防火服に必要な性能を担保するための 有望な技術の...

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防火服に必要な性能を担保するための 有望な技術の調査 報告書 2009 2 総務省消防庁 消防大学校 消防研究センター

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防火服に必要な性能を担保するための

有望な技術の調査

報告書

2009 年 2 月

総務省消防庁 消防大学校

消防研究センター

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防火服に必要な性能を担保するための有望な技術の調査 報告書目次

1.はじめに ................................................................................................................. 1 2.昨年度調査の概要 2.1 国内外の消防関連ビジョンの収集・整理 ........................................................ 3 2.2 消防服が今後備えるべき仕様の検討 ............................................................... 4 2.3 今後消防服が備えるべき仕様の検討 ............................................................... 8 2.4 ニーズを具体化しうる関連技術の調査 .......................................................... 11 2.5 技術マップの作成 .......................................................................................... 26 3.技術情報の収集 3.1 国内有識者へのインタビュー ........................................................................ 28 (1)文化女子大学 田村照子教授 ............................................................................. 28 (2)信州大学繊維学部 ............................................................................................. 29 (3)九州大学大学院芸術工学研究院(栃原裕教授) ............................................... 32 3.2 文献情報等の収集 .......................................................................................... 35 (1)繊維・テキスタイル .......................................................................................... 35 (2)縫製技術 ............................................................................................................ 37 (3)設計・デザイン技術 .......................................................................................... 40 (4)試験技術 ............................................................................................................ 41 (5)冷却器・冷却技術 ............................................................................................. 42 (6)その他の材料技術 ............................................................................................. 46 4.時系列情報の収集 4.1 既存のロードマップ等の調査 ........................................................................ 47 (1)アカデミックロードマップ-ヒューマンインターフェイス ............................. 47 (2)アカデミックロードマップ-ロボット ............................................................. 50 (3)技術戦略マップ-ファイバー ........................................................................... 54 (4)技術戦略マップ-ナノテクノロジー-ナノファイバー .................................... 57 (5)欧州テキスタイルビジョン ............................................................................... 58 (6)米国軍事研究(軍服関連) ............................................................................... 59 4.2 過去の技術進展の経緯の調査 ........................................................................ 61 (1)防火服 ............................................................................................................... 61 (2)軍用防護服 ........................................................................................................ 62

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5.技術マップのアップデート ................................................................................... 63 6.ロードマップの作成 6.1 ロードマップフレームの検討 ........................................................................ 64 6.2 ロードマップの作成 ...................................................................................... 66 7.提言 ...................................................................................................................... 67 付属資料1 防火服の技術マップ ............................................................................... 69 付属資料2 防火服のロードマップ ........................................................................... 70

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1.はじめに 防火服は、火災現場において消防隊員の生命を保護する最重要ツールであるが、快適性

と安全性など、様々な機能の間にトレードオフの関係があり、適切な防火服を開発するこ

とは容易ではない。平成 19 年度「消防側の防火服などの必要性能のニーズに関する調査」

では、ニーズ系有識者によるヒアリングから、今後、防火服が備えるべき仕様を検討した。

この結果、現行の防火服が備える熱的、機械的防護性を維持または向上させると同時に、

活動性と快適性を改善することが重要課題であることが浮き彫りになった。具体的には、

以下のような要求があった。 ・第一優先ニーズ 材料の機能化、軽量化、耐久性などの性能向上 ・第二優先ニーズ 人体からの熱を効果的に除去し、ヒートストレスを低減する機能 ・第三優先ニーズ 危険を察知し、周囲の人間や隊員本人に警告する機能 このようなニーズにこたえる技術は、欧米では軍事・宇宙開発分野を中心として活発な

研究開発がなされている。国内では民間企業や NEDO プロジェクトで研究開発が進められ

ている技術群の中に、将来防火服にスピンオフが可能なものが存在する。具体的には、次

世代スーパー繊維、中空耐熱性繊維、異方性熱伝導素材、高性能インナー、冷却装置、感

温性塗料、熱応答性アクチュエーターなどの技術が挙げられ、将来的に防火服の運動性、

活動性、安全性が飛躍的に向上される可能性がある。 このような背景をふまえ、研究開発中の技術群より有望技術を抽出し、5 年先、10 年先

の防火服の技術ロードマップを策定することが本業務の目的である。 調査範囲 以下の消防用装備をロードマップの作成対象とする。また、ロードマップの期間は 2020

年ごろまでを想定する。 ・防火服アウター、グローブ、シューズ ・防火服インナー、人体の冷却機構 ・ヘルメット 調査内容 ①シーズ系有識者からのヒアリング

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消防服の開発に関連するメーカーや繊維の専門家、スポーツ衣料の専門家などシーズ系

有識者数名に対するヒアリングを開催する。フェーズ I の調査でニーズ系有識者からのヒア

リングにより作成した技術マップのレビューを行い、意見交換を行う。この結果をふまえ

て最新の技術動向を調査し、技術マップの改訂を行う。同時に有望と思われる技術項目を

抽出する。 ②技術ロードマップの作成 有識者ヒアリングにより選定された有望技術について、収集した情報をもとに 2020 年ご

ろまでを範囲とする技術発展動向をロードマップ化する。 ③シナリオ作成 技術ロードマップに記載された技術について、既存のロードマップや市場動向などに基

づき、関連する研究開発動向を整理し、技術開発具体化のための提言を行う。

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2.昨年度調査の概要 本章では、昨年度調査の概要をまとめる。 2.1 国内外の消防関連ビジョンの収集・整理 米 国

NIST における消防関連研究、NIST Snell による 21 世紀の消防ビジョン、FPRF など

の情報を整理した。

欧 州 EU フレームワークプログラム/欧州技術プラットフォームを概観するとともに、

German Fire Protection Association、ロンドン消防隊の 2006/2007 アクションプラン、

HSE(Homeland Security in Europe)などについて情報を収集した。

国 内 自治体消防 50 周年記念事業における消防ビジョン並びに「2025 年に目指すべき社会の

姿」における消防関連ビジョンについて情報を収集した。 欧米並びにわが国の消防関連ビジョンから見ると、将来の消防を巡る環境は、以下のよ

うに変化すると予想される。 【将来の消防を巡る環境】 予知・予測の進歩や堅牢で破壊し難い建造物の普及、センサー群による早期火災発見、IT技術による要救助者や自らの位置情報の取得、自動車安全・環境監視の普及により、火災

件数そのものは間違いなく低減する。 一方で、家庭内ロボットや分散電源が普及することで、身近に高エネルギー材料が多数

存在する生活となり、また、リサイクル建材・エネルギー源など可燃性材料も地域に集積

される傾向が強まる。これらは、火災時にはリスク要因となる。建造物が堅牢であるのも

火災時にはマイナスに働く場合もある。 【将来の消防服が備えるべき特徴】 火災や事故の絶対数の減少、並びに一端火災が発生した際の消火活動の難易度の上昇の

両方に対応するため、消防装備の2極化が進むと予想される。 具体的には、①少数であるが、難易度の高い火災に対応する高機能化、と②圧倒的大多

数からなる現行消防服の延長装備となると想定される。

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図表2-1 国内外の消防関連ビジョンから見た、将来消防服が備えるべき特徴

2.2 消防服が今後備えるべき仕様の検討 ① 既存の報告書等に基づく仕様 【次世代防火服の開発における消防隊員へのアンケート】 財団法人日本防炎協会では総務省消防庁の「消防防災科学技術研究推進制度」に産学官

で応募し、平成 16 年度から平成 18 年度までの3年間に渡り、「次世代防火服の開発」を行

なった。 このプロジェクトの一環として、全国消防長会を通じて、全国 16 都市の消防本部と 796

人の消防隊員に対してアンケート調査が行われた。 図表2-2に過去1年間のトラブル体験の結果を示す。半数近くの回答者が、暑さで気

分が悪くなったことがあり、また運動性に不便を感じたことがある、との結果であった。

また、「防火服が裂けたり破れたりしたことがあると回答した回答者が 16.3%(130 名)、寒

くて活動に支障をきたしたことがあるとの回答が 13.3%(106 名)、防火服着装で火傷をし

たことがあるとの回答も 2.6%(21名)存在する。

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図表2-2 過去 1 年間のトラブル経験

現用の防火服について 5 段階で評価してもらった結果を図表2-3に示す。 明らかに、「暑い」「蒸れる」(快適性)に対する満足度が低く、次いで「動きにくい」、「防

火服が重い」(運動性)等の感想が続いている。

図表2-3 消防隊員による防火服の 5 段階評価

防火服の評価(図表2-4)では、快適性に関する評価が低かったにもかかわらず、防

護性と運動性がほぼ同様、防護性と快適性では防護性重視、運動性と快適性では運動性重

視、という結果となった。

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図表2-4 防火服で重要と考えるもの

「次世代防火服の開発」報告書では、これらの結果を踏まえ、「消防隊員は、次世代防火服

としては、先ず消防活動に何より必要な①熱防護性と③運動性が確保されていて、その上

で、②熱的な不快さと熱中症等の事故を低減すること(快適性の改良)を望んでいること

が明らかになった。日本の消防官の高い使命感が、自分の暑苦しさよりも、消防活動に必

要な運動性と熱防護性が重要であると回答したものと思われる。」としている。 消防隊員は、次世代防火服としては、先ず消防活動に何より必要な①熱防護性と③運動

性が確保されていて、その上で、②熱的な不快さと熱中症等の事故を低減すること(快適

性の改良)を望んでいることが明らかになった。 【消防服ニーズに関する有識者会合から得られた知見】 消防局の装備担当者などをニーズ系有識者とする会議を開催し、今後防火服が備えるべ

き仕様について検討を行った。 以下の知見を得た。 ○防火服 耐熱性や力学的強度については、現在の性能でほぼ満足している。 アルミ蒸着の耐久性の向上が望まれる。 軽量であることが望ましいが、生地のコシは維持させたい。

ニーズに対応

するために必

要な技術、材

料の調査

今後、消防服が備えるべき

ニーズの明確化

既存報告書等における消

防服ニーズについて

現行の消防服等に関する

課題について

5年後、10年後を見据え開

発するべき事項について

議題1

議題3

議題2

既存報告書等における消

防服ニーズについて

現行の消防服等に関する

課題について

5年後、10年後を見据え開

発するべき事項について

議題1

議題3

議題2

所属・役職

財団法人 日本防炎協会・理事技術部長

札幌市消防局 総務部施設管理課・装備係長

東京消防庁 装備部装備課・個人装備係長

大阪市消防局 総務部 施設・装備担当 消防指令補

福岡市消防局 警防部警防課・警防係長

有識者

所属・役職

財団法人 日本防炎協会・理事技術部長

札幌市消防局 総務部施設管理課・装備係長

東京消防庁 装備部装備課・個人装備係長

大阪市消防局 総務部 施設・装備担当 消防指令補

福岡市消防局 警防部警防課・警防係長

有識者

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防水性、および熱発散性、速乾性、透湿性は重要な課題である。 耐候性が向上することが望ましい。 活動性(ストレッチ性、縫製の工夫)を向上させたい。 洗濯や撥水コーティングなどのメンテナンスは容易である方がよい。 夏場のヒートストレスには、何らかの対処が必要である。 価格は現状と同程度である必要がある。 現状では劣化の程度を検査する方法がない。 地域性(積雪環境における防寒性、防水性、温暖な地域におけるヒートストレス)を考慮す

る必要がある。 リサイクルは、技術的、コスト的、文化的に困難である。

○冷却系 現在は保冷剤を使用している。クールベストの導入には価格面での問題がある。

○手袋 手は熱にさらされやすいことから、耐輻射熱性、熱防護性が重要になる。 耐切創性も重要である。 ごわつきの解消による活動性の向上が望まれる。

○靴 活動性、安全性(切創、落下物、床面のくぎなど)、防水性は現状の編み上げ長靴で確保で

きている。 また、上から防火服を被せることにより、熱防護性もカバーが可能である。 今後の課題としては軽量化が挙げられる。

○ヘルメット 熱遮蔽性塗料を用いたヘルメットを試してみたい。軽量であることが望ましい。

○頭部の保護 防火衣の襟としころを用いてガードした場合には、しころがめくれることがある。 頭巾を装着した場合には、ヒートストレス、耳が塞がれる、危険に対する感度が鈍る、

などの問題がある。

○アンダーウェア 防火服の下の衣服により熱遮断性を確保する必要がある。

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○危険感知のためのセンサー 本人や周囲の人間に警告を出すための熱センサーの導入が望ましい。 隊員の健康モニタリングができるとよい。

○ロボット 職員削減効果、職員補助効果、リスク軽減が期待できる。

図表2-5 ニーズから見た防火服が今後備えるべき仕様

2.3 今後消防服が備えるべき仕様の検討 ニーズ系有識者会合により得られた知見、および国内外の消防関連ビジョンから、今後

消防服が備えるべき機能と、それを実現するための材料開発の方向性を以下にまとめる。 ○防火服 耐熱性、熱防護性、引っ張り強さ、引裂き強度など、安全に関するスペックは現状の防

火服ではある程度のレベルに達しているものの、輻射熱やフラッシュオーバーなどにも対

応できる耐炎性、耐熱性が必要である。従って今後は、熱的、機械的防護性を維持、向上

させると同時に、活動性と快適性を改善していく必要がある。 快適で活動性の高い防火服には、長時間着用しても疲労の程度を軽減する効果があるた

め、消防活動の効率化、隊員の安全確保を実現できる。快適性改善の課題の一つとしてヒ

ートストレスが挙げられる。夏場や温暖な地域における消防活動では、防火服内の暑さが

心身の不調をきたす例が多い。素材の選択と構造設計により、外部の熱を遮断しつつ、

【ロボット】導入できれば職員削減、火災現場における職員のリスク軽減効果が期待できる

【手袋】熱防護性の向上ごわつきの解消による活動性の向上

健康状態のモニタリング危険感知センサー

【防火服の課題】積雪環境での防水性、防寒性の向上夏場のヒートストレスへの対処安全性、活動性の確保アルミの耐久性、熱発散性の向上生地タイプの吸水性、撥水性の向上洗濯、撥水性維持などのメンテナンスが容易であること

【靴】運動性、防水性の確保耐切創性、防護性の確保軽量化が望まれる

【頭部防護の課題】しころのデザイン(めくれて火傷する)熱遮蔽塗料のヘルメットへの利用

ニーズから見た防火服が今後備えるべき仕様

【ロボット】導入できれば職員削減、火災現場における職員のリスク軽減効果が期待できる

【手袋】熱防護性の向上ごわつきの解消による活動性の向上

健康状態のモニタリング危険感知センサー

【防火服の課題】積雪環境での防水性、防寒性の向上夏場のヒートストレスへの対処安全性、活動性の確保アルミの耐久性、熱発散性の向上生地タイプの吸水性、撥水性の向上洗濯、撥水性維持などのメンテナンスが容易であること

【靴】運動性、防水性の確保耐切創性、防護性の確保軽量化が望まれる

【頭部防護の課題】しころのデザイン(めくれて火傷する)熱遮蔽塗料のヘルメットへの利用

ニーズから見た防火服が今後備えるべき仕様

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200W(活動時)を超える人体からの発熱を発散する機能を実現させる必要がある。同時に、

外部の水分遮断性、人体からの汗の拡散性を併せ持つ機能が求められる。活動性を向上さ

せるためには、動かしやすい縫製やデザイン、装備の軽量化が有効である。一般に、消防

隊員は、20-30kg もの個人装備品を身につけて消火活動を行っており、高機能材料による装

備の軽量化が望まれている。 この他、将来の防火服へのニーズとして、耐久性、価格、メンテナンスの容易さなどが

指摘された。現状の防火服と同様に、5-6 年程度の耐久性があること、同程度の価格(10-20万円)で作製可能であることが求められている。パラ系アラミド繊維の弱点である紫外線に

よる劣化やアルミ蒸着の劣化に改善の余地がある。コストを低減し、現在、技術的に困難

とされる消防素材のリサイクル技術の開発や、メンテナンスフリーな消防服の開発によっ

てコスト低減効果が期待できる。洗濯や撥水コーティングなどの維持コストを削減するた

めには、撥水性が持続する耐久性の高い素材、セルフクリーニング効果のある素材の開発

が必要である。 ○冷却系 夏場のヒートストレスを訴える声は多く、有識者会合では、特に今後はクローズアップ

される問題になるのではないかという意見が挙がった。ヒートストレスへの対処として、

現在は保冷剤を防火服の内ポケットに入れて使用している。この方法では 15-30 分の消火

活動時間のうち、10-15 分間は体温調節を行うことが可能だが、必ずしも十分とは言えない

ため、クールベスト等冷却装置の導入が望まれる。 ○手袋 手は熱にさらされやすいことから、耐輻射熱性、熱防護性が重要となる。それと同時に

耐切創性を持たせる必要がある。指の動かしやすさの改善が課題として指摘されたことか

ら、現状レベルで使用している手袋の防護機能を維持しつつ、ごわつきの解消や耐滑性の

付与が求められる。柔らかい繊維を使用したり、熱遮断性や耐熱性の高い材料を用いて軽

量化したりすることで、指の動かしやすさを素手の状態に近づけることができる。 ○頭部の保護 現在、日本の消防活動では、防火衣の襟を立て、上からしころを被せて首部をガードし

ている。しかし、この仕様では熱風が吹いたりボンベとぶつかったりするとしころがめく

れて怪我をすることがある、という課題が指摘されている。一方、米国 NFPA 基準の防炎

フードを装着すれば安全性を高めることができるものの、ヒートストレスを起こしやすい、

耳が塞がれて危険に対する感度が鈍る、などの問題が発生する。 頭部の防護に関しては、材料開発よりもデザイン面での工夫で改善することが可能と考

えられる。例えば、東京消防庁で平成 16 年度から導入された防火帽では、デザインを改良

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することによってボンベとの干渉がなくなり、従来タイプと比較して上方視野が確保でき

るようになった。防護機能の向上に関しては、デザインによる改良を行い、材料開発とし

ては耐熱性、遮熱性、耐衝撃性などの性質を維持しながら軽量化する、という方向性が挙

げられる。 ○アンダーウェア 現状では、防火服の下に着る衣服に対してあまり大きな注意は払われていない。しかし、

アンダーウェアによって断熱性を確保していれば火傷が防げたと考えられる事故例の報告

があることから、安全で快適な消防活動のためには、アンダーウェアの機能性追及が欠か

せないことがわかる。 アンダーウェアにはフィット感を持たせて防火服との間に空気の断熱層を形成させ、同

時に吸湿速乾機能を重視することにより体温調節効果を期待できる。従って、異形繊維、

ナノファイバー、芯鞘構造繊維などを用いたアンダーウェアを開発することで、消防活動

中の快適性の確保と疲労軽減効果が期待できる。 積雪環境などの地域性、季節性に対しては、防火衣よりもアンダーウェアの重ね着など

で防寒効果を得る方が経済的である。 ○危険感知のためのセンサー 防護服による装備が完全すぎると、隊員の危険に対する感度が鈍くなり、却って大きな

事故につながりやすいという指摘があった。従って、防火服を機能向上させると同時に、

本人や周囲の人間に対して危険を警告するための熱センサーも装備することが望まれる。

この際、感温性染料等を用いれば、色によって危険を知らせることができるため、消防活

動に適した非電気系で利用できる上、低コストに抑えることも可能である。あるいは、周

囲の気温が一定の温度以上になったり熱風が吹いたりした際に、防火服の形状が変化して

隊員に危険を知らせるという方法も考えられる。防火衣の袖口、裾、しころなどの部分に

温度応答性のアクチュエーターを埋め込んでおくと、一定以上の温度に達した際には袖口

が絞りこまれて危険を知らせると同時に熱風を防護し、温度が下がれば袖が開いて服内部

をクールダウンできる、という機能が期待できる。 将来的には、消防服に複合化したウェアラブルセンサーを用いて、心拍数などの隊員の

健康状態をモニタリングし、心身の健康の管理しつつ作戦を遂行できるようになると考え

られる。

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図表2-6 次世代防火服に求められる仕様 2.4 ニーズを具体化しうる関連技術の調査 ニーズ系有識者会合の結果より、耐熱性や力学的強度は現行の性能を維持しつつ、活動

性を高める技術が求められていることが判明した。機能実現のためには装備全体の軽量化、

撥水性の向上、断熱性の向上が必要となる。この他には、耐久性の向上、メンテナンスが

容易であること、リサイクル可能であることがニーズとして挙げられた。 ・軽量素化、活動性向上 繊維の軽量化技術としては、繊維の中空化や多孔化が挙げられる。これらの加工は、布

地の空気層の体積を増加させ比表面積を高めるため、断熱性、吸水性、速乾性を同時に向

上させることができる。従って、機能を維持または向上させつつ軽量化する技術として非

常に有望である。 この他、活動性を高める技術としては縫製による運動性の向上が考えられる。独立行政

法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、快適性、清潔性、活動性、軽量性などが考慮され

た宇宙船内用日常服を開発した。このうち T シャツ、ポロシャツ、ズボン、靴下には無縫

製技術が採用されているため、フィット感、活動性、肌触りの良さ、耐久性が良いとされ

ている。

防火装備・柔らかく伸縮性に優れ軽量な素材の使用、無縫製技術による活動性の飛躍的な向上・耐熱性、耐炎性、遮熱性、力学的強度の向上により熱、炎、薬品、落下物などのあらゆる危険から隊員を防護・完全防水・メンテナンスフリー(セルフクリーニング効果)・高温時に危険を感知して自動的に衣服が変形し、熱風等に対する防護機能を高める・リサイクルが可能

次世代防火服に求められる仕様

インナー・地域性や季節に応じて設計し、寒さやヒートストレスに対処する・吸汗速乾、体温調節機能に優れ、消防活動における隊員の疲労を軽減する・発汗時に自動的に布地が変形し、快適性を維持する

危険感知センサー・一定温度に達すると装備の色が変化し、警告する

防火装備・柔らかく伸縮性に優れ軽量な素材の使用、無縫製技術による活動性の飛躍的な向上・耐熱性、耐炎性、遮熱性、力学的強度の向上により熱、炎、薬品、落下物などのあらゆる危険から隊員を防護・完全防水・メンテナンスフリー(セルフクリーニング効果)・高温時に危険を感知して自動的に衣服が変形し、熱風等に対する防護機能を高める・リサイクルが可能

次世代防火服に求められる仕様

インナー・地域性や季節に応じて設計し、寒さやヒートストレスに対処する・吸汗速乾、体温調節機能に優れ、消防活動における隊員の疲労を軽減する・発汗時に自動的に布地が変形し、快適性を維持する

危険感知センサー・一定温度に達すると装備の色が変化し、警告する

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図表2-7 吸汗拡散性と断熱性を有するスポーツウェアの概要(finetrack 社)1

(Finetrack 社 HP:http://www.finetrack.com/product_top.html) ・ヒートストレスへの対処 活動性や快適性の他、現状の防火服の課題としてヒートストレスが指摘された。また、

求められる温度調節機能は、地域や季節によって防寒性、冷却機能など異なることが明ら

かとなった。 スポーツ用アパレル製品には吸汗性、速乾性、あるいは防寒性を備えた機能性布地が開

発されている。そこで、これらスポーツウェアに用いられている技術から、防火衣のアン

ダーウェアとして利用可能なものを抽出した。 現在、消防隊員は冷却剤を用いて活動を行っているが、冷却機能や冷却時間が十分とは

言えないことから、ここでは様々な人体冷却装置について調査を行い、整理した。また、

熱に応答して衣服の形状が変化する機能を付与すると、通常の活動状態では衣服内の通気

性が確保されるが、危険時には通気口を閉じて断熱性を高めるようなスマート防火服が実

現すると考えられる。このように、防火服の熱発散性と防護機能のスイッチングを実現す

る技術として、熱応答性アクチュエーターについて調べた。 アンダーウェア 大量の発汗を伴う消防活動では、アンダーウェアの吸汗性能、速乾性能が隊員の感じる

快適性や疲労に大きく影響する。そこで、これらの機能に優れたスポーツ向けのアパレル

製品から関連技術を調査した。 ① 自己調節機能繊維 帝人は、人が汗をかくとその水分に反応して生地が自発的に変形し、着心地を調節する

機能性 MRT ファイバーを開発した。 (図表2-8)。また、凹凸により肌表面と生地の間

に空間を形成させると、汗の速乾性が高めると考えられる。衣服が水分を吸収すると遮熱

性が低下するが、MRT ファイバーを用いて吸水時に新たな空気層を形成させることで消防

1 Finetrack 社 HP より http://www.finetrack.com/product_top.html

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活動における安全性を確保できると言える。 図表2-.8 自己調節機能繊維の概要 乾燥状態では生地が平坦であるが(左)、発汗が

あると凹凸が形成される(右)2

(帝人社 HP: http://www.teijin.co.jp/japanese/rd/rd13_06.html) ② アンダーアーマー 米国アンダーアーマーは運動によって生じる大量の汗を瞬時に吸収し、生地の表面から

発散させる技術により、トップアスリート向けのウェアを開発している。体外へ汗を発散

させる際に、気化熱を奪うため、体温上昇を抑えることができる。またウェアに汗をため

こまないため、運動後まで軽さと快適さを維持できるという特徴を有する(図表2-9、図

表2-10)。

図表2-9 アンダーアーマーの体温上昇抑制効果3

(アンダーアーマー社 HP: http://www.underarmour.co.jp/)

2 帝人社 HP より http://www.teijin.co.jp/japanese/rd/rd13_06.html 3 アンダーアーマー社 HP より http://www.underarmour.co.jp/

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14

図表2-10 モイスチャートランスポートシステムの概要 3

(アンダーアーマー社 HP: http://www.underarmour.co.jp/) ③ 芯鞘繊維 芯鞘構造の複合繊維は、性質の異なる二層から構成されるため、芯鞘繊維を用いた布地

は強度があり、肌への着心地がよいという特徴を有する。また、用いる繊維素材の選択や

加工方法によって吸汗性、保温性、撥水性などを付与することも可能であるため、スキー

や登山用の下着や清涼アパレル製品として実用化されている。 アウトドアスポーツブランドの finetrack が開発した保温アンダーウェアは、中芯にスー

パーファインメリノウールと吸汗加工ポリエステルのブレンド糸を採用して吸汗放湿を持

たせ、外層に異形断面・吸汗加工ポリエステルをスパイラルに合撚している(図表2-11)。繊維の加工による吸汗性、ウールの放湿性、保温性が実現され、スパイラル構造によって

強度を確保し、ウールが直接肌に触れないようになっているため快適な着心地が得られる。

登山、スキー、ゴルフなどのアンダーウェアとして用いられており、寒冷地における消防

用アンダーウェアとして利用価値がある。

図表2-11 finetrack の吸汗放湿、保温性アンダーウェア4

(Finetrack 社 HP: http://finetrack.noasobiya.com/2007/01/post_10.html) 4 Finetrack 社 HP より http://finetrack.noasobiya.com/2007/01/post_10.html

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15

福井県工業技術センターが開発した芯鞘繊維(図表2-12)は、芯部がポリエステル、鞘

がレーヨンから構成されている。この繊維は、伸縮性がある、風合いがやわらか、速乾性

がある、ドライ感が得られる、形態安定性があるなどの特徴を有し快適性清涼アパレル製

品として開発が進められている。発汗時に鞘部のレーヨンが吸収し、それを芯部のポリエ

ステルに移動させることによって、高い吸水性、速乾性を得ることができる。

図表2-12 清涼アパレル製品に用いられる鞘芯繊維5 (福井県工業技術センター http://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/new/sinsaya.html)

④ Fabric XTM

アディダスジャパンは 2008 年 1 月に吸水速乾性を実現した FabricX を発表した(図表2

-13)。FabricX は生地肌面にミクロ吸水ポンプとして導水構造を形成させており、毛細

管現象により肌から汗を素早く吸い上げ、生地表面に拡散させて速乾させる。このため、

多量の発汗時にもべとつかず、衣服内の空気循環を促す効果がある。

図表2-13 FabricXTMのミクロ吸水ポンプ構造6

(アディダスジャパン プレスリリース 2008 年 1 月 16 日)

5 福井県工業技術センター http://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/new/sinsaya.html 6 アディダスジャパン プレスリリース 2008 年 1 月 16 日

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⑤ ナノファイバー 繊維を超極細化したり断面を異形化したりすると比表面積が大きくなる(図表2-14)。

このような繊維は、肌触りが柔らかい、毛管現象による吸水性が高い(図表2-15)、速乾

性に優れるなどの特徴がある。

図表2-14 日本エクスラン工業株式会社の極細繊維の概要7 (日本エクスラン工業株式会社 HP:http://www.exlan.co.jp/products/iryo/preleal.html)

図表2-15 極細繊維プレリール®の吸水性評価 7 (日本エクスラン工業株式会社 HP:http://www.exlan.co.jp/products/iryo/preleal.html)

7日本エクスラン工業株式会社 HP より

http://www.exlan.co.jp/products/iryo/preleal.html

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熱応答アクチュエーター 周囲の温度に応答して膨張・収縮などの変形が起こる感温アクチュエーターを防火服の

袖口や裾、腰部、しころ等に使用すると、自律的に危険を感知して防護機能を高めるスマ

ート防火服となる。低温で膨張し、高温で収縮するアクチュエーターを用いると、通常の

環境では袖口等の部位を拡げ内部の熱拡散、蒸気発散を促してヒートストレスを緩和し、

高温時にはこれらの隙間を塞いで熱防護機能を強化する効果が得られる。熱制御型のアク

チュエーターの試作品としては、国内では次のものが挙げられる。 ① バイオメタル・ファイバー トキ・コーポレーションから金属系人工筋肉として販売されているバイオメタル・ファ

イバーは、繊維状の Ti-Ni 系形状記憶合金を用い、70℃より低温では伸張、高温では収縮

する。全長の 4%程度伸張する。フレキシブルなファイバー状の材料であるため、衣服との

複合化にも適している。

図表2-16 バイオメタルファイバーの温度応答性8 (トキ・コーポレーション HP: http://www.toki.co.jp/BioMetal/BMF/index.html)

② 形状記憶合金ダイヤフラム型アクチュエーター 筑波大学 宮崎修一教授は、Ti-Ni 形状記憶合金スパッタ薄膜を用いてダイアフラム型マ

イクロアクチュエータを作製している。アクチュエーターが低温の時は、形状記憶合金は

マルテンサイト相であるため、シリコン酸化膜のバイアス力によって膨らむ。しかし、加

熱すると形状記憶合金が母相に相変態し、記憶していた平面の形状に戻る。この変化は可

逆的である。

8 トキ・コーポレーション HP より http://www.toki.co.jp/BioMetal/BMF/index.html

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図表2-17 ダイヤフラム型アクチュエーターの作動サイクル9 (筑波大学宮崎・金研究室:http://sma.ims.tsukuba.ac.jp/html-j/research/actuator.html) 冷却装置 人間の発生する熱は、平常時で 100W 程度、ちょっとした運動時には 200W、更に激

しい運動では、一時的に 500W にも及ぶ。発熱量は、体格、性別、年齢、体調などによ

り大きく変化するため、あくまでも目安であるが、人体は強力な熱源であるとみなすこ

とができる。重作業の現場や医療現場、防護服分野を中心に、冷却機能を持つ衣服に対

するニーズは高い。国内には、以下のような製品例がある。 ① クールジャケット

化学防護服の内部に着用するジャケットタイプの冷却器が市販されている。これは、

外部のエアーコンプレッサーからホースで外気を導入するタイプである。最大 90m ま

でのホースが用いられる。

図表2-18 エアー式クールジャケットの使用例10

(http://www.asbestos-taisaku.jp/products/cooljacket.htm)

9 筑波大学 宮崎・金研究室 http://sma.ims.tsukuba.ac.jp/html-j/research/actuator.html 10 http://www.asbestos-taisaku.jp/products/cooljacket.html

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② 化学防護服用エアークーラー ジャケットタイプではなく、化学防護服専用として開発されたものもある。これも、

外部のコンプレッサーからのエアを用いるものである。

図表2-19 化学防護服用エアークーラー11

有限会社川崎防災(本調査時期には所在確認できなかった)

③ 空調服 乾電池で動作するファンを取り付けた空調服が市販されている((株)空調服)。この

服は、特に冷却機構を有しているわけではなく、ファンにより人体と平行に流れるエア

ーを形成し、これにより、体表からの水分蒸発を促進して蒸発潜熱により冷却するとい

うものである。同社では、消費電力は 1.2W であり、最大 230W の冷却能力があるとし

ている。 図表2-20 空調服(株式会社空調服)12

(株式会社空調服 http://www.9229.co.jp/index.html)

11 有限会社川崎防災(本調査時期には所在確認できなかった) 12 株式会社空調服 http://www.9229.co.jp/index.html

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20

④ クールベスト PCM(相変化物質)を用い、融解の潜熱を用いてジャケットの温度を一定にすると

いう冷却ベストが市販されている。全てが融解すると温度維持効果が消失するため、動

作時間に制限がある。図表2-21クールベストの場合、4 つの PCM パックを用いる

もので、ベスト重量は 700g と軽量であるが、有効時間は 20 分程度しかない。

図表2-21 クールベスト13

(芦森工業株式会社 http://www.ashimori.co.jp/product/bosai/sizai/bs-coolbest.html)

PCM の量を増加し、より長時間の冷却機能を持たせたものもある。このタイプ(図

表2-22)では重量が 2kg となり(21 個の 28℃PCM)、冷却効果は 45 分~2 時間継

続する(図表2-23)。

図表2-22 クールベスト(大容量タイプ)14

(TST 社 http://viewer.zmags.com/showmag.php?mid=hfqrp#/page4/) 13 芦森工業株式会社 http://www.ashimori.co.jp/product/bosai/sizai/bs-coolbest.html 14 TST 社 http://viewer.zmags.com/showmag.php?mid=hfqrp#/page4/

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図表2-23 PCM ベスト着用/非着用の差(消防隊が耐火服、マスクを着用し煙の

中で活動。25 分経過後あたりからベスト着用者と未着用者で体温の差

が開き始めている)15

(www.jettingsystems.co.uk/Cooling_Vest.pdf) ⑤ Microclimate Cooling Suit

NASA の宇宙服用冷却下着からのスピンオフとして、LSSI社の Microclimate Cooling Suit がある。水の循環による冷却方式であり様々なタイプのものが存在する。

図表2-24に、車椅子の背もたれに設置するタイプの冷却シートを示す。

図表2-24 車椅子の背もたれに設置するタイプの冷却シート16

(technology.arc.nasa.gov/success/successfiles/NewHelpMS_CoolClothes_1993_p52.pdf)

15 www.jettingsystems.co.uk/Cooling_Vest.pdf 16 technology.arc.nasa.gov/success/successfiles/NewHelpMS_CoolClothes_1993_p52.pdf

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また、図表2-25はパイロットや医療現場での活用例である。同システムは、この

他 F1 レーサーなどにも活用されている。

図表2-25 Microclimate Cooling Suit の活用例 16

(technology.arc.nasa.gov/success/successfiles/NewHelpMS_CoolClothes_1993_p52.pdf)

⑥ CoreCool™ Personal Ice Cooling System このシステムは、断熱性のある2L のタンクに充填した氷水をバッテリー駆動のポン

プでジャケットに循環させ、体温を冷やすものである。通常 1 時間程度の活動が可能で、

最大 4 時間作業可能なタイプに変更可能とのことである。全重量は標準タイプで 5.9kgである(図表2-26)。

図表2-26 CoreCool™ Personal Ice Cooling System(産業用)17

(Corecool 社 http://www.corecool.com/NonNBC.html)

17 Corecool 社 http://www.corecool.com/NonNBC.html

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⑦ ESA(宇宙服技術のスピンオフ) Grado Zero Espace 社は、ESA の技術移転プログラムの成果として冷却スーツを開

発中である(Safe&Cool システム)。このシステムは1)熱・湿度マネージメントのた

めの特殊な3D 布地、2)宇宙服技術に基づく水冷循環方式の採用、3)吸湿ポリマー

の採用(急激な熱に対する防御)、という 3 つの先進技術を用いているとのことである。

図表2-27 Safe&Cool システムの断面図18

(http://www.gzespace.com/gzenew/index.php?pg=cooling&lang=en)

図表2-28 冷却水循環用チューブを繊維にセットした状態

(http://www.gzespace.com/gzenew/index.php?pg=cooling&lang=en)

⑧ HAILSS システム 米国空軍は化学防護服を着用したヘリコプター搭乗員用統合型生命維持システム

(HAILSS)を開発中である。このシステムはバッテリー駆動式で、完全密閉された多層

構造の化学防護服の内側に冷気を噴出する。HAILSS には、約 570cc の水を充填する

特殊な熱交換器が使われている。この熱交換器は真空状態に保たれており、沸点が室温

レベルに下げられている。これに化学防護服内の熱い空気を導入すると、水が沸騰し、

蒸発の潜熱により空気は冷却される。この冷却した空気を防護服内に循環する、という

ものである。 18 http://www.gzespace.com/gzenew/index.php?pg=cooling&lang=en

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この機構が継続的に維持されるためには、沸騰により生じた水蒸気を直ちに除去しな

ければならない。この目的にゼオライト(凡そ 25 センチ四方の体積)が用いられる。

ゼオライトは自重の 25%の水を吸収できることから、このシステムは約 2 時間作動す

る。現時点で、合計の重量は約 4.5kg、製造コストは約 1000 ドルと見積もられている。

図表2-29 ゼオライトによる水分吸着型熱交換器の概念19

(are.berkeley.edu/heat/slides/kaufman.heatslides.pdf)

体温調節材料 ① 蓄熱剤型調温マイクロカプセル(衣料用)

大和化学工業株式会社のプレサーモはメラミン樹脂被膜のマイクロカプセル剤であ

る。 カプセル中の高級脂肪族炭化水素は 25℃付近で吸熱と放熱を繰り返すというもの

で、衣服などへの実装も可能である。

図表2-30 プレサーモの温度変化20

(http://textileinfo.com/ja/chemicals/daiwa/img/20040622_news03.gif)

19 are.berkeley.edu/heat/slides/kaufman.heatslides.pdf 20 http://textileinfo.com/ja/chemicals/daiwa/img/20040622_news03.gif

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② アウトラスト アウトラストは、米国の NASA の宇宙服のグローブ用素材として開発された技術で

あり、過酷な宇宙空間での船外活動能力を向上させるため、アポロ計画の時に実用化さ

れた(と、同社は PR している)。アウトラストは、大量の熱を吸収・保持・放出する

直径 2 ミクロン~30 ミクロンのマイクロサーマルカプセルで構成されていて、このカ

プセルが繊維や糸の中に組み込まれたり(アウトラスト・ファイバー)、ファブリック

やフォームに何百万個もコーティングされている。このミクロ単位のカプセルの中には、

温度変化に応じて液体⇒固体⇒液体…と様相を変える特殊相変換物質(PCM=Phase Change Material)であるパラフィンワックスが入っており、身体の表面温度を快適な

温度帯にコントロールすることを可能にしている。

図表2-31 アウトラストの原理21

(http://www.phenix.jp/material/outlast.html)

図表2-32 PCM 利用温度制御インナーウェア(OUTLAST)のサーモグラフィ(上:

周辺温度 35℃、下:周辺温度 10℃。いずれも PCM 素材の方が優れた特

性(暑いときには涼しく、寒いときには暖かい)を示している)21

(http://www.phenix.jp/material/outlast.html) ③ ジェネサーモ NEO 3M では、アウトラストと自社の不織布技術をあわせ、ジェネサーモ NEO なる布地

を開発した。繊維組成はポリエステル 60%、アクリル 40%である。 図表2-33にその特徴を示す。

21 http://www.phenix.jp/material/outlast.html

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図表2-33 ジェネサーモ NEO の特徴22

(http://www.mmm.co.jp/thinsulate/product/neo.html) 2.5 技術マップの作成 国内外の消防関連ビジョンの調査、およびニーズ系有識者会合を通して今後防火服が備

えるべき仕様を検討した。この結果、現行の防火服が備える熱的、機械的防護性を維持ま

たは向上させると同時に、活動性と快適性を改善することが重要課題であることが浮き彫

りになった。具体的には、材料の機能化、軽量化、耐久性などの性能向上(第一優先ニーズ)、人体からの熱を効果的に除去しヒートストレスを軽減する機能(第二優先ニーズ)、活動中に

外部環境を認識し、危険を警告する機能(第三優先ニーズ)、が挙げられる。 第一優先ニーズを実現するためには、外衣、内衣の材料開発が鍵となる。次世代高機能

繊維として期待されている PIPD 繊維、アラミドなど耐熱性高分子の中空繊維化、NIST で

検討されている CNT を採用した異方性熱伝導コンポジットなどの防火衣への導入により、

装備が軽量化され、活動性を飛躍的に向上させることができる。第二優先ニーズである熱

の除去は、防火衣の下に着用するインナーの速乾性、快適性を向上させるか、または相変

換物質や熱交換装置を用いた冷却機器を導入することで実現できる。スポーツウェアとし

て開発された速乾性、熱発散性の高い繊維をインナーとして採用し、宇宙活動用や軍事用

に開発されたものを参考に消防活動に適した冷却装置を開発すれば、活動中の排熱を速や

かに実施し、人体への負荷を低減することが可能となる。第三優先ニーズとしては、外部

の温度を認識し、隊員や周囲の人間に危険を警告する機能が挙げられている。これを実現

するためには、感温性の染料や顔料などを利用した簡易温度センサーの導入が考えられる。

また、防火服の一部に熱応答性のアクチュエータを用い、急激な温度上昇を認識して衣服

の形状が変化するなどの防護機能を付与することも効果がある。 22 http://www.mmm.co.jp/thinsulate/product/neo.html

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以上の検討をふまえて作成した、今後、防火服が備えるべき仕様を実現するための技術

群を俯瞰した技術マップを図表2-34に示す。 図表2-34 今後防火服が備えるべき仕様を実現するための技術マップ(平成19年度

版)

内衣・中間層

第一優先ニーズ

第三優先ニーズ

外衣 インナー

第二優先ニーズ

装備

繊維の異形化

遮熱塗料

次世代スーパー繊維 M5

示温インク

熱応答性アクチュエーター

ナノコンポジット

中空繊維

ストレッチ性

クールジャケット

安全性・活動性の飛躍的向上

耐久性・維持

軽量化

撥水・防水性

遮熱性

快適性

繊維の高機能化

無縫製技術

異方性熱伝達素材

ナノボイド繊維

マテリアルリサイクル

セルフクリーニング

ナノファイバー

芯鞘構造

自己調節機能繊維

構造撥水

宇宙機用断熱材

スポーツ用ウェア

空調服

PCM

軽量素材による代替

危険回避

次世代スーパー繊維M5

遮熱塗料

内衣・中間層

第一優先ニーズ

第三優先ニーズ

外衣 インナー

第二優先ニーズ

装備

繊維の異形化

遮熱塗料

次世代スーパー繊維 M5

示温インク

熱応答性アクチュエーター

ナノコンポジット

中空繊維

ストレッチ性

クールジャケット

安全性・活動性の飛躍的向上

耐久性・維持

軽量化

撥水・防水性

遮熱性

快適性

繊維の高機能化

無縫製技術

異方性熱伝達素材

ナノボイド繊維

マテリアルリサイクル

セルフクリーニング

ナノファイバー

芯鞘構造

自己調節機能繊維

構造撥水

宇宙機用断熱材

スポーツ用ウェア

空調服

PCM

軽量素材による代替

危険回避

次世代スーパー繊維M5

遮熱塗料

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3.技術情報の収集 3.1 国内有識者へのインタビュー 昨年度の先行技術調査を踏まえ、関連技術動向をより充実させるため、国内有識者への

インタビュー調査を実施した。 (1)文化女子大学 田村照子教授 ■日時:2008 年 8 月 26 日(火) 13:45-15:30 ■場所:文化女子大学 田村先生研究室 (A-080 室) ■参加者(敬称略):文化女子大学 田村照子教授、消防研究センター(箭内、若月)、MRI(中村、辻) ■議題: ①調査の経緯と概要について ②これまでの調査内容について ③着心地の観点からの意見交換 ■資料: ・防火服に必要な性能を担保するための有望な技術の調査について ■概要: ①本調査の経緯と概要について説明 ②これまでの調査内容について、報告書より抜粋して作成した資料に基づき説明 ③田村先生からのコメントなど このインタビューを通じ、以下の知見を得た。 ・ 防火服の熱遮蔽を考える上で、インナーやエアギャップの存在(衣服デザイン)が重要。 ・ 防火服の場合、潜熱として熱を逃がすためには、工夫が必要。発汗マネキンなどでの研

究が重要となる。 ・ 小型のペルチェを防火服に取りつけることも視野に入れてはどうか? ・ 氷など、体に直接低温のものが触れると不快感が出てしまう。現在の PCM より熱容量

が大きいものがあれば望ましい。 ・ 現状の防火服はフィット感に課題があると感じている。股下が下部にありすぎて、足を

開きにくくなっている。 ・ 動作は「ゆとり」「デザイン」「素材」で決まる。適材適所にゆとりを作るようなデザイ

ンが必要。伸縮性の素材が望ましい。また、余分なゆとりは邪魔になる。 ・ モーションキャプチャーなども利用した、運動性に関する研究が必要である。 ・ 防火服における快適性の追求は、後回しのように言われるが、快適性は重要であると思

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う。不快であれば認識、判断、行動に影響し、作業効率が落ちる。ヒートストレスで参

っているときに火傷するようなことがあるかもしれない。快適性で生産性を高めること

ができるのではないか。 ・ なるべく心地よい装備を追及し、消防士にベストな状態で働いてもらうことが防火服の

義務である。 ・ 消防服はとてもストレスフルな衣服である。臭いもあるはず。汚れをいかに解消するべ

きかという課題がある。 ・ 手袋や帽子も問題が多いと思われる。 ・ 靴は軽いものが必要。 ・ 隊員のトレーニングの方法として、姿勢矯正ということを取り入れてもよいのかもしれ

ない。 ・ 軽量は一番重要。動作性も快適性も軽量化により改善できる。 ・ インナーと外側を合わせて、軽量化できればよい。 ・ 消防服をランク別に用意し、作業項目によって服を分けるのがよい。事務と火事場で作

業する場合の作業着を分け、手当ても職種によって変えるべき。 ・ 全員が同じ装備をする必要はない。訓練中に熱中症になることもあり、場合に応じて衣

服を使い分けるべきである。 ・ コストの問題は、以上のように運用の仕方から考える。高価であっても、必要ならば作

るべき。そして世界に売っていく。視野は広げつつ、きめ細やかな機能追及をしていき

たい。 ・ 消費者ニーズサイドから繊維メーカーに要求していくことが大事。 ・ ニーズ志向を取り入れ、研究者も含めた、総合的なアパレル開発が必要だと思う。 (2)信州大学繊維学部 ■日時:2008 年 10 月 22 日(水) 10:00-12:00 ■場所:信州大学繊維学部(長野県上田市) 学部長室 ■参加者: 信州大学繊維学部

学部長 平井利博教授 森川英明教授 (創造工学系・先進繊維工学課程) 評議員 榎本裕嗣教授 (機能機械学科) 後藤康夫准教授 (化学・材料系 機能高分子学課程) 佐古井智紀助教 (ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点) 岩木邦男研究員 (ナノテク高機能ファイバーイノベーション連携センター) MRI (中村、辻)

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■議題: ①調査の経緯と概要について ②これまでの調査内容について ③意見交換 このインタビューを通じ、以下のような知見を得た。 ・ 大学において芳香族系の繊維を糸にするのは難しい。素材に関しては、ナノファイバー、

有機ファイバー、無機ファイバーに取り組んでいる先生がいるが、それぞれに耐熱とい

う目標は設定されていない状況である。 ・ 活動する、動く環境における熱設計という研究テーマは取り組む価値があるのではない

か。 ・ 国内では、個別に要素技術の開発が行われているが、システマティックなことは行われ

ていない。本学部としては、目標を設定し、外部機関との連携やコーディネートもしな

がら走るしかないと考えている。服飾、織りなどで外部の力が必要。評価の面では消防

研究センターと連携できればよいと考えている。 ・ 信州大学では、衣服を着用して、快適性や活動性を評価する研究を行っている教員がい

る。 ・ NCSU(North Carolina State University, College of textiles)には米国のテキスタイル

関係の技術や情報が集積されている。特に Dr. Roger L. Barker は服の着心地に対する

人の応答について、テキスタイル、温熱、衣服内環境の研究で有名である。信州大学と

の交流もある。 ・ サーマルマネキンによる計測は、この分野では一般的・有用な手法である。 ・ 高強度、高弾性繊維は軍服の分野でよく取り扱われる。MIT などが軍からの資金で研究

している。軍関係は、海外の場合には予算をとりやすい分野であるが、日本ではそうい

うことが難しい。 ・ 消防服は、要素技術の組み合わせにより作られる。編み、織り、加工、装飾性(文字や

蛍光のプリント)、縫製(機能性、着用快適性)、評価という工程で成り立っている。耐熱

素材は存在しており、その軽量化は大学の基礎研究への課題提示ということになるだろ

う。編みや織りは三軸・四軸織物がある。また、二層、三層構造の服も作製することは

できる。 ・ ドイツはマイスター的な文化があり、織の技術を残そうとする方針がある。また、織り

の技術に関連して、織の中に電子デバイスを埋め込む技術も出てきている。 ・ レーザー縫製は、国内ではペガサスなどミシンメーカがやっている。透湿防水は縫い目

の影響が大きい。 ・ ウェルディングという溶接型の縫製技術がある。また、三次元織物、三次元編物はセン

サーの埋め込みには有用である。

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31

・ PCM は活動時間を考えると難しい。また、パラフィンは燃えやすいという問題がある。 ・ ヒートストレスは、ベンチレーションや織りの技術だけで解消することはできないので、

液冷の対応も考えるべきである。文化女子大は、靴にポンプを仕込んでポンピングさせ

ていたはずだ。そのアイデアは利用可能かもしれない。 ・ 冷却システムで調べた際、多発性硬化症患者のための冷却システムがあることがわかっ

た。これを開発したのはスイスの EMPA という材料科学および技術に関して学際的な

活動を行っている機関である。このように、繊維と膜の技術を組み合わせるという方法

が考えられるのではないか。 ・ 素材としての糸には感温繊維があるし、湿度に応答して伸び縮みする生地もある。耐熱

用の蒸着は浜松が得意としている。冷却のためにはパラフィンのカプセルがある。縫製

の新しい技術としては、レーザーによる接着や、ホールガーメントが挙げられる。評価

はスポーツアパレルの機能性評価方法が良いだろう。ワコールの下着の評価技術も世界

的に有名である。消防用に用いられている糸は、それだけで重く動きにくい。縫製技術

にも改善の余地がある。 ・ 要素技術は国内にかなり豊富にあるので、フラッグを立てることが必要である。また、

短期的なプロジェクトでチームを組むことはできても、枠がとれると再び要素ごとにバ

ラバラに戻ってしまう。大学の役割としては、パイロットファクトリーでモデル提示を

することだと考えている。 ・ 将来の消防服は、センサー機能をもった安全、安心の服でなければならない。 ・ 欧州では、FP7 において安全・安心の分野の予算が確保されており、繊維のテキスタイ

ル関連分野の強化をはかっている。繊維のテーマとしては、スマートテキスタイルなど

が多い。 ・ ドイツでは、日本と異なりテキスタイル関係の作業が衰退せずに残っている。現在でも

特 色 の あ る 研 究 が 行 わ れ て い る 。 例 え ば 、 ホ ー エ ン シ ュ タ イ ン 研 究 所

(INTERNATIONAL TEXTILE RESEARCH CENTER)は、プライベートカンパニーで

あるにも関わらず、衣服評価を行っている。一般向け衣服が中心で、評価の内容も洗濯

への耐性などであるが、国が関与していないにも関わらず、この研究所が発効するグレ

ードのタグが市場のスタンダードになっている。 ・ どちらかといえば、編みや織りに関する機械メーカーが繊維産業を担うようになってき

た。ドイツと比較すると、日本は省力化、大量化を追及しすぎて新材料を作る方向の意

欲を持ってこなかったのかもしれない。 ・ ドイツにはトライアルに新しいものを作ろうとする意識がある。繊維機械の開発は、素

材と同時にやらなければならないという難しさがある。 ・ 海外は軍用途として開発資金を調達し、民生用にスピンオフする、ということがありえ

るが、日本は異なる。 ・ 日本における要素技術のレベルは高いのだから、連携すれば有利であるはずである。バ

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ラバラな技術の方向付けを行うことが大事である。 ・ 例えば MIT では宇宙服の開発がきっかけで検討のための体制つくりが行われた。そう

いうものを日本でも目指したい。 ・ 消防服には価格の問題がある。ニーズはあるのに、機能化の開発を市町村レベルで取り

組めずにいる。もちろん十万円以下で高機能にできればよいが、難しい。 ・ 消防服に関しては素材、構造(織)、三次元への縫製化、評価が必要であり、そのため

のラインを整備しなければならない。一つの企業や機関だけで一貫して実施できること

ではない。信州大学としては、素材は得意であるが素材だけで消防服が作製できるわけ

ではない。 ・ NCSU の Barker 先生は、燃焼室を作成し評価できるようにしたことで成功したといえ

るだろう。彼は、マネキンによる温度測定も行っている。日本においても、そのような

設備に投資して、オープンに使用できるようにすべきである。 ・ 設備の他に、人材の問題もある。継続的に開発するためには、人材を育てることが必須

である。また、専門家だけを集めると深みにはまるので、チャレンジングな若手を組み

込むことが大事である。若手を育て、送り出し、戻ってきた際に迎え入れるということ

が必要である。 ・ 消防服におけるニーズや機能はレーシングスーツなどにも共通することである。従って、

消防服だけを対象にするのではなく、特殊環境における衣服の共通技術の開発をするこ

とはできないだろうか。消防服に限定すると、市場もあまり大きくない。 ・ 産業用防護服への発展も含めて市場開拓してはどうか。このご時勢なので、警察庁の防

弾素材なども一般向けに開発してもよいのではないか。 ・ 一般企業においても溶鉱炉のように熱環境が厳しい環境があるため、耐熱のニーズはあ

るはずだ。 ・ 例えば、安全靴について言えば、昔は大変重かったが、この 20 年の間にずいぶんかわ

り、今のものは非常に軽く動きやすい。溶接現場での利用も視野に入れ、用途も含めて

開発を考えていくべきではないかと考えている。 (3)九州大学大学院芸術工学研究院(栃原裕教授) ■日時:2008 年 12 月 3 日(水) 13:00-14:30 ■場所:九州大学大学院芸術工学研究院(福岡県) ■参加者:

九州大学大学院芸術工学研究院 栃原 裕教授、周 金枚(博士課程学生) MRI (中村、辻)

■議題: ①調査の経緯と概要について ②これまでの調査内容について

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③意見交換 ■資料: ・「防火服に必要な性能を担保するための有望な技術の調査について」調査概要 ・第一フェーズ調査報告書(非公開版) ■議事 このインタビューを通じ、以下の知見を得た。 ・ 冷却系としては、PCM、作業途中の休憩、冷却用ホースのとりつけなどがあるが、PCM

の改良がよいのではないか。 ・ 氷による冷却と PCM による冷却を比較すると、氷は冷たすぎるのでカバーをとりつけ

るが、それによって熱のロスが生じる。また、四角く硬い形状であることから身につけ

るとごわついてしまう、人体との接触面積が小さく冷却効果が弱い、作業場の近くに冷

蔵庫を必要とするなどのデメリットがある。低コストで済むが、難しい。 ・ チョッキ型の冷却系は、脇の冷却により効果的に体全体に影響を及ぼし、また装備も簡

単であるという良さがある。 ・ PCM と氷を比べると、冷却の能力としては氷の方が持っているが、実際の効果として

は PCM の方が優れているという結果になった。30 分から 1 時間という消化の活動範囲

に用いるにはベストな技術であろう。 ・ スウェーデンの研究者である、Ingvar Holmér 教授(Lund Universoty)も冷却系の研究

を検討している。 ・ 現状のPCMは 7、8 万円する。防火服が 10 万円程度であることを考えても、下に冷却

ベストを装備するとしたら、その価格は、1 万円以下にすべきである。 ・ 冷却は、消防用途だけではなく、動きを伴う労働環境全般に需要がある装備になる。こ

れまでに普及していないのは価格が理由であるから、低価格化を目指したい。 ・ 頭、首、脇に冷却源を取り付ければ高い効果が得られる。 ・ 昨日まで韓国で開催していた学会では、心電図を採取する下着についての発表があった。 ・ 米国の軍服では、服に電子回路を縫いこんでセンシングしたり、バイタル信号を送った

りするものがあるようだ。米国では開発の初期には DOD が投資をするが、日本では軍

服の作成は難しい。 ・ 欧州では personal protecting wear というジャンルがある。 ・ オランダに TNO defense という機関があり、昨年本学の COE と共同で研究発表会を実

施した。 ・ 体温計測をし、熱中症になる前に警告を出すシステムは大事である。例えば、原子力防

護服の場合は、服を脱ぐ手順が規則で決まっており、最低でも 15 分かかる。熱中症で

倒れている人間を助け出すのに 15 分以上かかってしまうということだ。従って、熱中

症で倒れる前にそれを感知する仕組みが必要であるという検討を行っている。

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・ ウェアラブルセンサーを作製するためには、繊維そのものをセンシングデバイスにした

り、布地にセンサーを縫い込んだりする技術が挙げられる。 ・ ウェアラブルセンサーなんて 5 年前には考えも及ばなかった。これだけの技術の進歩が

あれば、5 年後にはすごいものができているかもしれない。 ・ 寒さよりも暑さの方が問題である。オーストラリアでは山火事への対応に数日間も活動

をすることがあるが、日本の火事は短時間で決着をつけるので冷却装置を取り付けると

いうのが現実的である。 ・ 冷却装置の取り付けの他には、休憩時間に手を冷却水にあてるという方法がある。手は

足よりも血管が発達していて、放熱させることができる。また、休憩中にミストを顔に

かけるという方法もある。 ・ 現状の PCM はパラフィン系が多く、融点は 27-28℃である。人間の体温よりも 3℃低

い(34℃)くらいの融点を持つものを開発したい。 ・ NASA で水冷ホースを用いた冷却系の研究をしていた研究者が、現在九州大学にポスド

クとしてきている。水冷による冷却は、タンクを取り付けるので宇宙服のような大型の

もの装備でなければ難しい。 ・ 今後、消防服として特に検討すべきことは、ウェアラブルセンサーであろう。技術はど

んどん進歩しているのだから、それを取り入れないのはもったいない。防護性能のアッ

プ、生体センシング、冷却、これらが課題になるかと思う。 ・ 燃焼室は防火服の評価には必要かと思う。オランダの TNO には燃焼室があるそうだ。

九州大学では保有していない。

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3.2 文献情報等の収集 上記、有識者インタビューなどから得た情報に基づき、文献情報等の収集を行い、昨年

度調査で欠けていた技術情報を補完した。 (1)繊維・テキスタイル 高強度耐熱繊維 昨年度調査において次世代高強度耐熱繊維の有力候補として提示した M5 ファイバーに

ついて、米国軍による試験が行われている。 初期段階の試験によれば、M5 に基づく防護服は、Kevler KM2 による防護服よりも

40-60% 少ない面密度で同等の防護性を有するとのことである。 M5 は、UV 耐性、火炎耐性も高いことから、その用途としては、防護ベストやヘルメッ

ト、車両や航空機、軽量で柔軟性のある防護衣などが想定されているとのことである。 図表3-1、3-2に、M5の優位性に関し、米国軍の研究者が評価した結果を示す。

図表3-1 180°F、85%R.H.に曝露した場合の M5 の強度ロス(Zylon との比較)23

(“HIGH PERFORMANCE “M5” FIBER FOR BALLISTICS / STRUCTURAL COMPOSITES”Philip M.

Cunniff*, Margaret A. Auerbach、U.S. Army Soldier and Biological Chemical Command)

23“HIGH PERFORMANCE “M5” FIBER FOR BALLISTICS / STRUCTURAL COMPOSITES”Philip M.

Cunniff*, Margaret A. Auerbach、U.S. Army Soldier and Biological Chemical Command

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図表3-2 他の KevlerKM2 で製造したボディアーマーと比較した他の繊維で製造した

製品に期待される同等性能品での重量ロス 23

(“HIGH PERFORMANCE “M5” FIBER FOR BALLISTICS / STRUCTURAL COMPOSITES”Philip M.

Cunniff*, Margaret A. Auerbach、U.S. Army Soldier and Biological Chemical Command) 難燃繊維 以下のような難燃繊維が市販されている。 ① ダイワボウノイ「ダイワボウプロバン」 ダイワボウノイの防炎加工「ダイワボウプロバン」は、綿繊維を難燃剤が完全に包んだ

構造であり、火炎に接触すると、難燃剤が分解し、コットンの分解を遅らせるほか、難燃

剤は分解すると五酸化リンを作り、綿繊維を脱水して炭化する。五酸化リンは炭化した綿

繊維を覆い、酸素を遮断するという特性を有する。 後加工のため汎用性にも優れ、綿100%の難燃素材であるため、ソフトな風合いや吸

汗性も兼ね備え、帯電性が低く、静電気の発生もほとんどない。 ② クラボウ「ブレバノ」 「ブレバノ」は難燃性に優れるモダクリル繊維「プロテックス」と綿の混紡素材であり、

高い防炎性能を有するとともに、綿が持つ吸水性や快適な着心地感を有する。着火した場

合は「プロテックス」が燃えずに炭化すると同時に不燃性物質が発生し、これが綿を炭化

させて燃焼スピードを抑制。炭化したプロテックスが綿の表面を覆って空気を遮断し、自

己消火するという特性を持つ。素材自体が難燃のため、洗濯による機能低下の心配もない

とのことである。 ③ ダイワボウレーヨン「FRコロナ」 無機物を練り込んだレーヨンで、燃焼しても無機物が骨格として残るため、炎により穴

が開かないのが特徴である。 ④ カネカ「プロテックス」 カネカのモダクリル繊維「プロテックス」は、100%使いだけでなく綿やレーヨンな

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どセルロース系繊維と混紡することで難燃性が若干向上するといった特性がある。 混紡で大きな力を発揮する特徴を生かし、作業服、耐熱防火服の裏地などに用いられる。 (2)縫製技術 レーザー縫製 衣服における縫い目は、たとえ小さいものであっても強度、耐久性、防水性におけるウ

ィークポイントとなる。そこで、糸で縫って布を接合する代わりに、レーザーによる溶接

で生地同士を接着させて作製された衣服が、防水性に優れる衣服として販売されている。 四軸織物 明大株式会社が世界で初めて開発に成功した四軸Ⓡ織物テトラスⓇ24は、抜群の寸歩安定

性と引裂き強度を誇る素材である。テトラスⓇでは、縦糸と横糸から構成される従来の織

物に斜め方向に二本の糸を交差させており、ゴルフクラブ、オーディオスピーカー、木造

建築用耐震補強材として使用実績がある。また、アラミド繊維を用いた四軸織物は東北パ

イオニア25により作製され、スピーカーとしての利用が検討されている他、アラミド繊維と

カーボン繊維の複合四軸織物は卓球のラケット26やバドミントンのラケット27に使用されて

いる。

図表3-3 明大株式会社が開発した四軸織物 24

(明大株式会社 http://www.meidai.co.jp/tetras02.htm)

24 明大株式会社 http://www.meidai.co.jp/tetras02.htm 25 東北パイオニア株式会社 http://pioneer.jp/topec/jigyo/sp/seihin_gijutu.html 26 http://www.mizuno.jp/catalog/product/18TT600/112001001/ 27 http://www.mizuno.jp/badminton/racket/index.html

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図表3-4 テトラスⓇの引き裂き強度特性 24

(明大株式会社 http://www.meidai.co.jp/tetras02.htm)

図表3-5 アラミド繊維を四軸織物として作製したスピーカー用振動板 25

(東北パイオニア株式会社 http://pioneer.jp/topec/jigyo/sp/seihin_gijutu.html)

三次元織物 縦糸と横糸を組み合わせて作製される通常の織物に対し、さらに垂直方向に糸を加えて

立体的な織物を作製することができる。目的とする形状に直接織ることができるため、成

型の過程での織物のカットが必要ない、またロスやしわも生じないという特徴がある。複

合材用強化基材として、航空機、宇宙部品、輸送機器、発電・電池材料、建築、産業用ロ

ボットアームなどに利用されている。また、株式会社豊田自動織機製作所からアラミド繊

維、または超高分子量ポリエチレン繊維などの高弾性率繊維で作製する三次元織物を防弾

用ベストとして利用しようとする特許が出願されている28。三次元構造により通常の素材よ

りも軽量化でき、薄く作製することが可能であるという。

28 特許公開2000-28296

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39

図表3-6 三次元織物製造装置29

(産業技術総合研究所

http://www.aist.go.jp/aist_j/information/result/1990_008/index.html)

図表3-7 三次元織物の概要30

(シキボウ中央研究所 http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~zplus/seihin.html)

図表3-8 三次元織物の製品例 30

(シキボウ中央研究所 http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~zplus/seihin.html) 軽量化技術(三次元編物) 表面部、連結部、裏面部から構成される三次元立体編み物は、空隙率が高く、軽量性、

断熱性、透水性、通気性、弾性に優れる材料である。数 mm から数十 mm の厚みで立体的

29 産業技術総合研究所

http://www.aist.go.jp/aist_j/information/result/1990_008/index.html 30 シキボウ中央研究所 http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~zplus/seihin.html

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に作製され、寝具、クッション材などに利用されている31。断熱性や通気性に優れた軽量の

内衣として防火服への利用が考えられる。

図表3-9 三次元編物の概要 31

(旭化成繊維株式会社 http://www.asahi-kasei.co.jp/fibers/fusion/whatfusion.html)

図表3-10 三次元編物の事例 31

(旭化成繊維株式会社 http://www.asahi-kasei.co.jp/fibers/fusion/whatfusion.html)

(3)設計・デザイン技術

EU では、欧州の衣料産業活性化のため、LEAPFROG プロジェクトを推進している。こ

のプロジェクトの中で 3D バーチャル・プロトタイピング技術が開発されている。 3D バーチャル・プロトタイピングは、人体、布地の正確な挙動を計算するため、衣服

および変形できるボディモデルを構築する。このシミュレーションによって、快適さを含

めた予測が可能になると期待される。このモデルにより、快適な衣服の合理的なデザイン

や、原価計算、製造方法や布地の最適化、ライフサイクル予測、布地や織り~縫製の自動

化、などが可能になると期待されている。 31旭化成繊維株式会社 http://www.asahi-kasei.co.jp/fibers/fusion/whatfusion.html

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図表3-11 LEAPFROG プロジェクトの基本概念32

(www.tmte.hu/051rendezvenyek_tanutak/051_271020innovacio1108-09_letolt_ binx/Walter_Budapest_08-11-2007.pdf)

(4)試験技術

North Carolina State University, College of textiles (NCSU)は、世界有数のテキスタイ

ル教育やテキスタイル研究を行っている大学である。この中に、Textile Protection and Comfort center33がある(センター長:Dr. Roger L. Barker 教授)。ここでは、スキンモデ

ル、極限の温度・湿度条件を制御可能な環境室、テキスタイル快適性に対する人間の応答

を計測する設備、サーマルマネキンなどの設備を持ち、衣服の防護性と快適性を大きなテ

ーマとして研究を行っている。防護服としては熱、炎、有害化学物質、血液感染性病原体

を対象として研究を行っている。 熱防護のための試験設備として、次の4つを保有している。

①Thermal Protection Performance (TPP) 6 x 6 in の試験片をサンプルとし、NFPA1971 基準に従ってそれぞれの熱耐性を計測する

ことができる。試験片はサンプルホルダーにセットされ、熱源上に置かれる。熱電対によ

り、伝達する熱量が計測される。熱流束の解析により、温度上昇速度、時間 vs 温度の傾き

などが求められる。 ②Radient Protection Performance (RPP) 32 www.tmte.hu/051rendezvenyek_tanutak/051_271020innovacio1108-09_letolt_ binx/Walter_Budapest_08-11-2007.pdf 33 http://www.tx.ncsu.edu/tpacc/

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3 つの試験片( 4 x 10 in.)を用い、それぞれの耐熱性を試験するものである。Indacore Radiant Protective Performance (RPP) Test 装置においては、ASTM F1939 基準法に従っ

て衣服の炎への耐性を試験するものである。 500W 赤外線のランプに約 80V の電圧をかけると、2.0 cal/cm2·sec (8.4 watts/cm2)の熱

流が発生する。素材試験片はサンプルホルダーにセットされ、熱源と平行に設置される。

装置を熱にさらすことができる時間は 60 秒以内である。

③Stored Energy Test (SET) 3 つの試験片( 6 x 6 in.)を用い、ASTM F1939 基準に準拠する方法によってそれぞれの放

射熱耐性を Indacore Stored Energy Test (SET)装置で計測する。 ④Full Garment Burns (Pyroman) センターの燃焼室には Pyroman というサーマルマネキンが設置されている。 Pyroman

は実物大のマネキンで、体内に埋め込んだ 122 の熱センサーにより、防火服の性能を評価

することができる。実際の炎に防火服を着用した Pyroman をさらすことにより、火傷によ

る組織の損傷を予測することが可能となる。 Pyroman は耐炎性のガラス繊維強化ポリエステル樹脂から作られている。体表面には全

体に 122 のヒートセンサーが配備され、燃焼室内に設置されている。サーマルマネキンか

ら採取されたデータはコンピューターに送信される。 (5)冷却器・冷却技術 ポンピングシューズ シューズの踵、または、つま先部分にクッション性のパーツを設置することにより、ク

ッションパーツがポンプの役割を果たし、歩くたびに空気の循環を促す一般用のシューズ

が考案されている。靴内部のポンプにより排出されたり吸引されたりする空気を、足元か

ら防火服内部に導入することにより、衣服内の空気の循環を促すことができると考えられ

る。その場合であっても、ボンベやヘルメット装備部分では空気の通り道が塞がれている

ため、ポンピングシューズによる防火服内の空気循環効果は下半身等に限られることが想

定される。

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図表3-12 市販されているポンピングシューズ34

(広島化成(株式会社) HP http://www.hiroshimakasei.co.jp/dunlopmotorsport/exta/function.html)

図表3-13 シューズの踵部分に設置されたポンプ構造の例35

(特許出願平 7-225609)

小型ファンと熱発電、振動発電 小型のファンを衣服内に設置し、空気の循環を促す仕組みにも一定の効果が期待できる。

消防現場では消火活動において大量の水を使用することから、ファンの電源としては、電

池を携帯するより、その場で発電する仕組みが望ましい。利用可能な発電技術としては、

防火服内外の温度差を利用する熱発電、または消防隊員の動きを利用した振動発電が挙げ

られる。 熱発電は熱電素子を用い、温度差によって発電するものである。発電装置としての利用

実績として、体温と気温の温度差により充電可能な腕時計として発売されたことがある36。

また、太陽光の届かない場合に、惑星探査機の宇宙用通信電源として熱発電が使用された。

34 広島化成(株式会社) HP http://www.hiroshimakasei.co.jp/dunlopmotorsport/exta/function.html 35 特許出願平 7-225609 36 シチズンウォッチ HP http://citizen.jp/cs/tec-joho/yasasii/netsu/netsu.htm

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図表3-14 熱電素子の概要 36

(シチズンウォッチ HP http://citizen.jp/cs/tec-joho/yasasii/netsu/netsu.htm)

振動発電は圧電素子を用いて人が歩く際や車・電車が移動する際の振動を利用して発電

するもので、近年はクリーンエネルギーとして着目されている。車の振動を利用した首都

高のライト点灯や37、人の足踏みを利用した発電に成功した事例38がある。

図表3-15 振動発電によるイルミネーション 37

(http://www.shutoko.jp/company/press/h19/071210/)

図表3-16 床内設置の圧電素子を用いた、人の移動に伴う振動を利用した発電床 38

(http://www.jreast.co.jp/press/2007_2/20080105.pdf)

37 http://www.shutoko.jp/company/press/h19/071210/ 38 http://www.jreast.co.jp/press/2007_2/20080105.pdf

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ペルチェ素子 電極と直列に接続された P 型および N 型の熱電半導体に電流を流すと、電荷の移動に伴

って熱の移動が起こる。すると、一方の電極側は吸熱現象により冷却され、他方の電極側

は発熱現象により熱が放出される。株式会社アンペールからは柔軟で薄いもの(2.5-3.0 mm)も市販されており、-40℃~+150℃の温度範囲で制御が可能である39。防火服の衣服内に冷

却面を設置し、発熱面を防火服外側に向けて取り付けることができれば、軽量冷却装置と

しての機能が期待できる。

図表3-17 薄型ペルチェ素子の概観 39

(http://www.ampere.co.jp/peltier/) Multiple sclerosis(多発性硬化症)のための冷却下着 EMPA(Swiss Federal Laboratories for Materials Testing and Research)の研究チーム

は、装着しても動作性の良い多発性硬化症のための冷却下着を開発した40。5-10μm 程度の 厚みのポリエステルが二層に積層された膜を利用している。膜の間にある空隙には 10mLの水が添加され、水分の表面からの蒸発による潜熱は、40 分程度で体表面を 4℃にまで冷

却することが可能である。

39 http://www.ampere.co.jp/peltier/ 40 http://www.empa.ch/plugin/template/empa/*/55476/

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図表3-18 多発性硬化症用冷却下着の概観 40

(http://www.empa.ch/plugin/template/empa/*/55476/)

図表3-19 多発性硬化症用冷却ベストの冷却原理 40

(http://www.empa.ch/plugin/template/empa/*/55476/) (6)その他の材料技術 近年、“メタマテリアル“という新しい概念に基づく材料の研究開発が進められつつある。 メタマテリアル(Meta-material)は、人工材料の一種であり、主として電磁波(光)に対

して、自然界の物質には無い振る舞いをするものことである。特に負の屈折率を持った物

質を指して用いられる。2007 年には米国防高等研究計画局(DARPA)がメタマテリアル

の発展形である「アシンメトリック・マテリアル」(Asymmetric material)によって、姿

の隠蔽・実体弾からの保護と内部からの攻撃を両立させる技術を開発していることが報道

された41。2007 年度から 2009 年度にかけて、計 1500 万ドルが支出される計画となってい

る。 この計画そのものは基礎研究であり、どこまで実用化に迫れるかは不明であるが、光学

的に負の屈折率を持つメタマテリアルは実際に作成されていることから、将来的には、特

定波長のみを選択的に透過し、不要な波長を全反射するような材料が実用化される可能性

がある。

41 http://hondakoichiro.net/blog/archives/47

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47

4.時系列情報の収集 4.1 既存のロードマップ等の調査 防火服ロードマップ策定の参考とするため、各種ロードマップを調査した。 (1)アカデミックロードマップ-ヒューマンインターフェイス アカデミックロードマップ(ARM)は、経済産業省の委託により、長期の技術ビジョン

を、分野に関連した学会・協会が策定しているもので、現時点では平成 19 年度版として、

応用物理、ロボット、化学、機械の四分野が公開されている。また、横断領域として、ヒ

ューマンインターフェイスに関するロードマップが公開されている。このヒューマンイン

ターフェイスロードマップの中で、防火服に直接関係するものは見当たらないが、間接的

に関係すると思われるものとして、①安全・快適なモビリティに向けたロードマップ、②

防災・減災の安心社会へのロードマップ、③感性の対象性からみたヒューマンインターフ

ェイスのロードマップがある。 ① 安全・快適なモビリティに向けたロードマップ 2020 年代までを見ると、以下のような自動車・外界の状況計測が進むとされている。こ

れに対し、ヒューマンモデリングや実感・感性・かかわりなどのヒューマンインターフェ

イスが進展するとされている。図表4-1に同領域のロードマップを示す。 2010 年代 操縦安定性・フィーリング評価、音・振動・質感評価、居眠り・注意力低下・ストレス

検出、損害低減、障害物・歩行者・二輪車検知、危険情報提供、ITS による交通の円滑化な

ど 2020 年代

感性デザイン、公共交通へのモーダルシフト、高齢ドライバーの運転支援、衝突回避、

出会い頭事故防止、カーブ進入危険防止など

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48

図表4-1 安全・快適なモビリティに向けたロードマップ42

(経済産業省発表:2008 年版アカデミックロードマップを参照ください) ② 防災減災の安心社会へのロードマップ 同分野では、2020 年代までの範囲で、以下のような技術進展が予想されている。 2010 年代 ライフログ、経験の共有、感性要素抽出、感性データの表現法、テレイグジスタンス、

メディアロボット、セカンドライフ、アンビエント情報社会、状況収集支援、情報フィル

タリング 2020 年代 超臨場感コミュニケーション、スーパハイビジョン放送、ディジタルヒューマン、ビヘ

ビアマイニング、非侵襲感性計測、思考の自動測定、疑似体験と実体験の融合、適応型モ

ダリティ、コミットメントの促進 図表4-2に同領域のロードマップを示す。

42 2008 年版アカデミックロードマップを元に MRI が部分的に加工

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49

図表4-2 防災減災の安心社会へのロードマップ43

(経済産業省発表:2008 年版アカデミックロードマップを参照ください) ③ 感性の対象性からみたヒューマンインターフェイスのロードマップ 同分野では、以下のような技術進展が予想されている。 ステージⅠ 2009-2020 (我慢の時代)

大量生産・アウトソーシング、多品種少量生産・一品生産、オンデマンドプロダクショ

ン、モノコトつくり、アッテンティブワークベンチ ステージⅡ 2020-2035 (感性力向上)

パーソナル I/F、対話型生産、労働環境 I/F、域内生産 I/F、チューブネットワーク輸送シ

ステム

図表4-3に同領域のロードマップを示す。

43 2008 年版アカデミックロードマップを元に MRI が部分的に加工

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50

図表4-3 感性の対象性からみたヒューマンインターフェイスのロードマップ44

(経済産業省発表:2008 年版アカデミックロードマップを参照ください) (2)アカデミックロードマップ-ロボット アカデミックロードマップ-ロボットにおいては、過去⇒現在(2007 年)⇒近未来(2025年頃)⇒未来(2050 年頃)という形での技術進展が予想されている。 これらのうち、防火服に直接関係する記載はないが、間接的に関連すると思われる技術

分野としては、①エネルギー、②高分子アクチュエータ、③生体適合材料メカ、がある。 ① エネルギー 2025 年にはロボットの自立化,高機能化に資する技術として、以下が実現するとされて

いる。 ・非接触エネルギー伝送 充電作業には、非接触エネルギー伝送を活用し、安全性を向上させる。

・分散型エネルギー貯蔵 大電力が必要なサーボモータ等の近傍には高出力バッテリを配置。制御部/基盤等には、

薄型蓄電池を直接配置し、制御の簡素化を図る。 ・電池の高密度化,薄型化(分散型エネルギー貯蔵) 各機器に対して,on demand な電力供給を行うことにより,電力制御機器の簡便化が測

られる。 44 2008 年版アカデミックロードマップを元に MRI が部分的に加工

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51

・制御用電源と計測用電源の切分 燃料電池と,リチウムイオン二次電池,電気二重層キャパシタのハイブリッド電源によ

り,大電力供給から制御機器の定常運用までが効率的に管理可能になる。 図表4-4にロボット-エネルギ-に関するロードマップ(2025 年分まで)を示す。

図表4-4 ロボット-エネルギ-に関するロードマップ(2025 年分まで)45

(経済産業省発表:2008 年版アカデミックロードマップを参照ください) ② 高分子アクチュエータ 高分子アクチュエータについては、2025 年の技術として、以下があげられている。 ・薄膜・積層化による高効率、高速素子 ・筋肉タンパク質ゲルによるソフトアクチュエータ ・筋電義手・義足、人工筋肉

45 2008 年版アカデミックロードマップを元に MRI が部分的に加工

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52

適用技術例としては、電気活性高分子による人工筋肉(薄膜・積層化による高速、高効

率な大型素子の開発、生体様制御技術の開発駆動電圧:数V以下、出力重量比:100kJ/kg、応答速度:~kHz、変換効率:>80%)、バイオアクチュエータの開発(運動たんぱく、ある

いは細胞利用によるアクチュエータ)などがあげられている。 図表4-5にロボット-高分子アクチュエータに関するロードマップ(2025 年分まで)

を示す。 図表4-5 ロボット-高分子アクチュエータに関するロードマップ(2025 年分まで)46

(経済産業省発表:2008 年版アカデミックロードマップを参照ください) ③ 生体適合メカ 生体適合メカについては、2025 年の技術として、以下があげられている。

•研究中の神経インタフェースが実用化(非侵襲型、侵襲型) •体内埋植装置の小型軽量化、耐久性・生体適合性向上 •電磁誘導による電力エネルギー伝送装置の小型軽量化 46 2008 年版アカデミックロードマップを元に MRI が部分的に加工

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•計測技術、信号処理技術の進展により、高度な神経インタフェースが実現 一方で、同応用における、無機材料の限界、電気エネルギーを用いることの限界が明確

になると、予想されている。 図表4-6にロボット-生体適合メカに関するロードマップ(2025 年分まで)を示す。 図表4-6 ロボット-高分子生体適合メカに関するロードマップ(2025 年分まで)47

(経済産業省発表:2008 年版アカデミックロードマップを参照ください)

47 2008 年版アカデミックロードマップを元に MRI が部分的に加工

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(3)技術戦略マップ-ファイバー 経済産業省/NEDO は、2004 年度より技術戦略マップを策定・公開している。現時点で

の最新版は 2008 年に公開されたもの(平成 19 年度策定分)である。 防火服に関係するものとしては、ファイバー分野、並びにナノテクノロジー-ナノファ

イバーの 2 領域がある。 ファイバー分野においては、①マテリアルセキュリティ、②生活等に、防火服や関連技

術に関する記載が見られる。また、直接的な記載はないものの、高温・高強度繊維製品の

応用領域として、③自動車に関するマップも参考になる。 図表4-7から図表4-9にそれぞれのロードマップのうち、防火服技術のロードマッ

プに関連すると思われる部分を抜粋して示す。

図表4-7 ファイバー分野ロードマップ-マテリアルセキュリティ(抜粋)48

(NEDO 2008 年版技術戦略マップをご参照ください) 48 2008 年版技術戦略マップを元に、MRI が加工

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図表4-8 ファイバー分野ロードマップ-生活等(抜粋)49

(NEDO 2008 年版技術戦略マップをご参照ください)

49 2008 年版技術戦略マップを元に、MRI が加工

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図表4-9 ファイバー分野ロードマップ-自動車分野(抜粋)50

(NEDO 2008 年版技術戦略マップをご参照ください)

50 2008 年版技術戦略マップを元に、MRI が加工

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(4)技術戦略マップ-ナノテクノロジー-ナノファイバー 技術戦略マップーナノテクノロジー分野において、ナノファイバーに関するロードマッ

プが策定されている。このマップから、衣料、消防服に関連する部分を図表4-10に抜

粋して示す。

図表4-10 ナノテクノロジーロードマップーナノファイバー分野(抜粋)51

(NEDO 2008 年版技術戦略マップをご参照ください)

51 2008 年版技術戦略マップを元に、MRI が加工

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(5)欧州テキスタイルビジョン EURATEX(The European Apparel and Textile Organisation)52は 2004 年に 2020年を目指した欧州の繊維関連産業の進むべき方向性を示す、Vision2020 を発表した。この

中で、欧州テキスタイル産業の進むべき方向性として、①標準品から特殊品へ、②繊維品

の新しい用途開発、③大量生産からカスタマイズ生産へ、との方向性が示された。この後、

戦略的研究指針(SRA)が 2006 年にまとめられた。SRA には 9 つの重点研究テーマが記載さ

れている。図表4-11に9つの重点テーマを示す。現在はこの戦略に基づき、幾つかの

プロジェクトが進められている。図表4-12に主要プロジェクトリストを示す。 欧州では、テキスタイルとエレクトロニクス技術、バイオ技術、ナノ技術等との融合(シ

ステム化)によるテクニカルテキスタイルの開発が中心であること、また、アパレル生産

システムの効率化のための技術開発が積極的に進められていることが特徴的である。

図表4-11 欧州テキスタイル SRA に記載された9つの重点テーマ 長期重点項目 9つの重点研究テーマ 定番品から特殊品

へ ① New speciality fibres and fibre-composites for innovative textile products(革新的な繊維製品のための新しい特殊繊維や繊維複合材)

②Functionalisation of textile materials and related processes(繊維

素材および関連する工程の機能化) ③ Bio-based materials, biotechnologies and environmentally friendly textile processing(バイオベースの材料、バイオテクノロジー

および環境に優しい繊維製造) 繊維品の新しい用

途開発 ④ New textile products for improved human performance(人体の

機能向上のための新しい繊維製品) ⑤ New textile products for innovative technical applications(革新

的な産業資材用途向けの新しい繊維製品) ⑥Smart textiles and clothing(スマートテキスタイルおよび衣服)

大量生産からカス

タマイズ生産へ ⑦Mass customisation(マスカスタマイゼーション) ⑧New design and product development concepts and technologies(新しい製品設計・製品開発コンセプトと技術) ⑨Integrated quality and life cycle management concepts(統合化さ

れた品質管理とライフサイクル管理)

52 http://www.euratex.org/

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図表4-12 繊維関連の主要プロジェクト

プロジェクト名称 開始 終了 概要 総予算 (M€)

健康管理を支援するためのバイオセンシングテキスタイル(BIOTEX)

2005 2008

テキスタイルと小型センサーの融合による、人の生命情報(心拍数、血圧等)を遠隔管理できる革新的テキスタイルの開発。

3.1

防護 E-テキスタイル: 緊急―災害用防護服のためのマイクローナノ構造繊維システム(PROETEX)

2006 2010ナノ構造繊維システムの活用による緊急災害用防護服の開発。

12.8

革新的なアパレル生産システムの開発 (LEAPFROG)

2005 2009

生産効率の向上、生産システムのインテリジェント化をベースとする、短納期・マーケットインに対応できる革新的アパレル生産システムを開発。

23.46

新たな製造技術及びパラダイムシフトを促す多機能繊維の開発

2005 2008 新たな製造技術及びパラダイムシフトを促す多機能繊維の開発 12.28

多機能防護テキスタイルの開発

2005 2008ポリマー吐出の精密制御技術に基づく多機能テキスタイルの開発。

12.69

(6)米国軍事研究(軍服関連) 米国では兵士の将来像として、図表4-13に示す、future warrior というコンセプト

を提示し、このコンセプト実現に向けた研究開発を産学官で進めている。

図表4-13 Future Warrior に向けてのビジョン53

(www.dtic.mil/ndia/2002terror/watson.pdf)

53 www.dtic.mil/ndia/2002terror/watson.pdf

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U.S. Army Soldier Systems Center(米国陸軍兵士システムセンター)内に所在する Natick

Soldier Center(マサチューセッツ州ナティック)は、この研究開発の中核であり、兵士

の安全性・機動性・戦闘効率などの面から様々な研究開発を進めている。先端繊維材料に

ついても様々な研究開発を行っている。図表4-14に、近年の代表的な繊維技術開発例

をまとめる。

図表4-14 Natic Soldier Center で実施された近年の代表的な繊維技術開発例

テーマ 概要

選択的透過膜の応用による軽量化学・生物防護服の開発

選択的透過膜(以下、SPM)は繊維に化学物質等の自己不活性化機能など選択的透過のための高度な機能を付与した先端材料で、同技術によって作られた防護服は外部環境の有毒物からのバリア性(化学・生物兵器による有毒物質の衣服内への進入阻止)を高めながら、通気性を保ち、且つ生地の厚さや重さが低減されているため、兵士用の防護服として有用である。このための技術開発を進める。

エレクトロスピニング技術によるシームレスガーメントの製造

シームレスガーメントは人体の三次元計測によって得られた人体立体スクリーン上に、ES 法(エレクトロスピニング)によって繊維を直接的に吹き付ける方法で製造することを目指した研究開発が進められている。コンピューター製造システムとして効率化できる可能性がある。

エレクトロテキスタイルの開発

テキスタイル材料や軍事機材へのコンピュータ等エレクトロニクス技術の統合化のための研究開発が行われている。兵士用システムへのエレクトロニクス技術の統合が実現すれば、現場にいる兵士と遠隔地の常時情報交換が実現され、兵士の安全性向上や効率的な任務遂行に資すると期待される。

低コスト難燃ユニフォームの開発

米軍ユニフォームのスタンダード規格であるNomex/Kevlarを不織布として利用する技術が研究開発されている。不織布として使用できれば製造工程が簡素化でき、約 40%コスト削減が可能となる。

陸軍兵士用ユニフォームへの防虫加工技術の開発

蚊、ハエ、ダニ等によって媒介する伝染病(ライム病、西ナイル熱)に対する防護、将来の生物兵器対策などを目的として、2種類の加工技術・製品(一般産業用製品と兵士用製品)を開発した(既に商品化されている)。

多目的環境防護服の開発

既存のものより軽量で、嵩が小さく、着用時のガサツキ音の発生の低減、通気性確保、撥水性改善といった防護服を開発した(既に商品化)。

生物工学的技術による導電性/光学活性ポリマーの開発

優れた電気的及び光学的機能を備えた新規材料を開発するため、生物工学的手法による技術開発を進めている。導電性があり光学的活性なポリアニリンとポリフェノールの合成に着目し、酵素による重合技術を開発した(高分子導電体を開発)。

空軍パイロット用のクーリングガーメントの開発

液冷式クーリングガーメントを開発した。冷却液(ガーメント内を循環する冷却液量は約 900g)はチューブを通ってガーメント内(2枚のレイヤー(綿100%)の間にチューブが収められた構造)を循環し、着用者の上半身を適度に冷却する。注入する冷却液の温度が 18℃で、循環速度を 12g/h とした場合、180W の熱除去能力をもつ。このクーリングガーメントは軽量で通気性も良く、洗濯機での洗濯が可能である(2004 年度より商品化)。

この他、米国の繊維系大学の共同研究体である NTC(National Textile Center)や、MITの soldier nanotech センターでもハイテク繊維の研究開発が進められている。

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4.2 過去の技術進展の経緯の調査 (1)防火服 Paul Hasenmeier のレポート(2008 personal protective equipment e-Newsletter)に

基づき、消防服等の歴史(米国)を概観する。 初期段階 初期(20世紀初頭)の消防士の制服は、ウール製(パンツ並びにロングトレンチコー

ト)であった。コートの下には通常赤色のコットンもしくはウール製のシャツが着用され

た。靴は革製のブーツであった。 この後、ゴムが製造されるようになり、ゴム製のレインコートがウールコートの上に着

用されるようになり、熱防護、防水性が確保されるようになった。ゴム製のブーツも用い

られるようになった。 第 1 次世界大戦時にキャノン砲の担当者向けに、彼らの足を銃弾の破片、水、泥、熱い

薬きょうなどから防護するパンツが実用化され、これが戦後、消防服に使用されるように

なった。 この時代、消防士の呼吸器に対する保護はほとんど考慮されず、高々フィルターマスク

などが用いられるに過ぎなかった。 発展期 第 2 次世界大戦後、消防隊員向け個人防護機器の技術が発展した。幾つかの機関が性能

試験や性能標準の確立に取り組み、National Fire Protection Association (NFPA)などによ

る標準が作られた(NFPA1971)。この時点で、防火服は 3 層構造が基準となり、また、手足

の防護についても基準が設けられた。 呼吸器は第 2 次大戦後に高高度を飛行するクルー向けに開発され、これが消防士向けに

スピンオフされた。 現在~将来 現在の防火服は過去にテストされた技術の組み合わせからなる。材料や温度特性は改良

されているものの、コートおよびパンツは3層であり、NFPA 標準と同様である。ヘルメ

ットなどのデザインにも大きな変更はない。 将来は、より優れた熱的特性、衣服の様々な場所への熱センサーの実装、GPS と SCBA(呼

吸器)の統合などが標準となるかも知れない。 以上から、防火服を初めとする消防士の個人装備品は、①軍用の防護服や保護技術に起

源を有すること、②消防士の個人装備品に大きな改善が生じたのは第2次世界大戦後であ

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ること、③防護服の基本デザインは1970年頃からは殆ど変化がないこと、④少なくと

も近い将来については、防火服に大きなデザイン上の変化は生じないと思われること、⑤

代わりに、軽量・高機能センサーがウェアラブルデバイスとして多数実装されるようにな

ると予想されること、などを見てとることができる。 (2)軍用防護服 軍用の個人防護服は、防弾、防刃性に加え、活動性の確保、防水性、透湿性といった様々

な要求にこたえるものである必要がある。これらは、戦闘服+ヘルメット+ボディアーマ

ーの組み合わせにより実現される。この組み合わせの直接の原型は、第1次世界大戦時に

遡ることができる。 ヘルメット 第1次世界大戦時、機関銃やライフルから頭部を保護するため、鉄製のヘルメットが実

用化された。第2次世界大戦後、ケブラーの開発並びにケブラー布を積層・樹脂で固めた

ヘルメットが開発され(1970年代)、防弾性能並びに軽量化が実現した。現在でも、軽量

化と防弾性能の向上を目指し、新素材(ザイロンなど)の利用が進められている。 ボディアーマー ボディアーマーについても、現在の原型的なものは、第1次世界大戦時に誕生した。ヘ

ルメットと同様、初期は金属性であり、重量は 20kg にも及ぶものもあった。この重量で作

戦行動をとることは極めて困難であったため、金属製ボディアーマーは比較的短期間で姿

を消すこととなった。 第 2 次大戦末期、ナイロンの発明とともに、手榴弾などの破片防御用としてのボディア

ーマーが誕生した。これらは、ナイロン繊維を網目状にし、何層も積層化したものであっ

た。更にケブラーが発明され、小火器程度の弾丸であれば充分に防御できるようなボディ

アーマーが誕生した。現在でも更なる高機能化のため、技術開発が進められている。 戦闘服 第 2 次世界大戦後あたりまでは、戦闘服といえばコットン製が一般であった。しかしな

がら現在ではコットン/ナイロン混紡素材の布にナイロン繊維を網目状に編みこんだリッ

プストップ素材が主流となっている。また、防水性・透湿性をともに満足させるゴアテッ

クスや、ボーラテック(インナー用)なども用いられている。

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5.技術マップのアップデート 以上の検討を踏まえ、昨年度策定した技術マップを改訂した。改訂箇所は以下の通りで

ある。 外 衣 ① 撥水・防水性と軽量化への寄与として、レーザー縫製技術を追加 ② 将来の高度な熱放射制御の可能性を秘めたアシンメトリック材料(メタマテリアル)を

追加 ③ 防火服の運動性と熱マネージメントを最適化し得る技術としてコンピュータ設計を追

加 内衣・中間層 ④ 主として軽量化に寄与する技術として 4 軸織、3 次元織を追加 装 備 ⑤ 軽量化に寄与する材料として CFRP を追加 ⑥ 将来の高度な熱放射制御の可能性を秘めたアシンメトリック材料を追加 ⑦ 無動力ベンチレーション技術として、ポンピングシューズを追加 ⑧ 小型冷却デバイスとしてペルチェ素子を追加 ⑨ 自立型ウェアラブル発電技術として熱電・圧電発電を追加 図表5-1に技術マップを示す。なお付属資料1に拡大図を示す。

図表5-1 技術マップを示す。

内衣・中間層

第一優先ニーズ

第三優先ニーズ

外衣 インナー

第二優先ニーズ

装備

繊維の異形化遮熱塗料

次世代スーパー繊維 M5

示温インク

熱応答性アクチュエーター

中空繊維

ストレッチ性

クールジャケット

安全性・活動性の飛躍的向上

耐久性・維持

軽量化

撥水・防水性

遮熱性

快適性

繊維の高機能化

無縫製技術

異方性熱伝達素材

ナノボイド繊維

マテリアルリサイクル

セルフクリーニング

ナノファイバー

芯鞘構造

自己調節機能繊維

構造撥水表面

宇宙機用断熱材

スポーツ用ウェア

空調服

PCM

軽量素材による代替

危険回避

次世代スーパー繊維M5

遮熱塗料

コンピュータ設計

アシンメトリック材料

レーザー縫製

ナノコンポジット

4軸織、3次元織

高性能CFRP

アシンメトリック材料

熱電・圧電発電

ペルチェ素子

ポンピングシューズ

内衣・中間層

第一優先ニーズ

第三優先ニーズ

外衣 インナー

第二優先ニーズ

装備

繊維の異形化遮熱塗料

次世代スーパー繊維 M5

示温インク

熱応答性アクチュエーター

中空繊維

ストレッチ性

クールジャケット

安全性・活動性の飛躍的向上

耐久性・維持

軽量化

撥水・防水性

遮熱性

快適性

繊維の高機能化

無縫製技術

異方性熱伝達素材

ナノボイド繊維

マテリアルリサイクル

セルフクリーニング

ナノファイバー

芯鞘構造

自己調節機能繊維

構造撥水表面

宇宙機用断熱材

スポーツ用ウェア

空調服

PCM

軽量素材による代替

危険回避

次世代スーパー繊維M5

遮熱塗料

コンピュータ設計

アシンメトリック材料

レーザー縫製

ナノコンポジット

4軸織、3次元織

高性能CFRP

アシンメトリック材料

熱電・圧電発電

ペルチェ素子

ポンピングシューズ

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6.ロードマップの作成 6.1 ロードマップフレームの検討 (1)概要 消防用防火服の技術として研究開発されている技術があまりないこと、消防分野がゼロ

から開発するようなケースは考えにくい(特に部材レベル)ことから、基本的には、他分

野で研究開発・製品化された技術・製品のうち消防分野でも利用可能な技術を消防分野用

にカスタマイズして導入することを想定した。 実際に消防分野に導入されるか否か、あるいは導入時期は、消防向け研究開発が行われ

るか否か、また、どのタイミングで行われるかに大きく依存する。ここでは、他分野で何

らかの製品化が行われた(あるいは製品化の目処がたった)段階で、消防分野への導入研

究開発が行われるということを想定して、時期等を設定した。 (2)ロードマップのフレーム 項目軸として、防火服の部位別に、デザイン、(縫製)、部材といった要素を設定した。

図表6-1 にロードマップの項目軸フレームを示す。

図表6-1 ロードマップの項目軸フレーム

防火衣

デザイン

縫製

部材 防火衣 外衣部材

中間層・内衣部材

下着

デザイン

縫製

部材

ヘルメッ

デザイン

部材 ヘルメット

布部(しころなど)

グローブ デザイン

部材

シューズ デザイン

部材

冷却器

時間軸は、2010、2015、2020 年の 3 目盛で記載することとした。

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(3)記号について 技術マップとの対応をとるため、以下の記号を用いることとした。

機能に関する記号 記号 意味 備考 ■ 撥水・防水性 第 1 優先ニーズ □ 軽量化 ● 遮熱性 第 2 優先ニーズ ○ 耐久性・維持 ▲ 快適性 第 3 優先ニーズ △ 危険回避 また、主としてどのような応用を意図して開発がなされるかを明確化するため、用途に関

する記号として、以下を用いることとした。

用途に関する記号 記号 意味 (軍) 軍事、防衛、警察用(隊員が着装する製品) (産) 産業目的(産業活動用として、人員が着装する製品) (消) 消防服目的として本業務において設定したもの (ス) スポーツ向け(着装品) (般) 一般向け(着装品) (資) 着装用ではなく、機器等の部材・資材として使用

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6.2 ロードマップの作成 調査結果を総合して、ロードマップを作成した。図表6-2にロードマップを示す。ま

た、これを3分割して拡大したものを付属資料2に示す。

図表6-2 防火服ロードマップ

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7.提言 今回策定したロードマップは、基本的には、他領域の技術が実用化した段階で、その成

果を速やかに消防分野で取り入れることを前提としている。 米国では、軍用技術が警察・消防などに直結しており、スピンオフが期待される。また、

欧州では、強力なイニシアティブによる繊維―アパレル研究開発が進められており、防火

服もその枠組みの中に位置づけられている。 一方、わが国においては、繊維素材やテキスタイル、縫製技術、小型電子デバイス・材

料に強みを持っているにも係らず、最終製品としての衣服の運動性設計や放熱設計といっ

た下流側技術が相対的に手薄であることから、欧米に伍していけるだけの防火服を製造す

る技術がいつまでも維持できるとは限らない。 防火服は、それぞれの国情や体格、活動状態により最適な設計が異なるため、海外から

の輸入品にのみ頼ることはできない。 このような背景を踏まえ、図表7-1に示すような産学官連携によるスーパー消防服の

開発プロジェクトを進めることを提言する。このプロジェクトは、設計-製造―縫製―試

験という一連のサイクルを、消防研究センターを含む学術機関が連携して担当し、これに

部材メーカーやテキスタイルメーカー、防火服メーカーが協力する、という形をとるもの

である。このような形とすることで、①欧米に伍していけるだけの一連の技術の確立、②

メーカーへの技術移転、③製品としての防火服・軽量材料などの実用化が達成できると期

待される。

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図表7-1 産学官連携によるスーパー消防服の開発プロジェクト構想

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付属資料1 防火服の技術マップ

内衣・中間層

第一優先ニーズ

第三優先ニーズ

外衣 インナー

第二優先ニーズ

装備

繊維の異形化遮熱塗料

次世代スーパー繊維 M5

示温インク

熱応答性アクチュエーター

中空繊維

ストレッチ性

クールジャケット

安全性・活動性の飛躍的向上

耐久性・維持

軽量化

撥水・防水性

遮熱性

快適性

繊維の高機能化

無縫製技術

異方性熱伝達素材

ナノボイド繊維

マテリアルリサイクル

セルフクリーニング

ナノファイバー

芯鞘構造

自己調節機能繊維

構造撥水表面

宇宙機用断熱材

スポーツ用ウェア

空調服

PCM

軽量素材による代替

危険回避

次世代スーパー繊維M5

遮熱塗料

コンピュータ設計

アシンメトリック材料

レーザー縫製

ナノコンポジット

4軸織、3次元織

高性能CFRP

アシンメトリック材料

熱電・圧電発電

ペルチェ素子

ポンピングシューズ

内衣・中間層

第一優先ニーズ

第三優先ニーズ

外衣 インナー

第二優先ニーズ

装備

繊維の異形化遮熱塗料

次世代スーパー繊維 M5

示温インク

熱応答性アクチュエーター

中空繊維

ストレッチ性

クールジャケット

安全性・活動性の飛躍的向上

耐久性・維持

軽量化

撥水・防水性

遮熱性

快適性

繊維の高機能化

無縫製技術

異方性熱伝達素材

ナノボイド繊維

マテリアルリサイクル

セルフクリーニング

ナノファイバー

芯鞘構造

自己調節機能繊維

構造撥水表面

宇宙機用断熱材

スポーツ用ウェア

空調服

PCM

軽量素材による代替

危険回避

次世代スーパー繊維M5

遮熱塗料

コンピュータ設計

アシンメトリック材料

レーザー縫製

ナノコンポジット

4軸織、3次元織

高性能CFRP

アシンメトリック材料

熱電・圧電発電

ペルチェ素子

ポンピングシューズ

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付属資料2 防火服のロードマップ(1/3)

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防火服のロードマップ(2/3)

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防火服のロードマップ(3/3)

記号説明 記号 意味 備考 記号 意味 ■ 撥水・防水性 第 1 優先ニーズ (軍) 軍事、防衛、警察用(隊員が着装する製品) □ 軽量化 (産) 産業目的(産業活動用として、人員が着装する製品) ● 遮熱性 第 2 優先ニーズ (消) 消防服目的として本業務において設定したもの ○ 耐久性・維持 (ス) スポーツ向け(着装品) ▲ 快適性 第 3 優先ニーズ (般) 一般向け(着装品) △ 危険回避 (資) 着装用ではなく、機器等の部材・資材として使用