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36 大腸癌肝転移の診断 CT画像 造影CTの平衡相(b)にて, 肝右葉S7に径14mmの低吸収域が認められる(  ) . 7カ月前のCTにはみられなかった所見であり, 肝転移と診断 した. なお, 後日施行したEOB ・プリモビスト造影MRIで検出された他の病変に相当する部分(a, c )は, 見直してみると不明瞭な淡い低 吸収域が描出されていたが, MRI所見を参照せずにこの所見を指摘することはきわめて困難である. ダイナミックMRIの動脈相(d)において, S7の腫瘍は辺縁に輪状の増強効果を示している(  ) . CTで指摘された病変(f )は, 肝細胞造影相では明瞭な低信号域となっている. さらに, S7の別の部位(e, g )に, 1015mm明瞭な低信号域が2箇所認められ, 多発肝転移であることが判明した. 【症例背景とMRI検査の目的】 60歳代 男性. 大腸癌の肝転移. 直腸癌(深達度SS, Stage b)に対する低位前方切除後で, ホリナート・テガフール・ウラシルによる術後化学療 法を施行していた. 経過観察中, 初回手術から9カ月後に施行したCT検査にて, 肝右葉S7に転移の出現を認めたため, 手術適応の評価の目的で EOB ・プリモビスト造影を含めた肝のMRI検査を施行した. 造影CT平衡相 EOB ・プリモビスト造影MRI (動脈相) EOB ・プリモビスト造影MRI (肝細胞造影相) 埼玉医科大学国際医療センター 画像診断科 岡田 吉隆 先生 / 消化器外科 小山 勇 先生 EOB ・プリモビスト造影MRI画像 abcdefg

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大腸癌肝転移の診断

CT画像

造影CTの平衡相(b)にて, 肝右葉S7に径14mmの低吸収域が認められる(  ). 7カ月前のCTにはみられなかった所見であり, 肝転移と診断した. なお, 後日施行したEOB・プリモビスト造影MRIで検出された他の病変に相当する部分(a, c   )は, 見直してみると不明瞭な淡い低吸収域が描出されていたが, MRI所見を参照せずにこの所見を指摘することはきわめて困難である.

ダイナミックMRIの動脈相(d)において, 肝S7の腫瘍は辺縁に輪状の増強効果を示している(  ). CTで指摘された病変(f   )は, 肝細胞造影相では明瞭な低信号域となっている. さらに, 肝S7の別の部位(e, g   )に, 径10~15mmの明瞭な低信号域が2箇所認められ, 多発肝転移であることが判明した.

【症例背景とMRI検査の目的】60歳代 男性. 大腸癌の肝転移. 直腸癌(深達度SS, StageⅢb)に対する低位前方切除後で, ホリナート・テガフール・ウラシルによる術後化学療法を施行していた. 経過観察中, 初回手術から9カ月後に施行したCT検査にて, 肝右葉S7に転移の出現を認めたため, 手術適応の評価の目的でEOB・プリモビスト造影を含めた肝のMRI検査を施行した.

造影CT平衡相

EOB・プリモビスト造影MRI(動脈相)

EOB・プリモビスト造影MRI(肝細胞造影相)

埼玉医科大学国際医療センター画像診断科 岡田 吉隆 先生 / 消化器外科 小山 勇 先生

EOB・プリモビスト造影MRI画像

a) b) c)

d)

e) f) g)

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37

原発性肝癌

原発性肝癌

転移性肝癌

良性病変

補 

MRI画像

CTでも検出された最大の病変は, 辺縁部が淡い高信号, 中心部(壊死部分)が強い高信号となる同心円状の構造を示している(h   ). 他の1個の病変はごく淡い高信号域として描出されている(i   ). もう1個の病変はほとんど等信号で検出不能であった. これらの所見から, いずれも囊胞や血管腫は否定的と考えられる.

肝S7の3箇所の病変(j , k      )は, いずれも著明な高信号を示している.

T2強調画像

拡散強調画像(b=1,000sec/mm2)

 近年, 大腸癌の治療においては, 化学療法にも大きな進歩がみられているが, 転移を含めた病変を外科的に完全に切除することが完治への最善の手段であることに変わりはなく, 術前画像診断の役割はきわめて大きい. EOB・プリモビスト造影MRIは, CTで指摘困難な肝の小病変を鮮明に描出し, 精度の高い術前診断のために非常に有効である. また, 肝細胞造影相の画像では肝内の脈管構造(門脈・肝静脈)も鮮明に描出されるので, それらと病変との位置関係の把握も容易である.  ただし, EOB・プリモビスト造影MRIの肝細胞造影相における低信号域は非特異的な所見であり, 検出された結節が本当に転移なのか, あるいは偶然合併した良性病変(囊胞・血管腫など)なのかについては, 他の撮像法と総合して診断することが大切である. 囊胞・血管腫は頻度が高いので問題となることは多いが, いずれもT2強調画像で非常に強い高信号を示すこと

が重要な鑑別点となる. また, 呈示症例でもみられるように, 小さな肝転移の確認には拡散強調画像も有用なことが多く, 我々も積極的に利用している. 肝転移は小さなものでも明瞭な高信号を示すが, 囊胞はb=1,000sec/mm2では信号が消失し, 容易に鑑別できる. 血管腫は時に紛らわしい所見を示すこともあり, ダイナミックMRIの造影パターンを注意深く読影する. EOB・プリモビスト造影MRIでは周囲肝の信号が経時的に上昇するため, 門脈相~平衡相での病変部の造影効果の有無については慎重に判断する必要がある.  EOB・プリモビスト造影MRIと拡散強調画像の組み合わせにより, 小さな肝転移の診断精度は数年前に比べて大きく向上し, 読影も容易になったと感じている.

まとめ

治療経過

 CTをはじめとする各種検査で肝以外に転移病変がないことを確認し, 手術が行われた. 術中エコーにて病変の局在を確認し, 3箇所の病変を含む形で切離ラインを決定し, 肝S7部分切除術を施行した. 切除標本の病理所見にて, いずれも直腸癌の転移と診断された.

h) i)

j) k)

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転移性肝腫瘍の診断

スライス断面①

造影CT(a)において, 肝S6に境界不明瞭な低吸収域があり, 経過から転移性肝腫瘍が疑われる(  ).

T2強調画像(b), 造影前T1強調画像(c)において, 肝S6に病巣(  )が描出されているが不明瞭である.一方, EOB・プリモビスト造影MRIの肝細胞造影相(d)においては, 肝S6の病巣(  )が明瞭に描出され, 確実に病巣の存在が指摘できる.

【症例背景とMRI検査の目的】直腸癌(adenocarcinoma)に対する切除術が施行され, 経過観察中に行われたX線CTで肝S6に低吸収域を指摘され, 転移性肝腫瘍が疑われた. 根治的肝腫瘍切除術の術前検査として, より正確な病巣の存在診断を行うため, 約2週間後にEOB・プリモビストを用いたMRI検査を施行した.

MDCT

MRI EOB・プリモビスト造影MRI

新潟市民病院放射線診断科 樋口 健史 先生, 高橋 直也 先生, 塩谷 基 先生 / 放射線治療科 前田 春男 先生 / 放射線技術科 高田 芳博 先生 / 外科 山崎 俊幸 先生

a)造影後

b)T2強調画像 d)肝細胞造影相c)造影前T1強調画像

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原発性肝癌

原発性肝癌

転移性肝癌

良性病変

補 

参考

再読影によるCT所見EOB・プリモビスト造影MRIの画像をもとに, 再読影を行った.造影CT(d)において, 肝S5に淡い低吸収域があるようにもみえるが, 非常に不明瞭である(  ).

MRI検査施行後の経過MRI検査から約1カ月後に手術を施行し, EOB・プリモビスト造影MRIによる術前診断の通り肝S5と肝S6に2個の転移を認めた. 術中超音波検査も施行したが, 指摘された以外の病巣は認められなかった. 術式変更は必要なく, 予定通り肝部分切除術が施行された.病理診断:Metastatic rectal adenocarcinoma, 肝S5 18mm, 肝S6 30mm, 切除断端陰性

スライス断面②(スライス断面①よりも頭側の断面)

 本症例は, 大腸癌術後の経過観察のためのX線CT検査で肝S6に低吸収域が指摘された症例で, 肝腫瘍切除術施行の方針となった. 術前のEOB・プリモビストを用いたMRI検査で, CTでは指摘できなかった病巣が新たに1個検出され, 治療方針決定に非常に有用であった. 当院では大腸癌術後の画像による経過観察は主としてCTで行われている. 根治を目的とした肝腫瘍切除術を行う場合は, 提示した症例のようにより正確な病巣の存在診断のためにCT検査に加えて, EOB・プリモビスト造影MRI検査を積極的に施行していく方針である.

 周知のように, 大腸癌の肝転移は多発する場合が多く, 術前診断できなかった病巣が術中に発見されることもしばしば経験する. そのために術式は変更され, 患者さまには手術後に説明することになるので, 術中の治療方針変更は外科医にとっては大きなストレスとなる. EOB・プリモビスト造影MRIは, 術前状態の正確な把握に貢献し, 我々外科医にとっては非常に有用であった. 当院での大腸癌術後のフォローアップは, 定期的な超音波やX線CTで肝転移が疑われた場合, SPIO造影MRIを追加して治療方針を決定してきた. 今後は, 肝転移が疑われる症例や肝切除後の経過観察に対してもSPIO造影MRIに代わる標準的な検査としてEOB・プリモビスト造影MRIを利用していく方針である.

放射線科医からみたEOB・プリモビストの診断・治療へのインパクト

外科医からみたEOB・プリモビストの診断・治療へのインパクト

T2強調画像(a), 造影前T1強調画像(b)において, 肝S5に病巣(  )が描出されているが不明瞭である.一方, EOB・プリモビスト造影MRIの肝細胞造影相(c)においては, 肝S5の病巣(  )が明瞭に描出され, 確実に病巣の存在が指摘できる. これは, 約2週間前に行われた造影CTでは検出されなかった病巣である.

MRI EOB・プリモビスト造影MRIa)T2強調画像 c)肝細胞造影相

MDCTd)造影後

b)造影前T1強調画像

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胃癌肝転移の診断

血管造影

MRI

獨協医科大学放射線医学講座 塩山 靖和 先生, 楫 靖 先生 / 第二外科 窪田 敬一 先生

【症例背景とMRI検査の目的】50歳代 男性. 他院にて肝機能障害でフォロー中, USで肝腫瘤が指摘され, 手術目的にて当院外科紹介となった. 他院で経静脈性dynamic CTが撮影され, 動脈相における濃染はあまり強くなかったが, タイミングが合わなかったことと造影剤投与量の不足のためと思われた. 当院では, 術前検査として, 血管造影下CTが行われた.

EOB・プリモビスト造影MRI

肝動脈造影(a)では, 肝S8に比較的濃い腫瘍濃染(  )がみられた. CTAP(b)では門脈血流が欠損し, CTHAの第1相(c)ではほぼ全体が強く濃染し, 第2相(d)ではcorona状のwashoutを呈したので, 典型的な肝細胞癌と考えられた. 同様のパターンを呈する腫瘤が肝左葉外側区域の辺縁にも認められた.

CTで認められた腫瘤(  )は, EOB・プリモビスト造影MRIの動脈相(e)での濃染, 門脈相(f)~平衡相(g)でのwashout, 肝細胞造影相(h)でも典型的な肝細胞癌のパターンを呈した. また, 拡散強調画像(i)では, リング状の強い異常高信号を呈していた.

血管造影, 血管造影下CT

血管造影下CT

スライス断面①

a)肝動脈造影 b)CTAP c)CTHA第1相 d)CTHA第2相

e)動脈相 f)門脈相 g)平衡相 h)肝細胞造影相

i)拡散強調画像

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原発性肝癌

原発性肝癌

転移性肝癌

良性病変

補 

 本症例は当院では, 血管造影下CTの依頼から入る特殊な症例であった. 血管造影下CTの時点では, 肝硬変の所見に乏しかったが, ほぼ典型的な動脈造影像とdynamic CTパターン, 特にcorona状濃染を呈し, 肝細胞癌を疑った. しかし, 拡散強調画像を契機に胃癌が疑われ, EOB・プリモビスト造影MRIの平衡相で第3の結節が見つかったことで術前に肝転移の診断

にたどり着くことができた. EOB・プリモビスト造影MRIでは, まず, 肝細胞造影相の観察から始めるとする総説があるが, 背景肝が正常に近い場合には, 拡散強調画像の観察を第一とすることを推奨したい. また, 小さな腫瘤性病変の検出には血管が肝実質と同程度に濃染するEOB・プリモビスト造影MRIの平衡相が最もわかりやすいと思われた.

まとめ

EOB・プリモビスト造影MRI

肝左葉外側区域の腫瘍(  )も肝辺縁で見づらいが, 拡散強調画像(m)では明瞭な異常高信号, EOB・プリモビスト造影MRIの動脈相(j)や平衡相(k), 肝細胞造影相(l)でも典型像であった.

スライス断面②

肝右葉後区域に, EOB・プリモビスト造影MRIの平衡相(n)で低信号, 拡散強調画像(o)で高信号を呈する結節(  )が認められた. これはCTHA第1相(画像未提示)では血管との区別がつきにくいが, 第2相(p)で濃染結節としてみられた. 振り返ってみると, CTAP(b)でも点状の低吸収域として指摘可能であった.

スライス断面③

MRI

EOB・プリモビスト造影MRI MRI 血管造影下CT

拡散強調画像(q)では, 胃の前庭部に異常高信号がみられた(  ). 造影CTの平衡相(r)では, 偏心性の壁肥厚として認められた(  ). 内視鏡で2型の進行癌が確認された.

スライス断面④

MRI 造影CT

j)動脈相 k)平衡相 l)肝細胞造影相

n)平衡相 o)拡散強調画像 p)CTHA第2相

q)拡散強調画像 r)平衡相

m)拡散強調画像

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肝転移巣と囊胞の鑑別診断

【症例背景とMRI検査の目的】70歳代 女性. 食欲不振で他院を受診し, 進行胃癌と診断され, 当院へ紹介された. 術前検査の腹部CTで肝臓に低吸収域が複数認められ, 転移が疑われる所見を伴うものもみられた. CTで肝転移が否定できなかったため, 6日後, MRI検査を実施した.

東京都立駒込病院放射線科 鎌田 憲子 先生, 高木 康伸 先生, 松尾 周也 先生(現 小張総合病院 放射線科), 鈴木 瑞佳 先生, 雫石 崇 先生(現 日本大学医学部 放射線医学系)

平衡相で, 肝臓に小さな低吸収域が多発していた.多くは囊胞と考えられたが, 肝S8に辺縁の不明瞭な, ややCT値の高いものがあり, 転移との鑑別が困難であった.

MDCT

EOB・プリモビスト造影MRI

造影前のT1強調画像(b)では, CT画像よりも大きな低信号の病変が肝S8に認められた.また, T2強調画像(c)では高信号となっており, 辺縁がやや不明瞭であった.

■ 使用上の注意4. 高齢者への投与 一般に高齢者では生理機能が低下しているので , 患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること .

MRI

 消化器癌患者の手術適応の判断の一つに肝転移の有無がある. CTは肝転移を評価するためにもっともよく行われている検査であるが, 小さな病変の場合には見落とされることもある. また, 囊胞との鑑別が困難な場合もしばしば経験される. しかし, 全員にダイナミックCTや薄いスライスの検査を行うことは , 被曝や検査の効率を考えると不可能である.

このような現状において, CTでは囊胞と鑑別が難しい小さな病変の存在が疑われる場合や, あるいは少数の転移巣を有し手術の施行を考慮している症例に対し, 正確な転移巣の個数を判断するためにEOB・プリモビストを用いた造影MRIは有用である.

まとめ

肝S8の病変は, EOB・プリモビスト造影MRIの動脈相(d)で辺縁に造影効果がみられ, 門脈相(e)では造影効果が病変の外縁のみとなり, 内部にわずかに造影効果があるようにみえた. 平衡相(f)では周囲よりも低信号となり, 造影効果は不明瞭となった. 肝細胞造影相(g)では, よりはっきりした低信号病変となった.

a)平衡相

b)造影前T1強調画像 c)T2強調画像

d)動脈相 e)門脈相 f)平衡相 g)肝細胞造影相

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原発性肝癌

原発性肝癌

転移性肝癌

良性病変

補 

3T MRIを用いた転移性肝癌の診断

【症例背景とMRI検査の目的】70歳代 男性. 検診の胃カメラにて進行胃癌を指摘され, 当院紹介受診. 転移検索目的の造影CTにて肝S5に肝腫瘤が疑われ, 約1週間後に精査目的にてMRIが行われた.

鳥取大学医学部病態解析医学講座 医用放射線学分野 柿手 卓 先生, 藤井 進也 先生, 太田 靖利 先生, 金崎 佳子 先生, 松末 英司 先生, 神納 敏夫 先生, 小川 敏英 先生

 造影CT(b)で確認できなかった進行胃癌の肝転移巣を, EOB・プリモビスト造影MRI(d, e, f)では明瞭に描出できた. 肝転移はEOB・プリモビスト造影MRIの肝細胞造影相(f)にて通常, 低信号腫瘤として確認される. これは平衡相(e)でも確認されるが, 肝細胞造影相(f)にて周囲肝実質とのコントラストはより明瞭であった. また, ダイナミックMRI(d, e)を施行することにより, 従来の細胞外液性造影剤にて確認していた血流状態を把握でき, 質的診断が可能であった. EOB・プリモビストは投与量が今までのガドリニウム造影剤の半分となる. これによりダイナミック撮像時のコントラストの低下が危惧されるが, 高コントラスト分解能をもった3T LAVAを併用することにより, 従来の細胞外液性造影剤を用いたダイナミック像に対し, 遜色のない画像が得られた.

造影前CT(a)では, 肝S5に淡い低吸収を示す肝腫瘤が疑われたが, 明瞭ではなかった(  ).造影CT(b)では, 肝S5に淡い不明瞭な低吸収域が疑われたが, 明らかな腫瘤としては認識できなかった(  ).

MDCT

EOB・プリモビスト造影MRIMRI

造影前MRI(c)では肝S5に淡い低信号を示す腫瘤が認められた.EOB・プリモビスト造影MRIの動脈相(d)では, 肝S5の腫瘤は辺縁にリング状の淡い造影効果を示し, 中心部には明らかな造影効果は確認できなかった(  ).EOB・プリモビスト造影MRIの平衡相(e)では, 肝S5の腫瘤は低信号を呈している(  ).EOB・プリモビスト造影MRIの肝細胞造影相(f)では, 肝S5の腫瘤は平衡相(e)よりも明瞭な低信号域として認められた(  ).拡散強調画像(g)では, 肝S5の腫瘤は高信号を呈していた(  ).

■ 使用上の注意4. 高齢者への投与 一般に高齢者では生理機能が低下しているので , 患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること .

MRI

a)造影前 b)造影後

d)動脈相 e)平衡相 f)肝細胞造影相(投与後20分)

g)拡散強調画像

c)造影前T1強調画像

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消化管間質腫瘍(GIST)の肝転移

CT画像

肝切除部近傍のstaple横に低吸収を示す腫瘤性病変が認められる(b  ). その頭側にも低吸収を示す腫瘤性病変が認められる(a  ).これらとは離れた肝左葉外側区S3腹側端に, 門脈相で淡い低吸収病変が認められる(c  ). この肝S3の病変は, MRI検査後の再読影により同定できたが, かなり視認困難であり, 他の相(造影前・動脈相・平衡相)では同定不能であった.

【症例背景とMRI検査の目的】60歳代 女性. 小腸にGISTが発見された際に行われたスクリーニング超音波検査にて肝臓に約10cmの腫瘤を指摘された. 入院精査にて肝S4から前区域にかけて約11cm, 肝S7に2cmの肝腫瘍が指摘され, 大きいものにはFDG-PET検査においてStandardized uptake valueの最高値(SUVmax)15程度の集積を認めた. これらに対して拡大肝右葉切除が施行され, GISTの転移と診断された. その後, 経過観察中のCT検査において切除部近傍に2個の腫瘤が指摘されたが, 約3カ月後に施行したFDG-PET検査ではFDGの集積が明瞭ではなかったため, 経過観察が継続された. しかしながら, 更に3カ月が経過した後に施行したCTで腫瘤径の増大が認められたため, 約5週間後, 切除部近傍の腫瘤が転移性病変であるかの確認と, その他の転移性病変の存在確認をするためにEOB・プリモビストを用いたMRI検査が施行された.

MDCT

東北大学病院放射線診断科 山田 隆之 先生(現 仙台市立病院 放射線科), 津田 雅視 先生, 奥本 忠之 先生(現 大崎市民病院 放射線科), 高橋 昭喜 先生肝胆膵外科 林 洋毅 先生, 小野川 徹 先生, 森川 孝則 先生, 海野 倫明 先生

GISTの肝転移に対する拡大肝右葉切除術施行

切除部近傍に2個の腫瘤性病変が疑われるCT検査施行約3カ月

FDG-PET検査施行 FDG集積は明瞭ではなく確定診断に至らなかった約3カ月

切除部近傍に前回よりも径が増大した腫瘤性病変が描出された(提示画像)

約5週間

MRI検査施行 切除部近傍に2個, 肝S3に1個の腫瘤性病変を描出し, 肝転移が示唆された(提示画像)

GISTの肝転移に対する再肝切除術施行

CT検査施行

a)門脈相 b)門脈相 c)門脈相

 本症例では, CTにおいて肝臓の切除部近傍の比較的大きな病変とその隣接する病変を指摘することができた. しかし, 肝左葉外側区S3の小さな病変は極めて発見困難であり, CTのみでは病変に気がつかず, 肝S4部分切除のみで終わっていた可能性がある. EOB・プリモビスト造影MRIは, 肝S3の病変も指摘することができ, 3つの病変を同時に切除することができた. EOB・プリモビスト造影MRIは転移性病変を切除する際に用いる手術法の選択に有用と考えられる. また, EOB・プリモビスト造影MRIの肝特異性の造影効果が得られる肝細胞造影相では, グラディエントエコー系の3Dによる撮像が可能であり, thin sliceによる優れた存在診断を行うことができる. ただし, 肝細胞造影相のみでは, 転移性病変の他に, 囊胞などの良性病変, 病変のサイズによっては血管腫も造影欠損を示すため, 質的診断は困難である. しかし, ダイナミック撮像による造影効果(血流情報)を観察することによって, これらの病変を鑑別することが可能となる. SPIO造影剤では困難であったダイナミック撮像による病変の血流情報の確認ができること, 脂肪抑制3D T1強調画像が得られることによりSPIO造影MRIのT2強調画像と比較して細かい観察がより容易であることは, EOB・プリモビストの利点であると考える.

 本症例は, 小腸原発の消化管間質腫瘍(GIST)症例で, 2007年4月に小腸切除, 2007年6月に拡大肝右葉切除を施行, 補助化学療法は行わずに外来で経過観察をしていた. 2008年6月のCTで残肝に再発と思われる低吸収域(LDA;low density area)を2箇所確認し, 手術を予定した. しかし, その後EOB・プリモビスト造影MRIを施行したところ, 実際には3箇所に病変があることが分かった. 特に, 肝細胞造影相での腫瘍の描出能は優れており, CTや従来のMRIでは描出されにくい病変が, はっきりと描出されていた. RetrospectiveにCTを見直せば, かろうじて3つの病変を指摘できたが, EOB・プリモビスト造影MRIを施行しなければ, 腫瘍に気付かずに, 不完全な手術で終わっていた可能性がある. また, 本症例以外にも, CTで単発と思われていた肝腫瘍が, 実は多発であることが判明した症例が存在する. 肝内に腫瘍性病変のある症例において, 我々外科医が腫瘍の遺残のない手術を目指すためには, EOB・プリモビスト造影MRIが必須の検査と考えられる.

EOB・プリモビストの診断へのインパクト EOB・プリモビストの治療へのインパクト

【症例に施行された肝画像診断と治療の概要】

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MRI画像

肝切除部近傍に大小2個の腫瘤性病変が認められる(  ). それと離れた肝S3腹側端にも小さな腫瘤性病変が1個認められる(  ). いずれもT2強調画像(d, e, f)では均一な高信号, T1強調画像(g, h, i)では低信号を示している.

MRI

MRI

動脈相(j, k, l)において, 肝切除部近傍の2個の腫瘤に認められた造影効果は弱く(  ), 肝S3の1個の腫瘤性病変はリング状に造影されている(  ).肝細胞造影相(m, n, o)では, いずれも明瞭な造影欠損を示している(  ,   ). これら3個の腫瘤性病変は, 乏血性腫瘍と判断され, 転移性病変が疑われた.

d)T2強調画像 f)T2強調画像

g)造影前T1強調画像 h)造影前T1強調画像 i)造影前T1強調画像

e)T2強調画像

EOB・プリモビスト造影MRI

EOB・プリモビスト造影MRI

j)動脈相 l)動脈相

m)肝細胞造影相 n)肝細胞造影相 o)肝細胞造影相

k)動脈相

原発性肝癌

原発性肝癌

転移性肝癌

良性病変

補