分離工学演習4「ガス吸収塔の設計(続)」crystallization.eng.niigata-u.ac.jp/sepeng04.pdf分離工学演習4(ガス吸収塔)...

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分離工学演習4(ガス吸収塔) 1 分離工学演習4「ガス吸収塔の設計(続)」 1.許容気液速度 気液向流接触式の灌液(かんえき)充填塔において、塔の断面積当たりの液流速 L [kg/(m 2 s)]を一定に 保ち、ガス流速 G [kg/(m 2 s)]を増大させてゆくと、充填層内を透過する充填層高当たりのガスの圧力損失 P/Z [Pa/m]は、ガス流速 G の約 2 乗に比例して増加する。一方、塔内に滞留する充填層容積当たりの液 体積に相当する充填層高当たりの液ホールドアップ h [1/m]は、ガス流速 G に関わらずほぼ一定の値を保 つ。しかし、ガス流速 G がある値を越えると、液ホールドアップ h が次第に増加してガスの流路が狭く なるため、ガスの圧力損失 P/Z が急激に増大するようになる。この状態をローディングと呼び、ローデ ィングが開始される点をローディング点、そのときのガス流速 G ローディング速度 G L [kg/(m 2 s)]とい う。さらにガス流速 G がローディング速度 G L よりも増大してある値に達すると、ついに液は塔内を流下 できなくなって塔頂からあふれ出し(溢流, いつりゅう)、ガスの圧力損失 P/Z はガス流速 G に関わらず ほぼ垂直となる。この状態をフラッディング(溢汪,いつおう)と呼び、フラッディングが開始される 点をフラッディング点(溢汪点) 、そのときのガス流速 G フラッディング速度(溢汪速度)G F [kg/(m 2 s)]という。設計にあたっては、ガス流速 G の値としてフラッディング速度 G F 5070%程度、あるいは ローディング速度の 90%程度を採用する。 図1 充填塔内における圧力損失挙動 図2 充填塔内における液ホールドアップ挙動 フラッディング速度を与える相関図として、たとえば Sherwood-Lobo の線図や Eckert (エッカート)の 線図がある。また、ローディング速度を与える相関図として、たとえば大竹・木村の線図がある。 フラッディング速度を与える相関式として、Sawistowski(ザヴィストゥスキ)の式がある。

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分離工学演習4(ガス吸収塔)

1

分離工学演習4「ガス吸収塔の設計(続)」

1.許容気液速度

気液向流接触式の灌液(かんえき)充填塔において、塔の断面積当たりの液流速 L [kg/(m2・s)]を一定に

保ち、ガス流速 G [kg/(m2・s)]を増大させてゆくと、充填層内を透過する充填層高当たりのガスの圧力損失

P/Z [Pa/m]は、ガス流速 G の約 2 乗に比例して増加する。一方、塔内に滞留する充填層容積当たりの液

体積に相当する充填層高当たりの液ホールドアップ h [1/m]は、ガス流速 G に関わらずほぼ一定の値を保

つ。しかし、ガス流速 G がある値を越えると、液ホールドアップ h が次第に増加してガスの流路が狭く

なるため、ガスの圧力損失 P/Z が急激に増大するようになる。この状態をローディングと呼び、ローデ

ィングが開始される点をローディング点、そのときのガス流速 G をローディング速度 GL [kg/(m2・s)]とい

う。さらにガス流速 G がローディング速度 GLよりも増大してある値に達すると、ついに液は塔内を流下

できなくなって塔頂からあふれ出し(溢流, いつりゅう)、ガスの圧力損失 P/Z はガス流速 G に関わらず

ほぼ垂直となる。この状態をフラッディング(溢汪, いつおう)と呼び、フラッディングが開始される

点をフラッディング点(溢汪点)、そのときのガス流速 G をフラッディング速度(溢汪速度)GF [kg/(m2・

s)]という。設計にあたっては、ガス流速 G の値としてフラッディング速度 GFの 50~70%程度、あるいは

ローディング速度の 90%程度を採用する。

図1 充填塔内における圧力損失挙動 図2 充填塔内における液ホールドアップ挙動

フラッディング速度を与える相関図として、たとえば Sherwood-Lobo の線図や Eckert(エッカート)の

線図がある。また、ローディング速度を与える相関図として、たとえば大竹・木村の線図がある。

フラッディング速度を与える相関式として、Sawistowski(ザヴィストゥスキ)の式がある。

分離工学演習4(ガス吸収塔)

2

0.250.22GF P L

G L W Lln 4G F L

g G …(1.1)

ただし、ρGと ρLはガスおよび液の密度[kg/m3]、μLと μWは液と 20℃における水の粘度(0.001 Pa・s)[Pa・

s]、Fpは充填物因子[1/m]。

また、ローディング速度を与える相関式として、大竹・木村の式がある。

0.15 2.50.412p L L t pG G

p L L0.062

2 4.8D u a Du u

gD u G

L100 2000

uu

…(1.2)

ただし、atは塔の単位容積当たりの充填物の全表面積[m2/m3]、Dp は充填物の称呼寸法[m]、g は重力加速

度[m/s2]、 Gu と Lu はガスと液の線流速[m/s]。

図3 Sherwood-Lobo の線図(フラッディング速度) 図4 Eckert の線図(フラッディング速度)

図5 大竹・木村の線図(ローディング速度)

充填物 atDp

破砕固体

ラシヒリング(不規則充填)

ラシヒリング(規則充填)

サドル、レシングリング

3.0

3.8

4.8

6.0

6.5

分離工学演習4(ガス吸収塔)

3

表1 充填物特性

分離工学演習4(ガス吸収塔)

4

2.塔径

塔径 DT [m]は、フラッディング速度あるいはローディング速度をもとに決定されたガス流速 G [kg/(m2・

s)]および液流速 L [kg/(m2・s)]を用いて、次式のように求めることができる。

2T G4

G D W …(2.1) あるいは 2T L4

L D W …(2.2)

G LT

4 4W WDG L

…(2.3)

ただし、WG と WLはガスおよび液の質量流量[kg/s]。

3.圧力損失

圧力損失は、塔内にガスを供給する送風機の所要動力を求める上で重要である。ローディング点以下

の圧力損失について、Leva の式が簡便である。

2

/

G

Δ (10 )LLP GZ

…(3.1)

ただし、G はガス流速[kg/(m2・s)]、Z は充填層高[m]、αと β は定数。 今はあまり用いられないが、次元解析に基づく式として、内田・藤田の式がある。ただし、精度が±30~

50%と良好でない。

2p G Gc G

wG p G

Δexp( )

2

p qD uPg uK aZg gD

…(3.2)

w d dh …(3.3)

ただし、gcは重力換算係数[kg・m/(Kg・s2)]、hd は動的ホールドアップ[-]、εdは乾燥時空隙率[-]、εwは灌

液時空隙率[-]、K, p, q, a は定数。

送風機の所要動力 W [W]は、圧力損失 P[Pa]と送風機の体積流量 QG[m3/s]を用いて次式で与えられる。 GΔW PQ …(3.4)

表2 Leva の式における定数

充填物 称呼寸法 α β

ラシヒリング(磁製)

13 mm, 1/2 in 19 mm, 3/4 in 25 mm, 1 in 38 mm, 1(1/2) in 50 mm, 2 in

1700 449 438 165 154

83.9 53.3 51.1 47.2 34.8

ラシヒリング(炭素鋼製)

16 mm, 3/8 in 25 mm, 1 in 38 mm, 1(1/2) in 50 mm, 2 in

658 230 158 126

57.2 42.8 41.0 27.6

ベルルサドル(磁製)

13 mm, 1/2 in 19 mm, 3/4 in 25 mm, 1 in 38 mm, 1(1/2) in

658 329 220 109

42.8 34.8 34.8 26.6

分離工学演習4(ガス吸収塔)

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表3 内田・藤田の式における定数

充填物

適用範囲

K×10-6 p q a 灌液量 F

[m3/(m2・h)] Re

ラシヒリング

(磁製、不規則充填)

≦30

≦30

>30

30~250

250~3000

10~1000

15.2

2.17

35.6

1.00

1.00

0.70

-0.41

-0.05

-0.50

0.15

0.15

0.15

ラシヒリング

(磁製、規則充填)

≦30

≦30

>30

30~500

500~3000

20~2000

2.70

0.297

2.74

1.00

1.00

0.70

-0.60

-0.20

-0.40

0.15

0.15

0.15

4.液ホールドアップ

塔内に滞留する液量を液ホールドアップといい、充填層体積あたりの液体積の比、すなわち体積分率

で表される。液ホールドアップには、塔内の全液量に相当する全ホールドアップ ht [-]、操作時に塔内を

流下する液量に相当する動的ホールドアップ hd [-]、静止時に充填物表面や充填物間の間隙に存在する

静的ホールドアップ hs [-]があり、次式が成り立つ。 t d sh h h …(4.1)

灌液が水の場合は、ローディング点以下において、Shulman らの実験式がある。

2tw ps( /4.88)h L D psD …(4.2)

sw psh D …(4.3)

ただし、htw と hswは水に対する全ホールドアップおよび静的ホールドアップ[-]、L は塔の断面積当たり

の液流速[kg/(m2・h)]、Dpsは充填物と表面積の等しい球の相当径[cm]、α, β, γ, θ, δ, λは定数。

表4 htw および hsw式における定数

充填物 α γ θ δ λ

ラシヒリング(炭素鋼製)

ラシヒリング(磁製)

ベルルサドル(磁製)

0.0734

0.0209

0.0232

0.195

0.267

0.267

0.376

0.376

0.376

0.156

0.065

0.066

1.21

1.21

1.56

表5 充填物の球相当径 Dps

充填物 称呼寸法 Dps [cm]

ラシヒリング(磁製)

13 mm, 1/2 in 25 mm, 1 in 38 mm, 1(1/2) in 50 mm, 2 in

1.77 3.56 5.30 7.25

ベルルサドル(磁製) 13 mm, 1/2 in 25 mm, 1 in 38 mm, 1(1/2) in

1.62 3.20 4.72

分離工学演習4(ガス吸収塔)

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5.濡れ面積

塔内の充填物は、その表面が液によって濡らされない箇所が一定割合存在することから、この部分に

おける気液接触は無効となる。充填物の濡れ面積 aw [m2/m3]は、単位充填層体積当たりで表され、気液有

効接触面積に相当する。灌液物性の内、表面張力が最も大きな影響を及ぼし、表面張力が小さい液ほど

充填物をよく濡らす。また、液の粘度にはほとんど依存しないことが知られている。

疋田(ひきた)らは、ローディング点以下のガス流速範囲において、ラシヒリングに対する次式を報

告している。

1/3w

t0.0464

20

ma La

0.70p1.42m D …(5.1)

ただし、at は塔の単位容積当たりの充填物の全表面積[m2/m3]、Dp は充填物の称呼寸法[cm]、L は塔の断

面積当たりの液流速[kg/(m2・h)]、m は定数、σは表面張力[dyn/cm]。

馬田(まだ)らは、諸家の実測値を整理した結果、ローディング点以下において濡れ面積 awが充填物の

種類に関わらず以下の無次元式で相関されることを見出している。

1/2 2/322p 1/2 2/3

w p 2LL p

0.61 0.61D LLa D Fr We

gD …(5.2)

ただし、Dpは充填物の称呼寸法[m]、L は塔の断面積当たりの液流速[kg/(m2・s)]、σは液の表面張力[N/m]、

Fr はフルード数[-]、We はウェーバー数[-]。

参考文献

1)新潟大学工学部化学システム工学科編(山際和明著); 拡散操作Ⅱ「ガス吸収」,1-3-6 章

2)吉田文武, 森 芳郎編; 詳論 化学工学Ⅱ「単位操作Ⅱ」, 朝倉書店(1967), 16・171~16・178 章

3)藤田重文, 東畑平一郎編; 化学工学Ⅲ(第 2 版)「物質移動操作」, 東京化学同人(1972), 3.6 章

4)疋田晴夫; 改訂新版 化学工学通論Ⅰ, 朝倉書店(1982), 6.3.5 章

5)水科篤郎, 桐栄良三; 化学工学概論, 産業図書(1979), 3.1.4 章

6)八田四郎次, 前田四郎; 化学工学概論(新版), 共立出版(1966), 7 章 3 節

7)化学工学協会編; 化学工学便覧(改訂四版), 丸善(1978), 6.6 章

8)化学工学会編; 化学工学便覧(改訂七版), 丸善(2011), 8.3.2 章

9)早稲田大学理工学部応用化学科編; 化学工学実験Ⅰ, 4 章

分離工学演習4(ガス吸収塔)

7

設計問題

1 in(インチ)(称呼寸法 2.54 cm)磁性ラシヒリングを不規則充填した充填塔を用いて、温度 20℃、1 気

圧の下、水と空気を向流接触させて、空気中に含まれる微量の可溶性成分を吸収除去している。水の流

量 WL=7500 kg/h、空気の流量 QG=300 m3/h である。計算に必要な物性値は、以下の通りである。

・空気の密度 ρG=1.25 kg/m3

・水の密度 ρL=998 kg/m3

・水の粘度 μL=μw=0.001 Pa・s (1.00 cP)

・水の表面張力 σ=0.073 N/m (73 dyn/cm)

(1)液ガス比 L/G [-]を求めよ。

(2)Sherwood-Lobo の線図の読みよりガス側および液側のフラッディング速度 GF, LF [kg/(m2・h)]を求めよ。

(3)Sawistowskiの式よりガス側のフラッディング速度GF [kg/(m2・h)]を求めてSherwood-Lobo線図の結果と

比較せよ。

(4)大竹・木村の線図の読みよりガス側および液側のローディング速度GL, LL [kg/(m2・h)]を求めよ。【注1】

(5)ガスと液の流量をそれぞれフラッディング速度の 50%とした場合の塔径 DT [m]を求めよ。

(6)Leva の式より圧力損失ΔP [kPa]を求めよ。ただし、充填層高 Z は 20 m とする。【注2】

(7)送風機の所要動力 W [W]を求めよ。

(8)充填塔内における水に対する動的ホールドアップ hdw [-]を求めよ。

(9)疋田の式より充填物の濡れ面積 aw [m2/m3]を求めよ。

(10)馬田の式より充填物の濡れ面積 aw [m2/m3]を求めて疋田の結果と比較せよ。

【注1】 図5の右表は、問題(4)においてのみ使用すること。(at の値は、表1を用いる。)

【注2】 問題(6)以降のガスおよび液流速 G, L [kg/(m2・h)]は、それぞれフラッディング速度 GF, LFの

50%の値として計算すること。

答(1)20, (2)GF=3.02×103 kg/(m2・h), LF=6.04×104 kg/(m2・h), (3)2.82×103 kg/(m2・h)誤差 7.1%, (4)GL=2.16×103

kg/(m2・h), LL=4.32×104 kg/(m2・h), (5)0.562 m, (6)3.31 kPa, (7)276 W, (8)0.0567, (9)105 m2/m3, (10)120 m2/m3 誤

差 12%

●自分の力で解くこと。どうしても分からなければ、途中まででよい。

(真面目に解いていることが伝われば、極端に低い点数にはならない。)

●過去の解答やクラスメートが作成したレポートを書き写さないこと。

(採点する側の気持ちを考えること。ズルをするような自分に満足か?)

●書き写しが疑われる場合は、当人を呼び出して事情を聴取する。

(不正が明らかとなった場合は、当該レポートを受理しない。不合格。)