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1 卒業論文計画書 インターネット投票は投票率の向上につながるか 横浜市立大学 国際総合科学部 福井勇二 はじめに 投票率の低下が重大な問題となっている。衆議院議員総選挙のデータを見ると、小泉劇 場(郵政選挙)、政権交代などで一時投票率は回復したが、近年では再び減少傾向にあり、 平成 26 12 月の衆議院議員総選挙(小選挙区)の投票率は 52.66%と、戦後最も低い投票率 となった。(図 11 衆議院議員選挙(大選挙区・中選挙区・小選挙区)における投票率の推移(%) 1 昭和 38 年は、投票時間が 2 時間延長され、午後 8 時まであった。 2 昭和 55 年及び昭和 61 年は衆参同日選挙であった。 3 平成 8 年より、小選挙区比例代表並立制が導入された。 4 平成 12 年より、投票時間が 2 時間延長され、午後 8 時までとなった。 5 平成 17 年より、期日前投票制度が導入された。 出典:総務省「国政選挙における投票率の推移」 (http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/ritu/)より筆者作成 72.08 67.95 74.04 76.43 74.22 75.84 76.99 73.51 71.14 73.99 68.51 71.76 73.45 68.01 75.57 67.94 71.4 73.31 67.26 59.65 62.49 59.86 67.51 69.28 59.32 52.66 50 55 60 65 70 75 80 S.21 S.22 S.24 S.27 S.28 S.30 S.33 S.35 S.38 S.42 S.44 S.47 S.51 S.54 S.55 S.58 S.61 H.2 H.5 H.8 H.12 H.15 H.17 H.21 H.24 H.26

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卒業論文計画書

インターネット投票は投票率の向上につながるか

横浜市立大学 国際総合科学部 福井勇二

はじめに 投票率の低下が重大な問題となっている。衆議院議員総選挙のデータを見ると、小泉劇

場(郵政選挙)、政権交代などで一時投票率は回復したが、近年では再び減少傾向にあり、

平成 26 年 12 月の衆議院議員総選挙(小選挙区)の投票率は 52.66%と、戦後最も低い投票率

となった。(図 1)

図 1 衆議院議員選挙(大選挙区・中選挙区・小選挙区)における投票率の推移(%)

注 1 昭和 38 年は、投票時間が 2 時間延長され、午後 8 時まであった。

注 2 昭和 55 年及び昭和 61 年は衆参同日選挙であった。

注 3 平成 8 年より、小選挙区比例代表並立制が導入された。

注 4 平成 12 年より、投票時間が 2 時間延長され、午後 8 時までとなった。

注 5 平成 17 年より、期日前投票制度が導入された。

出典:総務省「国政選挙における投票率の推移」

(http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/ritu/)より筆者作成

72.08

67.95

74.0476.43

74.22

75.8476.99

73.51

71.14

73.99

68.51

71.7673.45

68.01

75.57

67.94

71.473.31

67.26

59.65

62.49

59.86

67.5169.28

59.32

52.66

50

55

60

65

70

75

80

S.21

S.22

S.24

S.27

S.28

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S.33

S.35

S.38

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S.44

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H.5

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中でも若い世代の有権者の投票率の低下が著しい。もともと投票率の低かった 20 歳代の

投票率は平成 26年の衆議院議員総選挙では 32.58%と非常に低い数値となっている。(図 2)

年齢とともに投票率は増加する傾向にあり、若年世代の投票率の底上げがその後の全体の

投票率の向上に大きく影響することが読み取れる。2016 年参議院議員選挙では投票権の年

齢が満 20 歳から満 18 歳に引き下げられたものの、選挙管理委員会などが大学やショッピ

ングモールなどに期日前投票の投票所を設置したり、アイドルを CM などに起用したりと

対策を取ってはいるが、大幅な改善には至っていない。

図 2 平成 26 年衆議院議員総選挙における年代別投票率(%)

注 1 この表のうち、年代別の投票率は、全国の投票区から、回ごとに 142~188 投票区を

抽出し、調査したものである。

出典:総務省「衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移」

(http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/)より筆者作成

32.58

42.09

49.98

60.07

68.28

59.46

52.66

0.00

10.00

20.00

30.00

40.00

50.00

60.00

70.00

80.00

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代以上 全体

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日本労働組合総連合会が 2015 年に行ったアンケートから、若年層の投票率を向上させる

可能性が最も高いのがインターネット投票であると予想できる。(図 3)

図 3 選挙がどのように変わったら「投票しよう」と思う気持ちが(今よりも)強くなると

思うか(複数回答、2015 年 7 月、15〜23 歳)

出典:日本労働組合総連合会「若者の関心と政治や選挙に対する意識に関する調査」

(https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20150803.pdf)より筆者作成

54.6%

26.7% 25.7% 25.3%21.5% 21.1% 20.9% 20.3%

16.1% 16.0% 15.0% 13.2%

2.1%

8.3%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

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平成 26 年末のインターネット人口普及率は 82.8%であり、情報通信機器の普及状況にお

いては、「携帯電話・PHS」及び「パソコン」の世帯普及率は、それぞれ 94.6%、78.0%と

高い数値となっている。通信面においてはインターネット投票に対する環境は整っている

と言えるのではないか。(図 4−1)特に若年層のインターネット利用率は高く、インターネ

ット投票による投票率向上への期待は大きい。

図 4-1 インターネットの利用者数及び人口普及率の推移

出典:総務省「平成 27 年版 情報通信白書|インターネットの普及状況」

(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc372110.html)より

筆者作成

7,9488,529

8,754 8,8119,091

9,408

9,4629,610

9,65210,044

10,018

66.0%70.8% 72.6% 73.0%

75.3%78.0%

78.2%79.1% 79.5%

82.8%82.8%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

10,000

11,000

平成16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

利用者数(万人) 人口普及率

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図 4-2 世代別インターネット利用率

*家庭内または家庭外でインターネットを利用した人

出典:総務省「平成 27 年版 情報通信白書|インターネットの普及状況」

(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc372110.html)より

筆者作成

先行研究 人はなぜ投票に行くのかということに関して、Riker and Ordeshook (1968)の投票参加モ

デルを用いて説明する。

DCBPR 上記の式は有権者の合理性を前提としており、左辺の R は投票によって得られる純利得

であり、R>0 であるとき、人は投票に行くといわれている。(P というのは、自分の投票参

加が投票結果にもたらす影響についての主観的な確率を表してしている。B は、候補者間

の期待利得の差を、C は投票にかかるコストを表している。そして D 要因は投票の長期的

利得を表しており、自分が民主主義を支えるといった義務感などがこれに該当する。)

総務省や各自治体は従来の啓発活動に加え、投票時間の延長や期日前投票制度の改正と

いった投票制度に対する施策が講じられている。一方で、各自治体による投票所の統廃合

も行われており、小西・村田・名取(2008)は前者を投票所へのアクセスを向上させるも

の、後者を投票所へのアクセスを悪化させるものとして、有権者のコスト面から投票行動

97.9% 98.5% 97.4% 96.6% 91.4%76.6% 68.9%

48.9% 22.3%

82.8%97.8% 99.2% 97.8% 96.6% 91.3%80.2% 69.8%

50.2%

21.2%

82.8%

0.0%10.0%20.0%30.0%40.0%50.0%60.0%70.0%80.0%90.0%

100.0%

平成25年末(n=38,144) 平成26年末(n=38,110)

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について説明している。

仮に、インターネットで投票ができるようになると、ネット環境さえあればわざわざ休

みの日に他の用事を犠牲してまで、投票所に足を運ぶ必要がなくなる。また天気や投票所

までの距離などのコストもなくすことが可能になる。

故に、有権者にとっては、Riker and Ordeshook の議論でいうところの、C 要因が大き

く下がることになる。実際に、平成 25 年度執行の横浜市長選挙では、図 5-1 および、図

5-2 示すように、投票に行かなかった理由として、「仕事など選挙よりも大切な用事があっ

た」と回答した者が一定数おり、20 代後半では、選挙に行かないと回答した人の 3 分の 1

がこの理由で選挙で一票を投じることなく終わったということになる。また、一定数の老

人は、投票所が遠く、不便という、C 要因で行かなかったこともわかる。

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図 5-1 平成 25 年度横浜市長選挙で選挙に行かなかった理由(男性)

0.0% 0.0%3.8% 5.9%

11.6%4.3% 5.3% 5.6% 7.4% 8.3%

17.2%15.0%

33.3%11.3%

23.5%18.6%

21.3% 18.4% 19.4% 16.7%8.3%

2.3%10.0%

9.5%

3.8%

11.8%4.7%

2.1%2.6% 2.8% 7.4%

2.1%3.4%

20.0%9.5% 26.9%

23.5%

25.6%

19.1%

34.2% 30.6%29.6%

50.0%36.8%

0.0%

48.0%

3.8%

3.9%

0.0%

0.0%

0.0%0.0%

0.0%

4.2%

3.4%

20.0%

14.3%

23.1%

7.8%

14.0%

23.4%

10.5%8.3%

9.3%

6.3%

10.3%10.0%

9.5%

11.5%7.8%

4.7% 14.9% 15.8%

11.1%

18.5%

14.6%

10.3%15.0%

4.8%11.5%

3.9% 14.0%

14.9% 10.5%22.2%

7.4%2.1%

10.3%

10.0% 14.3%3.8%

7.8%

7.0%0.0% 2.8% 0.0%

1.9% 0.0% 0.0%

0.0% 0.0% 0.0%3.9%

0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.9% 4.2%5.7%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

度数

無回答選挙があることを知らなかったその他投票したい候補者がいなかったからあまり関心がなかったから投票所が遠く不便だから当選する人がほぼ決まっていたからどの候補者がよいかわからなかったから仕事や商売など選挙より重要な予定があったから病気(看護を含む)だったから

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図 5-2 平成 25 年度横浜市長選挙で投票に行かなかった理由(女性)

出典:横浜選挙管理委員会提供「平成 25 年度横浜市長選挙に関するアンケート調査」

より筆者作成

0.0% 0.5%7.5% 8.8% 6.7% 8.6% 8.0% 8.6%

5.0%9.7%

28.4%25.0%

15.0%

13.2%

20.6%17.3% 14.3% 13.3% 10.3%

0.0%

11.3%

2.6%3.6%15.0%

15.1%

7.4%14.7%

10.0%5.3%

5.2%

8.3%

6.5%

6.9%3.6%

10.0%

22.6% 13.2%

24.0%

24.3% 34.7%32.8%

45.0%

45.2%28.4%

3.6%

5.0%

0.0%1.5%

0.0%

1.4%

1.3%5.2% 0.0%

0.0%

2.6%

28.6% 2.5%

9.4% 11.8%

2.7%7.1%

9.3% 8.6%10.0%

9.7%

10.3%10.7%

10.0%

5.7%8.8%

12.0% 11.4%

9.3% 13.8%

10.0%

8.1%

6.9%

17.9%

22.5%

29.8%22.1% 12.0%

18.6% 12.0% 5.2%11.7%

3.2%

7.8%

7.1%

10.0%

5.7% 1.5%4.0%

2.9%0.0%

3.4%1.7%0.0%

9.0%

0.0%5.0%

0.0% 4.4%6.7%

1.4%

6.7% 6.9% 8.3%

6.5%5.2%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

度数

無回答選挙があることを知らなかったその他投票したい候補者がいなかったからあまり関心がなかったから投票所が遠く不便だから当選する人がほぼ決まっていたからどの候補者がよいかわからなかったから仕事や商売など選挙より重要な予定があったから病気(看護を含む)だったから

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以上より、投票に関するアクセス面において、 DCBPR のうちの C 要因を解

消することを目指し、インターネット投票を卒業論文のテーマにしたい。

・インターネット投票

まず、混同しがちな用語の定義について具体的に説明しておく。2013 年に解禁された「ネ

ット選挙」とは選挙活動においてインターネットを使った活動を行うことを指し、インタ

ーネットから投票を行う「インターネット投票」とは異なる。

似た意味の言葉として「電子投票」がある。旧自治省の「電子機器利用による選挙シス

テム研究会報告書」は電子投票には 3 段階あるとしており、それは、選挙人が指定された

場所で電子機器を用いて投票を行う第 1 段階、指定された場所以外でも投票できる第 2 段

階、投票所での投票を強制せず、個々の電子端末を用いて投票し、投票結果をインターネ

ット等のコンピュータ通じて送受信する第 3 段階である。

日本では地方選挙に限り電子投票を可能とする法改正もなされ、幾つかの自治体で実際

に電子機器を用いた投票が行われたが全国的に普及しているとは言えない。電子投票制度

の導入に歯止めをかけたのが 2003 年 7 月 20 日に岐阜県可児市で起きた市議選であると柳

瀬(2009)は述べている。投票機の機能停止により投票が一時中断するなどのトラブルが

生じ、選挙の有効性が最高裁まで争われた結果、この電子投票による選挙は無効となった

のである。

海外における電子投票

アメリカの例

アメリカにおける電子投票の導入状況を湯淺(2017)の「2016 年アメリカ大統領選挙と

電子投票・インターネット選挙運動(上・下)」を参考に説明する。

現在アメリカで採用されている電子投票は、直接記録式電子投票機を用いる方式と、光

学スキャン式に大別される。電子投票が普及し始めた初期は直接記録方式電子投票機を指

すものであったが、その後は光学スキャン方式のほうが機器による障害が少ないことから

2008 年の大統領選を境に光学スキャン方式が主流になっている。

湯淺(2017)は投票過程について投票所内における電子投票機器のセキュリティの問題

について触れ、電子機器を不正に操作してプログラムの書き換えや投票記録の改ざん等を

行う場合、また記録装置が正常に動かず、投票を正確に記録できないという場合などの物

理的問題、そして、投票終了後の票の集計過程で投票記録を移す際の通信面でのトラブル

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問題があると述べている。2016 年の大統領選ではウィスコンシン、ミシガン及びペンシル

バニア州における電子投票機器の無線 LAN 機能のセキュリティ脆弱性が問題となった。ネ

ットワーク経由で不正侵入させた可能性が存在し、投票記録を改ざん・消去されたとすれ

ば、最終的な大統領選の帰結に影響を与えたことになってしまう。

第 3 段階の「インターネット投票」の導入環境を作るためにも第 1、第 2 段階の電子投票

での課題を調査し、解決策を見つけ出すことが重要である。

エストニアの例

湯淺(2009)の「エストニアの電子投票」を参考に世界で始めて第 3 段階の電子投票を行っ

たとされる、エストニアのインターネット投票について説明する。

エストニアでインターネット投票を実現する上で重要となるのが、IC チップを組み込ん

でいる ID カードの普及である。この ID カードが身分証明書の役割を果たし、電子署名を

可能にしている。具体的な投票の手順としては、まず ID カード用のリーダーを装着した、

インターネットに接続済みコンピュータに専用ソフトウェアをインストールする。ID カー

ドを挿入した状態で選挙管理委員会の投票用ホームページにアクセスし、投票を行うとい

うものである。

2005 年に首都タリンで電子投票の実現可能性を調査するためにパイロット・プロジェク

トが行われた。タリン市のパイロット・プロジェクトでは選挙ではなく予定されていた住

民投票について実験が行われた。この住民投票の電子投票の利用者は、投票総数の 13.7%

にあたる 703 人であった。住民投票自体が政治的な案件ではなく、電子投票の利用者が少

ない結果となったが、技術的障害は発生しなかった。

タリン市のパイロット・プロジェクトの結果を受けて、2005 年地方議会選挙、2007 年国

会議員選挙、2009 年欧州議会選挙で電子投票による投票が行われ、インターネット投票利

用率はそれぞれ、0.9%、3.4%、6.5%となった。いずれの選挙においてもインターネット

を用いた投票は1割未満となっているが2009年の欧州議会選挙では期日前投票のインター

ネット利用率が 45.5%と高い数字だったこともあり、投票コスト削減の面において一定の

効果をもたらしている。

湯淺(2009)はインターネット投票成功の条件として以下の三つの要因をあげている。

・インターネットの普及度と電子政府の達成度の高さ

・インターネット投票に対する世論の支持

・インターネット投票を導入しやすくする法制度の整備と法解釈

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上記のグラフで述べたようにインターネットの普及度と電子政府の達成度の高さ、イン

ターネット投票に対する世論の支持の面では日本でも環境は整っていると判断でき、イン

ターネット投票の実現は可能であると予想する。

卒論に向けて 本計画書では、投票率低下の原因が若年層の投票率の低さにあることを示し、投票行動

理論を説明した上で、アクセス面のコストを軽減する投票制度としてインターネット投票

が有効であると主張した。

日本では第 3 段階はおろか第 1 段階の電子投票でさえ全国的に導入できているとは言い

がたく、インターネット投票導入に否定的な意見も存在する。導入する際の課題として電

子機器の購入・維持費用、また岐阜県可児市のような電子投票機器の信頼性、セキュリテ

ィ問題、秘密投票の保持など多くの問題が挙げられるが、海外では電子投票の普及が進ん

でいることも事実であり、卒業論文では、国内の地方選挙における電子投票の結果、海外

の電子投票の普及の経緯、また法解釈などについて幅広く調査することで、インターネッ

ト投票の実現に向けてその有効性と実現可能性を示したい。

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湯淺 墾道(2009)「エストニアの電子投票」

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湯淺 墾道(2011)「電子投票に関する法制度の近時の動向」

『社会文化研究所紀要』(67)p.1-10,九州国際大学社会文化研究所

湯淺 墾道(2017)「2016 年アメリカ大統領選挙と電子投票・インターネット運動(上)」

『選挙や政治に関する総合情報誌』70(1)p9-17,都道府県選挙管理委員会連合会,

湯淺 墾道(2017)「2016 年アメリカ大統領選挙と電子投票・インターネット運動(下)」

『選挙や政治に関する総合情報誌』70(2)p1-9,都道府県選挙管理委員会連合会,

総務省「国政選挙における投票率の推移」

URL:http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/ritu/ (2017/07/20)

総務省「衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移」

URL:http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/ (2017/07/14)

総務省「電子機器利用による選挙システム研究会中間報告書」

Page 13: 卒業論文計画書 - Coocanjuniwada.in.coocan.jp/22ki/fukui.pdf · 中でも若い世代の有権者の投票率の低下が著しい。もともと投票率の低かった20 歳代の

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URL:http://www.soumu.go.jp/news/pdf/densi.pdf(2017/07/23

総務省「平成 27 年版 情報通信白書|インターネットの普及状況」

URL:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc372110.html(2017/07/23)

日本労働組合総連合会「若者の関心と政治や選挙に対する意識に関する調査」

URL:https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20150803.pdf (2017/07/14)