超短パルスレーザー処理による超親水性亜鉛めっき鋼板の落...

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寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 35 1.はじめに 道路付属施設(道路案内標識や道路情報板等)や橋 梁など、道路インフラからの落雪は、交通車両の破損 や視程障害による事故を誘発する可能性がある 1) 。こ れを防ぐため、主に人力で着氷雪除去作業を行うが、 高所作業が必要になる場合があるなど、作業の手間や コスト負担になる 2) 。このため、道路インフラに適用 可能な落雪防止対策が求められている。 落雪防止対策には、主に部材の構造を変える形状変 更と、部材の性質を変える性状変更等がある 3) 。形状 変更には、傾斜板や山型屋根による着雪対策工等があ り、着雪量や着雪している時間を低減する効果が確認 されている 4,5) 。この方法により通行車両の被災リス クを軽減できると考えられるが、完全に落雪をなくす ことは形状変更だけでは難しい。一方、性状変更の一 つとして、生物模倣を利用した方法が近年注目されて いる 6~8) 数ある生物模倣技術の中で、落雪防止対策の性状変 更においては、たとえば、蓮の葉のように水滴がコロ コロと転がるような撥水表面 9) 、カタツムリの殻に水 膜が形成されるような親水表面 10) が該当する。超撥水 コーティング膜による難着氷雪技術では、株式会社 NTT-ATによる有機フッ素化合物系を利用した実験 11) がある。このようなコーティング剤が道路インフラ にも実際に利用されているが、性状を維持するために は数年に一度程度の塗り替えが必要な場合が多い。ま た、微細な凹凸構造を有する超撥水表面では、水滴と は異なり氷化や着氷除去作業などで、針のように鋭く とがった凸部が削られることで撥水性能が失われるた め、耐久性の面で問題があると言われている 12) 。一方、 氷の融点(0℃)近傍では、液滴が濡れ広がる超親水 性が効果的であるとも言われている。たとえば、海水 飛沫による着氷の場合、超親水性シートの方が超撥水 性シートよりも着氷が剥離しやすく、被害が及ばない 程度の重量で落雪させるという対策もある 13) 。撥水性 材料も親水性材料も、道路インフラに利用するために は耐久性も兼ね備えた技術が必要である。 超短パルスレーザー(パルス幅が10 -12 ~10 -15 秒と非 常に短いパルス幅のレーザー)を金属や合金に照射し 掃引すると、レーザー波長程度の微細周期構造(Laser induced periodic surface structures; LIPSS)が自発 的に形成され 14) 、表面構造や環境によって超撥水性 15) あるいは超親水性 16) が付与されることが知られてい る。しかし、道路インフラに利用される亜鉛めっき鋼 板ではLIPSSが形成されるかどうか解っていない。ま た近年において、酸化亜鉛に微細な凹凸構造を施し紫 外線を照射すると、撥水性から超親水性へと性状が変 化し、また近赤外を照射すると撥水性が戻るというユ ニークな研究結果が報告された 17) 。そこで本研究は、 亜鉛めっき鋼板を対象とし、LIPSSを利用した道路イ ンフラにおける落雪防止について検討する。 ここで、一般的に水滴の接触角90°以上で撥水性、 150°以上で超撥水性、90°以下で親水性として表現さ れる。超親水性については文献で異なるが、本稿では 水滴の接触角30°以下を超親水性と表現する。 2.実験方法 供試体は、100mm×100mmの溶融亜鉛めっき鋼板 (JISG3302)であり、高耐食性亜鉛めっき鋼板(ZAM: 亜鉛(Zn)に6wt.%のアルミニウム(Al)と3wt.% のマグネシウム(Mg)が含まれる)と、亜鉛めっ き鋼板(ZA: Znに2wt.%のAlが含まれる)を用いた。 ZAMとZAの亜鉛めっき最小付着量は3点平均でそれ ぞれ290、275g/m 2 であり、亜鉛合金の密度6.6g/cm 3 とすると、それぞれ44、42µmの厚さでめっきされて いる計算となる。 超短パルスレーザーはSolsticeAce (Spectra-Physics 社製)であり、波長、パルス幅、繰り返し周波数、 パルスエネルギーはそれぞれ800nm、100fs、1kHz、 5mJである。本装置は1µmから照射位置を調整可能な XYZステージを擁しており、パルスレーザー光をミ ラーで加工ステージまで導き、供試体には焦点距離 f=150mmの凸レンズで照射・掃引(以下、レーザー 処理とする)した。照射面積は80mm×80mmである。 技術資料 超短パルスレーザー処理による超親水性亜鉛めっき鋼板の落雪防止効果 櫻井 俊光  染川 智弘  松下 拓樹  高橋 丞二  松澤 勝  井澤 靖和

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  • 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 � 35

    1.はじめに

    道路付属施設(道路案内標識や道路情報板等)や橋梁など、道路インフラからの落雪は、交通車両の破損や視程障害による事故を誘発する可能性がある1)。これを防ぐため、主に人力で着氷雪除去作業を行うが、高所作業が必要になる場合があるなど、作業の手間やコスト負担になる2)。このため、道路インフラに適用可能な落雪防止対策が求められている。

    落雪防止対策には、主に部材の構造を変える形状変更と、部材の性質を変える性状変更等がある3)。形状変更には、傾斜板や山型屋根による着雪対策工等があり、着雪量や着雪している時間を低減する効果が確認されている4,�5)。この方法により通行車両の被災リスクを軽減できると考えられるが、完全に落雪をなくすことは形状変更だけでは難しい。一方、性状変更の一つとして、生物模倣を利用した方法が近年注目されている6~8)。�

    数ある生物模倣技術の中で、落雪防止対策の性状変更においては、たとえば、蓮の葉のように水滴がコロコロと転がるような撥水表面9)、カタツムリの殻に水膜が形成されるような親水表面10)が該当する。超撥水コーティング膜による難着氷雪技術では、株式会社NTT-ATによる有機フッ素化合物系を利用した実験11)がある。このようなコーティング剤が道路インフラにも実際に利用されているが、性状を維持するためには数年に一度程度の塗り替えが必要な場合が多い。また、微細な凹凸構造を有する超撥水表面では、水滴とは異なり氷化や着氷除去作業などで、針のように鋭くとがった凸部が削られることで撥水性能が失われるため、耐久性の面で問題があると言われている12)。一方、氷の融点(0℃)近傍では、液滴が濡れ広がる超親水性が効果的であるとも言われている。たとえば、海水飛沫による着氷の場合、超親水性シートの方が超撥水性シートよりも着氷が剥離しやすく、被害が及ばない程度の重量で落雪させるという対策もある13)。撥水性材料も親水性材料も、道路インフラに利用するためには耐久性も兼ね備えた技術が必要である。

    超短パルスレーザー(パルス幅が10-12~10-15秒と非常に短いパルス幅のレーザー)を金属や合金に照射し掃引すると、レーザー波長程度の微細周期構造(Laser�induced�periodic�surface�structures;�LIPSS)が自発的に形成され14)、表面構造や環境によって超撥水性15)あるいは超親水性16)が付与されることが知られている。しかし、道路インフラに利用される亜鉛めっき鋼板ではLIPSSが形成されるかどうか解っていない。また近年において、酸化亜鉛に微細な凹凸構造を施し紫外線を照射すると、撥水性から超親水性へと性状が変化し、また近赤外を照射すると撥水性が戻るというユニークな研究結果が報告された17)。そこで本研究は、亜鉛めっき鋼板を対象とし、LIPSSを利用した道路インフラにおける落雪防止について検討する。

    ここで、一般的に水滴の接触角90°以上で撥水性、150°以上で超撥水性、90°以下で親水性として表現される。超親水性については文献で異なるが、本稿では水滴の接触角30°以下を超親水性と表現する。

    2.実験方法

    供試体は、100mm×100mmの溶融亜鉛めっき鋼板(JIS�G�3302)であり、高耐食性亜鉛めっき鋼板(ZAM:�亜鉛(Zn)に6wt.%のアルミニウム(Al)と3wt.%のマグネシウム(Mg)が含まれる)と、亜鉛めっき鋼板(ZA:�Znに2wt.%のAlが含まれる)を用いた。ZAMとZAの亜鉛めっき最小付着量は3点平均でそれぞれ290、275g/m2であり、亜鉛合金の密度6.6g/cm3

    とすると、それぞれ44、42µmの厚さでめっきされている計算となる。

    超短パルスレーザーはSolstice�Ace(Spectra-Physics社製)であり、波長、パルス幅、繰り返し周波数、パルスエネルギーはそれぞれ800nm、100fs、1kHz、5mJである。本装置は1µmから照射位置を調整可能なXYZステージを擁しており、パルスレーザー光をミラーで加工ステージまで導き、供試体には焦点距離f�=150mmの凸レンズで照射・掃引(以下、レーザー処理とする)した。照射面積は80mm×80mmである。

    技術資料

    超短パルスレーザー処理による超親水性亜鉛めっき鋼板の落雪防止効果

    櫻井 俊光  染川 智弘  松下 拓樹  高橋 丞二  松澤 勝  井澤 靖和

  • 36 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月

    また、一般的に単位面積あたりに照射されるパルスレーザーは、単位面積あたりのエネルギーとして、レーザーフルエンス(J/cm2)が用いられる。1パルスのレーザー照射後に形成された痕(加工痕)よりレーザーフルエンスを算出した。レーザー処理後に、走査電子顕微鏡(SEM、Keyence�VE-9800)で表面を観察し、走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置

    (SEM-EDS、JEOL�JSM-7200F�&�JED-2300)で供試体表面の元素分析を行った。また、接触角計(協和界面科学社製、DMe-200)で2~10µLの水滴の接触角を計測した。分野によっては塩水や油による評価も実施されているが、ここでは、接触角は水滴の接触角のこととする。

    冬期の曝露試験は、寒地土木研究所石狩吹雪実験場(北海道石狩市)で行われた。地上からの高さ3mに、供試体を勾配60°で方位はほぼ西向きに取り付けた。曝露した時期は2018年2月~3月である。着雪と落雪状況の観察にはタイムラプスカメラ(撮影間隔:1分)を利用した。なお、気温は気象庁アメダス(石狩)を参照した。

    3.結果と考察

    3.1 レーザー処理後のSEM分析と接触角

    図-1に、レーザー処理前と処理後のZAMとZA表面におけるSEM画像を示す。レーザー処理前のZAMとZA表面における接触角は90°以下であるため、親水性であることがわかる(図-1a1,�b1)。

    またZAMとZAは購入したままの状態であるため、スクラッチやホコリなどが存在している。よって、平

    面における亜鉛めっき鋼板の接触角でないことは添えておきたい。

    レーザーフルエンス0.7J/cm2、掃引速度2.0mm/sでレーザー処理を施すと、ZAMおよびZA表面にLIPSSと数十マイクロメートルサイズの凸構造(以下、アイランド構造とする)が確認された(図-1a,�b)。SEM画像を注視すると、LIPSSはアイランド構造表面にも形成されている。

    図-2に、レーザー処理後のSEM画像(二次電子像)と元素マッピング分析(EDS)結果を示す。Znは、LIPSSだけでなくアイランド構造にも広く分布しており、レーザー処理後の表面はほぼZn(あるいは酸化亜鉛ZnO)と考えられる。また、アイランド構造ではZnの濃度が比較的低く(図-2a2とb2で、Znの強度が小さい)、アイランド構造にはAlや他の元素が含まれているものと推察される。

    図-2 �レーザー処理後におけるa)ZAM、b)ZA表面の元素分

    析結果.添え字1:二次電子像、添え字2:Zn(K線)

    の強度分布.左側コンターにZn(K線)の強度(1秒間

    の電子線カウント数)を示す

    レーザー処理を施したZAMとZAの供試体において、アイランド構造が形成された領域とそうでない領域が存在することについて考察する。溶融亜鉛の製造工程において、溶融亜鉛が冷やされ結晶化するときに数十ミクロンのAl初晶が形成される18)。Al初晶は数十ミクロンの大きさであり、その周りにZnとAlの共晶を形成する。形状が良く似ていることから、アイランド構造はAl初晶が基になっているものと思慮される。つまり、超短パルスレーザーを集光し照射すると瞬間的に温度が上昇し、Alよりも融点の低いZnが最初に蒸発(より正しくはアブレーション)する。Al初晶は蒸発せずに残り、結果的に表面が凸のアイランド構

    図-1 �超短パルスレーザーで処理を施したa)ZAMとb)ZA表

    面におけるSEM画像と接触角.添え字1:未処理、添

    え字2:レーザー処理後

  • 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 � 37

    造を形成したものと考えられる。亜鉛めっきのような合金に超短パルスレーザーを照

    射すると、レーザー光の照射条件に依存して、表面が凸、あるいは凹の、2種類の表面構造が形成されることが知られている19)。本研究の供試体のように、凸の表面構造の場合には、摺動速度が低いときには動摩擦係数が未処理の合金に比べて大きくなるとされている。つまり静摩擦の状態に近づくと、凸構造があることによって摩擦力がより働くことになる。本研究で作製したZAM、ZAにおいても雪に対して摩擦力が高くなり、落雪しにくくなると予想される。

    3.2 曝露試験

    図-3に、曝露試験前後におけるZAMの接触角の計測画像を示す。室内実験における接触角の計測から、0.7J/cm2でレーザー処理を施したZAMが撥水性を示した(図-3a)。曝露開始後、数日間は撥水性を維持したが、約20日後には超親水性へと変化した(図-3b)。先行研究では、紫外線照射により酸化亜鉛表面に水酸基が生成され、水と酸化亜鉛表面との親和性が

    高くなり、結果として�超親水性へと性状が変化することが知られている17)。レーザー処理を施したZAM表面の多くは酸化亜鉛(図-2)であると考えられることから、本曝露試験においても太陽光に含まれる紫外線により、レーザー処理を施したZAM表面と水との親和性が高くなり、結果的に撥水性から親水性へと性状が変化したものと考えられる。なお、掲載していないが、ZAにおいても同様に、曝露試験前後で撥水性から超親水性へと性状が変化した。

    図-3 接触角の計測結果

    a)曝露試験前のZAM表面における接触角、

    b)約20日間後の曝露後のZAM表面における接触角

    図-4 曝露試験における着雪の様子.

    a)�氷点下のとき、b)�氷の融点近傍(気温:マイナス)のとき、�c)�氷の融点近傍(気温:プラス)のとき.

    供試体:左からZAM(未処理)、ZA(レーザー処理)、ZAM(レーザー処理)。

  • 38 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月

    図-4に、供試体への着雪が確認されたタイムラプス画像を示す。氷の融点より十分に低い気温において、たとえば2018年2月22日の例(図-4a)では、未処理の供試体から落雪が確認されたが、レーザー処理を施したZAMとZAの両供試体には着雪が持続し、さらにZAM表面では落雪することなく徐々に昇華する状況が確認された。氷の融点近傍において、たとえば2018年3月1日の例(図-4b)では、レーザー未処理の供試体よりもレーザー処理を施した供試体の方が早く雪が消失した。昇華あるいは融解後の蒸発が促進された結果と考えられる。2018年3月2日の例(図-4c)においても、レーザー処理を施した供試体では、着雪後に融解し蒸発が促進されて結果的に雪が消失したように見える。

    レーザー処理を施した亜鉛めっき表面には図-1に示したLIPSSとアイランド構造がある。このため、先行研究19)と同じように捉えれば、LIPSSやアイランド構造による摩擦力が働き着雪が滑り落ちにくくなったと考えられる。

    次に、レーザー処理を施した供試体の着雪がすばやく消失した理由を考察する。氷の融点近傍における雪は、水と氷と空気の複合体である。水の密度が氷の密度よりも高いので、部材と接触する雪の表面は水(水膜)と考えられる。水膜を通した蒸発を取り扱う際には、表面積が関係する。ここでは簡易的に水膜を含む雪が液滴のように濡れるものとして取り扱い、液滴の接触角と表面積の関係を見積もった。

    部材表面に接触した液滴の体積および表面積は、

    3 � (1)

    � (2)

    で表される。図-5に各変数の関係をまとめた。部材に接触した液滴の体積を一定(V=const.)とし、

    部材の接触角θを1~180°まで変数として与え、図-5の関係と(1)式から変数��

    � と

    �� � を求めて(2)式に代入す

    ると、液滴と部材の接触角と液滴の表面積の関係が得られる。ここで、接触角90°のときに表面積が最小となるので、接触角90°の表面積を1として規格化し、液滴の表面積比として表現した(図-6)。接触角180°のときは、液滴の表面積は接触角90°の1.25倍であるが、接触角が1°に近づくほど液滴の表面積比は高くなる。�つまり、同じ体積の液滴が部材に付着したとき、超親水部材の方が十分に広い表面積を得る。

    曝露後、未処理のZAMにおける接触角は平均49°で

    あり、レーザー処理を施したZAMの接触角は平均22°であった(図-3)。49°と22°の表面積比はそれぞれ1.2と1.9である。レーザー処理を施したZAM供試体では、水滴は未処理のZAMに比べておよそ1.6倍の表面積をもつことになる。氷の融点近傍において、雪が融解し蒸発するとき、熱流束(単位面積当たりの熱量:W/cm2)を考えれば表面積が大きいほど、すなわち接触角を可能な限り小さくするほど、より蒸発が早くなることは想像に難しくない。このことは、未処理の供試体に付着した雪よりも、レーザー処理を施したZAMとZAの方がより早く雪が消失した理由を説明しうるものである。

    図-5 液滴の表面積と接触角の関係

    図-6 液滴の表面積比と接触角

    着雪対策として、超撥水性材料が広く使われており、その効果も検証されている。一方で、超親水性材料で雪(液滴)の表面積を大きくすることにより、落雪対策として利用できる可能性があることが示された。ただし本稿は一例であり、着雪を保持可能な質量や着雪時における雪と亜鉛めっき表面の接触面積、着雪と表面の凹凸構造との関係解明など、課題は多い。なお、本稿で実施したレーザー掃引速度は2.0mm/sであり、

  • 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 � 39

    80mm×80mmの面積を施すのに16時間を要しており、効率的に超親水性を付与する手法については現在検討中である。今後も継続して調査を行う。

    4.まとめ

    本稿では、道路構造物等に利用される亜鉛めっき鋼板に超短パルスレーザーで処理すると、その表面にサブミクロンのレーザー誘起表面周期構造(LIPSS)と数ミクロンのアイランド構造が自己形成されることを明らかにした。室内における接触角の測定結果より、未処理の亜鉛めっき鋼板は親水性であったが、レーザー処理後には撥水性を示した。冬期間における屋外の曝露試験では、紫外線の影響により撥水性から超親水性へと変化したが、レーザー処理を施した亜鉛めっき鋼板では、氷の融点近傍で着雪が早く消失する現象や、より低温環境では着雪が落ちにくい傾向が確認された。氷の融点近傍において、水と氷と空気の複合体である雪の融解を通した蒸発を考えると、超親水性材料でも落雪対策において、ある程度の効果はあると思われる。

    なお、本研究は寒地土木研究所雪氷チームとレーザー技術総合研究所による共同研究「レーザー加工による難着氷雪技術に関する研究」で得られた成果の一部である。

    参考文献

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    2)� 坂瀬修、松下拓樹、松澤勝:道路案内標識の冠雪対策による雪処理作業の軽減について、第55回�北海道開発技術研究発表会、ふ8、2012.

    3)� 松下拓樹:道路案内標識の着雪・落雪対策について、寒地土木研究所月報、No.658、pp.45-48、2008.

    4)� 松下拓樹、坂瀬修、松澤勝:道路案内標識の簡易着雪対策工の効果について、寒地土木研究所月報、No.691、pp.34-39、2010.

    5)� 松下拓樹、松澤勝、中村浩:簡易対策工による道路案内標識への着雪時間減少効果について、寒地土木研究所月報、No.724、pp.43–49、2013.

    6)� Sojoudi� H. , � M.�Wang,� N.D.� Boscher,� G.H.�McKinley,�K.K.�Gleason:�Durable�and�Scalable�

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    7)� 下村政嗣:生物の多様性に学ぶ新世代バイオミメティック材料技術の新潮流、科学技術動向�2010年5月号、pp.9–28、2010.

    8)� 櫻井俊光:部材表面の濡れと難着雪技術の研究動向について、寒地土木研究所月報、No.780、pp.37-41、2018.

    9)� Barthlott�W.,� &� C.� Neinhuis:� Purity� of� the�Sacred�Lotus,�or�Escape� from�Contamination� in�Biological�Surfaces,�Planta,�202,�pp.1-8,�1997.

    10)�井須紀文:カタツムリに学ぶ表面防汚技術、溶接学会誌、78、pp.187-190、2009.

    11)� Saito,�H.,�K.�Takai,�G.�Yamauchi:�Water-�and�Ice-Repellent�Coatings.�Surface Coatings International,�80,�pp.168–171,�1997.

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  • 40 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月

    櫻井 俊光 SAKURAI�Toshimitsu

    寒地土木研究所寒地道路研究グループ雪氷チーム研究員博士(環境科学)

    松下 拓樹MATSUSHITA�Hiroki

    寒地土木研究所寒地道路研究グループ雪氷チーム主任研究員博士(工学)気象予報士

    染川 智弘SOMEKAWA�Toshihiro

    レーザー技術総合研究所レーザープロセス研究チーム上席研究員博士(工学)

    高橋 丞二 TAKAHASHI�Joji�

    寒地土木研究所寒地道路研究グループ雪氷チーム上席研究員技術士(建設・総合技術監理)

    井澤 靖和IZAWA�Yasukazu

    レーザー技術総合研究所所長工学博士

    松澤 勝 MATSUZAWA�Masaru�

    寒地土木研究所寒地道路研究グループグループ長博士(工学)技術士(建設)気象予報士

    B2,�2004.19)�藤田雅之、染川智弘、尾崎巧、吉田実、宮永憲

    明、中瀬拓也、小林隆:フェムト秒レーザーを

    用いたAl-Si合金の低摩擦化加工、レーザー研究、42(4)、pp.341-344、2014.