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解析力学、対称性 ( 局所 Symplectic 幾何学 ) 敏昭 微分幾何学 AB 講義 (2002 9 月~2003 6 )

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  • 解析力学、対称性

    ( 局所 Symplectic 幾何学 )

    郡 敏昭

    微分幾何学A・B講義

    (2002年 9月~2003年 6月)

  • 目次

    1. 相空間

    (a) シンプレクティック多様体

    i. シンプレクティック構造

    ii. ハミルトンベクトル場

    iii. 正準変換

    (b) Poisson 多様体

    i. Poisson 多様体でのハミルトンの運動方程式

    ii. 剛体のオイラー方程式 (リー環 so(3)によるもの)

    iii. 剛体のオイラー方程式 (運動学的)

    (c) 対称性

    i. 対称性、(Lie 群、Lie 環の作用)

    ii. Lie群、Lie環について

    iii. 平行移動群、ユークリッド運動群

    (d) 運動量写像 Moment maps

    i. いくつかの運動量写像の計算

    ii. 相空間の制限

    (e) 調和振動子

    2. ハミルトン作用と相空間の簡約

    (a) Poisson多様体

    (b) Poisson多様体への Lie環の作用

    i. Hamiltonベクトル場とHamilton運動方程式(非圧縮性流体の運動方程式)

    ii. infinitesimal Poisson automorphism

    iii. 多様体への Lie群の作用

    iv. Poisson多様体への Lie環の作用

    v. とくに cotangent bundle への作用

    (c) Lie-Poisson Reduction Theorem

    3. Coadjoint Orbit の方法

    (a) adjoint orbit

    (b) coadjoint orbit

    (c) Coadjoint orbit の symplectic 構造

  • 3

    第1章 相空間

    1.1 シンプレクティック多様体, Symplectic man-

    ifold

    解析力学を Lagrange形式から変分原理により導かれる Euler運動方程式により記述するのが物理の教科書の方法であるのに対して、数学では Symplecticstructure により記述する。数学では、運動が行われる相空間 ( phase space)の持つ性質として、運動を記述する。 物理では運動をしている点の持つ性質(位置と運動量)として、

    運動を記述する。 

    1.1.1 シンプレクティック構造

    symplectic structure

    (X,ω); 2n-次元C∞− 多様体 X とその上の closed nondegenrate differ-ential 2-form ωの組を symplectic manifoldという。ω を symplectic formという。

    ωx : TxX × TxX −→ R, ∀x ∈ Xωx(ξ, η) = −ω(η, ξ), ∀ξ, η ∈ TxX

    dω(X,Y, Z) = Xω(Y, Z) + Y ω(Z, X) + Zω(X,Y )

    −ω([X,Y ], Z)− ω([Y, Z], X)− ω([Z, X], Y ) = 0

    symplectomorphism, 正準変換

    2つの symplectic 多様体の間の微分同相 (diffeomorphism)

    f : (X,ω) −→ (X ′, ω′)

  • f ∗ω′ = ω

    . を満たすものを正準変換という。例.1 R4

    (X = R4, ω),

    ω = dp1 ∧ dq1 + dp2 ∧ dq2, (q1, q2, p1, p2) ∈ R4

    は代表的な symplectic manifoldである。

    f : R4 3

    q1q2p1p2

    −→

    Q1 = p2Q2 = p1P1 = −q2P2 = −q1

    ∈ R4

    はR4上の正準変換である。 実際

    dP1 ∧ dQ1 + dP2 ∧ dQ2 = dp1 ∧ dq1 + dp2 ∧ dq2.

    例.2 S2

    球面

    S2 = {(p, q, r) ∈ R3; p2 + q2 + r2 = 14}

    の局所座標は

    U0 = {(p, q, r) ∈ M ; r 6= 12}北極以外 (1.1)

    U∞ = {(p, q, r) ∈ M ; r 6= −12}南極以外 (1.2)

    で,それぞれR2に同相である。同相写像はそれぞれ

    U0'−→ R2x,y; (p, q, r) −→

    x = 21−2rp

    y = 21−2rq

    U∞'−→ R2u,v; (p, q, r) −→

    u = 21+2r

    q

    v = 21+2r

    p

    で与えられる。

  • いま、R2x,y 上では1

    x2 + y2dx ∧ dy,

    により、R2u,v 上では1

    u2 + v2du ∧ dv

    により与えられる 2-formを考えると、それらはは、S2 上のひとつの closed2-form ωを定めることがわかる:

    1

    x2 + y2dx ∧ dy = 1

    u2 + v2du ∧ dv.

    しかし、これは x = y = 0 等で定義されてないので、係数を加減して、R2x,y 上では (

    2

    1 + x2 + y2

    )2dx ∧ dy,

    により、R2u,v 上では (2

    1 + u2 + v2

    )2du ∧ dv

    により与えられる 2-formにすると、

    (2

    1 + x2 + y2

    )2dx ∧ dy =

    (2

    1 + u2 + v2

    )2du ∧ dv

    も満たされ、S2上の 2-formが得られる。したがって球面 S2 は symplectic 多様体である。

    Cotangent bundle

    M を n次元多様体とする。 M の cotangent bundle

    π : X = T ∗M −→ M

    は symplectic manifold になる;この symplectic form ω は次のように canonicalに (正準的に) 与えられる:T ∗M 上の canonical 1-form (正準1次形式) θ を式

    θp(ξ) = p(dπp(ξ)), p ∈ T ∗M

  • で定義する。 ここに

    ξ ∈ Tp(T ∗M),dπp ; Tp(T

    ∗M) −→ Tπ(p)M

    このとき

    ω = dθ. (1.3)

    d◦d = 0よりあきらかにωは closed formである。ωは2n次元多様体X = T ∗M上の symplectic formになる。

    M = Rn、X = T ∗Rn = R2n の場合に canonical 1-formと symplectic formを計算してみよう。

    (q1, q2, · · · , qn)をRnの座標として、dq1, dq2, · · · , dqn が T ∗q Rn の基底となるので ∀p ∈ T ∗q Rnは

    p =∑

    pidqi ∈ T ∗q Rn

    と書けて (p1, · · · , pn)がT ∗q Rnの上の座標として取れる。したがって (q1, · · · , qn, p1, · · · , pn)が T ∗M の座標になる。

    T ∗Rn の接ベクトル ξ ∈ T ∗Rn は

    ξ =∑

    ai∂

    ∂qi+

    ∑bi

    ∂pi

    と書ける。

    正準形式 θpを計算しょう。

    p =∑

    pidqi ∈ T ∗q Rn, ξ =∑

    ai∂

    ∂qi+

    ∑bi

    ∂pi∈ T(q,p)(T ∗Rn)

    dπp(ξ) =∑

    ai∂

    ∂qi∈ TqRn q = π((q, p))

    θp(ξ) = p(dπp(ξ)) =∑

    pidqi(∑

    ai∂

    ∂qi) =

    ∑piai

    ゆえに θp =∑

    pidqi で、

    ωp = dθp =∑

    dpi ∧ dqi.が symplectic form になる。

  • 1.1.2 ハミルトンベクトル場、Hamilton vector field

    (X,ω) を symplectic manifold とする。

    Hamiltonian vector 場

    symplectic form ω により T ∗X と TX の線形同型が次のように得られる。X 上の 1-form λ に対して式

    ω(·, Λ) = λ(·)によりベクトル場 Λ が定まる。 この対応 λ −→ Λを

    I : T ∗X −→ TX (1.4)ω(·, Iλ) = λ(·) (1.5)

    と書く。

    X 上の smooth function H に対して、

    YH = IdH

    をH のHamiltonian vector 場という。

    ω(ξ, YH) = dH(ξ) = ξ(H) ∀ξ ∈ TX

    X = T ∗Rn の場合に見よう。 Hを X = T ∗Rn = R2n 上の smooth function

    とする。

    dH =∑ ∂H

    ∂qjdqj +

    ∂H

    ∂pjdpj

    YH = IdH =∑

    i

    ai∂

    ∂qi+ bi

    ∂pi

    の係数 ai,biを ω(·, YH) = dH(·) の両辺を較べて求める。任意の

    ξ =∑

    i

    ci∂

    ∂qi+ di

    ∂pi

    に対して

    dpk ∧ dqk(ξ, YH) = dkak − bkck, (1.6)ω(ξ, YH) =

    ∑(dkak − bkck). (1.7)

    dH(ξ) = ξ(H) =∑

    i

    ci∂H

    ∂qj+ di

    ∂H

    ∂pi(1.8)

  • が順にわかる。ゆえに条件 ω(·, YH) = dH(·) より

    bk = −∂H∂qk

    ak =∂H

    ∂pk

    YH =∑ (∂H

    ∂pk

    ∂qk− ∂H

    ∂qk

    ∂pk

    )(1.9)

    となる。

    (X,ω); symplectic manifoldH; hamiltonian( smooth functon ),YH ; Hamiltonian vector fieldとしょう。

    ハミルトンベクトル場 YH の積分曲線をハミルトン流れという。

    ϕH( · , z); (a, b) 3 t −→ ϕH( t , z) ∈ Xが微分方程式

    d

    dtϕ(t) = YH(ϕ(t)) (1.10)

    ϕ(0) = z (1.11)

    を満たすとき、ϕH( · , z)を点 z ∈ Xを通る ハミルトン流れという。

    X = T ∗Rn = R2n, ω =∑

    dpi ∧ dqiのとき

    YH =∑ (∂H

    ∂pk

    ∂qk− ∂H

    ∂qk

    ∂pk

    )Hamilton vector field

    に対応するハミルトン流れ

    ϕH(t) = (q1(t), · · · , qn(t), p1(t), · · · , pn(t))はHamiltonの運動方程式;

    ddt

    qi(t) =∂H∂pi

    (q(t), p(t))

    1 ≤ i ≤ nddt

    pi(t) = −∂H∂qi (q(t), p(t))の解である。

  • 1.1.3 symplectomorphism, 正準変換

    ϕt1to : X −→ X で, 時刻 t = t0での初期状態 (q0, p0) を時刻 t = t1 での終期状態 (q1, p1) = ϕH(t1 − t0, (q0, p0)) にハミルトン流れ ϕH により移す変換としょう。 すなわち

    ϕt1t0(x) = ϕH(t1 − t0, x))

    により変換

    ϕt1t0 : X −→ X.を定義する。 これは正準変換となる;

    (ϕt1t0)∗ω = ω.

    さらに ∫

    γ

    θ =

    ϕt1toγ

    θ Poincaré (1.12)

    このことは次のように説明される。

    相空間R2n(q,p)と時空相空間 R2n+1 = R2n(q,p)×Rtを考え、その座標を (q1, · · · , qn, p1, · · · , pn, t)

    とする。ハミルトン関数H = H(q, p) を考え、1-form

    θ′ = θ −Hdt = p1dq1 + · · ·+ pndqn −Hdt

    を作る。

    dθ′ =∑

    i

    (dpi ∧ dqi − ∂H

    ∂qidqi ∧ dt− ∂H

    ∂pidqi ∧ dt

    )

    となる。

    また すぐわかるように t =一定な相空間に制限すると

    dθ′|{t = constant} = ω

    である。

    R2n+1のベクトル場

    ZH =∑ (∂H

    ∂pk

    ∂qk− ∂H

    ∂qk

    ∂pk+

    ∂t

    )(1.13)

    は、

    dθ′(ZH) = −∂H∂qk

    dqk − ∂H∂pk

    dpk +∂H

    ∂pk

    ∂H

    ∂qkdt +

    ∂H

    ∂pkdpk − ∂H

    ∂qk

    ∂H

    ∂pkdt +

    ∂H

    ∂qkdqk

    = 0

  • を満たす。したがって、ベクトル場ZH の積分曲線に沿って dθ′ = 0 が成り立

    つことがわかった。 

    一方この積分曲線は

    q̇k =∂H

    ∂pk, ṗk = −∂H

    ∂qk

    で与えられる。 すなわち、ハミルトン関数Hのハミルトン流れϕH((q, p), t)(をR2n+1内で見たもの)に他ならない。ゆえにハミルトン流れに沿ってdθ′ = 0となる。

    さて、番号 i に対して、時刻 t = t0における時空相空間 R2n+1 の部分空間

    である (qi, pi)− 座標空間を考え、そこにおいて独立な2つのベクトル u,v が張る平行四辺形と、ハミルトン流れにより(時空相空間 R2n+1 の中を)時刻t = t1までこの平行四辺形が移動して行くときにできる時空相空間 の中の管を考えよう。

    ベクトルZH(ϕH((q, p), t)) は、点ϕH((q, p), t) において この管に接してい

    る。  はじめの平行四辺形 αがϕt1t0で移った時刻 t = t1での像をϕt1t0α とし、

    時刻 t = t0から時刻 t = t1までのハミルトン流れの作る管の側面(ベクトルu,vが流れてできる面)を σとすると、α、σ 、ϕt1t0α は, (qi, pi)空間の、したがってR2n+1 の中の閉曲面 Σをつくる。Stokes の定理より閉形式 dθ′の Σ上の積分は 0; ∫

    Σ

    dθ′ = 0

  • 一方側面 σはハミルトン流れϕH((q, p), t))のつくる面であり、上に見たようにそこでは dθ′ = 0 となっている。ゆえに残る積分を見て、∫

    ϕt1t0

    α

    dθ′ −∫

    α

    dθ′ = 0.

    各面 ϕt1t0α, α上で t =constant だから∫

    ϕt1t0

    α

    ω −∫

    α

    ω = 0. (1.14)

    ω(u,v) =∫

    αω は平行四辺形αの面積である。これがハミルトン流れで不変で

    あることが示された。番号 1 ≤ i ≤ nと微小ベクトル u,vは任意であるから(ϕt1t0)

    ∗ω = ω

    がわかる。

    命題 1 次の主張は同値である;

    1.ϕ : T ∗M −→ T ∗M

    が symplectomorphism.

    2.ϕ∗ω = ω

    3. ∫

    σ

    ω =

    ϕσ

    ω

    4. ∫

    γ

    θ =

    ϕγ

    θ

    上の説明の平行四辺形とその周の代わりに、R2n内の曲面σとその周 γ = ∂σを考え, またハミルトン流れϕt1t0による σの像ϕ

    t1t0σ と γが流れてできる管が囲

    む曲面を考えて、上と同じように 1 ∼ 3の同値がわかる。σと ϕt1t0σ に Stokesの定理を適用して ∫

    σ

    ω =

    γ

    θ,

    ϕt1t0

    σ

    ω =

    ϕt1t0

    γ

    θ

    より 3 ∼ 4がわかる。(1)-(4) と Poincaré の lemma より、

    命題 2 Hamiltonian 流れの全体は symplectomorphism の合成により one pa-rameter group になる:

    ϕt ◦ ϕs = ϕs+t.

  • 1.2 Poisson多様体上の運動

    剛体の運動や、対称性の強い(拘束された)運動に対しては、相空間 T ∗Mでのハミルトン系で扱うより、対称性を考慮して、自由度の少ない取り扱いを

    した方がよい。

    1.2.1 Poisson 多様体

    多様体 P 上の関数 C∞(P ) に対して、次の条件を満たす双一次形式 { , } が定義されているとき、 P を Poisson 多様体という。

    1. (C∞(P ), { , }) はリー環である;

    {aF+bG,H} = a{F,H}+b{G,H}, {H, aF+bG} = a{H, F}+b{H, G}.

    {{F,G}, H}+ {{G,H}, F}+ {{H, F}, G} = 0

    2. { , } は Leipnitzの式を満たす;

    {FG, H} = {F,H}G + F{G,H}

    例.1X = T ∗M , ω は symplectic 多様体として、

    {F,H} = ω(YF , YH)と定義すると、 X は poisson 多様体。局所座標で書くと、 

    (Rn, ω =∑

    dpi ∧ dqi)

    においては、

    YH =∑ (∂H

    ∂pk

    ∂qk− ∂H

    ∂qk

    ∂pk

    ).

    ゆえに、

    {F,H} = ω(YF , YH)

    =

    (∑i

    dpi ∧ dqi)(∑

    (∂F

    ∂pk

    ∂qk− ∂F

    ∂qk

    ∂pk),

    ∑(∂H

    ∂pl

    ∂ql− ∂H

    ∂ql

    ∂pl)

    )

    =∑

    i

    (−∂F

    ∂qi

    ∂H

    ∂pi+

    ∂H

    ∂qi

    ∂F

    ∂pi

    )

    これは良く知られたPoisson括弧式で、定義で述べた性質 1,2は計算でわかる。

  • したがって Symplectic 多様体は poisson多様体である。 

    例.2(Lie群、 Lie環のかんたんな復習を後の節で行う。)

    G リー環。tj; j = 1, 2, · · · , r ; G の generator, すなわちベクトル空間 Gの基底.Ckij は構造常数;

    [ti, tj] =r∑

    k

    Ckijtk

    ヤコビの恒等式は

    Cmij Clmk + C

    mjkC

    lmi + C

    mkiC

    lmj = 0.

    と表される。

    G ' Rr として、G 3 x = ∑k xktk の座標を  x1. · · · , xr とする。 x1. · · · , xr の関数 F ∈ C∞(G) の微分をする。

    F,G ∈ C∞(G) に対して

    {F,G}±(x) = ±r∑

    i,j,k

    Ckij∂F

    ∂xi

    ∂G

    ∂xjxk, (1.15)

    と定義する。ただし x =∑

    k xktk。G、{ , } は Poisson 多様体となる。その計算

    {xi, xj} =r∑

    l,m,k

    Cklm∂xi∂xl

    ∂xj∂xm

    xk = Ckijxk,

    より

    {{xi, xj}, xk} =r∑

    l

    Cmij Clmkxl

    {{xi, xj}, xk} + {{xj, xk}, xi}+ {{xk, xi}, xj}

    =r∑

    l

    (Cmij C

    lmk + C

    mjkC

    lmi + C

    mkiC

    lmj

    )xl = 0

    {{F,G}, H} =∑

    Cblk∂{F,G}

    ∂xl

    ∂H

    ∂xkxb

    =∑

    CblkCaij

    ∂xl(∂F

    ∂xi

    ∂G

    ∂xj)∂H

    ∂xkxaxb +

    ∑CbakC

    aij

    ∂F

    ∂xi

    ∂G

    ∂xj

    ∂H

    ∂xkxb

  • {{G,H}, F} =∑

    Caji∂{G,H}

    ∂xj

    ∂F

    ∂xixa

    =∑

    CblkCaji

    ∂xj(∂G

    ∂xl

    ∂H

    ∂xk)∂F

    ∂xixaxb +

    ∑CblkC

    abi

    ∂F

    ∂xi

    ∂G

    ∂xj

    ∂H

    ∂xkxa

    {{F,G}, H}+ {{G,H}, F} =∑

    CblkCaij

    ∂2F

    ∂xl∂xi

    ∂G

    ∂xj

    ∂H

    ∂xkxaxb +

    ∑CblkC

    aji

    ∂G

    ∂xl

    ∂2H

    ∂xj∂xk

    ∂F

    ∂xixaxb

    +∑

    Cblk

    {∑Caij

    ∂2G

    ∂xl∂xj+ Caji

    ∂2G

    ∂xj∂xl

    }∂F

    ∂xi

    ∂H

    ∂xkxaxb

    +∑

    (CackCcij + C

    aciC

    cjk)

    ∂F

    ∂xi

    ∂G

    ∂xj

    ∂H

    ∂xkxa

    第3項の和は0になる。

    こうして、

    {{F,G}, H}+ {{G,H}, F}+ {{H, F}, G} =∑

    (CcijCack + C

    cjkC

    aci + C

    ckiC

    acj)

    ∂F

    ∂xi

    ∂G

    ∂xj

    ∂H

    ∂xkxa

    = 0

    Leibnitz rule の方も確かめよ。 

    例.3G = (R3)∗ = R3, Ckij = ²ijl のとき計算すると次のようになる.

    {F,G}±(x) = ±x · (∇F ×∇G). (1.16) 

    例.4G = so(3) ' R3 が剛体のオイラー方程式を与える。以下の節でそれをくわ

    しく見よう。

    1.2.2 Poisson 多様体でのハミルトンの運動方程式

    (Rn, ω =∑

    dpi ∧ dqi)でのポワッソンの括弧式 

    {H, F} =∑

    i

    (−∂F

    ∂qi

    ∂H

    ∂pi+

    ∂H

    ∂qi

    ∂F

    ∂pi

    )

  • は H をハミルトニアンとするハミルトン流れ

    d

    dtqi(t) =

    ∂H

    ∂pi(q(t), p(t))

    d

    dtpi(t) = −∂H

    ∂qi(q(t), p(t))

    の上では

    {H, F}(q(t), p(t)) =∑

    i

    (−∂F

    ∂qi(q(t), p(t))

    d

    dtqi(t)− ∂H

    ∂qi(q(t), p(t))

    d

    dtpi(t)

    )

    = − ddt

    F (q(t), p(t))

    となる。

    そこで Poisson 多様体 (X, { , }) において H ∈ C∞(X) をハミルトニアンとするハミルトン流れを方程式

    {F,H}(x(t)) = ddt

    F (x(t)), ∀F ∈ C∞(X)

    の解として定義する。省略して

    Ḟ = {F,H}

    と書く。こう書くと F が H をハミルトニアンとする運動の常数(積分)であること, すなわち

    Ḟ =d

    dtF (x(t)) = 0

    であることと {F,H} = 0であることの良く知られた同値は一瞬に見えている。

    1.2.3 剛体のオイラー方程式 (リー環 so(3) による)

    G = so(3) ' R3 が剛体のオイラー方程式を与える。以下でそれをくわしく見よう。

    リー群  SO(3) のリー環は so(3) ' R3 で  2.1節の例の式 (19)の - 符号の方

    {F,G}−(x) = −x · (∇F (x)×∇G(x)).を採用してPoisson 多様体になる。- 符号の方を採用するのは習慣による。以下 x = Πと書く。

    F = F (Π), G = G(Π) ∈ C∞(R3) に対して

    {F,G}(Π) = −Π · (∇F (Π)×∇G(Π)).1 (1.17)

  • ハミルトニアン

    H =1

    2

    (Π21I1

    +Π22I2

    +Π23I3

    )

    に対する、 ハミルトンの運動方程式

    {F,H}(Π) = Ḟ (Π) (1.18)

    は次の剛体のオイラーの方程式となる。 

    Π̇1 =I2 − I3I2I3

    Π2Π3, Π̇2 =I3 − I1I3I1

    Π3Π1, Π̇3 =I1 − I2I1I2

    Π1Π2. (1.19)

    証明

    {F,H}(Π) = −Π · (∇F (Π)×∇G(Π))(∇F (Π)×∇G(Π)) の第一成分は

    ∂F

    ∂Π2

    ∂H

    ∂Π3− ∂F

    ∂Π3

    ∂H

    ∂Π2=

    ∂F

    ∂Π2

    Π3I3− ∂F

    ∂Π3

    Π2I2

    .

    より

    Π · (∇F (Π)×∇G(Π)) = Π1( ∂F∂Π2

    Π3I3− ∂F

    ∂Π3

    Π2I2

    ) + Π2(∂F

    ∂Π3

    Π1I1− ∂F

    ∂Π1

    Π3I3

    )

    +Π3(∂F

    ∂Π1

    Π2I2− ∂F

    ∂Π2

    Π1I1

    )

    =∂F

    ∂Π1(Π2Π3

    I2− Π2Π3

    I3) +

    ∂F

    ∂Π2(Π3Π1

    I3− Π3Π1

    I1) +

    ∂F

    ∂Π3(Π1Π3

    I2− Π2Π3

    I3)

    一方

    Ḟ (Π) =∂F

    ∂Π1Π̇1 +

    ∂F

    ∂Π2Π̇2 +

    ∂F

    ∂Π3Π̇3

    だから , この2つを較べて、あるいは F = Π1, F = Π2,F = Π3 を代入して、 運動方程式 (1.20)は(1.21)の形になる。( - 符号はここで合わせるために採用したのだろう。)

    1.2.4 剛体のオイラー方程式 (運動学的)

    剛体 Γとは、その上の任意の2点が

    ∀t, x(t),y(t) ∈ Γ に対して |x(t)− y(t)| = |x(0)− y(0)|

  • を満たすものとして定義される。線形独立な3点をとると ひとつ正規直交基

    底  e1(t), e2(t), e3(t) が定まり、剛体 Γ 上の任意の点は

    x(t) = a1e1(t) + a2e2(t) + a3e3(t)

    と表される。 したがって 状態空間として R3 内の基底全体、すなわち6次元の多様体

    R3 × SO(3)が得られる。 一点が固定された剛体の場合は 状態空間は SO(3) である。

    R3 の座標(静止座標)を一つ決めて  k と書く。剛体 Γ に固定された座標を  K と書く。座標変換の行列は直交行列だから

    ∃R(t) ∈ SO(3) : K −→ k.Q(t) ∈ K に対し

    q(t) = R(t)Q(t)

    とおく、また

    v(t) = q̇(t) ∈ Tq(t)k = kに対して V(t) = R(t)−1v(t) ∈ K と置く。V(t) は Q̇(t) ではない。 実際 いまは Q(t) はK に対して静止しているから Q̇(t) = 0.

    ‖V(t)‖2 = (V(t),V(t)) = ‖v(t)‖2 (1.20)である。

    ω(t) を静止座標 k における q(t) の角速度とする。ω(t) は次の命題により存在するような k のベクトルとして定義される。

    命題 3v(t) = ω(t)× q(t)

    証明 Q(t) は剛体 Γ に固定されているので時間に依存しない; Q(t) = Q と書こう。  q(t) = R(t)Q(t) を微分して Q̇(t) = 0に注意すれば

    q̇(t) = Ṙ(t)Q = Ṙ(t)R(t)−1q(t)

    線形写像

    A(t) = Ṙ(t)R(t)−1 : k −→ kを考えよう。R(t) は直交行列だから R(t) tR(t) = I, これを微分して

    R ˙( tR) + Ṙ tR = 0

    ゆえに tA + A = 0, すなわち A は skewsymmetricである。次の 補題より

    q̇(t) = Aq(t) = ω(t)× q(t)

  • となるベクトル ω(t) ∈ k がある。 2

    歪対称行列 は

    A =

    0 −ω3 ω2ω3 0 −ω1−ω2 ω1 0

    と書ける。

    ω =

    ω1ω2ω3

    とおく。Aω = 0である。

    Ax =

    0 −ω3 ω2ω3 0 −ω1−ω2 ω1 0

    x1x2x3

    = ω × x

    となる。

    次のことに注意しておく。直交行列による変換(直交変換)は定義により内

    積を変えないが、外積も変えない。なぜなら二つのベクトルのつくる平行四辺

    形の(符号つき)面積が外積ベクトルだから。すなわち、

    |a×b| =√

    (a2b3 − a3b2)2 + (a3b1 − a1b3)2 + (a1b2 − a2b1)2 =√|a|2|b|2 − (a · b)2

    は直交変換で不変、また向きずけも不変。

    Ω(t) = R(t)−1ω(t) = tR(t)ω(t) ∈ Kと置こう。

    上の注意と式 (31)より

    V (t) = Ω(t)×Q(t) (1.21)

    となる。

    m(t) を系 k における角運動量

    m(t) = q(t)×mv(t) = m(q(t)× (ω(t)× q(t))).

    Π(t) = R(t)−1m(t) = tR(t)m(t) とおくと、もう一度上の注意とより

    Π(t) = m(Q(t)× (Ω(t)×Q(t))). (1.22)

    がしたがう。

  • そこで 剛体系 K の線形写像 B(t) : K −→ K を

    B(t)X = m(Q(t)× (X×Q(t))).

    により定義する。

    命題 4 B(t) は対称行列である。

    なぜなら

    (B(t)X,Y) = m(Q(t)× (X×Q(t)), Y ) = m(Y ×Q(t), X×Q(t) )

    は X,Y に関して対称。対称行列 B(t) は ある直交行列により対角化できる。その固有値(実になる)I1(t), I2(t), I3(t) を慣性テンソルという。(直交する)単位固有ベクトルe1(t), e2(t), e3(t) を慣性軸という。

    (1.24) はΠ(t) = B(t)Ω(t)

    と書けるが、

    Ω(t) = Ω1(t)e1(t) + Ω2(t)e2(t) + Ω3(t)e3(t)

    Π(t) = Π1(t)e1(t) + Π2(t)e2(t) + Π3(t)e3(t) (1.23)

    と置くと、これは

    Πk(t) = Ik(t)Ωk(t). (1.24)

    となる。

    さて、剛体上の点の運動エネルギーは

    T (t) =m

    2‖V (t)‖2 = m

    2( Ω(t)×Q(t), Ω(t)×Q(t) ) = 1

    2( B(t)Ω(t), Ω(t) ) =

    1

    2( Π(t), Ω(t) )

    である。 ここで、(1.22),(1.23), (1.24) を使った。さらに (1.25)より

    T (t) =1

    2(I1(t)Ω1(t)

    2 + I2(t)Ω2(t)2 + I3(t)Ω3(t)

    2).

    あるいは 2.3節の書き方で

    T (t) =1

    2

    (Π1(t)

    2

    I1(t)+

    Π2(t)2

    I2(t)+

    Π3(t)2

    I3(t)

    ).

    以上の準備のもとに剛体 Γ の運動方程式を導こう。外力が働いてないので静止座標 k における角運動量は変化しないから

    ṁ(t) = 0.

  • 命題 5 Eulerの運動方程式

    Π̇(t) = Π(t)× Ω(t)

    証明

    0 = ṁ(t) = (̇R(t)Π(t)) = Ṙ(t)Π(t) + R(t)Π̇(t)

    より

    Π̇(t) = −R(t)−1Ṙ(t)Π(t) = −R(t)−1(Ṙ(t)R(t)−1R(t)Π(t)= −R(t)−1A(t)m(t) = −R(t)−1(ω(t)×m(t)) = R(t)−1(m(t)× ω(t))= Π(t)× Ω(t)

    これは成分ごとに書くと(1.25)(1.26)より、

    Π̇1 =I2 − I3I2I3

    Π2Π3, Π̇2 =I3 − I1I3I1

    Π3Π1, Π̇3 =I1 − I2I1I2

    Π1Π2.

    8節でリー環 so(3)の Poisson括弧から導いた運動方程式(1.21)と同じものであることがわかる。

  • 21

    第2章 対称性

    2.1 対称性、Lie群、Lie環の作用

    リー群とリー環について復習しておく。

    2.1.1 リー群 , Lie環について

    直交群 O(3) は R3 の内積を変えない線形変換全体である。

    (Tx, Ty) = (x, y).

    回転群  SO(3) 3 T は T ∈ O(3) で det T = 1 なるもの全体。これらは3次元の多様体になっている。 このように群であり多様体でもあり、群演算が多

    様体上のなめらかな写像になってる対象をリー群という。

    Lie group G とは次の条件を満たすものである:

    1. G は多様体である

    2. G には群演算が定義されている、すなわち写像

    Φ : G×G −→ G

    で次を満たすものが存在:

    (a) Φ(Φ(g1, g2), g3)) = φ(g1, Φ(g2, g3)), ∀g1, g2, g3 ∈ G.(b) Φ(g, e) = g = Φ(e, g),  ∀g ∈ G,を満たす元 e ∈ G がある。(c) ∀g ∈ G に対してΦ(x, g) = e を満たす x ∈ G が存在する。

    3. 群演算はなめらか ((C∞)である:

    G×G 3 (g, h) −→ Φ(g, h) ∈ G

    がGの多様体の構造でC∞写像になる。

    簡単のため

    Φ(g, h) = gh

  • と書く。

    G をひとつのリー群とする。  g ∈ G に対して、左と右から g をかける作用;

    Rg : G −→ G, Lg : G −→ G,Rgh = hg, Lgh = gh

    および Ag = Rg−1Lg : G −→ G,

    Agh = ghg−1

    を考える。

    Ag(fh) = Agf · Aghより、各 g ∈ G に対してAgは G から Gの自己同型への写像を与える 。Agを gからきまる内部自己同型という。  対応

    G 3 g −→ Ag ∈ End(G)

    は群準同型、すなわちGのひとつの表現を与える;Agh = AgAh.

    ∀g ∈ G に対して Age = e だからAg の微分は eでの接空間 TeGをそれ自身にうつす;

    (Ag)∗ : TeG −→ TeG,(Ag)∗X =

    d

    dtAg(ϕ(t))|t=0

    ここにϕ(t) は eをとおる接ベクトルX に接するG内の曲線である;ϕ(0) = e,ϕ̇(0) = X.

    定義 Lie algebra Gとは、次の条件をみたす双線形写像

    [ , ] : G × G −→ G

    が定義されているベクトル空間 のことである;

    [X, [Y, Z]] + [Y, [Z, X]] + [Z, [X,Y ]] = 0.

    TeG に演算 ad = [ , ] (後の命題6)をつけたものをGのリー環 Gという。Adg = (Ag)∗|e をAdjoint operator という。

    Adg : G −→ G.

  • 各 g ∈ G に対してAdgは G から Gの自己準同型への写像を与える ;

    Adg : G −→ End(G).

    対応 g −→ Adg は群準同型、すなわちGのひとつの表現を与える;

    Adgh = AdgAdh

    写像 Ad : G −→ End(G) の e ∈ Gでの微分

    (Ad)∗ : TeG = G −→ End(G)

    を ad と書く。

    adξ =d

    dtAdϕ(t)|t=0,

    ここに ϕ(t) は eをとおる接ベクトル ξ に接するG内の曲線;

    ϕ(0) = e, ϕ̇(0) = ξ.

    2.1.2 平行移動群、ユークリッド運動群

    例. 平行移動群空間R3 内のベクトル a ∈ R3 による平行移動は,

    Ta : R3 3 x −→ x + a ∈ R3

    と記述される。

    Ta ◦ Tb = Ta+b, T0 ◦ Ta = Ta, Ta ◦ T−a = T0で、平行移動の全体 T は群をつくり単位元は T0である。、また R

    3 3 a ←→Ta ∈ R3 により R3 のベクトル全体と1対1に対応しているので、多様体としてはR3 と同じものと見ると、 T は Lie群になる。このときR3 をベクトルの加法による群と思うと, T とR3 は同じリー群となる。 R3 の単位元は 0と書いた。 演算が可換, gh = hg, な群に対しては単位元を 0と書くのがふつうである。

    T ' R3 のリー環 T を求めよう。0 ∈ T での接空間はR3 のベクトル全体である。ベクトル ξ ∈ R3 に接して 0 ∈ T を通る曲線は

    tξ ∈ T; −∞ < t < ∞

    だからd

    dt|t=0(tξ) = ξ.

  • したがって

    T = T0T = R3.a ∈ Tに対して,Ada : T −→ T は

    Adab = a + b− a = b, よりAda = T0,∀a ∈ Ta ∈ Tに対して,Ada : T −→ T は

    Adaξ =d

    dt|t=0(a + tξ − a) = ξ,

    よりAda = Id ∈ End(T ),∀a ∈ T.

    例. G = SO(n)Rn のベクトルの線形変換で、ベクトルの長さを変えないものの全体を n次直交行列の群 SO(n) という。

    A ∈ SO(n) に対し、(a,b) = (Aa, Ab) = ( tAAa,b)

    より

    SO(n) ={A; n× n 行列, tA · A = E, det A = 1}

    SO(n) のリー環 ( 単位元 Eにおける接空間) so(n) = TeSO(n)は次のように求められる。

    ξ ∈ TeSO(n)とする.Eを通り ξを接ベクトルとする曲線を g(t) ∈ SO(t) とすると

    tg(t) · g(t) = E.これを微分して

    ( tg)′(t) · g(t) + ( tg)(t) · (g)′(t) = 0t = 0として、 tξ · E + E · ξ = 0, すなわち

    ξ ∈ so(n) ⇐⇒ tξ + ξ = 0.である。

    h ∈ Gに対して

    Adhξ ==d

    dt|t=0h · g(t) · th = h · ξ · h−1

    ただし、Eを通り ξを接ベクトルとする曲線を g(t) ∈ SO(t)とし、 th = h−1を使った。

  • 命題 6adξη = ξη − ηξ, ∀ξ, η ∈ so(n)

    証明.

    adξη =d

    dt|t=0Adg(t)η = d

    dt|t=0(g(t) · η · g(t)−1) (2.1)

    = ξη − ηξ (2.2)

    例 1so(3) = {X; 3× 3matrix, X + X t = 0}

    X ∈ so(3), すなわち歪対称行列 Xは

    X =

    0 −x3 x2x3 0 −x1−x2 x1 0

    と書ける。 XY を行列の積として

    [X,Y ] = XY − Y X,

    とおけば [ , ] がリー環の条件を満たすことがわかる。so(3) の基底として、

    E1 =

    0 0 00 0 −10 1 0

    , E2 =

    0 0 10 0 0−1 0 0

    , E3 =

    0 −1 01 0 00 0 0

    (2.3)

    をとる。

    [E1, E2] = E3, [E2, E3] = E1, [E3, E1] = E2

    となる。

    一般にリー環  G の基底をEk, k = 1, 2, · · · ,m, として 

    [Ei, Ej] =m∑

    k=1

    CkijEk

    なるm3個の定数 Ckij, i, j, k = 1, 2, · · · ,m が定まる。これをリー環  G の構造定数という。 逆に構造定数を与えるとリー環が定まる。

    so(3) の構造定数は Ckij = ²kij.

  • 例2. R3

    R3 3 x,y に対して[x,y] = x× y, 外積

    がリー環の条件を満たすことを確かめよ。

    so(3) と R3 はリー環として同型である。 すなわち

    so(3) 3 X =

    0 −x3 x2x3 0 −x1−x2 x1 0

    x =

    x1x2x3

    ∈ R3

    を対応させると、これはベクトル空間の同型で 

    [X,Y ] = x× y

    が満たされるからリー環の同型になる。  基底 E1 には基底 e1 =

    100

    、... が対応する。さらに so(3) 3 X,Y に

    k(X,Y ) = −12tr(XY )

    で内積を定めると、 この同型は isometric である;

    k(X,Y ) = x1y1 + x2y2 + x3y3 = (x,y).

    リー環 so(3) からリー群 SO(3) へは exponential map がある。

    exp tE1 =

    1 0 00 cos t − sin t0 sin t cos t

    など。

    例 3ポワソン多様体 P の定義における1番目の条件は

  • (C∞(P ), { , }) はリー環になることを言っている。

    2.2 運動量写像、Moment map

    M を多様体、G を Lie群 として、次の条件を満たす写像があるとき Lie群G は多様体 M に作用するという。

    Φ : G×M −→ M,Φ(h, Φ(g, m)) = Φ(hg, m), g, h ∈ G, m ∈ M

    Φ(e,m) = m.

    ポワソン多様体 P にリー群 G が作用しているとする; φg(x) = gx と書く。 また この作用 φg : P −→ P , g ∈ G, は Poisson map すなわち、条件

    {F ◦ φg, G ◦ φg} = {f, , G} ◦ φgを満たすとする。

    リー群 G の作用にたいするハミルトン作用とは、リー環の準同型(または反準同型)

    Ĵ : G −→ C∞(P )で ∀g ∈ G に対して

    YĴ(ξ) = ξP (2.4)

    を満たすもののことである。   ここで、  YĴ(ξ) はハミルトニアン Ĵ(ξ)のハミルトンベクトル場 (1.2.1節)で、 ξP は ξ ∈ G に対応する infinitesimalvector field

    ξP (x) =d

    dt|t=0 exp(tξ)x,

    を表す。

    リー群 G がポワソン多様体 P にハミルトン作用をしているとき

    J : P −→ G∗ (2.5)< J(x), ξ >= Ĵ(ξ)(x) > (2.6)

    をモーメント写像という。

  • 2.2.1 いくつかの 運動量写像の計算

    例.1. 平行移動群

    平行移動群T ' (R3, +) はR3 に

    T× R3 3 (a, x) −→ x + a ∈ R3

    により作用する。成分ごとに書けば、

    T× R3 3

    a1a2a3

    ,

    x1x2x3

    −→

    x1 + a1x2 + a2x3 + a3

    ∈ R3.

    Tの作用は、さらにP = T ∗R3 = R3×R3 にまで持ち上げられる。すなわち

    T× (R3 × R3) 3 (a, q, p) −→(

    q + ap

    )∈ R3 × R3

    により余ベクトル pには+0 として作用させる。

    T のリー環を T としょう。ξ ∈ T に対して P = T ∗R3上の無限小ベクトル場 ( ξ 方向への平行移動の

    generator)は;

    ξP (

    (qp

    )) =

    d

    dt|t=0

    (q + tξ

    p

    )=

    (ξ0

    )

    =3∑

    j=1

    ξj∂

    ∂qj+

    3∑j=1

    0∂

    ∂pj=

    3∑j=1

    ξj∂

    ∂qj

    とくに 座標 q1-方向への平行移動 T 3 e1 =

    100

    に対応する infinitesimal

    generator は

    (e1)P =∂

    ∂q 1

    同様に (ei)P =∂∂q i

    , i = 1, 2, 3, だから

    ξP =3∑

    i=1

    ξi∂

    ∂q i

    である。

    これは物理の教科書に書いてあるとおり。これを Hamiltonベクトル場と

    するHamiltonian H = Hξ(q, p) ∈ C∞(P ) を探す.

  • 正準1次形式 θ =∑3

    i=1 pidqi に対して

    H = θ(ξP ) =3∑

    i=1

    pidqi(3∑

    j=1

    ξj∂

    ∂q j=

    3∑i=1

    p1ξi

    と置こう。

    ω(·, ξP ) =3∑

    i=1

    dpi ∧ dqi(·,3∑

    i=1

    ξk∂

    ∂q k) =

    3∑i=1

    ξidpi

    = dH = ω(·, YH)

    より、YH = ξP , すなわち

    Ĵ(ξ) = H =3∑

    i=1

    p1ξi

    がわかった。 とくに ξ = E1、座標 q1-方向への平行移動、 とすると

    Ĵ(e1) = p1 q1-方向の運動量

    で、一般に

    J(q, p) : T 3 ξ =

    ξ1xi2xi3

    −→ Ĵξ((q, p)) =

    3∑i=1

    p1ξi = (ξ,p)

    この対応は線形だから,

    J : P 3 (q, p) −→ J((q, p)) = p ∈ G∗

    と書いてモーメント写像 J が得られた。たしかにmomentum map はmomentum pを表している。

    例.2. Eucledian 運動群

    平行移動群 Tと回転群 O(3) の直積 G = O(3) × Tを Eucledian 運動群という。

    (A b0 1

    )=

    a11 a12 a13 b1a21 a22 a23 b2a31 a32 a33 b30 0 0 1

    ∈ G

  • ここにA ∈ O(3), b ∈ T.積は (

    A b0 1

    )·(

    A′ b′

    0 1

    )=

    (AA′ Ab′ + b0 1

    )

    で与えられ、単位元は

    E =

    (E 00 1

    )

    である。

    G は R3 に

    G 3(

    A b0 1

    )(q1

    )=

    (Aq + b

    1

    )

    により作用する。

    G = O(3)× T の Lie環は G = o(3)⊕ T となる。

    G 3(

    X ξ0 0

    )

    の基底は o(3)の基底と T の基底を合わせて得られる:(

    Ei 00 0

    ), i = 1, 2, 3 ej =

    (O ej0 0

    ), j = 1, 2, 3

    Lie括弧積は[(

    X ξ0 0

    ),

    (Y η0 0

    )]=

    (XY − Y X Xη − Y ξ

    0 0

    )

    となる。

    G 3(

    A b0 1

    )は

    (qp

    )∈ T ∗R3 に

    A b 00 1 O0 0 tA−1 = A

    q1p

    =

    Aq + b1

    Ap

    により作用する。

    すでに見たM = R3 での平行移動を G = o(3)⊕ T において見ると,ベクトル ξによる平行移動

    (0 ξ0 0

    )∈ G が生成する P = T ∗R3上のベクト

    ル場は次のようになる。

    exp tξ ·

    q1p

    =

    I tξ 00 1 00 0 I

    q1p

    =

    q + tξ1p

    = (q + tξ, p)

  • .を t = 0で微分して、

    3∑j=1

    ξj∂

    ∂qj+

    3∑j=1

    0∂

    ∂pj=

    3∑j=1

    ξj∂

    ∂qj

    でもちろん前と同じ。

    x3− 軸を中心とした無限小回転;

    G 3 E3 =

    0 −1 01 0 00 0 0

    が生成する x3− 軸を中心とした回転は

    exp tE3 =

    cos t − sin t 0sin t cos t 00 0 1

    で、

    exp tE3 ·(

    qp

    )=

    cos t − sin t 0 0sin t cos t 0 0 O0 0 1 0

    10 cos t − sin t 0

    O 0 sin t cos t 00 0 0 1

    q1p

    により作用する。

    これより x3− 軸を中心とした回転の generatorは

    X3 = (E3)P =d

    dt|t=0exp tE3 = −q2 ∂

    ∂q1+ q1

    ∂q2− p2 ∂

    ∂p1+ p1

    ∂p2

    E3 ∈ G のモーメント写像による像 Ĵ(E3) = HE3、すなわちYHE3 = (E3)P

    となる関数HE3 ∈ C∞(P ) を求めよう。前と同様に

    H = θ(X3) =3∑

    i=1

    pidqi(−q2 ∂∂q1

    + q1∂

    ∂q2− p2 ∂

    ∂p1+ p1

    ∂p2)

    = −p1q2 + p2q1

  • と置く。

    ω(·, X3) = (−q2dp1 + q1dp2)− (−p2dq1 + p1dq2) = dH = ω(·, YH)

    より、たしかに YH = X3, すなわち

    Ĵ(E3) = H = −p1q2 + p2q1 ≡ M3.

    x3−軸を中心とする回転のmoment mapによる像は、x3−軸を中心とする回転の angular momentum(角運動量) であることがわかった。より一般に

    Ĵ(∑

    ciEi

    )=

    ∑ciMi

    ここにMiは x3−軸を中心とする回転の角運動量ベクトルである:

    M =

    M1M2M3

    =

    q1q2q3

    ×

    p1p2p3

    平行移動群の作用も考えて、Lie環 G = o(3)× T の T ∗R3への作用により

    Ĵ(∑

    aiei +∑

    biEi) =∑

    aipi +∑

    biMi ∈ Rを得る。

    すなわち、

    J(q, p) : G 3 ξ =

    a1a2a3b1b2b3

    −→ Ĵξ(q, p) =

    ∑aipi +

    ∑biMi ∈ R

    この対応は線形だから、

    J(q, p) = (p1, p2, p3,M1,M2,M3) = (p,M) ∈ G∗

    を定める。 (p,M) は運動量と角運動量である。Moment mapJ : P −→ G∗ は

    J(q, p) : G 3∑

    aiei +∑

    biEi −→∑

    aipi +∑

    biMi (2.7)

    で与えられる。

  • 2.2.2 相空間の制限

    Hamiltonian

    H(q, p) =1

    2m(p21 + p

    22 + p

    23)

    は群の作用G = O(3)× Tで不変となってる。.とくに infinitesimal action of G で不変。すなわち、∀ξ ∈ G に対して、;

    ξP (H) = 0.

    が成り立っている。

    これより Ĵ(ξ) = Hξ = θ(ξP )は定義より

    YHξ = ξP

    を満たしたから、

    YH(Hξ) = dHξ(YH) = ω(YH , YHξ) = −YHξ(H) = ξP (H) = 0.

    ゆえに Ĵ(ξ) = Hξ はハミルトンベクトル場YHの積分曲線(ハミルトン流れ)に沿って定数となり、 運動の積分である。すなわち ハミルトン流れ (q(t), p(t))の上で Ĵ(ξ)((q(t), p(t)))は一定値だから、運動は

    {(q, p); J(q, p) = λ},の上に制限される。ここに λ ∈ G∗.例.3

    cotangent bundle でない symplectic 多様体へのハミルトン作用のモーメント写像の例も挙げておく。

    球面

    P = S2 = {x =

    xyz

    |inR3qquadx2 + y2 + z2 = 1}

    は symplectic manifold になった (1.1.1節 例 2.) z−軸を中心とする回転はS2に作用している。

    cos t − sin t 0sin t cos t 00 0 1

    xyz

    =

    x cos t− y sin tsin tx + cos ty

    z

    .

    (SO(3)の部分群と見た) z−軸を中心とする回転全体は、S0(2)と同型である。このリー環' R1 の infinitesimal generator は

    Ez =

    0 −1 01 0 00 0 0

  • z−軸を中心とする回転の無限小ベクトル場は

    (Ez)S2(x) =d

    dt|t=0Ezx =

    −yx0

    = −y ∂∂x

    + x∂

    ∂y

    (Ez)P をハミルトンベクトル場とするハミルトニアンH ∈ C∞(S2)を求めよう。

    S2の北極・南極以外では、局所座標として (x, y) をとることができる。簡単のため北半球面,z > 0,で考え変数変換 (x, y) −→ (θ, z) を

    θ = tan−1y

    x, z =

    √1− x2 − y2

    を行う. すなわち

    x =√

    1− z2 cos θ, y =√

    1− z2 sin θ.

    このとき

    x∂

    ∂y− y ∂

    ∂x=

    ∂θ

    となる。

    回転で固定される北極、南極点を除いて考えると、1.1.1節の例2 のような張り合わせについて考えなくともよく、この面上の symplectic form として

    ω = dz ∧ dθ

    を取れる。

    このとき

    ω(·, (Ez)P ) = dθ ∧ dz(·, ∂∂θ

    ) = dz

    したがってH = HEx(x) = z とすれば、

    YH = (Ez)P

    あるいは

    ĴEz(x) = z

    ゆえに無限小回転 Ezの作用はハミルトン作用でそのmoment map

    J : S2 −→ so(2)∗

    J(x, y, z) : cEz −→ cz ∈ R

  • である。

    (1.1.1節の例2のように張り合わせを考えてきちんと計算することもできる。)球面への z-軸を中心とする回転の作用のモーメント写像は, 球面上の点の高さ、z座標、である。

    空間に、ある群の作用による対称性があると、モーメント写像の値が一定の

    部分空間に制限(簡約)して、ものごとを見ることができるという主張を述べ

    てきた。

    2.3 調和振動子

    ハミルトン力学系とそのモーメント写像(運動量写像)の見本として調和振

    動子を例としてあげよう。  もう一度、前節の定義を見ながら、調和振動子

    の数学的な定式化を書いていこう。

    M = R2

    P = T ∗R2 = R4

    ω = dq1dp1 + dq2dp2,

    θ = p1dq1 + p2dq2, 正準形式

    ω = dθ

    Hamiltonian として H =1

    2(p21 + p

    22) +

    1

    2(q21 + q

    22)

    を取ると、ハミルトンベクトル場は

    YH(q, p) = p1∂

    ∂q1+ p2

    ∂q2− q1 ∂

    ∂p1− q2 ∂

    ∂p2

    になる。したがってハミルトンの運動方程式は

    d

    dtqi = pi

    d

    dtpi = −qi i = 1, 2

    である。 軌道は

    qi(t) = ai sin t, pi(t) = ai cos t, i = 1, 2

    平面の回転群は

    G = O(2) = S1 3 A =(

    cos t − sin tsin t cos t

    )

  • で与えられて、そのリー環 は

    G = o(2) 3  tσ =(

    0 −tt 0

    )

    で G ' Rである。

    exp : o(2) 3 tσ −→(

    cos t − sin tsin t cos t

    )∈ O(2)

    ハミルトニアンは回転不変、すなわちハミルトニアンH は A ∈ O(2)の作用(

    qp

    )−→

    (Aq

    tA−1p = Ap

    ),

    ここに

    Aq =

    (cos t − sin tsin t cos t

    )(q1q2

    )=

    (cos tq1 − sin tq2sin tq1 + cos tq2

    ),

    により不変である。もちろん、 無限小回転 o(2) によっても不変。そこで

    σ =

    (0 −11 0

    )∈ o(2)

    が定める相空間 P 上のベクトル場 σP を計算すると、点 z = (q, p) ∈ P で、

    σP (z) =d

    dt|t=0(exp tσ)z = −q2 ∂

    ∂q1+ q1

    ∂q2− p2 ∂

    ∂p1+ p1

    ∂p2

    となる。

    YH = σP となるH = Hσ ∈ C∞(P ) を求めると、

    Hσ(q, p) = θ(σP )

    = p1dq1 + p2dq2

    (−q2 ∂

    ∂q1+ q1

    ∂q2− p2 ∂

    ∂p1+ p1

    ∂p2

    )

    = −q2p1 + q1p2となる。 これを L(z)とおくと、任意の ξ ∈ o(2) は ξ = cσ と書けるから

    Hξ(z) = cL(z).

    定義よりモーメント写像は、点 (q, p) に o(2) = R1 上の線形形式

    o(2) 3 ξ = cσ −→ Hξ(q, p) = c(−q2p1 + q1p2).

    を対応させる写像 L であり、すなわち、角運動量である。   

  • ポアッソン括弧式

    {H, L} =2∑

    i=1

    ∂H

    ∂qi

    ∂L

    ∂pi− ∂L

    ∂qi

    ∂H

    ∂pi= −(q1q2 + p1p2) + (q1q2 + p1p2) = 0

    だから  L は運動の積分で、運動は エネルギー H = h 一定、角運動量 L = l 一定、 となる相空間内の曲面

    {(q, p) ∈ P ; H(q, p) = h, L(q, p) = l}

    に制限 (簡約)される。  これは相空間に、ハミルトニアンを不変にするように O(2) が作用しているからである。 この曲面の形は (h, l) がふつうの値のときは トーラスを表す。 

  • 39

    第3章 ハミルトン作用と相空間の簡約

    3.1 Poisson多様体

    Poisson多様体 P とは、C |infty(P )上に与えられた Lie代数の構造 と微分代数の構造;{ , }, のことである。すなわち

    1. (C∞(P ), { , }) はリー環である;(a) bilinear: {aF + bG,H} = a{F,H}+ b{G,H}, {F, aG + bH} =

    a{F,G}+ b{F,H},(b) antisymmetric; {F,G} = −{G,F},(c) Jacobi identity {{F,G}, H}+ {{G,H}, F}+ {{H, F}, G} = 0.

    2. (C∞(P ), { , }) は微分代数である;

    {FG, H} = {F,H}G + F{G,H}

    これまでに学習した例およびその次の例を順に見る。

    例 (-2)cotangent bundle

    (P = T ∗Mπ−→ M, θ, ω = dθ, { , }) (3.1)

    θα(X) = α(π∗X), ∀X ∈ TαP, α ∈ P (3.2)ω = dθ, dH = ω(·, XH) (3.3)

    {F,G} = ω(XF , XG) = XF G (3.4)

    例 (-1)symplectic manifold

    (P, ω, { , }) (3.5)dH = ω(·, XH) (3.6){F,G} = ω(XF , XG) = XF G (3.7)

  • 例 (0)Lie algebra

    基底を xi, 構造定数を [xi, xj] =∑

    Ckijxkとして、

    {F,G}± = ±∑

    Ckijxk∂F

    ∂xi

    ∂G

    ∂xj

    例 (1 )dual of a Lie algebra

    F,G ∈ C∞(G∗), µ ∈ G∗, に対して、

    {F,G}±(µ) = ± < µ, [δFδµ

    ,δG

    δµ] >; Lie−Poissonbracket

    ここに δFδµ∈ G は

    dF (µ)ν = lim²−→0

    F (µ + ²ν)− F (µ)²

    =< ν,δF

    δµ(µ) >

    で定義される (dF (µ) : G∗ −→ R は線形写像)。{ . }が antisymmetric, bilinearはすぐわかる。Leibnitz rule は

    δ(FG)

    δµ= F (µ)

    δG

    δµ+

    δF

    δµG(µ)

    より。

    Jacobi identity は直接計算でも示せるが、G∗ の Lie-Poisson bracketがT ∗G のPoisson bracket( 例 (-2)の { , })の T ∗e G ' G∗ への制限として得られることを示す方法をとる。

    このことが、このための道筋も含めて、この講義の目的である。

    例 (2 )( V ectdiv,∂(B))

    B ⊂ R3 をなめらかな境界 ∂Bを持つ有界な領域とする。BをBに移す体積を変えない微分同相写像の全体は群になる。このリー群のリー環は

    V ectdiv,∂(B) = {X ∈ V ect(B); divX = 0, X · n|∂B = 0}であると考えられる。実際 ω を体積要素, X ∈ V ect(B) の流れを ϕt とすると

    limt−→0

    ϕ∗t ω − ωt

    = LXω = d(iXω) = (divX)ω

    また ∫

    B∩V(divX)dω =

    ∂B∩V(X · ndσ

  • となる。

    そこでベクトル場の bracketを与えて次の(無限次元)リー環を定義する。

    G = V ectdiv,∂(B) = {X ∈ V ect(B); divX = 0, X · n|∂B = 0}

    [X,Y ] = (X · ∇)Y − (Y · ∇)X少しごまかしていて、左辺はベクトル場 X =

    ∑3i=1 Xi

    ∂∂xi で右辺はベクトル

    X =

    X1X2X3

    を用いている。

    G に内積(X,Y ) =

    B

    X · Y dω

    を与えて G∗ = G と思う。δFδX

    (X) ∈ G は

    lim²−→0

    F (X + ²∆X)− F (X)²

    = DF (X)∆X =

    B

    δF

    δX(X)∆Xdω (3.8)

    により決まる。

    これにより例 1と同様の式で Poisson bracket { , }± が定義される。V ectdiv,∂(B) 3 V の満たす条件を使い、ベクトル解析を行うと、それは次の形に書けることがわかる。

    命題 7

    {F,G}±(v) = ±∫

    B

    v ·[δF

    δv(v),

    δG

    δv(v)

    ]dω (3.9)

    = ±∫

    B

    (∇× v) ·(

    δF

    δv(v)× δG

    δv(v)

    )dω (3.10)

    この命題と次の節の例の流体の方程式を導くのが講義の目的のひとつだった。

    計算は講義でていねいにしたとおり、Marsden-Ratiu の本の通り。

    3.2 Poisson多様体へのLie 環の作用

    3.2.1 Hamiltonベクトル場とHamilton運動方程式

  • Poisson多様体 (P, { , }) 上の関数H ∈ C∞(P ) に対して, C∞(P ) 3 G −→{H, G} は derivation であるから、

    XH(F ) = {H, F} ∀F ∈ C∞(P )に対し,を満たす P 上のベクトル場XH ∈ X (P ) が存在する。(注)

    「S 上の R−値関数のつくる vector spaceを V ⊂ C(S) とし、線形写像 d :V −→ V が V 上の derivationであるとは:

    d(fg) = fdg + gdf∀f, g ∈ Vが満たされることである。」

    XH をHamiltonian HのHamiltonベクトル場という。Hamilton運動方程式の解は

    d

    dtφt(p) = XH(φt(p)), φ0(p)− p (3.11)

    を満たす写像 φ : P × (−T, T ) −→ P で各 tにおいて φt : P −→ P が微分同相となるものである。

    例 (非圧縮性流体方程式)

    H(v) =1

    2

    B

    vvdω

    とおく。δHδv

    (v) = v となるので、Hamilton 運動方程式は∫

    B

    δF

    δv(v) · v̇dω = d

    dtF (v(t)) = {H, F}−(v) = −

    B

    v ·[δF

    δv(v),v

    ]dω

    V ectdiv,∂(B) 3 v の満たす条件を使い、ベクトル解析を行うと、これは次の形に書けることがわかる。∫

    B

    {v̇ + (v · ∇)v +∇(1

    2||v||2)

    }· δF

    δv(v)dω = 0, ∀F (3.12)

    これより運動方程式

    v̇ + (v · ∇)v +∇(12||v||2 = −∇q (3.13)

    が得られる。p = q + 12||v||2とおいて

    d

    dtv + (v · ∇)v +∇p = 0

    divv = 0 n · v|∂B= 0∆p = div((v · ∇)v)∂p

    ∂n= −((v · ∇)v) · n

  • 3.2.2 infinitesimal Poisson automorphism

    X inf.P.auto(P ) = {Y ∈ X (P ); Y {F,G} = {Y F, G}+ {F, Y G} (3.14)を infinitesimal Poisson automorphismのつくるベクトル場の全体とする。

    H ∈ C∞(P ) =⇒ XH ∈ X inf.P.auto(P ) (3.15)は Lie algebra homomorphismである:

    [XH , XK ] = X{H,K} (3.16)

    証明

    XH{F,G} = {H, {F,G}} = −{{F,G}, H}= {{G,H}, F}+ {{H, F}, G} = {{H, F}, G}+ {F, {H, G}}

    = {XHF,G}+ {F,XHG}より たしかにXH ∈ X inf.P.auto(P ).次に

    [XH , XK ]F = XH(XKF )−XK(XHF ) = XH{K, F} −XK{H.F}= {H, {K, F}} − {K, {H, F}}= {{H, K}, F} = X{H,K}F

    (P, ω) が symplecticでX ∈ X (P )が locally Hamiltonianすなわち LXω = 0ならばX ∈ X inf.P.auto(P )であることを示せ。実際、LXω = 0で ωが closedだから iXωも closed:

    diXω = diXω + iXdω = LXω = 0.したがって考えている点の近くでは iXω = dhとなる関数hがある。すなわち小さな領域に制限して考えるとXはハミルトンベクトル場, X = Xh,であるから、

  • そこではX = Xh ∈ X (P )。任意の点においてそうだからX ∈ X inf.P.auto(P )。逆は成り立たない:

    反例

    F,G ∈ C∞(R2(x,y)) に対して

    {F,G}(x, y) = x(

    ∂F

    ∂x

    ∂G

    ∂y− ∂G

    ∂x

    ∂F

    ∂y

    )

    とおくと、R2にひとつの Poisson構造が入る。これは symplectic多様体にならないことがわかる(ω が (0, 0)で退化するものしか取れない)。 ベクトル場X = ∂

    ∂yは

    X{F,G} = ∂∂y

    {x

    (∂F

    ∂x

    ∂G

    ∂y− ∂G

    ∂x

    ∂F

    ∂y

    )}

    = x

    (∂

    ∂x(∂F

    ∂y)∂G

    ∂y− ∂

    ∂x(∂G

    ∂y)∂F

    ∂y+

    ∂F

    ∂x

    ∂y(∂G

    ∂y)− ∂G

    ∂x

    ∂y(∂F

    ∂y)

    )

    = {∂F∂y

    ,G}+ {F, ∂G∂y}

    で、たしかにX ∈ X inf.P.auto(P )。ところが、もしX = ∂∂yが locally Hamiltonian

    ならどの点においても、その小さな近傍で定義された関数 hにより ∂∂y

    = Xhと書けている。(x, y) = (0, 0) において このように書けていれば、(0, 0) の近傍で ∀F に対して、

    ∂yF = {h, F} = x

    (∂h

    ∂x

    ∂F

    ∂y− ∂F

    ∂x

    ∂h

    ∂y

    )

    が成り立つ。すなわち∂

    ∂yh = 0,

    ∂xh =

    1

    x

    で、これは hが原点に特異性を持つことになるので矛盾。

    この反例はまた、(この Poisson構造を与えた)平面への平行移動群の作用はハミルトン作用にならない、という例にもなっている。

    3.2.3 多様体へのLie gr., Lie alg.の作用

    M を多様体とする。(Poisson多様体でなくてよい)G; Lie group, G; Lie algebra of G.

  • Gが右から(左から)M に作用するとは、

    G×M −→ M ; (g, x) −→ xg (respectively (g, x) −→ gx )

    が定まり,xe = x, (xg)h = x(gh)を満たすこと, respectively,( ex = x, h(gx) =(hg)xを満たすこと)である。以下 主に右からの作用を書く。 Marsden-Ratiuのテキストでは左からである。しかし他の本では右からの場合が多いので、その場合のチェックを兼ね

    て、右にした。

    G 3 ξに対して infinitesimal generator of the right action by ξ; ξM ∈ X (M)を

    ξM(x) =d

    dt|t=0x(exp tξ)

    で定義する。

     G 3 ξに対して infinitesimal generator of the left action by ξ; ξ′M ∈ X (M)を

    ξ′M(x) =d

    dt|t=0(exp tξ)x

    で定義する。

    right action にともない、Φx(g) = xg と書く;

    Φx : G 3 g −→ Φx(g) ∈ M

    を微分して

    G = TeG 3 ξ TeΦx−→ TxMを書くと TeΦx(ξ) =

    ddt|t=0x · exp tξ = ξP (x), (合成写像の微分法)。すなわち、

    ξM(x) = TeΦx(ξ)

    である。

    命題 8 G 3 ξ −→ ξM ∈ X (M) は Lie algebra homomorphismである。G 3ξ −→ ξ′M ∈ X (M) は Lie algebra anti- homomorphismである。

      証明

     X ∈ X (M)に対して diffeomorphism Ψ による引き戻しを

    Ψ∗X(x) = (TΨ(x)Ψ−1)(X(Ψ(x)))

    で定義する。 

  • Ψgx = xgと書く;

    M 3 x Ψ−1g←− Ψgx = xg ∈ M

    の微分は

    TxMTxgΨ

    −1g←− TxgM

    であるから、

    Ψ−1g (xg exp tξ) = xg exp tξ g−1 = x exp tAdgξ を微分して

    (Adgξ)M(x) =d

    dt|t=0Ψ−1g (xg exp tξ) = TxgΨ−1g (ξM(xg)) = TΨgxΨ−1g (ξM(Ψgx))

    = ((Ψg)∗ξM)(x) (3.17)

    すなわち (Adgξ)M = (Ψg)∗ξM がわかる。

    ここで g = exp{tη}として

    (Adexp tηξ)M = Ψ∗exp tηξM

    右辺は、Ψexp tηが ηM の flowであることを考え、t = 0で微分すると, 接ベクトル ηM により ξM を微分するのだから、[ηM , ξM ] になる。一方、左辺は

    [η, ξ] = adηξ =d

    dt|t=0Adexp tηξ

    だから、[η, ξ]M に等しい。ゆえに

    [η, ξ]M = [ηM , ξM ]

    すなわち G 3 ξ −→ ξM ∈ X (M) は Lie algebra homomorphismである。left actionなら (Adgξ)

    ′M = (Λg−1)

    ∗ξ′M , ただしΛgx = gx がわかる。g = exp tηとして同様の議論により G 3 ξ −→ ξ′M ∈ X (M) は Lie algebra   anti-homomorphism;

    [η, ξ]M = −[ηM , ξM ]である。

    3.2.4 Poisson多様体への Lie ale.の作用

    P を Poisson多様体とする。G 3 ξに対して infinitesimal generator of the right action by ξ; ξP ∈ X (P )を

    ξP (x) =d

    dt|t=0x(exp tξ)

  • ∀ξ ∈ Gに対して, ξP ∈ X inf.P.auto(P ) が成り立つとき、Lie環 G がPoisson多様体に canonical に作用するという。

    Lie環G がPoisson多様体にcanonicalに作用するとき、次のLie alg. homo.の図を得る。

    linear map J : G −→ C∞(P ) が存在して

    XJ(ξ) = ξP , ∀ξ ∈ G, すなわち (3.18){J(ξ), F} = ξP F, ∀F ∈ C∞(P ) (3.19)

    が成り立つとき、

    J : P −→ G∗ (3.20)< J(z), ξ > = J(ξ)(z) (3.21)

    をmoment map of the action という。

    XJ([ξ,η]) = X{J(ξ),J(η)} (3.22)

    が成り立つ。

    実際

    XJ([ξ,η]) = [ξ, η]P = [ξP , ηP ] = [XJ(ξ), XJ(η)] = X{J(ξ),J(η)}

    ここで 1番目と 3番目の等号は Jの定義より、2番目は [ , ]P が lie alg. homo.になることより、最後は式 (3.16) より従う。

    Noetherの定理

    Lie環G がPoisson多様体にcanonicalに作用し、モーメント写像J : P −→ G∗があると仮定する。 H ∈ C∞(P ) が G−invariant すなわち ∀ξ ∈ G に対しξP H = 0 とする。このとき J はHamiltonian H の運動の定数である;

    J ◦ φt = J

  • がXH の flow φtに対し成り立つ。

    証明

    定義より,XH(J(ξ)) = {H, J(ξ)} = −XJ(ξ)H = −ξP H = 0.

    すなわち J(ξ) はハミルトン流れに沿って任意の点で無限小には不変、だから不変になる;ξ ∈ G に対して、

    J(ξ)(ϕtz) = J(ξ)(z),

    ここに ϕt はHのハミルトン流れである。

    G の P への right canonical action の モーメント写像 J : G −→ C∞(P )がLie algebra anti-homomorphism:

    J([ξ, η]) = −{J(ξ), J(η)} (3.23)

    であるとき、この作用はHamiltonianであるという。

    左作用の場合は次のように述べられる。

    G のP への left canonical action の モーメント写像 J : G −→ C∞(P )がLiealgebra homomorphism:

    J([ξ, η]) = {J(ξ), J(η)} (3.24)

    であるとき、この作用はHamiltonianであるという。

    定理 9 J : P −→ G∗ が G の P への (right) Hamiltonnian actionの モーメント写像 であるとき、Jは Poisson mapになる;

    {F.G}− ◦ J = {F ◦ J, G ◦ J} (3.25)

    が ∀F,G ∈ C∞(G∗) に対し成立。同様に

    J : P −→ G∗ が G の P への (left) Hamiltonnian actionの モーメント写像であるとき、Jは Poisson mapになる;

    {F.G}+ ◦ J = {F ◦ J, G ◦ J}

    が ∀F,G ∈ C∞(G∗) に対し成立。

  • 証明.

    仮定より J([ξ, η]) = −{J(ξ), J(η)}.ξ = δF

    δµ(µ), η = δG

    δµ(µ), µ = J(z) ∈ G∗, z ∈ P とおく。

    {F,G}−◦J(z) = − < µ, [δFδµ

    (µ),δG

    δµ(µ)] >= − < µ, [ξ, η] >= −J([ξ, η])(z) = {J(ξ), J(η)}(z)

    一方、v ∈ TzP として、dJ(z)v ∈ TµG∗ = G∗だから、

    d(F ◦ J)(z)v = dF (J(z)) · (dJ)(z)v =< dJ(z)v, δFδµ

    >=< dJ(z)v, ξ >

    最後の式は ξについて線形だから

    = d(< J(z), ξ >) · v = d(J(ξ))(z) · v

    すなわち、F ◦J(z)とJ(ξ))(z)はP 上の関数として1次微分が等しい。Poisson括弧式は関数の1次微分できまるから

    {J(ξ), J(η)}(z) = {F ◦ J, G ◦ J}

    3.2.5 とくに cotangent bundleへの作用

    π : P = T ∗M −→ M をMの cotangent bundle. ωをP上の symplectic formとする。P はPoisson多様体になる。またP の局所座標を q1, · · · , qn, p1, · · · , pnとする。ω =

    ∑dpi ∧ dqi.  θ =

    ∑pidqiを基本1次形式として, ω = dθ.

    対応

    X (M) 3 X =∑

    Xi(q)∂

    ∂qi−→ θ(X) =

    ∑Xi(q)pi ∈ C∞(P )

    を考える。

    L(P ) = {F ∈ C∞(P ); F |π−1(q)は (p1, · · · , pn)について線形 }

    とする。θ(X) ∈ L(P )である。

  • (L(P ), { , })は (C∞(P ), { , })のLie subalgebraになっている。F ∈ L(P ),F (q, p) =∑Fi(q)pi のHamilton vector場XF を計算すると、

    XF (q, p) =∑

    i

    [Fi(q)

    ∂qi− (

    ∑j

    ∂Fj∂qi

    pj)∂

    ∂pi

    ]

    ゆえにL(P ) 上の Poisson括弧式は

    {F,G} =∑i,j

    (∂Fj∂qi

    Gi − ∂Gj∂qi

    Fi

    )pj

    により与えられる。

    問.

    1. 上の二つを証明せよ。

    2. また、X (M) 3 X = ∑i Xi(q) ∂∂qi −→ θ(X) ∈ L(P ) は Lie algebra iso-morphism;

    {θ(X), θ(Y )} = θ([X,Y ]) (3.26)であることを示せ。

    3. X (M) 3 Xに対してXθ(X) ∈ X (T ∗M)をXの cotangent liftという。4. θ(X) ∈ L(P ) のHamilton vector場 Xθ(X) ∈ X (P )を求めよ。5.

    [Xθ(X), Xθ(Y )] = Xθ([X,Y ]) (3.27)

    を示せ。

    定理 10 GがMに作用する、すなわちG 3 ξに対して ξM ∈ X (M)が定義されるならば、Gは P = T ∗M に canonicalに作用する。すなわち ξM の cotangentlift ξP = Xθ(ξM )は ξP ∈ X inf.P.aut(P )であり、

    [ξP , ηP ] = [ξ, η]P (3.28)

    を満たす。

    さらにモーメント写像 J : P −→ G∗は< J(z), ξ >= θ(ξM)(z)

    z = (q, p) ∈ P で与えられ、Poisson多様体 T ∗G への G = LieG の canonical作用はHamiltonianになる。

  • 証明.

    [ξ, η]P = Xθ([ξ,η]M ) (命題 1より) = Xθ([ξM ,ηM ]) (3.29)

    = ((13)より)X{θ(ξM ),θ(ηM )} = ((3)より)[Xθ(ξM ), Xθ(ηM )] (3.30)

    = [ξP , ηP ] (3.31)

    ξP{F,H} = Xθ(ξM ){F,H} = {θ(ξM), {F,H}} = −{{F,H}, θ(ξM)}= {{H, θ(ξM)}, F}+ {{θ(ξM), F}, H} = −{Xθ(ξM )H, F}+ {Xθ(ξM )F,H}= {ξP F,H}+ {F, ξP H}

    ゆえに G acts canonically on P .モーメント写像 J の式は、cotangent lift の定義 Xθ(ξM ) = ξP より

    J(ξ)(z) = θ(ξM)(z), z = (q, p)

    となる。

    J([ξ, η]) = θ([ξ, η]M) = θ([ξM , ηM ])

    で、これは (13)より

    = {θ(ξM), θ(ηM)} = {J(ξ), J(η)}

    に等しい。ゆえに 考えている right canonical actionはHamiltonian になる。

    とくにM = Gのときを考えると、GはGに右より作用しており、Poisson多様体 T ∗G への G = LieG の作用はHamiltonianである。このときのモーメント写像を求めよう。

    ξG(g) =d

    dt|t=0g exp tξ = d

    dt|t=0Lg exp tξ = TeLg(ξ)

    であるから、

    < JR(z), ξ >=< z, ξG >=< z, TeLgξ >=< (TeLg)∗z, ξ >

    すなわち、モーメント写像 J : T ∗G −→ G∗ は、

    JR(z) = (TeLg)∗z. (3.32)

    で与えられる。

  • 3.3 Lie-Poisson reduction theorem

    リー群の余接束 P = T ∗M の Poisson 構造を, G = T ∗e に制限して前に述べた Gの Poisson構造 { , }± が得られることを見よう。左からのかけ算

    Lg : G 3 h −→ gh ∈ Gを微分して

    ThLg : ThG 3 ξ −→ ThLg(ξ) ∈ TghGが得られる。

    P 上の関数ΦがGの作用により左不変であるとは

    Φ(z) = Φ((ThLg)∗z), z ∈ T ∗ghG, ∀h, ∀g

    が成り立つことである。とくに、F (α) = Φ((TgLg−1)∗α) , ∀g ∈ G, により左不

    変関数Φは G∗ = T ∗e G上の関数 F ∈ C∞(G) を定める。逆に F ∈ C∞(G) に対して、

    FL(z) = F ((TeLg)∗z)

    により P = T ∗G 上の左不変関数 FLが定まる。P = T ∗G 上の左不変関数の全体 C∞(P )leftinv は (C∞(P ), { , }) のリー部分代数であり、リー代数として

    C∞(P )leftinv ' C∞(G∗).

    この右辺のC∞(G∗) は次の2通りの Poisson構造を持つはずだった;

    定義

    {F,G}±(µ) = ± < µ, [δFδµ

    (µ),δG

    δµ(µ)] > ∀µ ∈ G∗ (3.33)

    ここに δFδµ

    (µ) ∈ G は

    DF (µ) = < ν,δF

    δµ(µ) > (3.34)

    DF (µ) = lim²−→0

    F (µ + ²ν) = F (µ)

    ²∀µ, ν ∈ G. (3.35)

    はずというのは、{ , }±が bilinear/R, antisymmetricであり、微分に関してLeibnitz ruleを満足するのを見るのはやさしいが、Jacobi identityを満たすこ

  • とは直接計算で示さず、T ∗G の Poisson構造を G = T ∗e G に制限して Poisson構造 { , }± を得るつもりだからである。

    定理 11{F,H}− = {FL, HL}|G∗ (3.36)

    系 12 {F,H}−はC∞(G∗)の Poisson構造を与える。[言い換え]

    λ : T ∗G −→ G∗を

    λ(z) = (TeLg)∗z

    で定義するとき、

    {F ◦ λ,H ◦ λ}− = {FL, HL}− ◦ λ (3.37)

    証明

    GのP = T ∗G への canonical right action はHamiltonian action となり、また そのモーメント写像は

    JR(z) = (TeLg)∗z = λ(z), z ∈ P

    で与えられることをすでに見た。

    すなわち

    JR = λ

    定理 2.1を適用して

    {F ◦ λ,H ◦ λ}− = {FL, HL}− ◦ λ証明終わり。

    同様にして左作用に対して考えると、

    F ∈ C∞(G∗) ' C∞(P )rightinv. 3 FR(z) = F ((TeRg)∗z) (3.38)ξ′G(g) = TeRg(ξ) =

    d

    dt|t=0 exp tξ · g (3.39)

    ρ : T ∗G 3 z −→ ρ(z) = (TeRg)∗z ∈ G∗ (3.40)JL = ρ, (3.41)

    等を用いて

    {F ◦ ρ,H ◦ ρ}+ = {FR, HR}+ ◦ ρ. (3.42)

  • 55

    第4章 Coadjoint orbit

    4.1 adjoint orbit

    g ∈ G に対しAdg ∗ G −→ G

    [Adgξ, Adgη] = Adg[ξ, η]

    を満たすのでリー環の自己準同型であるが、さらにAdgh = AdgAdh なので

    G 3 g −→ Adg ∈ End(G)はG の表現である。この像

    {Adg; g ∈ G}を the adjoint orbits という。{Adgη; g ∈ G} を η ∈ Gを通る adjoint orbitという。

    例.1

    G = SO(3) の adjoint orbitsは球面か原点である。実際 G = so(3) = R3 3 ξを通る adjoint orbitは {Adgξ = gξg−1; g ∈ SO(3)} で ξ = 0なら原点に、ξ 6= 0なら半径 ‖ξ‖の球面 {η ∈ R3; ‖η‖ = ‖ξ‖} になる。例 2.G = GL(n, C), G = Mat(n, C) X ∈ Mat(n, C) に対して,X を通る

    adjoint orbit を

    AdGX = {AdgX; g ∈ G = GL(n, C)}とすると、

    AdGX = {Y ∈ Mat(n, C); Y はX と同じ Jordan標準形をもつ }となる。なぜなら任意の n次正方行列Xは適当な g ∈ GL(n, C) により

    gXg−1 =

    A(1) 0 · · · 00 A(2) · · · 00 . . . · · ·0 . . . · · · A(s)

    , A(k) =

    ak 1 · · · · · · 00 ak 1 · · · 00 . . . · · · · · · 10 . . . · · · · · · ak

  • と書けるから。

    例.3

    G = SL(2, R) = {A : 2× 2matrix, det A = 1}

    G = {X =(

    z xy −z

    )}

    XのJordan標準形は

    (λ 00 −λ

    ), λ =

    √z2 + xy. したがってXを通るadjoint

    orbit AdGX は z2 + xy = c 6= 0 のとき quadrics、放物双曲面 z2 + xy = c の

    連結成分、c = 0 のとき2つの半円錐 z2 + xy = 0, z 0, と原点である。

    例.4 G = 直線上のアフィン変換群

    G = {g =(

    a b0 1

    )}

    (a b0 1

    )(x1

    )=

    (ax + b

    1

    )

    G = {X =(

    x ξ0 0

    )}

    AdgX =

    (x aξ − bx0 0

    )}

    となるので、X を通る adjoint orbitは (x, ξ) 面上で、x× (−∞,∞), x 6= 0 のとき、{x = 0, ξ > 0} , {x = 0, ξ < 0} , (0, 0)の4つの orbitがある。

    4.2 Coadjoint orbit

    G をリー環、G∗ をベクトル空間G の双対空間とする。 ベクトル空間X から Y への線形写像 A : X −→ Y に対して、その双対(共役) A∗ : Y ∗ −→ X∗を

    A∗y∗(x) = y∗(Ax)

    で定義する。 Gが半単純すなわち非退化なKilling形式< X, Y >= Tr AdXAdYを持つなら G∗ もリー環になるが、一般にはそうはいかないし、さらに悪くG = V ectdiv,∂(M) のようにリー環風の対象については、G∗ は単なるベクトル空間としてしか考えられないであろう。 それでも 表現G −→ End(G∗)

  • を考えることがものごとの本質をわからせてくれるはずである、というのが

    KirillovやArnoldの重要な発見であったのだろう。左(resp. 右)からのかけ算

    Lg : G 3 h −→ Lgh = gh ∈ G

    (resp.)Rg : G 3 h −→ Rgh = hg ∈ G

    の微分

    (Lg)∗,h : ThG −→ TghG,(resp.)

    (Rg)∗,h : ThG −→ ThgG,の双対を ((Lg)∗)∗と書かないで

    (Lg)∗gh : T

    ∗ghG −→ T ∗hG,

    (resp.)(Rg)

    ∗hg : T

    ∗hgG −→ T ∗hG,

    と書く。

    (かなりしつこい記号にしている、他の本ではもっと簡単に (Lg)∗と書いて

    あることが多い。)

    Adg = (Rg−1)∗(Lg)∗ : TeG = G −→ Gであった。

    adjoint representation Adg の双対

    Ad∗g = (Lg)∗g−1(Rg−1)

    ∗e : T

    ∗e G = G∗ −→ G∗

    (Ad∗gξ, X) = (ξ, AdgX), ξ ∈ G∗, X ∈ Gを coadjoint representation of G という:

    Ad∗gh = Ad∗had

    ∗g.

    Ad∗Gξ = {Ad∗gξ; g ∈ G} ⊂ G∗

    を ξ ∈ G∗を通る coadjoint orbitという。例.アフィン群

    G∗ ={

    Λ =

    (m 0µ 0

    ).

    }

  • g =

    (p q0 1

    )とすると、

    AdgΛ =

    (m− qµ 0

    pµ 0

    )

    は (m,µ)−平面のΛを通る勾配 qpの直線になるので、Λを通る coadjoint orbit

    は、上半平面 (µ > 0), 下半平面 (µ < 0)と点 (m, 0) の3つにわかれる。これは前節 例4の adjoint orbitと異なっている。

    4.3 Coadjoint orbit上の symplectic構造

    G の G への adjoint action は

    G 3 ξ −→ Ad(g)ξ = ddt|t=0g · exp tξ · g−1

    で定義される。G の G∗ への coadjoint action は

    < Ad∗(g)α, ξ >=< α,Ad(g)ξ >

    で定義される。

    o ∈ G∗ を通る coadjoint orbitとは

     O = {Ad∗(g)o; g ∈ G} ⊂ G∗ 

    なるGの coadjoint作用の軌道のことをいう。

    定理 13 (Kirylov) すべての coadjoint orbit O 上には自然に symplectic 構造が定められる。

    証明.

    軌道 α ∈ O ⊂ G を考える。 

    O ' G/Gα,

    Gα; isotropy group of α,でその接空間は

    TαO = TαG/Gα = G/Gα,

    Gα = Lie(Gα) である。G 上の symplectic形式

    ωα : G × G −→ Cωα(x, y) = α([x, y])

  • が G/Gα に降りること、すなわち

    x ∈ Gα =⇒ ωα(x, y) = 0 ∀y ∈ G

    を示せばよい。

    coadjoint action による α の isotropy groupの定義より

    g ∈ Gα ⇐⇒ Ad∗g(α) = α

    これを微分して、x ∈ Gαに対して、

    x ∈ Gα ⇐⇒ ad∗x(α) = 0

    一方

    ad∗x(α) : |calG 3 y −→ α(adx(y)) = α([x, y]) = ωα(x, y)より

    x ∈ Gα ⇐⇒ ωα(x, y) = 0 ∀y ∈ G以上より ωαは G/Gα に降りて、O上の 2-form α −→ ωα が定義される。

    dω = 0

    の証明.

    ξ1, ξ2, ξ3 ∈ X (O) に対して、

    dω(ξ1, ξ2, ξ3) = ξ1ω(ξ2, ξ3)+ξ2ω(ξ3, ξ1)+ξ3ω(ξ1, ξ2)−ω([ξ1, ξ2], ξ3)−ω([ξ2, ξ3], ξ1)−ω([ξ3, ξ1], ξ2)

    さて、x ∈ G の G∗への作用によりベクトル場

    ξx(λ) =d

    dt|t=0Ad∗(exp tx)(λ) ∈ X (O)

    が定まり、{ξx; x ∈ G} は各点αでの接空間 TαO を張っている。 また定理1より [ξ[x,y] = [ξx, ξy].したがって、 dω(ξx, ξy, ξz) = 0 を示せばよい。

    ω(ξy, ξz)(α) = α([y, z]), (ξxw)(α) = α([x,w])

    より従う。

    参考文献は

    Marsden-Ratiu: Introduction to Mechanics and Symmetry, TAM17, Springer(1994).Arnold: Sur la géometrie differentielle des groups de Lie de dimension infinie

    et ses applications à lhydrodynamique des fluids parfaits, Ann. Inst. Fourier,16(1966).

  • この講義録は、早稲田大学理工学部ー大学院共通の 2002年秋学期と 2003年春学期の微分幾何学A, B の講義ノートを整理して作った。この講義の出席者には数理科学科の学生のほかに物理ー応用物理学科や機械学科の学生もいて、

    講義の準備の時に大いに励みになった。この方たちに感謝する。

    講義で話さなかったが、Coadjoint Orbit の方法 の節を付け加えた。この講義の目的は、学生に解析力学の数学を教えることのほかに、私自身が

    Marsden-Weinstein: Coadjoint orbits, vortices and Clebsch variables for in-compressible fluids, Physica D7(1983).を理解し、渦流の運動の Poisson幾何の研究を始めるために, これまでに持っていた解析力学の知識を整理し明確にしておくためであった。 その研究はま

    だ始めてないし、やっと vortices による記述と Clebsch variables が有効な概念らしいことがわかった程度だが。

    後者に興味を持つようになったのは

    Brylinski, J.-L., Loop Spaces, Characteristic Classes and Geometric Quan-tization, Birkhäuser (1993).による  Hashimoto変換のすばらしい解説のおかげである ( 子供の頃から

    Ampèreの法則など 渦や双対性が好きなせいもある)。Hashimoto: A soliton on a vertex filament, J. Fluid Mechanics 51(1972).Langer- Perline: Poisson geometry of the filament equation, J. Nonlinear

    Sci.1(1991).