自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識e0303 報告549...

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0303 報告 549 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識 -規範を内面化していくための指導行動と活動プログラムの開発- 規範意識の形成は,学級集団をつくる上で重要な要素となる。望ま しい集団を形成し,規範意識を更に高めていくために,各学年の発 達の段階に忚じて,指導や支援をしていくことが重要である。 集団に必要な規範を内面化していくために,学習規律を確立するな ど,「規範を守ろうとする学級の雰囲気をいかにつくっていくか」と いう教師の指導行動の在り方を考えていく必要がある。また,規範 意識を育成していくことはルールを守らせることが目的ではなく, 規範を守ることで,子どもたちがよりよい人間関係を築いていくこ とが目的である。したがって,集団活動を通して,より自律的な規 範意識を育てていくことが大切である。 そこで,本研究では,規範を守ろうとする学級の雰囲気をつくるた めに,規範を内面化する教師の指導行動の在り方を提示した。また, 自発的,自治的な活動ができる集団を育成していくために,発達の 段階に忚じた規範意識を育む活動プログラムを開発した。 その結果,自分たちでつくった規範を意識して行動し,自分たちの学級 の問題について,話し合って解決していこうとする姿が見られた。

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E 0 3 0 3

報告 549

自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識

-規範を内面化していくための指導行動と活動プログラムの開発-

規範意識の形成は,学級集団をつくる上で重要な要素となる。望ま

しい集団を形成し,規範意識を更に高めていくために,各学年の発

達の段階に忚じて,指導や支援をしていくことが重要である。

集団に必要な規範を内面化していくために,学習規律を確立するな

ど,「規範を守ろうとする学級の雰囲気をいかにつくっていくか」と

いう教師の指導行動の在り方を考えていく必要がある。また,規範

意識を育成していくことはルールを守らせることが目的ではなく,

規範を守ることで,子どもたちがよりよい人間関係を築いていくこ

とが目的である。したがって,集団活動を通して,より自律的な規

範意識を育てていくことが大切である。

そこで,本研究では,規範を守ろうとする学級の雰囲気をつくるた

めに,規範を内面化する教師の指導行動の在り方を提示した。また,

自発的,自治的な活動ができる集団を育成していくために,発達の

段階に忚じた規範意識を育む活動プログラムを開発した。

その結果,自分たちでつくった規範を意識して行動し,自分たちの学級

の問題について,話し合って解決していこうとする姿が見られた。

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目 次

はじめに ···························· 1

第1章 自発的,自治的な集団づくりをめ

ざして

第1節 多様化する子どもの価値観に対応する

ために

(1)学級集団育成の課題 ················ 1

(2)他者とつながり,個が生きる学級 ···· 3

第2節 集団づくりと規範意識の育成

(1)望ましい集団活動の条件 ············ 4

(2)集団づくりを通して育む規範意識 ···· 7

第2章 集団規範を内面化し,規範意識を

高めるために

第1節 教師の指導行動がつくる集団の基礎

(1)教師の指導行動の重要性 ············ 9

(2)規範を内面化する教師の指導行動 ··· 11

第2節 規範意識を育む活動プログラムの

開発

(1)発達段階に忚じた活動プログラム ··· 18

(2)規範意識を育む授業の視点 ········· 20

第3章 規範意識を育む活動プログラムの

実践を通して

第1節 中学年(第4学年)での実践

(1)宿泊学習を活用した活動プログラム例 · 22

(2)集会活動を活用した活動プログラム例 · 24

第2節 高学年(第6学年)での実践

(1)係活動を活用した活動プログラム例 · 27

(2)学芸会を活用した活動プログラム例 · 29

第4章 ともに生きる集団を育てる学級経営

第1節 研究の成果と課題

(1)子どもの自発的,自治的な活動の姿 ·· 32

(2)定着を図る活動の継続と指導行動 ···· 33

第2節 学級経営力の向上に向けて

(1)年間を見通した学級経営案の作成 ··· 34

(2)学校に眠る財産の共有 ············· 36

おわりに ···························· 38

<研 究 担 当> 山口 賢 (京都市総合教育センター研究課研究員)

<研究協力校> 京都市立紫明小学校

京都市立岩倉南小学校

<研究協力員> 西村 えり (京都市立紫明小学校教諭)

市田 智子 (京都市立岩倉南小学校教諭)

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小学校 学級経営 1

はじめに

金子みすゞの詩に「みんなちがってみんない

い」(1)という一節がある。この詩からは,「それ

ぞれの人間がもつ個性をありのままに受けとめ,

認めよう」,そして,「それぞれの個性が輝き合う

ことで豊かな生活が築けるのだ」というメッセー

ジを受け取ることができる。生きていく中でうま

くいかないことは必ず起きてくる。様々な挫折,

失敗や葛藤の中で,自分に自信がもてなくなった

とき,この詩は,勇気を与えてくれるに違いない。

しかし,最近,時折この詩に対する批判を耳に

することがある。それは「個性」というものが間

違えてとらえられ,それを助長する詩であるとい

う認識からである。自分の置かれている立場や周

りの人たちのことを考えない自分勝手な振る舞い

が,「個性」として認められている実態があるので

はないか。また,現状に甘んじてよりよい自分に

なろうという意欲がもてない状況も「個性」とし

て認めているのではないかという見方である。「個

性」が他者や集団との関係の中で輝く「開かれた

個」ではなく,自分の殻に閉じこもってしまった

「閉じた個」であることが多くなってきているの

である。

このように,子どもたちが自己中心的な価値観

をもつようになってきていることの背景には,尐

子化や高度情報化など,様々な社会的問題がある。

これらの問題から,子どもたちの人間関係は希薄

化し,集団生活を営むために必要な規律や規則を

遵守するという意識も薄くなり,自己の価値観が

優先する傾向が強くなってきているのではないだ

ろうか。自己の価値観を優先する子どもたちが学

級に集まってくれば,学級集団を形成することは

難しくなる。望ましい学級集団を形成していくた

めには,子どもたちに集団の規範を遵守し,多様

な価値観を認めながら,他者と協調して活動する

ことのできる規範意識を育むことが求められる。

そこで,自発的,自治的な集団づくりを通して,

人間関係や集団生活をつくっていくための規範意

識をどのように育んでいけばよいか研究を進め

た。まず,学級を集団として機能させていくため

には,集団規範を学級で共有することが必要であ

る。そして,その集団規範を子どもたちに内面化

していくことのできる教師の指導行動が鍵を握る

と考え,研究を通して,その在り方を提示した。

また,集団規範が共有された学級集団の中で,自

律的な規範意識を育んでいくための活動プログラ

ムを考え,道徳,学級活動,各教科等の集団活動

において,規範意識を高めていくために大切にし

たい視点を提示した。

(1) 金子みすゞ「わたしと小鳥とすずと」『文部科学省検定済教

科書 国語 三上 わかば』光村図書 2010.3 p.104

第1章 自発的,自治的な集団づくりをめざ

して

第1節 多様化する子どもの価値観に対応する

ために

(1)学級集団育成の課題

平成9年ごろから,学校現場では「学級崩壊」

という言葉が使われ,学級がうまく機能しない状

況が見られるようになった。文部省は,平成12年

に出した「学級経営をめぐる問題の現状とその対

忚」の報告書の中で「学級がうまく機能しない状

況」の直接的な要因を以下の3点にまとめている。

① 子どもの集団生活や人間関係の未熟さの

問題

② 特別な教育的配慮や支援を必要とする子

どもへの対忚の問題

③ 学級担任の指導力不足の問題 (2)

直接的な要因を見ていくと,教師の学級集団を

形成していく指導力の問題と,子どもを取り巻く

環境の変化による子どもの成長の問題とに分ける

ことができる。そこで,学級集団を育成していく

上での課題を,教師の側面と子どもの発達の側面

の両面から考えていくことにする。

本市では,近年,若手教員の採用が増えている。

教育現場は,団塊の世代の大量退職期にさしかか

り,大幅な教員の入れ替わりの時期を迎えている。

これは本市の問題だけではなく,全国的にみられ

る問題であり,新規採用教員の確保が課題となっ

ている自治体もある(3)。教員が大幅に入れ替わる

ということは,教員不足の問題だけではなく,学

校教育の中で培われてきた授業や集団づくりの技

術を,後輩の教員に伝えていくことが難しくなる

という問題も含んでいる。

西田は,「具体的に望ましい学習集団の育成方

法や学級経営に特化した,あるいは,系統立てた

研修の機会が尐ない」(4)と述べている。授業づく

りという点に関しては,校内研修で学んだり,様々

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小学校 学級経営 2

な研修会に参加したりすることで研鑚を積むこと

ができる。しかし,西田が指摘するように学級経

営に関する研修会はあまり行われていないのが現

状である。また,小学校教員の学級経営に関する

指導力を高めてきた場についての調査結果では,

「先輩や同僚との話合いの場」が役立ったと回答

している割合が90%を超えていることも報告して

いる(5)。つまり,教師が学級経営の能力を高めて

いく場は,大部分が学校の中であり,職場で子ど

もの実態を通した話合いをもつことが大切だとい

うことである。そして,その話合いの中で若手教

員に大きな影響を与えるのがベテラン教員の存在

である。これまでの豊かな経験に基づいたベテラ

ン教員の話は,若手教員に学級経営を考えていく

上で大きな示唆を与えることができると考える。

学級経営はマニュアルどおり進めればうまく

いくというものではなく,学級が変われば,その

子どもたちの実態に即した学級経営を行っていか

なければならない。また,一人一人の子どもに忚

じた指導を臨機忚変に行っていく必要もある。特

に,「学級がうまく機能しない状況」の直接的な原

因の一つとして挙げられている,特別な教育的配

慮と支援を必要とする子どもへの対忚の問題もあ

る。集団と個のバランスをとりながら,的確な指

導を行っていくことは,経験の尐ない若手教員に

は難しい問題である。そのようなときに,ベテラ

ン教員から,豊かな経験に基づいた的確なアドバ

イスをもらったり,学年の先生同士でじっくり話

をしたりする中で,若手教員は学級集団を育成し

ていくための技術を身に付け,学級経営力を高め

ていくことができるのである。

しかし,前述したように,大量退職により,こ

のようなベテラン教員の学級経営の心得や技術を

伝えていく機会が減ってきている。また,文書処

理など日々の仕事に追われ,多忙感が増す中,ゆ

とりがもてず,教員同士でじっくりと話し合う時

間を取ることが,若手教員に限らず,難しくなっ

てきている現状もある。このような状況が続けば,

更に若手教員の学級経営における悩みが増えてい

くのではないかと懸念される。

では,実際に若手教員は,学級経営においてど

のような悩みをもっているのだろうか。西田が

行った調査は,「人間関係づくり」や「学習ルール

やきまり」についてのものが多いことを報告して

いる(6)。

また,若手教員を対象とした,日々の教育実践

を交流する本市教育委員会主催の研修会の記録で

は,「人間関係づくり」「学習ルールやきまり」に

ついて,次のような悩みがあると記されている。

・ 同じ揉め事を繰り返す

・ 言葉遣いが乱暴である

・ 高学年女子の人間関係が難しい

・ 宿題などの提出物が出ない

・ 友だち同士でのよい点の認め合いが難し

い児童がいる

・ 聞く姿勢を取ることが難しい

・ 学習ルールの遵守

・ 授業中のけじめのつけ方

・ ほめ方や叱り方をどうすればよいか

・ 黙ってしまう子どもへの対忚

・ 私語や立ち歩いたりする子どもの対忚

これらの若手教員の悩みから,教師と子どもと

の人間関係,子どもと子どもとの人間関係をつ

くっていくことや,学習規律を徹底していくこと

など,学級集団を育成していくことの難しさを感

じ取ることができる。

若手教員のもつ悩みは特別なものではなく,教

師のだれもがもつ悩みである。これらの問題に一

つ一つ対忚し,よりよい指導や支援の方法を身に

付けていくことが,学級経営力を高めていく上で

大切なことである。そこで,若手教員が成長して

いく過程を支えていくために,教員同士の話合い

の時間を確保したり,学校で学級経営のポイント

をまとめて伝えたりすることなどが求められる。

このように,学級集団育成の方法を学ぶ機会を意

図的に設けていくことが,教師の側面からの課題

として挙げられる。

次に,子どもの発達の側面から学級集団育成の

課題を考えていく。上記に挙げた学級がうまく機

能しない直接的な要因の中に,「子どもの集団生活

や人間関係の未熟さの問題」がある。この問題は,

教師が学級集団をつくっていく学級経営力にも関

わってくるものであるが,子どもたちがこのよう

な問題を抱えている背景にはどのようなことがあ

るのだろうか。

平成18年に出された中央教育審議会初等中等

教育部会報告は,子どもたちを取り巻く環境は劇

的に変化し,様々な問題が出てきていることを指

摘している(7)。尐子化により,家庭内での人間関

係が減尐したことをはじめ,地域の中でも子ども

集団が減尐し,人間関係の希薄化が進んでいる。

遊びの質も変わってきている。テレビゲームやイ

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小学校 学級経営 3

ンターネットの普及が急激に進み,遊びが個人化

してしまい,友だち同士の交流も直接的なコミュ

ニケーションというより,ゲーム機やインター

ネットを通じての間接的なコミュニケーションに

なっているのではないだろうか。このような尐子

化や遊びの質の変化が,人間関係の希薄化を進め,

様々な人間関係の中で生じる子どもたちの葛藤の

経験を尐なくしている。そのことが,他人とうま

くつながっていく力を育みにくくしているのでは

ないかと考える。

更に,高度情報化社会になり,子どもたちの周

りにも情報が氾濫し,インターネットや携帯を使

えば,手に入れたい情報を簡単に手に入れること

ができるようになった。このような情報化社会の

中で,情報が氾濫し,大人も何が大切なのかを判

断することが難しくなり,確固とした規範を示す

ことができなくなってきている。子どもは,その

ような今まで以上に多様な価値観が渦巻く環境の

中で生活している。次々に入ってくる情報によっ

て,新しいものを「よし」とする消費社会的思考

をもった現代の子どもたちについて,武内は,「『自

己』の快または不快という基準で生き,『自己』の

利益,欲望,感性が『外部』の規律や規則よりずっ

と優先する」(8)と述べている。学級集団において,

規律や規則は,集団を維持するために必要不可欠

な要素である。

しかし,集団の中で求められる規律や規則と,

個人がもっている価値観に相違がある場合,うま

く学級集団になじめないといったことが起きる。

また,自己中心的な価値観ばかりが学級内で優先

されるようなことが起きてしまうと「学級崩壊」

といった状況になる。個性を尊重することの大切

さや,特別な教育的配慮と支援が必要な子どもた

ちの存在に配慮しながらも,一定の規律や規則を

保っていくことが,学級集団をつくっていくため

には必要なのである。

学級集団育成の課題について,教師の側面と子

どもの側面から述べてきた。「豊かな人間関係を築

くこと」「規律や規則を守ること」は,学級集団を

形成する上で大きな課題である。

文部科学省は,「児童の対人関係が未熟なまま

に,協力してよりよい生活を築くことができない

ことや,社会性の未熟さがいじめや不登校,暴力

行為などの一因になっている」(9)と述べている。

このことから,人間関係が希薄化し,社会性が身

に付かなくなることで,いじめや不登校,暴力行

為などの問題に影響していくことがわかる。した

がって,子どもたちが「豊かな人間関係を築くこ

と」「規律や規則を守ること」ができるように,教

師が,指導,支援し,社会性を身に付けさせてい

くことが,学校で起きているいじめや不登校など,

様々な問題を解決していくことにつながる。

中央教育審議会は,報告の中で「今,子どもた

ちに必要なものは,学習や生活の基盤である」(10)

と述べている。「豊かな人間関係を築くこと」や「規

律や規則を守ること」は,まさにその基盤になる

と考える。子どもたちのよりよい成長を支えてい

くために,この二つの課題が克服できるような学

級集団の育成が求められる。

(2)他者とつながり,個が生きる学級

「豊かな人間関係を築くこと」「規律や規則を

守ること」,この二つの課題は,別々の課題ではな

く相互に関連し合っている。それは,人間関係を

つくっていくことで,ルールやマナーが意識され,

ルールやマナーが守られることで,よりよい人間

関係をつくっていこうとする思いをもつことがで

きるからである。

二つの課題を克服していくためには,子どもた

ちに「他者とつながりたい。」という思い,「人と

関わろう。」とする意欲をもたせる必要があると考

える。教師が強制的に人間関係をつくろうとして

も長続きはしない。人間関係をうまくつくってい

くことができない子どもにとって,教師がきっか

けをつくっていくことは大切である。しかし,最

終的には,子ども自身が,人と関わっていこうと

する思いや意欲をもてるようにしていかなければ

ならない。

菅野は,人とつながっていくための心のエネル

ギーについて,「安心できること」「楽しい体験を

すること」「認められる体験をすること」の三つの

要素を挙げている(11)。筆者が特に大切にしたい

要素は「安心できること」である。安心できる関

係や学級があることで,子どもたちは自分を表現

することができるようになる。安心できる関係や

学級とは,人間関係のルールや集団生活における

ルールが定着している学級であると考える。人間

関係をつくろうと行動しても,話を聞いてもらえ

なかったり,発言したことに対して,冷やかした

り馬鹿にしたりするような雰囲気が学級にあれ

ば,心を開き,他者とつながろうとする思いは生

まれないだろう。特に人間関係をうまくつくるこ

とができないと考えている子どもにとって,人間

関係のルールが学級に定着し,安心できる状態に

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小学校 学級経営 4

なっているかどうかは重要な要素となる。

「安心できる」雰囲気が学級の中にできてくれ

ば,他者とのコミュニケーションを通して「楽し

い体験をすること」「認められる体験をすること」

も可能になってくる。

このことは,人間の欲求は段階的に発達してい

くというマズローの考えを用いると説明すること

ができる。マズローは,人間の欲求には五段階の

欲求があり,下位の欲求が充足されないと上位の

欲求は前面に現れないと述べている(12)。図1-1

は,どのように欲求が段階的に発達していくのか

を表したマズローの五段階欲求説を筆者が図示し

たものである。

図1-1 マズローの五段階欲求説

図1-1を,集団形成に関わる第二段階から見て

いくと,安全の欲求が満たされることによって所

属・愛情の欲求が生じ,それが満たされることで

更に上位の承認の欲求が生じる。よって,「安心で

きること」が満たされて初めて,「学級に所属して

楽しいことをしたい。」「学級のみんなに認められ

たい。」という思いが生じる。そして,集団の中で,

楽しい経験,認められる経験をすることによって,

更に「他者とつながりたい。」という思いが湧いて

くると考える。

人間関係を築いていくための第一歩として,

「他者とつながりたい。」「人と関わっていきた

い。」という思いをもつことができる安心感のある

学級をつくっていくことが重要であることを述べ

てきた。安心感のある学級にするためには,人間

関係のルールやマナー,学習ルールなどの規範を

共有することが基盤となる。

規則やルールといった規範は,ときに子どもた

ちを管理するためのものととらえられ,子どもた

ちを縛り付けるものとして敬遠されることがあ

る。確かに規範を守らせるということが目的にな

れば,規範は子どもを管理し,縛り付けるだけの

ものになるだろう。しかし,規範を示すことは,

規範を守ることが目的ではなく,規範を守ること

で,よりよい人間関係,集団生活をつくっていく

ことが目的である。自分もみんなも楽しく過ごせ

るための行動様式を表したものが,規則やルール

といった規範であると考える。このような規則や

ルールの意義を,子どもたちがわかるように説明

する必要がある。そして,子どもたちが規則やルー

ルを守ることで,「どのようなよい結果が待ってい

るのか」,また,規則やルールを守らなかったこと

で,「どのようなよくないことが待っているのか」

ということを見通すことができるようにしていく

ことが大切である。

このように,規範の意義を感じさせ,同じ規範

を学級で共有することで,多様な価値観をもった

子どもたちがつながり,望ましい集団へと高めて

いくことができる。昨年度の実践の中で,低学年

の児童が,「みんなが約束を守って活動できたので

楽しかった。」という発言をしていた。約束を守る

ことで楽しい学級になるということを実感してい

たのだろう。規範が安心感を生み,安心感が「み

んなと一緒に活動したい。」「みんなに認められる

ようになりたい。」という思いを生み,その思いが,

よりよい人間関係,集団生活をつくっていく。そ

して,このような学級が,マズローのいう自己実

現の欲求へとつながる。一人一人がもつ個性を尊

重することと集団の規範を形成することとは,相

反してとらえられることがあるが,決してそうで

はない。規範を形成することが,自己実現をめざ

し,個性を輝かせることができる人間関係や集団

をつくっていくための基盤となる。そして,子ど

もたちの規範意識を育んでいくということは,他

者とつながり,自分を輝かせていくための力を育

てる礎になると考える。

第2節 集団づくりと規範意識の育成

(1)望ましい集団活動の条件

他者とつながり,個が生きる学級をつくる基盤

として規範を遵守することの重要性,そして,子

どもたちの規範意識を育てることの重要性につい

て述べてきた。規範意識は望ましい集団活動や体

験的な活動を通して育まれていく。したがって,

学校生活の中で,望ましい集団活動や体験的な活

動を展開していくことが重要である。では,望ま

しい集団活動とはどのようなものなのだろうか。

次ページに,『小学校学習指導要領解説特別活動

編』の中で述べられている望ましい集団活動の一

般的な条件を示す。(番号は筆者によるもの)

自己実現の欲求

承認の欲求

所属・愛情の欲求

安全の欲求

生理的・身体的欲求 第一段階

第二段階

第三段階

第四段階

第五段階

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小学校 学級経営 5

まず,①~③の条件を順に見ていくと,目標づ

くり,目標達成のための話合いと実践,役割遂行

と振り返りとなっている。これはPDCAサイク

ルと同じ流れである。活動の流れを子どもたちに

学ばせ,意識させることで,子どもたちが主体的

に活動することができるようになる。それは,学

級活動の目標でもある「自主的,実践的な態度」

を養っていくことにつながる。したがって,①~

③の条件は,一つ一つ見るのではなく三つを関連

させ,ひとまとまりとしてとらえることが大切で

あると考える。

次に④~⑥の条件である。これらは,学級活動

の目標である「望ましい人間関係を形成していく

こと」(14)につながる。④の条件は,集団の中で

心の安定を得るということであり,マズローの五

段階欲求説では,安全の欲求が満たされた状態で

ある。⑤の条件は,集団の中で所属感を感じてい

るということであり,所属の欲求が満たされた状

態である。⑥の条件は,集団の中で自分の良さが

認められ,発揮できるということであり,承認の

欲求が満たされた状態であるといえる。このよう

に考えていくと,④~⑥の条件を一度に考えてい

くのではなく,まず,④の条件が満たされるよう

にし,⑤,⑥の条件へとつなげていくことが大切

であると考える。

また,上記の条件を満たしていくために,教師

は子どもたちの活動を支援していくが,その支援

の程度を考えていく必要がある。鳥海,石井は,

「教師の介入が過多になると,学級集団内で友人

関係が一部の生徒に集中してしまう傾向が現れ

る」(15)と述べている。これは,子どもたちが豊

かな人間関係を形成していくために,教師の介入

を必要最低限に留め,子どもたちの主体性に任せ

ていくことが重要であることを示している。①~

③の条件にあるような集団活動の流れが子どもた

ちに定着すれば,教師の介入が減り,子どもたち

の自主的,実践的な集団活動が展開されるように

なる。このような活動の中で子どもたちは,④~

⑥にあるような人間関係を形成していくことがで

きると考える。そして,望ましい人間関係が形成

されていけば,集団活動も活発になり,更に,自

主的,実践的態度が育ってくると考える。

筆者は,望ましい集団活動を展開するために,

①~⑥の条件に加え,七つめの条件として「集団

規範が共有されていること」が必要であると考え

ている。これは,集団が機能するために必要な規

範が共有され,当たり前のことが当たり前に行え

る状態にあることをさしている。「人の話は聞く」

「決められたルールは守る」など当たり前の規範

が学級で共有されていなければ,上記の六つの条

件が満たされることはないだろう。そのため,「集

団規範が共有されていること」は,上記の六つの

条件を根底で支えるものとして位置付けたい。

これらの条件について,教師が具体的にどのよ

うな集団の姿をめざしたらよいのかということを

次ページ表1-1にまとめた。

表1-1の縦軸の項目は,望ましい集団活動を展

開するための七つの条件(集団規範の共有,目標

づくり,目標達成のための話合いと実践,役割遂

行と振り返り,心理的な結び付き,所属感,連帯

感,認め合う人間関係)である。横軸の項目は,

「集団の姿」「具体的な方策」である。

「集団の姿」の欄には,各条件を満たすために,

教師または子どもが大切にしていきたいポイント

についてまとめた。チェックリストにすることで,

担任する学級集団が「何ができていて,何ができ

ていないのか」がわかるようにした。どの学年で

も大切にしたいポイントをまとめており,最終的

には,子ども自身の力でできるようにしていきた

いものである。しかし,学年の発達段階や学級の

状態によって難しい項目もある。子どもたちだけ

で難しいところには,教師の指導や支援を増やし

ていき,子どもたちにできるところは子どもたち

に任せていくといったように,バランスを取って

いくことが重要である。

「具体的な方策」の欄には,集団の姿の欄に挙

げたような集団を育むために,集団活動や日常の

指導の中でどのような取組を行っていくことがで

きるのか,例を示している。「集団活動において」

①活動の目標をつくり,その目標について全員

が共通の理解をもっていること

②活動の目標を達成するための方法や手段など

を全員で考え,話し合い,それを協力して実

践できること

③一人一人が役割を分担し,その役割を全員が

共通に理解し,自分の役割や責任を果たすと

ともに,活動の目標について振り返り,生か

すことができること

④一人一人の自発的な思いや願いが尊重され,

互いの心理的な結び付きが強いこと

⑤成員相互の間に所属感や所属意識,連帯感や

連帯意識があること

⑥集団の中で,互いの良さを認め合うことがで

き,自由な意見交換や相互の関係が助長され

るようになっていること (13)

Page 8: 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識E0303 報告549 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識 -規範を内面化していくための指導行動と活動プログラムの開発-

小学校 学級経営 6

表1-1 望ましい集団活動の条件とめざす集団の姿(例)

□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

所属感,

連帯感

話し合って決め,みんなで活動することができている

・目

標を

設定

し,

活動

でき

るよ

うに

する

・み

んな

で話

し合

って

活動

を決

める

よう

にす

る・

みん

なが

楽し

くな

るた

めの

話合

いや

活動

を行

うよ

うに

する

・掲

示物

をつ

くる

など

,目

標を

見え

る形

にす

る・

活動

のル

ール

を守

って

,自

分た

ちで

活動

でき

るよ

うに

する

・で

きた

こと

や楽

しか

った

こと

を振

り返

る時

間を

設け

る・

一人

一人

の役

割の

大切

さを

振り

返る

時間

を設

ける

・自

分た

ちの

成長

を見

つめ

る時

間を

設け

る・

ルー

ルを

守る

こと

で,

みん

なが

楽し

くな

ると

いう

こと

を意

識で

きる

 よ

うに

する

・よ

いと

ころ

みつ

けな

ど,

友だ

ちの

良さ

に目

を向

ける

取組

を行

うよ

う 

にす

る・

休み

時間

の全

員遊

びな

ど,

集団

で遊

ぶ機

会を

設け

る・

係活

動の

時間

を確

保す

る・

子ど

もた

ちの

アイ

デア

を生

かせ

る当

番活

動に

なる

よう

にす

る・

グル

ープ

ワー

クの

場を

設け

る・

集団

活動

の足

跡を

残す

よう

にす

る・

集団

の様

子を

観察

する

一人一人が学級での役割を認識できている

学級で決めた目標を意識して行動している

一人一人が学級の役に立っていると思っている

ルールを自発的に守ることができている

認め合う

人間関係

自分の思いを話し,友だちの意見を受け止めている

・事

前に

時間

を取

るな

どし

て,

自分

の意

見を

もち

,話

合い

に参

加で

き 

るよ

うに

する

・少

数の

意見

を大

事に

して

,話

し合

うよ

うに

する

・友

だち

の意

見の

良さ

に目

を向

け,

肯定

的に

話合

うよ

うに

する

・振

り返

りを

行い

,活

動の

中で

よか

った

こと

を話

し合

うよ

うに

する

・一

人一

人が

役割

を果

たし

て,

協調

的に

活動

が行

える

よう

にす

る・

友だ

ちの

良さ

を認

めた

上で

,意

見が

言え

るよ

うに

する

・人

の発

言を

聞き

,つ

なが

りの

ある

発言

がで

きる

よう

にす

る・

一人

一人

の良

さが

発揮

でき

るよ

うに

する

・よ

いと

ころ

見つ

けな

ど,

友だ

ちの

良さ

に目

を向

ける

取組

を行

う・

学級

の良

さを

伝え

合う

時間

を設

ける

・学

習に

相互

評価

の場

面を

取り

入れ

る・

認め

合う

発言

を意

識で

きる

よう

にす

る・

つな

がる

発言

を意

識で

きる

よう

にす

る・

他者

意識

をも

って

,規

範を

守る

こと

がで

きる

よう

に言

葉か

けを

する

相手の良さを見つけることができている

注意し合える人間関係がつくられている

望 ま し い 人 間 関 係

心理的な

結び付き

安心して発言できるルールができている

・事

前に

時間

を取

るな

どし

て,

自分

の意

見を

もち

,話

合い

に参

加で

き 

るよ

うに

する

・話

し方

やき

き方

のル

ール

を意

識し

て話

し合

うよ

うに

する

・少

数の

意見

を大

事に

でき

るよ

うに

する

・活

動を

して

よか

った

こと

や嬉

しか

った

こと

を交

流で

きる

よう

にす

る・

活動

の振

り返

りで

一緒

に活

動し

たメ

ンバ

ーの

よか

った

とこ

ろを

交流

 で

きる

よう

にす

る・

教師

も活

動に

参加

し,

子ど

もと

ふれ

あう

時間

をも

・授

業に

おい

て学

び合

いの

場面

を多

く取

る・

ペア

トー

クや

グル

ープ

での

話合

いな

ど話

し合

う機

会を

多く

取る

・学

習時

の挨

拶や

返事

を意

識し

て行

うよ

うに

する

・全

員発

表を

心が

ける

よう

にす

る・

認め

合う

発言

を意

識で

きる

よう

にす

る・

教師

が生

き方

につ

いて

の考

えや

思い

を伝

える

・一

人一

人の

様子

を観

察す

る・

自分

の思

いを

話せ

る場

を設

ける

みんなの意見が受け止められている

思いやりや感謝の思いをもっている

お互いに励まし合うことができている

一人一人の居場所がある学級になっている

建設的な意見を言うことができている

助け合い,信頼できる人間関係がつくられている

自分で考えて活動を進めることができている

集団が楽しくなるために,自分の責任を果たそうとしている

活動を振り返り,感じたことを共有している

学んだことを次の活動に生かそうとしている

 

活動の過程を大切にした目標を立てている

活動のめあてに合った目標を立てている

目標達成

のための

話合いと

実践

一人一人が意見をもち,みんなが意見を出し合っている

・話

合い

のル

ール

を活

用し

て話

し合

うよ

うに

する

・自

分の

考え

をも

つた

めの

時間

を設

ける

・話

合い

の中

でみ

んな

の意

見が

出る

よう

にす

る・

最後

まで

話し

合っ

て,

意思

決定

がで

きる

よう

にす

る・

決定

した

こと

には

気持

ちよ

く賛

同す

るよ

うに

働き

かけ

る・

みん

なで

話し

合っ

て,

活動

の計

画を

立て

るよ

うに

する

・自

主的

な集

会活

動が

行え

るよ

うに

する

・楽

しく

活動

する

ため

のル

ール

を確

認す

る時

間を

設定

する

・今

まで

の活

動を

改善

して

,よ

りよ

い集

団活

動を

つく

るよ

うに

する

・全

員発

表を

心が

ける

よう

にす

る・

自分

の考

えが

もて

るよ

うに

書く

時間

を設

ける

・協

力で

きる

場(

グル

ープ

ワー

クな

ど)

を多

く設

定す

る・

グル

ープ

で意

見を

まと

める

活動

を設

ける

・認

め合

う発

言の

話型

を示

す・

学級

での

取組

が,

学校

全体

の活

動(

委員

会,

クラ

ブな

ど)

に生

かさ

 れ

るよ

うに

する

一人一人の意見を互いに大切にしている

折り合いをつけることができている

ルールを守って,楽しく活動している

決まったことに対して,協力して取り組んでいる

役割遂行

と振り返り

一つ一つの役割の必要性を共有している

・一

つ一

つの

役割

の大

切さ

につ

いて

話し

合う

よう

にす

る・

一人

一人

の役

割を

きめ

るよ

うに

する

・自

分の

役割

を意

識す

るこ

とが

でき

るよ

うに

する

・活

動の

振り

返り

を行

う時

間を

設け

る・

活動

をし

てよ

かっ

たこ

と,

楽し

かっ

たこ

とを

共有

する

時間

を設

ける

・活

動を

して

出て

きた

問題

点を

共有

する

時間

を設

ける

・目

標の

振り

返り

をす

る時

間を

設け

・学

校生

活で

必要

な役

割を

一人

一役

で分

担で

きる

よう

にす

る・

係活

動の

時間

を確

保す

る・

子ど

もた

ちの

アイ

デア

を生

かせ

る当

番活

動に

なる

よう

にす

る・

係活

動や

当番

活動

の振

り返

りを

定期

的に

行う

・活

動の

成果

が見

える

よう

にす

る・

学習

の振

り返

りを

行う

よう

にす

る・

学級

目標

の達

成度

を確

認す

る・

目標

の振

り返

りを

行う

よう

にす

る・

次の

活動

での

目標

を立

てる

よう

にす

集団規範の

共有

集団の規範について共通理解している

・学

級の

きま

りや

約束

につ

いて

話し

合う

よう

にす

る・

きま

りや

約束

の意

義に

つい

て話

し合

うよ

うに

する

・学

級の

きま

りや

約束

を守

って

いく

ため

の方

法に

つい

て話

し合

うよ

 う

にす

る・

学級

をよ

りよ

くす

るた

めの

きま

りや

約束

につ

いて

話し

合う

よう

に 

する

・学

級の

きま

りや

約束

を振

り返

るよ

うに

する

・学

級の

きま

りや

約束

を見

直す

よう

にす

る・

目標

を意

識し

た規

範を

話し

合っ

てつ

くる

よう

にす

る・

きま

りや

約束

をつ

くり

,守

る活

動を

行う

機会

を設

ける

・学

級経

営の

方針

を伝

える

,示

す・

規範

の意

義に

つい

て,

折に

触れ

て話

す・

「~

しな

さい

,~

して

はい

けま

せん

」で

はな

く,

「~

した

い」

など

 願

いが

引き

出さ

れる

形で

規範

を示

す・

きま

りや

約束

が守

れて

いる

かど

うか

を振

り返

るよ

うに

する

・活

動時

のき

まり

や約

束を

確認

する

・当

たり

前の

こと

が当

たり

前に

でき

るこ

とを

評価

する

・休

みの

過ご

し方

を確

認す

る・

授業

の型

をつ

くり

,安

心し

て授

業に

臨め

るよ

うに

する

○教

師の

思い

を伝

える

 ・

「ど

のよ

うな

クラ

スに

した

いの

  

か」

「い

ま,

がん

ばら

なけ

れば

  

なら

ない

こと

は何

か」

など

,教

  

師の

思い

を折

にふ

れて

話す

規範を大切にし,楽しく活動している

規範を守っている状態が保たれている

行動目標的な規範を共有している

自分たちでよりよい規範をつくったり,つくり変えたりしている

自 主 的 ・ 実 践 的 な 態 度

目標づくり

一人一人の思いを出し合い,目標を立てている

・み

んな

で活

動の

目標

を話

し合

って

決め

るよ

うに

する

・活

動の

目的

や意

図を

共通

理解

でき

るよ

うに

する

・み

んな

で意

見を

出し

合い

,話

し合

える

よう

にす

る・

実践

的な

態度

を育

てた

り,

人間

関係

を深

めら

れる

よう

な目

標を

つ 

くる

よう

にす

る・

活動

の前

に目

標を

意識

でき

るよ

うに

する

・個

人の

めあ

てを

つく

るよ

うに

する

・授

業に

おい

て,

学習

のめ

あて

を意

識で

きる

よう

にす

る・

日常

的に

学習

の目

標な

どを

考え

る時

間を

設け

る・

学級

目標

を意

識す

る時

間を

設け

教師と児童の思いが反映された目標を立てている

学級目標を意識した活動の目標を立てている

具体的な方策

集団活動(話合い活動,係活動,集会活動など)において

日常の指導において

集団の姿

《集

団規

範の

具体

例》

○話

し方

のル

ール

の定

着を

図る

・話型を示す

・話

すと

きの

姿勢

を示

・声のものさしを示す

・相

手意

識を

もつ

こと

できるようにする

○き

き方

のル

ール

の定

着を

図る

・聴

型を

示す

・き

くと

きの

姿勢

を示

○話

合い

のル

ール

の定

着を

図る

・話

合い

の進

め方

を示

・司

会の

仕方

を示

・目的意識をもつように

する

○学

習の

ルー

ルの

定着

を図

・チャイムによる授業の

開始

,終

・学習の準備

・ノ

ート

の使

い方

やプ

ントの整理の仕方

○生

活の

ルー

ルの

定着

を図

・学

習用

具の

整理

・提

出物

の出

し方

・道

具の

整理

整頓

・当

番活

動の

仕方

Page 9: 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識E0303 報告549 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識 -規範を内面化していくための指導行動と活動プログラムの開発-

小学校 学級経営 7

規範………人間が行動したり判断したりすると

きに従うべき価値判断の基準

規範意識…規範を守り,それに基づいて判断した

り行動しようとする意識 (16)

規範

・生活をよりよくするためのもの

・人間関係を豊かにするもの

・集団形成に必要なもの

・人としてしてはならないこと

の欄には,学級活動を中心に,各教科の体験的な

活動などを行うときに考えていきたいことの例を

示している。「日常の指導において」の欄には,授

業,掃除や給食といった学習や生活の中で考えて

いきたいことの例を示している。

授業では,単元や1時間の目標などを踏まえて

学習を進めるように,学級経営における学級集団

づくりについても,表1-1のように学級集団のめざ

す姿をイメージしておくことが大切である。

(2)集団づくりを通して育む規範意識

望ましい集団活動とめざす集団の姿について

述べてきた。本項では,望ましい集団づくりを通

して,どのように規範意識を育んでいくのか述べ

ていく。

規範意識は,簡単に言うと「規則やきまりを守

る意識」ととらえられるが,規範や規範意識につ

いて,文部科学省は,以下のように定義している。

この定義を見ると,規範や規範意識は様々な解

釈をすることができる。規範は,行動するときの

価値判断の基準であるから,集団における規範は,

集団に望まれる行動様式や行動基準を表すもので

あるととらえることができる。特に明文化された

ものが規則やきまりということになるが,集団に

望まれる行動様式や行動基準という視点で,学習

指導要領や解説書を見ていくと,数多くの規範が

存在する。その規範を大きく二つに分類すると図

1-2のようになる。

図1-2 規範と規範意識

図1-2の,集団生活に必要であり,守らなけれ

ばならない最低限の規範から,道徳の内容項目に

示されるような行動目標的な規範も存在する。そ

の二つに分けた規範を守ろうとする意識を,「生活

をよりよくする規範意識」「最低限の規範意識」と

とらえることができる。

図1-3は,規範意識の広がりと高まりについて,

筆者の考えをまとめた図である。

図1-3 規範意識の広がりと高まり

子どもたちは与えられた規範を身に付けていく

段階から,成長していくにつれ,周囲の様々な期

待や考え方,価値観を,それまでに身に付けてい

る規範と結び付けながら,多様な規範を受け入れ

ていくようになる。そして,低学年の間では,自

分の周囲の友だちに対する意識であったものが,

中学年,高学年,中学校と学年が上がるにつれて,

学級のみんなに対する,学校に対する,地域や社

会に対する意識へと,空間的な広がりを見せてい

くと考えられる。また,同じ規範に対しても,「大

人が言うから守る」という考えから「自分自身の

考えで守る」というように,他律から自律へと高

まっていく。このように,規範意識を広げ,高め

ていくことで,「社会の中で認められる自己の生き

方」を考えるための基準をつくっていくことがで

きるようになると考える。

本研究では,「規範」を,その集団の成員に望

まれる行動様式や行動基準とし,「集団規範」を,

学級集団の形成に必要な規範とする。また,「規範

意識」を,規則やきまりといった「最低限の規範」,

いわゆるルールを守ろうとする意識だけでなく,

自分の役割や責任を感じ,集団の中でよりよい行

動を取ることができる「生活をよりよくする規範

意識」を含めたものととらえている。生活をより

よくする規範意識にまで高めようとすることで,

行動目標的な

規範を志向する

最低限の規範

・生活をより

行動目標的な規範

最低限の規範

を守る

自律

他律

家族 学校 地域・社会

最低限の規範意識

生活をよりよくする

規範意識

最低限の 規範を遵守

行動目標的な 規範を志向

規範を自己のものとして確立

規範意識の育ち

生活をよりよく

する規範意識

最低限の

規範意識

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小学校 学級経営 8

規範遵守のための規範意識ではなく,他者と協調

して集団生活をつくっていくための,他者意識に

基づいた規範意識を育むことができると考えたか

らである。

次に,集団づくりと規範意識の育成の関係につ

いて述べる。図1-4は,望ましい集団活動と規範意

識の育成との関係を示した図である。

前項で述べたように,望ましい集団活動の基盤

となるのが,図1-4のア「集団規範の共有」である。

品田は,「『この場合では~する。』, あるいは『こ

の場面では~しない。』などの約束を活動前に確認

し,その枠の中で活動させることが,安全を保障

し,ふれあいを促進する」(17)と述べている。こ

れは,活動に必要な約束やルールなどの規範を学

級のみんなで共通理解しておくことの大切さを示

している。どのように行動したらよいのかを具体

的に共通理解する。そのことを通して,学級の規

範,行動様式として共有されれば,一つ一つ確認

することなく,子どもたちが自然とその枠組みの

中で行動できるようになる。その結果,子どもた

ちは,活動の進め方がわかるようになり,自発的

な活動が促進されると考える。

もち上がりの学級を除き,通常は,四月当初は,

一旦学級としての集団規範が共有されていない状

態にある。そのため,教師が学級に必要な規範を

示していくことが必要になる。諸富は,「四月に『学

級としての基本的な型』を子どもたちに感じ取ら

せる必要がある」(18)と述べている。学級の規範

が早い段階である程度共有されなければ,学級づ

図1-4 望ましい集団活動と規範意識の育成との関係

くりが難しくなり,学級がうまく機能しない状況

になる可能性がある。教師の働きかけにより,集

団規範を共有し,学級集団の基盤をつくる必要が

ある。本研究では,この教師の働きかけを「規範

の内面化を図る教師の指導行動」とし,その在り

方について,授業分析や日常の行動の分析を行い,

提示する。

集団規範を共有することで,図1-4のイ「望ま

しい集団活動」を行っていくことができる。集団

活動を行う中で,子どもたちは,きまりや約束を

守ることの大切さを感じ,集団規範に対する理解

が実感を伴ったものになっていく。そして,より

高い集団規範が共有されるようになれば,更に望

ましい集団活動が展開できるようになる。そのよ

うなサイクルの中で,学級の規範を守る雰囲気が

つくられ,一人一人の規範意識が育まれていく。

また,集団活動の中で与えられた規範を守るこ

とだけではなく,自分たちできまりや約束を考え

たり,自分たちで決めたことに責任をもって遂行

したりすることで,自律的な規範意識を育んでい

くことができると考える。

このように規範意識を育んでいくために,本研

究では,規範意識を育む活動プログラム例を開発

する。このプログラムは,道徳の時間,学級活動,

各教科等の集団活動や体験的な活動を有機的に関

連付けて構成する。子どもが必要な規範に気付き,

規範を考え,規範をつくっていく学習と教師が意

図して規範の大切さを子どもたちに気付かせてい

く学習とを,発達段階に合わせてバランスよく取

Page 11: 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識E0303 報告549 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識 -規範を内面化していくための指導行動と活動プログラムの開発-

小学校 学級経営 9

り入れ,自律的な規範意識を育んでいくものとす

る。図1-4では,子どもたちが気付き,考え,つくっ

ていく規範を「子どもが気付く規範」,教師が意図

的に子どもたちの気付きをうながしていく規範を

「教師が気付かせる規範」としている。

本節では,集団づくりと規範意識の育成につい

て述べてきた。教師が,学級に集団規範を共有し

ていくことで,子どもたちは安心して自分自身で

活動できるようになる。そして,望ましい集団活

動を通して自律的な規範意識に高めていくこと

で,自分たちの生活を自分たちでつくっていくこ

とができるようになる。集団規範を共有し,規範

意識を高めていくことは,子どもたちの自発的,

自治的な活動をうながすことになるのである。

第2章では,「規範を内面化していくための教

師の指導行動」について,また,「規範意識を育む

学習プログラム」について,活動や指導で大切に

していきたいポイントについて具体的に述べる。

(2) 文部省「学級経営をめぐる問題の現状とその対忚」2000.3

(3) 京都新聞「教員大量退職獲得しのぎ」2011.7.23

(4) 西田晋「指導力向上をめざした研修のさらなる充実を図る

ために」『平成21年度研究紀要』京都市総合教育センター

2010.3 p.276

(5) 前掲(4) p.283

(6) 前掲(4) p.297

(7) 中央教育審議会初等中等教育部会報告「青尐年の意欲を高

め,心と体の相伴った成長を促す方策について」2006.2

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/

toushin/06021401/001.htm 2012.2.15

(8) 武内清「若者と規範意識」深谷昌志編『子どもの規範意識を

育てる』教育開発研究所 pp..69~70

(9) 文部科学省『小学校学習指導要領解説特別活動編』東洋出版

社 2009.8 p.15

(10)前掲(7)

(11)菅野純「現代の子どもたちのつながる力」『児童心理No.926』

金子書房 2011.2 p.6

(12)A.Hマズロー『人間性の心理学』産業能率大学出版部 1987

pp..204~225

(13)前掲(9) p.9

(14)前掲(9) p.13

(15)鳥海不二夫,石井健一郎「学級集団形成における教師による

介入の効果」『電磁情報通信学会論文誌』2007.9 p.2463

(16)文部科学省「児童生徒の規範意識を育むための教師用指導資

料」2006.5

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/05/06052417/00

1.htm 2012.2.15

(17)品田笑子「ルールとふれあいのある学級集団づくり」『児童

心理臨時増刊号No.930』金子書房 2011.4 p.15

(18)諸富詳彦「学級づくりはスタートが勝負」『児童心理臨時増

刊 NO.930 』金子書房 2011.4 p.3

第2章 集団規範を内面化し,規範意識を高

めるために

第1節 教師の指導行動がつくる集団の基礎

(1)教師の指導行動の重要性

新しい学年での学級のスタート時には,初めか

ら集団規範が子どもたちに共有されているわけで

はない。これは,先述したように,学級の中にき

まりや約束がないことをさしているのではなく,

学級の成員が入れ替わったことにより,きまりや

約束を守っていこうとする学級の雰囲気が一旦ス

タートの状態になるということである。

学校では,教育目標を設定することで一定の方

向付けをし,「学校のきまり」としてきまりや約束

が明文化されている。しかし,同じきまりや約束

が継続されていても,学級が替わったり担任が替

わったりすれば,そのきまりや約束に対する意識

は微妙に変わってくる。つまり,きまりに対する

温度差が出てくるということである。

また,学級の成員に入れ替わりがあれば,きま

りや約束もこれまでと全く同じようにというわけ

にはいかない。担任のやり方の違いや,進級によ

り,学級のきまりや約束を変更していくことが望

ましい場合も出てくる。学校全体で一定の方向付

けがされてはいるものの,やはり,学級できまり

や約束についての確認を行っていくことが大切で

ある。

末吉は,子どもたちは,初めから協調的な集団

行動ができるわけではなく,役割は何かを示し,

型を教え,それが子どもたちの中でルーティーン

化されるまで繰り返し対忚することが必要になる

と述べている(19)。子どもたちが集団行動をして

いくためには,学年当初に教師が働きかけ,ある

一定のきまりや約束を提示し,学級の規範を形成

していくことが重要である。特に,学習規律や人

間関係を形成していく上での約束事などの最低限

の規範については,教師の考えを示しておく必要

がある。そして,子どもたちがそれらの規範を共

有し,内面化していくことで,学級集団の基礎を

つくっていくことができる。

では,子どもが規範を内面化し,規範を守って

行動することができるようにしていくために,教

師はどのようなことを考えて指導や支援を行って

いくことが大切なのだろうか。教師が考慮するこ

とを,子どもが規範を内面化していくための外的

な要因となる「規範の内面化に関わる要素」と,

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小学校 学級経営 10

①規範(きまりや約束)の重要性を認識する

②規範(きまりや約束)を守って行動する

③規範(きまりや約束)の大切さを実感する

子どもが生活の中で規範について考える「規範を

内面化していく過程」とに分けて述べていく。

〈規範の内面化に関わる要素〉

規範の内面化に関わってくる要素について,

コールバーグの道徳性発達段階を基に考えてい

く。以下の「六つの道徳発達段階」は,『発達をう

ながす教育心理学』に掲載されていたコールバー

グの六つ道徳発達段階(20)を,筆者が省略してま

とめたものである。

【六つの道徳発達段階】

まず,第1水準である前慣習的水準においては,

「道徳的価値は人や規範にあるのでなく,外的,

準物理的な出来事や悪い行為,準物理的な欲求に

ある」としている。これは,規範の内容によって

判断するのではなく,それに伴う賞罰によって判

断しているということである。賞罰を与えるのは

大人の判断といえる。例えば,教師が子どもをほ

めたり叱ったりするのは教師の判断であることか

ら,子どもたちは褒められるか叱られるかという

基準で行動しているところがある。大人の示す規

範を絶対的なものととらえる低学年に多く見られ

る姿である。このことから,子どもの規範の内面

化に関わってくる要素の一つとして,まず,教師

の存在が挙げられる。

次に,第2水準である慣習的水準では,「道徳的

価値はよいあるいは正しい役割を遂行すること,

慣習的な秩序や他者からの期待を維持することに

ある」としている。これは,他者からの期待に忚

えようとする段階である。学校においては,友だ

ちや学級の集団から自分がどう見られているかを

意識し,望まれる行動様式に従って行動しようと

する。また,社会を維持するためには,規範に従

うことが重要であると考える段階でもある。子ど

もが規範そのものに価値を見出し,規範に従って

行動することがよいことであると判断している。

これらのことから,規範の内面化に関わる要素の

二点目として,友だち関係や学級集団,または,

規範そのものがもつ価値が挙げられる。

最後に,第3水準である原則的水準では,「道徳

的価値は,共有されたあるいは共有されうる規範,

権利,義務に自己が従うことにある」としている。

この段階では,規範を自分自身の価値観として確

立することができている。外的な要因がなくとも,

規範が内面化されていることになる。

上記のことから,規範の内面化に関わる要素

は,「教師の存在」「友だちや学級集団の存在」「規

範そのものがもつ価値」であると考える。

「教師の存在」「友だちや学級集団の存在」に

ついては,「人間関係をどう構築していくか」とい

うことが重要になる。規範を示す教師が子どもに

信頼されていなければ,教師が規範を守らせよう

とすればするほど子どもが反発するといった状況

が生まれることも考えられる。教師の言葉が子ど

もの心に響くように,信頼関係を日頃からつくっ

ておくことが大切である。また,子どもが学級に

対して所属感をもっていなければ,規範を守ろう

とする意識は薄くなるだろう。友だちとよりよい

関係を築き,学級に対して所属感や連帯感をもて

るように働きかけていくことが大切である。この

ような人間関係に支えられながら,子どもたちは

規範を内面化していき,一方で規範を守ることに

より,よりよい人間関係を築くことができると考

える。

最後の要素である「規範そのものがもつ価値」

を高めていくためには,子どもたちが「なぜその

規範が必要なのか」ということを考えていくこと

が大切である。子どもたちは学習や活動などをす

る中で規範の意義について考え,その重要性を認

識し,内面化していくものと考える。その過程に

ついて筆者の考えを以下に述べていく。

〈規範を内面化していく過程〉

規範を内面化していく過程について,筆者の考

えをまとめると以下の3点になる。

まず,子どもたちが「①規範(きまりや約束)

水準1 道徳的価値は人や規範にあるのでなく,

外的,準物理的な出来事や悪い行為,準

物理的な欲求にある。(前慣習的水準)

段階1〈服従と罰への志向〉

段階2〈素朴な自己中心的志向〉

水準2 道徳的価値はよいあるいは正しい役割を

遂行すること,慣習的な秩序や他者からの

期待を維持することにある。(慣習的水準)

段階3〈よい子志向〉

段階4〈権威と社会秩序の維持への志向〉

水準3 道徳的価値は,共有されたあるいは共有

されうる規範,権利,義務に自己が従う

ことにある。(原則的水準)

段階5〈契約的遵法的志向〉

段階6〈良心または原理への志向〉

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小学校 学級経営 11

の重要性を認識する」ことが大切である。重要性

を知らなければ規範を守って行動することはでき

ない。また,知っていても,重要と思わなければ

守ろうとする意識は低くなるだろう。更に,一度

重要性を感じたとしても,生活をしてく中で意識

が低くなっていったり,置かれている状況によっ

ても意識の仕方が変わったりする。例えば「人の

話を聞く」など,特に学級経営の中で重要になる

規範については,常に意識できるようにしておく

ことが望まれる。

次に,「②規範(きまりや約束)を守って行動す

る」過程がある。規範について重要と認識してい

るからといって,いつでも行動に移すことができ

るということではない。「わかるとできるは違う」

ということである。規範を守って行動しなければ,

他の人の迷惑になるとわかっていながらも,自分

のしたいことを優先してしまうことがある。特に

自己中心性の残る段階にある子どもたちによく見

られるのではないだろうか。規範と自己の欲求と

の間で葛藤しながら,規範を守って行動する経験

を積むことが大切である。

最後に,「③規範(きまりや約束)の大切さを

実感する」ことが必要になってくる。規範を守っ

て行動したことで,望ましい結果が得られたとい

う経験の繰り返しが,規範を守ろうとする思いを

強くすることができると考える。例えば,遊びの

時間に,「みんなで決めた遊びのルールを守って活

動したら,もめることがなく楽しく活動すること

ができた。」と思うことができたら,次もルールを

守ろうという意識につながるだろう。

「規範の内面化に関わる要素」「規範を内面化

していく過程」について述べてきた。教師は,学

級の中で信頼のおける「教師と子どもの関係」「子

どもと子どもの関係」を築きながら,規範を内面

化していく過程の中で適切な指導行動をとり,子

どもの成長を支えていく必要がある。

(2)規範を内面化する教師の指導行動

子どもたちが規範を守ることができるように,

教師はきまりや約束を意識し,日々働きかけてい

く。しかし,単に,教師主導で子どもたちを型に

はめ込めばよいというものではない。長峰と澤は,

「担任教師が『学習や生活におけるしつけ・注意』

を強くしすぎると,その学級の児童が認知する『学

級の雰囲気』はネガティブになる」(21)と述べて

いる。教師がきまりや約束を守らせようとするあ

まり,しつけや注意が多くなる。そして,禁止事

項が強調されるようになると,子どもは管理され

ていると感じ,学級の雰囲気が悪くなっていくと

考えられる。特に高学年になると,思春期にさし

かかり,押し付けられることに対して反発を感じ

る子どもが出てくるだろう。

このように,規範を形成するということは,学

級集団を成り立たせていく上で必要不可欠なもの

であるにもかかわらず,あまり管理的な側面が強

調されすぎると,学級の雰囲気が悪くなるという

難しさがある。河村は,理想の学級集団における

子どもたちの行動について「教師からやらされて

いると感じているのではなく,自分から進んで取

り組むようになっている」(22)と述べている。管

理的な側面が強くならないようにするためには,

きまりや約束が教師の一方的な押し付けではな

く,子どもたちが,きまりや約束を大切であると

感じ,自ら守っていこうとする思いを育てていく

ことが重要である。

〈目的をもつことができるようにする〉

子ども自らがきまりや約束を守ろうとする思

いを育んでいくためには,まず,子どもたちに「目

的をもたせる」ことが一つのポイントとなる。

規範を守ることが目的となってはならないと

いうことは前章で述べた。「よりよい人間関係をつ

くっていくために」「よりよく成長していくため

に」という目的をもたせることが大切である。こ

の「よりよく」といった部分を具体的に表してい

るのが,学級目標や活動の目標である。これらの

目標を意識することで,「目標に向って成長してい

くために,規範を守っていく必要がある」と,子

どもたちが目的を共通理解することができる。

このように考えると,学級目標や活動の目標を

設定することにも工夫が必要になる。特に,学級

目標を設定するときは,教師の願いや子どもの思

い,保護者の思いを考慮していく必要があるだろ

う。そして,話合い活動の中で,学級にあった目

標が設定され,1年間を通して意識できるものにし

ていかなければならない。子どもが学級目標を意

識することで,学級に一定の方向付けがなされ,

目標を達成するために,規範も肯定的に受けとめ

ることができるようになると考える。

次にポイントとなるのが,子どもたちが自ら規

範を守ろうとする気持ちを育んでいくために,教

師がどのような働きかけをしていくかということ

である。次ページ表2-1は,子どもが規範を内面化

していく過程と教師の指導行動のポイントを示し

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小学校 学級経営 12

た表である。左の欄に,前項で述べた「規範を内

面化していく過程」を示し,右の欄に,内面化を

支える「教師の指導行動」について示している。

①~③に示した子どもたちが規範を内面化し

ていく過程の中で,教師の指導行動は,「きまりや

約束を明示する」「きまりや約束を守ろうとする雰

囲気をつくる」「振り返り(評価)をする」の三つ

である。そして,この三つの指導行動をうまく機

能させるためには,「人間関係をつくる」ための指

導行動も考えていかなければならない。

〈きまりや約束を明示する〉

まず,教師が「きまりや約束を明示する」こと

が必要である。学級目標に向かっていくためには

どのようなきまりや約束が必要か考え,子どもた

ちにわかるように示していくことが大切である。

その示し方は,行動目標的に示すことが望ましい。

例えば,禁止事項ではなく,「友だちと仲良くしよ

う」と示すことで,子どもたちがどのように行動

したらよいかを主体的に考えることができる約束

となる。しかし,発達段階や学級の状態によって

は,より具体的な規範の示し方をする場合がある。

例えば「困っている友だちがいたら,助ける」「友

だちを叩かない」などである。直接的な表現であ

るため,低学年などには,わかりやすい示し方に

なるが,禁止事項が増えないようにすることが必

要である。

そして,示した規範を日常的に子どもたちが意

識していくことができるようにするために,教師

が粘り強く働きかけていかなければならない。そ

の際,「なぜ守らないといけないのか」「どのよう

にしたら守れるのか」「守る(守らない)とどのよ

うな気持ちになるのか」といった,認知面,行動

面,感情面にバランスよく働きかける必要がある。

それは,規範の意義を知ることで,重要であると

認識することができ,行動の仕方を学ぶことで,

規範に沿った行動ができるようになるからであ

る。そして,規範を守ったとき,どのような気持

ちになるのかを考えることで,規範を守ろうとす

る意識が高まると考えるからである。

表2-1 子どもが規範を内面化していく過程と教師の指導行動

目的をもつことができるようにする

→規範を守る目的として位置付ける

きまりや約束を明示する

例)「友だちと仲良くしよう」

例)「友だちを叩いてはいけない」

≪日常の取組≫

○認知面に働きかける…規範についてわかるようにする

きまりや約束を守ろうとする雰囲気をつくる≪個に対する指導行動≫

≪集団に対する指導行動≫

振り返り(評価)をする○きまりや約束を守ったことが(学級)目標につながるということを意識できるようにする

○守れていることを認め,子どもたちの意欲を高めることができるようにする

○次にどうしたらよいかを考えることができるようにする

人間関係をつくる

③規範(きまりや約束) の大切さを実感する

○子どもと子ども…心理的なつながりを大切にする

○集団の一員として,他者の期待,他者への迷惑を考えられるようにする

○集団の雰囲気…所属感,連帯感を高め,認め合える集団の雰囲気をつくる

○規範が破られたことに対して何らかのアクションをする

○規範を守っている子どもへの対応を大切にする

○規範をわかりやすい形で示し,習慣化していけるようにする

○教師の姿勢……信念,一貫性,親和性などを発揮し,自らも集団の雰囲気を形成している一員で        あること意識する

○行動目標的な規範の示し方をする

○発達段階に応じて,具体的な規範の示し方をする

人間関係を築く ○教師と子ども…自己開示,笑顔,会話など積極的に子どもたちに働きかける

②規範(きまりや約束) を守って行動する

○行動面に働きかける…規範に沿った行動ができるようにする○感情面に働きかける…規範の大切さを感じることができるようにする

①規範(きまりや約束) の重要性を認識する

○子ども自らが規範について考え,守ることができるようにする

○自尊感,自責感にうったえるようにする

【教師の指導行動】【規範を内面化していく過程】

 学級目標・活動の目標 を意識する

○目標を意識させる

※目標を意識する子どもはきまりを大切にする傾向がある

○規範は,目的ではなく,手段として機能させる

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小学校 学級経営 13

〈きまりや約束を守ろうとする雰囲気をつくる〉

子どもたちが規範を守って行動することがで

きるように,教師が「きまりや約束を守ろうとす

る雰囲気をつくる」ことが大切である。雰囲気を

つくっていくためには,規範が守られた状態を保

つことが重要になってくる。しかし,規範を明確

に示し,規範を守って行動できるように段取りを

踏んで指導していても,規範を守らない行動を取

る児童が出てくる場合がある。このようなときに,

教師がとっさに対処できなければ,きまりや約束

を守ろうとする雰囲気が崩れてしまうことがあ

る。子どもたちが規範を守れなかったとき,対忚

できるように,様々な指導行動の取り方を知って

おくことが大切である。

そこで,教師がどのような指導行動を取り,規

範を守ろうとする雰囲気をつくっているのかを,

「個に対する指導行動」と「集団に対する指導行

動」とに分け,実際の授業の様子を交えながらポ

イントを述べていく。授業の様子については,研

究協力校の各学年の授業を参観した30時間の記録

から,ポイントとなる指導行動を抽出している。

①個に対する指導行動

子どもたちが自ら規範を守って行動しようと

いう意識を高める教師の個に対する指導行動とし

て,次の3点が重要である。

子どもたちが,自ら規範を守る意識を高める指

導行動のポイントの一点目は,「子ども自らが規範

について考え,守ることができるようにする」こ

とである。教師がすぐに指示を出すのではなく,

子どもの自律性に働きかけ,自分たちで行動しよ

うとする意欲を高めていくことが大切である。こ

のような指導行動の事例を以下に示す。

事例1は,子どもが発言するとき,聞く姿勢に

対して指導をする様子である。

聞けていない子ども(C2)に対して,「聞きま

しょう。」と直接言うのではなく,「待っています。

(1-5)」と言うことで,今何をしたらよいのかを

考えさせる指導行動をとっている。このことが子

どもに「聞かなければ」という気付きをうながし

ている。その後,子どもは話し手の方を向き(1-6),

聞く姿勢をとっている。

事例2は,授業の始まりの挨拶の様子である。

挨拶のときに,子どもたちが姿勢を正していな

い様子を見て,教師が「何か足りませんよ。(2-3)」

と言葉かけをすることで,日直が気付き,「姿勢を

正しましょう。(2-4)」と呼びかけている。そして,

「よろしくお願いします。(2-7)」と,声を揃えて,

大きな声で挨拶をすることができていた。

事例1,事例2ともに,子どもの行動を改善する

ために,「どのような行動をとったらよいか」とい

うことを「気付かせる」指導行動をとっている。

ほかにも,子どもたちに「気付かせる」ために,

「『いま,何をするときかな。』と言葉かけをする」

「できるまで待つ」「視線を送る」などの指導行動

が見られた。「気付かせる」指導行動を取ることで,

子どもたちの気付きをうながし,自分から行動し

ようとする気持ちを高めることができると考え

る。そうすることで,子どもたちが自発的に規範

を守っていく姿につながると考える。また,直接

的な指導をしたときよりも,子ども自身が考えて

行動するため,教師の押し付けととらえられてし

まうことが尐なくなるのではないだろうか。

子どもたちが自ら規範を守る意識を高める指

導行動のポイントの二点目は,「自尊感・自責感に

うったえるようにする」ことである。規範を守っ

た後,もしくは規範を守らなかった後,どのよう

なことが起きるのかを考えさせるようにすること

が大切である。以下に事例を挙げる。

事例3は,教師が子どもたちに挙手を進める様

子である。

○ 子ども自らが規範について考え,守ることが できるようにする

○ 自尊感,自責感にうったえるようにする ○ 集団の一員として,他者の期待,他者への迷

惑を考えられるようにする

事例2

2-1 T :では日直さん挨拶よろしくお願い

します。

2-2 日直:これから1時間目の…。

2-3 T :何か足りませんよ。

2-4 日直:姿勢を正しましょう。

2-5 (みんなが姿勢を正す。)

2-6 日直:これから1時間目の学習を始めま

しょう。

2-7 C全 :よろしくお願いします。

事例1

1-1 T :○○さん。(指名)

1-2 C1:わたしは…。

1-3 T :ちょっと待って。○○さん。

1-4 T :(聞けていない子の方を向いて)

1-5 T :待っています。

1-6 C2:(話し手の方を向く。)

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小学校 学級経営 14

自信のなさからか,子どもの挙手が尐なかった

ときに,教師が励ましている(3-1)。更に,「これ

から自分の考えを進んで伝えられるようになるた

めに(3-3)」と先を予測させている。その後,更に

挙手する子どもが増えたことは,先を予測させた

ことで「よりよい自分になりたい。」という子ども

の思いを引き出すことができたと考える。

事例4は,これから学習することを説明する際,

聞けていない子どもに指導をする様子である。

教師の説明に集中できていない子どもに対し

て,「ここ。ここね。(4-2)」と教師の方に注意を

向けさせ,「後で,何するのってなるよ。(4-3)」

と注意している。聞かなかったことで,その先の

学習がどうなるかを子どもたちに考えさせる行動

を取っている。このことで,子どもたちは,聞か

なければ自分が困ることを予測することができた

のではないだろうか。予測したことで,聞かなけ

ればという気持ちをうながし,その後の静かにC

Dを聞く姿につながったと考える。

事例3,事例4は,規範を守った結果,もしくは

守らなかった結果どうなるかということを予想さ

せることで,自尊感や自責感が働き,規範を守ろ

うとする行動につながっていくと考えることがで

きる。自尊感に訴えかけていくときには,「励ます」

「共感する」「ほめる」といった指導行動が多く取

られていた。また,自責感に訴えかけていくとき

には,「注意する」「叱る」「語りかける」といった

指導行動が多く取られていた。

子どもたちが自ら規範を守る意識を高める指

導行動のポイントの三点目は,「集団の一員とし

て,他者の期待,他者への迷惑を考えられるよう

にする」ことである。自分が所属する集団から期

待を考えることで,期待に添うように行動しよう

とする意欲が高まる。また,自分の行動で他者に

どのような迷惑がかかるのかということを考える

ことで,規範をやぶって迷惑をかけてはいけない

という思いをもつことができるようにしていくこ

とが大切である。以下に事例を挙げる。

事例5は,教師がみんなに聞こえる声で話すよ

うにうながす様子である。

「あの花は…。(5-1)」と発言するが,声が小

さく学級全員に届く声になっていなかった。そこ

で教師は,「みんな聞こえたかな。(5-2)」と笑顔

で聞き,周りの子どもたちが聞きたいという思い

をもっているということを,発言した子どもに伝

わるようにしている。その後,「とっても素敵なこ

とを言っているので(5-3)」と,子どもの発言を

評価する言葉かけをしている。更に,「みんなの方

を向いて自信をもって,話してあげてください。

(5-3)」と,みんなに届く声で発言することをう

ながしていた。子どもに自信をもたせ,みんなが

自分の発言を聞きたいと思っていると感じさせる

ことで,その期待に忚えようと,みんなに届く声

で発言することができたのではないかと考える。

事例6は,友だちが発表しているときに,話を聞

くことができていない子どもに対して指導する様

子である。

事例4

4-1 T:今から,CDのスピーチを聞きますの

で…。

4-2 T:(これから行うプリントを指さしながら)

ここ。ここね。

4-3 T:(プリントを見ていない子どもの方を向

き)後で,何するのってなるよ。

4-4 T:書き言葉と話し言葉の違いがあるから,

プリントに書いてください。後から聞き

たいと思います。

4-5 C:(静かにCDを聞く。)

事例5

5-1 C:あの花は,…。(聞こえない。)

5-2 T:みんな聞こえたかな。

5-3 T:とっても素敵なことを言っているので,

みんなの方を向いて自信をもって,話

してあげてください。

5-4 C:あの花は,お父さんの…。(みんなに

聞こえる声で発言する姿)

事例3

3-1 T:さあ,がんばって発表しよう。

3-2 C:(何人か手が挙がる。)

3-3 T:自信をもって。これから,自分の考え

を進んで伝えられるようになるため

に,自分で手を挙げて発表しよう。

3-4 C:(更に多くの手が挙がる。)

事例6

6-1 C:底面積×高さをすると,…(後略)。

6-2 T:○○くん,聞いていましたか。

6-3 C:聞いていませんでした。(あまり反省

のない様子)

6-4 T:それは,しっかり話している相手に対

して失礼です。(強いまなざしで子ど

もを見つめる。)

6-5 C:・・・。(真剣な表情になる。)

6-6 T:しっかり聞いてくださいね。

6-7 C:はい。(聞く姿勢を取る。)

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小学校 学級経営 15

話を聞くことができていなかった子どもが,

「聞いていませんでした。(6-3)」とあまり反省の

ない様子で忚えていた。そのことに対し,教師は,

強いまなざしで子どもを見つめ,「話している相手

に失礼です。(6-4)」と毅然と対忚している。この

ことで,子どもは話している相手の立場に立つこ

とができ,軽く考えていた自分の行動について振

り返ることができたのではないだろうか。そのこ

とが,「はい。(6-7)」と忚え,聞く姿勢を取った

ことにつながったと考える。

事例5,事例6のように,他者の期待や他者に対

する迷惑を考えることで,相手の立場に立ち,自

分の行動を見つめ直すきっかけとなっている。そ

して,自分を見つめ直すことで,「みんなの期待に

忚えたい。」「他の人に迷惑をかけることはいけな

い。」と感じ,自分の行動を調整しようとする意識

を高めることができると考える。他者の立場に

立って考えることができるように,「励ます」「叱

る」といった指導行動,または,自分の行動が他

者にどのような影響を与えているか「考えさせる」

という指導行動が多く取られていた。

このように,「子ども自らが規範について考え,

守ることができるようにする」「自尊感,自責感に

うったえるようにする」「集団の一員として,他者

の期待,他者への迷惑を考えられるようにする」

という三つのポイントを意識することで,教師の

押し付けにならず,子どもが自ら規範を守ってい

るという意識をもつことができるようになると考

える。

②集団に対する指導行動

一人一人がきまりを守って行動することで,集

団の中にきまりを守って行動するという雰囲気が

つくられていく。一方で,集団の中にきまりを守

るという雰囲気があるから,一人一人も守ってい

こうという意識をもつことができるともいえる。

したがって,個に対する指導を行いながら,集団

の雰囲気も高めていくということが必要になる。

規範が守られる雰囲気をつくるための集団に対す

る指導行動について,以下の3点が重要である。

規範が守られる雰囲気をつくる指導行動のポ

イントの一点目は,「規範が破られたことに対し

て,何らかのアクションをする」ということであ

る。北折は,「逸脱行動の抑止を考える上で重要な

のは,初めに逸脱行動を取ろうとする尐数者を黙

認しないこと」(23)と述べている。示したきまり

や約束が守られなかったとき,「これぐらいなら」

「一人ぐらいなら」と安易に考えて指導すること

を怠れば,一線を引くことが難しくなり,「守らな

くてもいい」という雰囲気をつくりだすことにつ

ながる。規範が守られなかったときは,必ず何ら

かのアクションを取る必要がある。規範が守れな

ければ,説明したり,注意したり,叱ったりし,

次からどのように行動すればよいか考えさせる必

要がある。学級のきまりや約束について学級会を

開き,学級で話し合い,きまりや約束について改

めて考える機会をつくることも効果的であると考

える。また,言葉だけでなく行動で示す必要もあ

る。以下に示す事例7は,子どもたちに姿勢を正す

ことをうながすときの様子である。

「姿勢を正しましょう。(7-1)」「全員できてい

ますか。(7-3)」と声をかけても,まだできていな

い子どもがいた。そこで,近くに行って背中を軽

くたたくことで注意をうながしている。教師は,

言葉だけでなく,できていなければ行動に移して,

みんなができるように働きかけている。このこと

で,子どもは,「先生は言うだけでなく,ちゃんと

見ている。」という思いをもつことができたのでは

ないかと考える。このように,伝えたことを守る

ように働きかける教師の行動は,子どもたちが規

範を守って行こうとする雰囲気をつくることにつ

ながる。

二点目のポイントは,「規範を守っている子ど

もへの対応を大切にする」ということである。加

藤・大久保は,「荒れた時こそ一般生徒との関係が

崩れていないか,教師はより注意して見直す必要

がある」(24)と述べている。規範を逸脱した行動

の対忚に追われ,特定児童にばかりに目が向くよ

うになれば,規範を守って行動している大半の子

○ 規範が破られたことに対して,何らかのア

クションをする

○ 規範を守っている子どもへの対忚を大切に

する

○ 規範をわかりやすい形で示し,習慣化して

いけるようにする

事例7 7-1 T:では,姿勢を正しましょう。 7-2 C:(姿勢を正す姿。しかし,全員はでき

ていない。) 7-3 T:全員できていますか。 7-4 C:(まだできていない子ども) 7-5 T:(できていない子どもの近くに行き,

背中を軽くたたいて注意をうながす。) 7-6 C:(姿勢を正す。)

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小学校 学級経営 16

どもたちが置き去りにされることになる。しかし,

学級によりよい雰囲気をつくっているのは,規範

を守って行動している子どもたちである。特定児

童に対忚しながらも,規範を守っている児童の思

いを大切にし,守っていることがよいという雰囲

気を崩さないようにしていく必要がある。このこ

とは,授業での子どものつぶやきなどの些細なこ

との対忚でも同じである。次に示す事例8は,これ

から行う活動の説明をする様子である。

教師が,活動の仕方について説明をしていると

きに,ある子どもが「先生,学校探検はいつする

のですか。(8-2)」と説明の内容とは違うことを質

問している。教師はそれに対忚せず,一通り説明

し終わってから質問の時間を設け,日時を気にし

ていた子どもへの対忚を行っている。日常の中で

よく見る場面であるが,これは規範を守っている

子どもを大切にした行動であると考える。説明の

途中で,質問に対して教師が忚えることは,「話を

最後まで聞かなくてもよい」という無言のメッ

セージを発することになる。ちょっとしたことで

あるが,これが日々繰り返されることにより,学

級の雰囲気に大きな差が出てくるのではないだろ

うか。

また,普段,規範を守っていない子どもが規範

を守ったときは,次への意欲につなげたいとほめ

ることが多い。しかし,いつも規範を守っている

子どもがほめられないケースがあるのではないだ

ろうか。やはり,当たり前のようにできているこ

とを教師が忘れずほめることで,その素晴らしさ

を子どもが感じることができるようにしていく必

要がある。

三点目のポイントは,「規範をわかりやすい形

で示し,習慣化していけるようにする」ことであ

る。示したきまりや約束が学級の暗黙のルールの

ように機能し始めることが理想である。学習ルー

ルや掃除や給食などの当番活動のルールなどは,

子どもたちが自主的に活動できるようにわかりや

すく示し,習慣化しておく必要がある。

次に示す事例9は,忘れ物をしたときの指導の

様子である。

忘れ物をしたときに,週予定表に忘れたものを

書き(9-1),「今日はどうするのか(9-2)」「忘れ

ないようにするためにこれからどうするのか

(9-5)」ということを考え,教師に知らせに行く

ということが学級の約束になっていた。このよう

に,わかりやすく約束をつくり,習慣化すること

で,教師がその都度指示しなくても自分で考えて

行動できるようになる。様々な学級で宿題の出し

方や次の授業の準備,給食当番の仕方なども,わ

かりやすく手順を示し,習慣化できるように取り

組まれていた。習慣化できるまでには,指導を継

続して行っていくことが必要不可欠である。また,

時間が経つにつれて馴れが生じ,できることをや

らなくなることが出てくる。定期的に決めたこと

がきちんと行われているか点検することが必要に

なる。また,できていないときは,場合によって

は教師がついてできるまで指導や支援を行ってい

くことが必要になる。

「規範が破られたことに対して,何らかのアク

ションをする」「規範を守っている子どもへの対忚

を大切にする」「きまりや約束をわかりやすい形で

示し,習慣化していけるようにする」ということ

を意識することで,学級に規範を守る雰囲気が形

成されていく。

〈振り返り(評価)をする〉

子どもたちが規範を守って行動したことに対

して教師が評価していくことは,子どもたちの中

で規範が内面化し,行動しようとする気持ちにつ

ながっていく。

規範の大切さを実感するときは,往々にして規

事例9

9-1 C:(週予定表に忘れ物を書いて持ってく

る。)

9-2 C:消しゴムを忘れたので貸してください。

9-3 T:どうぞ。

9-4 T:これから忘れないようにどうしますか。

9-5 C:(週予定表の)持ち物欄に書いて,予

定表を見て用意をするようにします。

9-6 T:その方法でがんばりましょう。

事例8

8-1 T:今から,生活科で行う学校探検の説明を

します。2年生が1年生を…(中略)

カードにシールを貼るようにしましょ

う。それから…。

8-2 C:先生,学校探検はいつするのですか。

8-3 T:(忚答せず。)

8-4 T:1年生には,自分で貼らせてあげてく

ださいね。どこに貼ったらいいか教え

てあげましょう。(中略)やることは

わかったでしょうか。何か質問はあり

ますか。

8-5 C:学校探検はいつするのですか。

8-6 T:今週の金曜日の3時間目にします。

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小学校 学級経営 17

範が破られたときであることが多い。規範を守れ

なかったことに対して,教師から注意を受けたり,

他の子どもたちから非難の声が上がったりするこ

とで,規範を改めて意識する。マイナス面を見て,

規範を守らなければならないと気付く実感の仕方

である。このときは必ず,次はどうしたらよいか

ということを考えなければならない。教師が一方

的に決めるのではなく,子どもたちと一緒にどう

すればよいかを考えることで,より規範が意識で

きるようになる。

マイナス面を見て,規範の必要性を実感するこ

とも大切であるが,プラス面を見て,「規範を守っ

ていこう」と実感することを増やしていきたい。

そのために,まずは,教師が積極的に,規範が守

られていたことを評価することが大切である。次

に示す事例10は,体育の準備を子どもたちで行う

ときの様子である。

事例10では,子どもたちが前回の体育での約束

を守って行動している。教師は運動場に出て,子

どもたちに指示をしながら準備をすることができ

たが,あえて子どもたちの様子を見守り,子ども

たちのがんばりを評価している。ほめられた子ど

もたちも,ほめた教師も,非常に嬉しそうな表情

を浮かべていた。子どもたちは,「自分たちのがん

ばりを認めてくれる」「そのがんばりを自分のこと

のように喜んでくれる」先生の様子を見て,次も

自分たちでがんばろうという意欲がもてたのでは

ないだろうか。このように,次につながる評価を

していくことが大切である。

プラス面を見て規範の必要性を実感できるよ

うにするために,次に考えたいことは,子どもた

ちがうまく活動できた理由を振り返ることができ

るように支援することである。うまく活動ができ

たときは,「楽しかったことは何か」「思い出に残っ

たことは何か」ということに焦点が当てられるこ

とが多く,どうしてうまく活動できたのかという

ことに焦点は当たりにくい。したがって,子ども

たちが振り返るときに,「どうしてうまく活動でき

たのか」という視点を加え,規範についても振り

返ることができるようにすることが大切である。

規範を守ることで楽しく活動できたと考えること

ができるようになれば,規範が「~しなければな

らない」から「~しよう」という形に変わってい

くのではないだろうか。そして,規範を守って行

動することが,学級の目標の実現につながってい

るということを意識できるようになることが大切

である。

〈人間関係をつくる〉

規範の内面化に関わる要素として,よりよい人

間関係を構築していくことが大切であることは,

前項で述べた。ここでは,よりよい人間関係を築

いていくために,教師がどのような姿勢で子ども

たちに接することが大切であるかについて述べ

る。信頼関係を見るときの一つのバロメータとし

て,子どもの学習に対する姿勢が挙げられるだろ

う。そこで,子どもたちの私語がなく,集中して

学習に取り組んでいるときに注目し,その授業の

中で共通する教師の姿勢について特徴的なものを

取り上げ,以下に示す。

「笑顔がある。」「ユーモアがある。」という点

については,教師が積極的に自己開示し,明るい

学級の雰囲気をつくるということである。そのこ

とが教師と子ども,子ども同士の人間関係をよく

していくと考えられる。笑顔は,だれにでもでき

ることでありながら,いつも笑顔でいることは実

際にはなかなか難しいことである。しかし,教室

に温かい雰囲気をつくっていくためには,教師の

笑顔は欠かすことができない。参観させていただ

いた学級の担任が「学級の雰囲気がよくないとき

は,大体教師の自分に笑顔がないときです。」と言

うように,教師の表情が子どもたちに影響を与え

事例10

子どもたちが,休み時間に体育の準備をし始め

る。子どもたちで準備し終えたのを見てから運動場に

出て行き,子どもたちでがんばったことをほめる。

T:「君たち,すごいな。やっぱり素晴らしい。

この間,先生が『体育が始まるまでに用意し

ておこうな。』って言っていたことをしっか

り覚えていたんだね。今日は,見てください。

自分たちで用意できました。先生が言わなく

ても,考えて行動できたね。みんな,どんど

ん良くなっているし,これからもっと良く

なっていくよ。この調子でやっていこう。」

・笑顔がある。

・ユーモアがある。

・ゆとりをもって子どもたちと接している。

・メリハリがある。

・一貫性がある。

・子どもの良さに目を向けている。

・子どもの思いを受けとめ,教師の思いを伝えて

いる。

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小学校 学級経営 18

ていることがわかる。

「ゆとりをもって子どもたちと接している。」と

いう点については,子どもたちが活動するときに

どのような行動をするかを予測して,事前に対忚

を考えているということである。このような対忚

が子どもたちに安心感を与えると考える。

「メリハリがある。」という点は,「ほめるとき

はほめる。」「叱るときは叱る。」といった接し方だ

けではなく,子どもたちが意欲的に活動に取り組

めるように,授業展開を工夫するということも含

んでいる。集中力が途切れないように工夫するこ

とは,それだけ注意することも減るということで

ある。子どもたちが叱られるという状況を意図的

になくしていくということも,人間関係をつくる

上で大切なことである。

「一貫性がある。」という点は,子どもたちが

非常に敏感に反忚するところである。人,あるい

はときによって,教師の対忚の仕方が変わらない

ように心掛ける必要がある。「あの人は怒られない

のに。」「あのときはよかったのに。」という思いが,

教師に対する不信感につながる。一貫して決めた

ことを取り組んでいく姿勢が大切である。

「子どもの良さに目を向けている。」「子どもの

思いを受けとめ,教師の思いを伝えている。」とい

う点は,教師が子どもを見守り,子どもの思いを

受けとめていくということである。子どもの良さ

に目を向けることで,ほめることが多くなる。ま

た,子どもの思いに耳を傾ける姿勢を取ることで,

子どもたちは認めてもらえているという気持ちを

もつことができる。更に,教師の思いも折にふれ

て伝えることが大切である。教師が思いを子ども

たちに伝えていくことは,「このような学級にした

い」ということを子どもたちと共有することにも

つながると考える。

子どもが規範を内面化していく過程の中で,教

師がどのような指導行動を取ることが内面化を支

えていくことになるのかについて述べてきた。そ

こでわかってきたことは,子どもたちの自律性に

働きかけ,自分たちで考え,判断できるように教

師が支えていくことが重要だということである。

そのために,教師は様々な指導行動の在り方を考

え,子どもたちに適切な働きかけができるように

しなければならない。何気ない日常の指導行動を

積み重ねていくことで,学級の雰囲気が醸成され

ていく。その中で,子どもたちは,規範を内面化

し,集団規範を共有することで,よりよい集団の基

盤を築いていくと考える。

第2節 規範意識を育む活動プログラムの開発

(1)発達段階に応じた活動プログラム

子どもたちは日常生活の中で,大人の支援を受

けながら,規範を内面化していく。子どもが主体

的に判断し,よりよい集団を形成していく力を育

んでいくためには,内面化された規範を他律から

自律へと高めていく必要がある。集団活動の中で

与えられた規範を守ることだけではなく,自分た

ちできまりや約束を考えたり,自分たちで決めた

ことは責任をもって遂行したりすることを通し

て,自律的な規範意識を育んでいくことができる

と考える。このように自律的な規範意識を育んで

いくために,「規範意識を育む活動プログラム例」

を開発する。活動プログラム例は,道徳の時間,

学級活動,各教科等の集団活動や体験的な活動を

有機的に関連付けて構成する。

活動プログラムを構成する上で,以下の四つの

ポイントを意識するようにした。

①については,第1節の規範を内面化していく

過程のところでも述べたが,規範について知らな

かったり,重要であると感じたりしていなければ,

規範に沿った行動をすることはないだろう。②は,

規範の意義について考えるために必要である。③

は,成長に忚じて必要な規範は変わってくるため,

そのときに変えることができるようにしておく必

要がある。④は,規範を内面化していくために重

要なポイントである。体験を通して実感させたい。

この四つのポイントを意識しながら,「子ども

が必要な規範に気付き,規範を考え,つくってい

く学習」「教師が意図して,規範の大切さを子ども

に気付かせていく学習」「規範の大切さを実感する

集団活動」を組み合わせて,一つの活動プログラ

ムを構成した。「子どもが必要な規範に気付き,規

範を考え,つくっていく学習」は学級活動と各教

科等の集団活動を中心に,「教師が意図して,規範

の大切さを子どもに気付かせていく学習」は道徳

の時間,学級活動,各教科等の集団活動を中心に,

「規範の大切さを実感する活動」は各教科等の集

団活動や体験的な活動を中心に行う。

規範意識を育む四つのポイント

①規範を理解し,重要であると感じること

②自分たちで必要な規範を考えること

③よりよい規範に変えていこうという意識を

もつこと

④実感を伴った理解であること

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小学校 学級経営 19

図2-1 活動プログラムの流れ(例)

図2-1にある活動プログラムの流れは例であ

り,順序については効果的なプログラムになるよ

うに,内容によって変えていくことが大切である。

また,発達段階や学級の実態によっては,「子ども

が必要な規範に気付き,規範を考え,つくってい

く学習」がなかったり,逆に「教師が意図して,

規範の大切さを子どもに気付かせていく学習」が

なかったりすることもある。

活動プログラムを構成する際,発達段階に忚じ

た指導になるように心がける必要がある。小学校6

年間を見通した指導になるように,低,中,高学

年において規範意識を育むために,子どもたちに

付けたい力をまとめ,以下の表2-2に示した。

低学年は,吉岡が,「大人や年長の子どもを真

似し,規則どおりに振舞おうとする」(25)と述べ

るように,大人の言うことを素直に聞くことがで

き,規則どおりに行動しようとする段階である。

また,新井は,「この時期に,社会・家庭・学校か

ら種々の規範を学び取ることができなければ,一

生規範を身につけることが難しくなる」(26)と述

べている。この時期に規範の良さを感じさせ,日

常生活の中できまりや約束を守って行動したり,

みんなで使うものを大切にしたりできる態度を養

うことが大切である。

中学年は,渡辺が,「規則の認識は,絶対的な

ものでなくなり,みんなの合意があれば修正が可

能であると考えられるようになる」(27)と述べて

いるように,きまりは自分たちでつくったり,変

えたりすることができると考えるようになる時期

である。また,友だちの存在が大きくなる時期で

もあり,友だち関係の中で同調圧力を感じること

により,きまりがあっても友だちのことを優先し

てしまうことがある。規範の意義について考える

ことを通して,正しい判断ができるようにし,き

まりやマナーを大切にすることができるようにし

ていきたい。また,開かれた集団になるように協

調的な行動を取ることができる態度を養うことが

大切である。

高学年は,思春期にさしかかり,その自立心か

ら大人に対して反発することも出てくる。また,

きまりに対して否定的な見方をすることも出てく

る。一方で,渡辺は,他者の視点に立って考える

ことができたり,第三者的な視点で物事を見るこ

とができたりするようになる時期であると述べて

いる(28)。このような発達の段階を踏まえると,

規範の意義を考えるとき,向社会的な視点から,

規範を問い直させたり,より大きな枠組みから規

範をとらえさせたりすることが大切になってく

る。また,集団の中において,自分にどのような

役割が求められているのかを自覚し,その責任を

果たすことができる規範意識を育んでいくことが

大切である。

低,中,高学年において段階的に指導し,子ど

もたちに付けたい力を身に付けさせていくために

は,規範意識の高まりと広がりを考え,指導を工

夫していくことが大切である。

学年が上がるにつれて,自分自身の意思で守る

ことができるように,規範意識を他律から自律へ

と高めていくことが求められる。そのためには,

教師の支援を尐しずつ減らし,子どもが主体的に

考えていけるように,指導や支援の在り方を移行

させていくことが必要である。活動プログラムで

は,「教師が意図して,規範の大切さを子どもに気

付かせていく学習」から「子どもが必要な規範に

気付き,規範を考え,つくっていく学習」の割合

を増やしていくようにしている。そして,「教師の

示した規範を守る」段階から「集団の中でみんな

とともに規範を守る」段階へ,「自分自身の力で規

範を守る」段階へと,他律から自律へと高めてい

く。

また,身の回りの規範に対する意識から,学級,

学校,地域,社会へと広げていく必要がある。子

どもたちの視野が広がるようにするには,学習で

取り上げる教材を工夫することが大切である。活

動プログラムの軸となる集団活動では,授業にお

けるグループ活動やお楽しみ会などの学級の中で

行うもの,学芸会や運動会などの学校の中で行う

もの,社会見学や宿泊学習などの社会の中で行う

ものがあり,これらをうまく取り上げ,規範意識

に広がりをもたせていくことが大切である。

教師が気付

かせていく

学習

子どもが気

付きつくる

学習

規範の大切

さを実感す

る活動

日常化へ

表2-2 発達段階に応じた子どもに付けたい力

付けたい力

低学年

○身近なきまりや約束を守る。

○みんなで使うものを大切にする。

中学年

○社会のきまりやマナーを大切にする。

○集団の中で協調的な行動をする。

高学年

○相手の立場に立って考え,行動する。

○自分の役割を自覚し,責任を果たす。

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小学校 学級経営 20

このように,発達段階に忚じた付けたい力や規

範意識の高まりや広がりを考え,活動プログラム

を構成することで,子どもたちの規範意識をより

効果的に高めていくことができると考える。

(2)規範意識を育む授業の視点

規範意識を育む活動プログラムの構成を考える

とともに,道徳の時間,学級活動などの1時間の学

習においても,規範意識を育む視点をもつことが

大切である。

まず,発達段階に忚じた授業を行っていくため

のポイントを考え,表2-3にまとめた。

これらの授業のポイントは,前ページの表2-2

に挙げた子どもたちに付けたい力と各学年での発

達段階の特徴から考えたものである。

次に,道徳の時間,学級活動,集団活動におけ

る規範意識を育む授業の視点について述べる。

〈教師が意図して,規範の大切さを子どもに気付

かせていく学習〉

道徳の時間では,上記の3点を意識することが

大切であると考える。人間理解とは,人がもつ弱

い部分についても理解するということである。子

どもたちは,規範を守ることは大切であるとわ

かっている。しかし,それぞれのおかれた立場や

状況によって,わかってはいても守れないことが

あるという人間の弱さを感じ取らせることが大切

である。守れなかったときの自分の行動や気持ち

を振り返り,次にどうしたらよいか考えられるよ

うにしていくことが大切である。

他者の立場に立つことで,自分の考えの中から

抜け出し,他者はどのように感じているのか考え

ることができる。自分の視点で物事を考えるので

はなく,他者意識をもたせることが大切である。

また,他者の立場に立つことで,他者の視点から

自分を客観的に見つめることができる。そのこと

で,自分の考え方や行動の仕方について内省する

ことができるようになると考える。低学年の発達

段階では難しい視点であるが,中学年ぐらいから

考えさせていきたい視点である。

道徳的行為の判断規準とは,規範を守ったとき

の理由のことである。どのような理由で規範を

守ったかということについて,理由をカテゴリー

に分けて板書し,目に見える形にしていく。カテ

ゴリーに分けることで,様々な考え方に気付き,

より自律的な考え方の良さを感じることができる

ようになると考える。

学級活動の内容(2)の時間では,規範を守っ

たときの,もしくは守らなかったときの結果を予

想することができるようにする。予想することで

自尊感や自責感に働きかけることができ,規範を

守ることの良さを感じることができると考える。

規範に見合った行動を取るためには,どうすれ

ばよいのかということを具体的に考えることが大

切である。規範が大切であるとわかっていても,

行動の仕方がわからなければ,規範を守ることは

できない。みんなで意見を出し合い,具体的な行

動の仕方について共通理解することで,規範を

守って行動できるようにする。

〈子どもが必要な規範に気付き,規範を考え,つ

くる学習〉

学級活動の内容(1)の時間では,自分たちの生

活を主体的につくっていくことができるように,

まず,生活の中の問題や課題に気付かせることが

大切である。気付きをうながすためには,定期的

に生活の様子について振り返る活動を取り入れる

必要がある。初めは,教師が振り返りの中で出て

表2-3 発達段階に応じた授業のポイント

【道徳の時間】

①人間理解をする場面をつくる。

②他者の立場に立って考えられるようにする。

③道徳的行為の判断規準を視覚化する。

【学級活動 内容(2)】

①結果を予期できるようにする。

②具体的な行動の仕方を考えることができる

ようにする。

【学級活動 内容(1)】

①生活の中にある問題や課題に気付くことが

できるようにする。

②目標に向かうための規範を考えることがで

きるようにする。

③折り合いを付けることができるようにする。

④話合いのルールを意識できるようにする。

発達段階に忚じた授業のポイント

低学年 ○規範を知り,そのよさを感じる。

中学年

○規範の意義について学ぶ。

高学年

○向社会的な視点から規範について考える。

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小学校 学級経営 21

きた問題を議題とし,話合いにつなげる。それを

繰り返していくと,どのようなことを議題として

取り上げるとよいのかが子どもたちにもわかって

くるようになる。自分たちで取り上げた議題であ

れば,より主体的に話し合うことができるだろう。

話合い活動の中で,子どもたちが規範を考え,

つくっていく経験をすることが大切である。自分

たちでつくることで,規範の意義がより深まると

考える。また,自分たちでつくったという思いか

ら,規範を守る意識も高まると考える。規範をつ

くるときは,「問題を解決しよう」「楽しい生活を

つくろう」といった目標をもたせ,それに向かっ

ていくために必要な規範を考えるようにすること

が大切である。

話合いの中で一人一人が意見を出し合い,最終

的に集団の意思決定をするとき,折り合いを付け

る経験をすることが重要になってくる。集団で意

思決定をしていくときには,だれかが尐しの我慢

をして折り合いを付けていかなければならいこと

もある。このとき,理性的に決めていくだけでな

く,個々のもつ気持ちを大切にしていくことが重

要である。折り合いを付けるということは,だれ

かがみんなのために,自分の意見を引いてくれて

いるということである。そういう思いを受けて,

決定したことの重みを考えていけるようにしなけ

ればならない。相手の思いを考え,自分の行動を

考えることは,他者意識をもった規範意識を育む

ことにつながると考える。

話合い活動では,ルールを意識して話し合うこ

とで,子どもたちはどのように話合いを進めたら

よいか,型を学ぶことができる。そして,話し合っ

たことを生活に生かすことで,自分たちで問題を

解決することができるようになると考える。話合

い活動のルールとして,話し方,聞き方,話合い

の仕方を示しておく。また,決定したことは必ず

みんなで行っていくということを意識させたい。

決定したことが生活に生かされることで,話合い

活動の重要性を感じることができ,進んで意見を

出し合い,自分たちの生活をよりよくしようとす

る意欲へとつながっていくと考える。

〈規範の大切さを実感する活動〉

集団活動では,事前指導で活動の約束を確認

し,活動中に気を付けることを意識できるように

する。活動するグループで目標や約束を確認した

り,学級全体で確認したりすることが考えられる。

また,活動の中でどのような役割があるのかも確

認しておく。自分の役割を考えて活動することで,

より主体的に活動できるようになると考える。そ

して,一人一人に役割をもたせ,その役割を果た

すことで活動の目標が達成されるということを意

識させる。そのことで所属感や連帯感を感じて活

動ができるようになると考えるからである。

また,事後指導では,必ず活動を振り返り,次

につなげていくことが大切である。活動で楽し

かったことや嬉しかったことを振り返り,楽しく

活動ができた理由を考えるようにする。理由を考

えることで,規範を守ることや役割を果たすこと

の大切さを感じることができるようになると考え

る。また,課題も取り上げ,改善するためにはど

うしたらよいかを話し合い,方法や手段を決めて

いく。決めたことを意識して取り組むことにより,

それが学級の新たな規範となり,生活に生かされ

ていくようになるだろう。

以上,第2章に述べてきたことは,各授業や活

動の特質を考え,視点をもって授業を行うことに

よって,活動プログラムがより効果的になり,子

どもたちの規範意識を高めていくことができると

いうことである。

第3章では,中学年,高学年のそれぞれで行っ

た規範意識を育む活動プログラムの実践について

授業の様子や子どもの発言などを交え報告する。

(19)末吉僚子『人間形成の日米比較』中公新書 1992.3 p.74

(20)山岸明子『発達をうながす教育心理学』新曜社 2009.6 p.114

(21)長峰伸治・澤祐紀恵「小学校の担任教師の指導行動・態度と

児童の学校適忚間の関連について」金沢大学人間社会学域学

校教育学類紀要 2009.2 p.63

(22)河村茂雄『日本の学級集団と学級経営』図書文化 2010.5 p.96

(23)北折充隆『社会規範からの逸脱行動に関する心理学的研究』

風間書房 2007.11 p.118

(24)加藤弘通・大久保智生「学校・学級の荒れと教師-生徒関係

についての研究―問題行動をしていない生徒に注目して―」

『パーソナリティー研究第13巻第2号』 2005.12 p.280

(25)吉岡昌紀「ピアジェ」『道徳性心理学―道徳教育のための心

理学―』北大路書房 1992.4 pp..29~46

(26)新井邦二郎「規範意識の成長(児童期)」深谷昌志編『子ど

もの規範意識を育てる』教育開発研究所 2004.6 p.83

(27)渡辺弥生『子どもの「10歳の壁」とは何か?』光文社新書

2011.11 p.166

(28)前掲(27) p.197

【集団活動】

①事前指導で活動の目標や約束を確認する。

②事後指導で活動の振り返りをする。

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小学校 学級経営 22

図3-1 役割演技の様子

第3章 規範意識を育む活動プログラムの

実践を通して

第1節 中学年(第4学年)での実践

(1)宿泊学習を活用した活動プログラム例

この活動プログラムのねらいは,「社会見学や

宿泊学習での集団活動と関連させ,身近にある

ルールやマナーの意義を考え,ルールやマナーを

大切にしようとする態度を養う」ことである。規

範意識を育む四つのポイント(18ページ)の「①

規範を理解し,重要であると感じること」「④実感

を伴った理解であること」に焦点を当てている。

自発的,自治的な活動を行う基盤として,規範の

大切さを実感していくための取組である。

表3-1は,この活動プログラムの指導計画である。

この活動プログラムでは,「教師が意図して,

規範の大切さを子どもに気付かせていく学習」と

「規範の大切さを実感する集団活動」とを組み合

わせ,日常化につなげた。

〈教師が意図して,規範の大切さを子どもに気付

かせていく学習〉

子どもたちは,社会科の学習で,社会見学を

行っている。社会見学では道の歩き方や見学の仕

方など,学校外に出たときに守らないといけない

ルールやマナーを意識して行動する経験をしてい

る。この社会見学の経験を生かし,身の周りにあ

るルールやマナーについて,道徳の時間,学級活

動の授業を通して考えていけるようにした。

①道徳の時間「雨のバス停留所で」

「雨のバス停留所で」(光村図書)という資料

を用いて授業を行った。主題やねらいは表3-1に示

している。

この道徳の授業では,規範意識を育んでいくた

めに,「人間理解をする場面をつくる」「他者の立

場に立って考えられるようにする」「道徳的行為の

判断規準を視覚化する」という三つの視点を意識

した。

展開前段で,「人間理解をする場面」をつくっ

た。雨の中,たくさんの人が軒下でバスを待って

いるにもかかわらず,バスが来ると,よし子が順

番を抜かし,先頭に並んだ場面である。ここで,

役割演技を取り入れ,みんなより先にバスに乗っ

て座りたかったよし子の気持ちと,それを見る周

りの人の気持ちを考えた。図3-1は,役割演技の様

子である。

子どもたちは雨

の日のわずらわし

さから,早くバス

に乗りたいという

よし子の気持ちを

考えることができていた。だれにでもこのような

思いをもつことがあるということに共感し,理解

した上でどう行動することが大切なのかというこ

とを,後の展開で考えていく足がかりをつくるこ

とができた。

更に,「他者の立場に立って考えられるように

する」ために,よし子の行動に対するお母さんや

周りで見ていた人の気持ちも考えた。子どもたち

は,「先に並んでいたのに何で抜かすんだ。」「一番

前に行くなんて,あの人は何がしたいんだろう。」

「よし子と同じ気持ちをもっているが,ずっと

待っているのだから,抜かさないでほしいと思っ

表3-1「宿泊学習を活用した活動プログラム」の指導計画

ねらい 活動内容

七月上旬

社会見学での行動の仕

方について,ルールやマ

ナーを確認する。(社会科

としての内容は省略)

【社会見学事前指導】(社会科としての内容は省略)

・気を付けることを確認する

バスや電車でのマナーについて

道路を歩くときの注意点について

見学時のあいさつや見学の仕方について

七月上旬

ルールやマナーを守っ

て安全に行動ができるよ

うにする。(社会科として

の内容は省略)

【社会見学】(社会科としての内容は省略)

・ルールやマナーを守って見学する

・見学の振り返りをする

七月中旬

お母さんの横顔を見て

自分の行動について振り

返るよし子の気持ちを考

えることを通して,進ん

でルールやマナーを守ろ

うとする態度を育てる。

【道徳の時間】主題名 4-(1) 社会のルールを守る

資料名「雨のバス停留所で」

・バス停に並んでいるときのよし子の気持ちを考

える

・自分の行動を振り返るよし子の気持ちを考える

・自分の生活を振り返る

九月上旬

社会や学校には様々な

ルールやマナーがあるこ

とを確認し,その意義を

考えることを通して,ル

ールやマナーを大切にし

ようとする態度を養う。

【学級活動 内容(2)】

「ルール百人一首」

・ルールを守ってゲームを楽しむ

・ルール百人一首を行い,身の周りにあるルール

やマナーを確認する

・必要だと思うルールやマナーの札をつくる

九月上旬

宿泊学習へ向けての準

備活動を通して,各係や

学級,学年での団結を深

める。

【学級活動 内容(2)】

「みさきの家に向けての準備」

・宿泊学習の目標,約束を考える

・各係で準備する

・キャンプファイヤーなどの出し物の練習をする

九月中旬

大自然の中での体験的

な活動を通して豊かな人

間性や社会性を育む。

集団生活を通して,き

まりを守る態度や協力,

奉仕の精神を養う。

【宿泊学習】「みさきの家」

・自然の中で様々な体験をする

・みんなで協力して活動する

・マナーやルールを守って生活する

九月下旬

みさきの家の思い出を

振り返り,目標に向かっ

てがんばれた理由を考え

ることを通して,きまり

を守ることや協力するこ

との大切さを感じ,これ

からも続けていこうとす

る意欲を高める。

【学級活動 内容(2)】

「サイコロトーキング deみさきの家」

・サイコロトーキングをして,宿泊学習の思い出

を話し合う

・うれしい思い出や楽しい思い出ができたのはな

ぜか考える

・これからの生活に生かしていくことを書く

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小学校 学級経営 23

図3-2 中心発問での板書 図3-3 ルール百人一首の札

ている。」などの発言をしていた。よし子の取った

行動について他者の立場に立ち,客観的に見るこ

とができていた。

中心発問では,「道徳的行為の判断規準を視覚

化する」ために,意見を分類して板書した。図3-2

は,中心発問で

の板書の様子で

ある。お母さん

がバスの中で,

あえてよし子に

話しかけないこ

とで,順番を抜

かして並んだこ

とについて反省

をうながす場面である。「お母さんの横顔を見なが

ら,よし子さんはどのようなことを考えていたで

しょう。」という発問に対して,「お母さんに対す

る思い」「ルールに対する思い」「周りの人に対す

る思い」の三つに子どもたちの意見を分類した。

「お母さんに対して」の発言では,「今日はどう

して話してくれないんだろう。」「お母さんに謝り

たいな。」などの意見が出ていた。順番を抜かし

たことに対する罪悪感よりも,母親が怒っている

ことを気にしている発言である。「ルールに対し

て」の発言では,「順番を抜かすことはいけない

ことだった。」「ルールを守らないといけなかっ

た。」という意見が出ていた。ルールを破ったこ

とに対する罪悪感がある発言である。「周りの人

に対して」の発言では,「他のお客さんも並んで

いたのに悪いことをした。」という意見が出てい

た。他者に対する迷惑を考えた発言である。この

ように意見を分類して板書に整理することで,一

つの行為に対してもいくつかの見方があるとい

うことを,子どもたちは視覚的にとらえることが

できたのではないかと考える。

学習後の感想文の一部を以下に示す。

中心発問では,他者に対する迷惑を考えた発言

は尐なかったが,感想文を見ていくと他者に対す

る迷惑を考える児童が増えていた。このことから,

ルールの意義について考え,守ることの大切さを,

1時間の学習を通して感じることができたのでは

ないかと考える。

②学級活動 内容(2)「ルール百人一首」

身の周りのルールやマナーに目を向けていくた

めに「ルール百人一首」という学習を行った。こ

の学習のねらいは表3-1のとおりである。身の周り

にあるルールやマナーが書かれた読み札と絵札を

用意した。図3-3は学習

で使用したルール百

人一首の読み札(右)

と絵札(左)である。

この学級活動の時間

では,規範意識を育ん

でいくために,「具体的

な行動の仕方を考えることができるようにする」

「結果を予期できるようにする」という二つの視

点を意識した。

「具体的な行動の仕方を考えることができるよ

うにする」ために,ルール百人一首の札やゲーム

を行うときのルールを工夫した。読み札の前半の

文章には場面が,後半の文章には行動の仕方が書

かれている。絵札には後半部分の文章しか書かれ

ておらず,教師が読み札の前半だけを読み,子ど

もは,後半の文章を考えて絵札を取るというルー

ルにしている。そうすることで,子どもたちは場

面に合った行動を考えて絵札を取ることになる。

子どもたちは楽しみながら,身の周りのルールや

マナーを確認し,行動の仕方を考えることができ

ていた。

ルール百人一首を行った後に,大切であると思

うルールやマナーについて話し合った。子どもた

ちは,大切だと思う理由を付けて話すことで,一

つ一つのルールやマナーの意義を考えていった。

その中で,「結果を予期できるようにする」ために,

教師が「このルール(マナー)がなかったらどう

なるだろう。」と切り返し,結果を考えさせた。子

どもの「友だちの気持ちを考えて行動するという

ことが大切だと思う。」という発言に対し,「じゃ

あ,逆に考えずに行動したらどうなる。」と切り返

した。子どもたちは「嫌われる。」「考えずに行動

したら誤解されることもある。」「考えてもらえな

かった相手も,あまりよい気持ちにはならない。」

という発言を返していた。このように結果を予期

する習慣を付けていくことが,よりよい判断をす

る力を育てていくことにつながると考える。

生活に生かしていくために,自分がこれから特

・ルールは絶対に守らなければならないことがわ

かりました。なぜかというと周りの人に迷惑が

かかるからです。

・自分だけじゃなく人の気持ちを考えて,社会の

ルールを守らなければいけないと思いました。

・ルールを守ることは自分にも役立つし,他の人

にも役立つことがわかりました。わたしも社会

のルールを守っていきたいです。

人の話を

しっかり 聞

こう

しっかり 聞

こう

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小学校 学級経営 24

図3-4 作成した掲示物「○年○組が考えたルール・マナー

ブック」

に意識していきたいルールやマナーを考え,一人

一人が絵札をつくった。そして,それをまとめ,

掲示物を作成した。図3-4は,子どもたちが考えた

絵札をまとめた掲示物である。

このように掲示物を作成することで,子どもた

ちが学習で考えたことを意識し,生かしていくこ

とができるようにした。

学習後の感想文の一部を以下に示す。

学習の中で,社会のルールやマナーについて初

めて知ることがあったり,大切さを再確認したり

することができていた。また,主体的にルールや

マナーを考えていこうとする姿も見られた。

〈規範の大切さを実感する集団活動〉

この活動プログラムで学習してきたことを実

感する活動として,宿泊学習を位置付けた。「事前

指導」では,宿泊学習での活動での約束や自分の

役割などを確認した。そして,子どもたちは宿泊

学習に向けて,みんなと協力し,活動の練習や準

備を進め,宿泊学習につなげた。

「事後指導」では,宿泊学習で心に残っている

ことについて振り返った。「一番楽しかったのは,

野外炊事です。なぜかというと一番みんなと協力

したからです。」「これから,みんなで活動するこ

とが多くなると思うけど,そのときは,みんなで

協力し合って,がんばれたらいいなと思いまし

た。」というような感想が出ていた。この感想から,

「協力することの大切さ」を実感していることが

わかる。その他のルールやマナーについてふれて

いる感想文を書いていた子どもはいなかった。宿

泊学習でトラブルもなく「仲良く活動できて楽し

かった。」という経験をたくさん書いていることか

ら,ルールやマナーを守って活動できていたこと

は推測できる。しかし,ルールやマナーに対する

意識の変化を確認するためには,振り返る際に,

ルールやマナーについて守れていたかという視点

を入れることも必要であったと考える。

(2)集会活動を活用した活動プログラム例

この活動プログラムのねらいは,「集会活動の一

連の活動を通して,協調的な態度を養い,自分た

ちで楽しい学級をつくろうとする自治的な態度を

育てる」である。規範意識を育む四つのポイント

(18ページ)の「②自分たちで必要な規範を考える

こと」「④実感を伴った理解であること」に焦点を

当てている。自発的,自治的な活動をつくってい

く取組である。

表3-2は,この活動プログラムの指導計画である。

この活動プログラムでは,「教師が意図して,

規範の大切さを子どもに気付かせていく学習」「子

どもが必要な規範に気付き,規範を考え,規範を

つくっていく学習」「規範の大切さを実感する集団

活動」の三つを組み合わせて行った。

・「電車やバスは降りる人が優先」というのは初

めて知りました。確かにそうでないと,なかな

か降りることができないから,降りる人が困っ

てしまうので大切だと思いました。

・ルールを守らないと嫌なことが起きたりするの

で,しっかり守らないといけないと思いました。

・楽しくルールやマナーを知るというのが面白

かったです。もっと自分でつくってみたいと思

いました。

表3-2「集会活動を活用した活動プログラム」の指導計画

ねらい 活動内容

十一月上旬

発表したり鑑賞し

たりすることにより,

集団の一員としての

所属感,連帯感を高め

る。(本研究に関わる

ねらいのみ掲載)

【学芸会】

・今までの練習の成果を発揮する

・みんなで協力してよりよい劇にする

・一人一人が自分の役割を果たす

十一月中旬

資料の登場人物の

思いや自分の経験を

話し合うことを通し

て,協力し合ってより

よい学級をつくろう

とする態度を養う。

【道徳の時間】主題名 4-(4) 協調性

資料名「ぼくらだってオーケストラ」

・教えてくれたなつみに対して,知らな

いふりをしていたてつおの気持ちを考

える

・なつみに対するてつおの気持ちの変化

を考える

十一月上旬

みんなが楽しめる

集会活動にするため

には,どうしたらよい

か,方法や内容を考

え,よりよい学校生活

をつくっていこうと

する意欲を高める。

【学級活動 内容(1)】話合い活動

○議題 みんなで協力して楽しいお楽しみ

会を開こう

・楽しいお楽しみ会にするためにはどう

したらよいかを考える

・お楽しみ会の内容を考える

十二月中旬

集会活動に向けて,

一人一人が自分の役

割を果たしみんなで

協力し合えるように

する。

【学級活動 内容(1)】集会活動

(準備活動)

・一人一人が役割を果たせるようにする

・友だちと協力して活動する

十二月中旬

みんなで決めたこと

を守って,協力して楽

しく活動することで,

学級への所属感や連帯

感を高める。

【学級活動 内容(1)】集会活動

・事前指導(活動の約束確認)を行う

・集会活動を行う

・事後指導(振り返り)を行う

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小学校 学級経営 25

図3-5 経験を書く様子

〈教師が意図して,規範の大切さを子どもに気付

かせていく学習〉

子どもたちは学芸会で,練習の成果を発揮し,

素晴らしい劇をつくることができた。その取組の

中で協力することの大切さや,クラスの一員とし

ての所属感や連帯感をより一層感じていた。その

実感を道徳の時間を通して,更に補充,深化して

いくことができるようにした。

道徳の時間「ぼくらだってオーケストラ」

「ぼくらだってオーケストラ」(東京書籍)と

いう資料を用いて授業を行った。主題やねらいは

24ページ表3-2に示している。

この道徳の授業では,規範意識を育んでいくた

めに,「人間理解をする場面をつくる」「他者の立

場に立って考えられるようにする」という二つの

視点を意識した。

展開前段の初めの発問で「人間理解をする場面」

をつくった。リコーダーの苦手なてつおは,友だ

ちのなつみからうまく吹けるようになるためのア

ドバイスを受けるのであるが,素直に受け入れる

ことのできない場面がある。そのてつおの気持ち

に共感させたいと考えた。「吹き方を教えてもらっ

たとき,どうして知らんぷりをしていたのでしょ

う。」という発問に対して,子どもたちからは「意

地を張っている。」「言われるのは悔しい。」「なつ

みさんもできないことがあるのに,言われたくな

い。」「リコーダーが得意ななつみさんに言われる

のが悔しい。」という意見が出ていた。

自分の苦手なことを指摘され,素直に聞くこと

ができなかったことは,多くの子どもたちが経験

していることなのではないだろうか。しかし,こ

ういう素直に聞けない思いをもちながらも,相手

の意見を受け入れていこうとすることができなけ

れば,友だちと協調して行動したり,学級をより

よくしていこうという雰囲気をつくったりするこ

とは難しい。そこで,アドバイスしているなつみ

の思いを考えるための発問を行った。「他者の立場

に立って考えられるようにする」場面を設定し,

他者の気持ちを考えることで,他者の視点から一

度自分を見つめるようにしたいと考えたからであ

る。子どもたちはなつみの気持ちを考え,「間違っ

ているから教えてあげよう。」「早く吹けるように

なってほしい。」「吹けるようになったらてつおく

んも嬉しい気持ちになる。」と発言していた。この

ように他者の温かい思いを考えることで,素直に

人の考えやアドバイスを受け入れていくことがで

きるようになっていくのではないかと考えた。

その後,なつみのアドバイスを受け,徐々にな

つみに対する思いが変化していくてつおの様子を

とらえさせた。そして,「てつおは,なつみに対し

て,なぜ『逆上がりを教えてあげようかな。』とい

う気持ちになったのでしょうか。」という中心発問

をした。子どもたちは「リコーダーを教えてもらっ

たから。」「教えてもらったおかげで最後まで吹け

るようになったから,自分も得意な鉄棒を教えて

あげようと思った。」「またいろんなことを教えて

もらいたいと思った。」という発言をしていた。協

力して活動するということは,一緒に活動するだ

けではなく,得意な部分を生かして苦手な部分を

補い合うことであると感じることができていた。

展開後段では,協力し合ってがんばれたと思う

経験について話し合った。ここでは,協力して何

かを成し遂げたときのことを

思い出し,温かい気持ちに浸

るために,自分たちの経験を

振り返って書く時間を設け

た。図3-5は経験を振り返っ

て書く様子である。以下に,

子どもたちの振り返りの一部を示す。

普段の生活の中にあることから,学芸会や運動

会のような行事などの取組まで,幅広く振り返っ

て書くことができていた。協力することで達成感

を得られたり,学級の一員として所属感や連帯感

を感じたりした様子が書かれていた。「たくさんみ

んなでリコーダーを吹きました。みんなでがん

ばって吹きました。みんなで吹いています。楽し

いです。」これは,この学級と交流をしている育成

学級の子どもの感想である。学級の一員として居

場所を感じ,力を合わせて活動することの喜びを

感じていることがわかる。

この授業を通して,それぞれが良さを発揮し,

協力していくことの大切さを感じることができて

いた。そして,みんなで協力して様々なことに取

り組んでいくことが,よりよい学級をつくってい

くということに気付くことができたと考える。

・協力してがんばって荷物を持った。重たいもの

がいっぱいあったけど,6個ぐらいみんなでがん

ばって荷物を持った。

・学芸会が終わったときに,ここまで頑張れたの

は,みんなと力を合わせたからだと思った。

・悩んだときにみんなで相談して考えたり,他に

もいろいろなことで協力したりしたから,がん

ばってよい劇にできたんだと思った。

・みんなが力を合わせたら,とてもいいことにつな

がるんだと思った。

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小学校 学級経営 26

図3-6 板書の様子

〈子どもが必要な規範に気付き,規範を考え,規

範をつくっていく学習〉

学級活動 内容(1)話合い活動

子どもたちが自発的,自治的な活動を行ってい

く力を育てていくために,学級会(話合い活動内

容1)を行い,集会活動を行う計画を立てた。授業

のねらいは24ページ表3-2にあるとおりである。こ

の学習の中で規範意識を育んでいくために,「話合

いのルールを意識できるようにする」「目標に向か

うための規範を考えることができるようにする」

「折り合いを付けることができるようにする」と

いう三つの視点を意識した。

まず,「話合いのルールを意識できるようにす

る」ということを念頭に置いて進めた。司会者は

話合いの進行カードを参考にしながら進め,適時

指導者がアドバイスをするという形を取った。話

し方,聞き方については,教科の学習で意識して

いることを再度確認するようにし,発言について

は,副議長に指名されてから行うというルールを

意識させた。また,自分の意見を言うときは理由

を付けて話すということと,意見の前に「私は(ぼ

くは)」と必ず付けるようにした。こうすることで,

自分の意見であるということを意識し,人ごとで

はなく自分のこととして話合いに臨む姿勢を意識

することができると考えた。

次に,議題を「6組(育成学級)の○○さんと

楽しく遊ぶ会を開こう」にし,提案理由を「この

クラスで過ごすのもあと尐しなので,もっと○○

さんともっと仲良くなりたいから」として話し

合った。話合いの柱1では,「どのような内容の集

会にするか」ということを話し合った。子どもた

ちは「歌や踊り」「リコーダーを吹く」という意見

を出していた。理由としては,「○○さんは歌や踊

りが好きだから。」「○○さんはリコーダーが好き

だから,みんなでやったら楽しくなると思う。」な

どが挙げられていた。育成学級の児童Aと更に仲良

くなるという提案理由を意識した発言ができてい

た。また道徳の時間に考えた「得意なことを生か

す」ということとつながる発言であった。

話合いが進む中で,「歌や踊りを別々にするの

ではなく,一緒にして歌いながら踊ったらいいと

思います。そうすれば,もっと楽しくなると思い

ます。」という発言があった。これは,様々な意見

が出てきたときに「折り合いを付けていく」方法

として大切な発言であると考える。話合い活動を

積み重ねていく中では,なかなか意見がまとまら

ないことも出てくる。そのときにこのような方法

を子どもたちが知っていれば,多数決という方法

を取らなくても折り合いを付けていくことができ

るようになっていくと考える。

「目標に向かうための規範を考えることができ

るようにする」ために,話合いの柱2では,「会を

どのような名前にするか」ということを話し合っ

た。会の名前を話し合うことにより,どのような

会にしたいのかという思いが確かになると思った

からである。まず,会の名前に入れたい言葉を発

表し,子どもたちは,「キラキラ」「にこにこ」「楽

しい」「元気」「仲良し」「4組と6組」などの意見を

出していた。これらの意

見を基に,最終的には,

「にこにこ楽しい6組4組

仲良し会」という名前に

決定した。図3-6は,柱2

の板書の様子である。子

どもたちがどのような会

にしたいのかという思いを

込めて話し合った結果が表れている。名前を考え

ることで,「楽しく活動する」という行動目標的

な規範を考えることができた。

後日行われた学級会では,柱3として「役割分

担をしよう」という話合いを行った。会を行うた

めにはどのような係が必要か出し合った。子ども

たちが係を考え出し合うことで,どの係も会を成

功させるためには必要であることを認識するこ

とができた。そして,話合いの中でだれがどの係

をするのか決めていくことにより,一人一人に役

割があることを学級で確認することができた。

〈規範の大切さを実感する集団活動〉

学級活動 内容(1)集会活動

集会活動へ向けた準備活動の「事前指導」では,

子どもたちに自分たちで決めた会の名前を意識さ

せた。そのことで,子どもたちが「楽しく」「仲良

く」なるように行動することができた。

集会活動では,それぞれが自分の役割を果たし,

児童Aとともに楽しく活動することができた。「事後

指導」では,指導者が,みんなが児童Aに優しく関

わる姿を取り上げ,「素晴しかった。」とほめるこ

とで,子どもたちは他者を思いやって行動するこ

との大切さを改めて実感することができていた。

楽しく活動するために気を付けていたことを振り

返ると,「相手の気持ちを考えること。」「役割分担

をして,みんなで協力すること。」と発言していた。

これらの発言から,他者意識をもち,協力して行

動することができていたのではないかと考える。

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小学校 学級経営 27

第2節 高学年(第6学年)での実践

(1)係活動を活用した活動プログラム例

この活動プログラムのねらいは,「係活動の一

連の活動を通して,相手の立場に立って行動し,

みんなが過ごしやすい学級をつくっていこうとす

る態度を養う」である。規範意識を育む四つのポ

イント(18ページ)の「①規範を理解し,重要で

あると感じること」「②自分たちで必要な規範を考

えること」「④実感を伴った理解であること」に焦

点を当てている。自発的,自治的な活動をつくっ

ていくための取組である。

表3-3は,この活動プログラムの指導計画である。

この活動プログラムでは,「教師が意図して,

規範の大切さを子どもに気付かせていく学習」「子

どもが必要な規範に気付き,規範を考え,規範を

つくっていく学習」「規範の大切さを実感する集団

活動」の三つを組み合わせて行い,日常生活につ

なげるようにした。

〈教師が意図して,規範の大切さを子どもに気付

かせていく学習〉

子どもたちは,生活の中で様々なルールやマ

ナーにふれる機会がある。ルールやマナーについ

て堅苦しいイメージをもっていたり,やりたいこ

とが自由にできないというイメージをもっていた

りする子どもがいる。逆に,ルールやマナーがあ

ることで,過ごしやすい日常が送れていることを

感じている子どももいるだろう。そのような日常

の生活経験を生かして,この道徳の時間でマナー

の意義について考えていけるようにした。

道徳の時間「どろだらけのスパイク」

「どろだらけのスパイク」(学研)という資料

を用いて授業を行った。主題やねらいは表3-3に示

している。

この道徳の授業では,規範意識を育んでいくた

めに,「人間理解をする場面をつくる」「他者の立

場に立って考えられるようにする」「道徳的行為の

判断規準を視覚化する」という三つの視点を意識

した。

展開前段の初めの発問で「人間理解をする場

面」をつくった。野球の練習の帰りに,泥がたく

さんついたままお店に行っていいのかどうか迷い

ながらも,友だちに「お客さんだからいいんだよ。」

と言われ,結局お店に向かう場面がある。駄目だ

と思いながらも友だちに誘われたらやってしまっ

たり,このぐらいだったらよいかと思ってしまっ

たりすることに共感させたいと考えた。「友だちが

『お客さんだからいいんだよ。』と言ったことを聞

いて,ぼくはどんなことを考えたでしょう。」とい

う発問に対して,初めは,「やっぱりよくない。」

「お店の人に迷惑がかかるからやめた方がいい。」

というような意見が多く出ていた。そこで,指導

者が「でもお店に行ったのですよね。」と切り返し

を入れることで,「まあ,いいか。」「友だちも行く

んだし,自分も行こう。」「別に掃除をする人がい

るのだからいいか。」という本音の部分を引き出す

ことができた。駄目だと思いながらもやってし

まったという経験は子どもたちの多くが経験して

いることであろう。このような心の弱さを見つめ

る時間を取ることで,よりこの時間の道徳的価値

に迫ることができると考える。

中心発問では,「他者の立場に立って考えられ

るようにする」「道徳的行為の判断規準を視覚化す

る」という二つの視点を意識した。中心発問に伴っ

て「ぼくは,お店の前で何を見たでしょう。」とい

う補助発問を行った。この補助発問を行うことで,

お店の前で食べ散らかしている高校生や,きれい

に掃除されているお店,他のお客さんに目を向け

ることができた。このことで,きれいに掃除をす

る店員さんの気持ちや他のお客さんの気持ちを考

えることができ,他者の立場に立つことができた

と考える。そして,「お店の前で,足が止まったと

表3-3「係活動を活用した活動プログラム」の指導計画

ねらい 活動内容

六月下旬

お店に入ろうとした

足が止まったときの

「ぼく」の思いを考え

ることを通して,どの

ように行動することが

よいのか考え,マナー

を大切にする態度を養

う。

【道徳の時間】主題名 4-(1) 公徳心

資料名「どろだらけのスパイク」

・お店に入ろうとして,足が止まったと

き,「ぼく」は何を考えていたのかを考

える

・だれにもほめられたわけでもないのに,

なぜ「ぼく」はうれしい気持ちになっ

たのか考える

七月上旬

更に楽しいクラスに

するために,係活動を

活発にするためにはど

うしたらよいか考えて

話し合う。

【学級活動 内容(1)】話合い活動

○議題 係活動を盛り上げて,みんなが楽

しめる 6年 1組になれるようにス

テップアップしよう

・どうしたら係活動が活発になるか話し

合う

七月上旬

みんなが楽しくなる

ために係活動を創意工

夫することを通して,

自主的,実践的な態度

を養う。

【学級活動 内容(1)】係活動

・各係で活動の計画を立てる

・各係で活動をする

七月中旬

各係がどのような活

動をしているのか共通

理解するとともに,自

分たちの係の活動に生

かせるようにする。

【学級活動 内容(1)】係活動

・活動の報告をする

・活動の振り返りをする

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小学校 学級経営 28

図3-7 判断規準を視覚化した板書の様子

図3-8 話合いの約束プリント(一部)

き,ぼくは何を考えたでしょう。」という発問をし,

子どもたちの意見を判断規準ごとに分類した。図

3-7は,その板書の様子である。

子どもたちは,「食べ散らかしている高校生と

同じように見られたくない。」「お店の人に迷惑を

かけることになる。」「周りの人に迷惑になるので

はないか。」と発言していた。「周りの人の目を気

にして」という判断規準と「相手を思って」とい

う判断規準が出ていた。更にこの後,スパイクを

脱いでお店に入ったことで嬉しくなった「ぼく」

の気持ちを子どもたちに尋ねると「人に気付かれ

なくてもよいことをすると,自分自身が気持ちが

よい。」という意見が出ていた。判断規準が板書で

視覚化されることで,子どもたちは様々な考え方

にふれることができた。

学習の感想文の一部を以下に示す。

マナーを守るということは,わかっていてもで

きないことがあり,自分にもそのようなときがあ

ることについてしっかりと振り返ることができて

いた。そのことを理解した上で,他者の立場に立っ

て考える「気配り」の大切さを感じ,子どもたち

は,改めてマナーについて考え,生活に生かして

いこうとする思いをもつことができていた。

〈子どもが必要な規範に気付き,規範を考え,規

範をつくっていく学習〉

この学習では,係活動を中心に取り上げた。係

活動は,当番活動とは違い,必ずやらなければな

らない決められた活動ではなく,学級がより豊か

になるように創意工夫して活動を行う。そして,

自分の思いだけでなく,他者への心遣いをして活

動することが学級の生活を豊かにしていく。この

ような係活動になるように,学級会で話し合い,

活発に活動することを通して,他者の立場に立っ

て考え行動する態度を養いたいと考えた。

学級活動 内容(1)話合い活動

「係活動がしっかりと行えていない」という子

どもたちの声を取り上げ,「係活動を活発にするた

めには」ということを題材とし,学級会で話合い,

自分たちで規範を考えていく学習を設定した。

学習のねらいは27ページ表3-3に示している。

この学習の中で,規範意識を育むために,「話合い

のルールを意識できるようにする」「目標に向かう

ための規範を考えることができるようにする」「折

り合いを付けることができるようにする」の三つの

視点を意識した。

「話合いのルールを意識する」ために,話合い

の約束を示した

プリントを配布

した。図3-8は,

話合いの約束を

示したプリント

の一部である。

特に意識したい

点を板書で示す

ようにした。学

級会で話合いのルールを示すことで,私的な話合

いではなく,集団としてみんなで意思決定をして

いく公的な話合いであるという意識をもたせたい

と考えた。また,ルールにのっとって話合いを進

めることが,一人一人の意見を尊重していくため

に大切なことであると考えた。話合いの約束の提

示については,学級の実態に忚じて行うことが望

ましい。

話合いの議題は,「係活動を盛り上げて,みん

なが楽しめる6年1組になれるようにステップアッ

プしよう」とした。話合いの柱を「どうしたら係

活動がステップアップするか」とすることで,「目

標に向かうための規範を考える」ことができるよ

うに意識した。初めに個人で考える時間を取り,

次に小グループで意見を交流した。その後全体交

・いつも書写の時間に先生が「硯を洗うときはい

らない紙を下にして持って行きや。」と言って

いたのを思い出し,それは気配りなんだと思い

ました。周りの人に迷惑がかからないからです。

・ぼくはいつも人に「迷惑やな。」と思うことが

あるけど,自分も迷惑なことをやってしまう。

だから思うだけでなく,自分も迷惑をかけない

ようにしていきたいと思った。

・人が困っているときや,自分が気付いたことは,

自分から進んでやれるような人になりたい。や

るかやらないかなら絶対やった方がいいので,

自分からできるようになりたい。

・心がけていても,つい忘れたり,めんどくさがっ

たりして,やらないときがある。これからは他

の人のことをしっかりと考えてから判断し,尐

しでも多くの気配りができたらいいなと思う。

話 合 い の 約 束 ◎ 学級会での話合いは,クラスをよりよくするための話合いです。みんなで考え,意 見を出し合ってみんなが安心して楽 しく過ごせるクラスに なるように 話し合いましょう。

聞くとき

○友だちの意見をしっかり聞きましょう。

○友達の意見を笑ったり,からかったりしない

ようにしましょう。

○自分の意見と「同じかな」「違うかな」など,

比べながら聞きましょう。

○「いいなあ」と思う意見があったら,自分の

意見を変えることも大切です。

○よりよい意見にするためには,どうしたらよ

いか考えながら聞きましょう。

発表

するとき

○手を挙げて,副議長(進行役)に当ててもら

ってから発表しましょう。

○適切な声の大きさで発表しましょう。

○「どうしてそう思うのか」理由をつけて,発

表しましょう。

○わからないことがあったら,質問しましょ

う。

話し方

○わたし(ぼく)の意見は( )です。その

理由は( )だからです。

○わたし(ぼく)は( )がいいと思います。

その理由は,( )だからです。

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小学校 学級経営 29

図3-9 係活動カレンダー

流を行った。

話合いの中で,係活動に対する心構えと方法の2

種類の意見が出てきた。まず,「みんなの意見を取

り入れるようにする。」「みんなが楽しめるように

活動を考える。」「人任せにしない。」「話し合って

協力する。」というような心構えに関する意見が出

てきた。しかし,それだけでは今までの活動と変

わらないため,出てきた心構えをいつも意識する

ための具体的な方法を考える話合いへと進んだ。

「一週間の計画を立てる。」「活動する曜日を決

めておく。」「朝の会などで活動の報告をする。」と

いった意見が出てきた。それぞれの意見の理由と

して,「計画や活動がみんなにわかるようにしてお

くことで,他の係の様子がわかるし,お互い声を

かけ合って活動することができるから。」というこ

とが出ていた。やらなければならないと縛りをか

けるのではなく,みんなで協力してやろうとする

前向きな方法を考えることができていた。

学級全体で意識して取り組んでいく方法を一つ

決めていった。「係の活動計画がわかるカレンダー

をつくる。」「つくるだけではなくて,毎日チェッ

クする。」「他にもやらないといけないことはたく

さんあるから,毎日は負担になる。」「週一回の確

認にしてはどうか。」と話合いが進んだ。最終的に

「係の計画カレンダーをつくり,週一回確認する」

という方法に決定した。意見に理由を付けて話す

ことで,それぞれの意見の良さや問題点を考えな

がら,よりよい意見を選択し「折り合いを付けて

話し合う」ことができた。

〈規範の大切さを実感する集団活動〉

学級活動 内容(1)係活動

学級会で話し合って決めた「係活動カレンダー」

をつくり,より楽しい学級にしていくために意識

して係活動に取

り組んだ。図

3-9は,子ども

たちがつくっ

た係活動カレ

ンダーである。

各係が一週間

分の活動計画

を立て,貼るこ

とができるようになっている。計画どおり進めら

れた日にはシールを貼り,活動の様子がひとめで

わかるように工夫している。自分たちの一週間の

活動を確認するときにも活用され,できたことや

できなかったことを振り返ることができていた。

(2)学芸会を活用した活動プログラム例

この活動プログラムのねらいは,「学芸会の一

連の活動を通して,自分の役割について自覚をも

ち,責任を果たすとともに,信頼し合い,協力し

てよりよい学級をつくっていこうとする態度を

養う」である。規範意識を育む四つのポイント(18

ページ)の「②自分たちで必要な規範を考えるこ

と」「③よりよい規範に変えていこうという意識

をもつこと」「④実感を伴った理解であること」

に焦点を当てている。学級をつくる主体者とし

て,よりよい規範を考え,自発的,自治的な活動

をつくっていくための取組である。

表3-4は,この活動プログラムの指導計画である。

表3-4「学芸会を活用した活動プログラム」の指導計画

ねらい 活動内容

九月二週目

小学校生活最後の学芸会

を心に残る思い出にするた

めに,どのような学芸会に

したいか話し合い,学級の

所属感や連帯感を高める。

【学級活動 内容(1)】話合い活動

○議題 学芸会で最高の思い出をつくり,学級としてステ

ップアップできるように話し合おう

・どのような学芸会にしたいかを話し合う

・学芸会をどのようにつくっていくかを話し合う

九月三週目

学芸会の取組は,自分た

ちの活動であることを意識

し,意欲的に活動しようと

する態度を養う。

○台本作成・選択実行委員の決定

・台本を考える

・台本を決定する

・学級で検討する

九月五週目

一つ一つの役割に意義が

あることを確認し,一人一

人が役割を果たそうとする

態度を養う。

【学級活動 内容(1)】 話合い活動

○議題 学芸会での役割分担を考えよう

・どのような準備が必要か

・自分がどの役割を受けもつか

十月~十一月

一人一人が責任をもって

自分の役割を果たそうとす

る態度を育てる。

○学芸会の準備(休み時間,放課後,学級活動)

・仕事ごとに進める

・進行状況を報告する(帰りの会など)

○学芸会の練習(授業時間)

十月四週目

掃除を最後まで続けた

「わたし」の心の動きを考

えることを通して,自分の

役割について振り返り,最

後までやり通そうとする態

度を養う。

【道徳の時間】主題名 4-(3) 役割遂行

資料名「わたしたちの努力賞」

・みんなが掃除に来なくなってきたときの「わたし」の

気持ちを考える

・どうして掃除を続けることができたのかを考える

十一月一週目

これからの活動を更によ

くしていくための方法を話

し合い,活動への意欲を高

める。

【学級活動 内容(1)】

○議題 学芸会の目標を達成するために,これからがんば

っていくことを話し合おう

・学芸会の準備や練習で困ったことを話し合う

・これからどうしていくことが大切かを話し合う

十一月二週目

ゆみ子と京子の信頼し合

う気持ちを考えることを通

して,友だちを信頼し,支

え合おうとする態度を育て

る。

【道徳の時間】主題名 2-(3) 信頼・友情

資料名「共に生きるために」

・ゆみ子に対する京子の気持ち,京子に対するゆみ子の

気持ちを考える

・手話の練習をしているときのゆみ子の気持ちを考える

十一月三週目

練習の成果を発揮し,達

成感を味わい,所属感を高

める。(本研究に関わるねら

いのみ掲載)

○学芸会

・練習の成果を発揮し,成功するよう協力する

・自分の役割を考えて行動する

十一月三週目

学芸会の取組を振り返

り,自分や学級の成長を確

認し,所属感や連帯感を高

める。

【学級活動 内容(2)】

「学芸会を振り返って」

・目標に向かって取り組むことができたかを話し合う

・自分の役割を果たすことができたかを話し合う

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小学校 学級経営 30

図3-11 学級会で話し合う様子

図3-10 話合いの約束を伝える様子

この活動プログラムでは,「教師が意図して,

規範の大切さを子どもに気付かせていく学習」「子

どもが必要な規範に気付き,規範を考え,規範を

つくっていく学習」「規範の大切さを実感する集団

活動」の三つを組み合わせて行い,日常生活につ

なげるようにした。

〈子どもが必要な規範に気付き,規範を考え,規

範をつくっていく学習〉

学級の実態として,与えられた活動には取り組

むものの,主体性には欠ける一面が見られた。小

学校最後の学芸会では,やらされているという思

いをもって取り組むのではなく,自分たちが学習

の主体者として活動できるようにしていく必要が

ある。そこで,話合い活動を通して,学芸会の目

標や内容,活動の仕方について話し合い,主体的

に活動し,自分の役割に責任がもてるようにした

いと考えた。

学級活動 内容(1)話合い活動

「小学校最後の学芸会を最高の思い出にする

ためには」ということを題材とし,学級会で話合

い,自分たちで規範を考えていく学習を設定した。

学習のねらいは,29ページ表3-4にあるとおりであ

る。この学習の中で規範意識を育むために,「目標

に向かうための規範を考えることができるように

する」「話合いのルールを意識できるようにする」

「折り合いを付けることができるようにする」の

三つの視点を意識した。

1回目の学級会では,議題を「小学校最後の学芸

会をどのようなものにしたいか考えよう」とした。

議題の提案理由は,「最後の学芸会になるから思い

出に残るような学芸会をつくりたい。」という思い

からである。

「話合いのルールを意識する」ために,指導者

が話合いの約束ごとについて話をした。図3-10は

その様子であ

る。学級の実態

として,一部の

子どもの発言

で授業が進む

ことがしばし

ば見られた。そ

のため,みんな

で意見を出し

合って話し合うことが大切であるということを

初めに確認した。そして,意見を出し合い,話し

合って決まったことを実行していき,よりよいク

ラスにしていきたいという教師の思いを伝えた。

図3-11は,学

級会の様子で

ある。話合いの

柱1で学芸会の

スローガンを

考えた。どのよ

うな学芸会に

したいかを話

し合うことで,「見ている人がいいな,おもしろ

いなと思う劇をつくろう」というスローガンをつ

くり,目標を共通理解することができた。

柱2では,学芸会の劇をどのようにつくるかに

ついて話し合った。意見は「先生に任せる。」「自

分たちで劇を考える。」「もともとある作品をアレ

ンジする。」という三つに分かれた。ここで,「折

り合いを付けることができる」ようにしていくた

めに,提案理由や柱1で決まったスローガンを意識

できるようにした。「先生に任せてしまうと今まで

と同じ学芸会になるから,今回は,自分たちでつ

くって今までと違う学芸会にした方がよい。」と提

案理由を意識した発言を指導者が意図的に取り上

げ,理由を明確にして発言することの大切さを伝

えることで,他の子どもたちも提案理由を意識し

て発言する姿が見られた。ほかにも話合いの中で

決定したスローガンを基に,「みんなに喜んでもら

うためには,みんながわかる話でないといけない

から,物語などを使ってアレンジした方がいい。」

などの発言をする姿が見られた。

このように理由を付けて意見を述べていくこ

とで,それぞれの意見の良さがわかり,感覚的に

自分の意思を決定していくのではなく,納得して

折り合いを付けることができていたと思われる。

2回目の学級会では,「どのような役割が必要

か」「自分はどの係を受けもつか」という学芸会の

役割分担について話し合った。そして,出てきた

それぞれの役割の必要性を確認し,一人一人の役

割分担を決めた。

その後,子どもたちが学芸会のスローガンを意

識することができるように,指導者が言葉かけを

しながら,準備や練習を進めた。

3回目の学級会では,「更によりよい活動を進め

ていくためにはどうしたらよいか」ということを

議題にした。「目標に向かうための規範を考えるこ

とができるようにする」ために,それまでの準備

や練習の様子を振り返って,これからどのような

行動をとったらよいか考えた。今までの学芸会の

準備や練習の様子をビデオで振り返り,目標を達

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小学校 学級経営 31

成するために,更によくなる点や改善点を話し

合った。「思っているよりも声が出ていないので声

を大きくしよう。」「自然な動きができるようにし

よう。」などの芝居の内容に関する意見と,「一生

懸命自分の役割を果たして,がんばったと思える

ようにする。」「一人一人がやる気を出し,協力し

て活動する。」などの気持ちのもち方や態度の示し

方についての意見が出された。そして,クラスで

特に意識していくこととして,「自分がよいと思っ

ている以上の声を出す」「一人一人がやる気を出

し,自分の役割を果たす」という2点をみんなで意

思決定することができた。

このように,話合いの中でスローガンを決め,

一人一人の役割を明確にしたことで,主体的に活

動することができていた。また,スローガンで掲

げたことを達成するためにはどうしたらよいかを

考えることで,学芸会に向けて「一人一人がやる

気を出し,自分の役割を果たす」という規範を考

えることができていた。

〈教師が意図して,規範の大切さを子どもに気付

かせていく学習〉

2回目の学級会と3回目の学級会の間に,道徳の

時間を設定した。子どもたちは,学芸会の準備や

練習の中で,自分の役割を果たすことについて

様々なことを考えながら活動している。活動の中

で考えたことを話し合い,更に深めたいと考えた。

道徳の時間「わたしたちの努力賞」

「わたしたちの努力賞」(光文書院)という資

料を用いて授業を行った。主題やねらいは29ペー

ジの表3-4に示している。この道徳の授業では,規

範意識を育んでいくために,「人間理解をする場面

をつくる」「道徳的行為の判断規準を視覚化する」

という二つの視点を意識した。

中心発問につなげる発問で「人間理解をする場

面」をつくった。主人公の「わたし」の提案で,

みんなが使っている公園の掃除のボランティアが

始まるが,月日が経つにつれて人数が尐なくなっ

ていったときの「わたし」の気持ちを考えた。最

後まで公園の掃除を続けた「わたし」であるが,

その「わたし」も掃除に来なくなった人たちと同

じように「やめようかな。」という思いをもったの

ではないかという意見が出ていた。

中心発問では,板書に「道徳的行為の判断規準

を視覚化」し,子どもたちが多様な意見について

考えることができるようにした。「公園の掃除に来

る人が減ってきている中で,どうしてわたしたち

は,掃除を続けることができたのでしょう。」と発

問した。掃除を続ける判断規準として,自分の意

思に関する発言と他者への意識に関する発言が出

てきた。板書では,「自分に対して」「他者に対し

て」の思いを大きく二つに分類した。授業後,更

に細かく分類したものを以下に示す。

発言を分類していくと,子どもたちが様々な思

いをもっていることがわかる。学芸会の取組や日

常の生活経験の中で,子どもたちも同じような思

いをもって活動している。中心発問でのこれらの

発言は,自分自身の経験と重ねて出てきたもので

あると考える。このような本音の交流をしたこと

で,子どもの思いに変容が見られた。子どものワー

クシートの記述を以下に示す。

今までの経験から,何かを続け,自分の役割を

果たすということに後向きな感情をもっていた

が,「人の役に立つ」という友だちの意見を聞くこ

とで主体的な気持ちが表れてきている。また,自

・わたしは,続けることが苦手です。でも,今日

の道徳を聞いて,最後まで続けて,自分の役割

を果たすということは,だれかの役に立つこと

だと知り,尐しやる気になりました。

・自分の役割は何かとか考えたことがなかったけ

れど,給食当番や委員会などで自分がいなかっ

たら成り立たないことがわかりました。これか

ら,1回だけやってあきらめるのではなく,みん

なのために役に立ちたいと思いました。

他者に対しての思い

ほめられたいという思い ・内心はすごいねとほめられたいから

自分が言いだしたから(他者に対しての影響など) ・最初に言ったから,嫌な目で見られるから

・自分がやめてしまうと全員がやめてもいいと思ってしま うかも知れないから

友だちとの約束 ・もう一人の人と約束をしたから

・一緒にやっている仲間がいるから

人のために ・他に使う人が困る

・人の役に立ち,喜んでもらいたかったから

自分に対しての思い

受動的 ・暇やから ・誰もやらへんから

満足感 ・ほめられなくても,みんなの役に立つことができたとい

う満足感を得ることができると思ったから ・楽しいことやうれしいことがあったから

自分のために ・今やめてしまったらもったいない

・せっかくだから最後までやろうと思った

自分でやると決めたことだから(責任感) ・自分が卒業までやろうと決めたから,卒業までできた

・自分が言い出したことは最後まで責任をもってやり遂げ

ないといけないから

目標・信念 ・卒業までがんばりきれる目標だった

・卒業までやり通す思いがあった

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小学校 学級経営 32

図3-12 学芸会に向けての掲示物

分の役割について改めて考え,自分の存在の大切

さに気付くことができている。このように,多様

な意見にふれることで,主題である「自分の役割

を果たす」ということを深く考えることができた

と考える。

〈規範の大切さを実感する集団活動〉

準備や練習などの「事前指導」では,学級会で

決めたことを確認し,意識して取り組んでいくこ

とができるようにした。自分たちで決めたことを

意識して取り組めたかどうか,子どもたちで振り

返る時間を設けた。子どもたちは,お互いのよかっ

たところ,もっと改善できそうなところを交流し

た。教師もできたところ,できていないところを

評価するようにし,次の活動に生かすようにした。

みんなが考えた目標を意識して活動することが

できるように,掲示物を作成した。図3-12は,学

芸会のスローガンを書

いた掲示物である。学

芸会までの日数も示

し,見通しをもって活

動できるようにした。

これを見ながら,子ど

もたちは, 6枚ある背

景の絵を教師の指示

を受けることなく自

主的に仕上げること

ができた。目標を意識

することで,主体的に行動する子どもたちの姿を

見ることができた。

「事後指導」では,学芸会の一連の取組を振り

返る時間を設けた。「スローガンを意識して活動で

きたか」「一人一人が自分の役割を果たせたか」「協

力して取り組めたか」という視点をもって振り

返った。この視点は,学級会の中で子どもたちが

発言していたものを取り上げた。この視点を基に

振り返ることで,学級会で話し合い,自分たちで

規範をつくり意識して活動したことが,劇の成功

につながったことに気付くことができた。

学芸会後の児童の感想では,「自分たちで考え

てできた学芸会なので達成感があった。一人一人

が協力したり,自分の役目を果たそうとしたりす

る気持ちが成功するためには必要だと思った。こ

れからの生活の中でも考えていけたらいいと思

う。」と学芸会の取組で身に付いたことを振り返っ

ていた。この発言から,協力すること,一人一人

の役割を果たすことが大切であると実感していた

のではないかと考える。

第4章 ともに生きる集団を育てる学級経営

第1節 研究の成果と課題

(1)子どもの自発的,自治的な活動の姿

第3章では,規範意識を育む活動プログラムの

実践について,子どもの具体的な姿を通して述べ

てきた。子どもたちは,実践はもちろんのこと,

実践以外の時間にも規範を意識して活動し,自発

的,自治的に活動することができた。

4年生では,「宿泊学習を活用した活動プログラ

ム」の取組の後,学級で何か取り組むときや休み

時間に問題があると,「ルール百人一首」の学習で

つくった札を参考にして新たな札を作成し,学級

で呼びかけるなど,自分たちで考え,解決しよう

とする姿が見られた。

また,「集会活動を活用した活動プログラム」

では,全体での話合いを通して,内容や役割を決

定し活動した。集会活動の準備は,特別に時間を

設けなかったが,自分たちで活動の時間を設定し

たり,集会活動の係の仕事をどのように進めたら

よいかを,自分たちで話し合ったりしながら活動

することができた。

6年生では,「係活動を活用した活動プログラ

ム」の中で,係活動の週予定表をつくり,活発に

活動していくための工夫を考えた。その後,尐し

ずつ係活動が活発になっていった。長期休業前に

遊び係が中心となってスポーツ大会を開き,楽し

い活動を自分たちでつくる姿が見られた。

また,「学芸会を活用した活動プログラム」の

実践の中では,自分たちの活動について,話合い

を通してどのように行っていくかを決定した。そ

して,教師の指示を受けることなく,休み時間や

放課後などを利用して,学芸会の劇で必要な道具

や背景の絵をつくるなど自主的に準備を進めるこ

とができた。その後も学級全体で何かに取り組む

ときは,学級会を開き,学級でどのように取り組

んでいくかを考える姿が見られた。

以上のような自発的,自治的に活動する姿を見

ることができたが,このような姿につながった要

因として,何が有効であったのだろうか。規範意

識を育むために設定した四つのポイントや授業の

視点などを踏まえて考えていく。

一つめに有効であったと考えることは,子ども

たちが規範を理解し,重要であると感じることが

できるように,「教師が意図して授業を設定し,子

どもたちの気付きをうながしていったこと」であ

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小学校 学級経営 33

る。子どもたちは,授業で学習したことを生かし

て,自分たちで新たに「ルール百人一首」の札を

つくり,生活をよりよくしようとすることができ

た。学習の中でこのようにきっかけをつくってい

くことで,子どもたちは方法を知り,自発的,自

治的に活動する足がかりにすることができるので

はないだろうか。

また,百人一首というゲーム形式を用いたこと

は,規範を肯定的にとらえる一因となり,自分た

ちで規範をつくる自治的な姿につながったのでは

ないだろうか。更に,道徳の時間では規範の意義

について学んだ。そのことで,規範は,自分にとっ

ても周りの人にとっても,心地よく過ごすために

大切なものであると感じることができ,そのこと

も規範を肯定的にとらえることができる一因と

なったと考える。

このように,授業を通して,教師が意図的に,

規範について考えることができるようにしていく

必要性があることを確認することができた。そし

て,意図的ではあるけれども,押し付けにならず,

子どもたちが規範を肯定的にとらえることができ

るように配慮していく必要性も確認することがで

きた。

二つめに有効であったと考えることは,子ども

たちが自分たちで必要な規範を考えることができ

るように,「学級会を開き,規範や一人一人の役割

をみんなで考え,実践活動を行っていったこと」

である。決められたことではなく,自分たちで話

し合い,自分たちで意志決定していくことで意欲

が高まり,休み時間を割いて活動するなど自発的

な姿につながったと考える。

また,活動に必要な役割をみんなで出し合い,

一人一人の役を決定したことで,自分の役割の存

在意義を感じることができたのではないだろう

か。そのことにより,責任感が増し,より自発的

に取り組む姿につながったと考える。

更に,話合いのルールにのっとって,学級会を

繰り返し行うことで,自分たちで活動をつくって

いく方法を理解することができた。そのことが自

信となり,その後の自発的な学級会につながって

いったと考える。そして,自分たちで規範を考え

ることで,指導者の指示を受けなくても活動する

ことができる自治的な集団の姿を見ることができ

た。規範を禁止事項ではなく,目標に向かうため

のものとしてとらえることで,行動目標的な規範

をつくることができ,集団でのびのびと活動する

ことができていた。

このように,話合いのルールをしっかりと確立

し,安心して話し合える環境をつくることの大切

さ,みんなで話し合い,意志決定をしていく体験

の大切さを確認することができた。そして,自分

たちで規範を考え実践していくことが,規範を自

分のものとしてとらえ,自治的な姿をつくってい

く上で必要であることも実感できた。

三つめに有効であったと考えることは,子ども

たちが規範について,実感の伴った理解ができる

ように,「事前,事後指導を行ったこと」である。

事前指導では,自分たちで決めた規範を確認して

から活動に取り組むようにした。事後指導では,

事前指導で確認したことができていたかどうかと

いうことを,振り返ることができるようにした。

まず,活動の感想を発表し,その後,うまく活動

できた理由を考えた。子どもたちは,自分たちで

規範をつくり,守ったことをうまく活動できた理

由として挙げていた。このように,うまく活動で

きた理由を考えることで,事前指導で確認したこ

とを振り返ることができ,規範を守って活動する

ことの大切さを実感することができたと考える。

このことは,活動プログラム以外で取り組んだ活

動でも,目標や規範を自分たちで話し合ってつく

り,守って活動しようとする姿につながっていっ

たと考える。

このように,集団活動を通して,実際に体験す

ることの大切さを確認することができた。そして,

子どもたちが規範の大切さについて実感を伴った

理解ができるように,視点を基に事前,事後指導

を確実に行っていくことの重要性を確認すること

ができた。

以上に述べたように,規範意識を育む取組が,

自発的,自治的な活動を進める姿につながって

いった。同時に,自発的,自治的な活動が数多く

行われることにより,決められたことや自分たち

で決めたことを実行していこうとする自律的な規

範意識が,更に育まれていくと考える。

(2)定着を図る活動の継続と指導行動

自発的,自治的な活動の姿といった成果も見ら

れた一方で,課題も見えてきた。

一つめは,自発的,自治的な活動が一過性のも

のではなく,子どもたちの力として定着し,自発

的,自治的な活動を継続して行うことができる集

団へと高めていかなければならないということで

ある。今回の実践では,教師が活動をし始めるきっ

かけをつくり,自発的,自治的な活動を行う姿へ

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小学校 学級経営 34

とつながった。しかし,いつでも教師がきっかけ

をつくっていたのでは,自発的,自治的な活動が

継続して行うことができる集団にはならない。学

年が上がるにつれて,子どもたちが学級の問題や

課題に気付き,話し合い,活動に取り組めるよう

になることが大切である。子どもの気付きが多く

なることで,子どもたちの待ちの姿勢は尐なくな

り,自発的,自治的な活動の姿は継続されていく

だろう。

実践後,自分たちで学級の問題を発見したり,

学級をよりよくしていくための話合いの議題を考

えたりする姿が見られた。このような姿を継続さ

せ,定着を図るためには,教師の支援が必要とな

る。まず,自分たちで考え行動したことを認め,

励ますことで,子どもたちの意欲を高めていくこ

とが必要である。更に,今までもよく行われてき

たことであるが,子どもたちが見つけた学級の問

題や学校生活をよりよくしていくための提案など

を「議題箱」のような形ですい上げ,子どもたち

の意見を出しやすくする工夫が必要であろう。

また,学校生活の中には,子どもたちがやろう

と思ってもできないことがある。子どもが,自分

たちでできることか,できないことかを,教師は

事前にはっきりさせておく必要がある。子どもた

ちが何かやりたいと思ったときにそれが可能かど

うか,相談にのることができるようにしておくの

である。こうして,子どもたちが自発的に活動し

ようと思ったときに,一歩を踏み出し,行動しや

すい環境をつくっておくことが大切である。それ

を繰り返し経験することで,より自発的,自治的

な活動ができる集団へと高まっていくと考える。

二つめは,子どもによって,規範に対する意識

や活動に対する意識のもち方に差があったことで

ある。学級全体を見れば,前項でも述べたように

成果が見られるが,一人一人を見ていくと変容の

見られなかった子どももいる。

個人差の原因として考えられることは,自信の

なさ,興味関心の違い,当事者意識の低さなどが

挙げられる。自信や興味がなければ,活動に対し

て消極的になりがちである。このような場合は,

集会活動のような,子どもたちにとって楽しい活

動を組み合わせた活動プログラムを考えていくこ

とが必要になる。その取組の中で,教師が支援し,

一人一人が満足感や達成感を味わえるようにして

いくことで,自信をもたせていきたいものである。

一番問題となるのが当事者意識の低さである。

学級の一員であり,自分が学級をつくっている一

人であるという意識をもつことができなければ,

学級の規範に対する意識も活動に対する意識も高

いものにはならない。実践でも,当事者意識が低

く,だれかがやってくれるだろうという態度を見

せていた子どもがいた。周りの子どもがやらなけ

ればという意識をもち,自主的に活動すればする

ほど,やる気のある子どもたちに任せるといった

様子が見られた。

当事者意識の低い子どもには,たとえリーダー

のように引っ張っていく立場でなくても,周りで

支えていくフォロワーとして,最後まで関わる姿

勢をもつことができるようにしていく必要があ

る。このような姿勢は,日々の生活や学習から,

最後までやりきる習慣を付けておくことで培われ

ていくと考える。例えば,「宿題を毎日提出する」

「授業中出された課題は最後までやって提出す

る」など根本的なことをしっかりできるようにな

らなければ,集団で活動するときも最後まで協力

することはできないだろう。日頃から,最後まで

やりきる習慣を付け,それが学級の集団規範とし

て働くまで,教師は徹底して指導を繰り返すこと

が大切である。四月の段階で先を見据え,教師が

望ましい指導行動を取り,最後までやりきるとい

う規範を学級に形成する必要がある。そして,最

後まで協力して活動することで,所属感や連帯感

も育まれ,当事者意識も高まっていくだろう。

このように,前向きに活動できるような集団規

範がつくられていなければ,いくら活動プログラ

ムを考え実践しても,全員の子どもたちの意識の

変容を図っていくことは難しい。つまり,日常の

教師の指導行動が非常に重要になってくるという

ことである。

以上のような二つの課題について述べてきた

が,規範意識を育み,自発的,自治的な集団を育

成していくことは,一朝一夕にできることではな

いことがよくわかる。時間がかかることであるか

らこそ,意図的,計画的に取り組んでいくことが

重要であり,低学年のうちから段階的に取り組ん

でいかなければならないと考える。

第2節 学級経営力の向上に向けて

(1)年間を見通した学級経営案の作成

規範意識を育み,自発的,自治的な学級集団を

育成していくためには,前節でも述べたように,

教師が見通しをもち,意図的,計画的に取り組ん

でいかなければならない。そのためには,学級経

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小学校 学級経営 35

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

学級の目標・きま

りをつくる

集団の状態を把握

する

多様な集団での活

動を設定する

成長を振り返る時

間を設定する

生活習慣を把握す

所属感・連帯感を

感じる活動をつく

集団の状態を把握

する

成長を実感する働

きかけをする

めあてを振り返る

時間を設定する

進級までの見通し

をもたせる

学級目標の達成度

を確認する

1年間の活動の振り

返るようにする

自発的に活動でき

るようにする

小グループで共同

して行う活動を多

く取り入れる

リーダーをつくり

主体的な活動をう

ながす

友だちの良さに目

を向ける活動をつ

くる

子どもたちが主体

的に活動できる時

間を多く設定する

学級の活動が学校

全体の活動に生か

せるようにする

役割と自覚の責任

をもって活動でき

るようにする

活動を振り返り,

改善できるように

する

自治的に活動でき

るようにする

認め合える活動を

取り入れる

新しい学年への期

待と見通しをもた

せる

授業・掃除

給食・休み時間授業

授業

休み時間

授業

朝・帰りの会朝の会 授業 授業

授業

休み時間

授業

朝・帰りの会

授業

休み時間

授業

朝の会授業

授業

朝・帰りの会授業

授業

休み時間授業

授業

朝の会給食・掃除 給食・掃除

授業

休み時間授業

授業授業

休み時間

授業

休み時間

授業

休み時間授業 授業 授業

授業

休み時間授業 授業 授業

授業授業

休み時間

授業・休み時間

朝・帰りの会授業

授業

休み時間

授業

休み時間

授業

休み時間授業 授業

授業

朝・帰りの会授業

授業 授業授業・休み時間

朝・帰りの会授業 授業

授業

休み時間休み時間

授業

朝・帰りの会

授業・休み時間

給食・掃除

授業・休み時間

給食・掃除

授業

朝・帰りの会授業

授業・休み時間

朝・帰りの会

授業・休み時間

朝・帰りの会

授業

休み時間

授業・休み時間

朝・帰りの会

授業

休み時間休み時間

授業・休み時間

給食・掃除

授業

休み時間

授業・休み時間

給食・掃除授業 授業

題礼儀 心づかい 親切・思いやり 公徳心 協力 責任を果たす 楽しい学級をつくる 感謝

目2-(1) 4-(1) 2-(2) 4-(1) 2-(3) 4-(3) 4-(4) 2-(4)

どのような学級に

したいのかを伝え

るとともに掲示す

生活習慣を見直す

時間を設定する

友だちとの関わり

方について考える

全員で意見を出し

合い,話し合うよ

うにする

集団規範の共有

係活動の計画を立

てるようにする

一人一人の役割を

決めて活動できる

ようにする

自発的

、自治的な集団づくりのために

学級目標をつくる

教師が進んで自己

開示する

自主的

、実践的態度

尐数の意見を大事

にして話し合うよ

うにする

自主的な集会活動

を行うようにする

話合いのルールに

ついて確認する

きまりや約束の意

義について話し合

うようにする

学級のきまりや約

束を振り返るよう

にする

当たり前のことを

当たり前にできて

いることを評価す

きまりや約束をつ

くり,守る活動を

うながす

きまりや約束が守

れているかどうか

振り返るようにす

学習のルールにつ

いて確認する

生活のルール(給

食や掃除)につい

て確認する

段階

話し方・きき方の

ルールついて確認

する

グループでの活動

の仕方を確認する

夏休みの過ごし方

を確認する

教師の自己開示・教示型の姿勢

学校・学級のきま

りや約束について

話し合うようにす

姿

月ごとの

ポイント

生活のルール(当

番活動の仕方)を

確認する

自主的な集会活動

を行うようにする

次の学年につなが

るめあてをつくる

学級のきまりや約

束について見直す

時間を設定する

規範の意義につい

て,折に触れて話

冬休みの過ごし方

を確認する

次の学年でも大切

にしたい規範を考

える時間を設ける

学級の目標や規範

を振り返り,次の

学年でも生かせる

ようにする

1年間の活動を振り返

り,よかったこと,

楽しかったことを共

有できるようにする

きまりや約束が守

れているかどうか

振り返るようにす

学級の取組を委員

会活動,クラブ活

動で生かすように

する

一人一人の役割の

大切さについて話

し合うようにする

活動を振り返って

達成感をもつよう

にする

1年間の成長を振

り返り,次の学年

での目標を考える

ようにする

学級目標を意識し

た個人のめあてを

つくるようにする

学級目標を振り返

るようにする

学級の中で自分の

役割を振り返るよ

うにする

今までの活動を改

善できるようにす

活動の成果が見え

るようにする

学級目標の達成度

を確認する

ペアトークやグ

ループでの話し合

いなど,話し合う

機会を多く取る

自分の思いを出せ

る場を設定する

できたことや楽し

かったことを振り

返るようにする

自分の思い(夏休

みの様子から)を

話せる場をつくる

ルールを守って,

自分たちで活動で

きるようにする

活動(係活動や当

番活動など)の新

しい目標を立てる

グループワークな

ど協力できる場を

多く設定する

係活動を行う時間

を確保する

活動を振り返って

達成感をもつよう

にする

休み時間の全員遊

びなど,集団で遊

ぶ機会を設定する

一人一人の良さを

伝えるようにする

自分の良さ,友だ

ちの良さに目を向

ける言葉かけをす

他者意識をもち,

規範を守ることが

できるように言葉

かけをする

みんなで話し合っ

て活動を決めるよ

うにする

活動に参加し,子

どもとふれ合う時

間をもつ

一人一人が役割を

果たし,協調的に

活動できるように

する

個や集団の様子を

観察する

活動のルールを守

り,自分たちで活

動できるようにす

一人一人のよさが

発揮されるような

活動を行うように

する

(1)目標づくりの話合

いをする

係活動の話合いを

する

集会活動へ向けて

の話合いをする集会活動を行う

望ましい人間関係

学級目標の見直し

の話合いをする

集会活動へ向けて

の話合いをする集会活動を行う

集会活動へ向けて

の話合いをする集会活動を行う

(2)挨拶の仕方につい

て考える

社会のルールやマ

ナーについて考え

みんなが気持よく

過ごすための行動

の仕方を考える

自分のよさを生か

した協力の仕方を

考える

自分の役割や責任

について考える

感謝の気持ちを表

すことについて考

える

教師と子どもの信頼関係づくり期【信頼感】

子どもと子どもの信頼関係づくり期【所属感・連帯感】 集団を高める活動づくり期【責任感】

参加型の姿勢 委任型の姿勢

できたことや楽し

かったことを振り

返るようにする

友だちの良さに目

を向け,肯定的に

話し合うようにす

子どもたちが相互

評価する場面を意

図的に多く設定す

集団活動の足跡を

残すようにする

学級のよさを伝え

合う時間を設定す

1年間の経験を思

いだし,自分たち

の成長を見つめる

ようにする

表4-1 自発的,自治的な集団づくりを中心とした学級経営年間計画例(高学年)

営案をしっかりと計画,活用し,絵に描いた餅に

ならないように工夫することが大切である。

学級経営方針を日々の取組の中で意識して指

導していくことが,一貫した指導をしていくため

に大切なことであると考える。しかし,実際には,

活用されることが尐ないように思われる。

特に,教師としての経験年数が浅いころは,

日々の教材研究に時間がかかり,一日一日を乗り

切っていくことに精一杯である。その上,学校行

事などの取組や,不意に起きる学級での問題など,

目の前のことに対忚していくことに追われ,見通

しをもつことは難しいと考える。また,学級経営

力を高めようと文献などから情報を得,実際の学

級経営に様々な手法を取り入れようとすればする

ほど,指導に一貫性がなくなっていくということ

もある。よりよい指導法を考えていくことは大切

であるが,指導の軸がぶれることがないようにし

たい。また,学級経営案は,1年間を通して指導す

ることをまとめて書くため,どの時期にどのよう

な指導をしていくのかということが考慮されない。

計画通りにはなかなか進まないが,ある程度,時

期を考えておくことが,学級経営方針を意識する

ためには必要なことであると考える。このように,

指導の時期を考えて,一貫性のある指導を行って

いくために,学級経営案を年間計画の形で作成す

ることが有効ではないかと考える。

学級経営案を年間計画の形で作成するための

ポイントについて,若干の提案をする。表4-1は,

中学年の自発的,自治的な活動ができる集団づく

りを中心とした高学年の学級経営年間計画例であ

る。これは月ごとにやるべきことを発達の段階に

忚じて記入しているが,実際は,学級の子どもの

実態に即した計画を大まかに示していくことがよ

いと考えている。

まず,学校教育目標を基に,子どもの実態や保

護者の願いを考慮し,学級のめざす集団の姿を考

える。そのめざす集団の姿に向かうために,身に

付けたい力を考える。このときに,「集団規範の共

有」「自主的,実践的態度」「望ましい人間関係」

の三つの視点をもって,必要な力を考えるように

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小学校 学級経営 36

図4-1 付けたい力や必要な取組の考え方

する。そして,その付けたい力を育んでいくため

に必要な具体的な取組を考え,表4-1の①②③のと

ころに,どの時期に指導していくのか考えて記入

する。時期の目安とするのが,表4-1④の三つの段

階(教師と子どもの信頼関係づくり期,子どもと

子どもの信頼関係づくり期,集団を高める活動づ

くり期)である。教師との信頼関係を基に,学級

の規範をつくっていく時期に必要なこと,子ども

同士の信頼関係をつくっていくために必要なこ

と,集団を高める活動を行っていく時期に必要な

ことは何か考え,取組を振り分けていく。

付けたい力や力を付けるために必要な取組の考

え方の一例を図4-1に示す。

「望ましい集団活動の条件とめざす集団の姿」

の一覧表(6ページ表1-1)を活用し,学級の実態

を見て,表1-1の「集団の姿」にチェックする。

チェックした項目を参考にして付けたい力を考

え,図4-1のアに優先順位をつけ,上から記入する。

図4-1には,「自主的,実践的態度」の具体例を記

入している。図には,付けたい力を三つ示してあ

るが,数については,学級の実態に忚じて変える

ことが望ましい。次に必要な取組を表1-1の「具体

的な方策」を参考にして考え,図4-1のイに記入す

る。そして,アに記入した付けたい力と,イに記

入した取組を年間計画に書き込む。図に表し,考

えることで,思考が整理されるとともに,何のた

めに必要な取組なのか意識することができる。「集

団規範の共有」「望ましい人間関係」についても同

様に考える。

表4-1⑤のところには,集団づくりに関わる授業

について記入する。日常の指導との関連を考えて,

より効果的に指導できるように学級活動や道徳の

時間を計画する。このように記入することで,規

範意識を育む活動プログラムのような総合単元的

な学習の構想も立てやすくなる。

学級経営の年間計画を立てることで,1年間を見

通した指導,一貫した指導を計画的に行っていけ

るのではないかと考える。この年間計画は,手元

に置き,いつでも見ることができるようにしてお

くことで,取組の進捗状況を確認しながら,いま

重点的に指導しなければならないことは何かを意

識することができる。

この学級経営年間計画は,集団経営に力点を置

いている。教科指導の中でも,教科の目標を達成

するだけでなく,年間計画に挙げたような集団を

育成するという視点をもって授業をしなければな

らないと考える。河村は,日本の学級集団につい

て「生活活動,学習活動,子どもたち同士のかか

わり合いを通した,心理社会的な発達の促進を目

的としている」(29)と述べている。このように,

学習指導だけでなく,豊かな社会性を育んでいく

ことが求められる。そのためには,子どもたちが

豊かな人間関係を築くことができる学級集団を形

成していくことが欠かせない。そのような学級集

団を形成していくことが,一人一人の子どもたち

の良さを伸ばしていくことにもつながる。そして,

豊かな人間関係を築いていくためには,自分で考

え,判断できる自律的な規範意識を育んでいくこ

とが重要になってくるのである。

規範意識を育み,よりよい集団を育成していく

ことができるように,年間を見通した学級経営案

を立て,意図的,計画的に指導していきたい。

(2)学校に眠る財産の共有

学級経営力を向上させていくためには,学級経

営案を活用するなどして,長期的な視野をもつと

同時に,日々変化する子どもたちに対忚していく

短期的な視野をもつことが大切である。日頃,子

どもたちにどのように対忚していくのか,細かな

指導について,悩む若手教員は尐なくない。

若手教員のこのような悩みに忚える財産が,学

校には数多く眠っている。本研究を通して,様々

な先生方の教室を参観させていただいた。その中

で,多様な指導の仕方があることに改めて気付く

ことができた。授業の構成や展開,発問などはも

ちろんのこと,子どもとの接し方や学びやすい教

室環境のつくり方まで,学ぶべきことは山のよう

自発的、自治的に活動できる集団

一人一人の意見を

大切にする

ルールを守って活

動する

活動を振り返り,

次に生かす

付けたい力

具体的な取組

【自主的,実践的な態度】

学習のルールの定

着を図る

イ きき方のルールの定着を図る

全員が発表できるようにする

楽しく活動するためのルールを考える

活動の振り返りを

行う

学習の振り返りを行う

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小学校 学級経営 37

にあった。それぞれの学級に,それぞれの先生方

が積み上げてきた財産がたくさん存在する。この

ような財産を共有することで若手教員の力量が向

上することに直結すると考える。

各学級の財産を共有するための方法として,ま

ず考えられることは,やはり,教職員間でコミュ

ニケーションを取ることである。ただ,忙しさゆ

えに,教職員がコミュニケーションを取ることが

難しい現状があることは先述した。「空いた時間

に」ということはなかなかできないため,コミュ

ニケーションを取る時間をあえて設定し,時間を

つくりだすことが必要であると考える。若手教員

にとって,学年会は授業の進め方を相談したり,

日々の子どもへの対忚の仕方を学んだりすること

ができる数尐ない場である。そのため,学年会を

重要な会議として位置付け,前項で挙げた学級経

営年間計画などを活用しながら,子どもの実態と

照らし合わせ,具体的な方策を話し合うことが望

ましい。

学校によっては,若手教員を育てるという目的

で,自由参加で30分程度の研修会を定期的に行っ

ているところもある。このように若手教員が気軽

に相談できる場が重要である。気軽に相談できる

場の設定としては,職員室に共用のテーブルを一

つ置くだけでも効果がある。一緒に作業をした

り,他の学年の教員とも気軽に相談したりする場

として活用することができる。

次に,学校の財産を共有す

るための方法として考えられ

ることは,それぞれの教師の

指導や取組を見える形にする

ということである。子どもの

様子を保護者に伝える手段と

して,学級通信がつくられて

いる。この学級通信を保護者

だけでなく,他の教員に配布

するだけでも,それぞれの教

師の取組が見える形になる。

若手教員にとっては,取組を

参考にするだけでなく,学級

通信の書き方を学ぶことがで

きる。他の学級の取組を知る

ことで,他の教員とコミュニ

ケーションを取るきっかけと

もなる。

また,それぞれの教職員の

指導や取組がわかるような学

校内の通信をつくることも考

えられる。管理職や加配の教

員が,授業を参観した際に,

その中で見つけた子どもの成

長を支える指導や支援を取り

上げ,教職員に伝えていく。

時間をつくることが可能であ

れば,担任もお互いに授業を

参観し,「学校内通信」を書く

ということも有効であると考

える。図4-2は,本研究の中で,

実際に協力校で配布した通信

である。「たすくかわら版」

「毅然とした指導」とは,どういう指導のことをいうのでしょうか,今回はそんなことを考えてみました。

子どもたちをのばす,

何気ない指導・支援を集

めてみました。

「子どもの成長を願う,強い思いに満ちた目で」

「子どものよくない行動には,毅然とした指導が必要である。」とよく言われます。しかし,この

「毅然とした指導」は,大切だとわかっていても,なかなか難しいものです。子どもの様子や状態

によって,対忚の基準があいまいになってしまったり,逆に,明確な基準を保つために,必要以上

にきつい指導になり,頭ごなしに子どもを怒ってしまったりすることがあります。子どもたちの様

子やその場の状況,自分自身の心の状態に左右されず,子どもたちに大切なことを伝えていくため

にはどうしたらよいのでしょうか。

六年生の授業の様子です。算数の時間に反比例の学習をしていました。反比例について,自信が

なかったのか,集中できない子どもがいました。友だちがわかるように説明をしてくれているにも

かかわらず,話を聞くことができていなかった子どもに対して先生が指導しました。

C:一方の値と他方の値が決まった…(後略)。

T:○○くん,聞いていましたか。

C:聞いていませんでした。(あまり反省のない様子)

T:それは,一生懸命話している相手に対して失礼です。

(強い思いに満ちた目で子どもを見つめる。)

C:・・・。(真剣な表情になる)

T:しっかり聞いてくださいね。

C:はい。(聞く姿勢を取る)

子どものあまり反省のない態度に対して,冷静に対忚し,強い思いに満ちた目で教師の思いを伝

え,子どもに反省をうながしました。その目は,にらみつけるような強さではなく,子どもの成長

を願う一生懸命な思いが表れた強さでした。その思いがきっと子どもに伝わったのだと思います。

「毅然とした指導」とは,このような子どもの成長を願う,教師の強い思いの中から出てくるの

だと感じさせられる一場面でした。

「魔法の言葉などはない。あるのは,心を込めて伝える言葉。」

これは,フィギュアスケートの浅田真央や村上佳菜子を育てた山田満知子コー

チの言葉です。「子どもの成長のためにどのような言葉をかけるのか,一生懸命考

え,悩むことが大切。」とインタビューに答えておられました。どのような一流の

コーチでも,魔法の言葉はないのですね。子どものために考え,悩み,子どもの

成長を願う思いを大切にして,子どもたちに関わっていきたいと思いました。

No.17 平成 23年 11月 25日 山口 賢

図4-2 先生方の実践を伝える通信

Page 40: 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識E0303 報告549 自発的,自治的な集団づくりを通して育む規範意識 -規範を内面化していくための指導行動と活動プログラムの開発-

小学校 学級経営 38

という名前を付けて,先生方の子どもたちの成長

を支える細やかな指導や支援をまとめた。このよ

うな通信を配布することの目的は二つある。

一つめは,他の教職員の指導や支援を参考に

し,学級経営力を向上させることである。コミュ

ニケーションを図る時間を設定することが難しく

ても,紙面にして配布しておけば,他の教師の指

導や支援の仕方を知ることができる。

二つめの目的は,各教師が,自分の指導のよい

ところに目を向けることができるようにすること

である。自分の指導の悪いところはよく見える。

しかし,自分の指導や支援のよいところはなかな

か気付きにくいものである。特に指導がうまくい

かず落ち込んでいるときは,悪いところばかりに

目が行く。他の教師がよいところを通信で取り上

げることにより,それぞれの指導のよいところを

意識できるようにしていく。そのことで,子ども

の前に自信をもって立てるようになれば,学級が

よくない状況であっても好転していくのではない

かと考える。

本研究で,授業を参観させていただいて,若手

教員と一定の経験を積んだ教員との違いは,自分

のスタイルを確立しているかどうかであるという

印象を受けた。一定の経験を積んだ教員は,自分

の特性を把握し,自分にあった指導,自分の良さ

を生かした指導を継続して行っている。そこに独

自の教育観が見えるのである。若手教員は,その

ような教育観をつくり上げていく途上にあり,自

分の指導の仕方について悩んでいる様子が見られ

る。悩みから指導がぶれたり,よい指導をしなけ

ればと頑なに思うあまり,あれこれと指導の仕方

が変わってしまい,単発的な指導になったりする

ことがあった。

いろいろと悩み,そして,困難を乗り越えてい

くことは,自分なりの教育観を確立していく上で

必要なことである。そのためには,自分の良さを

しっかりと見つめ,それを軸として教育活動を

行っていくことが重要であると考える。自分の良

さを知っているからこそ,自分の至らない点も正

確に受けとめることができる。そして,よいとこ

ろを伸ばし,悪いところを改善していくことがで

きると考えるからである。

また,良さだけでなく,失敗や悩み,困りを共

有することができるゆとりをもちたい。畑村は,

「大切なのは,失敗しないことではなく,失敗に

正しく向き合って次に生かすことである」(30)と

述べている。このような考え方ができれば,失敗

さえも学校の財産となる。

学校の中には,「たすくかわら版」で挙げたよ

うな素晴しい財産がたくさん眠っている。その財

産をみんなで共有できるように,何らかの形で目

に見えるようにしていくことが,学校全体で学級

経営力を高めていくことにつながるのではないだ

ろうか。そして,学級経営に悩みをもつ若手教員

が自分の良さを見つめ,自分のスタイルを確立し

ていく過程を支えられる環境をつくっていくこと

ができると考える。

(29) 前掲(22) 2010.5 p.15

(30) 畑村洋太郎『失敗学のすすめ』講談社文庫 2005.4 p.301

おわりに

2年間,学級経営の研究をしてきた。研究を重

ねれば重ねるほど,学級経営の難しさを思い知ら

されることとなった。学級には,様々な個性をも

つ子どもたちが存在している。そして,一人一人

の心の状態も常に安定しているわけではない。そ

のような子どもたちに寄り添い,どのように指

導,支援することが,子どもたちの成長を支えて

いくことになるのか。担任をしている限り,考え

続け,悩み続けなければならないことなのだろう

と思う。しかし,難しさを感じながらも,不思議

と前向きな気持ちになれるのは,参観させていた

だいた先生方の懸命に子どもたちと向き合う姿

に心を動かされてきたからである。

本研究の実践を通して,一番強く感じたのは,

子どもが一生懸命学習しているときには,必ず教

師が「笑顔」であるということである。教師が「笑

顔」であるということだけで,子どもたちにたく

さんのパワーを与えていると感じた。そして,子

どもたちが楽しい気持ちになり,「笑顔」を返せ

ば,教師もまた楽しくなる。

このような好循環をつくり出す「笑顔」の素晴

らしさを改めて実感した。子どもたちの前に,「笑

顔」で立ち,「明日も楽しみだ」と元気を与えら

れる教師になるためにも,本研究が役に立つよう

にと願っている。

最後に,本研究の主旨を理解して,快く授業に

取り組んでいただいた研究協力員,教職員の皆様

にこの場を借りて心から感謝の意を表したい。そ

して,研究協力校の子どもたちが,人とともに生

き,心豊かに成長していってくれることを願って

いる。