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貨物輸送中の衝撃値(加速度)に関する データベースの作成 報 告 書 平成24年3月31日 一般社団法人日本海事検定協会 (検査第一サービスセンター)

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貨物輸送中の衝撃値(加速度)に関する

データベースの作成

報 告 書

平成24年3月31日

一般社団法人日本海事検定協会

(検査第一サービスセンター)

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目 次

1. 目的 … 2

2.調査方法

(1) 衝撃値(加速度)の種類 … 2

(2) 計測値のとりまとめ … 3

(3) 実際の計測 … 3

3.トラック・鉄道・航空機などで発生する衝撃値

(1) 計測機器の選択 … 4

(2) アドバイザーの依頼 … 5

(3) 計測機器の運用 … 5

(4) サンプル梱包物の製作 … 6

(5) 落下試験の実施 … 7

4.船舶の揺れにより貨物に発生する加速度

(1) 計測機器の選択 … 13

(2) アドバイザーの依頼 … 14

(3) 計測機器の運用 … 14

(4) 計測器の取り付け方法について … 16

(5) 加速度の試験計測結果 … 17

5.今後の計画 … 19

6.協力研究機関・企業及びその内容 … 20

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1.目的

本事業は、船舶・トラック・鉄道・航空機等の輸送モード別、貨物の単体輸送・コンテナ輸

送別に輸送中に発生する衝撃値(加速度)を一定期間にわたって計測・収集し、その結果を取り

まとめたうえでデータベース化して公表するものである。

貨物の輸送時においては、輸送機材(船舶・トラック・航空機等)及び貨物自身への損害防

止のために、貨物を適切に輸送機材に積付け、固縛を実施する必要がある。 また、必要であ

れば与えられる外力に対して、適切な梱包・包装を施す必要もある。 そのための重要な情報

である「輸送中に発生する衝撃値(加速度)」が、現在のところ総合的に一覧できて信頼しうる

公表資料がないため、荷主、陸海空の輸送業者、保険会社等の関係者からその整備が求められ

ている。

本事業の成果は、上記関係者において輸送機材の安全、輸送中の貨物の損害防止、危険回避

策の構築等のために有用な情報となると考えられる。

図1-1 横転したフェリー

2009年に発生した大型フェリーの横転事故は記憶に新しいが、関係機関の調査によれば、事

故の原因のひとつは積荷の荷崩れであるとされている。 利用しやすい加速度に関する情報が公開

されていれば、適切な固縛の一助となり、事故を防ぐことが可能であったかもしれない。

2.調査方法 調査対象は輸送時に発生する衝撃値(加速度)の数値であるので、その数値を実際の輸送機材に

おいて計測することとする。 あくまでも実測値をデータとすることとし、その計測は環境データレコー

ダー等と呼ばれる、所謂、加速度記録計で実施される。 調査の実施にあたっては以下の条件、状況を考慮する必要がある。

(1)衝撃値(加速度)の種類 このたびの事業で計測される対象輸送機材は、船舶・トラック・鉄道・航空機と多岐に亘るが、全て

が同じ特性のものではなく、加速度の特徴として以下の2種類に分類されると考えられる。

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① トラック・鉄道・航空機で発生する衝撃値 主に1秒以下の周期で発生する短周期の加速度(衝撃)で、数十Gに達することも珍しくない。

事故の発生時や悪路の走行時等に稀に発生する傾向がある。 ② 船舶の揺れにより貨物に発生する加速度

主に数秒から十数秒の周期で発生する長周期の加速度で、1G (9.8m/sec2) を越えることは

まれであるが、悪天候が続けば継続的に発生する。 計測するのは①でも②でも同じ「加速度」であるが上記のように特性が異なっているため、同じ

計測器で計測することは困難であり、効率が良くない。 そのため、計測にあたっては、それぞれ専

用の計測器を選択する必要がある。 また、計測器の使用にあたっては様々なセッティングが必要である。 計測する時間、周期、最

大値や最小値等、セッティングに必要な要素は多岐に亘る。 セッティングにはノウハウが必要である。 NKKKでは現在までに加速度計測の経験が若干あ

るが、これまでにない機器を導入しているため、外部専門家の協力をいただき、解析ソフトウエア

の使用方法を含めて、現在ケーススタディ中である。

(2)計測値のとりまとめ 計測器で計測されたデータはそのままでは使用することはできない。 計測器からはデジタルで膨

大なデータが得られるが、そのデータは適切な手法により解析され、できるだけシンプルな形で利用

者に提供されなければならない。 この計測値のとりまとめには、その目的に沿った理論的な統計的手法が必要とされる。 また、そ

の手法は加速度値のとりまとめとして適切なものでなければならないので、NKKKはそのとりまとめ

にあたっては、大学等の研究機関の協力を依頼し、協同で研究を進めることとした。

(3)実際の計測 実際の計測にあたっては、先に述べたように輸送の過程で計測する必要があるので、輸送機材を

所持、運用している方に協力を依頼した。 既に数社にご協力をいただき、試験的に計測を開始している。

当該事業は現在のところ最低5年間継続して実施する予定であるが、初年度である平成23年度

の事業実施内容として、以下の作業を実施した。 ・ 当初目的の計測が可能な計測機器の選択及び購入 ・ 導入した計測機器の運用に関する研究及び試験 ・ 協同研究に対応してくれる研究機関の選定及び契約 ・ 計測に協力いただける企業の選択及び依頼

上記作業について以下の通り報告する。

なお、作業は計測対象と計測機器の種類により2班で実施した。

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3.トラック・鉄道・航空機などで発生する衝撃値

(1)計測機器の選択

前述のように、トラック・鉄道・航空機等で発生する衝撃値(加速度)の特徴は、主に1秒

以下の周期で発生する短周期の加速度(衝撃)で、時には数十G、数百Gに達する。 逆にゆっくりと

した長周期の加速度ではないので、シャープな波形の衝撃の計測に適した計測器が必要になる。 この条件に適し、また計測可能時間、記憶容量を考慮して選択した計測器は以下の機器であっ

た。

輸送環境データレコーダー IST社製 EDR-3

図3-1 EDR-3 図3-2 同左 表3-1

性能・仕様

ハードウェア

本体サイズ(mm) 107(W) x112(D)x56(H)

本体質量 1.1 kg

使用乾電池 単 2 アルカリ電池 4 本

測定日数 20 日~30 日

センサー

種類 圧電抵抗型

チャンネル数 3 CH

加速度レンジ 50G(指定)

フィルター 510Hz ローパスフィルター(指定)

他 温度センサー及び湿度センサー

データ記録

トリガ方式 「シグナルトリガモード」と「タイマトリガモード」どちらか一方の設定

メモリ容量 4MB

メモリ種類 揮発性

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上記の輸送環境データレコーダー以外に様々な状況を再現する実験を実施する時に、加速度及

び傾斜の姿勢角等がモニターできその画面の再生ができる下記の機種を追加して選定した。

平成24年度では、当機器を使用して、トラック輸送の走行における急発進、急ブレーキ、急ハンド

ルを実際に行い発生した加速度の状況を調査する予定である。

慣性運動計測機器 クロスボー社製 NAV440CA

図3-3 NAV440CA 図3-4 同左

表3-2

性能・仕様

ハードウェア

本体サイズ(mm) 76..2 x 95.3 x 64.3

本体質量 0.62 kg

入力電圧 9~42VDC(外部からの電源供給)

加速度検出範囲 XYZ ±4G

データ記録 パソコンに記録

加速度以外の出力 角速度、角度、磁気、(速度、位置:GPS 出力)

(2)アドバイザーの依頼

測定機器の設定、ソフトウエアの使用方法等、加速度計測に関する全般的な内容について、輸送

環境調査に経験豊富な外部専門家に今後の調査業務等に関するアドバイザーを依頼した。

(3)計測機器の運用

平成23年度は梱包された貨物(梱包物)が陸上輸送中で運ばれる時にどれくらいの衝撃値

が発生するのかを試験的に計測することとした。

① 計測の条件

a) 外装梱包は汎用性の高いカートンとした。

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b) カートンは一般的かつ普遍的な種類が望ましい事から、大手宅配便業者の規格カートンを

使用した。

c) カートンのサイズと重量については、大小・軽重と利用頻度の高さを考慮して下記の 3 種類

で調査する事とした。

(L) 32cm x (W) 46cm x (H) 29cm、総重量約 11kg

(L) 32cm x (W) 46cm x (H) 29cm、総重量約 6kg

(L) 27cm x (W) 38cm x (H) 29cm、総重量約 5kg

d) 落下高さの設定予想を 0.1m~1.2m として、梱包物の構造を検討する。

e) 連続して計測データを取得する為に、反復利用できる強度を確保する事。

平成23年度は上記3種のカートンから、最も大きい(L) 32cm x (W) 46cm x (H) 29cm、総重量

約 11kg のカートンを採用した。

(4)サンプル梱包物の製作

計測を実施するためにサンプルの梱包物を製作した。 外寸と総重量は前述の通りであるが、内

部に計測器をセットし、反復計測を行うため、以下のように製作した。

a) カートンは使用により劣化する為、カートン内部に計測器を収納する木箱を作成し、木箱の

反復利用によりカートンは都度交換する方法とした。

・計測器をカートンの中心に設置する為、木箱はカートンの相似縮小形とした。

・計測器が内部で移動することのないように、緩衝材により計測器を固定した。

b) 上記により試作品を作成し、梱包物の耐久性と緩衝材の適正化を調査するため、落下試験

を実施した。

・落下高さ: 50cm、80cm、120cm、150cm、180cm とした。

・落下回数: 50cm と 80cm にて、6 面 12 稜 8 角を 3 回づつ、120cm にて 6 面を 2 回づつ、

150cm と 180cm は 6 面を 1 回づつ落下した。

c) 試作品の落下試験より、下記の改良を図った。

・木箱に歪みが生じた為、木箱の破損防止を考慮してカートンと木箱の間に緩衝材を使用した。

・計測器の移動防止緩衝材に計測器の食い込み跡が生じていた為、緩衝材の材質変更を

実施した。

・総重量の調整には、木箱に鉄板を装着して実施した。

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外装梱包(カートン) (L)32cm x (W)46cm x (H)29cm、仕上がり総重量 10.95kg

図3-5 カートン 図3-6 同左

上下 4 角8箇所に緩衝材 木箱上蓋

図3-7 図3-8

木箱内部 計測機器収納後

図3-9 図3-10

(5)落下試験の実施

実際の輸送に於いて梱包物の衝撃がどのように生じるかは不明で、計測をして計測値のデータ

を得たとしても、実際にどのように梱包物が落下しているのかは判らない。

そこで、計測器を内蔵した梱包物の落下試験機を使用した落下試験を実施して、面落下、稜落

下、角落下による傾向及び特性を把握した。

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今回使用している衝撃値解析プログラムには落下の状況を解析するソフト、パッケージプロファ

イラが付属しているので、落下試験結果をそのインプットデータとした。

a) 落下試験に使用した梱包物は、改良を行い今後の計測に使用する梱包物と同じ設計品に

て実施した。

b) 落下高さは、50cm、90cm、120cm、150cm、180cm とした。

c) 落下回数は 50cm にて 6 面 12 稜 8 角を 3 回づつ、90cm、120cm、150cm と 180cm は 6 面

を 1 回づつ落下した。

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図3-11 試験機へダミーボックス設置(1) 図3-12 試験機へダミーボックス設置(2)

図3-13 試験機へダミーボックス設置 図3-14 試験機へダミーボックス設置

図3-15 落下試験(1)

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図3-16 落下試験(2)

図3-17 パッケージプロファイルのイメージ(1)

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図3-18 パッケージプロファイルのイメージ(2)

落下試験時の波形図の一例

図3-19 面落下の衝撃波形図(Zの面)

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図3-20 稜落下の衝撃波形図(XZの稜)

図3-21 角落下の衝撃波形図(XYZの角)

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4. 船舶の揺れにより貨物に発生する加速度

(1)計測機器の選択

船舶の揺れにより発生する加速度の特徴は、主に数秒から十数秒の周期で発生する長周期の

加速度で、1Gを超えることはまれである。 数十Gの加速度を測定する必要はないが、外航船舶に

搭載して計測する必要があるので、計測可能時間の長い機器が必要となる。 また、揮発式メモリへ

の記録ではデータが消滅してしまう可能性があるので、非揮発性メモリへのデータ格納が必須条件

となる。 この条件に適し、選択した計測器は以下の機器であった。

米国ランスモント社 SAVER 3D15

図4-1 SAVER 3D15 図4-2 SAVER 3D15

表4-1 性能・仕様

ハードウェア

本体サイズ(mm) (W)95mm x (D) 75mm x (H)43mm

本体質量 473 kg

使用乾電池 9V 電池2個(リチウムまたはアルカリ)

測定日数 15日、外部バッテリーパックを使用して約45日

センサー

種類 MEMS加速度センサー

チャンネル数 3 CH

加速度レンジ 5,10,20,50G 可変フルスケール

フィルター 10,20,25,50,100,200,250,500Hz、アンフィルタ

他 温度センサー及び湿度センサー

データ記録

トリガ方式 「しきい値トリガ」または「タイマトリガモード」

メモリ容量 128MB

メモリ種類 フラッシュメモリ(放電後もデータ保持)

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(2) アドバイザーの依頼

測定機器の設定、ソフトウエアの使用方法等、加速度計測に関する全般的な内容について、輸送

環境調査に経験豊富な外部専門家に今後の調査業務等に関するアドバイザーを依頼した。

(3) 計測機器の運用

将来的な目標としては、出来るだけ多くの船種、船型において、多様な季節、航路におけるデータ

の収集であるが、最初の計測として、上海スーパーエクスプレス株式会社様のご協力をいただき、日

本~中国間の定期航路に就航しているRORO船において調査を開始することとした。

対象船舶及び航海の概要は以下の通りである。

船舶要目

船名: M.V.”SHANGHAI SUPER EXPRESS”

船種: RORO (Roll On/Roll Off)船

総トン数: 16,350トン

全長: 145.65m

積載能力: シャーシ121台

速力: 約20ノット (時速約36キロ相当)

航海の概要

航路: 博多~上海 の定期航路

距離: 約900Km

航海時間: 28時間

当該船舶は船尾にランプウエイを装備し、車両が船内に自走して進入できるカーフェリーのような

構造になっている。 主にはコンテナに積載した貨物をシャシー(台車)に積載し、トレーラーを用いて

船内に積み込み輸送する。 自走するトラックや重機も輸送が可能である。 船舶としては速力20ノ

ットと高速であり、週2便の運航で安定的な輸送サービスが提供されている。

図4-3 RORO 船 図4-4 RORO 船の船尾ランプウエイ

船内への計測機器の設置については、船主様及び船長の了承をいただき、まずは船橋(ブリッジ)

に当会職員が設置した。 その後、貨物室周辺及び機関室に計測器を設置した。

(下図は SHANGHAI SUPER EXPRESS の図面ではなく、イメージである。)

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図4-5 計測器取り付け概略位置

図4-6 船橋での取り付け状況 図4-7 同左

図4-8 機関室内への取り付け状況 図4-9 貨物艙付近のストアへの取り付け状況

海上輸送では通常最も高い加速度値を示すのは船内で最も高い位置、つまり船橋ではないかと推

測し、まずは船橋へ取り付けた。 次に、船内での振動の一因である主機エンジンの振動からの加

速度を確認するために機関室に取り付けた。 また、実際の貨物輸送にあたって考慮すべきなのは、

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当然、貨物艙での加速度であるため貨物艙付近に取り付けた。 貨物艙のまさしく貨物が置かれる

スペースに設置すべきではあるが、トレーラーや重機が貨物艙の中を走行するので、設置場所は貨

物艙の近傍となった。

(4)計測器の取り付け方法について

理想的には計測器は裸のままで加速度を計測したい物体に堅固に固定されるべきであるが、実際

には裸のままでは飛来物との衝突や、水、油等による汚染が予想されるので、何らかのケースに入

れて計測する必要がある。

現時点では、ケースについても、簡単にラップしたものや、プラスチックケースに入れたものを試し

てみた。 また、そのケースをどのように固定するか? ただ置いておくだけ、ネジ止め、ロープで巻

いて止める等の方法をためしてみた。

計測の目的、便利さ、堅牢さから考えて、専用の金属製のケースを用意して、そのケースにネジ止

めで固定し、ケースは船体に強力な磁石で取り付けることになった。

専用金属ケースは現在製作中で、次回の計測から使用できる予定である。

図4-10 専用金属ケースイメージ

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(5)加速度の試験計測結果

今のところ試験計測であるので、すぐに利用できるような結果はないが、計測のアウトプットのサン

プルを以下ご紹介する。

加速度計測器は、3方向(前後、左右、上下)の加速度を計測し、その計測値を本体のメモリに時間

とともに記憶する。 前後、左右、上下は各々X方向、Y方向、Z方向と表されることもある。

下図のグラフは、ある航海中に船橋に設置した計測器が計測した加速度値を表している。 グラフ

の横軸(X軸)は時間で、左端から右端までで30秒である。 また縦軸(Y軸)は加速度値で一目盛り

が0.02(G)である。

3本のグラフは各々が緑―前後、赤―左右、黄―上下であり、上下の加速度が最大で0.07G程

度を差している。

図4-11 加速度計測結果サンプル

グラフは小刻みな振動とゆっくりとした揺れを表しているようである。 小刻みな振動はおそらく主

機(エンジン)の振動を拾っており、長い波長の加速度は船の揺れを記録しているものと考えられる。

このグラフを見れば、船の揺れの周期は5~6秒程度であることが判る。

このグラフだけを見ても、時間と加速度が判るだけであまり有用ではないので、私共ではこの結果

とその航海の状況をリンクさせて考えることにしている。

状況は船ではログブックに記録されているので、その記録を拝見させていただき、かつ、キャプテ

ン他乗組員の方々に実際の状況をお伺いしている。

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表4-2 ログブック記録サンプル

記録によれば例えば11月20日の深夜0時頃は針路をほぼ西(265°)に取っている時に北

西の風力8の風が吹いている、つまり本船の右斜め前から風を受けている様子が読み取れる。

これはサンプルであるが、例えばそのような状況・環境で船ではどれくらいの加速度が発生し

ているのかが、前述の加速度のアウトプットとリンクさせれば判る。

それは船の種類や状態によって変化するはずであるので、これから将来にわたって計測され

るデータの蓄積と整理によって傾向と特徴が判明されると考えている。

加速度の計測結果のアウトプットは前述の3方向の加速度値だけではない。 梱包の設計に

必要な振動のPSD(パワースペクトル密度)も表示可能である。 このPSDがあれば、振動の

特性が見極めやすくなり、梱包設計のための振動の再現が試験機の上で可能になる。

図4-12 PSDサンプル

この他にもグラフだけではなく数値でもアウトプットできる。 CSVファイル等の汎用のデータファイ

ルにも出力することが可能であるので、他のソフトウエアを利用した解析にも応用することが可能で

ある。

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図4-13 アウトプットの一例(数値を含む)

5.今後の計画

平成23年度の本事業は本格的な調査を実施する以前の準備段階である。 衝撃値・加速度の調

査事業は最低でも5年間は継続する予定であるので、平成24年度より調査・計測を継続実施し、デ

ータを蓄積していく。

蓄積されたデータは神戸大学・早稲田大学の各研究機関と共同して解析を実施し、実際に活用で

きる形にして順次公開できるものから公開する計画である。

公開する内容は一般的で使いやすい形が望ましいと考える。 例えば以下のような形での公開を

目標としている。(イメージであり、決定ではない。)

サンプル)

トラック・鉄道・航空機などで発生する衝撃値のジャンルで

陸上輸送中において発生する最大等価落下高さは?

大カートン 中カートン 小カートン

10kg ○○cm ○○cm ○○cm

5kg △△cm △△cm △△cm

上記のようなイメージですが、平成24年度はトラック・鉄道・航空機のジャンルでは引き続き陸上輸

送中での加速度計測を継続し、月間8回程度の実証実験を繰り返す予定である。 8月頃からを目

処に新たなプロファイリングを実施し、設定を変更したうえで実証実験を実施する。

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船舶の揺れにより貨物に発生する加速度のジャンルではRORO船での計測を継続のうえ、大学

との連携により解析手法の確立に注力する予定である。 加えて、RORO船以外の船型における実

験、また中国航路以外における実験も開始したいと考えている。

両ジャンルとも、平成24年度では、何らかの結果を公表できるよう、上記計画を実施する。

6.協力研究機関・企業及びその内容

・神戸大学海事科学研究科

「船舶加速度・衝撃値データの統計処理等の理論化及びその活用策に関する共同型協力研

究」 (船舶の揺れによる加速度に関するテーマ)

・早稲田大学理工学術院総合研究所

「貨物輸送中の衝撃値・加速度データの統計処理等の理論化及びその活用策に関する共同研

究」 (船舶以外の加速度・衝撃値に関するテーマ)

・三菱電機ロジスティクス株式会社パッケージエンジニアリンググループ(関西総合事務所)

パッケージプロファイリングのための落下試験の試験機を使用させていただいた。

・上海スーパーエクスプレス株式会社

船舶の揺れによる加速度の測定にあたり RORO 船を使用させていただいた。

・エア・ブラウン株式会社

測定機器の選択に関するアドバイス及び機器・ソフトウエアの使用方法のインストラクションをい

ただいた。

・パンゲア

測定機器及びソフトウエアの使用方法のインストラクション及び加速度計測に関する全般的なコ

ンサルティングをお願いした。