論文番号 527 準天頂/gps衛星測位を利用した車両位置把握装置 … · 2019. 1....
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論文番号 527
準天頂/GPS 衛星測位を利用した車両位置把握装置の開発
東日本旅客鉄道株式会社 岩﨑 政寿 東日本旅客鉄道株式会社 堀内 浩
東日本旅客鉄道株式会社 吉原 健爾 東日本旅客鉄道株式会社 横山 啓之
三菱電機株式会社 角谷 卓磨 三菱電機株式会社 萩藤 祐一
三菱電機株式会社 銀山 仁志
1 はじめに
準天頂衛星システム (QZSS :Quasi-Zenith Satellite System)は、補強信号により誤差情報を補正することで cmレベルの高精度測位が可能となるため、多くのシステムへ
の展開が期待されている。 当社の技術開発の取り組みとしては、テクニカルセンタ
ーにおいて 2015 年度に埼京線で QZSS 受信機の測位座標を列車キロ程に変換する位置情報変換エンジンを開発と検
証をしているが、今回の開発では、実用化に向けて、E353系の車両位置把握装置(※1)に位置情報変換エンジン組込む S/W 開発を行った。また、走行試験を山岳地や都市部を含む中央線にて実施することで、準天頂衛星を利用した
高精度測位が安定して可能な区間と圏外区間の分析を行い、
今後のアプリケーション開発のための基礎データの収集を
行った。 ※1 車両位置把握装置…トランスポンダ車上子の受信電文と速度発電機
を使い、車上機器用の列車位置情報を生成する装置
2 準天頂衛星システム 準天頂衛星システム(QZSS)は、JAXA・内閣府によって
運用される準天頂衛星で構成される地域衛星測位システム
である。2017 年 2 月時点で 4 機が打ち上げられ、将来的に 7 機体制での運用が計画されている。 2.1 GPS システムの補完機能
QZSS は、日本付近で常に天頂方向に少なくとも 1 機の衛星が配置されるように複数の衛星が配置される。そのた
め、山間部やビル陰等に影響されずに日本全国をカバーで
きる衛星システムである。 2.2 GPS システムの補強機能
準天頂衛星からは GPS 測位情報に付加して補強信号が送信される。この情報を基に電離層の影響などの誤差要因
を補正し、搬送波位相測位(PPP-RTK)による高精度測位を実施することで、良好な条件下であれば cm レベルの精度で測位演算が可能である。補強信号の受信状態により、
QZSS 測位品質は以下の3つに分けられる。 ①単独測位:準天頂衛星が測位できず補強信号が利用でき
ない、従来の GPS 衛星のみによる測位 ②FLOAT:準天頂衛星の補強信号を利用し高精度測 位が実施できたが、計算結果が収束しない測位 ③FIX:準天頂衛星の補強信号を利用し高精度測位が実施でき、計算結果が収束した測位 3 車両位置把握装置への機能追加
E353 系は車体傾斜システムへ地上子情報を送信する位置把握装置を搭載している。また、屋根上に GPS アンテナを取り付けるための取り付け座が準備工事されている。
この位置把握装置に以下の機能を追加する改造を行っ
た。 ①準天頂衛星・GPS 受信機(以下、受信機)は車載 GPS アンテナが受信した GPS 情報から QZSS 測位座標を算出する。この受信機と接続し、QZSS 測位座標を記録する機能 ②QZSS 測位座標をキロ程に変換する位置情報変換機能(位置情報変換エンジン) ③トランスポンダ地上子の受信電文情報を記録する機能 今回の開発では、これら機能を実現する組込み用 S/W の開発を行った。この S/W をローディングしたモニタ PC とGPS アンテナを E353 系に仮設し、走行試験を実施することで、開発 S/W の検証と受信機性能の評価、車載 GPS アンテナによる鉄道沿線の QZSS 測位品質の測定を行った。 4 走行試験 E353 系(松本車両センター所属)において、Mc 車(1 号車)屋根上の GPS アンテナ取り付け座と準備工事済みの配線を用いて GPS アンテナ 2 基を取り付けた。受信機は準備工事配線の室内側に接続し、客室に設置したモニタ PC で記録を行った。
また、床下の ATS 車上装置内に搭載されている位置把握装置とモニタ PC を接続し、位置把握装置が受信する地上子電文等の情報を記録した。
走行試験条件は下記の通りである。 (1)試験日: 2018 年 2 月 3 日
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(2)試運転区間: 篠ノ井線 松本~塩尻間 中央線 塩尻~新宿間
(3)対象系列: E353 系量産車 (4)編成状態: 12 両編成(S105+S205) (5)天候状態: 晴れ
図 4.1 に GPS アンテナ、モニタ PC と測定機器類の仮設状況を、図 4.2 に GPS アンテナ仮設状況を示す。また、図4.3 にモニタ PC の位置情報変換エンジン表示画面を示す。
図 4.1 試験構成図
図 4.2 GPS アンテナ仮設
図 4.3 モニタ PC 表示画面
図 4.4 仰角 15°以上の衛星数
図 4.5 試験時間帯の衛星配置図
5 走行試験結果
今回の走行試験結果は、前述の QZSS 測位品質を衛星受信機の測位演算状態を示す”測位モード情報”を使ってまとめた。また、測位された座標データを基に位置把握エンジ
ンを使って変換した列車キロ程と車両情報制御装置
(TIMS)のキロ程認識と比較することで、準天頂衛星を利用した位置把握機能の実用性を確認した。
走行線区における測位モード(FIX、FLOAT、単独測位)の状況を図 5.1 に示す。また、測位モードの割合を表 5.2に示す。
図 5.1(a) 往路 FIX
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図 5.1(b) 往路 FLOAT
図 5.1(c) 往路 単独測位
図 5.1(d) 復路 FIX
図 5.1(e) 復路 FLOAT
図 5.1(f) 復路 単独測位
表 5.1 区間別測位結果
測位不可 単独測位 FLO AT FIX
1 郊外区間(松本~塩山) 13.8% 3.8% 31.9% 50.6%
2 山岳・トンネル区間(塩山~高尾) 43.8% 5.1% 36.8% 14.3%
3 都市区間(高尾~新宿) 23.9% 2.5% 36.4% 37.2%
N o. 区間品質
5.1 走行試験の評価 (1)QZSS 測位品質
走行区間を 3 区間に分けて評価を行った。 ・郊外区間
全体の 82.5%の区間で高精度測位による測位結果(FLOAT 又は FIX)を取得できており、また、FIX 率(全体に占める FIX の割合)も 50.6%が得られた。これは、衛星を遮蔽するような背の高い建造物等が少ないため、安定し
て衛星からの電波を受信できていることによると思われる。
一方で、高架やトンネル等の建造物により衛星が遮蔽され
る事象は発生するため、測位不可・単独測位に陥る状況も
発生した。 ・山岳区間 トンネルによる遮蔽により多くの区間で測位結果を取得で
きなかった。また、FIX 率も低い値になった。トンネル等の遮蔽後、FIX 解を得る前に再度遮蔽となり、FIX 解を得られる区間が少なくなったと考えられる。 ・都市区間 郊外区間より高精度測位による測位結果が得られる区間が
少なくなった。これは郊外区間と比較し、幹線道路や高層
ビル等による衛星の遮蔽が増加していると推察される。ま
た、高層ビル等による衛星の遮蔽やマルチパスの影響によ
り FIX 率も低い結果となった。 これらの結果から地理的な区間に関わらず、QZSS 測位品質は、トンネルや高架などの列車のアンテナ直上が遮蔽さ
れる構造物の影響が支配的であると分かった。また、測位
品質が FIX であっても、トンネル等の遮蔽物を通過する前後の測位については、演算遅れの影響から、正しい位置が
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得られないことが分かった。そのため、準天頂衛星 /GPSを利用した位置把握装置の実用化に向けては、FIX やFLOAT 等の演算情報を使う他に、FIX 直後の演算結果を除くなど採用可否を判別する処理が必要と評価した。 (2)位置情報変換エンジン(列車キロ程変換)の性能 位置情報変換エンジンを用いて、QZSS 測位 FIX 区間では、測位座標からキロ程への変換及び、線区や上下線の識
別が可能であることが確認された。一方で、位置情報変換
エンジンの既存アルゴリズムを利用した場合、モニタ PCによる環境では変換処理に最大 500ms 程度を要しており、リアルタイム性を要する機能によっては、測位座標の更新
周期を含めて処理時間の短縮を検討する必要がある。 (3)TIMS キロ程と位置情報変換エンジンのキロ程比較 ①測位環境の安定した条件 列車直上に遮蔽物が無く、QZSS 測位モードが FIX する試験ポイント 6 箇所(駅構内及び駅間)で列車を停車させ、TIMS キロ程(※2)と位置情報変換エンジンを使ったキロ程を比較した。この結果、TIMS と位置補正変換エンジンのキロ程度差は、10m 以内の結果となり、従来の TIMS キロ程を使った支援機能に適用できる性能を確認した。
※2 TIMS キロ程…トランスポンダ車上子の受信電文(キロ程補正情報)
と速度発電機による距離積算を使い、TIMS(車両情報制御装置)にて
換算する列車キロ程
②測位環境が不安定な条件(FLOAT⇒FIX 変化直後) 中央線(新宿駅~松本駅間1往復)の走行試験区間には、
列車直上に複数の遮蔽物が存在するため、測位状態が
FLOAT と FIX を繰り返し、FIX になっていても TIMS キロ程度と大きく乖離する場面が 206 回計測された。乖離の大きさは、QZSS の補強信号の受信周期や測位不能が継続した時間が影響すると推測され、受信機側の改良を期待す
る部分ではあるが、位置情報変換エンジンのアプリケーシ
ョン開発においては、測位 FIX 状態が一定時間経過した後に、キロ程変換を行うなど、異常値を除く工夫が必要であ
る。 表 5.2 TIMS と位置情報変換エンジンのキロ程差
試験ポイント(測位 FIX) 測位 FLOAT-FIX 変化直後 平均 6.7m(最大 9.5m) 220m 以上の乖離
6 まとめ
準天頂/GPS 衛星測位を利用した位置把握装置の実用化に向けて、走行線区の測位環境調査と位置情報変換エンジ
ンの性能評価を実施した。この中で、測位品質の評価指標
や既存の位置把握装置、TIMS による列車キロ程との比較など基本的なフィールド検証方法を作り、今後のアプリケ
ーション開発に必要な知見が得られた。具体的には、例え
ば、図 6 の処理フロー案に示すように、衛星測位を使った位置情報と既存システムによる位置情報を衛星受信機の付
帯情報や車上機器のデータベースを利用して自動的に適正
に使い分ける方式が妥当と考えており、今回の走行試験デ
ータを活かし、引き続き開発を継続したいと考えている。
図 6 QZSS システムを利用した位置情報利用のイメージ