修士論文 - 新潟大学mathweb.sc.niigata-u.ac.jp/~hoshi/ogawaniigata... · 概要...
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修 士 論 文
Kohnen-Zagier 公式の一般化について
小川紘平
新潟大学自然科学研究科博士前期課程
数理物質科学専攻
目次
第 1章 保型形式の定義と諸性質 8
1.1 Γ に対する保型形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
1.2 合同部分群に関する保型形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
1.3 重さ半整数の保型形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
1.4 Hecke作用素と Petersson内積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
第 2章 Weilの逆定理と志村対応 20
2.1 Fourier係数の増大度の評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
2.2 Weilの逆定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
2.3 テータ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27
2.4 志村対応 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29
第 3章 Kohnen-Zagier公式とその一般化 40
3.1 Kohnen-Zagier公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40
3.2 坂田裕氏による Kohnen-Zagier公式の一般化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41
3.3 定理 3.22の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 47
参考文献 50
1
概要
本論文は筆者が修士のセミナーで学んできたWeil の逆定理・志村対応・Kohnen-Zagier 公式
などの保型形式の理論の紹介に加えて,Kohnen-Zagier 公式の一般化に関する坂田裕氏の論文
[Sak08]について概説したものである.各定理や命題の証明については概説を行うか,文献のペー
ジを明記しているので,参考にしていただきたい.
保型形式とは古くは 19世紀以前から研究されてきた対象である.当時はテータ関数やDedekind
のイータ関数などのよく知られた保型形式から,Jacobiの三重積公式などの関係式を示したよう
に,楕円関数論との関連物として用いられていることが多かった.その後,1925年頃に E. Hecke
らによって重さ整数の保型形式の一般論が定式化された.しかし,テータ関数や Dedekindのイー
タ関数の持つ変換公式の重さは一般に整数ではなく,半整数であった.したがって,これらと似た
変換を持つ関数も系統的に扱うことのできる枠組みとして,重さ半整数の保型形式の定式化が試み
られた.しかしながら,当時は“うまく”定式化をすることは果たされず,1936年に Heckeは「特
別な場合を除いて重さ整数の保型形式と同様のことを示すことは不可能である」と指摘した.
その後,1970年頃,志村五郎氏が [Shim73]によって,これまでの保型形式をMetaplectic群上
の保型形式と捉えなおすことで,このような関数も含んだ重さ半整数の保型形式の一般論を定式
化することに成功した.更に,志村氏は重さ k +1
2の指標 ψ 付きの正規化された Hecke固有形式
g(z) から,Hecke 作用素に関する固有値が g(z) と同じである重さ 2k の保型形式 f(z) を構成し
た.これは志村対応と呼ばれている.志村対応は重さ半整数の保型形式の理論が,重さ整数の理論
の間に“美しい”対応があることを示しており,重さ半整数の場合に重さ整数の場合に用いられる
概念と同様なものが定義できるかどうかを調べるきっかけとなった.
また,対応する f(z)と g(z) =∞∑n=1
c(n)qn は,
L(s+ 1− k, ϕ)∞∑n=1
c(tn2)n−s = c(t)L(s, f)
という関係を持っていた.(ここで,ϕ(n) = ψ(n)
(−1
n
)(t
n
)である.)上の式は「保型形式の
Fourier係数 c(n)と保型 L関数 L(s, f)の間には何らかの関係がある」と解釈することができる.
実際その関係の 1つの例として,1980年に B. Grossと D. Zagierは [GZ80]によって L(s, f)の
関数等式の中心 s = k での値は完全平方になることを示した.その後,c(n)と L(s, f)の間の関係
の具体的な記述や,なぜ L(k, f)が完全平方になるかということが調べられた.
この問題に対して,J.-L. Waldspurgerは [Wal81]によって
L(s, f)の‘ツイスト’の s = k での値は,本質的には c(n)2 である
ということを示した.しかし,その証明は表現論的手法を用いた難解なものであった.更に‘ツイ
2
スト’の特殊値と c(n)2 の間の比例定数が Q×2p p|N で決まることはわかっていたが,具体的な値
はわかっていなかった.この比例定数を SL2(Z)上の特別な保型形式の場合に具体的に記述したものがW. Kohnenと D. Zagier [KZ81]による Kohnen-Zagier公式であり,本論文の主題である.
しかし,Kohnen-Zagier公式の証明には‘重複度 1’が成り立つことが重要であるが,4より大
きいレベルに関しては一般にこれは成立しない.この一般レベルの場合の問題を部分的に解決した
論文として小嶋久祉氏の論文 [Koj99]や坂田裕氏の論文 [Sak05],[Sak08]などがあるが,最も一般
的な状況で書かれた論文が [Sak08]である.
本論文は,3つの章からなる.第 1章では Koblitzの教科書 [Kob93]を基に重さ整数の保型形式
と重さ半整数の保型形式の定義や Hecke作用素などの基礎事項や重要な具体例についてまとめた.
そのため本論文では志村氏の教科書 [Shim71]などの様に Fuchs群は考えず,SL2(Z)とその合同部分群の場合について議論していることに注意しておく.第 2 章でははじめの 2 節は三宅敏恒氏
の教科書 [Miy06]を基にWeilの逆定理について述べ,残りの 2節は志村氏の論文 [Shim73]を基
に志村対応について述べる.[上田]や [坂田],[成田]などは本論文を書く上で非常に参考になった.
ぜひ合わせて参照していただきたい.まず 2.1 節では L 関数の絶対収束性を示す際などの基本事
項となる,保型形式の Fourier 級数の増大度についてまとめた.2.2 節では [Shim73] の中で実際
に志村対応を示すのに用いる基本的なアイデアとなっているWeilの逆定理についてまとめた.2.3
節で志村対応を示す際に用いる球関数付きテータ関数を準備し,2.4節で論文 [Shim73]の主定理に
ついて概説を行う.第 3 章では本論文の目標である坂田氏の論文 [Sak08] による Kohnen-Zagier
関係式の一般化について述べる.まず 3.1節で Kohnen-Zagier関係式がどんなものであったかを
確認する.3.2節では記号の準備を行い,3.3節で [Sak08]の主定理の証明を紹介する.
3
謝辞
指導教員である星明考先生には学部 3年生から 4年間にわたり,研究室のセミナーで丁寧に指導
していただき,多くの助言をいただきました.また本論文の作成に関しても,様々な有益なご意見
をいただきました.ここに深く感謝を申し上げます.
また,先輩である同じ星研究室の金井和貴氏,長谷川寿人氏,および小島研究室の長峰孝典氏に
は,学部の頃からセミナーなどを見ていただき,数多くのアドバイスをいただきました.心より感
謝を申し上げます.また,研究室の同期である小柴将和氏には,たびたび数学的な議論を行った
り,様々な相談事にのったりしていただきました.同じく心から感謝を申し上げます.
最後に,私を支えてくれた両親および多くの方々に,心から感謝の意を申し上げます.
4
記号
• N:自然数全体の集合
• Z:整数全体の集合
• Q:有理数全体の集合
• R:実数全体の集合
• C:複素数全体の集合
• H = z ∈ C | Im(z) > 0:複素上半平面
• q = e(z) = exp(2πiz)
• Γ = SL2(Z)
• Γ0(N) =
γ =
[a b
c d
]∈ Γ
∣∣∣∣∣ c ≡ 0 (mod N)
(p. 11, 定義 1.10)
• Γ1(N) =
γ =
[a b
c d
]∈ Γ0(N)
∣∣∣∣∣ a ≡ 1 (mod N)
(p. 11, 定義 1.10)
• Γ (N) =
γ =
[a b
c d
]∈ Γ1(N)
∣∣∣∣∣ b ≡ 0 (mod N)
(p. 11, 定義 1.10)
• Γ ′ (p. 14, 定義 1.23)
• Mk(Γ ):Γ に対する重さ k の保型形式全体 (p. 9, 定義 1.6)
• Sk(Γ ):Γ に対する重さ k の cusp形式全体 (p. 9, 定義 1.6)
• Mk(Γ′):合同部分群 Γ ′ に対する重さ k の保型形式全体 (p. 11, 定義 1.13)
• Sk(Γ′):合同部分群 Γ ′ に対する重さ k の cusp形式全体 (p. 11, 定義 1.13)
5
• Mk(N,χ):指標 χ付き重さ k の保型形式全体 (p. 12, 定義 1.16)
• Sk(N,χ):指標 χ付き重さ k の cusp形式全体 (p. 12, 定義 1.16)
• Mk+ 12(Γ0(N)):Γ0(N)に対する重さ k + 1
2 の保型形式全体 (p. 15, 定義 1.25)
• Sk+ 12(Γ0(N)):Γ0(N)に対する重さ k + 1
2 の cusp形式全体 (p. 15, 定義 1.25)
• Mk+ 12(N,χ):Γ0(N)に対する指標 χ付き重さ k + 1
2 の保型形式全体 (p. 15, 定義 1.26)
• Sk+ 12(N,χ):Γ0(N)に対する指標 χ付き重さ k + 1
2 の cusp形式全体 (p. 15, 定義 1.26)
• M+k+ 1
2
(N):Kohnen plus空間 (p. 40, 定義 3.1)
• S+k+ 1
2
(N):cusp形式のなす Kohnen plus空間 (p. 40, 定義 3.1)
• M+k+ 1
2
(N,χ):指標 χ付き Kohnen plus空間 (p. 40, 定義 3.2)
• S+k+ 1
2
(N,χ):cusp形式のなす指標 χ付き Kohnen plus空間 (p. 40, 定義 3.2)
• Snew2k (N):重さ 2k の newformのなす空間 (p. 43, 定義 3.10)
• D+k+ 1
2
(N):重さ k + 12 の oldformのなす空間 (p. 43, 定義 3.12)
• N+k+ 1
2
(N):重さ k + 12 の newformのなす空間 (p. 43, 定義 3.12)
• Tn:重さ整数の保型形式の Hecke作用素 (p. 18, 定義 1.32)
• Tn2:重さ整数の保型形式の Hecke作用素 (p. 18, 定義 1.34)
• ⟨ , ⟩:Petersson内積 (p. 19, 定義 1.38)
• L(s; f) (p. 22, 定義 2.7)
• Λ(s; f) (p. 22, 定義 2.7)
• fψ(z) (p. 24, 定義 2.13)
• L(s; f, ψ) (p. 24, 定義 2.13)
• ΛN (s; f, ψ) (p. 24, 定義 2.13)
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• Gk(z):重さ k の Eisenstein級数 (p. 10, 定義 1.8)
• Ek(z):重さ k の正規化された Eisenstein級数 (p. 10, 定義 1.8)
• δm (p. 42, 定義 3.6)
• U(m):shift作用素 (p. 42, 定義 3.6)
• Rm:twisting作用素 (p. 42, 定義 3.6)
• WQ:Atkin-Lehner作用素 (p. 42, 定義 3.7)
• rk,N (f ;D, (−1)km):QN,∆/Γ0(N)に関連する周期 (p. 45, 定義 3.16)
• Sk,N,D:D-志村対応 (p. 46, 定義 3.17)
• S∗k,N,D:D-新谷対応 (p. 46, 定義 3.19)
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第 1章
保型形式の定義と諸性質
この章では教科書 Koblitz [Kob93]にしたがって,重さ整数および重さ半整数の保型形式の定義
や基礎事項を述べる.本章については証明は基本的に割愛することとするが,代わりに定理や命題
には [Kob93]のページを明記するので,そちらを見てほしい.
1.1 Γ に対する保型形式
以下,k を整数, N を自然数とし,Hで上半平面を表すとする.つまり,
H = z ∈ C | Im(z) > 0
である.また,
Γ = SL2(Z)
=
γ =
[a bc d
]∈ GL2(Z)
∣∣∣∣det(γ) = 1
とする.
まず,Γ の上半平面 Hへの作用を定義し,基本領域と cuspを定義する.
定義 1.1 (一次分数変換)
γ =
[a b
c d
]∈ Γは z ∈ Cに対して一次分数変換で作用するものとする.つまり,
γz =az + b
cz + d
と定める.また,γ の∞への作用を
γ∞ =a
c
で定める.
注意 1.2
定義から Γ は H def= H ∪Q ∪ ∞に作用する.実際,以下が成り立つ:
Im(γz) = Im
(az + b
cz + d
)= Im
((az + b)(cz + d)∣∣cz + d
∣∣2)
=Im(z)∣∣cz + d
∣∣28
この作用の下,基本領域と cuspを定義する.
定義 1.3 (基本領域)
群 Gが集合 S に対して作用しているとする.このとき,S の 2点 s1, s2 に対して s1 = gs2 とな
る g ∈ Gが存在するとき,s1 と s2 は G同値であるという.
また,H内の閉領域 F が
(1) Hの任意の点 z は F のある点と Γ 同値である,
(2) F の任意の異なる二つの内点は Γ 同値ではない
という 2条件を満たすとき,F を Γ の基本領域という.
注意 1.4
多くの本では,基本領域の定義の 2条件目を
“F の任意の異なる 2点は Γ 同値ではない”
としているが,今回の定義とあまり大差はない.実際,2点とも境界上にある場合のみ Γ 同値にな
る可能性があるだけである.
定義 1.5 (cusp)
z ∈ Q ∪ ∞を cusp(尖点)と呼ぶ.Γ は Q ∪ ∞に作用するから,Γ 同値類も Γ の cuspと
呼ぶ.
任意の有理数a
cに対し,γ∞ =
a
cとなる γ ∈ Γが存在するから,Γ の cuspは [∞]の一つであ
る.([ ]で Γ 同値類を表す.)
さて,ここで Γ の保型形式を定義する.まずは定義がどのようなものかを述べ,定義されて
いない用語については後述することとする.
定義 1.6 (保型形式・cusp形式の定義)
f を H上の有理型関数とする.このとき,f が Γ に対する重さ k の保型関数であるとは,任意の
γ =
[a b
c d
]∈ Γに対し,
f(γz) = (cz + d)kf(z) (1.1)
を満たし,かつ f は ∞ で有理型であることをいう.さらに,保型関数 f が重さ k の保型形式
(resp. cusp 形式(尖点形式))であるとは,f は H 上正則であり,かつ f は∞ で正則である
(resp. 消えている)ことをいう.
また,Mk(Γ ), Sk(Γ )でそれぞれ Γ に対する重さ kの保型形式全体,Γ に対する重さ kの cusp
形式全体を表すこととする.
以下,簡単のために γ =
[a b
c d
]に対し,以下のように略記する:
f(z)∣∣∣[γ]k def
= (cz + d)−kf(γz).
9
この記号を用いれば式 1.1は
f(z)∣∣∣[γ]k = f(z)
と書くこともできる.
さてここで,定義 1.6で用いた“∞で有理型”,“∞で正則”,“∞で消えている”という用語につ
いて定義する.まず,Γ に対する保型関数 f は周期関数になる.実際,式 1.1において γ =
[1 1
0 1
]とすれば,
f(z + 1) = f(z)
という式が得られるから,f は周期 1 の周期関数である.よって f は f(z) =∑n
a(n)qn という
Fourier展開を持つ.この展開を用いて,∞での状況を定義する.
定義 1.7 (cusp条件)
式 1.1を満たす有理型関数 f が∞で有理型であるとは,f の Fourier展開の負冪の項の係数が有
限個を除いて 0であることをいう.また∞で正則であるとは f の Fourier展開の負冪の項の係数
がすべて 0であることをいい,∞で消えているとは f の Fourier展開の冪が 0以下の項の係数が
すべて 0であることをいう.
少し具体例を見ていく.
例 1.8 (Eisenstein級数, [Kob93, pp. 109–111])
4以上の偶数 k に対し,
Gk(z)def=∑′
m,n
1
(mz + n)k∈Mk(Γ ) (1.2)
である.ここで∑′
m,n
は (m,n) = (0, 0) 以外のすべての整数の組を渡る和である.Gk(z) を
Eisenstein級数と呼ぶ.また,Gk(z)は
Gk(z) = 2ζ(k)
(1− 2k
Bk
∞∑n=1
σk−1(n)qn
)という関係式を持つ.ここで ζ(s)は Riemannの ζ 関数,Bk は k番目の Bernoulli数,q = e2πiz
であり,
σk(n) =∑d|n
dk
である.この関係式から,正規化された Eisenstein級数
Ek(z)def=
1
2ζ(k)Gk(z) = 1− 2k
Bk
∞∑n=1
σk−1(n)qn (1.3)
が得られる.
例 1.9 (Ramanujanの ∆関数, [Kob93, p. 112])
∆(z)def=
(2π)12
1728(E4(z)
3 − E6(z)2) ∈ S12(Γ ) (1.4)
である.∆をRamanujanの∆関数と呼ぶ.
10
1.2 合同部分群に関する保型形式
1.1 節では Γ に関する保型形式を定義した.この節では合同部分群に対する保型形式を定義
する.
まず始めに,合同部分群と呼ばれる Γ の部分群について定義する.
定義 1.10 (合同部分群)
Γ の部分群 Γ0(N), Γ1(N), Γ (N)を以下のように定義する:
Γ0(N) =
γ =
[a bc d
]∈ Γ
∣∣∣∣ c ≡ 0 mod N
;
Γ1(N) =
γ =
[a bc d
]∈ Γ0(N)
∣∣∣∣ a ≡ 1 mod N
;
Γ (N) =
γ =
[a bc d
]∈ Γ1(N)
∣∣∣∣ b ≡ 0 mod N
.
また,Γ (N)を含む Γ の部分群をレベル N の合同部分群という.
合同部分群 Γ ′ に対しても定義 1.3 や定義 1.5 と同様に,基本領域と cusp が定義される.cusp
については∣∣Γ : Γ ′
∣∣ <∞が成立することから,Γ ′ の cuspは有限個であることがわかる.
少し,合同部分群の cuspの例を見ていく.
例 1.11
Γ (2)の cuspは [∞], [0], [−1]の 3つである.
例 1.12
素数 pに対し,Γ (p)の cuspは [∞], [0]の 2つである.
1.1節と同様に,まずは合同部分群に関する保型形式の定義がどんなものか確認する.
定義 1.13 (合同部分群に関する保型形式・尖点形式)
f を H上の有理型関数とし,Γ ′ をレベル N の合同部分群とする.このとき.f が Γ ′ に関する重
さ k の保型関数であるとは,f は任意の γ′ ∈ Γ ′ に対し,
f∣∣∣[γ′]k = f (1.5)
を満たし,すべての cuspで有理型であることをいう.また,保型関数 f が保型形式(resp. cusp
形式)であるとは,f が H上正則であり,すべての cuspで正則である(resp. 消えている)ことを
いう.
また,Mk(Γ′), Sk(Γ
′) でそれぞれ Γ ′ に関する重さ k の保型形式全体,Γ ′ に関する重さ k の
cusp形式全体を表すこととする.
さて,今回も cusp条件について考察していく.1.1節でみたように Γ に関する保型形式は周期
1の周期関数であった.似たようにレベル N の合同部分群 Γ ′ に関する保型形式は周期 N の周期
関数になる.実際,Γ に関する保型形式のときと似たように γ =
[1 N
0 1
]と取ることで確認でき
る.よって Γ ′ に関する保型形式 f は Fourier展開を持つが,cuspの代表元の取り方によってその
11
Fourier係数の値は少しだけ異なる.cusp条件を正確に定義するために,まずはこの“Fourier係
数の値の差異”について確認する.
命題 1.14 ([Kob93, p. 126, Proposition 16])
f をレベルN の合同部分群 Γ ′に関する重さ kの保型形式とし,γ1, γ2 ∈ Γ に対し,γ1∞ = γ′γ2∞となる γ′ ∈ Γ ′ が存在するとする.このとき,f の γ1, γ2 に関する Fourier展開をそれぞれ
f(z)∣∣∣[γ1]k =
∑n
a(n)qnN,
f(z)∣∣∣[γ2]k =
∑m
b(m)qmN
とすると,
minn | a(n) = 0 = minm | b(m) = 0
が成り立つ.ここで,qN = e2πizN である.
これにより,定義 1.7と似たように合同部分群に関する保型形式の cuspでの状況が定義できる.
定義 1.15 (合同部分群の cusp条件)
式 1.5を満たすH上の有理型関数 f が Γ ′の cusp s ∈ Q∪∞で有理型であるとは,f の Fourier
展開の負冪の項の係数が有限個を除いて 0であることをいう.また cusp s ∈ Q∪ ∞で正則であるとは f の Fourier展開の負冪の項の係数がすべて 0であることをいい,cusp s ∈ Q ∪ ∞で消えているとは f の Fourier展開の冪が 0以下の項の係数がすべて 0であることをいう.
最後に指標付き重さ整数の保型形式について述べ,この節を終わることとする.
定義 1.16 (指標付き重さ整数の保型形式)
mod N の Dirichlet指標 χに対し,
Mk(N,χ) =
f ∈Mk(Γ1(N))
∣∣∣∣ f ∣∣∣[γ]k = χ(d)f (∀γ =
[a bc d
]∈ Γ0(N))
,
Sk(N,χ) =Mk(N,χ) ∩ Sk(Γ1(N))
と定義する.
Mk(N,χ)に関して,次の 2つの重要な命題が成り立つ:
命題 1.17 ([Kob93, pp. 137–138, Proposition 28])
Mk(Γ1(N)) =⊕χ
Mk(N,χ)
が成り立つ.
命題 1.18 ([Kob93, pp. 127–129, Proposition 17])
次の 2つのことが成立する:
(1) M を自然数とする.f ∈ Mk(Γ0(N)) (resp. Mk(Γ1(N)), Mk(Γ (N))) に対し,g(z) =
f(Mz)とすると,g ∈ Mk(Γ0(MN)) (resp. Mk(Γ1(MN)), Mk(Γ (MN)))である.さら
に f が cusp形式であれば,g も cusp形式である;
12
(2) χ を mod N の Dirichlet 指標,ϕ を mod M の Dirichlet 指標とし,ϕ の導手を Mϕ
とする.f(z) =∞∑n=0
a(n)qnN ∈ Mk(N,χ) に対し,fϕ(z) =∞∑n=0
a(n)ϕ(n)qnN とすると,
fϕ ∈Mk(M′, χϕ2)である.ここで,M ′ = lcm(Mϕ, N
2)である.さらに f が cusp形式で
あれば,fϕ も cusp形式である.
1.3 重さ半整数の保型形式
これまで重さ整数の保型形式について定義をした.この節では重さ半整数の保型形式について定
義する.
以下,Γ ′ を Γ0(4)の部分群とし,T = ±1,±iとする.(Fuchs群や重さが分数の保型形式を
考える際は T として 1の冪根全体をとったり,円周群をとることもあるが,今回はこれで十分で
ある.Fuchs群や重さが分数の保型形式については志村氏の教科書 [Shim71]や [伊吹山]などが詳
しい.)また z ∈ Cに対し,√z は 2乗すれば z になる複素数のうち,偏角を
(−π2,π
2
]に持つも
のを表すこととする.
ここで重さ整数のときの様に γ =
[a b
c d
]∈ Γ ′ に対する保型因子を
J(γ, z) = (cz + d)k2
として定めてしまいたいが,実はこれではうまくいかない.√z は偏角の取り方が決まっているか
ら,保型因子の満たすべき関係式
J(αβ, z) = J(α, βz)J(β, z)
が一般には成立しない.そのため,保型因子の定義を偏角の取り方にあわせて少し修正し,さらに
“被覆群”というものを考え,その差異を判別できるようにすることで,重さ半整数の保型形式を
うまく定義する.まずより一般に,GL+2 (Q)
def= γ ∈ GL2(Q) | det γ > 0の被覆群を考える.
定義 1.19 (GL+2 (Q)の被覆群)
G =
(α, ϕ(z))
∣∣∣∣α =
[a bc d
]∈ GL+
2 (Q), ϕは H上の正則関数で,ϕ(z)2 = tcz + d√detα
(t ∈ T )
と定める.また集合 Gに対し,積を
(α, ϕ(z))(β, ψ(z)) = (αβ, ϕ(βz)ψ(z))
と定めると,Gは群となる.(このことは [Kob93, p. 179, Proposotion 1]を見てほしい.)
群 Gは上半平面 Hに行列成分のみ一次分数変換で作用する.つまり,Gの元 ξ = (α, ϕ(z))と
上半平面 Hの点 z に対し,ξzdef= αz と定める.∞に対しても,ξ∞ def
= α∞と定める.
この状況下で,重さ整数の場合と似たように∣∣∣[ ] k
2という記号を定義する.
13
定義 1.20
ξ = (α, ϕ(z)) ∈ Gに対し,
f∣∣∣[ξ] k
2= f(αz)ϕ(z)−k
と定める.
この記号の元,ξ1, ξ2 ∈ Gに対し,f∣∣∣[ξ1ξ2] k
2=(f∣∣∣[ξ1] k
2
) ∣∣∣[ξ2] k2が成立することが確認できる.
次に保型因子を定義する.まず,Jacobi記号について定義しておく.
定義 1.21 (拡張された Jacobi記号)
φm(n)を次のように定義する:
(1) 素数 pと整数 nに対し,φp(n) =
1 ((n, p) = 1かつ nは mod pの平方剰余),
−1 ((n, p) = 1かつ nは mod pの平方非剰余),
0 ((n, p) > 1);
;
(2) 自然数mの素因数分解をm = pe11 · · · perr としたとき,φm(n) = φp1(n)e1 · · ·φpr (n)er;
(3) 負の整数mに対して,φm(n) =
φ|m|(n) (n > 0),
−φ|m|(n) (n < 0).
φm(n)を拡張された Jacobi記号という.
この記号を用いて,保型因子を次のように定義する.
定義 1.22 (保型因子)
γ =
[a b
c d
]∈ Γ0(4)と z ∈ Hに対し,保型因子 J(γ, z)を
J(γ, z) = φc(d)ε−1d
√cz + d
と定める.ここで,φc(d)は拡張された Jacobi記号であり,
εd =
1 (d ≡ 1 (mod 4)),i (d ≡ 3 (mod 4))
である.
この J(γ, z)を用いて,Γ ′ を定義する.
定義 1.23
Γ0(4)の部分群 Γ ′ に対し,
Γ ′ = (γ, J(γ, z)) | γ ∈ Γ ′
と定義する.また γ ∈ Γ ′ に対し,γ = (γ, J(γ, z))と定める.
Γ ′ について定義から次のことがわかる.
命題 1.24
Γ ′ と Γ ′ は群として同型である.
14
さてこれまでと同様に,cuspでの状況についての定義は後述することとして,重さ半整数の保
型形式の定義をする.
定義 1.25 (重さ半整数の保型形式)
H上の有理型関数 f が Γ ′ に対する重さk
2の保型関数であるとは,任意の γ′ ∈ Γ ′ に対し,
f(z)∣∣∣[γ′] k
2= f(z) (1.6)
が成立し,かつすべての cusp で f が有理型であることをいう.また,保型関数 f が保型形式
(resp. cusp形式)であるとは,f が H上正則であり,かつすべての cuspで正則である(resp. 消
えている)ことをいう.また,M k2(Γ ′), S k
2(Γ ′) でそれぞれ重さ
k
2の保型形式全体,重さ
k
2の
cusp形式全体を表す.
cusp条件を定義する前に,指標付き重さ半整数の保型形式についても定義しておく.
定義 1.26 (指標付き重さ半整数の保型形式)
4|N とし,χを mod N の Dirichlet指標とする.このとき,
M k2(N,χ) =
f ∈M k
2(Γ1(N))
∣∣∣∣ f ∣∣∣[γ] k2 = χ(d)f
(∀γ =
[a bc d
]∈ Γ0(N)
),
S k2(N,χ) =M k
2(N,χ) ∩ S k
2(Γ1(N))
と定義する.
指標付き重さ半整数の保型形式を用いて,重さ整数のときと同様に
M k2(Γ1(N)) =
⊕χ
M k2(N,χ)
と直和分解を得ることができる.
さて,今からは cusp 条件を定義の概要を述べる.まず,2 つの写像 P, L を以下のように定
める:P: G −→ GL+
2 (Q)
∈ ∈
(γ, ϕ(z)) 7−→ γ
L: Γ0(4) −→ Γ0(4)
∈ ∈
γ 7−→ (γ, J(γ, z)).
P は準同型であり,P を Γ0(4) に制限した写像と L は同型写像で互いに逆写像である.ここ
で,G1 def= P−1(Γ ) = (α, ϕ(z) ∈ G) | α ∈ Γ と定義し,cusp s ∈ Q ∪ ∞ に対し,s = α∞
(α ∈ Γ ),ξ = (α, ϕ(z)) ∈ G1 とする.このとき,2つの固定部分群
Γ ′s = γ′ ∈ Γ ′ | γs = s,
G1∞ = η ∈ G1 | η∞ = ∞
を考える.Γ∞ =
±
[1 j
0 1
] ∣∣∣∣∣ j ∈ Z
であることは容易に確認できるから,
G1∞ =
(±[1 j0 1
], t
) ∣∣∣∣ j ∈ Z, t ∈ T
15
が得られる.このとき,写像 P によって,ξ−1Γ ′sξ と α−1Γ ′
sαは同型であり,∣∣Γ : Γ ′
∣∣ < ∞であるから,α−1Γ ′
sαはある自然数 hを用いて±[1 h0 1
]j ∣∣∣∣∣ j ∈ Z
,
[1 h0 1
]j ∣∣∣∣∣ j ∈ Z
,
−[1 h0 1
]j ∣∣∣∣∣ j ∈ Z
のいずれかの形で表せる.故に,±ξ−1Γ ′sξ はある t ∈ T を用いて
±
[1 h
0 1
]j, t
∣∣∣∣∣∣ j ∈ Z
という形で書くことができる.
いま,H上の有理型関数 f で任意の Γ ′ の元 γ′ に対し,f∣∣∣[γ′] k
2= f を満たすものについて考え
る.ξ ∈ Γ を s = ξ∞を満たす元とし,g def= f
∣∣∣[ξ] k2とすれば,gはすべての
∣∣∣[±ξ−1γ′ξ] k2(γ′ ∈ Γ ′)
で不変である.このことから tk = e2πir(r = 0,
1
4,1
2,3
4
)と書くと,e−
2πirzh g(z)は周期 hの
周期関数になることが確認でき,Fourier展開
e−2πirz
h g(z) =∑n
a(n)qnh
を得る.この Fourier係数 a(n)を用いて,f が cusp sで“有理型”,“正則”,“消えている”とい
うことをこれまでと同様に定義する.
定義 1.27 (重さ半整数の保型形式の cusp条件)
上の記号の元,f が cusp sで有理型であるとは,a(n) = 0となる負の整数 nが有限個であること
をいう.また f が cusp sで,正則であるとは,すべての負の整数 nに対して a(n) = 0であるこ
とをいい,cusp sで消えているとは,すべての 0以下の整数に対して a(n) = 0であることをいう.
しかしまだこの定義が“cusp sの Γ ′ 同値類に対し well-definedであるか”ということを確認し
ていない.しかし,実は前に述べた hや tの選び方は sの Γ ′ 同値類で共通であることが確認でき
るので,この定義が well-defined であることがわかる.このことは [Kob93, p. 181, Proposition
2]を見てほしい.
1.4 Hecke作用素と Petersson内積
この節では保型形式を調べるうえで重要な道具である Hecke作用素と Petersson内積について
定義する.重さ整数の Hecke作用素については格子上の保型関数に関して定める方法と両側剰余
類を用いて定める方法の大きく2つの手法がある.重さ整数の場合の Hecke作用素の種々の関係
式を導くには前者の方が理解がしやすいことが多い.実際,命題 1.33を導くことは格子の部分格
子を計算することに対応する.しかし今回は重さ半整数の場合の定義との比較のために後者の方法
で定めることとする.
まず,重さ整数の場合の Hecke作用素を定めるために準備をする.
定義 1.28 (通約可能)
群 Gの2つの部分群 G1, G2 が通約可能であるとは,|G1 : G1 ∩G2|, |G2 : G1 ∩G2|がともに有限であることをいう.
今回は詳しくは述べないが,通約可能という概念は Fuchs 群を考える場合には非常に良い概念
16
である.例えば,Γ1 と Γ2 が通約可能であれば,それらの cuspや基本領域のコンパクト性は一致
する.
命題 1.29 ([Kob93, p. 165, Proposition 41])
群 Gの部分群 G′ と α ∈ Gに対し,G′ と α−1G′αが通約可能であるとし,G′′ = G′ ∩ α−1G′α,
d = |G′ : G′′|(<∞)とする.このとき,G′ の G′′ による右剰余類分解を
G′ =d∪j=1
G′′γ′j
とすれば,G′αG′ の G′ による右剰余類分解は
G′αG′ =d∪j=1
G′αγ′j
である.また,逆も成り立つ.
上の命題を用いて∣∣∣[Γ ′αΓ ′]k という記号を定義する.
定義 1.30
Γ ′ を Γ の部分群,α を GL+2 (Q) の元で,Γ ′ と α−1Γ ′α が通約可能であるとする.Γ ′′ = Γ ′ ∩
α−1Γ ′α, d =∣∣Γ ′ : Γ ′′
∣∣(<∞)とおく.また Γ ′ の Γ ′′ による右剰余類分解を
Γ ′ =d∪j=1
Γ ′′γ′j
とする.このとき,任意の Γ ′ の元 γ′ に対し f∣∣∣[γ′]k = f となる H上の関数 f に対し,
f(z)∣∣∣[Γ ′αΓ ′]k =
d∑j=1
f∣∣∣[αγ′j ]k
と定義する.
この定義は両側剰余類の代表元の取り方や Γ ′ の Γ ′′ による右剰余類分解によらない.また,f
が Γ ′ に対する保型形式であれば,f∣∣∣[Γ ′αΓ ′]k も Γ ′ に対する保型形式であることが確認できる.
定義 1.31
S+ を Zの 0でない加法に関する部分群,S× を (Z/NZ)の部分群,nを自然数とする.このとき,集合 ∆n(N,S+, S×)を次のように定義する:
∆n(N,S+, S×) =
A =
[a bc d
]∈M2(Z)
∣∣∣∣N |c, a ∈ S×, b ∈ S+, detA = n
.
これで重さ整数の場合の準備が整った.これらの記号を用いて Hecke作用素を次のように定義
する.
17
定義 1.32 (重さ整数の場合のHecke作用素)
Γ ′ = ∆1(N,S×, S+),自然数 n,Γ ′ に対する重さ k の保型形式 f に対し,Hecke作用素 Tn を
Tnf =∑
f∣∣∣[Γ ′αΓ ′]k
と定める.ここで,和は ∆n(N,S×, S+) に含まれる Γ ′ による両側剰余類全体をわたるものと
する.
重さ整数の場合の Hecke作用素は次の関係式を満たす.
命題 1.33 ([Kob93, pp. 156–157, Proposition 32])
f ∈Mk(N,χ)とし,lを 2以上の自然数する.このとき,Tn に対して,以下のことが成り立つ.
(1) 自然数m, nが互いに素であれば,Tmn = TmTn である.特に,TmTn = TnTm である.
(2) N を割り切る素数 pに対し,Tpl = T lp である.
(3) N を割り切らない素数 p に対し,Tpl = Tpl−1Tp − pTpl−2Tp,pである.ここで,Tp,p は
Tp,pf = nk−2χ(n)f なる作用素である.
次に,重さ半整数の場合を定義する.いま,ξn =
([1 0
0 n
], 4√n
)とする.
定義 1.34 (重さ半整数の場合のHecke作用素)
f ∈M k2(Γ1(N))とし,自然数 nは N と互いに素であるとする.このとき,
f∣∣∣[Γ1(N)ξnΓ1(N)] k
2=∑j
f∣∣∣[ξnγj ] k
2
とする.ただし,和は Γ1(N)ξnΓ1(N)の Γ1(N)に関する右剰余類をわたるものとする.ここで,
Hecke作用素 Tn2 を
Tn2f = f∣∣∣[Γ1(N)ξnΓ1(N)] k
2
と定める.
今,重さ半整数の Hecke作用素を平方数に対してのみ考えていることには,次のような理由が
ある.
命題 1.35 ([Kob93, pp. 204–206, Proposition 12])
nが完全平方でなければ,f∣∣∣[Γ1(N)ξnΓ1(N)] k
2= 0である.
重さ半整数の場合も,重さ整数の場合の類似の関係式が成り立つ.
命題 1.36 ([Kob93, p. 210])
lを自然数する.このとき,Tn2 に対して,以下のことが成り立つ.
(1) 自然数m, nが互いに素であれば,Tm2n2 = Tm2 Tn2 である.特に,Tm2 Tn2 = Tn2 Tm2 で
ある.
(2) Tp2l は Tp2 による多項式で表せる.
また,Hecke作用素の固有形式について定義する.
18
定義 1.37 (Hecke固有形式)
重さ整数の保型形式 f が Hecke 作用素 Tn に対する固有ベクトルであるとき,f は Tn に対する
Hecke固有形式であるという.同様に,重さ半整数の保型形式 f が Hecke作用素 Tn2 に対する固
有ベクトルであるとき,f は Tn2 に対するHecke固有形式であるという.また,f がいくつかの
Hecke作用素に対する固有ベクトルであるとき,f はHecke同時固有形式であるという.
最後に Petersson内積について述べ,本節を終えよう.まず,定義を述べる.
定義 1.38 (重さ整数の場合の Petersson内積)
Γ ′ を Γ の合同部分群とし,F ′ を Γ ′ の基本領域とする.また,f1, f2 ∈ Mk(Γ′)で少なくとも 1
つは cusp形式であるとする.このとき,
⟨f1, f2⟩ =1∣∣Γ : Γ ′∣∣ ∫
F ′f1(z)f2(z)y
k dxdy
y2
と定義する.⟨f1, f2⟩を f1 と f2 の Petersson内積という.
定義 1.39 (重さ半整数の場合の Petersson内積)
4|N とし,F0(N)を Γ0(N)の基本領域とする.また,g1, g2 ∈Mk+ 12(Γ0(N))で少なくとも 1つ
は cusp形式であるとする.このとき,
⟨g1, g2⟩ =1
6∣∣Γ0(4) : Γ0(N)
∣∣ ∫F0(N)
g1(z)g2(z)yk+ 1
2dxdy
y2
と定義する.⟨g1, g2⟩を g1 と g2 の Petersson内積という.
Petersson内積について,次の 2つの命題が成り立つ.
命題 1.40 ([Kob93, p. 170, Proposition 45])
定義 1.38,定義 1.39の記号の下,次の 3つが成り立つ:
(1) ⟨f1, f2⟩および ⟨g1, g2⟩は絶対収束する;(2) ⟨f1, f2⟩の値は合同部分群や基本領域の取り方によらない;(3) ⟨g1, g2⟩の値は基本領域の取り方によらない.
命題 1.41 ([Kob93, p. 171, Proposition 47])
α ∈ GL+2 (Q)とすると,定義 1.38の記号の下,⟨
f1
∣∣∣[α]k, f2⟩ =⟨f1, f2
∣∣∣[α−1]k
⟩が成り立つ.
19
第 2章
Weilの逆定理と志村対応
この章では教科書 Miyake [Miy06] と論文 Shimura [Shim73]を基にWeilの逆定理と志村氏に
よる志村対応について概説する.Weilの逆定理とは「Dirichlet級数がいつ保型形式になるか」と
いう条件を与えるものである.これについては基本的に証明は割愛する代わりに [Miy06]のページ
を記載している.また志村対応とは「重さ半整数の保型形式から重さ整数の保型形式を構成する」
というもので [Shim73]で示された.こちらに関しては本論文中でも概説を行う.
2.1 Fourier係数の増大度の評価
この節では Fourier係数の増大度について評価を与える.この増大度は Dirichlet級数が絶対収
束する右半平面を決定する上で重要である.
この節以降,O は Landauの記号とする.すなわち,
f(x)が x→ αで O(g(x))である
とは,
limx→α
f(x)
g(x)が有限確定値
であることをいう.
まず,重さ整数の cusp形式の Fourier係数の増大度を調べる.
命題 2.1
重さ k の cusp形式 f の Fourier係数 a(n)に対し,n → ∞のとき,a(n) = O(nk2 )が成立する.
ここで,O は Landauの記号である.
証明
f の Fourier展開を f(z) = F (q) =
∞∑n=0
a(n)qn とする.このとき,h(z)def=∣∣f(z)∣∣ · Im(z)
k2 は有
界であることが確認できる.よって,
•∣∣F (q)∣∣ = ∣∣∣∣∣
∞∑n=0
a(n)qn
∣∣∣∣∣ ≤M · Im(z)−k2
•∣∣q∣∣ = e−
1n ⇔ Im(z) =
1
2πn
20
が得られる.この 2つを用いて a(n) =∫|q|=e−
1nF (q)q−n−1dq を評価すれば,
∣∣a(n)∣∣ ≤Me
(1
2πn
)− k2
である.
Eisenstein級数 Ek の Fourier係数の増大度に関しても,約数関数 σk−1(n)の増大度を評価する
ことにより,上の命題と同じ増大度が得られる.これらをまとめると以下のようになる.
命題 2.2
重さ k の保型形式 f の Fourier係数 a(n)に対し,a(n) = O(nk2 )が成立する.
しかしながら,この評価は最適ではない.実際,Deligne [Del74]によって重さ 12の cusp形式
である Ramanujanの∆関数の Fourier係数 τ(n)に対して,次のことが示されている.
定理 2.3
Ramanujan の ∆ 関数の Fourier 係数 τ(n) に対し,τ(n) ≤ 2n112 が成り立つ.特に,τ(n) =
O(n112 )である.
また,重さ半整数の場合も命題 2.1と同様の議論により,次の評価が得られる.
命題 2.4
重さk
2の cusp形式 f の Fourier係数 a(n)に対し,a(n) = O(n
k4 )が成立する.
2.2 Weilの逆定理
この節では志村対応を証明するのに必要となるWeilの逆定理について述べる.Weilの逆定理を
示すうえで特に重要になるものは命題 2.5,定理 2.9,補題 2.20の 3つである.
さて,まずは保型形式,cusp形式の上半平面全体での増大度について考察する.保型形式,cusp
形式は上半平面上で正則であり,cusp に関しても増大度に関係する条件を満たす必要があった.
このことから保型関数,保型形式,cusp形式の順に増大度に制限があることが推察される.実際,
次が成り立つ.
命題 2.5 ([Miy06, pp. 41–42, Thorem 2.1.4])
重さ k の Γ に対する保型関数 f(z)が上半平面 Hで正則であるとする.このとき正の実数 ν が存
在し,Im(z) → 0のときf(z) = O(Im(z)−ν) (2.1)
が Re(z) に関して一様に成り立てば,f(z) は保型形式である.さらに ν < k ととれるならば,
f(z)は cusp形式である.
以下,この節では特に断りがなければ H上の複素数値関数 f(z)は次の条件 (∗1)から (∗3)を満たすものとする:
21
(∗1) f(z)は H上正則である;
(∗2) f(z) =∞∑n=0
a(n)qn (a(n) ∈ C)という形の関数であり,右辺の級数は H上広義一様に絶対
収束する;
(∗3) 正の実数 ν が存在し,Im(z) → 0のとき,f(z) = O(Im(z)−ν)が Re(z)に関して一様に成
り立つ.
このとき,命題 2.1 と同様の方法で a(n) = O(nν) が成り立つことが確認できる.また,逆に
a(n) = O(nν)とすれば次のことがわかる.
補題 2.6 ([Miy06, p. 117, Lemma 4.3.3])
a(n) = O(nν)となる複素数列 a(n)に対し,f(z) =∞∑n=0
a(n)qn とする.このとき,右辺は広義
一様に絶対収束し,f(z)は H上正則であり,かつ
• 正の実数 ν が存在し,Im(z) → 0のとき,f(z) = O(Im(z)−ν−1),
• Im(z) → ∞のとき,f(z) = O(e−2πIm(z))
が Re(z)に関して一様に成り立つ.
次に,関数 f(z)が与えられたとき,次のような 2つの Dirichlet級数を考える.
定義 2.7
f(z) =
∞∑n=0
a(n)qn に対し,L(s; f), ΛN (s; f)を
L(s; f) =∞∑n=1
a(n)n−s,
Λ(s; f) =
(2π√N
)Γ (s)L(s; f)
と定める.ここで,Γ (s)は Γ 関数である.
a(n) = O(nν)であったから,L(s; f)は任意の ϵ > 0に対し Re(s) ≥ 1 + ν + ϵで広義一様に絶
対収束し,Re(s) > 1 + ν で正則であることに注意しよう.
補題 2.8 (Phragman-Lindelof, [Miy06, pp. 118–119, Lemma 4.3.4])
ν1 < ν2 なる 2つの実数 ν1, ν2 と正の実数 δ を用いて,領域 F, U を
F = s ∈ C | ν1 ≤ Re(s) ≤ ν2,U = s ∈ C | ν1 − δ < Re(s) < ν2 + δ
と定める.U 上の正則関数 ϕ(s)が以下の 2条件
(1) 正の実数 aが存在して,U の元 sを Im(s) → ∞とすれば,Re(s)に関して一様に∣∣ϕ(s)∣∣ = O(e|Im(z)|a)
が成り立つ,
22
(2) 実数 bが存在して,Re(s) = ν1, ν2 となる sに対し Im(s) → ∞とすれば,∣∣ϕ(s)∣∣ = O(∣∣Im(z)
∣∣b)が成り立つ
を満たすならば,F の元 sを Im(s) → ∞とすれば,∣∣ϕ(s)∣∣ = O(∣∣Im(z)
∣∣b)が F 上一様に成り立つ.
この補題を用いれば,次が成り立つ.
定理 2.9 (Hecke, [Miy06, pp. 119–122, Theorem 4.3.5])
k を実数,N を正の実数とし,f(z) =
∞∑n=0
a(n)qn, g(z) =
∞∑n=0
b(n)qn とする.このとき,次は同
値である:
(A) g(z) = (−i√Nz)−kf
(− 1
Nz
).
(B) ΛN (s; f), ΛN (s; g)が全平面に解析接続され,ΛN (s; f) = ΛN (k − s; g)を満たし,さらに
ΛN (s; f) +a(0)
s+
b(0)
k − sが任意の垂直帯領域で有界な正則関数である.
定理 2.9を k, N を自然数として少し書き直せば,次が得られる.
系 2.10 ([Miy06, p. 122, Theorem 4.3.6])
k, N を自然数とし,f(z) =∞∑n=0
a(n)qn, g(z) =∞∑n=0
b(n)qn とする.このとき,次は同値である:
(A) g(z) = (√Nz)−kf
(− 1
Nz
).
(B) ΛN (s; f), ΛN (s; g)が全平面に解析接続され,ΛN (s; f) = ikΛN (k − s; g)を満たし,さら
に ΛN (s; f) +a(0)
s+ikb(0)
k − sが任意の垂直帯領域で有界な正則関数である.
自然数 N に対し,ωN を
ωN =
[1 0N 1
]と定める.このとき,容易に次のことがわかる.
系 2.11 ([Miy06, p. 122, Corollary 4.3.7])
cusp形式 f(z) ∈ Sk(N,χ)に対し,ΛN (s; f)は全平面に正則関数として解析接続され,任意の垂
直帯領域で有界であり,ΛN (s; f) = ikΛN (k − s; f∣∣∣[ωN ]k)が成り立つ.
また,2.1節での議論から次がわかる.
23
定理 2.12 ([Miy06, pp. 122–123, Theorem 4.3.8])
kを偶数とする.このとき f(z) =∞∑n=0
a(n)qn が重さ kの保型形式であることと次の 3条件を満た
すことは同値である:
(1) ΛN (s; f), ΛN (s; g)が全平面に解析接続される.
(2) ΛN (s; f) +a(0)
s+ika(0)
k − sが任意の垂直帯領域で有界な正則関数である.
(3) ΛN (s; f) = ikΛN (k − s; g)を満たす.
また,f(z)が重さ k の cusp形式であることと上の 3条件に加え,
(4) a(0) = 0
が成り立つことは同値である.
上の定理の合同部分群に対する保型形式版がWeilの逆定理である.まず,合同部分群に対する
保型形式 f(z)がどのような条件式を満たすのかを考察していこう.
少し記号の定義をする.まず,実数 aに対し,行列 α(a)を
α(a) =
[1 a0 1
]と定める.また,関数 f(z)と L(s; f)に対し,指標 ψでの twist fψ(z)と L(s; f, ψ)を次のように
定義する.
定義 2.13
f(z) =∞∑n=0
a(n)qn とし,ψ を導手m = mψ の原始的な Dirichlet指標とする.このとき,
• fψ(z) =∞∑n=0
a(n)ψ(n)qn,
• L(s; f, ψ) =∞∑n=1
a(n)ψ(n)n−s,
• ΛN (s; f, ψ) =
(m√N
2π
)Γ (s)L(s; f, ψ)
と定義する.
注意 2.14
定義 2.7の記号と定義 2.13の記号に関して,
(1) f(z)が条件 (∗)を満たせば,fψ(z)が条件 (∗)を満たす,(2) L(s; fψ) = L(s; f, ψ),
(3) ΛNn2(s; fψ) = ΛN (s; f, ψ)
が成り立つ.
このとき,系 2.10から次が得られる.
24
系 2.15 ([Miy06, p. 123, Lemma 4.3.9])
k, N を自然数とし,f(z) =∞∑n=0
a(n)qn, g(z) =∞∑n=0
b(n)qn とする.また ψ を導手 m = mψ の
原始的な Dirichlet指標とする.このとき,ある複素数 Cψ に対して,次は同値である:
(Aψ) fψ
∣∣∣[ωNm2 ]k = Cψgψ.
(Bψ) ΛN (s; f, ψ)は全平面に正則関数として解析接続され,任意の垂直帯領域で有界な正則関数
であり,ΛN (s; f, ψ) = ikCψΛN (k − s; g, ψ)を満たす.
ここで,Cψ をどのようにとればよいかを決定する.そのために補題を 1つ用意する.
補題 2.16 ([Miy06, pp. 123–124, Lemma 4.3.10])
ψ を導手m = mψ の原始的な Dirichlet指標とする.このとき,
fψ = G(ψ)−1m∑n=1
ψ(n)f∣∣∣[α( n
m
)]k
(2.2)
が成り立つ.
この補題を用いれば,Cψ が決定できる.
命題 2.17 ([Miy06, pp. 124–125, Theorem 4.3.11])
f(z)をMk(N,χ)の元とし,ψ を導手m = mψ の原始的な指標で,mと N が互いに素であると
する.このとき,
g = f∣∣∣[ωN ]k,
Cψ =χ(m)ψ(N)G(ψ)2
m
とすれば,
fψ
∣∣∣[ωNm2 ]k = Cψgψ
が成り立つ.
今までのことを整理すれば,指標付きの cusp形式に対して次のことがわかる.
定理 2.18 ([Miy06, p. 125, Theorem 4.3.12])
f(z)をMk(N,χ)の元とし,ψ を導手m = mψ の原始的な指標とする.また,Cψ を命題 2.17の
ものとする.このとき,ΛN (s; f, ψ)は全平面に正則関数として解析接続され,任意の垂直帯領域
で有界な正則関数であり,ΛN (s; f, ψ) = ikCψΛN (k − s; f∣∣∣[ωN ]k, ψ)が成り立つ.
ここで少し準備をする.まず,(m, vN) = 1となる整数m, vに対して,mn− uvN = 1となる
整数 n, uをとり,
γ(m, v)def=
[m −v
−uN n
]とする.この記号は n, uの選び方によるが,常に
α(un
)ωNm2 = m · ωNγ(m, v)α
( vn
)(2.3)
が成り立つ.
25
また関数 f(z)に対する GL+2 (Q)の作用を群環 C[GL+
2 (Q)]の作用に拡張する.β =∑α
aαα ∈
C[GL+2 (Q)]の f(z)への作用を
f∣∣∣[β]k def
=∑α
aαf∣∣∣[α]k
で定義する.また,次の 2つの補題では g(z) = f∣∣∣[ωN ]k とする.
補題 2.19 ([Miy06, pp. 125–126, Lemma 4.3.13])
m を 4 または奇素数とする.このとき,mod m のすべての原始的な Dirichlet 指標 ψ に対し,
(Aψ)が成り立つならば,任意のmと互いに素な 2つの自然数 u, v に対し,
g∣∣∣[(χ(m)− γ(m,u))α
(un
)]k= g
∣∣∣[(χ(m)− γ(m, v))α( vn
)]k
(2.4)
が成り立つ.
補題 2.20 ([Miy06, pp. 126–127, Lemma 4.3.14])
m, n を 4 または奇素数とする.このとき,f, g が条件 (Aψ) を mod m のすべての原始的
な Dirichlet 指標および mod n のすべての原始的な Dirichlet 指標に対して満たすとき,γ =[m −v
−uN n
]と書ける Γ0(N)の任意の元に対し,
g∣∣∣[γ]k = χ(γ)g (2.5)
が成り立つ.
さて,最後にWeilの逆定理を述べてこの節を終わろう.互いに素な 2つの自然数 a, bに対し,
A(a, b)def= a+ nb | n ∈ Zと定め,P は 4とすべての奇素数からなる集合の部分集合で,P のす
べての元はN と互いに素であり,すべての A(a, b)と空でない共通部分を持つものとする.このよ
うな P の存在性は Dirichletの算術級数定理からわかる.
定理 2.21 (Weilの逆定理, [Miy06, pp. 128–129, Theorem 4.3.15])
k, N を自然数とし,χ を mod N の Dirichlet 指標で χ(−1) = (−1)k となるものとする.この
とき,f(z) =∞∑n=0
a(n)qn, g(z) =∞∑n=0
b(n)qn が次の 3 条件を満たすならば,f(z) ∈ Mk(N,χ),
g(z) ∈Mk(N,χ),g = f∣∣∣[ωN ]k が成り立つ:
(1) ΛN (s; f), ΛN (s; g)は全平面に解析接続され,
ΛN (s; f) = ikΛN (k − s; g) (2.6)
を満たす;
(2) ΛN (s; f) +a(0)
s+ikb(0)
k − sは任意の垂直帯領域で有界である;
(3) 任意の m ∈ P に対し,すべての導手 mの原始的な Dirichlet指標 ψ に関して ΛN (s; f, ψ)
は全平面に正則関数として解析接続され,任意の垂直帯領域で有界であり,関数等式
ΛN (s; f, ψ) = ikCψΛN (k − s; g, ψ) (2.7)
を満たす.
さらに,正の実数 δが存在して,L(s; f)が s = k− δで絶対収束すれば,f, gは cusp形式である.
26
2.3 テータ関数
この節ではテータ関数を定義していく.まずは通常のテータ関数を定義しよう.
定義 2.22 (テータ関数)
上半平面 H上の関数Θ(z)
def=∑n∈Z
qn
をテータ関数という.
テータ関数 Θ(z)について,次のことがよく知られている.
命題 2.23 ([Kob93, p. 148, Theorem])
Θ(z)は重さ1
2の Γ0(4)に対する保型形式である.
ここで今後のために,少し用語と記号を準備しておく.
定義 2.24 (基本判別式)
整数 dが平方因子を持たないとき,
D =
d (d ≡ 1 mod 4)
4d (d ≡ 2, 3 mod 4)
を Q(√d)の基本判別式という.ただし,d = 1のときは D = 1とする.
定義 2.25 (Kronecker記号)
基本判別式 D に対し,
(D)を以下のように定める:
(1)
(D
1
)= 1,
(D
−1
)=
1 (D > 0),
−1 (D < 0);
(2) (n,D) = 1のとき,
(D
n
)= 0;
(3) pが D と互いに素な素数のとき,
(D
p
)=
1 (Dは mod pの平方剰余),
−1 (Dは mod pの平方非剰余);
(4) Dが奇数のとき,
(D
p
)=
1 (D ≡ 1 (mod 8)),
−1 (D ≡ 5 (mod 8));
(5) 自然数 n = pe11 · · · perr が (n,D) = 1のとき,
(D
±n
)=
(D
±1
)(D
±p1
)e1· · ·(D
±pr
)er.
この
(D)をKronecker記号という.
27
さて,いまから球関数付きテータ関数を Shimura [Shim73]に基づいて定義する.nを自然数,ν
を非負整数とする.また Aを n次の実正定値対称行列とする.また,Rn 上の複素数値関数 P (x)
を
P (x) =
c (c ∈ C) (ν = 0),∑q
βq · (tyAx)ν (ν > 0)
となるものとする.ここで x =
x1
x2...
xn
∈ Rn,y =
y1
y2...
yn
∈ Cn であり,和は tyAy = 0と
なる有限個の y を渡る.
ここで,列ベクトル h ∈ Zn に対し,球関数付きテータ関数 θ(z;h, A,N, P )を次のように定義
する.
定義 2.26 (球関数付きテータ関数)
上半平面 H上の関数 θ(z;h, A,N, P )を
θ(z;h, A,N, P ) =∑
m≡h (mod N)
P (m)qtmAm
2n2
と定義する.
注意 2.27
以下,特に断りがなければ本節を通じて次の 3つを仮定する:
• A,N,hは次の 2条件を満たすものとする:
(1) ANA−1 ∈Mn(Z);(2) Ah ∈ NZn.このとき,det(A)は Nn を割り切る.
• D = det(A), κ = n+ 2ν とおく.
• 関係式などで共通の P を考えているときは,単に θ(z;h, A,N)と書くこともある.
球関数付きテータ関数 θ(z;h, A,N, P )は次の 3つの変換公式を持つ.
命題 2.28 ([Shim73, p. 454])
cを自然数とする.このとき,以下の 3つが成り立つ:
(1) θ
(−1
z;h, A,N, P
)= (−i)νD− 1
2 (−iz)κ2
∑k mod N
Ak≡0 (mod N)
θ(z;k, A,N, P );
(2) θ(z + 2;h, A,N) = e
(thAh
N2
)θ(z;h, A,N);
(3) θ(z;h, A,N) =∑
g mod cNg≡h (mod N)
θ(cz; g, cA, cN).
28
また,一次分数変換に関して次が成り立つ.
命題 2.29 ([Shim73, pp. 454–456])
SL2(Z)の元 γ =
[a b
c d
]は b ≡ 0 (mod 2)かつ c ≡ 0 (mod 2N)なる元とする.このとき,
θ(γ(z);h, A,N) = e
(ab
thAh
2N2
)(D
d
)(2c
d
)nε−nd (cz + d)
κ2 θ(z; ah, A,N)
が成り立つ.
さて,ここで hψ という関数を定義して,これが重さ半整数 の保型形式であることを確認しよう.
命題 2.30 ([Shim73, pp. 457–458, Proposition 2.2, Proposition 2.3])
r を自然数とし,ψ を mod r の原始的な Dirichlet指標とする.ν = 0, 1を ψ(−1) = (−1)ν とな
るようにとる.また,上半平面 H上の関数 hψ(z) = h(z;ψ)を
hψ(z) =1
2
∑m∈Z
ψ(m)mνe(m2z)
と定義する.このとき,次の 2つの関係式が成り立つ:
(1) h(γ(z);ψ) = ψ(d)
(−1
d
)νJ(γ, z)2ν+1h(z;ψ) (γ ∈ Γ0(4r
2));
(2) h
(− 1
4r2z;ψ
)= (−i)νr− 1
2G(ψ)(−2riz)ν+12h(z;ψ).
注意 2.31
ψ1(d)def= ψ(d)
(−1
d
)νとすると,命題 2.30から
• ν = 0のとき,hψ ∈M 12(4r2, ψ),
• ν = 1のとき,hψ ∈ S 32(4r2, ψ1)
が得られる.
ν = 0のときの hψ(kz)は重さ1
2・レベル N の保型形式の空間の生成元となっている.これは
Serre-Stark [SS77]の結果である.これに関しては [堀江]が詳しい.
2.4 志村対応
この節では志村対応について概説する.志村対応とは重さ半整数の保型形式から重さ整数の保型
形式を構成する対応であり,Shimura [Shim73]によって示された.逆に,重さ整数の保型形式か
ら重さ半整数の保型形式を構成する対応は“新谷対応”と呼ばれ Shintani [Shin75]によって与え
られている.
志村対応が考えられた動機づけの 1つとして重さ半整数の保型形式の Fourier係数から得られる
Dirichlet 級数が重さ整数の保型形式の場合と同じような Euler 積表示を持つことがあげられる.
(このことも [Shim73]で初めて示された.)まずはこのことを確認していく.
29
定理 2.32 ([Shim73, pp. 450–451, Theorem 1.7])
k を自然数,p を素数,N は 4 の倍数とし,χ を mod N の Dirichlet 指標とする.f(z) ∈
Mk+ 12(N,χ)と Tp2f(z)の Fourier展開をそれぞれ f(z) =
∞∑n=0
a(n)qn,Tp2f(z) =∞∑n=0
b(n)qn と
すると,
b(n) = a(p2n) + χ(p)
((−1)kn
p
)pk−1a(n) + χ(p2)p2k−1a
(n
p2
)(2.8)
が成り立つ.ただし,p2 が nを割り切らないときは a
(n
p2
)= 0とする.
また,命題 1.36を用いれば次が得られる.
定理 2.33 ([Shim73, pp. 451–452, Corollary 1.8])
すべての Hecke作用素 Tp2 に対する Hecke同時固有形式 f(z) ∈ Mk+ 12(N,χ)が存在する.また
f(z)の Fourier展開を f(z) =∞∑n=0
a(n)qn とし,Tp2 に対する f(z)の固有値を ωp とする.この
とき,p|N または p2 ∤ tとなる素数 pに対し,
(1) ωpa(tn2) = a(tn2p2) + χ(p)
((−1)kt
p
)pk−1a(t),
(2) ωpa(p2mt) = a(p2m+2t) + χ(p2)
((−1)k
p2
)p2k−1a(p2m−2t)
が成り立つ.
この関係式から重さ半整数の保型形式から作られる Dirichlet級数は次の Euler積表示を持つ.
定理 2.34 ([Shim73, p. 453, Theorem 1.9])
t を N と互いに素で,平方因子を持たない自然数とする.すべての Hecke 作用素 Tp2 に対する
Hecke同時固有形式 f(z)の Fourier展開を f(z) =∞∑n=0
a(n)qn とする.また,Tp2 に対する f(z)
の固有値を ωp とする.このとき,Dirichlet級数
∞∑n=1
a(tn)n−s は次の Euler積を持つ:
∞∑n=1
a(tn)n−s = a(t)∏p:素数
(1− χ(p)
((−1)kt
p
)pk−1−s
)(1− ωpp
−s + χ(p)2p2k−1−2s)−1.
このように重さ半整数の保型形式から得られる Dirichlet 級数が重さ整数の場合の様に 2 次の
Euler積を持つことから,志村対応は考えられた.よってここからは 2次の Euler積の部分
a(t)∏p:素数
(1− ωpp−s + χ(p)2pk−2−2s)−1 =
∏p:素数
(1− χ(p)
((−1)λt
p
)pλ−1−s
) ∞∑n=1
a(tn)n−s
=
( ∞∑m=1
χ(m)
((−1)λt
m
)mk−1−s
)( ∞∑n=1
a(tn)n−s
)
が重さ整数の保型形式であることをWeilの逆定理 2.21を用いて確認していく.
まずは Shimura [Shim73]の主定理の主張を述べておく.
30
定理 2.35 (Shimura [Shim73, p. 458, Main Theorem])
k を自然数,t を平方因子を持たない自然数,N を 4 の倍数とし,χ を mod N の偶の Dirichlet
指標とする.f(z) =∞∑n=1
a(tn)qn ∈ Sk+ 12(N,χ)に対し,
∞∑n=1
At(n)qn =
( ∞∑m=1
χ(m)
((−1)λt
m
)mk−1−s
)( ∞∑n=1
a(tn)n−s
)
と At(n)を定め,この At(n)から得られる Dirichlet級数
Ft(z) =∞∑n=1
At(n)qn
を考える.このとき,f(z)がすべての素数 pに対するHecke同時固有形式であるとすると,ある自
然数 Nt が存在して,Ft ∈M2k(Nt, χ2)である.特に k ≥ 2であれば,Ft ∈ S2k(Nt, χ
2)である.
この主定理が示されれば,次が容易にわかる.
系 2.36 ([Shim73, pp. 458–459, Corollary])
上記の記号の下,Tp2 に対する固有値を ωp とする.このとき,
∞∑n=1
A(n)qn =∏p:素数
(1− ωpp−s + χ(p2)p2k−1−2s)−1
と A(n)を定め,この A(n)から得られる Dirichlet級数
F (z) =∞∑n=1
A(n)qn
を考える.このとき,N0 を a(t) = 0となるすべての tの最大公約数とすると,F ∈M2k(N0, χ2)
である.特に k ≥ 2であれば,F ∈ S2k(N0, χ2)である.
この N0 について [Shim73] ではN
2と取れるであろうと予想している.これに対し Niwa
[Niw74] は志村対応をテータ核関数を用いた積分の形で表示し,実際に重さが大きいほとんどの
場合にN
2ととれることを示した.最終的にすべての場合に対してこれが成り立つことは Cipra
[Cip83]によって示された.しかし,このN
2というレベルは最良ではない.これについては Ueda
[Ued88]を見てほしい.
話を戻し,[Shim73]の主定理の行っていく.前述したように証明にはWeilの逆定理 2.21を用
いる.今回の場合に適用できるようにすこし定理 2.21の主張を改めておく.
定理 2.37 ([Shim73, pp. 459–460, Lemma 3.1])
複素数列 c(n)に対し,F (z) =∞∑n=1
c(n)qn, D(s) =∞∑n=1
c(n)n−s とする.また,P を素数の集
合で,任意の A(a, b)と共通部分が空でないものとする.このとき,以下の 3条件を満たすとき,
F (z) ∈Mk(M,ϕ)である:
(1) D(s)はある右半平面 Re(s) > σ で絶対収束する;
31
(2) M と互いに素なすべての r ∈ P とすべての mod r の原始的な Dirichlet 指標 ψ に対し,
R(s, ψ) = (2π)−sΓ (s)∞∑n=1
ψ(n)c(n)n−s が全平面に正則関数として解析接続され,任意の
垂直帯領域で有界である;
(3) ある右半平面 Re(s) > σ′ で絶対収束する Dirichlet 級数 D′(s) =∞∑n=1
c′(n)n−s が存在し,
すべての ψ に対して,以下の関数等式
R(k − s, ψ) = Cψ(r2M)s−k−
12 (2π)−sΓ (s)
∞∑n=1
ψ(n)c′(n)n−s
を持つ.
さらに,D(s)がある Re(s) < k +1
2となる sで絶対収束するならば,F は cusp形式である.
定理 2.35の証明. 詳細な証明は非常に長いため,今回は
(1)∞∑n=1
At(n)n−s がある右半平面 Re(s) > σ で絶対収束すること,
(2) t = 1のとき,D1(s, ψ) =∞∑n=1
ψ(n)A1(n)n−s が全平面に正則関数として解析接続され,任
意の垂直帯領域で有界であること,
(3) t = 1のとき,R1(s, ψ) = (2π)−sΓ (s)D1(s, ψ)とおくとき,
R1(k − s, ϕ) = Cϕ(r2Nt)
s−k− 12 (2π)−sΓ (s)
∞∑n=1
ψ(n)b(n)n−s
を満たす自然数 Nt と Dirichlet級数∞∑n=1
b(n)n−s が存在すること(の特別な場合),
の 3 つを確認する.一般の t での議論を t = 1 の場合に帰着する議論や条件 (3) の一般の場合の
Dirichlet級数の存在性については [Shim73]を見てほしい.
(1)について
∞∑n=1
At(n)qn =
( ∞∑m=1
χ(m)
((−1)kt
m
)mk−1−s
)( ∞∑n=1
a(tn)n−s
)であったから,右辺の 2つの級数の収束性を調べる.
•∞∑m=1
χ(m)
((−1)kt
m
)mk−1−s は Riemann のゼータ関数の収束性に帰着され,Re(s) > k
で絶対収束する.
•∞∑n=1
a(tn)n−s は,命題 2.4から,
∞∑n=1
∣∣a(tn)n−s∣∣ ≤ ∞∑n=1
∣∣a(tn)∣∣n−Re(s)
≤Mt2k+1
4
∞∑n=1
nk+12−Re(s)
32
であるから,Riemannのゼータ関数の収束性から Re(s) > k +3
2で絶対収束する.
このことから,
∞∑n=1
At(n)qn は Re(s) > k +
3
2で絶対収束する.
(2)について
D1(s, ψ) =∞∑n=1
ψ(n)A1(n)n−s
=
( ∞∑n=1
ψ(n)χ1(n)mk−1−s
)( ∞∑n=1
ψ(n)an2m−s
)
と変形できるから,右辺を Rankinの手法で積分表示する.hψ(z)(= h(z;ψ))を命題 2.30のもの
とする.今 ψ(−1) = (−1)ν とすると,hψ(z) ∈ Mν+ 12(4r2, ψ1)であることに注意する.よって,
z = x+ iy とすると,
f(z)hψ(z) =1
2
∑m∈Zn∈N
a(n)ψ(m)mνe((n−m2)x)exp(−2π(n+m2)y)
と表せるから, ∫ 1
0
f(z)hψ(z)dx =1
2
∑m∈Z
a(m2)ψ(m)mνexp(−4πm2y)
=∑m∈N
a(m2)ψ(m)mνexp(−4πm2y)
となる.よって,∫ ∞
0
(∫ 1
0
f(z)hψ(z)dx
)ys−1dy = (4π)−sΓ (s)
∑m∈N
a(m2)ψ(m)mν−2s
を得る.次にこの左辺を変形していく.F∞ = Γ∞\Hとおくと,左辺は
(4π)−sΓ (s)∑m∈N
a(m2)ψ(m)mν−2s =
∫ ∞
0
(∫ 1
0
f(z)hψ(z)dx
)ys−1dy
=
∫F∞
f(z)hψ(z)ys−1dxdy
と書ける.ここで,B(z) = B(z, s) = f(z)hψ(z)ys+1, d0z =
dxdy
y2とおき,R を Γ∞\Γ0(Nr
2)
の完全代表系とすると,上式は
(4π)−sΓ (s)∑m∈N
a(m2)ψ(m)mν−2s =
∫F0
∑γ∈R
B(γ(z))d0z
と書ける.ϕ(d) = χ(d)ψ(d)
(−1
d
)−k
= χ1(d)ψ(d) とおくと,f(z) ∈ Sk+ 12(N,χ),hψ(z) ∈
Mν+ 12(4r2, ψ1)より,
B(γ(z)) = ϕ(d)B(z)(cz + d)k−ν |cz + d|2ν−1−2s
33
が成り立つ.よって,F0 = Γ0(Nr2)\Hとおくと,
(4π)−sΓ (s)∑m∈N
a(m2)ψ(m)mν−2s =
∫F0
B(z)∑′
c,d
ϕ(d)B(z)(cz + d)k−ν∣∣cz + d
∣∣2ν−1−2sd0z
が成り立つ.(ここで,∑′
c,d
は c と d は互いに素であり,c ≡ 0 (mod Nr2) で,c > 0 または
(c, d) = (0, 1)を満たすものをわたる和である.)よって,
2 · (4π)−sΓ (s)∞∑n=1
ψ(n)A1(n)nν−2s
= 2
∞∑n=1
ϕ(n)nk+ν−1−2s · (4π)−sΓ (s)∞∑n=1
ψ(n)a(n2)nν−2s
= 2
∫F0
f(z)hψ(z)ys+1
( ∞∑n=1
ϕ(n)nk+ν−1−2s
)∑′
c,d∈Z
ϕ(d)(cz + d)k−ν∣∣cz + d
∣∣2ν−1−2s
d0z
=
∫F0
f(z)hψ(z)ys+1
( ∞∑n=1
ϕ(n)nk+ν−1−2s
)
×
∑m,n∈Z
(Nr2m,n)=1
ϕ(n)(Nr2mz + n)k−ν∣∣Nr2mz + n
∣∣2ν−1−2s
d0z
=
∫F0
f(z)hψ(z)ys+1
∑m,n∈Z
(m,n)=(0,0)
ϕ(n)(Nr2mz + n)k−ν∣∣Nr2mz + n
∣∣2ν−1−2s
d0z
が得られる.ここで,次の補題を用いる.
補題 2.38 ([Shim73, pp. 461–464, Lemma 3.3])
A を自然数,α を非負整数とし,ϕ を mod A の原始的な Dirichlet 指標とする.α > 0 または
A > 1のとき,次の無限級数
Hα(s, z, ϕ) = π−sΓ (s)ys∑m,n∈Z
(m,n) =(0,0)
ϕ(n)(Amz + n)α∣∣Amz + n
∣∣−2s
は Re(s) >α
2+ 1で絶対収束し,全 s平面に正則関数として解析接続され,次の関数等式
Hα(α+ 1− s, z, ϕ) = (−1)αG(ϕ)A3s−α−2zαHα
(s,− 1
Az, ϕ
)を満たす.さらに,4 と A の倍数である B に対し,f(z) ∈ Sk+ 1
2(Γ (B)), g(z) ∈ Mµ+ 1
2(Γ (B))
をとる.このとき,α = k − µ ≥ 0とすると,以下の積分∫Γ (B)\H
f(z)g(z)yµ+12Hα(s, z, ϕ)d0z
は任意の sに対して絶対収束し,sの関数として任意の垂直帯領域で有界である.
34
前の補題を用いるためには指標は原始的である必要がある.そこで今からは
c(z, s) =∑m,n
ϕ(n)(Nr2mz + n)k−ν∣∣Nr2mz + n
∣∣2ν−1−2s
を原始的な指標を用いて書き改めていく.
α− k − ν, β = ν +1
2, 2t = 2s− 2ν + 1
とおく.ϕ0, χ0 をそれぞれ ϕ, χ1 が誘導する原始的な指標とし,χ1 の導手をM とする.このと
き,ϕ = χ1ψ であるから,ϕ0 の導手はMr である.また,N = MK,E =∏p|Np∤M
pとする.この
とき,
ϕ(n) =
ϕ0(n) ((n,E) = 1)
0 ((n,E) > 1)
であるから,(n,E)の約数 lに対し,n = ln′, K = lk′ とすればMobius関数 µ(n)を用いて,
c(z, s) =∑m,n
∑0<l|(n,E)
µ(l)
ϕ0(n)(Nr2mz + n)α
∣∣Nr2mz + n∣∣−2t
=∑m,n
∑0<l|(n,E)
µ(l)ϕ0(n′)(Mlk′r2mz + ln′)α
∣∣Mlk′r2mz + ln′∣∣−2t
=∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lα−2t
∑m,n
ϕ0(n)(Mk′r2mz + n′)α∣∣Mk′r2mz + n′
∣∣−2t
が成り立つ.ここで,
c∗(z, s) = π−tΓ (t)ytc(z, s),
Hα(t, z, ϕ0) = π−tΓ (t)yt∑m,n
ϕ0(n)(Mrmz + n)α|Mrmz + n|−2t
とおくと,
c∗(z, s) = (Kr)−t∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lα−tHα(t, k
′rz, ϕ0)
が成り立つ.よって,
2 · (4π)−sΓ (s)π−tΓ (t)
∞∑n=1
ψ(n)A1(n)nν−2s
=
∫F0
f(z)hψyβc∗(z, t)d0z
= (Kr)−t∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lα−t
∫F0
f(z)hψyβHα(t, k
′rz, ϕ0)d0z
と書ける.最後に Hα(t, k′rz, ϕ0)が他の Hα(s, z
′, ϕ′)の部分和になっていることから,積分の部
分に補題 2.38を用いればよい.
(3)について
Ω(s) =
∫F0
f(z)hψyβc∗(z, t)d0z
とする.大まかな方針としては,
35
“Ω(s)を変数変換し,積分
∫F0
と和∑m,n
を
∫F∞
の積分にまとめ直し,
関数等式を満たす Dirichlet級数∞∑n=1
b(n)n−s を具体的に構成する”
というものである.前にも述べたように,一般の場合にこの議論を行うのは容易ではない.実際,
一般の場合では,今回の様に 1 つの積分にまとめ計算していくことができないため,2 つの積分
にまとめた後,それぞれの積分を計算し,最後に 1つにまとめるという過程がさらに必要となる.
よって今回は1つの積分にまとめ計算していくことができる特別な場合のみ確認をし,証明の概要
をみることとする.
まず,sを k + ν − sに取り替えると,2t = 2s− 2ν + 1であったから,tは α+ 1− tに取り替
えられる.よって,
Ω(k + ν − s) =
∫F0
f(z)hψyβc∗(z, α+ 1− t)d0z
である.ここで,c∗(z, α+ 1− t)は補題 2.38を用いれば,
c∗(z, α+ 1− t)
= (Kr)t−α−1∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lt−1Hα(α+ 1− t, k′rz, ϕ0)
= (Kr)t−α−1∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lt−1(−1)αG(ϕ0)(Mr)3t−α−2(k′rz)αHα
(t,− 1
Mk′r2z, ϕ0
)
= ϕ(−1)G(ϕ0)(Mr)3t−α−2(Kr)t−1zα∑l|E
µ(l)ϕ0(k)lt−α−1Hα
(t,− l
N ′r2z, ϕ0
)と書き直すことができる.ここで,
τN =
([0 −1N 0
], N− k
2−14 (−iz)−k− 1
2
),
g(z) = f(z)∣∣∣[τN ]k+ 1
2
とすると,τN はAtkin-Lehner作用素(詳しくは [AL70]を見よ)であるから,g(z) ∈ Sk+ 12(N,χ′)
(ただし,χ′(d) = χ(d)
(N
d
))で,
f
(− 1
Nr2z
)= N
k2+
14 (−ir2z)k+ 1
2 g(r2z)
が成り立つ.また,N = 4P として,命題 2.30を用いれば,
hψ
(− 1
Nr2z
)= (−1)νr−
12G(ψ)hψ(Pz)
が成り立つ.故に,
fhψyβ
(− 1
Nr2z
)
= N k2+
14 (−ir2z)k+ 1
2 g(r2z) × (−1)νr−12G(ψ)hψ(Pz) ×
(1
Nr2∣∣z∣∣2 Im(z)
)β= 2αrk+αP
k2+
14 iν−αG(ψ)zαg(r2z)hψ(Pz)y
β
36
が得られる.上式の定数部 2αrk+αPk2+
14 iν−αG(ψ)を T とおく.このとき,
Ω(k + ν − s)
=
∫F0
f(z)hψyβc∗(z, α+ 1− t)d0z
=
∫F0
f(z)hψyβϕ(−1)G(ϕ0)(Mr)3t−α−2(Kr)t−1zα
×∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lt−α−1Hα
(t,− l
N ′r2z, ϕ0
)d0z
=
∫F0
fhψyβ
(− 1
Nr2z
)ϕ(−1)G(ϕ0)(Mr)3t−α−2(Kr)t−1
(− 1
Nr2z
)α×∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lt−α−1Hα(t, lz, ϕ0)d0z
=
∫F0
T · zαg(r2z)hψ(Pz)yβϕ(−1)G(ϕ0)(Mr)3t−α−2(Kr)t−1
(− 1
Nr2z
)α×∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lt−α−1Hα(t, lz, ϕ0)d0z
=
∫F0
T ·G(ϕ0)(Nr)−α(Mr)3t−α−2(Kr)t−1g(r2z)hψ(Pz)yβ
×∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lt−α−1Hα(t, lz, ϕ0)d0z
= S∑l|E
(∫F0
g(r2z)hψ(Pz)yβHα(t, lx, ϕ0)d0z
)µ(l)ϕ0(l)l
t−α−1
= S∑l|E
µ(l)ϕ0(l)lt−α−1Il(t)
と変形できる.ただし,上の式変形で,
S = T ·G(ϕ0)(Nr)−α(Mr)3t−α−2(Kr)t−1 = T ·G(ϕ0)r4t−3α−3M3t−2α−2Kt−α−1,
Il(t) =
∫F0
g(r2z)hψ(Pz)yβHα(t, lx, ϕ0)d0z
とおいた.
ここで,
B′(z) = g(r2z)hψ(Pz)ys+1,
J ′(γ, z) = ϕ0(d)(cz + d)α|cz + d|−2t
とおくと,g(z) ∈ Sk+ 12(N,χ′), hψ(Pz) ∈Mν+ 1
2(4Pr2, ψ1)だから,任意の γ ∈ Γ0(Nr
2)に対し,
B′(γ(z)) = B′(z)J ′(γ, z)
となることが容易に確認できる.
以下,
r = 1, N =M
の場合のみ確認していく.このとき,
ν = 0, α = k, β =1
2, t = s+
1
2
37
である.
いま,前に与えた式を改めて書けば,
Ω(k − s) = S
∫F0
g(r2z)hψ(Pz)y12Hk(t, z, ϕ0)d0z
= S · π−sΓ (s)
∫F0
B′(z)∑m,n
ϕ0(n)(Nmz + n)k∣∣Nmz + n
∣∣−2t
となる.ここで,無限和の部分を整理すると,∑m,n
ϕ0(n)(Nmz + n)k∣∣Nmz + n
∣∣−2t
=∑l∈N
∑(m,n)=1
ϕ0(l)ϕ0(n)lk−2s−1(Nmz + n)k
∣∣Nmz + n∣∣−2t
=
(∑l∈N
ϕ0(l)lk−2s−1
) ∑(m,n)=1
ϕ0(n)(Nmz + n)k∣∣Nmz + n
∣∣−2t
= L(2s+ 1− k, ϕ0)
∑(m,n)=1
ϕ0(n)(Nmz + n)k∣∣Nmz + n
∣∣−2t
= 2L(2s+ 1− k, ϕ0)∑
γ∈Γ∞\Γ0(N)
J ′(γ, z)
となる.よって,∫F0
g(r2z)hψ(Pz)y12Hk(t, z, ϕ0)d0z
= 2 · π−tΓ (t)L(2s+ 1− k, ϕ0)
∫F0
B′(z)∑
γ∈Γ∞\Γ0(N)
J ′(γ, z)d0z
= 2 · π−tΓ (t)L(2s+ 1− k, ϕ0)
∫F∞
g(r2z)hψ(Pz)ys+1d0z
が成り立つ.今,g(z) =
∞∑n=1
b(n)qn とすると,hψ(Pz) =1
2
∑m∈Z
qPm2
であるから,
g(z)hψ(Pz) =1
2
∞∑n=1
b(n)qn∑m∈Z
qPm2
=1
2
∞∑n=1
∑m∈Z
b(n)e((n− Pm2)x)exp(−2π(n+ Pm2)y)
38
と書ける.よって,∫F∞
g(r2z)hψ(Pz)ys+1d0z
=
∫F∞
g(r2z)hψ(Pz)ys−1dxdy
=
∫ ∞
0
∫ 1
0
1
2
∞∑n=1
∑m∈Z
b(n)e((n− Pm2)x)exp(−2π(n+ Pm2)y)ys−1dxdy
=
∫ ∞
0
∫ 1
0
∞∑n=1
( ∞∑m=1
b(n)e((n− Pm2)x)exp(−2π(n+ Pm2)y)
)
+1
2b(n)e(x)exp(−2πny)
ys−1dxdy
=
∫ ∞
0
∞∑n=1
b(Pm2)exp(−4πPm2y)ys−1dy
= (4πP )−sΓ (s)∞∑n=1
b(Pm2)m−2s
が成立する.以上をまとめれば,
Ω(k − s) = 2S · π−t(4πP )−sΓ (t)Γ (s)L(2s+ 1− k, ϕ0)Γ (s)∞∑n=1
b(Pm2)m−2s
となる.最後に 2sを sと置き直し,Γ 関数を1つにまとめ,定数項を整理することにより,求め
たかった Dirichlet級数∞∑n=1
b′(n)n−s が得られ,定理 2.35が証明される.
39
第 3章
Kohnen-Zagier公式とその一般化
この章では坂田裕氏の論文 [Sak08] による Kohnen-Zagier 公式の一般化について概説を行う.
まずはじめに 3.1節で Kohnen plus空間上で発見された Kohnen-Zagier公式とはどのようなもの
かを確認する.その後,[Sak08]の主定理の証明を概説する.またこの章を通じて,N は正の奇数,
M = 4N,Dは (−1)kD > 0を満たす基本判別式とする.
3.1 Kohnen-Zagier公式
まずは Kohnen plus空間と指標付きの Kohnen plus空間を定義し,Kohnen-Zagier公式がどの
ような式であるかを述べる.
定義 3.1 (Kohnen plus空間)
Mk+ 12(Γ0(4N)),Sk+ 1
2(Γ0(4N))の部分空間M+
k+ 12
(N),S+k+ 1
2
(N)を,
M+k+ 1
2
(N) =
∞∑n=0
a(n)qn ∈Mk+ 12(Γ0(4N))
∣∣∣∣∣ (−1)kn ≡ 2, 3 (mod 4)の時,a(n) = 0
,
S+k+ 1
2
(N) =
∞∑n=1
a(n)qn ∈ Sk+ 12(Γ0(4N))
∣∣∣∣∣ (−1)kn ≡ 2, 3 (mod 4)の時,a(n) = 0
で定義する.
また,指標付き Kohnen plus空間を定義する.
定義 3.2 (指標付きKohnen plus空間)
χ を mod N の Dirichlet 指標とし,χ2 を χ の 2-primary 成分とする.この時,Mk+ 12(4N,χ),
Sk+ 12(4N,χ)の部分空間M+
k+ 12
(N,χ),S+k+ 1
2
(N,χ)を,
M+k+ 1
2
(N,χ) =
∞∑n=0
a(n)qn ∈Mk+ 12(4N,χ)
∣∣∣∣∣χ2(−1)(−1)kn ≡ 2, 3 (mod 4)の時,a(n) = 0
,
S+k+ 1
2
(N,χ) =
∞∑n=1
a(n)qn ∈ Sk+ 12(4N,χ)
∣∣∣∣∣χ2(−1)(−1)kn ≡ 2, 3 (mod 4)の時,a(n) = 0
で定義する.
40
W. Kohnenは [Koh80]で次のことを示した.これは Shimura [Shim73]が論文中であげた問題
に答えを与えている.
命題 3.3 ([Koh80, p. 252, Theorem 2])
志村対応の M+k+ 1
2
(Γ0(4)), S+k+ 1
2
(Γ0(4)) への制限はそれぞれ M2k(Γ ), S2k(Γ ) への同型写像で
ある.
さて,これで Kohnen-Zagier公式がどんなものか述べることができる.以下がその主張である.
定理 3.4 (Kohnen-Zagier公式, [KZ81, p. 177, Theorem 1])
f(z)を S2k(Γ )を正規化された Hecke同時固有形式,g(z)を f(z)に対応する S+k+ 1
2
(Γ0(4))の元
とし,その Fourier展開を g(z) =∞∑n=0
c(n)qn とする.また D を (−1)kD > 0を満たす基本判別
式とする.この時,c(|D|)2
⟨g, g⟩=
(k − 1)!
πk|D|k− 1
2L(f,D, k)
⟨f, f⟩
が成り立つ.
重さ整数の cusp形式の空間では‘重複度 1’が成り立っている.‘重複度 1’とは,
“固有値がすべて等しい 2つの Hecke同時固有形式はスカラー倍の違いしかない”
という性質である.命題 3.3 からもわかるように,実は S+k+ 1
2
(Γ0(4)) でも‘重複度 1’が成立す
る.このことが定理 3.4を示すことができることに大きく影響している.しかし,4より大きいレ
ベルに対しては,一般には‘重複度 1’は成立しない.この重複度が一般の場合の Kohnen-Zagier
公式を記述しようというのが Sakata [Sak08]であり,次節以降に述べるものである.
3.2 坂田裕氏による Kohnen-Zagier公式の一般化
ここからは坂田裕氏の論文 [Sak08]による Kohnen-Zagier公式の一般化について概説する.こ
の節では記号の準備を行う.詳しく定義を述べられなかった記号および証明を省略した命題などに
関しては Uedaの論文 [Ued88], [Ued91], [Ued88], [Ued93], [Ued98]や坂田の原論文 [Sak08]など
を見てほしい.記号を定義した後,[Sak08]の主定理の主張を述べる.この証明は 3.3節で紹介す
る.また最後に,[Sak08]の主定理の応用についても紹介する.
まず,I(N), Π(N), Πeven(N), Πodd(N), Πn(N), Π∗n(N)を定義する.
定義 3.5
自然数 nに対し,
I(N) = p|N:素数 | ordp(N) = 1,Π(N) = p|N:素数 | ordp(N) ≥ 2,
Πeven(N) = p ∈ Π(N) | ordp(N) ∈ 2Z,Πodd(N) = p ∈ Π(N) | ordp(N) ∈ 2Z+ 1,Πn(N) = p ∈ Π(N) | ordp(N) = n,
Π∗n(N) =
p ∈ Πn(N)
∣∣∣∣ (−1
p
)= 1
41
と定義する.また,
M1 =∏
p∈I(N)
p,
ν(N) = #p|N:素数 ,ν1 = #I(N),
ν2 = #Π(N)even,
ν3 = #Π(N)odd
と定める.
次に,いくつか作用素を定義する.まず,作用素 δm, U(m), Rm を定義する.
定義 3.6
mを自然数とする.この時,作用素 δm, U(m), Rm を
∞∑n=1
a(n)e(nz)∣∣∣δm =
∞∑n=1
a(n)e(mnz),
∞∑n=1
a(n)e(nz)∣∣∣U(m) =
∞∑n=1
a(mn)e(nz),
∞∑n=1
a(n)e(nz)∣∣∣Rm =
∞∑n=1
( nm
)a(n)e(nz)
と定める.U(m)を shift作用素,Rm を twisting作用素という.
次に,作用素∣∣∣[WQ]2k を定義する.
定義 3.7
Q||N とする.また γQ ∈ SL2(Z)で以下の条件を満たすものをとる:
γQ ≡
[0 −1
1 0
](mod Q),[
1 0
0 1
] (mod
N
Q
)この時,行列WQ を
WQ = γQ
[Q 00 1
]と定める.
∣∣∣[WQ]2k をAtkin-Lehner作用素という.
注意 3.8
[Ued88]により,∣∣∣[WQ]2k は γQ の取り方によらないことが示されている.
これらの作用素に関して,次が成り立つ.
42
補題 3.9 ([Sak08, p. 76, Lemma 1])
pをM と互いに素な奇素数とする.この時,cusp形式 f(z) ∈ S2k(pM)に対し,
f∣∣∣RpWp2 =
(−1
p
)f∣∣∣Rp
が成り立つ.
次に保型形式の部分空間について記号を定義する.まず,重さ整数の S2k(N) の oldform や
newformのなすについて定義する.
定義 3.10 (oldform, newform, [DS05, pp. 187–188, Definition 5.6.1])
oldformのなす空間 Sold2k (N)を
Sold2k (N) =
∑p|Np:素数
ip((Sk(Np−1))2)
と定義する.ここで,写像 ip は
ip: (Sk(Np−1))2 −→ Sk(N),
∈ ∈(f, g) 7−→ f + g
∣∣∣∣[a 00 1
]k
である.この直交補空間を Snew2k (N)と書き,newformのなす空間という.
次に‘very newform’全体の空間 S22k(N)を定義する.
定義 3.11 ([Ued93])
S22k(N) を作用素 Rp (p ∈ Π(N)) によって N よりレベルの低い cusp 形式からリフトされた
S2k(N) の元が生成する空間とする.S∗2k(N) を Snew
2k (N) での S22k(N) の直交補空間とする.
S∗,τ2k (N)を S∗
2k(N)の部分空間で,Atkin-Lehner作用素Wordp(N)p に対する固有値が τ(p)である
Hecke固有形式が生成する空間とする.
Kohnen plus空間 S+k+ 1
2
(N)の oldformや newformのなす空間を以下のように定義する.
定義 3.12 ([Ued93], [Ued98])
S+k+ 1
2
(N)の oldformのなす空間 D+k+ 1
2
(N)を
D+k+ 1
2
(N) =∑
0<B|NB =N
∑0<A|NB
∑ξ
S+k+ 1
2
(B, ξ)∣∣∣δA
+∑
0<B|NB =N
∑0<A|(N
B )2
∑ξ
∑(el)l∈Π(N)
0≤el≤2
S+k+ 1
2
(B, ξ)∣∣∣U(A)
∏l∈Π(N)
Rlel
で定める.(ここで,∑ξ
は ξ
(A)
= 1となるすべての mod N の偶 2次指標をわたる和である.)
また,D+k+ 1
2
(N) の S+k+ 1
2
(N) での直交補空間を N+k+ 1
2
(N) で表す.N+k+ 1
2
(N) を S+k+ 1
2
(N) の
newformのなす空間という.
43
δA, U(A), Rl と Tn2 の可換性から D+k+ 1
2
(N) と N+k+ 1
2
(N) はこれらの作用素で不変である.
よって N+k+ 1
2
(N)は次の直交分解
N+k+ 1
2
(N) =⊕
κ∈Map(Π(N),±1)
N+,κ
k+ 12
(N)
を持つ.ここで,
N+,κ
k+ 12
(N) =g ∈ N+
k+ 12
(N)∣∣∣すべての p ∈ Π(N)に対し,g
∣∣∣Rp = κ(p)g
である.N+,κ
k+ 12
(N)は Tp2 と U(p2)の同時固有形式からなる直交基底を持つ.
次に,‘Hecke 代数上の同型’について定める.まず,有限次元複素ベクトル空間 V 上の線形
作用素 T に対し,その trace を tr(T ;V ) で表す.また,作用素 Tk+ 12 ,N,χ
(n2) を次のように定義
する.
定義 3.13 (Tk+ 12 ,N,χ
(n2))
ε = χ(−1),α(−1)[k+12 ]ε2
√2,β = −α
2,Qk+ 1
2 ,4N,χ1=[
˜Γ0(4N,χ1)ξk+ 12 ,ε
˜Γ0(4N,χ1)]とし,
Sk+ 12(N,χ)上の射影 pr = prk+ 1
2 ,4N,χ1を
pr =1
α− β(Qk+ 1
2 ,4N,χ1− β)
とする.この時,
Tk+ 12 ,N,χ
(p2) = νppk− 3
2
[˜Γ0(4N,χ1)
([1 00 p2
], pk+
12
)˜Γ0(4N,χ1)
]pr
と定める.ここで,
νp =
1 (p = 2),
3
2(p = 2)
である.
この記号の下,Hecke代数上の加群として同型であるということを以下のように定める.
定義 3.14 (Hecke代数上の加群として同型)
S2k(N)の部分空間 S と S+k+ 1
2
(N,χ)の部分空間 S が
tr(Tk+ 12 ,M,χ(n
2); S) = tr(T2k,N (n); S)
を満たすとき,S と S はHecke代数上の加群として同型であるという.
Sakata [Sak08]によって,次の同型が得られている.
定理 3.15 ([Sak08, pp. 70–72, Theorem 1])
κ ∈ Map(Π(N), ±1)とすると,次の Hecke代数上の加群としての同型が得られる:
N+,κ
k+ 12
(N)
≃ S∗,τκ2k (N)⊕
⊕Π(N)2=I+J+K
I+J =∅, I,J⊆Π(N)∗2
⊕τκ
N∗,τκ2k
M1
∏l∈J
l∏
p∈Π(N)−(I+J)
pordp(N)
∣∣∣ ∏p∈I+J
Rp
44
ここで,
τκ(p) =
1 (p ∈ Π(N)even),
κ(p)
(−1
p
)k(p ∈ Π(N)odd)
τκ(p) =
1 (p ∈ Π(N)even),
κ(p)
(−1
p
)k ∏q∈I+J
(p
q
)(p ∈ Π(N)odd)
である.
最後に,D-志村対応 Sk,N,D と D-新谷対応 S∗k,N,D を定義する.
まず,新谷対応を定義するのに必要な“周期”を定義する.mを (−1)km ≡ 0, 1 (mod 4)を満
たす自然数とし,∆ = |D|mとする.また,二次形式 Q = aX2 + bXY + cY 2 を [a, b, c](X,Y )や
単に [a, b, c]で表す.この時,
QN,∆def=[a, b, c]
∣∣ b2 − 4ac = ∆, N |a
と定める.また,Γ0(N)は QN,∆ へ一次変換で作用するとする.つまり,
[a, b, c] [α βγ δ
](X,Y ) = [a, b, c](αX + βY, γX + δY )
である.また,N ′||N に対し,WN ′ の QN,∆/Γ0(N)への作用を
Q WN ′ =1
N ′Q [αN ′ βγN δN ′
]と定める.(ここで,α, β, γ, δ は整数で αδN ′ − βγ
N
N ′ = 1である.)
この状況の下,周期 rk,N (f ;D, (−1)km)を定義する.
定義 3.16 (QN,∆/Γ0(N)に関連する周期)
f を S2k(N)の元とする.この時,f の QN,∆/Γ0(N)に関連する周期 rk,N (f ;D, (−1)km)を
rk,N (f ;D, (−1)km) =∑
Q∈QN,∆/Γ0(N)
ωD(Q)
∫CQ
f(z)Q(z, 1)k−1dz
と定義する.ここで,Q = [a, b, c]に対し,
ωD(Q) =
0 ((a, b, c,D) > 1),(D
r
)((a, b, c,D) = 1)
であり,積分路 CQ は
CQ =
半円 a|z|2 + bRe(z) + c = 0のΓ0(N)\Hでの像 (a = 0),
直線 bRe(z) + c = 0 (a = 0)
であり,その向きは半円の場合,−b−
√∆
2aから
−b+√∆
2a(a > 0),
−b+√∆
2aから
−b−√∆
2a(a < 0),
45
であり,直線の場合, −cbから i∞ (a > 0),
i∞から−cb
(a < 0)
である.
さて,これで準備が整った.まずは D-志村対応を定義する.
定義 3.17 (D-志村対応)
g(z) =∑n∈N
(−1)kn≡0,1 (mod 4)
c(n)qn を S+k+ 1
2
(N)の元とする.この時,D-志村対応 Sk,N,D を
g∣∣∣Sk,N,D(z) = ∞∑
n=1
∑d|n
(d,N)=1
(D
d
)dk−1c
(|D|n2
d2
) qn
と定める.Sk,N,D は S+k+ 1
2
(N)からM2k(N)への写像である.
注意 3.18
k が 2以上の自然数,または N が立方因子を持たないとき,Sk,N,D は S+k+ 1
2
(N)から S2k(N)へ
の写像である.
定義 3.19 (D-新谷対応)
k を 2以上の自然数とし,f(z)を S2k(N)の元とする.この時,D-新谷対応 S∗k,N,D を
f∣∣∣S∗k,N,D = (−1)[
k2 ]2k
∑n∈N
(−1)kn≡0,1 (mod 4)
∑t|N
µ(t)
(D
t
)tk−1rk,Nt(f ;D, (−1)knt2)
qn
と定義する.
D-志村対応 Sk,N,D と D-新谷対応 S∗k,N,D の間には,次の関係がある.
定理 3.20 ([Koh85, p. 240, Theorem 2])
Sk,N,D の Petersson内積での随伴写像は S∗k,N,D である.
注意 3.21
次の 3つに注意する.
(1) Sk,N,D と S∗k,N,D は oldformの空間,及び newformの空間を保存する.
(2) Sk,N,D と S∗k,N,D は Hecke作用素と可換である.
(3) f が newformである時,新谷対応 f |S∗k,N,D は
f∣∣∣S∗k,N,D = (−1)[
k2 ]2k
∑n∈N
(−1)kn≡0,1 (mod 4)
rk,N (f ;D, (−1)kn)qn
と書き表せる.
さて,これで [Sak08]の主定理を述べることができる.
46
定理 3.22 (Sakata [Sak08, p. 80, Theorem 3])
f(z)を Snew2k (N)の元で原始的なもので,Atkin-Lehner作用素に対する固有値が
τ(p) =
(D
p
)(p ∈ I(N) + Π(N)odd),
1 (p ∈ Π(N)even − (I + J))
となるものとする.ここで,I + J ⊂ Π(N)∗2 である.また g(z)をD-志村対応で f(z)と対応する
N+k+ 1
2
(N)の元とする.この時,g(z)を
g(z) =∑
κ∈Map(Π(N),±1)κは (κodd) を満たす
gκ(z)
と直交成分に分け,gκ(z)の Fourier係数を cgκ(n)とすると,∑τ∈Map(Π(N),±1)κは (τodd) を満たす
|cgκ(|D|)|2
⟨gκ, gκ⟩= 2ν(N) (k − 1)!
πk|D|k− 1
2L(f,D, k)
⟨f, f⟩(3.1)
が成り立つ.
以上が [Sak08]の主定理である.また,この結果を応用して Luo-Ramakrishnan [LR97]の結果
を一般化することができる.
定理 3.23 ([Sak08, pp. 83–84, Theorem 5])
κ は (τodd) を満たすものとする.g1, g2 ∈ N+k+ 1
2
(N) とし,それぞれの Fourier 級数を cg1(n),
cg2(n)とする.このとき,基本判別式 Dに対し,有限個を除いて
cg1(n) = cg2(n)
が成り立つならば,
g1(n) = ±g2(n)
である.
3.3 定理 3.22の証明
この節では Sakata [Sak08]による定理 3.22の証明を紹介する.
証明
まず,κを次の条件 (τodd)を満たすものとする:
(τodd):κ(p) = τ(p)
(−1
p
)−k ∏q∈I+J
(p
q
)(p ∈ Π(N)odd)
このとき,定理 3.15より,N+,κ
k+ 12
(N)の部分空間 N∗,κk+ 1
2
(N)に対し,
N∗,κk+ 1
2
(N) ≃ S∗,τ2k
M1
∏i∈J
l∏
p∈Π(N)−(I+J)
pordp(N)
∣∣∣ ∏p∈I+J
Rp
47
が得られる.よって,次の直交分解
N+k+ 1
2
(N, f) ≃⊕
κ∈Map(Π(N),±1)κは (τodd) を満たす
N+,κ
k+ 12
(N) ∩N+k+ 1
2
(N, f)
を得る.この直交分解を用いて,g(z)を
g(z) =∑
κ∈Map(Π(N),±1)κは (τodd) を満たす
gκ(z) (gκ(z) ∈ N+,κ
k+ 12
(N))
と分解することができる.志村対応の定義から,これらの Fourier係数には,
cgκ(n2|D|) = cgκ(|D|)
∑d|n
(d,N)=1
µ(d)
(D
d
)dk−1a
(nd
)
という関係がある.よって,gκ
∣∣∣Sk,N,D = cgκ(∣∣D∣∣)f を得る.故に,
∑κ∈Map(Π(N),±1)κは (τodd) を満たす
cgκ(|D|)⟨gκ, gκ⟩
gκ
∣∣∣Sk,N,D(z) = ∑κ∈Map(Π(N),±1)κは (τodd) を満たす
∣∣cgκ(|D|)|2
⟨gκ, gκ⟩f(z)
が成り立つ.両辺の f との Petersson内積を考えれば,
∑κ∈Map(Π(N),±1)κは (τodd) を満たす
cgκ(|D|)⟨gκ, gκ⟩
⟨f, gκ∣∣∣Sk,N,D⟩ = ∑
κ∈Map(Π(N),±1)κは (τodd) を満たす
|cgκ(|D|)|2
⟨gκ, gκ⟩⟨f, f⟩
となる.左辺を計算すれば,
∑κ∈Map(Π(N),±1)κは (τodd) を満たす
∣∣cgκ(|D|)∣∣2
⟨gκ, gκ⟩⟨f, f⟩ = (−1)[
k2 ]2krk,N (f ;D, (−1)kD)
である.QM,D2/Γ0(M)の完全代表系は,
[0, D, µ] Wt |µ mod D, 0 < t||M
である.よって,I(N) = p1,i | 1 ≤ i ≤ ν1,Π(N)even = pe,j | 1 ≤ j ≤ ν2,Π(N)odd =
po,l | 1 ≤ l ≤ ν3とおくと,M =∏i
pαi1,i
∏j
pβj
e,j
∏l
pγlo,l であるから,完全代表系は
[0, D, µ] W∏
i pαi1,i
W∏j p
βje,j
W∏l p
γlo,l
∣∣∣∣µ mod D, 0 < t||M
48
と書き換えられる.よって,
rk,N (f ;D, (−1)kD)
=∑t||N
∑µ mod D
ωD([0, D, µ] Wt)
∫C[0,D,µ]Wt
f(z)(C[0,D,µ] Wt(z, 1))k−1dz
=∑t||N
∑µ mod D
ωD([0, D, µ] Wt)
∫C[0,D,µ]
f(z)∣∣∣W−1
t (C[0,D,µ](z, 1))k−1dz
=∑
(αi,βj ,γl)
∑µ mod D
ωD([0, D, µ] W∏i p
αi1,i
W∏j p
βje,j
W∏l p
γlo,l)
×∫C[0,D,µ]
∏i
τ(p1,i)δ(αi)
∏j
τ(pe,j)δ(βj)
∏l
τ(po,l)δ(γl)f(z)(Dz + µ)k−1dz
となる.ただし,
δ(n) =
1 (n = 0),
0 (n = 0)
である.ここで,直接計算を行えば,
ωD([0, D, µ] W∏i p
αi1,i
W∏j p
βje,j
W∏l p
γlo,l) = ω([0, D, µ])
∏i
(D
p1,i
)αi ∏l
(D
po,l
)γlとなるから,
rk,N (f ;D, (−1)kD) = 2ν2
(∏i
(D
p1,i
)αi
τ(p1,i)δ(αi)
)(∏l
(D
po,l
)γlτ(po,l)
δ(γl)
)
×∑
µ mod D
∫C[0,D,µ]
f(z)(Dz + µ)k−1dz
である.そして,すべての p ∈ I(N) + Π(N)odd に対し,τ(p) =
(D
p
)としてよい([Sak08, p.
79, Remark 5])から,
rk,N (f ;D, (−1)kD) = 2ν1+ν2+ν3∑
µ mod D
∫C[0,D,µ]
f(z)(Dz + µ)k−1dz
である.
最後に積分部分を計算すれば,∑µ mod D
∫C[0,D,µ]
f(z)(Dz + µ)k−1dz
=∑
µ mod D
(D
µ
)∫ i∞
− µD
f(z)(Dz + µ)k−1dz
= (iD)k−1i
∫ ∞
0
∑µ mod D
(D
µ
) ∞∑n=1
a(n)tk−1e
(nµ
|D|+ int
)dt
= (iD)k−1i
(D
−1
)− 12
|D|− 12
∫ ∞
0
∞∑n=1
(D
µ
)a(n)tk−1e
(nµ
|D|+ int
)dt
= (−1)[k2 ](2π)−k|D|k− 1
2Γ (k)L(f,D, k)
となり,主定理を得る.
49
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