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巻頭言 プロジェクト代表

国際交流留学センター 和泉元千春

グローバル化に対応した人材育成が求められる中、国際的な視点に立った教員の養成は

教員養成大学にとって重要な課題となっています。例えば、小学校での外国語活動の必修

化や教育現場の多文化化に対応しうる教員の養成が求められているものの、実際には教員

志望学生の異文化経験の不足、異文化理解教育の現場に対するリアリティのなさが教員養

成上の問題となっていることは多く指摘されるところです。 そこで、本学国際交流留学センターでは、平成 26 年度より本学の国際交流および留学

生教育に関心を持つ教職員が中心となった「教員養成大学における“グローバル人材”育

成のためのカリキュラムに関する総合的研究プロジェクト」を立ち上げ、教員養成大学と

しての「グローバル人材」とは何か、またその育成のために何をすべきかについて、教育

実践を踏まえた検討を行ってきました。 プロジェクト 2 年目にあたる平成 27 年度は、2 回シリーズのシンポジウムを開催し、言

語文化教育の分野から言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア主宰・早稲田大学名誉教授

の細川英雄氏、教員養成の分野から目白大学学長の佐藤郡衛氏をお迎えして、言語文化教

育、あるいは教員養成や学校教育における「グローバル人材」とは何か、その育成には何

が必要かをお話しいただきました。さらに、シンポジウムでは、これまでの本学の取り組

みを「グローバル人材」育成という観点でとらえ、その検証を行い、フロアの参加者も交

えて議論を深めました。 今後、本学で個々に実践されてきた「グローバル人材」育成に資する取り組みを、大学

の教育課程や留学生教育の中にどのように構造化して位置づけていくか、さらに実践と検

討を続けていく必要があります。シンポジウムでの議論の成果を踏まえ、教員養成大学と

しての「グローバル人材」育成と留学生教育のあり方について、ますます議論が活発にな

ることを期待します。

2016 年 3 月

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奈良教育大学 国際交流留学センター主催 シンポジウム

平成27年度学長裁量経費プロジェクト

教員養成大学における「グローバル人材」育成のためのカリキュラムに関する総合的研究

シンポジウム「教員養成大学におけるグローバル人材育成を考える」

目 次 第1回 言語文化教育におけるグローバル人材育成

講演:「グローバル人材」になる―言語文化教育の個と社会の立場から― ---------------2

細川英雄氏(早稲田大学名誉教授、言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア主宰)

実践報告①:奈良教育大学における留学生教育と連動した言語文化教育の実践 ----------21

本学国際交流留学センター・准教授 和泉元千春

本学英語教育講座・特任講師 岩坂泰子

実践報告②:奈良教育大学附属小学校「言語・文化」の実践 --------------------------29

本学附属小学校教諭 林 綾

本学英語教育講座・特任講師 岩坂泰子

参加者のコメント ----------------------------------------------------------------35

シンポジウム広報用ポスター ------------------------------------------------------42

第2回「グローバル人材」に求められる異文化間能力―教員養成から学校教育へ―

講演:グローバル時代の教員養成の課題 -「異文化間能力」育成の視点から- -----------44

佐藤郡衛氏(目白大学 学長)

実践報告①:ESDの視点に基づいた道徳性育成の授業実践 --------------------------55

本学附属中学校教諭 小嶋佑伺郎

実践報告②:「異文化間能力」を育む教員養成-博物館における校外学習をめぐって- ---63

本学学校教育講座・教授 渋谷真樹

参加者のコメント ----------------------------------------------------------------73

シンポジウム広報用ポスター ------------------------------------------------------74

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▼プロジェクト名 学長裁量経費プロジェクト (「学長のリーダーシップを更に高めるための特別措置枠」(運営交付金特別経費))

教員養成大学における「グローバル人材」育成のためのカリキュラムに関する総合的研究 ▼プロジェクトメンバー 和泉元千春 国際交流留学センター 准教授 岩坂泰子 英語教育講座 特任講師 加藤久雄 国語教育講座 教授(~2015 年 9 月)、 現、本学学長 小島道子 次世代教員養成センターボランティアサポートオフィス 渋谷真樹 学校教育講座 教授 頓宮 勝 国際交流留学センター センター長、教授 林 綾 附属小学校教諭 吉村雅仁 教職大学院 教授 (50 音順) ▼プロジェクト概要 グローバル化に対応した人材育成が求められる中、国際的な視点に立った教員の養成は教

員養成大学にとって重要な課題である。しかし現在までに教員養成大学としての「グロー

バル人材」の在り方とその育成に関する研究は緒に就いたばかりだと言える。本プロジェ

クトでは平成 26 年度の成果をさらに発展させ、欧州等の取り組み事例を参考にしつつ、

大学が有する留学生を含む人的リソースや教育環境を総合的に活用した教育実践(附属校

での日本人学生と留学生の協働、日本人学生と留学生の共修科目開設、課外活動の企画運

営)を行っている。本プロジェクトでは、外部有識者を招聘したシンポジウムを開催する

ことで、上記の実践成果の発信と検証を行った。 <第 1 回:言語文化教育におけるグローバル人材育成> 日 時:2015 年 12 月 12 日(土)13:00-17:00 場 所:本学大講義室 参加者:本学学生 124 名、本学教職員 7 名、学外 8 名 <第 2 回:「グローバル人材」に求められる異文化間能力-教員育成から学校教育へ-> 日 時:2016 年 3 月 19 日(土)13:00-17:00 場 所:本学次世代教員養成センター2 号館 多目的ホール 参加者:本学学生 4 名、本学教職員 10 名、学外 12 名 後 援:奈良県教育委員会、奈良市教育委員会

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第1回

言語文化教育におけるグローバル人材育成

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シンポジウム「教員養成大学におけるグローバル人材育成を考える」

第1回 言語文化教育におけるグローバル人材育成

講演:「グローバル人材」になる―言語文化教育の個と社会の立場から―

細川英雄氏(早稲田大学名誉教授、言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア主宰)

実践報告①:奈良教育大学における留学生教育と連動した言語文化教育の実践

本学国際交流留学センター・准教授 和泉元千春

本学英語教育講座・特任講師 岩坂泰子

実践報告②:奈良教育大学附属小学校「言語・文化」の実践

本学附属小学校教諭 林 綾

本学英語教育講座・特任講師 岩坂泰子

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講演「グローバル人材」になる―言語文化教育の個と社会の立場から― 細川英雄氏(早稲田大学名誉教授、言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア主宰)

細川英雄氏(以下、細川氏):今日は、言語と文化の教育を考える、あるいは言語と文化と教育を

考えると言ったらいいかな、3つの問題が全部一つになっているという分野の話をします。

言語文化教育と言う分野そのものは古くからあるわけではなくて、比較的新しい分野です。

どうしてかと言うと、言語教育というのは、すでに 100 年くらいの歴史があります。一方、

文化教育と言うのはそんなに古くない。ことばの教育というのは既に歴史がありますが、そ

れに対して文化教育というのはそんなに新しい歴史がない。その言語と文化のそれぞれの教

育を一つに統合して、言語文化教育と考えようということが実際に言われるようになるのは、

本当にこの 20 年位の話です。西暦で言うと 1990 年代の後半位から言語文化教育、言葉と文

化の教育という言葉が使われるようになってきました。そこから今日はグローバル人材とい

う問題を考えてみようと思います。「グローバル人材になる」とタイトルをつけさせていただ

きました。そのグローバル人材とは何かという議論を本当はしないといけないのですが、こ

れをやり出すととても時間がかかります。そしてとても難しい。抽象的な概念ですし、まず

グローバルとは何か、それから人材とは何かということはなかなか簡単にこれはこうですと

言い切れない問題です。ですから今日はちょっと乱暴かもしれないけれど、最初に一つの事

例を見ていただいて、それが一体グローバル人材とどうつながっているのか、あるいは多文

化とか、いろいろな外国語とか、いろいろな言語とか、世界で活躍するとか、そういうこと

とどういうふうにつながっているのというのを、私がご紹介する事例と比べて、皆さんの頭

の中にあるグローバル人材というイメージと結び付くのか、結び付かないのかというところ

を一緒に考えてみようと思います。 高校生 K さんの事例

山梨県と長野県のちょうど境に八ヶ岳という山がありますが、私はその麓に住んでいるも

のですから、その麓で昨年度の春学期に、半年間、半年と言っても週に一回だけ正味 15、16回の公立の高等学校の総合的な学習の時間というのにゲストみたいな感じで毎週出かけまし

て、高校生と一緒にいろいろなことを考えてみようというようなことをやりました。その時

に、自分の興味関心について語ることで一冊の本を作ろうというプロジェクトを作りました。

その自分の興味関心に関する一冊の本を作るプロジェクトに、5、6人の高校生が参加して

くれましたが、自分の興味関心に基づいて、自らのテーマについて一人の高校生が考えよう

としました。女性だったのですが、彼女が何について興味関心があるかという最初の議論を

した時に、梶浦由記という音楽家に関心があると言ってくれました。皆さんは梶浦由記とい

う人を知っていますか。結構有名な人らしいですよ。僕は彼女に聞くまで梶浦由記という人

はどういう人が全然知りませんでした。テレビの音楽に携わっている人で、いろいろな主題

歌とか、テーマミュージックとかをつくる人だというふうに聞いたのですが。梶浦由記とい

う音楽家、作曲家なんですね。その人に興味がある。何で興味があるの?と聞くと、そうい

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う人になりたいというわけです。じゃあ、なぜそんな人になりたいのかと聞くと、要するに

自分の好きなことをしている人、そういう人に魅力を感じると答えました。昨年の段階で高

校2年生ですね。今はもう3年生になっていますけど。自分の好きなことをしている時が一

番楽しいし、そういう人に私はなりたい。梶浦由記さんの仕事を見ていると本当に自分の好

きなことをしているという感じがする。そういうふうになりたいんだと。じゃあ、なんでそ

んな好きなことをしている人に魅力を感じるのか?という議論をその活動の中で行ったとこ

ろ、やっぱり自分がやっていることを、やりたいことをしていくという自信が欲しいという

彼女の本音が段々出てきたわけですね。そして自分には今そういう自信がないので、家庭の

中で、お母さんとはそんな話をするらしいのですが、自信があるということは正しいことじ

ゃないというようなことを言われた。それにひどく傷ついて、自分は一体どうやったら自信

を持つことができるんだ。どうしたらいいのか分からないというふうなことをプロジェクト

の中で、彼女が少しずつ話をするようになります。そして、そこで何かよく分からないけれ

ど、家庭の中でお母さんとの葛藤がどうもありそうだということを僕が感じたわけです。そ

れは、お母さんとのやりとりの中で、どうしても自分を認めてもらえないというようなこと

があったようです。文章の中に少しずつそういうことが出てきます。 このプロジェクトは、そういう自分の悩みと言うか、自分の関心、自分が今考えているこ

とを、誰か自分の信頼できる人と話をしてみよう、対話をしてみようというプロジェクトに

なっています。すると、自分のお母さんのお母さん、つまり母方のお祖母さんとこの問題に

ついて対話をするということを彼女自身が自分で決めます。お祖母さんはすぐ近所に住んで

いて、同居はしていないけれども、小さい時からずっとすぐ近くに住んでいるようです。そ

して学校が終わってからお祖母さんのところに出かけていって、何日か続けて対話をしてき

ました。対話と言っても、この問題についてどう考えますかとか、どう思いますかとか、そ

ういうインタビューではなく、実際に自分の書いたものをお祖母さんに見せて、お祖母さん

に読んでもらって、お祖母さんから意見を貰う。それに対して自分もいろいろ考えていく。

二人で共通の時間をつくる。そういう活動をしたわけです。その活動をしていく中で、お祖

母さんとの対話が盛んに出てきます。配布資料をざっと見ていただければ、だいたいどんな

会話をしたかというのが分かると思います。その会話をしている間に、少しずつですけれど

も信頼、もちろんお祖母さんと対話するということはお祖母さんに対する信頼関係があった

わけですね。自分のことをよく理解してくれているというふうに思っていたようです。その

お祖母さんと、今までそんな自分の悩みだとか、母親との葛藤であるとか、あるいは自分の

自信の問題、自信があるとかないとかという、その自信の問題、生きていく自信ですね。そ

れについて話すことはなかった。ところが、お祖母さんと何日かかけてゆっくり話をしてい

るうちに、少しずつ少しずつ、小さい頃から自分のことに関心をもってくれたお祖母さんと

自分との関係というのに気付き始めます。15、16 回を通じて少しずつ少しずつ、彼女がクラ

スの中で話し始め、段々蓄積していくわけなんです。そして、その対話の中で、いろいろな

ことに気付く。つまりお祖母さんに言われて気付くという点もあるし、お祖母さんに言われ

ないけれども、お祖母さんの意見を聞いて、また自分で考えて気付いていくというふうな、

いろいろなことがあります。例えば、自信とは何かということ。それから、自分の好きなこ

とをするということに関してどうも彼女自身は、好きなことだけしていていいのかとか、も

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っとそうじゃない、好きじゃないこともしなきゃいけないんじゃないかと思っていたのが、

お祖母さんに逆に好きなことだけしてればいいんだと言われるんですね。じゃあ、それはど

ういうことなんだ。じゃあ、この社会で好きなことだけしていって、職業に就けるんだろう

かというようなことを本人は非常に心配になっていきます。それは学校でやっぱりどんな教

科の授業もちゃんと受けなきゃいけない。好きな教科と嫌いな教科があるけれども、嫌いな

教科は好きにならなければいけないというふうにどこかでプレッシャーを受けていたらしい

んですね。でも好きなことだけやればいいんだというふうにお祖母さんに言われます。「お祖

母さんも好きなことばかりしてきたの?」と聞くと、「そう、自分も好きなことだけしてきた」。

「今はどうか」と聞くと、「今は幸せだ」と言うんです、お祖母さん自身が。自分はお祖母さ

んのように生きていきたいという気持ちがどこかにあって、理想とするお祖母さん自身から

「好きなことだけしていけばいいんだ」と言われます。そこでハッと気付くんですね、私は

もっと好きなことだけしていこうというふうに。ある意味ではちょっと重い言葉ですけど、

決意をします。そして、「この社会でやっていけるかしら?」「職業に就けるかしら?」と考

えたとき、まさにお祖母さんが梶浦由記さんの姿だろうというふうに言います。梶浦由記は

好きなことだけやって、好きなことしかやらなかったから、立派な、名の知れた音楽家にな

った。そういう音楽家になれたのだろう。だからあなたも好きなことだけすればいい。きっ

と梶浦由記さんのようになれるよと言われるわけです。 それはそのお祖母さんと本人との対話の中で起こった、作られていった世界ですが、彼女

は社会の中で生きている。これから学校を出て社会に出る。恐らく大学には行くんでしょう

けれども、大学に行ってその後社会に出て行く時に、好きなことだけやっていこうみたいな

ふうに、ちょっと大袈裟ですが決意をして、そういう内容のことを文章に書くわけです。彼

女は、「好きなことをして生きて行くことの意味」というタイトルをつけました。そして、エ

ッセーの形で 10 数ページにまとめます。5 人いたので、50 ページ位の本を1冊作ることが

できました。話し合いの結果、彼女がまえがきを書くことになって、まえがきを彼女が書い

ています。そのまえがきを見ていただければ、彼女の様子、姿勢と言うか、この活動への取

り組みというのが見えてくるだろうと思います。 ということで、まず高校2年生の総合的な学習の時間の例を紹介しました。私は彼女の姿

勢、そこに集まった4~5人のメンバーとの毎回の話し合いをとても楽しみにしていました。

出来上がった本は小部数なので、もう在庫がなくて、今日は皆さんにもお見せすることがで

きませんが、そういう活動をしました。彼女をKさんというふうに言っておきますが、この

活動の意味と、そのKさんという人が行った活動、それが私が考えるグローバル人材という

ところと結び付くのではないかと思って持ってきた一つの材料です。

「普通の」日本人はどこにいる? 今日は日本人のある一人の高校生の例を出しました。これはグローバル人材になろうとす

るある一人の高校生の事例と捉えてご紹介をしました。なぜそういうふうに考えるかという

ところを、皆さんとどこまで共有できるか分かりませんが、できるところまで共有してみた

いというのが今日のお話の筋です。まず、なぜこのKさんという高校2年生が、お祖母さん

と話した話がグローバル人材と結び付くのかという話をします。ここではアイデンティティ

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という言い方をしたいのですが、ぴったりの日本語がないので、カタカナで言わざるを得ま

せん。普通アイデンティティと言うと、どんな表現を思い出すでしょうか。恐らく日本人と

してのアイデンティティというような表現が、一番よく使われると思います。日本人として

のアイデンティティ。その場合の日本人って誰のことだろう?ということを考えたことがあ

りますか?僕は 20 年程留学生に日本語を教えてきましたが、例えば、日本人は人に物をあげ

る時に「つまらないものですが」と言って差し出します、と言われています。それは多分ケ

ース・バイ・ケースだと思いますけど、教科書にはそういうようなことが時々書いてあるん

ですね。人に物をあげる時は、「つまらないものですが」と言って差し出してください。それ

を読んだ留学生が「先生、ものをあげる時はこう言わなければいけないんですか?」という

ふうに僕に聞いたことがあります。僕ももうちょっと若い頃だったんですけれども、ちょっ

と考えまして、「それは人によるんじゃないかなあ」と答えました。そしたら別の留学生が「い

や、やっぱり日本社会では、人に物をあげる時は、つまらないものですが、と言わないと駄

目だよ」という発言をしました。「そうだ、そうだ」という留学生もいました。日本人の学生

も混じっているクラスでしたので、日本人の学生からは「私はあんまりそういう言い方で人

に物をあげたことないかな、よく分かんない」というふうな発言も出ました。最初に質問し

た学生が、「普通の日本人はどうなんですか、先生?」と言うから、「いや、僕は言わないか

なあ。すごく自信のある物だったら、“これ美味しいですからどうぞ ”って言ったり、“面白い

からどうぞ”と言ったり、でも“つまらないものですけど”と言った時に本当につまらない

ものだと思っているかどうかは…。どうかな?自分でも考えたことがないなあ」みたいな発

言をしたんですね。そのあとその留学生に「先生は普通の日本人じゃないんだ」と言われま

した。「じゃあ、普通の日本人はどこにいるの?」と聞くと、「そのへんにたくさんいますよ」

と言うので「分かった。じゃあ、明日でいいからその人連れてきて」って言ったんです。で

も、その留学生は「それは無理ですよ」と。「どうして無理なの?」と聞くと、「本当はいない

んです」と言う。「分かってるんじゃない。どうしてそんなこと言うの?」と聞くと「でも普

通の日本人がいるんです」と。周りはざわざわとなって非常に混乱している。普通の日本人

ってどこにいるのか?いないって分かっているのに、いると言ったりする。これは何なんだ?

ということがクラスの中で議論になって、それから延々と半年位その話ばかりやっていまし

た。つまり、普通の日本人ってどこにいるんだろう?「普通の日本人を連れて来てください」

って言われても連れて来られない。困ったなあ。僕はだいたい自覚的に普通の日本人でない

と思っているし普通の日本人でないと言われるので、じゃあ、普通の日本人となるにはどう

したらいいかというようなことを考えたこともあります。でもその普通の日本人の「普通の」

というところは一体何か、日本人としてのアイデンティティって何だろうと考えると、なか

なか難しい。日本人と言っても1億2千万か3千万の人がいて、それが全部同じであるわけ

がないし、一人一人みんな違うでしょうし、地域によっても違うでしょうし、家族によって

も違うかもしれない。そうすると、なかなか日本人というアイデンティティという形で決め

られないですね。ですから、アイデンティティという言葉はとても難しい、と言うか使いに

くい難しい言葉です。それでも、あえてここでは、「今ここのアイデンティティ」という言い

方をしてみました。

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「今、ここ」のアイデンティティ 先程の高校生のKさんの話に戻りますけれども、今ここで自分が自分として認められてい

るという意識、あるいは居場所。私はここにいていいというふうに感じる気持ち。これを私

はアイデンティティと呼んでみようかと思っています。それはとても動態的なアイデンティ

ティです。アイデンティティとは何かということを考えようとする時に、とても動態的に、

動いているものとして、流動的に動いているものとして考えようとすると、ここに私はいて

いいんだろうか?という居場所感覚としての居場所アイデンティティという定義、考え方が

割合ぴったりくるというふうに私は考えています。先程お話しした、日本人としてのアイデ

ンティティというのは、むしろアイデンティティというものを動いているものとしてではな

く、静的なもの、固定しているもの、静態的なもの、固定化したものと捉えようとしていま

す。日本人としてのアイデンティティとか、何々人としてのとか、一種の所属、帰属ですね。

帰属意識というような形で表れていますが、どうもアイデンティティというのはそんなふう

に固定化すると言うか、レッテルを貼っていくようなものじゃなくて、自分自身の中で常に

揺れ動いていて、「私はどうしたらいい?」「私は何なんだ?」「私は誰なんだ?」ということ

を自分に問いかけていく時の、非常に流動的な、ある意味では曖昧な動態的な感情、気持ち、

それを私はアイデンティティと呼んだらどうだろうかと思っているわけです。先程ご紹介し

たお祖母さんとの対話をした高校生のKさんは、こういったアイデンティティの複合的な危

機的状況にあった。ちょっとこれも大袈裟かもしれませんけど、こういうふうに私は解釈を

しています。つまり家族との葛藤が、特に母親との葛藤とか、見えない権威への反抗、無機

的な日常、毎日がそんなにおもしろくない、つまらない。受験であるとか、仕事と言っても、

感情もある。学校の中では常に一つの正解を求められる。それから好きな科目じゃなくて、

嫌いな科目も好きになれと言われる。つまり全部好きにならなきゃいけないと言われる。こ

ういう辛い状況。「そういう勉強をして、一体どうするんだ?」「将来どうするんだ?」と言

われても、先が見えない。将来に対する不安。それを考えてみる私って一体何なんだろう?

ということもよく分からない、という揺れている私。そのとき、複合的な危機状況をどうし

たらいいか分からないということになります。K さんはそのような状況にあったというふう

に考えます。それがこの活動の中で少しずつ自分を開いていきました。何故そういう危機的

な状況で動けなくなってしまっているかと言うと、自分を閉じている、外側に対して私はど

う見られているかとか、他の人は私をどう見ているかとか、例えば好きなことばかりしてい

ては駄目だといろいろな人、家族からも言われる。それから学校でも言われる。あるいは学

校外でも言われる。そういうふうにして外側から規定的にいろんな枠をつけられてしまうか

らなんですね。それに対して、非常に自己防御的になっていってしまう。それをこの活動の

中で K さんは自分の興味関心のあることは何かと問われて、梶浦由記という人物を挙げ、な

ぜ梶浦由記か?と考える中で「好きなこと」というキーワードが出てくるわけです。それを

続けていくことはちょっと危ないものに触れるような恐れを伴いながら、少しずつそれにつ

いて踏み込んでいく。それは一人では出来なかったわけです。周りのクラスメートと一緒に

それについて語ることによって少しずつ自分を開いていって、そして今、自分の今ここ、現

在を前向きに受け止めるようになる。「好きなことを“好きだ”と言っていいんだ。決して何

も悪くないんだ」と。もちろんお祖母さんに言われたこともきっかけになって、それをそう

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いうふうに考えていいんだということを自分でエッセーとして表現するようになるんですね。

「今ここ」を前向きに受け止めるようになるプロセスが対話の中で描かれていくわけです。

しかも対話するだけじゃなく、対話を今度は文字化して、クラスのみんなに見せる。お互い

に読み合う。読み合ってお互いにコメントを貰って、自分で修正しながら本にしていくとい

う活動のプロセス、つまりさまざまな出会いと対話、そして自分の体験を記述するという一

つの表現活動によって、ちょっと大袈裟に言えば、アイデンティティの複合的な危機状況を

乗り越えていこうとした。K さんが完璧に乗り越えたかどうかは今問題にはしませんけれど

も、乗り越えようとするそのプロセスがこの本という形で表れています。 「グローバル人材」になることの意味 ―「地球人」とは?―

今までの話を考えると、これがグローバル人材とどう関わるのか、そこを是非皆さんにも

考えて欲しい。グローバルというのは地球とか世界とかいう意味です。グローバル人材とは

何かと言うと、簡単に言えば、人材開発とか人材発掘とかいうような表現があるように、役

に立つ人という意味が含まれますが、役に立たない人は人材じゃないのかということですよ

ね。役に立つ人と、役に立たない人の分類は誰がするのかという問題が大きな問題としてあ

ります。 グローバルというのは、地球とか世界とかに置き換えることもできる。じゃあ「グローバ

ル人材になる」と言った時には「地球人になる」ということなのかなと、ここではまず仮に

考えるとします。そうすると、その地球人の条件というのは、非常に大きく定義すれば、「地

球に生きる人間としてどのような地球であって欲しいか、そのために個人として何が出来る

かということ」という話にもなる。例えば、日本に置き換えれば、「日本に生きる人間として、

どのような日本であって欲しいか。そのために個人として何ができるか」というふうにいろ

いろな言葉に置き換えることができます。ここで求めているのは一応グローバルだから、地

球ということなのでしょうけれども、これは多分社会ということに置き換えることもできる

わけです。いろいろな社会がある。必ずしも同じ社会にいるわけではなくて、皆さんが今こ

こにいる時には、奈良教育大学という一つの社会がありますけれども、また外に出ればいろ

んな社会に属している。男性ならば、男性社会というものもあるだろうし、女性社会という

ものもあるだろうし、それからサークルとか、そういうところにも属している人は、そのサ

ークルも一つの社会です。家に帰れば家族がいる。その家族も一つの社会というふうに考え

ると、人はいろいろな社会に同時に公的かつ私的に属しているということになりますね。じ

ゃあ、その自分が属している複合的な社会というのはそれぞれ一体何だろうかということに

なります。そうすると、全ての個人が、一人一人にとってその社会で「グローバル人材にな

る」という意味になるんです。そしてそれは、自分が属している社会というものをどう考え

るか。社会に生きる人間としてどのような社会であって欲しいか。そのために自分に何がで

きるかということとつながっていくはずです。グローバルというのは、ある意味では単に社

会とか世界とか地球そのものを言うというよりはもっと広い意味で、私たちが所属している、

一人一人が所属している複合的な社会というふうに読み替えることも多分できるだろうとい

うことなんです。

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「人は一人ひとり違う、されど人はみな同じ」―70億のピースで成立する社会― 残念ながらその議論はあまりきちんと行われていなくて、グローバル人材と言うと、要す

るに世界に出て活躍する人とか、そういうイメージをもっていますけれども、実際はそこの

根は深いと言うか、もっと議論をしなければいけない、もっと考えなければいけない大きな

問題があるということなんですね。少なくとも複合的な社会というふうなことを考えると、

その社会と、自分自身、個人はどんな関係にあるかということを考えていくことになるだろ

うと思います。最後の結論のところだけをまとめてみたいと思いますが、地球に生きる人間

としてあなたはどのような地球であって欲しいか、そのために、個人として何ができるか。

それを社会に置き換えると、社会に生きる人間としてどのような社会であって欲しいか。そ

のために、個人として何が、自分として何ができるのかということになります。ここで一つ

確認しなければいけないことは、人は一人一人全部違うということです。されど人は皆同じ

ということです。ここは矛盾する言い方ですね。人は一人一人違うけれども、全部同じなん

だ、これは 2002 年に私が出した本の中で書いたものなんですけれども、このことをよく考え

てみようということなんです。その場合に、言葉の問題とか文化の問題があります。世界の

全ての人は何人いるかと言うと、70 億人と言われています。世界の人口は猛烈な勢いで増え

ています。20 年前に、私が交換研究という形でヨーロッパに一年いた時に、フランスの友人

が私の子どもに絵本をくれました。きれいな絵本で、その絵本の名前が『45 億の人々の暮ら

し』っていう本で、その時、僕は 40 歳過ぎていて頭の中では分かっていましたが、「あ、世

界の人口って 45 億もいるんだ」とその時初めて認識したんですね。1995 年か 1996 年の話

だと思います。それから 20 年位経っていて、もう 70 億になってると言います。倍くらいに

なってるんですね。日本の中にいるといつも少子化、少子化で子どもがどんどん減っている

みたいな話ばかり出てきますが、世界的に見ると1.5倍になっている位人口が増えています。

だから、いろいろな食料危機とか、そういう問題も起こってるということが改めて実感され

るんですけど、それはともかくとして、70 億の人がいて、大きなパズルが出来上がってると

いうふうに考えたらどうだろうか。パズルというのは普通埋め込んでいって、最後糊で貼っ

て壁に飾るというものです。500 ピースのパズルも大変ですけど、1000 ピースのパズルは結

構大変ですよね。それが 70 億ピースもある。それを全部埋め込んでいくと、全部がきれいに

はまって世界が出来上がるという話です。しかもそのピースは一つ一つ全部違うんです。同

じようになったら絵ができません。一つ一つ全部違っていて、それが一つ一つ全部固有の位

置を持っているんです。それが集まって初めて 70 億の一つのきれいな絵に、美しい絵になり

ます。70 億のピースで一枚の絵をつくるためには、「ピース」という意味では人は皆同じで

なければならない。しかし、一つ一つのピースは全部違う。同じ形のピースは絶対にあり得

ないということです。今、一枚の絵と言いましたが、一枚の絵は平面的なものですよね。と

ころがそれは、先程言ったように 20 年前は 45 億だったわけです。45 億がどんどん大きくな

ってきている。もちろんその 20 年間に生まれた人もいるし、死んだ人もいるわけです。それ

は立体的な絵なんですね。歴史を背負った絵です。しかもそれは 20 年前から始まっているわ

けではなくて、200 年 300 年、あるいは 1000 年 2000 年、あるいは人間の歴史ってどのぐら

いですか。45 億年前と言われていますよね。それからずっと続いている壮大な一つの立体的

な芸術なんですよ。その中の皆さん一人一人は一つのピースであって、その 40 億年前から現

8

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在に至るまで、それから現在を横に見れば、70 億の一つであるけれども、それと全く同じピ

ースというのは存在しない。全くのオリジナルなんです。だから、これから人口が増えるか

減るか分かりませんけれども、あるいは歴史はどんどん経っていくわけですけれども、その

ピースが一つであるということは全くそれは変わらないわけです。変わらないと言うのは絶

対にオリジナルなものだということです。たった一人しかいない。だから三次元的にこの世

界で生を受けて生きていく、何歳まで生きるか分かりませんけれども、平均年齢 80 年とすれ

ば、80 歳は全くのオリジナル。あなたにしかない 80 年だということになるんです。

「グローバル人材」になる―ことばの学びとは何か― 今、一言で言うのはとても難しくなりますけど、されども皆同じなんだから、異なる相手

を認めて、今ここの自分をどのようにしないといけないかを伝え、共に生きるための社会を

つくるための協同的な関係の意味について自らの体験の記述によってとらえ直す。自らの体

験の記述と言うのは、あなたにしかない体験です。それをどうやって表現するのか。表現す

るというのはどう相手に伝えるかということです。それは目の前にいる相手だけではなくて、

自分や相手を取り囲む社会全体に向けてどのように表現していくかということにつながって

いくはずです。ことばを学ぶという時に、ことばの学びというのは、恐らく言語を習得する

ということではなく、むしろことばによって活動することでアイデンティティを自ら形成し

ていくことだと私は考えています。ことばというのは、頭の中で考えたことだけと思ってい

る人がたくさんいると思いますが、そうではなくて、体や体の感覚、心からの感情、それか

らもちろん思考の論理。そういうものを一体化した考え方になっていく。それは一人一人が

自分の興味関心から問題意識という方向を持って、言葉による活動によって他者を受け止め

て、テーマのある対話や議論が展開できるような場をつくっていく。そこでその体験記述の

活動を行うことがとても重要になると思います。 簡単にまとめると、アイデンティティの複合的な危機というのを皆さん一人一人が抱えて

いる。それを克服するためには自己発信とか他者を認めること、それから社会へ参加してい

く、こういうことから自分をつくっていくしかないということです。自分から発信し、他者

を理解するということと、それからこの地球でさまざまな人たちと生きていくための社会を

つくっていくという、そういう活動の場をつくっていく必要がある。その場合に皆さんに先

程言ったように 70 億のピースということを思い出して欲しいのですが、個人の存在のオリ

ジナリティを自覚できるような環境というものをどうやってつくっていくか。これは権利で

もあると同時に義務でもあるというふうに思っています。これは本当に単純なまとめになり

ますが、この学びの方向性を目指す個人こそグローバル人材だというふうに私は考えている

ので、皆さんの頭の中にある皆さんがイメージするグローバル人材とどう結び付いていくの

か、結び付かないのかという議論をこれからやっていきたいと思います。これで私の話を終

わらせてただきます。どうもありがとうございました。

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<質疑応答> 質問1:「グローバル人材」という用語はどこから出てきたものなのでしょうか。 細川氏:国の予算の使い方とかで随分指摘されてきましたが、予算を使う時にもっと効率的にし

ようということで、それぞれプロジェクトに名前を付け、そのプロジェクトを達成するため

に、予算をつけるようなことを政府と各省が、以前に比べて随分活動的に行うようになった。

その名前を付けるための一つの戦略として生まれた言葉であって、決してアカデミックな場

面から、こういうことが必要だからやってほしいというところからボトムアップ的に出たも

のでは決してないわけです。ですから政府の予算をつけるためのレッテルにすぎないと考え

ても、そんなにズレはないと思っています。ですから「グローバル人材とは何か」みたいな

議論を、言葉だけでやっても実はあまり意味がないというのが本心です。ただ、さまざまな

地方自治体も大学も含めてそういう予算がなければ実際の活動ができないわけですから、そ

ういう制度的な構図になってしまっているということは否定できないのです。その制度的構

図の中でどうやって生き残っていくかということになると、どうしても「グローバル人材と

は何か」という議論をせざるを得ない。しかし、内実を見ると、もっと「本来人間の教育と

は何か」というような観点で考えなければいけないことです。そうすると単に「キャリアウ

ーマンを育てるのは良いことなのか」みたいな話とはだいぶずれてくる。問題は、そういう

イメージを私たちが一人一人がなんとなく持ってしまっているということです。自分が持っ

ているイメージ、どうしてそういうイメージを持つのかということをほとんど疑わない。疑

わないで、なんとなく「それはお上の言うことだから仕方がない」みたいなふうにして受け

止めてしまっているということが実は一番大きな問題だと私は思います。 質問2:外国語を話せることは「グローバル人材になる」ために必要でしょうか。 細川氏:やはりグローバル人材と言うと、英語ができる人という発想があります。それについて

はちょっと乱暴な説明をしないといけないと思いますが、それでは「英語を一番効率的に学

べる方法って何なんだ」ということです。「本当にそういうものがあるのか」ということです。

例えば、私は長く外国人の日本語教育の仕事をしていましたが、例えば 100 時間勉強すると

初級が終わる。300 時間終わると中級にいける。1000 時間勉強すると上級と言われる。とい

うふうな一応規定が少し前までありました。ところが、「100 時間勉強したら」という時には、

じゃあその 100 時間は何をもって 100 時間と言うかと言うと、教科書の中に語彙とか文法が

並べられていて、それが 100 時間経つとこれだけ勉強できます。300 時間経つとこれだけ勉

強できます、1000 時間経つとこれぐらいです、というリストがあります。そのリストを全部

覚えたとして、それで「今、いわゆる初級と言われている人たちのレベルとだいたいマッチ

しますよ」という話であって、100 時間やったらぴったりその通りになるかと言ったら、そ

んなことは全然ありません。上級というのは、日本語能力試験というのがあって、それの「N1を取れば上級です」と言うけど、じゃあ、上級というのはどういう能力かと言っても、実際

にそれは本当に個人差があって、N2 レベルをとっても、実際の日常会話のできない人もたく

さんいます。 というように、言語の能力を測るためには、「語彙とか文型にはこういうリストがあります」

という形の見えるもの、ものさし、尺度でしか測ることができません。つまり、どういう人

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と、どういうやりとりが、どの程度の深さまでできるかみたいなことは測ることはできない。

けれども、そういうものさしや尺度が全くないと困るので、言語テストのようなものがあっ

て、それは日本語だけではなくて英語にもフランス語にもドイツ語にもあります。それぞれ

見える形で言語能力というのがあることは一応認められてはいます。ただ、皆さんが「英語

ができる」、例えば「ある言葉ができるようになる」という時の「できる」というのは、何を

もって「できる」と考えているか、それが問題です。TOEIC の何点を取るということが目的

なのか、それとも実際にそれを使っていわゆる中身のある話ができるようになることが目的

なのか、あるいは中身はなくてもいいから、その場でペラペラ話せばいいのか、それは多分

人によってだいぶ違うと思います。その言葉を使ってやっていくことができるという意味だ

ったら、それは1、2年その言葉を使う社会に浸り込んで暮らせば誰でもできるようになり

ます。学校に行く必要は全然ありません。もうそれしかありません。しかもそれは若ければ

若い程良い。なぜなら母語の干渉が少ないからです。だから、皆さんもよく知ってると思い

ますが、帰国生とか言われている人たちのように、小さい時に何年間かある言語社会に暮ら

すと、その言語社会のことばが身に付いて母語のようになる。場合によっては、生まれた時

の言葉と、それから暮らした時の社会の言葉が同じように使えるようになる。それが良いこ

とか悪いことかはともかくとして、そのように言われます。ですから、とにかくその言葉を

使いたい、その社会で使えるようになりたいと思うのだったら、その社会に行くしかないの

です。 もっと良い方法がありますよ。もちろん一番良い方法は、親を変えることです。もう一回

生まれ直すことです。つまり、自分が生まれたい言語の社会に生まれれば完璧にその言語が

話せます。ところがそれは難しい。先程の2番目は、生まれてからしばらく経って話したい

言語があるならば、その話したい言語の社会に浸り込む。でも、ただ浸り込むと言っても、

ただ生活するだけでは駄目です。もう本当に浸り込まないといけません。例えば、外国人の

相撲の力士がいるでしょ。特に三役以上の力士は、非常に上手な日本語を話しますよね。彼

らが学校へ行っているかと言うと、全然行ってないです。学校なんか行ってる暇がないです

から。毎日毎日朝から晩までその部屋の中で女将さんと言われる人にバシバシ言われながら、

稽古をして生活しているわけです。三役ぐらいの力士の世界でかなり上の方ですと、かなり

普通に日本語が話せますね。それはどうしてかと言うと、日本語で暮らさなければならない

という、言わば意志の下に、いつの間にかと言うか、それを身に付けようとして身に付いて

いくわけです。逆に、アメリカから来たプロ野球の選手は、5 年いても 10 年いても、なかな

か日本語を話しません。それは、通訳がいて、全部通訳が言ってくれて、日本語を使う必要

がないから。別にそれが悪いことだと言っているわけではありません。使う必要がないから

日本語を話さない。だから、社会に浸り込む意味を現実に考えないといけない。そして、も

しことばを身につけたかったら、相撲の力士のようにして、要するにその社会に浸り込めば

いいんです。だから学校は行く必要がない。じゃあ、学校は何のためにあるのか、という話

になるんですね。学校で勉強するのは、単に練習をしたりするのではなくて、一人一人が自

分が何を考えているのか、何を言いたいのか。目の前の他者にそれをどうやって伝えるのか。

そして、相手が言ってることも受け止めなければいけない。ただ聞き流すだけではなくて、

受け止めて、それについてどう考えるのか、自分の考えを言わなければいけない。それがま

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さに何について話すかということですね。そして、それぞれが持っている興味関心について

話す時に、なぜあなたはそのことに興味関心を持つのかと問い、それに対して「私は、そう

思う」「思わない」と言う。つまり対話が始まるわけです。その対話をするためには、そこに

はある一つのテーマが必要です。先程軸というお話がありましたが、まさに自分の精神の軸

がなければならないということになります。思考の軸がなければならないということです。

それがテーマです。それを展開できるような場がやはり必要です。その場こそが本来の教育

の場です。あるいは学校と言い換えてもいい。学校は社会の準備にあるわけでもなく、受験

のためにあるわけでもなく、その人が人間として、個人として、他者と交わり、社会を考え

ていくための場でなければならない。学校そのものが社会でなければならないわけです。外

国語という言語学習もまさにそのためになければならない。外国語学習というものをコミュ

ニケーション能力スキルをつけるというふうに人々は考えがちですが、「コミュニケーション

能力をつけてどうするの?」という問いは、外国語教育にはありません。「コミュニケーショ

ン能力をつけたい」とみんな言いますよね。「英語で話せるようになりたい、書けるようにな

りたい、読めるようになりたい」と。もちろんそれはとても重要なことですが、コミュニケ

ーション能力をつけてどうするのかと言うと、その先は真っ暗になります。だから、重要な

ことは、言語を知るということ。あるいはその言語を使うということで、自分が今まで育っ

て使ってきた母語とは違う構造の言語で、あるいは違う認識の仕方で、その言語を使用しな

ければいけない。そうすると、言わば自分を相対化することで、自分の言いたいことがどん

どんクリアになっていく。単にクリアになるだけではなくて、自分の中にあるいろいろなモ

ヤモヤとか、相手との関係とか、そういうものが対話の中で出てくると言うか、浮かび上が

ってくるわけです。そういう経験がとても必要。それを単に経験としてだけではなく、その

経験をどうやって第三者に伝えていくかという、その経験がまた必要になる。それがまさに

教育の場です。たまたま先述の実践では、総合的な学習の時間に本を作るという活動でした

が、これはたまたま母語でやっているわけであって、それを他の言語でやっても構わないわ

けです。他の言語でやることは十分にできます。ですから、例えば英語を学習するというこ

とを否定するわけではありません。英語を学習することは、そういう意味ではもう一度自分

の考えていることを、別の言語で表現するという意味で非常に重要なことですが、コミュニ

ケーション能力、スキルということが先行してしまうと、つまり目的化してしまうと、何の

ために外国語を学ぶのかということが見えなくなる。コミュニケーション能力をつけるだけ

だったら、先程から言っているように、その言語を使う社会に浸り込むだけで十分です。学

校に行く必要はありません。それが僕の答えです。 質問3:先生のお話を伺っていて、グローバル人材という言葉に対して自分の見識の幅の狭さを

あらためて思い知りました。他者というのは自分の隣にいる人であったり、周りにいる人で

あったりで、外国人とは限らない。たまたま留学生の人が自分の隣に座ってる、というのじ

ゃなくて、どこの国の人に限らず、自分の暮らしの中で、自分と関係している人を他者とし

て、その人との関係づくりの中で自分をつくっていくということが、グローバル人材の一つ

なんだろうなというふうに感じました。この理解でいいでしょうか。

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あと、私には小学4年生の娘がいますが、先日、国語の学習の一つだと思いますが、何々

になったつもりで物語を作るという単元がありました。それは、例えば自分ではない誰かを

主人公にして作文をずっと書いていくものです。「誰々さんは、おじいさんとこんなことがあ

って、こんな喧嘩をして、どうのこうの」と娘が書いていて、他の子も原稿用紙 10 枚、20 枚

と書いていました。一見たくさん言語活動、表現をしているように見えましたが、実は自分

が主人公ではないんですよね。自分ではない架空の人物を主人公にして、なったつもりで書

いていたんです。これは本当に言語活動と言うか、本当に自分をつくる教育なんだろうかと

疑問をもちましたが、残念ながら今、国語の教科書を見ても、何を見ても、そういう何々に

なったつもりでとか、そういうものが結構増えてきていると思います。やはりそういう教育

ではないところで、先生がおっしゃるアイデンティティの形成というのを大事にしていった

らいいのかなというふうに、半分感想ですけれども、そんなことを思いました。 細川氏:ありがとうございます。今おっしゃったように、文化とかことばというのは、国家、国

とか民族にくっついている、民族に所属していると考えるのは、近代という時代のとても大

きな誤解だと思います。つまり、日本人だから日本語が話せるとか、それから日本語は日本

人のものという考え方、それ自体が、近代という時代が生んだ大きな誤りだと考えています。

それはナショナルアイデンティティというようなこととつながっていきます。どうしてかと

言うと、それは先程言ったように、もし違う国籍、違う民族を異文化とするならば、同じ国

籍、同じ民族は同文化になります。それならば同文化なら問題ないのかという話です。同文

化こそ問題なんです。家族の中こそ問題なんです。親しい人との間だからこそ問題なんです。

つまり、人は一人一人全部違う文化、違う言語、違うことばを持っているはずです。ところ

が、あるカテゴリー化をして、「この人たちは私と同じ」「この人たちは私と違う」という線

引きをいつのまにかイメージしています。それは本当に怖いんですよ。これは簡単に戦争が

起こるナショナリズムに走る危険性を持っています。だから、ここに「ハイブリッドでクレ

オール」と書きました。カタカナ語でちょっと分かりにくいですが、「ハイブリッド」という

のは要するにまぜこぜということです。「クレオール」といいうことも同じ意味です。言語に

ついては「クレオール」という言葉を使いますし、文化については「ハイブリッド」という

言葉を使います。要するに言葉や文化に純粋なものは存在しません。みんなごちゃごちゃな

んです。ごちゃごちゃなんだけど、それは自分の中に、さっき言ったように 70 億のピースの

一つとしてごちゃごちゃなのであって、そのごちゃごちゃさ加減は自分にしかありません。

だから、外国人だからとか、何人だからとか、言語が違うからというのは、何の理由にもな

らないんだけど、そこに理由をすり替えていると考えた方が私はずっと分かりやすいと思い

ます。ですから、自分と同じ価値観の者としか集まれないと言う人もいますが、自分の価値

観と全く同じ価値観を持ってる他人なんているはずがありません。私の奥さんも全然違うし、

娘も全然違うし、兄弟がいたとしたら兄弟でも全然違うし。要するに私と同じ考え、同じ価

値観を持っている人なんて誰もいないというところから出発しなければならないということ

です。でもそれは、決して孤立という意味ではなくて、自律という意味です。自律している

からこそ連帯できる。協同できるということになるだろうと思います。ですから、国籍、民

族というのは一つの区切りではあるけれども、それは一つの区切りにすぎないということで

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す。それを絶対視したり、目的化したりするのはとても恐ろしいことです。先程の国語の実

践に直接触れていないのであまり具体的には分かりませんが、「だれかのつもりになって」と

いうのは、自己に向き合って何か活動するというのはとても大変なので、現場の先生には「そ

れを回避したい」という気持ちもあるのかもしれません。アカデミックな場面でもそうです。

つまり、「論文は“私”という一人称で書いたらいけない」と言われます。なぜかと言うと、

一人称で書くと責任を負わなければならなくなるから。私を出してはいけない。論文で「私

は」と言ってはいけない。必ず「我々は」とか、「私たちは」という言い方をすべきだという

ことを盛んに主張している。「そうじゃないと客観的にならない」という主張をする人がたく

さんいますけれども、実はそうではなくて、私と言ってしまうと、私が全部責任を負わなけ

ればならないから、その責任を回避するために、使わないのかもしれません。ですから、私

語りというのは主観的で客観的ではないと言われますけれども、実はそうではなく、私語り

こそしなければいけない。ただ、私語りだけに終わってしまっては意味がなく、私の私語り、

他者の私語り、それらが集まって一つの社会がつくられている、つまり社会と個人というも

のが循環するようなことを考えなければいけません。そして、その軸になっているのは間違

いなく「自分」というものです。ですから、「私」を外してしまうと、確かにポイントがずれ

るというふうに思いますね。でもそれはとってもしんどいだろうと思います。つまり、向き

合わなければいけない。だから不特定多数の一斉に何か同じことをしたり、同じ回答を求め

ようとしたりする教室活動には向かないわけです。だからそこを意識的、無意識的にずらす

のでしょう。そのこと自体がもうすでに問題になっているということだと思います。それは

結構深刻な問題になるので、大変ですが、私はそういう立場を取ることにしています。

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「異」なるものと「壁」のイメージ

•言語や文化が「異なる」という事態

•課題:「異なる」言語、文化を持った人たちとどのように接すればいいのか

•何か支障となる、うまくいかないときの理由として使われる「異」のイメージ

•なぜ「異なる」ことを「壁」というイメージでとらえるのか

―できればそうした

「壁」は回避したい

―「壁」の感覚の増大、排除の論理と心情

•言語や文化が「異なる」ことがなぜ「壁」なのか、このような感覚イメージは

どこから来るのか

4

「グローバル人材」とは何か

•「グローバル」-地球、世界

•「人材」-人材開発、人材発掘・・・役に立つ人?役に立たない人?

•「グローバル人材」=地球人、世界人

~になる=「地球人」になる?

•「地球人」の条件とは?

-地球に生きる人間として、どのような地球であってほ

しいか、そのために個人として何ができるのか。

•ことば、文化、教育/学習という観点から考えられることは何か

•すべての個人一人ひとりにとっての<「グローバル人材」になる>ことの意味

3

本日の話の構成

•「グローバル人材」とは何か

•「異なる」ものと「壁」のイメージ/

「異なる」ことは、なぜ「壁」なのか?

•「同文化」志向はあぶない

/「同文化」志向は、なぜあぶないか

•「今、ここ」のアイデンティティ

•「グローバル人材」になることの意味:「地球人」の条件とは?/ことばの

学びとは何か/だれが地球人になるのか

2

「グローバル人材」になる

―言語文化教育の個と社会の立場から―

2015年

12月

12日

(土)奈良教育大学

細川英雄

早稲田大学、言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア

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「今、ここ」のアイデンティティ

•アイデンティティ:「今、ここ」で、自分が自分として認められているという意識・居

場所、「わたしはここにいていいんだ」という気持ち―動態的アイデンティティ

•アイデンティティの複合的危機状況;家族との葛藤、見えない権威への反抗、

無機的な日常(受験・仕事・・・)の圧力、一つの正解を求めるだけの学校、将来

が見えないという不安、揺れている「私」、どうしたらいいかわからない・・・

•【配布資料】一人の高校生が自分のテーマを探すという活動によって、少しず

つ自分に向き合い、対話によって、少しずつ自分を開き、自分の「今、ここ」を前

向きに受け止めるようになるプロセス-アイデンティティ危機を、さまざまな出会

いと対話と体験記述によって乗り越える。

8

「同文化」志向は、なぜあぶないか

•ここでも顔を出す国・民族-○○人<男性・女性<・・・<人間=個人

•ナショナル・アイデンティティ(〇〇人であること)の固定性・静態性

•「ハーフ、ダブル」の矛盾-所属・帰属から自立・自律へ

•ことばも文化も本来ハイブリッドでクレオール、純粋無垢はあり得ない。

•「人は一人ひとり違う、されど人はみな同じ」(細川,20

02)

•集団類型主義と帰属意識からの脱却-

70億のピースは、すべて異なる

7

「同文化」志向はあぶない

•同じ国、同じ民族ならば、文化はみな同じ?

―ひとつの家族内ならばコ

ミュニケーションは問題ないのか

•ことばや文化の「境界」(国・民族

)はだれがつくってきたのか?

•社会通念、常識、例:近代国家の政治的装置としての国語(日本=日本

人=日本語)と、社会通念を無批判に受け入れ、いつのまにか自分でイ

メージをつくりあげる個人

•「異」=「壁」ならば、「同」=「安心・安全」か?

「同文化」志向の危険性

6

「異なる」ことは、なぜ「壁」なのか?

•「ことばが違う」とは?

-ことばが通じない、コミュニケーションができない、言い

たいことが伝わらない・・・

•世界中にことばはいくつ(何ヶ国語)ある?

-20

0(国の数)?

6000~

8000(民

族の数)?

72億の個人?

•同じ国、同じ民族ならば、ことばは通じるのか?

-コミュニケーションは、ことば

の種類や形ではない(言語の別・種類は、構造の違いによって規定)。

•人と人の関係をつくり・つなぐ、感覚・感情・思考の総合的やりとりのプロセスこ

そ、本来のコミュニケーション

5

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【参考文献】

•牲川波都季・細川英雄

(200

4)『わたしを語ることばを求めて

―表現することへの希望』三省堂

•福島青史

(201

1)「「共に生きる」社会のための言語教育」リテラシーズ8、

pp.1

-9•西山教行・細川英雄・大木充

(201

5)『異文化間教育とは何か

― グローバル人材育成のために』くろしお出版

•細川英雄

(199

9)『日本語教育と日本事情-異文化を超える』明石書店

•細川英雄

(200

2)『日本語教育は何をめざすか-言語文化活動の理論と実践』明石書店

•細川英雄

(201

2a)『研究活動デザイン

――出会いと対話は何を変えるか』東京図書

•細川英雄

(201

2b)『「ことばの市民」になる

――言語文化教育学の思想と実践』ココ出版

•細川英雄・武一美(

2013)『初級からはじまる「活動型クラス」-ことばの学びは学習者がつくる』スリーエーネットワーク

•バイラム、マイケル

(201

5)『相互文化的能力を育成する外国語教育-グローバル人材を育成する市民性形成をめざ

して』

(細川英雄監修

)大修館書店

Byra

m, M

.S. (

2008

). Fr

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12

「グローバル人材」になることの意味

(3)

だれが地球人になるのか

•アイデンティティの複合的危機状況の克服;自己を発信する、他者を認

める、社会協働参加への意識-この対話的環境のなかで、自らの体験

を記述化することで、人は自律した個人となりうる-孤立

≠自立・自律

•自らの発信と他者理解、この地球上の、さまざまな人々とともに生きてい

く社会構築をめざした活動の場とその形成-個人存在のオリジナリティを

自覚できる環境の保障

(権利と義務

)―「ことばの市民」(細川,20

12)へ

•この学びの方向性をめざす個人:地球人、すなわち「グローバル人材」。

11

「グローバル人材」になることの意味

(2)

ことばの学びとは何か

•ことばの学びとは、「言語を習得する」ことではなく、「ことばによって活動

する」ことで、一人一人がアイデンティティを自ら形成・実現していくこと。

•自己をめぐる身体、心、思考の総体によることばの体験活動は、母語、第

二言語、外国語という分類を越えて「共に生きる社会」を取り戻す。

•個人一人ひとりが、自分の興味・関心から問題意識へという方向性を持

ち、ことばによる活動を軸に、他者を受け止め、テーマのある対話や議論

を展開できるような場(共同体)を形成しその体験記述活動を行うこと。

10

「グローバル人材」になることの意味

(1)

「地球人」の条件とは?

•地球に生きる人間として、どのような地球であってほしいか、そのために個人と

して何ができるのか。

•ことば・文化はともにハイブリッドでクレオール、すべて「人は一人ひとり違う」の

だから、100%はわかりあえない

(同文化はあり得ない

)。しかし、一人ひとりの

ことばや文化が異なるからこそ、新しい出会いと対話の可能性がある-

70億社

会の壮大なパズルとそれぞれの個によるピースの物語、正解を求めない生き方

•「されど人はみな同じ」なのだから、異なる相手を認め、「今、ここ」の自分を、ど

のように相手に伝え、ともに生きる社会をつくるための協働的な関係の意味に

ついて、自らの体験の記述によって問い直すこと。

9

17

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1

「わたしの興味とあなたの思い―今の自分を見つめなおす 1 冊の本」 山梨県公立高校・総合学習 2014「自分再発見―みんなでつくる「私」の旅」クラス 自分の興味・関心に基づいて、自らのテーマについて考えようとする一人の高校生が、近隣

に住む母方の祖母との対話を通して、次第しだいに異なるものとしての他者に気づき、その

意見を受け止めることによって、もう一度、自分の価値観を見直すようになる過程。 「好きなことをすることで生まれる自信」(K・高 2)の執筆過程 ・ある作曲家(梶浦由記)への興味・関心→こんな人になりたい。「わたしは好きなことをし

ている時が一番楽しいです。だから、好きなことをして行けば人生が充実したものになりま

す。わたしは充実していることを感じたいです。だから、今自分はやりたいことをしている

のだという自信が欲しいです。」 でも、こんな人になるための自信がない、母親からの一言「自信があることは自分が正し

いということじゃない」、揺れている「私」、どうしたらいいかわからない? ・ここでの「壁」の感覚―「自信」をめぐる母親との葛藤、見えない権威への反抗、幼いこ

ろから近くにいた祖母への思い、祖母とゆっくり話してみたいという気持ち。 祖母との対話 私 「この文章を読んで一番伝わってきたことってなんだった?」 祖母「〇〇ちゃんが目標の人、これだったら梶浦さん、みたいな『いい人』になりたいって

こと。このいい人って言うのは自分の目標に向かって頑張っていく人だよね。そういう人が

成功した人になるから。それでこんな人いいな、って目標に出来るじゃん。だけど比較はす

ることないね。音楽とか絵を描くこととか、努力をしてそういう人になるんだから、自分と

は比較できないね。」 私 「そもそも比較できないね。」 祖母「この人みたいにこういう人になりたいっていうことは、結局こういういい人になれた

らいいね、っていう理想の人だね。」 私 「自分ではない。」 祖母「自分ではなくて、理想の人。こういう人はその人の持ってる目標に向かって努力して

んだよね。そういう人になれればいいな、ってことが伝わってきたね。」 ・祖母:比較だけからは何も生まれない。理想の自分は、今の自分ではない。自信は自分で

つけるもの。 私 「自分自身を認めて自信をつけるのは自分自身ってことだね。」 祖母「そうだね。他の人とか理想がつけられるものじゃないね。」 私 「自分に自信があるかどうか決めるのは自分自身だ。じゃあ、自信があるって言う日本

18

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2

語はおかしいね。自分が自信をつけてるってことだからね。」 祖母「日本語がおかしいね(笑)」 ・祖母:理想の人は理想の人、でもそれはあなたじゃない、謙遜はしなくていい。謙遜と「空

気を読む」ということは違う。 ・祖母からの励まし、さまざまな価値観の違いとその気づき、自分の迷いとその方向、対話

による気づき、これからどう生きるか、 「自分再発見―1 冊の本」

今回私たちは・・・自分再発見という活動に取り組んできました。活動の目的は、自分の

興味、関心について追求し、自分の知らなかった自分を発見することです。まず、興味・関

心をまとめた文章を作りました。自分を見つけるために好きなことを書くというのは今ま

でやったことがなく、メンバーは戸惑いました。仲間と相談したり先生に質問したりして手

探りで書きました。最初の文章は多くはありませんでした。それを元にして先生、メンバー

との意見交換を、時間をかけて行いました。回を追うごとにそれぞれのレポートは内容が深

くなっていきました。量も増えました。他人の視点からアドバイスをもらうことによって個

人の意見はより明確に、より深くなっていきました。ある程度内容がまとまったところでレ

ポートを個人が選んだ人に読んでもらい、その内容について相手と話し合いました。友達、

家族など、この人だ! と思った人を選ぶのです。そして、その対話から自分を見つめ直す

のがこの活動の目的です。対話で相手の感想、思ったことを聞いて、自分の意見を相手に正

面からぶつけます。対話をしていると、今まで自身が自覚していなかった考えや別の角度か

ら自身の考えが明らかになり、今回、それぞれみな違った、文字通り『新しい自分』を発見

しました。 この本は、私たちの活動を最初から最後までまとめたものです。自分はどう思っているの

か、どうしたいのかについて考え、自分はこうしたいんだ、こう思っていたんだ、という結

論を見つけました。タイトル、内容、構成、全て個人が自由に決めました。内容は、人によ

ってそれこそ全く違うものです。最初に何となく思っていた意見が、最後には一人の人とし

ての強い思いになっていました。今回の活動で得たものは一人一人違います。けれど、皆、

この授業で大切なことを得たことは確かです。これほど深く長く自分について考え続けて、

それぞれが答えを出しました。 この結論はここでは終わりません。私たちはこれからも自分を作りつづけます。今回出し

た答えはその過程であり指針であると私は思っています。私たちの自分自身に対する評価

は、これから私たちが考えて行動することに関わってきます。だから、新しい自分を知れた

ことは、これからの私たちがより『私たちらしく』なれることだと思います。私たちらしい

というのは、より自分のことを考えられるという意味です。(「まえがき-自分の知らない自

分がいる」より)

19

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実践報告①

大学での教育実践

「留学生教育と連動した言語文化教育の実践」

留学生科目と専門科目や教職関連科目の合同授業の実践で、履

修生が「異文化・異言語の壁」をどう捉えたか?

実践報告②

附属小学校での教育実践

「「言語・文化」の実践」

中学以降の外国語教育の土台としての外国語活動「言語・文化」

の実践で、附小児童・教員がどのような気づきや学びを得たか?

「グローバル人材=英語運用力」以外の具体的なモデルを

示す必要がある

●細川氏の講演

「グローバル人材」になる=「地球人」になる

ことばの学び=ことばによって活動することで、一人一人がアイデン

ティティを自ら形成・実現していくこと。

シンポジウム

教員養成大学におけるグローバル人材育成を考える

第1回「言語文化教育におけるグローバル人材育成」

●「グローバル人材」の要素

要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力

要素Ⅱ:主体性・積極性、責任感・使命感

要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティ

(産学連携によるグローバル人材育成推進会議

2011)

●幅広い知識と柔軟な思考力に基づいて、知識を活用し、付加価値を生み、

イノベーションや新たな社会を創造していく人材や、国際的視野を持ち、

個人や社会の多様性を尊重しつつ、他者と協働して課題解決を行う人材が

求められている。

(中央教育審議会

2014「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」)

20

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●学校教員・教員志望学生とグローバル志向

・初等中等教育を担う大半は「公立」学校

→学校教育現場に外国籍人材は入りにくいのが現実

・教員養成課程の学生の「ドメスティック」な気質

『教師教育とグローバライゼーション(教師教育実践交流ワークショップ

2013

.11.

23 記録および関連資料集)』

2014年

3月東京学芸大学教員養成カリキュラム

開発研究センター

●大学の国際化を目指した、海外協定校との学生交流

・受入れ留学生の増加

・教育課程と留学生に対する言語文化教育は別の組織的枠組み

→対等な立場で交流を行う場が自然発生的に生まれにくい

教育課程の中に留学生とに日本人学生が共に学ぶ場を創設する必要がある

1.学校教育現場を取り巻くグローバル化志向の社会的背景

・学校教育現場の多言語化・多文化化

eg.外

国ルーツを持つ児童生徒及びその保護者への対応

・学校教育における外国語教育・異文化理解教育の変化

eg. 小

学校における外国語活動の必修化→外国語教科化

→「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」

(文部科学省

2013)

幅広い知識と柔軟な思考力に基づいて、知識を活用し、付加価値を生み、イ

ノベーションや新たな社会を創造していく人材や、国際的視野を持ち、個人

や社会の多様性を尊重しつつ、他者と協働して課題解決を行う人材が求めら

れている。

→教員自身もこのような学びを経験すべき

(中央教育審議会教員の資質能力向上特別部会

2012)

アウトライン

1.学校教育現場を取り巻くグローバル志向の社会的背景

と本学の留学生教育について

2.留学生と日本人学生の共修授業の目的と目標

3.共修授業

内容と学び

4.共修授業

今後に向けて

奈良教育大学における

留学生教育と連動した言語文化教育の実践

実践報告①

奈良教育大学における

留学生教育と連動した言語文化教育の実践

2015

.12.

12

国際交流留学センター

和泉元千春

教育学部

英語教育講座

岩坂

泰子

21

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奈教大の共修の実践

留学生科目「現代日本論」

~20

14年度

学部留学生(主に短期留学生)対象の科目(短期留学生必修科目)

目的:現代日本を伝統との関連を体験を通して学習し、日本に関する

理解を深める」ことを目的とし、グループワークによる協働学習

→日本に関する深い洞察、気づきを国内学生と共有できない

日本国内での日本を話題とした科目にも関わらず、国内学生との

共修機会がない

これまでの取り組み

教育課程:部分的な合同授業

例)国語教育専修/留学生科目(計

3回)

→他国の言語教育について知る

教材分析(国語教科書を読む)

教職関連科目「小学校外国語活動」/留学生科目(計

4 回)

附小での国紹介のサポート

国内学生の専門性に関わる活動

留学生の実践的な日本語使用・日本文化理解の機会

留学生と国内学生の学びの目的が統合されていない

・体験を通じた専門知識・スキルの獲得

・コミュニケーションスキルの獲得

学びが十分に深まらない

これまでの取り組み(課外活動)

課外活動:なっきょん

’s c

aféや国際交流イベントの定期的な開催

留学生サポーター

参加者はいつも同じメンバー。

(すでに異文化交流に関心の高い一部の学生)

「私、英語がぜんぜん話せないので

…」

本学の留学生教育

種別

人数

学部

正規生

6研究生

8日本語・日本文化研修留学生

/交換留学生

17

大学院

正規生

9研究留学生

インド

インドネシア

ロシア

スーダン

タイ

カンボジア

ドイツ

チェコ

フランス

米国

ベトナム

ポーランド

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ルーマニア

韓国

中国

メキシコ

インド

インドネシア

インドネシア

インドネシア

インドネシア

ロシア

スーダン

タイ

カンボジア

ドイツ

チェコ

フランス

米国

ベトナム

ポーランド

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニア・ヘルツェゴビナ

ルーマニア

ルーマニア

韓国

中国

中国

メキシコ

メキシコ

合計:

45名

2015年

10月現在

キャンパス内に多文化・多言語の環境

22

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2.留学生と日本人学生の共修授業の目的と目標

【目的】

日本や日本社会の事象や課題を通して他文化と自文化に対峙し、

文化理解を深める。

さらに異質な他者への寛容性を高める。

【目標】

多様な文化的背景を持つ他者との日本語による協働を通じて文化的

な気づきの視点を獲得し、自文化・他文化をとらえることができる。

【受講生】日本人学生

15名、留学生

25名

そこで参考にしたものは・・・

①相互文化的市民性(

Inte

rcul

tura

lcit

izen

ship

)の志向

・「ことばによって活動する」ことで、一人一人がアイデンティティを

自ら形成、実現していくこと。

・個人一人ひとりが、自分の興味・関心から問題意識へという方向性を

持ち、ことばによる活動を軸に、他者を受け止め、テーマのある対話や

議論を展開できるような共同体を形成し、その体験記述活動を行うこと。

②「批判的思考、問題解決、意思決定」といった高度思考力、

言語的、文化的背景の異なる他者と協力して作業する「コラボ

レーション」の力の育成

(国際文化フォーラム「外国語学習のめやす」)

奈教大の共修の実践

2科目を合同で開講

・留学生科目「現代日本論」・専門科目「異文化理解研究」

・20

15年前期

90分

×15回

→何のために共に学ぶのか?

共修によって何を学ぶのか?

どのような学びが得られるのか?

奈教大の共修の実践

専門科目「異文化理解研究」(英語教育専修

2回生必修科目)

~20

14年度

目的:自分と異なる文化の世界観に照らして自己の文化を相対化し、異文化

接触によって起こる心の葛藤と受容のプロセスを理解することを通して、異

文化理解の必要性と方法を認識すること

→異文化理解の必要性についてのリアリティのなさが否めず、

概念的な理解にとどまってしまう

23

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学生が紹介したコンフリクトの事例

大切なオリエンテーションに遅れそうになりました。キャンパスで自転車に

乗った留学生の友達に会ったので、

2人乗りをして教室まで行くことにしました。

途中で大学のスタッフに呼び止められて

「日本では自転車の二人乗りは禁止です。あなたの国ではいいかもしれません

が、ここではしてはいけません」

と注意されました。

二人乗りをしたのは悪かったですが、日本人学生もキャンパス内で二人乗りを

しています。私たちはすごくもやもやした気持ちになりました。

学生Aのエピソード

先日、私は運動部に入りました。私のほかに1年生が2人、2~4年生が

11人います。練習の日、1年生は1時間前に行ってグラウンドと部室のそうじ、

道具の準備をします。先輩たちは手伝ってくれません。

一番びっくりしたのは、飲み会です。飲み会では2年生から「1年生は先輩より

先に料理を食べ始めてはいけない」とか「先輩のグラスに飲み物がなくなったら

すぐに

注ぎに行かなければならない」などいろいろなアドバイスをもらいました。

また、先輩から飲み物をついでもらうときは、先輩のグラスより高い位置に

グラスを持ってはいけないとも言われました。

これはスポーツとぜんぜん関係ないので、いやな気持ちがしました。

①運

動部

でどのようなことがあったのですか。

②「私

(A)」は

、今

何が問

題だと思

っていますか。どう思

っていますか。

③あなたは、「私

(A)」

の考

え方

をどう思

いますか。

④あなたが「私

(A)」

だったらどうすると思

いますか。

実践例)

ある程度なじみのある言語や文化について、文化現象

を観察したり分析したりする

ある程度なじみのある言語や文化について文化的要素

を特定(識別)する

第2回

あなたが体験した異文化間のコンフリクト(対立)を

紹介しよう。

活動

第9-

12回

グル

ープ

ワー

ク、

第13

-14回

発表

第15

回振

り返

【第

1部】

【第

2部】

STEP

1:異

文化

と出

会う

第1回

出会

いの

他者

紹介

第2回

異文

化体

験か

らの

課題

提起

型学

習ST

EP2:

言語

のバ

リエ

ーシ

ョン

と社

会性

の関

係を

考え

る第

3回①

方言

のイ

メー

ジ第

4回②

自分

の言

語で

しか

説明

でき

ない

事象

を伝

える

STEP

3:「

文化

」を

再定

義す

る第

5回①

なじ

みの

ない

食べ

物の

イメ

ージ

第6回

②文

化的

マイ

ノリ

ティ

への

意識

「文

化」

とは

何か

。ST

EP4:

他者

理解

にお

ける

違和

感を

客観

的に

捉え

る第

7回異

文化

接触

場面

会話

の分

析第

8回中

間自

己評

体 験 的 な 「 文 化 」 の 再 定 義 他 者 理 解 に 対 す る

ア ク シ ョ ン

24

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授業後の振り返り

特定の言語現象について自分が持っている表象を言語で表現したり議論したり

しようという決意

・自分の国の言語でしか表せない言語を探していたが、自分はそう思っていた

が、相手の言語にも同じニュアンスの言葉があったときは、嬉しく思った。

(国内学生)

・自分の言語のことばを(他者の言語で(

※発表者補足))説明するのは難しいで

すが、全部の言語のことばは同じだったら、つまらなくなると考えます。(フ

ランス)

授業後の振り返り

言語(文化)とアイデンティティ=「個の文化」の意識化

・沖縄弁のイメージとして私は異国の言葉のように感じていたけど、かわい

ぶっているという意見を聞いて驚いた。バックグラウンドの違いでイメージ

も違うということがよく分かった。(国内学生)

・私は結果的に大阪弁が一番好きだったが、それは、なじみがあってよく知っ

ていて、歌の状況と合っていないことのギャップが好きだったからだと思う。

逆に沖縄弁のように違いすぎるとよく分からなくて気持ち悪い感じがした。

(国内学生)

実践例)

言語の共時的な変種(地域的、社会的、世代的、特定の人々に

関する変種について知る。

自分自身の言語的アイデンティティを決定している要因を知る

3回「生まれてはじめて(「アナと雪の女王」より)の方言バージョンを聞い

てイメージを話し合いましょう。

第4回

自文化のことばでしか言い表すことができないことばを日本語で説明して

みよう。

実際に聞いてみましょう。

出身地の方言や仲間うちで使って

いることばを説明してみましょう。

授業後の振り返り

・ポーランドでは敬語とため口がまるっきり違う言葉になるということに驚きま

した。なぜそのような気持ちになったかというと、やはり自分が生きている日

本との文化の違いを感じたからだと思います。結局、日本に生きる限り、従う

しかないのかなという結論にいたりましたが、普通に暮らしていたら、そんな

に深く考えなかった問題だったと思うので、学ぶことが多かったです。

(国内学生)

身近なところにある「異なる文化」「異なる他者」に気づく

「日本人は~。留学生は~。」という安易な二項対立への疑問

・「

2人は留学生さんだから・・・」というふうに自分から距離を作ってしまって

いたんだな(国内学生)

・「外国人」というひとくくりで人を見てしまう考え方はおかしいと思った。

(国内学生)

25

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【第

2部】グループワークのテーマ

・ジェスチャーによるコミュニケーション

・食文化の違い

・世界の障害児教育

・世界のいじめの傾向

・女装芸人のイメージ

・日韓のイメージ

・イスラム教徒に対するイメージ

・友人間の経済的格差についてのコンフリクト

授業後の振り返り

・日本はどうも少数派を排除する傾向にある。(略)あってはならないことだ。

(国内学生)

コンフリクトについて具体的なイメージや知識の不足=短絡的な結論に終始する

授業後の振り返り

低く見られている諸文化やなじみのないもの(文化的なもの)に対する寛容さ

(A-

5.3.

1)」に言及しながらも、「文化的に異なっているものに対する自分の抵

抗感や消極性を制御すること(

A-4.

1)」の困難さ、「文化的差異の広さと複雑さ

をすべてを理解することができないという状況(

A-4.

8)」に言及

・みんなの話の中に性同一性障害の人との話があった。その話では、障害を持っ

ていても周りの人から受け入れられていて楽しそうだったというものもあった

が、周りの人が受け入れていたら自分も受け入れやすいだろうが、周りの人が

受け入れていない状態で自分だけ受け入れることはできるのか疑問に思った。

(国内学生)

実践例)

文化的偏見の存在に気づいている。

文化の多様性に関連して、価値観/規範には大きな多重性が

あることを知っている

今、教育現場では、体の性と心の性が一致しない「性同一性障害」の子ども

への

対応が問題になっている。文科省が

2014

年に初めて行った調査結果によ

ると、全国の小・中学校や高校で「性同一性障害」と思われる児童・生徒は

少な

くとも

600人

以上だそうだ。また教育現場はその子供たちへの対応に苦慮

していることがわかった。自分の性に違和感を抱く子どもは一人で悩んだり、

不登校や自傷行為にいたったりするケースも多い。学校などの社会では、ト

イレや更衣室、制服、さらに部活動の選択など、男女の棲み分けが当たり前

だが、本人の精神的負担を減らすためにはどうすればよいのか。周りの同級

生や保護者にどのように伝えるべきなのだろうか。

(「

クローズアップ現代」

2014

年12

月9日

放送より)

第6回

1.まりあさんはなぜ苦しんでいるのでしょうか。

2.もしあなたが、①まりあ、②まりあの親、③教師だったら、どんな気持ちが

すると思いますか。

3.これまでに自分がマイノリティになった、あるいは周囲にマイノリティが

存在した、という経験がありますか。

そのときあなたは、どの立場でしたか。

26

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成果

安易な「外国人(留学生)対日本人」の二項対立で事象を捉えていた国内学生、留

学生が、異なる文化、異なる他者の観察、分析を協働で行うことによって、動的な

「個」としての文化を意識化するようになる様子が観察された

他文化との比較や客観的な事象分析により、自文化や他文化に対する無意識の偏見

を内省する視点も意識化されたと言える。

国内学生の多くにとって本授業は初めて異文化を意識的に体験する機会であったが、

多くの履修生が、「文化」や「他者」への自身の態度を体験的に見つめなおす過程

を取り入れた教室活動で、異なる他者との協働の大切さや困難さを実感した。

留学生の多くにとっても「日本」や「日本人」の多様性への気づきから自文化や無

意識の偏見を内省する視点が意識化された

本実践の特徴

①「批判的思考、問題解決、意思決定」といった高度思考力、言語的、文化的背景

の異なる他者と協力して作業する「コラボレーション」の力の育成に資する活動

を取り入れた点

②ことばによって自己を表し、他者を理解し、その他者とともに社会を作っていく

行為を通して相互的市民性を目指した言語文化教育を志向した点

③①②において、自己の文化認識や他者理解を「静的な文化理解(異文化への興

味)」

→「「文化」の定義の再構築(個の文化の意識化)」

→「他者理解へのア

クション」の流れで体験的に深める協働作業を積極的に採用した点

受講後の振り返り

国内学生

私の中に起きたコンフリクトは、宗教によって食べ物が制限されている事に対する理解で

ある。今回、私が一緒にグループワークを行った留学生の中に宗教上の理由で食べ物の制

限を持っている人がいた。私はもちろん世界には宗教上の理由によって食べ物が制限され

ている人がいるという事実は以前から知っていた。悪いとも変なことだとも思わなかった

し、普通に受け入れることができていた。しかし、彼らとワークを進めていくうちに、も

し自分が宗教によって食べ物を制限しなければならない状況になったらどう感じるだろう

かという事を考えた。(中略)

本質的には理解できていなかった。(中略)

このようなことを考えているうちに、自分は果たして他者が信仰している宗教について理

解しているのだろうかという感情と、そのような宗教を持った環境に生まれたので本質的

な部分は理解できなくて当たり前であり他者の宗教を差別したりせずに受け入れているだ

けでも理解していることになるのではないか、という二つの感情が自分の中に対立した。

このことについて、「どうして良いのか分からない」というのが正直な意見である。(中

略)ただ単に、「様々な文化を理解する事が大事ですよ」というような説明だけでは言葉

不足ではないかと、この経験を通して思った。

受講後の振り返り

留学生の最終レポートより

一番勉強になったのが授業で行った活動で自分の意見を言う勇気が出来た。日本の

5つの伝統

的な食べ物がグループの前に配ってもらった第

5回のことだった。(中略)先生が「鮒ずしが

おいしい、好きだと思う人?」と聞いて、

Aさんが手を挙げた。学生全員が驚いた。どうやっ

て鮒ずしがおいしいと言えるか本当に信じられなかった。その時、私もびっくりして、

Aさん

がおかしいなあと思った。さらに、

Aさんの意見を聞いて恥ずかしかったも感じた。でも、ど

うして恥ずかしい感じがあったか分からなかった。数日間も考えていた。よく考えてから分

かるようになった。私が恥ずかしかったのは

Aさんのような真っ直ぐな人になれないからだ。

私は

Aさんの意見が不思議と思うより彼女がそれを言えたことに感嘆させられた。

Aさんが私に多くの自信を与えて、相手のことを聞くだけではなく自分の意見も述べる動機す

る気持ちを喚起してくれた。

Aさんのおかげで、人々誰も違っているところがあって、それが

悪いことではないと分かってきた。(中略)

クラスでいくつかのグループに分かれて、コンフリクトについて発表する予定があって、私

のグループは異食文化をテーマにした。異食文化のコンフリクトの中で、私の国の犬食文化

について話したいと思った。その話を発表すると決める前に良いテーマと言われても結構悩

んでいた。「私の国では犬を食べる習慣がまだ強く残っている。犬肉が好きだ」などと言っ

たらみんなの反応はどうなるか、悪人と批判される可能性が高そうで、しない方が良いかな

あと思って心配していた。そこで

Aさんのことを思い出した後、「お互い理解してあげる」と

いうメッセージを伝えたいため、勇気を出して、発表がうまくできたと思う。

27

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留学生と日本人学生が共に学ぶ学習環境

「異文化との出会いに対する喜び(留学生と話ができる!

)」だけではない

多様な学び

・身近に存在する「異なる他者」「異なる文化」に気づく

だけではなくて、

・ことばによって自己を表し、他者を理解する体験を通して、その他者とともに

社会を作っていくことの大切さや困難さに気づく

28

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・20

11年度(平成

23年度)より、小学校において新学習指導要領

が全面実施され、第

5・第

6学年で必修化

(→

次期学習指導要領で

は第3・4年から、第5・6

年は教科へ)

・目標:音声を中心に外国語に慣れ親しませる活動を通じ

て、言語や文化について体験的に理解を深めるとと

もに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度

を育成し、コミュニケーション能力の素地を養う。

1.小

学校

外国

語活

動目

標1.中学ではアルファベットの学習に時

間が

あまり割

かれ

ない。

→中1学生の文字に対する抵抗感

2.中学の授業は覚えることが中心の授

業。

3.パターンプラクティスなどのドリルが中心の学

習。

4.正しい英語でないといけないという強迫観

念。

→英語嫌いが増える。このような現状を変えたい。

(景浦攻:元文科省外国語担当教科調査官)

1.小

学校

外国

語活

動必

修化

の背

1.小

学校

外国

語活

動必

修化

の背

景と目

2.附

小の

外国

語活

動:「言

語・文

化」の

目標

3.「言

語・文

化」授

業内

容と学

4.小

学校

外国

語活

動の

今後

に向

けて

奈良教育大学附属小学校「言語・文

化」の

実践

アウトライン

奈良教育大学附属小学校

「言語・文化」の実践

2015

.12.12

.

附属小学校

林綾

教育学部

英語教育講座

岩坂

泰子

29

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∗ねらい:留学生との交流を通して、世界にはいろいろな

国があることや、その国の文化があることを知る。

∗内容:1つのクラスに4~5人の留学生に入ってもらう。

①それぞれの国のあいさつと、日本にきて驚いたこと

を全員で聞く。

∗②グループに分かれて留学生の国の紹介をきく。

5年

留学

生との

交流

を通

して

文化

の多

様性

に気

づく

∗5年の実践事例

3.「言語・文化」実践内容

テーマ例 英語の多様性

・イギリス英語

・アメリカ英語 など

日本語の多様性

・方言

・数字

文字の多様性

・日本語の表記

・数字

文化の多様性

・留学生との交流

文化の多様性

・留学生との交流

→日

本と外

国の

言語

と文

化について理

解を

深める時

間「言

語・文化

」と名

づける。

5年

生の

主な目

・・・言

語や

文化

の多

様性

に気

づく

6年

生の

主な目

・・・言

語の

規則

性に気

づく

2.附

小の

外国

語活

・「言語・文化」検討委員会発足:附属小学校の外国語活

動のあり方と内容の検討を目的として立ち上げた附小内

の教員による委員会

・「外(文科省)」からの方針で始まった試みを附小の子ど

もにとって実のある内容にしたい。

・低学年担任1名・中学年担任1名・5年担任1名・6年担

任1名=計4名からなる。

2.附

小の

外国

語活

30

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나라

なら

나카

무라

타니

무라

타케

무라

なか

むら

たに

むら

たけ

むら

∗ねらい:韓国語表記に使われるハングル文字のつくりは、

ローマ字と同じように、子

音+母音のくみあわせにおいて

規則性があることに気づかせる。

∗内容:ハングル文字に隠されているきまりをみつける。

①「なら」のハングル語表記を知る

②「なら」をてがかりにハングル文字でかかれたものを考

える。

③韓国人話者からハングル文字のつくりについて聞く。

ローマ字

の表

記規

則か

らハ

ングル

の表

記規

則を見

つける

∗6年の実践事例

3.「言語・文化」実践内容

テーマ例

語の規則性

・多言語の月の言い方

から規則をみつける

文字の規則性

・ローマ字の表記規則からハングル

の表記規則を見つける

文字の規則性

・ローマ字の表記規則からハングル

の表記規則を見つける

音の規則性

・アルファベットと音の組

み合わせ規則を見つける

文の規則性

・多言語の文構造の規則を

見つける

それぞれの国の言葉で「こんにちは」をどう言

うの

かを教

えてもらっている時

に、一人

の児童が「こんばんはは?」とつぶやいたことで、子

どもたちの

学びが広

がった。

∗ルーマニア語では

「ブナズィワ」

(こんにちは)

「ブナセァーラ」

(こんばんは)

=昼

=晩

留学生から、あいさつの言葉のしくみ(

「ブナ」が接頭語+昼か夜か)を教えても

らった

ことから、日本語の「今日は」「今晩は」としくみが

よく似

ていることに気

づいて

いった。

∗ほかの国のあいさつはどうなっているのかという疑

問がクラスの児童

に広がって

いった。

・ハンガリー語も、初めの部分は

同じで、後ろの

部分

をか

えると「おはよう」や

「こんばんは」になる

・ベトナム語と中国語は、時間による使い分けが

ない

という話を留学生が話してくれた。

言語

・文

化についての

児童

の気づき

エピソード

31

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「小

学校

外国

語活

動」の

目標

音声

を中

心に外

国語

に慣

れ親

しませ

る活

動を通

じて、言

語や

文化

について体

験的

に理

解を深

めるとともに、積

極的

にコミュニケーションを図

ろう

とする態

度を育

成し、コミュニケーション能

力の

素地

を養

う。

4.「小学校外国語活動」の今後にむけて

∗・外国語、外国に対する興味・関心の高まりが見

られ

る。

∗(なれ親しみ)

∗・あたりまえと思っていた「自分」の文化や言語を相対化するよう

になった。

(言語・文化学習に対する積極的な態度)

∗・母語である日本語や日本の文化

と比

較することで、異

文化理

解の方法を体験的に獲得している様子が

確認

できた。

∗(体験的な学習による学び)

3.「言

語・文

化」

子どもの

学びと外

国語

活動

の目

∗・韓国のりでみたぐらいしかないのにいきなりほかの国の文

字は無理だと思いましたが

、ローマ字としくみが同じなのでわ

かりやすかったです。がんばって覚え使えるようになりたいで

す。楽しか

ったし、別

の国の文字を知るのはうれしかったです。

(M

R)

∗・韓国語はわけわからないかきかたをしていて、(読めない

なー)と思ってたけど、いろいろなかたをしていて、カタカナの

「ㅋ」と「ㅏ」で「카(カ)」とよむ。ローマ字みたいで読みはむず

かしいけど、書きは覚えたら普通に書けるとわかった。(MA)

文字の規則性に関する児童の気づき

32

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∗<活動のポイント>

∗基本表現の暗記による

Q&

Aはコミュニケーションか?

∗言語の習得ではなく「こ

とばによって活動」し

ているか?

∗社会のさまざまな課題を解決できる鍵(市民性)に

つながることば

の教育の一端を担えるか?

∗→

なじみのないことばや文化に対する開かれた態度の育成

∗→

直感のきく母語を利用したことばへの気づき(大

津由紀雄)

∗「コミュニケーション能力の素地」とは?

コミュニケーション能力育成のための活動例@附属小学校

5年生&留学生

2015

.11.2

8実施

「温

泉たまご」と「たまご温

泉」?

∗<

設定

∗留

学生

と小

学生

の交

流授

業で、小学

生の小

グル

ープに留学

生が1人

ずつ入

り、それ

ぞれ

の国

紹介

をして場

が和

んだ後の

活動

∗<手順>

∗1.先生から各人に紙を配られ、先

に「温泉たまご」、次

に「たまご温泉」の絵を描くよう指示される。

∗2.各人の絵が描けたら、お互いに絵を見せ合い、それぞれ

の絵の根拠を話し合う。

∗3.「たまご」と「温泉」の語順の入れ替えによる意味の

違い

を言語化する。

∗4.先生による全体共有の後、留学生の

母語

で同

じ規則

性のある例はあるかどうか、尋ねる。

コミュニケーション能力育成のための活動

例@附

属小学

校5年生&留学生

2015

.11.2

8実施

「温

泉たまご」と「たまご温

泉」?

∗基本表現の暗記による

Q&

Aはコミュニケーションか?

∗言語の習得ではなく「ことばによって活動」している

か?

∗社会のさまざまな課題を解決できる鍵(市民性)につな

がることばの教育の一端を担えるか?

∗「コミュニケーション能力の素地」とは?

小学校外国語活動における

「コミュニケーション能力の素地」

∗テーマ:

Wha

tdo

you

wan

tto

be?

(Hi,

frie

nds!

2Le

sson

8)次

の2つの

授業

の展

開で得

られ

る学

びを想

像してみ

よう。

∗Aタ

イプ

1.単語の学習:職業の名前

先生、医者、野球選手、

etc.

2.今日の表現の練習

A: W

hat d

o yo

u w

ant t

o be

?B:

I w

ant t

o be

a ・・・・・

3.友だちになりたい職業をきく活動

(全て英語)

4.結果発表

I wan

t to

be a

・・・

/He(

she)

Wan

ts to

be

a ・・・

Bタイプ

1.将来の夢、または自分が就きたい仕

事をしている人の絵を描いてくる(宿題)

2.小グループになり、自分の絵を説明

する。

3.友だちの話を聞き、聞いた人のことを

ワークシートに書く。(部分的に英語)

4.結果発表

⚪⚪

wan

ts to

be

a ・・・

He(

she)

likes・・・

I (do

n’t)

wan

t to

be a・・・

, too

.(こ

この英語表現は教師が支援する)

33

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∗*子どもたちは意外と外国語への抵抗が

ない。

∗*話がはずむと留学生

の日本

語がカタコトになる。

∗*留学生は名詞や動詞など、日本の言葉を文法的

に考え

たが、小5では感覚で日本語を使っているという違いを感じ

た。

∗*意思疎通をするためにはたくさんのことば

が必要。

∗*みんなで話し合うことで班の

中で意

見が言いやすくなり、

みんなが活動に参加しやすくなると感じた。

∗*絵は何かを伝えるときは

とても効果

的だ。

∗*子どもたちは一所懸命留学生に初

めて教

えることばを説

明しようとしていた。

∗*日本語の性質を説明するのにこのようなやり方が

あるの

だと初めて知りました。

コミュニケーション能力育成のための活動例@附属小学校

5年生&留学生

2015

.11.2

8実施

「温泉たまご」と「たまご温泉」??

活動の参観による学生の気づきから

34

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▼細川英雄先生の講演への学生コメント ○今日の細川先生のお話で出てきた「アイデンティティは動態的なものだ」という言葉に私

はとても「その通りだな」と思い、納得しました。固定化されるものでも、レッテルを貼

られるものでもない。常に流動している、あいまいなものであると認識できたのはとても

大きい収穫だったと思う。また、もっと積極的に留学生と会話をしたり、交流したりする

機会に参加して、自分の世界も広げていきたいなと思った。 ○今まで自分が思っていたグローバルに対する考え方が少し変わりました。本当に必要なも

のは何か、何がグローバル人材と言えるのか、そう考えるだけでも自分自身に変化を起こ

せると思いました。 ○私の母は韓国人で、父は日本人です。いつも私は中立の立場にいて、「だから日本人は〜な

んだ」「だから韓国人は〜なんだ」など、間に立って、いろいろな話を聞きながら育ちまし

た。やはり昔の人ほど、自分と同じ文化の人には安心感を持ち、外国の人には壁を作って

います。これからを支えていく子どもたちにはそのような考え方はしてほしくないです。

自分の目や行動で理解し、他人の意見など鵜呑みにして生きてほしくないと思いました。 ○私は外国(語)って聞くと、なんとなくアメリカやイギリスという英語系の国しかイメー

ジしなかった。だが、講演を聞いて、様々な国の文化や実態というものを理解することが

大切なんだと気づくことができた。 ○私は少し理想論だと感じた。一番手っ取り早い方法はその言語が話されている環境に入る

ことだとおっしゃっていましたが、それができたら苦労しないなあと思います。 ○細川先生のお話を聞いて、例えば、英語をペラペラ話す人や英語のテストで高得点をとる

人、留学生などの自分が考えている「グローバル人材」イメージが先生とは異なっていた

ことがわかりました。また、外国語学習=コミュニケーション能力の向上ではないことも

わかりました。外国語=英語ではなく、いろいろな国があること、文化があることを教え

る必要があると思います。 ○正直、来るのが面倒だったが、話がためになりすぎた。私は、国の対立が起こるのを防ぐ

ためには思想の数を減らすべきだと勝手に思っていた。もちろん不可能ではあるが。とこ

ろが細川先生の話はすごかった。異なるからこその出会いという言葉が印象的であった。

35

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○国際交流留学センター主催でいろいろな行事をしているというのを知りませんでした。今

日のお話を聞いてとても興味がわきました。英語が上手でなくてもいいということなので

ぜひ参加させていただきたいと思います! ○小学生が言語活動を行うためには、言語を習得していることが必要なのではないか。 ○奈良教育大学の実践例を通して、国内であっても他者との言語や思考の違いに気づくこと

ができました。しかし、そこからどう自分が主体的に行動すればいいのか難しいなと思い

ました。また、授業後の振り返りを読んで、知識としては異文化を理解できていますが、

本質的には私は何も分かっていないのではないかと思いました。私自身、コンフリクトに

ついて考え、グループワークを行い、実際にどのように感じるのか、実践してみたいと感

じました。 ○多くの国の人々と直接会ったり、話したりすることで世界の価値など多くのことを気づく

ことがあるのだなと思いました。基本的な表現の暗記ばかりしてもだめだなと思いました。 ○異文化と触れ合うことで子どもの視野が広がり、相手を認め、理解することにつながる。

言葉の違いから文化の違いに気づき、相手の考え方を理解する。 ○シンポジウムというものに参加するのは初めてでした。先生たちが前でディスカッション

している様子を見るのは新鮮でした。先生たち同士で質疑応答している。その内容はかな

り高度というか、深いなと感じました。それは、自分の意見をしっかり持っているのが伝

わってきたからそう感じたんだと思います。 ○グローバル人材を育てるには言語だけじゃないと言っていたが、他の異文化理解は留学を

しても難しいと思う。グローバル人材は本当に育てられるのかと思った。 ○今の時代、教師は「将来のグローバル社会を担う人材を育てる」ことが求められているが、

それは英語を流ちょうに話せる子どもを育てるという意味ではないのだと実感できた。子

どもたちにまず必要なことは、例えば留学生などの話を聞いて、英語に触れること、異文

化を知ることを通して自分自身を知っていく事だと感じた。 ○文化=民族・国という考えを私自身もしていたけれど、それは近代の誤った考え方だとい

うことを知った。だから、一人一人が違う文化を持っているということを学んだ。 ○「ことばの学び」の中で、言語習得は“結果”であって、“目的”ではない。

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○シンポジウムの前はグローバルと言われると世界全体をイメージしていたのですが、話を

通して、世界だけでなく、日本、社会と置き換えることができると学びました。広い目で

全体ばかりを見るのではなく、狭義の意味での視点を養っていく必要があると思いました。

また、言語について学ぶことは、規則について気づく機会を与えたり、子どもに主体性を

持たせることにもつながるのだなと思いました。いろいろな言語に触れてみることで母語

に対しても興味を持ったり、なぜこのような言い方をするのかなど疑問を持つことで考え

方や捉え方が相対的になっていくのは面白いなと思いました。 ○この国の人だからこの国の言葉を話すという大きな勘違いがあるという話を聞き、私の知

り合いに日本人の父母を持つけれど小さい時から英語に慣れ親しんで幼稚園に通うために

日本語の勉強をしたという子を思い出しました。初めてその話を聞いた時は驚いたし、び

っくりしたけれど、今日この話を聞いた時、ああ、私も現代社会の大きな勘違いをしてい

る一人なのだなと思いました。 ○やはり自分は自分の文化や言語を当たり前と認識し、前提として考えがちだと感じた。今

日初めて聞いたことはどれも元より自分にないもので「は〜なるほど、そんな考え方があ

るのか」とサブ的な感想を抱いた。他の視点から考えているという自分と異なる人の“当

たり前”をより知る必要があると思った。 ○外国語活動についての集会にもかかわらず、英語についての話が出てこなかったというこ

とは英語だけが外国語活動ではないのかなと思った。 ○グローバルや外国語という考え方が変わった。言語を学ぶことが大切だと思っていたが、

そこがゴールではなくそれを通じて自分を高めることが大切なのだなと感じた。 ○アイデンティティの話を聞いて、他の人の意見や考え方を素直に聞くということは違う発

想を持てたり、共有できたり、自分の考え方が広がることにもつながると思いました。自

分の意見が正しいと思っても冷静になることができると思います。留学生の「学内の自転

車2人乗り」の疑問についても悪いことだけど面白さを感じました。日本人に対する外国

人の素朴な疑問をもっと聞いてみたいと思いました。また、そうすることが国際交流の一

環でもあり、少しですがグローバル化の一部でもあるのではないかと思いました。 ○全体を通して、子どもたちに外国のことを理解させようとする動きがとても進んできてい

るのだなと気付きました。異文化についての理解が深まれば個性の違いについての理解も

しやすくなり、いじめや偏見の減少にもつながっていけばいいなと思いました。上から教

えるのではなく、子どもたちが気づき、学ぶということの大切さを改めて実感しました。

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附属小学校の様々な実践が公立の様々な小学校に広まっていくと良いと思いました。英語

や外国語を教えることについて、土台を教えるのは難しいとのことでしたが、土台の部分

にはやはり「覚える」とうことが必須になってくるのではないかと思いました。 ○「グローバル人材」のお話を聞いて、言語活動に関することへの捉え方、関心の向け方を

考えさせられました。言語活動を行うときにいかに体験的に学びとれるように教材を作り、

授業を進めるかが重要だと思いました。また、「ことば」は多くの意味を含んでいて、また

わかった「つもり」で使っていることが多いのではないかと思いました。言語と社会はつ

ながりに密接している。社会に入って生活することで「ことば」の使い方を学んでいき、

結果として言語を習得することになるということに納得しました。母国語の習得はそのよ

うにして得られるものだと思いました。ただ、母国語を習得した後だと、母国語とは同じ

ようにはいかないだろうと感じました。 ○私は外国(語)と聞くとなんとなくアメリカやイギリスという英語系の国しかイメージし

なかった。だが、講演を聞いて、様々な国の文化や実態というものを理解することが大切

なんだと気づくことができた。 ○私は英語が嫌いだとずっと思っていたが、よく考えると私は他国の文化を知るのは大好き

だし、他国の人と話をするのは好きだ。私が嫌いなのは、ルールに従って英語を使わない

といけない(文法とか)事であって、他国の言葉を使うことすべてを嫌いになってはいけ

ないと思った。外国語、グローバル=英語ではないということをもっと感じていくべきだ

と強く思った。 ○英語学習は結果としてできるようになるだけでそれは目的ではない。その先のことを考え

なければならないという言葉が印象的だった。ただ無意味な例文をなぞるだけのような実

践ではいけないことに気づかされた。 ○この講義を受ける前に自分が考えていた「グローバル人材」がこの講義を受け、少し変わ

りました。言葉ではうまく伝えることはできないが、細川さんの「言語を学ぶのが目的で

はない」の言葉で印象が変わりました。自分自身が考える「グローバル人材」がよりはっ

きりとなるよう日々意識して外国語活動の授業受けていきます。 ○世間一般的には良いとされているものであっても、ある人たちは反対の意見を持っている。

私たちは自分の考えが正しいと思いがちであるが、ディスカッションでもあったように反

対派の意見にも耳を傾けると一理ある場合が多い。だからこそ、誰かの意見だけでなく互

いに意見交換することが必要だと思った。

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○頭では異文化について分かっているつもりでも(宗教によって食べられないものがあるこ

となど)いざ自分に置き換えたり、目の前にするとコンフリクトを感じるのは仕方のない

ことであり、異文化理解を深めるのは簡単なことではないと感じた。字を見て本を読んで

分かった気になるよりも、実際に異文化の人々と関わることが有意義だと思った。 ○細川先生のお話はとても理解できる内容だったし、私もグローバル人材とは言葉というツ

ールを用いて他者に自らの意思を伝え、自らもまた他者について理解することであると思

う。しかし、その「グローバル人材」を育てる教育における実施について細川先生は具体

的な内容を述べていらっしゃらないように思えた。5〜10人強の語学学校と 30 人前後

を一度に見なければならない学校現場とではずいぶんちがうと思う。 ○今回シンポジウムを受けて、小学校外国語活動の授業を受講しているものとして、附属小

学校の授業実践の紹介はとても関心を持った。特に「英語」の授業ではなく、「ハングル語」

を使った授業で、文字の規則性を子どもたちが興味を持ちながら見つけ出していく様子が

印象的だった。「英語」を中心とした授業を考えがちだが、外国語活動なので、他の言語、

文化に関して学べる授業も考えられるような力を今後身につけていきたいと思った。 ○細川先生の話では、学校はコミュニケーション能力を育てる場所ではないとおっしゃって

いたがその部分は教師を目指す自分とは考え方がちがうと思った。しかし、学校という場

は子どもたちにとって自分の興味、関心を考え、自分と向き合う機会とそれを他者に発信

し伝えていく場であるという考え方には納得できた。実際、自分にとっては学校はそのよ

うな場であったなあ、と思った。 ○「グローバル人材」とは複合的に社会に属する人のことであって、「英語を話せる人」を指

しているとは必ずしもいえません。また、小学校外国語活動での目標である異文化理解を

するためには「グローバル人材」になる教育が必要であるということがよくわかりました。

自分ももっと視野を広げて、様々な社会に属することが必要であると思いました。

39

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▼実践報告①への学生コメント

異文化は思いがけないところに

もある。私は基本的に自分と異な

るものは受け入れられると自分

では思っているし、自分とちがう

文化を誇らしく思っている人を

かっこいいと思う。しかし、それ

はあくまで「違うことは変ではな

い」と思っているだけで、理解し

ようとしていたかは疑問である。

もしかしたら、関心が低いがゆえ

に異文化を受け入れられていた

のかなと思った。

自分も知らないうちに、偏見や先

入観をもってしまっているのかと

思ったので、このような活動は他

者と自己を理解する上で貴重な体

験になると思いました。

他者を受け入れることの重要さを

学んだ。自分も東京の出身で関西

に来てからいろいろなギャップ、

言葉の話し方など、戸惑うことは

少しあったが、これが関西なんだ、

ここの魅力なんだと今では考えて

いる。

コンフリクトについての話が印

象に残っています。運動部のエピ

ソード例が理解しやすかったで

す。日本人の自分でさえ少しモヤ

モヤすることが多々あります。留

学生についても同じことがいえ

るのだろう。そのようなコンフリ

クトについてもっと深く考えて

みたいです。

対立は避けられないが、相手を知

ることで理解につながるのでは

ないかと考えます。私は留学生サ

ポーターをしていますが、集合時

間の5分前に着きます。ですが、

彼女は 10分後に着くので私は 15分待つことになります。これも一

つの対立だと思いますが、文化や

意識の違いを知っていれば寛容

になれるのではないでしょうか。

奈良教育大学で留学生と交流でき

るなっきょん's カフェなどの機会

がたくさんあるのに、学生が上手

に利用しきれていないということ

が印象に残りました。

40

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▼実践報告②への学生コメント

小学校で外国語に触れて様々な

言語の一端を知るが、中学校から

の、覚えることが中心の授業で

は、国際活動でコミュニケーショ

ンをとるための外国語を話すこ

とは難しいのではないかと思っ

た。しかし、形式にこだわってい

る今の外国語教育では、「いざ」と

いう時の対応や適応する力とい

ったものが育たないのでは?と

も思った。

文字の規則性に関する児童の気づ

きについての動画を見て、子ども

たちの気づきに注目することがで

きました。このような気づきが学

問、特に外国語活動には重要で、大

切なものだと思いました。

温泉たまごとたまご温泉の話も、と

ても理解しやすかったです。子ども

たちは意外と外国語への抵抗がな

いと少し驚きました。

今後の実践授業などで、子どもたち

にどのように工夫をして授業をし

ていけばよいか、大変参考になりま

した。

附属小学校では、様々な規則性を

見つけ、他文化を理解するという

授業を展開していた。小学生独自

の発想から更なる授業が展開し

ていくのが素晴らしいと思った。

さりげないきっかけから異文化

理解が進んでいくのは素晴らし

いと思いました。

小学校外国語活動において「基本

表現の暗記による Q&A はコミュ

ニケーションといえるか?」の視

点が印象的でした。今まで私はこ

の活動はコミュニケーションだ

と思っていたからです。逆に温泉

たまごとたまご温泉を説明して

みるという活動ではもともと用

意されたテンプレート的なもの

がない中で、自分の思考を自分の

言葉で外国人に伝えたり、伝えよ

うとする姿勢が必要で、これこそ

がコミュニケーションなのでは

ないかと思いました。

小学生は話せないから、分からない

から手を出さないということはせ

ずに、教える立場の私たちが消極的

ではダメだなと考えを改めました。

41

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第2回

「グローバル人材」に求められる異文化間能力―教員養成から学校教育へ―

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シンポジウム「教員養成大学におけるグローバル人材育成を考える」

第2回 「グローバル人材」に求められる異文化間能力―教員養成から学校教育へ―

講演:グローバル時代の教員養成の課題 -「異文化間能力」育成の視点から-

佐藤郡衛氏(目白大学 学長)

実践報告①:ESDの視点に基づいた道徳性育成の授業実践」

本学附属中学校教諭 小嶋佑伺郎

実践報告②:「異文化間能力」を育む教員養成-博物館における校外学習をめぐって-

本学学校教育講座・教授 渋谷真樹

43

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奈良教育大学国際交流留学センター主催 シンポジウムグローバル人材に求められる異文間能力

グローバル時代の教員養成の課題―「異文化間能力」育成の視点から― 目白大学学長 佐藤 郡衛

Ⅰ 今日の柱 1. 自分の教育・研究の振り返りから 2. グローバル化に伴う学校教育の課題について 3. 「異文化間能力」について 4. 教員養成における「異文化間能力」の育成について Ⅱ 自分の振り返りから 1.研究の振り返り (1) 「国際」「グローバル」の進行とともに自分の研究の枠組み(異文化間教育学)の再考

が迫られる (2) 自文化中心主義という問題の認識 (3) 研究上のカテゴリー(「帰国子女」「外国人児童生徒」)の問題 (4) 研究する側と研究の対象者との関係性のあり方等々 (5) 「国民教育」という枠組みを暗に前提にした調査研究や「異」というカテゴリーの問い

直しの必要 2.教員養成系大学の改革に立ち会って (1) 教員養成系大学の財政基盤の脆弱化(運営交付金比率と人件費比率の高さによる財政

基盤の弱さ) (2) 行政主導型の改革(政治、政策誘導型になっていた) (3) その中でグローバル化に対応した改革とは

附属学校の改革(東京学芸大学附属大泉中学校、附属高校大泉校舎の統合による国際中

等教育学校の立ち上げ、国際バカロレア(IB)MYP の推進 (4) 「教養系」の改組による多文化共生専攻の設置

多文化化に伴う自治体、国際交流協会、NPO 等との連携による取り組み (5) 一方で大学全体の国際化推進の立ち遅れ 3.改革を振り返って (1) 改革では大学の「知の構造」(ショーン)の壁が大きい (2) 組織的な取り組み、メインストリームの改革には結びつきにくい (3) 改革のタイムラグがある (4) 活動のための財源の確保が難しい、競争的資金等が頼みの綱 (5) 大学の生き残り戦略としての改革が強いられる 4.グローバル化の進行と改革 (1) 「グローバル化をどう飼いならすか」

(渡辺靖 『<文化>を捉え直す』 岩波新書 2015 年より) (2) グローバリゼーションの負の側面をいかに制御し、正の側面を活用し、グローバリゼー

ションを飼いならし、持続可能なものにしてゆけるか。

44

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(3) 内在的な改革の推進の必要性 Ⅲ グローバル化と学校教育の変化 1.グローバル化による学校教育の変化 (1) グローバルスタンダード=世界標準の学力の要請(PISA など) (2) 新しい資質・能力、例えば「21 世紀型スキル」等への注目 (3) グローバルな力の育成を早い時期から育成するための教育の内容・方法の開発・改善の

取り組み (4) 「グローカル」な視点の必要性 2.学校の多文化化の進展 (1) 外国人住民の増加。「移民」という特徴(長期化・定住化) (2) 日本語ができない児童・生徒の増加→「日本語教育」という新しい課題 (3) 多文化教育の必要性 (4) 多様性の尊重と同時に、共通性をどう設定するかが課題→「市民性」の教育 3.学校教育の今日的課題 (1) グローバル化への対応 (2) グローバルスタンダードへの対応 (3) 多文化との共生という課題 (4) 学力のとらえ方の転換 21 世紀型スキル (5) 未来への想像と創造(「持続可能な教育」という視点) 4.グローバル化に関わる教育の動向 (1) 異文化理解という視点 (2) 多文化共生という視点 (3) 市民性教育という視点 (4) 持続可能な教育 ESD(Education for Sustainable Development)という視点 5.共通な視点 (1) 固定した見方から多様な見方を (2) 関係を通したダイナミックなとらえ方を→変革というとらえ方を (3) 課題解決という手法 (4) 新しい枠組みをつくりあげていくこと→未来の想像・創造という視点 Ⅳ 「異文化間能力」について 1.新たな資質・能力の必要性―「異文化間教育学」の視点から 2.「異文化間能力」のこれまでの研究 (1) 異文化間リテラシー (2) 異文化間トレランス 3.個人と社会をつなぐために 4.「異文化間能力」とは (1) 現代的でグローバルな課題や社会的な課題を読み解くための能力 (2) 批判的な思考力。適切な規準をもとに自分なりの判断が下せる力や不合理な規則や既

45

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成の枠組みを疑ってかかることができる能力 (3) 人と関わる能力。多様な文化的背景をもつ人と関わるということは、葛藤や対立を伴う

ことが多いが、それらをのりこえて関係を作りだしていくこと。 (4) 社会参加する能力。新しい社会の構成員になっていくには、既存の枠組みを前提にする

のではなく、自分がかかわる枠組みや場そのものを作り上げること。 (5) 異文化間能力とは、個人的能力としてではなく、社会の民主化にとって必要なものであ

り、新しい社会を創造するための能力を意味する。 5.どのように育成するか (1) グローバルな課題の学習を進める (2) 「構成主義的な学習」の必要性 (3) 人と関わり協働する場や機会を多く設定し交流活動を推進する Ⅴ 教員養成における「異文化間能力」の育成について 1.グローバル化と教員養成系大学 (1) 教員養成系大学の“使命”と“悲鳴” 優秀な教員を送り出すことが使命だが、現実に

は教員採用率の向上が至上命題 改革の遅れの要因 (2) 「実践力=即戦力」の養成が課題だが、教師の専門性とはなにか、その中で実践力とは

どのように位置づくかと議論がないままに (3) 教職を下支えする教養教育のあり方、教員としての基礎的な資質の明確化、新たな実践

研究のあり方 (4) 行政主導をいかに転化して改革を進めるか (5) グローバル化に対応した制度設計が可能か

① 固定したカリキュラム(教員免許取得のための修得単位数の多さ)の中でどのよう

に新たな課題を受け入れるか ② 学期等の制度改革に対応できるか

2.「異文化間能力」の育成に向けて (1) 短期的な課題

① 現実的課題の学び。学際的な内容と多様な学習方法の導入(FD 等による授業改善

等)、奈良教育大の特徴の一層の打ち出し(ユネスコスクール、世界遺産学習等) ② 多様な文化・言語的背景を持つ学生の編入学の奨励 ③ 海外のフィールドワーク、留学等の一層の強化 ④ 海外の大学等との日常的な交流プログラムの実施

(2) 中長期的な課題 ① 入学時期の検討(教員養成大学は難しいか?) ② 大学全体のグローバル化の促進(カリキュラムの見直し、交流の促進) ③ 海外の大学とのジョイント・ディグリー(複数大学が連携で学位記を授与)の検討。

海外の日本人学校への就職等を含めた対策。 3.できることから着実に進める (1) 一人ひとりが (2) 大学での取り組みにあたって

46

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振り返

りから

[~2013年まで]

京学芸大学国際教育センター(当

初は「海

外子女教育センター」)

の教員として調査研究に

[2005~2009年まで]

京学芸

大学学長補佐として附属国際中等教育学校、教職大学院

の立ち上げ、第1回東アジア教員養成国際シンポの企画・実

施等

[2010~2013年まで]

東京学芸大学の理事・副

学長として大学改革、組織再編の推進

(「教

養系

」の改組等)

[2014年~]

白大学の学長、また児童教育学科教授として、私立大学の運営と

私立大学における教員養成

第1の柱

自分の教育・研

究の振り返り

今日

の柱

自分の教育・研

究の振り返りから

グローバル化に伴う学校教育の課題

について

「異

文化間能力」に

ついて

教員養成における「異

文化間能力」の

育成について

奈良

教育

大学

国際交

流留

学センター主

催シンポジウム

グローバル人材に求められる異文間能力

佐藤

郡衛

目白

大学

学長

(2016年3月19日)

グローバル時

代の教

員養

成の課

題-「異

文化間能力」育

成の視点から-

47

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グローバル化

の進

行と改

「グ

ローバル化

をどう飼

いならすか」

(渡辺

靖『

<文化>を捉

え直

す』

岩波新書

2015年)

グローバリゼーションは否定派の言説によって一刀両断されがちだが、

それを巧みに「飼

いならす(d

omestica

te)こ

とが必要。

グローバリゼーションの負の側面をいかに制御し、正の側面を活用し、

グローバリゼーションを飼いならし、持続可能なものにしてゆけるか。

「行

為者は構造の前に無力ではない。構造を内面化し、構造に対して

様々なゲームを仕掛けてゆく能動的な主体でもある。そして、そのゲ

ームにおいて『文

化』を

めぐる従来の境界線を編み直し、組み替えてゆ

くブリコラージュ(器

用仕事)こ

そは、創造性の原点

であり、変わりゆく

環境に対する適応力の源泉ともいえる」

内在的な改革

の推進の必要性

感想

ー大

学の改

革について

革では大

学の「知

の構

造」(

ショーン)の

壁が大

きい

•教

職大学

院の立

ち上

げ等

で顕

在化

織的

な取

り組

み、メインストリームの改

革には結

びつき

にくい

革のタイムラグがある

•必要性から改革に取り組むが実現するまでに数年かかる

動のための財

源の確

保が難

しい、競

争的

資金

等が頼

みの綱 •財源がつきれば取り組みも終息せざるをえない

学の生

き残

り戦

略としての改

革が強

いられる

•政

策誘導

型、いわば「理

念なき改

革」を

教員

養成

系大

学の改

教員

養成

系大

学の財

政基

盤の脆

弱化

(運営

交付

金比

率と人

件費

比率

の高

さによる財

政基

盤の弱

さ)が問

政主

導型

の改

革(政

治、政

策誘

導型

になっていた)

その中

でグローバル化

に対

応した改

革とは

•附

属学校の改革(東

京学芸大学附属大泉中学校、附属高校大

泉校舎の統合

による国際中等教育学校の立ち上げ、国際バカ

ロレア(IB)M

YPの推進

•「教

養系」の

改組による多文化共生専攻の設置

文化

化に伴

う自

治体

、国

際交

流協

会、NPO等

との連

携による取り組み(各

種の研修会等の)

一方で大学全体の国際化推進の立ち遅れ

一研

究者

として

京学

芸大

学の「国

際教

育センター」(

当時

は「海

外子

女教

育センター」)

で国

際、グローバルな視

点からの調

査研

究。専

門は「異

文化

間教

育学

」。

「国

」という枠

組みを前

提にした調

査研

「グローバル」の進

行とともに自

分の研

究の枠

組みの再

考が迫

られる

•自文化中心主義という問題の認識

•研

究上

のカテゴリー(「帰国

子女

」「外国

人児童

生徒

」)の問

•研究する側と研究の対象者との関係性のあり方等々

「異

」というカテゴリーの問

い直

しの必

48

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学校

の多

文化

化の進

外国人住民の増加(2

,172,892人)。

長期化

・定住化による「移

民」と

いう特徴

日本語ができない児童・生

徒の増加→「日

本語教育」と

いう新しい課題

多文化教育の必要性

多様性の尊重と同時に、共通性をどう設定

するかが課題→「市

民性」の

教育

グローバル化

による学

校教

育の変

化 グローバルスタンダード=世界標準の学

力の要請(「PISA」型

学力など)

新しい資質・能

力、例

えば「2

1世紀型スキ

ル」等

への注目

グローバルな力の育成を早い時期から育

成するための教育の内容・方

法の開発・改

善の取り組み

「グ

ローカル」な

視点の必要性

第2の柱

グローバル化と学校教育の変

改革

を通

して見

えてきた変

化「国

民教育」の

枠組みのとらえ直し、内容・方

法の問い直し(E

SD、市民性教育等の新たな動き)

国際バカロレアの実施による新たな学びと新た

な教

員養

学生

の増

加による大

学の制

度、カリキュラムの

問題の顕在化

文化

化に伴

う学

生相

互の学

びあい

実践に内在的に関与し、実践者との相互作用を

繰り返す中で、課題の解決を目指す研究

49

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第3の柱

「異文化間能力」に

ついて

そこに共

通な視

点が

固定した見方から多様な見方

•関係を通したダイナミックなとらえ方

を→変

革というとらえ方を

社会との関わりやつながり

→責任、公共性

、判断力などの資

質・能

力の育

課題解決という手法

新しい社会やシステムをつくりあげていく

こと→未来の想像・創

造という視点

グロ

ーバ

ル化

に関

わる

教育

の動

文化

理解

とい

う視

文化

共生

とい

う視

民性

教育

とい

う視

続可

能な

教育

ESD(E

ducati

on f

or

Susta

inable

Develo

pm

ent)

とい

う視

学校

教育

の今

日的

課題

グローバル化

への対

応•

グローバルスタンダードへの対

•多

文化との共

生という課

•異文化理解・寛

容・協

働などのスキルの必要性

力のとらえ方

の転

換21世

紀型

スキル

①思

考力を中

核とし、それを支える②

基礎力

使い方を方

向づける③

実践力の三

層構造

(文科

省)

来への想

像と創

(「持

続可

能な教

育」と

いう視

点)

50

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コーガンらの提

唱する資

質・能

力①

グローバル社会の一員として問題を捉え、それに取り組む能力、

②他

者と協働する能力および社会のなかでの役割・義

務に責任を持つ

能力

③文化的な差異に対する理解・受

容・尊

重・寛

容に関する能力

④批

判的

かつ体系的に考える能力

⑤非暴力的方法によって葛藤を解決する意欲

⑥環

境保

護のために自らのライフスタイルや消費習慣を改める意欲

⑦人権(女

性やエスニック・マ

イノリティの権利等)に

配慮し保護する能

力 ⑧ローカル・ナ

ショナル・イ

ンターナショナルの各レベルで政治に参加す

る意

欲・能

(嶺井明子編(2

007)『世界のシティズンシップ教育』、

東信堂を参照)

個人

と社

会をつなぐ必

要性

異文化間リテラシー、異文化間トレランスの研究は、それらがすべて

の人に求められる能力としつつ、個

人のみに限定したものになって

いる。

OECDの「D

eSeCo」プ

ロジェクトでは、コンピテンシーを「人

生の成功

と正

常に機能

する社

会の実

現を高いレベルで達成

する個

人の特

性」

として、これまでのコンピテンシーがどちらかといえば学

校教育場

面での能力(学

力)に

限定されて議論されてきたが、より広い概念と

して捉え直し、「個

人と社会

の双

方に利

益をもたらすもの」と

いう前

提にたって、「価

値ある個人

的・社

会的成

果をもたらす能

力」で

ある

と定義している(ド

ミニク・ラ

イチェン他、2006:1

29)。

個人が社会

について高

い能力

や参

加意欲

をもてば、人

間関

係が

改善され、社会の民主主義化を進めることができることを強

調し、

個人と社会を補完的な関係として捉える。

「異文

化間

能力

」のこれまでの研

究から

「異文

化間

リテラシー」の研

究から

①「地

球社会あるいは多文化社会と呼ばれる、今日の複雑な社会のあり

方を理解

するための知識」、

②「多

元的な視点

」、③「カ

ルチュラル・ア

ウェアネス、自己調整力、状況調整力」と

いった「異

文化対処能力」。

「多文化社会に生きるすべての人々にもとめられる能力であり、海外体

験を前提にしたものではない」と

いう(山

岸みどり、1997)

「異文

化間

トレランス」の研

究から

「多文化集団の共存や共生

の必要性に直面することによって、遠くにあ

る理念ではなく現実的課題としての実践的な異文化間トレランスが追

究される段階」に

あり、それは「<

個人が心理的に>耐えることができる

力」か

ら「(相手を)受

け容れ、認めることができること」、

さらに「共

生的

関わりを持てること」ま

でと広義に捉えている。(原

裕視、2001)

新たな資

質・能

力の必

要性

-自

分の研

究領

域から

異文化間教育学は、「新

しい関係構築や社会の

変革

という課

題に向

き合

うこと」に

特徴が。これ

は個人と社会との新しい関係構築を視野に入れ

るということ。

新しい教育は、これからの市民社会を作り上げ

るために必

要な資

質・能

力を育

成する必要があ

り、しかも「国

民であり市

民であるひと」も

含めて

すべての構成員を対象にする必要がある。

どのような資

質・能

力が必

要かが問

われれる

51

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グローバルな課

題の学

グローバルな課

題や現

実的

な課

題は、直

接的

に1つの学

問、あるいは教

科には位

置づけにくいが、学

際的

、教

科横

断的

、あるいは総

合的

な学

習としてカリキュラムに取

り込

むことにより、学

習者

の学

びに現

実的

意味

を与

え、

しかもその学

びを通

して批

判的

思考

力や問

題解

決力

などを獲

得していくようにすること。

こうした課

題は、複

雑に問

題が絡

み合

っており、正

答が

なく、しかも探

求様

式が確

定していないことが多

い。し

たがって、多

様な学

習活

動により、正

答のないさまざま

な問

題に、当

事者

意識

を持

ちあきらめずに関

わり続

ける

ことが必

要。

どのように育

成するか

グローバルな課題の学習を進める

「構

成主義的な学習」の

必要性

人と関わり協働する場や機会を多く

設定し交流活動を推進する

「異文

化間

能力

」とは

1.

現代的でグローバルな課題

や社会的な課題を読み解くための能

2.

批判的な思考

力。適

切な規準をもとに自分なりの判断が下せる力

や不合理

な規則や既成の枠組みを疑

ってかかることができる能力

3.

人と関わる能

力。多

様な文

化的背景

をもつ人と関わるということ

は、葛

藤や対立を伴うことが多いが、それらをのりこえて関係を作

りだしていくこと

4.

社会参加する能力。新しい社会の構成員になっていくには、既存の

枠組みを前提

にするのではなく、自分がかかわる枠

組みや場その

ものを作り上げること

異文化間能力とは、個人的能力としてではなく、

社会

の民

主化

にとって必

要なものであり、新

しい社会を創造するための能力を意味する

ツールを相互作用的

に用いる能力

言葉

、シンボル

、テクストを相互作用的

に活

用する力

読解力

数学

的リテラシー

批判的思考力と問題解決能

力 創造し、革新する能力

情報

処理能力

ICT活

用力

メディア・リテラシー

知識や情報を相互作用的に活用

する力

科学

的リテラシー

技術を相互作用的に活用

する力

情報処理

力コンピューター処理

社会的に異質な集

団での交流

他者とうまく関わる能力

共感性

コミュニケーション

とコラボレーション

の能

力社会的、か

つ文

化間での行動力

リーダーシップと

責任

協力

する能力

チームワークスキル

対立を処理し解決する能力

調整スキル

自立的に行動

する

能力

「大

きな展

望」の中

で活動

する能

力現状と問題点の学習から自

分なりに考え自分の意見を

まとめる力

柔軟性と適応性

イニシャティブと自

立性

生産性と説明力

人生計画と個人的なプロジェクトを設計し、

実行

する能力

プロジェクトを企画・実施し、

その成果をまとめ、発信する

自らの権利

、利益

、限界

、ニーズを守り、主

張する能力

社会

のル

ール

に基

づき、判

断・評価し、自

らの意見を主

張できる力

キーコンピテンシー

21世

紀型

スキル

52

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グローバル化

と教

員養

成系

大学

現状

の認

識からの出

発教

員養成系大学の“使

命”と

“悲鳴”

優秀な教員を送り出すことが使

命だが、現実には教員採用率の向上が至上命題

改革の遅れの要因

「実

践力=即戦力」の

養成が課題だが、教師の専門性とはなにか、そ

の中

で実

践力

とはどのように位

置づくかと議

論がないままに

教職を下支えする教養教育のあり方、教員

としての基礎的な資質の

明確

化、新たな実践研究のあり方

政主導をいかに転化して改革を進めるか

グローバル化

に対

応した制

度設

計が可

能か?

定したカリキュラム(教

員免許取得のための修得単位数の多さ)の

中でどのように新たな課題を受け入れるか?教員養成制度は?

グローバル化を促進する上での制度・組

織改革は?

第4の柱

教員養成における「異

文化間

能力」の

育成について

人と関

わり協

働する場

や機

会を多

く設

定し交

流活

動を推

進すること

会に参

加し、他

者と関

係を取

り結

びながら活

動してい

くことに力

点を置

く。

なる交

流活

動ではなく、自

己と他

者・世

界と新

しい関

係性

を取

り結

ぶことの重

要性

を示

している。日

常的

に自

分自

身が巻

き込

まれている社

会的

な状

況の中

で、そこ

に組

み込

まれている多

様な関

係性

を解

きほぐし新

しい

関係

性を構

築していくことが課

題になる。

「多

様な文

化的

空間

の行

き来

と異

質な他

者と交

流し差

異と取

り組

む」こ

とがグローバルな能

力の育

成と関

連す

るという研

究もなされており、留

学等

の促

進が必

要。

「構成

主義

的な学

習」の

必要

教師

と学

習者

の協

働作

業、体

験学

習、協

同探

求などに

より、知

識の生

成がなされることが大

切。

習を孤

立した個

人の活

動としてではなく、社

会的

な文

脈の中

で行

われるという捉

え方を。学

習の質

は共

同とい

う活

動によって大

きく左

右され、相

互の学

びあいの中

で、知

識をつくりあげていくという視

点が重

視される。

会的

な問

題解

決の学

習への参

加と同

時に、そこでの

討論

や対

話といった参

加型

の学

習が不

可欠

。参

加型

の学

習を通

して、民

主的

な関

係を作

っていくために必

要な

スキルを学

び、それを実

生活

の中

で活

かすようにしてい

くこと。

53

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ご静

聴ありがとうございました

ご質

問等

があればメールでお願

いいた

します。

[email protected]

主な参

考文

池野範男(2

014)「グローバル時代のシティズンシップ教育」『教育学

研究

』第81巻

第2号

ドミニク・ラ

イチェン他著(立

田慶裕監訳)(2006)『キー・コ

ンピテン

シー』、

明石書

佐藤郡衛(2

015)「『ト

ランスナショナル』な

状況下での文化間移動

とグローバル・シ

ティズンシップ」『

異文化

間教育

』43号

、異

文化間

教育

学会

原裕視(2

001)「異文化間トレランス」、

『異文化間教育』1

5号

、異

文化

間教

育学

嶺井明子編(2

007)『世

界のシティズンシップ教育』、

東信堂

渡辺靖

(2015)『<文化>を捉え直す』

岩波新書

山岸みどり(1

997)「異

文化間リテラシーと異文化間能力」『異文化

間教

育』1

1号

、異文

化間

教育学

できることを着

実に進

める

一人ひとりが

「グ

ローバル化を飼いならす」努

力を。「従

来の境界線を編み直し、

組み替えてゆくブリコラージュ(器

用仕事)は

、創造性の原点で、変

わりゆく環境に対する適応力の源泉」と

いう指摘を再確認する

実な教育研究活動を進めること

践研究の新たな展望を

学での取

り組

みにあたって

•学内の周辺から改革し、全体へという視点

•政策誘導型の「改

革」に

どう対抗するか。1つとして教員養成系大

学、学部の連携による取り組みなど。大学の特徴をいかし、「飼

いならす」工

夫を

•教

員養成制度のあり方の議論も

「異文

化間

能力

」の育

成に向

けて

短期的な課題

実的課

題の学

び、学際的

な内

容と多

様な学習方

法の導

入(カ

リキュラ

ム開発、評価

、FDによる授業改善等

)、奈良教育大の特徴の一層の打ち

出し(ユ

ネスコスクール、世

界遺産

学習

等)

境、見

えないカリキュラムの改

善(多

様な文

化・言

語的

背景

を持

つ学

生の編入学の奨励、海外

のフィールドワーク、留学等の一層の強化)

外の大

学等

との日

常的

な交

流プログラムの実施

中長

期的

な課

題(具

体例

を通

して)

学時期

等制

度のあり方

の検

討(教

員養

成大

学は難しいか?

大学全体のグローバル化の促進(カ

リキュラムの見直し、交流の促進)

外の大

学とのジョイント・デ

ィグリー(複

数大学が連

携で学位記

を授与

)の検討。海外

の日本人学校への就職等を含めた対応

54

Page 67: 巻頭言 - nara-edu.ac.jpcies.nara-edu.ac.jp/pdf/report01.pdf · 化の教育という言葉が使われるようになってきました。そこから今日はグローバル人材とい

社会

変革

を求

める能

力や

態度

の育

成をめざすESDの

実践

は、価

値教

育や

道徳

性の

育成

を抜

きにして語

れない

これ

までの

ESDの

実践

事例

でも、道

徳性

の育

成の

視点

はあるが

、直

接「道

徳の

時間

」での

実践

はほ

とんどない。

2014ユネスコスクールESD優良実践事例集などから

「特

別な

教科

道徳

」の

設置

(2

015

年3月

27日

文部

科学

省官

報)

中学

校で

は2019年

度から検

定教

科書

に基

づく授

業が

実施

され

る⇒

道徳

性の育

成の取

り組

みが

大きく方

向転

換して

いく中

で・・・

〇ESDの学

びからどのように道

徳性

を問

うことが

できるか

〇どのような

学習

がESDにおける道

徳教

育として

ふさわ

しい

のか

1.

ESDの

実践

と道

徳性

の育

成ESDの学習構

成における3つ

の視点

①ESDの

学習

のコアとしての

「平和

」〇ユネスコが

「平和の文化」とつ

なげてESDを推進したことから

(ユネスコ憲章「人の心に平和の砦を築く)

〇本校の学び

が「平和・人

権・民

主主義」を中心にすえてきたことから

②学

習内

容として「私

とは

何者

か」を問

う学び

〇同時に他者との関係性を問う

・問題解決の担い手として期待され

る「市民」とはどのような

存在な

のか

・「市民」が

参加して公共のあり方を再構築する=ESDに込め

られ

た願い

➂学

習方

法としての

対話

〇他者との対話を通した子どもの自己内対話による価値観の構築をめ

ざす

発表

内容

の構

1.は

じめに

~ES

Dの実

践と道

徳性

の育

成~

・ESDの

学習

構成

における3つの

視点

と道

徳性

の育

成・「平

和の

集い」を通

した道

徳性

の育

成2.「ESD社

会科

」の

実践

・「地

球市

民」としての

アイデンティティ

・「平

和の

集い」「韓

国交

流」とつなげたカリキュラム構

成⇒

道徳

の授

業へ

3.試

案「ESD道

徳」の

実践

・「特

別な教

科道

徳」とESD

・ESD道

徳の

カリキュラム

・本

年度

の実

践4.課

題の

整理

~来

年度

に向

けて~

ESDの

視点

に基

づいた道

徳性

育成

の授

業実

践~

ES

D社

会科

から

ES

D道

徳へ

~ 奈良教育大学附属中学校

小嶋

祐伺郎

55

Page 68: 巻頭言 - nara-edu.ac.jpcies.nara-edu.ac.jp/pdf/report01.pdf · 化の教育という言葉が使われるようになってきました。そこから今日はグローバル人材とい

20

12

年「

被災

地は

今懸

命に

生き

る子

ども

たち

から

何を

学ぶ

か」

①「

平和

の集

い」

で教

師の

被災

地訪

問の

話を

聞く

。(

懸命

に健

気に

生き

る子

ども

たち

。故

郷を

失う

こと

の意

味。

地域

の再

生に

力を

注ぐ

子ど

もた

ちの

姿)

・発

達課

題を

抱え

た子

ども

の現

状「

やさ

しく

する

と弱

いと

思わ

れる

・・

」→

一生

懸命

我慢

して

大人

にな

ろう

とし

てい

る被

災地

の子

ども

と目

の前

で大

人に

なろ

うと

もが

き苦

しむ

子ど

もた

ちを

どう

つな

ぐか

・・

・・

文化

祭で

「身

近な

他者

との

出会

いを

通し

て、

被災

地へ

の支

援の

あり

方を

考え

、自

己と

他者

との

関係

につ

いて

考え

る」

≪ホ

スピ

ス訪

問盲

導犬

とと

もに

動物

セラ

ピー

など

≫→

あた

りま

えの

こと

がし

あわ

せ、

死を

通し

て生

を考

える

、生

きる

こと

は支

え合

い、

他者

の役

に立

つこ

とは

自分

の喜

び・

気仙

沼の

小学

生と

の手

紙の

交流

→小

学生

の詩

や作

文へ

の返

事や

自作

の絵

本を

送っ

たり

、ク

リス

マス

カー

ドの

交換

自分

たちが

励まされ

ていることに気

づく

→小

学生

の詩

や作

文へ

の返

事や

自作

の絵

本を

送っ

たり

、ク

リス

マス

カー

B実

習生

とともに

20

11年

「東

日本

大震

災と

わた

したち

①4月

新学

期当

初に

全校

で「

道徳

」の

授業

を実

施。

(被

害の

実情

を知

り、

失っ

たも

のの

大き

さや

人々

の悲

しみ

を想

うと

とも

に、

何が

出来

るか

考え

る)

②奈

良A

SP

ネッ

ト参

加校

に呼

びか

け支

援物

資を

集め

て送

る。

(生

徒が

呼び

かけ

、仕

分け

作業

や梱

包、

積み

込み

をす

る)

➂支

援物

資が

届い

た学

校と

の手

紙の

交換

が始

まる

。④

「平

和の

集い

」で

、気

仙沼

の先

生の

現状

報告

を聞

く。

→新

たな

交流

(継

続し

てき

たい

くつ

かの

学校

を中

心に

)と

、何

が求

めら

れて

いる

のか

考え

る。

つなが

り続

けることの

大切

さを確

認する

20

10

年「

アン

ネの

バラ

をと

りま

く人

々の

想い

を通

して

ホロ

コー

スト

の構

造を

考え

よう

・初

めて

日本

にア

ンネ

のバ

ラを

もた

らし

た奈

良の

修道

尼と

の対

話(

オッ

トー

・フ

ラン

クと

の偶

然の

出会

いと

託さ

れた

3本

のバ

ラの

お話

を通

して

)・

ホロ

コー

スト

の構

造の

理解

を通

して

「学

校や

教室

で平

和の

文化

を創

る」

活動

をし

よう

。・

行動

化→

アン

ネの

バラ

を栽

培し

てい

る修

道尼

のお

兄さ

んに

会っ

て3本

のバ

ラを

いた

だく

。中

庭改

造計

画と

その

中心

にバ

ラを

植え

る。

・今

の世

界、

私た

ちの歴

史や

学校

の中

にホ

ロコ

ース

トの

構造

はな

いか

。・

アン

ネフ

ラン

ク財

団に

手紙

。募

金活

動。

第1回

奈良

AS

Pネ

ット

ワー

ク合

宿で

報告

(翌

年、

代表

2名

が招

かれ

マン

チェ

スタ

ーで

ワー

クシ

ョッ

プ)

→「

平和

の文

化」

を実

現す

る営

みは

、一

人ひ

とり

の身

近な

行動

の積

み重

ねに

あり

、そ

の想

いを

つな

いで

いく

こと

がわ

たし

たち

の役

割で

ある

。☆

生徒

会が

提案

して

「行

動化

につ

なげ

るた

めに

奈良

AS

Pネ

ット

の仲

間と

アク

ショ

ンを

起こ

そう

」と

決議

東日

本大

震災

起こ

「平

和の集い」を通した道徳性の育成

2010

~2014

2010

「アンネの

バラ」

2011

「東

日本

大震

災とわ

たしたち」

2012

ともに生

きる

「被

災地

とわ

たしをつなぐ」

2013

「もう一

度平

和に

ついて考

えよう」

2014

「地

球市

民とは

だれ

だろう」

56

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地球市民とは・・・

他者

を所

属意

識で

はな

く、

自己

との

つな

がり

意識で

とら

え、

つな

がっ

た他

者と

とも

に、

より良

い社

会を

つく

ろう

とす

る人

社会

科で

知的

理解

としての

歴史

認識

⇒国

民国

家を柔

軟にとらえる

特活

や総

合的

な学

習における体

験的

学び

⇒感

性的

理解

と社

会参

基盤としての自己受容と自尊感情

「地

球市

民」を育

成する学

習の

構造

ESDが

求める「グローバ

ルな市

民」と国

民国

家の

中の

「国

民としての

市民

」との

関係

性をどうとらえていくか

。⇒

家族

・地

域・民

族・国

家・世

界とアイデンティティーを

柔軟

につなげていく「多

元的

・複

合的

なアイデンティ

ティー」の

形成

をめざす

村落

共同体的コミュニティ

近年の小学校を中心としたESDの「ふ

るさと学習」の場としてのコミュニティ

・人々のつながり、相互扶助、郷土への愛着、先人の知恵への尊敬な

どによる自尊感情に基づくアイデンティティ

「健

全な」ナ

ショナリズム

他者(他国、多民族)に

対して親和的なナショナリズム

批判的リテラシーを持って、国の課題(負

の公共性)への疑問を持ちつつ、その変

革に向けて他者とともに生きようとするナショナリズムに基づくアイデンティティ

地球

市民

としての

アイデンティティ

2.

ESD社

会科

の実

践20

14年

度「地

球市

民とは

だれ

だろう」の

授業

から

地球市民とは・・・

「一人一人が地球市民の立場に

立って、国境を越えて連帯し協力

するグローバルな市民社会が今ま

さに求められているのです。」

(20

12新しい社会

公民

東京書籍検定済)

地球

市民

の立

場に立

つとは

「グローバ

ルな市

民」は

、「平

和で民

主的

な国

家・社

会の

形成

者」とどうか

かわ

るか

国際公民と国家公民

1,

2年

は縦

割りで対

新聞

の記

事を

活用

して

調べ

たことを

報告

、意

見交

換 さらに深

い対

話へ

○韓

国交

流反

韓(反

日)嫌

韓(嫌

日)の

風潮

の中

で・・

自己

の変

容を語

全員

がテーマを選

んで資

料作

成3年

は社

会科

で、安

重根

と看

守の

千葉

十七

との

対話

を通

して、

2人の

相互

理解

過程

を通

して、「国

籍」「アイ

デンティティー」「地

球市

民」

について対

話する。

・「国

家・国

民」とは

・相

互理

解に必

要なことは

・地

球市

民の

資質

とは

2014「地

球市

民とは

だれ

だろう」

「教育」

「人権」「環境」

「いのち」

「防災」

「戦争・紛争」「憲

法・法律

「国際関係」

「平

和の

集い」では

・・

・縦

割りグル

ープごとの

討論

・韓

国の

生徒

とともに討

20

13

年「

もう

一度

平和

につ

いて

考え

よう

過去

3年

間の

「平

和の

集い

」か

ら学

ぶこ

とを

・・

大切に使わさせ

ていただきま

す!!

①資

料を

もとに自

分の

考え

を書

②学

級での

対話

③縦

割りでの

対話

④学

校全

体での

対話

⑤もう一

度自

分との

対話

(作

文、カード)

○「平

和の

集い」で考

えたり行

動したこと

はずっとつなが

っていた。

○「平

和の

文化

」の

構築

には

、一

人ひとり

の身

近な行

動の

積み

重ね

や、想

いをつ

なぐことが

大切

である。

喜び

の共

57

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「平和の礎と魂魄の塔に込め

られ

た思い」の授業後の感想から

ガマの

暗黒

は人

の希

望を奪

う。

あの

中で家

族や

友人

が同

じ空

間にいることだけが

唯一

の希

望だったの

だ。そんな気

持ちに

軍人

も住

民も、日

本人

も朝

鮮人

もない。

遠い故

郷か

ら沖

縄で戦

ったア

メリカ兵

も同

じように苦

しんだ。

命の

重み

に国

籍は

ない。

沖縄

の自

然は

、戦

争の

悲しみ

を黙

って受

け止

めている・・・

自分

が日

本や

国をベー

スにもの

を考

えているこ

とが

よくわ

かった。ぼ

くは

今、グローバ

ルにもの

を考

える出

発点

にいる。

千葉

は安

の東

洋平

和論

の概

要を聞

き、その

思想

に感

銘を受

けたか

ら尊

敬するようになったの

では

ないか

千葉

は安

の態

度か

らその

人間

性を知

ったか

ら尊

敬するようになったの

であって、

思想

に感

心したの

はそれ

からだと思

う。

安の

行動

(暗

殺)は

どんな理

由が

あってもよくない

というが

、デモや

ストライキ、あるいは

不買

運動

などをや

ったところで、当

時の

マスコミや

日本

人が

インパ

クトを持

って取

り上

げたとは

思えない。

他にどんな方

法が

あったというの

だろうか

千葉

は自

分の

立場

(役

割)に苦

悩していたの

では

ないか

。安

に寄

り添

うことで、彼

はその

苦しみ

から

自由

になれ

たの

では

ないか

憎しみ

から相

互理

解という事

実に感

動しなが

らも、結

末に悲

しみ

や憤

りを感

じる子

ども

〇安

と千

葉の

結末

は過

去の

ことでは

ない。今

でもクリミア併

合など国

と国

のエゴが

人々

を苦

しめていることに変

わりは

ない。

〇千

葉が

終戦

後、死

ぬまでずっとだれ

にも黙

って安

重根

を弔

っていたということを聞

いて、悲

しくてたまらなか

った。ど

んな思

いで毎

日手

を合

わせ

ていたの

だろう。私

たちは

この

ことを忘

れては

いけない。そして戦

前にもこんな日

本人

がいたことを誇

りに思

う。

〇韓

国に行

った2年

生が

話していたことを思

い出

した。私

たちは

韓国

が嫌

いな人

の一

方的な考

えば

かり聞

いていた

のでは

ないか

。また韓

国でも同

じことが

起きているの

では

ないか

と思

う。ぼ

くは

今までとは

全く違

う気

持ちで、韓

国の

生徒

たちと出

会えると思

う。

「地球市民とはだれだろう」の授業

1.学

習課

題をつか

む①

「国

家・国

民」とは

何か

・国

民国

家を中

世や

近世

の国

家と比

べるこ

とによって、「国

民」や

「国

民意

識」を形

成し

てきた近

代の

歴史

の特

徴を知

る。

②国

籍とアイデンティテ

ィは

一致

するの

か・戦

前の

日本

の植

民地

の人

の国

籍は

?・現

代社

会の

アイデン

ティティの

問題

・アイデンティティの

問題

はあなた自

身の

問題

でもある

2.自

己内

対話

①山

県有

朋、伊

藤博

文安

部磯

雄、石

川啄

木それ

ぞれ

の演

説や

論考

、詩

、生

い立

ちなど

調べ

、それ

ぞれ

の世

界観

やアイデンティティ

について考

える。

②安

重根

の「東

洋平

和論

」の

内容

を調

べ、現

在の

EUの

施策

やユネ

スコ憲

章と比

べること

によって安

のアイデン

ティティについて考

える

③安

重根

と千

葉十

七の

獄中

での

対話

を通

して

なぜ

理解

しあえたの

かについて考

える。

3.グル

ープで対

話か

ら学

級対

話へ

・地

球市

民の

資質

について考

えを深

める。

4.さらに深

い対

話へ

①安

重根

と千

葉十

七の

2人

の対

話の

場面

を生

徒に朗

読させ

、2人

の心

情に寄

り添

いなが

ら、2人

の心

情を

ノートに書

く。

②グル

ープ内

で相

互理

解で

来た理

由を考

える。

③グル

ープの

話し合

いを全

体化

する。

④話

し合

ったことからもう一

度「地

球市

民」の

資質

につ

いて考

えるとともに、そうし

た市

民が

なぜ

必要

なの

か、

これ

までの

学習

から考

える。

実践

の具

体大

単元

「未

来へ

の選

択ー歴

史を通

してわ

たしたちの

未来

を考

える―(8時

間)

〇現

代の

戦争

の原

因は

何か

・・・

2時間

〇グローバ

ルな

課題

で、今

後戦

争や

紛争

の原

因になりえることは

何か

・・・

1時間

小単

元「地

球市

民とは

だれ

だろう」・・・5時

間①

「日

本人

」って何

だろう?

・「民

族」とは

「国

民とは

」・「日

本人

」は

どの

ようにしてつくられ

たか

・国

民国

家とその

課題

(EU、バ

スク、奈

良市

の自

治体

外交

と外

国人

居留

者か

ら所

属意

識について考

える)

・多

様な日

本人

(黒

潮文

化・稲

作文

化・植

民地

統治

・ニューカマー)

②安

重根

は愛

国者

か、それ

とも犯

罪者

か後

述➂

平和

の礎

と魂

魄の

塔に込

められ

た思

58

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学習内容(学習の対象)

違いが

よくわ

かる

違いが

わか

りにくい

自分

からの

距離

が遠

い自

分か

らの

距離

が近

ニューカマー

留学

特別

支援

学級

在日

コリアン

学級

負の

公共

(2)カリキュラム構成の視点

~指

導要

領の

道徳

教育

の4つ

の内

容の

読み

替え~

1.主として自分自身に関すること

2.主として他の人とのかかわりに関する

こと

3.主として自然や崇高なものとのかかわ

りに関すること

4.主として集団や社会とのかかわりに関

すること

セル

フエスティームの

育成

と個

の確

立に

関すること

他者

を共

感的

に理

解しケアしケアされ

る関

係の

構築

に関

すること

自然

との

共生

や生

かされ

ている自

分の

実感

に関

すること

社会

参加

や参

画の

意欲

や行

動に関

する

こと

他者

の立

場や

状況

を共

感的

にとらえ、他

者をケアし、場

合によっ

ては

、他

者の

ニーズの

ために、共

に社

会システムや

社会

構造

を変

えようとする主

権者

を育

てること。

・学

級・学

校や

社会

を他

者とともに創

る意

欲、自

己効

力感

(コミット)

・他

者の

声を聴

くなどの

学習

を通

して

(1)「ESD道徳」のねらい

~多

文化

共生

社会

における市

民性

育成

の視

点か

ら~

3.試

案「

ESD道

徳」の

実践

2015

年「ボーダー(境

界)について考

えよう」の

授業

から

社会

に存

在するボーダー(境

界)の

非決

定性

を積

極的

にとらえ「差

異に基

づく連

帯」を将

来に

おいて創

造しようとする子

どもの

育成

をめざす、

3年間

の取

り組

59

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学習

の流

「障

害理

解学

習ー5組

の仲

間」

人とのかかわりの大

切さを学び、身近な場

面でボーダーを考える。

・活

動ごとに、5組

生徒

と手

紙の

交換

をする

・5組

の先

生に質

問する

「福

島学

習」

身近な関係を基に視

野を広げケアの大切さ

を知る。

・福

島を訪

れた高

校生

の先

輩の

話を聞

いて・・

街づくりに参

画する中

高生

のようすを知

「ホロコーストとアン

ネの

バラ」

他者と関わりその

思いを受けとめること

について考える。

・映

画や

資料

、教

会の

資料

室などで事

実を知る

・オットーさんの

気持

ちを

受けとめた大

槻さんの

思いをか

みしめる

(3)実

践の

具体

障害

理解

沖縄

の学

び福

島の

学び

広島

の学

び国

家・国

民の

理解

1 年

身近

な仲

間と

の交

流か

らケ

アし

ケア

され

る関

係に

気づ

3年

生の

沖縄

の学

びか

ら、

福島

との

共通

点に

気づ

教師

や先

輩の

現地

体験

を聞

き、

被災

地の

現状

やそ

こに

生き

る人

たち

の思

いを

知る

小学

校で

の広

島の

学び

や、

教師

の話

から

沖縄

戦、

ホロ

コー

スト

との

共通

点に

気づ

アン

ネや

アン

ネの

バラ

をめ

ぐる

人々

、ボ

スニ

アの

留学

生な

どの

生き

方を

知り

、出

会っ

た人

たち

の思

いに

共感

的理

解を

する

2 年

地域

の課

題に

関心

を持

ち、

解決

のた

めに

他者

とと

もに

考え

課題

意識

を深

め、

修学

旅行

に学

習課

題を

決め

、主

体的

に学

習す

現地

の中

高生

との

交流

活動

を企

画し

、地

域社

会に

おけ

る自

己の

役割

を考

える

小学

校で

の広

島の

学び

と沖

縄の

学び

の共

通点

につ

いて

考え

、修

学旅

行に

生か

古代

にお

ける

東ア

ジア

の中

の日

本の

辺境

の位

置付

けや

倭寇

やア

イヌ

の活

動を

通し

て国

民国

家を

相対

化す

3 年

生徒

会活

動な

どを

通し

て地

域社

会で

行動

化す

学習課題に基づく

事前学習や現地学

習を通して、自己

の生き方と照らし

合わせて考える

交流

で得

た社

会参

画の

方法

を身

近な

課題

解決

に応

用す

生徒

会が

主体

とな

って

小学

校と

一緒

に「

平和

の集

い」

を開

催す

近代

史の

学習

を通

して

、国

籍や

民族

につ

いて

の理

解を

深め

、身

近な

在日

コリ

アン

やニ

ュー

カマ

ーの

問題

に広

げる

学習

計画

〇1学

期の学習

特別支援学級の

子どもたちとの

かかわりと、手

紙の応答を通し

た 「障害って何だろ

う」の学習

小学

生との

広島

学習

の連

係ユネスコスクール

としての

被災

地(福

島)との

交流

学習

アンネの

バラを通

したホロコーストの

学習

しての

被災

地(福

島)との

交流

学習

アンネの

バラを通

したホロコーストの

3年生

との

(での

)沖

縄学

①広

島と福

島=

復興

とは

何か

②沖

縄と福

島=

負の

公共

性③

広島

とホロコースト=

犠牲

になった人

への

共感

と怒

り④

沖縄

とホロコースト=

「国

民」か

らは

ずれ

た人

への

差別

という

「病

的なナショナリズム」

②③

1.セル

フエスティームの

育成

と個

の確

立に関

すること

他者

の生

き方

を通

して、葛

藤しなが

らも生

きる人

間の

姿に共

感するとともに、自

分の

生き方

を振

り返

る学

2.他

者を共

感的

に理

解し、ケア

しケアされ

る関

係を構

築する

こと

つなが

った他

者に尽

くしたい(ケアしたい)

という感

情を呼

び起

こす学

3.自

然との

共生

や、生

かされ

ている自

分に関

すること

他者

の生

き方

(魂

)に触

れることによって、

命の

尊厳

や、自

分が

生か

され

ている存

在であることに気

づく学

び。

4.社

会参

加や

参画

の意

欲と行

動に関

すること

他者

のニーズに応

え、ケアする感

情を、

具体

的な場

面で体

験する学

60

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(4)生

徒の

変容

人が

ボーダーを引

くの

はなぜ

かについて考

えた。ボーダーには

いいボーダーと悪

いボーダーが

あると思

う。

始め自

分が

引いていたボーダー

が活

動するにつれ

消えていくこと

が実

感できた。

障害

者は

わたしとは

別の

人間

と思

ってい

たが

、アンネの

ことや

ボスニアの

ことを知

ると、なぜ

か「障

害者

と自

分が

同じ」という

ことが

わか

ったか

ら不

思議

だ。

コリアンタウンに行

って、相

手の

立場

になって考

えることや

自分

で考

えることの

大切

さを

知った。

人の

ぬくもりっていいなあ、と

思った。

コミュニケーションは

意欲

や相

手へ

の関

心が

一番

大切

なことだと思

った。

先生

、来

年も続

きするよね

?もっと知

りたい!

「心

とか

らだの

コミュ

ニケーション

‐インタ

ビュー詩

を創

ろう

‐」他

者の

気持

ちを受

けとめるために必

要なことな何

かについ

て考

える。

・は

じめてしゃべ

る他

者の

大切

なもの

を聞

き取り、そ

のことについての

詩を創

る」

「留

学生

との

交流

会」

日常

的なもの

を例

に、文

化の

違いを合

理的

に理

解するとと

もに、共

通点

をたい

せつにする態

度を培

う。

・何

をすることが

留学

生の

喜びになるの

か考

え準

備する。

・積

極的

に話

しか

ける

「多

言語

学習

2」

・ほ

とんど日

本語

が理

解できない外

国人

に対

して、

どうすれ

ば意

思を伝

えるこ

とが

できるか

、グル

ープで

考え実

践する。

「ホロコーストとわ

たし」 アンネの

バラの

学びを広

げ、身

近な問

題との

かか

わりにつ

いて考

える

・ドイツ人

はどう考

えてい

たの

か。なぜ

だれ

も止

めなか

ったの

か。

・沖

縄戦

との

共通

点は

ないの

か。

・わ

たしたちの

生活

の中

で、ホロコーストと同

じようなことは

ないの

か。

「ボスニア紛

争と民

族問

題」

セル

ビア人

かボス

ニア人

かというアイ

デンティティにゆれ

る留

学生

の話

を聞

き、

「国

家」や

「民

族」を分

けるもの

について考

える。

「多

言語

学習

さまざまな言

語の

違いや

、共

通点

に気

づき、言

葉の

持つ意

味や

言葉

と文

化、価

値観

について思

いを

巡らせ

る。

「障

害理

解学

習-

視覚

障害

の方

を招

いて」 ゲストティーチャー

の生

き方

をとおして

障害

についてさらに

深く知

り、「共

に生

きる」ことについて考

える ・事

前に訪

問し、迎

える準

備をする

「5組

との

交流

会」

ここまで学

んだことを生

かして、交

流会

のあり方

を考

えるとともに、互

いの

願いを受

けとめながら交

流会

を企

画し、実

施する。

「沖

縄学

習」

なぜ

沖縄

は住

民を

巻き込

む戦

場になっ

たか

を知

ることによっ

て、その

後の

沖縄

の歴

史との

つなが

りを

考える。

・3年

生の

卒業

研究

を聞

き、福

島の

学びと関

連付

けて、グル

ープで課

題解

決しなが

ら私

と他

者を分

ける意

味につい

て考

える。

61

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地球

市民

(グローバ

ルシチズンシップ)の

育成

のために自

問していること

実践

者自

身が

ESDに対

する発

展観

(国

家の

発展

観を反

映するの

か、社

会変

革をめざすの

か)を明

らか

にすること。

わたしたちが

自由

に選

択する「政

治の

質」が

重要

である→政

治教

育の

あり方

主体

的で自

律的

な「市

民」「国

民」をどう育

てるか

わたしらしく人

間らしく生

きたいと願

う子

どもの願

いに寄

り添

う学

校や

教師

であり続

けること

(5)課

題の

整理

~来

年度

に向

けて~

①「地

球市

民意

識」をどう定

義し、どうカリキュラム化

するか

・「ケアの倫理」に基づいた、日本の社会的文脈や学校文化に根ざした「シチズン

シップ教育」は構築できるか?

・「特別な教科

道徳」とのかかわり

②実

践において「意

識の

グローバ

ル化

」と「行

動の

グローバ

ル化

」をどうつなげるか

・地域での学び・地域での出会いを通した「ケアの心」をどう社会参加・参画につなぐか

➂カリキュラム開

発と実

践研

究における教

師の

協働

性や

研究

機関

等との

連携

・大学の研究成果を実践に生かす

・ベテラン教師が若い教師や実習生とともに授業を創る(日本の学校文化のよき徒弟制

度を生かす)

④子

どもの

現実

とどう向

き合

うか

・「ESDが求める学力を育むと、豊かに生きていける社会なのか」という問

い・18歳選挙権と政治教育・平和教育

・子どもの貧困・格差・発達課題と「道徳

学校教育」

62

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1

2016/3/19 @奈良教育大学国際交流留学センター

「グローバル人材に求められる異文化間能力」

実践報告② 「異文化間能力」を育む教員養成 ―博物館における校外学習をめぐって―

渋谷 真樹

≪はじめに≫ なぜ教員に「異文化間能力」が求められるのか? 奈良教育大学における「異文化間能力」育成: ユネスコスクール推奨授業科目 ・ 2007年に日本で初めて大学としてユネスコスクールに加盟

・ 活動内容 ○ASPnetを利用して、世界中の学校と生徒間・教師間で交流し、情報や体験を分かち合う。

○地球規模の諸問題に若者が対処できるような新しい教育内容やその手法の開発、発展を目指す。

・ 研究テーマ ①地球規模の問題に対する国際システムの理解 ②人権、民主主義の理解と促進 ③異文化理解 ④環境教

育 ⑤ESD(持続可能な開発のための教育)⑥世界遺産(文化遺産・地域遺産)

≪実践の概要≫ 2015年度後期「校外学習指導特講」 教育学専修専門科目(選択必修)、社会教育主事資格科目、ユネスコスクール推奨授業科目(研究テーマ③)

受講生 22人(正規 19人+社会人 1人+留学生 2人、2~4回生+教職大学院生) 目的 この科目では、学校外で行う教育活動の意義や内容について学びます。とりわけ、国際理解教育や多文

化共生教育をテーマに、校外学習を構想していきます。 到達目標 1 学校外での教育活動の意義や内容を知る。 2 グローバル化する現代社会における教育の課題を理解する。 3 学校外での国際理解教育や多文化共生教育のための指導案をつくることができる。 授業計画 1 オリエンテーション:校外学習とは?国際理解教育とは? 2~3 Ⅰ 「みんぱっく」を用いた国際理解教育:留学生とともに「みんぱっく」体験、ふり返り 4~6 Ⅱ テキスト講読:学校と博物館でつくる国際理解教育 7~8 Ⅲ ゲストティーチャーによる特別講話:「多文化な子どもと校外学習・国際理解教育」

元学校教員、外国ルーツ青年、研究者など 9~11 Ⅳ フィールドワーク A:「なら子ども国際フォーラム」参加、ふり返り 12 民博遠足の構想:各自の案を持ち寄り、この回を含め 3回の授業においてグループで構想 13~14 Ⅴ フィールドワーク B:国立民族学博物館遠足、ふり返り 15 まとめ:校外学習を通した国際理解教育・多文化共生教育

63

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2

テキスト 中牧弘允・森茂岳雄・多田孝志編著『学校と博物館でつくる国際理解教育:新しい学びをデザインする』、

明石書店、2009年 評価方法 1 授業参加状況(70%) 授業での取り組み状況、小レポート、指導案の発表 2 最終レポート(30%) 校外学習と国際理解・多文化共生教育に関する理解度・問題意識 ≪実践のポイント≫ Ⅰ アウトリーチ教材「みんぱっく」を用いた国際理解教育 ・ 「スーホの白い馬」(小2、国語)を導入に ・ モンゴル族中国人留学生をゲストティーチャーに迎えて ・ 授業を批判的に振り返る

体験学習のメリット・デメリット 異文化との出合い、異文化間の葛藤への気付き 小中学校の教員として自分ができることを考える

Ⅱ テキスト講読 ・ 国際理解教育とは? ・ 校外学習とは? ・ 博学連携とは? ・ 先行実践 Ⅲ ゲストティーチャーによる特別講話 ≪目的≫ ・ 「国際理解教育」 を3Fに終わらせない。 ・ 教室、地域、社会の中にある多文化に着目する。 ・ 共生や尊重を唱える前に、現にある差別に気付く。 外国ルーツの子ども達の教育に長年関わってきた元高校教員(過去には、外国ルーツ青年、研究者も)

から「多文化な子どもと校外学習・国際理解教育」を聞く。 授業後のふり返りで: 「無知が怖い」から「無関心が一番怖い」へ。 教師のすべきことについての省察: 知ること、関心をもつこと、相談できる環境づくり、表現の場 Ⅳ 「なら国際こどもフォーラム」でのフィールドワーク ≪目的≫ ・ 「外国にルーツをもつ子ども」と出会い、関わる。 ・ 奈良県外国人教育研究会の教師達の活動に触れ、参加する。 自己紹介、世界のゲーム、立食パーティー、世界の遊び

64

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3

小レポートより:言葉以外でのコミュニケーション、日本生まれ日本育ちの子ども達、文化と自分らし

さ、教師になるために知らなくてはならないことが増えた、一人一人と向き合う Ⅴ 国立民族学博物館でのフィールドワーク 課題「奈良市立小学校で国立民族学博物館への遠足を計画する」 テキストで先行事例を知る→各自で指導案を作る→グループで検討(3回)→博物館に「下見遠足」→班ごとに指導案をまとめる 国際理解教育の理念や方法:異文化への気づき、寛容性の育て方、3Fからの脱却 遠足実施の指導技術:手続き、事前準備、安全確保、ルール・マナーの遵守 ≪まとめ≫ 異文化との出合いの場の設定:人、もの、場所 異文化間の折衝の体験(→境界線の揺らぎ) モンゴル人―中国人、内モンゴル―外モンゴル、外国人―日本人、差別―被差別、過去―現在、祭り―日常、普遍―特殊

異文化間のハーモニーと不協和音 3Fからの脱却 教育技術と理論的支柱の両立 「異文化間能力」や学修成果の測り方

2

テキスト 中牧弘允・森茂岳雄・多田孝志編著『学校と博物館でつくる国際理解教育:新しい学びをデザインする』、

明石書店、2009年 評価方法 1 授業参加状況(70%) 授業での取り組み状況、小レポート、指導案の発表 2 最終レポート(30%) 校外学習と国際理解・多文化共生教育に関する理解度・問題意識 ≪実践のポイント≫ Ⅰ アウトリーチ教材「みんぱっく」を用いた国際理解教育 ・ 「スーホの白い馬」(小2、国語)を導入に ・ モンゴル族中国人留学生をゲストティーチャーに迎えて ・ 授業を批判的に振り返る

体験学習のメリット・デメリット 異文化との出合い、異文化間の葛藤への気付き 小中学校の教員として自分ができることを考える

Ⅱ テキスト講読 ・ 国際理解教育とは? ・ 校外学習とは? ・ 博学連携とは? ・ 先行実践 Ⅲ ゲストティーチャーによる特別講話 ≪目的≫ ・ 「国際理解教育」 を3Fに終わらせない。 ・ 教室、地域、社会の中にある多文化に着目する。 ・ 共生や尊重を唱える前に、現にある差別に気付く。 外国ルーツの子ども達の教育に長年関わってきた元高校教員(過去には、外国ルーツ青年、研究者も)

から「多文化な子どもと校外学習・国際理解教育」を聞く。 授業後のふり返りで: 「無知が怖い」から「無関心が一番怖い」へ。 教師のすべきことについての省察: 知ること、関心をもつこと、相談できる環境づくり、表現の場 Ⅳ 「なら国際こどもフォーラム」でのフィールドワーク ≪目的≫ ・ 「外国にルーツをもつ子ども」と出会い、関わる。 ・ 奈良県外国人教育研究会の教師達の活動に触れ、参加する。 自己紹介、世界のゲーム、立食パーティー、世界の遊び

65

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2015年度

校外学習指導特講

目的

この科目では、学校外で行う教育活動の意義や内容

について学びます。とりわけ、国際理解教育や多文化

共生教育をテーマに、校外学習を構想していきます。

到達目標

学校外での教育活動の意義や内容を知る。

グローバル化する現代社会における教育の課題を

理解する。

学校外での国際理解教育や多文化共生教育のた

めの指導案をつくることができる。

奈良教育大学における

「異文化間能力」育成

ユネスコスクール推奨授業科目

20

07年に、日本で初めて、大学としてユネスコスクールに加盟

活動内容

ASPn

etを利用して、世界中の学校と生徒間・教師間で交流し、情報や体験を

分かち合う。

・ 地球規模の諸問題に若者が対処できるような新しい教育内容やその手法の

開発、発展を目指す。

研究テーマ

①地球規模の問題に対する国際システムの理解

②人権、民主主義の理解と促進

③異文化理解

④環境教育

ESD(持続可能な開発のための教育)

⑥世界遺産(文化遺産・地域遺産)

なぜ教員に「異文化間能力」が

求められるのか?

教室の中の多様化

奈良に暮らす「外国にルーツをもつ子どもたち」

(保幼小中高)

2014、県外教)

1,62

1人

うち在日

365人、新渡日

1,25

6人

グローバル時代を生きる

子どもたち

日本における国際結婚の推移

文部科学省

020,0

00

40,0

00

60,0

00

80,0

00

100,0

00

120,0

00

0

200,0

00

400,0

00

600,0

00

800,0

00

1,0

00,0

00

1,2

00,0

00

1965

1970

1975

1980

1985

1990

1995

2000

2005

2010

夫 婦 の 一 方 が 外 国 人

総 数 / 夫 婦 と も 日 本 人

総 数

夫妻とも日本

夫妻の一方が外国

夫日本・妻外国

妻日本・夫外国

厚生労働省

実践報告②

「異文化間能力」を育む教員養成

―博物館における校外学習をめぐって―

渋谷

真樹

「グローバル人材に求められる異文化間能力」

20

16年

3月19日

奈良教育大学国際交流留学センター

66

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•導入として「馬頭琴」の絵本を読んで、そこから興味を持って

もらってモンゴルという国の説明に入るのが子どもたちが集

中し、興味を持ってくれるのに効果的だなと思いました。

•文章や言葉から頭で理解するものとは違った種類の深い理

解を得られるものが体験による学習なのだと考えた。

•見て、触れて、感じて、児童自らそれに働きかけたい、もっと

知りたいと思わせるところまでが出会いのサポートだと思う。

•子どもがメインの授業で、想像力がはたらく。

•普段関わることができない人を前にして、生の声でお話を聴

くということは、学校教育の外へ視野を広げる。

•最も印象に残ったことは、モンゴルで使われている文字が私

にとっては全く読めない記号にしか見えなかったということで

ある。

•ゲストティーチャーが来られることによって、外モンゴルや内

モンゴルの違いや、文字や言葉の種類・・・など住んできたか

らこそわかるモンゴルのことを知ることができた。

授業を批判的に振り返る

•アウトリーチ教材、ゲストティーチャーを用い

た授業の

–利点は何か?

–課題は何か?

•小中学校で展開するなら

–どんなことができるか?

–どんな工夫が必要か?

Ⅰ 「みんぱっく」を用いた国際理解教育

民博アウトリーチ教材の活用

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馬頭琴って?

「スーホの白い馬」(小2、国語)を用いて

モンゴルって?

これ何?

触ってみよう!

モンゴル族中国人留学生を

ゲストティーチャー

に迎えて

これがゲルです

外モンゴルって?

授業計画

オリエンテーション: 校外学習とは?国際理解教育とは?

2~3

「みんぱっく」を用いた国際理解教育

留学生とともに「みんぱっく」体験、ふり返り

4~6

テキスト講読

『学校と博物館でつくる国際理解教育』

7~8

ゲスト・ティーチャーによる特別講話、ふり返り

「多文化な子どもと校外学習・国際理解教育」

元学校教員、外国ルーツ青年、研究者など

9~

11 Ⅳ

フィールドワーク

A: 「なら子ども国際フォーラム」参加、ふり返り

12

民博遠足の構想: 各自で案作成→計

3回の授業でグループ討議

13~

14 Ⅴ

フィールドワーク

B:

国立民族学博物館遠足、ふり返り

15

まとめ:

校外学習を通した国際理解教育・多文化共生教育

67

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授業後のふり返りで

「無知が怖い」

–自分の知識不足を痛感した、という声が多数。

–必ずしも「知識がある=うまく対応できる」ではない

のではないか?

–うまく対応するためには経験も必要。

–実際に子どもと関わる勇気が必要。

「無関心が一番怖い」

失敗を恐れて子どもと関わることをやめてしまえば、結局は机上での学びにと

どまってしまう。それでは意味がない。無関心が一番怖い。関心があれば、無

知を知り、改善することができる。子ども一人一人の課題に気付き、関心をも

ち、解決するために働きかける教師が求められているのではないか。

Ⅲ ゲスト・ティーチャーによる

特別講話

≪目的≫

「国際理解教育」 を3Fに終わらせない。

教室、地域、社会の中にある多文化に着目する。

共生や尊重を唱える前に、現にある差別に気付く。

外国ルーツの子ども達の教育に長年関わってきた

元高校教員(過去には、外国ルーツ青年、研究者も)から

「多文化な子どもと校外学習・国際理解教育」を聞く。

・ 差別って何?

・ 子どもが教えてくれたこと

・ 奈良の在日外国人生徒と教師

(自分の出会った子どもたち)

Ⅱ テキスト講読

『学校と博物館でつくる国際理解教育』

•国際理解教育とは?

•校外学習とは?

•博学連携とは?

•先行実践

•ゲストティーチャーへの質問が少なかった。予備知識

が少なかったからではないか。事前学習が非常に重

要である。

•楽しかったという記憶だけにならないよう、絵本につい

て考える時間や感想などを話し合う時間はしっかり設

けるべきだ。

•今生きてどの程度使われているものか、遊牧生活が

どのように展開しているのか、消費生活との関連で興

味深い。

•ゲストティーチャーだけの意見にとらわれてしまう。ゲ

ストティーチャーに丸投げではこまる。

•なんの事後教育も行われないようなことにならないよ

うに気をつけねばとも思う。

•「モンゴルなのにどうしてロシアや中国の文字を使っ

ているのだろう」と児童自身が疑問に持てば、それが

難しくても教師が効果的に発問できれば、より深い学

びにつなげることができると思う。

68

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•中国の子どもが非常に元気に発言していたのが印象に残っ

た。私は異国で自分の言葉を堂々と発言するという経験をした

ことがないのでわからないが、子どもたちはうれしいという気持

ちだったのだろうか。私はうれしいだけでは表現できないような

感情があったのだと思う。

•中国語で動物の名前を答える際、一斉に大きな声で答える姿

は数時間前とは大違いであった。聞いた話では、ふだんの学

校ではおとなしめな児童が多いようだったが、このフォーラム

では本来の自分を出せていたようだ。

•戦争や国際問題についてどう児童に説明すればいいのか。私

が小学校教員になった時、社会の授業どうしよう・・・というの

が率直な感想だ。誤解のないように、傷つけないように、事実

だけを述べる授業ができるのだろうか、そして、そんな授業が

したいのか。「ひいおじいちゃんは戦争で亡くなった」とその児

童はケロッとした顔で言ったが、正直私は泣きそうだった。この

場で具体的な意見を出すことはできないが、知らなくてはいけ

ないことが増えたのは確かだった。

•外国籍の児童は、他の児童と同じだけど、違っている。まずは

そういう意識をもつことが大切ではないだろうか。どう接するの

が正解かはわからないが、それも他の日本人の児童と接する

時でも同じことだ。一人一人と向き合うしかないと思う。

・ (中国語を話している)この子たちと楽しい時間を過ごすこ

とができるのか、笑顔で向き合うことができるのか、不安なこ

とがたくさん浮かんだ。誰かの力を借りないとコミュニケー

ションもはかれないと思い、自分からすすんで声をかけること

ができなかった。(昼食後に)一人で遊んでいる弟をみかけ、

ふいに追いかけてみたら、自然と鬼ごっこが始まった。ここ

で、コミュニケーションをとるためには、言葉だけで行うので

はなく体のふれあいや表現だけでも十分通じ合えることが実

感できた。

・ やっぱり教師はすごい。たとえ言葉が伝わらなくても、児

童を笑顔にするコメント、興味をひかせるゲームを行って交

流しており、私ももっとこのような現場で学んでいきたい。

・ みんな日本人の小学生と何ら変わらない流暢な日本語

で、身構えていった私は拍子抜けしてしまった。見た目や

ルーツがあるというだけで、変に特別扱いしてはいけない。

ルーツが中国だから「中国について知っているでしょう?」

「中国語話してよ」という軽はずみな発言で、児童が「できな

い」という思いをさせるのはこちらの理解不足だ。さらに、自

分自身も日本のことをさほど知っているわけではないと痛感

させられた。

Ⅳ 「なら子ども国際フォーラム」への参加

≪目的≫

「外国にルーツをもつ子ども」と出会い、関わる。

奈良県外国人教育研究会の教師達の活動に触れ、

参加する。

自己紹介

世界のゲーム・

遊び

立食

パーティー

•なぜ差別されるのか、差別されることでどんなこ

とが起こるのか、差別されている人の気持ちは

どうなのか、教師が知らなくては子どもたちに伝

えることは難しい。

•差別されている子どもたちを無視せず、いつでも

相談に来られるような環境づくりをしておられ

た。そうすることで、子ども達は「自分の居場所

は少なくてもここにはある」と感じることができ

る。これは外国人生徒に対してだけでなくて、す

べての生徒にするべきことだと思った。

•(在日外国人の)子どもたちは、伝えたいことが

たくさんある。それを表現する場を与えてあげる

ことが大切なのだと感じた。

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まとめ

•異文化との出合いの場の設定

人、もの、場

•異文化間の折衝の体験

(→境界線の揺らぎ)

モンゴル人―中国人、内モンゴル―外モンゴル、外国人―

日本人、差別―被差別、過去―現在、祭り―日常、普遍―

特殊

•異文化間のハーモニーと不協和音

3Fからの脱却

•教育技術と理論的支柱の両立

•「異文化間能力」や学修成果の測り方

理念と技術の両立をめざして

•国際理解教育の理念や方法

–異文化への気づきのためのハシゴづくり

–寛容性の育て方

3Fからの脱却

•遠足を実施するための指導技術

–手続き、事前準備

–安全確保:点呼、移動、トイレ

–ルール・マナーの遵守:時間、公共交通、見学

民博遠足指導案

さまざまな結婚

•小

6 •目標: 異文化間教での結

婚のかたちを知る。自分に

とっての文化に対する当た

り前や正しいという偏見を

なくす。

•活動: 民博遠足→班での

新聞づくり

•文化の違いの大切さや良さ

を伝える。

世界の儀礼

•小

6 •目標: 国・地域ごとの儀礼

の特徴を知り、文化の違い

を感じ、その違いを受け入

れられるような寛容な態度

を育てる。

•活動: 民博見学(ワーク

シートを使ってスケッチ)→

PC/図書館での調べ学習

→PPTで発表

Ⅴ 国立民族学博物館遠足

課題

「奈良市立小学校で国立民族学博物館への遠足を計画する」

先行事例→各自で指導案→グループ検討(

3回)

→「遠足」(午前:館内見学→昼・レク→午後:班討議・発表)

これが

ゲルか!

授業に使えそう

70

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ディスカッション

○異

文化

間能

力育

成の

ための

教育

技術

・理

論的

支柱

(大

学教

員の

授業

も含

む)

○異

文化

間能

力育

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ための

カリキュラム開

発の

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習指

導要

領との

関係

,大

学教

員養

成課

程における

位置

づけなど)

ディスカッション

○異文化間能力規準

(児童・生徒・教員のそれが設定可能か)

○異文化間能力の評価

(「構成主義的な学習」の評価方法・観点・規準・基準)

13:00

開会挨拶

13:10-14:10

講演

佐藤郡衛氏(目白大学学長)

14:10-14:40

質疑応答

14:40-14:55

休憩

14:55-15:25

実践報告①

「ESDの視点に基づいた道徳性育成の授業実

践」

15:25-15:55

実践報告②「『異文化間能力』を育む教員

養成

-博物館における校外学習

をめぐってー」

15:55-16:55

佐藤先生よりコメント、フロアとのディスカッション

16:55-17:00

閉会挨拶

【本日の流れ】

奈良

教育

大学

国際

交流

留学

センター主

催シンポジウム

「教

員養

成大

学におけるグローバ

ル人

材育

成を考

える」

第2回

「グローバル人材」に

求められる異文化間能力

―教

員養

成か

ら学

校教

育へ

2016年

3月

19日

(土

)13:00~

17:00

71

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ご参加ありがとうございました。

★アンケートをご記入の上、出口の「アンケート回収

BOX」

に入れてお帰りください。

ディスカッション

○異文化間能力育成のための教育実践における

「価値観」の位置づけ

72

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▼参加者コメント ○「異文間能力」は幅広くとらえ方があり、自分の中ではまだ整理がつかずにいます。小嶋先生

の実践は、とても壮大で、一貫してやさしさが流れているような感じがしました。

渋谷先生の発表で、一番印象に残ったのが、「みんぱっく」を用いた授業を批判的に振り返ると

いう部分です。今、私も国際教育や開発教育を実践として行っていますが、それを批判的にふ

り返り、改善していく。また、そういう視点は、自分にもつきつけられました。ゲストティー

チャーを招いての学習は、私もやってみて、とても意義のあるものだと思っています。日系ブ

ラジル人の方をお招きしましたが、そこに至るまでに文化や歴史、アイデンティティのゆらぎ

を学習したのちのゲストティーチャーの話だったので、効果的でした。担当教員とゲストティ

ーチャーの事前の密な打ち合わせや交流は本当に大切だと思いました。

一流の先生方のご意見を多く聞けたことができて刺激的でした。ありがとうございました。

○本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。私自身、外国人児童の日本

語教育に関わっておりますが、本日の講義の中で「『文化』は外国の文化や国際交流といったこ

とだけを指すのか。障害を持つ人々などのことも含めるのか」といった話があり、大変興味深

かったです。日本人児童、外国人児童にかかわらず、子どもたちが様々な背景を持つ人々を理

解し、受け入れられるような教育を考えていきたいと思いました。

また、本日、「多様な文化、言語的背景を持つ学生の編入学の奨励」という話がありましたが、

渡日、日本生まれの外国人児童生徒が自らを発揮できるように、受け入れ枠がもっと拡大され

ることを願います。

○関西でこのようなシンポジウムが開かれる機会が少ないため、よかったと思う。貴重な話を聞

くことができて、とても勉強になったし、いろいろな指摘、考え、活動を知ることができた。

最初、4 時間は長いと思ったけど、興味深い内容だったため、その時間でよかったと思います。

○留学生の受け入れに関わる者として、グローバル人材育成には相応の関心を持っていましたが、

今日は、何にも増して、小嶋先生の教育実践の深さに圧倒され、中二の息子を転入させたい(笑)

と思いました。

○学校教育の制度上のことについての話が多くなるのはシンポジウムの性質上仕方がないとは

思いますが、もう少し詳しく「個人として出来ること」「社会としてできること」「教育現場と

してできること」など『異文化間能力』を育んでいくために必要なことについて詳しく知りた

かったです。

○グローバル人材の育成が強く求められる今日、それを育てる教員自体がどのようにすればグロ

ーバルになれるのか行政の力も借りて、一日も早く確たる政策の確立が求められる。関係者のベ

クトルがあうことを期待しております。

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平成27年度学長裁量経費プロジェクト教員養成大学における「グローバル人材」育成のためのカリキュラムに関する総合的研究

奈良教育大学 国際交流留学センター主催 シンポジウム

「教員養成大学におけるグローバル人材育成を考える」報告書

平成28年3月

国立大学法人 奈良教育大学国際交流留学センター〒630-8528 奈良市高畑町国際交流留学センターTEL・FAX 0742-27-9177電子メール [email protected] http://cies.nara-edu.ac.jp/

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