対話的な学び とは何か? - 教育開発研究所...21 教職研修 2016.9 特集1...

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教職研修 2016.9 20 10 姿文部科学視学官 田村 学 調インタビュー対話的な学びとは何か?

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Page 1: 対話的な学び とは何か? - 教育開発研究所...21 教職研修 2016.9 特集1 アクティブ・ラーニングで目指す「対話的な学び」とは何か る」ものとなっています。考えること等を通じ、自らの考えを広げ深め域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに

教職研修 2016.9 20

「主体的・対話的で深い学び」とは?

──「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学

び」は、最近になって「主体的・対話的で深

い学び」と書き表されていますが、それぞれ

の関係性はどのようなものでしょうか。

 

この三つは、それぞれが学習過程の質的改

善や授業改善に向かうために重要な視点であ

り、上下関係があるものではありません。

 

ただ、5月10日に出された大臣メッセージ

「教育の強靭化に向けて」にもあるように、

そのなかでもとくに「深い学び」が、質の高

い理解に向けては不可欠となりますので、重

視していこうということです。

 「対話」は形式的に見えやすく、「主体」も

子供の活動の姿として捉えやすいですが、

「深い」という認識にかかわるところは、見

えにくいです。しかし、ここが非常に重要で

すので、このような書き方になったのです。

 

次期学習指導要領では、「育成すべき資質・

能力」として、「知識・技能」「思考力・判断

力・表現力等」「学びに向かう力 

人間性等」

の三つに整理していますが、これらの育ちを

実現するために、「主体的な学び」「対話的な

学び」「深い学び」が行われることが必要な

文部科学視学官

田村 学

のです。

 

この学びは、ある面を強調して見れば「深

い学び」でしょうし、別の面から見れば「対

話的な学び」である。また別の面からは「主

体的な学び」となっている││三つの視点か

らより一体的となる学びの実現をイメージし

ていただければよいと思います。

「対話的な学び」とは?

──「対話的な学び」が形式的に見えやすいと

いうお話ですが、一方で「ただのおしゃべり

となっている」「どうすれば学びとなるのか」

という声もあります。

 

先ほど申したとおり、三つの視点は一体と

なっていますので、表面的なペアの話し合い

や形だけのトリオの意見交換などを、ただし

ていればよいというわけではないことは、お

分かりいただけると思います。

 「対話的な学び」の考え方として、昨年8

月の教育課程企画特別部会「論点整理」で

は、「他者との協働や外界との相互作用を通

じて、自らの考えを広げ深める」ものとされ

ていました。

 

それが、中央教育審議会でご議論いただい

てきたなかで、「子供同士の協働、教員や地

●インタビュー●

「対話的な学び」

とは何か?

Page 2: 対話的な学び とは何か? - 教育開発研究所...21 教職研修 2016.9 特集1 アクティブ・ラーニングで目指す「対話的な学び」とは何か る」ものとなっています。考えること等を通じ、自らの考えを広げ深め域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに

21 教職研修 2016.9

特集1 アクティブ・ラーニングで目指す「対話的な学び」とは何か

域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに

考えること等を通じ、自らの考えを広げ深め

る」ものとなっています。

 

子供同士で話し合ったり、協力して考えを

生み出したりするだけでなく、さまざまな人

とやりとりするという空間的な広がりと、先

人の知恵を文献で学ぶという時間的な広がり

も持たせた学びを指向していると言えます。

 「対話的な学び」は、次の二つの意味で必

要です。

 

一つは、「対話的な学び」が行われること

で、「主体的な学び」に向かう姿が生まれて

きます。「対話」とは、双方向の相互作用で

す。そもそも私たちは、自分の考えが相手に

ちゃんと伝わり、相手がそれを受け入れてく

れることに喜びを覚えますね。

 「対話」は、私たちが自ら取り組んでいき

たくなる性質を、本質的に持っているのだと

思います。

 

もう一つは、「対話」によって、物事に対す

る深い理解が生まれやすくなります。他者と

のやりとりを通して、自分一人で取り組むよ

りもより多様な情報が入ってくる可能性があ

ります。また、相手に伝えようと自分が説明

することで、自分の考えをより確かにした

り、構造化したりすることにつながります。

 

そして、「対話」を通して、一人では生み

出せなかった智恵が出たり、新たな知がクリ

エイトされたりするよさがあるのです。

──当初大臣諮問ではアクティブ・ラーニング

は「主体的・協働的な学び」となっていまし

たが、なぜ変わったのでしょうか。

 「協働」とは、異なる多様な存在が力を合

わせて何か一つの目的に向かっていくという

イメージだと思います。

 

一方「対話」は、「協働」に比べて、やり

とりがあり、言語が介在し、また考えて自分

で認識するというイメージがあります。

 「対話」の方がより学習活動のありようと

して期待されるものを明確にイメージできる

のではないでしょうか。

──「対話的な学び」に条件はありますか。

 

三つの視点は分けられるものではなくて、

一つの豊かな学びがあるということなので

す。その点から考えると、「友だちと話し合

っているけど、先生にやらされているだけで

全然おもしろくない」と子供が考えていた

り、楽しそうに話し合っていても、教科で期

待する内容へと深まっていなかったりする、

などは期待される「対話的な学び」とは考え

にくいと思います。

 「対話的な学び」によって、資質・能力が

育成されているか、学習内容が深く理解され

ているか、学習への動機づけにつながってい

るかなどが条件であると考えるべきでしょう。

──「対話」の相手は子供だけではなく、大人

なども含まれるのでしょうか。

 「対話的な学び」というと、どうしても教

室の中での学びというイメージになると思い

ます。ですが、今回は「社会に開かれた教育

課程」という大前提のもとで進められていま

すので、その意味では子供たちの学びは教室

でクラスメイトとともにあるだけではなく、

空間的に広げることが大事です。さまざまな

人とのやりとりを通して、子供が得られる情

報がより多様になるのです。

 

また、時間的に広げるという意味では、先

哲の豊かな知見を教科書や文献などから学ぶ

ことも、重要な「対話」です。

 

ただ目の前の子供同士で話をするだけでは

ない、いろんな「対話」のあり方のイメージ

を広げることが、子供たちの学習をより確か

なものにしていくだろうと思います。

──すべての授業で「対話的な学び」は必要な

のでしょうか。

 

必ずしも毎時間しなければいけない、とい

うことではありません。ただ、学校種によっ

ては、これまであまりにも子供が受け身な教