台湾向け輸出用生果実のモモシンクイガへの対応...sosは、elsinoë...

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-- モモシンクイガ( Carposina sasakii :シンクイガ 科)は日本、中国、ロシア及び朝鮮半島に生息 し、リンゴ・ナシ・モモ・スモモ等のバラ科の生 果実等を食害する。 台湾は、2006年(平成18年)2月に日本産リン ゴ・ナシ・モモ・ス モモ等のモモシンク イガ寄主生果実を輸 入禁止とし、日本と 台湾との間で合意し た検疫条件に従った 生果実のみ輸入を認 めるとした。その 後、合意に従った生 果実が台湾に輸出さ れているところであ る。 2010 年(平成 22 年)8 月に台湾にお ける輸入検査で山梨 県産モモ生果実から モモシンクイガの幼 虫が発見されたことから、同県産のモモシンクイ ガ寄主生果実は、輸出が暫定的に停止されること となった。 原因調査の結果、改善措置として、①登録生産 園地に設置しているフェロモントラップの増設に 台湾向け輸出用生果実のモモシンクイガへの対応 海外のニュース 米国で分布を拡大する Sweet orange scab(スイート・オレンジ・スキャブ)病 よるモモシンクイガの発生予察精度の向上、②登 録生産園地及びその隣接園地に対する巡回指導の 強化、③豪雨等異常気象の際の追加防除、④モモ シンクイガの防除効果がより高い薬剤の使用、⑤ 作業環境の改善による選果精度低下防止等を提示 した。 本改善措置につい て、農林水産省から台 湾側に提出し、輸入停 止措置の解除を要請し たところ、改善措置の 確実な実施を条件とし て、同年12 月に山梨県 産モモシンクイガ寄主 生果実の輸出の再開が 認められた。 本制度が開始されて 以降、台湾の輸入検査 においてモモシンクイ ガが発見されたのは今 回が初めての事例であ り、再度発見されるこ とのないよう、植物防疫所では輸出検査を強化し ているところである。各生産地においても、山梨 県の原因調査及び改善措置を参考にしていただ き、また、地方農政局や産地県の指導により、的 確な防除や適切な選果をお願いしたい。 米国農務省動植物検疫局(USDA APHIS)は、 20107月にテキサス州、同年8月と10月にルイジ アナ州及びミシシッピ州でSweet orange scab(SOS) が発見されたことを受け、同年12月に上記3州全 域を同病の検疫地域に指定し、カンキツ類の生果 実や生植物等の州間移動規制を開始した。 その後、同年12 月から翌2011 1 月にかけて は、フロリダ州及びアリゾナ州でもグレープフ ルーツ樹、ダイダイ樹及びタンジェリン樹から SOSが相次いで発見されたため、両州全域も検疫 地域に追加された。 SOSは、 Elsinoë australis という糸状菌の一種に よるもので、主にスウィートオレンジやタンジェ リンに発生する。果実に直径26mmのかさぶた (scab)状の病斑を形成するのが特徴であるが、ま れに葉や枝にも病斑が見られる。り病した果実 は、外見が損なわれ、商品価値をなくす。本菌 は、病斑に生じた分生子が雨滴とともに飛散し 伝染する。落花後、68週間が最も感染しやす い時期である。我が国では、本菌に類似の Elsinoë fawcettii によるカンキツそうか病が発生している が、SOSの病斑の方が大型で平滑、より円形であ る。 SOS の分布地域は、米国、南米(アルゼンチ ン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、ボリビ ア)、オセアニア(クック諸島、フィジー、ニウエ) である。 SOSは日本未発生で、植物検疫上、重要検疫有 害動植物に位置づけており、ポジティブリストに 明記されたことから、米国産カンキツ類の輸入検 査で生果実の病斑の有無を綿密に確認するとと もに、カンキツ類の種苗については隔離検疫を行 い、本病の侵入を防止している。 (参考)米国農務省ホームページ http://www.aphis.usda.gov/plant_health/plant_pest_info/citrus/sweet_orange.shtml 横浜植物防疫所 川口 嘉久 編集責任者 藁谷 一馬 掲載 植物防疫所ホームページ http://www.maff.go.jp/pps/

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モモシンクイガ(Carposina sasakii:シンクイガ科)は日本、中国、ロシア及び朝鮮半島に生息し、リンゴ・ナシ・モモ・スモモ等のバラ科の生果実等を食害する。

台湾は、2006年(平成18年)2月に日本産リンゴ・ナシ・モモ・スモモ等のモモシンクイガ寄主生果実を輸入禁止とし、日本と台湾との間で合意した検疫条件に従った生果実のみ輸入を認め る と し た 。 そ の後、合意に従った生果実が台湾に輸出されているところである。

2 0 1 0年(平成2 2年)8月に台湾における輸入検査で山梨県産モモ生果実からモモシンクイガの幼虫が発見されたことから、同県産のモモシンクイガ寄主生果実は、輸出が暫定的に停止されることとなった。

原因調査の結果、改善措置として、①登録生産園地に設置しているフェロモントラップの増設に

台湾向け輸出用生果実のモモシンクイガへの対応

海外のニュース 米国で分布を拡大する Sweet orange scab(スイート・オレンジ・スキャブ)病

よるモモシンクイガの発生予察精度の向上、②登録生産園地及びその隣接園地に対する巡回指導の強化、③豪雨等異常気象の際の追加防除、④モモシンクイガの防除効果がより高い薬剤の使用、⑤作業環境の改善による選果精度低下防止等を提示

した。本 改 善 措 置 に つ い

て、農林水産省から台湾側に提出し、輸入停止措置の解除を要請したところ、改善措置の確実な実施を条件として、同年12月に山梨県産モモシンクイガ寄主生果実の輸出の再開が認められた。

本制度が開始されて以降、台湾の輸入検査においてモモシンクイガが発見されたのは今回が初めての事例であり、再度発見されるこ

とのないよう、植物防疫所では輸出検査を強化しているところである。各生産地においても、山梨県の原因調査及び改善措置を参考にしていただき、また、地方農政局や産地県の指導により、的確な防除や適切な選果をお願いしたい。

米国農務省動植物検疫局(USDA APHIS)は、2010年7月にテキサス州、同年8月と10月にルイジアナ州及びミシシッピ州でSweet orange scab(SOS)が発見されたことを受け、同年12月に上記3州全域を同病の検疫地域に指定し、カンキツ類の生果実や生植物等の州間移動規制を開始した。

その後、同年12月から翌2011年1月にかけては、フロリダ州及びアリゾナ州でもグレープフルーツ樹、ダイダイ樹及びタンジェリン樹からSOSが相次いで発見されたため、両州全域も検疫地域に追加された。

SOSは、Elsinoë australisという糸状菌の一種によるもので、主にスウィートオレンジやタンジェリンに発生する。果実に直径2~6mmのかさぶた(scab)状の病斑を形成するのが特徴であるが、まれに葉や枝にも病斑が見られる。り病した果実は、外見が損なわれ、商品価値をなくす。本菌は、病斑に生じた分生子が雨滴とともに飛散し伝染する。落花後、6~8週間が最も感染しやすい時期である。我が国では、本菌に類似のElsinoë

fawcettiiによるカンキツそうか病が発生しているが、SOSの病斑の方が大型で平滑、より円形である。

SOSの分布地域は、米国、南米(アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、ボリビア)、オセアニア(クック諸島、フィジー、ニウエ)である。

SOSは日本未発生で、植物検疫上、重要検疫有害動植物に位置づけており、ポジティブリストに明記されたことから、米国産カンキツ類の輸入検査で生果実の病斑の有無を綿密に確認するとともに、カンキツ類の種苗については隔離検疫を行い、本病の侵入を防止している。 (参考)米国農務省ホームページ

http://www.aphis.usda.gov/plant_health/plant_pest_info/citrus/sweet_orange.shtml

発 行 所 横浜植物防疫所

発 行 人 川口 嘉久

編集責任者 藁谷 一馬

掲載 植物防疫所ホームページ http://www.maff.go.jp/pps/