鉛直設置コーンカロリメータ試験におけ る口火位置 …ig −t ∞) 試験体...
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1.はじめにコーンカロリメータ試験(以下、CCM試験)は、材料の
着火性と発熱性を同時に測定するために、Babrauskasによって開発された試験方法である1)。着火源として使用する口火は、最も着火が起こり易い位置に設置している1)。ISO 5660 Annex E2)では、Babrauskasが提案したように、試験体ホルダー上部5mmとしている。しかし、口火の位置と着火時間の定量的関係はあまり知られていない。
既報3)では、ラワン合板を鉛直に設置したCCM試験において口火位置を変えた加熱実験を行い、口火位置によって着火時間、着火温度、着火直後の発熱速度(以下、着火特性)を測定した結果を考察した。この実験は加熱強度を20kW/m2に固定して口火位置の違いを比較したものであるが、試験体を水平設置とした場合と最も近い着火特性となったのは、ISO 5660 Annex Eの口火位置ではなく、試験体の加熱面上端中央からヒーター側に1/4インチの位置に口火を設置した場合であった。一方、着火限界熱流束の測定では、一般的に加熱強度がさらに小さくなり、熱分解ガスの発生量も小さくなる。そのため、試験体表面から発生する熱分解ガスが到達し易い位置に口火があるほど着火限界熱流束が小さく測定されることが予想される。
さらに、材料の着火特性としてCCM試験で測定した着火時間および着火限界熱流束に熱着火理論を適用し、材料の着火温度と熱慣性を求める手法が提案されている例えば4),5)。このうち、ASTM E 13214)で採用されているように、着火限界熱流束で加熱強度を無次元化して熱慣性を求める場合には、着火限界熱流束の測定誤差が熱
慣性の計算結果に影響を及ぼす可能性が考えられる。以上のことから、本研究ではコーンカロリメータ試験
の口火位置の違いが、着火限界熱流束および熱慣性の測定結果に及ぼす影響について調べることを目的とした。
2.着火温度と熱慣性の測定方法2. 1 測定原理
熱着火理論によると、一定の外部放射を受ける半無限体の表面温度は次式により表される6)。
(1)
加熱強度qeで試験体を加熱した時の着火時間をtigとすると、式(1)の表面温度Tsを着火温度Tig、時間tを着火時間tigで置き換えることができる。
一方、式(1)において加熱時間を無限大(t→∞)とすると次式となる。
(2)
式(2)の加熱強度が着火に至る最小の加熱強度qcr(着火限界熱流束と呼ぶ)のとき、表面温度は着火温度Tig
に漸近する。式(2)の加熱強度qeを着火限界熱流束qcr、表面温度Tsを着火温度Tigとして、式(1)と式(2)の比を取ると、次式となる。
−=− ∞ ck
thckth
hqTT e
s ρρ
22
erfcexp1
hqTT e
s =− ∞
試験・研究
23
*1 TSUCHIHASHI Tsuneto:(一財)日本建築総合試験所 試験研究センター 環境部 耐火防火試験室 室長代理*2 HARADA Kazunori:京都大学大学院工学研究科 教授 博士(工学)
土橋 常登*1、原田 和典*2
The effect of position of ignition source on measured values of critical heat flux and thermal inertia using cone calorimeter in vertical orientation
鉛直設置コーンカロリメータ試験における口火位置が着火限界熱流束と熱慣性の測定値に及ぼす影響
(3)
ASTM E 1321の方法に従うと、複数の加熱強度で着火時間を測定し、着火時間の平方根 を横軸に、加熱強度比qcr/qeを縦軸にとって実験結果をプロットすれば、その傾き b から熱慣性(kpc)を求めることができる。
(4)
ここで、hは総合熱伝達率であり、着火限界熱流束と着火温度から次式で求める。
(5)
着火温度は着火限界熱流束で加熱した時の表面の熱収支から求める。図-1に示すように着火限界熱流束で加熱されたときに温度が定常状態となったときの材料表面の熱収支は次式となる。
(6)
ここで、hcおよびKはそれぞれ試験体表面の対流熱伝達率と試験体表面から試験体ホルダー裏面空気層までの熱貫流率である。対流熱伝達率は既往の測定に基づき13W/(m2.K)とした7)。伝導熱流は他の熱流に比べて小さいので無視されることが多いが、ここでは材料の熱伝導率と厚さから求めた。
2. 2 実験方法(1)実験条件
実験はISO 5660に従って実施した。試験体の向きは鉛直設置(以下、CCM(V))と水平設置(以下、CCM(H))と2種類とし、口火条件は、図-2に示すようにCCM(V)ではISO 5660 Annex Eで推奨されている位置(口火位置:C)に加え、試験体の加熱面中央(以下、中央)からヒーター側に 1 / 2 インチ(約13mm)だけ離れた位置(口火位置:A)、試験体の加熱面上端中央(以下、上方)からヒーター側に1/4インチ(約6mm)だけ離れた位置(口火位置:B)の3種類とした。CCM(H)はISO 5660に従って試験体表面中央から1/2インチ(約13mm)上方の位置とした(口火位置:D)。
ig
igig
e
cr
tck
h
ckth
ckth
ρπ
ρρ
2
erfcexp122
≈
−=
24
=
bhck
πρ
( )∞−=
TTqh
ig
cr
( ) ( ) ( ) ( )∞∞∞ −+−+−+−= TTKTThTTqq igigcigcrcr441 εσε
加熱面
入射
反射
再放射
対流
伝導crq
igT∞T
( )44∞−TTigεσ
( )εcrq−1
( )∞−TTh igc
( )∞−TTK ig
試験体
裏打ち材
リテイナーフレーム
ロードセル
試験体ホルダー B
A
C
コーンヒータ
:口火位置
A:中央 1/2インチ B:上方 1/4インチC:ISO 5660 Annex E
試験体
裏打ち材
コーンヒータ
リテイナーフレーム
試験体ホルダー ロードセル
D
:口火位置
D:中央 1/2インチ
CCM(H)
CCM(V)
5
6.3
13
25 50
13
50
25
図-1 着火限界での材料表面の熱収支
図-2 試験体設置方法と口火位置(寸法単位:mm)
igt
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(2)試験体
試験体は、大きさ99×99mm、厚さ9mm、比重0.65
のラワン合板(JAS1類1等)を用いた。試験体ホルダーへの挿入はISO 5660に従い、試験体の加熱面以外を厚さ0.025mmのアルミニウム箔で包み、セラミックブランケット(密度65kg/m3)を裏打ちした状態で試験体ホルダーに挿入した(写真-1)。試験体の積層構成を図
-3に示す。合板表面から試験体ホルダー裏面空気層までの熱貫流率は1.97W/m2.Kであった。
(7)
試験体の養生は、室温23℃、相対湿度50%の養生室で3週間以上行った。試験時の含水率は8.4~13.8%(平均11.7%)であった。
間の放射熱の相互反射により、熱流束計単独の測定値に比べ約10%入射熱流が増加する7)。本稿では、試験体設置時の入射熱流を「加熱強度」とし、熱流束計単体で測定した値を「較正時の加熱強度」として区別する。
実験においては、較正時の加熱強度を60~20kW/
m2、着火限界熱流束まで変化させた。着火限界熱流束の測定では、較正時の加熱強度で20kW/m2から5kW/m2
ずつ下げて設定し、着火しなくなるまで測定を繰り返した。着火しない加熱強度が判明すると、減じた5kW/m2
の半分の2.5 kW/m2だけ加熱強度を増加させ、それでも着火しない場合はさらにその半分の1.25 kW/m2だけ加熱強度を増加させて着火の有無を確認し、着火が生じた最小の加熱強度を着火限界熱流束とした。(4)測定項目
試験体を鉛直に設置した場合の状況を写真-2に示す。各実験においては、試験体の着火時間、表面温度を測定した。着火は目視で判定したが、表面の様子をビデオカメラでも撮影した。口火位置がC(ISO 5660 Annex
E)およびB(上方1/4インチ)では、試験体の表面温度を赤外線カメラ(測定レンジ0~650℃、最小検知温度差0.07℃、測定精度±2℃、放射率設定値0.95)で測定した。
97.1)1( =++++=rearhol
hol
cb
cb
al
al
s
s
hkd
kd
kd
kdK
99mm 99mm
写真-1 試験体およびホルダー
試験体およびホルダー
赤外線カメラ ビデオカメラ
写真-2 試験体設置状況
試験体(合板)kS= dS = 9アルミ箔 kal=273, dal = 0.03
セラミックブランケットkcb=0.1, dcb = 41試験体ホルダー(ステンレス)khol=19 W/(m・K), dhol = 2.15mm
総合熱伝達率hrear=20 W/(m2・K)
0.2,
図-3 試験体の積層構成
(3)加熱強度
加熱強度を設定するため、ISO 5660 に示される方法に従い、試験体表面中央と同じ場所に熱流束計を設置してコーンヒータの温度をあらかじめ調節しておいた。しかし、試験体設置時には、試験体とコーンヒータ間との
3.実験結果3. 1 着火に至るまでの状況
着火に至るまでの口火付近に到達する熱分解ガスの発生状況を写真-3~5に示す。各加熱強度とも、熱分解ガスが口火に到達し始めた状況、フラッシュ(極めて短い間に火炎を伴う燃焼)の発生、着火直後の順に示した。(1)着火限界熱流束で加熱した場合
着火限界熱流束(試験体への入射熱流値)は、写真-3
(a)に示すように口火位置がA(CCM(V)、中央1/2
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CCM(H) CCM(V) 中央 1/2 インチ
CCM(V) 上方 1/4 インチ
CCM(V) ISO 5660 Annex E
着火限界熱流束 17.2kW/m2
(a)着火限界熱流束での加熱
(b)加熱強度 22kW/m2
12:30
14:53
15:27
2:56
17:13
17:36
10:06
18:12
18:34
8:10
8:22
8:28
3:00
3:35
3:41
1:45
3:02
3:18
2:13
6:48
6:54
0:34
0:44
0:49
0:38
1:07
1:09
0:30
0:50
0:51
0:38
1:07
1:14
10:40
10:55
10:00
着火限界熱流束 15.2kW/m2 着火限界熱流束 15.2kW/m2 着火限界熱流束 14.4kW/m2
(c)加熱強度 34kW/m2
写真-3 着火に至るまでの熱分解ガスの発生状況
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インチ)で17.2 kW/m2、B(CCM(V)上方1/4インチ)およびC(Annex E)で15.2 kW/m2、D(水平設置)では14.4 kW/m2であった。
熱分解ガスが口火に到達する時間および着火までの時間とも、CCM(H)が最も短い。CCM(H)は口火が合板の加熱面中央の真上にあるため熱分解ガスの到達が最も早くなる。鉛直設置で着火限界熱流束が同じであるCCM(V)ISO 5660 Annex EとCCM(V)上方1/4インチを比較すると、CCM(V)ISO 5660 Annex Eは熱分解ガスの到達時間は早いがフラッシュの発生までには時間を要した。鉛直設置では発生した熱分解ガスが試験体表面に沿って上昇するため、試験体表面と同一面上に口火が位置するCCM(V)ISO 5660 Annex Eで熱分解ガスの到達が早い。そのため、先ず口火付近の熱分解ガスでフラッシュが発生し、その後さらに時間が経過して熱分解ガスの発生量が多くなると合板加熱面上までフラッシュが下方に伝播して着火に至る。一方、C C M(V)上方1/4インチは合板加熱面上に口火があるため、合板加熱面でのフラッシュが発生しやすく、着火に至りやすい。(2)加熱強度が22kW/m2の場合
写真-3(b)に示すように加熱強度が22kW/m2では、着火が起こるものの合板表面の熱分解が不活発で、熱分解ガスの発生量は多くない。そのため、口火への熱分解ガスの到達および着火までの時間はCCM(H)が最も短い。鉛直設置では、着火限界熱流束で加熱した場合と同じく発生した熱分解ガスが合板表面に沿って上昇するため、熱分解ガスが口火へ到達する時間はCCM(V)ISO 5660 Annex E、 CCM(V)上方1/4インチ、CCM(V)中央1/2インチの順に短い。CCM(V)中央1/2インチは口火が合板表面から最も離れているため口火へ到達する時間が最も長い。その後のフラッシュの発生から着火に至るまでの時間は、CCM(V)上方1/4インチ、CCM(V)ISO 5660 Annex E、CCM(V)中央1/2インチの順に短くなっており、CCM(V)ISO 5660 Annex EとCCM(V)上方1/4インチで熱分解ガスの到達時間の順番と逆転している。(3)加熱強度が34kW/m2の場合
写真-3(c)に示すように加熱開始直後から合板表面の熱分解が活発であるため熱分解ガスの発生量が多く、熱分解ガスが口火へ到達する時間は口火位置によらず概ね同じとなる。加熱開始からフラッシュおよび着火までの時間はそれぞれ50秒、51秒であった。
CCM(H)ではフラッシュの発生とほぼ同時に着火
に至った。鉛直設置では、合板表面の中央に口火が位置するCCM(V)中央1/2インチでフラッシュ発生と着火までの時間が短く、発生時間はCCM(H)と概ね同じである。CCM(V)ISO 5660 Annex E およびCCM(V)上方1/4インチのフラッシュ発生と着火までの時間は、CCM(V)中央1/2インチに比べてわずかに長いが、その差は小さい。
3. 2 着火時間各実験条件における加熱強度と着火時間との関係を図
-4~7に示す。いずれの実験条件とも、加熱開始から1200秒経過した時点で着火しなかった場合を「着火せず」と判定した。図中の黒塗りの記号が該当する。
加熱強度が33kW/m2以上の場合は、加熱開始直後から熱分解ガスの発生量が多くなるため着火時間は短くなる。そのため、口火位置による差は僅かであった。
加熱強度が30kW/m2より小さくなると、加熱強度が小さくなるに従って熱分解ガスの発生量も少なくなる。そのため、口火に熱分解ガスが到達し易いCCM(H)の着火時間が最も短くなる。鉛直設置では熱分解ガスが到達し易く合板加熱面上に口火が位置する上方1/4インチの着火時間が最も早く、CCM(H)との差が小さい。他の口火位置では着火に時間を要し、ISO 5660 Annex EではCCM(H)の約2倍、中央1/2インチでは約3倍の時間を要した。
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
0 10 20 30 40 50 60 70
着火時間
[s]
加熱強度[kW/㎡]
16.7 17.5
0.8
:着火せず
:着火
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
0 10 20 30 40 50 60 70
着火時間
[s]
加熱強度[kW/㎡]
14.0 15.5
1.5
:着火せず
:着火
図-4 着火時間(口火位置A:CCM(V)、中央1/2インチ)
図-5 着火時間(口火位置B:CCM(V), 上方1/4インチ)
27
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3. 3 着火温度(1)実測値
CCM(V)の口火位置が上方1/4インチおよびISO 5660 Annex Eについて、合板表面温度の赤外線カメラによる測定結果を図-8、9に示す。図中の×印は着火した時点を示している。各実験において、着火した時点での口火付近の試験体表面温度を着火温度とした。
図-8、9より、加熱強度が34kW/m2以上と強い場合は、加熱開始直後に合板表面温度が急激に上昇し、着火に至っている。加熱強度が28kW/m2以下となると加熱による温度上昇は緩やかとなり、着火直前にフラッシュによる瞬間的な温度上昇がみられる。
着火限界熱流束での着火温度は、CCM(V)上方1/4インチが376℃、CCM(V)ISO 5660 Annex Eが406℃であった。CCM(V)ISO 5660 Annex Eの場合は、着火前のフラッシュの発生回数が多く、かつ発生時間も長かったことから、着火温度も高くなったと考えられる。
次に、加熱強度と着火温度との関係を図-10および表
-1に示す。いずれの加熱強度とも、着火温度はCCM(V)上方1/4インチに比べてCCM(V)ISO 5660 Annex Eの方が高い。加熱強度が約34kW/m2以上では、着火温度の差が50~60℃と大きく、約22kW/m2を除く34kW/m2より小さい範囲では8~30℃と小さい。
各加熱強度での着火温度を平均すると、CCM(V)上方1/4インチが約381℃、CCM(V)ISO 5660 Annex Eが約427℃であり、CCM(V)上方1/4インチがCM(V)ISO 5660 Annex Eに比べて約45℃低い。一方、口火位置毎の着火温度の標準偏差はどちらの口火位置でも約17~19℃で大差ない。上方1/4インチおよびISO 5660 Annex Eとも、熱分解ガスの流れる先に口火が設置されるが、試験体の加熱面上に位置する上方1/4インチの方がフラッシュの発生から着火までの時間が短いため、着火温度が低く測定される。
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
0 10 20 30 40 50 60 70
着火時間
[s]
加熱強度[kW/㎡]
14.0 15.5
1.5
:着火せず
:着火
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
0 10 20 30 40 50 60 70
着火時間
[s]
加熱強度[kW/㎡]
14.1 14.8
0.7
:着火せず
:着火
図-6 着火時間(口火位置C:CCM(V)、ISO 5660 Annex E)
図-7 着火時間(口火位置D:CCM(H)、中央1/2インチ) 0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
0 120 240 360 480 600 720 840 960 1080 1200
表面
温度
(℃
)
時間(秒)
68.6kW/m256.6kW/m244.1kW/m233.7kW/m228.1kW/m222.4kW/m218.2kW/m215.2kW/m2
:着火
図-8 着火温度(口火位置B:CCM(V)、上方1/4インチ)
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
0 120 240 360 480 600 720 840 960 1080 1200
表面
温度
(℃
)
時間(秒)
68.6kW/m256.6kW/m244.1kW/m233.7kW/m228.1kW/m222.4kW/m218.2kW/m215.2kW/m2
:着火
図-9 着火温度(口火位置C:CCM(V)、ISO 5660 Annex E)
0
100
200
300
400
500
600
0 10 20 30 40 50 60 70 80
着火温度(℃
)
加熱強度(kW/m2)
上方1/4インチ
ISO 5660 Annex E
図-10 加熱強度と着火温度
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(2)熱着火理論から求めた着火温度との比較
2.1節で示した熱着火理論に基づき、着火限界熱流束の測定値を式(3)に用いて着火温度を計算した。計算条件と計算結果を表-2に示す。なお、合板表面の放射率は1と仮定し、対流熱伝達率は定常状態となった鉄板の温度を測定して求めた試験体表面の熱収支から求めた既報の測定結果を用いた7)。
計算による着火温度は、CCM(H)が最も低く356.7℃であった。鉛直設置ではCCM(V)上方1/4インチおよびCCM(V)ISO 5660 Annex Eが379.7℃と同じで、CCM(V)中央1/2インチが404℃と最も高い。CCM(V)上方1/4インチでは計算結果と実測値が概ね同じとなった。
CCM試験の対流熱伝達率は試験体の設置方向による差が小さいことから7)、着火限界熱流束の測定値の差が着火温度の算出にそのまま反映されており、設置の方向および口火位置に着火温度が影響されることを示している。
表-2に示す実測値は、着火限界熱流束で加熱した場合の着火温度である。計算結果と比較すると、C C M(V)上方1/4インチはほぼ一致している。CCM(V) ISO 5660 Annex Eでは、計算結果に比べ実測値が20℃ほど高くなっているが、3.1節で述べたように着火直前にフラッシュが頻繁に発生しており、その間フラッシュによる火炎によって表面温度が上昇したと考えられる。フラッシュが発生する直前の表面温度は約380℃であり、計算値とほぼ一致している。
3. 4 熱慣性2.1節で示したように、熱慣性を計算するためには、
式(4)の比例定数であるb( )値を求めておく必要がある。各実験条件における加熱強度比と着火時間との平方根の関係を図-11~14に示す。図中の回帰直線の傾きがb値となる。なお、式(4)は合板の温度上昇が半無限体で近似(試験体が無限に厚いとした仮定)できる場合を想定したものである。回帰直線を求めるにあたり、着火時間の測定が十分な精度で可能で、4点以上の回帰プロットのあることが望ましいため、加熱強度34kW/m2以上での着火時間の測定値(白抜きプロット)を使用した。
図-11~14より、 値はCCM(V)ISO 5660 Annex E、CCM(V)上方1/4インチ、CCM(H)、CCM(V)中央1/2インチの順に小さい。図-11に示すCCM(V)中央1/2インチでは、加熱強度が約28kW/m2以下となると他の口火位置とは異なり熱分解ガスが口火へ到達するまでに時間を要するようになる。そのため、図-4
に示すように加熱強度が約34kW/m2以上の着火時間と比べて急に着火時間が長くなることから、図-11に示す加熱強度約34kW/m2以上と加熱強度約28kW/m2以下で着火時間に大きな差が現れた。
図-12、13に示すCCM(V)上方1/4インチとCCM(V)ISO 5660 Annex Eの着火限界熱流束は同じであるが、各加熱強度での着火時間が短いため、C C M(V)上方1/4インチのb値が小さくなっている。また、CCM(H)とCCM(V)中央1/2インチの各加熱強度での着火時間は概ね同じであるが、着火限界熱流束はCCM(V)中央1/2インチの方が大きいため、b値も大きくなる。
式(6)により熱慣性を算出した結果を表-3に示す。熱慣性はCCM(V) ISO 5660 Annex E が最も大きく、CCM(V)上方1/4インチ、CCM(H)、CCM(V)中央1/2インチの順に小さい。hの値は口火位置による差がほとんどないため、b値の違いがそのまま熱慣性に影響を及ぼしている。式(3)の定義より、着火限界熱流束が大きいほどb値は大きくなる。表-2より着火限界熱流束はCCM(V)中央1/2が最も大きいので、b
値が大きくなって結果的に熱慣性が小さく計算される。CCM(H)では着火限界熱流束が小さいが、加熱強度34 kW/m2以上での着火時間も短くなっているので、熱慣性はCCM(V)上方1/4インチやCCM(V)ISO 5660 Annex Eに比べて小さく計算される。
加熱強度
[kW/m2]
68.6 366.9 427.8
56.6 362.7 413.7
44.1 363.4 416.8
33.7 373.0 437.1
28.1 400.2 431.5
22.4 391.4 460.3
18.2 413.4 421.5
15.2 375.7 405.5
平均 380.8 平均 426.8
標準偏差 18.8 標準偏差 16.9
上方1/4インチ ISO 5660 Annex E
着火温度[℃]
表-1 着火温度(実測値)
計算結果 実測値
[kW/m2] [W/m
2.K] [W/m
2.K] [℃] [℃]
中央1/2インチ 17.5 407.7 -
上方1/4インチ 15.5 383.3 375.7
ISO 5660 Annex E 15.5 383.3 405.5
CCM(H) 中央1/2インチ 14.8 14.80 1.980 361.9 -
計算条件
口火位置
CCM(V) 12.78 1.980
crqch K igT igT
※
※)表面の放射率を 0.95 として測定した値
表-2 着火温度の計算結果と実測値の比較
ckh ρπ/2≡
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4.結論鉛直設置CCMについて、口火位置を変えて合板の着
火時間および着火限界熱流束を測定し、測定結果を熱着火理論に用いて着火温度と熱慣性を算出した。その結果、以下の結論を得た。
1) 加熱強度が34kW/m2より大きい場合の着火時間は、試験体の設置方向や口火位置によらず概ね同じであった。しかし、加熱強度が34kW/m2より小さくなると、熱分解ガスが口火に到達しづらくなる鉛直設置中央1/2インチおよび試験体表面から口火位置が遠くなるISO 5660 Annex Eで着火時間は長くなる。
2) 着火限界熱流束は、水平設置が最も小さく、鉛直設置上方1/4インチおよびISO 5660 Annex E、鉛直設置中央1/2インチの順に大きくなる。加熱強度が小さくなるに従って熱分解ガスの発生量も減少するため、口火が合板表面上にあり、熱分解ガスが口火に到達し易い位置であるほど、着火限界熱流束は小さくなる。
3) 鉛直設置上方1/4インチとISO 5660 Annex Eでの着火温度の実測値は、いずれの加熱強度でも上方1/4インチの方が低い。加熱強度が34kW/m2以上では両者の差は大きくなる。熱着火理論から算出した着火温度と比較すると、上方1/4インチで概ね同じ結果を得た。ISO 5660 Annex Eでは、着火直前のフラッシュによる温度上昇を除けば、熱着火理論による計算値と一致した。
4) CCMの測定結果を熱着火理論に適用して熱慣性を求める場合には、口火が遠い位置にあり着火限界熱流束が大きいほど熱慣性はみかけ上小さく算出される。今回の実験では、鉛直設置の内では中央1/2インチで最も小さく、上方1/4インチで最も大きくなった。
計算結果
[-] [kW/m2.K] [kW
2s/m
4.K
2]
中央1/2インチ 0.0710 0.045 0.51
上方1/4インチ 0.0576 0.043 0.69
ISO 5660 Annex E 0.0545 0.043 0.78
CCM(H) 中央1/2インチ 0.0641 0.043 0.58
計算条件
口火位置
CCM(V)
hb ckρ
表-3 熱慣性の比較
0
0.5
1
1.5
0 5 10 15 20 25 30 35
qcr/
qe
Sqrt (tig) [s1/2]
1
0.0710
:加熱強度 34kW/m2未満の着火時間
:加熱強度 34kW/m2以上の着火時間
図-11 着火時間と加熱強度比の関係 (CCM(V)中央1/2インチ)
0
0.5
1
1.5
0 5 10 15 20 25 30 35
qcr/
qe
Sqrt (tig) [s1/2]
1
0.0641
:加熱強度 34kW/m2未満の着火時間
:加熱強度 34kW/m2以上の着火時間
図-14 着火時間と加熱強度比の関係(CCM(H))
0
0.5
1
1.5
0 5 10 15 20 25 30 35
qcr/
qe
Sqrt (tig) [s1/2]
1
0.0576
:加熱強度 34kW/m2未満の着火時間
:加熱強度 34kW/m2以上の着火時間
図-12 着火時間と加熱強度比の関係 (CCM(V)上方1/4インチ)
0
0.5
1
1.5
0 5 10 15 20 25 30 35
qcr/
qe
Sqrt (tig) [s1/2]
1
0.0545
:加熱強度 34kW/m2未満の着火時間
:加熱強度 34kW/m2以上の着火時間
図-13 着火時間と加熱強度比の関係(CCM(V)ISO 5660 Annex E)
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【記号】 K 加熱面から下部空気までの熱貫流率[kW/(m2.K)] h 加熱側表面の総合熱伝達率[kW/(m2.K)] hc 加熱側表面の対流熱伝達率[kW/(m2.K)] Ts 合板表面温度[K] Tig 着火温度[K] T∞ 雰囲気温度[K] qe 加熱強度[kW/m2] qcr 着火限界熱流束[kW/m2] t 時間[s] k 熱伝導率[kW/m.K] c 比熱[kJ/kg.K] p 密度[kg/m3]ε 放射率σ ステファン・ボルツマン定数[kW/(m2・K4)]
【参考文献】
1) V.Babrauskas and W.J.Parler: Ignitability Measurements with the Cone Calorimeter, Fire and Materials, Vol.11, pp31~34, 1987
2) International Organization for Standardization, ISO5660-1:2002, Reaction to f ire tests-Heat release, smoke production and mass loss rate, Part1: Heat release rate (cone calorimeter method), 2002
3) 土橋常登,原田和典:鉛直設置コーンカロリメータ試験における口火位置の影響, GBRC162号, Vol.40, No.4, 2015.10月
4) ASTM E 1321, Standard Test Method for Determining Material Ignition and Flame Spread Properties
5) 建設省大臣官房技術調査室,建設省総合技術開発プロジェクト 防・耐火性能評価技術の開発報告書, 1998
6) Quintiere J. G., A Theoreical Basis for Flammability Properties, Fire and Materials, vol. 30, pp. 175-214, 2006
7) 土橋常登,原田和典:コーンカロリメータ試験装置と着火性試験装置における材料表面の熱伝達, 日本建築学会環境系論文集, 日本建築学会, Vol.80, No.709, pp193~201, 2015
【執筆者】
*1 土橋 常登(TSUCHIHASHI Tsuneto)
*2 原田 和典(HARADA Kazunori)
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