実践的視点からみるカジノ賭博規制制度と その成り …...3...

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1 実践的視点からみるカジノ賭博規制制度と その成り立ち:ネバダ州カジノにおける犯 罪組織排除のケース 米日経済協議会| 2017 8 23 Jennifer Roberts, J.D. Brett Abarbanel, Ph.D. Bo Bernhard, Ph.D. With Contributions from André Wilsenach, Breyen Canfield, Ray Cho, and Thuon Chen

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実践的視点からみるカジノ賭博規制制度と

その成り立ち:ネバダ州カジノにおける犯

罪組織排除のケース

米日経済協議会| 2017 年 8 月 23 日

Jennifer Roberts, J.D.

Brett Abarbanel, Ph.D.

Bo Bernhard, Ph.D.

With Contributions from André Wilsenach, Breyen Canfield, Ray Cho, and

Thuon Chen

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実践的視点からみるカジノ賭博規制制度とその成り立ち:ネバダ州カジノにおける犯

罪組織排除のケース

はじめに ................................................................................................................................................ 3

リポートの概要 ............................................................................................................................... 3

ネバダ州におけるカジノ賭博合法化の歴史 ............................................................................... 4

ネバダ州 (西部辺境無頼の地) の賭博合法化 ........................................................................... 4

ネバダ州の開放型賭博法案 ....................................................................................................... 5

ラスベガス中心部(The Strip)の開発——マフィアの参入 ...................................................... 6

転機——上院議員キーフオーバーの公聴会とその影響 ....................................................... 7

企業化への波 ............................................................................................................................. 10

マフィア残党とフランク・レフティー・ローゼンソール ................................................. 10

州外の犯罪組織の排除——現在のネバダ州規制法 ............................................................. 13

規制制度のメカニズム ................................................................................................................. 14

ライセンスの事前審査と背景調査 ......................................................................................... 14

規制を守るコンプライアンス・プログラム ......................................................................... 18

アンチ・マネーロンダリング(AML)法のコンプライアンス ........................................ 19

違反行為に対する行政処分 ..................................................................................................... 20

不適切な人物の排除 ................................................................................................................. 21

ネバダ州規制法システムに見る様々な示唆 ......................................................................... 22

結論と提言 ..................................................................................................................................... 26

研究チームプロフィール ............................................................................................................. 28

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実践的視点からみるカジノ賭博規制制度とその成り立ち:ネバダ州カジノにおける犯

罪組織排除のケース

はじめに

本リポートは、UNLV インターナショナル・ゲーミング・インスティチュート(IGI)とイ

ンターナショナル・センター・ゲーミング・レギュレーション(ICGR)による調査に基づ

き、ネバダ州が規制、法律、業界の自己管理を通じ行なった犯罪組織に対する取り組みの

概説である。はじめに特筆しておかなければならないのは、ネバダ州ラスベガスのカジノ

が、犯罪組織の排除において前例のない成功を収めてきたことである。ネバダ州の統合型

リゾート(IR)は、犯罪組織の関与を阻止する対策をとったことにより、国際金融機関や投

資会社の支援を得て繁栄してきた。同様に、犯罪組織の排除をきっかけとし、それまで米

国内で悪評の高かった賭博が、社会に広範に受け入れられるようになったことも注記した

い。当時の賭博に対する米国社会の認識は、現在の日本の批判的なそれと近似していた。

しかし、今日ネバダ州の努力の結果、ラスベガスを訪れた観光客数は昨年度で 4200 万人以

上と史上最高を達成している11。

日本は今カジノ合法化という新しい時代に向かっている。本レポートの目的は、米国ネバ

ダ州がカジノ観光業界に巣食っていた犯罪組織の問題にどのように対処したか、また対処

の方策が、カジノを中心とする観光ビジネスをいかに成功に導いたかを包括的にレビュー

するものである。

リポートの概要

本レポートは、まず、最初の章でネバダ州におけるカジノ賭博の合法化について概説する。

内容は、当初、規制のしくみの焦点は州の収入にあったこと、それが適合性基準を重視す

る現行システムへ進化したこと、などを含む。また、犯罪組織の勢力の拡大と衰退につい

て、当時の有名な事件・事例をとりあげて、それが近代のゲーミング・システムにいかに

影響したかを解説する。また、ここでは現在の規制構造に至った政策上の事由も分析して

いる。

次の章では、犯罪組織に対し効果的な障壁となる厳格なライセンス取得のプロセスおよび

行政処分について詳述する。また、マネーロンダリングや他の犯罪のリスクを防ぐカジ

ノ・コンプライアンス・プログラムについて説明し、ネバダ州とシンガポールのジャンケ

ット・オペレータと VIP ルームの規制監視のあり方を分析、両地区のカジノにおいて組織

的犯罪の懸念が僅かである理由について考察する。米国および世界のカジノが、ネバダ州

の経験を、どのように応用して(あるいは、しないで)、犯罪組織の影響下にあったゲーミ

ング業界を成功させるに至ったかの議論で締めくくっている。

1 Las Vegas Convention & Visitors Authority, Historical Las Vegas Visitor Statistics, available at http://www.

lvcva.com/includes/content/images/media/docs/Historical-1970-to-2016.pdf.

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最後の章「結論と提言」は、これまでの考察を日本のユニークなケースに応用した。特に

関連政策(ライセンスや主要変動要因を含む)の決定が、どのように効果の高い規制シス

テムの設計に貢献するかに焦点を当てている。

ネバダ州におけるカジノ賭博合法化の歴史

米国内(および世界各国)での商業カジノの拡大は比較的最近の現象であるが、米国全土

で無秩序なゲーミング(賭博)が行われていたことは何百年にもわたりに記録されている。

そのアンダーグランドな遊戯のイメージは、秘密のノックで開くドアの奥のサルーン、タ

バコの煙が立ち込めたポーカーゲームといったものであった。しかし、昨年、考古学者が

ユタ州で約 800 年前2の部族の遺構からアメリカ最初のギャンブルゲームと思われる 17,000

個余の破片を発掘したニュースがあったところでもある。

さらに、賭博は歴史的にアメリカ社会に広く受け入れられており、欧州移民が米国入植地

を開拓した時点で、合法化された宝くじが数種類すでに知られていた。事実、宝くじの収

益は、ワシントン D.C.の建設、ハーバード大学設立、独立戦争の資金援助に使われている。

その後禁制となったが、合法化に向けた激しい議論の末、宝くじは 1964 年に再び合法化さ

れ、現在 50 州のうち 44 州で公的宝くじを採用している。

ネバダ州 (西部辺境無頼の地) の賭博合法化

1931 年、最初に商業カジノ賭博を合法化した州はネバダ州であった。ネバダ州は、1931 年

以前よりその合法化を度々試みていた。ネバダが準州から州となる以前から、賭博は、サ

ンフランシスコのゴールドラッシュに押し寄せる人たちをはじめこの土地を通る人たち3を

対象に遊興として行われていた。20世紀に入ってもしばらくは、合法非合法にかかわら

ず、遊興地はネバダ北部が中心であり、現在ギャンブルの中心である州南端部ラスベガス

ではなかった。

1861 年、ネバダが準州の時代、ゲーミングの運営を重罪とする厳格な法律が制定された4。

しかし、それにもかかわらず、賭博はコミュニティの中で生き残った5。1864 年、州となっ

たネバダでは、相変わらず違法賭博が絶えないなか、公的宝くじを禁止する条項を州憲法

に追加した6。

翌年、ネバダ州議会は、賭博合法化およびオペレータのライセンス制度の制定を試みた。

しかし、道徳的見地から賭博に反対した州知事ヘンリー・G・ブラズデル(Henry G. Blasdel)

2 Becca Stanek, Archeologists discover 800-year-old ‘casino’ in Utah, The Week (Dec. 18, 2015), available at

http://theweek.com/speedreads/595097/archaeologists-discover-800yearold-casino-utah 3 Legalized Gambling in Nevada: Its History, Economics and Control, Nevada Gaming Commission & State

Gaming Control Board, at 7 (1963)

4 Id.

5 Id.

6 Id.

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5

が拒否権を行使し失敗した7。しかし、1869 年、議会はこの拒否権を覆し再び賭博を合法化

した8。ここで制定された規制システムで、オペレータは四半期ごとにライセンス料の支払

いが義務付けられたが、17 歳未満は入場禁止という点を除いてほとんど規制らしいものは

なかった9。同州の賭博は州北部リノやタホ湖に近いバージニアシティで特に盛んで、1878

年には 49 のギャンブルサルーンが稼動していた10。

賭博は、1909 年まで緩い規制により合法であったが、反賭博団体の圧力により、既存賭博

施設は 18 ヶ月の営業を限度として閉鎖、違反すれば重罪訴追されるという法律が成立した11。しかし、この法律をもっても賭博を抑止できなかった12。6 年後にこの法律が改正され、

酒、葉巻、または賞金が 2 ドルまでの小口賭博を合法としたが、大口の賭博は相変わらず

継続され、実際、禁止令が執行されることはまれであった13。

19 世紀末期、ネバダ州をはじめ他州では鉱山や鉄道会社の賄賂やロビー活動で政治の腐敗

が蔓延し、また鉱山の町では様々な違法行為がみられた14。これ以上事態が悪化を防ぐため

にも、「ネバダ州は地下組織で繁栄する違法賭博が招く政治的腐敗という落とし穴を避けた

かった」15。また、ネバダ州では、包括的なゲーミング行為の合法化が闇賭博を阻止すれば、

税収をもたらすと認識するに至った16。

ネバダ州の開放型賭博法案

1931 年、違法賭博の蔓延と「賭博が規制されていない(お金を徴収していない)」ことに

業を煮やしたネバダ州のある農村部の郡代表が、ネバダ州議会に「開放型賭博法案」を提

案した17。大反対を受けたにもかかわらず、法案は 1931 年 3 月 19 日に署名され法となった18。この法律は規制に関する内容はほとんどなく、ブックメイキング(競馬)やスポーツ賭

博を含む「すべての形態のギャンブルを認可する」ものだった19。

この新法は、地方法執行機関が監督する各地方郡レベルで、オペレータから税金や手数料

を回収することを定めた20。 しかし、各地方警察は、ゲーミング・オペレータの背景調査

や、適合性審査を行っていなかった。無免許のゲーミング運営や不正行為に対する禁止事

7 Id. at 8

8 Id.

9 Id. at 9.

10 “A Marvelous Book, Territorial Enterprise” (Feb. 26, 1878) at 2.

11 See supra n.3 at 10.

12 Id.

13 Id. at 10-11

14 Leslie Nino Fidance, “The Mob Never Ran Vegas,” GAMING LAW REVIEW & ECONOMICS, Vol. 13, Number

1 at 1 (2009). 15

Id. 16

Id. 17

See supra n. 3 at 11. 18

Id. 19

Jerome H. Skolnick, “House of Cards: The Legalization and Control of Casino Gambling” 108 (1978). 20

See supra n. 3 at 11

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6

項はあったが、地方法執行機関の役割は主にゲーミング税の取立てとライセンスの発行で

あった21。

しかし、地方の監督制度では、州が無免許、不正行為を禁じているにも関わらず州の管轄

がゲーミングの監督および規制の執行に全く及ばなかった22。この状況に関心が高まる一方、

ネバダ州のリーダーたちは 1930、40 年代の成長に続く戦後の躍進により、ゲーミングは州

の収入をあげる可能性があると考えた23 。そこで、 1945 年、ネバダ州議会は州によるゲー

ミング規制管理の必要性が高まったとして、ネバダ州税制委員会(Nevada Tax Commission)

にゲーミングに関するルールと規制の作成を命じた24 。 これにより、ネバダ州税務委員会

の指定された者は、逮捕権、業務記録や財務諸表へのアクセス権など警察組織と同様の権

限が与えられた25 。一方、ネバダ州リノ地区のゲーミング・オペレータたちは、法規制を

順守しており、運営は道徳的見地に立った正当性があるとして、違法なオペレータや詐欺

犯罪者たちとの違いを差別化した26。リノ地区では、ギャンブルルームを街の歩道から完全

に可視化して、「隠していることは何もない」という印象を醸成した27。

ラスベガス中心部(The Strip)の開発——マフィアの参入

ネバダ州南部では、1931 年に建設が始まったフーバー・ダムが突然主要観光スポットとな

ったため、ラスベガスの地元有力者は、観光と地元経済の発展のために投資意欲のある人

たちを歓迎した28。結果的にこれは当時の悪名高きマフィアたちのカジノビジネス参入を招

いた。その一人ベンジャミン・バグジー・シーゲル(Benjamin "Bugsy" Siegel)が 1946 年

にフラミンゴ・ホテル&カジノを開設した際、地区の役人や市民はたいした抵抗もなくこ

れを受け入れた。この事実は、当時の社会状況を如実に示している29。ネバダ州副知事でさ

え、「不適切な人たち」が一部のカジノに群がっているが「問題を起こすような行動がなけ

れば・・・害はないだろう」と結論づけた30。しかし、現実として、商業カジノが始まった

ころ、悪名高い人物や違法な賭博オペレータがカジノ経営を許されていなければ、今日の

ゲーミング産業(ラスベガス自体も含め)は存在しなかったであろう31。特に銀行や他の金

融グループがカジノへのローンや投資を断る中で、事実このような人たちが、「資金と手腕

をより洗練されたゲーミング産業の振興32のため投入」していた33。この分野の研究の父と

21

Id. at 11-12 22

Id. 23

See supra n. 14 at 27-28. 24

See supra n. 3 . at 12. 25

Id. 26

John M. Findlay, “People of Chance: Gambling in American Society from Jamestown to Las Vegas” 118-20

(1986); see also supra n. 19. 27

See supra n 19 at 109 28

Mary Ellen Glass, “Nevada’s Turbulent 50s,” University of Nevada Press (1981) at 26-27. 29

Id. at 27; see also Ronald A. Farrell & Carole Case, “The Black Book and the Mob,” University of Wisconsin

Press (1995) at 23 30

See supra n. 14 at 28. 31

See supra n. 28 at 27.. 32

See Farrell & Case, n. 29 at 22,

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もいえるパイオニアのウィリアム・イーディントン(William R. Eadington)博士は、「ゲーミ

ング産業は高い収益と経済規模を特徴とするものの、主流の金融資本から資金の借り入れ

や証券取引ができないため、事業を拡大するため時には怪しげな金融に手を出さざる得な

かった」と述べている34。

ネバダ州税務委員会の権限の強化にもかかわらず、犯罪組織は依然としてネバダ州内カジ

ノで勢力を保ち、州の費用負担は莫大となった。この困難な時期に、マフィアの脱税行為

によりが数百万ドルもの税収が失われていた。カジノ 1カ所あたり、年間 700万ドルが奪

取され、東部マフィアの懐に入っていたのだ35。州外の違法賭博オペレータがネバダ州内に

入り込み合法的にカジノを運営したため、問題を悪化させた可能性があった36。

注目すべき点は、ネバタ州のカジノには、カジノを一手に支配するような犯罪組織はなく37、

むしろ、「個人が緩やかにグループを構成し、それが様々なレベルで組織化され、犯罪へと

繋がっていた38」ことだ。しかし、このような繋がりにも関わらず、一部のオペレータは、

事業が閉鎖されるリスクより、法律や規制の枠内でルールに従ってビジネスを行なった法

が良いと判断した。

1953年、ネバダ州議会は、ゲーミング・ライセンス取得の資格を制定した。以下に該当し

ないことが資格の最低条件とされ、該当すれば自動的に資格なしとされた39:(1)過去 5年

間の重罪、窃盗、麻薬犯罪、銃器犯罪で有罪判決を受けた場合、 (2)21歳未満であるこ

と、(3)市民権がないか外国人であること40。しかし、違法賭博の有罪判決を受けても、ラ

イセンス剥奪に至らなかったことは特に留意しておきたい。

転機 ——上院議員キーフオーバーの公聴会とその影響

この時期、テネシー州の政治的野心に溢れた上院議員、エステス・キーフオーバー(Estes

Kefauver)は、州間を跨いだ犯罪を調査する上院特別委員会の一環として 14 の都市41で議

会の聴聞会を開催した42 。これは、犯罪組織の問題をターゲットとしていた。キーフオー

バーは、ネバダ州のカジノに犯罪組織が存在するとの懸念から、1950 年 11 月 15 日ラスベ

33

William S. Boyd, Foreword, NEVADA GAMING LAWYER 3 (Sept. 2016). 34

William R. Eadington, The Economics of Casino Gambling, 13 J. ECON. PERSP.173, 175 (1999). 35

J. Patrick Coolican, “Was life really better when the Mob ruled Las Vegas?” Las Vegas Sun (Feb. 20, 2012).

36

See supra n.14 at 28. 37

Id at 39. 38

Id. (citing David G. Schwartz, Vegas and the Mob: The Real Story, CASINO CONNECTIONS NEVADA, Mar. 2008 at 27). 39

Lionel Sawyer & Collins, NEVADA GAMING LAW: THE AUTHORITATIVE GUIDE TO NEVADA GAMING LAW 56 (3d

Ed. 2000) 40

Id. 41

See supra Farrell & Case, n.29 at 24. 42

Jeff German, “From Siegel to Spilotro, Mafia influenced gambling, regulation in Las Vegas,” L.V. Rev. Journal

(Mar. 9, 2014)

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ガスで公聴会を開催した43。のちのラスベガスの景観、ひいては世界のゲーミング業界の姿

を永遠に変えた転機として、この公聴会の重要性は計り知れないものがある。

キーフオーバー率いる委員会は、犯罪組織との関係が疑われる数名を証人として呼び証言

させた44。聴聞会から得た結論の 1 つは、ネバダ州税制委員会が管轄する現行のゲーミン

グ・ライセンス・システムでは、不適切な人間の排除が十分機能していないことだった45。

これをきっかけに、キーフオーバーと他の賭博反対派の政治家は、連邦政府が賭金の 10%

を課税46する案を積極的に進めた。しかし、もしこれが実現すればネバダのゲーミング産業

は壊滅的な打撃を被るものであった。

この連邦政府の圧力を恐れたネバダ州政府は、カジノを運営する人物の適格性に的を絞っ

た規制制度の強化に取り組むこととなった。ラスベガスの新聞が、マフィアが複数の無認

可のまま地元カジノに闇の利権をもっているという報道をしたため、更にこの取り組みに

注目が集まった。そこで ネバダ州ゲーミング管理理事会(Nevada State Gaming Control

Board、以下 GCB)が 1955 年に創設され、ネバダ州税制委員会の「執行および調査部門」

として機能することとなった47。GCB は、今日まで世界的な尊敬を受ける機関であるが、

犯罪組織対策のため、ネバダ州のカジノに根をはる「不適切」要素の排除を目的としてい

た48。 同時に、ネバダ州議会は、ゲーミング規制に関する次のような公共政策を策定した。

それは、ゲーミングの運営とは、州内の「住民の健康、安全、モラル、秩序、公共福祉を

守ることを前提にライセンスの認可を受け規制により管理される」ものであり、「取消可能

な便益」であるというものであった49。

その後直ちに司法当局は、ゲーミング規制当局の立場を強化し、州内ゲーミング業界から

不適切な人物を排除する権限を与えた。1957 年、ネバダ州税委員会対ヒックス(Hicks) 50の

判例では、ネバダ州最高裁判所は、ネバダ州税委員会による 2 件のゲーミング・ライセン

ス停止を認めた。 裁判所は、適格性の決定はネバダ州税委員会の専門分野であり、かかる

決定の是非を判断することは裁判所の役割ではないと結論付けた51。さらに、次のとおり、

裁判所は犯罪を排除することは、ゲーミング規制当局の重要な責務であると認めた。

ネバダ州は、カジノを合法化することにより、カジノを犯罪組織の収入源の

逃げ場としてはならない。ネバダ州のゲーミングが、合法的事業体として成

功するためには、州界を越えた賭博行為が起こす犯罪、腐敗といった汚塵を

撲滅しなければならない。これを達成するためには、賭博の運営を慎重に監

43

Id. 44

See supra n. 28 at 24. 45

Id. at 25. 46

See id. at 32. 47

See id. at 35. 48

Id. 49

See NRS 463.0129 (1955) 50

73 Nev. 115 (1957) 51

Id. at 122.

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9

督するだけでなく、この州で賭博に従事する人物の背景調査を綿密に行う必

要がある52。

その 2 年後、ネバダ州ゲーミング委員会(Nevada Gaming Commission、以下 NGC)が創設

された53。これは、ネバダ州税委員会が担っていた業界監督の行政上の負担軽減と政治的圧

力からの切り離しが目的であった。その結果、ネバダ州では、2 層からなるゲーミング規

制体制が確立した。1層目は、3名のフルタイムメンバーからなる GCB である。GCB は、

監査、技術、調査、執行、管理、税務、ライセンスなど各関係部局を代表する数百人から

なるスタッフメンバーを抱え、ライセンスに関する勧告、その他問題の訴追機能を担った。

2 層目は、知事の任命による民間団体 NGC で、5 名のパートタイム・メンバーで構成され、

ライセンスの許認可のほか諸問題解決の最終権限裁定者として働いた。

この間、当時の近代賭博制度の父と呼ばれるネバダ州知事グラント・ソーヤー

(Grant Sawyer)が、ゲーミング事業に対し厳格なアプローチをとるため新たな公式声

明"Get tough and stay tough”を発表した54。以下その一部を引用する:

ライセンスを認可するにあたり、申請者の既存のビジネスに対し、犯罪の要

素、マフィア、シンジケートの利害や影響力を及んでいないか、心底納得で

きる徹底的な調査が不可欠となる。新規申請人については、特に犯罪歴やマ

フィアとの関係に重点を置いて背景を慎重に調査することを求める55。

当時の米国検事総長ロバート・ケネディは、蔓延する組織犯罪の中心は賭博と見ていた。

ソーヤー知事は、連邦政府の干渉圧力、地元カジノマフィアの 「反撃」という板挟みから

道を開くため、なんとしても厳格な姿勢をとる必要があったのだ56。 1961 年、知事は「連

邦特殊部隊がリノとラスベガスの全主要カジノを強制捜査するため結成されている」とい

う事態を知った57。ソーヤー知事と州司法長官フォーリー(Roger D. Foley)は首都ワシントン

まで出向き事態を収拾した。しかし、連邦政府による盗聴や司法省のカジノ閉鎖の圧力に

もかかわらず、ゲーミング業界はネバダ州で引き続き拡大していった58。

ソーヤー知事の厳格な新方針の下、GCB はカジノに対し「不適切な人物」リストを配布し

該当人物がカジノ施設を頻繁に利用しないよう、またこれに従わない場合はライセンス失

効の恐れがあると警告した59。 1960年、有名な「ブラックブック」はネバダ州規制当局に

よって作成された60。 正式には、排除対象者リストと呼ばれ、はじめは犯罪組織一家と関

52

Id. at 119. 53

See supra n. 35. 54

See supra n. 3 at 13. 55

Id. at 12. 56

See supra n. 42 (quoting David Schwartz) 57

“Hang Tough! Grant Sawyer: An Activist in the Governor’s Mansion,” University of Nevada Oral History

Program (1993) at 89. 58

Id. 59

See supra n. 3 at 12. 60

See supra n. 42.

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10

係を持つ 11 人の名前が含まれていた61。 リストに載っている人物は州内全カジノへの立ち

入りが禁止された62。

この厳しい規制の始まりを支持した人たちは、この局面がのちに世界有数の人気観光地と

してモダンに生まれ変わるラスベガスを生み出すことになるとは、おそらく予想もしてな

かっただろう。 実際、組織的な犯罪要素を「一掃」したこの時期がなければ、今日の素晴

らしい観光統計が実現することは決してなかったはずだ。

企業化への波

強制捜査の中止やブラックブックの数年後、伝説の億万長者のハワード・ヒューズが、犯

罪組織が経営していたカジノを含め、ラスベガスのカジノを何件か購入した63。 注目すべ

きことは、ヒューズが新世代のリーダーを集め、ビジネススクールの卒業生をカジノ運営

に携わらせ、企業型収益体制を実現したことだ64。 これが、米国企業がゲーミング業界へ

参入し、カジノ賭博がビジネスとして正当な事業形態をとった始まりである。この結果、

1969年、ネバダ州議会は、企業やその他事業がカジノのゲーミング・ライセンスを取得で

きるように、州のゲーミングに関する法律を改正した。それまで、カジノの個人株主は全

員ライセンスの取得を求められたため、事実上企業がカジノを所有することは不可能だっ

た65。それ以来この法律改正により、プライベート・エクィティ・ファイナンス、株式公開

による直接的間接的投資、銀行、保険、年金基金、投資信託、その他公開市場の資金によ

る投資など、資金流入が拡大していった66。

一方、ゲーミングの運営に必要とされた適格性基準は、ネバダ州でゲーミング事業を始め

ようとする犯罪組織にとって、次第に大きな参入障壁となっていた。 1975 年、ネバダ州議

会から付与された権限に基づき67、NGC は、ライセンス取得に関し、現状の最低限の基準

に次のような規制を採択追加した。すなわち申請人は、以下の項目につき、NGC が満足す

る証左を示さねばならない:(1)信頼できる人物であること(善良、正直、誠実であること)

(2)ネバダ州と州内カジノ業界の悪評を招く経歴、評判、交友関係がない人物であること

(3)申請にふさわしい能力と職歴を持つ人であること68

マフィア残党とフランク・レフティー・ローゼンソール

規制制度の近代化、適合性基準の強化、ブラックブックは、新規の犯罪組織集団がゲーミ

ング業界に参入することを阻止する重要な手段であった。 しかし、それにも関わらずマ

61

Id. 62

Id. 63

Id.. 64

“Gaming Regulation in Nevada: The Second Sawyer Administration as remembered by Guy W. Farmer,”

University of Nevada Oral History Program (2006) at 42. 65

See supra n. 42. 66

See generally NRS 463.482 to 463.645; NGC Regulations 15, 15A, 15B, 15C, and 16. 67

NRS 463.150. 68

NGC Regulation 3.090.

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11

フィア関係者は昔日の時代から 1970 年代、80 年代にわたるまで、引き続きカジノに関わり

続けた。そんな時、フランク・「レフティ」・ローゼンソールという人物が、アージェント

社会長のコンサルタントとなった。アージェント社は、ラスベガスで有名なスターダスト69

(現在はない)を含む 4 つのカジノで事業を行っていた。ローゼンソールは、犯罪組織と

の関係に疑惑があったが、TV ショーのホストと務めるになどラスベガスの有名人であった。

興味深いことは、逆説的ではあるが、ローゼンソールが、ネバダ州賭博規制体系を構築し

定着させるため、ある意味大きな役割を果たしたことだ。

1967 年にラスベガスに落ち着いたローゼンソールには、あちこちの土地でプロの賭博や違

法なブックメーキングに関わった経歴があった70。そのため、彼は繰り返し賭博で逮捕され、

フロリダ州の競馬場から締め出されたりもしている71。NGC は連邦捜査局(FBI)の協力に

より、この過去の逮捕歴を把握した。加えて学生スポーツ選手への八百長を目的とした贈

賄罪嫌疑や犯罪組織との関係の疑いが浮上した。 そこで、NGC は、ローゼンソールを聴

問会に召喚、主要従業員として「アージェント社に大きな影響力を及ぼした」可能性につ

いて72についてヒヤリングした。2 日間にわたる審議の後、NGC は、ローゼンソールを主要

従業員とみなし、主要従業員に必要とされるライセンス申請書の提出を命じた73。

ライセンス申請を審査するヒヤリング中、GCB はローゼンソールに次のような説明を行っ

た:

あなたの過去と経歴に関する疑問が出ている。あなたは、疑惑の内容が事実

であるか、また、事実でないとすれば、なぜそんな疑惑を持たれてしまった

のか、我々の前に進み出て明らかにしなければならない74。

また、この時期にネバタ州規制当局はアージェント社のゲーミング施設内でスキミングの

手口よる脱税が行われていることをつきとめた75。

ローゼンソール自身の適格性の実証が不十分であることを理由に、GCB はライセンス認定

を拒否する勧告を NGC に送り、NGC は満場一致でこれを採択した76。NGC による判決は、

ローゼンソールは「ライセンスを供与すればネバダ州の信頼を落とす、または落としかね

ない人物」だと結論づけた。 この判決を機に、ローゼンソールは、ネバダ州の規制当局に

対抗するため一連の訴訟を起こし始めた。

69

Kirk D. Homeyer, “Jeffrey A. Silver: The Man Who Exiled Frank ‘Lefty’ Rosenthal from Nevada Gaming,” 4

UNLV GAMING L.J. 73, 78 (Spr. 2013). 70

Id. at 77. 71

Id. at 82. 72

Id. at 78; see also State v. Rosenthal, 93 Nev. 36, 39, 559 P.2d 830 (1977) 73

Rosenthal, 93 Nev. at 40. 74

See supra n. 69 at 93. 75

Id. at 80. 76

Id. at 94.

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12

規制当局に対する最初の挑戦として、ローゼンソールは、州裁判所に委員会の決定が「恣

意的かつ気まぐれ」であり、彼の憲法上の権利を侵害したと主張した77。下級裁判所は

NGC の決定を無効にしたが、ネバダ州最高裁判所はその決定を覆し、NGC の判決を支持し

た78。裁判所は、「ゲーミングのライセンスは市民の権利事項ではなく州が授与する便益事

項である」とし、これは裁判所の関与するところでなく、ゲーミング規制当局がその権限

によって専任管轄するものであると認めた79。 裁判所は、ライセンスの審査ヒヤリングや

許認可の決定は、刑事訴訟とは違い行政プロセスであるため、伝聞による証言は証拠とし

て採用できると指摘した80。この判決により、NGC が下す決定事項に対する司法当局の関

与は極めて限定的となった81。

この最初のローゼンソール裁判の判決に呼応して、1977年ネバダ州議会はカジノ事業を犯

罪から守る重要性を強調するべく公共政策を改正した。改正法では、「ライセンス認可のゲ

ーミング施設運営に関わる全ての人・各施設の場所・運営の手法・関連組織・活動、およ

びゲーミング機器や関連装置の製造流通業者に対する厳格な規制」を通じ、「ゲーミング業

界は、犯罪・腐敗の要素をなくさねばならない」と制定した82。

さらに加えて、ゲーミング・ライセンス資格要件を増やし、NGC が 1975 年に規定した適

合性基準に準拠するよう公共政策を改定した。ライセンスを求める人は、「善良、正直、誠

実」な社会的信用があること、また、過去の行為、犯罪歴、評判、習慣、関連組織が「公

益」や「ゲーミングの規制を脅かすことがない」と実証することが求められた83。さらに、

ライセンス申請人は次のことを NGC が満足いくよう明らかにすることを求められた。すな

わち、「不適切、不公平あるいは違法な行為や手法およびそれに付随する資金調達などでリ

スクを招いたり増大させない」こと、「総合的に州の公共政策が定めるゲーミング事業のあ

るべき姿に則ったライセンス供与に相応しい人物」であること84。

裁判に負けた後も、ローゼンソールはゲーミング業界と関係を断つことはなかった。主要

従業員はライセンスが必要なため、そう見なされない肩書きと給料なら問題ないだろうと

考え、スターダストホテル85の 「フード&ビバレッジディレクター」となりその後は「エ

ンターテイメントディレクター」となった。NGC はこの策略を見破り、再び主要従業員と

してライセンスの適格法性決定の申請を提出するように命令した86。GCB と NGC の合同会

議においてこの肩書きでもローゼンソールのライセンスは拒否された87。これに対し、ロー

77

Rosenthal, 93 Nev. at 40. 78

Id. at 47. 79

Id. at 40-41. 80

Id. at 44. 81

Id. at 41. 82

See NRS 463.0129 (1977) (emphasis added). 83

NRS 463.170(2). 84

Id. 85

Rosenthal v. State, 96 Nev. 959, 960, 620 P.2d 874 (1980). 86

Id. 87

Id. at 961.

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13

ゼンソールは裁判所に GCB と NGC が合議してはならないという訴状を提出した88。ネバ

ダ州最高裁判所はこの訴状を棄却し、「本件の今後の審理や認可については、ゲーミング管

理局(GCB)に差戻す89」として、規制当局の権限を認めた。裁判所に棄却されたものの、

彼(と彼の犯罪組織グループ)はゲーミング業界にまだ踏み留まっていた。次にローゼン

ソールは米国連邦裁判所のネバダ州司法当局に市民権を侵害されたと訴えた90。しかし、結

果として連邦裁判所がこれを認めることはなかった。裁判所は、GCB および NGC のメン

バーは、ライセンス申請人の適合性の決定、ランセンス認可後の行政処分、労働許可の取

り消しなど、認められた範囲の権限を行使し規制管理を行う限り、州の訴追免除により

(訴訟リスクから)保護されると結論付けた91。連邦裁判所はローゼンソールの判決で、

「GCB および NGC のメンバーは、ネバダ州のゲーミング産業を規制管理し、ゲーミング

業界から不適切要素を排除する崇高な責務がある」と論じた92。

最後には、ローゼンソールは、犯罪組織の人物ではあったが、逆説的にいえば、ネバダ州

を徹底的に「浄化」した主人公であり、さらにいえば、それを推し進める力を持っていた

人物ということになるだろう。

州外の犯罪組織の排除——現在のネバダ州規制法

1980 年代初め、ネバダ州のカジノに残存する犯罪組織の対策として、GCB は特別調査・情

報部門を別個の部署として設置した93。部門設置の目的は、「ライセンス認可後の監査、カ

ジノの闇所有利権など個別に起こるゲーミングに関する問題、州内の犯罪組織の関与の調

査、情報収集」であった94。両部門はその後、執行部門に組み込まれたが、 一方、カジノ

の闇所有権の利権や犯罪組織の支配に対する懸念の対象は、カジノで不正行為や犯罪を行

う外部の「組織犯罪グループ」に取って代わられていく95。

規制当局はローゼンソールのケースでは裁判で勝利したものの、スターダスト・カジノ施

設におけるスキミングによる脱税行為と組織犯罪の存在はまだ根絶できていなかった。

1982 年、GCB は、カジノマネージャーとアシスタントマネージャーがスキミング(すなわ

ち、「カジノ収益の過小申告」)に関わっているという FBI の報告書に基づき、調査を始め

た96。ネバダ州ゲーミング管理局の覆面調査により、ゲーム用チップを現金で購入する時点

で偽の記入票を作成する手口を使い、現金を抜き取っていることが判明した97。 そこで、

1983 年、ネバダ州ゲーミング管理局は、合法的で家族経営のボイド・ゲーミングに目をつ

88

Id. at 961-62. 89

Id. at 962. 90

Rosenthal v. State, 514 F.Supp. 907 (1981). 91

Id. at 913-14. 92

Id. at 914. (emphasis added) 93

Nevada Gaming Commission & State Gaming Control Board, Gaming Nevada Style 18 (Apr. 1984) 94

Id. 95

See Enforcement Division, Nevada Gaming Control Board & Gaming Commission, available at

http://www.gaming.nv.gov/index.aspx?page=46 96

Paul A. Bible, The Stardust Skim, NEVADA GAMING LAWYER 14 (Sept. 2016). 97

Id.

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14

け、スターダストのゲーミング・オペレーションを引き受けるよう促した98。ボイド・ゲー

ミングはそれに同意し、その年の 12 月に GCB はスターダストのゲーミング・ライセンス

を剥奪し、緊急裁判所は、ボイド・ゲーミングがこれを引き継ぐことを認めた99。スターダ

ストグループは、その後もノンゲーミング施設として生き延び、オーナーに忠実な従業員

と経営陣は、16 ヶ月にわたり抵抗を重ねたが、ついに事業をあきらめ、ボイド・ゲーミン

グに施設を売却した100。

1980 年代半ばに至るまで、主に不正収益・腐敗組織法(Racketeer Influenced and Corrupt

Organizations Act 、通称 RICO、1970 年成立)に基づき、連邦裁判所は犯罪組織の複数の人

物をラスベガスのカジノにおけるスキミングの罪で有罪とした101。 一方、ビジネスの世界

では、ネバダ州のカジノ賭博企業化の足場はますます拡大していたが、平行して規制当局

は業界に引き続き厳格な適合性を求めその権限を行使した。

犯罪組織がゲーミング事業に一定の影響を及ぼしてきたことは記録に、理解されているが、

「犯罪組織が規制制度や地域社会の構成機関に関与したことは一度もなく、したがって、

マフィアがラスベガスを支配したことはない」102。また、カジノやゲーミング運営のすべ

てが犯罪組織に汚染されたわけではないことを強調しておく必要がある。ラスベガスの

「スキャンダルに満ちた」歴史に焦点を当てるのは興味深い作業だが、それが歴史のすべ

てではない。全て合法的に事業を行ってきた家族経営タイプのゲーミングビジネスが数多

くあって、それがラスベガスの基盤となり発展を根底から支えてきたのである。

ゲーミングが規制されてから数十年経って、ネバダ州では、厳格な規制システムにより犯

罪組織の排除に成功した。 現在、ネバダ州のゲーミングには、業界を不適切な人物や団体

から保護するため、4 つの主要な次のツールが引続き適用されている。(1)規制当局によ

るライセンス認可資格の事前調査(2)オペレータの規定順守と相当な注意義務(3)違反

者に対する行政処分(4)州政府が提供する排除人物リスト(すなわちブラックブック)。

規制制度のメカニズム

ライセンスの事前審査と背景調査

ネバダ州では、公共政策としてゲーミングの厳格な規制を求めてきた。犯罪組織排除の波

乱に満ちた歴史の経験から、ネバダ州のゲーミング・ライセンス取得は、最もきびしいも

ので、集中的に踏み込んだプロセスを経る必要がある。 業界内では、ライセンスの事前調

査のプロセスは、政府の高機密取扱者適格性審査を受けるよりも難しいと噂された。

98

See Boyd supra n. 33 at 3. 99

See Bible supra n. 96 at 14; see also id. 100

See Boyd supra n. 33 at 4. 101

See supra n. 42. 102

See supra n. 14.

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15

ネバダ州では、NGC が認可したゲーミング・ライセンスがあれば、ギャンブル事業は合法

的に行える103。 つまり、ゲーミング・ライセンスとは、カジノをはじめ、レストランのス

ロットマシン、スポーツ賭博、テーブルゲームを運営するため、あるいはスロットマシン

などのゲーミング機器・装置の製造・販売するため、取得が必要な認可である104。 「適合

性認定」または「承認」という用語は、しばしば「ゲーミング・ライセンス」認定と同様

の意味合いで使用される。この用語は、厳格な資格基準の調査を通った結果を意味する。

企業や個人は、ライセンスを取得するまでゲーミング活動に携わることができない。すな

わち、カジノの開設、運営、ゲーミング機器・関連装置の製造、その他全てのライセンス

で定められ活動はできない105。しかし、ゲーミング事業の役員および主要従業員は、他の

者のライセンスが審査中であっても、その職務を果たすことを許される。例えば、社長が

退任した場合、そのポストが埋まるまで、ゲーミングの運営を継続することができるので

ある。

ゲーミング・ライセンス申請人は、適合性を自ら証明しなければならない106。一般に、ラ

イセンス認可プロセスでは、申請人の関係団体、習性、性格、犯罪記録、事業活動、財務、

訴訟履歴、資金源、仕事関係の審査が求められる。 申請人の誠実、清廉潔白、信頼できる

人柄、合法的に事業を行っている経歴、犯罪者や犯罪組織と結びつきがないこと、多額の

借金や債権者がないこと、などを証明しなければならない。

現在、適合性基準においては、NGC がライセンス申請を自動的に却下するような特定の不

適格基準はない。つまり、犯罪で有罪判決の受けたからといって、ゲーミング・ライセン

ス申請が自動的に拒否されるわけでないが、犯罪歴や逮捕歴がある人物は、ゲームライセ

ンスを拒否される可能性がある。ネバダ州のゲーミング規制当局は、以下の要件により犯

罪歴を審査しする:(1)逮捕または有罪判決の内容(例えば、何の犯罪か、重罪であるか、

逮捕時抵抗があったか、賭博に関連した犯罪か) (2)逮捕回数(複数の逮捕歴があるか、

その場合同じ犯罪によるものか)(3)逮捕歴の時期(例:若年時代か、何年前か、それと

も最近のことか)(4)判決の状況(例:訴状は却下されたか、刑務所に収監されたか)。

ゲーミング・ライセンス申請手続きにおいて、GCB は、事業会社用と、運営に関係する個

人用の2種類の書式フォームの提出を求めている。 通常、カジノゲーミング事業者、およ

び機器・関連装置の製造会社がライセンスを申請するためには、特定の個人——事業所有者、

幹部職員、取締役、執行役員——が、68 ページにわたる複数管轄域履歴開示申告書(Multi

Jurisdictional Personal History Disclosure Form)を含む、個人用適合性申請パケットを全

て記入する必要がある。このフォームにより、学歴、住所歴、ビジネス上の利害関係、贈

答品の受領履歴、財政状態などの開示、ネバダ州が定める補足事項の情報の開示、審査官

103

Id. 104

Id. 105

Id. 106

NGC Regulation 5.040.

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16

が免責の上個人情報にアクセスすることへの同意、指紋の提出、情報開示宣誓供述書にサ

インすることなどがもとめられる。

一旦、申請書を提出すると、GCB の承認を得なければ取下げはできない107。 さらに、申請

書や、審査過程で提出したどの情報についても、憲法上の特権(例えば、米国憲法修正第

5 条不利な証言の拒否、依頼者秘匿特権など)を放棄しなければならず、または 特権を行

使された場合、これを根拠にゲーミング・ライセンスを拒否できる108。 これは、事業所有

者、役員などが、彼らの適合性を確実に証明しなければ、ゲーミング・ライセンスを拒絶

されるというリスクを意味する。ライセンスを拒絶された申請人は、司法に訴える手段が

ないだけでなく109、例えば、ネバダ州の他の認可ゲーミング事業者と雇用関係を結んだり、

コンサルタントやベンダー110になるなどの取引はできなくなる。

一度ライセンス申請書一式を提出すると、申請書は GCB 審査部門の下にある申請人サービ

スの審査官によって最初の審査が行われる。 申請書が審査官によって認められると、次は

審査部門内の審査チームがこれを引き継ぐ。 審査プロセスは極めて徹底して行われるため、

ビジネスの構造によっては数ヵ月かかることもある。特に、米国以外に本社がある場合は

なおさらのことである。

このプロセスの厳格さは誇張してもしきれないほどで、実際、オペレータ側から行き過ぎ

であると批判されることもある。調査の総費用は申請人に支払の義務があり、特に所有形

態が複雑な場合、外国企業が関与し海外渡航が必要な場合は、数千ドルの費用がかかる可

能性がある。審査は、まず、担当審査官が申請人個人に面談することから始まる。これは、

GCB のオフィスまたは事業者の本社で行う。最初の面談は非公開で機密とされ、通常は申

請人個人とその弁護士のみが審査チームと面談する。ネバダ州では、最初の会議は録音さ

れ、場合によっては録画される。この最初の面談の主な目的は、申請書の中身、特に複数

管轄域履歴開示申告フォーム111を全て確認し、審査プロセスのための、審査官の参照記録

を作ることだ。審査チームは、必要な質問を行い、申請書に記載されている情報に追加し

ていく。面談の際、申請人はパスポートの持参をもとめられるのが、これは本人の海外渡

航歴も確認するためである。

面談を行う頃をめどに、審査官は 5 年間の連邦所得税申告記録、過去 5 年間の銀行口座記

録、事業記録、財務諸表、不動産関係文書など書類一式の提出を要求する。通常、 審査官

107

NGC Regulation 4.140. 108

NGC Regulation 4.020. 109

NRS 463.318. 110 ベンダーとは、ゲーミングラセンシーに物品、サービス、人員を提供するサプライヤーである。建設会社、ペーパータオルの

サプライヤー、飲食料のサプライヤーなど。ベンダーには、ゲーミング機器・サービス会社は含まれないが、このカテゴリーの会

社は別途規制当局のライセンス認可が必要とされる。

111

The form, designated by the Nevada Gaming Control Board as Form 7, is accessible at

http://www.gaming.nv.gov/modules/showdocument.aspx?documentid=2476

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17

は、過去 5 年間の記録を求めるが、実際には年度の指定に制限はない。実際、 審査チーム

が 10 年またはそれ以前の記録を要求してきた例もある。

上場企業の場合、GCB 内の企業内安全対策部門から来た別の審査チームが担当となり審査

責任をもつ。このチームは一般的に審査部門チームとは別に作業し、審査手数料は審査に

先立ち別個に支払われなければいけない。 この審査のレベルは、政府が実施するどの企業

対象の背景調査より厳格で、これまで、クリーンな業界の基盤を提供している。

個人部門の申請人の審査は、人格と資産に分けて行う。人格審査では、学歴、犯罪歴、裁

判所記録を調査、また、また照会先や前雇用者など申請人の知人と接触し人間性について

問い合わせる。 最初の面談が終わると、審査官は申請人のオフィスや、私宅を訪問するこ

ともある。

さらに、資産関係の書類や活動の徹底的な調査および税務調査を行う。 審査官が銀行口座

記録を要求した場合、申請人は過去 5 年間のあらゆる種類の口座明細(例えば、e トレード、

小切手、貯蓄、投資信託)を提出する必要がある。 また、審査官は、住宅や車両など多額

な資産購入の資金調達書類、他に所有する事業の関係記録の提出を要求し、納税申告書の

詳細な調査を行う。

GCB が実施する審査は非常に広範にわたる。このため、審査官は州法によりこれを行う広

範な権限が与えられる112。審査官は事業所を調べ、関連記録へのアクセスを要求し、電子

メール・電話ログを確認することができる。 また、申請会社の事業、経理、税務記録への

アクセスが要求できる。

申請人は、審査機関の要請に対し、全て迅速に対応、協力することが求められる。 回答が

遅れたり、非協力であると見なされると審査に支障が生じ、ライセンス取得が遅れる結果

を招く。そのため、申請人が調査に全面的に協力し、審査官の質問に全て率直に正直に回

答することが非常に重要となる。

審査が終わりに近づくと、申請人には最終インタビューまたは会議が開かれる。 最終会議

では、審査官は、審査中の未解決または不明確な部分について、申請人の弁護士立会いの

もと申請人に質問をするが、 通常、この最終会議は電話会議となる。審査中に重大な問題

があった場合は、GCB および NGC に「懸念事項」として報告されるケースもあるが、懸

念がないとされれば、最終会議には、申請人の弁護士のみ出席、申請人は欠席を許可され

る。

ネバダ州では、審査終了の時点で、審査官は審査結果の詳細な報告書を作成し、GCB およ

び NGC の委員と情報を共有する。 当該報告書は機密とされ、申請人または申請人の弁護

士はアクセスできない。加えて、この手続において NGC の記録は裁判所の命令がない限り

第三者に公開されないとして113、申請者が NGC および審査官と良好なコミュニケーション

112

NRS 463.140. 113

NRS 463.341.

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18

がとれるようにした。GCB および NGC は、申請人の公聴会が行われる前に私的機密事項

を含めヒヤリングの対象と思われる項目について報告書の見直しをする。

公聴会は、公式裁判書記官により記録され申請人が適合性を証明する機会となる。 GCB は、

ヒヤリングの結果を NGC に勧告として(審査継続なり案件が戻される場合、申請人の申請

撤回が許可された場合を除く)提出する114。NGC はまた、申請案件の検討を公開し、「合

理的と思われる理由により」申請および申請書の一部を承認、条件付け、制限、却下、ま

たは拒否する権限を有する115。 前述のとおり、NGC の決定は最終的なもので、法廷に提訴

することはできない116。

この厳格なライセンス認可の事前プロセスは、ネバダゲーミング規制法体制が構成したひ

とつのメカニズムで、業界から犯罪組織を排除し守っていくことを目的としている。

規制を守るコンプライアンス・プログラム

一旦、この厳格なプロセスを経てライセンスを取得すると、規制の適用については全て業

界自らの内部規律と監視に任されることになる。 その結果、ゲーミング施設では、ゲーミ

ング規制法のルールや規則の順守を確認するコンプライアンス部門や担当オフィサーをお

く。 大手ゲーミング事業会社の多くは、規制当局が求める公式なコンプライアンス・プロ

グラムに従っている。

ネバダ州のゲーミング業界では、30 年前からコンプライアンス・プログラムを採用してき

た。それは、NGC がライセンス認可条件としてコンプライアンス委員会の設置を認可企業

に課したことによる。数年後、規制当局は、コンプライアンス・プログラムに裁量権を与

え、これを見直しするシステムを規制法に(誰が????)公式に取り入れた117。今日、

コンプライアンス・プログラムの実施は、通常、上場企業、複数のゲーミング施設を保有

する企業、および過去に規定違反があった非上場企業に課せられている。

コンプライアンス・プログラムは、ライセンス認可企業と GCB との間の誓約事項である。

このプログラムに基づき、認可企業はゲーミング規制法の順守を約束する。 コンプライア

ンス・プログラムは、不適切な人物との経済行為や、行政処分を招く違反行為を未然に防

ぐことを目的として設計されている。

コンプライアンスを実施するプランとして、ゲーミング・コンプライアンス委員会を構成、

委員の数および委員の資格要件の詳細が規定している。コンプライアンス委員会は諮問機

関ではあるが、企業の取締役会またはその小委員会に報告を頻繁に提出する。委員は全員

会社組織から独立しているか、あるいは、当該企業の取締役一名をメンバーとしコンプラ

イアンスの情報が行き届くことを目的とする場合が比較的多くみられる。 また、指針は、

114

See NRS 463.1405(3). 115

NRS 463.1405(4). 116

NRS 463.318. 117

NGC Regulation 5.045.

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19

コンプライアンス委員会は、ゲーミング法規制に精通している委員を 1 名置くとしており、

企業内のコンプライアンスを担当する役員の役割も規定している。

プランは、コンプライアンス役員がコンプライアンス委員会に提出しレビューを受けるレ

ポートの内容も定めている。これに含まれる内容は、ゲーミング関連装置の購入または販

売、大口の取引または一般取引関係;借入れ融資、訴訟、役員、取締役、主要従業員の雇

用または任命、ゲーミング施設内のテナント、ジャンケット・オペレータ(ネバダ州では

「独立エージェント(仲介業者)」と呼ばれる)118、コンサルとロビーイスト、政治献金、

ベンダーとの関係——など。コンプライアンス委員会あて報告書作成に際し、コンプライア

ンス役員は、関係する外部の人物や企業が、コンプラインスの要件を満たしているか相当

な注意を払って(due diligence)調査確認することを課せられる。この注意義務はコンプラ

イアンスが明確に定めているもので、取引に入る前、一定の取引後、支払い時など問題が

ないか精査すること、また、企業またはコンプライアンス役員が、取引先の個人や企業に

ついて良からぬ情報を受けた場合には、取引の金額に関わらず、慎重な調査を求めている。

例えば、大手のカジノリゾートが新規寝具サプライヤーと業者契約を結ぶ場合、コンプラ

イアン役員はサプライヤーについてオーナーと経営幹部およびビジネス履歴を調査して、

犯罪組織、マネーロンダリングまたは犯罪組織企業と関連がないか確認する必要がある。

ネバダ州は、カジノへのベンダー(仕入れ業者)については、ライセンスや登録による管

理を行っていないため、コンプライアンス・プログラムに基づいて、ベンダーの確認をし

ている。

コンプライアンスのシステムは、ゲーミング事業者が不適切な者や組織が関与することを

防ぐために行う調査のプロセスである。確実な実行を確認するため、コンプライアンス役

員の報告書とコンプライアンス委員会の議事録が GCB に提出され、また、GCB の審査員

によるコンプライアンス・プログラムの定期的な監査もある。 業界および規制当局がこの

ような複数のコンプライアンス・ツールを活用して、犯罪組織やその他違法者が、ゲーミ

ング事業のなかに入り込んだり、運営に関わることを防止している。

アンチ・マネーロンダリング(AML)法119のコンプライアンス

前章のコンプライアンス・プログラムに加えて、カジノは、マネーロンダリングとテロ資

金調達を防止する対策(以下「AML」と総称する)として、別途コンプライアンス・プロ

グラムが必要である120。 米国では、ゲーミング規制法は州ごとにほぼ専用的に制定されて

118

独立エージェントは、GCBに登録(ゲーミングライセンスほど手続きは厳格でない)し、当局にゲーミング・ライセンスの認

可業者との契約内容を報告することを求められる。規制上では独立エージェントが VIP客に与信枠を与えることは認めてられてい

るが、ラスベガスのカジノでは通常独立エージェントとの契約を通しこのよう権限は認めていない。ネバダ州規制当局は、必要と

みなされれば、どの独立仲介業者(ジャンケット)に対してもライセンス取得を求める権限を持っている。 また、カジノの VIPに

対応するカジノホスト(ゲーミング施設の従業員など)が適合性判定を行うよう求められることもよくある。. 119

カジノは、米国財務省にある外国資産管理局( (OFAC)の国家の安全を守るため、特定の外国および個人に対し経済および貿易

制裁を行うという AMLの法令に従っている。参照:https://www.treasury.gov/about/organizational-structure/offices/Pages/Office-of-

Foreign-Assets-Control.aspx 120

31 C.F.R. § 1021.210.

Page 20: 実践的視点からみるカジノ賭博規制制度と その成り …...3 実践的視点からみるカジノ賭博規制制度とその成り立ち:ネバダ州カジノにおける犯

20

いる一方、AMLは、米国財務省の中の金融犯罪執行ネットワーク(以下 FinCEN)と内国

歳入庁(IRS)の 2 つの部門が一括で監督している。

米国連邦政府の AML法に基づき、指定を受けたカジノは、24 時間以内に発生した1万米

ドル以上の通貨取引は、複数の取引に金額が分割されているケースも含め、報告すること

が義務付けられている121。報告内容は、顧客の氏名、住所、社会保障番号、身元確認書類

などが含まれる122。 AML の重要な点は、カジノが「顧客(の素性)をわかっている」123こ

とを FinCEN が求めていることだ。そのため、カジノは通貨取引が 1 万米ドルを超えた場

合、その顧客情報を報告するのみでなく、可能であれば顧客の金がどのルートできたもの

なのか、十分な注意をもって確認するよう求められる。

さらに、連邦政府は、AML コンプライアンス・プログラムとして、カジノに対し少なくと

も以下の点を求めている。(1)AML コンプライアンスを確実にするための内部監査組織、

(2)独立機関による内部監査組織テストの実施、 (3)コンプライアンス役員124および/ま

たはコンプライアンス委員会の設置、(4)AML に関する従業員教育研修、 (5)AMLに関

する方針と手順の制定125。 また、カジノは、5,000 ドルの取引で、不正行為、または AML

法や規制要件を回避した行為の疑いがある場合も報告の提出を求められる126。

違反行為に対する行政処分

ライセンスが認可されたあともこの厳格な対応は続くことになる。行政処分はもう 1 つの

規制ツールであり、ゲーミング事業者が公共政策の規定に従い不適切なものとの関与が生

じないよう確実にする手段である。 ライオネル・ソーヤーとコリンズが「行政処分の目的

は、刑事司法制度が目指すものと同様で不適切な要素を排除する役割を十分に果たしてい

る。」と述べている127。行政処分は NGC が「妥当とみなす原因」を認めた場合、絶対的な

権限に基づき認可ライセンスの制限の追加(ライセンス認可終了期限の設定など)、条件の

変更(コンプライアンスなどライセンス条件を追加することなど)、 取消し、停止、また

は罰金を科すことができる128。

ゲーミング・ライセンスを認可されると、地元管轄区、州および米国連邦法を広く順守し

なければならない129。これはゲーミングの範囲を超えて、環境、独占禁止法、酒類、税の

支払いなど、全ての法律を順守しないと行政処分を受ける可能性があることを意味する。

121

Id. § 1010.311. 122

Id § 1010.312. 123

See id. § 1021.600; see also “Remarks of Jennifer Shasky Calvery, Director, Financial Crimes Enforcement

Network (Sept. 24, 2013), available at https://www.fincen.gov/news/speeches/remarks-jennifer-shasky-calvery-

director-financial-crimes-enforcement-network-6. 124

カジノによっては、ゲーミングと AML のコンプライアンスを一名のコンプライアンス・オフィサーが兼任・担当するが、別途、

AMLコンプライアンス・オフィサーを専任でおくカジノもある。 125

See id. § 1021.210. 126

Id. § 1021.320. 127

See supra n. 39 at 346. 128

NRS 463.1405(4). 129

NGC Regulation 5.011(8).

Page 21: 実践的視点からみるカジノ賭博規制制度と その成り …...3 実践的視点からみるカジノ賭博規制制度とその成り立ち:ネバダ州カジノにおける犯

21

行政処分のもうひとつの原因は、「不適切な方法による運営」であり、この対象となる範囲

は広く以下を含む:人々の健康、安全、道徳、公共福祉を害すること、ネバダ州やゲーミ

ング業界の信用を落とすこと、酩酊した状態の客にギャンブルをやらせること、過去にゲ

ーミングの不正行為で有罪となった人物を雇用すること130。注意事項として、ネバダ州で

は、「悪名が高く道徳的でないと評判」の人物との関与が行政処分となる可能性が規定され

ていることだ131。しかし、事前ライセンス認可基準、コンプライアンス・プログラム、相

当の注意義務のため、このような違反の申し立てを見ることは極めて珍しい。

ネバダ州では、公的な告訴、和解などのレベルに達する行政処分があまり見られない。

2016 年にはゲーミングのライセンシーに対し 8 件の行政処分があり、2015 年には 5 件のみ

であった132。2017 年では、現在まで公的行政処分は実施されていない133。これら最近の行

政処分の内容をみると違反行為の重大性の範囲およびその行政処分は多岐にわたる。たと

えば、ライセンシーに対して最近行われた行政処分の例としては、ラスベガスのカジノの

所有者が、カジノチップを友人に発行するために、社員に社内規定と手続きに違反するよ

う指示したという訴えに対して 25 万ドルの罰金134が科せられた件135、 また、3 件のゲーミ

ング事業会社に対しては連邦政府の AML法違反容疑がかかり、150 万ドルから 500 万ドル

の罰金が科された例136がある。

特筆することは、ネバダ州規制当局の行政処分が、多額の罰金や、ライセンスの失効を招

くため、犯罪組織メンバーを含む不適切な関係への関与の阻止に有効であることだ。

不適切な人物の排除

最後に、ネバダ州のカジノは、不法侵入罪により、敷地内から人を排除する権利を法で守

られているだけでなく、政府は「排除人物リスト」(通称「ブラックブック」)を不適切な

人物がゲーミング施設に入ることを阻止する手段として引き続き使用している。 ネバダ州

の法規制に基づき、NGC は、カジノを含む特定の認可ゲーミング施設に侵入したり入り浸

ったりする人物を排除する権限をもつ137。ブラックブックは、ネバダ州の規制当局が知名

度のある犯罪組織メンバーをゲーミング施設から遠ざける方法として始まり、その後、ゲ

ーム規制当局にとって合法的で効果的なツールとして法的に認められた138。 初期の頃から

130

NGC Regulation 5.011. 131

Id. at 5.011(5). 132

See Nevada Gaming Commission and Nevada Gaming Control Board, Complaints/Stipulations/Orders, available

at http://gaming.nv.gov/index.aspx?page=107. 133

Id. 134

返済金と調査費用を含む。 135

See Nevada Gaming Control Board v. DRock Gaming LLC and Derek John Stevens, NGC 15-08, Complaint and

Stipulation for Settlement and Order, accessible at http://gaming.nv.gov/index.aspx?page=107. 136

See supra n. 132 137

NRS 463.151. 138

See State v. Rosenthal, 107 Nev. 772, 819 P.2d 1296 (1991); see also Spilotro v. State, 99 Nev. 187, 661 P.2d 467

(1983).

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現在までリストに残っている少数の犯罪組織のメンバーのほか、最近では、主にスロット

マシンや他のゲームで不正行為をした人たちがブラックブックに追加された139。

排除手続きは、GCB が調査を行い、懸案中の人物に関する情報を収集して始まる。排除手

続きを引き起こす主な原因は以下のとおりである:(1)重罪犯罪、窃盗・詐欺犯罪、また

はゲーミングに関連する犯罪で有罪判決を受けている (2)ゲーミング事業の所有権益が

あるのにその開示を怠っている(3)意図的に税金や手数料が未払いである、そして・また

は(4)悪評判があり道徳的にも問題がある140。次に、3 名の GCB 委員のうち 2 名がブラッ

クブックに掲載する候補者の指名に同意する必要がある141。適正な手続に従って、候補と

なった人は聴聞会が通知され、そこで自身を弁護する機会が与えられる142。 NGC は最終決

定を下すが、その決定は法廷に上訴することができる143。

一度ブラックブックに掲載されると、認可されたゲーミング施設は、排除された人物が近

づけないよう合理的な対策を講じる必要がある。対策を講じない場合、行政処分を引き起

こす可能性がある。

なお、ブラックブックのリストからの削除を要求するプロセスがあるが、しかし、これま

でに成功した唯一の方法は、死亡通知であった。ローゼンソールはかつてブラックブック

にリストされていたが、2008 年 10 月 13 日に死亡証明書の確認を受けて掲載を解かれた144。

ネバダ州規制法システムに見る様々な示唆

初期の州指導者や規制当局が近代的なゲーミング規制法システムを粘り強く構築したこと、

また、GCB と業界が現在実施している施策が成功していることから、業界専門家の間では、

組織的犯罪の存在は、規制法が適応されたカジノゲーミングの運営においてはもうみられ

ないことが共通認識となっている。これは、1999 年連邦政府が拡大するゲーミング産業の

評価として行った米国ギャンブル影響調査委員会(NGISC)の報告145によって裏付けされ

た。NGISC は2年間にわたる調査の最終報告書の中で以下の結論に達した。

委員会で得た全ての資料は、規制の有効性と公開上場企

業によるカジノの買収が相まって、カジノの直接的所有

や運営から犯罪組織を排除したことを示している146。

近代のゲーミング規制構造が成功裡に機能したため、「厳格な規制」のインパクトは、ラス

ベガスのカジノを運営に関与していた犯罪組織の存在を排除しただけでなく、「はるかに大

139

See GCB Excluded Person List, accessible at http://gaming.nv.gov/index.aspx?page=72 140

NRS 463.151. 141

NGC Regulation 28.030. 142

Id. 143

NRS 463.153. 144

Nevada Gaming Control Board, Removal of Frank Rosenthal from List of Excluded Persons (Jan. 27, 2009). 145

Executive Summary, Introduction, National Gambling Impact Study Commission 2 (June 18, 1999), accessible at

. http://govinfo.library.unt.edu/ngisc/reports/finrpt.html 146

Final Report, National Gambling Impact Study Commission, Ch. 3, 3-1 (June 18, 1999), accessible at

http://govinfo.library.unt.edu/ngisc/reports/fullrpt.html

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きな市場 に向けてラスベガスの扉を開き」、観光収入、税収、収益の大きな目標を達成し

前例のない成功を収めた147。健全な規制当局の存在と、信頼できる内部監査によるコンプ

ライアンス、モニタリング・プログラム、との間のバランスがどれか欠けると、ゲーミン

グは「比較的短期間で、敬遠される業界」にとどまっていたはずだ148。この報告書の現時

点では、商業カジノゲーミングは、米国 50 州のうち 24 州で合法的に運営されている149。

2015 年の時点では、商業ゲーミング地区のカジノの収益は 400 億ドルを超えている150。別

の 16 州では、インディアンカジノとしてネイティブアメリカン部族によって居留地内でカ

ジノが運営され規制されている151。先の収益に加え、この形態のカジノの収益は 2016 年時

点で総額 312 億ドルとなっている152。

今、カジノは現在、エンターテインメントの通常のレクリエーションの形態として広く受

け入れられている。 ラスベガス元市長オスカー・グッドマンは、フランク・ローゼンソー

ルをはじめ、かつて多くの犯罪組織の人物の代理人となった弁護士であった。その彼が、

規制当局がネバダ州カジノの組織犯罪を取り除くことに成功したかどうかと尋ねられたと

き、 グッドマンは、「誰が勝ったかって?153」と言い、即座にネバダ州のカジノの運営に

組織犯罪はもはや存在しないと認めた154。ラスベガスの州政府規制下のカジノには存在し

ていないが これは一般的に賭博に組織犯罪が絡まないということではなく、規制のない違

法賭博の世界では犯罪組織は相変わらず存在し続けていることは注意したい155。

初期ラスベガスの犯罪組織の歴史は映画でよく取り上げられるが、近代のカジノゲーミン

グ規制法システムの成功について、ほとんどメディアの関心が払われていない。しかし、

このネバダ州の成功に根ざし、世界中また米国内の様々な管轄地域のカジノから組織犯罪

が排除されている。これは、米国ニュージャージー州、イギリス、シンガポールなど、カ

ジノに対し多様な政策目標を掲げている市場を含む。

このレポートの目的上、ニュージャージー州の例は注目に値する。 数十年の間、ネバダ州

は、合法的なカジノゲーミングを行う米国唯一の州であったが、1976 年カジノゲーミング

を合法化するニュージャージー州憲法の改正が住民投票にかけられた。結果として州内の

小さな 1 地区、アトランティックシティでカジノが合法化されることになった156。アトラ

147

Bo Bernhard, Ph.D., The Battered Gaming Industry: A Case Study for Our Times? UNLV GAMING RESEARCH &

REVIEW JOURNAL, Volume 13 No. 1 148

Id. 149

See American Gaming Association, 2016 State of the States, available at

https://www.americangaming.org/research/reports/2016-state-states. 150

UNLV Center for Gaming Research, United States Commercial Casino Revenues 2 (June 2016), available at

http://gaming.unlv.edu/reports/national_annual_revenues.pdf. 151

Id. 152

National Indian Gaming Commission, 2016 Indian Gaming Revenues Increased 4.4% (July 17, 2017), available

at https://www.nigc.gov/news/detail/2016-indian-gaming-revenues-increased-4.4. 153

See supra n. 35. 154

See id. 155

Associated Press, “Genovese family mobsters busted for offshore gambling ring” (Dec. 16, 2016) 156

The Oral History of Thomas Auriemma, 7 UNLV GAMING L.J. 33 at 34-35 (Spr. 2017).

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ンティックシティにカジノゲーミングを導入した州の意図は、かつて 20 世紀初頭の人気観

光スポットであったこの地域を再び活性化することであった157。航空便の不便さや競合観

光地のためにさびれ、困難な経済状況に陥っていたからだ。

ニュージャージー州でカジノ規制制度を策定する時、最も重要視したことは、「組織犯罪が

カジノゲーミングに関与しないことを確実にする」158ことだった。犯罪組織は隣接するニ

ューヨークや地元ニュージャージー州で大きな力を持っており周知されていた。ラスベガ

スのカジノ市場に存在していたように「犯罪組織のはびこる」ことはなんとしてもさけた

かった。カジノゲーミングが合法化されると、ニュージャージー州は、犯罪組織がカジノ

の事業所有権や運営などにどのような形でも及ばないことを目指した159。ニュージャージ

ー州は、犯罪組織が建築請負業者を通じてカジノへの関与を試みたことがわかると、その

ような企業は規制適合性基準の認可が必要であるとする法令を制定した160。 さらに、労働

組合の犯罪組織の存在も、ゲーミング登録と査定プロセスおよび労働組合のリーダーシッ

プを通じて撲滅された161。

ニュージャージー州ゲーミング規制執行部元ディレクター、トーマス・アウリエンマ

(Thomas Auriemma)によれば、犯罪組織に対し厳しい対応をとった結果、「ニュージャー

ジー州においては、犯罪組織はこれまでカジノの事業所有権、管理、運営のどれにも決し

て関与した事実はない162」。また、ネバダ州の厳格な規制とライセンス認可プロセスのモデ

ルが成功したように、ニュージャージー州の厳格なアプローチは、「ウォールストリートと

金融界の信頼」を得ることにつながり、IR、観光やコミュニティに投資を呼び込んだ163。

その結果、カジノはもはや社会の厄介物とはとはみなされなくなり、ローンや与信枠の設

定、民間投資や公的投資の投入などの対象となる合法的で、納税を行うエンターテイメン

ト事業と生まれ変わったのだ。

ネバダ州とニュージャージー州の犯罪組織排除の成功をみて、カジノ賭博合法化を新たに

考えている多くの地域では、両州の規制制度をお手本として使用している。例えば、シン

ガポールは 2005 年に IR 建設受け入れを進める準備として、両州のモデルを分析した。シ

ンガポールと両州との明確な違いは、例えば、シンガポールの2免許制と住民の入場料徴

収などあるが、カジノから犯罪要素を排除する重要性は認識されていた。カジノ・ゲーミ

ングに関する公共政策声明では、ゲーミングの正当性の根拠は、「ライセンス、監督、管理」

が、「運営管理に犯罪の影響がないことを保証される」方策によって、維持管理されること

157

Id. 158

Id. at 36. 159

Id. 160

Id. at 37. 161

Id. 162

Id. at 36. 163

Id.at 39

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25

によるとした164。この公的義務を支援するため、シンガポールは警察署にカジノ犯罪調査

局を設立し、偽造、詐欺、不正行為に対処している165。

現行にいたる規制制度を構築しカジノ運営からの犯罪組織を排除するまでの経験は大変な

プロセスであったが、このプロセスが、賭博の近代的なアプローチを形成する確かな基盤

をつくった。その結果、汚名をそそぎ合法的に規制された業界として繁栄を続けており、

事実一般社会にとどまらず、金融や一般ビジネス界にも広く受け入れられるに至った。

164

Singapore Casino Control Act, Ch. 33A, Part II, Div. 1, Section 5. 165

See Managing the Sin in Singapore’s Casinos, Lee Kuan Yew School of Public Policy, National University of

Singapore (2014) at Annex 5.

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26

結論と提言

犯罪組織をカジノ事業から排除してきたネバダ州の歴史的業績および今日の排除政策の成

功は、日本にとっても統合型リゾート(IR)の規制を設定する上で大いに参考となる考え

る。我々は、このような犯罪組織への規制的アプローチは次の理由から極めて重要である

と結論づけた。第1に世界的なゲーミング産業(および一般社会)からみて、日本ではヤ

クザが賭博関係で活動しており166、より積極的な対策が必要であると認識されていること。

第2に日本が IR に優良なグローバル企業の投資を呼び込むためには、世界の観光目的地と

なるような魅力ある IR を建設する必要があり、これを実現するには、犯罪組織との接点が

あってはならない。この条件をクリアしなければ、銀行、投資グループ、高評価のカジノ

オペレータは、この事業に参加・参入しない(できない)だろう。そのようなことになれ

ば、日本は世界中の旅行者を惹きつけるアトラクションを失うことになり、目標とする観

光産業の指標を達成できないだろう。3番目に、現在日本のゲーミング産業(およびその

未来形である IR)は業界に対する認識に深刻な問題を抱えている。信頼を確実に得る最良

の方策としては、ゲーミング規制法を積極的に活用して、安全で合法的な運営を行い、ま

た、その運営を厳格に監視することだ。最後に、日本が責任あるゲーミングの取り組みを

強調したいなら、重ねて言えば、業界の規制システムをとおして犯罪組織排除に取り組む

ことが高い効果を発揮する。また、米国、シンガポールさらにマカオなどのケーススタデ

ィによると、規制を施行することにより問題ギャンブル発生率の低下、問題ギャンブル対

策プログラム開発の大きな進展が見られる。

ある地域で新たに賭博の合法化を行う場合、他の既存の規制法を「切貼り」した形では、

その地域の規制法として適用できないことは広く認識されている。文化や政治システム、

経済、人口などに関わる様々な点が異なるからである。簡単に言えば、カジノを導入した

各地域の目標が、ふさわしい規制の形を作っていくといえる。ネバダ州規制法システムを

構成する要素は、世界中で活用されゲーミング産業の規制の構成に役立ってきたが、日本

にとっても特に犯罪組織を排除する対策に関する規制は参考になると思われる。

以上の考察を踏まえ、我々は以下のとおり提言を行いたいと考える。

1. 日本はライセンスを発行にあたり厳格な事前審査を実施するべきであるが、この審

査は、銀行の借り入れ、投資信託ファンド、プライベートエクィティグループ、上場企業

からの投資が引き続き可能であり、合法的な資金調達が確保できることを前提としたい。

このため、事業所有者(主要株主など)や重役に対する人格および資産に関し一定の背景

調査を行い、ヤクザ構成員と疑われる人物との関係など、将来犯罪組織の影響を受けるタ

ネとなる不適切な関係先がないか、また企業や個人の評判を落とすことがないか確認する

ことが必要である。

166

David E. Kaplan & Alec Dubro, YAKUZA: JAPAN’S CRIMINAL UNDERWORLD (25th

Anniversary Ed. 2012)

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2. ライセンスが認可された後は、ヤクザは伝統的にビジネスや社会の表に出て活動し

ていることに鑑み167、日本は、規制システムに警察なみの公開・非公開犯罪捜査ができる

強力な執行体制を取り入れるべきであると考える。ネバダ州では規制当局の執行部門はゲ

ーミングの従業員のチェックからゲーム詐欺疑惑の捜査まで広範な職務を果たしている。

また、規制執行部門、カジノ側の治安体制、監視体制が協力しあうことも犯罪行為の阻止

に重要な点である。

3. 日本は、ライセンス申請の審査期間中および認可された後、カジノが規制法システ

ムに基づく強力な内部監査プログラムを実施するよう勧告すべきであると考える。IR ライ

センス認可企業には、ゲーミング規制およびアンチ・マネーロンダリング(AML)のコン

プライアンス・プログラムを課し、規制当局がこれを定期的に監査、見直しする体制を検

討されたい。強力なコンプライアンス・プログラムと AML 対応策は、カジノの運営に対す

る犯罪組織の関与を阻止する役割を果たす。また、ライセンスシーであるカジノ側がベン

ダーや関係先に問題がないか注意義務をもって精査するシステムは、規制当局がまたライ

センス認可や人物審査するシステムとくらべ十分なものであるか検討する必要がある。

4. 日本は、意図的・偶発的を問わず、法規制に違反したオペレータの行政処分、犯罪

組織に関与すると思われる人物のカジノ施設入場禁止措置など行うため、ゲーミング規制

当局に適正な権威と裁量を供与すべきであると考える。

日本は、世界で最も収益性の高いゲーミング市場になる可能性があるが、これは世界で最

もよく規制されているゲーミング市場の規制基準をどう適応できるかにかかっている。ネ

バダ州の歴史を深く考察すれば、多くの心強い教訓を得ることができる。なかでも賭博か

ら発生する犯罪と腐敗の要素を絶え間なく注視する、強力な規制構造の構築が必須であっ

た。ネバダの規制当局はゲーミング産業に従事する人々とともに、効果的なツールを数多

く生み出してこの使命を今日も果たしている。成熟した規制制度の効果はラスベガス中心

部の大通りを歩いてみれば明らかである。限られた資金による小規模なカジノリゾートと

違い、何10億ドル単位で投資された大規模なリゾート娯楽施設が立ち並んでいる姿があ

る。そこに安心して遊戯するくつろいだリゾート客の姿が見られるのは、カジノがしっか

りとした規制により管理され公平で誠実に運営されているためであることを述べたい。

167

Id.

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28

研究チームプロフィール

ジェニファー・ロバーツ 法学博士

Jennifer Roberts, J.D.

ジェニファー・ロバーツはネバダ大学ラスベガス校(UNLV)ゲーミング規制国際センター

(ICGR)の理事である。ICGR に入る前、ロバーツ氏は 13 年間にわたりネバダでゲーミン

グ関連法の実務に携わり、また以前法律事務所デュアン・モリス LLP のパートナーであっ

た。その前にはネバダに本拠を置く法律事務所ライオネル・ソーヤー&コリンズのゲーミ

ングおよび規制部門の株主でもあった。彼女の法実務はゲーミング関連法のクライアント

代行、例えばゲーミングのライセンス、ゲーミング・コンプライアンスやゲーミング関連

法の整備などであった。彼女はまたグローバルなゲーミング企業のゲーミング・コンプラ

イアンス委員会のメンバーやいくつかのゲーミング・コンプライアンス委員会のカウンセ

ラーも歴任した。

ロバーツ氏は在日企業の米国における代理人として、ゲーミングおよびノンゲーミングケ

ースを担当してきた。彼女は何回か仕事で日本を訪れており、最近では UNLV ゲーミン

グ・ロー・ジャーナルに「プロブレム・ギャンブリング:日本はどうすればラスベガスに

なれるのか」という記事を共同執筆している他、いくつかゲーミング法関連の記事を執筆

している。法実務として彼女はまた大手ホテルチェーン、ナイトクラブ、レストランやバ

ーの代理人を務め、さらにネバダ・アルコール法の専門委員でもある。

2008 年からロバーツ氏はウィリアム・S・ボイド・ロースクールでゲーミング法の兼任教

授を務めており、そこではゲーミング法入門、ゲーミング法の理念、カジノの運営や管理

の基礎、またリゾートホテルカジノ法などを教えている。またユタ大学 S.J.クウィニー法科

カレッジのゲーミング法兼任教授でもある。

ブレット・アバーバネル Ph.D.

Brett Abarbanel, Ph.D.

ブレット・アバーバネル博士はネバダ大学ラスベガス校国際ゲーミング研究所リサーチデ

ィレクターで、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のギャンブリング学科にも籍をおいて

いる。アバーバネル博士はグローバルギャンブリングと社会科学的考察が専門で、その領

域はインターネットギャンブルの政策と行動、e スポーツとギャンブル、ギャンブルのオペ

レションとテクノロジーの利用、責任あるギャンブルと地域社会との関係などに広がって

いる。アバーバネル博士は、UNLV ゲーミング・リサーチ&レビュー・ジャーナルの共同責

任編集者であるが、このジャーナルは、広範な学問領域をカバーし、国際的関心度の高い

ギャンブル関連記事を掲載している。また、インターナショナル・ギャンブリング・スタ

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ディーズの編集ボードメンバーである。彼女はギャンブリングの専門家として、ニューヨ

ークタイムズ、ウォールストリートジャーナル、ディスカバリーチャンネルなどのインタ

ビューを受け、また世界各国の複合企業や政府機関などへのコンサルタント活動を行って

いる。

アバーバネル博士はシンガポールの国家依存症管理事業および国立問題ギャンブル評議会

の国際諮問委員であり、またリート LLC およびグローバル i ゲーミング・サミット・エク

スポのボードメンバーでもある。彼女はまたネバダの e スポーツ・エコシステムの関係者

による非営利団体、ネバダ・eスポーツ・アライアンスの創設役員である。この組織は eス

ポーツとギャンブル業界が交流して、双方にとって最善の方策を探り、進展させることを

目的としている。彼女は最近グローバル・ギャンブリング・エクスポとイノベーショング

ループから 2015 年エマージング・リーダー・アワードを受賞した。また 2016 年、40 歳以

下のグローバル・ゲーミングビジネス 40 に選ばれている。アバーバネル博士はブラウン大

学で統計学の学位を受け、ネバダ大学ラスベガス校で修士号と博士号とを取得した。

ボー・ベンハード Ph.D.

Bo Bernhard, Ph.D.

ボー・ベンハード博士はラスベガスをホームと呼んでいるが、実際のところ。彼が働く場

所は南アフリカ、オーストラリア、シンガポール、韓国、マカオ、ベトナム、日本、台湾、

アルゼンチン、ブラジル、ロシア、ポルトガル、オーストリア、ギリシャ、英国、カナダ

そして米国の 10 以上の州と極めて多岐にわたる地域に及んでいる。ベンハード博士はハー

バード大学でリサーチのキャリアを始めたが、ダブル専攻(社会学と心理学)の院生時代、

ネバダ州のゲーミングと産業が地域社会に与えるインパクトにつき、極めて優れた論文を

完成した。この分析の基礎となる手法は以来、世界的に広がり、ベンハード博士は 30 歳ま

でに6つの大陸で講義を行っている。

2002 年に Ph.D.を取得したのち、ベンハード博士は UNLV 国際ゲーミング研究所(IGI)の

初代リサーチディレクターに任命され、ホテル経営と社会学の二つの教授職を務めた。

2011 年、彼は IGI エグゼクティブディレクターとなり、リサーチと研究全体を監督してい

る。これに加え、ベンハード博士は依存症対策、規制、政府や政策の状況・背景に関し、

200 以上の基調演説を行っている。また評論もビジネスおよび社会科学両分野の一流ジャ

ーナル誌に数多く発表(コーネル・クォータリーやアメリカン・ビヘイビオラル・サイエ

ンティスト特集号など)、現在は優れた論評学術誌であるゲーミング・リサーチ・アンド・

レビュー編集長を務めている。

ベンハード博士の業績はしばしば地方、全国版を問わずメディアに特集されている(CNN、

PBS、NPR、ニューヨークタイムズ、オーストラリアン・ブロードキャスティング・チャ

ンネル、ヒストリー・チャンネル)。彼はまた全体で 400 万ドルを超える助成金で運用され

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ているプロジェクトを指導しているが、そのテーマは問題ギャンブルからカジノ産業が与

える社会的インパクト、ゲーミング規制と政策の特徴、そしてインターネットギャンブル

まで多岐にわたる。このような活動により彼は幾つかの賞を受賞している:2007 年グロー

バル化についての考察によりワールド・アフェアーズ・カウンシルのインターナショナ

ル・エデュケーター・オブ・ザイヤー、2008 年 UNLV ホテルカレッジのボイド・アワー

ド・フォー・リサーチ、2009 年ホテルカレッジのトップティーチング・アワードと大学全

体のスパノス・ティーチング・アワード、2010 年ブルッキングス・マウンテン・ウエスト

のリンシー・フェロー、近年大学全体のバリック・スカラー・アワードと CoRE(コラボラ

ティブ・リサーチ・アンド・エデュケーション)フェロー・アワード、ホテルカレッジの

デンケン・アワード(リサーチ部門)を受賞。

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