラジル日本大使館一等書記官。その後資源エネルギー庁石油天然ガス課長を最後に退官し、2002年~2006年まで日本サッカー協会専務理事を務めた。その後、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授に就任。その他、日本スポーツ産業学会理事長、日本陸上競技連盟理事、日本体育協会理事、日本プロテニス協会常務理事、東京マラソン財団理事(2013年まで)も務める。2013年より内閣官房参与、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会推進室室長。

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