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重力理論の問題点に挑む 重力理論の問題点に挑む 2009年にホジャバによって提唱された「超弦理論」によらない「量 子重力」が世界中の研究者の間で話題を呼んでいます。Kavli IPMU 研究者によって証明されたように、この理論が通常スケー ルではダークマターを含んだ一般相対性理論のように振る舞うか らです。もし正しければ、現在さかんに探索がおこなわれている ダークマターがたとえ見つからなかったとしてもなんら問題があ りません。宇宙論的効果についても Kavli IPMU 研究者の詳細な 研究が進んでいます。 「ダークエネルギーを受け入れる代わりに、一般相対性理論を変 更してはどうか?」という疑問を持っても不思議ではありません。 19 世紀に天文学者を悩ませていた「水星の近日点移動」問題で も、水星と太陽の間に新たな惑星の存在が提案されました。し かし、この問題を解決したのは「” ダーク” プラネット」ではな く、ニュートンからアインシュタインへの理論の変更でした。 いろいろな試みがなされていますが、まだ答が出ていません。 「量子重力」の候補として有力なのが「超弦 理論」です。この理論の最も驚くべき予言 は「私達は 4 次元を超える世界に住んでい る」ということです。素粒子を構成する超 弦 (「ひも」) は 10 次元時空にしか住めな いのです。しかし私達の知る宇宙は 4 次元 時空です。5番目、6番目、その他の次元(追 加次元と呼ばれています ) はどこにあるの でしょう ? 答えは「どこにでも存在する」 です。それではどうして見えないのでしょ う ?「あまりにも小さく丸まっているため」 がひとつの可能性です。 一般相対性理論によるとエネルギーがある と周りの時空をゆがめ ( ワープさせ )、その 大きさはエネルギーが大きいほど大きくな ります。追加次元も丸まっているだけでな く、この原理に従って極端にワープしてい るのかも知れません。 アインシュタインの一般相対性理論は 3 次元空間と時間をひとつの 4 次元時空に融合させて、重力を時空の「ゆがみ」 として記述します。地上や太陽系の重力現象を非常によく記述します。しかし、素粒子スケールや宇宙スケールの距 離でも成り立っていることを示す実験事実はありません。我々の想像とは全く違った振る舞いをしているかもしれま せん。そのように疑う理由はいくつかあります。 一般相対性理論 一般相対性理論 ダークエネルギー ダークエネルギー 量子重力 量子重力 人間 原子 原子核 素粒子 ・ひも 太陽系 銀河 大宇宙 メートル 10 0 10 -10 10 -20 10 -30 10 10 10 20 10 30 時間を反転させて宇宙の初期に向かって進んで いくとします。宇宙の密度やエネルギーはどん どん大きくなり、量子的ゆらぎがあまりにも大 きくなって、量子論も相対性理論も通用しなく なります。つまり、宇宙の始まりを記述するに は「量子重力」の確立が不可欠です。 宇宙の加速膨張をアインシュタイン理論で説明 しようとすると、宇宙の 70% 以上がダークエ ネルギーで満たされていることになりますが、 その正体は全く不明です。アインシュタイン理 論が宇宙スケールで変更を余議なくされる可能 性もあるのです。 ダークエネルギーか、一般相対性理論の変更か? ワープする隠された次元 量子重力 : 超弦理論とは違った試み I O D I A S I ODIAS 東京大学国際高等研究所 東京大学国際高等研究所 TODAI INSTITUTES FOR ADVANCED STUDY TODAI INSTITUTES FOR ADVANCED STUDY

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Page 1: 重力理論の問題点に挑む - member.ipmu.jpmember.ipmu.jp/kazuo.abe/panel/gravity.pdf · 「量子重力」の候補として有力なのが「超弦 理論」です。この理論の最も驚くべき予言

重力理論の問題点に挑む重力理論の問題点に挑む

2009年にホジャバによって提唱された「超弦理論」によらない「量子重力」が世界中の研究者の間で話題を呼んでいます。Kavli IPMU研究者によって証明されたように、この理論が通常スケールではダークマターを含んだ一般相対性理論のように振る舞うからです。もし正しければ、現在さかんに探索がおこなわれているダークマターがたとえ見つからなかったとしてもなんら問題がありません。宇宙論的効果についてもKavli IPMU研究者の詳細な研究が進んでいます。

「ダークエネルギーを受け入れる代わりに、一般相対性理論を変更してはどうか ?」という疑問を持っても不思議ではありません。19世紀に天文学者を悩ませていた「水星の近日点移動」問題でも、水星と太陽の間に新たな惑星の存在が提案されました。しかし、この問題を解決したのは「”ダーク” プラネット」ではなく、ニュートンからアインシュタインへの理論の変更でした。いろいろな試みがなされていますが、まだ答が出ていません。

「量子重力」の候補として有力なのが「超弦理論」です。この理論の最も驚くべき予言は「私達は4次元を超える世界に住んでいる」ということです。素粒子を構成する超弦 (「ひも」)は 10次元時空にしか住めないのです。しかし私達の知る宇宙は4次元時空です。5番目、6番目、その他の次元 (追加次元と呼ばれています )はどこにあるのでしょう ?答えは「どこにでも存在する」です。それではどうして見えないのでしょう ?「あまりにも小さく丸まっているため」がひとつの可能性です。

一般相対性理論によるとエネルギーがあると周りの時空をゆがめ (ワープさせ )、その大きさはエネルギーが大きいほど大きくなります。追加次元も丸まっているだけでなく、この原理に従って極端にワープしているのかも知れません。

アインシュタインの一般相対性理論は3次元空間と時間をひとつの4次元時空に融合させて、重力を時空の「ゆがみ」として記述します。地上や太陽系の重力現象を非常によく記述します。しかし、素粒子スケールや宇宙スケールの距離でも成り立っていることを示す実験事実はありません。我々の想像とは全く違った振る舞いをしているかもしれません。そのように疑う理由はいくつかあります。

一般相対性理論一般相対性理論 ダークエネルギーダークエネルギー量子重力量子重力

人間原子原子核素粒子・ひも 太陽系 銀河 大宇宙

メートル10010-1010-2010-30 1010 1020 1030

時間を反転させて宇宙の初期に向かって進んでいくとします。宇宙の密度やエネルギーはどんどん大きくなり、量子的ゆらぎがあまりにも大きくなって、量子論も相対性理論も通用しなくなります。つまり、宇宙の始まりを記述するには「量子重力」の確立が不可欠です。

宇宙の加速膨張をアインシュタイン理論で説明しようとすると、宇宙の70%以上がダークエネルギーで満たされていることになりますが、その正体は全く不明です。アインシュタイン理論が宇宙スケールで変更を余議なくされる可能性もあるのです。

ダークエネルギーか、一般相対性理論の変更か ? ワープする隠された次元

量子重力 : 超弦理論とは違った試み

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