自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する 先 … ·...

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―  ― 189 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年) 本研究では、広汎性発達障害(以下、PDD)者の集団療法に関する先行研究について、実施目的お よびアプローチ方法の点から4つに分けて概観した。⑴情動・自己表現の活性化、自己・他者理解の 促進をねらいとした心理劇・心理劇的ロールプレイング、⑵安心できる居場所としての機能を持ち、 自己表現や他者への関心を促進するなどの心理教育的なねらいにより実施される集団遊戯療法、 ⑶コミュニケーション行動の獲得や促進、不適切行動の軽減などをねらいとしたソーシャルスキル トレーニング・行動療法に基づく訓練、⑷ PDD 者に対する理解やかかわりの促進をねらいとした、 周囲の人々(保護者・きょうだい・定型発達の児童生徒など)を対象に含む集団療法である。他者と のコミュニケーションに困難さを示す PDD 者に対し、実際の他者との対人関係場面の中で自己理 解を深めることを促進するために、それぞれの集団療法の実施の意義、留意点、および課題につい て考察した。 キーワード:広汎性発達障害・集団療法・自己理解 1. 問題と目的 広汎性発達障害(PervasiveDevelopmentalDisorders、以下 PDD とする)者に特有の自己の発達 における特徴のひとつとして、彼らが思春期・青年期になると、他者との関係を構築する上での自 分自身の特異的な行動や感覚を認識するようになり、自己に対する違和感や疑問、不安を抱くよう になることが指摘されている(廣澤・越智・小林・田中,2003;廣澤・滝吉・田中,2004)。他者との 関係性を構築・維持することの苦手さを示すPDD者は、他者とのかかわりを自発的には持ちにくく、 その機会があったとしても周囲の支援なくしては失敗に終わってしまうことが考えられる。そのた め、彼らが自己と他者の視点を相互調整の中で解決しながら、他者との相互交渉を行っていくこと (杉村,1998)を体験する場を提供することが有効な支援となり得る。そこで、本研究では、集団に おいて実施される PDD 者への支援に関する先行研究を取り上げ、その動向を明らかにしたうえで、 彼らの自己理解を促進するために有効な心理臨床的支援について検討することを目的とする。 PDD という障害の原因論が歴史的に変遷してきた背景を考慮すると、その変遷に伴い、彼らへの 教育学研究科 博士課程後期/日本学術振興会特別研究員 ** 教育学研究科 准教授 自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する 先行研究の動向と課題 滝 吉 美知香 *  田 中 真 理 **

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

 本研究では、広汎性発達障害(以下、PDD)者の集団療法に関する先行研究について、実施目的お

よびアプローチ方法の点から4つに分けて概観した。⑴情動・自己表現の活性化、自己・他者理解の

促進をねらいとした心理劇・心理劇的ロールプレイング、⑵安心できる居場所としての機能を持ち、

自己表現や他者への関心を促進するなどの心理教育的なねらいにより実施される集団遊戯療法、�

⑶コミュニケーション行動の獲得や促進、不適切行動の軽減などをねらいとしたソーシャルスキル

トレーニング・行動療法に基づく訓練、⑷ PDD者に対する理解やかかわりの促進をねらいとした、

周囲の人々(保護者・きょうだい・定型発達の児童生徒など)を対象に含む集団療法である。他者と

のコミュニケーションに困難さを示す PDD者に対し、実際の他者との対人関係場面の中で自己理

解を深めることを促進するために、それぞれの集団療法の実施の意義、留意点、および課題につい

て考察した。

キーワード:広汎性発達障害・集団療法・自己理解

1. 問題と目的 広汎性発達障害(Pervasive�Developmental�Disorders、以下 PDDとする)者に特有の自己の発達

における特徴のひとつとして、彼らが思春期・青年期になると、他者との関係を構築する上での自

分自身の特異的な行動や感覚を認識するようになり、自己に対する違和感や疑問、不安を抱くよう

になることが指摘されている(廣澤・越智・小林・田中,2003;廣澤・滝吉・田中,2004)。他者との

関係性を構築・維持することの苦手さを示すPDD者は、他者とのかかわりを自発的には持ちにくく、

その機会があったとしても周囲の支援なくしては失敗に終わってしまうことが考えられる。そのた

め、彼らが自己と他者の視点を相互調整の中で解決しながら、他者との相互交渉を行っていくこと

(杉村,1998)を体験する場を提供することが有効な支援となり得る。そこで、本研究では、集団に

おいて実施される PDD者への支援に関する先行研究を取り上げ、その動向を明らかにしたうえで、

彼らの自己理解を促進するために有効な心理臨床的支援について検討することを目的とする。

 PDDという障害の原因論が歴史的に変遷してきた背景を考慮すると、その変遷に伴い、彼らへの

 *教育学研究科 博士課程後期/日本学術振興会特別研究員**教育学研究科 准教授

自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する

先行研究の動向と課題

滝 吉 美知香* 

田 中 真 理**

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

支援も様々な側面からのアプローチが行われてきた(十一,2006)。Kanner(1943)が初めて自閉性

障害11事例を報告して以来、1940年代から1960年代にかけては、自閉性障害の原因が環境的・後天

的なものとされた。その時期には、不適切な保護者の養育態度や環境に代わる愛情を与えるといっ

た精神分析的な視点からのアプローチが中心に行われた(例えば、Bettelheim,1967 / 1973)。そ

の後、Rutter(1968)によって言語障害説が提唱されたことを契機に、自閉性障害が先天的・器質的

な障害として認識されるようになってからは、行動主義的な理論や技法による彼らの言語・認知的

側面への働きかけが盛んに行われるようになった(例えば、Lovaas�and�Schreibman,1971)。言語

や認知の機能を切り口として PDD者への教育や支援を考えることは、「他者との関係性を形成す

る能力」というとらえどころのない概念の獲得を目標として掲げるよりも、現実的・具体的な教育的・

支援的方途を得やすい点で、非常に有効であった(野村,1992)。特に、即時的な対処や効果が期待

される教育的現場を中心に、行動主義に基づく訓練は重宝され、ある一定の効果を示してきた。し

かしながら、その一方で、PDD者が訓練で獲得したスキルを日常場面で応用することが困難であ

ることや、他者とのやりとりの文脈に応じて振る舞うことには相変わらず不自然さを示すことなど、

他者との関係性の中で示される PDD者の障害は残存していた。このような他者とのやりとりの場

そのものが支援の場として設定されるべきであり、その中で PDD者の他者との関係性における障

害を支援していこうとする考え方は、1980年代になってみられるようになってきたといえるだろう。

よって、本研究では、1980年周辺から現在に至るまで実施されてきた集団療法を取り上げることと

する。

 PDD者の集団療法に関する先行研究を、その実施目的とアプローチ方法から大きく分類すると、

以下の4つに分けられる。1つは、情動・自己表現の活性化、自己・他者理解の促進をねらいとした

心理劇や心理劇的ロールプレイングである。PDD者の自己の形成・確立へ向けた支援という点か

らは、最も直接的に他者との関係性の中での自己理解の促進をねらいとした集団療法であるといえ

る。2つは、安心できる居場所としての機能を持ち、その中で自己表現や他者への関心の促進など

心理教育的なねらいを持つ集団遊戯療法である。PDD者が自己を形成・確立するための基盤とな

る他者との関係性の構築や自己を表現できる場の提供に焦点化した集団療法であるといえよう。3

つは、コミュニケーション行動の獲得や促進、不適切行動の軽減などをねらいとしたソーシャルス

キルトレーニング(Social�Skill�Training、以下 SSTとする)および行動療法に基づく訓練である。

PDD者の自己理解という内面よりも、自己理解のひとつの側面となる言動や振る舞いなどの外面

的な側面へのアプローチであるといえる。4つは、PDD者に対する理解やかかわりの促進をねらい

とした、周囲の人々(保護者・きょうだい・定型発達の児童生徒など)を対象に含む集団療法である。

他者との関係性の中で自己の形成・確立が促進されていくことを考慮すると、このような周囲の人々

からの PDD者理解が PDD者本人の自己理解に与える影響を考慮することも重要である。

 以下では、これら4つの点から先行研究を概観する。

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2. 心理劇・心理劇的ロールプレイング 以下では、まず心理劇および心理劇的ロールプレイングに関する基本的な構成や方法の概要を述

べた後に、PDD者を対象とした心理劇および心理劇的ロールプレイングの適用の意義について3

つの視点から先行研究を概観したうえで、PDD者を対象に施行する場合の留意点について述べる。

2-1. 心理劇および心理劇的ロールプレイングの基本的構成や技法

 心理劇(Psychodorama)とは、Moreno(1964 / 2006)が創始した集団心理療法であり、即興劇に

よって対人関係や個人的な世界を展開するものである。複数の参加者が提示した心理的・社会的問

題に対し、問題場面が求める諸役割を参加者自身が演じることによって、自己や他者への理解を深

め、関係に気付き、自発性・創造性を促そうとする集団活動である(台,1991)。心理劇の中で、何ら

かの役割をとり演じることをロールプレイングというが、単にロールプレイングというと、即興で

自由に役をとり演じるという心理劇の中で意味するところのロールプレイングのみではなく、技能

訓練の場で使用される練習なども含む広義の意味合いを持つため、心理劇を基盤としたロールプレ

イングを心理劇的ロールプレイング(Psycho-Dramatic�Role-Playing、以下 PDRP)と定義する(台,

2003)。演者の心理的な問題について、その人の過去の体験や背景に遡り、内面を分析することを中

心とする心理劇に対し、PDRPでは、集団の中での他者との関係性や社会的な場面を中心に取り上

げ、創造性と自発性を伴う演技の中で、演者の自分自身や他者への理解を深めることを行う。

 心理劇を構成するのは、進行係としての「監督」、主人公であり劇を演じる「主役」、監督を補助す

るとともに、役を演じることで主役をも補助する「補助自我」、劇を行う場所としての「舞台」、舞台

上の演技を観る「観客」、という5つの要素である(台,2003)。基本的な技法としては、「ダブル

(Double:二重自我法)」「ミラー(Mirror:鏡映法)」「ロールリバーサル(Role�Reversal:役割交代法)」

などがある。ダブルとは、主役と同じ人格を場面の中で補助自我が演じる援助の方法であり、主役

の分身のような働きをすることによって、主役が言いたくても表現できないことの代弁や、主役の

自分自身の気持ちへの気付きを促進することを行う(高原,2009)。ミラーとは、主役が観客となり、

補助自我が主役を鏡のように模倣して演じる援助の方法である。補助自我である自分自身を観るこ

とによって、主役が自分自身に対する気付きを得ることにつながる(高原,2009)。ロールリバーサ

ルとは、主役と補助自我とのやりとりのあとに、主役がとった役割を補助自我が、補助自我がとっ

た役割を主役がとる援助の方法である。主役が補助自我のとる役割の立場を理解するとともに、主

役自身、および主役と補助自我のとる役割の関係を理解することにつながる(台,2003;高原,

2009)。これらの技法を監督が指示し、舞台上で補助自我が主役を補助することによって、主役およ

び観客は、自己や他者に対する理解を深めていくことが可能となる。

 このような基本的構成・技法によって施行されるのが心理劇および PDRPである。他者との関係

性における自己の発達と、心理劇および PDRPの構造に共通した点があることは、Mead(1934 /

1973)による次の叙述にも示唆されている。「同じ社会に属している他者との相互作用の主要な様式

を構成する有意味身振り(significant�gestures)による外的な会話を、個人が内面化して芝居仕立て

(doramatization)にしているものが、自己の発生と発展の最初に経験される段階である(p173)」。

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

つまり、言語や行為によって他者と意思疎通した内容を自己に反映させるために、個人内において

設定された他者の存在という役割を介していることから、役割をとることが自己の形成において重

要であることが指摘される。心理劇の創始者であるMoreno(1964/ 2006)は、役割の機能について、

以下のように述べている。「役割機能は、社会的な世界から無意識の中に入れ込み、その中で、形と

秩序を導入することになっている。(略)自己として知られるものの実際的な側面は、焦点となる個

人の周りにある役割関係様式を用いて彼が活動する際の様々な役割のことである(pⅵ)」。このこ

とから、心理劇・PDRPにおいて様々な役割を体験することは、様々な他者との関係性の中で様々

に変化する自己の役割への意識化を促す点で、自己の形成・確立への支援となり得るといえよう。

2-2. PDD者を対象とした心理劇・PDRPの適用

 心理劇あるいは PDRPを PDD者に適用することの有用性が複数の先行研究により唱えられてい

る(針塚,1993;高原,2007;高原,2009)。針塚(1993)は、自閉性障害者を対象に心理劇を用いるこ

との意義として、以下の4点を指摘した。①集団における役割演技という相互の行為を通して一体

感を持ち得るような対人関係がつくられること、②言語を第一義的な手段とするのではなく、身体

の姿勢や動きなどを含む行為を用いることによって、表現の幅を広くすること、③他者とのかかわ

り合いによって、他者との新たなる情動関係の体験が期待されると同時に、行為化という心身の活

動によって、自らの中に新たなる情動体験が喚起されること、④劇という状況は非現実的であるが、

すぐにその世界の中で何らかの対応をしなくてはならない意味では現実状況であることから、参加

者は新たなる現実世界に直面させられること、である。

 また、高原(2007;2009)は、発達障害者へ心理劇を適用する意義として、以下の3点を指摘した。

①言語表現の苦手な発達障害者の気持ちや世界を、劇を通して支援者側が理解する手掛かりになり

得ることや、PDD者の過去の記憶における感情の浄化や意味付けが可能であることなど、表現の

場としての意味、②集団において人間関係を構築し、社会的なスキルの学習が可能となる、社会性

向上の場としての意味、③同じような症状を持つ集団内で理解してくれる人の存在がその人を成長

させるといった、集団療法としての意味、の3点である。

 針塚(1993)、高原(2007;2009)の指摘をもとに、PDD者を対象に心理劇あるいは PDRPを適用

することの意義は、以下3点にまとめられる。①情動体験およびその表現の促進、②自己や他者へ

の気付きや理解の促進、③集団における仲間関係の形成である。以下では、これらの点から、PDD

者を対象として実際に心理劇または PDRPを施行した実践研究を概観し、その意義について明確に

する。

 ①情動体験とその表現の促進  PDD者を対象とした心理劇の実施により、対象者の情動の表

現が促進されたことを示す先行研究は複数みられる(高原,1995;吉田・高原,2000;高原,2001;高

原,2002)。例えば、高原(1995)は、自閉性障害者13名(生活年齢21 ~ 31歳、IQ36 ~ 62)を対象に

週1回約7カ月間心理劇を行い、対象者の13名中11名の状態が好転したこと、特に、過去や未来に

ついて語ることや自分の気持ちを適切に表現することが可能になったことを報告した。高原(1995)

はこの結果について、自発性や創造性を要求されるような内容は自閉性障害者が苦手とするにもか

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かわらず、心理劇においては、構造化され、受容された雰囲気が、ある程度予測可能な範囲での自閉

性障害者の自発性や創造性を引き出したことを考察している。

 高原(1995)が対象としたのは知的能力の遅れを伴う PDD者に対する約7カ月間の実施であった

のに対し、高原(2001)は、17歳の高機能自閉性障害者(FIQ82、VIQ71、PIQ101)を対象に、約10年

間にわたり心理劇を施行した。その変化の過程の中で、対象者が徐々に積極的に自分自身の問題を

劇のテーマにすることを望むようになり、言葉や姿勢でつらさやもどかしさなどの感情を伝え、そ

の状況を乗り越えようとする意思を持つようになったこと、他者への感情をストレートに表現する

ことが可能になったことなどが考察された(高原,2001)。

 このように、対象者の情動の表現が促進されるという点での心理劇の効果は、PDD者の知的能

力の程度や心理劇の施行期間にかかわらず実証されているということができよう。

 ②自己や他者への気付きや理解の促進  心理劇・PDRPにおける PDD者の自己や他者への気

付きや理解の促進に関しては、PDD者が自己の肯定的な側面について表現・振り返りを行う傾向

にあること(高原,1998;森田,2003)や、役割に対する抵抗や拒否などの否定的な側面を重要視し

たかかわりが重要であること(Tanaka�and�Hirosawa,2005)などが指摘されている。

 高原(1998)は、PDD者5名(生活年齢12 ~ 26歳、IQ38 ~ 123)を対象として、2泊3日の林間学

校における心理劇の実践を報告した。過去・現在・未来という一連の流れで組み立てられた心理劇

において、PDD者は、楽しかった思い出や現在の楽しいこと、将来の理想などを多く表現する傾向

にあり、つらいことやネガティブなことに対する抵抗や防衛がはたらいていることが考察された。

PDD者が自己の肯定的な側面に多く言及することは、森田(2003)も指摘している。森田(2003)は、

自閉性障害者が心理劇場面における自分自身をどのように振り返るかという点から、3名の自閉性

障害者(生活年齢23 ~ 26歳、精神年齢5歳3カ月~ 12歳2カ月)を対象に、心理劇セッションのビデ

オ映像を用いて視覚的なフィードバックを行い、セッション内容や自己に関する質問を行った。そ

の結果、上手にできた具体的な場面を問う質問には回答が得られたことや、PDD者から「楽しかっ

た」という感想を得ることができた半面、上手くできなかった場面については回答が得られなかっ

たことや、否定的な感情が表現されなかったことを示した。このことについて森田(2003)は、心理

劇ではスタッフが PDD者の失敗体験とならないよう配慮したことによって、彼らにとって安心し

て自分を表現できる肯定的な場所として認識されていたことの影響を述べた。

 一方、Tanaka�and�Hirosawa(2005)は、対象者が役割をうまく演じることは重要ではなく、むし

ろ役割に対する抵抗や拒否こそ積極的に取り上げるべきであり、それによって対象者の安心感や自

己表現が引き出されると指摘する。PDD者11名(中学1~高校1年生)を対象に、月1回約1年間の

PDRPを実施し、行為化に対する参加者の抵抗とその抵抗に対する監督および補助自我の配慮点と

して、以下の5点を示した。①グループに対する抵抗感や拒否感をそのまま受容する、②メンバー

から自発的に出た活動の提案などは積極的に取り上げる、③メンバーが抱く自己開示への抵抗を和

らげるために、ディレクターや補助自我が自己開示のモデルを示す、④現実の会話場面で表現でき

なかったネガティブな感情体験を、非現実の場面設定によって表現することで情動体験をする、⑤

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

ロールをとることへの抵抗に対し、「その場にいる」だけの役割やメンバー自身のパーソナリティー

と重なるロールを付与すること、である。これらを意識したスタッフのかかわりによって、対象者

らが徐々に他者の興味、知識、意図などに関心を示し始めたこと、自己と他者との類似性や差異性

への気付きがみられたことなどが報告された。

 このような自己や他者に対する気付きは、PDRPにおける「相対化」と「対象化」の機能、および

それらが「行為化」によって促進されることによるものであることを田中(2005)は指摘している。

役割をとり演じることを通して、他者に自己を投影させること、つまり自己の対象化が可能になる。

また、集団には自己を投影する他者が複数存在することで、対象化した自己の相対化が可能になる。

 軽度・中度・重度の知的障害を伴う自閉性障害青年3名を対象に10年間にわたる心理劇を実施し

た高原(2002)もまた、セッションの中で、対象者が他者からどう思われているかの気付きを示した

ことや、他者の感情を理解するようになったことなどを報告した。高原(2002)は、役割レベル(自

発性の高さ)の変化、IQの変化、保護者および養育者への事前事後の質問などを通してその変化を

検討した。その結果、対象者全員の自発性が向上したこと、集団でのコミュニケーション場面の体

験により状況判断の能力や言葉の能力が増加し IQの向上が示されたこと、日常生活において社会

性・対人関係の改善がみられたことなどが報告された。

 ③集団における仲間関係の形成  Tanaka�and�Hirosawa(2005)による実践では、自分自身の

障害名を告知されている PDD者によって編成されたグループにおいて、「障害があるのは自分だ

けではない」「悩んでいる人が他にもいる」「障害の問題や悩みに一緒に取り組んでいける」という感

覚を持つことがピアカウンセリングとしての機能を果たし得ること、自己との類似性を感じる複数

の他者に対して、さらにその他者の多様性を感じることを通して、信頼のおける仲間関係を基盤と

して自己および他者への理解を深められることが示唆されている。また、上述した高原(1995)にお

いても、心理劇開催中の集団において、対象者どうしの相互作用が次第に増加したことが示された。

このような集団内における関係形成のしやすさという点は、心理劇・PDRPをレクリェーションあ

るいは余暇活動として用いることの有効性(Warger,1984)にもつながるであろう。このような仲

間関係の形成は、心理劇・PDRPの実施の中で、情動体験の表出や、自己・他者理解が促されること

によって、いっそう形成されやすくなるものと考えられよう。

2-3. PDD者を対象とした心理劇・PDRPの実施の際の留意点

 上述した意義に基づき心理劇・PDRPを実施する際、PDD者を対象とすることに関して特に留

意すべき点を以下に述べる。精神療法の大部分は過去が強調され、過ぎた時間の中に今現在生きて

いる人の問題や心理を関連付けているのに対し、心理劇・PDRPは、参加者の「今、ここで」の状態

や思いを扱い、現在の力動を重要視する(Fox,1987 / 2000)。現在という瞬間瞬間の中で起こる感

情やイメージ、参加者どうしの関係性などにはたらきかけるため、実際の施行手続きは、ねらいに

基づいた大枠の計画に則ったうえで、方法の詳細は事例の個別性に対応させて柔軟に修正していく

必要がある。事例の状態の変化に合わせて仮説の修正と介入を行い、そのときの事例の状態に最も

適合する仮説を段階的に生成していくからこそ、実践的有効性を高めることができるものと考える。

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PDDの状態像が様々であることは、事例の状態に応じた仮説生成の必要性を意味する。

 様々な事例の個別性に対応する具体的で柔軟なかかわりを促進するためには、Tanaka�and�

Hirosawa(2005)が示したような、大枠としてのスタッフのかかわりの方針や、セッション期間全

体を通しての発展的段階(Johnson、1982)、対象者の特徴にあわせた施行方法(Dunne,1988;

Sprague,1991)などが必要となるだろう。例えば、Johnson�(1982)は、年長の自閉性障害・統合失

調症の幼児を対象とした集団において、ドラマにおける5段階の発達的視点(①状況構造、②表現手

段、③複雑さの程度、④不安な気持ちに打ち勝つことなく耐えられる情動の激しさ、⑤他者との相

互作用による個人間の要求)を提唱したうえで、統合失調症、神経症、あるいは高機能の対象者であ

る場合は、早期の表現が貧しいために、発達の初期的段階であっても到達しにくく、実施側は対象

者の状態に合わせてこれらの段階を適用するべきであることを指摘した。また、Dunne(1988)は、

行動障害、自閉性障害、統合失調症の子どもや青年に対する、1対1でのドラマセラピーの実施を通

して、人間的観点から個人的セラピーへとドラマセラピーを適用する3段階(①ウォームアップ:心

象をイメージアップ、動作のリラクゼーション、ナラティブパントマイム、②行動化:ドラマの実施、

仮説的な問題解決場面、描写的なドラマ化、③終結、適用と反映)を提唱した。心理劇または PDRP

を実際に PDD者に対して適用する際は、このような知見と合わせて、対象となる PDD者の状態像

を的確にアセスメントし、今現在どの段階に位置づくのか、どのようなかかわりが有効であるのか

を、経過とともに随時検討していく必要があるだろう。

 以上をまとめると、PDD者を対象とした心理劇・PDRPの適用については、情動体験およびその

表現の促進、自己や他者への気付きや理解の促進、集団における仲間関係の形成という3点から、そ

の意義が唱えられ、実証されている。また、そのような心理劇・PDRPを PDD者に対して実際に適

用する場合には、手法の適時性をいかすためのスタッフのかかわりやセッションの経過段階を適宜

考慮していく必要があるといえよう。

3. 集団遊戯療法 以下では、PDD者の居場所の確立、他者への志向性や自己表現の促進、二次障害の予防など、心

理教育的なねらいを持つ集団遊戯療法を取り上げる。後述する SSTや行動療法に基づく集団療法

との大きな違いは、ある特定のスキルの獲得を目的としない点にある。PDD者が示す行動コント

ロールの難しさを、スキルによって補おうとするのではなく、その背景にある他者の気持ちを推測

する力や、自己の考えを伝達する力を養うため、他者と情動を共有する体験を培うことにこのアプ

ローチの主眼が置かれる。以下では、このような集団遊戯療法に関する先行研究を、スタッフの役

割構成、PDD者の特性や状態像に応じたかかわりやグループ編成、活動の構造の3点から概観する。

3-1. スタッフの役割構成

 対人的相互反応やコミュニケーションの質的障害を有する PDD者が、集団の場を自分自身の居

場所、または安心感を得る場所として認識することが、なぜ重要であり、それはどのようにして可

能となるのか。遠矢(2006)は、発達に障害のある子どもたちが、自らの認知特性や行動統制から、

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

少なからず学校生活や家庭生活でストレスにさらされている状況にあることを指摘したうえで、発

達支援の場は「療育」の場であるだけでなく、子どもたちの心の癒しのための「居場所」としての機

能を果たすことが不可欠だと述べている。そして、この居場所としての機能を果たすための大きな

要素のひとつが、セラピストなどのスタッフ1の存在やかかわりであるという。集団遊戯療法のス

タッフは、「受容と共感」による来談者中心療法的な臨床心理学的視点を重視し、対象者の行動の背

景にある情動体験の理解に努める必要がある(遠矢,2006)。

 集団遊戯療法においてスタッフがPDD者の意図を理解し言動を引き出すためには、複数のスタッ

フが様々な役割を担うような構成が重要である。例えば、Stengel(1987)は、自閉性障害者を含む

発達障害者6名(生活年齢14~ 20歳)で集団を構成する際、複数のコ・リーダー(Co-Leader)がグルー

プのプロセスを計画し指示する構造化が、対象者の情動体験を促進すると示唆した。コ・リーダー

とは、リーダーがディレクターの役割をとっている際には対象者に個別の対応をし、逆にリーダー

が個別の対応をしている際はディレクターの役割をとるなど、リーダーの意図をくみながら、全体

がスムーズに活動を展開できるよう補助する役割である(石倉・遠矢,2006)。その他、�ファシリテー

ター(Facilitator)の役割を担うスタッフの重要性(Eliasoph�and�Donnellan(1995)や、メインセラ

ピスト(Main-Therapist)とコ・セラピスト(Co-Therapist)によるセラピューティック・トライアン

グルの有効性(石倉・遠矢,2006)など、実践ごとに効果的なスタッフの構成が提示されている。

 スタッフの役割や構成は研究によって異なるものの、複数のスタッフが役割を分担することに

よって、一人ひとりの対象者に寄り添い表現を引き出しながら、それを集団全体で受け止めるスタ

ンスは共通しているといえる。このような複数のスタッフによる役割分担により、対象者にとって

は、自分のことを理解してくれるスタッフが存在するという信頼感や、自分の気持ちや考えがグルー

プ全体に反映されることの安心感につながり、グループを自己の居場所として認識することが可能

となると思われる。自分には居場所があるという感覚は、PDD者の自己の形成や確立に向けた支

援を考慮した場合、非常に重要なことである。アイデンティティの生涯発達が愛着の発達と深くか

かわることを提唱したFranz�and�White(1985)は、思春期・青年期におけるアイデンティティの確

立の前段階として、学童期に仲間関係の形成が重要であることを指摘する。学校という集団や同年

代の仲間関係に所属することに困難さを示す PDD者にとって、集団遊戯療法は、自分を表現し、自

分を理解してもらえる集団に所属しているという感覚を形成することが可能となるといえるだろ

う。

3-2. PDD者の特性や状態像に応じたかかわりやグループ編成

 スタッフがそれぞれの役割を遂行する際、対象が PDD者であることに関してはどのような工夫

や配慮が必要なのか。PDDは広範囲にわたるスペクトラムで示される障害であることからもわか

るように、多様な状態像を示す。そのため、複数の PDD者が在籍するグループでは、どのような特

徴を示す PDD者にどのようにかかわるのかを明確にすることが、役割の的確な遂行を可能とする

だろう。

 雲井・渡邊・小池(2005)は、PDD者14名(小学2~ 6年生、FIQ70以上)を対象として集団活動(毎

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

月2回、計14回)を行い、その内容の適合性を、対象者の行動特性との関連で明らかにした。その結果、

対人関係の形成が良好な対象者は、集団への参加が積極的であるが、言語発達の遅れやこだわりが

ある場合は、場面理解と自己統制を要する活動において支援の必要性が高いこと、行動上の困難が

少ない対象者は、集団場面での自己統制がなされやすい一方、集団での積極的な行動や楽しんで参

加することを支援する必要性があることを明らかにした。このことから、PDD者を対象とした集

団において考慮されるべきこととして、対象者の言語発達とこだわりの側面が考えられる。

 まず、言語発達の側面に関しては、PDD者の言語発達のレベルによってスタッフのかかわりを

変容させる必要性が指摘されている。遠矢(2000)は、遊戯療法における個別・集団という形態の違

いによるスタッフの伝達・応用行動の調整について、発達障害者(生活年齢4歳8カ月~ 6歳8カ月、

発達年齢3歳1カ月~ 5歳2カ月)とスタッフのペア3組を対象に検討した。その結果、個別の形態

では、言語能力の高い対象者に疑問形のリフレクションを用いる�(例えば、対象者が「公園でもで

きる」と発言した場合、スタッフが「公園?」と疑問で応答する)ことによって、対象者の発話内容を

確かめようとすること、言語能力の低い対象者に平叙形のリフレクションを用いる�(例えば、対象

者が「オウム」と発言した場合、スタッフが「オウムだね」とその発言を認める)�ことによって、対象

者の発話内容を共有しようとするのに対し、集団の形態ではそのような傾向がなくなることを示し

た。集団では個別の配慮を超えた集団志向という多面的な配慮がスタッフにとって心的な負荷とな

り、対象者個々の行動の意味を的確に判断できず、スタッフの伝達・応答行動がより高い対象者の

言語理解力や表象能力を必要とする水準に引き上げられる�(遠矢,2000)。このことから、集団にお

いてスタッフは対象者の発達レベルにあわせたかかわりを心がけることの重要性が指摘される。

 次に、こだわりの側面に関して、李・横田・斎藤・滝吉・田中(2009)は、集団に参加する対象者が

強いこだわりを示す場合、その興味・関心の世界に寄り添い、受容し、集団全体でそれを取り上げる

ことで、そのこだわりを他者と共有できる世界へ広げることの重要性を唱えている。辻井(1999)も

また、集団への参加者それぞれが別々の興味の世界を有しながら、それを同じ集団として抱えてい

くことにより、PDD者が、集団にいられる感覚、集団を楽しめる感覚を形成していくと指摘する。

 これらのことから、PDD者を対象とする集団遊戯療法では、対象者の言語発達やこだわりの世

界に合わせたかかわりを行うことが重要といえる。PDD者は、一人ひとり異なった言語発達およ

びこだわりの世界を示すため、上述したように、グループを統制するスタッフや個別にかかわるス

タッフなどの役割分担が必要となってくるといえよう。

 グループのメンバーを編成するにあたり、このように PDD者一人ひとりが異なる状態像を示す

ことを考慮した場合、その特徴を統一したメンバーで集団を編成するか、あえて様々な特徴のある

PDD者によって集団を編成するかという点で議論が分かれる。遠矢(2006)は、知的発達の水準、生

活年齢、行動と思考の柔軟性、多動性・衝動性、注意の転導性、社会的志向性などの点から特性をあ

る程度均質化することが、対象者の自尊心を保つこと、支援者側がプログラムを組みやすいこと、

対象者どうしがかかわる際にそれぞれのペースを守れることなどにおいて有効であると述べてい

る。これに対して、李ら(2009)は、あえて状態像や特性の異なる対象者を同じ集団に所属させるこ

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

との意義として、対象者どうしによる「教える―教えられる」という相互性の体験を促しやすいこ

と、自己や他者の異なる特性や共通する特性に対する理解を促進する機会を提供しやすいことなど

を指摘している。どのような特性を持つ対象者で集団を編成するのかは、スタッフのかかわりを考

慮することと同様に、その集団におけるねらいの設定に合わせて考慮すべき重要な点であるといえ

る。

 PDD者の自己の形成・確立へ向けた支援という視点からメンバー編成を考慮すると、メンバーの

存在や相互作用を通して、PDD者が自己に気付きやすい編成が求められる。他者の中で自分を位

置づけること、つまり社会的比較について、Ruble(1983)は、まず、他者の能力の個人差や成績の

相対的位置を認める基本的認知能力や比較に対する関心や動機付けを獲得し、次に、他者との比較

から得られたいろいろな情報を分析し処理して推論を行うという発達段階を提唱している。また、

高田(1992)は、「自分と他者とを比較してそこに類似性を発見することによって、その場でどのよ

うに振る舞うべきかについての社会的規範を獲得したり、他者との親密な関係をつくりあげたり維

持したりする。(略)すなわち、子どもの社会的比較においては、このような規範習得や関係維持を

目標として行われる比較が、自己評価を目的とした比較よりも相対的に主要である」と指摘する。

これらのことから、所属する集団内でPDD者が自己について考える作業を促進するためには、まず、

比較の動機付けとなる意識の形成へとつながる他者への関心や志向を高めることをねらいとして、

自己との類似性を感じられるメンバー編成が望ましいと考えられる。学校集団にはなかなか溶け込

めない PDD者にとって、「自分と似た人がいる」という感覚が、まず他者への親しみを通じた好意

的な興味や関心を促進することへつながり、その次の段階として、そのような類似性を持った他者

との差異性への気付きから、自己や他者の多様性の受容へと発展することが考えられる。

3-3. 活動の構造

 スタッフの役割構成やかかわり、集団のメンバー編成などに並び、集団遊戯療法を実施する際に

考慮すべき点として、活動そのものをどのように構成するべきかという点がある。活動そのものの

構成に関しては、実施の期間・内容・場所などの枠組みは実に多様である。

 PDD者が集団に安心感・親近感を抱くまでにはある程度の時間を要すること、他者とのやりとり

の変化を発達的視点から支援する立場をとることなどから、多くの先行研究は、長期的・定期的に

一定の場所でグループを開催している(権藤,2003;廣澤・楳本・田中,2006;和田・田中,2006;滝吉・

和田・横田・田中,2007;滝吉・田中,2008)。これに対し、短期的・集中的な形態でのグループの実

施�(小林・村田,1977;高橋・石倉,2004)もみられる。

 長期的・定期的な活動構成の例として、滝吉ら(2007)は、小学4~ 6年生の PDD者8名から成る

集団を約半年間(12セッション)実施する中で、志向すべき相手が必然的に限定される「他者志向性

ペア活動」を3段階で構成した。その結果、ペア相手のみならず非ペア相手に対しても志向しはたら

きかけるコミュニケーション行動が増加したことを示した。短期的・集中的な活動構成の例として、

小林・村田(1977)は、4~ 12歳の自閉性障害者を対象に3泊4日のキャンプを実施し、集団遊戯を中

心とした活動を行った。3カ月後のフォローアップ調査にて、衣服の着脱などの生活習慣の改善、きょ

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

うだいや同年代の他者と一緒に遊ぼうとする様子の持続、母子分離への抵抗の軽減、こだわりの緩

和などの効果が示されたことを報告した。このように、実施期間が長期的か短期的か、また定期的

か集中的かなど活動構造の設定により、ねらいおよび効果は異なるものの、いずれにおいても対象

とされた PDD者のコミュニケーション行動や生活能力の向上がみられたことが報告されている。

 以上、PDD者を対象とした集団遊戯療法における先行研究を概観した結果、複数のスタッフに

よる役割分担により、PDD者が集団に対して信頼感・安心感を形成し、集団を居場所として認識す

ることが可能になることが示された。これは PDD者の自己の形成・確立の基礎となる、肯定的な

所属意識へとつながる点で重要である。また、各スタッフが集団内で各役割を果たすためには、対

象者の PDDとしての特性や状態像について、特に言語能力やこだわりの側面への配慮が必要であ

る。さらに、対象者の特性や状態像を集団内で均質化するか多様化するかは、各集団のねらいに合

わせて編成されるべきである。このような検討をふまえたうえで、活動の構造化を行う必要がある

といえよう。

4. SST・行動療法に基づく訓練 SSTとは、「対人行動の障害やつまずきの原因を “社会的スキル ”という客観的に観察可能な学

習性の行動の欠如としてとらえ、不適切な行動を修正し、必要な社会的スキルを積極的に学習させ

ながら、対人行動の障害やつまずきを改善しようとする治療技法」であり、行動療法を背景に発展し

たものである(佐藤,1999)。SSTをはじめ、行動療法に基づくアプローチは、適切なコミュニケー

ション行動を強化し、問題行動を軽減することをねらいとして指導が行われる(山本,2002)。

 SSTによって目標とされるスキルは多岐にわたり、その中心的スキルが何であるかという点から

先行研究を分類すると、以下3点がある。①コンピューターや絵カードなどを使用し、感情や表情

の理解の促進をはかるもの(例えば、Barnhill,�Cook,�Tebbenkamp,�and�Myles,2002;Lacava,�

Golan,�Baron-Cohen,�and�Myles,2007)、②店や公共の乗り物などにおける使用・操作手順やマナー

としての振る舞いなどを学習するもの(例えば、Mitchell,�Parsons,�and�Leonard,�2007)、③挨拶や

会話など他者とのコミュニケーション方法やルールを習得するためのものである。ここでは、集団

に所属する複数の他者との相互作用を中心とした訓練である③に関する先行研究を取り上げる。

 また、SSTの対象となる年齢幅は、就学前の幼児(例えば、Goldstain�and�Cisar,1992)から成人(例

えば、Mesibov,1984;Howlin�and�Yates,1999)まで幅広い。PDD者の自己に対する理解や認識は、

特に思春期・青年期に顕在化すると考えられること�(廣澤ら,2003:廣澤ら,2004)�から、本研究では、

その前後を含む学齢期から成人を対象とした先行研究に着目する。

 よって、以下では、学齢期から成人のPDD者を対象とした、挨拶や会話など他者とのコミュニケー

ション方法やルールを習得するための SSTおよび行動療法に基づく訓練に関する先行研究を取り

上げる。SSTおよび行動療法に基づく訓練は、それぞれの研究により異なる多様な形式で行われて

いるため、以下ではまず、訓練の効果という視点からその測定方法に着目し、先行研究を概観した

うえで、PDD者を対象とした適用について今後の課題を検討する。

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

4-1. 介入効果の測定方法

 SSTおよび行動療法に基づく集団療法は、対象者のベースラインの成績や振る舞いに対して、あ

る一定期間介入や訓練を行い、その後の評価を通して介入や訓練の効果を測定するものである。そ

の効果の測定は、対象者の知能検査や課題遂行、自己評価尺度などの結果を指標とするもの(Howlin�

and�Yates,1999;繪内・宮前・馬場・坂井・小林・植松・西村・佐藤・金埼・玉井・杉山・馬場・丸峰・

水嶋・田中,2005;Mackey,�Knott,�and�Dunlop,2007;Ruble,�Willis,�and�Crabtree,2008)、集団内で

の対象者の言動を研究者や実施者が観察し分析した結果によるもの(Kamp,�Leonard,�Vernon,�

Dugan,�Delquadri,�Gershon,�Wade,�and�Folk,1992;井澤,2000;岡田,2005)、教師や保護者などに

よる評定や報告によるもの(Mesibov,1984;Barry,�Klinger,�Lee,�Palardy,�Gilmore,�and�Bodin、

2003;Tse,�Strulovitch,�Tagalakis,�Meng,�and�Fombonne,2007)などがある。

 知能検査結果を指標とする例として、繪内ら(2005)は、小中学校の通常学級に在籍する軽度発達

障害者に対し月1回の SSTを計11回実施したうえで、それぞれの学年集団に応じた SSTプログラ

ムを開発し、その有用性を測定する尺度としてWISC- Ⅲを用いた。プログラムは、自分の意思を体

や言葉で表現するゲームや、ルールの遵守や他者との協力を促す集団で勝敗を決めるゲームなどで

構成され、全クラスでWISC- Ⅲによる IQの上昇がみられたことを報告した。対象者の言動を観察・

分析した例として、Kamp�et�al.(1992)は、7歳の高機能自閉性障害者3名を含む16名の集団におい

て挨拶や会話の仕方などの SSTを9カ月間実施し、その評価をフォローアップ期間中の自由遊び場

面で生起したソーシャルスキルの観察により行った。教師や保護者などによる評定や報告を用いた

例として、Tse�et�al.(2007)は、13 ~ 18歳の高機能自閉性障害者46名に対し、自己や他者の感情

理解、表情やジェスチャーの理解、アイコンタクトや挨拶などを中心とした SSTを、1週間に2時間、

計12週実施し、その評価を保護者を対象にしたチェックリスト(Social�Responsiveness�Scale)にて

行い、対象者の言動が改善したことを示した。

 このように、効果の測定方法や使用尺度は、研究によって異なる。評価の方法が統一されないこ

とは、実施した介入の効果を研究間で比較することを難しくし、客観性を伴った介入の有効性を弱

めることになる。この問題点に対処するために、共通して使用可能な尺度が開発され、一部の SST

を中心に用いられるようになってきている(例えば、Social�Responsiveness�Scale、The�Spence�

Social�Skill�and�Social�Competence�Questionnaires など)。さらに、この問題点への対処として、多

くの研究が、複数の評価者による効果の評定を組み合わせた結果の考察を行っている(Howlin�and�

Yates,1999;Webb,�Miller,�Pierce,�Strawser,�and�Jones,2004;繪内ら,2005;Mackey�et�al.,2007;

Chung,Reavis,Mosconi,Drewry,Matthews、and�Tassé,2007)。例えば、Howlin�and�Yates�(1999)

は、19 ~ 44歳の自閉性障害者10名を対象に、会話能力や日常生活上必要なシチュエーションでの

対応・計画などを学習するための SSTを、月1回、1年間実施し、その効果については、対象者自身

による評価、家族の報告、対象者の就職や生活の変化などを通して検討した。このような複数の評

価者による効果の評定は、介入の目的を知っている者が評価者となることで、過大な評価が反映さ

れることになるという問題点(Rao,�Beidel,�and�Murray,2008)への対処ともなるであろう。

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

 共通した評価尺度を用いることや、複数の評価者を設定することなどは、SSTおよび行動療法に

基づく集団療法において獲得されたスキルの般化を検討することとも関連する。訓練や指導の効果

が、設定された場面とは異なる場所や文脈において、どれほど応用・維持されているかを示すこと

が重要であるためである。多くの研究において対象者のソーシャルスキルの改善が報告されている

一方で、獲得したスキルの般化がみられないという点から、SSTの限界を唱える研究もみられる

(Persons�and�Mitchell,2002;Barry�et�al.,2003)。例えば、Barry�et�al.(2003)は、病院外来に通

う小学4年生の高機能自閉性障害者4名に対して、挨拶、会話、プレイスキルなどの SSTを1週間に

1度、計8回行ったうえで、定型発達者とのプレイセッションを2回行った。保護者の報告より、グルー

プ場面以外では、挨拶に変化がみられたものの、会話やプレイスキルには変化が示されなかったこ

とが示されたことから、SSTの応用の難しさが指摘された。

 SSTにより獲得されたスキルの般化を促進する要素について、Kransny,�Williams,�Provencal,�

and�Ozonoff(2003)は、より自然な状況での練習や、保護者や教師との連携の重要さを指摘している。

そのため、PDD者への SSTの開催と同時に、保護者を対象とした集団指導を行うことによって、

PDD者が獲得したスキルを家庭生活でも発揮できるような環境を整えるための取り組みもみられ

る(Frankel,�Myatt,�and�Feinberg,2007;Laugeson,�Frankel,�Mogil,�and�Dillon,2008)。Kransny�

et�al.(2003)はさらに、先行研究のレビューを通して、SST成功のために必要不可欠な要素として、

複雑な社会的行動を具体的なステップやルールにすること、参加者の言語能力を補うための必然性

ある指示と活動をすること、他者に注目する活動を構造に取り入れること、自己認知と自尊心を促

す肯定的な環境作りなどを指摘している。このような要素をふまえたうえで、訓練に参加する

PDD者のニーズや状態像に合わせて、各要素を具体的に形づくる必要があるだろう。

4-2. PDD者を対象にSSTおよび行動療法に基づく訓練を施行する場合の留意点

 SSTおよび行動療法に基づく訓練においては、参加するPDD者の障害特性や状態像の違いによっ

て、その効果が大きく異なることが示唆される(丸井・蔭山・神野・佐藤・生越・細野・山田・後藤・

後藤・水野・松永・玉腰,1974;岡田・後藤・上野,2005;Ozonoff�and�Miller,1995;Thorp,�Stahmer,�

and�Schreibman,1995)。例えば、岡田ら(2005)は、小学校高学年の LD、ADHD、アスペルガー障

害の児童3名に対して、3カ月間(8セッション)の SSTを実施し、LDおよびADHDの対象者には

スキルの向上がみられたが、アスペルガー障害者には明確な効果が示されなかったことを報告した。

その理由として、LD・ADHD者は友達と楽しくやりたいという意識を高く持っていたのに対し、

アスペルガー障害者はそもそも一人きりで楽しく遊べており、特に他者とうまくやりたいという意

識を持っていなかったことを指摘した。このことから、PDD者を対象とした SSTおよび行動療法

に基づく集団療法に関しては、障害の特性を考慮すると同時に、彼ら一人ひとりの興味や動機づけ

をも考慮したうえで、活動の内容を構成することが重要であることがうかがわれる。

4-3. 自己理解の視点からみたSST・行動療法に基づく集団療法

 PDD者における自己の形成という視点からSSTおよび行動療法に基づく集団療法を考えた場合、

これらの集団療法は客観的なスキル評価による PDD者の外面的な言動の変化に注目しており、

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

PDD者本人の内面的変化、つまりスキルの獲得により PDD者自身が自己に対する理解をどう変化

させるかという点には注目していない。他者とのコミュニケーションスキルを獲得した自己や、訓

練そのものに参加する自己を肯定的にとらえること、あるいは、先述したように獲得したスキルを

日常生活で応用できない自己を否定的にとらえることなどが考えられる。また、PDD者自身のニー

ズは低いが保護者や教師が PDD者の言動を問題視しこのような集団療法を開始した場合、PDD者

自身の動機づけが低いため、スキルを身に付けることや応用できないことが自己評価に与える影響

は小さいことが考えられる。このように、参加する PDD者自身の動機づけ、ニーズの高さ、日常生

活と集団療法場面での自己の違い、スキル獲得に伴う自己評価の変化などの点から、PDD者の自

己理解のあり様をとらえることは、SST・行動療法に基づく集団療法において、より対象者の状態

像に合わせた効果的なプログラムの実施へとつながることが考えられよう。

5. 周囲の人々(保護者・きょうだい・定型発達の児童生徒など)を対象に含む集団療法 PDD者の障害特性は、スペクトラムという連続体でとらえられることにも示されるように、人に

よってその程度が異なる。また、個人の中でも、個性のひとつとして周囲が受け止めることが可能

な範囲の障害特性もあれば、極端なこだわりやパニックなど、周囲が理解に困難を示す障害特性も

あるように、能力や特性のバランスの偏りがみられる。そのため、PDD者と普段かかわることの

ある周囲の人々、例えば保護者やきょうだい、学校の仲間などにとって、PDDという障害は非常に

とらえにくいものであることが推察される。その結果、不適切なかかわりや環境を生み出し、ます

ます PDD者が周囲に適応することを妨げることになってしまう。そこで、ここでは、集団療法の

対象として、PDD者以外に、普段 PDD者とかかわる立場にある人々を含み、相互のやりとりや関

係性の変化などについて検討した先行研究を取り上げ概観する。

5-1. 保護者を対象として含む集団療法

 PDD者の最も身近にいる存在として、多くの場合、保護者の存在がある。特に、SSTや行動療法

に基づく集団療法においては、先述したように、日常生活場面での般化が課題であることから、日

常生活をともに送る保護者に対しての支援を行うことによって、PDD者がソーシャルスキルを発

揮しやすい環境設定へとつながるなど、保護者への支援が、PDD者への支援と直結している場合

がある。

 Frankel�et�al.(2007)は、友人関係の構築に困難を示す高機能の PDD者(生活年齢6~ 13歳)に

対して、鍵となる状況や友人とのエチケットのルールを教示する SSTを行うと同時に、保護者に対

しても、そのような状況の設定やルールの使用を日常生活に取り入れることを促すための集団指導

を行った。週1回計12回のセッション終了後、保護者と教師の評価尺度を用いて SSTの効果を検

討した結果、介入の影響を知らない教師による評価に有意な上昇がみられたことを報告した。また、

さらにより年齢の高い高機能の PDD者(生活年齢13 ~ 17歳)に対する SSTと、その保護者に対す

る集団指導を行った Laugeson�et�al.(2008)もまた、教師の評価のみが有意に上昇したことを報告

した。

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

 これらの結果は、以下の2つを示唆する。1つは、保護者自身も集団指導を受け、子どものスキル

を日常生活において般化させようとする意識を高く持っていたことから、ある場面のみに限定され

た子どもの小さな変化を高く評価しない点である。2つは、思春期・青年期における友人とのやり

とりは、スキルの応用的な使用や幅広さ(例えば、単に一緒に行動する友達を作るのではなく、自分

に合った友達を自分で判断しつきあうことや、直接的で日常的なコミュニケーションのみではなく、

課外活動や電子機器を利用してのコミュニケーションを行うことなど)を必要とするため、保護者

の監督範囲を超えている点である。特に、後者については、思春期・青年期の PDD者が独特な友人

概念を持つことが指摘され�(Bauminger,�Shulman,�and�Agam,�2004;舘花・滝吉・田中,2008)、そ

のような PDD者特有の友人概念のとらえ方を保護者が理解する必要があるだろう。

 PDD者の集団と保護者の集団を並行して実施する取り組みは、SSTのみならず、集団遊戯療法

においても取り入れられている(小島・小牧・田中,2006;金城・税田・中園,2006;横田・田中,

2008;滝吉・李・横田・斎藤・田中,2009)。集団遊戯療法で保護者面接が並行して行われる場合、保

護者は子どもたちの活動の様子を別室からマジックミラーやビデオカメラを通してスタッフととも

に観察する。子どもが集団に参加する様子をみながら、スタッフが専門的な立場から子どもの言動

に対する意味付けを行うことや、保護者から子どもに対するとらえ方を明確にすることで、保護者

が子どもを幅広い視点から理解することにつながる(滝吉ら,2009)。また、保護者どうしが悩みを

共有したり、お互いの子どもの成長を喜び合えるようなつながりを深めることにも、保護者を対象

とした集団の意義がある�(金城ら,2006)。これらのことは、保護者の集団を担当するスタッフが、

保護者の状態のみならず、子どもの集団活動における内容やねらいを的確に把握し、子どもの状態

を説明できるからこそ可能となる(滝吉ら,2009)。スタッフどうしが細かい情報や意見を交換して

連携をとることにより、保護者と子どもそれぞれの状態や課題をスタッフ側が把握できるため、そ

の関係をふまえた家族としての全体像をとらえやすくなるといえるだろう(鑪・名島,2008)。

 PDD者の自己理解という点から以上のような保護者を対象に含む集団療法について考えた場合、

保護者を対象として含むからこそみえてくる PDD者の日常生活場面における自己理解やその変化

をとらえることが可能になる一方で、思春期・青年期の PDD者の行動範囲や精神的な成長は保護

者の監督可能な枠を超えていることをも考慮する必要があるといえるだろう。

5-2. きょうだいを対象として含む集団療法

 家族の中で、保護者に次いで、あるいは保護者と同等にPDD者にとっての身近な存在として、きょ

うだいの存在がある。きょうだいは、PDD者とともに成長する中で、彼らの障害特性を体験的に

理解しつつサポート役となることや、PDD者にとって大人以外の相互作用を行う相手となり得る

貴重な存在である。一方、きょうだいであるがゆえに、障害のある同胞に対して不満や羞恥の気持

ちを抱くこともあり、家族支援という観点からも非常に重要な対象となる。

 PDD者とそのきょうだいとの相互作用を促すことが、PDDに対するきょうだいの理解の深まり

や、PDD者の問題行動の削減につながることを示唆する研究がある。Clark,�Cunningham,�and�

Cummingham�(1989)は、自閉性障害者3名(生活月齢58 ~ 137カ月)とそのきょうだい3名(生活月

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

齢100 ~ 118カ月)を対象に、問題解決としてのロールプレイング、リハーサル、宿題課題、偶発的

な出来事に対する対応などの内容で構成されるグループを週1回、計19セッション実施した。保護

者の評価などによる検討から、グループ実施後、自閉性障害者ときょうだいとのペアの間で肯定的

な相互作用が増加し、3・6カ月後のフォローアップでは、それらの変化が日常生活においても持続

したことや、自閉性障害者の問題行動の減少がみられたことなどを報告した。

 横田・斎藤・滝吉・李・田中(2009)は、PDD者のきょうだいを含むグループワークの意義として、

以下の3点を指摘する。まず、同胞である PDD者(以下、PDD者を「同胞」とする)の状態像に基づ

く障害に対する正しい知識をきょうだいが身につける点である。同じ診断名でありながら様々な状

態像を示す PDD者が存在すること、その中で自分の同胞にはどのような特徴があるのかというこ

とについて、グループワークでの実際のやりとりを介しながら、それに沿う形でスタッフが援助す

ることで、きょうだいが具体的な理解を進めることが可能となる。次に、きょうだいが同胞の支援

者として成長する点である。同胞の言語表現が不十分で周囲に伝わりにくい場合や、同胞の気分の

抑揚の背景にきょうだいにしかわからない家庭での出来事があった場合、きょうだいが同胞の代弁

者となることで、同胞と周囲をつなぐ役割を体験する。このような役割は、両親亡き後も家族とし

て同胞と長くかかわっていくことが予想されるきょうだいにとって、同胞と社会との橋渡し的な存

在となる感覚の養成や抵抗の軽減につながるだろう。最後に、きょうだいが同胞に対して感じる

「今、ここで」の気持ちを即自的に扱うことで、きょうだいのカタルシスを得られる点である。例えば、

同胞がパニックを起こした場面などで、きょうだいが「うちのお兄ちゃんはいつもこうで困る」「だ

から嫌なんだ」のような、同胞に対するネガティブな見方が示されることがある。そのような体験

を伴った感情に対して、即自的にスタッフや他の同胞のきょうだいから共感を得られること、解決

方法をともに探ることなどによって、きょうだいのカタルシスがより促進されると考えられる。

 以上より、PDD者およびそのきょうだいを対象として含む集団療法は、同胞ときょうだい間の

相互作用が促進されること、同胞に対するきょうだいの正しい理解が行われること、きょうだいが

支援者としての意識や体験を得ること、きょうだいがカタルシスを得ることなどの意義があるとい

える。このような意義は、きょうだいにとっての自己理解および同胞への理解へとつながるだろう。

また、PDD者本人の自己理解という視点からみた場合、日常生活において多くかかわるきょうだ

いの状態が安定し、同胞である PDD者がきょうだいから友好的、理解的な振る舞いを受けること

によって、PDD者本人は落ち着いて自分自身やきょうだいと向き合える環境を得られることにな

るだろう。本邦では、欧米と比較して、障害者のきょうだいに関心が向けられることが少ない(田倉、

2007)ため、このような意義を持つきょうだいを対象に含む支援の発展が今後期待される。

5-3. 定型発達者を対象として含む集団療法

 学齢期の PDD者が多くの時間を過ごす学校において、その相互作用の相手となり彼らの対人的

な側面の発達を触発する可能性を持つのが、定型発達の児童や生徒である。以下では、PDD者お

よび定型発達者を対象として実施される集団療法について取り上げる。両者を対象として含む集団

療法では、相互的なやりとりを促進する効果があること(Schleien,�Rynders,�Mustonen,�and�Fox,

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第58集・第2号(2010年)

1990)や、定型発達者から PDD者に対する積極的なはたらきかけを促進するためには訓練や指導を

行う必要があること(Kohler,�Strain,�Hoyson,�Davis,�Donina,�and�Rapp,1995;Zercher,�Hunt,�

Schuler,�and�Webster,2001)などが指摘されている。

 Schleien�et�al.(1990)は、特別支援学級に在籍する自閉性障害者17名(生活年齢5~ 12歳)と、同

学年であり事前に訓練を受けた定型発達の児童21名とを対象に、学校での体育の授業時間における

交流について、①ひとり、②ペア、③グループ、④チームという4つの社会的段階から検討した。そ

の結果、自閉性障害者は、②③④において、①よりも適切な遊びの行動を多く行うことを示した。

このことから、Schleien�et�al.(1990)は、レクリェーションやカリキュラムにおいて自閉性障害者

と定型発達の児童とが交流・統合することの有効性を示唆したが、なぜ自閉性障害者がひとり遊び

よりも発展的な段階において適切な遊びを示したのかという理由に関しては、定型発達の児童の存

在を仄めかすのみの言及にとどめている。定型発達の児童が事前に受けた訓練はどのようなもので

あったのか、また、活動中に定型発達の児童から自閉性障害者へどのようなはたらきかけがみられ

たのかについて検討する必要があり、そのことによって、定型発達の児童と自閉性障害者がともに

活動することに対する支援や、その際の留意点が明らかになると考えられる。

 定型発達者から PDD者へのはたらきかけに関して、Kohler�et�al.(1995)および Zercher�et�

al.(2001)は、支援者による訓練の必要性と有効性を指摘している。例えば、Kohler�et�al.(1995)は、

生活年齢4歳の自閉性障害の幼児3名と、3~ 5歳の定型発達の幼児6名が参加する集団において、

自閉性障害幼児と定型発達幼児の間で偶然的に起こる社会的相互作用を検討した。その結果、社会

的相互作用は増加したが、定型発達幼児から自閉性障害幼児へのサポーティブなかかわりはみられ

なかったこと、また、社会的相互作用が減少した後、定型発達幼児に対して支援者がダイレクトに

自閉性障害幼児をサポートするような言葉を教示したところ、シェア、アシスト、物の交換などで

偶然的な相互作用が再び増加したことを示した。

 しかしながら、上記であげた先行研究は、いずれも中心となる対象は PDD者であり、訓練による

定型発達者の変化や、グループの過程において定型発達者の意識や言動がどのように変化するのか

については検討が不十分であると言わざるを得ない。同じ集団に所属する定型発達者が、PDD者

に対する意識をどのように変化させ、PDD者を理解することによって、相互作用が増加していく

のかという点について、より詳細に明らかにする必要があるだろう。このことは、「障害の有無や

その他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成」(文部科学

省、2007)を目指す今日の我が国の学校教育場面において、今後ますます重要となってくると考えら

れる。なぜなら、PDD者は、他者との関係性のとりにくさから、集団教育への適応が難しい場合が

あるにもかかわらず、特に知的障害が重度ではない場合には、通常の学校や学級に在籍する。その

ため、同じ学校や学級に在籍する定型発達児童生徒から PDD者に対する正しい理解やかかわりが

行われないことで、PDD者がトラブルメーカーやいじめの対象などの立場に置かれてしまうこと

になりやすい(杉山・辻井,1999)。このような臨床的意義からも、PDD者に対する支援として、定

型発達者を対象として PDD者への理解やかかわりを検討する取り組みの必要性が唱えられる。

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

6. まとめ それぞれの集団療法について、PDD者の自己に対する形成・確立の促進を目的とした場合の意義、

留意点、および課題を以下にまとめて述べる。

 まず、PDD者の自己の形成・確立の支援へと最も直接的に関係する、情動・自己表現の活性化、

自己・他者理解の促進をねらいとした心理劇・PDRPについては、情動体験およびその表現の促進、

自己や他者への気付きや理解の促進、集団における仲間関係の形成という3つの意義が明らかにさ

れた。実施の際の留意点としては、大枠としてのかかわりの方針を示しつつ、対象者の特徴に合わ

せて手法の適時性をいかす柔軟な対応が必要であること、また、セッション全体の段階の考慮が必

要であることが示された。

 次に、安心できる居場所としての機能を持ち、その中で自己表現や他者への関心を促進するなど

の心理教育的なねらいにより実施される集団遊戯療法については、複数のスタッフが役割を分担す

ること、PDD者の言語能力やこだわりについて配慮することで、PDD者が自己を表現できる、わ

かってもらえるという信頼感・安心感を形成し、集団の場を自己の居場所として認識することが可

能となることが示された。また、実施の際の留意点としては、集団を構成するメンバーの均質性や

多様性を各集団のねらいに合わせて考慮すべきであることが明らかにされた。

 コミュニケーション行動の獲得や促進、不適切行動の軽減などをねらいとした SST・行動療法に

基づく訓練については、客観的なスキル評価の導入によって PDD者の外面的な社会的な言動の変

化が可能であることが示された一方、般化の難しさが存在することも明らかにされた。また、PDD

者の自己理解の促進という観点からみると、これらの集団療法では、外面的な言動の変化による

PDD者本人の内面的変化には焦点化されていない点が問題点として指摘された。

 PDD者に対する理解やかかわりの促進をねらいとした、周囲の人々(保護者・きょうだい・定型

発達の児童生徒など)を対象に含む集団療法については、以下のことが明らかにされた。まず、保護

者を対象として含む集団療法には、PDD者の般化を促す目的と保護者自身の感情や視点などを深

め整理する目的とから実施される場合があることが示された。次に、きょうだいを対象に含む集団

療法には、PDD者本人の相互作用の促進や問題行動の軽減の他、きょうだいの PDD者に対する理

解やカタルシスを促進する意義があることが明らかにされた。さらに、定型発達者を含む集団療法

では、定型発達者から PDD者への理解や感情という点には焦点が当てられておらず、PDD者が定

型発達者とのやりとりを増加させたことが中心に検討されていることなどが示された。

 以上のように、PDD者における自己の形成・確立を支援することを目的として集団療法を施行

する場合、それぞれの集団療法における意義・ねらいを把握し、各参加者の状態に合わせた具体的

な留意点や課題を明確にしたうえで行う必要があるといえよう。

【註】1  研究によって「セラピスト」「かかわり手」「スタッフ」など様々な表現が用いられているが、ここでは「スタッフ」

という表記で統一する。

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自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集団療法に関する先行研究の動向と課題

� The�aim�of�this�study�was�to�investigate�the�trends�and�issues�in�group�therapy�for�people�

with�pervasive�developmental�disorders� (PDD).�Previous�studies�were�classified� into� four�types�

according�their�purpose�and�the�approach�taken;� (1)�groups�conducted�psychodrama�or�psycho-

dramatic�role�playing�aimed�to�improve�participants’emotional�activation,�self-expression,�or�self/

other�understanding,�(2)�play�therapy�groups�which�functioned�as�places�where�participants�could�

behave�naturally�and�had�psychoeducational�aims�such�as�improving�self-expression�and�concern�

for�others,� (3)� social� skill� training�or�practice�based�on�a�behavioral�approach�aimed�to�make�

participants� acquire� communication� skills� or� reduce� their�problematic�behavior,� (4)� groups�

including� familiar�people� (parents,� siblings,� �or�children�without�disabilities)�aimed�to�promote�

their�understanding�of�PDD�and�support�the�relationship�to�people�with�PDD.�The�meaning�of�

each�type�of�group�therapy�was�discussed� from�a�viewpoint�of�how�people�with�PDD�develop�

their�self-understanding�in�relation�to�others�in�the�groups.

Key�words:pervasive�developmental�disability,�group�therapy,�self-understanding

Trends�and�issues�in�group�therapy�for�people�with�pervasive�

developmental�disorders�:�from�a�viewpoint�of�self-understanding

Michika�TAKIYOSHI(Graduate�Student,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University;

Japan�Society�for�the�Promotion�of�Science)

Mari�TANAKA(Associate�Professor,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)