一般社団法人製剤機械技術学会|jspme · 2017. 6. 4. · created date: 12/13/2016...

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83 製剤機械技術学会誌 教育研修会に参加して 固形製剤教育研修会は「医薬品製剤技術と品質評価」 をテーマに、全 8 回のプログラムで粉体の物性評価か ら工場設計までを幅広く学ぶことができる研修会であ る。また全プログラムへの参加者も多く、交流会や実 習などを通じて参加者間の密な繋がりを作ることがで きる点も特徴の一つと言える。 本稿では、第 4 回、第 5 回の概要を紹介する。 第 4 回 テーマ:造粒工程の基礎知識と重要パラメータ ■日程・プログラム 日   程:2016 年 9 月 1 日(木) 場   所:株式会社パウレック プログラム: ・講義 ①固形製剤の処方設計と造粒 ②造粒のメカニズム、装置および重要品質特性と プロセスパラメータの相関について ③造粒技術の最新動向について ・以下の装置を用いた造粒実習ならびに見学 ①撹拌造粒機 ②流動層造粒乾燥装置 ③転動流動層装置 ④医薬品連続製造設備 ⑤直接顆粒化装置 ■講義内容 造粒の目的や各装置の特徴といった基礎から造粒物 の品質に影響を与えるプロセスパラメータなどの実践 的な部分、さらには最新の造粒技術の紹介まで、幅広 い内容の講義であった。以下、各講義の概要と要点を 紹介する。 ① 固形製剤の処方設計と造粒 講師:武田薬品工業株式会社 石川 達也 先生 [概要] 製剤設計の流れから始まり、各造粒法の特徴、スケー ルアップにおける留意点までを含めた内容であった。 特に各造粒法における装置の構造や操作因子、得られ る造粒物の特性に関しては、先生の経験談も併せ、詳 細な説明がなされた。 [要点] ・適切な造粒法の選定には、造粒を実施する目的を明 確にすることが重要となる。これにより、造粒物の 目標品質が自ずと決定されるため、その目標を満た し得る造粒法および製造条件を決定する。決定にあ たり、各造粒法の特徴や装置に関する知識は必要不 可欠となる。 ・造粒法としては、高速攪拌造粒法、流動層造粒法、 押出造粒法、乾式造粒法などが挙げられる。 ・高速攪拌造粒法の特徴としては、短時間で造粒物が 得られること、高密度な粒子が得られることなどが 挙げられる。 ・流動層造粒法の特徴としては、同一装置で混合から 第15期 固形製剤教育研修会 第 4 回 造粒工程の基礎知識と重要パラメータ 第 5 回 医薬品製造基礎知識と打錠技術 渡邉 成実  旭化成ファーマ株式会社 医薬研究センター CMC 研究部 (369) 第 1 日目 講義風景

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  • 83 製剤機械技術学会誌

    教育研修会に参加して

     固形製剤教育研修会は「医薬品製剤技術と品質評価」

    をテーマに、全 8 回のプログラムで粉体の物性評価か

    ら工場設計までを幅広く学ぶことができる研修会であ

    る。また全プログラムへの参加者も多く、交流会や実

    習などを通じて参加者間の密な繋がりを作ることがで

    きる点も特徴の一つと言える。

     本稿では、第 4 回、第 5 回の概要を紹介する。

    第 4回 テーマ:造粒工程の基礎知識と重要パラメータ

    ■日程・プログラム

    日   程:2016 年 9 月 1 日(木)

    場   所:株式会社パウレック

    プログラム:

     ・講義

      ①固形製剤の処方設計と造粒

      ②造粒のメカニズム、装置および重要品質特性と

       プロセスパラメータの相関について

      ③造粒技術の最新動向について

     ・以下の装置を用いた造粒実習ならびに見学

      ①撹拌造粒機

      ②流動層造粒乾燥装置

      ③転動流動層装置

      ④医薬品連続製造設備

      ⑤直接顆粒化装置

    ■講義内容

     造粒の目的や各装置の特徴といった基礎から造粒物

    の品質に影響を与えるプロセスパラメータなどの実践

    的な部分、さらには最新の造粒技術の紹介まで、幅広

    い内容の講義であった。以下、各講義の概要と要点を

    紹介する。

    ① 固形製剤の処方設計と造粒

      講師:武田薬品工業株式会社 石川 達也 先生

    [概要]

     製剤設計の流れから始まり、各造粒法の特徴、スケー

    ルアップにおける留意点までを含めた内容であった。

    特に各造粒法における装置の構造や操作因子、得られ

    る造粒物の特性に関しては、先生の経験談も併せ、詳

    細な説明がなされた。

    [要点]

    ・適切な造粒法の選定には、造粒を実施する目的を明

    確にすることが重要となる。これにより、造粒物の

    目標品質が自ずと決定されるため、その目標を満た

    し得る造粒法および製造条件を決定する。決定にあ

    たり、各造粒法の特徴や装置に関する知識は必要不

    可欠となる。

    ・造粒法としては、高速攪拌造粒法、流動層造粒法、

    押出造粒法、乾式造粒法などが挙げられる。

    ・高速攪拌造粒法の特徴としては、短時間で造粒物が

    得られること、高密度な粒子が得られることなどが

    挙げられる。

    ・流動層造粒法の特徴としては、同一装置で混合から

    第15期 固形製剤教育研修会 第 4回 造粒工程の基礎知識と重要パラメータ 第 5回 医薬品製造基礎知識と打錠技術渡邉 成実  旭化成ファーマ株式会社 医薬研究センター CMC 研究部

    (369)

    第 1 日目 講義風景

  • 84Vol.25 No.4(2016)(370)

    乾燥まで一貫してできること、一般的に成形性に優

    れた、粒度分布がシャープな造粒物が得られること

    などが挙げられる。

    ・原料が熱や水に不安定である場合には、乾式造粒が

    用いられる。プロセスパラメータが少なく、製造が

    容易である点が特徴と言える。

    ② 造粒のメカニズム、装置および重要品質特性と

      プロセスパラメータの相関について

      講師:株式会社 パウレック 内田 和宏 先生

    [概要]

     撹拌造粒法と流動層造粒法それぞれにおける、重要

    品質特性、プロセスパラメータに関して説明がなされ

    た。また、PAT ツールを用いた湿式造粒工程中の品

    質管理事例について紹介がなされた。

    [要点]

    (1)撹拌造粒法に関して

    ・粒子径に大きな影響を与えるパラメータとしては、

    ブレード回転数、結合剤添加量、造粒時間が挙げら

    れる。いずれもその値を大きくすることにより粒子

    径が増大する方向に働く。

    ・結合剤の添加方法としては、添加剤溶液の一括添加、

    スプレー添加、粉末添加の 3 つが挙げられる。溶液

    の一括添加が最も汎用されている方法であり、原料

    粉末の溶解性が高い場合などにスプレー添加、溶液

    添加が困難な場合などに粉末添加がそれぞれ用いら

    れる。

    (2)流動層造粒法に関して

    ・粒子径に大きな影響を与えるパラメータとしては、

    結合剤添加量、アトマイズ空気量が挙げられる。ア

    トマイズ空気量を多くすると粒子径は小さくなる。

    ・操作風量は、造粒初期には微粉末がスプレーゾーン

    で浮遊する程度とし、造粒の進行と共に段階的に風

    量をアップさせることが重要である。

    ・流動層には、標準流動層の他に転動流動層、ワース

    ター流動層、複合型流動層が存在するが、それぞれ

    の特性を理解し、適切なものを選択する必要がある。

    例として、転動流動層は難流動性粉体でも流動不良

    を起こしにくく、表面形状が滑らかで充填性に優れ

    る造粒物が得られるなどのメリットを有する。

    ③ 造粒技術の最新動向について

      講師:株式会社 パウレック 松井 航 先生

    [概要]

     連続式撹拌混合造粒システム CTS-MiGRA システム

    ならびに連続式顆粒化装置 CTS-SGR に関する説明が

    なされた。

    [要点]

    (1)CTS-MiGRA システムに関して

    ・連続生産化のメリットとしては、スケールアップ不

    要による開発期間とその費用の削減、PAT での品

    質チェックによる製造トラブルの高い防止効果など

    が挙げられる。

    ・CTS-MiGRA システムでは、各工程で連続式または

    バッチ連続式を採用しており、それぞれ工程管理を

    目的とした PAT ツールが設置されている。

    ・特徴としては、打錠性に優れ、粒度分布が非常に

    シャープな造粒物が安定して得られること、粒径コ

    ントロールがしやすいことなどが挙げられる。

    ・ 9 時間以上のロングラン運転においても、問題なく

    連続運転可能であることが確認されている。

    (2)CTS-SGR に関して

    ・溶媒または分散液から直接、顆粒を得ることができる。

    ・球形且つ重質な顆粒が製造可能であり、コアレスで

    第 1 日目 実習風景 第 1 日目 実習風景

  • 85 製剤機械技術学会誌

    第 5回 テーマ:医薬品製造基礎知識と打錠技術

    ■日程・プログラム

    日   程:2016 年 9 月 2 日(金)

    場   所:株式会社菊水製作所

    プログラム:

     ・講義

      ①錠剤機に学ぶ―先人の技術との調和―

      ②錠剤機の取り扱いとメンテナンス及び実習の説明

     ・以下の装置を用いた実習ならびに見学

      ①錠剤機 AQUG 0836

      ②錠剤機 AQUA 0812

      ③錠剤機 CLEC 1512

      ④外部滑沢装置、海外向け錠剤機械など

    ■講義内容

     現在の錠剤機の基となる歴史的な背景および技術史

    から製造パラメータ、さらにその他周辺機器の紹介ま

    でが講義内容に含まれており、打錠について包括的に

    学ぶことができた。以下、各講義の概要と要点を紹介

    する。

    あるため、有効成分の高含有化、顆粒の小型化が可

    能である。

    ・任意の粒子径に達した顆粒のみを分級操作により回

    収するため、粒度分布が非常にシャープである。

    ・原料の一次粒子径が顆粒表面の形状に影響を与える

    ため、マイクロフルイダイザーなどで微細化するこ

    とにより、表面が滑らかな顆粒を得ることができる。

    表面が滑らかな顆粒はコーティングによる溶出挙動

    の制御が容易であるなどのメリットを有する。

    ・上記のような特徴から、小型で服用感が良い OD 錠

    の製造が可能であると期待されている。

    ■実習内容

     「日程・プログラム」に記載した 5 つの造粒装置を

    用い、班別で造粒実習を行った。装置の使用方法だけ

    でなく、造粒がどのように進行していくのか、経時的

    な造粒物の変化(形状や手触りなど)を観察しながら

    学んだ。また、原材料には着色した結合剤や粉末を用

    いるなど、造粒のメカニズムや進行具合が見た目にも

    わかりやすいようご配慮を頂き、より直感的に理解を

    深めることができた。さらに、実習中に装置の担当の

    方に直接質問することができたため、質問に関する周

    辺情報も含めて、多くの実践的な知識を得ることもで

    きた。

     最新の技術や考えに触れることもでき、非常に実り

    多い実習となった。

    (371)

    株式会社パウレックでの集合写真

  • 86Vol.25 No.4(2016)(372)

    ① 錠剤機に学ぶ―先人の技術との調和―

      講師:株式会社菊水製作所 藤田 完次 先生

    [概要]

     錠剤機の技術史の紹介とそこから学ぶ技術者のある

    べき姿について講義がなされた。

    [要点]

    ・1543 年種子島に鉄砲が伝来した時、ネジも日本に

    伝来した。これが錠剤機に用いられるネジの始まり

    であった。

    ・AWC 装置(錠剤機の圧力制御装置)は 1966 年に

    開発され、現在の 6 代目では、1000 分の 4 秒で瞬

    時に圧力値を測定する機能を有する。

    ・多くの実績を残した先人は物事を突き詰めて見て、

    何事も知ろうとする。常識だけで物事を見ない。

    ② 錠剤機の取り扱いとメンテナンス及び実習の説明

      講師:株式会社菊水製作所 菅原 幹雄 先生

    [概要]

     錠剤機の構造や特性、各パラメータの説明および金

    型や錠剤物性測定機、金属検出器といった周辺機器に

    関する紹介がなされた。

    [要点]

    ・錠剤製造の基本は以下の 3 つである。

      - 可能な限り低い圧力で成形すること

      - 機械の清掃と潤滑を正しく行うこと

      - 杵と臼を良好な状態を保つこと

    ・ロータリー式打錠機では、回転盤に複数の臼杵が

    セットされており、これが一周する間に粉末の充填、

    圧縮成型、製品取出という一連の作業が行われる。

    ・粉体の充填を担うフィードシュにはオープンフィー

    ドシュと攪拌フィードシュが存在する。オープン

    フィードシュでは自重により臼内に粉体が充填される

    が、流動性が悪い場合は攪拌フィードシュを用いるこ

    とで充填を促すことができる。現在は攪拌フィード

    シュが主流となっている。

    ■実習内容

     「日程・プログラム」に示した 3 種の錠剤機を用いて、

    班別で実習を行った。回転数や打錠圧を変化させた時

    の錠剤の物性値について比較を行い、錠剤の厚みと打

    錠圧および硬度の関係、回転数の変化による充填深さ

    への影響に関して考察を行った。また、決められた条

    件で錠剤を作製するだけでなく、不良錠の排除機構や

    分量レールの自動調節機構に関してもデモを行って頂

    き、錠剤機の構造や機能に対する理解を深めることが

    できた。有核錠や二層錠の製造、有核錠における内核

    の充填位置の検査や調節機構、さらに外部滑沢装置と

    いった普段目にすることのない装置も見学させて頂

    き、大変印象に残る実習となった。

    ■最後に

     第 4 回、第 5 回を通じて、造粒、打錠に関して幅広

    く学ぶことができた。私のような入門レベルの者で

    あっても、多くの知識を吸収することができたのは、

    第 2 日目 実習風景 第 2 日目 実習風景

    第 2 日目 講義風景

  • 87 製剤機械技術学会誌

    模式図や絵などを多く取り入れた丁寧な講義や、気軽

    に講師の方や他の参加者の方に質問ができる環境のお

    陰であったと感じる。煩雑と思えた装置も一つ一つの

    パーツ毎に説明して頂いたことで、その役割や特徴を

    理解することができた。そして、目標とする造粒物や

    錠剤を得るための適切な製造条件の確立には、装置に

    対する理解が必要不可欠であることを強く認識するこ

    とができた。

     また、実際に多くの装置に触れ、実習できたことは

    自分にとって大きな経験となった。机上で学ぶだけで

    は、どうしてもイメージで留まってしまう部分が多い

    ため、装置を実際に見て、操作することは更なる理解

    に繋がり、非常に貴重な経験となった。この経験を自

    社での研究開発に存分に活かすと共に、本研修会で得

    た基礎知識を基盤に、今後も継続的な技術、知識の習

    得に努めたい。

     最後に、このような機会を与えて頂いた株式会社パ

    ウレックの皆様、株式会社菊水製作所の皆様、ご講義

    頂いた先生方、また本研修会の開催にご尽力頂いた製

    剤機械技術学会の皆様に心より感謝申し上げ、研修会

    の報告とさせて頂く。

    (373)

    株式会社菊水製作所 実習現場での集合写真