卒業論文執筆指導を部分的に標準化するための 参考文献データベース...

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- 49 - 高崎経済大学論集 第53巻 第1号 2010 4961Summary Design of a reference database solution was for improved guidance for preparation of reference lists in graduation theses. The major functions are management of literatures and preparation of reference list. The development tool was FileMaker Pro Advanced. Target users are senior students of my seminar class. Two of fifteen seminar students who used this database needed little guidance to prepare their reference list. 課 題 ゼミ生の卒業論文作成指導において、参考文献リストの書き方が分からない学生が毎年多く出る。 論文を書くという経験が事実上初めてなので仕方がないと言える。また、先輩の卒業論文を見て、 そこからどういう法則があるのかを読み取るという作業をしていないようだ。法則を読み取る訓練 そのものは重要で、大切な訓練となりうる。しかし、筆者が担当する演習生は毎学年十数名いるの で、一々指導するのも担当教員として煩わしくはある。参考文献リスト作成を自動化できるデータ ベースを作成し、学生に使わせる事で、卒業論文の中身を指導する時間を増やす事ができるだろ う。 参考文献リストの書き方指導の中でも最も労力を費やす第一の問題は、各レコード(1件1件の 書誌)の中でのフィールドの並び順についてのものである。学生は、各レコードの中でのフィール ドの並び順がどうなるかについて知らないということである。1件1件の文献について、著者名、 年、論文題目、雑誌題目、巻、号、頁番号、といったフィールド(項目)の並び順について、ある 卒業論文執筆指導を部分的に標準化するための 参考文献データベースの設計 A Design of Reference Database for Partial Standardization of Guidance of Graduation Theses Fujimoto Tetsu

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高崎経済大学論集 第53巻 第1号 2010 49~61頁

Summary

Design of a reference database solution was for improved guidance for preparation of reference

lists in graduation theses. The major functions are management of literatures and preparation of

reference list. The development tool was FileMaker Pro Advanced. Target users are senior

students of my seminar class. Two of fifteen seminar students who used this database needed little

guidance to prepare their reference list.

課 題

ゼミ生の卒業論文作成指導において、参考文献リストの書き方が分からない学生が毎年多く出る。

論文を書くという経験が事実上初めてなので仕方がないと言える。また、先輩の卒業論文を見て、

そこからどういう法則があるのかを読み取るという作業をしていないようだ。法則を読み取る訓練

そのものは重要で、大切な訓練となりうる。しかし、筆者が担当する演習生は毎学年十数名いるの

で、一々指導するのも担当教員として煩わしくはある。参考文献リスト作成を自動化できるデータ

ベースを作成し、学生に使わせる事で、卒業論文の中身を指導する時間を増やす事ができるだろ

う。

参考文献リストの書き方指導の中でも最も労力を費やす第一の問題は、各レコード(1件1件の

書誌)の中でのフィールドの並び順についてのものである。学生は、各レコードの中でのフィール

ドの並び順がどうなるかについて知らないということである。1件1件の文献について、著者名、

年、論文題目、雑誌題目、巻、号、頁番号、といったフィールド(項目)の並び順について、ある

卒業論文執筆指導を部分的に標準化するための参考文献データベースの設計

藤 本   哲

A Design of Reference Database for Partial Standardization ofGuidance of Graduation Theses

Fujimoto Tetsu

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程度の決まりが存在するのだが、各種の論文や書籍においてそれぞれのやり方があり、完全な統一

がなされているわけではないので、たまたま目についた資料で使われている並び順を使ってしまう

ことが多いようである。

第二の問題は、レコードの並び順である。私の指導する卒業論文の場合は、欧文文献を使う事は

ほとんどなく和文文献のみなので、著者名の読み方の五十音順を使う場合が多い。ところが実際に

学生が最初に参考文献リストを書く場合、引用順に書く例が結構ある。確かに引用順で書かれてい

る文献もあるにはあるのだが、通常は著者名の読みで並べるものである。また良くある誤りは、題

目の五十音順で並べることである。これは書誌を題目から書き出すという誤り、つまりフィールド

の並び順の知識がないことと関連していると思われる。

第三の課題は、文献資料の管理である。卒業論文のための文献としては、論文を中心とするよう

筆者は指導している。先ず国立情報学研究所の Ci.nii データベースを検索し、無料で入手可能な論

文を集めるよう指導している。それらの整理保存をどうするかの指導が必要になる。また図書の場

合は、大学の図書館に所蔵されているかどうか、所蔵されていないならどこにあるか、入手は可能

か、購入した物はどれか、などの状態を記録しておく必要がある。これらを能率的に遂行可能なデ

ータベースを学生に提供する事で、資料の読み込みや思考、執筆といった作業により多くの時間を

充てる事が可能になるだろう。

以上のような課題を解決するためには、データベース・ソフトウェアの利用が最も手っ取り早い

と思われる。そのようなデータベース・ソフトウェアの利用によって課題に対応しようとする事例

として、「こんなん欲しかってんキャンパスツール」がある。これは同志社大学と同志社女子大学

の学生プロジェクトによるソフトウェアである。「こんなん欲しかってんキャンパスツール」(関口

2004)および「こんなん欲しかってん Part2」(関口2005)という名称で公開されている。そこに

は、住所録、ゼミ用の文献整理・記録、授業記録、ゼミの授業記録、舞台芸術・映画・書籍の記録

整理、といったデータベースがある。それらは、データベース・ソフトウェアである FileMaker

Pro Advanced(ファイルメーカー社)を用いて製作されている。

FileMaker Pro Advanced には、FileMaker Pro(ファイルメーカー社)がPCに導入されていなく

ても使う事のできるランタイム版(ファイルメーカー社の用語では「ランタイムソリューション」

あるいは「ランタイムアプリケーション」)を作成する機能がある。前述のプロジェクトでも、ラ

ンタイム版と通常版(FileMaker Pro が必要)の両方が提供されている。我々の課題においても、

ランタイム版を作る事で、ゼミ生に無償で提供する事ができる。FileMaker Pro Advanced を使っ

て、目的を達成するランタイム版データベースを作り、学生が使う事により、学生の利便性を向上

させる事ができるだろう。また、教育におけるコンピュータ利用の促進を図る事が可能となるだろ

う。但し、参考文献データベースと、卒業論文の質の面における向上とは、直接的な関係は見られ

ないだろうというのは言うまでもない。

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開発方法

今回作成に使用するソフトウェアは、FileMaker Pro 10 Advanced、バージョン10.0v3(ファイ

ルメーカー社)である。購入の予算は、筆者の所属している大学から支給されている個人研究費を

充てた。

開発のターゲットとするオペレーティング・ソフトウェアとしては、Windows XP(マイクロソ

フト社)を対象とすることにした。それは、今回のデータベース設計を開始した時点において、筆

者の所属している大学のコンピュータ教室に配備されている端末用パーソナル・コンピュータに

は、オペレーティング・ソフトウェアとして、Windows XP Professional が導入されていたからで

ある。

最終的な提供形態はランタイム版アプリケーションとする。FileMaker Pro においてデータベー

ス・ソリューションを開発した場合、それを使用するには FileMaker Pro を要するのが通常である。

しかし FileMaker Pro は有償のソフトウェアであり、その価格は学生に購入させるには高価である。

しかしながら FileMaker Pro のシリーズには、FileMaker Pro Advanced と称するものがあり、ラ

ンタイム版アプリケーションが作成可能である。ランタイム版アプリケーションとは、FileMaker

Pro がなくても実行可能なアプリケーション形式のソフトウェアである。FileMaker Pro Advanced

によって作成されたランタイム版アプリケーションは、無償で配布する事ができる。

開発の方法としては、段階的機能実装方式を採用する。必要度の高い機能から順に、段階的に機

能を実装していく。少し作っては試しに動かし、うまくいったら次を付け足して試す、ということ

の繰り返しで、機能を増やしていく。FileMaker によるデータベース設計の利点を最大に生かす開

発方法である。修正も比較的容易である。また、開発作業そのものに手間をなるべくかけないため、

画面設計は簡素にし、機能も必要最小限のものだけを盛り込むこととした。

開発目標

今回目指す開発目標は、文献リストの(半)自動作成ができることである。要求仕様の第1は、

最終的な文献リストは1件1行の形式で出力される、である。それはタブやコンマなどを含めない

形式にする。つまりタブやコンマといった区切り文字(セパレータ)を使用しないということであ

る。参考文献の管理を表計算ソフトウェア、代表的な物としてマイクロソフト社のエクセル、で行

う場合もある。これは並べ替えが容易になるという利点が大きい。しかしながら、リストをテキス

ト・ファイルに書き出すにあたって、タブやコンマといったフィールドの区切り文字が入ってしま

い、それを除去するために手間がかかるという問題がある。そのため区切り文字が入らないように

出力したい。

要求仕様の第2は、文献の並び順が、ボタンを一回押すだけで自動的に適切なものとなること、

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である。但しこの点については、開発の難易度を下げるため、並び順が概ね合っていればよしとす

る。使用者が最終的に出力された参考文献リストを見て、正確な並び順へと修正すればいいものと

する。

要求仕様の第3は、全ての必要な機能をボタン化するということである。新規レコードの作成

(追加)といった、File Maker Pro そのものに入っているメニューも、一々ボタン化することによ

り、慣れない利用者にも使いやすい物とすることが可能となるだろう。

フィールド

通常のデータベース設計においては、予め細かいところまで仕様を詰めておく必要があるといわ

れる。段階的機能実装方式の利点は、最初から細かいところまで詰めておく必要がないところにあ

る。とはいえ、ある程度の仕様は固めておくのが望ましい。初期段階で必要と思われたフィールド

は以下の通りである。

文献種別。参考文献リストを出力する際に、文献種別によって使用すべきフィールドが異なる場

合がある。それを制御するための情報として、このフィールドが必要となる。文献種別としては、

書籍、書籍の一部、論文、記事(新聞、雑誌)、web、その他、といった選択肢を今回は用意した。

著者名読み。通常の学術的論文であれば、参考文献リストにおける参考文献の並び順は、著者名

のアルファベット順か五十音順であることが多い。今回は筆者の学部演習生の卒業論文において使

用する事を目的としているため、五十音順で並べる事とする。そのため、このフィールドは、全角

平仮名もしくは全角片仮名で入力してもらうこととする。フィールドの属性はテキストとなる。

著者。このフィールドに書き込まれたデータはそのまま出力において使われる。そのため、「編」

や「監」あるいは「訳」といった接尾語なども必要に応じて利用者に入力してもらうことになる。

専門の文献管理ソフトウェアでは、姓と名を別のフィールドにしているものがあるが、設計の難易

度を下げるため、そこまではやらないこととした。後述の編者フィールドは、参考文献として書籍

の一部を使っている場合に使うものとして設計したので、一冊丸々をリストに入れる場合はここに

「○○編」などと書き込むようにする。フィールドの属性はテキストとなる。

発行年。通常は単に西暦年を入力してもらうだけである。しかし、同一著者で同年の文献が複数

あった場合に、「2009a、2009b」などとアルファベットの添え字を付けて区別するので、フィール

ドの属性は数字ではなくテキストとしたいところである。今回は開発の難易度を下げるため、また

学部学生の卒業論文であるため、その必要性が乏しいであろうと想定し、フィールドの属性は数字

とした。書誌への出力時には半角文字の丸括弧でくくる。

論文・記事題目。書誌への出力時には鉤括弧でくくる部分となる。後述の書籍や雑誌題目は二重

鉤括弧でくくるので、分けることとした。フィールドの属性はテキストとなる。

編者。複数著者による分担執筆の書籍の中にある論文や章の場合、書誌の並び方を考慮すると、

著者フィールドと編者フィールドを分けておく必要性があると考えられる。フィールドの属性はテ

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キストとなる。

書籍・雑誌題目。書誌情報の出力時に、このフィールドのデータは、二重鉤括弧でくくられるこ

とになる。フィールドの属性はテキストとなる。

巻。専門雑誌論文の場合、このフィールドは必須の場合がほとんどである。フィールドの属性は

数字となる。

号。専門雑誌論文の場合、このフィールドが必要とされない場合が多いが、必要な場合もある。

また号は、番号のことが多いが、「Spring」や「Special Issue」など数字でない場合もあるので、

フィールドの属性はテキストとする。

頁。開始頁と終了頁および区切り文字を書き込む必要があり、フィールドの属性はテキストとす

る。

出版社・発行団体。書誌への出力時の扱いが、書籍の場合と論文の場合で異なるようにした。論

文の場合には書誌への出力時に丸括弧を付ける。書籍の場合は付けない。フィールドの属性はテキ

ストとなる。

URL。資料を参照するためのURLを入力するフィールドである。フィールドの属性はテキスト

となる。後述するが、このURLをウェブ・ブラウザで開くためのボタンを付けた。

ファイル。論文などのファイルを格納するフィールドである。PDFファイル等をハードディスク

やUSBドライブに収納することが多いが、データベースのファイルそのものに収めることにより、

利便性を高めることが可能になる。卒業論文が完成してしまえば、使ってきたデータベースそのも

のも、当人にとっては不要になるので、データベースの使用期間は限られている、というのも想定

されている。フィールドの属性はオブジェクトとなる。

所蔵場所・入手状態。ここには、資料の所蔵場所や、大学の図書館には所蔵されていない、とい

った情報、自分で既に入手しているかどうか、などの情報を記入する。フィールドの属性はテキス

トとなる。将来的には、チェックボックスもしくはラジオボタン等によって、簡単に入力できるよ

うにしたい。

メモ欄。ここには該当する文献に関するメモを記入する。フィールドの属性はテキストとなる。

書誌確認欄。文献種別に応じた書誌が自動的に生成される。先ず、文献種別毎にフィールドを用

意し、それぞれにスクリプトを作って自動生成させる。次に、それらを文献種別フィールドの値に

応じて選択し、書誌確認欄フィールドに表示させる。フィールドの属性は計算となる。

レイアウト

レイアウトは2つ用意した。個別文献詳細と文献一覧表である。これらを切り替えて利用するこ

とになる。

第一の個別文献詳細は、データの入力・訂正や、詳細情報の閲覧に用いる。図1はその画面例で

ある。設計の特長としては、単純・簡潔(simple)で分かり易いこと、各種の説明文を画面に盛り

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込むこと、の2点が挙げられる。データベース・ソフトウェアなどというものを使ったことのある

学生はほとんどいないので、分かり易いことを重視した。また手引き書(manual)がなくても使

えるようにと、説明文を画面に直に書き込んだ。また、レコードの削除はこのレイアウトで行うよ

うにした。

第2の文献一覧表は、文字通り一覧するためのものである。図2はその画面例である。並べ替え

や、参考文献リストの書き出しも、このレイアウトで行うようにした。設計の特長は、個別文献詳

細レイアウトと同様に、単純・簡潔で分かり易いこと、各種の説明文を画面に盛り込むこと、の2

点が挙げられる。また、一覧表において表示する必要性が乏しいと思われる幾つかのフィールドは

表示されないようにした。それらは、「ファイル」、「メモ欄」、「書誌確認欄」の3つである。

ボタン(機能)およびスクリプト

このデータベースで行う機能の表現と実行指示のために、ボタンを使用した。また機能の実現に

は FileMaker が備えているスクリプトを用いる。このデータベースで実装したボタンは以下の通

りである。

このデータベースを終了させるためのボタンとして、「このファイルを閉じる」ボタンがある。

FileMaker の仕様の特長の一つに、メニューの中に保存が無いことが挙げられる。つまりデータの

図1 個別文献詳細レイアウトの画面例

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保存は自動的に行われるのである。そのため「入力されたデータは自動で保存される」と画面に書

き込んだ。ランタイム版の場合には、このボタンを押すことにより、ファイルを閉じると同時にデ

ータベースが終了する。

レイアウトを切り替えるためのボタンとして、「個別文献詳細へ」と「文献一覧表へ」がある。

今のレイアウトが個別文献詳細レイアウトの時には、そのことを示すため、「個別文献詳細へ」ボ

タンは表示されず、単に「個別文献詳細」と書かれているだけである。そして「文献一覧表へ」ボ

タンが表示される。逆に、今のレイアウトが文献一覧表レイアウトの時には、そのことを示すため、

「文献一覧表へ」ボタンは表示されず、単に「文献一覧表」と書かれているだけである。そして

「個別文献詳細へ」ボタンが表示される。

個別文献詳細レイアウトにのみ表示されるボタンは8つある。

文献の情報を新しく登録するために「新規文献登録」ボタンがある。これを押すことにより空の

レコードが作られる。国立情報学研究所の Ci.nii データベースから取得できる書誌ファイルのデー

タ(TSV型式のみ)を取り込むため、「Ci.nii 書誌ファイル(TSV 型式)のデータを取り込む」

ボタンがある。但し通常は取り込み後に手作業での修正が必要なので、その旨を表す説明文を画面

に盛り込んでいる。レコードを削除するためには「このレコード(カード)を削除」ボタンがある。

このボタンを押すと、本当に削除するのかと問うダイアローグ・ボックスが表示され、該当するボ

タンを押すことにより実行される。レコードを移動する、つまりカードをめくるためのボタンとし

て、「▲」と「▼」もある。

URL フィールドに入力された URL をウェブ・ブラウザで開くために、「Web browser で URL を

開く」ボタンを用意した。ボタンの名前が長いと思われるかもしれないが、分かり易いことを優先

した。ファイル・フィールドへのファイルの取り込みと取り出しのためのボタンもある。「ファイ

図2 文献一覧表レイアウトの画面例

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ルの取り込み」と「ファイルの取り出し」ボタンである。ファイルを取り出す頻度は小さいであろ

うと思われたので、取り出しのボタンは小さくなっている。

文献一覧表レイアウトにのみ表示されるボタンは3つある。

参考文献リストの並べ方は通常 Name Year 方式である。著者名読みフィールドと発行年フィー

ルドを使って並べ替えるため、「著者名読み・年で並べる」ボタンがある。

「全レコード(カード)を表示」ボタンは、Ci.nii 書誌ファイル(TSV 型式)のデータを取り込

んだ後のこのデータベースの挙動へ対応するために用意した。個別文献詳細レイアウトにおいて

Ci.nii 書誌ファイル(TSV 型式)のデータを取り込んだ後に、文献一覧表レイアウトに切り替える

と、その時に取り込んだレコードしか表示されない。データベース・ソフトウェアをよく使ってい

る人ならば直ぐに分かるのだが、本データベースが利用を想定している対象者には混乱をもたらす

だろう。そのためこのボタンと、個別文献詳細レイアウトにおいて説明文を盛り込んでいる。

卒業論文の原稿に参考文献リストを書き入れるため、参考文献リストを出力するときには「参考

文献リストをファイルへ書き出す」ボタンがある。このボタンを押すと、書誌確認欄フィールドだ

けがプレーン・テキスト・ファイルに書き出される。(例を図3に挙げる。)その中身は1件1行形

図3 書き出された参考文献リストの例

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式で、フィールドは一つだけのため、タブは入らない。利用者は、その中身を確認し、適宜訂正し

て、参考文献リストを卒業論文の原稿ファイルへ挿入する。

今回は盛り込まなかったボタンについて触れておきたい。今回は検索機能を盛り込まなかった。

卒業論文で用いる程度の参考文献の本数ならば、一覧表で並べ替えて、目で探してもなんとかなる

と思われるからである。但し、FileMaker に備わっている検索機能を使うことが可能なので、検索

そのものは可能である。ランタイム版の場合でも検索機能は使用可能である。

書誌の生成方式

書誌を生成するための方式として、開発当初はスクリプトを使用した方式を採用した。この場合、

スクリプト実行のためにボタンを作ることになる。つまり自動更新はできず、更新するためにはボ

タンを押さなければならない。そのため、計算フィールドを用いた方式へ切り替えることになっ

た。

自動更新するためには計算フィールドを使いたい。しかし一つの計算フィールドで全てを済ませ

るのは難しいと思われた。参考文献リストの場合、文献の種別によって使われるフィールドが少し

ずつ違っている。例えば、論文なら巻が必須だが、書籍には通常はない。頁番号は、書籍には通常

不要だが、論文や書籍の一部なら必須である。そのため、第1段階として、全6種類の文献種別の

やり方で書誌を生成する計算フィールドを6種類(「書誌作成・書籍」「書誌作成・書籍の一部」

「書誌作成・論文」「書誌作成・記事」「書誌作成・Web」「書誌作成・その他」)用意して、全て

計算させておく。なおこれらのフィールドは利用者の目に触れないようになっている。第2段階で

図4 データベース管理のウィンドウ

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は、文献種別フィールドの値に応じて、6種類の中から一つを選び、書誌確認欄フィールドに表示

させるようにした。これも計算フィールドとして、自動更新させるようにした。図4にデータベー

ス管理のウィンドウを、図5と図6には計算式指定ウィンドウの例が示されている。

図5 計算式指定ウィンドウの例(書誌作成・論文フィールド)

図6 計算式指定ウィンドウの例(書誌確認欄フィールド)

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ランタイム版の作成

筆者は Mac(アップル社)を日常使用しており、設計も Mac 版 FileMaker で行った。しかし所

属する大学のパソコン教室にあるのは Windows パソコンであり、多くの学生が自宅に保有するの

も同様である。そのためWindowsオペレーティング・システム(マイクロソフト社)で動作するラ

ンタイム版を作成する必要がある。筆者は Windows パソコンを保有していないため、所属大学の

情報センターが管理する貸し出し用のノート型パソコンを借り、FileMaker Pro 10 Advanced をイ

ンストールした上で、Windows オペレーティング・システムで動作するランタイム版を作成した。

作成したランタイム版を、パソコン教室用の PC サーバにある配布フォルダ領域にある筆者に割

り当てられた領域にコピーした。これにより筆者所属大学の学生は自由にコピー可能となる。同時

に簡単な説明書を書き、同じ場所に用意した。

結 果

2009年の夏休み明けに、筆者の4年ゼミ生(当時)にこのデータベースを紹介し、使ってもらう

ことにした。パソコン教室において使い方を説明し、USB ドライブにコピーしてもらった。その

後も時折使い方について質問があり、その都度答えた。

後期の授業最終日に、このデータベースを使ったかどうかを聞いてみた。すると、15名の4年ゼ

ミ生のうちで使ったのは2名のみであった。それまでの授業において卒業論文の指導をしているの

であるが、多くのゼミ生には、参考文献リストの書き方について不備があり、その都度指導をして

いた。しかし、このデータベースを使ったと答えた2名には、少なくともリストの並び順について

指導をした覚えがなかった。あったのは、例えば、論文の発行団体名が欠けている等、必要な情報

ではあるが学生には気がつきにくい情報が不足していた場合に、指導した程度である。

実際に使用した学生の比率は小さいが、このデータベースを使用した2名の学生についてはリスト

の並び順の指導が不要になったというのは、データベース開発前の課題に対応することができたこと

を意味すると思われる。卒業論文執筆指導の部分的標準化の端緒を開くことができたといえよう。

考 察

新しいソフトウェア等の効果を測定するためには、導入前と導入後の生産性の測定あるいは導入

した場合と導入しなかった場合での測定が不可欠である。あるいは、他の手段、例えば表計算ソフ

トウェアで文献管理をする場合との比較をすることである。今回の場合には正確な測定を可能とす

るような実験条件を設定し、手続きを実施することができなかった。さらに、そもそもほとんどの

学生達にとって文献管理をするということそのものが初めての経験であった。

本データベースを活用しなかった学生の方が多かったという結果については、幾つかの理由を考

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えることができる。第一の理由は、データベース・ソフトウェアを使う事そのもののハードルが高

かったのかもしれない。多くの学生にとっては、表計算ソフトウェアを使うことにはある程度馴れ

てはいるが、データベース・ソフトウェアを使うという経験はほとんどない。そのとっつきにくさ

が、使用を躊躇させたのかもしれない。

第二に、そもそも参考文献の本数が少ないので、データベースを使う必然性が感じられなかった

のかもしれない。諺に「牛刀をもって鶏を割く」というものがある。その程度の参考文献の本数な

らば、データベースはおろか表計算ソフトウェアも使う必要がないと考えたのかもしれない。

第三は、ランタイム版の場合、数多くのファイルで構成されていて、一見して複雑そうに見えた

のかもしれない、ということである。ソフトウェア・アプリケーションを動かすためには多くのフ

ァイルが実際には用いられていることが多いが、利用者に分かり易くするために、パッケージ化手

法により、あたかも一つのファイルであるかのように見せかけることがある。FileMaker のランタ

イム版の場合は、このパッケージ化がなされない。しかしこれは筆者にとってはどうしようもない

ことである。

実際の演習において、筆者が当初想定しなかった使い方が見られた。データベースに収録した論

文ファイルを読もうとする場合、「ファイルの取り出し」ボタンを押して、「ファイル」フィールド

に格納されているファイルを取り出してデスクトップ等に保存し、そのファイルをダブルクリック

して開いて読むという手順を想定していた。ところが論文ファイルを読もうとする場合には、イン

ターネットにつながっているパソコンなら「Web browser で URL を開く」ボタンでインターネッ

ト上にある目的のファイルを開く方が、より簡便なようで、学生達はこちらを多用していた。

なお、このデータベースを使った2名の内1名から次のような改善提案を受けた。参考文献として

多くの文献を書き込むのだが、最終的には引用文献として使わない文献が出てくる。そこで、使う文

献と使わない文献を区別した上で、使う文献のみリストとして出力できればいい。この提案を含め、

今後もこのデータベースを少しずつ改訂し、多くの学生に使ってもらえるようにしていきたい。

結 論

卒業論文の参考文献リスト作成指導を改善するために、参考文献データベースを設計した。開発

にはデータベース・ソフトウェアの FileMaker Pro Advanced を使用した。主な機能は、文献管理

と参考文献リスト作成である。対象となる利用者は筆者の4年次演習生である。ゼミ生15人中2名

が使用したが、その二人には参考文献リスト作成指導はほとんど必要なかった。

(ふじもと てつ・本学経済学部教授)

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参考文献小山香織(2006)『FileMaker Pro8.5基礎講座 for Win/Mac』オーム社関口英里(監修)(2004)「こんなん欲しかってんキャンパスツール」(2004年度同志社ローム記念館助成プロジェクト)http://rohm.drm.doshisha.ac.jp/doc/project/contents/2004.html#01関口英里(監修)(2005)「こんなん欲しかってん Part2」(2005年度同志社ローム記念館助成プロジェクト)http://rohm.drm.doshisha.ac.jp/doc/project/contents/2005.html#01