修士論文中間報告会 - 立教大学 · (3)m > 1012 1013g(˝ 107 1012s)...

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修士論文中間報告会 日時 2014年7月3日17:00〜19:00 場所 12号館第3・4会議室 ポスター 番号 発表者 タイトル 指導教員 ページ 1 崔シモン 原始ブラックホールの質量分布に対する制限 原田知広 2 2 野口綾太 放射線がん治療における中性子線量の評価 洞口拓磨 4 3 田沼良介 時間反転対称性の破れ探索のための 高速Trigger/DAQシステムの開発 村田次郎 6 4 小林和馬 MPPCを用いたアクティブストッパーの開発 栗田和好 8 5 松尾咲希 SCRIT実験における、散乱電子スペクトルメータの開発 栗田和好 10 6 佐藤允基 超小型深宇宙探査機搭載用ジオコロナ撮像装置LAICAの開発 亀田真吾 12 7 奥村 K-Ar年代測定のための、LIBSを用いたAr輝線の検出実験 亀田真吾 14 8 西 咲音 一般化されたGalilean Genesis モデルについて 小林努 16 9 尾崎早智 MTV実験の為の偏極ビームストッパーの開発、及び 系統性の調査 村田次郎 18 10 小川修三 新型X線干渉計の開発 北本俊二 20 11 岩渕あづさ レーザープラズマ光源を用いた希ガス固体における光励起脱離実験 平山孝人 22 12 岡将太郎 有限密度格子QCD における カノニカル・アプローチの問題点とその改良法 江口徹 24 13 齋場俊太朗 デジタル顕微鏡を用いた次世代近距離重力実験Newton-V の開発 村田次郎 25 14 作田友美 Newton -IVhを用いた ミリメートルスケールでの逆二乗則の高精度検証 村田次郎 27 15 松澤秀之 次世代PSD型中性子検出器NiGIRI の開発 家城和夫 29 16 鈴木大朗 共生X線連星の解析に向けたHXD/GSOのBackgroundの研究 北本俊二 31 ・ポスターは全員17:00までに会場のホワイトボードに貼っておくこと。 ・ポスター番号が奇数の発表者は17:00〜18:00、偶数の発表者は18:00〜19:00に説明に立つこと。 ・指定時間以外は他の人のポスターを見て議論に参加すること。 1

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修士論文中間報告会

日時 2014年7月3日17:00〜19:00

場所 12号館第3・4会議室

ポスター番号

発表者 タイトル 指導教員 ページ

1 崔シモン 原始ブラックホールの質量分布に対する制限 原田知広 2

2 野口綾太 放射線がん治療における中性子線量の評価 洞口拓磨 4

3 田沼良介時間反転対称性の破れ探索のための     高速Trigger/DAQシステムの開発

村田次郎 6

4 小林和馬 MPPCを用いたアクティブストッパーの開発 栗田和好 8

5 松尾咲希 SCRIT実験における、散乱電子スペクトルメータの開発 栗田和好 10

6 佐藤允基 超小型深宇宙探査機搭載用ジオコロナ撮像装置LAICAの開発 亀田真吾 12

7 奥村 裕 K-Ar年代測定のための、LIBSを用いたAr輝線の検出実験 亀田真吾 14

8 西 咲音 一般化されたGalilean Genesis モデルについて 小林努 16

9 尾崎早智 MTV実験の為の偏極ビームストッパーの開発、及び 系統性の調査 村田次郎 18

10 小川修三 新型X線干渉計の開発 北本俊二 20

11 岩渕あづさ レーザープラズマ光源を用いた希ガス固体における光励起脱離実験 平山孝人 22

12 岡将太郎有限密度格子QCD における     カノニカル・アプローチの問題点とその改良法

江口徹 24

13 齋場俊太朗 デジタル顕微鏡を用いた次世代近距離重力実験Newton-V の開発 村田次郎 25

14 作田友美Newton -IVhを用いた     ミリメートルスケールでの逆二乗則の高精度検証

村田次郎 27

15 松澤秀之 次世代PSD型中性子検出器NiGIRI の開発 家城和夫 29

16 鈴木大朗 共生X線連星の解析に向けたHXD/GSOのBackgroundの研究 北本俊二 31

・ポスターは全員17:00までに会場のホワイトボードに貼っておくこと。・ポスター番号が奇数の発表者は17:00〜18:00、偶数の発表者は18:00〜19:00に説明に立つこと。・指定時間以外は他の人のポスターを見て議論に参加すること。

1

原始ブラックホールの質量分布に対する制限

The Constraints of the Primordial Black-Hole Abundance

崔シモン

指導教員 原田知広

1. Introductionここでは、主に文献 [1]、[2]を使い、原始ブラックホールに関連したレビューを行う。初期宇宙において、大振幅

の原始密度揺らぎによって重力崩壊が引き起こされ、広範囲な質量をもつことが可能なブラックホールが形成される。

これらは原始ブラックホール (PBH)と呼ばれ、幅広い質量で生成されるが、現在の観測結果によって、存在量にさまざまな制限がつけらている。一方で、PBHの密度分布は初期密度揺らぎから計算することができるため、PBHに対する制限は初期密度ゆらぎの制限につながっていることになる [1]。 

2. PBH質量分布PBHの形成後に断熱的に宇宙が膨張したと想定すると、PBHの数密度とエントロピー密度の比 nPBH/s が保存さ

れる。PBH形成時における宇宙に対する質量の割合は、数密度 sPBH (t) を使い、以下のように表される。。

β(M) ≡ρPBH (ti )ρ(ti )

MnPBH (ti )ρ(ti )

≈ 7.98 × 10−29γ−1/2( g∗i106.75

)1/4 M

M⊙

3/2 (nPBH (t0)1Gpc−3

) (1)

γ は重力崩壊の仕方に依存する係数で、添え字 i は PBH形成時の値であることを示している。さらに便宜上、β(M)

を次のように定義しなおす。

β′(M) ≡ γ1/2( g∗i106.75

)−1/4β(M) (2)

この β′(M) に対して、様々な宇宙モデルから制限がつけられており、ビッグバンでの核反応 (BBN)、銀河外 γ 線背景放射 (EGB)、宇宙背景放射 (CMB)によるものが挙げられる [2]。例えば、Zel’dovichらによると、陽子による中性子の捕捉や、4He 崩壊によって重水素が増加し、以下のような制限がつけられる [3]。

β′(M) <

6 × 10−18M−1/210 (M 109 − 1010g)

6 × 10−22M−1/210 (M 1010 − 5 × 1010g)

3 × 10−23M5/210 (M 5 × 1010 − 5 × 1011g)

3 × 10−21M−1/210 (M 5 × 1011 − 1013g)

(3)

3. BBNによる β(M) に対する制限

PBHから放出される粒子によって標準的な BBN制限は、3つの場合に分けることができる。(1)背景宇宙において、弱い相互作用が終わった後、高エネルギーメソンと反核子は陽子と中性子の間の相互転化を引き起こす。(2)BBNで合成された光は、高エネルギーハドロンによって分解されるので、3He が減少し、D , T, 3He , 6Li , 7Li が増加する。

(3)高エネルギーの光子がさらに 4He を分解する。(1)~(3)の過程に対応するボルツマン方程式は以下のようになる。

dnN

dt+ 3HnN

[dnN

dt

]SBBN

+[

dnN

dt

]conv

+[

dnN

dt

]hadron

+[

dnN

dt

(N p , n)

dnAi

dt+ 3HnAi

[dnAi

dt

]SBBN

+[

dnAi

dt

]hadron

+[

dnAi

dt

(Ai D , T, 3He , 4He , 6Li , 7Li)(4)

ただし、添え字"SBBN"は標準的なビッグバン核反応による寄与を [4]、"conv"は強い相互作用による中性子から陽子への転換によるもの、"hadron"はハドロンシャワーによる生成消滅、"γ"は光分解による生成消滅を表すとする。(1)~(3) の過程により、(1)M 109 − 1010 g(τ 10−2 − 102s) (2)M 1010 − 1012 g(τ 102 − 107s)

2

(3)M > 1012 − 1013 g(τ 107 − 1012s) に対応する質量を持った PBHの分布が制限される。

4. 今後の展望PBHを制限するものとしては他にも、マイクロレンズ、プランク質量残存物、重力波などが挙げられる。特に、パ

ルサーからの重力波の観測データからは、厳しい制限がつけられることが知られている [5]。これらが具体的にどのような制限を作っているのかについて考察していきたい。また、現在の宇宙はビッグバンにより膨張し続けていると

されているが、量子重力の効果を取り入れ、十分なエネルギーがあるとすれば、ある未来に収縮する、もしくは、過

去に収縮して崩壊した可能性があると考えられている [6]。このような宇宙論は、ビッグ・クランチと呼ばれ、崩壊の前後に、プレ・クランチ・ブラックホール (PCBH)、ビッグ・クランチ・ブラックホール (BCBH)と呼ばれるブラックホールが形成されうる。もしこれらのようなブラックホールが観測されれば、ビッグ・クランチの有効な手掛かり

になると期待されている。

5. 参考文献[1] B.J.Carr,K.Khori,Y.Sendouda and J.Yokoyama,Phys.Rev.D.81(2010)104019[2] B.J.Carr.arXiv.1402.1437(2014)[3] Ya.B. Zel’dovich,A.A.Strobinskii, M.Yu. Khlopov, and V.M.Chechetkin,Pis’ma Astron. Zh. 3,208(1977)

[Sov.Astron.Kett.3,110(1977)][4] L.Kawano,Let’s go: Early Universe 2. Primordial nucleosinthesis the computer way , NASA Technical No. NASA-

CR-190118, Fermilab Report No. FERMILAB-PBU-92/04-A (NASA/Fermilab,1992).[5] Ryo Saito, Jun’ichi Yokoyama Phys.Rev.Lett.102.161101(2009)[6] B.J.Carr and A.A.Coley, Int.J.Mod.Phys.D.20(2011)2733-2738.

3

放射線がん治療における中性子線量の評価

EEvvaalluuaattiioonn ooff nneeuuttrroonn ddoossee iinn rraaddiiaattiioonn tthheerraappyy

野口綾太

指導教員 洞口拓磨

11..はじめに

今日がんは日本人の死因の第一位であり、日本人の三人に一人ががんで亡くなり、二人に一人が罹患する

と言われている[[11]]。がんの治療法には主に外科治療、化学治療、放射線治療がある。特に患者の予後の QQOOLL

(QQuuaalliittyy OOff LLiiffee)が高い放射線治療への期待が高まっている。放射線治療には、電子線・XX線・陽子線・

炭素線・中性子線など様々な放射線が用いられ、それぞれの治療放射線の特徴を活かしたがん治療が行われ

ている。一方、治療放射線によって発生する二次粒子についての研究は十分とは言い難い。特に陽子線や炭

素線を用いる粒子線治療や原子核の束縛エネルギー以上の XX 線を用いる放射線治療では、中性子の生成が避

けられず、中性子による正常細胞への影響を評価することが極めて重要である。また、近年注目を浴びてい

るホウ素中性子捕獲療法((BBNNCCTT))では中性子線を直接用いるため、同様の評価を行うことの意義は大きい。そ

こで本研究では、放射線治療における中性子生成とその被ばく量についての定量的な評価を行うことを目標

とする。

22..実験方法

中性子生成による被ばく量を求めるため、治療放射線により体内で発生する中性子量と、中性子のエネル

ギー付与を、汎用の粒子・重イオン輸送計算コード PHITS[2]を用いて、シミュレーションにより評価する。更に生成中性子由来の被ばく量を抽出し、3次元線量分布を作成する。

33..現状

PPHHIITTSS を用いて、Fig.1のような円柱型水ファントムを用いて陽子線及び炭素線入射の場合におけるシミュレーションを行い、発生する中性子の飛跡分布を作成した。陽子線・炭素線共に同一部位に照射されている

ことを保証するために、陽子線・炭素線のブラッグピーク位置が同じになるようにエネルギーを調整してあ

る。

Fig.1 シミュレーションの模式図

4

Fig.2 152MeVの陽子線(左図)及び 292MeVの炭素線(右図)104個を水ファントムに照射したときに生成した

中性子の飛跡分布

44..今後の展望

ターゲットを円柱水ファントムから人体ファントムに変え、より実践的なシミュレーションを行う。陽子

線・炭素線だけでなく、XX線・電子線・中性子線におけるシミュレーションも行う。また PPHHIITTSS の出力結果

から中性子由来のエネルギー付与を計算するために、RROOOOTT[[33]]等の解析用フレームワークを用いて独自の計算

アルゴリズムを構築し、中性子による 33次元線量分布の作成を行う予定である。

[参考文献] [1] 厚生労働省 政策レポート「がん対策について」http://www.mhlw.go.jp/seisaku/24.html [2] T. Sato, K. Niita, N. Matsuda, S. Hashimoto, Y. Iwamoto, S. Noda, T. Ogawa, H. Iwase, H. Nakashima, T. Fukahori, K. Okumura, T. Kai, S. Chiba, T. Furuta and L. Sihver, Particle and Heavy Ion Transport Code System PHITS, Version 2.52, J. Nucl. Sci. Technol. 50:9, 913-923 (2013) [3] ROOT (Data Analysis Framework): http://root.cern.ch/drupal/

5

Development of high-speed Trigger/DAQ system for the search for T-violation at TRIUMF

時間反転対称性の破れ探索のための高速 Trigger/DAQ システムの開発

Ryosuke Tanuma

Supervisor : Jiro Murata 1. Introduction

There should be a large CP (T) -violating phenomena outside of the Standard Model, because the amplitude of CP-violation predicted by the CKM mechanism is not enough to explain a matter-dominated universe. The MTV (Mott polarimetry for T-Violation) experiment at TRIUMF [1] is aiming to search a new physics beyond the Standard Model via T-violation in nuclear beta decay. The existence of transverse polarization of the electron emitted from polarized nucleus is implied. The transverse polarization is measured as left-right scattering asymmetry in backward scattering event by a thin metal foil. Then the trajectory (called “V-track”) of the electron is detected with a CDC (Cylindrical Drift Chamber) in event by event. The scattering angles of these V-tracks are measured in the MTV experiment. The MTV experiment requires high statistical and systematic precision. The CDC with 400 anode wires was commissioned in 2011 as a next generation tracking detector after performing the MTV experiment (Run-II [2]) in 2010 using a planar drift chamber with 104 anode wires. The purpose of the CDC is to suppress the systematic error caused by the geometrical asymmetry of the previous planer drift chamber. In contrast, a data acquisition system became a bottleneck in terms of statistical precision due to the increased readout channel with the CDC installation. In order to achieve a high statistical precision, a high speed-triggering and DAQ system is required in the MTV experiment. The first performance test of the triggering and DAQ for the CDC was carried out in 2012 (Run-IV [3]). After that, the final test experiment for the physics run using the CDC was performed in 2013 (Run-V).

The experimental setup is shown in Figure 1. A triggering detector consists of 12 Trigger Counters with 1mm thick

plastic scintillation counter and 12 Stopping Counters with 7cm thick plastic scintillation counter, so as to select the V-track event in online intelligent triggering. Polarized Li-8 beam is implanted to a 10μm aluminum target in the stopper. The emitted electrons are backwardly scattered by an analyzer foil after penetrating the Trigger Counter and CDC, and finally stopped by the Stopping Counter. The signals from all the sense wires are read out using 13 ASD boards and input to FPGA-based Trigger/DAQ system. The subject of my study is the development of the system. 2. FPGA-based Trigger/DAQ system

To satisfy the requirement, the FPGA-based system including both triggering and DAQ parts in a single FPGA chip has been developed, which consists of a master - slave system with 3 general purpose VME board (CAEN V1495 [4]). Figure 2 shows a schematic outline of the present system. In the triggering section, the online fast triggering system is installed which can select the V-track events from the huge undesired scattering events. The Level-1 trigger is generated by a combination of the triggering counters. The Level-2 trigger is generated by using wire hitting pattern information of the CDC. Since the readout speed is limited by the VME system, a simple hit-pattern register (called “Coincidence Register” in Fig. 2) is implemented in the FPGA. This resister acquires the only hit pattern of the CDC and the event size could be minimized. To reject an accidental hit event, the online timing selecting function is developed by setting coincidence window. In addition, online time width selecting function is also implemented in order to distinguish real wire hit from cross talk or other electrical noise.

x

z

ASD

ASD

ASD

Trigger Counter

Analyzer foil

Stopping Counter

CDC

Beam

Stopper

Trigger/DA

Q system

Figure 1. The outline of FPGA-based Trigger/DAQ system.

6

3. Progress

The result of the performance test is that 100 kHz triggering rate can be handled by this DAQ system. The performance test was carried out with the simulated trigger signal generated by a random pulse generator. The DAQ speed with 1μs coincidence window was measured as the triggering rate dependence in DAQ live time. As shown in Figure 3, DAQ live time of this hit-pattern register keeps 80 % at 100 kHz triggering rate. On the other hand, the performance of the previous TDC system in 2010 Run-II downs to 40 % at the rate.

Reference

[1] J. Murata et al., J. Phys. CS 312, 102011 (2011). [2] J. Murata et al., EPJ Web of Conferences 66, 10014 (2014) [3] R. Tanuma et al. JPS Conference Proceedings 1, 013069 (2014) [4] CAEN V1495 (General Purpose VME Board): http://www.caen.it/ [5] R. Tanuma et al., Physics of Particles and Nuclei, 2014 Vol.45, No.1, pp. 241-243 2014. [6] R. Tanuma et al., “FPGA-based Trigger/DAQ system of the MTV experiment at TRIUMF” in 19th Real Time

Conference, Conference Record, 2014 in press.

Figure 2. The outline of FPGA-based Trigger/DAQ system.

Figure 3. DAQ live time comparison.

7

Development of an Active Stopper with MPPC Read Out( MPPCを用いたアクティブストッパーの開発)

K.KobayashiSupervisor K.Kurita

 

1 Introduction

44S is known to have an isomeric state with spin-parityJπ = 0+ and lifetime of 2.6 µs. An excited nucleus gener-ally de-excites to a low-energy state by emitting a γ-ray.However, the transition with ∆J = 0, for example fromthe isomer state 44S∗ (0+2 ) to

44S (0+g.s.), is forbidden andno transition will occur. In this case, the nucleus is de-excited by a process called internal conversion. In thistransition the inner most electrons are given excitationenergy from the nucleus and then emitted. From theabove, it is necessary to measure kinetic energy of theconversion electrons in order to search excited state ofthe nucleus.

The purpose of this study was to develop an ac-tive stopper using plastic scintillator with MPPC (MultiPixel Photon Counter) [1] read out for measuring energyof the electrons.

2 Active Stopper

Active Stopper consists of plastic scintillator (BC408,150 × 100 × 20 mm) and four MPPCs (Hamamatsu Pho-tonics S12572-100C). Two MPPCs each were mounted onthe sides of it in 50 mm pitch as shown in Figure 1(a).

Output signals of the MPPCs are individually readout, as shown in Figure 2. These four signals are usedfor obtaining kinematic energy but also interaction posi-tions of incident particles upon the stopper.

(a) A picture of active stop-per

(b) An illustration of readoutcircuit.

Figure 1: (a) A picture of stopper. Four signals aresent to a read-out board through each leads. (b) Anillustration of readout circuit which consists of registers(R1 = 1 kΩ, R2 = 51 Ω) and a capacitor (C1 = 0.1 µF).

Figure 2: An example of MPPC signal when cosmicmuon was incident on the stopper.

3 Experiment

3.1 Electronics

Total kinetic energy and timing information of stoppedparticles in a active stopper are acquired by a combina-tion of a QTC and a multi hit TDC (CAEN V1190).Figure3 shows the schematic diagram of read out elec-

tronics of the stopper. After signals of MPPCs are re-produced and added by liner Fan-in/out modules, theyare sent to the QTC. Thereby the QTC converts chargeinformation to time width, and it is measured by a TDC.

Figure 3: A schematic diagram of the read out electron-ics. A total of four MPPC signals is sent to the QTCmodule. Charge information is acquired by using a TDC.

3.2 Experiment

The experiment was carried out at the RIBF operatedby the Center for Nuclear Study, University of Tokyoand RIKEN Nishina Center. A primary beam of 70Zn at

8

345 MeV/nucleon with an average intensity of 75 pnAbombarded a 15-mm-thick beryllium target. The 55Caions were separated using the BigRIPS fragment sepa-rator and transported to the SHARAQ beam line. Thetime of flight (TOF) from F3 to S2 was measured withplastic scintillators and the energy loss (∆E) was deter-mined with two thin 500 µm Si detectors at S2 chamber.

The particles through S2 chamber were slowed downby an aluminum degrader and finally stopped in the ac-tive stopper. γ-rays emitted from the stopped particlewere detected by the detector array composed of 16 unitsof NaI scintillators and Ge detectors of two. To confirmthe whether particles stopped in the stopper was doneby using two veto plastic scintillators were mounted atthe most downstream of the beam line.

4 Progresss

To extract isomer ratio of 44S in the secondaly beam,it is needed to known number of 44S and 44S∗ counts.Figure 4(a) shows particle identification (PID) of theresidues reached S2 chamber. To count number of par-ticles stopped in the stopper, TKE-TOF plot was gatedby the PID gate, as shown in Figure 4(b).

44S∗ (0+2 ) has life time of 2.6 µs, so that the event hasto be extracted from timing spectrum. The timing gatefor analysis is decided according to the time of the beamincident,shown in Figure 5(a) and 5(b). By applyingthis gate, the charge spectrum was separated into beamrelated events and not .

analysis/users/kazuma/ana/pid.ana

1

10

10 2

10 3

ID 145ENTRIES 1293355 0.00 0.00 0.00 206. 0.179E+06 0.360E+05 0.894E+06 0.150E+06 0.344E+05

AoQ vs ZAoQ

Z w

ith

veto

Run: 410

5

7.5

10

12.5

15

17.5

20

22.5

25

27.5

30

2.5 2.55 2.6 2.65 2.7 2.75 2.8 2.85 2.9

(a) PID plot

analysis/users/kazuma/ana/pid.ana

1

10

10 2

ID 147ENTRIES 2922 0.00 0.00 0.00 16.0 0.254E+04 0.00 359. 4.00 0.00

TKE vs TOF PID gated TOF(ns)

TK

E(c

h)

Run: 410

5500

6000

6500

7000

7500

8000

1000 1200 1400 1600 1800 2000

(b) TKE-TOF plot

Figure 4: (a) An example of PID plot. Nucleus of interestis 44S (Z = 16,N = 28). (b) An example of TKE-TOFplot applied 44S gate. This plot represents total count of44S stopped in the stopper.

5 Future Works

We performed the experiment to search isomeric stateof 44S in way measuring the conversion electrons usingMPPC and a plastic scintillator. There are three tasksto be done in the future as follow.

(a) Timing Spectrum of thestopper

0

10000

20000

30000

40000

50000

5000 5500 6000 6500 7000 7500

MPPC TDC2 OR S gain qraw(ns)

analysis/users/kazuma/ana/pid.ana

IDEntriesMeanRMS

108 990004

6646. 872.5

Run: 410

MPPC TDC2 OR S gain qraw(ns) after beam

IDEntriesMeanRMS

109 50491

5422. 659.7

Run: 410

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

5000 5500 6000 6500 7000 7500

(b) Charge Spectrum of thestopper

Figure 5: (a) Timing spectrum of the stopper. A rightside area of a red line was used as timing gate. (b) Chargespectrum of the stopper. An upper figure is non gated.A lower figure is applied the timing gate.

1. Adopting a TDC decoder which enables to analysismulti-hit event.

2. Calculating the total number of 44S counts reachedthe stopper.

3. Estimating the detection efficiency of Active Stopperfor electrons.

References

[1] Hamamatsu Photonics 「MPPC (multi-pixelphoton counter)」http://www.hamamatsu.com/resources/pdf/

ssd/s12572-025_etc_kapd1043e03.pdf

[2] S. Gr evy et al., Eur. Phys. J. A. 25, s01, 111-113(2005)

9

SCRIT 実験における、散乱電子スペクトロメーターの開発

Development of the scattered electron spectrometer for SCRIT experiment

松尾 咲希

指導教員 栗田 和好

1. はじめに

原子核の内部構造を精密に理解するための手法として、電磁相互作用を用いて電荷密度分布=陽子密度分布

を測定する電子散乱がある。しかし不安定核は固体標的の生成が困難であり、十分なルミノシティが得られ

ないため、今日まで電子散乱実験は安定な原子核に限られていた。我々は固体標的に変わる

SCRIT(Self-Confining Radioactive isotope Ion Target) 法によって電子不安定核散乱実験を実現させよう

としている。SCRIT 実験では、SR2(SCRIT-equipped Riken Storage Ring)加速器を用いて電子ビームエネル

ギーを 150MeV~300MeVまで加速し、電極とビーム自身のポテンシャルで 3 次元的に束縛した標的核と散乱さ

せることが出来る。その散乱された電子を、Fig.1 に

示す散乱電子スペクトロメーターで検出する。

散乱電子スペクトロメーターは、双極子電磁石と、

その前方(FDC)・後方(RDC)に置かれたドリフトチェン

バーで構成されており、電子の散乱点、散乱角、及び

運動量の測定を行う。双極子電磁石は、電子の散乱角

度が 30~60deg と立体角~100mSr という可能な限り

広い領域をカバーしている。FDC と RDC のトラッキン

グ結果と、双極子電磁石の磁場により、高い運動量分

解能を得ることが出来る。

我々は、この RDC におけるガス特性や、RDC の読み

出しテスト、およびプロトタイプの DC を用いて RF環

境下での読み出しテスト実験を行った。

2. SCRIT RDC

ドリフトチェンバーとは、荷電粒子の通過位置を測定し軌跡をもとめる装置である。ドリフトチェンバー

中を荷電粒子が通過すると、ガス分子が電離され、その電離電子がセンスワイヤーに向かってドリフトし、

ガス増幅(比例領域)されて信号が検出される。このドリフト電子の到達時間情報をセンスワイヤーからの距

離に換算することによって位置を決定する。

我々が用いる RDCは、274cm×36cm×78cmの体積を持ち、UVX層全体で 1002本のセンスワイヤーから読み

出しができるようになっている。それぞれのドリフトセルは一辺が 1cmの正六角形であり、6 本のフィール

ドワイヤーと、その中心にセンスワイヤーが配置されている。フィールドワイヤーに高電圧をかけることに

より、セル内部に電場が形成される。DCに充満させるガスは、He+CH4(50:50)もしくは He+C2H6(50:50)を使

う。本研究では、He+CH4もしくは He+C2H6を用いて飛跡検出を行い、それぞれのガスにおいて位置分解能を

求める。また⊿p/p~10-3を達成するためには位置分解能は 150μm が必要とされている為、飛跡検出の際に

精度を上げていくことが目的である。

RDC のデータ取得には SiTCP技術[1]が搭載された RAINER card(林栄精器)を用いる。

Figure 1:SCRIT electron spectrometer

10

実際のカードの写真が Fig.2 である。カードの大きさは 150mm×190mm

であり 64チャンネルの ADC と TDCを両方兼ね備えている。このボード

を採用した理由は、外部のアナログノイズを減らすことができるので、

高精度を目的とした測定に最適であると考えた為である。全 1002 チャ

ンネルのデータを取得するために、この RAINER card を 16 枚用いて、

一斉にデータ取得を行えるようにコード開発を行っている。

3. 現在の測定結果

RDC が置かれる場所は、電子蓄積リングの RFノイズ

を最も影響受けやすい場所の為、そのノイズがどれくら

い読み出しにきいてくるのかを調べる必要がある。本研

究ではプロトタイプの DCを用いて、RAINER cardを実

際の実験で設置される場所に置き、データ読みだしテス

トを行った。Fig.3(A)は 90Sr を用いて、RF環境下でβ

線のシグナルと RF ノイズの大きさの比較を行ったもの

である。β線源のシグナルは約 800mV に対して、191MHz

の RF ノイズのシグナルは約 150mV 以下であることが分

かった。Fig.3(B)は線源なしのノイズレートを ASDチッ

プの threshold電圧を変えて測定したものである。Fig.3

(A)でシグナルの大きさを確認したので、RFノイズをす

べて除去できる 200mVを threshold電圧として設定する

と、ノイズカウントを 0 にすることができ、RFの環境下

でも読み出しは可能であることが分かった。Vth=100mV

あたりでは、RAINER cardの電源系ノイズの方が読み出

しに寄与するため、RF が off の時でも多くのノイズをカ

ウントしてしまう。

次に、He+CH4(50:50)混合ガスを用いて、線源に対

する時間分布を測定した。その測定前に、プラトー測定

を行い、ガスの安定動作電圧領域は 2550V から 2850Vま

でとわかった。Fig.4.は RDC に 2700V の電圧をかけ、β線

源を用いて測定した TDC分布を示している。この結果を用いてトラッキング解析を進めていく。

4. 現状と今後の展望

現在は RAINER card のデータ読み出しテストを行っている。同時に、Garfield という電場シミュレーショ

ンソフトを用いてシミュレーションを行い、測定結果との比較ができるようにし、DAQ や測定データの解析

方法を夏までに構築させる。また、RDCを用いて RF の影響を再確認するため、読み出しテスト実験を行う予

定である。夏以降は、今までテストに使っていた 90Srの代わりに、宇宙線を使って全チャンネルの読み出し

を行う。この結果を本番実験のキャリブレーションに用いて、トラッキングコードを開発し、位置分解能を

求める予定である。

5. 参考文献

[1] T. Uchida: IEEE VOL.55, NO.3,JUNE2008

Figure 2 : RAINER CARD

Figure 3 : (A) The top panel shows an analog

signal for a beta ray measured by RP1212, and the

bottom panel shows the RF noise in expanded

scale for both time and pulse height. (B) Noise

count rate as a function of threshold value for

ASD chip on RP1212.

Figure 2 : The timing distribution of beta signal.

11

超小型深宇宙探査機搭載用ジオコロナ撮像装置 LAICAの開発

Development of geocoronal imager LAICA onboard the very small deep space explorer

佐藤允基

指導教員 亀田真吾

1. はじめに

はやぶさ2の相乗り副ペイロードとして 2014 年 12 月に超小型深宇宙探査機 PROCYON の打ち上げが予

定されている。その探査機にジオコロナを撮像するための観測装置 LAICA (Fig.1)を搭載することが 2013 年

10 月に決定し、開発が始まった。

地球大気圏の最も外側で、気体粒子同士の衝突がほとんど存

在しない、密度が希薄な領域のことを外気圏と呼ぶ。外気圏に

おける主な構成原子は水素とヘリウムである。これらの原子は

特定の波長の太陽紫外放射を選択的に散乱しており、地球全体

を包む紫外グローを形成することからジオコロナと呼ばれて

いる。その中でも水素ライマンα線(121.567nm)が最も明るく、

LAICA はこの光を捉える。地球を脱出して惑星間空間を航行

するような軌道に乗る探査機から、広範囲のジオコロナ分布の

撮像を目指す。

2.目的

高高度のジオコロナ分布を捉えるためには、地球から十分離れ、ジオコロナの外から観測を行う必要があ

る。しかし観測例は極めて少なく、そのような観測を行ったのは Mariner 5、Apollo 16、のぞみの 3 例だけ

である。このうち Mariner 5 とのぞみはスキャン観測を行っており[1][2]、のぞみによる観測で、ジオコロナ

は高度約 20REにまで及ぶことが確認されている[2]。Apollo 16 のみイメージャを搭載しており、ジオコロナ

の初の撮像が行われたが(Fig.2)、観測視野は 10RE 程度までとなっている[3]。また、これまでの主な観測は

地球周回衛星によって行われたもので、ジオコロナの広がりに対して低高度(〜8RE)の観測が多く行われてき

た。最近では、磁気嵐が発生した時刻に伴って、3〜8RE までの範囲に存在する水素原子数が 6〜17%程度増

加するという現象が確認されたが、増加を引き起こす物理過程は分

かっていない[4]。

そこで LAICA は月以遠に達する探査機から、広い観測視野(25RE

以上)のジオコロナ分布を撮像する。これにより高高度における水

素原子散逸過程について、低高度の観測により構築された理論を検

証する。さらに、磁気嵐が起きた時に、周回衛星に比べて高い時間

分解能(約 2 時間)でジオコロナの全球分布の変動を捉えることで、

外気圏への水素原子供給過程と、大気散逸過程に対する太陽活動の

影響を調べる。本研究の目的として、これらの結果から大気散逸過

程の定量的理解を目指す。打ち上げ後約 1 週間で観測を開始し、そ

の後約 3 か月間観測を実施する予定である。

Fig. 1. LAICA

Fig. 2. Geocoronal emission detected

by Apollo 16 [Carruthers et al., 1976]

12

3.装置

LAICA とは、(Geocoronal Hydrogen) Lyman Alpha Imaging CAmera の略で、球面カセグレン鏡(Fig.3

①)、バンドパスフィルタ(Fig.3 ②)、検出器(Fig.3 ③)の組み合わせとなっている。

検出器には BepiColombo/MPO に搭載される PHEBUS/FUV と同型のものを使用し、MCP (Micro

Channel Plate)と RAE (Resistive Anode Encoder)の組み合わせとなっている。光学系は主鏡と副鏡が共に

球面のカセグレン望遠鏡を新規に製作した。主鏡と副鏡、フィルタの接着等、光学系の主な組み立ては立教

大学クリーンルーム内で実施した。主な仕様については Table 1 にまとめた。

4.焦点調整(可視光)/温度試験

光学系の組み立てを実施した後、LAICA 光学系にコリメート光を入射させて焦点調整を行った。そして、

LAICA の許容温度範囲内(低温:-20、常温:+25、高温:+60)で温度を変化させたときに、像がど

の程度変化するかを調べた。その結果を Fig.4 に示す。Fig.4 の結果をもとに水平方向、垂直方向のプロファ

イルをそれぞれ求め、その半値幅を Table2に示した(LAICA の画素サイズ:水平方向 216µm, 垂直方向

161µm)。この結果から、各温度で必要な結像性能を達成していることが確認できた。

今後は、12月の打ち上げに向けて、引き続き製作したフライトモデルを用いた環境試験や較正試験を実施

する。また、打ち上げ後の観測で得られたデータの解析準備も進める予定である。

5.参考文献

[1] Wallace, L., C. A. Barth, J. B. Pearce, K. K. Kelly, D. E. Anderson Jr., and W. G. Fastie (1970),

Mariner 5 measurement of the Earth’s Lyman alpha emission, J. Geophys. Res., 75, 3769–3777,

doi:10.1029/JA075i019p03769.

[2] Tsuchiya, M. (2003), Observation of geocorona by Ultraviolet Imaging Spectrometer (UVS) on NOZOMI

spacecraft, Master Thesis, Hokkaido University.

[3] Carruthers, G. R., T. Page, and R. R. Meier (1976), Apollo 16 Lyman alpha imagery of the hydrogen

geocorona, J. Geophys. Res., 81, 1664–1672, doi:10.1029/JA081i010p01664.

[4] Bailey, J., and M. Gruntman (2013), Observations of exosphere variations during geomagnetic storms,

Geophys. Res. Lett., 40, doi:10.1002/grl.50443.

Table 1. Specification of LAICA

焦点距離 400 mm

視野 3.0°

角度分解能 0.03°

波長範囲 122±10 nm

感度 3.4×10-3 cts/s/pix/R

有効径 41.5 mm

Table 2. FWHM

温度 水平方向 垂直方向

-20 126 µm 117 µm

+25 102 µm 100 µm

+60 128 µm 130 µm Fig. 4. PSF (left: -20deg, center: +25deg, right: +60deg)

15:26:56

New lens from CVMACRO:cvnewlens.seq Scale: 1.20 10-Nov-13

20.83 MM

y

z

① ② ③

Fig. 3. Ray diagram

13

K-Ar年代測定のための、LIBSを用いた Ar輝線の検出実験

Detection experiment of Ar emission lines for K-Ar dating using Laser-Induced

Breakdown Spectroscopy

奥村裕

指導教員 亀田真吾

1. はじめに

現在 JAXA ではいくつかの惑星探査計画が検討されている。その中に月周回衛星 SELENE(かぐや)の後

続機として SELENE-2 を月面に送り込む計画がある。SELENE-2 では月面にローバーを着陸させ様々な調

査を行う。調査の一つに月岩石のその場年代測定というものがある。月表面の形成年代を知ることで、様々

な惑星の形成年代を知る手がかりとなる。その場年代測定を行う方法の一つとして、K を LIBS(後述)、Ar

を四重極質量分析計(QMS)を用いて測定し K-Ar 年代測定(後述)を行うものがある。この手法は既に実験室

での実証が行われているが、LIBS と QMS の 2 つの装置が必要となるため装置の絶対感度が必要で、シス

テムも大型になりがちである。そこで私は LIBS のみで K-Ar 年代測定を行う方法を検討している。この手

法でのその場年代測定が実現すれば、レーザーが届く範囲であれば岩石を採取することなく測定を行うこと

が可能となる。また装置が小型化・省電力化され、その場年代測定の実現性向上が期待できる。

LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy:レーザー誘起絶縁破壊分光法)は高エネルギーパルスレー

ザーをターゲットに照射することによって生じたプラズマを分光することで試料の元素組成を測定する装置

である。また、K-Ar 年代測定は K の放射壊変を利用した年代測定法である。K は多くの岩石鉱物に含まれ

ており、その放射性同位体である K40 は、半減期 12.5 億年で Ar40 に崩壊する。したがって岩石に含まれる

K40 に対する Ar40 の割合を測定することにより、その岩石が固化した年代を測定することができる。私は

LIBS を用いて岩石中の K と Ar の濃度を測定することにより、月などでのその場年代測定を行うことを目

指している。現在、LIBS を用いた岩石中の K の濃度測定は行われているが、Ar に関しては輝線の検出例

も報告されていない。そこで第一段階として、いくつかある Ar の輝線の内 LIBS で検出できる可能性が比

較的高い、波長 104.82 nm と 106.67 nm にある Ar 輝線の検出を目指した実験を行っている。

2. 実験装置

本研究のために製作した真空紫外領域分光装

置の概略図を Fig. 1 に示す。検出目標の Ar 輝

線の波長は 104.82 nm, 106.67 nm である。こ

の波長は真空紫外領域といい、大気中を透過で

きない。そこで真空中で輝線の検出ができる装

置となっている。

Nd:YAG レーザー(最大出力 50 mJ)から照射

された平行光は凸レンズで集光されて真空チャ

ンバー内の試料に照射される。すると試料の表

面が加熱されプラズマが発生する。発生したプ

ラズマ光は凹面回折格子で分光され MCP の表面に集光される。そこで電子に変換・増倍され蛍光面にスペ

クトルが映し出される。蛍光面を CCD カメラで撮像し、画像からスペクトルを取得する(Fig. 2)。

Fig. 1 Schematic diagram of experimental system.

14

また、Ar 輝線の検出を目指した実験の初期段階であるため、測定試料には Ar の濃度が天然岩石のおよそ

1 万倍になるように人工的に Ar ガスを封入した玄武岩試料(以下では JB-1a+Ar と表記)を使用した。

3. 結果

JB-1a+Ar を用いた測定結果を Fig. 2 に

示す。YAG レーザーの出力が 47.5 mJ の

とき 104.82 nm と 106.67 nm 付近に輝線

が確認された。しかし Ar を含まない試料

の実験結果から Ar の輝線ではないことが

わかっている。104.82 nm 付近の輝線に関

してはどの元素の輝線かは現在不明である

が、106.67 nm 付近の輝線に関してはSi3+

の輝線(106.66 nm)と確認されている。Si

はこの試料に 53 wt%程度含まれており、

多くの岩石にも豊富に含まれている。この

ため 106.67 nm の Ar 輝線を検出するためにはSi3+の輝線強度を低減させる必要がある。励起に必要なエネ

ルギーが 31.5 eV であるSi3+の輝線が検出された原因として、生成されるプラズマの温度が想定していた 1

eV よりも高い、数 eV まで加熱されていることが考えられる。レーザーによって生成されるプラズマの温

度はレーザーのエネルギー密度などに依存しており、エネルギー密度は

n =𝐸

𝜋 (𝑙2

)2

𝑡

[W/cm2] (1)

で表される。E はレーザーの出力、t はレーザーのパルス幅、𝑙はスポット径である。プラズマの温度を下げ

れば、Si3+の輝線よりも励起に必要なエネルギーが低い Ar の輝線の強度は相対的に大きくなる。そこでレ

ーザーの出力を下げることでエネルギー密度を低下させ、プラズマの温度を低減させる実験を行った。

Fig. 2よりレーザーの強度を 8.9 mJ に下げたとき 106.66 nm のSi3+の輝線が低減していることがわかる。レ

ーザーの出力を下げることで Ar 輝線の検出の妨げとなるSi3+の輝線を低減させることはできたが Ar 輝線は

検出されなかった。

4. 今後の展望

現在 Ar 輝線の検出には至っていない。その原因として Ar 輝線の強度が小さくノイズに埋もれてしまっ

ている可能性が考えられる。今回の実験ではレーザーの強度を下げることでエネルギー密度を小さくすると

いう方法をとっていたが、レーザーのスポット径を大きくしエネルギー密度を小さくする方法に変えること

で、プラズマの温度を低減させたまま発光量を増やすことが可能であると考えている。また真空チャンバー

内の迷光によって輝線が埋もれている可能性も考えられる。そこで真空チャンバー内の迷光を定量的に評価

し対策を行って Ar 輝線の検出を目指す。

[参考文献]

[1] D. Cremers and L. Radziemski. Handbook of Laser-Induced Breakdown Spectroscopy (John Wiley

and Sons, Ltd, England, 2006).

[2] 川野良信 蛍光 X 線装置による珪酸塩岩石および堆積物の定量化学分析 (2010).

100 110 1200

0.5

1

[106]

0

1

2

3

4

5

6 [103]

Wavelength[nm]In

tens

ity

Inte

nsity

47.5 mJ8.9 mJ

Fig. 2 LIBS spectra of JB-1a+Ar for two laser energies.

Si3+(106.66 nm)

15

一般化されたGalilean GenesisモデルについてGeneralized Galilean Genesis

西咲音

指導教員 小林努

1 はじめに

初期宇宙にはインフレーションが起こったと広く考えられているが,現在では様々なインフレーションの代替

モデルも考えられている.本研究では数多くある代替モデルのうちの一つである Galilean Genesisというモデル

に注目し,インフレーションで解決される諸問題をGenesisモデルでも同等に解決されるかの検証と,Genesis期

におけるゆらぎの生成の進化を調べることが目的である.GenesisモデルはHorndeski理論の解として表されるも

のである.このような研究により,数々の観測結果が本当にインフレーションでしか説明できないのかということ

を明らかにできる.

2 Horndeski’s theory

修正重力理論のうち単一スカラー場を用いたスカラーテンソル理論は様々あるが,これらを一般化しまとめ

た Horndeski 理論 [1] というものがある.この理論は 1972 年に G.Horndeski により構築されたもので,近年

T.Kobayashiらによりインフレーション宇宙論 [2]の文脈で用いられたことで再び注目されるようになった.ラグ

ランジアンは以下のように表される.

SHor =

∫d4x

√−g (L2 + L3 + L4 + L5) , (1)

L2 = G2(ϕ,X), L3 = −G3(ϕ,X)ϕ, L4 = G4(ϕ,X)R+G4X

[(ϕ)2 − (∇µ∇νϕ)

2],

L5 = G5(ϕ,X)Gµν∇µ∇νϕ− 1

6G5X

[(ϕ)3 − 3ϕ(∇µ∇νϕ)

2 + 2(∇µ∇νϕ)3]. (2)

このラグランジアンには G2, G3, G4, G5 というスカラー場 ϕとその運動項X =: −12 (∂ϕ)

2 の任意関数があり,こ

れらに具体的な形を与えることで一般相対論などに帰着させることができる.また,このラグランジアンには二

階微分を持つ項が含まれているが,運動方程式等を導出した際に三階以上の微分を持つ項が現れないという特徴

がある.

3 Galilean Genesis

Galilean Genesisモデルは P.Creminelliらにより提唱された初期宇宙のモデルである [3] .本研究ではこの種の

モデル(とそのさらなる一般化)をHorndeski理論の枠組みで統一的に扱う.この一般化されたGenesisモデルは

任意関数に以下のものを与えることで得られる.

G2 = e2(α+1)λϕg2(Y ), G3 = e2αλϕg3(Y ), G4 =M2

Pl

2+ e2αλϕg4(Y ), G5 = e−2λϕg5(Y ), (3)

ここで λと αは定数,Y := e−2λϕX である.このモデルにおいては,Genesis期に Null Energy Conditionを安

定のまま破るという特徴があり,この時期でのスケールファクター aが −∞ < t < 0で

a ≃ 1 +1

h0

(−t)2α(4)

で与えられる.つまり Genesisモデルのシナリオでは宇宙がミンコフスキー時空から始まる.宇宙がミンコフス

キー時空から始まる場合,宇宙に特異点が存在しないということになるため,Genesisモデルは大変興味深いモデ

ルであるといえる.

16

4 これまでの研究成果

Horndeski理論は一般的な理論であるため,様々な理論での研究を包括的に行うことができるという特徴があ

る.この点に注目し,宇宙論的接続条件を導出した.A.Padillaと V. Sivanesanによる先行研究(一般的なスカ

ラー・テンソル理論での境界項と接続条件についての研究 [4] )にもとづき,宇宙の状態方程式が突然変化すると

いった状況下で一様等方な背景時空とそこからの線形摂動についてどのような物理量が連続に保たれるかという

ことを明らかにした.新しい宇宙モデルを考え接続条件を求める際には,この結果にラグランジアンの中にある

任意関数の具体的な形を代入すればよい.この研究は論文 [5]にまとめられている.

5 研究課題

今後の研究の予定については以下の通りである.

1)Genesisモデルにおいてインフレーションモデルで解決した諸問題が同等に解決されるかを調べる.

2)Genesisモデルをインフレーションや様々な代替モデルと比較するとき,それぞれのモデルにおけるゆらぎの

振る舞いを調べることになる.特に重力波は他の光学的な観測手段では得ることのできない初期宇宙の情報をも

つという特徴がある.重力波は CMBのような間接的な手段や KAGRAや DECIGOのような干渉計を用いた直

接的な手段により観測されうるため,それぞれの手段においての観測的予言を与える.

3)通常,重力波などのゆらぎは計量 gµν を展開し

gµν = gµν + δgµν , (5)

として考えるがこれを二次のゆらぎの項まで扱い,

gµν = gµν + δgµν + δ2gµν , (6)

として場の方程式を導出することで,スカラー摂動を起源とした二次の重力波が生じることがわかる [6].この二

次のゆらぎの振る舞いを Genesisモデルのもとで調べる.

4)以上をふまえ,インフレーションや他のモデルとの比較を行う.

References

[1] G. W. Horndeski, Int. J. Theor. Phys. 10 (1974) 363-384.

[2] T. Kobayashi, M. Yamaguchi and J. Yokoyama, Prog. Theor. Phys. 126, 511 (2011) [arXiv:1105.5723

[hep-th]].

[3] P. Creminelli, A. Nicolis and E. Trincherini, JCAP 1011, 021 (2010) [arXiv:1007.0027 [hep-th]].

[4] A. Padilla and V. Sivanesan, JHEP 1208, 122 (2012) [arXiv:1206.1258 [gr-qc]].

[5] S. Nishi, T. Kobayashi, N. Tanahashi and M. Yamaguchi, JCAP 1403, 008 (2014) [arXiv:1401.1045 [hep-

th]].

[6] K. N. Ananda, C. Clarkson, and D. Wands, Phys. Rev. D 75, 123518 (2007).

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MTV実験の為の偏極ビームストッパーの開発、及び系統性の調査

Development of a Polarized beam stopper and Systematic study for MTV experiment

尾﨑早智

指導教員 村田次郎

1.研究背景

物質優勢の宇宙を説明する条件として、CP 対称性の破れ、すなわち時間反転対称性の破れが要求される。

我々の研究室では、β崩壊率中に含まれる時間反転対称性を破る R 相関項に着目し、その精密測定を行って

きた。具体的には、偏極ビームのβ崩壊により放出される偏極電子を Mott散乱させ、後方散乱した電子飛跡

の非対称度から、R 相関項を求めるための測定量である電子の横偏極成分の有無を調べている。2010 年度に

は平面型ドリフトチェンバーを用いた物理測定を行っており、世界一の統計精度を達成した[1]。この実験に

おける系統性は現在も解析中であるが、さらに系統性が減ると見込まれる円筒型ドリフトチェンバーCDC が

導入され、2012 年度までに性能評価を含めたテスト実験が行われた。2013年度には系統性調査を主目的とし

た最終テスト Runを終えた。

2.研究経過

2013 年度 MTV 実験では、CDC を用いた最終テスト Run として 24h の

ビームタイムを得た。この実験遂行にあたり特に私が担当したのは、

ビームストッパー開発と電子飛跡のトラッキングプログラム開発であ

る。

ビームストッパーは、偏極 8Li 原子核のβ崩壊を起こさせるため偏

極ビームの先に Al 標的と偏極保持磁石を備えた装置であり(Fig.1)、

真空中に設置される。これまで所持していたストッパーは平面型のドリ

フトチェンバー仕様に作られたものであるため、新たに幾何学的要素や電子のエネルギー損失を考慮した CDC

仕様のビームストッパーを開発した。ビームストッパーの性能評価として、ビームタイム中に約 1h の偏極緩

和時間測定(T1 測定)を行い、結果をまとめた。さらに、偏極ビーム関連の解析として、R 相関項を求める

際の測定量の一つであるビームの偏極度を算出した。

電子飛跡のトラッキングプログラム開発に関しては、既存のものはカウンタ

ー情報に大きく依存するものであったため、新たにワイヤー情報に重きを置い

たトラッキングの開発を行った。Fig. 2は CDCの断面図であり、大きく描かれ

た 2 本の線がトラッキングした電子の飛跡を表す。電子は中心からβ崩壊によ

り放出され、カウンターを通ってワイヤー領域に入り、Analyzer Foil により

Mott散乱された後、再びワイヤー領域に入ってカウンターに到達することが分

かる。私が開発したプログラムは数値的なフィッティングを用いたプログラム

であり、これと同時に開発された画像認識型トラッキングとの比較により、トラッキングによる系統性を調

べている。

さらに、2013年度の実験結果を用いた系統性の調査として、ビーム偏極方向のゆらぎ、ずれ、及びトラッ

キングによる系統性、2010年度の実験で問題となっている系統性の調査に取り組んでいる。ビーム偏極方向

に関しては、ビーム偏極方向に依存しないカウンターの測定量が偏極反転に同期していないか、ビーム偏極

Fig. 1. a new beam stopper

Fig. 2. a track viewer

stopper

18

方向が傾いていないか調べている。トラッキングの系統性は先に述べた 2 種類のトラッキングの比較から考

察した。2010 年度の実験で問題となったのは、電子飛跡の検出効率がビーム偏極方向の反転前後で保存しな

い可能性があることである。この系統性の有無と、系統性がある場合に補正することは可能かどうか調べた。

これらの研究経過について、詳しくは中間報告会にて報告する。

3.今後の展望

今後も CDC を用いたこれまでの実験に大きな系統性がないか、引き続き調査していく。必要となれば、系

統性の調査、もしくは抑えるための予備実験・装置開発等も考える必要がある。さらに今年度は、昨年度に

行われた MTV-G 実験の検証を行う予定がある。この実験は原子核スケールでの万有引力の法則の検証の為に

行っているが、MTV実験のキャリブレーションも兼ねている。偏極ビームではなくβ線源を用い、放出電子を

二回散乱させることで敢えて横偏極成分を作り、MTV実験が電子の横偏極成分に感度があるかを調べている。

昨年度の結果から、5σの統計精度で非対称度が負であることが確認された[2]。この結果を検証するために

も、系統性を徹底的に調査し、今年度のキャリブレーション実験、来年度以降 MTV 実験の物理測定に繋げる。

[参考文献]

[1]J. Murata et al. “Test of Time Reversal Symmetry using polarized 8Li at TRIUMF-ISAC”, J.

Phys.: Conf. Ser. 312 (2011) 102011; J. Onishi et al. “Electron Transverse Polarimeter for the

MTV experiment at TRIUMF”, J. Phys.: Conf. Ser. 312 (2011) 102012

[2]田中佐季. 超近距離における強い重力場の探索. 2013年度立教大学修士論文

19

新型 X線干渉計の開発

Development of a new type x-ray interferometer

小川修三

指導教員 北本俊二

1. はじめに

現在、最もよい角度分解能をもつ X線望遠鏡は米国の Chandra 衛星で、角度分解能は 0.5 秒角である。し

かし、この分解能は、理論的限界(回折限界)よりも遥かに悪い。その原因は、1.非球面反射鏡の形状精度

不足、2.宇宙空間での温度変化による鏡の歪み、3.重力傾斜による鏡の歪みの 3つである。そこで、違った

視点から高角度分解能を達成できる X線干渉計 MAXIM(Micro Arcsecond X-ray Image Mission)が提案され

た。[1]これは干渉分光法と呼ばれる技術が応用されたものであり、複数の望遠鏡の観測データから高い解像

度を得る。しかし、複数の衛星の編隊飛行が要求される事、非常に長い光学系が必要であるといった問題が

あり、実現に至らなかった。そこで我々は、ブラックホールの大きさを観測することを目標に半透膜を用い

た新型 X線干渉計の開発を行っている。その為には、最低でもマイクロ秒角の角度分解能が必要になる。[2]

2. 新型 X 線干渉計

我々は、半透膜を用いた新型 X線干渉計を開発している。特徴としては、半透膜を用いることで天体から

のふたつのビームを同一線上に合成できることである。そのため縞間隔は干渉計を構成する反射鏡、半透膜、

検出器のセッティングのずれだけで決まり、比較的小さな構成で実現できる(Fig.1)。

現在は、地上実験において動作確認を行っている。地上での空間的に広い可干渉な X 線光源を作ることは

難しいため、1 本の細い X 線でも実現可能な構造で行う。Fig2 のような斜入射型マッハチェンダー干渉計を

考案した。1 つの光を半透膜 1 で分離し、各々の光を鏡 1 と鏡 2 で反射する。鏡 1 によって反射した光は、

半透膜 2によって反射され検出器に届く。鏡 2によって反射した光は、半透膜 2を透過し検出器に届く。 [2]

本研究では、新型 X線干渉計で用いる反射鏡と半透膜の反射率と透過率を測定した。この結果をもとに、

干渉縞の観測に必要な要求値と、要求値を使った天体観測の見積もりを行う。地上実験では、干渉縞の撮像

を目的としている

Fig.1 a new type x-ray interferometer Fig.2 Mach-Zehnder interferometer

20

3. 反射鏡と半透膜の特性評価

2013年 11月に高エネルギー加速器研究機構のビームライン(BL-11A)において、鏡と半透膜の反射率及び

透過率を測定するための実験を行った。この BL-11Aでは、70-1900eVの軟 X線をカバーしている。新型 X

線干渉計の実現に向けて、試作した半透膜・鏡の評価をおこなった。半透膜は Mo/Si 多層膜 4 層を Si ウェ

ハに積層し、その後 Si ウェハを取り除いたものであり、サイズは 10mm×10mm である。さらに、鏡は Si

ウェハに Mo/Si多層膜を 15層、積層したものでサイズは 20mm×20mmを使用した。Mo/Si多層膜の設計

値は、2d=(6.9×2)nmである。O-K X線(10度入射)用に設計してある。

測定は、角度を変化させて反射率・透過率を測定した角度スキャンと、角度スキャンのピークの角度に固

定しエネルギーを変えて反射率・透過率を測定したエネルギースキャンを行った。結果としては、酸素 K付

近で、反射鏡の反射率は入射角 10.4°で約 0.14、半透膜の反射率は入射角 10°で約 0.03、半透膜の透過率

は入射角 10°で約 0.06となった。この結果をもとに、干渉縞の観測の要求値を推定し、これを使った天体

観測の見積もりを行う。

Fig.3 Angle Scan of Mirror Fig.4 Energy Scan of Mirror

Fig.5 Angle Scan of Beam splitter Fig.6 Energy Scan of Beam Splitter

4. 地上実験

地上実験を行うために、セットアップを行った。

Fig.2の反射鏡・半透膜の下に角度や位置等を動か

せるようにステージを配置した。Fig7は横から

Fig.2を横から見た図である。M1.2は Fig.2の

mirror1.2、BS1.2は Fig.2の beam splitter1.2であ

る。干渉縞の間隔はセッティングの誤差角で決まる。 Fig.7 Arrangement of Mach-Zehnder interferometer

これにより、地上実験でも干渉縞の間隔を変更でき、干渉計の動作試験ができる。今後は、まず可視光での

干渉縞の撮像を行っていく。

[参考文献]

[1]Webster Cash 2001 「X-ray interferometry : Ultra High Resolution Astronomy」

[2]坂田和也 立教大学 2011 修士論文「天体観測を目指す X線干渉計の開発」

6 8 10 12 1410−3

0.01

0.1

1

Ref

lect

ance

and

Tra

nsm

ittan

ce

angle(deg)

Beamsplitter Reflectance and Transmittance (wavelength 23.4Å)

shuzo 6−Jun−2014 12:13

10 15 20 25 3010−3

0.01

0.1

1

Ref

lect

ance

and

Tra

nsm

ittan

ce

wavelength(Å)

Beamsplitter Reflectance and Transmittance (angle 9.9deg)

shuzo 6−Jun−2014 12:46

6 8 10 12 1410−3

0.01

0.1

1

Ref

lect

ance

and

Tra

nsm

ittan

ce

angle(deg)

Mirror Reflectance and Transmittance (wavelength 23.4Å)

shuzo 18−May−2014 18:22

10 15 20 25 3010−3

0.01

0.1

1

Refle

ctan

ce a

nd T

rans

mitt

ance

wavelength(Å)

Mirror Reflectance and Transmittance (angle 10.4deg)

shuzo 18−May−2014 18:24

21

レーザープラズマ光源を用いた希ガス固体における光励起脱離実験 Photon stimulated desorption of rare gas solid with a laser plasma light source

岩渕あづさ

指導教員 平山孝人

1. はじめに 固体上に光子や電子線を照射したときに,電子的な励起状態を経由して表面から粒子が脱離する現象を電子遷移誘起脱離 (Desorption Induced by Electronic Transitions: DIET) と呼ぶ.特に光子による励起を用いた光励起脱離 (Photon Stimulated Desorption: PSD) は電子状態の選択的な励起が可能であることから,電子線を用いた場合よりも精密な解析ができるため,DIET 機構の研究に欠くことができない [1]. PSD実験は主にシンクロトロン放射光施設を利用して行われてきた.それに対して平山研究室では,レーザープラズマを励起光源とした単色パルス光による PSD実験装置を開発し,放射光施設を利用した場合と同等の測定時間で,かつ時間分解能の高い実験を可能とした. 電子励起が緩和に至るまでの動的過程を理解するため,様々な試料に対しての DIET 機構の研究が進められてきた.1 種類の気体原子が凝縮した固体における DIET 実験の研究例は多く,その脱離機構の概要はおおむね明らかになってきた.それに対して,2 種類以上の気体が吸着・凝縮した混合系の脱離現象についての研究例は少ないが,異原子種間での励起・電荷の移動などに起因する興味深い脱離現象が観測されている[2]. 私は修士過程において 2 成分系での脱離機構の解明に向け,希ガスの一種である Ne とその同位体を標的とする PSD実験を行う.希ガス固体は電子構造が単純で,この脱離機構を明らかにすることは,不明な部分が多い多成分系のガス凝縮性固体からの脱離を考える上での基礎となる.

2. 実験装置 2.1. 光励起脱離実験装置 装置の概略図を Fig.1 に示す.レーザープラズマ室では,Nd-YAG レーザー(繰り返し 50 Hz, 最大出力 30 W, 波長 532 nm, パルス幅 4~8 ns)からのパルス光を銅標的(直径 50 mm, 高さ 125 mm)表面に集光して,金属プラズマを生成する.プラズマからの光は,金コーティングしたミラーを用いて回折格子室に送る.回折格子室には 3 枚のトロイダル型回折格子(Jobin-Yvon 社 TGM1400) が設置されており,真空を破ること無く入れ替えることができる.それぞれの回折格子は 4-12, 12-36, 36-100 nm の波長範囲の光を分光する.出射側の焦点位置には,分光用スリットが設置してある.銅標的と回折格子の駆動,および微小電流計による測定は LabVIEW により

PC 上から制御する.光強度モニターには,実験に使用する波長領域において受光感度が明らかになっているフォトダイオード (Opt Diode 社 AXUV20A) が組み込んであり,光量の絶対値を測定することができる[3]. 2.2. 主実験槽 主実験槽の概略図を Fig.2に示す.主実験槽 (5×10-9

Pa) には,四重極質量分析計 (Quadrupole Mass Spectrometer: QMS),クライオスタット,Channeltron,B-A ゲージ,試料ガス導入系が組み込まれている.試料の希ガス固体は,クライオスタットによって 4.6 K 程度まで冷却した多結晶の銅基板上に,ガスを凝縮させて生成する.試料基板と,サンプルホルダーにはシリコンダイオード温度計が組み込まれており,試料加熱用ヒーターの出力を PID 制御することで,試料基板を任意の速度で等速昇温できる.光励起脱離した粒子の信号は Channeltronで検出し,増幅回路を通した後にマルチチャンネルスケーラーに取り込む.

Fig.2 Schematic view of PSD chamber

実験装置|主実験槽 Channeltron

100 mm

to Gas Handling System

QMS

Rare gas solid/Cu: 4 K B-A Gauge

Fig.1 Schematic view of apparatus

光励起脱離実験装置

4~12 nm 12~36 nm 36~100 nm

5×10-9 Pa

Laser On | ~10-4 Pa

LPS chamber

Cu

Nd-YAG

Grating chamber

Differential pumping chamber

Exit slit

Light intensity monitor

PSD chamber

Troidal Grating

22

3. 研究結果 1成分系で,かつ既に脱離機構が明らかとなっている Ne固体を標的とする PSD実験を,開発した装置を用いて行った.また,多成分系での脱離機構を扱う際,試料基板上に吸着する原子数を知ることは本質的に重要である.そこで,昇温脱離法 (Temperature Programmed Desorption: TPD) を用いてこれを明らかにすることを試みた.TPD法とは,真空中で試料を等速で昇温し,脱離する原子や分子の量,種類などを測定して吸着状態について調べる表面分析法の一種である. 3.1. PSD実験 Ne 固体から脱離する準安定励起原子の脱離収量の波長依存性を,励起光源としてシンクロトロン放射光を用いて得られた結果[4]と比較した.これを Fig.3 に示す.LPS でも UVSOR と同様のスペクトルを得ることができ,特徴的な構造がみられる.これらは,希ガス固体の表面・バルク励起子の生成エネルギーに対応している[5].Fig.4に Ne固体表面上から脱離する Ne 準安定励起原子の飛行時間スペクトルを示す.周囲の原子との相互作用などによって,脱離する準安定励起原子の運動エネルギーにはばらつきが生じ,時間幅の広いスペクトルとなる.それに対して,LPSのパルスの時間幅は 4-8 ns [3]と短いため,脱離エネルギー分布の精密な測定ができる.この 4枚のスペクトルでは励起子生成エネルギーの違いから,脱離する運動エネルギーが異なることが知られているが[6],その様子が観測できた.

3.2. 昇温脱離実験 Ne 固体の膜厚を変化させた際の昇温脱離 (TPD) スペクトルを Fig.5に示す.基板に隣接する 1層目と 2層目では Ne原子の吸着エネルギーの違いによって,脱離する温度が異なることが分かる.さらに,得られた TPDスペクトルを時間積分し脱離する Ne原子の量を見積もることに成功した (Fig.6).

4. まとめ 開発した実験装置でシンクロトロン放射光施設と同等の,1成分系の固体を標的とする PSD実験が可能であることを明らかにした.また,TPD法を用いることで,基板に吸着する原子の量と膜厚を見積もることができた.現在,多成分系の固体標的を生成できるように,主実験槽の試料ガス導入系の改良を行っている.これが完成次第,Neとその同位体との 2成分系を標的とする PSD実験を開始する. [参考文献] [1] for example, T. Hirayama and I. Arakawa, J. Phys. Cond.

Matt. 18, S1563-1580 (2006). [2] for example, A. Mann, G. Leclerc and L. Sanche, Phys. Rev.

B 46, 9683 (1992). [3] 岩渕あづさ,立教大学卒業論文,2013年 3月. [4] T. Hirayama, A. Hayama, T. Koike, T. Kuninobu,

I. Arakawa, K. Mitsuke, M. Sakurai and E.V. Savchenko, Surf. Sci. 390, 266, (1997).

[5] N. Schwentner, E.E. Koch and J. Jortner: Electronic Excita-tions in Condensed Rare Gases, Springer-Vg, Berlin (1985).

[6] T. Kloiber and G. Zimmerer, Radiat. Eff. Def. Solids, 109, 219 (1989).

QM

S In

tens

ity (a

rb. u

nits

)

0.16 0.14 0.12 0.10 0.08Recip. Temperature (1/K)

141210987Temperature (K)

0.2 ML

1.0 ML

2.0 ML

Fig.5 TPD spectra (0.2 to 2.0 ML; heating rate 12 K/min ) for Ne/Cu poly-crystal.

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

Rel

ativ

e ra

tio

2.01.51.00.50.0Coverage (ML)

Fig.6 Relative ratio of total thermal desorption yield of Ne/Cu

Inte

nsity

(ar

b.un

its)

7570656055

Wavelength (nm)

(b)

(a)S1

B1

S'B2

S1

B1

S'B2

Fig.3 Desorption yield of metastable Ne* from solid Ne as a function of photon energy. The excitation light source is (a) UVSOR and (b) LPS. Thickness of the sample solid is (a) 500 and (b) 100 atomic lay-ers [3].

Fig.4 Time-of-flight spectra of desorbed met-astable Ne atoms from solid Ne at excitation wavelengths corre-sponding to the surface (S1, S’) and bulk (B1, B2) exciton creation. Thickness of the sample solid is 100 atomic lay-ers.

Inte

nsity

(ar

b. u

nits

)

250200150100500

Flight time (µs)

72.0 nm (S1)

70.0 nm (B1)

65.0 nm (S')

61.0 nm (B2)

x2.0

x1.5

x1.6

Photon

23

有限密度格子 QCDにおけるカノニカル・アプローチの問題点とその改良法

The ploblem of canonical approach for finite density QCD, and its improved method

岡 将太郎

指導教員 江口 徹

1. はじめに

温度・密度をパラメータとする QCD 相図の解析は、ミクロな物質の構造だけでなく、宇宙初期や中性子

星内部の研究のためにも重要である。

本研究では、従来のカノニカル・アプローチの数値不安定性を解決し、より高い密度で物理量の数値計算

を行うことを目的とする。これにより、高密度での QCD相図の解析を推進していく。

2. 背景

QCDの数値計算の一分野である有限密度格子 QCDでは、モンテカルロ法による経路積分を行って物理量

の期待値を求める際に、モンテカルロ法に使用する確率が複素数になり、積分が原理的に破たんしてしまう

問題が生じる。この問題は Sign Problem と呼ばれ、未だ完全な解決法は見つかっていない。

カノニカル・アプローチは、Sign Problem を条件つきで回避する手法の一つである。これは、通常のグ

ランドカノニカル分配関数の代わりに、そのフーリエ変換として表されるカノニカル分配関数を評価する(計

算の途中で純虚数化学ポテンシャルを導入する)ことにより、Sign Problem を回避する。

しかし、この方法は数値的に不安定であり、フーリエ変換の区間数を変えると結果が変わってしまうこと

が報告されている[1]。この不安定性は、系のクォーク数が大きくなっていくほど顕著に現れてくる。したが

って、カノニカル・アプローチでは、高密度での数値計算は困難であると考えられていた。

3. 研究内容

本研究では、上記の数値不安定を解決するために、フーリエ変換の区間数と系のクォーク数に関する考察、

およびフーリエ変換の桁落ちに関する考察を行った。これにより、フーリエ変換の区間数を十分大きくとり、

かつフーリエ変換を多倍長精度(10進で 150桁以上)で計算することで、数値不安定性がある程度解決でき

ることを示した。

さらに精度を上げるために、従来のカノニカル・アプローチで使われていたホッピング・パラメータ展開

法の改良も行った。具体的には、経路積分内に現れるクォーク行列式を変形し、クォークが時間方向に進む

部分の寄与とそれ以外の部分を分離することで、ホッピング・パラメータ展開の収束性を上げた。

従来はバリオン数が 16程度までの領域しか計算できなかったが、本研究の改良を行うことにより、バリオ

ン数 25程度までの計算が可能になった。現在の加速器実験では、バリオン数 30程度までの実験データが報

告されており、有限格子 QCDによる数値計算と実験データの直接比較に向け大きく前進した。

本研究は、福田龍太郎(東大理)、中村純(広大情メ)、酒井俊太郎(京大理)、谷口裕介(筑波大理)との

共同研究である。

[参考文献]

[1] X. Meng, A. Li, A. Alexandru, and K-F. Liu “Winding number expansion for the canonical approach to

finite density simulations,” PoS(LATTICE2008) 032 (2008), arXiv:0811.2112 [hep-lat]

24

デジタル顕微鏡を用いた次世代近距離重力実験 Newton-V の開発

Development of the next generation short range gravity experiment Newton-V using

digital microscope

齋場俊太朗

指導教員 村田次郎

1. 研究背景

重力は自然界に存在する他の3つの力「強い力・弱い力・電磁力」に比べ桁違いに弱いため、統一的に理解することが難しいとされてきた。これは階層性問題と呼ばれる。この階層性問題を解決し、重力

を含めた四つの力の統一を試みる標準理論を超えた様々なモデルが提唱されており、それらのモデルは

余剰次元の存在を要求している。

また、物理学の基本法則であるニュートンの万有引力の法則は、天体間スケールでは非常に高精度で

検証されているが、ミリメートル以下では精度良く実験検証されてこなかった。このような現状の中、

1998 年に提唱されたADDモデル(大きな余剰次元モデル)[1]は、実験的に未検証の近距離領域にて

万有引力の法則である逆二乗則が変更を受けるという考え方であり、ある短い距離Λより小さい距離で

べき乗則が変更される。これはつまり、この距離Λ程度にコンパクト化された余剰空間次元の存在を示

唆する。また、この余剰次元の大きさが1mm 以下にまで広がっている可能性を指摘した。その範囲では

万有引力の法則からの逸脱が実験的に観測されると考えられる。

万有引力の法則からの逸脱を表すため、重力ポテンシャルは、質量に結合し、有限の到達距離を持つ

新たな相互作用を加えられ以下のように修正される。

𝑉 𝑟 = −𝐺𝑚!𝑚!

𝑟1 + 𝛼𝑒𝑥𝑝 −

𝑟𝜆

ここでGは万有引力定数、αは結合定数、λは有限の到達距離を表している。特定のモデルに依存せず、

逆二乗則のテストの精度を比較できるため、実験検証の比較に多用されている。近年数々の研究チーム

が逆二乗則を疑い α と λ の値に制限をかけてきた。本研究は、近距離重力の精密検証による標準理

論を超える物理の発見が目的である。

2. 研究経過

村田研究室では、装置 Newton-I〜IVh を近距離での重力の精密検証のために開発してきた。これらの装置はねじれ秤の原理を用いた装置であり、ワイヤーのねじれ復元力を応用し極めて微弱な力を検出す

ることができる。今年度は、ねじれ秤を用いる従来の装置では到達することのできないミクロンスケー

ルという超近距離領域での検証を行うため、ワイヤー型カンチレバーを取り入れた全く新しい測定方法

の開発を行っている。

太さ 10 ミクロンから 100 ミクロン程度のワイヤーをカンチレバーとし、重力源であるアトラクターも

同様に 100 ミクロン程度のワイヤーにすることで、二つの物体間の距離をミクロンスケールに収めるこ

とが可能となり、その領域での近距離重力の直接測定を行うことができる。

アトラクターとなるワイヤーをトロイダル型の回転装置に等間隔でくくりつけ、それを一定周期で回

転させるモーター装置を開発する。この操作により生じる重力場の変化を、ワイヤーのたわみ変形の変

位として測定することによって近距離重力の直接測定を行う。また、意図的に力を加えた際のたわみ変

25

形のテスト計測、ワイヤー自身の固有振動についての基礎的なデータを収集しており、生じるたわみ変

形のシミュレーションの補正に用いられる予定である。

ワイヤー型カンチレバーに生じるたわみ変形の変位は、おおよそ 1ナノメートル程度と予想されてい

る。この変位を観測するために、高精度画像処理型変位計を用いる。新たに超高倍率のデジタル顕微鏡

を導入し、今まで開発されてきた画像処理技術と組み合わせることによって測定を可能にする。現在、

安価なデジタル顕微鏡での位置分解能調査を行っており、位置検出の精度はピコ精度を達成出来る様に

なっている。

これらの装置は、真空環境用のガラス製クロスフランジの中に設置され、外からのデジタル顕微鏡で

の撮影を可能とする。また、極薄の導体遮蔽体をアトラクターワイヤーとカンチレバーの間に設置し静

電気の効果を抑制させる。

Fig.1 Position distribution Fig.2 Bitmap image of the 50 micrometer wire 3. 今後の展望

これらの装置の設計を進め、具体的な測定方法、解析方法を決定する。また、同時にワイヤーのたわみ変形と、固有振動についての調査も進める。デジタル顕微鏡と画像処理技術を用いた測定方法も、更

なる位置分解能の向上のために開発を行っていく。本番実験は秋~冬にかけて予定しており、設計した

装置が納品され次第、本番実験に向けた予備実験も行っていく。これらの結果から、ミクロンスケール

での重力の法則の検証を行い、その結果からαの上限値に制限をかける予定である。

[参考文献]

[1] N. Arkani-Hamed, S. Dimopoulo, G. Dvali “The hierarchy problem and new dimensions at millimeter”,

Phys. Lett. B429 (1998) 263-272

[2]二宮一史“オンライン画像処理変位計を用いた近距離重力測定実験”

2009 年度立教大学理学研究科修士論文

[3]小川就也“画像処理型変位計を用いたミリメートル以下での近距離重力実験”

2010 年度立教大学理学研究科修士論文

[4]西尾悠法“グローバルフィット法による画像解析を用いたミクロンスケールでのニュートンの逆二乗則の

検証” 2011 年度立教大学理学研究科修士論文

[5]岸礼子“Newton-IV 号による画像処理変位計を用いた近距離重力実験”

2012 年度立教大学理学研究科修士論文

[6]村上遥菜“Newton-IVh を用いたミリメートルスケールでの重力の観測と高精度検証”

2013 年度立教大学理学研究科修士論文

26

Newton-IVhを用いたミリメートルスケールでの逆二乗則の高精度検証

High precision test of the inverse square law at millimeter scale using Newton-IVh

作田友美

指導教員 村田次郎

1. 研究背景

ニュートンの万有引力の法則は、現在でも有効な理論とされている一方、近年までその精密な実験検

証は行われてこなかった。これは、自然界に存在する 4 つの力「強い力・弱い力・電磁気力・重力」の

中で、重力だけが極端に弱く、近距離での精密測定が難しいためである。重力だけが桁違いに弱い理由

として、重力のみ三次元より大きな空間次元(余剰次元)に伝播すると考えられている[1]。4 つの力の統

一を目指す超弦理論などでは、余剰次元の広がりはプランクスケール程度と考えられ、その実験検証は

難しいとされていた。しかし、1998年に提唱された ADD モデル(大きな余剰次元モデル)によると、余剰

次元の大きさは 1mm程度まで広がっている可能性があるとされており、ミリメートル以下では重力の逆

二乗則からの逸脱が実験的に観測されると考えられる[2]。

新たな力の探索に一般的に用いられる Yukawa型ポテンシャルを導入し、距離 r離れた二つの質量源𝑚1

と𝑚2の間のニュートン重力のポテンシャルを書き換えると以下のようになる。

𝑉(𝑟) = −𝐺𝑚1𝑚2

𝑟[1 + 𝛼𝑒𝑥𝑝 (−

𝑟

𝜆)]

ここで、Gは万有引力定数、αはニュートン重力に対する湯川項の強さ、λは余剰次元の広がりを表し

ている。近年数々の研究チームが逆二乗則を疑い、実験的に検証することでαとλの大きさに制限をか

けている。

本研究は近距離での重力を精密検証し、標準理論を超える物理を発見することを目指している。

2. 研究経過

村田研究室では、これまでにねじれ秤の原理を用いた装置を開発し、センチ

メートルスケールでの重力の観測と逆二乗則の検証に成功しており[3]、2011

年度からミリメートルスケールでの実験検証を目標に、Newton-IV の開発を行

ってきた[4-6]。昨年度は Newton-IV のコンセプトを引き継ぎ、従来の欠点を

考慮した新たな装置 Newton-IVhの開発を行い、ついにミリメートルスケール

での重力の観測と逆二乗則の検証に成功した[7]。

現在は、Newton-IVh を用いた更なる高精度の精密検証を目標に、画像取得シ

ステムの開発と、系統誤差の評価方法の考案を行っている。

従来まで用いていた画像取得システムでは、PCの性能に依存して測定時間が

制限されていた。そこで新たな画像取得システムを開発し、長時間測定を可能

にし、さらに測定と同時に解析を行うことで、統計精度の大幅な向上が見込ま

れる。

Fig.1 Apparatus of

Newton-IVh

27

3. 今後の展望

今後は、具体的な系統誤差の評価方法を決定する。また、新たな画像取得システムを用いて、実験を

行っていく。昨年度よりも精度を 1 桁良くすることで、HUST のみがαとλの大きさに制限をかけている

領域[8]において、初の追試を目指す。

[参考文献]

[1] 橋本幸士「Dブレーン超弦理論の高次元物体が描く世界」東京大学出版会

[2] N. Arkani-Hamed, S. Dimopoulos, G. Dvali,Phys. Lett,B,429 (1998) 263-272

[3]二宮一史,“オンライン画像処理変位計を用いた近距離重力測定実験”,立教大学理学研究科修士論文

(2009)

[4]小川就也,“画像処理型変位計を用いたミリメートル以下での近距離重力実験”,立教大学理学研究科修士

論文(2010)

[5]西尾悠法,“グローバルフィット法による画像解析を用いたミクロンスケールでのニュートンの逆二乗則

の検証”,立教大学理学研究科修士論文(2011)

[6]岸礼子,“Newton-IV号による画像処理変位計を用いた近距離重力実験”,立教大学理学研究科修士論文

(2012)

[7]村上遥菜,“Newton-IVhを用いたミリメートルスケールでの重力の観測と高精度検証”,立教大学理学研

究科修士論文(2013)

[8]Yang S,Zhan B, Wang Q, Shao C, Tu L, Tan W, Luo J, 2012 Physical Review Letters 108 81101.

28

次世代 PSD型中性子検出器NiGIRI の開発 Development of a next-generation PSD type neutron detector, NiGIRI

松澤秀之

指導教員 家城和夫

1. 背景

現在、理化学研究所の RIBF では(1)β崩壊遅発中性子、(2)重イオン衝突実験における陽子・中性子、

(3)(d, n)、(p, n)反応、(4)テトラ中性子などの測定が行われている。このような重イオン衝突実験

において、反応平面における中性子と荷電粒子(p, d, t, …)の放出方位角を測定することは、高密度核物質

の状態方程式(Equation of State:EoS)の研究のために有用な方法である。用いる中性子検出器には、高

検出効率、高エネルギー分解能、粒子識別能力、多粒子同時測定などが要求される。中性子検出器の検出効

率を上げるためには検出器の厚さを増加させる必要があるが、それにより検出器の ToF 分解能が低下する。

また、ToF 分解能を上げるためには、反応位置から検出器までの距離を増加させる必要があり、大きな立体

角を得るためには、検出器を大型化する必要がある。また、中性子と同時に発生するガンマ線のバックグラ

ウンドにより、低エネルギー領域における中性子測定が難しい。

2. NiGIRI

現在開発している、次世代中性子検出器 NiGIRI(Neutron, ion, and

Gamma-ray Identification for Radioactive Isotope beam)は(a)Pulse

Shape Discrimination(PSD)による粒子識別能力、(b)高検出効率、

(c)高エネルギー分解能、(d)多粒子同時測定能力を有する、多目的中

性子検出器であり、使用目的に応じて形状の変化が可能である(Fig.1)。

NiGIRI は複数の検出器アレイから構成されている。検出器アレイは(a)

プラスチックシンチレータ(ELJEN, EJ299-33, 30×55×127 mm3)、(b)

高量子効率光電子増倍管(浜松ホトニクス, H11265-200)、(c)

Multi-Pixel Photon Counter(浜松ホトニクス, S10985-100C)から構成

されている。EJ299-33 は近年開発されたプラスチックシンチレータであ

り、PSD を用いることによりガンマ線と中性子の識別が可能である[1,2]。

PSD は、シンチレーションの減衰時間が入射粒子によって異なることを

利用して、時間幅の異なる2つのゲート(Total gate, Tail gate)で電荷

量を測定し、その比を取ることによって、入射粒子を区別する手法であ

る。NiGIRI では、シンチレータの側面に配置した PMT 及びMPPC の信

号の大きさとタイミングから、シンチレータ内における粒子の反応位置

を特定することができる。シンチレータ内での反応位置を精度よく測定

することによって、ToF を精度よく決定する事ができる。

Fig. 1 NiGIRI detector setup (a)

for measurement of neutron,

proton and light particle, (b) for

beta-decay experiment.

(a)

(b)

29

3. 経過報告

今回、検出器アレイのプロトタイプ(35×35×60

mm3 )(Fig.2)を作成し、性能評価を行った。

中性子線源(252Cf)を用いて、PSD を行った。PMT

出力を、2つのゲート(Total Gate = 850 ns、Tail Gate

time = 800 ns, Tail gate delay time = 50 ns)を用い

て電荷量を QDC で測定した。Fig.3 は2つのゲートで

取得したQDCの相関を示している。横軸は Total Gate

における総電荷量であり、縦軸は Tail Gate における

電荷量である。中性子とガンマ線が識別できている。

次に、PS 表面(35×35 mm2)にβ線(90Sr)を入射

し、表面における位置分解能を評価した。β線は厚さ 1

cm の Al プレートを用いて直径 1.5 mm の円状にコリ

メートした。角に設置された 2つのMPPC の測定時間

を平均し、対角上の時間差から、入射位置を再構成し

た。MPPC の測定時間は出力の大きさに依存するため、

適切なスルー補正を行った。この結果、シンチレータ

表面における位置分解能はσx=5.8±0.2 mm、σy=6.9

±0.4 mm であった。スルー補正の改善やMPPC への

印加電圧の調整などを行うことによって、位置分解能

の向上が見込める。また、深さ方向の位置依存性につ

いても測定を行った。その結果、入射位置による僅か

な違いが見られるものの、精度が非常に悪かった(σz >

40 mm)。これは、深さを大きくすることによってMPPC に入射する光量が減少したことが原因であると考

えられる。

4. 展望

MPPC の配置や解析方法の改良を行い、深さ方向の測定精度の向上を行う。今回、プロトタイプの評価を

行ったが、実際に使用するサイズのシンチレータ(30×55×127 mm3)を用いて性能評価を行う。FADC を

用いた解析方法を確立し、測定セットアップ(Gate time, Tail Gate delay time, 解析アルゴリズム etc.)

の最適化を行う。また、放射線医学総合研究所の HIMAC において、高エネルギーの中性子を用いた NiGIRI

の性能評価実験を行う予定である。

[参考文献]

[1] S.A. Pozzi et al.; Nucl. Instr. Meth. A 723, 19-23 (2013)

[2] S. Nyibule et al.; Nucl. Instr. Meth. A 728, 36-39 (2013)

Total Integral [pC]20 40 60 80 100 120 140 160 180

Tail

Inte

gral

[pC

]

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1

10

210

n

gamma

Fig. 3 Pulse shape discrimination between

neutrons and gamma rays in EJ299-33.

Fig. 2 The overview of the prototype NiGIRI

detector.

MPPC

n,β

MPPC

Plastic Scintillator EJ299-33

PMT

35 mm

35 mm

60 mm

30

共生 X線連星の解析に向けた HXD/GSOの Backgroundの研究Study of HXD/GSO background towards the analysis of Symbiotic X-ray binary

鈴木大朗指導教員 北本俊二

1. 序論

共生 X線連星 (Symbiotic X-ray Binary;SyXB)とは、中性子星と晩期型の赤色巨星の連星系であり、可視光のスペクトルにおいて低温の赤色巨星の特徴である吸収線と高温星の特徴である強い輝線の両方が観測される天体である。現在 10 天体が確認されており [1]、X 線でパルサーであるものも多い。Fig.1 は、恒星が ∼ 10⊙ 以上の早期型星である大質量 X線連星系 (High-Mass X-ray binary;HMXB)、恒星が ∼ 1⊙ 以下の A型よりも晩期型である小質量 X線連星系 (Low-Mass X-ray binary;LMXB)と SyXBの自転周期を縦軸、公転周期を横軸でプロットしたものである (矢印は片方のみ分かっている場合)。SyXBは、一般に長い自転周期を示し、降着流の形態や磁場、公転周期についてははっきり分かっていない。Fig.2に、SyXBである GX 1+4と HMXBである Cen X-3、LMXBであるAql X-1の νFν スペクトルを示す。SyXBは 100keV以上の高エネルギーまで伸びる大変硬いスペクトルを示す。数10keVにサイクロトロン共鳴散乱構造を持つ HMXBは低エネルギー側で cut offを示す。また、LMXBは Fig.2のような明るい状態では、より低エネルギー側で cut offがある。非常に高エネルギーの X線を放射する機構は、SyXBの特徴ととらえる事が出来る。この高エネルギー成分の放射機構を調べる事により、SyXBで何が起こっているのか、また、HMXBや LMXBとの違いを明らかにできる事が期待される。

Fig.1 Corbet ダイアグラム SyXB(赤),HMXB(緑・青),LMXB(橙)[2]

10 1002 5 20 5010−

410

−3

0.01

0.1

110

keV

2 (P

hoto

ns c

m−2

s−1

keV

−1 )

Energy (keV)

GX 1+4

Cen X−3

Aql X−1

Fig.2 GX 1+4,Cen X-3,Aql X-1の νFν スペクトル

2. HXD/GSO Background の新しい方法による推定

HXD/GSOは、「すざく」衛星に搭載されており、60-600keVにおいて最も感度の良い硬 X線検出器である。Fig.3

に示すように、主検出部である 4× 4の井戸型ユニットとその周りを囲む 20本のアンチユニットで構成され、各ユニットの反同時計測により BGを弁別する。また、各井戸型ユニットは GSOと BGOのフォスイッチカウンターとなっており、井戸型ユニット 1本でも BGを弁別することができる。GSOの BGイベントは、コンプトン散乱イベントや、GSOまたは BGO内在の放射性元素からの γ 線放射、衛星軌道の 1次宇宙線、2次宇宙線などがあげられる。これらの BGは完全には弁別することが出来ないため、残ったものは推定して差し引いている。従来の bgd dと呼ばれる手法では、軌道上の典型的な宇宙線粒子密度の 10000倍の領域である Sauth Atlantic Anomaly;SAA通過後の時間や、GSOよりも低エネルギーを観測する HXD/PINにより計測され、主に荷電粒子に感度をもつ PIN-UD

などをパラメータとしたモデルで推定されている [3]。本研究の目的は、SyXBの高エネルギー範囲のスペクトルをより精度よく観測するために GSOの BGをモデルに

131

依存しない方法でより精度よく推定する事である。井戸型ユニットとアンチユニットを合わせた 6 × 6 ユニットのヒットパターンを利用し、明るい天体が視野に入っていない観測、つまり天体起源の光子が入らない観測について 1

ユニットだけが信号を発したイベントと、1ユニットの周りの 8ユニットに信号が無いイベントを HIT-α と定義した。また、HIT-α以外のイベントを HIT-β とした。視野に明るい天体が入っていた場合の HIT-β のヒットパターンのイベントにはほとんど天体起源の光子は含まれず、また HIT-αの変化に感度を持つことから HIT-αと HIT-β の相関を解析することにより BGを推定する事が出来る。

Fig.3 HXDの上から見た図 (左)、横から見た図 (右)[4] 青い範囲が井戸型ユニット、赤い範囲がアンチユニット

3. 解析と結果

HIT-αとHIT-βの相関を解析するために、各エネルギーバンドについて PHA-ratio = (HIT-β count rate)/(HIT-

α count rate)を定義した。Fig.4は、解析に使用した視野に明るい天体が入っていない観測全データの exposureが64sec の PHA-ratio を PIN-UD でソートしたものである。PHA-ratio は、PIN-UD と相関をもつから PHA-ratio

を PIN-UDでソートし 1次直線でフィッティングした。この PHA-ratioの 1次直線を用いて BG = (HIT-β count

rate) / PHA-ratioとして BGを推定した。例として 1つの観測データについての本研究で推定した BGと、従来の方法 (bgd d)で推定した BG、視野に明るい天体が入っていない HIT-αの bin=4096secのライトカーブを Fig.5に示す。両者の推定精度を比較するために、それぞれ HIT-αのライトカーブとの比をとりガウシアンでフィッティングした。その結果、ガウシアンの 1σ は bgd dの BGで 1-2%、本研究の BGで 3-5%であった。

150 200 250 300 350

12

PH

A−

ratio

PIN−UD (counts/sec)

typical error

LI=

4.5

421E

−03

, CO

= 0

.124

4

Fig.4 50-52keV の PIN-UD でソートした PHA-ratio

とそのフィッティング

2×104 3×104 4×104

6.2

6.4

6.6

6.8

Rat

e(C

ount

s/se

c)

Time (sec)

Fig.5 50-100keV の HIT-α(黒)、bgd d で推定したBG(赤)、今回推定した BG(緑)のライトカーブ

参考文献

[1] Lu et al. 2012, MNRAS, 424, 2265

[2] Enoto et al. 2014, Apj, 786, 16

[3] Fukazawa et al, 2009, PASJ, 61, S17

[4] Takahashi et al. 2007, PASJ, 59, S27

232