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2018/11/19-20
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疾患のある繁殖牝馬の飼養管理
JRA日高育成牧場
業務課 診療防疫係長
遠藤 祥郎
強い馬づくり講習会(2018/11/19-20) 本日の内容
© 2003 SANRIO CO., LTD.
JRA日高育成牧場での基本的な繁殖牝馬の飼養管理
各疾患を有する繁殖牝馬の飼養管理1)妊娠中の骨折2)蹄のトラブル(特に裂蹄)3)皮膚病(特に繋皹)4)クッシング病(PPID)5)胎盤炎(米国)
★繁殖牝馬の飼養管理のポイント
①ストレスの軽減・コストの削減(人手・飼料・敷料)⇒24時間放牧・昼夜放牧
②年明け早々に種付開始⇒ライトコントロール
③受胎率の向上・早期胚死滅率の低下⇒種付時期の飼料増量・BCS上昇
④新生子馬の順調な発育⇒分娩3ヶ月前からの飼料増量
⑤(高齢馬の)代謝の低下・肥満⇒あえて草の状態の良くない放牧地を使う
JRA日高育成牧場での繁殖牝馬の飼養管理
①24時間放牧空胎馬、離乳後の母馬放牧地で飼付
②昼夜放牧(18~22時間)離乳前の母馬(5月以降)馬房で飼付
③昼放牧(7時間)種付を行う空胎馬、妊娠馬冬至からライトコントロール
濃厚飼料①スタム301kg与えれば必要なビタミン・ミネラルを満たす
②燕麦カロリーを補給
飼料(エサ)
粗飼料①放牧地の青草4月~11月
②自家製乾草(イネ科)繊維分の補給
③輸入ルーサン乾草特に授乳期
濃厚飼料の給餌量(空胎馬)
0
1
2
3
4
5
6
7
9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
燕麦
スタム30
太る時期は濃厚飼料なし(放牧地の青草のみ)
(kg)昼放牧&ライトコントロール開始
BCSを上げながら種付
受胎したら24時間放牧&スタム30
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濃厚飼料の給餌量(妊娠馬)
0
1
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3
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5
6
7
9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
燕麦
スタム30
(kg)
分娩3ヶ月前にスタム30を増量
分娩&泌乳開始と共に燕麦増量
(足りなければルーサン)
昼夜放牧開始と共に燕麦減量
離乳
2厩舎(20馬房)
ウォーキングマシン肥満した馬に使用
E A1 B1
B2A2
A3 B3
A4
D1
D2
あて馬用(悪)(0.5-0.9ha)肥満した馬に使用
繁殖用(悪)(1.7-2.9ha)雪で覆われる冬場orBCSを下げたい時に使用
繁殖用(良)(2.0-2.1ha)BCSを上げたい時に使用
1歳馬用(優)(4.1-4.3ha)
子なし繁殖・イヤリングエリア(良い放牧地と悪い放牧地がある)
分娩エリア(全て良い放牧地)
1-4週齢の子馬用(良)(2.0ha)
5週齢以降の子馬用(優)(3.7ha)
5週齢以降の子馬用(優)(4.6ha)
あて馬用(悪)(1.0ha)
ウォーキングマシン(分娩前の妊娠馬に使用)
分娩厩舎(10馬房)
小パドック0-1週齢の子馬用
C5
C1
C2
F
研究棟
事務所母子8組で2面(3.7+4.6=8.3ha)使用⇒実質1組1ha以上
週1回の体重測定&採血(&予防注射)
飼料給餌量の目安にする 黄体ホルモン(プロジェステロン=P4)を測定
⚫ 発情期・発情休止期(=黄体期)の判別
⚫ 妊娠中の異常
◆ インフル(5・11月)◆ 日脳(5・6月)◆ 破傷風(11月)◆ 鼻肺炎(11・12月)◆ ロタ(1・2月)
月1回のBCS付け&削蹄
3~4人でBCSを付けて平均化
飼料給餌量の増減
問題のある馬のみ装蹄
2~3ヶ月に1回の糞便虫卵検査(&駆虫)
ターゲットワーミング法:全頭ではなく、糞便1g中に虫卵250個以上ある個体のみ駆虫する
イベルメクチン+プラジカンテル製剤
ピランテル製剤フェンベンダゾール製剤
2ヶ月間隔2ヶ月間隔
2ヶ月間隔
回虫・円虫・条虫に有効
回虫・円虫に有効円虫・条虫に有効
駆虫剤
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年に1回の歯科処置
妊娠3~7ヶ月に歯科処置を行うのが良い
By Dr. Hyde, 2017
離乳後9~10月に実施(妊娠6~7ヶ月)
電動歯鑢で整歯時々口内炎が見つかる
☆疾患のある繁殖牝馬の管理
①妊娠中の骨折⇒運動制限・疝痛予防・BCSの低下・卵巣静止
②蹄のトラブル(肥満した馬の裂蹄)⇒蹄壁のない馬に蹄鉄を打つ方法
③しつこい繋皹⇒痂皮を剥がす包帯
④PPID⇒実は不受胎の原因になっている?
⑤胎盤炎の治療⇒エンロフロキサシンの治験(米国)
原因第3中手骨々折:骨硬化症第1指節種子骨々折:球節の
過伸展第1指骨々折:球節の捻転臨床症状重度の支跛診断レントゲン治療螺子固定、ギプス、関節鏡
球節の骨折第3中手骨々折
第1指骨々折
第1指節種子骨々折
日高妊娠中妊娠中
美浦宮崎
【症例】両後肢球節を3度5ヶ所骨折した牝馬の1例
1 2 4 53(馬齢) 6(現在)① ② ③
手術 手術BUセールサマーセール
①両第3中足骨々折
②右第1趾節種子骨々折
③両第1趾骨々折←妊娠中
2015年12月26日中山競馬場にて両第3中足骨々折を発症
1度目の骨折(2歳、競走馬)
右後肢 左後肢
2015年12月27日美浦TC競走馬診療所で手術(螺子固定)
1度目の骨折(2歳、競走馬)
右後肢 左後肢
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2016年4月29日 美浦から日高育成牧場に入厩2016年5月13日 放牧中に右後肢跛行
右後外側第1趾節種子骨々折(Mid body)を確認この年は種付せず
2度目の骨折(3歳、あがり馬)
右後肢 右後肢
3度目の骨折(4歳、初子を妊娠中)
右後肢
2017年10月29日 放牧中に右後肢跛行(動画)右第1趾骨々折(前後割れ)を確認
3度目の骨折(4歳、初子を妊娠中)
右後肢左後肢
2017年10月29日NOSAIみなみ家畜高度医療センターで手術(螺子固定)
2017年11月14日左第1趾骨々折を確認
妊娠中の骨折⇒治療のポイント
栄養(=飼料)
運動(=放牧)
疝痛予防
多い
多い少ない
少ない
胎子の成長
骨折の予防
翌年の受胎
栄養(=飼料)と運動(=放牧)
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
ナタネ油
燕麦
スタム30
BCS
(スタム30・燕麦はkg)(ナタネ油は×100cc)
離乳
骨折(馬房)
BCSが4.3まで低下(WMで常歩)
狭い放牧地で昼夜放牧
広い放牧地で昼夜放牧
分娩
種付
分娩(正常)
妊娠日数:343日APGARスコア:11/14出生時馬体重:46kg
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種付3月2日に分娩(BCS4.6)
卵胞は約1ヶ月発育せず(もちろん排卵せず)
開始から9日後に卵胞が35mm程度に発育
デスロレリン注射剤(150μgを1日2回筋肉内、卵胞が35~40mmに発育するまで)を投与
交配前日に別の排卵促進剤(hCG、3000IU)を投与し、4月13日に交配、翌日に排卵(受胎)
デスロレリン注射剤を用いた発情誘起(HBA柴田獣医師ら、2016年生産地シンポジウム)
〇卵胞が35~40mmに発育した牝馬は68/87頭(78.2%)で、平均治療日数は5.3日(3~14日)
×受胎した牝馬は28/66頭(42.4%)
デスロレリン注射剤(輸入薬)
◎卵胞の発育後、交配から2日以内に排卵した牝馬は43/46頭(93.5%)
〇排卵後に33/38頭(86.8%)の牝馬が正常な
発情サイクルを取り戻し、通常の方法での交配に移行できた
原因衝撃により蹄壁が歪み裂ける臨床症状跛行、(出血)診断視診(見た目)治療
削蹄(進行予防措置)、キャスト装蹄
裂蹄 軽度の裂蹄
Quarter crack
削蹄(進行予防措置)
重度の裂蹄
蹄鉄を打ちたいが蹄壁がない!
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骨折治療用のキャスト(ギプス)を利用
予防(太らせ過ぎない)
口篭を装着して放牧
海外の文献Equine Metabolic Syndrome⇒予防策・運動する
・乾草を水で濡らしてから与える(糖分が抜ける)・口篭を装着して放牧する
あえて“過密放牧”し、牧草の採食量を減らす
擦過傷が多発!!
××
原因
トレセンの調査では、主に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)臨床症状
下肢部(特に白斑部)の脱毛・痂皮形成診断視診(見た目)、細菌培養治療抗生物質の軟膏、消毒薬
繋皹
治療(アニマルインテックス)
痂皮を剥がしてから抗生物質入りの軟膏を塗る
水で濡らしたアニマルインテックスを一晩巻く
ホウ酸を含んだ包帯
抗生物質入りの軟膏
• セファロチン添加軟膏
コアキシン2g
オロナイン80g
ラノリン少々
使用前 1週間後 3週間後
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原因下垂体中葉の機能異常→ACTHの過剰分泌臨床症状多毛症、蹄葉炎など15歳以上の高齢馬に好発診断血中ACTHの測定治療ペルゴリド
クッシング病(PPID) HBA不受胎馬検査での(潜在的)PPID
2017年に不受胎馬検査を受けた繁殖牝馬71頭中
区分 ACTH(pg/ml) 頭数
正常 0~40 19
疑陽性 40~100 27
陽性 100~ 25
(気づかれていないだけで)PPIDが原因で不受胎となっている繁殖牝馬が多数いるのでは?
原因
細菌や真菌が子宮頸管から上行感染臨床症状流産診断超音波検査(CTUPの増加)治療
サルファ剤、ペントキシフィリン、プロジェステロン製剤
胎盤炎
膿
炎症部
研究紹介
<背景>胎盤炎の原因の多くはE. coliやP. aeruginosaなどのグラム陰性菌
であり、グラム陰性菌に良く効くエンロフロキサシンを胎盤炎の治療に使いたい
エンロフロキサシンは子馬に高濃度で投与すると、関節軟骨に悪影響があると報告されている⇒胎子への影響はどうか?
ケンタッキー大学での勉強会(未発表データ)【Can enrofloxacin be administrated to late-term pregnant mares?】
Igor Canisso博士(イリノイ大学)
<材料と方法>妊娠280日の牝馬を用いて調査を行った①コントロール②5mg/kgを24時間毎に10日間静脈内投与③10mg/kgを24時間毎に10日間静脈内投与
の3群に分けた
調査①:静脈内投与した場合
✓エンロフロキサシンの母馬の血漿中濃度はCiprofloxacinより高く、胎盤への移行および胎子の血漿中濃度も同様であった
✓5mg/kgと10mg/kgで有意差はなかった
✓胎子の肩甲上腕関節、肘関節、腕節、股関節、膝関節、飛節の関節軟骨と成長板に悪影響は認められなかった
調査②:経口投与した場合
✓ 生まれてきた当歳馬を30日齢で剖検し、静脈内投与での実験と同じ関節の病理組織学的検査、MRI、プレッシャーテストを行った結果、問題は認められなかった
✓ 結論として、エンロフロキサシンを妊娠後期の牝馬に投与しても現在のところ問題ないと言える
✓ 投与量は5mg/kg静脈内投与もしくは7.5mg/kg経口投与が推奨される
<材料と方法>妊娠300日の牝馬を用いて調査を行った①7.5mg/kgを24時間毎に2週間経口投与②15mg/kgを24時間毎に2週間経口投与③コントロール の3群に分けた
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まとめ~各疾患への対処法
①妊娠中の骨折⇒カロリーは下げるがミネラルは下げない、卵巣静止にはデスロレリン療法
②肥満した馬の裂蹄⇒キャストを巻いて蹄鉄を打つ、過放牧で肥満を予防
③しつこい繋皹⇒アニマルインテックスを一晩巻いて痂皮を剥がしてから抗生物質入りの軟膏を塗る
④PPID⇒実は不受胎の原因になっているかもしれない⇒獣医師に相談し、血液検査してみよう
⑤胎盤炎の治療⇒エンロフロキサシン(バイトリル®)が有効かもしれない(少なくとも問題はない)
【イッツクール号(タキオンメーカーの16)牡 父:アルデバラン】9月22日 4回阪神競馬6日目 9Rききょうステークス芝1,400m優勝!
ご清聴ありがとうございました