語形成の概念理解と英語語彙指導についての一考察...語形成の概念理解と英語語彙指導についての一考察...

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Page 1: 語形成の概念理解と英語語彙指導についての一考察...語形成の概念理解と英語語彙指導についての一考察 山口常夫 教育学部 英語教育講座

語形成の概念理解と英語語彙指導についての一考察

山 口 常 夫教育学部 英語教育講座

藤 村 聡 子教育学研究科 英語教育専修

(平成14年10月1日受理)

要 旨

外国語として英語を学ぶ学習者は数多くの語彙の記憶を余儀なくさせられる。英語学習の初期段階においては,単語を覚えるために綴りの反復練習をしなくてはならない。このような過程の中で,学習者は自然に語をパーツに分けていくことができるようになる。そしてある程度の基本語彙を習得すると,既習語をもとにして新語を作り出す規則に気付く学習者も現れる。この規則が語形成規則である。本研究の目的は,接頭辞を用いた効果的な語彙学習を明らかにすることである。2章で

は語形成概念を学ぶ必要性と有用性について先行研究から示す。それに基づき,3章では接頭辞を用いて学習語彙から語がどの程度派生するのか,そしてその語が大学入試センター試験と実用英語技能検定でどのように用いられているのかについて明らかにしていく。

1 序 論

既存の語をもとにして新語を作り出すメカニズムを語形成(word-formation)と言い,これは既存語の意味を拡張したり,語形成の規則に従って新語を形成したりする。母語話者はこのメカニズムを共有し,必要に応じて既存の単語に適用することで新たな語を作り出している。英語学習者はその規則を活用することで語彙を増やしていくことができると考えられる。本研究では,語形成過程の中でも特に生産性が豊かで規則性の高い接頭・接尾辞付加で

作られる派生語に着目し,その中でも接頭辞を用いた語形成では,学習者がベースと接頭辞の意味を知っていれば,接頭辞付加の新出単語でもある程度の理解が可能となるとの予測のもと,語形成規則に基づいて派生語を学ぶ有益性を実証することを目的とした。その一方法として,まず基本的接頭辞と既習語から派生する語が大学入試センター試験と実用英語技能検定試験(英検)の中でどの程度使用されているかを明らかにし,次に作成した接頭辞付加データベースとベースの学習時期を比較することにより,接頭辞付加語の語彙学習上における有益性および適時についての考察を行った。

山 形 大 学 紀 要(教育科学)第13巻 第2号 平成15年2月

Bull. of Yamagata Univ., Educ Sci., Vol. 13 NO. 2,February 200385

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2 研 究 の 背 景

Nation(2001)8)は英語母語話者の語彙成長の大きな流れを3パターン挙げているが,その中の1つとして接頭辞,接尾辞,その他の語形成による新語の認識と形成を挙げている。さらに彼は,接辞とルートの知識を持つことは,英語学習者にとってこれから覚える語に含まれる接辞を既知の語や接辞と関連づけて学習することを可能にし,読解中の未知語について接辞とルートの知識から意味の推測を行うことができるようになるという2つの利点を指摘している。接辞に関する知識は語形成規則(word-formation rule : WFR)を知ることにつながるが,

酒井(1992)12)は語形成規則を用いた語彙増補に関する可能性について以下のように述べている。

従来の語彙の教え方は,語彙を暗記によって増やしていくものとしていた。これは,英語の母語話者のやっていることと大変かけ離れている。彼らは語を作っていることに注目すべきである。そこには非母語話者でもマスターできるルールが働いている。それを教えることができれば,学習者が暗記すべき基本語の数はそれほど多いものではない。ルールであるから非母語話者でもこれらをよくマスターすれば,潜在的に可能な語彙は無限に増え,また英語の語として存在しないものを排除することもできるようになる。(89)

これら2件の研究は,語形成の知識は学習者の語彙を豊かにするのに有効であるということを倶に主張している。語形成の概念理解を用いた語彙学習で必要になるのは,語形成の規則を覚えることであ

り,その中でも派生語は語のパーツについての知識が必要となる。Nation(2001)8)は派生語を学ぶためには2つのステップがあると述べている。1つは未知語をパーツにわけること,もう1つは語の意味と語のパーツの意味を関係づけることである。これらの2つのステップから,彼は接辞語を教え学ぶことの利点を述べている。また,Nation(1990)7)は,ラテン語の接辞とルートの知識は既知の語と未知の語を関係づける事に使われうると述べ,14のキーワードを学び,そのパーツの意味を知ることによって学習者は14,000語以上を知ることになると主張している。接辞はある特定分野の研究,医学,植物学,動物学などの専門用語を学ぶ上で重要な役割を果たすと考えられており,これらの分野の学生にとって特にラテン語由来の接辞を覚える学習方法は非常に効果的で必要なことであるといえる。しかし,この学習方法は同時に非常に難しいものでもある。ましてや,英語を外国語として学ぶものにとってはなおさら困難な方法である。しかし,もしベース語が単純語に限られているならば,接辞を用いた語彙学習の方法はより簡単なものになると考えられる。この点に関して,White et al.(1989)13)の研究は学習者に対する接辞を用いた語彙増補の

可能性を述べているといえる。彼らはハワイ,ホノルル近郊の私立学校に在籍する3,4年生を対象に接辞に関する実験を行った。実験の際に用いた主要接辞は the American Heritage

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Word Frequency Book のなかで最も出現頻度の高い接頭辞 un‐,re‐,dis‐,re‐,in‐等を用い,それらを含む194語のなかから接辞とベースとに分けたときに意味的に透明で理解可能な84語を無作為に選び出しテストを行った。テストスタイルは4つの選択肢からなる多項式選択問題である。被験者はセンテンス毎に設問を解くように伝えられている。テストの結果,被験者がベース語の主要な意味を理解している場合,約60%の語は理解可能であることがわかった。また,被験者がベースの二次的な意味を理解していることと文脈を利用して接辞の持つ2つ以上の意味を利用すること(例えば un‐の「否定」と「動作の反対」)によって更に約80%は理解可能となるとした。このことをうけて,彼らは語のパーツを教えるための3つのポイントを以下のように挙げている。第1に教師は学習者が知るべき接辞を決定する必要がある。第2に,教師は学習者にとってどの程度の接辞の知識が必要であるかを知る必要がある。第3に,教師は学習者の接辞の知識を豊かにするための活動をデザインするべきである。これらのポイントを踏まえた上で,教師は語のパーツを用いた指導を行うべきであり,学習者は語がベースと接辞との組み合わせでできているものもあることを理解する必要があり,接頭辞の指導は高頻度で出現する接辞に基づくべきであると主張した。

3 研 究 内 容

本章では,接頭辞付加による派生語のできうる数,接頭辞付加語の生産性,学習語彙内の接頭辞付加語,接頭辞学習への提案,の以上4点について検討する。語形成規則には様々な制限があり,その生産性も種種である。生産性の豊かな規則の場

合には,語形成規則からできた新たな語は無限に生産される可能性がある。一般的に語形成はレキシコンとレキシコンに登録された情報を用いて行われ,そのでき上がった語はレキシコンに登録される。しかし,生産性の豊かな語形成規則から派生した語の全てを登録することは不可能である。したがってその言語のレキシコンに載っていない語であったとしても,語形成規則の制限に従っている限り新語も語として適当だと認めるべきである。レキシコンに登録されるという観点から見ると,形態論には3種類の語があると影山

(1997)5)は述べている。まず,語形成規則に則り適当な形と意味を持ち実在する語(existing

word)。次に,レキシコンに登録されておらず実在もしないが,語形成規則には則り,語として機能する可能な語(possible word)。最後に,語形成規則に従わず,語としても機能しないものである不可能な語(impossible word),である。分析は,『全英連新高校基本英単語活用集』14)(以下『全英連』)の見出し語と Quirk et al.

(1985)10)の接頭辞リストの2つのデータを基にして行った。この分析では,ターゲット語は実在する語に限った。可能な語と不可能な語を排除するために,ターゲット語は LOB,Brownコーパスを参照した。接頭辞付加の抽出語に関して『単語レベルチェック』16)

(3.3.1.参照)で大学入試までの学習語彙内にどの程度これらの抽出語が含まれているかを調べた(図1参照)。

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3.1. 接頭辞付加語の派生

3.1.1. 分析対象

派生語を作り出すために,ベース語を『全英連』から選び出した。全英連は中学・高校の英語教師によって選ばれた単語集で,統計的に選定された語で編纂されているという点で信頼のおけるものとされている。この単語集は5つのグレードに分かれている。グレード Aは初歩,Bは中学英語の復習と発展,Cは高校英語初級,Dは高校英語中級,そしてEは高校英語の発展,である。本項での分析の対象語は全てこの単語集の見出し語であり,見出し語以外の語は無視することとした。

3.1.2. 接頭辞の選定

本項では,規則性が高く生産性の豊かな接辞に注目した。接辞の中でも接頭辞はベース単語の綴りと品詞を変化させない特徴がある。この特徴により学習者は単語をベースと接頭辞に分けることができ,接頭辞とベースとを系統立てて単語の意味を類推することができる。

Quirk et al.(1985)10)は52種類の接頭辞についてふれている。このリストの中には接頭辞

図1 分析方法

Quirk et al.(1985)からの接頭辞49種類

センター試験レベル内の単語

・語形成規則の適用・LOB,Brownコーパスを用いた実在する語と可能な語の区別

『単語レベルチェック』によるレベル分け

コーパス内に存在した「生成派生語」914語

組み合わせで派生しうる語数214,620語

センター試験レベル外の単語

『全英連』からベースとなる4,380語

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でありながらベースの品詞を変化させる a‐,be‐,en‐がある。これらの接頭辞はベースの品詞変化を起こすという点において接尾辞と同様であるため,ここでのターゲット接頭辞はこれら4つの品詞転換接頭辞を除いた49種類である。

3.1.3. 方法

新たな接頭辞付加語を生成させるため,次の作業を行った。a. 『全英連』の見出し語から機能語を取り去り,内容語だけを残す。b. aの語の前方に49種類の接頭辞を人為的に付加し,接頭辞付加語を生成する。c. LOB,Brownコーパスを用い,bで作り出した接頭辞付加語の存在を確認する!。d. 存在する接頭辞付加語を抽出し,それらを「生成派生語"」と名付ける。

3.1.4. 結果

#では,4,380個の内容語が確認された。$では単純計算で210,240個の接頭辞付加語がターゲット接頭辞とベースから派生された。しかし,それぞれの接頭辞がベースの品詞を選択するため,存在し得ない語も多数ここには含まれている。%では語形成規則を適用し,可能な語と実在する語を分ける。その結果として,2つのコーパスから914語の生成派生語が生成された。

3.2. 接頭辞付加語の生産性

接頭辞付加語の生産性は接頭辞によって異なる。その生産性の特徴により接頭辞は生きた「現用接頭辞」(living prefix)と「廃用接頭辞」(dead prefix)の2種類に分けられる。現用接頭辞は今もなお新たな語を作り出す生産性を保ち,廃用接頭辞はその生産性を失っている。形態論に基づいた有用な接頭辞の知識を教育に導入するために,接頭辞の生産性を説明することが重要である。各々の接頭辞の生産性をここでは調べ,3.2.1.に示す。

3.2.1. コーパスと生成派生語内の接頭辞付加語

2つのコーパス内で接頭辞付加語を探すために,次の作業を行った。a.49個の接頭辞で始まる語を検索し,ベースの品詞指定に適合するものを選ぶ。b.検索結果の語をレンマ化する。c.接頭辞とベースの間にスペースを発生させ,スペルチェックを実行する。d.ベース語が実在する語の場合,それを接頭辞付加語として扱う。否定の接頭辞 a‐の場合は否定の意味を持つ派生語か品詞転換の接頭辞かどうか辞書で確認する。

図2から re‐,un‐,in‐,dis‐が接頭辞全体の半分以上を占めていることがわかる。『全英連』でも同じ結果が得られた(図3参照)。

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3.3. 生成派生語の実用性

学習者はベース語の意味を知るまでは派生語の意味を知ることは容易でない。しかし,学習者がベースと接頭辞の意味を知っているならば,初出の単語でもある程度,接頭辞付加語を理解することができると考えられる。ここでは広く語を扱うために現行の教科書だけではなく,センター試験で出題された語などを調べる。

3.3.1. 学習語彙

本研究では『単語レベルチェック』を学習語彙のデータベースとして用いた。『単語レベルチェック』は中学・高校の教科書の詳細な分析により作られたデータベースである。それに加え,1990年から2002年までのセンター試験出題語彙も含み,中学,高校,大学受験までに学習する5,822語で構成されている。

3.3.2. 方法

生成派生語と学習語彙の状態を調べるために次の2つの作業を行った。a.学習語彙内の接頭辞付加語を調べる。b.学習語彙内の生成派生語の割合を調べる#。

3.3.3. 結果

!では,『単語レベルチェック』に含まれる接頭辞付加語304語の77.0%,234語を含んでいることが明らかになった。"では,派生させた生成派生語総語数914語のうち,『単語レベルチェック』は234語25.6%を占めている。結果として生成派生語のなかの25.6%,『単語レベルチェック』に含まれる接頭辞付加語の77.0%がセンター試験で出題されていることが判明した$。

図2 コーパス内の接頭辞 図3 全英連内の接頭辞

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3.3.4. 考察

914語のうち,234語を除いた680語がここでは問題の焦点となる。680語の中においてコーパス内で出現頻度の高い語と低い語について特徴を調べる2つの作業を行った。

a.コーパス内で出現頻度の高い語について,学習語彙と実際的な言語使用との特徴と違いを調べる。

b.コーパス内で出現頻度の低い語について接頭辞の種類とその語が現れるテキストカテゴリーを調べる。

3.3.4.1. 高頻度出現語

学習語彙である『単語レベルチェック』に含まれず,かつ生成派生語には含まれる語のうち,頻度の高いものの一部を以下に示した。括弧内は品詞とトークンを表している。

confront(v.55),inevitable(adj.41),reform(n.41),output(n.39),review(n.39),insight(n.38),undertake(v.34),extension(n.32),overlook(v.31),representation

(n.27),transform(v.27),proclaim(v.26),reproduce(v.25),precaution(n.24),promotion(n.24),review(v.24),supervision(n.24),retail(n.22),intermediate(adj.21)

これら実際的な言語使用での出現頻度の高い語がなぜ学習語彙に含まれないかは,データベースの特徴,ひいてはその中学・高校における現行の教科書に含まれる学習語彙の選定の方法に原因があると考えられる。『単語レベルチェック』は日本の英語教育における学習語彙を代表するデータベースである。それに含まれる語は中学・高校で学習する認知率の高い語であり,さらに1990年から2002年までの12年間のセンター試験に出題された語に限られている。もしこのデータベースが実際の言語使用に即した語を含め,内容をより充実させれば,出現頻度が高かった語も含まれる可能性が十分あると言える。

図4 生成派生語と学習語彙

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3.3.4.2. 低頻度出現語

ここでのターゲットは680語のうち約45%であるトークン1から3の304語である。図5は出現頻度の低い語をタイプ別にあらわしたものである。出現頻度の高い語も低い語も接頭辞の種類の順番に大差は見られなかった。しかし,いくつかの接頭辞(over‐,sub‐,mis‐等)は生成派生語全体の順位より上位にくるものもあった。その理由は,上記の接頭辞は複合語を作りやすいため,多種のベースと結びつきやすいからである。

これらの語がどのようにコーパス内でのテキストカテゴリーのなかで使われているかは目立った特徴が見られないことから,広い分野において使われていることがわかる。つまり,もし学習者が語形成規則を知っていれば,広範囲の種類にわたるテキストにおいて,類推によって出現頻度が希な語の意味も知ることができ,このことは新たな接頭辞の意味も臆せずに類推する機会にもつながると考えられる。接頭辞と語の意味を知っていれば,接頭辞付加語の意味を理解するのはほぼ可能である。

914語の生成派生語は49種類の接頭辞と『全英連』との組み合わせで作り上げ,このことは,生成派生語の残り74.4%も接頭辞の意味,つまり語形成規則を知ることで,潜在的に理解可能となることを意味する。

3.4. 接頭辞学習と適時

接頭辞を用いた語彙増補について効果的な時期を探るため,生成派生語と『単語レベルチェック』が含む接頭辞付加語との和集合234語について接頭辞付加語のベース語のレベルと種類を調べた(図6参照)。

図5 低頻度出現接頭辞

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上図からわかるように,接頭辞が付加しうるベース語の多くが高1レベルで出現している。同様に,高1レベルで最も多様なタイプの接頭辞が現れる。接頭辞付加語を学ぶ際に効果的な学習順序を提示するため,接頭辞認知レベルとその種類に加え,生産性の豊かな接頭辞と接頭辞の種類を考慮に入れる必要がある。『単語レベルチェック』全体の接頭辞の出現はコーパスと生成派生語とほぼ同様である。したがって,図6に示されるように,高校1年生の段階で語形成規則を導入するのが適当だと思われる。しかし,ここで注意すべきことは,学習者の記憶の負荷である。Baayen & Lieber(1991)3)は2カ国語辞書の見出し語について,生産性の豊かな派生語は必ずしも辞書に登録されるわけではないこと,そして生産性の乏しい語は主に見出し語として書かれていることを述べている。したがって,生産性の乏しい語は接頭辞付加語としてではなく最初から独立した一つの語として扱うべきであり,一方,生産性の豊かな語形成規則の接頭辞は学習する価値があると考えられる。また,914語の生成派生語について,実用英語技能検定試験における接頭辞付加派生語

の出題傾向を『単熟語データベース DBMom Ver.4.0!』17)を用いて調べてみた。その結果を図7,そしてレベル語との詳細を図8に示した。

図6 生成派生語・『単語レベルチェック』の和集合におけるベースレベル

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図7では,3.2.1で示したコーパス及び『全英連』と同様に英検でも re‐,in‐,un‐,dis‐の接頭辞が接頭辞付加語全体の半数以上を占めることがうかがえる。図8では,英検2級の試験で最も多くの接頭辞が出題されていることがわかる。日本英語検定協会によると,2級は高校卒業程度のレベルである。以上のデータから,接辞を伴う語の学習時期は主に高校での学習期間に集中しているこ

とがわかる。この時期の学習者が接辞についての知識を持ち,その知識を積極的に利用していくことで,数多くの語彙を理解することができると推測される。しかし,同時に接頭辞を扱う上での問題点として,学習者が接頭辞付加語を過剰生産してしまう危険性がある。

図8 生成派生語内における英検出題接頭辞語数

図7 生成派生語内に存在する英検出題接頭辞

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生産性の豊かな接頭辞は様々な種類の語に付加されるので,学習者は正しくない語形成規則を用い,誤った派生形を作ってしまう可能性が多い。これは単語を能動的に作り出すという作業では致命的な誤りとなる。一方,受動的な使用においては,生産性の豊かな接頭辞の知識は,まだ認識していない語の意味を類推するのに非常に役立つ。これらの語彙の過剰生産による誤りは,英語の語彙学習において大きな問題点をはらんでいるが,学習者自身による辞書や参考書等の効果的利用,並びに教師・母語話者の補助によって訂正していくことが必要になると考えられる。

4 結 論

本研究の目的は接頭辞を用いた語彙増補の有益性を明らかにすることであった。研究の背景では,語形成規則を知ることは語彙増補について有益な方法であることを先行研究をもって示した。派生は語形成過程の1つであり,特に接頭辞は語の中で認識しやすい形をし,主に2つ

の特徴を持っている。1つは未知語をパーツに分ける明晰性,もう1つは接頭辞とベースの組み合わせで派生語全体の意味を作ることである。もし,2つ以上の違う意味を持っている接頭辞があるならば,それらのベースの品詞が接頭辞の意味を類推する際の手がかりとなる。

Quirk et al.(1985)10)の49種類の接頭辞リストと中・高で学習する『全英連』の語をベースとして用い,接頭辞付加語を LOB,Brownコーパスで参照した。この作業の結果,914語が接頭辞と既習語の組み合わせで派生された。生成派生語のうちセンター試験までに出題されなかった74.4%の学習語彙は語形成規則の知識によって理解可能であると推測される。生産性の豊かな語形成規則は様々なベース語に付加し新たな意味を作っている。これら

生産された語は多岐にわたるので,辞書の見出し語として全てが記載されるわけではない。このことは言語の経済性から言っても明らかである。したがって,学習者は語形成規則を学び,記憶し,単語集を単に暗記するのではなく,既知の語に付加し,語を作り上げる必要がある。つまり,基本的接頭辞と既習語を組み合わせることで実際の言語使用環境で用いられる派生語が900語以上生成されることが判明した。そして,作成した接頭辞付加データベースとベースの学習時期の比較により,接頭辞付加語は主に高校1年時に学習する単語に多く用いられると共に,高校卒業程度である英検2級での出題率が非常に多いことが明らかになった。以上のことから,生産性が豊かで規則性の高い接頭辞付加の語形成規則は学習者の語彙

を増やし,その付加規則を知ることで未知語についても類推を容易にし,更に既知の意味を補うことで,積極的に語彙を増やすことができる可能性を確認することができた。

! 全英連には含まれるが,コーパスには含まれなかった語を以下に示した。cafeteria,cassette,centigrade,faraway,fridge,grieve,homeroom,noodle,predicate,sled

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LOBと Brownコーパスにはこれらの語は含まれないが,コーパスが何らかの理由で語や句を含まない可能性がある。この理由を調べるために,別のコーパス BNCでも前頁の語の存在を調べてみた。BNCはイギリス英語1億語のコーパスである。これは世界で最も規模の大きいコーパスであり,書き言葉だけではなく話し言葉もその中に含まれ,その割合は90%が書き言葉,そして残りの10%が話し言葉となっている。結果として,BNCに含まれていない語は homeroom であった。コーパスの重要な役割の一つに代表性が挙げられる。上にあらわされた語は日本での

英語教育では一般的な語であるが,母語話者の言語使用ではそうとも言い切れない。例えば,homeroom は日本での学校生活にとって高頻度な語である。しかし,それは必ずしもイギリスやアメリカの英語でも同じとは限らない。このようにコーパスは当該言語全ての含んでいるわけではないことに注意を払う必要がある。

! LOB,Brownコーパスに含まれ『全英連』をベースとし,Quirk et al.(1985)10)の接頭辞を付加したものを筆者が便宜的に名付けたものである。

" 区別的な意味を持つ接頭辞(「否定」と「動作の反対」を意味する un‐等)は学習者が接頭辞のそれぞれの意味知識を持っていると仮定して,1つの接頭辞としてまとめた。

# 生成派生語は『全英連』の見出し語を接頭辞付加語のベースとして利用したため,もし見出し語として『全英連』に含まれない語があれば,その語の接頭辞付加派生語は生成されない。そのため,接尾辞の語尾をともなっているものは,生成派生語の集合に含まれないことになる。接尾辞付加語のいくつかは全英連の見出し語として使われていないため,生成派生語の集合に含まれていない。これら接尾辞付加語を除いて2つの集合を検討しなおし,図4の生成派生語と学習語彙の使用状況結果を得た。なお,生成派生語に含まれなかった23.0%は『全英連』の見出し語に接尾辞を付加し

た派生形のものが大半を占めている。

$ 英語教育リサーチの単熟語分析システムで,日本の中学生・高校生・大学生が学習する単語・熟語,さらに「英検」の単熟語をデータベース化したものである。

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16)イーキャスト(2002)『単語レベルチェック ver.4.0』[CD-ROM].17)英語教育リサーチ(2002)『単熟語データベース:DBMom ver.4.0』[CD-ROM].

語形成の概念理解と英語語彙指導についての一考察 97

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Page 14: 語形成の概念理解と英語語彙指導についての一考察...語形成の概念理解と英語語彙指導についての一考察 山口常夫 教育学部 英語教育講座

Summary

Tsuneo YAMAGUCHI*,Satoko FUJIMURA** :

“ON ENGLISH WORD‐FORMATION”

-Affixation in the perspective of teaching and learning vocabulary-

The learners of English as a foreign language are subjected to bear the burden of memorizing

English words. In the early stage of English learning, they have to repeatedly spell out and

practice words to store them into their memory. The learners then become used to breaking words

into parts during the learning process. After they acquire the basic vocabulary, some learners

realize some rules which can be used to recognize new words being derived from learned words.

Those rules are called Word-Formation Rule, or WFR.

The purpose of this paper is to make it clear that effective learning of prefixes can be blessing

for vocabulary learners. Section2deals with previous studies that account for necessity and

usefulness of studying word-formation rules and processes. Based on these studies, we have tried

examining how many words to which prefixes are added can derive from the learned vocabulary in

Japanese schools, and thus, to what degree they have been employed in the National Center

Examination in section3.

(*Department of English,Faculty of Education)(**Specialized Area Studies Division(English),Graduate School of Education)

98 山 口 常 夫・藤 村 聡 子

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