資料2 食品媒介性原虫感染症に対する新規薬剤の技術開発 ...013 80.5 -014 82.7...

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受賞者 受賞評価のポイント 主な業績 現在我が国において、原虫病を含めた感染症による食に対する危機感、それに伴った 風評被害が蔓延しており、特に食肉産業における国民の不信感は極めて大きい。そこで 本研究では、食品媒介性の原虫感染症、特にトキソプラズマ症について、感染源となる 家畜を対象として、現在の原虫病対策に取って代わり、原虫独特の生活環を遮断するこ とができる革新的な抗原虫薬の技術開発を行った。 ●自らが行ったウイルスプロテインキナーゼの研究の経験と知見を原虫研究に応用し、 原虫プロテインキナーゼを薬剤標的とする新規の原虫薬の開発を行った。 ●ウイルスの感染レセプター同定系を原虫研究へと応用し、他の解析系も用いることで、 宿主細胞側のいくつかの糖鎖分子や蛋白質を、原虫の分泌蛋白質に対応する感染レセプ ター、結合分子として同定した。さらに、同定した糖鎖類やそれらの派生分子について、 新規の原虫薬として薬効の解析を行った。 ●開発した原虫薬について、原虫の薬剤耐性機構の解明を行った。 ●現状の抗原虫薬で問題となっている休眠型への移行と薬剤耐性の問題を克服するため、 虫体の根治を図る理想的な薬剤のスクリーニング系の開発等の技術開発に成功した。 ●本来の宿主動物である家畜を含めた動物での感染実験によって、実際にトキソプラズ マに対する新規薬剤の薬剤効果の検証を行った。 主要論文・特許 •特願2014-109262号「抗原虫薬のスクリーニング方法及び組換えトキソプラズマ 株」(2014•「 Roles of Apicomplexan protein kinases at each life cycle stage Parasitology International, 61, 224-2342012•「Effects of dextran sulfates on the acute infection and growth stages of Toxoplasma gondiiParasitology Research, 112, 4169-41762013食品媒介性原虫感染症に対する新規薬剤の技術開発 氏名(年齢):加藤 健太郎 氏(39歳) 所属:国立大学法人 帯広畜産大学 原虫病研究センター 特任准教授 0808555 北海道帯広市稲田町西213 TEL 0155-49-5645 略歴:平成15年東京大学大学院農学生命科学研究科修了(特例 短縮)。米国国立衛生研究所 Visiting fellow、東京大学大学院 農学生命科学研究科助手、助教を経て、平成25年より現職。 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授(委嘱)、岐阜大学 大学院連合獣医学研究科特任准教授を兼任。博士(獣医学)。 業績の概要 ウイルス研究で培われた知見・技術を、原虫研究へ応用するという従来にない独創的な アプローチによって、世界に先駆け原虫感染レセプター同定系の確立や新規の原虫薬の 開発を行った点が高く評価された。 資料2

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  • 1 受賞者

    3 受賞評価のポイント

    主な業績

    現在我が国において、原虫病を含めた感染症による食に対する危機感、それに伴った風評被害が蔓延しており、特に食肉産業における国民の不信感は極めて大きい。そこで本研究では、食品媒介性の原虫感染症、特にトキソプラズマ症について、感染源となる家畜を対象として、現在の原虫病対策に取って代わり、原虫独特の生活環を遮断することができる革新的な抗原虫薬の技術開発を行った。 ●自らが行ったウイルスプロテインキナーゼの研究の経験と知見を原虫研究に応用し、原虫プロテインキナーゼを薬剤標的とする新規の原虫薬の開発を行った。 ●ウイルスの感染レセプター同定系を原虫研究へと応用し、他の解析系も用いることで、宿主細胞側のいくつかの糖鎖分子や蛋白質を、原虫の分泌蛋白質に対応する感染レセプター、結合分子として同定した。さらに、同定した糖鎖類やそれらの派生分子について、新規の原虫薬として薬効の解析を行った。 ●開発した原虫薬について、原虫の薬剤耐性機構の解明を行った。 ●現状の抗原虫薬で問題となっている休眠型への移行と薬剤耐性の問題を克服するため、虫体の根治を図る理想的な薬剤のスクリーニング系の開発等の技術開発に成功した。 ●本来の宿主動物である家畜を含めた動物での感染実験によって、実際にトキソプラズマに対する新規薬剤の薬剤効果の検証を行った。

    主要論文・特許

    •特願2014-109262号「抗原虫薬のスクリーニング方法及び組換えトキソプラズマ株」(2014) •「 Roles of Apicomplexan protein kinases at each life cycle stage 」Parasitology International, 61, 224-234(2012) •「Effects of dextran sulfates on the acute infection and growth stages of Toxoplasma gondii」 Parasitology Research, 112, 4169-4176(2013)

    食品媒介性原虫感染症に対する新規薬剤の技術開発

    氏名(年齢):加藤 健太郎 氏(39歳)

    所属:国立大学法人 帯広畜産大学 原虫病研究センター 特任准教授

    〒080-8555 北海道帯広市稲田町西2線13 TEL 0155-49-5645

    略歴:平成15年東京大学大学院農学生命科学研究科修了(特例短縮)。米国国立衛生研究所 Visiting fellow、東京大学大学院農学生命科学研究科助手、助教を経て、平成25年より現職。東京大学大学院農学生命科学研究科准教授(委嘱)、岐阜大学大学院連合獣医学研究科特任准教授を兼任。博士(獣医学)。

    2 業績の概要

    ウイルス研究で培われた知見・技術を、原虫研究へ応用するという従来にない独創的なアプローチによって、世界に先駆け原虫感染レセプター同定系の確立や新規の原虫薬の開発を行った点が高く評価された。

    資料2

  • 原虫独特の感染環を遮断する新しい抗原虫薬の技術開発。

    畜産業界で問題となっている畜産動物における人獣共通感染症を含めた原虫感染症の撲滅に貢献。

    食への安心感と信用回復による畜産物・食料品市場での経済効果に寄与。

    我が国では、原虫病を含めた感染症による食に対する危機感や風評被害が起こっているため、現在の原虫病対策に取って代わる革新的な技術開発が求められている。

    業績のイメージ

    背景

    食品媒介性原虫感染症の撲滅に向けて

    成果

  • 1 受賞者

    3 受賞評価のポイント

    主な業績

    アブラナ科には多種多様な野菜類が属し、育種対象とする農業形質も多岐にわたる。品種を育種する際には、様々な種類の野菜類に対して様々な形質を個別に研究する必要があり、さらに他殖性のために遺伝的に不均一であり純系を用いた解析ができない。このような背景のため、研究材料および研究ツールを統一することが難しく、正確な研究解析は困難を極める。そこで、これらを解決するための高精度かつ高汎用性の研究ツールの開発とそれを基にした正確な研究解析に取り組み、以下の成果を上げた。 ●アブラナ科野菜における高汎用性遺伝解析技術(DNAマーカー、遺伝地図等)を確立し、アブラナ科遺伝学の低信頼性の原因である「解析ツールの汎用性の低さ」を克服。 ●国際コンソーシアムThe Multinational Brassica Genome Projectとの連携によるアブラナ科遺伝地図の国際標準化と統一基準の規定。 ●アブラナ科根こぶ病抵抗性の正確な遺伝様式の解明と進化仮説の提唱。その知見を基に、野菜茶業研究所が強度抵抗性ハクサイ品種「あきめき」を開発。 ●モデル植物であるシロイヌナズナ(アブラナ科)における自殖性の原因が花粉因子SCRの変異にあることを突き止め、その変異を修復することでシロイヌナズナを他殖性へと逆進化。受粉の人工制御が可能であることを示すとともに、モデル植物ベースでの研究を可能に。

    主要論文・特許

    •「Isolation and characterization of microsatellites in Brassica rapa L.」Theor. Appl. Genet. 104: 1092-1098 (2002) •「Simple sequence repeat-based comparative genomics between Brassica rapa and Arabidopsis thaliana: the genetic origin of clubroot resistance.」Genetics 173: 309-319 (2006) •「Evolution of self-compatibility in Arabidopsis by a mutation in the male specific gene.」Nature 464: 1342-1346 (2010)

    アブラナ科野菜における分子育種の基盤構築とその応用

    氏名(年齢):諏訪部 圭太 氏(39歳)

    所属:国立大学法人 三重大学大学院

    生物資源学研究科 准教授

    〒514-8507 三重県津市栗真町屋町1577 TEL 059-231-9483

    略歴:平成12年三重大学大学院博士前期課程修了。野菜茶業研究所・英国John Innes Centre・東北大学大学院を経て、平成21年より現職。 博士(学術)。。

    2 業績の概要

    アブラナ科野菜における高汎用性遺伝解析技術を確立し、その技術を用いてアブラナ科強度根こぶ病抵抗性の遺伝様式・進化を解明するとともに、新品種開発にも貢献している点が高く評価された。

  • 我々人間の食生活あるいは農業にとって重要な形質の遺伝様式・分子情報を高精度ツールによって正確に解明し、得られた知見を集約・共有化。

    その情報を基に、優良形質を集積した品種あるいはニーズに合う形質のみを選択的に導入した品種を短期間に開発。

    アブラナ科には、ハクサイやキャベツ、ナタネ、ダイコン等、日本の食生活を支える多種多様な野菜類が属し、育種対象形質も多岐にわたる。また、 2倍体種の多くが他殖性のため遺伝的に不均一で、正確な遺伝解析を可能にする研究材料およびツールが乏しい。これらを克服した育種を行うためには、高精度かつ高汎用的な研究ツールの確立とそれを用いた各種育種形質の正確な理解・解明が必要。

    業績のイメージ

    背景

    成果

    アブラナ科野菜におけるコーディネート育種に向けて

    BRMS-176 0.0 BN135 1.6 AR19 3.2 OPAB03-1 4.2 BRMS-124 12.3

    WA45-1 20.5

    BRMS-206 30.2 BRMS-158 34.6 BN31 36.8 WG42-2 40.4

    BN142 47.7

    BN308 59.5

    BRMS-058 73.5 BRMS-322 81.3 BN261 86.8 AR2 87.3 AR8 88.9 AZ18 91.6 BRMS-043 92.1 BN138 95.4 BN298 99.2 CA65-2 101.7 BRMS-303 106.3 BRMS-071 108.1 BRMS-106 109.2 BRMS-269 111.9 BN161 115.7 UBC54 118.2 BN118 121.9 BN305 124.6 BN118 126.2 BRMS-330 130.6 BRMS-218 137.3 BN268 140.0 BRMS-008 141.1 AR16 141.7

    1 (A3) BRMS-125 0.0 BN288 4.4 WE24-1 7.1 BRMS-101 15.4 BRMS-027 15.9

    AR29 27.7 WA51-2 31.0

    BRMS-201 41.9 BRMS-252 47.4 BRMS-227 49.0 WG47-3 BN272 50.9 BRMS-184 52.8 CA69-2 56.5 AR6 60.2 BRMS-309 64.0 AZ17 64.5 BRMS-221 67.8 BRMS-013 75.0 BRMS-014 80.5 BRMS-226 82.7 AR20 84.3

    BN84 102.9

    BN100 114.6 BRMS-261 120.1

    BRMS-127 129.8 BRMS-108 130.3

    2 (A6) BN272 0.0

    BRMS-166 11.5 BRMS-034 13.7 BRMS-240 14.3 BRMS-196 19.7 BRMS-061 20.8 OPW11-2 WB06-3 27.6 WB06-2 33.2 OPB06-1 36.2 BN40 41.8 BN138 48.6 BRMS-128 50.8 WG50-2 BRMS-242 BRMS-233 BRMS-057 BRMS-091 BRMS-163 BRMS-232

    52.4

    BN152 56.2 UBC79-1 64.2 OPA10-1 68.2 WC68-1 71.4 WA51-1 79.3 AR7 84.8 UBC103-2 87.2

    BRMS-007 102.3 WG42-1 107.1

    WF26-1 116.2

    BRMS-333 126.1

    3 (A5) AR33 0.0 UBC89-2 5.1 WG62-1 BRMS-129 6.1 WF69-2 6.5 OPAB09-4 6.9 AZ1 BRMS-327 WF64-3 OPAB09-3 7.3 UBC79-4 8.6 BN43 11.1 BRMS-040 11.6 BRMS-023 13.8 BRMS-018 15.4 BRMS-296 18.9 BRMS-005 23.0 BN51 35.7 WB06-1 48.4 BRMS-152 50.8 BRMS-151 53.0 CA51-2 60.4 BN233 65.0 BRMS-036 69.9 CA10 72.6 BRMS-298 76.6 BN233 80.9 AZ5 84.7 OPW03-1 87.2 AZ10 92.5

    BN119 101.5

    BN206 125.6

    4 (A7) BN268 0.0

    BN211 9.2

    BN139 23.3 BRMS-154 29.4 BRMS-120 34.3 OPW01-2 36.3 AR10 41.6 BRMS-144 44.9 BRMS-229 BRMS-319 47.1

    BRMS-079 WF64-1 56.8 BRMS-051 58.4 BN107 60.6

    WF26-2 73.8 BRMS-324 77.5 BRMS-247 80.2

    BN190 89.0 BRMS-060 96.3 BRMS-017-3 97.0

    BRMS-017 116.3

    5 (A9) BN19 0.0 BN62 5.4 WG61-1 13.6 AR7 15.7 BRMS-175 16.8 BRMS-317 BN31 20.0 BRMS-307 20.6 AZ12 31.4 BRMS-287 32.6 BN262 33.4 AZ3 34.2 WE22-1 37.5 BRMS-339 39.1 BRMS-099 39.7 BN273 40.8 BRMS-245 41.9 BRMS-155 44.1 BRMS-100 51.9 BRMS-096 54.1 WE32-1 BRMS-056 AZH8 56.2 BRMS-314 60.0

    BRMS-075 75.3

    BRMS-098 89.8 WE31-1 91.9

    BN135 99.6

    6 (A1) BRMS-094 0.0

    BRMS-070 17.1 AZ6 18.2 BRMS-033 22.0 BRMS-342 23.6 RA1275-2 25.7 BRMS-217 29.1 OPAB03-2 29.3 WB32-1 29.5 OPE12-1 RA1275As BN159 29.7 BRMS-173 BRMS-297 30.2 BRMS-088 31.8 BRMS-170 36.2 BRMS-093 39.4 BRMS-097 BRMS-246 42.6 WE31-2 45.1 BN133 51.6 BN272 55.8 WG61-3 BN254 60.0 AR29 71.6 BRMS-185 77.7 BN58 81.4 BN153 82.3 BRMS-198 BRMS-006 83.2

    7 (A8) AZH3 0.0 BRMS-215 1.1 BN118-2 7.1 BN290 9.8 BN319 BN315 12.0 WG27-1 13.3 AZ14 21.1 UBC73-3 27.4 BN82 31.3 AZ13 32.4 BRMS-082 35.3 BN100 41.2 BRMS-090 BRMS-332 BRMS-315 42.3 CA90-2 45.0 BN20 46.1

    BRMS-026 60.8 BRMS-228 OPW01-1 65.2 WF44-1 66.5 RA1275-1 69.1 OPA10-3 70.8 AR11 71.7

    8 (A2) BN58 0.0 WG42-3 3.8 BRMS-021 6.1 BRMS-186 UBC73-2 6.6 WA31-2 7.3 WE63-1 8.7 BRMS-085 9.4 AZ14 12.5 BN319 19.8 AZD1 22.5 RA1255-4 25.3 BN19 28.1 WC10-1 33.9 AR13 38.9

    BN103 49.8 BRMS-062 BRMS-244 51.4 BRMS-019 56.9 CA90-1 58.3 BN268 64.2

    9 (A10) BN261 0.0 BRMS-195 4.4

    BRMS-054 19.2 BRMS-105 22.5 WG61-2 30.3 AR40 31.6 BN266 32.1 BRMS-001 32.6 BN105 40.4 WF25-2 43.2 BRMS-276 46.0

    10 (A4)

    成果1: 高汎用性のアブラナ科遺伝解析技術(DNAマーカー、遺伝地図等)の確立

    B. rapa(ハクサイ)の各染色体に対応する遺伝地図

    この地図により、農業形質を制御する遺伝子が染色体のどこに・いくつ存在するか解明することが可能に。

    ・113種の高精度DNAマーカー(赤文字)

    ・連鎖群番号横の括弧内の英数字が国際統一基準番号

    ・PCR法による遺伝子型の正確かつ簡易な判定が可能

    ・近縁種とのゲノム対応関係も明確化

    TSC28

    TSC4

    4 5 8 9 10 6 7 2 1 3

    Crr2 Crr1 Crr4

    長らく不明であったアブラナ科根こぶ病に対する抵抗性は、少なくとも3つの因子(赤文字)が協調的に働くことによって発揮される。

    自家不和合性(自殖を抑制する性質)を制御する因子

    は、第1および第3染色体(連鎖群)に新たなもの(青文字)が存在する。

    野生型 形質転換体

    シロイヌナズナの自家不和合性への逆進化 野生型 形質転換体

    花粉管

    雌しべ

    花粉管 なし

    野生型では自家受粉時に多くの花粉管が雌しべ内を伸長しているが、遺伝子修復した形質転換体では花粉管伸長が抑制され、結実しない。

    抵抗性遺伝子の発見 強度抵抗性品種の開発

    成果2: 重要農業形質の制御遺伝子座の特定 成果3:

    品種登録 第22615号(日本農林社)

    上記の遺伝地図を用いて明らかにした 2つの重要農業形質の遺伝的特徴

    野生型 形質転換体

    病原感染による こぶ状の根

    抵抗性発揮による 健全な根

    重要農業形質の分子機能・遺伝・進化等の解明

  • 1 受賞者

    3 受賞評価のポイント

    主な業績

    ナミテントウは難防除害虫アブラムシの主要天敵であり、化学農薬に替わる防除資材としての利用が期待されていた。しかし、飛翔能力が高いため放飼後の作物上での定着が安定しないのが課題であった。 ●ナミテントウ集団の中から飛翔能力の低い個体を検出できる技術を開発し、飛翔能力を欠くナミテントウ系統(飛ばないナミテントウ)を育成した。本系統が、施設だけでなく露地でも生物防除に有効である事を実証した。 ●選抜中止後の飛翔能力の回復を防止する技術や、近親交配の影響を回避するための系統間交雑法などの品質維持手法を開発した。 ● 新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「多種多様な栽培形態で有効な飛ばないナミテントウ利用技術の開発(2008~2010年度)」を総括し、大量増殖系の構築、防虫ネット被覆下での露地野菜・花卉類での有効性の実証、施設野菜類での飛ばないナミテントウの効果的な利用法の開発に貢献した。飛ばないナミテントウは、2013年9月25日に施設野菜類で農薬登録され(登録番号:第23357号)、 2014年6月から天敵製剤として販売が開始された。 ●製剤の実用化に合わせて、施設野菜類での飛ばないナミテントウの効果的な利用法を解説した技術マニュアルを発行し、各普及・指導機関先や施設園芸の生産者に配布するとともに、近畿中国四国農業研究センターWebにて公開した。 主要論文・特許

    ・特許第5594657号「遺伝的に飛翔能力を欠くテントウムシの作出方法」(2014)・「天敵の育種:飛翔能力を欠くテントウムシ系統の育成と品質管理」、日本応用動物昆虫学会誌 57(4)219-234(2013) ・「Residence period of a flightless strain of the ladybird beetle Harmonia axyridis Pallas (Coleoptera: Coccinellidae) in open fields」Biological Control 47(2)194-198 (2008)

    飛ばないナミテントウの育成と生物防除への応用に関する研究

    氏名(年齢):世古 智一 氏(37歳)

    所属:独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構

    近畿中国四国農業研究センター 主任研究員

    〒721-8514 広島県福山市西深津町6-12-1 TEL 084-923-4100

    略歴:平成14年近畿中国四国農業研究センター採用。平成19年岡山大学大学院博士後期課程修了。平成23年より現職。 博士(学術)。

    2 業績の概要

    本人の顔写真

    アブラムシ防除に有効な飛翔能力を欠くナミテントウ系統を育成するとともに、実用化に向けた品質管理法の開発や様々な作物・栽培環境での有効性を実証し、施設野菜類においては既に商品化までされている点が高く評価された。

  • 本成果の普及により、施設野菜類において薬剤抵抗性アブラムシ対策の確立、地域農産物(マイナー作物)の生産増大、安全な食品の流通促進等の効果が期待される。

    全国の野菜栽培面積のうち、天敵製剤が使用できるのは施設栽培であるほんの10%程度。飛ばないナミテントウを露地で実用化することで、広域での環境負荷低減が可能になる。

    ナミテントウは難防除害虫アブラムシの主要天敵であるが、飛翔能力が高いため作物上に定着しにくいのが課題であった。

    業績のイメージ

    背景

    成果

    施設栽培での普及と露地栽培での実用化を目指して

    製剤化するための研究開発

    ・防虫ネット被覆露地条件(キク、シシトウなど)

    ・アブラムシ多発生施設条件(イチゴ、ナスなど)

    品質の回復・維持管理

    低コスト大量増殖系

    品質の把握利用法の提案・検証

    ・マイナー作物栽培条件(コマツナなど)

    独法、企業、大学 近畿中国四国地域の農業試験研究機関

    実用化研究での成果

    農薬登録

    天敵製剤「テントップ」 効果的な利用方法を解説した技術マニュアルを配布

    情報集約

    (株)アグリセクトで販売

    効果的な利用法の研究開発

    0

    400

    800

    1200

    1 10 19 28 37

    世代

    飛翔距離

    (m)

    飛翔不能化していることによって定着率が向上しているのを、露地ナス栽培条件で確認

    天敵育種:生物防除に失敗する原因を育種改良によって解決する手段

    昆虫の飛翔能力を測定する装置を、選抜法に応用

    テントウムシ集団内の飛翔能力の遺伝的変異に注目

    + +

    問題解決のための着眼点

    基礎研究での成果

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    1 4 9 12 15 18 21

    飛ぶナミテントウ

    飛ばないナミテントウ

    放飼後の経過日数

    ナミテントウ個体数

    飛ばないナミテントウ(特許第5594657号)・飛翔能力が失われていることで、作物上によく定着・卵や幼虫の発育段階で放飼できるため、利用方法のバリエーションが豊富・次世代も飛翔しないため、長期的な防除効果が期待

    幼虫を放飼 羽化後も飛翔しないため、長く定着

    飛翔能力測定用「フライトミル」

    天敵製剤として 販売開始

    rena_emori長方形

  • 1 受賞者

    3 受賞評価のポイント

    主な業績

    黒毛和種肥育牛生産における技術的課題解決に向け、早期肥育技術、おいしい牛肉の生産技術および超音波エコー画像を用いた精度の高い脂肪交雑推定ソフトの開発を行った。研究成果は、全国和牛能力共進会で活用され、長崎県初の内閣総理大臣賞を受賞した。また、県内の肉用牛関連事業への展開がなされ、「長崎和牛」ブランド力の強化に大きく寄与した。

    ●生後7~24ヵ月齢までの黒毛和種早期肥育技術に適した飼料給与体系および交雑種(黒毛和種雄×ホルスタイン種雌)肥育に適した飼養管理体系を明らかにした。 ●黒毛和種去勢牛の飼料への米ぬか、または脂肪酸カルシウム添加は、産肉性に影響を及ぼさないものの、牛肉中の不飽和脂肪酸割合などを高める傾向をもたらし、その牛肉の食味性を向上させることを明らかにした。 ●超音波エコー画像を用いた肥育牛のBMS No.(霜降り)を生体時に推定するために、パソコン上で作業が可能な推定プログラムを開発した。 ●以上を主とする研究成果に基づき、H24.10に長崎県で開催された「第10回全国和牛能力共進会 肉牛の部」では、出品牛生産にあたり、飼養管理の指導や出品牛選抜に従事し、長崎県初となる内閣総理大臣賞を獲得し、「長崎和牛」ブランド力の強化に大きく寄与した。 ●さらに現在では、黒毛和種肥育期間短縮を目的とする肉用牛関連事業に取り組み始め、生産者のコスト削減に繋がる生産体系の普及に尽力している。 主要論文・特許 •「肉質向上を目的とした交雑種肥育および黒毛和種早期肥育技術に関する研究」、日本暖地畜産学会報、56(1)21-27(2013) •「黒毛和種去勢牛の肥育後期における米ぬかまたは脂肪酸カルシウム添加飼料の給与が産肉性,食肉の理化学特性ならびに官能特性に及ぼす影響」、日本暖地畜産学会報、56(2)151-157(2013) •「超音波エコー画像を用いたウシ枝肉脂肪交雑推定プログラムの開発」、日本畜産学会報、85(1)51-60(2014)

    肉用牛の効率的生産および脂肪交雑推定に関する研究

    氏名(年齢):橋元 大介 氏(37歳)

    所属:長崎県農林技術開発センター 畜産研究部門 主任研究員

    〒859-1404 長崎県島原市有明町湯江丁3600番地

    TEL 0957-68-1135

    略歴:平成26年鹿児島大学大学院連合農学研究科博士後期課程修了。長崎県畜産試験場肉用牛科研究員を経て平成21年より現職。 博士(農学)。

    2 業績の概要

    黒毛和種早期肥育技術を確立し生産現場に普及させるとともに、迅速かつ高精度の脂肪交雑推定ソフトを開発し、肥育牛生産における技術的課題解決に貢献している点が高く評価された。

  • 研究成果を活用し、「全国和牛能力共進会 肉牛の部」において、長崎県初の内閣総理大臣賞を獲得。ブランド強化に大きく貢献。

    県内肉用牛関係事業への展開も行われ、生産者の所得向上および消費者ニーズへの迅速な対応に大きく寄与すると考えられる。

    本研究では、肉用牛生産に関して生産者のみならず、消費者の視点からも考察し、生産現場での技術的課題解決の一助となる研究開発を行い、その普及・実用化を目指した。

    業績のイメージ

    背景

    成果

    肉用牛生産技術的課題解決および「長崎和牛」ブランド強化に向けて

    生産者および消費者の視点から、肉用牛生産における技術的課題解決の一助を目指して!

    ☆生産・指導現場で利用可能な技術 ☆肉用牛生産者の経営安定

    黒毛和種 早期肥育

    生産マニュアル 実証・普及

    肉用牛における、 生産・流通・消費 段階での課題

    交雑種肥育

    牛肉の おいしさ

    肉質推定

    8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

    1)前期飼料:DM88.1%,TDN81.3%,CP17.0%,ビタミンA製剤添加(3000IU/㎏)

    2)中期飼料:DM88.0%,TDN84.1%,CP13.6%,ビタミンA製無剤添加

    3)後期飼料:DM88.0%,TDN84.1%,CP13.6%,ビタミンA製剤添加(500IU/㎏)

    給与飼料

    増体系

    肉質系

    稲わら

    後期中期

    ○交雑種肥育父系統別飼料給与マニュアル

    月 齢

    全 期 間 飽 食

    制限給与 飽食

    制限給与 飽食

    飽食

    飽食

    前期

    図 牛肉中の不飽和脂肪酸割合

    58

    60

    62

    64

    対照区 米ぬか区 脂肪酸Ca区

    不飽和脂肪酸割合(%)

    3ポイント上昇!

    県内肥育農家実証試験 (平成25年~) 実証地域:県内一円 規模:18戸,のべ152頭

  • 1 受賞者

    3 受賞評価のポイント

    主な業績

    深刻な農林業被害をもたらしているニホンジカの個体数調整が、全国的に緊急の課題となっている。また、個体数調整に伴い多くの個体が捕獲されている現状において、捕獲個体の資源的利用の促進が求められている。 そこで本研究では、法制度による一律規制とは異なり独自のシカ管理が実施可能な「猟区」制度が、有効な個体数管理システムになり得るかを検討し、捕獲個体の安全安心な資源利用法を提示した。具体的な成果は下記の通りである。 ●わが国最大規模の北海道西興部村猟区において、国内初となる膣挿入式電波発信器による繁殖状態や、個体追跡の調査等によって、猟区の有効性と個体数調整上の限界を明らかにした。管理を進める上ではより細分化した狩猟管理ユニットが必要となることを提唱し、これを基本とした本猟区の管理計画作成に寄与した。 ●規制の厳しいヨーロッパで認められているシカの野外内臓摘出について、日本では科学的根拠がないまま敬遠されてきた。そこで、内臓摘出を野外で行ったシカ肉と、従来の屋内処理場で解体したシカ肉について、表面の一般生菌数等を拭き取り検査した。その結果、両者に有意な差が無く、野外でも衛生的な処理が可能なことを初めて示した。 ●狩猟者の減少と高齢化が課題となっている。将来の野生動物管理の担い手確保のため、全狩猟者の1%にも満たないものの、近年増加傾向にある女性狩猟者の活動を支援するための女性狩猟者ネットワークを設立し、野生鳥獣の食肉利用の普及や狩猟者の価値をアピールした。 主要論文・特許

    •「エゾシカの食資源化における課題とエゾシカ協会の取り組み」水利科学vol.57 p38-51(2013) •「英国の一次処理と資格制度」 獣医畜産新報 vol.65 p451~454(2012) •「Prevalence of antibody to hepatitis E virus among wild sika deer, Cervus nippon, in Japan」 Archives of Virology, 152 (7): 1375-1381(2007)

    ニホンジカの食品資源化に向けた衛生管理手法に関する研究

    氏名(年齢):松浦 友紀子氏(39歳)

    所属:独立行政法人 森林総合研究所

    北海道支所森林生物研究グループ 任期付研究員

    〒062-8516 北海道札幌市豊平区羊ケ丘7番地 TEL 011-590-5536

    略歴:平成16年北海道大学大学院獣医学研究科博士課程修了。北海道大学大学院医学研究科付属動物実験施設特別研究員を経て、平成22年より現職。平成22年より酪農学園大学特任准教授、平成25年より特任教授を兼務。博士(獣医学)。

    2 業績の概要

    シカの個体数管理において、細分化された狩猟管理ユニットの有効性や捕獲個体の食肉利用における適切な処理法を提示するとともに、狩猟ネットワークを組織し、実用化に向けた活動を積極的に行っている点が高く評価された。

  • 近年ニホンジカは個体数と分布を拡大し、林業活動や森林の生物多様性に深刻な影響を与えているなか、単なる駆除ではなく、林産資源として利用しつつ個体数管理する体制の整備が急務となっている。

    業績のイメージ

    背景

    成果

    地域主体のニホンジカ資源管理に向けて

    どう管理するか -猟区制度の有効性-

    誰が管理するか -女性ネットワークの設立-

    どう利用するか -国際基準の衛生管理の導入-

    シカ肉の資源利用による個体数調整に貢献

    Who

    Manage? How Manage?

    ●野外でも適切な方法で処理すれば、解体処理場で処理した肉と同程度の衛生基準をクリアできることを明らかにした

    How Use? 一般生菌数 (c

    fu)

    野外 処理場

    汚染の目安

    10℃以下 10℃以上

    105

    104

    103

    102

    10

    0

    ●日本に導入の際は、ヨーロッパで取り入れられている「野獣肉検査資格者」のような資格制度も導入し、捕獲時点からの肉の検査も実施すべきであることを提言した

    ●女性狩猟者の狩猟環境を整えるためのネットワークを設立した

    ●「獲って食う」をテーマに活動中

    0.0%

    0.5%

    1.0%

    1.5%

    2.0%

    H13 H16 H19 H22

    女性狩猟者増加中!

    ●複数のナイフや使い捨て手袋を使用した、具体的な解体処理手順を示した

    女性狩猟者の割合

    全国

    北海道

    ●全捕獲個体データ分析や膣挿入式電波発信器等の使用により、日本最大規模の西興部村猟区におけるシカ個体群の特徴を明らかにした

    ●個体数調整のためには・・・

    一般狩猟者はオスもメスも捕獲

    猟区管理者がメスを中心に捕獲し、 個体数を調節

    ●猟区を細分化し、ユニットごとに管理指針を作成する必要性を提唱し、管理計画に反映された

    捕獲が完全に管理可能で、正確な捕獲数が把握できる猟区制度の活用は、次世代型野生動物管理として有効となり得る。

    森林や農地を利用するシカを森林産物と見なし、活用を見越して収獲する「収獲管理」の考えを取り入れることにより、その収益を地域に還元するシステムの構築が可能となる。

    資格制度の導入により、肉の生産者としての捕獲者に衛生管理の知識と技術を与え、国際基準に合致した安心安全なシカ肉の流通が可能となる。

    (鳥獣統計・北海道資料より作成)

    1-1(様式2)業績概要(加藤健太郎)プレス用スライド番号 1スライド番号 2

    2(様式2)業績概要(諏訪部圭太)最終3(様式2)業績概要(世古智一)最終4(様式2)業績概要(橋元大介)最終5(様式2)業績概要(松浦友紀子)最終