一般社団法人 海外建設協会 - ocaji.or.jp · 2 &3 feb. & mar. 2017 vol.41 / no.2...

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2 & 3 Feb. & Mar. 2017 Vol.41 / No.2 & 3 一般社団法人 海外建設協会 特集 2017 海外市場の動向と見通し 巻頭言 2017年の海外建設活動について

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2&3Feb. & Mar. 2017Vol.41 / No.2 & 3

一般社団法人 海外建設協会

特集 2017年 海外市場の動向と見通し巻頭言 2017年の海外建設活動について

Page 2: 一般社団法人 海外建設協会 - ocaji.or.jp · 2 &3 Feb. & Mar. 2017 Vol.41 / No.2 & 3 一般社団法人 海外建設協会 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

2&3

特集

2017年 海外市場の動向と見通し 巻頭言 2017年の海外建設活動について 宮坂 祐介[国土交通省]…01

韓国 南 鍾国[フジタ]…02

中国 大野 繁[中建-大成建築] 西村 和洋[竹中(中国)建設工程]…05

香港 山田 直樹[フジタ]…09

台湾 出浦 昇[鹿島建設]…12

ベトナム 加 美々 三郎[東洋建設]…16

カンボジア 岩下 桂一[大豊建設]…19

タイ 川向 吉次[タイ鴻池]…23

シンガポール 牛頭 豊[清水建設]…26

フィリピン 宇野 俊貴[清水建設]…29

ブルネイ 大澤 達雄[飛島建設]…32

スリランカ 堀川 祐毅[大成建設]…35

インド 大名 真一[三井住友建設インド社]…38

エジプト 野瀬 敏行[大日本土木]…41

欧州 柳 武[ヨーロッパ竹中]…45

英国 清水 邦保[ヨーロッパ竹中]…49

メキシコ 山下 哲司[安藤・間]…55

ブラジル 奥地 正敏[ブラジル戸田建設]…60

海外受注実績…63

主要会議・行事…65

編集後記…65

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012017 2–3

今年度の海外建設協会の会員企業の皆様の海外受注実績は、過去2番目の約1.7億円であった昨年度同様、堅調に推移しているところですが、他方、ポスト東京オリンピック・パラリンピックを見据えつつ、我が国建設産業の安定的な発展を図っていくためには、海外事業への取り組みを深化させ、既存の海外市場への浸透をより一層進めるとともに、新市場や新分野への進出等についても着実に布石を打っていくことが重要と考えられます。このため、国土交通省においては、昨年3月に策定した「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画」を改訂することとし、あらためて官民一体のトップセールスをはじめとして、情報収集・発信、ビジネスマッチング、人材育成、ビジネス環境の整備等の幅広い取り組みを行うこととしております。具体的には、今年も官民インフラ会議や二国間建設会議等を積極的に実施します。1月にはウガンダ、ザンビアにおいて、2月にはキューバで官民インフラ会議を開催したところですが、5月にはガーナでも開催する予定です。建設会議等についても、10回目となる日本・インドネシア建設会議のほか、シンガポール、フィリピン等においても建設会議やセミナーを開催することを予定しています。これらの会議は、相手国政府要人との関係を構築するとともに、我が国建設企業の技術や実績をPRし、現地企業とのビジネスマッチングを行うよい機会ですので、今後も多くの会員企業の皆様の参加を期待しています。さらに、これ以外にも、官民一体となったトップセールスにおいて、会員企業の皆様にご参加いただけるよう機会を設けていきたいと思います。 また、日本企業のみでは進出の難しいアフリカ、中東、中央アジア等の新市場において、トルコ等の地政学上重要な拠点国と連携して我が国企業の展開を促進する施策については、取り組みを一層強化することとしています。トルコ政府・企業からは大きな期待を寄せられており、第4回日本・トルコ建設産業会議をなるべく早期に開催し、政府間の枠組みを構築するとともに、両国企業のマッチング支援等を実施していく中で、実際に我が国建設企業がトルコ企業と共同で案件受注に取り組むケースが出てきてくれればと思っております。このほか、バングラデシュ、スリランカ等の南アジアについても、要人招聘やPPP(開発を含む)の提案等を通じて関係の強化を図り、将来に向けた取り組みを進めてまいります。 土地・建設関連制度の整備・普及支援については、新たな試みとして、ASEANの各国から課長級の担当者を招聘し、国土交通大学校において集中的に研修を実施することとしました。これまでも、多くの国から我が国の土地利用計画、土地収用等の仕組みや建設業許可制度について関心を寄せられていたのですが、同じ業務を担当するASEAN各国の担当者が一同に集まることで、有意義な意見交換ができるとともに、帰国後は知日派・親日派となっていただくことも想定しています。もちろん会員企業の皆様との交流の機会も設ける予定です。 また、外国人材の活用については、フィリピン、ベトナム、ミャンマーにおいてワーキンググループを組成し、外国人技能実習生・建設就労者に対する入国前・滞在中の教育・訓練プログラムの構築を進めています。帰国後の求職マッチングも含め、今後一層取り組みを進めるとともに、我が国建設企業への職員としての就職支援等も検討していきたいと考えています。国際交渉については、日EU・EPA交渉が進展しているところですが、それ以外にも、RCEP(東アジア包括的経

済連携)交渉や二国間交渉等を通じて我が国建設企業のビジネス環境の整備を進めてまいります。特に、近年は外国企業に対する制限を突然強化するような場合もあり、外務省、大使館とも連携して対応する必要があります。安全対策については、昨年7月のバングラデシュにおけるテロ事件を受けて、政府・民間企業とも安全への取り組みを強化することが求められているところであり、駐在員の皆様及びその御家族の安全確保を最優先に、海外建設協会とも連携しながら取り組んでまいります。このほか、我が国建設企業の秀でた海外展開事業や活動に脚光を当てる表彰の実施についても検討してまいります。 このように、国土交通省といたしましても、我が国建設企業の海外展開の推進に向けて引き続き更なる支援を行い、「質の高いインフラ投資」の実現に向けて施策を進めていきたいと考えておりますので、皆様の御支援・御協力をよろしくお願い申し上げます。

宮坂 祐介国土交通省土地・建設産業局国際課長

2017年の海外建設活動について

012017 2–3

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02 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

特集 韓国南 鍾国 [(株)フジタ 国際事業部 ソウル支店 支店長]/ソウル支部

 2017年度の韓国建設市場の動向と見通しについて、韓国建設産業研究院が、2017年11月2日に公開した「2017年度韓国建設景気展望」を基にご報告する。

1. 2017年韓国経済の展望について1)2017年韓国経済成長率は3.0%の予想

IMF(国際通貨基金)は、10月4日、2017年の世界経済成長率は3.4%、2017年の韓国経済成長率は3.0%との予測を発表した。一方、韓国銀行は、10月13日、2017年の韓国の経済成長率を2.8%と発表している。

2. 2017年建設市場について2017年度の国内建設工事受注額は、対前年比で

13.6%減少し、127兆ウォンとなる見込みとなる。2015年に最高値を記録して以来、前年に続き、2年連続減少する見込みだが、過去の推移と比べると比較的良好な水準となっている。

区分 2013年 2014年 2015年 2016年(見通し)

2017年(予想)

発注別公共工事 36.2 40.7 44.7 42.9 41.0

民間工事 55.1 66.7 113.3 104.0 86.0

工事種別

土木工事 29.9 32.7 45.5 39.5 36.2

建築工事 61.4 74.8 112.5 107.4 90.8

住宅 29.3 41.1 67.7 64.4 51.2

非住宅 32.1 33.7 44.8 43.0 39.5

全体受注実績および予想額 91.3 107.5 158.0 146.9 127.0

資料:大韓建設協会(2016年下半期以降については「韓国建設産業研究院展望」)

表1 韓国国内における建設工事受注額の推移 (単位:兆ウォン)

1)発注部門別

①公共工事

2016年度の土木工事受注は、道路以外の土木工事の発注不振、大型土木工事の発注不振、政府のSOC(社会間接資本)予算減などの影響で実績不振となった。

2017年度もSOC予算の減少などの影響により、大統領選挙にもかかわらず不振が続いていくと見込まれる。

2016年度の建築工事受注額は、2016年度の基底効果 *1の影響により、対前年比で小幅に増加したが、2017年度は増加の勢いが続かないと見込まれている。

* 1)  基底効果(Base-Effect):基準時点と比較時点の状況に大きな差がある時、比較結果が歪曲される現象。

②民間工事

2017年度の民間住宅工事受注額は、2015年度から2年近くにわたり急成長した土木および非住宅建築工事受注の勢いが止まる中、住宅受注が前年対比17.3%と大きく減少する見通しとなる。民間住宅建築工事の受注が大幅に減少すると見込まれているのは、地方を中心に新規住宅供給件数が本格的に悪化し始めていると共に、建設会社が住宅事業を早期推進するため、2016年度に住宅受注を計上したことによる。

2)工事別

①土木工事

2017年度の土木工事の受注額は、民間土木受注の増加の勢いが低迷する中、公共土木受注の不振も続き、対前年比で8.4%減少する見通しである。②住宅建築工事

2017年度の住宅建築工事の受注額は、対前年比で15.5%減少する見通しである。特に、民間の住宅工事受注額が対前年比で0.4%減少し、住宅建築工事受注額全体の減少に大きな影響をおよぼすことが見込まれる。③非住宅建築工事

2017年度の非住宅建築工事の受注額は、対前年比で8.1%減少する見通しである。

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032017 2–3

区分 主要変動要因 建設受注波及効果

住宅供給状況の変化

2017年度の民間部門の首都圏新規住宅供給件数にはプラス、マイナス要因が混在 - プラス要因:9.1対策*3、および不動産3法*4などの継続的な規制緩和措置、ソウルにおけるアパート供給の不足、傳貰(チョンセ)*5価格の上昇、低金利、LTV/DTI*6の規制緩和措置の1年延長  - マイナス要因: 2015年度以降、首都圏郊外の分譲住宅急増、家計負債に対する規制(与信の健全化、集団貸出規制、DSR*7導入など)、首都圏郊外分譲住宅が竣工後一部未分譲→ ソウル都心およびソウル隣接首都圏を中心に、新規住宅供給件数は比較的良好。ただし、首都圏郊外の新規供給件数に対する懸念が徐 に々上がっている。→ 首都圏民間住宅受注は減少傾向の見込みだが、年間受注額自体は良好の見通し。

2017年度民間部門の地方住宅供給状況の深刻な悪化予想 - プラス要因: 9.1対策および不動産3法などの継続的な規制緩和措置、低金利による2011年度から現在まで継続的に続いている

分譲住宅の好調の傾向、2014~18年度のアパート入居の継続的な好調傾向 - マイナス要因:2011年度以降の住宅価格の急騰、家計負債に対する規制(与信の健全化、集団貸出規制、DSR導入)など多数→ 地方新規住宅供給件数の深刻な悪化→ 地方民間住宅受注の大幅な減少予想

↓↓

受注の変化の件数

民間住宅受注の約30%を占める再開発・建て替え受注についてプラス要因よりマイナス要因の方が優勢 - プラス要因:2015年度再開発・建て替え受注の好調傾向を牽引した政策(9.1対策、不動産3法など)の継続的な施行 - マイナス要因:ソウル都心の新規住宅供給条件が良好である一方、地方新規住宅供給件数が悪化、2017年末に予定されている再建築超過利益還付法の施行が2017年度受注にマイナス影響

→ 2017年度の再開発・建て替え受注の上昇傾向維持は容易ではない状況2017年度民間非住居建築および土木受注について否定的な要因が多少増加 - 国内経済の低成長の継続 - 非住居建築:低金利基調の維持にもかかわらず、金利と収益型不動産収益率のギャップの追加拡大が難しく、オフィスの空室率が高いことから、ここ2年間は供給過多

 - 土木:設備投資回復の不振、基底効果の終了→ 民間土木工事受注の上昇傾向の継続は厳しい。→ 民間非住居用建築および土木工事受注は、対前年比小幅減少の見通し。 - 土木:設備投資回復の不振、基底効果の終了→ 民間土木工事受注の上昇傾向の継続は厳しい。→ 民間非住居用建築および土木工事受注は、対前年比小幅減少の見通し。

②民間部門

*3) 9.1対策:建て替え年数の縮小など、不動産規制の緩和による住宅市場の活性化を目的として、2014年9月1日に発表された政府の対策。*4) 不動産3法:不動産市場関連法である住宅法、再建築超過利益還付法、都市および住居環境整備法の3つを指す。*5)  傳貰(チョンセ):韓国独自の不動産賃貸借制度。賃借人は住宅の時価60~70%に相当するチョンセ金(保証金)を賃貸人に支払い、賃貸借期間中は

月払いによる家賃の支払い義務を負わない。賃貸人はチョンセ金の運用により収入を得る。賃貸人は、賃貸借期間が満了時にチョンセ金を賃借人に返還する。

*6)  LTV(Loan To Value ratio):担保価値(住宅価格)対比貸し出し比率。銀行が住宅を担保に貸し出す際に適用される、担保価値対比最大貸し出し可能限度。   DTI(Debt To Income ratio):総負債償還比率。銀行が住宅を担保に貸し出す際に、借主の所得により回収見込みを判断して貸出限度を決める制度。*7) DSR(debt service ratio):債務償還比率。経済主体が稼いだ所得のうち負債の元金と利子を返済にまわすお金の割合。

区分 主要変動要因 建設受注波及効果

経済・2017年度国内経済成長率は約2%の見通し - 2016年度に引き続き低成長基調を維持 → 2017年度民間建設景気に否定的な影響が出る見通し

①マクロ経済

区分 主要変動要因 建設受注波及効果

政府予算編成2017年度政府SOC*2予算が対前年比8.2%減少 - 2008年来、9年ぶりの最低値。ただし、来年の大統領選挙の影響などを考慮すると、国会予算審議で小幅に増額の可能性もある。 - 新規事業予算や過去の推移と比較するといまだ不振傾向→ 公共土木受注および投資に否定的な影響が出る予想

発注公共機関の負債問題の継続、政府の財政政策拡大に応じて2015~16年度の公共機関の発注が一時的に増加→ 2017年度の発注増加が厳しい状況。ただし、政府は公共機関に対する投資を拡大する方針であることから、2016年度水準の発注維持の可能性もある。

工事発注

大型土木工事発注の不振継続 - 過去3~4年間発注が良好だった平昌冬季オリンピック関連工事、発展プラント工事発注の完了 - 2016年度良好だった道路工事の発注、追加発注は容易ではない見通し。ただし、鉄道工事発注の一部増加、シンハンウル原発

3、4号機の2017年度発注の可能性もある。 - 地方移転・公共機関・新庁舎建設の工事発注の大部分は完了。公共住宅については、2016年度水準で供給される見込み。しかしながら、2016年度の公共住宅工事発注の良好により2017年度の発注増加は厳しい状況。

②公共部門

*2) SOC:Social Overhead Capital(社会間接資本):政府および公共団体が供給する産業基盤施設、生活基盤施設など。

表2 2017年国内建設工事受注および建設投資変動要因と波及効果

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04 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

3. 韓国系建設会社の海外受注 2016年実績最後に、2016年度韓国系建設会社の海外工事受注実績をご報告する。

800

700

600

500

400

300

200

100

0

億ドル

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

44 6137

75109

165

398

476 491

716

591649

2013 2014 2015 2016.12

652 660

461

241

800

700

600

500

400

300

200

100

0

件2016年631件241億ドル

契約件数

受注額

図1 2016年海外工事受注推移

区分 中東 アジア 太平洋・北米 中南米 アフリカ 欧州 その他 計2010年 47,249 18,076 1,336 2,067 2,447 398 ̶ 71,573

2011年 29,541 19,413 950 6,643 2,208 377 ̶ 59,132

2012年 36,872 19,439 226 6,194 1,615 534 ̶ 64,880

2013年 26,142 27,568 6,359 3,326 1,083 731 ̶ 65,209

2014年 31,351 15,915 3,043 6,750 2,195 6,755 ̶ 66,009

2015年 16,530 19,720 3,648 4,532 750 964 ̶ 46,144

2016年 9,348 10,629 1,377 1,536 646 569 ̶ 24,105

①2010~16年受注実績(地域別) (単位:百万ドル)

区分 土木 建築 プラント 電気 通信 設計他 その他 計2010年 3,993 7,710 57,426 770 458 1,216 ̶ 71,573

2011年 5,757 7,933 43,205 1,068 61 1,108 ̶ 59,132

2012年 8,599 14,323 39,549 1,517 74 818 ̶ 64,880

2013年 18,128 5,446 39,650 761 238 988 ̶ 65,211

2014年 5,664 4,928 51,721 1,401 188 2,107 ̶ 66,009

2015年 8,493 7,110 26,490 855 184 3,012 ̶ 46,144

2016年 5,202 4,785 11,281 1,193 4 1,640 24,105

③2010~16年工種別受注実績 (単位:百万ドル)

区分 クウェート サウジアラビア シンガポール ベトナム フィリピン マレーシア その他 計2016年実績 3,318 3,246 2,705 2,183 1,542 1,505 9,606 24,105

②2016年国家別受注実績 (単位:百万ドル)

区分 三星物産 現代建設 斗山重工業 現代ENG ポスコ建設 GS建設 その他 計2016年実績 4,726 2,961 2,364 2,358 1,914 1,530 8,252 24,105

④2016年主要会社別受注実績 (単位:百万ドル)

基準時:2016年12月14日、資料:2016年12月韓国海外建設協会の海外建設総合情報サービス

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052017 2–3

特集 中国大野 繁 [中建 - 大成建築有限責任公司 董事・常務副総経理]/北京支部 西村 和洋 [竹中(中国)建設工程有限公司 総務部長]/上海支部

1. 中国経済動向「成長の減速(高度成長から中速度成長へ)、経済構造の転換(第二次産業から第三次産業へ)、成長の原動力の変化(投資からイノベーションへ)」という中国経済の特徴に対して、「新常態(New Normal)」という言葉が使われ始めてから約2年半が経過した。2016年は、この新常態下での初めての五カ年計画である第十三次五カ年計画(以下「十三五」)の開始年であった。

2016年3月の全国人民代表大会で採択された十三五は、「2020年のGDPおよび国民ひとり当たり収入を対2010年比で倍増すること」を目標とし、創新(イノベーション)、協調、緑色(グリーン)、開放、共享(分ち合い)など5つの理念の下で、目標達成のためのさまざまな施策が盛り込まれた。

2016年通年の実質GDP成長率は、本稿執筆時点では未発表であるが、2016年1~9月期では6.7%

となっており(図1)、市場では、通期でも今年度政府目標の6.5~7%は達成可能であるとの見通しが一般的である。産業別では、第2次産業の成長率が6.1%であったのに対し、第3次産業の成長率は7.6%となり、金額においても2016年1~9月累計GDP52.9兆元(約861兆円)の52.8%にあたる27.9

兆元(約454兆円)を占めており、2013年以降継続して第2次産業を上回っている。また、景況指数のひとつであるPMI(購買担当者指数)でも、非製造業は景況感の目安である、50を大きく超えて推移しており産業構造改革の進展を窺わせるものである。                         また、2016年1~11月期の固定資産投資は53.8

兆元(約875兆円)で、伸び率は対前年同期比で8.3%

増と、2014年の15.7%、2015年の10.3%との比較で低くなっている。同じ期の国有企業投資が対前年同期比20.2%増であるのに対し、民間投資は3.1%

増と低迷している。また、インフラ施設投資が対前年比18.9%増であるのに対して、製造業投資は3.6%増になっているように、これまでの成長を牽引してきた民間投資の低迷を政府インフラ投資で下支えしているという構図が鮮明になっている。不動産市場については、北京、上海など大都市と内陸部の中規模・小規模都市で二極化が起きている。2015年に不動産購入抑制策が緩和され、株安、国外資本移転制限による国内資金が不動産市場に流入した結果、北京、上海など大都市ではブームが再来し、2015年の新築住宅価格を100とした場合、2016

年9月では、統計が発表されている全国70都市のうち14都市で120以上となった。たとえば北京は131.4、上海は137.2、最高は深圳で151.3であった。この状況に対し、2016年9月に再び購入抑制策が導入された結果、以降多少の鎮静化が見られる。一方、内陸部などの中規模・小規模都市では、大都市での購入抑制策導入以降、投機資金の流入の兆候が多少見られるものの、依然販売は不調であり、2016

年11月末現在、全国で6.90億m2の販売在庫が存在している要因となっている。この在庫処理については、政府も重視しており、2017年の政策課題となっ

図1 GDP推移(2008~2016年9月)

12.00%

10.00%

8.00%

6.00%

4.00%

2.00%

0.00%

80.0

70.0

60.0

50.0

40.0

30.0

20.0

10.0

0.02009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (年)2016-3Q

第1次産業金額(兆元)

第3次産業金額(兆元)

第2次産業金額(兆元)

GDP対前年比

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06 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

ている(図2)。

図2 不動産市場状況(販売・在庫)40.00%

30.00%

20.00%

10.00%

0.00%

-10.00%

14.00

12.00

10.00

8.00

6.00

4.00

2.00

0.002012年 2013年 2014年 2015年

販売面積(億m2)

販売対前年比(%)

在庫面積(億m2)

在庫対前年比

2016年11月

2016年1~11月期の全国社会消費品小売総額は30.0兆元(約488兆円)で、前年同期比10.4%増となっている。2016年11月のCPIは2.3%と概ね安定しており、消費が政府の目指す内需主導経済の牽引役になってきている(図3)。中国では、EC(電子商取引)

が盛んであり、全国社会消費品小売総額の約15%

にあたる4.5兆元(約73兆円)がECによるもので、対前年同期比26.2%と高い伸びを示している。毎年11月11日を「独身の日」として、ECの一大商戦が

行われているが、2016年のこの日、アリババグループのECサイトでの総取引額が対前年比32%増の1,207億元(約1.9兆円)となったこと、またその他のオンライン大手も同様に前年を大幅に超える総取引額を達成したことは、中国人の、特に若者の、旺盛な消費意欲の典型として、日本でも報道されたことは記憶に新しいことである。貿易については、2016

年1~11月期の輸出入総額は生産活動の低迷を背景に、対前年同期比で1.2%減の21.8兆元(約354.9

兆円)となっている。2016年12月開催の中央経済工作会議において、

2017年の経済政策は、2016年に引き続き、「穏中求進」(安定の中での前進)を基調として、過剰生産能力削減、不動産在庫処理などに向け、積極的財政出動を実施するとの方針が決定された。また、会議の公報の中では「家は住むためのものであり、投機のためのものではない」という表現を用いて、各種諸制度を動員してのバブル抑制、バブル崩壊防止への取り組み、そして賃貸住宅市場の育成実施の方針が示された。会議公報の中で、新鮮で興味深かったのが、「実体経済の振興」という方針であり、「品質第一」の意識樹立、「工匠精神(匠の心)」の発揚など、量から質への転換に対する意識が顕著に表れている。さらに、「外資導入の強化」、「実体経済発展の重要な作用促進を外資企業に発揮させる」など、外資に学ぶ姿勢も表れている。2017年の成長率目標について、報道では、会議で2016年政府目標の6.5~7%の現状維持案と、6.5%程度への引き下げ案が議論された模様であるが、十三五の目標達成のためには、計画期間中の成長率は、年平均6.5%以上が最低ラインとされており、2017年3月の全国人民代表大会では、概ねこの線で決定されるのではないかと思われる。

図3 社会消費品小売総額推移

出典:中国国家統計局より筆者作成

35.0

30.0

25.0

20.0

15.0

10.0

5.0

0.0

18.0%

16.0%

14.0%

12.0%

10.0%

8.0%

6.0%

4.0%

2.0%

0.0%2011 (年)2012 2013 2014 2015

金額(兆元) 対前年比 CPI

2016-3Q

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072017 2–3

2. 日系ゼネコンを取り巻く環境日本からの対中直接投資は、2016年1~9月期速報値で、63.29億ドルと前年同期比3.2%減となっている。中国国内での販売が好調な自動車関連など一部の分野での投資は底固いものの、中国経済の減速、人件費上昇など中国での製造コスト増により、2012年以降概ね減少傾向にある(図4)。 また、日系製造業企業の投資が沿海部から内陸部(武漢、重慶、成都など)へシフトするというような、従来から見られた動きもさらに顕著になった。

図4 日本の対中直接投資推移

出典:JETROより筆者作成

16,000

14,000

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0

80.0%

60.0%

40.0%

20.0%

0.0%

-20.0%

-40.0%2011 2012 2013 2014 2015 (年)

日本の国・地域別対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)金額(百万ドル)

日本の国・地域別対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)対前年比

20151-9月(P)

足下では、上記を反映して、計画中止、延期、見直しなど、新規投資に対する発注者側の慎重な姿勢が顕著になっている。この結果、案件情報が激減し、その大半は増築、移転案件となっている。さらに、実施される案件でも発注者の低価格志向が強まっており、中国系ゼネコンが競合となる案件が増加傾向にあり、当地の日系ゼネコンは厳しい競争にさらされている。以上のように厳しい状況ではあるが、既述の通り、内需主導型経済への構造改革も一定の進展を見せて

きており、今後、「世界の工場」から「世界の市場」として、ロボット、電子部品、医薬、食品、環境分野などを中心に、日系企業の中国への投資が回帰することに期待したい。   

3. 中国の都市政策の動向2016年2月に中国共産党、国務院から、「都市計

画建設管理政策をさらに強化することに関する若干の意見」が発表された。これは、①都市計画業務の強化、②都市の特色ある風貌の創造、③都市の建築水準の向上、④省エネ都市建設の推進、⑤都市公共サービスの整備、⑥都市の居住環境の整備、⑦都市の統治方式のイノベーション、⑧組織指導の適切な強化、の8分野において、重点課題と一定期間における成果目標を示したものであり、今後の中国の都市政策を方向付ける文書である。個別の項目については、たとえばプレハブ建築の普及は既に地方政府ごとに奨励策が打ち出されているなど、これまでの五カ年計画、個別政策で取り上げられてきている課題も多い。いずれにしてもこの文書は、中国の建設業界の動向にも大きな影響を与えるものであると同時に、日系企業のノウハウを活かしたビジネスの展開の可能性を示唆していると考えられる。内容を抜粋してご紹介したい。

1)都市の建築水準の向上

・ 工事総元請負制度(EPC契約、設計施工契約)の普及。・ 装配式建築(プレハブ建築)の普及。 具体的目標:今後 10年程度で新築建築物の 30%

をプレハブ建築にする。2)公共サービスの整備

・ 地下総合管廊(共同溝)の普及。・ 街区の道路網の最適化。

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08 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

 具体的目標:2020年までに、都市の平均道路網密度を平方 km当たり 8kmとし、また道路面積率を 15%とする。

・ 公共交通を優先発展させる。 具体的目標:2020年までに、超大都市、大都市、中都市での公共交通分担率を、それぞれ 40%以上、30%以上、20%以上とする。      

3)都市の居住環境の整備

・ 都市の汚水管理の強化。

 具体的目標:2020年までに一定規模以上の都市の汚水の全収集・全処理を達成させ、渇水都市の再生水利用率を 20%以上とする。

・ ゴミの総合管理の強化。 具体的目標:2020年までにゴミの回収利用率を

35%以上に高める。また、奨励制度を完全にし、今後 5年程度で、飲食店廃棄物、建築ゴミの回収・再生利用システムを基本的に確立する。

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092017 2–3

特集 香港山田 直樹 [(株)フジタ 国際事業部香港支店 支店長]/香港支部

1. 経済概況香港の域内総生産(GDP)の最新値2016年第3四半期の成長率は、1.9%だった。4年ぶりの低成長だった第1四半期の0.8%から上向き、一時広がった景気後退局面入りは脱したが、低成長にとどまった。香港の雇用市場は継続して安定し、政府財政も穏健であるが、観光および小売業は、中国人観光客の減少により、大きなダメージを受けている。いわゆる爆買いの影響で、2015年初頭まで店舗賃料は高騰したが、現在は人通りの多い商業地でも、テナント募集中の店舗をよく見かける。香港の住宅価格は2015年9月から2016年3月に最大13%下落した後持ち直し、10月には上昇の兆しが見え始めた。そのため11月、香港政府は、前触れなしに新たな住宅投機抑制策を導入した。現在、新築、中古ともに住宅の取引量が大きく減少したが、価格自体は大きく下がってはいない。

2. 2016年香港建設市場動向香港のインフラプロジェクトの最大障害は議事進行妨害(filibusters)と言えるかもしれない。議事進行妨害は広東語で「拉布」という。直訳では「布を引っ張ること」、転じて物事を意図的に長引かせる時に使われる作戦、つまり牛歩戦術のことを意味する。議案に多くの修正を入れ、審議を引き伸ばし、時間切れにして他の議案を審議する時間を奪い、議会機能を低下させることを指すのである。

1~2年前ほどの勢いが少し減少したかに思える2016年の香港の建設市場だったが、それは議事進行妨害により、立法会で公共事業予算が成立しにくくなっているのが一因である。香港文匯報によると、2015年度(2016年7月9日まで)の集計では、審議引き延ばし、参加議員数点呼、休会要求などの議事妨害行

為で計218時間が浪費された。「拉布」である議事妨害と「流会」(定数不足による会議不成立)によって多くのインフラ建設や福祉関連政策案が未審議に終わった。香港、マカオ(澳門)、珠海を結ぶ「港珠澳大橋」は、追加予算550億香港ドル(約8,000億円)についての承認が議会でなかなかおりず、前代未聞のインフラ工事中止の危機に直面した。中国本土と香港を結ぶ高速鉄道香港区間の工事も、追加予算196億香港ドル(約2,870億円)の拠出会議が議事妨害によって長引き、同様に一時的に工事を停止する直前まで追い込まれた。いずれも中国本土との密接な関係を望まない民主派議員の妨害によって承認が難航したためである。これらの議事進行妨害は、2013~14年度から激しくなった。同年度は、500億香港ドルの予算に対し、承認を得られた金額はわずか7%にあたる36億香港ドルであった。2014~15年度は、設定予算500億香港ドルに対し、前年度の未承認分を合わせた承認金額850億香港ドルとなり好転したが、2015~16年度は一転、予算申請675億香港ドルのうち予算通過したのは100億香港ドルあまり(2016年4月末時点)と再

写真1 香港建設業聯盟による議事妨害行為抗議デモの様子

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10 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

び厳しい状況となった。香港の建設業界団体は、立法会での議事進行妨害のため、公共事業が減少した、と議事妨害に抗議している(写真1)。建設業は香港の域内総生産(GDP)の3%以上を占めており、年間700億香港ドルの予算を政府が建設業界に投じることで業界の発展が維持できる、とも主張している。実際公共工事の事業数の減少により、建設業者が低価格で応札し、2~3割引き下げて落札された案件もあり、人件費上昇に加え、落札価格の下落傾向が利益率を圧迫し、思うほど儲からないという現実に直面している。前述の他にも大型インフラ建設工事の多くが遅延し、予算を大幅に超過している。建設労働者の賃金平均上昇率は昨年の平均10.3%から5~8%と鈍化したものの、過去5年間香港の建設コストは5割以上上昇し続け、インフラ建設にかかるコストは、ロンドン、ニューヨークに次ぐ世界3位の高さである。香港政府は建設コストを管理させる専門部署「項目成本管理弁事處」を2016年に発足させ、インフラ計画や、設計段階にある案件約300件に対して審査や再設計の提案を行い、コスト削減に務める計画である。

3. 2017年の見通し2016年第2四半期に始まった、総予算2兆円にも

達する香港国際空港第三滑走路の建設工事は、2024

年の使用開始に向けて、現在順調に発注が行われ、工事が始まりつつある。2017年も引き続き、拡張工事に伴う多くの工事が発注される予定で、大変期待される。

2016~17年度の政府予算案では、去年より約100億香港ドルを上乗せした858億香港ドル(約1兆

2,400億円)がインフラ予算として計上されている。

全体予算の2割弱を占める多額の金額である(図1)。

環境・食品219

経済309

保安436

その他707

社会福祉724

医療776

教育840

インフラ建設858

図1 2017年度予算案 歳出内訳(単位:億香港ドル)

政府支出 :4,869億香港ドル出典 :香港政府

しかし今年、公共事業の予算審議において、これらの予算がスムーズに承認されるかは未知数である。梁振英行政長官は、2016年12月辞意を表明しており、行政長官選挙が2017年3月に実施される予定であるが、業界内では、本格的な公共工事回復は、現職の梁行政長官退任後でないと見込めないだろう、という見方が多勢である。

4. 今後の香港建設市場について2017年に西九龍文区に故宮博物館の建設、また商業中心地区の巨大な地下空間の拡大計画などが発表された。香港空港管理局による、スカイシティ(大型ショッピングモールやホテル、オフィスを組み合わせた

開発プロジェクト)の入札が2017年から始まる。香港ディズニーランドでは2018年から、政府出資も合わせ計109億香港ドル(約1,500億円)を投資しての大拡張計画もある。これまで多くの工事を行ってきた香港鐵路公司

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112017 2–3

(MTRC)は、2021年に完工する沙中線を最後に、新路線の具体的な建設を計画しておらず、直近では大型鉄道工事は減少する可能性がある。長期的には、2014年に発表された「鉄路発展策略2014(Railway

Development Strategy 2014)」により、2026年までに6

路線で約1,100億ドル(約1兆5,400億円)の建設プロジェクト計画があり期待される。香港全体の長期計画では、2030年以降の発展に向けた都市計画「香港2030+」がある。テーマは「住みやすく競争力があり、持続成長が可能なアジアの国際都市」である。世界をリードする金融センターとビジネスハブ、世界レベルのインフラ施設、適度なスペース、イノベーションの実現を30年以降の香港の姿と位置付けている(図2)。香港の人口は2043年には822万人まで増えると試算、総人口の増加予測に10%の余裕を持たせた900

万人が居住できる都市を建設する計画である。長期的土地計画に関する報告書で、「2046年までの30年間に住宅100万個を建設する必要がある」と指摘されており、土地の有効活用が課題となる。2030+の具体的な計画は、今後の政府の発表が期待される。

香港政府は、中国の習政権が掲げる現代版シルクロード構想「一帯一路」に積極的に関与していくことを発表している。「一帯一路」構想では、全体としてインフラ建設が主体となると見られており、経済自由度、世界金融センター、物流ハブ、世界最大のオフショア人民元センターとしての機能など、香港独自の特異性を生かすことができると期待されている。2016年8月に、香港金融管理局(HKMA)の下部組織として一帯一路のインフラ建設向け投融資の促進部門「基建融資促進弁公室(IFFO)」が発足した。中国の国家開発銀行は、「基建融資促進弁公室(IFFO)」を通じて、「一帯一路」沿線国・地域のインフラ整備事業向けに約780億香港ドル(約1兆1,800

億円)を新たに融資する計画である。香港が中国との経済一体化を加速させている背景には、中国各都市の発展に伴いアジアでの競争力を失うという危機感があるからである。今後中国大陸との間のインフラ整備が進むにつれ、物理的にも中国との距離が近くなり、人的交流も深まり、経済面で恩恵を受けながら、ますます中国への依存を深めていくことになることは間違いない。

時期 2030年以降、具体的時期未定

人口予想 2014年724万人 2043年に822万人まで増加見込み

発展策略・高密度都市・経済の継続的発展・持続可能な都市の開発

必要な土地供給量 4,800ヘクタール以上

計画地における取得済み土地 3,600ヘクタール

コンセプト・1つの経済核心圏(中環、九龍東および東ランタウ島)・2つの戦略的発展エリア(新界北部、東ランタウ島、計1,720ヘクタール)・3つの発展の軸(西部経済ベルト、東部知識科技ベルト、北部経済ベルト)

地域別計画と目標

・ひとり当たりの政府機構、地域用地の供給目標:3.5m2

・ひとり当たり休憩用地の供給目標2.5m2(現在は2m2)・高級オフィス総床面積:1,400万m2(500万m2増)・工業区および特殊工業区総面積:2,900万m2(900万m2増)

図2 香港2030+計画

出典 : 香港政府発展局の資料を基に作成

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12 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

特集 台湾出浦 昇 [鹿島建設(株) 台湾統括営業所 所長]/台北支部

1. 台湾の経済と建設事情2016年1月の中華民国総統選挙の結果、8年ぶり

に中国国民党政権から民主進歩党に政権が交代し、新しく蔡英文党首が新総統として選出され、5月に総統就任式が行われた。これにより、新内閣が組織され、公共組織のトップ人事異動が行われ、多くの公共組織の首長が交代した。この新しい政権が今後、政治的、経済的に最大の関係国である中国大陸との間をどのように保つかが台湾国民のみならず、世界中の注目点であると言える。昨年(2016年)の台湾の主要経済指標動向は行政院主計総処(中華民国行政院に属する国家予算、財政業務、統計業務を所轄する機関)の発表によると、GDP推移による経済成長率は1.22%となる見通しである。2011年から2015年までの台湾の平均経済成長率は2.5%であり、世界の平均成長率2.7%よりも低く、韓国、シンガポールに比べ低いばかりでなく、昨年はアメリカ、EUよりも低いものとなった。これは台湾国内の経済の構造上の問題に由来しており、そのため政府は経済の活性化のポイントは規模の増強ではなく、内容と構造の調整が必要であると見ている。さらに規制緩和や制度の改革を行い、国内需要を増やし、国内製造業とリンクさせ、民間経済を活性化すべきであるとしている。新政権は国内の稼働中3カ所の原子力発電所を

2025年までに完全閉鎖することを掲げており、それに代わるエネルギーに関しての構想が練られている。オフショア風力発電もそのひとつであり、既存の火力発電所の増強工事などの関連事業が鋭意実行されている。マクロ経済的には2017年の経済成長率は1.9%

と予想しており、国民ひとり当たりのGDPは23,395ドルとなり、2016年の22,433ドルを962ド

ル上回る。物価変動率は比較的安定しており、農工産物の物価は0.7%程度の上昇、消費者物価指数も0.8%の上昇と予測されている。2016年の台湾の失業率は年間を通して約4%となっており、従来と比較し大きな変化は見られない。

2017年の公共建設予算は河川整備工事を含め2,026億元で、2016年より3.7%の増加を見込んでいる。新たな投資としては鉄道車両の新規購入計画、南廻り鉄道の台東地域電化工事、桃園空港線に繋がる桃園市のMRTシステム、東部9号線南廻り道路改善、同じく東部9線蘇花道路改善などが計画されている。さらに半官半民企業(たとえば台湾電力、中国石油な

ど)による公共事業の1,240億元分を合わせると公共投資額は計3,266億元となるが、これは2016年の3,369億元を下回る(表1)。

2. 2016年台湾建設市場の大型案件発注実績以下、本文では台湾の公共建設工事について記述する。

2016年に発注された代表的公共工事を表2に示した。表から明らかなように2016年も2015年に引き続いて台北市、新北市の地下鉄建設工事、高雄地区のライトレール工事、交通部公路局西浜海公路の快速道路、南廻り鉄道の電化工事など交通関連工事が主要なものとなった。西浜快速公路の淡江大橋の橋梁本体の両側のアプローチ部分は既に発注され、橋梁本体部分の発注が最終段階を迎えている。

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132017 2–3

3. 2017年の台湾建設市場の現状と動向①鉄道

昨年に引き続いて台北と宜蘭を結ぶ北廻り鉄道の直線化プロジェクト計画が進んでいる。現在FS後の企画、環境評価(EIA)中である。台北の水甕である翡翠ダムの近辺をトンネルで通過することになることもあり、ルートの選定が慎重に検討されている。この工事による環境への影響に対する調査、検討は慎重に進められている。南廻り鉄道の電化工事が進んでおり、新たに台東潮州段の電化作業が行われる。高雄地区高速鉄道終点駅の左営駅から高雄市街地までの鉄道地下化はほぼ完了し、高雄駅部分を施工中である。2017年は台南の市街地区域の鉄道地下化工事が予定されており、桃園の市街地区域の鉄道地下化も検討されている。

②都市交通

地下鉄関連では台北地下鉄システムが毎日200万人の足の働きをしている。台北地下鉄の萬大線、信義線の延長工事、ライトレールシステムでは三鶯線、安坑線、淡水線が2016年に発注された。

高雄の第二期ライトレール工事が発注された。今後は計画されている台北の環状線計画や高雄屏東潮州鉄道、湖山ダム工事の経費を見直し、鉄道車両の新車購入、南廻り鉄道の電化、桃園国際飛行場の台北からのMRTなどのプロジェクトに再配分される動きとなっている。

③空港・港湾

台湾の表玄関を桃園空港地域とする方針に変わりなく、桃園市のMRTは予定通り推進されると見られている。桃園空港の誘導路、滑走路の改善作業、第2ターミナルの改善工事を行っているが、第3

ターミナルの新たな建設が計画されている。大半の港湾施設は老朽化してきているが、新しく港を建設するのではなく、既存の港の埠頭の増設、浚渫工事、改善工事を鋭意行っており、これらは2017年も継続される見通しである。

④水資源・河川

主要ダムの排砂プロジェクトが前向きに検討されている。石門ダムの排砂プロジェクトが台湾での曾文ダム、南化ダムに続いて実施に向かって具体化し

表1 公共建設投資予算台湾政府 公共建設予算(億台湾ドル) 民間

建設投資

(億台湾ドル)

建設投資合計

(億台湾ドル)農業建設

都市開発

道路整備

都市交通

空港港湾施設

商工業施設

水資源河川 燃料 電力 文教

施設環境保護

衛生福利 合計

2010 378 280 1,006 612 273 187 499 365 1,051 411 89 27 5,178 2,069 7,247

2011 309 515 777 618 284 244 800 471 863 226 62 25 5,194 402 5,596

2012 302 441 643 567 258 102 392 411 709 175 52 34 4,086 1,437 5,523

2013 268 515 509 602 301 121 372 69 801 155 49 35 3,797 1,378 5,175

2014 246 278 454 598 229 211 323 96 885 168 51 21 3,560 2,542 6,102

2015 296 293 467 484 247 159 287 80 731 214 49 23 3,330 1,839 5,169

2016 320 199 544 480 252 152 541 194 678 180 33 23 3,596 NA NA

2017 338 280 485 520 212 148 383 601 212 52 35 3,266 NA NA NA

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14 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

ている。現在工事が行われている曾文排砂システムの効果を確認し、石門ダム排砂トンネルの第2期工事も予定されている。その他、台湾の数十カ所のダム排砂プロジェクトも必要に応じて今後発注される見通しで、ダム排砂問題に対する注目度は高い。数年前に工事途中で中止となった曾文ダム本体への導水路トンネル建設工事は、再出発の検討が行われている。嘉義の烏山頭ダムへの導水路トンネル工事は昨年から施工が継続している。台北の水資源確保のための翡翠ダムから台北浄水場への導水路トンネルプロジェクトも検討されている。

⑤電力・燃料

新政権の2025年までに台湾の原子力発電を停止する基本方針は変わらず、これに代わるエネルギー供給に関するプロジェクトが発進している。具体的には既存火力発電所の増強工事、LNGタンクの新設工事、洋上風力発電計画、太陽光発電施設の新設などであり、2025年までにすべての原子力発電所が閉鎖できるかどうか国民は注目している。さらに既存の原子力発電所停止後の処置に関して多方面での検討が行われている。

表2 公共建設工事に関する代表的な発注工事

工事名 施主 落札日 予算(台湾ドル)

落札金額(台湾ドル) 受注業者

安坑ライトレールシステム計画土建統包工事 新北市政府地下鉄局 2016.3.3 6,679,430,105 6,666,000,000 新亞建設開発股份有限公司

三鶯線MRTシステム計画統包工事 新北市政府地下鉄局 2016.5.16 34,018,650,759 33,950,612,000 榮工工程 + ANSALDO(義) + 日立製作所

台北地下鉄信義線東延段CR580C工事 台北市政府地下鉄局南区工程処 2016.7.19 5,136,554,640 4,827,996,500中華工程股份有限公司+日商大豊営造(股)台灣分公司

萬大─中和─樹林線(第1期工程)CQ850A工事

台北市政府地下鉄局南区工程処 2016.11.8 3,200,981,544 2,945,000,000 大陸工程股份有限公司

高雄環状ライトレール建設(第2期)統包工事 高雄市政府地下鉄局 2016.8.11 5,789,000,000 5,788,880,000中国鋼鉄股份有限公司

西浜快速公路(WH51標)永興~新街路新建工事

交通部公路総局西部浜海公路中区工程処 2015.12.2 4,556,667,479 3,301,680,000 新亞建設開発股份有限公司

西浜快速公路WH10-C標64K+005~69K+600主線新建工事

交通部公路総局西部浜海公路北区工程処 2016.9.2 5,328,254,000 4,085,000,000中華工程股份有限公司

淡江大橋および連絡道路新建工事第二標(2K+606~5K+000,7K+000~8K+165)

交通部公路総局西部浜海公路北区工程処 2015.12.21 4,195,664,000 3,086,000,000 遠揚営造工程股份有限公司

台湾桃園国際機場第二ターミナル改善工事

桃園国際機場股份有限公司 2015.11.27 1,794,000,000 1,685,000,000 新亞建設開發股份有限公司+益鼎工程股份有限公司

台湾桃園国際機場土建施工第三標(北場WC以西滑走路)工事

桃園国際機場股份有限公司 2015.12.16 849,462,372 717,000,000 建中工程股份有限公司

南迴鉄路電気化C811Z潮州枋寮段土建および一般機電工事 交通部鉄路改建工程局 2016.7.14 2,153,283,654 1,738,000,000 工信工程股份有限公司

白河水庫防洪防淤隧道新建工事 経済部水利署南区水資源局 2016.3.22 440,000,000 406,860,000 利德工程股份有限公司

大度淡海線1,200mm輸水管シールドトンネル接続工事 台北自来水事業処 2016.6.24 436,358,272 345,600,000 豊順営造股份有限公司+世健工程有限公司台北市市場処所属公有環南市場改建工程主体工事

台北市政府工務局水利工程処 2016.8.19 5,508,000,000 5,500,000,000 皇昌営造股份有限公司

金門大橋建設計画第CJ02-2C標金門大橋接続工事

交通部台湾区国道新建工程局 2016.11.28 5,955,006,506 5,953,850,000 東丕営造股份有限公司

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152017 2–3

⑥橋梁

台湾のランドマーク的存在となる淡江大橋の設計は中興顧問グループによる基本設計が完了し、施工へと動き出した。既に入札公示が行われ、2017年早々に施工業者が決定する運びとなっている。中断していた金門島と西隣の烈嶼島にかかる金門大橋工事は新たに入札が実施され、施工業者が決定した。

⑦その他

2017年に台北市で行われるユニバーシアード夏季大会に向かって各種運動施設が建設されてきた。台北ドームの建設工事が消防法に絡む問題で中断していたが、2016末には再開される見通しとなった。台北の卸売市場の老朽化に伴い、2カ所の新市場の建設が計画されていたが、第1市場(環南市場)が発注された。今後、第2市場の建設が予定されており、2017年には発注に向けて具体化する見通しである。

4. 今後の台湾建設市場の問題点台湾の公共工事関連についてここまで具体的案件を取り上げ記述してきたが、高級マンション建設に代表される民間建設工事に関して触れると、全体的投資傾向は下降気味であり、投資額が減少傾向にある。土地税制の変更など、法律の変更により、台北市および郊外の高級住宅市場は総じて伸び悩み、需要と供給のバランスを反映して価格の下降が見られる。台北市から桃園国際空港に通じるMRTは開通時期が延期されてきており、2017年には営業運転が開始される見通しであるが、このプロジェクトに関しては営業運転の遅れに関して企業者と請負者との間の係争が始まっており、今後の台湾の公共工事に対する日本企業の積極的投資をより促進するためにも、日台投資協定の精神に沿った友好的な協議・交渉が望まれる。

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16 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

特集 ベトナム加々美 三郎 [東洋建設 ハノイ営業所 所長]/ベトナム支部

1. ベトナムの現状と経済情勢2016年は、5年に1度の第12回ベトナム共産党大会が1月に開催され、2016~2020年の新指導部についてグエン・フー・チョン書記長の留任を決めた。また、ベトナム国会は4月、新首相としてグエン・スアン・フック氏を選出し、第14期内閣が発足した。フック新首相は、政府が優先的に取り組む課題として、①マクロ経済の安定・経済成長の促進、②国民と企業の便宜を図る行政改革および起業の奨励、創造的自由の発揮、人材の重用、③国家の行政体系および全社会における規律強化、④汚職・浪費防止の強化、⑤独立・主権・領土の安全、⑥国民の物質的・精神的生活の改善と治安・安全の確保、の6つを挙げている。これまでベトナム経済は、外資企業主導による電子機器の生産・輸出の増加とFDIの活発な流入、さらにはインフレの落ち着きを背景とした個人消費の拡大など旺盛な内需に支えられ、ASEANの中でも相対的に高い成長率を誇ってきた。2016年1~9月の経済成長率は5.9%と、前年同期より0.6ポイント減となっており、2015年実績6.7%を下回るペースである。特に工業分野の伸び率が前年同期から大幅に減少していることに加え、北部の寒波や中・南部における干ばつや塩害の影響で農業分野も伸び悩み、政府は当初設定した2016年の目標経済成長率6.7%の達成は困難とし、6.3~6.5%へ下方修正した。「2017年経済・社会発展計画」では、フック首相が挙げる6つの優先課題のほか、気象変動への対応や自然災害対策の強化や法整備・行政改革推進などの計画を盛り込み、2017年の経済成長率の目標を6.7%に設定した。政府主導によるインフラ投資の拡大や、中銀による緩和的な金融政策の継続などが景気を下支えする中、前年の工業分野と農業分野の

落ち込みの反動もあって、2017年は堅調な内需拡大をてこに2016年を上回るペースで推移していくことが予想される。

年 2011 2012 2013 2014 2015 2016(見込み)

実質GDP成長率 6.2 5.3 5.4 6.0 6.7 6.2

(農林水産業) 4.0 2.7 2.6 3.4 2.4 1.4

(工業・建設業) 6.7 5.8 5.1 6.4 9.6 7.6

(サービス) 6.8 5.9 6.7 6.2 6.3 7.0

表1 経済成長率の推移 (単位:%)

出典:ベトナム統計総局

2. ベトナム投資概況ベトナム計画投資省外国投資局(FIA)が発表した

2016年1月~9月までの対越直接投資(新規・拡張合計)は、2,671件、164億3,000万ドルとなっており、前年同期比で件数は41.1%増、許可額は4.2%減となっている。国別の投資については、昨年に引き続き韓国が大きな存在感を示している。件数が全体の32.5%、金額が全体の34.0%を占めており、2016年上半期最大の投資も韓国のLGディスプレイによる携帯端末向け有機ELディスプレイ製造工場(約15億ドル)であり、2016年1~9月の対越投資額の13%に相当する。また、投資額上位5社のうち、4社が韓国勢となっている。一方、韓国サムスン電子が発火事故の頻発するスマートフォン主力機種の生産中止を決めた影響で、これまでベトナム経済の牽引役を担ってきた携帯電話の生産台数が頭打ちとなっている点はやや気掛かりである。 日本からの投資(新規・拡張合計)は、395件、1,705

億ドルとなっており、前年同期比で件数は24.2%

増、許可額は97.6%増であり、件数は2位、金額は韓国とシンガポールに次ぐ3位となっている。上記は2016年9月時点での数字であるが、2016年通期

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172017 2–3

では昨年を大きく上回る投資状況となる見込みであり少しずつ回復基調に向かっていると言えるかもしれないが、2014年に激減した投資額とはほぼ同水準であり、特記するような回復の動きはまだ見られない状況である。日本の投資内訳を見ていくと、新規投資額は、「製造業」が牽引しており全業種の72%を占めている。一方、新規投資案件は引き続き「中小規模」がメインであり、500万ドル未満の中小規模案件が89.4%

を占めている。また、100万ドル未満の小規模案件は前年よりも拡大傾向となっている。急激な円安の影響を受け、2014年から日系企業の投資が激減し、現在も投資が回復しているとは言えない状況であるが、ベトナム進出日系企業の6割強が事業拡大方針としており、これは他国と比べても高い率となっている。ベトナムを引き続き重要な事業展開先と認識している一方で、「法制度の未整備・不透明な運用」、「行政手続きの煩雑さ(許認可など)」など、投資環境上のリスクを指摘する日系企業からの意見も多く、特に製造業の大型案件投資については様子見の状況と思われる。また、これまで外資企業は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を視野に、特に繊維分野ではベトナムに対して戦略的にFDIを拡大してきたが、米国のトランプ政権発足に

よりTPPの発効が遠のいたことで、これまで同協定によるベトナムからの製品輸出拡大を意図してきた外資の製造業企業は、当面、新規投資や拡張投資の抑制・見合わせを余儀なくされるであろう。

3. 政府開発援助わが国の対ベトナム支援は、同国が目標としている2020年までの近代的工業国化の達成に向けた支援を基本方針とし、国際競争力の強化を通じた持続的成長、脆弱性の克服および公正な社会・国づくりを支援することを重点分野に挙げている。わが国は、昨年、安倍首相が発表した「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を通じて、積極的な官民ベースの経済協力の拡大を進めており、特にODAのうち、円借款でのインフラ投資への支援の拡大は、同国が期待する分野のひとつと言えるであろう。ベトナムへの経済インフラ支援としては、引き続き経済成長を維持するためのエネルギー安定供給(発電所)、基幹インフラ整備(港湾、空港、鉄道、道路など)、都市交通整備(鉄道、道路)および 脆弱性への対応としての都市環境管理(上下水道、廃棄物処理施設など)、気象変動(干ばつ、塩害被害対策事業)を中心に実施されていく見込みである。特に、2016年度の経済成長を押し下げる大きな要因となった干ばつや塩害

順位2014年 2015年 2016年1~9月まで

国名 投資額 国名 投資額 国名 投資額1 韓国 7,705 韓国 6,983 韓国 5,587

2 香港 3,036 マレーシア 2,479 シンガポール 1,849

3 シンガポール 2,893 シンガポール 2,082 日本 1,705

4 日本 2,299 日本 1,803 台湾 1,228

5 台湾 1,229 台湾 1,468 香港 1,110

6 バージン諸島 790 バージン諸島 1,217 中国 1,009

7 中国 497 香港 1,148 バージン諸島 548

表2 国別海外直接投資額(新規・拡張合計) (単位:百万ドル)

出典:ベトナム計画投資省

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18 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

被害による気象変動分野への支援の実施は急務と思われる。 ベトナム向けODAの中心は円借款であるが、最近5年間の実績の推移を見ると2012、2013年度の2

年間は2,000億円以上の供与となっているが、2014

年度からは減少傾向となっている。2016年上半期は約1,450億円(事前通報含む)ではあるが、2,000億

円以上の供与は困難と見られている。その理由として、ベトナムの財政状況の悪化が挙げられる。財政再建策として、債務の増加を抑えて、大型インフラは民営化政策を進めようとしているため、円借款の新規大型案件の要請も減少傾向と言われており、今後はPPP案件の採用が増加するものと予想される。

4. 最後に前述の通り、2016年のベトナム経済成長率は前年に比べ鈍化する見込みではあるが、その原因が干ばつや塩害被害による農業分野の落ち込みであり、一方、同国はインフレ上昇率が低い水準で抑えられている。マクロ経済が安定していることが構造改革の強化や生産性の向上において有利な条件となるため、2017年には同国経済は再び加速するとの見解もある。さらにメコン地域の発展には、その牽引役であるベトナムのさらなる発展が不可欠であり、日本政府も「質の高いインフラパートナーシップ」や「産業人材育成協力イニシアティブ」、日メコン協力の方針である「新東京戦略2015」に基づき、引き続きインフラ整備などを通じベトナムの発展を後押しすることを伝えている。またベトナム政府も、2016

~2020年までの社会経済開発5カ年計画の中で、ベトナムの競争力などにおいて他国との協力を重視していることから、ベトナムはわれわれ建設企業にとって引き続き魅力ある市場として発展していくことが期待できるであろう。

年度 2012 2013 2014 2015※2016(4-9)

供与額 2,029 2,020 1,124 1,788 1,450

件数 12 10 7 6 5

表3 対ベトナム円借款供与額実績(ENベース) (単位:億円)

出典:日本外務省(※ 2016年度は事前通報 2件含む)

表4 過去2年間の円借款交換公文締結案件 (単位:億円)

案件名 金額1 チョーライ日越友好病院整備計画 286

2 気象変動対策支援プログラム(第6期) 100

3 ラックフェン国際港建設計画(道路・橋梁)(第3期) 229

4 ラックフェン国際港建設計画(港湾)(第3期) 323

5 南北高速道路建設計画(ダナン-クアンガイ間)(第3期) 300

6 タイビン火力発電所および送電線建設計画(第4期) 550

2015年度

案件名 金額1 第二期ホーチミン市水環境改善計画(第3期) 210

2ホーチミン市都市鉄道建設計画(ベンタイン-スオイティエン間(1号線)(第3期) 902

3 第三次経済運営・競争力強化借款 110

4* ホアラック科学技術都市振興計画(第2期) 129

5* 気象変動対策支援プログラム(第7期) 100

2016年度

出典:日本外務省 *事前通報分

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192017 2–3

特集 カンボジア岩下 桂一 [大豊建設 カンボジア営業所 所長]/プノンペン支部

1. はじめに1970年のクーデター発生以降、約20年にもおよんだ内戦が1991年のパリ平和協定署名により終結し、1993年9月に新生カンボジア王国が誕生した。1998年には総選挙が実施され、同年11月にフン・セン首相を単独首班とする新政権が成立した。これにより、国連における代表権回復、東南アジア諸国連合への正式加盟を実現するなど、国際社会との関係正常化が進められた。1991年の和平達成後、国際社会の支援を得て国の再建が本格化し、多少の波はあったものの安定した成長を続けている。

2015年の実質GDP成長率は7.0%となり、前年の7.1%に比べて微減したものの、2010~2015年は平均で7.0%と高成長を維持している。リーマンショック後の2009年こそ0.1%まで急減速したが、それ以前の4年間は10%を超えており、1993年に新憲法下で新たな政権が発足して以降、年次ベースでの経済成長率がマイナス転落したことが一度もなく、高成長ぶりを示している。世界銀行は今年7月、カンボジアの2015年度ひとり当たり国民総所得が1,070ドルに到達したため、低所得国から下位中所得国に格上げしたと発表している(図1)。

図1 GDP(ひとり当たり)/GDP成長率

出典:IMF・WEO

1,4001,2001,0008006004002000

%12.0

10.0

8.0

6.0

4.0

2.0

0.0

ひとり当たりのGDP額 伸び率

536

2006 2016201520142013201220112010200920082007

628

10.8 10.2

6.2

0.1

0.67.1 7.3 7.4 7.1 7.0 7.0

742 735 782878 946 1,010

1,096 1,1441,228

国家予算も毎年10~20%前後の伸びを示しており、2007年には12億ドルであったが、2017年には50億ドルとなり、約4倍となっている。輸出入に関しても堅調な推移をしており、2015

年の輸出は119億3,150万ドル(前年比10.6%増)。主要品目は衣類関連で、全体の70%近くを占めている。輸入は187億1,660万ドル(前年比6.8%増)となっており、輸入額は投資適格案件(QIP)許可を取得している製造業が、調達する製造原料などの主要品目で50%以上となっている(図2)。

図2 輸出入額推移

出典:IMF・DOT

20,000

15,000

10,000

5,000

0

百万ドル

輸出額

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

輸入額

1994年からの累計直接投資額は、中国が約120

億ドル(1兆4,000億円)と群を抜いており、次いで韓国が約56億ドル(6,400億円)で、日本は8億ドル(940

億円)となっている。ただ、中国からの直接投資内容は6割が不動産関連、2割がBOTを含む発電所などで、韓国からの直接投資はその8割が不動産関連となっている(図3)。経常収支は恒常的にマイナスであるが、外部からの資金流入がそれを上回っており、外貨準備高は2008年には約20億ドルであったが、2015年には70億ドル近くになっている。リエルという独自通貨があるにもかかわらず、ドルが広範囲に使用されており事実上「ドル化」している状況で、物価の安定および海外の投資家から見て為替リスクがない。そ

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20 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

のため、投資誘致に有利であるが、中央銀行が本来の役目を果たすには難しい状況と言える。現在、徐々にリエルへの移行を模索しているが、しばらくは「ドル化」が継続すると思われる。

近年、製造業を主に中国やタイの人件費上昇に伴い、人件費が安いカンボジアへ進出する事例が増えている。しかしながら、当地の電気代は周辺各国と比較してかなり割高となっており現在のところ、労働集約型産業(縫製、製靴など)が主となっている。日本人商工会への加入企業数は2007年には34社であったが、2016年末には236社(正会員178+準会

員58)と10年間で7倍近くなっており、ここ数年は製造業の進出は減少しているが商業・サービス関連企業の進出は多くなっている。また、当地の商業省への日系企業登録件数も2014年、2015年ともに約250社となっており、2010年からの累計では1,000

社を超えている。日系企業の進出に伴い、製造業を主に日本からの直接投資額も増加しており、2016

年はイオンモール2の大型投資もあり、累計で10億ドルを超える予定である(図4、5)。

最低賃金は急激な上昇を見せており、2012年に61ドル/月であったが、2016年には140ドル/月となっており、2017年には153ドル/月となる予定で、今後も毎年10%程度の上昇となる見込みである。ラオスやミャンマーよりやや高く、ベトナムの都市部以外ともほとんど差がなく、賃金面での競争力は低下している。安い労働力を求めて進出してきた製造業関係企業に大きな影響を与えており、縫製系企業撤退のニュースも目立っている。しかしながら、タイと比較した場合はいまだに半額程度で優位性を保っており、タイ・プラスワンの製造業の進出を想定し、タイ国境のポイペトの工業団地開発は進んでいる。カンボジアの人口は約1,600万人で、年齢構成は

25歳未満が全体の50%以上となっている。そのため労働力人口は豊富で2070年まで増え続けると予想されており、今後50年以上も労働供給が増加す

図3 国別FDI(QIP)累計認可額(1994-2015)

中国 11,9705,557

3,0852,734

1,7541,3691,3221,1281,019999801624310310

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000(百万ドル)

韓国マレーシアイギリスベトナムアメリカ台湾香港

シンガポールタイ日本ロシア

イスラエルフランス

出典:CIB,CSEZB,各SEZ

図4 日系企業投資動向

300250200150100500

(百万ドル)302520151050

系列4

28

201

3

133

278

9248 57

1994-2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

4

21 22 22

12 14

系列3

出典:CIB,CSEZB,各 SEZ

250

200

150

100

50

0200734 35 45

650

787

13

104

17

122

28

152

33

168

44

178

59

正会員 準会員

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

図5 商工会会員企業数推移

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212017 2–3

ることを意味し、総人口も2080年まで増加の見込みで、今後60年以上も消費市場も拡大を続けることになる(図6)。

図6 カンボジア人口構成

100+95 - 9990 - 9485 - 8980 - 8475 - 7970 - 7465 - 6960 - 6455 - 5950 - 5445 - 4940 - 4435 - 3930 - 3425 - 2920 - 2415 - 1910 - 145 - 90 - 4

Cambodia - 2016Male

Population (in thousands) Population (in thousands)

出典 : CIA World Fact Book 2015

Age Group

895 895716 716537 537358 358179 1790 0

Female

カンボジアの重要な収入源である観光関係では、カンボジアへの訪問者数は2000年に約50万人であったが、2015年には480万人、2016年は昨年を上回る人が訪れ、通年で500万人を超えると予測されている。訪問者数が最も多いのはベトナムからの100万人で、次いで中国70万人、韓国40万人となっており、日本からも20万人となっている。2016年9月1日よりANAが成田・プノンペン直行便を就航させたことによる日本人訪問者増も期待される(図7)。

2. 建設市場動向今年1~8月の商業施設建設事業の認可件数は

1,753件で、認可額は72億ドル(約8,400億円)に達し、昨年通年の33億ドルを大きく上回り活況を呈しているが、日系業者の参入機会はほとんどない状況である。最大案件は総事業費10億ドルで、地場企業と中国企業が計画している首都プノンペンでの133階建ての超高層ビル建設となっている。現在、首都プノンペンでは地元資本・中国・台湾・シンガポールなどからの投資で、10件以上の大型高級住宅案件および事務所案件が進行中であり、事務所スペースは2008年時点ではわずか1,500m2しかなかったが、2016年上期には225,000m2となっており、今後数年以内には400,000m2以上になると予想されている。コンドミニアム案件も活発で、2015年には3,000

戸であったが2016年には6,000戸となり、2020年までには25,000戸程度になると予想されている。しかしながら、現在の購買層は中国他の海外からの投資目的購入もかなりの割合を占めており、賃貸を想定した利回り設定で販売されているが、賃借需要

図7 外国人の入国者数推移

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

0

(千人)

19931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015

出典:MOT

写真1 市内状況

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22 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

を考えた場合は供給過剰も懸念される。また、プノンペン郊外での小中規模の戸建て・タウンハウスなどの案件も増えており、特に現在施工中のイオンモール2周辺の開発は盛んで、地価も数年前の2倍となっている。当地での建設関連法規はほとんど未整備の状況で、現在日本の国交省の支援にて法整備が進められており、2017年中には施行される予定となっている。当地の賃金上昇・割高な電気料金などの問題と共に隣国タイ・ベトナムでの事業展開他の関係から、2014年秋頃からは日系製造業の新規進出も減少しており、民間建築の主となる工場建設案件も既進出企業の工場拡張・増築および新規進出企業の新工場案件は全国で年間数件にとどまっている。日系デベロッパー案件も数件あるが、自社による直接施工、地元・他国施工業者の起用などとなっている。日系企業が進出している代表的な工業団地としてはベトナム国境のバベットに2カ所、プノンペンに1カ所、タイ国境のポイペトに1カ所となっており、ベトナム・カンボジア・タイを結ぶ南部経済回廊の整備に伴い、タイ・プラスワン、ベトナム・プラスワンの企業進出が期待される。地元政府関連の公共事業は道路整備・灌漑・排水などの基礎インフラ整備が主となっており、毎年3

~4億ドルの事業費ではあるが、そのほとんどが中国・日本・韓国・ADBなどよりの借款となっている。内容もそれほど高い技術力を求められる案件はなく、中国・韓国系の有償案件は基本的にSTEP案件となっており、日本のODA案件以外への日系業者参入は難しい状況である。

日本政府のODA案件は基礎インフラ整備など以外に人材育成・組織構築などのソフト面での支援も多く、1959年から2014年までの累計で約3,500億円の支援が行われている。ODA建設案件としては、南部経済回廊の整備計画の一環としてメコン河に架かるネアックルン橋が今年開通し、国道1号線の最終工区が施工中である。また、プノンペン・タイを結ぶ国道5号線改修工事(約400km)が進められており、2016年末から2019年にかけて順次発注予定である。それ以外には、プノンペンに架かる日カ友好橋の改修工事が今年度末に発注予定となっている。また国内8都市では、日本の支援を主として水道事業の整備も進められており、浄水場・水道管敷設などは順次進行中であるが、下水道は今後の整備となる。将来的には、シアヌークビル港拡張、ベトナム国境~プノンペン高速道路、プノンペン市内の高架鉄道などが計画されているが、現時点では予備調査段階であり実現は数年先以降となる予定である(図8)。

図8 日本の対カンボジア援助実績

無償資金協力

億円9008007006005004003002001000

1959-

1999 20

002001200220032004200520062007200820092010201120122013201420152016

円借款 技術協力

基本的に国際機関を通じての援助は含まず。無償・有償金額は E/N締結ベース。出典:外務省

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232017 2–3

特集 タイ川向 吉次 [タイ鴻池 副社長]/バンコク支部

1. 2016年の経済概況タイ国民から「国父」と慕われ、敬愛を集めたプミポン国王陛下が10月にご崩御され、悲しみの中、タイは新しい年を迎えようとしている。さて、2016年のタイ経済は緩やかな回復傾向にあり、国内総生産(GDP)成長率は、年初予想の3.0~4.0%

増から下方修正されたものの、現在は3.0~3.5%増と予想され、前年の2.8%増を上回る見通しである。

11月のタイ国家経済社会開発庁(NESDB)の発表では、2016年第3四半期(7~9月)のGDPが前年同期比3.2%増、1~9月では3.3%の伸びで、通年のGDPは前年比3.2%成長の見通しとなった。第3四半期のGDPを産業別に見ると、唯一マイナスであった農水畜産業がマイナス1.2%から0.9%のプラスに転じ、非農業は3.2%のプラスとなった。特にホテル・レストランは外国人旅行者の増加に伴い、15.9%のプラスで、1~9月でも14.8%

増の高い伸びである。商品輸出については、乗用車や機械および同部品、エアコン、エビなどの増加により前年同期比0.4%増の549.7億ドルとなり、7四半期ぶりにプラスに転じた。また、支出面では、民間消費支出が3.5%増加、背景には農産品の価格上

昇に伴う農家らの購買力の増加や政府による景気刺激策の寄与、また政府部門の投資はインフラ投資の加速で6.3%の伸びとなっている。総括すると、輸出の緩やかな回復や農業部門の改善に伴う国内消費の増加、政府部門の投資拡大、好調な観光産業などがプラス要因となっている。

2. 建設市場の動向政府は景気刺激策として、大量高速輸送公社

(MRTA)の都市鉄道整備といったインフラ投資を加速するなど(9月末の公的債務残高は5兆9,883.9億バー

ツ〈GDP比42.73%〉)、ローカル建設会社向けの公共事業に積極的に投資している。一方、タイ進出の日系建設会社の多くは日系企業の工事に注力しており、日系建設会社にとっては、日系企業の投資動向の方が気にかかるところである。タイ投資促進委員会(BOI)事務局の集計によると、外国資本が10%以上入った企業の1~9月の投資促進権の申請は648件で、それに伴うタイへの海外直接投資(FDI)は1,698.4億バーツで、件数は前年同期の1.9倍、金額は2.4倍にそれぞれ増加した。要因としては、政府のデジタル経済開発政策に伴うソフトウエア事業への投資申請の増加、自動車や同部品産業などの投資額10億バーツ以上の大型プロジェクトの申請が多かったとしている。国別に見ると、日本からの投資申請件数および申請額とも最大で、件数は185件、申請額は317.4億バーツとなっている。日本からの投資を業種別に見ると、2015、16年とも件数では「サービス」がトップで50%前後となっているが、地域統括事務所・販売会社などが多く、投資金額として多額ではなく、残念ながら、建設業界にとってはインパクトが大きくない業種である。当業界としては「金属・機械」、

2011 2012 2013 2014 2015 2016(予想)

実質GDP成長率(%) 0.8 7.2 2.7 0.8 2.8 3.0-3.5

輸出額(10億ドル) 219.1 225.9 225.4 224.8 212.1 208.0

輸入額(10億ドル) 202.1 219.9 218.7 200.2 177.5 166.7

政策金利(%) 3.25 2.75 2.25 2.00 1.50 1.50

消費者物価上昇率 3.8 3.0 2.2 1.9 ▲0.9 *0.3

失業率(%) 0.66 0.66 0.70 0.80 0.88 1.00

図1 主な経済指標

*は1~9月の集計値出所:NESDB・BOT・MOLほか

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24 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

特に裾野の広い自動車業界を主とした輸送機器企業が日系建設会社にとって大きな市場であり、投資増・回復を期待するものである。しかしながら、「金属・機械」は、2016年9月までの集計値では、翌年のBOIの新投資奨励政策施工前の駆け込み申請も数多くあったこともあり、件数・金額とも前年を上

回っているが、2014年の実績と比較すると、件数・金額とも同年の15%にも満たず、まったく比較のできない数値となっている。タイ工業連盟(FTI)自動車部会は、11月に2016

年通年の自動車生産について、10月までの実績を踏まえてこれまでの「195万~200万台」から「197

2012 2013 2014 2015 2016

車国内販売台数(千台) 1,436 1,331 882 800 557

車国内販売台数前年比(%) 80.4 ▲7.3 ▲33.7 ▲9.3 2.9

訪タイ人数(千人) 2,235 2,655 2,481 2,988 2,482

BOI投資促進申請件数 2,582 2,237 3,469 1,038 1,095

BOI申請件数(日本のみ) 872 562 672 164 185

図2 内需動向

2016年は1~9月の集計値出所:BOT

2012 2013 2014 2015 2016

件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額日本 872 373,985 562 282,848 672 293,334 164 28,573 185 31,740

中国 44 12,829 45 42,530 74 33,707 53 12,382 69 24,288

台湾 53 8,849 53 6,994 75 25,977 23 2,364 32 5,515

香港 72 52,678 39 20,181 45 25,706 26 3,796 26 15,050

韓国 55 6,101 46 3,944 63 18,327 20 1,726 24 5,234

シンガポール 134 27,084 93 22,781 127 43,980 81 17,146 78 26,652

マレーシア 48 20,638 35 29,190 43 33,116 13 1,074 24 2,308

米国 53 24,705 55 11,621 74 130,921 18 6,810 21 6,459

全欧州 184 62,117 146 36,999 260 169,144 113 4,571 121 18,556

英国 21 4,655 18 5,073 60 24,502 28 683 18 1,341

ドイツ 31 3,143 26 3,193 35 12,828 25 469 23 1,745

その他 69 58,988 58 67,680 140 248,784 29 23,396 68 34,036

合計 1,584 647,974 1,132 524,768 1,573 1,022,996 540 101,838 648 169,838

図3 BOI投資促進権取得状況 (単位:百万バーツ)

2014 2015 2016

件数 金額 件数 金額 件数 金額業種 件数 % 金額 % 件数 % 金額 % 件数 % 金額 %農業・農産物加工 25 3.7 18,813 6.4 3 1.8 276 1.0 9 4.9 2,641 8.3

鉱物・セラミック 27 4.0 7,769 2.6 0 0.0 0 0.0 1 0.5 450 1.4

軽産業・繊維 21 3.1 13,294 4.5 4 2.4 1,489 5.2 3 1.6 415 1.3

金属・機械 291 43.3 139,787 47.7 35 21.3 4,448 15.6 40 21.6 16,379 51.6

電気・電子 89 13.2 50,567 17.2 28 17.1 16,743 58.6 28 15.1 3,050 9.6

化学・紙 80 11.9 41,000 14.0 9 5.5 590 2.1 18 9.7 6,099 19.2

サービス 139 20.7 22,106 7.5 85 51.8 5,026 17.6 86 46.5 2,707 8.5

合計 672 100.0 293,335 100.0 164 100.0 28,573 100.0 185 100.0 31,740 100.0

図4 日本BOI投資促進権取得状況(業種別) (単位:百万バーツ)

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252017 2–3

万~198万台」の見通しへと修正した。これは、2013年に過去最高の245万台を記録した後、2014

年は188万台、2015年は191万台で、この見通し通りとなると、3年連続の200万台割れとなり、大きな回復は見られない。

FTIの2016年の車の国内販売の予想では77~78

万台で、100万台を大きく下回っているが、2011~12年に実施されたマイカー減税措置により購入した車がそろそろ買換え時期を迎えることにより、車の国内販売台数がV字回復し、低迷している投資が回復することを祈っている次第である。

3. 2017年の動向と展望2016年に行われた英国のEU離脱を問う国民投

票、米国の大統領選挙と続けて、事前の予想を覆す結果となった。現在、世界経済は緩やかな回復基調にあると言われ、2017年1月に就任のトランプ次期米国大統領の掲げる、インフラ投資や大規模減税政策による米景気拡大への期待から、投資マネーが株式などに流れ込んでおり、世界景気の追い風になるとの観測がある。しかしながら市場としては、大統領就任後に実行する政策については、期待半分、不安半分とも言え、今後の世界経済の不透明感、およびそれに対してタイ経済がどのような影響を受けるか不透明である。

タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は、現状、2017年のGDPは、輸出の緩やかな回復や農業部門の改善に伴う国内消費の増加、政府部門の投資拡大、好調な観光産業などがプラス要因で、「前年比3.0~4.0%増」になると予想している。日系建設業界としては、2016年10月には、ドルに対して100円前半であった円が、110円台へと急激な円安となっており、2017年には、大きな市場である日系製造業の新規投資の計画見直し・延期に繋がらないかとの懸念材料もある。また、バンコク市内を中心にコンドミニアムなどの新規建設は盛んではあるが、それらほとんどをローカル建設会社が施工している。一方、東南アジアにおいて、日本の少子高齢化による日本市場の縮小を見据え、日本の不動産会社が、次々と進出している。タイでも、既に大手不動産会社がタイのローカル不動産会社と組んで、コンドミニアム事業などに取り組んでおり、今後も日系不動産会社のさらなる進出が予想される。これに対して、これまで日系製造企業の工場・倉庫などの案件を中心に取り組んでいた日系建設会社の動向が注目される。最後に、2017年は日・タイ修好130年の記念すべき年となる。日本にとって、タイは依然として有望な投資先・市場であり、建設業としても引き続き、タイ経済の発展に貢献していきたい。

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26 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

特集 シンガポール牛頭 豊 [清水建設(株)執行役員 国際支店副支店長 シンガポール営業所長]/シンガポール支部

1. シンガポールの経済概況 2016年のシンガポール経済を振り返ると、不透明な世界情勢に引きずられ、やや活力が見られなかった。貿易産業省(MTI)が2016年11月24日に公表した統計では、第3四半期の実質GDP確報値が前年同期比で1.1%増(図1)、5期連続して2.0%前後の低成長が続いていた。2016年通年の経済成長率は、2013年から続く成長率の鈍化は継続されるものと思われる。

MTIは、ASEANを中心とする国々の景気改善の見込みを予想しながらも、シンガポールは国際経済の成長の鈍化を2017年も影響を受け、GDP成長率に大きな回復を見込めないとの見通しを示している。

2. 2016年の建設市場の動向さて、建設業界の動向を振り返ると、BCA(シン

ガポール建築・建設庁)発表の建設投資額では、2016

年の建設投資見込額(最大)は、当初公表の公共部門で215億ドルから200億ドルに、民間部門で125億ドルから120億ドルと、それぞれ若干の下方修正を行った。要因としては、民間建設需要の落ち込みを受けて、政府主導で行われている土木工事を中心とした公共部門の需要拡大が挙げられている。次に建設投資額の数値を官民別に見てみると、民間部門の建設投資額(最大)は一昨年(2014年)の132

億ドルに対して、120億ドル、公共部門は一昨年の140億ドルに対して、200億ドルとなっており民間部門での投資は落ち込んだものの公共部門は増加という結果になっている。

図2 建設増加率

3. 2017年と今後の展望上記のような状況から、一昨年、昨年と建設市場は比較的厳しい状況ではあったが、それでもシンガポールは中長期的には引き続き良好なマーケットと考えられている。

図1 GDP成長率

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272017 2–3

URA(シンガポール都市開発庁)が定期的に発表している国土利用計画マスタープラン(最新版は2014

年)では、環境に配慮した住宅・公共空間の整備、職場を国内で分散化させる「職住接近」の実現、交通アクセスの改善などが明確に盛り込まれており、まだまだ大きな建設投資が見込まれる市場と言える。向こう5年程度の間に見込まれる代表的な案件としては、チャンギ空港の再拡張(ターミナル5、図3)、マレーシア高速鉄道開通に伴うジュロンイーストエリアの再開発、タンジョンパガーのコンテナターミナルの移設・再開発などが挙げられている。数年前まで計画的に主に都市部で開発されてきた高級コンドミニアムや商業施設の新築工事は、若干頭打ちの傾向が見られる一方、日本と同様高齢化が進むシンガポールでは、最先端の施設を備えた病院や医療研究施設の新規建設需要も非常に高く、今後も多くの発注が見込まれている。こういった高い技術力と実績を必要とされる分野においては、日系の建設会社が日本国内で培った技術力と経験を活かせるため、是非受注に繋げていきたいと考えている。地下鉄の延伸工事も引き続き行われており、最北端ウッドランズから島内を南北に縦断しマリーナ地区を経て海岸沿いをイーストウェストラインと並

行して東西に走る「トムソンイーストコーストライン」、郊外と都心部を直結させる「ダウンタウンライン」なども完成に向けて日系の建設会社をはじめ各社鋭意施工中である。また、国土が狭小なこの国では、土地の有効活用は重要な問題であり、一度建設した大型商業施設やオフィスビルも絶えず改修や補修を繰り返しながら使用していくことになるので、今後は新築工事のみならず、このような改修や補修工事も大きなマーケットとして育っていくことが見込まれる。 BCA(シンガポール建築・建設庁)が公表している向こう5年間ほどの建設投資見込額は、260億ドルから350億ドルほどとなっている。この数値は近年になく低迷した2015年の270億ドルをボトムラインとして、この数値以上は達成したいという当局の意気込みが感じられる数値となっているが、建設投資額の落ち込みが景気の後退を招かないよう、政府もHDB(公共集合住宅)の建設や上下水道・交通インフラの整備など、まだまだ国民の暮らしの向上のために必要とされている公共投資を積極的に実施していくものと予想される。

4. 最後に 日系建設会社が、国外で仕事をする際によく言われることが、ローカルの建設会社と比べて若干価格は高いが、品質の優秀さと工期遵守を高く評価され受注に至るということである。ただ、シンガポール政府が打ち出す生産性向上のための数々の施策は、われわれ日系の建設会社にとっても十分に参考になるものが多くある。最近、日本でもようやく普及してきた感のあるBIM(Building Information Modeling)

と呼ばれる3次元デジタルモデルは、ここシンガポールでは一定以上の面積の建物の建築確認申請時

図3 Changi East Concept Plan (Perspective View)

出典:CHANGI airport group

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28 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

に必須となっており、機械化・工業化の手法とそれを推進する政策、現場ワーカーの諸外国からの受け入れ・教育などには日本の建設業界にとっても見習うべき点があるだろう。一方では、シンガポール政府が積極的に導入しているこのような先進的な施策の数々は、われわれ日系建設会社にとっては技術力を発揮できるチャンスと言える。BIMに関して言えば、日系建設会社の強みである詳細な作図能力と図面調整能力をフル活用

できれば、今後のマーケットにおいて大きな強みになり得る。建設業の特徴は単品生産である。そのため技術やマネジメント手法においても日々イノベーションが求められている。先輩方から受け継いできた素晴らしい伝統を大事にしつつも、研鑽を怠ることなく、シンガポールの建設業の長所もしっかりと吸収して業界全体ひいてはシンガポール全体の発展に寄与していきたい。

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特集 フィリピン宇野 俊貴 [清水建設(株)国際支店マニラ営業所 事務長]/マニラ支部

1. 経済概況 2015年の実質GDP成長率は前年の6.2%から若干下回ったものの、5.9%となり、好調を維持していると言える。経済成長の主因はさまざまであるが、フィリピン人海外出稼ぎ労働者(OFW:Overseas

Filipino Workers)からの送金や、各種分野で拡大しているビジネス・プロセス・アウトソーシング産業の伸びによるところが大きい。フィリピンの人口は1億人を超えるが、OFWは世界中に1,000万人いるとも言われ、2015年は前年比4.6%増の約258億ドルと過去最高を更新した(送金元は、1位が米国、続

いてサウジアラビア、アラブ首長国連邦、シンガポール、英

国、日本)。この送金が国内消費に繋がり、フィリピン経済を支えている。一方で2015年の輸出は前年比5.1%減の586億4,800万ドル、輸入は3.4%増の666億8,600万ドルで、貿易赤字は前年の27億2,500万ドルから80億3,800万ドルへと拡大した。輸出を品目別に見ると、全体の44.2%を占める電気機器・同部品は12.2%増の259 億1,900万ドルと好調で、中でも過半を占める集積回路が17.8%増と牽引した。続いて12.3%を占める機械・同部品(コンピュータなど、事務器関連を含む)は16.5%減の71 億9,400万ドルとなった。同品目の仕向け地を国・地域別に見ると、23.1%を占める中国向けが30.7%

減、11.7%を占める香港向けが15.6%減となるなど、世界経済減速の影響を受けた。このような中で、2016年6月に就任したロドリゴ・ドゥテルテ新大統領は、インフラ支出をより加速させGDP比7%を目指すとしており、また民間企業による建設投資は、コンドミニアムなどの住宅開発や地場不動産開発大手が商業施設の大型開発計画を発表するなど、今後も堅調に推移すると見られる。

2. 諸問題 一方で、この高い成長率の堅持の妨げとなり得る諸問題をフィリピンは長年にわたって抱えている。まず法整備の問題が挙げられる。アメリカ統治の影響もあり、法の存在自体は世界的に見ても遅れているわけではないが、たとえば一部の高官の恣意的な解釈により法律が捻じ曲げられ、企業が損害を被ることが多々ある。また贈賄が絶えないなど、昨今の世界の流調であるコンプライアンス遵守と相反する状況が続いている。 法やその運用の改善が特に求められているのはVAT還付においてである。フィリピンは経済特区庁(PEZA:Philippine Economic Zone Authority)などの法定機関による優遇制度により、外国企業の誘致に積極的に取り組んでいる。法人税の減免や海外からの機械設備・部品・原材料に対する関税の免除などを優遇する制度であるが、この還付がなかなか進まない。歳入庁内部の問題、関係省庁の連携の不備などが大きな原因であるが、優遇とは真逆のこのような状態が続けば、外国企業は進出するどころか、撤退さえ検討するようになる。 交通インフラの整備も大きな課題である。フィリピン国内の新車販売数は20万台を超えたが、これにより首都圏を中心に渋滞の激しさが増している。これを解決するには幹線道路などの整備が不可欠であるが、計画や実行の大きな動きは具体的には見られない。建設ビジネス展開のためにも、これらの諸問題の早急な解決が求められる。

3. アジアインフラ投資銀行加盟の影響 ここで中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)について記しておきたい。フィリピンもAIIB

に加盟しているが、米格付け会社フィッチ・グルー

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30 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

プ傘下の市場調査会社BMIリサーチのリポートによると、フィリピンはAIIBから年間2億~5億ドル(約235億~587億円)の融資を受け、インフラ整備、特に港湾や鉄道などの運輸インフラ事業を進めるだろうと予測している。これにより中国企業が存在感を示し、大型インフラ事業の受注で有利な立場になるのは確実で、他国企業が官民連携(PPP)事業から締め出される恐れがあると警告している。実際、フィリピンのPPP事業を管理するPPPセンターによると、これまでに認可された事業は16件だが、現時点で中国以外の外国企業が参加する案件は4件にとどまっている。またBMIリサーチは、近く始動する南北鉄道の南線と将来的に期待されるマニラの地下鉄事業は、中国企業または中国政府の資金で実施される見込みであることを付け加えた。日本の建設会社にとっても非常に厳しい状況と言える。そのような中、2016年10月、安倍首相はドゥテルテ大統領と日本で首脳会談し、2017年1月にもフィリピンを訪問した。ドゥテルテ大統領は折に触れて中国寄りの発言をしているが、元々親日家であることも公言しているため、この短期間での再会談で信頼関係構築がさらに進めば、日系企業の進出や公共工事の安定的な受注に繋がることも期待される。実際、安倍首相はフィリピンに対し今後5年間で1兆円規模の経済協力を行っていくことを表明し、また日本政府はドゥテルテ大統領の地元であるミンダナオ島でのODAによる農業援助を検討している。両政府間の親密な関係を維持することによって、日系企業のアピールや進出に繋がることを期待したい。

4.中期的に有望な事業展開先として国際協力銀行(JBIC)が2016年12月に発表した製造企業の海外事業展開に関する調査(第28回)で、

フィリピンは中期的(向こう3年程度)に有望な事業の展開先として世界8位となった(調査は、製造業で原則として海外現地法人を3社以上有する企業1,012社を対象

に、2016年7~9月に実施。回答率は62.9%)。フィリピンを有望視する企業のうち、49.0%が実際に事業計画を有しており、調査対象国の中で割合が最も高かった。また有望視する企業の約8割は、フィリピン市場の成長性を評価している。1億人を超える人口や23歳という平均年齢、低い労働賃金、高い英語力も評価されており、ここ第2四半期は7%台と東南アジア諸国連合(ASEAN)で最高の経済成長率を維持する将来性に注目度が高まっている。有望と回答した企業の中では、市場の成長性を評価する企業が37

社(77.1%)と最も多く、2014年度の調査以来、上昇が続いている。以下、安価な労働力(20社)、市場の現状規模(11社)、組み立てメーカーへの供給拠点として(10社)、第3国への輸出拠点として(9社)が続いた。フィリピンは、中期的に事業を強化・拡大することを考えている企業の比率が59.5%で、前年度から

中期(今後3年程度) 長期(今後10年程度)順位前年 国・地域 回答

社数得票率(%)

順位前年 国・地域 回答

社数得票率(%)

1 (1)インド 230 47.6 1 (1)インド 226 62.1

2 (2)中国 203 42.0 2 (3)中国 143 39.3

3 (2)インドネシア 173 35.8 3 (2)インドネシア 137 37.6

4 (5)ベトナム 158 32.7 4 (4)ベトナム 119 32.7

5 (4)タイ 142 29.4 5 (5)タイ 89 24.5

6 (6)メキシコ 125 25.9 6 (8)メキシコ 59 16.2

7 (7)米国 93 19.3 7 (7)ミャンマー 58 15.9

8 (8)フィリピン 51 10.6 8 (9)米国 55 15.1

9(10)ミャンマー 49 10.1 9 (6)ブラジル 48 13.2

10(9)ブラジル 35 7.2 10(11)フィリピン 33 9.1

複数回答あり出所:JBIC

表1 有望な事業展開先(2016年度)

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312017 2–3

2.6ポイント上昇した。ASEANの主要5カ国(フィリピン、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア)の中では、インドネシアの62.2%に続き、2位となった。他国が低下傾向にあるのに対し、フィリピンは上昇傾向が続いている。主要業種別に中期的に有望な展開先を見ると、フィリピンは自動車では8位、電機・電子では7位、一般機械では9位につけた。先にも述べたが、フィリピンは低い労働賃金、人

口、平均年齢、英語力と、非常に魅力のあるマーケットである。この国が抱える前述の諸問題が解決に向かいさえすれば、日系建設業者にとってもより魅力のある市場と変貌していくであろう。

〈参考および引用〉日本貿易振興機構ホームページフィリピン日本人商工会議所月報The Daily NNA フィリピン版

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32 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

特集 ブルネイ大澤 達雄 [飛島建設(株) 国際支店 ブルネイ事務所 所長]/ブルネイ支部

1. ブルネイの経済現況1)長引く原油価格の低迷の影響

ブルネイ経済はこれまで石油産業において成り立ってきた。政府歳入の80%以上を占める原油取引は、今までに潤沢な政策余剰金を生み出し、東南アジア諸国の中でもシンガポールに次ぐ高いGDP、豊かな福祉政策を継続することができていた。しかし、ここ数年のブルネイ経済は、長引く原油価格低迷の影響を受け停滞状況にあった。原油価格の下落に伴う歳入不足は2014年後半から顕著となり、その結果、GDPも2013年から2%程度のマイナス成長が続いている。しかし、ようやく2016年度は政府の歳出抑制政策がその効果を出し始め、実質GDP

も黒字へ反転する見通しと言われている。

2)進まない外国企業誘致/産業の多角化

多くの産油国と同様に、ブルネイ政府も石油産業に依存する産業構造を変えるため、2001年に経済開発委員会(BEDB)を設立し、外国企業の誘致や、イスラム法に沿ったハラル産業の促進など、石油産業以外の新たな産業の育成および多角化に取り組んでいる。現在、工業団地の整備などもBEDB主導で行われているが、現時点で民間外国企業の誘致・参入は多くない。ブルネイ人の約60%が公務員と言われているが、先に述べた原油価格の低迷により、政府の歳出予算に占める公務員給与の負担が大きくなり、そのために政府は、公務員の新規採用を抑制し、大学新卒者など若者の就職先として、公務員から民間企業への就職を働きかけている。しかしながら、石油産業以外に大きな産業がまだ育っておらず、産業の多角化も大きく前進しない中で、若者の雇用、失業問題が徐々に浮かび上がってきているのが現状である。

2. 昨今の建設市場の動向ブルネイでは、自動車、電気製品、食品などほとんどの物は、近隣諸国からの完成品の輸入で賄っているため、製造業の大半は中小企業であり、建設業および建設関連産業は、石油産業に次ぐ主要産業と言える。そうした中で、昨今の原油価格の低迷は、ブルネイ建設市場にも大きな影響を与えている。

1)3つの大型橋梁プロジェクト 

同国の超大型プロジェクトとして3つの橋梁工事が2013年から進行している。その中でも中国と韓国の企業が受注した一番大きなプロジェクトであるテンブロン橋プロジェクト(写真1)は、全長30km

におよぶ陸・海上橋梁・高架橋を建設するもので、総事業費約1,280億円の大プロジェクトで2019年の完成を目指している。そのほかにも、ムアラ港およびバンダー市内の水上住宅近くにも2本の大型橋梁プロジェクトが進行しており、3本の橋すべてを合わせると総工費約1,600億円になる。

写真1 テンブロン橋プロジェクト

2)そのほかの公共工事の現状

超大型プロジェクトが進行している反面、ブルネ

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332017 2–3

イ政府は、2015年度より歳出削減をより厳しく実行しているため、新たな公共工事の発注を極端に控えている。その結果、3本の大型橋梁プロジェクト以外に目立った公共工事の発注はなく、建設業界全体ではこの2~3年の市場は非常に受注状況が冷え込んでいる状況にある。そのため、中小の建設会社のみでなく、同国では大手と言われる建設会社もブルネイを撤退し、近隣国のマレーシアなどへ事業拠点を移し始めている。

3)民間工事の動向

2016年度は、公共工事が先細る中で、最近の資材価格の安値安定傾向や建設価格の下落が、民間工事の発注を後押ししている。特に、コンドミニアム、ショッピングセンターなどの工事の発注が目立っている。しかし、人口約40万人のブルネイにおいては、今後の外国企業の誘致などを見越した過剰なコンドミニアム建設などの先行投資は、投機として魅力が薄く、政府が推進する外国企業誘致の進捗次第では、

今後、民間工事においても工事が減少していくかもしれない。

3. 2017年の見通しここ数年、石油産業依存の経済からの脱却、産業の多角化を目指しているブルネイ経済ではあるが、2016年末においては、まだ、石油産業に重きを置く経済の実態が続いている。2016年9月発表のIMF

レポートによれば、ブルネイ政府の産業の多角化が計画通り進捗しても歳出超過は2020年まで続くと予想されている。しかし、2016年度には、景気は底を打つ見通しで、今後2019年まで緩やかな成長が続いていくと見通している(表1)。  建設市場においては、ブルネイ政府が期待する、中国からの投資や民間工事が短期的に市場を支えていくだろうが、中期的には公共工事と民間工事の両輪が一緒に牽引しないと、まだ建設市場は回復しないと思われる。現在の政府公共工事計画によれば、2017年度も公共工事の発注は期待できず、2016年

Revenue (Oil & Gas) Revenue (Others)

Total Expenditure

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021

Overall Financial Balance

Brunei Financial Revenue & Expenditure

Actual (Brunei Govt Official Announcement)

BND Million

12,000

7,000

2,000

-3,000

-8,000

Projection (IMF)

Oil & Gas Production7,737

Other Services3,050.1

LNG & Methanol Manufacturing2,382.7

Government Services2,135.9

Financial Services922.9

Wholesale & Retail Trade900

Other Industries789.4

Agriculture, Forestry & Fisheries196.1

Brunei 2015 GDP by Economic Activity (BND Million)

表1 IMFによるブルネイ国家財政予想

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34 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

度並みに冷え込むと予想され、市場全体の回復は2018年以降になる見通しと言われている。

4. まとめ国土も市場も小さいブルネイにとって、その経済情勢はこれまでも原油価格や近隣諸国の影響に大きく左右されてきた。現在の原油価格の下落は、今後ブルネイ経済が、政府が進める政策にうまく方向転換できるか、石油産業に代わる産業の育成をより推進させることができるかどうかなど、まさにブルネ

イ経済における転換期を迎えていると言える。特に、政府歳出の多くを占める公務員給与など人件費の抑制や、所得税の控除や、医療費、教育費の無償化など、手厚い社会福祉の見直しも政府歳出を抑えていく上で、今後見直しが必要と言われている。現在、非常に冷え込んだ状況にあるブルネイの建設市場は、今後上述のような、政府歳出や諸制度の見直し、政策転換などの後、また、現在進行している大型プロジェクトが完成する2018~2019年以降に、徐々に回復していくものと思われる。

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特集 スリランカ堀川 祐毅 [大成建設(株) スリランカ連絡所 連絡所長]/コロンボ支部

1. 政治概況2015年1月の大統領選挙で与党SLFP(スリランカ

自由党)が分裂し、野党連合の支援を受けたシリセナ新大統領が誕生した。2015年8月に国会総選挙が実施され、シリセナ大統領の支持を受けたUNP(統一

国民党)が大躍進し、225議席中106議席を獲得した。UNPのウィクラマシンハ党首が新首相に就任し、UNPを中心とする大連立政権が誕生している。 新政権では国家政策・経済省が新設され首相が大臣を兼務し、国家戦略マスタープランを策定し、①外国企業の投資誘致などによる新たな雇用創出、②免税特権の見直しなどによる健全な財政運営、③国営企業の構造改革、④貿易協定を活用した市場の獲得、を経済政策の柱としている。 外交面では、前政権が親中路線偏重であったのに対し、新政権は中国、インド、パキスタン、日本をアジアの重点国と位置付け、バランスの取れた外交を進めている。また、2009年5月の内戦終結後に人権問題で関係が悪化した欧米とも関係改善を図っている。 2015年は、「政権交代の年」だったが、それに続く2016年は「政策策定の年」となった。2017年は、いよいよ「政策実行の年」となることが期待されるが、財源不足、地域間格差などの問題が山積している中、2017年に地方選挙の実施が予定されており、新政権の実行力が試される年になると思われる。

2. 経済概況 内戦終結後の2010~2012年までスリランカの実質GDP成長率は7~8%と高い水準を維持する一方、インフレ率も6~7%と高い水準で推移していた。2013~2015年の実質GDP成長率は4%程度でやや鈍化してきているが、この間の平均インフレ率は3%程度と低い水準となっている。

貿易赤字は2011年に急速に増えているが、その後、観光収入や海外出稼ぎ者の本国送金などの増加により2015年の経常赤字は、2011年の約4割まで縮小している。スリランカ政府は、国家戦略マスタープランの実施を進めていくことで、2020年までに財政赤字の対GDP比を3.5%以内に押さえることを目標としている(表1)。

項目 2011年 2012年 2013年 2014年 2014年

ひとり当たりGDP ドル 3,129 3,351 3,610 3,853 3,924

実質GDP成長率 ドル 8.4 9.1 3.4 4.9 4.8

失業率 % 4.2 4.0 4.4 4.3 4.6

インフレ率 % 6.7 7.6 6.9 3.3 0.9

貿易収支 100万ドル ▲9,710 ▲9,417 ▲7,609 ▲8,287 ▲8,430

観光収入 100万ドル 830 1,039 1,715 2,431 2,981

労働者の本国送金 100万ドル 5,145 5,985 6,407 7,018 6,980

経常収支 100万ドル ▲4,615 ▲3,982 ▲2,541 ▲2,018 ▲2,000

外貨準備高の輸入カバー月数 カ月 4.0 4.4 5.0 5.1 4.6

財政赤字の対GDP比 % ▲6.2 ▲5.6 ▲5.4 ▲5.7 ▲7.4

対ドル為替レート(期中平均値) LKR 110.6 127.6 129.1 130.6 135.9

政策金利(期末値) % 7.0 7.5 6.5 6.5 6.0

表1 スリランカ主要経済指標

3. 2国間関係 1951年のサンフランシスコ講和会議でセイロン(当時)代表として参加したジャヤワルダナ財務大臣(後に大統領)は仏陀の言葉を引用し、日本への賠償請求権を放棄し、日本の国際社会復帰を後押した。翌1952年に日本とスリランカは国交を樹立し、2012年は国交樹立60周年を迎えている。 このような歴史的背景と共に、同じ仏教国であるということから、スリランカは伝統的な親日国である。

2014年9月に、安倍総理が総理として24年ぶり

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36 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

にスリランカを訪問し、2015年10月にウィクラマシンハ首相が訪日、その時「日・スリランカ包括的パートナーシップに関する共同宣言」が取り交わされ、これに基づき各種対話が行われている。

2016年は両国政府要人の往来、各種対話が活発であった。シリセナ大統領は2016年9月に、伊勢志摩で開催されたG7サミット・アウトリーチ会合のため訪日し、安倍総理との首脳会談が行われている。建設・不動産業に関係するものとしては、2016

年6月に日本の国交省とスリランカのメガポリス・西部開発省による「日本・スリランカ建設業ラウンドテーブル」、2016年10月に日本住宅・建築・都市分野国際交流協議会主催による「日本・スリランカ都市開発セミナー」(写真1)が開催されている。

写真1 都市開発セミナー

また、投資環境を改善・整備し日本からスリランカへの民間投資促進を目的として、2016年6月に官民合同フォーラムが在スリランカ大使館・スリランカ商工会とスリランカ投資庁・関係政府機関で開催され、既にスリランカに進出している日本企業の問題解決もセットで協議・交渉が行われ成果を上げている。

4. 建設市場の動向 日本はスリランカに対してODA年次供与を行っており、港湾、空港、高速道路といった運輸交通インフラ案件を中心として、毎年400~500億円の資金供与(無償・有償・技術供与)がなされている。

2015年の政権交代による政治の混乱で新ケラニ橋、バンダラナイケ国際空港2期拡張などのJICA

借款案件の調達がずれ込んでいたが、2016年にそれら案件の調達手続きが動き出した。今後は、引き続き運輸交通インフラに加え、発電所、工業団地といった産業基盤インフラ整備がスリランカの持続的な経済成長のため必要になってくると思われる。また、2016年の新たな動きとしてコロンボ都市圏の都市開発マスタープランがメガポリス・西部開発省により策定され、スリランカ政府は日本でも投資セミナーを開催して民間投資を呼びかけている。既に日本企業が現地企業と組んでホテル・商業施設などの不動産開発事業に乗り出しており、2017年以降は従来のODAに加えて民間資金による開発案件が増えていくものと思われる。スリランカは8つの世界遺産など観光資源が豊富なことから、2010年にニューヨークタイムズ紙がスリランカを「訪れるべき国」の第1位に選出、2010年の年間外国人観光客数は約65万人だったが、2015年には約180万人に急増しており、スリランカ政府は2017年に約250万人まで増やすことを目標に掲げている。既にホテル客室数が追いついていない状況であることから、現在ホテル・不動産開発事業は活況を呈している(写真2)。

5. 終わりにスリランカのひとり当たりのGDPは現在4,000ドル近

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372017 2–3

くに達しており、発展途上国から中進国、先進国へと継続的な経済成長をしていくためには、労働集約型の産業からより生産性の高い産業構造に改革していくことが必要であると思われる。スリランカは地政学的に比較優位性があり、「インドへのゲートウェイ」であるばかりではなく、東南アジアから欧州、中東、アフリカまでの市場をカバーできる物流ハブになる潜在力があり、この強みを生かせるような産業を誘致することで、将来、有望市場として発展していくことが期待されている。

写真2 海外直接投資による民間開発案件の施工状況

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38 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

特集 インド大名 真一[三井住友建設インド社]/インド支部

1. インド経済の現況と今後の見通し2014年5月、首相に就任したナレンドラ・モディ

氏は、就任当時の公約として、行政手続きの効率化、腐敗防止、税制度の明確化などに向けた施策を打ち出し、外国投資家に“Make in India”を推奨した。親日家として知られるモディ氏は、日本との交流も頻繁に実施し、「日インド特別戦略的グローバル・パートナーシップのための東京宣言」と題する共同声明への署名、2019年度までに日本の対インド直接投資とインドに進出する日系企業数を倍増する目標を設定、3.5兆円規模の日本からの官民投融資を実現する意図も表明した。 このような状況下、2016年11月に公約の一環で、蔓延する汚職や賄賂、偽造紙幣や不正蓄財の根絶を目指して、高額紙幣(500ルピー札および1,000ルピー札)

の使用を4時間あまりの間に突如として禁止した。過去にも1946年と1978年の2回にわたり高額紙幣使用を禁止した経緯はあるが、当時は紙幣価値が大きすぎたことにより混乱は微小であった。今回の使用禁止措置による影響は、現在も続いている一方で、一時的には悪影響をおよぼすと見られているが、中長期的な視点では評価している専門家が多数を占めている。 2017年度のインド経済は、高額紙幣問題が尾を引き、上半期においては消費が伸びない懸念もあるが、下半期には消費が持ち直し、GDP成長率も7%

台半ばまで回復すると予想される。消費については物価が上昇基調で推移するものの、2016年度に実施された10年ぶりの公務員昇給やモンスーン降雨による農業生産の回復も相まって、消費押上げ効果が顕在化することにより、堅調に推移すると見られている。また。政府部門は2017~2018年度政府予算が、高成長に伴う税収の増加によって拡充される

ものと見込まれており、政府消費と公共投資は引き続き景気の支えとなると予想されている。輸出においても緩やかな増加傾向が続く中、民間投資は回復に向かうと言われている。銀行は、不良債権問題の解消には時間がかかるものの、高額紙幣廃止に伴う預金額の増加を受けて、貸出姿勢が前向きになる可能性が大きく、税制面での物品・サービス税(GST)

の導入によって複雑な間接税体系が一本化され、ビジネス環境が改善されることも民間投資の追い風となると見られている。

図1 インドの実質GDP成長率(需要側)

12%

10%

8%

6%

4%

2%

0

▲2%

▲4% 2015(四半期)

実質GDP成長率2016年度:7.0%2017年度:7.5%2018年度:7.3%

(前年同月比)

民間消費貴重品

政府消費純支出

資本投資統計誤差

在庫投資実質GDP成長率

2016 2017

予測

2018 2019

資料:CEIC、ニッセイ基礎研究所

2. インドの建設事情前述のモディ氏が推奨する“Make in India”については、投資促進・イノベーション育成、人材育成、知的財産保護、高品質の製造インフラ構築を実現させることが必須である。〈新たなプロセス〉・ ビジネスのしやすい環境づくりを実現し、中央政府全部門の行政サービスの窓口を eBiz(全国電

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392017 2–3

子政府計画)に統合。・ 免許制度と規模の緩和を実現し、産業ライセンスの有効期間を 3年に延長、環境クリアランス取得のオンライン化。

〈新たな体制〉・ 投資家に対応する専門家チームの組成〈新しいインフラ構築〉・ スマートシティの開発・ DMIC(デリー・ムンバイ間産業大動脈構想)や

CBIC(チェンナイ・バンガロール間産業回廊)などの産業大動脈の開発、NICA(国家産業回廊局)の設置

〈新分野の投資規制緩和〉・ 防衛産業、建設業、鉄道の高付加価値産業に対する投資額の上限や規制を緩和

上記施策の目標実現に向けた取り組みに、①アンドラプラデシュ州との間で産業開発に関する協力覚書に署名し、同州への日本企業進出や同州における工業団地整備についての支援などを合意、②ラジャスタン州との間で同様の協力覚書に署名、同州へのさらなる日本企業進出支援やニムラナ工業団地およびギロット工業団地への日系企業誘致に尽力することに合意、③マハラシュトラ州との間で同様の協力覚書に署名、スパ工業団地への日本企業誘致を支援することに合意、が掲げられている。

ODA案件として調査対象となっている道路インフラ整備案件は、以下となっている。・ ムンバイ湾横断道路・ デリー東部外環道路 ITS導入事業・ ベンガルール外環道路 ・ ベンガルール ITS事業・ チェンナイ外環道路

・ シラジガートバイパス 他

また、上記構想のひとつとして、2016年11月の日印首脳会談にて、ムンバイ─アーメダバード間500kmを結ぶインド初の高速鉄道に、日本の新幹線方式が導入されることが正式決定した。現状は、2018年度中の着工、2023年の開業となっているが、先行きは不透明である。インド国鉄が2009年に作成した「インド鉄道ビジョン2020」によると、インドは2020年までに約14兆ルピーの鉄道関連投資を計画しており、一層の市場拡大が見込まれる。主な投資項目としては、軌道の複線化や電化から車両の調達まで、多岐にわたる。インド鉄道の駅は、旧植民地時代に整備されたものが多く、再開発および近代化が急務であり、官民連携(PPP)などの枠組みを有効活用し、400駅を近代的な施設に更新する計画もあるという。 

項目 規模

複線化 1万1,000km

ケージの転換 9,500km

新線敷設 2万4,000km

電化 1万2,000km

車両調達:貨車 25万5,227車両

車両調達:ディーゼル機関車 4,644車両

車両調達:電気車両 3,726車両

車両調達:客車 4万3,968車両

世界クラスの駅建設 38駅

高速鉄道の敷設 2,000km

出典:「インド鐵道ビジョン2020」を基に作成

図2 2020年までに投資する項目と規模

日本の鉄道技術の魅力は、車両や部品などの技術力だけではなく、運行ノウハウやコスト管理、車両維持システム、駅周辺の不動産開発などにもある。今後は、高速鉄道事業にとどまらず、より市場規模

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40 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

の大きな都市鉄道で、駅開発なども含めた総合的な鉄道開発事業への日本企業の参入が期待される。将来的なインド建設市場は、2025年までに1兆ドルに達するとも言われており、日本を追い抜き、世界3位になると見られている。

3. 今後のビジネス展開インドにおける現状の課題および今後の魅力については、以下の通りである。〈課題〉・ 投資関連制度の問題 既存投資先の同意あるいは解散時の諸手続きの問題など、外国投資企業にとってきわめて規制色の強い投資関連法制度は、対インド投資を躊躇させる要因となっている。

・ インフラ整備の遅れ インフラ整備の遅れに関しては、頻繁に指摘されており、電力不足は依然として深刻であり、また港湾・鉄道・道路といった物流面においても大きな課題を残している。

・ 煩雑な許認可手続きおよび税制 何種類、何段階にもわたる煩雑な手続きが直接投資流入の妨げになっている。

〈魅力〉・ 安定的な経済成長への期待 10億人を超える巨大な人口を考慮すると、年間成長率 5~ 8%で推移することで、計り知れない国内市場の潜在力を有していることになる。

・ 経済化・経済自由化に向けて着実な前進 金融市場や証券市場の分野では、インドの自由化は他国と比しても先行している状況にある

・ 人的資源が豊富 インドにおけるソフトウェア産業の隆盛に反映さ

れているように、英語を操り、かつ理数系の高等教育を受けている人材の厚み、という点で期待が大きい。

このように、一長一短はあるが、ポテンシャルが高いという点で、魅力的な市場であると言える。一方で、PM2.5による環境汚染の問題、食材入手がまだまだ困難である点、急激な投資増加傾向にあるアーメダバード州が禁酒州であるという点などなど、生活面での課題は大きいものがある。  最後に、インドからアフリカ向けに輸出を実施している日系企業が増加している点について触れてみる。地理的な近接性や歴史的な経緯より、アフリカには多くのインド系人口が存在する。とりわけ南アフリカは、インド系移民の歴史が長く、アフリカの金融センターとして著名なモーリシャスは、人口の7割近くがインド系移民である。こうしたインド系人口のネットワークを背景に、インドからアフリカ市場に進出する企業は意外と多く、また、インドと地理的に近い東アフリカを中心に事業が展開されている。インド系企業がアフリカに面的に事業展開していることから、日系企業は、インド系企業と連携することで、迅速にアフリカ各地に事業展開できるものと期待する。インド系住民のネットワークに加えて、インド市場向けの低価格製品をアフリカに展開できるという観点からも、インド系企業との連携は魅力があり、このような背景から得た経験や知識により、近い将来、日系企業が本格的な進出を検討し、実行に移すことも考えられる。

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特集 エジプト野瀬 敏行[大日本土木(株) カイロ営業所]/カイロ支部

1. 政治・治安情勢5年前、世界を揺さぶった中東の民主化運動「アラブの春」。しかし民主化は失速し「アラブの春」がもたらした政治と経済の混乱、これが今のエジプトである。中東・アフリカ地域で最大の人口を誇り、アラブ世界における政治、地勢、文化の中心地、アラブ連盟本部がカイロに所在しているエジプト。地域の安定と平和と繁栄の中心国家でありながらも、この数年、内政に大きな問題を抱える。

2014年6月、シシ候補の勝利が公式発表されシシ新大統領が誕生した。

2015年1月、安倍総理エジプト訪問。両国の経済関係を一層高いレベルに上げる絶好の機会となった。しかしシリアでの邦人殺害事件が大きな影となり、10月にロシアのチャーター便が墜落、テロの脅威に晒される幕開けとなった。

2016年3月、シシ大統領日本訪問、安全保障分野、教育、社会発展分野などで複数の合意がなされた。5月にパリ発カイロ行エジプト航空機が墜落、警官8名が射殺されるテロ事件が発生。12月には、カイロ隣県ギザで警察車両爆破、カイロ中心部コプト教会の爆破事件と相次いで発生した。治まりかけたと思われる頃に発生するテロ事件、それは過激派組織IS(イスラミックステート)であり反政府組織であり、貧困、格差に失望した若者によるものである。中東和平の要国エジプトは内政、外政に難しい舵取りを行っていかなければならない。

2. 経済2016年5月、財政赤字目標達成はVAT導入がカギとされ、内閣で承認になったが導入時期は未定である。

6月、シシ大統領就任から2年が経過、支持率は91%ながら国家財政は厳しい状況下にある。身近な例では、観光客数は前年比50%以上、日本人観光客は90%以上に落ち込んだ。また、新たなガス田などの好材料もあるが、外貨不足による輸入減少が続いている。

8月、IMFはエジプト政府の財政・経済改革を認めて120億ドルの支援を行うことを決定した。シシ大統領は国民に改革の必要性を訴え、電気料金の値上げ・闇金融業者の摘発・VAT法議会承認などの改革の動きを示した。

9月、遂にVAT導入、観光収支などサービスが大幅に悪化、国内送金も減少、公定価格や食料品価格の上昇で財政・経済改革の痛みが現れ始めている。

10月、サウジアラビアから27億ドル支援を取り付けたが、外貨輸入決済状況は改善が見られず、ポンド切り下げは間近との思惑が出始めて、ブラックマーケットではポンドは最安値を更新した。

11月、エジプト中央銀行はポンドを完全変動相場制に移行、1ドル=18ポンド台に下落した。シシ大統領は国民に改革の必要性を訴え、電気料金の値上げ、ブラックマーケット業者摘発、VAT法承認などの動きを自ら示した。財政収支改善政策を進めると共に経済成長、再建を念頭に昨年度から大型開発プロジェクト、外国投資呼び込みを図ってはいるが、いつその恩恵を国民が実感できるのか、国民は耐えながら見守っている感がする。明るい話題をひとつ。エジプト航空は日本へ週1

便のチャーター便を運航開始した。エジプトはおもてなしする民族ではないが、親日で観光国家である。どんどん来てもらい少しでも景気の回復になってくれればと願う。

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42 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

3. 2017年建設市場動向さて、資料を見るとてんこ盛りの計画が記載されているが、エジプト経済悪化傾向の中、どれだけのプロジェクトが遂行されているのか。着手はしているがいずれも長いスパンで見守るしかない。

1)新首都建設構想

面積約700km2、総工費450億ドル、人口約500万を内包した新都市の建設構想である。居住地区、政治経済地区、国際空港、太陽光発電施設、教育施設、病院・クリニック、ホテル、道路建設が予定されている。第1フェーズを2016年1月から2年以内に完了させると発表し、中国国営建設会社とMOU署名を行い、既に

ユーティリティーラインの建設は開始されている。新首都建設構想

2)SCZone(スエズ運河地域開発プロジェクト)

スエズ運河北端の①東ポートサイド、②中流域のイスマイリア、③南端のスエズ・アインソフナの3区域が指定され、おのおのの地区の地理的条件・周辺環境などを考慮して、物流、海運関連事業、情報通信、エネルギーおよび製造業の5分野が考えられている。

3)運輸セクター関連

①港湾関連

・アレキサンドリア港、ディケーラ港、ダミエッタ港(総工費:7億 5,000万ドル)

②鉄道関連・ エル・ディケーラ─ 10月 6日市(6th of October

City)間貨物線建設:全長 200km(総工費:2億ドル)

・ ソフナ─ヘルワン間貨物線建設:全長 140kmの貨物線建設(総工費:1億 4,000万ドル)

・ アレキサンドリア─アスワン間高速鉄道建設:全長 200km(総工費:3億ドル)

・ ルクソール─ハルガダ高速鉄道建設(総工費:2億

ドル)

     4)道路セクター

・ アレキサンドリア─アブ・シンベル道路建設計画(総工費:27億 5,000万ドル)

Quoted by Central

Bank(Selling)11月末 10月末 Notes

Egyptian Pound 18.1462 8.7900

Libyan Dinar 1.4306 1.4087

Sudanese Dinar 6.5131 6.5131

Israel Shekel 3.8390 3.8490 Representative Rate

Jordan Dinar 0.71 0.71

Lebanese Pound 1,514 1,514

表1 各国為替レート(対ドルレート)

図1 エジプト株価指数(EGX30)

3,000

資料:Macrobondより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

10,000

11,000

12,000

13/7 14/1 14/7 15/1 15/7 16/1 16/7(年/月)

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432017 2–3

上記計画のほとんどは、BOT/PPPなどでの実施を想定しており、資金手当てもまだ確定していないものが多く、実際の着工までには相当な時間が必要と考えられる。当面の動きとしては、①近年最大の開発計画である『スエズ運河地域開発プロジェクト(SCZone)』に関連したプロジェクト、および②新首都建設に関連したプロジェクトのふたつを軸に展開されるものと思われる。

5)日本供与

① 大エジプト博物館建設計画第 2期 (供与限度額:494億 900万円)

 2011年、2013年の2度の政変、治安悪化に伴い政変以前は年間1,400万人を超えていた海外観光客は半減し、116億ドルあった観光収入は半減以下に落ち込んだ。安定したかのように思えるシシ政権も、治安問題は引き続き観光産業に大きなリスクとなっている。しかし観光セクターはGDPの11%、雇用総数の12%以上を担う重要産業である。

② 電力セクター復旧改善計画 (供与限度額:410億 9,800万円)

既設の火力発電所の機器の更新、リハビリおよび予備的部品の供給により、火力発電所の発電設備容量を回復させると同時にプラント効率を安定的に維持・向上させ、電力供給の安定化と温室効果ガスの排出抑制を図り、エジプトの持続的成長と雇用の創出、気候変動の緩和に寄与する。

6)その他

① 住居 100万戸建設計画UAE建設大手社と2020年までに、全国13地区に

100万戸の住居を建設する契約を締結し、軍がその

記者会見を行った。住居は15~23万円で購入可能となり、銀行からの借り入れも手はずが整えられるという。このプロジェクトの主体は国家でなく「エジプト軍」で、100万人の雇用が生まれる。

② ロシアと原発建設計画に関する商業契約のすべての項目で合意原発は4基の原子炉からなり、各炉の出力は

1,200MW。原子力産業のエジプトでの設立の支援を提供するもの。

4. 今後の課題現在の人口は9,000万人、2030年には日本の人口を超えると予測される。日本とは真逆の人口層、将来のポテンシャルは非常に高いと長年言われ続けているが、圧政下で育った若者たちが行動を起こしたエジプトの変動「アラブの春」。今や民主化は失速し、政治と経済の混乱、さらには治安の悪化。政治に翻弄され経済改革がうまく機能しない国エジプト。途

シディ・クリル発電所 エルアトフ発電所 カイロ発電所

図2 電力セクター復旧改善計画

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44 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

上国に共通する市民生活の窮迫、貧困と格差、高い失業率などいろいろな課題を抱えているが、停滞せず足踏みせず、アジア、アフリカの国が改革を成し遂げている。目覚めよ、アフリカの盟主エジプト。

2017年はアメリカで新しい大統領が就任する。欧州各国で選挙が実施される。グローバル化した政治、経済、平和。エジプトは政治改革、経済改革、治安安定の正念場を迎えている。

5. 終わりに2016年4月にカイロに赴任したが、喧騒とゴミの

街カイロ、これだけは何十年も変わっていない。何故ゴミを外に捨てるのだと問うと、ゴミ拾って生活する人間のためだ、と言う発想。こういう身勝手な

屁理屈も正論となる国エジプト。ビジネスにおけるエジプト人との交渉では、時にそういう屁理屈もありかということを、われわれに教えてくれるエジプトでもある。

写真1  古いカイロの街並み。屋上には不法衛星アンテナが咲き乱れている。

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452017 2–3

特集 欧州柳 武[ヨーロッパ竹中 管理部長]/デュッセルドルフ支部

1. 欧州経済概況と見通し  ユーロ圏*1経済は一昨年に引き続き、緩やかな成長を維持している(実質GDP+1.7)。2016年7月に行われた英国のEU離脱投票により、同国向け輸出や企業の設備投資も抑制されると見られるため、2017年は実質GDPが+1.5%まで減速すると予想されている。また、2017年に実施される主要国における重要選挙の結果次第で、さらに経済に悪影響をおよぼすことも考えられるが、基本的には、雇用環境の改善を背景に堅調な個人消費が景気を下支えすると見られ、引き続き緩やかな回復基調が維持されるものと予想されている。 まず、個人消費面では、足元底堅い推移が続いている。雇用者報酬は増加が続き、雇用者数の増加幅も拡大している。失業率も7~9月期には欧州債務危機前の水準(10%)まで低下してきている。今後も引き続き、雇用拡大は持続し、所得環境の改善を背景に個人消費は底堅く推移し、景気の下支え要因となると思われる。次に、設備投資についても、緩やかな増加傾向にあり、設備稼働率は82.3%と高い水準まで上昇してきた。世界金融危機および欧州債務危機時に抑制されていた更新投資などの潜在需要の顕在化は当面続くと予想される。しかし、英国のEU離脱やその他の政治不安により、企業は投資に対し慎重な姿勢を強めると見られ、2017年にかけての投資の伸びは低いものにとどまるであろう。そして、政治面に目を向けると、米国の大統領選でのトランプ氏勝利の流れが、欧州にも波及する懸念が持たれている。今年春・秋にフランス大統領選およびドイツの総選挙が予定されており、EUおよびユーロ体制の大きな試金石となるだろう。直近ではイタリアでも改憲案に関する国民投票が否決さ

れ、首相が辞任に追い込まれた。こうした重要選挙をめぐる不確実性は、イギリスの欧州離脱(Brexit)

と共に企業や家計のマインドに悪影響を与え、実態経済を下押しする要因となる可能性もある。なお、英国においては先行き不透明な状況が続いてはいるが、良好な雇用・所得環境を背景とする個人消費の堅調が下支えとなり、急速な景気悪化は回避している。ただ、今後はEU離脱によるポンド安に伴い輸入インフレが影響し、消費者物価の上昇が予想されるため、消費を抑制する動きが出てきそうだ。製造業においては一昨年末から低調が続いており、国民投票後はサービス業でも大幅に慎重化した。英国における2016年の実質GDP成長率は+1.8%

と比較的高い伸びが見込まれるものの、2017年は同+1.1%まで減速すると見込まれる。

2011 2012 2013 2014 2015 2016(予想)

2017(予想)

ユーロ圏 1.5 ▲ 0.9 ▲ 0.3 1.1 2.0 1.7 1.5

EU 1.7 ▲ 0.4 0.3 1.6 2.3 1.9 1.7

ドイツ 3.7 0.7 0.6 1.6 1.5 1.7 1.4

フランス 2.1 0.2 0.6 0.6 1.3 1.3 1.3

イタリア 0.6 ▲ 2.8 ▲ 1.7 ▲ 0.3 0.8 0.8 0.9

英国 1.5 1.3 1.9 3.1 2.2 1.8 1.1

チェコ 2.0 ▲ 0.8 ▲ 0.5 2.7 4.5 2.5 2.7

ポーランド 5.0 1.6 1.3 3.3 3.7 3.1 3.4

ハンガリー 1.8 ▲ 1.7 1.9 3.7 2.9 2.0 2.5

ルーマニア 1.1 0.6 3.5 3.0 3.8 5.0 3.8

表1 欧州実質GDP成長率 (単位:%)

出所:International Monetary Fund

2. 欧州建設市場の現状と見通しそうした中、欧州の建設市場(EC19カ国*2:ユーロ

コンストラクト加盟国)は、Brexitの影響が懸念されていたが短期指標においては大きな混乱はなく、引き続き緩やかに成長している(表2、表3)。

2016年の事前予想においてはEC全19カ国の予

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46 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

想も前向きであり、新規・改修ともに住宅、非住宅、土木の予想も例外なく肯定的であったため期待は高かったが、いくつかの国や土木工事において予想をマイナス修正とした。結果として、EC19カ国の2016年度の建設投資高は1兆4,406億ユーロと一昨年より2.0%の成長となった。

* 1 ユーロ圏:EU28カ国のうち、Euro通貨を導入している諸国(現在 19カ国)で形成される経済圏

* 2 EC19カ国は以下の通りドイツ、フランス、英国、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、オーストリア、デンマーク、フィンランド、アイルランド、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、スイス、ポーランド、チェコ、ハンガリー、スロバキア

2013年 実績 2014年 実績 2015年 実績 2016年 見込み 2017年 予想 2018年 予想 2019年 予想フランス 216,582 203,670 199,329 204,337 211,627 218,226 224,555

ドイツ 290,500 295,860 296,895 304,298 308,905 309,494 307,636

イタリア 163,752 160,108 161,453 164,535 168,192 171,166 174,962

スペイン 83,813 82,412 84,800 86,540 89,269 92,287 95,631

英国 197,378 214,441 223,400 223,042 222,517 224,512 230,797

(※西欧主要5カ国計) 952,025 956,491 965,877 982,752 1,000,510 1,015,685 1,033,581

その他西欧諸国 351,000 357,319 368,898 383,411 393,913 405,260 414,912

西欧15カ国計 1,303,025 1,313,810 1,334,775 1,366,163 1,394,423 1,420,945 1,448,493

チェコ 15,539 16,170 17,307 15,748 15,245 15,931 17,256

ハンガリー 8,314 9,006 9,270 8,960 9,854 11,036 11,818

ポーランド 41,313 43,416 45,202 44,825 46,723 49,918 52,336

スロバキア 4,523 4,344 5,148 4,868 5,170 5,423 5,419

中東欧4カ国計 69,689 72,936 76,927 74,401 76,992 82,308 86,829

(西欧主要5カ国除く計) 420,689 430,255 445,825 457,812 470,905 487,568 501,741

EC19カ国合計 1,372,714 1,386,746 1,411,702 1,440,564 1,471,415 1,503,253 1,535,322

表2 欧州(EC19カ国)建設投資高 (単位:百万ユーロ)

2013年 実績 2014年 実績 2015年 実績 2016年 見込み 2017年 予想 2018年 予想 2019年 予想フランス ▲ 1.2 ▲ 6.0 ▲ 2.0 2.4 3.6 3.1 2.9

ドイツ ▲ 0.6 1.8 0.3 2.5 1.5 0.2 ▲ 0.6

イタリア ▲ 3.3 ▲ 2.2 0.8 1.9 2.2 1.8 2.2

スペイン ▲ 18.7 ▲ 1.7 2.9 2.1 3.2 3.4 3.6

英国 1.6 8.6 4.2 ▲ 0.2 ▲ 0.2 0.9 2.8

(※西欧主要5カ国計) 0.2 0.5 1.0 1.7 1.8 1.5 1.7

その他西欧諸国 2.2 1.8 3.1 3.8 2.7 2.8 2.3

西欧15カ国計 ▲ 2.2 0.8 1.6 2.4 2.1 1.9 1.9

チェコ ▲ 7.0 4.1 7.0 ▲ 9.0 ▲ 3.2 4.5 8.3

ハンガリー 5.3 8.3 2.9 ▲ 3.3 10.0 12.0 7.1

ポーランド ▲ 5.7 5.1 4.1 ▲ 0.8 4.2 6.8 4.8

スロバキア ▲ 5.2 ▲ 3.9 18.5 ▲ 5.4 6.2 4.9 ▲ 0.1

中東欧4カ国計 ▲ 4.8 4.7 5.5 ▲ 3.3 3.5 6.9 5.5

(西欧主要5カ国除く計) 1.3 2.2 3.5 2.6 2.8 3.4 2.8

EC19カ国合計 ▲ 2.4 1.0 1.8 2.0 2.1 2.2 2.1

表3 欧州(EC19カ国)建設投資高の伸び率 (単位:%)

出典:82th Euroconstruct Conference, Barcelona, November 2016

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472017 2–3

 セグメント構成比を見ると、住宅の改修が3,891

億ユーロ(27%)と大きな割合を占め、土木工事(新築・改修)が3,077億ユーロ(21%)と続いた。そして新築住宅が20%、非住宅の新築が17%、改修が15%となっており、一昨年までと大きく変わっていない。セグメント別建設投資増減を見てみると、2015年に一旦伸びた土木も2016年にはマイナスとなりそうだが、2017年には再度成長が見られる。住宅においては2016年に大幅な成長が予想されるが、2017

年には減少となりそうだ。非住宅は2016年、2017

年と安定が予想されている(図2)。

今後の見通しとしては2017~2019年は堅調を維持するが、緩やかな成長となりそうだ。ヨーロッパの建設市場危機はかなり深刻だったため、発生後8年経った現在でも回復が追い付いてはおらず、ヨーロッパ全体としては2019年まで成長を続けるが、2010~2011年頃の水準までの回復にとどまりそうだ。ただしスペインを除く他のEC18カ国では、2007年のピーク水準まで回復している。国別に見てみると、ドイツでは、移民流入などの影響により新築住宅市場が成長しており2016年には2.5%、2017年には1.5%の伸びが予想される。しかし2018年以降、徐々にペースを落としていきマイナス成長になると予想されている。英国は2016年、2017年と新築住宅は堅調であるが、その他の建設市場は低迷を続けるであろう。2018年には非住宅市場において、ようやく回復の兆しが見える模様だ。2019年には土木市場にも回復が見られ、2.8%の伸びが期待される。フランスは、市場の回復により2017~2019年の予想平均では3.2%の上昇が予想される。2017年の選挙が懸念される中、非住宅の回復は減速の模様だが土木市場は民間投資の増加により公共投資も伸びが予想され、回復傾向にある。イタリアの建設業は建物の改修が全体の60%を占めている。政府によるインフラ事業の再開も半年後には下降気味となった。新築住宅事業はまだ低迷が続いているが、2018~2019年には回復が見られる模様である。土木事業が期待されたほど好調ではないが、改修市場が堅調を続けている。スペインは、回復傾向が続いている。新たな金利制度によって新規建築市場の回復が見込まれ、2017

~2019年の予想は3.4%とEC19カ国の平均を上回っており、今後が期待される。

住宅 非住宅 土木

40,000

30000

20,000

10,000

0

-10,000

-20,000

-30,000

-40,000

13

14 15 16(予想) 17(予想)

図2 セグメント別建設投資増減(前年比)

出典:82nd Euroconstruct Conference, Barcelona, November 2016

住宅 3,891(27%)

住宅 2,819(20%)

非住宅2,413(17%)

新築:7,020(49%)建設市場:14,406

改修:7,386(51%)

土木1,788(12%)土木

1,289(9%)

非住宅2,206(15%)

図1 欧州(EC19カ国)建設市場割合 (単位:億ユーロ)

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48 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

中東欧は、EUファンドの改定により2016年は一旦停滞が見られる(特にチェコ、スロバキアは2015年

の駆け込み需要の反動でマイナス幅が拡大)が、2019年までの予想では引き続き好調なポーランド、ハンガリーを筆頭に今後もインフラ関連工事を中心とした市場拡大が期待される。

10.0

8.0

6.0

4.0

2.0

0.0

-2.0

-4.0

-6.0

-8.0

ドイツ

2014 2015 2016(見込)

2017(予想)

2018(予想)

2019(予想)

フランス

イギリス 中東欧4カ国

EC19カ国合計

図3 国・地域別建設投資高の伸び率 (単位:%)

出典:82nd Euroconstruct Conference, Barcelona, November 2016

3. おわりに 一昨年来、テロの脅威や難民問題が影を落とす中、今年に入り、英国のEU離脱問題など政治面での不確実性が増し、2016年は将来への不透明感を深めた年であった。各国でポピュリズムが台頭し、右傾化が強まる中、2017年に行われるフランス、ドイツの選挙などにおいても、排他的な右派勢力の台頭が懸念されている。グローバル化、経済の自由化による勝ち組と負け組の格差が、世界全体そしてEU域内の国家間、個人間にも拡大し、成長の波に乗り遅れ、あるいはその犠牲になったと感じる民衆の不満は大きな政治的うねりになりつつある。しかし、こうしたさまざまな社会問題を抱えながらも、それに立ち向かい、困難を克服することによって、EUという一大事業が次の段階へと進化し、世界に範を示す共同体としてさらなる発展を続けることを期待したい。

〈参考および引用〉82nd Euroconstruct Conference, Barcelona, November 2016

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492017 2–3

特集 英国清水 邦保[ヨーロッパ竹中 副代表]/ロンドン支部

1. 英国経済英国の2017年予想実質GDP成長率は、1.3%と予想されている。2017年3月に英政府はEU離脱通知を行う予定であるが、どのような方向性になるかまだ不明のため、経済動向の様子見状態となっており、活発な投資活動などは低調になりつつある。しかし、EU

離脱に伴う影響は、現在のところまだ限定的な状況で、離脱決定前に予想された大混乱は起きていない。一方、為替については大幅なポンド安となっており、外貨による英国内での投資は割安感が出てきている。また、米国大統領選挙の予想外の結果と、米国金利の利上げ予想に伴う、さらなるポンドの為替変動、新たな2国間貿易協定の動向など、目が離せない状況が2017年にわたって続くと思われる。正直なところまったく予想がつかない不透明な状況となっている。

2. 英国政治国民投票の結果を受け、7月中旬に現職に就いたメイ首相は、英国のEU離脱交渉を始めるために、2017年3月末までにEU側に通知を行うと宣言した。しかし11月4日イギリスの高等法院が、EU離脱の通知には議会承認が必要との判断を下しており、国民投票でEU離脱の民意が示されたが議会の動向に左右されかねない可能性が出てきた。現在この問題は最高裁判所に判断を委ねられ、上告審は12

月初旬に開催の予定で、判断の結果が注目されている。もし最高裁が高等法院と同等の判断を示した場合は、「EU側への離脱通知」に対しての議会での議論が始まるが、下院の80%が残留派であったことを考えると、少なくとも離脱通知は3月末までにできない可能性が高く、その上離脱がなし崩し的に消滅する可能性も否定できない。一方、議会の承認は必要ないとの判断が下された場合も、スコットランド自冶政府などの動向によっては、通知時期が遅れることも十分予想される。このように厳しい状況にあっても、メイ首相は国民投票で52%を占めた離脱判断を尊重すべく奮闘中であるが、先行きは不透明となっている。

3. 英国建設市場の概況・動向EU離脱の方向性が明確になるまで、英国の建設市場は大型プロジェクトなどの動きは少ないと思われる。イギリスの消費マインドに影響を与える、ロンドンの住宅価格は、2015年末時点で、2016年、2017年は共に4%上昇すると予想されていたが、2016年度は、3.5%にとどまり、2017年度は1.25%

下落すると予想されている。一方、ロンドン中心部の高級住宅については2016年に最大6%下落し、2017年は横ばいになるとの予想となっている。し

出典:JETRO通商弘報2016.01.07出所:予算責任局 「Economic and Fiscal outlook November 2015」2015年実績、2016年見通し、2017年見通しについては、英国予算責任局からの正式発表がまだないため、JETROロンドン事務所編『英国の経済動向』2016年秋号の数字を追記。

項目 2015年(実績)

2016年(見通し)

2017年(見通し)

①実質GDP成長率(%) 2.2 1.7   1.3

個人消費支出 2.9 2.6 N/a

政府消費支出 1.7 0.4 N/a

総固定資本形成 4.1 5.4 N/a

輸出(財貨・サービス) 3.4 3.4 N/a

輸入(財貨・サービス) 2.8 3.9 N/a

②消費者物価指数上昇率(%) 0.1 0.5   1.8

③賃金上昇率(%) 2.6 3.4   N/a

④失業率(%) 5.5 5.2   N/a

⑤国際収支(億ポンド)

経常収支 786.0 589.0 N/a

貿易収支 270.0 232.0 N/a

⑥その他重要指標(%、GDP比)

財政収支 △3.9 △2.5 N/a

公的財務残高 82.5 81.7 N/a

⑦為替レート(1ユーロ=ポンド) 0.72 0.73   0.85

主要経済指標(2016年11月21日時点)

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50 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

かしこの下落も、一時的な低迷で、EU離脱の方向性が明確になり、経済が回復し始めると予想される2018年には2%上昇し、ロンドン中心部の高級住宅地では4%上昇と予想されている。この結果、2014

年のピーク時の価格からは約15%の下落となる模様。11月23日のハモンド財務相の発表によると、2020年までに法人税率を17%に引き下げ、2017年から5年間に230億ポンドを住宅、研究開発(R&D)、経済インフラに投資する計画で、2019年度に財政黒字の達成を断念した模様であり、今後公共工事などの投資が増加する見込みとなっている。

4. トピックス1)クロスレール敷設計画

現在、2018年運行開始、2019年全面開通の予定で、路線、新駅舎とも急ピッチで工事が進んでいる。ロンドンの地下鉄のキャパシティの増大と、完成後の公共事業収益の増収のふたつの狙いがあり、実際に運行が本格的になると、物量の大幅な増大が見込まれるロンドンの中心街では、相乗効果がおおいに期待されている。EU離脱の方向性と併せて、新たな商業施設、住宅開発の活性化が見込まれ、既に、路線の不動産価格は、前年比で22%程度上昇している。

2)洋上風力発電施設計画

2015年6月にイギリスのエネルギー・気候変動省は、「再生可能エネルギー使用義務制度」を改正し、2016年4月1日以降新規陸上風力発電施設に対しての公的補助金は実施しない方針を発表し、同年末には洋上風力発電施設に対しても公的補助金の上限を発表した。そのため、実質的には、既に計画が始動している案件以外は、新規の洋上風力発電施設の

動きは2020年まで凍結となり、新規の動きは2019

年以降の動向待ちとなっている。       3)高速鉄道建設計画

これまで未定であった、第2区間のルートが2016

年11月15日発表になり、バーミンガム、マンチェスター、リーズを結ぶ2路線で2033年に開業を目指している。それに伴い、周辺の公共投資の増加も見込まれている。

4)原子力発電所

EU離脱問題で、計画に遅れが生じているが、フランス、中国企業からの引き続きの参加は継続される見込みで、設計、各種アセスメントが整い次第、順次建設に移行する予定で大型の施工案件が具体化してくる模様。

5)ヒースロー空港滑走路拡張

イギリスのハブ空港である、ヒースロー空港のキャパシティが満杯で、欧州の他の主要空港からの新興国への直行便の比較で劣勢となっている問題

図1 ヒースロー空港拡張計画(By Airport Commission)

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512017 2–3

は、賛否両論が多く、長年結論が先送りになっていたが、11月25日、メイ首相は160億ポンド(約2兆

460億円)を投じて計画を承認し、早ければ新滑走路は2025年運用開始の予定で計画が動き始めた(図1)。

6)バイオマス発電所

日本政策投資銀行は、イギリス中部ミドルズブラ近郊に建設予定のバイオマス発電所の事業に対しての融資を決定した。この発電所の発電量は、バイオマス発電所としては世界最大級の30万kWで、2020年稼動目標で周辺の60万世帯の電力をまかなう計画となっている。融資目的のひとつは、イギリスでの事業からのノウハウを吸収することで、日本での普及を後押しすること。ちなみに、イギリスでの総発電量に占める再生エネルギーの割合は、24.7%と高い水準となっている(図2)。

図2 Teeside バイオマスプラント計画図   (By Ian McNeal 22. Jan. 2015 GazatteLive)

7)バッキンガム宮殿改修工事

11月初旬王室関係者から発表された、1950年以来の大規模改修工事計画によると、配線、配管、ボイラー交換などの工事費の総額は3億6,900万ポンド(約500億円)の見込みとなっている。しかし、イギリス国民の多くはあまり乗り気ではないようで

ある。2015年のイギリス長者番付けで、302位の女王の資産は、推定3億4,000万ポンド(約470億円)となっている。緊縮財政によって、福祉予算を余儀なく削減されていると感じている国民の一部は、オンラインで王室財産の売却に拠って財源とすべきとの署名活動が始まっている。

8)EU離脱国民投票後に中東欧の労働者が増加

EU離脱の国民投票後、西欧出身者の労働者は減少したが、中東欧出身の労働者は増加していると政府統計局が11月16日に発表した。英国のEU離脱により将来的に非熟練労働者の受け入れが厳しくなることの影響と見られるが、同時に政府統計局は、EU離脱に伴う、英国の労働市場にはほとんど影響がおよんでいないとの見解を示している。建設業にとっては、労働者確保は今後の大きな問題となる可能性もあり、動向の注視が必要と思われる。

9)ロンドンの住宅建設

住宅の供給が不足している現状、実需による住宅ローンの承認件数は引き続き増加傾向であり、日系の不動産デベロッパーにおいては、ロンドンでの大型複合投資の一環としての分譲住宅事業は日本本社の営業利益を押し上げるほどの好成績となっている

写真1 オリンピック水泳競技場跡地付近の開発    (Evening standard 30. Nov. 2016)

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52 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

模様。オリンピック競技場跡地周辺での高層住宅の建設は引き続き活況となっている(写真1)。

10)バタシー発電所跡の再開発

マレーシアの複合企業による、約80億ポンド(約1兆800億円)の複合施設の投資に関してEU離脱問題の影響が懸念されていたが、アップルのイギリス本部の移転が決まり(約4万6,000km2)、今後さらなるプロジェクトへの関心が高まることが期待されている(写真2)。

写真2 バタシー発電所跡地再開発   (Business insider UK 2016 by Sam Shead Apr 2016)

11)影ができない高層ビル

ロンドン郊外の経度0のグリニッジ子午線付近に、シアトルに本拠地を置く「NBBJ」が特別なアルゴリズムを用いて、向かい合うふたつの外壁が鏡になっている高層ビルの配置を計算決定し、太陽光を拡散させ、ビル周辺の日陰面積を最小限にする計画が提案された。具体化にはまだ時間がかかる模様であるが、具体化が待ち遠しい(図3、4)。

12)80階建ての木造ビル

ケンブリッジ大学などのチーム(PLP、スミス・ア

ンド・ウォルワーク)が80階建て高さ約300m、9万3,000m2の計画(バービカン・エステートの一部)をロ

ンドン市長に提案した。木材は再生可能な資源であり、コスト削減、工期短縮、建物の軽量化による、1,000戸以上の住宅を含む複合施設が可能とのことである。欧州では木材(CTL集合材)建築が進んでおり、イタリア、イギリスでは既に9階建ての高層マンションは存在し、ストックホルムの住宅コンペには、34

階建ての木造高層マンションも提案されている。今後の具体化については日本国内の高層建築にも影響がおよぶ可能性が高く、動向が注視される(図5)。

13)フローティング・ウェストミンスター

世界遺産にも指定され、英国会議事堂として使われている、ウェストミンスター宮殿が老朽化、配線などの古さ、雨漏り、アスベストの残存などの問題から設備関連改修工事、防災システムを一新する法案が2017年中に整備されることになった。改修工事予定は、2020年から2023年の間となっており、

図3 影なしビル計画(Shadow Less at Amazon)

図4 影なしビル計画(コンセプトスケッチ)

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532017 2–3

改修対象の延床面積は、113,000m2となっている。予想改修工事費は、約5,000億円。改修工事を、国会審議を行いながら徐々に進めた場合は約9,500

億円に上ると算出されており、一旦仮設の国会会議場を別場所に確保した後、改修工事を行うように計画されている。今回の改修工事の設計事務所としては、Foster+Partners、Allies and Morrison、BDP、HOKの4社がショートリストに残っている。一方、大手設計事務所のGensler社は、コスト削減案として、テムズ川の上に泡状のドーム仮設議会の提案を発表し、注目を浴びている(図6~8)。

14)シティーに73階建ての超高層ビルの許可が下りた

2013年の完成した、西欧で一番高いビル、シャードの次に高いビルのシティーでの建設許可が下りた。高さは約305mとなる模様。ビルのデベロッパーはシンガポール資本のAroland Holdings社で、設計はEric Parry、2020年内の完成を目指している。今回の計画の特徴は、すべて英国で生産された材料、部材を使用することである(図9)。

図5 木造高層ビル計画図(Business insider UK 12. Apr. 2016)

図6 フローティングパーラメント外観図  (Evening standard Oct. 2016)

図8 フローティングパーラメント内部通路   (Evening standard Oct.2016)

図7 フローティングパーラメント議会内部   (Evening standard Oct.2016)

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54 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

15)中国企業、バーゲン状態のロンドンの不動産に殺到

英国のEU離脱の国民投票結果を受けて、ポンドが人民元に対して下落したことと、中国の投資家が英国はEU離脱をめぐる交渉をうまくこなし、その交渉の如何にかかわらず、企業はなおロンドンを拠点に選び、急速な地位の低下はないとの考えから、2016年の不動産への投資は、過去最高額であった2015年の実績を30%程度上回り、約5,500億円程度になると予想されている。ポンド安と賃料低下の予想から、中国をはじめアジアの企業の一層の不動産投資については、今後とも動向から目が離せない。

図9 シティーの一番高いオフィスビル計画図    (The proposed building next to the Cheesegrater and Gherkin

skyscrapers. Photograph: © DBOX for Eric Parry Architects)

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552017 2–3

特集 メキシコ山下 哲司[(株)安藤・間 メキシコ営業所長]/メキシコ支部

1. メキシコ情勢2016年のメキシコ社会にインパクトを残した大きなトピックは、なんと言っても米国大統領選挙にてトランプ氏が勝利したことであろう。また、当地進出日系企業および進出検討企業にとって、投資先として自動車産業が集積しつつある中央高原エリアを含むメキシコ治安情勢が安定しないことも大きな関心事となっている。

1)トランプ新米国大統領がもたらす影響

まず、多くの予想に反して(と言ってよいと思うが)トランプ氏が次期大統領(現大統領)に選出されたことは、直後の金融市場の混乱が示すように大きなサプライズを持って受け止められた。特にメキシコに対しては、選挙戦中も過激な発言が繰り返されたこともあって、メキシコ経済に対するマイナス要因として、18~19ペソ/ドル台を行き来していた為替レートが、一時ドルに対してメキシコペソが大きく売られる展開となり、史上最安値となる21ペソ/ドル台をつけた。その後、小康状態となって現在(12

月半ば)は20.5ペソ/ドル近辺で推移している。メキシコ進出日系企業および進出検討企業にとって、為替変動はリスク要因だが、それ以上に次の3

点は特に影響が大きく、各社ともトランプ氏の一挙手一投足を格別な配慮を持って見守っている。① NAFTA(北米自由貿易協定)の見直し交渉/脱退② TPP(環太平洋パートナーシップ)協定からの離脱③ メキシコ移転企業からの輸入品への課税(関税 35%)

これらは選挙戦中もトランプ氏が喧伝してきており、選挙戦後半、勝利直後は多少穏当な発言もあったが、ここにきて強硬な発言も増えてきている。特に①NAFTA見直しについては、メキシコ事業の前提としている企業も多く、影響が強く懸念されている。

もしNAFTAからの米国の脱退が現実となった場合には、マキラドーラとしてメキシコで原材料輸入、加工、域内輸出を行っていた仕組みに保税が適用されず、往復ビンタで課税されることになり、域内貿易の停滞が懸念される。日本企業も同様に米国から部品、材料を輸入し、最終製品として再輸出、または付加価値を付けてメキシコ内または北米仕向けで再輸出するケースが多いため、製品価格への影響は避けられない。NAFTA下でメキシコおよびメキシコ国民が受けたメリット、デメリットの正当な評価は難しいが、進出日本企業にとってはルール変更によって受ける影響は厳しいものとなる可能性が高い。② TPPからの離脱は、現時点で発効していないため影響を測ることは難しいが、包括的枠組みとして非常に困難な交渉を経て、漸く最終局面に差し掛かっていただけに、日本を含む関係各国の落胆は、投資家の心理的影響として大きい。

③ メキシコ移転企業への制裁に関しては、米国空調関連メーカーのキャリアに対して、インディアナポリスからの製造拠点メキシコ移転撤回が記憶に新しい。ほかにも、フォードのメキシコ投資計画の一部修正なども発表されており、直接間接に日系企業の投資行動への影響が懸念される。いずれにしても、日系建設関連企業にとって、対象マーケットの核である日系自動車関連企業の投資動向は、トランプ政権の発足と政策方針に大きく左右されることになる。

2)治安情勢

メキシコの治安情勢については、麻薬犯罪組織間の抗争や治安当局との衝突などで多くの死者が出るなど、かねてより不安定な状況が続いているが、日系企業の進出が続く今も収束する気配がない。特に

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56 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

中央高原エリアは日系企業進出が多い地域であり、駐在員、家族などが多く居住しているが、犯罪発生件数自体の増加傾向と共に、邦人被害も増加を示している。日本で接するメキシコ発信の治安情報の多くは、残忍な大量殺人や拉致誘拐などだが、現地日本人駐在員が直接的にそのような凶悪犯罪の対象となっているわけではなく、多くは犯罪組織間の抗争の結果である。しかしながら、強盗傷害などの凶悪犯罪に日本人駐在員や家族、出張支援者が被害に遭う事案も見られ、進出済み日系企業や進出検討企業にとっても懸念材料となっている。

2012年 2013年 2014年 2015年実質GDP成長率(%) 4.0 1.4 2.1 2.5

ひとり当たり名目GDP(US$) 10,111 10,630 10,784 9,592

消費者物価上昇率(%) 3.6 4 4.1 2.1

失業率(%) 4.9 4.9 4.8 4.4

図1 マクロ経済指標推移

出典:INEGI、IMF

2. メキシコの建設市場1)自動車関連投資

関連企業群と併せ、大きな裾野の広がりを持つ自動車産業のメキシコへの近年の積極投資は、完成車工場、各種部品メーカー工場、物流関連施設などの建設投資を伴い、当地日系建設関連企業にとっても魅力的な建設セグメントとなってきた。メキシコでは、日産、VW、GMなどが国内各地に複数の生産拠点を持ち、生産・販売・輸出を行ってきたが、ここ数年、各社とも北米向け、および南米仕向けの生産能力強化に乗り出し、日産は新規工場をアグアスカリエンテスにダイムラーと合弁で建設中であり、本年2017年に生産が立ち上がる予定。マツダ(サラマンカ)、ホンダ(セラヤ)が2014年、アウディ(サンホセチアパス)、KIA(モンテレイ)は昨年2016年に新規

拠点が立ち上がっており、2019年にはトヨタ(アパセオエルグランデ)、BMW(サンルイスポトシ)の新拠点が立ち上がる。フォードもサンルイスポトシで拠点立ち上げ中だが、一部計画変更が既に発表されているほか、トランプ氏が名指しで当該投資を非難していることもあって、これからの動向が注目される。これらの投資の多くがメキシコ中央高原に集中しており、これに呼応して部品メーカー各社、物流企業も新規拠点を建設する動きとなっている。昨年もメキシコ国内自動車生産は順調に伸び、一昨年比5.9%増の357万台を生産しており、日系、非日系の完成車メーカーがさらに生産拠点を立ち上げ、拡充、2020年には年500万台の生産規模が見込まれるなど、中長期的には建設投資が継続するものと推測される。しかしながら現時点では、トランプ政権の政策の舵取り次第で投資環境が変わることもあって、投資判断を保留する企業もあり、新年早々は不透明感のある建設セグメント状況となっている。

2)エネルギー改革に伴う関連投資

2013年12月に連邦議会で憲法改正法案が可決、公布、エネルギー改革が本格的に実施され、これまでペメックスとCFE独占事業であった石油、電力事業が民間開放されることになった。政府は石油鉱区開発入札、製油精製事業・燃料貯蔵/輸送/分配事業などの民間開放、IPP導入、電力卸売市場を通じた電力料金引き下げなどを進めており、外国資本を含む民間資本による開発促進、効率化を通じて、建設市場としても活性化が期待される。具体的には、石油関連では油田開発、石化精製プラント、パイプライン敷設などが挙げられ、現在増えている日本への原油輸出のさらなる促進策として国土横断パイプラインの敷設や天然ガス液化プラン

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572017 2–3

図2 世界自動車生産国ランキング

出典:国際自動車工業連合会 /OICA

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 20151 米国 米国 米国 米国 米国 米国 日本 日本 日本 中国 中国 中国 中国 中国 中国 中国2 日本 日本 日本 日本 日本 日本 米国 米国 中国 日本 日本 日本 米国 米国 米国 米国3 ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ 中国 中国 米国 米国 米国 米国 日本 日本 日本 日本4 フランス フランス フランス 中国 中国 中国 ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ ドイツ5 韓国 韓国 中国 フランス フランス 韓国 韓国 韓国 韓国 韓国 韓国 韓国 韓国 韓国 韓国 韓国6 スペイン スペイン 韓国 韓国 韓国 フランス フランス フランス ブラジル ブラジル インド インド インド インド インド インド7 カナダ カナダ スペイン スペイン スペイン スペイン スペイン ブラジル フランス インド ブラジル ブラジル ブラジル ブラジル メキシコ メキシコ8 中国 中国 カナダ カナダ カナダ カナダ ブラジル スペイン スペイン スペイン スペイン メキシコ メキシコ メキシコ ブラジル スペイン9 メキシコ メキシコ 英国 英国 ブラジル ブラジル カナダ カナダ インド フランス メキシコ スペイン カナダ タイ スペイン ブラジル

10 英国 ブラジル メキシコ ブラジル 英国 英国 メキシコ インド メキシコ メキシコ フランス フランス タイ カナダ カナダ カナダ11 イタリア 英国 ブラジル メキシコ メキシコ メキシコ インド メキシコ カナダ カナダ カナダ カナダ ロシア ロシア ロシア ロシア

図3 完成車4輪メーカー工場概要メーカー 拠点 製造開始 製造実績

2014年(千台)完成時製造能力(千台) 備考

日系

日産

クエルナバカ 1966年805

ツル、ティーダ、ピックアップほかアグアスカリエンテス 1982年 マーチ、ティーダ、セントラ同第2工場 2013年 セントラ同新工場 2017年 300 ダイムラーとの合弁

ホンダグアダラハラ 1995年

143CR-V

セラヤ 2014年 フィット

トヨタティファナ 2004年 71 タコマ(ピックアップ)グァナファト 2019年 200 カローラ

マツダ サラマンカ 2014年 102 デミオ、アクセラ

BIG3

FCA

トルーカ 1968年500 クライスラー、フィアットラモスアリスペ 1982年

デラマデロ 1995年

フォードクアティトラン 1970年

442 新規投資、増産対応発表チワワ 1983年エルモシージョ 1986年

GM

トルーカ 1965年

678 新規投資、増産対応発表ラモスアリスペ 1981年シラオ 1995年サンルイスポトシ 2008年

欧州VW

プエブラ 1965年475 新規投資、増産対応発表

シラオ 2013年アウディ サンホセチアパ 2016年 150

BMW サンルイスポトシ 2019年 150

他 起亜 モンテレイ 2016年 300

トやLNG積出港湾整備、その他にも天然ガスパイプライン敷設計画などもあり、一部には日本企業も単独、合弁で事業参入している。電力関連では、IPPなどによる発電所建設計画や発送電事業分離による効率化投資なども見込まれる。メ

キシコにおいて電力分野は、商社、重電メーカーを中心に日本勢がおおいに活躍してきた歴史があり、強みを活かした取り組みで日本勢の受注が期待される。また、大型電力需要家に対して再生可能エネルギー利用を義務付けることが法制化され、2018年5

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58 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

月より、消費電力が一定規模を超える企業は、消費電力の5%以上をCEL(クリーン電力証書)付きの電力にしなければならない、とされた。具体的には、CRE(エネルギー規制委員会)にユーザー登録し、CEL

付き電力供給事業者と契約、電力供給を受ける仕組みだが、詳細不明な部分も多く、暫くは混乱することも予想される。こちらも事業者の太陽光、風力発電設備投資などが建設投資としても期待される。3)交通インフラ関連投資

・首都新国際空港プロジェクト総投資額130億ドル、第1期2018年7月完成を目指す大型プロジェクトであり、英国建築家のノーマン・フォスター氏を中心した設計で、現在、各パッケージに分けて入札、順次着手されているが、完成時期については遅延が見込まれる。・メキシコシティ/トルーカ間鉄道プロジェクト既に4パッケージの入札が完了、建設が進められている。・メキシコシティ都市交通プロジェクト交通渋滞の激しいメキシコシティで、その解消や利便性向上を目的にモノレールシステムを導入、建

設する計画であり、今後の進捗が期待される。・ メキシコシティ/ケレタロ間高速鉄道プロジェクトは、ご存知の通り、一旦中国企業が落札したものの、後日撤回され、最終的には無期延期の上、メキシコ政府が中国企業に違約金 2,000

万ペソ(約 1億円強)を支払っている。

4)その他

メキシコは地震国であり、またハリケーン被害の発生など、日本とも共通する自然災害リスクの高い国でもある。日本はJICAを通じて、1990年には地震被害低減のための技術協力を開始、2003年には日本・メキシコ・パートナーシップ・プログラムにより、日本からメキシコに移転された知見や技術を、南南協力としてエルサルバドルなど中米諸国に三角供与することも行われている。これらに見られるように、投資家にとってはリスク要因ながら、自然災害に備え高度な技術開発と蓄積を行ってきた日本の建設関連企業にとっては、潜在的なマーケットと言える。

図5 地震およびハリケーン状況(メキシコ全土における地震頻度地図)

A、B、C、Dの順で地震の頻度は多くなります。アグアスカリエンテス近辺はBとなります。

台風

ハリケーン

3. 最後に最初に触れた通り、トランプ氏の米国大統領就任

図4 完成車4輪メーカー工場概要

トヨタ:テカテ(9万台)

フォード:エルモシージョ(30万台)

フォード:チワワ(エンジン)

クライスラー:デラマテロ

GM:ラモスアリスペ(24万台)クライスラー:ラモスアリスペ(17万台)起亜:モンテレイ(30万台)GM:サンルイスポトシ(15万台)

GM:シラオ(24万台)ホンダ:セラヤ(20万台)フォード:クアティトラン(20万台)

アウディ:サンホセチアパ(15万台)

フォルクスワーゲン:プエブラ(40万台)

※太字はSOP前

BMW:サンルイスポトシ(15万台)

日産:アグアスカリエンテス(40万台)

日産+ダイムラー:アグアスカリエンテス(30万台)

フォルクスワーゲン:シラオ(エンジン)

ホンダ:エルサルト(8万台)

マツダ:サラマンカ(25万台)GM:トルーカ(エンジン)

クライスラー:トルーカ(16万台)

日産:クエルナバカ(30万台)

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592017 2–3

により、一番ネガティブな影響が出るだろうと予想されたメキシコだが、本稿が皆様の目に触れる頃には、新政権発足後、施政方針が打ち出され、メキシコが受ける影響、進出日系企業の投資判断などが輪郭を見せているように思う。NAFTA見直しなど大きなフレームは、議会承認なども必要であり、結論が出るには時間もかかるだろうが、進出日系企業にとってそう悪くない状況であることを願って止まない。首都メキシコシティでは、近年、大型ビル、複合施設の開発、建設が進み、現在も複数のプロジェクトが進行中であり、奇抜な意匠(日本人から見ると)で活力あるメキシコの姿を象徴的に演出している。メキシコは投資先としても、建設市場としても大きなポテンシャルを有すると信じているが、数多くの歴史遺産、魅力的な文化、多彩な風物、おいしい料理、陽気な人びとと、是非多くの日本人の皆様に訪れていただきたい国である。〈追補:2017年1月30日時点〉

本原稿作成時点から時間が経過し、今年1月20

日にトランプ政権が発足し、既にTPPからの離脱、NAFTA見直し、メキシコ国境の壁建設などの大統領令に署名している。貿易赤字国に対する国境税20%の賦課と、それによるメキシコ国境の壁建設費用充当なども発信しており、WTOの枠組みからの逸脱とも思えるようなことも打ち出している。アメリカ第一主義を標榜しながら、アメリカの国益を損なうような政策にも見えるものもあり、今後の「ディール」のためのカードを切ってきたのか、本気で実施しようとしているのか、全世界が不安を覚えながら注意深く見守っている。原稿作成時に、メキシコおよびメキシコ進出済(予定)日系企業にとって悪くない展開となることを祈っていたが、どうやら波乱に満ちた2017年になりそうな気配である。

写真1 レフォルマ通りの俯瞰

写真2 ラテンタワーより東方面(ソカロ方面)

写真3 ぺニャデベルナル(世界で3番目に大きい岩)

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60 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

特集 ブラジル奥地 正敏 [ブラジル戸田建設(株)取締役社長]/サンパウロ支部

1. マクロ経済2014~16年:ブラジルは「過去30年間で最悪の景気低迷期にある」と言われている。資源価格の高騰で巨額の輸出利益を得、GDP成長率は5~7%(2007~10年)、BRICsの一員として注目を集め、サッカーのワールドカップに続いて南米初の五輪開催も決まった頃の勢いは跡形もない。GDPも2013年までは2~4%の幅で成長していたが、2014年は資源価格の暴落で0.5%と落ち込み、2015年以降は2年連続のマイナス成長(2015年-3.8%、2016年-3.5%予測)

となった。これに米国の利上げの動きと中国経済の減速が影響し、「ブラジルの好況は2014年まで」と見ていたアナリストたちの予測が現実と化した。

2014年に6.41%だったインフレ率は、2015年には10.67%となり、基本金利の引き上げにもかかわらず、2013年ぶりの二桁台に達した。昨年は大分落ち着いて6.29%、今年は政府目標(4.5%)に近い4.7%

程度が見込まれている。一方で失業率は、6.5%(2014

年)、9.0%(2015年)、11.9%(2016年11月)と悪化の一途を辿っている。ブラジル地理統計院データ(2017

年1月)によれば、潜在・部分失業含む拡張失業率は21.2%で先進・新興31カ国中6位、調査国平均(16.1%)を大きく上回る。インフレが改善しても、失業率の高さが個人消費の拡大を阻む要因となる。長引く不況で国民と経済界の不満は、前代未聞の汚職で揺れる国政に向けられた。ジルマ・ルセフ(労働者党)政権が2期目に入った一昨年来、国内各地で反政府デモが頻発。昨年は前任のルーラ氏が一連の汚職事件の主犯格として起訴され、ルセフ氏は5月の弾劾裁判で職務停止となり、8月に罷免された。代わって大統領に就任したミシェル・テメル氏(ブラジル民主運動党)に当面の期待が寄せられることになるが、当人にも汚職嫌疑がかかっていることや、

新閣僚の相次ぐ汚職絡みの辞職を考慮すれば、政局の安定はまだまだ先と言えそうだ。こうしたことも重なり、8月に行われたオリンピック・パラリンピックは成功こそしたものの、国を挙げての盛り上がりというには程遠かった。直前の世論調査でも「ブラジルにとって良い影響よりも悪い影響の方が大きい」とした国民が6割を超え、競技開催関連費用だけで46億ドル、その他の関連事業を合計した全体コストは120億ドルという負担に対し、「五輪よりも医療や教育分野の充実を」との声が高まった。総費用の4分の1を負担する地元リオデジャネイロ州が莫大な負債を抱え、財政危機による「非常事態」宣言で、政府に緊急の財政支援を求めたのも記憶に新しい。

2017年:今年1月のIMF世界経済見通しでは、ブラジルの2017年のGDP実質成長率予測は0.2%。消費低迷と高失業率が続き、民間セクターの負債も多いことに加えて、米新政権の政策による影響が懸念され、前回(0.5%)から大きく下方修正された。保護主義色の強いトランプ氏のもと、米通商政策が大幅に変更されれば、中国、米国を主要貿易相手国とするブラジルへの影響は計り知れない。トランプ氏の公言どおり、米国が中国製品に高率の関税をかければ、中国市場は冷え込み、対ブラジル貿易も縮小する。米国による、ブラジル産製品への関税引き上げや、対象品目の拡大といった輸入制限も予想される。他方、国内のアナリストやブラジル中央銀行は

GDP成長率を0.5~1%と予測。不況は底を打ち、今年以降、回復に向かうとの見方で一致している。  景気向上の鍵を握りそうなのが、メイレレス財務

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612017 2–3

相(元ブラジル中央銀行総裁)が打ち出した、歳出額の上限設定、年金制度改革といった経済政策だ。インフレが政府目標に近づいたことで基本金利も下がりつつある。中銀の通貨政策委員会は今年初の会合で0.75ポイントの大幅切り下げを実施し、高止まりしていた基本金利は13%となった。このまま順当に下がれば年末には3年ぶりの一桁台という見方も多く、市場の期待は高まっている。しかし、米国が法人税を引き下げ、外国製品に高率の輸入関税を導入すれば、世界的なインフレが起こり、それに乗じて米国が利上げを行えば、ブラジルは外国投資の撤退、通貨安、インフレ、政策金利の引き上げといった負の連鎖に陥ることも想定しておかなければならない。こうして確実な景気回復の兆しが見えない中、国民の日常生活を脅かすのが治安の悪化だ。ますます日常化、凶悪化する強盗、強奪事件などにおいて、サンパウロ市内では日本人や駐在員が標的となるケースも目立つようになった。また元旦に起きた、マフィアの派閥抗争による刑務所内での暴動が各地で続発し、年始3週間内に130人以上が死亡、数百人単位の脱走囚人が出て、政府が国軍を投入するという異常事態も起きている。加えて、一連の政治汚職事件の捜査に国会の圧力がかかったり、報告を間近に控えた最高裁判事が航空事故で亡くなったり、2017年も波瀾のスタートを切った。こうした問題の解決も景気回復に向けての大きな課題となる。日伯関係では、昨年10月にテメル大統領が公式訪日した。ブラジル大統領としては11年ぶりの公式訪問で、大統領就任から2カ月での訪問は、「日本との経済、文化関係を重視している証拠だ」とし、ブラジルへの投資を訴えた。文化面において二国間の関係強化につながるのが、5月オープン予定の

「ジャパン・ハウス」だ。外務省が「日本の魅力」発信拠点としてロンドン、ロサンゼルス、サンパウロに設営する同施設は、サンパウロ随一の目抜き通りに位置し、日本の伝統文化だけでなく、和食文化やポップカルチャーなども紹介していく。世界最大の日系社会を持つサンパウロにおいて、日本への理解が深まることは意義深い。

2. 建設市場建設部門は大変厳しい状況が続いている。GDP

は2014年から3年連続のマイナス成長(-2.14%、

-6.52%、-5.30%予測)で、累計13.4%減となった。2007~2013年までは3~13%程度の成長を続けていたため、ギャップは激しい。建設就業者数は2014

年10月以降、減少の一途を辿り、同時期に357万人だったのが、昨年11月には258万人となり、2年間で100万人を減らした。直近12カ月の累計では43

万7千人の減で、失業率は14.5%という高さだ。昨年9月には、不動産開発の大手上場企業(本社サ

ンパウロ)が会社更生法の適用を申請して話題に上った。不動産ブーム中に銀行融資でマンションを建設したものの、急激な市場の冷え込みで販売不振に陥り、多額の負債を抱えて倒産に追い込まれるケースは多い。建設会社では、2014年に846社、2015年は1079社(前年比30%増)が同法の適用を申請し、2016年は1300社以上(同25%増)とも言われている。倒産、破産宣告までいかなくとも、各社を取り巻く環境は相当厳しい。民間工事では、製造業が設備投資を控える中、大口ばかりか小口工事も減り、少ない案件を巡って熾烈な価格競争が繰り広げられている。公共工事においては、政治汚職事件が複数の大手ゼネコン絡みということも影響して、軒並み保留中(1600件以上)。連邦政府の低所得者向け住宅支

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62 特集 2017年 海外市場の動向と見通し

援策も遅々として進まない。こうした中でも建設コストは上昇する。2014~

2016年にかけて、1m2あたりの基本単価はそれぞれ、1,145レアル(前年比6.02%増)、1,218レアル(同6.33%

増)、1,284レアル(同5.74%増、2016年11月)だった。建設費の4割前後を占める資材は上昇率が2.68%、4.04%、2.13%なのに対し、5割以上を占める労務は8.42%、8.19%、8.33%。ブラジルコストのひとつである高い人件費が足を引っ張る。ブラジル経済研究所は他方、2017年の建設業は上向きと予測。全産業のGDP成長率予測が1%なのに対し、建設業は1.7%と見込む。ただ、昨年11

月までの4期連続落ち込みや、公共工事が見込めないこと、官民合同事業がうまく運んでも1年半後以

降、造成業者や設計事務所の業績から将来案件の増加が期待できないことなどを考慮すれば、「回復するとしても第3四半期以降」、「短中期の回復は難しい」との見方が主流だ。建設市場の景気回復はいつでも他産業の後を追う。成長が見込まれる飲食品、医療・健康分野、テレコミュニケーションなどが牽引役となり、まずは内需が拡大することを期待したい。

〈参考および引用〉CBIC(ブラジル建設商工会議所)統計資料IBGE(ブラジル地理統計院)統計資料 『Conjuntora Econômica』誌2016年12月号Fenacon(全国会計事務所・補佐機関連盟)ウェブサイトSinduscon-SP(サンパウロ州土建業者組合)ウェブサイト

各国旗がなびくリオ五輪公園 2017年5月オープンに向けて工事中のジャパン・ハウス(当社施工)

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632017 2–3

本邦法人 現地法人 総計 前年総計2013年度 794,093 808,779 1,602,872 2012年度 1,182,760

2014年度 779,879 1,035,465 1,815,344 2013年度 1,602,872

2015年度 600,036 1,082,420 1,682,456 2014年度 1,815,344

2015年10月 25,920 120,543 146,463 2014年10月 267,888

2015年11月 104,646 92,815 197,461 2014年11月 121,999

2015年12月 131,568 171,905 303,473 2014年12月 167,683

2016年1月 83,472 23,305 106,777 2015年1月 76,821

2016年2月 17,567 43,239 60,806 2015年2月 112,942

2016年3月 70,672 94,683 165,355 2015年3月 259,507

2016年4月 20,710 119,497 140,207 2015年4月 109,814

2016年5月 20,675 60,546 81,221 2015年5月 152,810

2016年6月 78,378 116,870 195,248 2015年6月 71,778

2016年7月 19,704 52,337 72,041 2015年7月 49,225

2016年8月 37,076 204,510 241,586 2015年8月 169,390

2016年9月 17,848 71,777 89,625 2015年9月 149,104

2016年10月 22,629 102,496 125,125 2015年10月 146,463

2016年11月 14,813 39,158 53,971 2015年11月 197,461

2016年4月~11月 231,833 767,191 999,024 1,046,045

本邦法人 現地法人 総計2013年度 49.5% 50.5% 35.5%

2014年度 43.0% 57.0% 13.3%

2015年度 35.7% 64.3% ▲ 7.3%

2015年10月 ▲ 77.4% ▲ 21.3% ▲ 45.3%

2015年11月 293.7% ▲ 2.7% 61.9%

2015年12月 73.2% 87.4% 81.0%

2016年1月 498.2% ▲ 62.9% 39.0%

2016年2月 ▲ 20.3% ▲ 52.4% ▲ 46.2%

2016年3月 ▲ 46.3% ▲ 26.0% ▲ 36.3%

2016年4月 168.6% 17.0% 27.7%

2016年5月 ▲ 16.1% ▲ 52.8% ▲ 46.8%

2016年6月 63.9% 387.7% 172.0%

2016年7月 68.1% 39.6% 46.4%

2016年8月 301.0% 27.7% 42.6%

2016年9月 ▲ 72.6% ▲ 14.6% ▲ 39.9%

2016年10月 ▲ 12.7% ▲ 15.0% ▲ 14.6%

2016年11月 ▲ 85.8% ▲ 57.8% ▲ 72.7%

2016年4月~11月 ▲ 21.9% 2.4% ▲ 4.5%

月次受注額((2015/10~2016/11) (単位:百万円)

対前年同期比(2015/10~2016/11)

海外受注実績

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64

地域別2016年度 2015年度 伸び率(%)

※受注額による件数 受注額 構成比(%) 件数 受注額 構成比(%)

アジア本邦法人 130 166,201 16.6% 169 208,177 19.9% -20.2%

現地法人 679 243,470 24.4% 611 297,855 28.5% -18.3%

計 809 409,671 41.0% 780 506,032 48.4% -19.0%

中東・北アフリカ

本邦法人 9 7,768 0.8% 7 4,854 0.5% 60.0%

現地法人 0 0 0.0% 0 0 0.0% 0.0%

計 9 7,768 0.8% 7 4,854 0.5% 60.0%

アフリカ(サブサハラ)

本邦法人 8 15,266 1.5% 8 7,739 0.7% 97.3%

現地法人 0 0 0.0% 0 0 0.0% 0.0%

計 8 15,266 1.5% 8 7,739 0.7% 97.3%

北米本邦法人 12 14,742 1.5% 11 18,899 1.8% -22.0%

現地法人 122 459,962 46.0% 117 334,976 32.0% 37.3%

計 134 474,704 47.5% 128 353,875 33.8% 34.1%

中南米本邦法人 45 11,998 1.2% 79 36,560 3.5% -67.2%

現地法人 29 6,865 0.7% 18 10,896 1.0% -37.0%

計 74 18,863 1.9% 97 47,456 4.5% -60.3%

欧州本邦法人 2 2,322 0.2% 3 515 0.0% 350.9%

現地法人 23 3,312 0.3% 22 4,801 0.5% -31.0%

計 25 5,634 0.5% 25 5,316 0.5% 6.0%

東欧本邦法人 0 0 0.0% 0 0 0.0% 0.0%

現地法人 52 14,606 1.5% 37 17,520 1.7% -16.6%

計 52 14,606 1.5% 37 17,520 1.7% -16.6%

大洋州その他

本邦法人 34 13,536 1.4% 21 20,013 1.9% -32.4%

現地法人 7 38,976 3.9% 11 83,240 8.0% -53.2%

計 41 52,512 5.3% 32 103,253 9.9% -49.1%

累計本邦法人 240 231,833 23.2% 298 296,757 28.4% -21.9%

現地法人 912 767,191 76.8% 816 749,288 71.6% 2.4%

総合計 1,152 999,024 100.0% 1,114 1,046,045 100.0% -4.5%

地域別海外工事受注実績 (単位:百万円)

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652017 2–3

今回、海外支部から寄せられた2017年における各国建設市場の見通しによると、今後もアジアを中心とした中進国および新興国での公共・民間による建設需要は、底堅く推移し、特に東南アジアにおいては、旺盛なインフラ需要が継続的に見込まれ、官民による投資の拡大も予想されるとしている。また、英国EU離脱や米国トランプ政権発足などによる影響は、各国の保護主義的な動きを刺激するとともに、世界経済の悪化を招きかねない可能性もあり、今後、海外建設市場におよぼす影響を注視する必要があるとしている。

2017年の海外市場における受注は、2011度以降の傾向が維持され、堅調に推移すると予想している。今年の会員会社の海外活動に期待したい。 (O C A J I編集室 I)

あとがき

主要会議・行事

とき ところ 主要会議・行事12月1日 新丸ビル 第7回国際建設リーガルセミナー12月5日 プノンペン 第8回国際建設リーガルセミナー12月7日 ホーチミン 第9回国際建設リーガルセミナー12月9日 ハノイ 第10回国際建設リーガルセミナー

12月12日 国交省 第3回アフリカ・インフラ協議会12月13日 OCAJI 第4回運営部会12月15日 OCAJI 第2回海外要員養成講座(応用編)12月16日 OCAJI 第7回契約管理研究会12月20日 国交省 第2回アフリカ・インフラ協議会幹事会

1月5日 グランドプリンスホテル 建設11団体主催 賀詞交換会1月18日 OCAJI ピンセント・メーソンズ共催セミナー1月18日 プリンスパークタワー東京 新年懇親会1月19日 ホーガン・ロヴェルズ法律事務所 第11回国際建設リーガルセミナー1月20日 OCAJI 第8回契約管理研究会1月23日 OCAJI OCAJI特別セミナー1月25日 OCAJI 海建塾(建築設備編)1月30日 建設会館 新任在外公館派遣アタッシェなどとの意見交換会

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