車両保守管理システム“アドバンスト mmis”の開発1 ※tims :train information...

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1 ※TIMS :Train Information Management System ( 車両情報管理システム) ※TIMS :Train Information Management System ( 車両情報管理システム) 車両保守管理システム“アドバンスト MMIS”の開発 三菱電機株式会社 角野 敏子 浜田 秀希 野崎 泰隆 1.はじめに 車両保守管理システム:アドバンストMMIS Advanced Maintenance Management Information System)は、以下の目的を実現すべく開発を進めてきた。 (1)各種基地関連システム及び車両基地-車上間を有機 的に結合し、車両に関する各種情報(車両台帳、検査デー タ、故障データ等)を一元管理することにより業務の効率 化を図る。 (2)走行中に発生した車両の故障データや走行中の車両 のダイナミックデータ;動態情報を活用して車両検査修繕 (以下、検修)作業の迅速化や車両管理の信頼性向上を図 る。 図1にアドバンストMMISと関連システムの関係を 示す。 本論文では、アドバンストMMISの核となる車両に関 する各種情報を一元管理する機能を中心に述べる。 図1 アドバンスト MMIS と関連システムの関係図 2.開発の背景 車両基地における検修データ、故障データを扱うシステ ムを導入、運用されている鉄道会社は少なくない。しかし、 システムによっては、以下に述べるような問題点を指摘さ れている場合がある。 (1)データベースのメンテナンスに関する問題; 新しい編成や車両の導入時に必要となる、編成、車両、 機器に関する膨大な量の情報を効率良く入力できない。 場合によっては、都度システムの供給を受けたメーカに 依頼しなければならない。又、機器の付け替えや、編成 の車両構成変更時のデータベースメンテナンスが煩雑 である。 (2)蓄積したデータの有効活用に関する問題点; 大規模な鉄道会社では、多くの車両基地で保守業務を 分散して実施されているが、車両基地ごとに異なるシス テムが導入されていたり、ネットワーク経由で他の車両 基地のデータを参照できる仕組みになっていない。この 場合、他の車両基地、又は、他の部門、例えば保守会社、 車両管理部門が検修データ、故障データを必要とする場 合は、プリント出力したり、フロッピーディスクやCD 等に出力する必要がある。このような状況は、過去の データを有効に活用することの阻害要因となる可能性 がある。 以上の問題点を解決するために、以下に示す特徴を備え たアドバンストMMISを開発することとした。 特徴1)汎用ブラウザ(Internet Explorer TM )上で、データの 編集閲覧が可能 -システムのメンテナンス時に、端末装置のソフトウ ェア変更が不要。 -専用の端末装置が不要。 特徴2)汎用データベース(ORACLE TM )を使用したデータの 一元管理 -高速検索が可能。 特徴3)データテンプレートを利用した効率よい台帳データの作 特徴4)携帯端末を利用した検修、故障情報の入力 -用紙に記入、端末装置から入力という無駄を省くと ともに、その際の転記ミスを防ぐ。 特徴5)履歴表示機能が、不具合の早期発見を支援 -履歴表示により、データの変化傾向把握ができる。 特徴6)各種検索機能が、保守業務を支援 (注)ORACLE TM は,米国 Oracle Corporation の登録商標。 Internet Explorer TM は,Microsoft Corporation の登録商標 3.システム構成 2章で述べた問題点(2)を考慮して、図2に示すシス テム構成をとり、 Web ブラウザ上でシステムを利用できる ようにした。 この構成では、プログラム及びマスタデータ(*1)は、車 両管理センタで管理し、プログラム及びマスタデータの変 更が必要となった場合は、車両管理センタで変更し、全車 両基地に配布する。ただし、表示様式は、車両基地ごとに 変更することもできる。各車両基地の検修実績データは、 夜間にバッチ処理で車両管理センタへ送信する。車両管理 センタサーバにアクセスすれば、全車両の検修データを参 照できる。 伝送速度が確保できない場合は、実績データのうち、選 択したデータのみを車両管理センタに送信、保存すること 論文番号 527

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Page 1: 車両保守管理システム“アドバンスト MMIS”の開発1 ※TIMS :Train Information Management System (車両情報管理システム) 車両保守管理システム“アドバンストMMIS”の開発

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※TIMS :Train Information ManagementSystem ( 車両情報管理システム)

※TIMS :Train Information ManagementSystem ( 車両情報管理システム)

車両保守管理システム“アドバンスト MMIS”の開発 三菱電機株式会社 角野 敏子 浜田 秀希 野崎 泰隆

1.はじめに 車 両 保 守 管 理 シ ス テ ム : ア ド バ ン ス ト M M I S

( Advanced Maintenance Management Information System)は、以下の目的を実現すべく開発を進めてきた。 (1)各種基地関連システム及び車両基地-車上間を有機

的に結合し、車両に関する各種情報(車両台帳、検査デー

タ、故障データ等)を一元管理することにより業務の効率

化を図る。 (2)走行中に発生した車両の故障データや走行中の車両

のダイナミックデータ;動態情報を活用して車両検査修繕

(以下、検修)作業の迅速化や車両管理の信頼性向上を図

る。 図1にアドバンストMMISと関連システムの関係を

示す。 本論文では、アドバンストMMISの核となる車両に関

する各種情報を一元管理する機能を中心に述べる。

図1 アドバンスト MMIS と関連システムの関係図 2.開発の背景 車両基地における検修データ、故障データを扱うシステ

ムを導入、運用されている鉄道会社は少なくない。しかし、

システムによっては、以下に述べるような問題点を指摘さ

れている場合がある。 (1)データベースのメンテナンスに関する問題; 新しい編成や車両の導入時に必要となる、編成、車両、 機器に関する膨大な量の情報を効率良く入力できない。 場合によっては、都度システムの供給を受けたメーカに 依頼しなければならない。又、機器の付け替えや、編成 の車両構成変更時のデータベースメンテナンスが煩雑

である。 (2)蓄積したデータの有効活用に関する問題点; 大規模な鉄道会社では、多くの車両基地で保守業務を 分散して実施されているが、車両基地ごとに異なるシス

テムが導入されていたり、ネットワーク経由で他の車両 基地のデータを参照できる仕組みになっていない。この 場合、他の車両基地、又は、他の部門、例えば保守会社、 車両管理部門が検修データ、故障データを必要とする場 合は、プリント出力したり、フロッピーディスクやCD

等に出力する必要がある。このような状況は、過去の データを有効に活用することの阻害要因となる可能性

がある。 以上の問題点を解決するために、以下に示す特徴を備え

たアドバンストMMISを開発することとした。

特徴1)汎用ブラウザ(Internet ExplorerTM)上で、データの

編集閲覧が可能

-システムのメンテナンス時に、端末装置のソフトウ

ェア変更が不要。

-専用の端末装置が不要。

特徴2)汎用データベース(ORACLETM)を使用したデータの

一元管理

-高速検索が可能。

特徴3)データテンプレートを利用した効率よい台帳データの作

特徴4)携帯端末を利用した検修、故障情報の入力

-用紙に記入、端末装置から入力という無駄を省くと

ともに、その際の転記ミスを防ぐ。

特徴5)履歴表示機能が、不具合の早期発見を支援

-履歴表示により、データの変化傾向把握ができる。

特徴6)各種検索機能が、保守業務を支援

(注)ORACLETM

は,米国 Oracle Corporation の登録商標。

Internet ExplorerTM

は,Microsoft Corporation の登録商標

3.システム構成 2章で述べた問題点(2)を考慮して、図2に示すシス

テム構成をとり、Web ブラウザ上でシステムを利用できる

ようにした。 この構成では、プログラム及びマスタデータ(*1)は、車

両管理センタで管理し、プログラム及びマスタデータの変

更が必要となった場合は、車両管理センタで変更し、全車

両基地に配布する。ただし、表示様式は、車両基地ごとに

変更することもできる。各車両基地の検修実績データは、

夜間にバッチ処理で車両管理センタへ送信する。車両管理

センタサーバにアクセスすれば、全車両の検修データを参

照できる。 伝送速度が確保できない場合は、実績データのうち、選

択したデータのみを車両管理センタに送信、保存すること

論文番号 527

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図2 システム構成例

もできる。 (*1)マスタデータ:編成、車両、機器に関する各種データ

ベースのもとになるデータ。検査項目、判定基準なども含 まれる。 4.ソフトウェア構成 ソフトウェア構成を以下に示す。 ①サーバ O/S:Windows2000 サーバ ②開発言語:Java2 SDK Standard Edition V1.4.1 ③DB サーバ:Oracle8i ④クライアント環境:Internet Explorer 6.0 ⑤携帯端末環境:Pocket Internet Explorer

/Windows CE 5.システムの機能 5-1 機能構成と機能概要 各機能の概要を表1に示す。又、システムの機能構成と

関連する他システムとの関係を図3に示す。

表1 機能概要一覧

No 機能名称 機能概要

1 台帳管理機能

編成、車両、機器に関する各種デ

ータを編集(作成/変更/削除)

するとともに、関係する検修情報、

故障情報を参照できる。

2検修計画 支援

機能

検修計画作成システムより取り込ん

だ検修計画を、検修実績とともに

表示する。

又、臨時検査計画を設定できる。

3 検修管理機能各 編 成 、車 両 、機 器 の検 査 デー

タ、修繕データを編集する。

4 故障管理機能車両の故障データを故障に対する

修繕データとともに編集する。

5動態情報 管理

機能(*)

走行中に TIMS が記録している動

態監視データを利用して、車両状

態の把握、予防保全を支援する。

6 資材管理機能車両部品の在庫確認による迅速な

修繕を支援する。

7マスタデータ管理

機能

システムのマスタデータを編 集 す

る。

8ユーザ管理

機能

ユーザ登録(ログイン名、パスワー

ド)及び、アクセス権限を設定する。

故 障 /検 修 情

報 入 力 機 能

(携帯端末)

携 帯 端 末 を 利 用 し て 、 故 障 、 及

び、検修情報を入力する。

(*)動態情報管理機能は、開発中。

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図3 機能構成

5-2 台帳管理機能とマスタデータ管理機能 システムが管理する編成、車両、機器に関する台帳デー

タは、表2に示すように、個々の編成、車両、機器固有の

情報とグループ化された単位で(例えば車両種別ごとに)、

共通の情報からなる。台帳データは、マスタデータ管理機

能で後者の情報を予め登録し、台帳管理機能はそれをテン

プレートとして利用して、固有の情報のみ入力する。 表2 台帳データ

新しい車両導入時(ここでは、既に同じ機器構成の車両

テンプレートがデータベース上に存在するものとする)の

データベース生成の手順を以下に示す。 手順1:台帳管理機能の車両台帳編集画面(図4)で車両

種別と所属路線、所属場所、メーカ名、製造日等を入力す

る。この操作の結果、新しい車両が台帳に登録され、同じ

車両種別で登録されたテンプレートから装備されている

機器のリストが設定される。(図5)このとき、機器ごと

に登録されている検査リストも自動的に設定される。 手順2:手順1で設定された各機器の固有情報を機器台帳

編集画面(図6)より入力する。

種類 対象 固有情報 共通情報

(テンプレート) 編成 ・所属車両基地名

・メーカ名 ・組成日

・構成車両数 ・車両種別

車両 ・所属車両基地名 ・メーカ名 ・製造日

・構成機器 ・各機器の装備数

機器 ・メーカ名 ・製造番号 ・製造日

・検査リスト

図5 構成情報表示画面例

図4 車両台帳編集画面例

図6 機器台帳編集画面例

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マスタデータ管理機能では、台帳に関するデータの他、

路線名称、メーカ名称、天候、作業班名称などを編集でき

る。 以上述べたように、本システムではテンプレートを用い

る方法により、効率よくデータベースを編集できるように

した。又、システム運用開始後も、変更する可能性がある

データベースについては、可能な範囲で編集権限をもった

ユーザが編集できるようにした。 5-3 検修、故障情報入力機能 検修、故障情報は対象となる車両や機器を前にして、そ

の場で携帯端末を利用して入力できるようにした。入力画

面の例を図7に示す。入力項目や入力結果データは、携帯

端末付属の無線LAN経由で常時データを授受する。この

ため、予め当日の検査項目を携帯端末にダウンロードして

おく、或いは、検査終了後検査結果データをサーバに登録

する必要はない。

図7 検修情報入力画面例 5-4 検索機能 本システムでは、データを様々な角度から検索できるよ

うにすることで、データを有効に利用して、業務の効率化、

品質向上を支援する。主な検索機能は、以下のとおり。 (1)故障名称検索 故障名称を指定し、過去の同一故障が発生した編成、車

両、機器を検索するとともに、その時の故障の詳細情報や

修繕内容を参照できるため、同一故障の発生頻度を確認し

たり、過去の修繕内容を参考に修繕を実施することができ

る。又、故障の原因によっては、水平展開として同一の型

式の機器について点検したり、同様の処置を必要とする場

合を想定して、同一機種検索機能も持っている。 (2)検修状況検索 指定した回帰キロ、回帰日数を上回る編成を検索するこ

とができる。又、検修開始予定日、検修終了予定日が、当

月、翌月等の指定期間内にある編成を検索することもでき

る(図8)。これらの検索機能は、検修計画や実施状況を

確認したり、運用変更にともなう検修計画見直しや、臨時

計画の作成に役立つ。検修計画編集画面例を図9に示す。

図8 検修状況検索結果表示画面例

図9 検修計画編集画面例 (3)履歴データ検索

検査データ項目ごとに過去の検査データを判定基準値

とともに、表形式又は、グラフ形式で表示する(図10)。

又、履歴データを csv 形式に変換したファイルを生成する

こともできる。この機能を利用して、変化傾向を把握する

ことにより、異常の早期発見を支援する。 6.今後の課題 今後は、現行のシステムをベースに次の課題に取り組む

予定である。 (1)車両の予防保全支援を実現するために現在開発中の

データマイニング技術を応用した動態情報管理機能を完

成させる。 (2)故障情報入力機能のユーザインタフェースを改善す

るために、音声認識技術、文字認識技術等の適用可能性を

検討する。

図10 履歴データ表示画面例