開放的な空間sd2015.000lab.com/wp-content/uploads/2015/10/住吉の...デザインスタジオ基礎...

1
デザインスタジオ基礎 71546909 001/001 西岡 沙弥 1F 平面図 2F 平面図 短手断面図 短手立面図 長手立面図 長手断面図 安藤忠雄 Ando-Tadao 安藤 忠雄(あんどう ただお、1941 年(昭和 16 年)9 月 13 日 - )は、 日本の一級建築士である。東京大学名誉教授、21 世紀臨調特別顧問、東 日本大震災復興構想会議議長代理、大阪府・大阪市特別顧問である。 建築士になる前はボクサーであった。ボクサー時代に世界を渡り歩き、い まの自分の元となる建築のインスピレーションを受けたという。 大阪市住吉区に建てられた狭い道路に面したところに位置するのがこ の住吉の長屋である。直方体の箱を 3 分割し、真ん中に中庭を配置し てあるのが特徴である。安藤氏はコンセプトについて次のように語っ ている。「自然との共生」をコンセプトに、「安易な便利さより、天を 仰いで風を感じられる住まいを優先した」 真ん中の中庭を通らなければトイレにもいけず、生活には多少不便で はあるが、中庭からは星も見ることができ、自然と共生する家として はよくできた作りになっている。狭小な敷地でこのシンプルな建築は 解体費を含めた予算が 1 千万円程のローコスト住宅でもあった。 安藤氏はこの住宅の設計にあたって次のように述べている。「単純で はあるけれども実際には単純ではない、物理的にはどれほど小さな空 間であっても、その小宇宙のなかにかけがえのない自然があり豊かさ があるような住宅をつくりたかったのです。」どれだけ狭い空間であっ ても、どれだけハンディキャップがあっても居心地の良さを追求すれ ば住めるということを証明した作品である。 開放的な空間 この建築の一番の特徴と言っていいほどの吹 き抜けについて考えてみる。この吹き抜けは 一階部分が地面としてあり、二階部分は真ん 中に渡り廊下、横に階段がありその他は床がない。また、屋 根もない。バスルームにトイレがあるので寝室からだと、渡 り廊下を渡るか階段で下りて歩いて横の塔に移ってドアから ってトイレに行くことになる。この部分のいい点を挙げて みると、 ・空が広く見えるので四季を感じやすい。 ・風を感じながら読書や作業などができる。 ・夜には防犯面の心配がなく、りの目も気にしないで星を 観察することができる。 このように、自然についていい部分がたくさんあることがわ かる。では悪い点はどこだろうか。 ・トイレに行く際に中庭部分に出なければたどり着けない。 ・中庭には屋根がないために雨の日はトイレやお風呂に行く ためにわざわざ傘を差さなくてはいけない。 ・キッチンダイニングが離れているため、生活をする上でテ レビの配置などに工夫が必要。 ・そもそもわざわざ狭い空間のなかのさらに 1/3 を切り取っ て中庭として住むスペースを取る必要があったのか。 このように生活面での問題が多いように思う。今、年を取っ ていない人が住んでいるならいいが、階段も落っこちたら命 取りだしデザインではなく生活面での不安を感じる。 しかし、実際のユーザーはこの生活に不便であると考えられ るデザインを気にっているという。 安藤氏は一度、この不便さに耐えかねてもうそろそろ屋根を 中庭にかけたらどうだということを家主に持ちかけたそうだ 。しかし家主はそれをこうなったらもう住み続けると、二つ 返事で返したという。わざわざ、生活空間の 1/3 を切り取り 、住みにくくする代わりに空と、風と、四季を感じることを この建築は与えられたわけだが、実は住みにくいよりもそう いうものの方が人は好むのではないかということが感じられ る。人にとって生活に悪い点があってもどんなに狭くても開 放的な空間であり、自然を感じられることができる空間は至 高であるということがわかる。 所在地:大阪府大阪市住吉区 竣工 / 着工: 1976 年 2 月 /1975 年 10 月 設計:安藤忠雄 貴志雅樹 / 安藤忠雄建築研究所 高さ / 階高 :5,800mm/2,250mm 設計期間: 1975 年 1 月 -1975 年 8 月 規模 / 構造 地上 2 階 /RC 造構造設計: アスコラル構造研究所 施工:まこと建設 面積敷地面積 :57.3 ㎡ 建築面積 :33.7 ㎡ 延床面積 :64.7 ㎡ 1 階 33.70 ㎡ 2 階 31.0 ㎡ 寸法間口 :3,450mm 奥行き :14,250mm この作品について 1F 2F KITCHEN &DINING COURT LIVING BEDROOM2 BEDROOM1 BATH ROOM 構造分析 この住吉の長屋は以上ような形状をしている。真ん中をすっ かりあけ、外とつながっており、そこを中心に両サイドに部 屋があるような構造である。トイレやバスは家の一番端に。 リビングとダイニングは離れている。また、階段は中庭に位 置するため、部屋の移動は確実にどこに移るためにも外に出 る必要がある。四季を感じなければ移動できないのだ。 ここで考えたいのが、長屋の形状と部屋の配置である。 まず、確実に住む上で大事な場所をあげてみる。普通に生活 していく上でまず確実にトイレとお風呂は必要であろう。 また、生きるために食事もしなくてはいけないのでダイニン グも必要である。暮らす上ではある程度プライバシーが守ら れた、”住む部屋“( 寝室等 ) も必要である。ある人物の部屋 がベッドルーム1だとすると、生活するためにまずバスルー ムやトイレにたどり着かなくてはいけない。そのためにはま ず自分の部屋から中庭(渡り廊下)にでて、階段を下らなく てはいけない。そして、バスルームにたどり着くためには確 実にキッチンダイニングを横切るから、お料理をしているお 母さんやお姉ちゃんとは確実に交わることになる。お風呂が 終わって、夕食の時間になればダイニングに人が集まり嫌で も交わることになる。朝になれば嫌でもリビングルームを横 切って外に出てどこかに出かけなくてはならない。リビング ルームではお父さんが新聞を読んでいることだろう。ここに はリビングを横切る以外の脱出方法がないのでおそらく喧嘩 をしていても顔を合わせないなんてことは無理であろう。こ のように、生活の欠かせない部分だけを取っても、人と交わ らずには生活できないのがこの住吉の長屋の特徴である。 いくら嫌いでも、毎日顔を合わせていれば会話をしなくては いけない場面も出てくるだろうし、家族というコミュニティ の中でこのようなふれあいの場があることはとても素敵なこ とだと考える。 コンクリートへの挑戦 安藤忠雄氏は作品を作るときにコンクリート造にとてもこだ わっている。コンクリートについて安藤氏はこう語っている。 『現場での一発勝負でしか品質を管理できない難しさ』への 挑戦『無機質なコンクリートをかってあらゆる形と質感を表 現する』という挑戦だ、と。また、このようにも語っている 。『私は幾何学を利用しているが、関心の対象は幾何学その もの ではない。 建築の中に自然光が採りこまれて、そこに 存在する空間が現われると、幾何学的な秩序は背景に後退す る。 影の模様が空間を柔らかく包んで、均一に仕上げられた コンクリートの表面に投げかけられる。私は、日本の学を 、現代のコンクリートやガラスなどの材料と方法を駆使して 解釈したいと思っている 』。安藤氏はこのように、建築の外 観云々よりも自然と建築物の共生を軸として考えているので ある。たとえ低コストなコンクリートだって自然と共生させ れば自然の光が取りれられ、明るくなる。コンクリートが 朽ちてしまえば、自然の産物としてその建築物はその役目を 終える。そのような考えの元で作られたのがこの住吉の長屋 の外観の特徴でもある。 全て 1/100 スケール

Upload: others

Post on 20-Jan-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 開放的な空間sd2015.000lab.com/wp-content/uploads/2015/10/住吉の...デザインスタジオ基礎 71546909 西岡 沙弥 001/001 1F平面図 2F平面図 短手断面図 短手立面図

デザインスタジオ基礎 71546909 001/001西岡 沙弥

1F 平面図

2F平面図

短手断面図

短手立面図

長手立面図

長手断面図

安藤忠雄 Ando-Tadao安藤 忠雄(あんどう ただお、1941 年(昭和 16年)9月 13 日 - )は、日本の一級建築士である。東京大学名誉教授、21世紀臨調特別顧問、東日本大震災復興構想会議議長代理、大阪府・大阪市特別顧問である。建築士になる前はボクサーであった。ボクサー時代に世界を渡り歩き、いまの自分の元となる建築のインスピレーションを受けたという。

大阪市住吉区に建てられた狭い道路に面したところに位置するのがこ

の住吉の長屋である。直方体の箱を 3 分割し、真ん中に中庭を配置し

てあるのが特徴である。安藤氏はコンセプトについて次のように語っ

ている。「自然との共生」をコンセプトに、「安易な便利さより、天を

仰いで風を感じられる住まいを優先した」

真ん中の中庭を通らなければトイレにもいけず、生活には多少不便で

はあるが、中庭からは星も見ることができ、自然と共生する家として

はよくできた作りになっている。狭小な敷地でこのシンプルな建築は

解体費を含めた予算が 1 千万円程のローコスト住宅でもあった。

安藤氏はこの住宅の設計にあたって次のように述べている。「単純で

はあるけれども実際には単純ではない、物理的にはどれほど小さな空

間であっても、その小宇宙のなかにかけがえのない自然があり豊かさ

があるような住宅をつくりたかったのです。」どれだけ狭い空間であっ

ても、どれだけハンディキャップがあっても居心地の良さを追求すれ

ば住めるということを証明した作品である。

開放的な空間この建築の一番の特徴と言っていいほどの吹

き抜けについて考えてみる。この吹き抜けは

一階部分が地面としてあり、二階部分は真ん

中に渡り廊下、横に階段がありその他は床がない。また、屋

根もない。バスルームにトイレがあるので寝室からだと、渡

り廊下を渡るか階段で下りて歩いて横の塔に移ってドアから

入ってトイレに行くことになる。この部分のいい点を挙げて

みると、

・空が広く見えるので四季を感じやすい。

・風を感じながら読書や作業などができる。

・夜には防犯面の心配がなく、周りの目も気にしないで星を

観察することができる。

このように、自然についていい部分がたくさんあることがわ

かる。では悪い点はどこだろうか。

・トイレに行く際に中庭部分に出なければたどり着けない。

・中庭には屋根がないために雨の日はトイレやお風呂に行く

ためにわざわざ傘を差さなくてはいけない。

・キッチンダイニングが離れているため、生活をする上でテ

レビの配置などに工夫が必要。

・そもそもわざわざ狭い空間のなかのさらに 1/3 を切り取っ

て中庭として住むスペースを取る必要があったのか。

このように生活面での問題が多いように思う。今、年を取っ

ていない人が住んでいるならいいが、階段も落っこちたら命

取りだしデザインではなく生活面での不安を感じる。

しかし、実際のユーザーはこの生活に不便であると考えられ

るデザインを気に入っているという。

安藤氏は一度、この不便さに耐えかねてもうそろそろ屋根を

中庭にかけたらどうだということを家主に持ちかけたそうだ

。しかし家主はそれをこうなったらもう住み続けると、二つ

返事で返したという。わざわざ、生活空間の 1/3 を切り取り

、住みにくくする代わりに空と、風と、四季を感じることを

この建築は与えられたわけだが、実は住みにくいよりもそう

いうものの方が人は好むのではないかということが感じられ

る。人にとって生活に悪い点があってもどんなに狭くても開

放的な空間であり、自然を感じられることができる空間は至

高であるということがわかる。

所在地:大阪府大阪市住吉区

竣工 / 着工:

1976 年 2 月 /1975 年 10 月

設計:安藤忠雄 貴志雅樹

/ 安藤忠雄建築研究所

高さ / 階高 :5,800mm/2,250mm

設計期間:

1975 年 1 月 -1975 年 8 月

規模 / 構造

地上 2 階 /RC 造構造設計:

アスコラル構造研究所

施工:まこと建設

面積敷地面積 :57.3 ㎡

建築面積 :33.7 ㎡

延床面積 :64.7 ㎡

1 階 33.70 ㎡ 2 階 31.0 ㎡

寸法間口 :3,450mm

奥行き :14,250mm

この作品について

1F

2F

KITCHEN&DINING COURT LIVING

BEDROOM2BEDROOM1

BATHROOM

構造分析

この住吉の長屋は以上ような形状をしている。真ん中をすっ

かりあけ、外とつながっており、そこを中心に両サイドに部

屋があるような構造である。トイレやバスは家の一番端に。

リビングとダイニングは離れている。また、階段は中庭に位

置するため、部屋の移動は確実にどこに移るためにも外に出

る必要がある。四季を感じなければ移動できないのだ。

ここで考えたいのが、長屋の形状と部屋の配置である。

まず、確実に住む上で大事な場所をあげてみる。普通に生活

していく上でまず確実にトイレとお風呂は必要であろう。

また、生きるために食事もしなくてはいけないのでダイニン

グも必要である。暮らす上ではある程度プライバシーが守ら

れた、”住む部屋“( 寝室等 ) も必要である。ある人物の部屋

がベッドルーム1だとすると、生活するためにまずバスルー

ムやトイレにたどり着かなくてはいけない。そのためにはま

ず自分の部屋から中庭(渡り廊下)にでて、階段を下らなく

てはいけない。そして、バスルームにたどり着くためには確

実にキッチンダイニングを横切るから、お料理をしているお

母さんやお姉ちゃんとは確実に交わることになる。お風呂が

終わって、夕食の時間になればダイニングに人が集まり嫌で

も交わることになる。朝になれば嫌でもリビングルームを横

切って外に出てどこかに出かけなくてはならない。リビング

ルームではお父さんが新聞を読んでいることだろう。ここに

はリビングを横切る以外の脱出方法がないのでおそらく喧嘩

をしていても顔を合わせないなんてことは無理であろう。こ

のように、生活の欠かせない部分だけを取っても、人と交わ

らずには生活できないのがこの住吉の長屋の特徴である。

いくら嫌いでも、毎日顔を合わせていれば会話をしなくては

いけない場面も出てくるだろうし、家族というコミュニティ

の中でこのようなふれあいの場があることはとても素敵なこ

とだと考える。

コンクリートへの挑戦安藤忠雄氏は作品を作るときにコンクリート造にとてもこだ

わっている。コンクリートについて安藤氏はこう語っている。

『現場での一発勝負でしか品質を管理できない難しさ』への

挑戦『無機質なコンクリートをかってあらゆる形と質感を表

現する』という挑戦だ、と。また、このようにも語っている

。『私は幾何学を利用しているが、関心の対象は幾何学その

もの ではない。 建築の中に自然光が採りこまれて、そこに

存在する空間が現われると、幾何学的な秩序は背景に後退す

る。 影の模様が空間を柔らかく包んで、均一に仕上げられた

コンクリートの表面に投げかけられる。私は、日本の美学を

、現代のコンクリートやガラスなどの材料と方法を駆使して

解釈したいと思っている 』。安藤氏はこのように、建築の外

観云々よりも自然と建築物の共生を軸として考えているので

ある。たとえ低コストなコンクリートだって自然と共生させ

れば自然の光が取り入れられ、明るくなる。コンクリートが

朽ちてしまえば、自然の産物としてその建築物はその役目を

終える。そのような考えの元で作られたのがこの住吉の長屋

の外観の特徴でもある。

全て 1/100 スケール