要求水準に関する研究 - 天理大学...the personality test forms of “yatabe-guilford...

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-18 要求水準に関する研究 要求水準とパーソナリティ,および動機づけによる変化について 昭子 LevelofAspirationofAthletes: TheAnalysis ofPatterns ofResponsesin Studying Personality andTheir Change inMotivatedTask Situations byYASUDAAkiko* AbstractThepresentstudywascarriedouttoexaminelevelofaspirationofcollegeathletesbythe followingtwoexperimentswith and without motivational clues. Experiment One purpos d to exa- minetheusefulnessoflevelofaspirationasthemethodof studyingpersonality. Resultswereanalyz- edtoseewhetherthereexiststablepatternsofresponses in the level ofaspirationsituation(withno motivationalclues) inrelationtovariouscharactertraitsofthe s 吋巴cts. ExperimentTwowasconduc- tedtoseehowthelevelofaspirationpattern (LA Pattern) changeswhensubjects are motivated in eithercompetitiveorcooperativetasksituations. ThesubjectsforExperimentOnewere 100 female college athletesandamongthose werechosen18 femal basketballplayersasthesubjectsforExperimentTwo. Toallthe subjects were administered thepersonality test formsof Yatabe-Guilford and Uchida-Kraepelin. Asthe experimentaltask each subject made10trialsof 10basketball shots (100shots total). Before eachtrialsubjectswere requested to announcehow many goals out of 10 shots they would like to make, which was recordedaslev lofaspiration. Then thedifference between LA and actual goals (AG) in each preceedingtrialwasobtainedasthegoaldiscrepancyscore (G-DS). Thefindingsfromexperimentsar summariz d asfollows: ( A ) Thefollowingninepatterns, which areslightlydifferent from the ones discussed in Rotter (1945),werefoundonsubjects'responsesonthelevelofaspiration. 1) LowPositiveDiscrepancyScore (DS) Pattern 2) VerySlightly Positive DSPattern 3) MediumHighDSPattern 4) AchievementFollowers 5) Th StepPattern 6) Very High PositiveDSPattern 7) NegativeDSPattern 8) TheConfusedPattern 9) RigidPattern ( B) Mostsubjects(27%)belongtoth LowPositiveDSPatterngroupandotherstoth following thr eegroupslistedindescendingnumberofsubj cts:VerySlightlyPositiveDSPattern,Achieve *AssociateProfessorof PhysicalEducation,Departmentof PhysicalEducation,TenriUniversity,Japan.

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Page 1: 要求水準に関する研究 - 天理大学...the personality test forms of “Yatabe-Guilford ”and “U chida-Kraepelin. ”As the experimental task each subject made 10 trials

-18 ー

要求水準に関する研究

要求水準とパーソナリティ,および動機づけによる変化について

安 田 昭子

Level of Aspiration of Athletes: The Analysis of Patterns

of Responses in Studying Personality and Their Change

in Motivated Task Situations

by YASUDA Akiko*

Abstract The present study was carried out to examine level of aspiration of college athletes by the

following two experiments with and without motivational clues. Experiment One purpos 巴d to exa-

mine the usefulness of level of aspiration as the method of studying personality. Results were analyz-

ed to see whether there exist stable patterns of responses in the level of aspiration situation (with no

motivational clues) in relation to various character traits of the s吋巴cts. Experiment Two was conduc-

ted to see how the level of aspiration pattern (LA Pattern) changes when subjects are motivated in

either competitive or cooperative task situations.

The subjects for Experiment One were 100 female college athletes and among those were chosen 18

femal 巴 basketball players as the subjects for Experiment Two. To all the subjects were administered

the personality test forms of “Yatabe-Guilford ”and “U chida-Kraepelin. ” As the experimental task

each subject made 10 trials of 10 basketball shots (100 shots total). Before each trial subjects were

requested to announce how many goals out of 10 shots they would like to make, which was

recorded as lev 巴l of aspiration. Then the difference between LA and actual goals (AG) in each

preceeding trial was obtained as the goal discrepancy score (G-DS).

The findings from experiments ar 巴 summariz 巴d as follows:

( A ) The following nine patterns, which are slightly different from the ones discussed in Rotter

(1945), were found on subjects' responses on the level of aspiration.

1) Low Positive Discrepancy Score (DS) Pattern

2) Very Slightly Positive DS Pattern

3) Medium High DS Pattern

4) Achievement Followers

5) Th 巴 Step Pattern

6) Very High Positive DS Pattern

7) Negative DS Pattern

8) The Confused Pattern

9) Rigid Pattern

( B) Most subjects (27%) belong to th 巴 Low Positive DS Pattern group and others to th 巴 following

thr 唱ee groups listed in descending number of subj 巴cts: Very Slightly Positive DS Pattern, Achieve

* Associate Professor of Physical Education, Department of Physical Education, Tenri University, Japan.

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ment Followers, and Medium High DS Pattern. This shows most of our subjects made positive

and realistic responses on the level of aspiration.

( C ) As for the distribution of LA patterns among various atheletic clubs, subjects who belong to

the table tennis, badminton and swimming clubs shows high percentages of those patterns of

a higher level of aspiration; while thos 巴 of the dance, gymnastics, track and field, and .Japanese

fencing clubs, a lower level of aspiration.

( D) The change of LA patterns was ob 拍,ved for more than 80% of su 対ects in Experiment Two

when they were motivated in competitive and cooperative task performances. But subjects tended

to maintain their own LA pattern, which reflects the fact that each individual has his own

personality trait.

( E) Subjects showed a higher level of aspiration in motivated performance tasks, but this rise

varied with the kind of motivational clues and also with the subjects' shooting average.

( F ) Subjects made a higher shooting average in a cooperative task situation than in a competitive

one or in one without any motivational clue.

緒昌

人はだれでも食欲,活動欲,性欲などの生物的

欲求や,個人を独立の人格として維持しようとす

る自我欲求,さらには社会生活を豊かな望ましい

ものにしていくための社会的欲求をもっている。

特に自我欲求,社会的欲求などはわれわれの生活

全般にきわめて広く根をはっており,いわば人間

的な欲求・要求であり複雑多岐である O そして,

この欲求・要求が満たされない場合にはさまざま

な葛藤状態が生じ,その対処のしかたによっては

欲求不満をひきおこしたりする。また,一次的に

満たされた場合にも,さらに高い目標を追求する

ようになる。

競技スポーツを行なう者にとっても,「目標は練

習意欲をかきたてる役割をし,心身のエネルギー

を 1つの方向にむかわせ,それらを最高度に動員

する働きをもっ1)」 ものである。そのために,個

人個人がもっ目標の程度や高さによって練習内容

や方法が異なるし,目標をもつがために,試合の

結果や記録に対する成功感,失敗感が生ずるわけ

である。そして,その成功←失敗感が次の目標の

レベルを規定するわけで、ある。

このように,われわれは何らかの課題を遂行す

る場合,それに対する期待,願望,決心,確信な

どの程度を反映して,この程度にはやり遂げたい

という目標をたてたり,期待をもつものである。

このような自分が目標として選んだ成績の段階や

1)松田岩男「現代スポーツ心理学」 p. 127. 日本体

育社(1967)

水準,あるいは自分の成績に対する期待,要求の

高さを一般に要求水準(Level of Aspiration )とい

っている O したがって,要求水準は単にある行動

の実現前にその行動結果についてたてた本人の予

想ではなく,実現行動に機能的関連をもっ予想が

確かめられる必要がある O

そして,ある成績が成功として体験されるか,

失敗として体験されるかは,その成績によって要

求水準が達成されたかどうかによるものである。

いいかえると,「成功感や失敗感は主観的なもので

あり,自己のたてた目標の高さ(要求水準)と現

実の成果との相対的関係によって決まる2)」もの

である。しかしながら,あらゆる成功や失敗が同

じ重みをもつものではなく,連続的な成功,偶然

的な成功,部分的な成功などにより成功の重みは

異なり,失敗でも完敗,部分的な完敗,成功の連

続の後の単一な失敗などがあるわけである。した

がって,同じ成果であってもある人にとっては成

功感をいだかせ,ある人は失敗と感じるというよ

うに,その人の要求水準の高さやパーソナリティ

によって違いがでてくるものである。

この成功一失敗について,実験により最初に明

らかにしたのはホッベ(Hoppe, F. )であるといわ

れている。かれはある仕事をしてその成果が当初

の要求水準より高かった場合には成功感を得て,

次にその仕事を行なう際の水準は多少上昇するが,

逆に,初めの要求水準に成果が達しなかった場合

には失敗感を体験して,次の要求水準は低下する

ことを発見している。

2)松田岩男「前掲書」 p. 127.

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このように,要求水準推移の力動的要因は基本

的にはすべての人にとって共通であるが,葛藤状

態に対処するしかたには必ず個人差があるわけで

ある。し、し、かえると,開始水準の高さ,課題遂行後

の結果の意識のしかた,要求水準を可能の極限に

まで高めようとする傾向の強さ,挑戦よりもむし

ろ放棄をといった態度などに個人差があらわれる。

成功の後に要求水準を漸次高めるか急激に増加

させるかも人によって違うし,同様に,失敗の後

に要求水準を低下させる者もいるし,そのまま再

度挑戦する者もいる。このような要求水準設定場

面の反応方法について,ハウスマン(Hausman,

M.F. )ロッター(Rotter, J.B. )らは被験者の大

胆さ,関心,勇気などの個性に注目し,要求水準

は動機づけの有無,その課題についての過去の経

験,自信の有無,パーソナリティなどに規定され

ると述べている。

動機づけ(motivation) とはやってみたいとい

う気持を起こさせること,すなわち,学習意欲を

換起することといわれている。動機づけをするた

めには学習者の興味や要求を知るとともに,目標

を明確にして自覚させることが必要条件である。

そのうえで,結果を知らせたり,賞罰を与えたり,

競争場面を利用するなどの具体的な動機づけが考

えられる。いずれにせよ,これらの動機づけは学

習中にさまざまな刺激となって,実際の成績はい

うまでもなく,要求水準にも影響を及ぼすものと

なる。

そこで,本研究では 2つの実験を行なうことに

より,第 1に要求水準の型とパーソナリティとの

関連についてみようとした。第2には競争などの

動機づけによる要求水準の加工が可能であるかど

うか, また競争(competition )と協同(cooper-

ation )ではどちらが有効な動機づけとなるかにつ

いて検討しようとした。

方 法

1. 研究の対象

第 1回目実験と検査…・・天理大学体育学部女子

運動選手 100 名,対象者の内訳は表1. に示すとお

りである。

第2回目実験と検査……天理大学パスケットボ

{ル部女子選手, 1年生 3名, 2年生 3名, 3年

生 6 名, 4年生 6 名,合計18 名,いずれもバスケ

ットボールの経験年数が3年以上の者である。

表1 研究の対象者の内訳

道ハ

γ

陸上競技

操qFγ

泳ハ

1

バスケット

ルけ引

1年 I3 I 4 I 3 I 1 I 3 lol工日τlo円子2年 I6 I s I 6 1-----;-lτlτl1lo1Iτ 日J3年 I1 I 4 I 41τl 三Iτl1l4lolτ ロJ4年 Is I s I 1 I 2 I 2 I 3 I 3 I o lol1I-----; 計 I21 I 1s I 14 I 12 I 9 I s I 6 I 6 I 3 I 3 I 100

2. 実験と検査の時期

第 1 回目実験と検査・…・・1975 年3月~4 月。

第2回目実験と検査…・・1976 年3月。

3. 検査の種類と分類

矢田部ギルフォード性格検査……性格類型め

内田クレペリン精神検査……人がら類型的と精

神健康度。

4. 実験方法と手続

バスケットボールのシューティシグ 100 投。

本実験は被験者の要求水準のたてかたを種々の

見地から検討しようとするものであるから,はっ

きりした要求水準がたてられることが必須条件で

ある。したがって,要求水準の生まれる範囲が成

功,失敗体験の生ずる地帯であることから,予備

実験の結果,最も多くの被験者が 4割から 5割成

功するように,距離とシュートの種類を以下のよ

うに決定した。 l

各被験者は図1. の斜線で示すような,フリース

ローサークルのパスケットに近い半円内からセッ

トショットを行なう。また,疲労の作用のしかた

も考慮して合計 100 投とした。

被験者は皮製7号のバスケットボールを用いて,

以下に示す要領で10 投ずつ10 試行のシュートをし

た。

(1) 被験者は第1 試行開始前に要求水準をたて

て実験者に伝える。

(2)第 1 試行を行なう。

(3) 第 1 試行終了後,実験者に成功本数(結果)

を知らせてもらい,第2回目の要求水準をたてる。

(4)第2試行を行なう。

(5) 第2試行の結果を知り,第3回目の要求水

3〕辻岡美延「新性格検査法」竹井機器工業(1967)

4)小林晃夫「内田クレペリン精神検査法による人間

の理解」東京心理技術研究会(1970)

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ずウ(フォロアー)

ノ被験者

o 実験補助者(スコアラー)

台一図 1 シューティングの位置

準をたて,第3試行を行なう。

(6) 以下同様にして第10 試行まで実施し,最後

に第11 回目の要求水準をたてて終了する。

各試行聞は実験者が結果と次回の要求水準を記

録するのに費すわずかな時聞を除けば,特に休憩

時間といったものは挿入せず, 10 試行連続して行

なうわけである。

この場合被験者がたてる要求水準は成功の予想

本数ではなく,意志と願望をもった期待本数であ

ることを強調した。すなわち,実験者は「次回は

何本入ると思いますか」と問わずに,「次回は何投

成功させたいと思いますか」と問うわけである。

5. 実験 I と実験E の内容

(1) 第 1 回目実験(実験 I) は被験者 100 名の

要求水準のたてかたとパーソナリティとの関連を

把握・検討するために行なったものである。

(2) 第 2 回目実験(実験II )は動機づけによる

要求水準の変化をみるために, 18 名の被験者で以

下の 4 条件により行なったものである。

条件I…動機づけなし(実験Iと同じ)

条件II. ・・実力的に差がある者同志の競争

条件直…実力が接近している者同志の競争

条件町… 4 ~ 5人クゃループの対抗,いわゆる協同

6. 実験E における対戦相手とグルーピング

条件II, ill の競争相手と条件W のグループ編成

をするために,第 2回目実験の条件 Iの結果から,

そのシュート率を主体として,成績順に表2のよ

うなランキングを決定した。この表には実験 I の

シュート率が掲げてあるが,昨年の成績であるた

- 21 ー

表2 実験E の被験者のランキング

群 ラγキソグ 仮 名条件工のシ 実験 I のュート率 シュート率

1 A 80 69

上2 B 78 72

3 C 78 73 位

4 D 77 85

群5 E 75 62

6 F 73 75

7 G 67 61

中8 H 62 70

9 I 62 82 位

10 J 60 なし

群11 K 60 なし

12 L 58 56

13 M 57 なし

下14 N 48 52

15 。 47 59 位

16 p 46 66

群17 Q 40 47

18 R 32 58

めに,ランキング決定の際にはほとんど考慮、して

いない。

条件E は実力的に差がある者との競争であるか

ら被験者18 名のラングづけを行なった結果から,

表 3 に示すように,対戦相手を H 立のA と10 位の

J, 2位のB と11 位の K, 3位の C と12 位の L,

以下同様に 9位の I と18 位のR とした。

実験者は「2人で競争で、す。なるべくお互いを

負かすようにしてください」と全員に伝えたのち

対戦相手を発表L,試行を開始した。試行順はAとJではA が 5試行行ない,続いて Jが 5試行,A が残りの 5試行行ない, Jが残りの 5試行を行

なった。

条件直は実力が接近している者同志の競争であ

るから,条件Hと同様にランキングに従い, 1位

のA と2位の B, 3位の C と4位の D, 5位の E

と6位の F ,以下同様に17 位のQと18 位のR が対

戦した。対戦者の試行JI原序も条件E と同様である。

条件IVは4 ~5人のグル{プを編成し,他のグ

ループと競争する,いわゆる協力・協同作業であ

る。グル{ピングは表3に示してあるが, 18 人の

ランキングを加味してほぼ等質となるように 4 つ

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22ー

表3 実験条件別対戦相手とグループ。編成

()内数字はランキング

い 競争相手およびグノレーピソグ

条 A(l) J(l同 D(4) MU3) G(7トーP(l6)

件 B(2) KU!) E(5) N(14) H(8)-Q(17)

JI C(3) LU2) F(6) OU日 1(9 ト R(l同

条 A(l) B(2) G(7) H(8) M(13)-N(14)

件 C (3) D(4) I (9) J (1日 0 日目-PU日][ E(5)-F(6) KU1)-L(l2) Q(l司-RU田

条 Aグノレープ…・・・A(l) H(B) I (日) K(ll) RU日

イ牛Bグノレープ… ・B(2) G(7) Ll12) P(l日

C グループ… • C (3) F (6) Ml13) 0 側IV D グノレープ-…・D(4) E(5) J (10) Nll4) Q(l司

のグループを編成した。成員が4 人のグループに

対しては全員のほぼ平均点にあたる65 点を 1人分

の持点として与えた。

実験者は「グループ対抗です。他のグループに

負けないよう頑張ってくださし、。勝ったクーループ

には賞品がありますj と伝え, 4 つのグループが

同時に別々のバスケット(ゴール)を使って試行

を開始した。試行順や交代方法は各グループが自

由に決定して実施した。

要求水準の類型化

研究結果の考察のための手順として,要求水準

決定の際の反応傾向のパターンを決める必要が生

じた。そこで, 100 名の被験者が実施した第 1 回

目実験の結果を集計整理して,戸ヅターや津田通

夫の分類を参考にして要求水準の型を決定L た。

まず,各人の各試行の成功本数を Actual Goal

から A G とし,次試行の要求水準を Level of

Aspiration から LA とする。 LA と A G の差を目

標差(GD ニ Goal Discrepancy Score )あるいは

D 得点と L て算出する。これは前回の成功失敗感

を次回の要求水準にどのように反映させるかとい

う反応状態である。 L、いかえると, D 得点、がプラ

スであるということは前回の成績よりも次回の要

求水準が高いということであり, D 得点、がマイナ

スであるということは前回の成績よりも低い要求

水準を次回にたてるということであるのまた,同

一試行の L A とAG の差である達成差(AD=A ト

tainment Discrepancy Socre )は零またはプラスの

時を成功,マイナスの時を失敗とみなすことがで

きることから,前回の要求水準に到達した後に要

求水準が低下したり,失敗後に要求水準が上昇ーし

たりすることを異常反応という。ロッターはこの

異常反応の頻数は被験者の適応状態やパーソナリ

ティとの関連を考える際に最も重要であるといっ

ている。

要求水準の全体的傾向と D 得点の高さ,要求水

準(目標)の変更度数,異常反応の数などを総合し

て,ロッターは次のような 9 つのタイプに分類5)

している。

No. 1. Low Positive D-Scor ℃ Patt 巴rn.

No. 2. Low Negative or Very Slightly Positive

D-Score Pattern.

No. 3. Medium High D ・Score.

No. 4. Achievement Followers.

No. 5. The Step Pattern.

No. 6. Very High Positive D-Score Pattern.

No. 7. High Negative D-Score Pattern.

No. 8. Rigid Pattern.

No. 9. ’The Confused or Breakdown Pattern.

この分類を参考にして津田通夫は次の 8 つに分

類6)している O 1. 安定型, 2. 慎重型, 3. 積極型,

4. 実績追従型, 5. 目標執着型, 6. 野心型ないし夢

想型, 7. 消極型ないし防御型, 8. 混乱型ないし無

方針型。

本研究の結果はロッターや津田の実験とは対象

や方法が異なるために,数値もかなり違い,異常

反応の数も少なく,そのままあてはめることはで

きなかったO そこで両者の分類を参考にしながら,

以下に示すような観点で9 つの型を決定した。

1. 安定型

D 得点の平均がプラス方向で0.6 ~1. 5で,成功

・失敗に対して適度に反応する。マイナスのD 得

点は 1回以下で,成功後の下降や失敗後の上昇と

いう異常反応はほとんどない。

2. 慎重型

安定型とよく似ているがD 得点の平均がプラス

方向で低く 0.1 ~0.5 であり,マイナスのD 得点を

2~3回含むことや失敗に敏感である点などが異

なる。異常反応も 1回以下である。

5) Rotter, J.B. “Level of Aspiration as a Method

of Studying Personality: IV. Th 巴 Analysis of Pat 司

terns of Response". The J. of Social Psychology.

pp. 165 ~171. (1945)

6)関計夫編著「要求水準の研究」 p. 118. 津田通夫

主要求水準と適応、三金子書房(1970)

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3. 積 極 型

D 得点、がかなり高く 1. 6~2.5 で,マイナスのD

得点はほとんどない。異常反応もあまりみられな

し、。

4. 実績追従型

D 得点は零に近くほぼ一定であり,異常反応も

少ないが,自己のたてた目標に執着せず,前回の

成績に応じて目標がめまぐるしく変わるので,要

求水準の変更度数がひじように多い。

5. 目標執着型

これはいわゆる下降拒否型であり,成功後の目

標は上昇するが失敗後は目標を変えようとしない

者である。したがって, D 得点、は比較的大きし

異常反応もいくつかみられ,要求水準の変更度数

は少なし、。

6. 野心型

成績の変動を考慮にいれてはいるが,高い目標

をもっている。 D 得点の平均が2.6 ~4.0 と高く,

たとえ実力がなくても自己の成就水準を無視した

要求水準をたてる。したがって,失敗後の上昇と

いう異常反応もいくつか認められる。

7. 消極型

D 得点はまれにプラスがあっても平均すると O

~- 1. 0 で,失敗するとすぐ目標を下げるにもか

かわらず,成功してもすぐ目標を上げることはな

いといった目標を実力より低く見積る。

8. 無方針型

要求水準の変更が頻繁に行なわれるのは4 の実

績追従型と似ているが,異常反応が2~3固と多

いのが特徴である。目標設定が前回の成績と何の

- 23一

関係も認められない,いわゆるでたらめな要求水

準をたてる者である。

9. 停滞型

前回の成績がどうであろうと要求水準がほとん

ど一定で,変更度が Oか 1回である。 D 得点も正

負にかかわらず大きし異常反応もみられる。

以上,要求水準のたてかたを 9 つの型に分類じ

たが,ロッターは適応、の度合でみると,好ましい

ものからの順序であるといっている。すなわち,

1 の安定型, 2 の慎重型, 3 の積極型は自己の目

標をある程度設定しながらも,前回の成績の変動

を考慮、にいれてプラスの要求水準をたてる,いわ

ゆる適応型と考えられている。また, 4 の実績追

従型と 5の目標執着型は適応と不適応の中間的な

タイプであり,大学生には比較的多いといわれて

いる。野心型,消極型,無方針型,停滞型はあま

り好ましい適応反応とはいえず,むしろ学習や練

習の場では問題者になりかねないのである。

結果と考察

I 要求水準の型

要求水準の類型化に従って各被験者の実験結果

を分類したものが表4 である。

総体的にみると,安定型が27.6% と最も多〈,

次いで慎重型(15. 8% ),実績追従型(13. 5% ),積

極型(12. 3% )のJI 債である。野心型,無方針型も

少しあるが,その他の型はごくわずかで,全体的

には積極性も向上心もある現実的な目標設定をし

ているといえる。

実験 I では安定型が 3 割を占め,慎重型と積極

表4 実験条件別にみた要求水準の型 (数字は人数)

同::?と実 験 TI

実 験 I 計

条件I (%〕 条件E (%) 条件E (%〕 条件IV (%) (%〕

1 安定型 30 5 (27. 7〕 2 (11. 1) 6 (33. 3) 5 (27. 7) 48 (27. 6)

2 慎重型 13 3 (16. 6) 6 (33. 3) 3 (16. 6) 2 (11.1) 27 (15. 8)

3 積極型 14 1 C 5. 5) 2 (11. 1) 3 (16. 6) 1 C 5. 5〕 21 (12. 3)

4 実績追従型 8 6 (33. 3〕 5 (27. 7) 1 C 5. 5) 3 (16. 6〕 23 (13. 5〕

5 目標執着型 9 。 2 (11.1) 1 C 5. 5) 1 C 5. 5) 13 C 7.6)

6 野心型 4 。 。 。 。 4 C 2. 3)

7 消極型 8 2 (11. 1〕 1 C 5. 5) 2 (11. 1〕 4 (21. 7) 11 C 9. s〕

8 無方針型 8 。 。 。 。 s C 4.7 〕

9 停滞型 6 1 C 5. 5) 。 2 (11. 1) 2 (11. 1) 11 C 6. 4)

計 100 18 18 18 18 172

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表5 矢田部ギルフォード性格検査の類型別にみた要求水準の型

ミ要ミ求こ水ご二準二の一一~タ一~イ一~~プ一~一一 一一一一一Y一G一一の一性一格一類一型N 一一A B C D E

A•A’ A" AB B ・B' AC AD D D ’ AE

1 安 定 型 30 3 9 5 4 3 1 1 4

2 慎 重 型 13 2 1 4 1 3 2

3 積 極 型 14 1 1 3 2 2 4 1

4 実績追従型 8 1 2 1 2 1 1

5 目標執着型 9 1 2 1 1 3 1

6 野 ,i:;, 型 4 1 3

7 消 極 型 8 1 1 1 1 1 1 1 1

8 無 方 金↑ 型 8 1 2 2 2 1

9 停 滞 型 6 1 1 3 1

11 14 21 14 4 8 日 16 4 βR 、 言「 100

25 35 4 32 4

表6 内田クレペリン精神検査の類型別にみた要求水準の型

1 2 3-1 3 ld

-要可求ミ水ミ準、:~こU~ イK~ハベカ\精\父ら預神~型健示康必\

お 神 ’明 じTご 経 ーっ

や質

朗くり台、

型 型 型 型

1 安 定 型 30 6 1

2 慎 重 型 13 1

3 積 極 型 14 1 1 2

4 実績追従型 8 1 1

5 目標執着型 9 1

6 野 ,C,, 型 4 1

7 1肖 極 型 8 1 1 1

8 無 方 針 型 8 2

9 停 f借 型 6 1

A 日 計 100 11 3 2 6

型を合わせるいわゆる適応型は過半数に達してい

る。また,実験 Iは対象者が 100 名いるので,す

べての型に分布している。

一方の実験E は対象者がわずか18 名であるため

にやや異なる結果がでている。それは積極型と実

績追従型の数が逆転したことと,野心型と無方針

型が実験E のバスケットボーノレ選手にはいないこ

とで、ある。

IT パーソナリテイと要求水準

ノ4 ーソナリティと要求水準に関しては,実験E

は被験者が少なく全体的な考察が困難であるため

3-2 4 5 6 7 8 9 10

5

2

1

1

1

2

1

13

理敢型地 あ

安富的内分

己顕自粘 精神健康度

道粘り型存さり-っ

裂 着刀型三 高 1 中耳下型 型 型

9 3 6 11 9 9 1

1 4 1 2 2 1 5 5 2

2 3 3 2 5 3 6

1 2 2 2 3 3

1 2 3 1 3 2 4

2 1 1 3

1 1 2 1 6 1

1 2 1 1 4 1 2

2 2 3 1 2

5 22 1 13 10 2 12 25 35 33 7 。

に,おもに実験 Iの結果について考察することに

する。

(1) 矢田部ギルフォードの性格類型と要求水準

矢田部ギルフォード(YG)の性格類型と要求

水準の型について表 5 でみると,全体の25% にあ

たる A 類型の者はそのノ4 ーソナリティ特性を反映

して,要求水準の安定型が約半数となり,他の型

の者より適応型が多い。

B 類型の者は全体で最も多く, AB 型が21%,

その他の B 類が14% となっている。この型の者も

安定型,積極型が多いが,それとともに反応型と

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してやや問題のある野心型,無方針型,停滞型が

他より多い。また,要求水準のすべての型にわた

って分布していることも B類型の特徴の 1つであ

る。

D 類型の者は安定型,慎重型,積極型の適応反

応を示す型と実績追従型,目標執着型が多い。い

わゆるスポーツマ γ的性格の代表とされている D

型の者がこのような適応反応を示すのは当然の結

果であると考えられるが,一方において,実績追

従や目標執着など,頑固で、融通がきかないタイプ

もみられる。また,活動的,攻撃的なこの性格類

型の特徴から考えて,野心型がいないことはやや

意外であった。

C 類型, E 類型の者に関しては,被験者が少な

くある種の傾向を指摘するにはいたらないが, C

類と E 類が全く異なる反応傾向を示していること

は明白であり,やはりパーソナリティと要求水準

のたてかたは深い関連があるといえよう。

(2) 内田クレペリンの人がら類型と要求水準

内田グレペリン (UK)の人がらと要求水準の

型について表6 でみると,おだやか型,温和型,

地道粘り型,粘着型に要求水準の安定型が多い。

さらに,温和型,地道粘り型とともに内的安定型

の者は適応型が多くなっている。これらの人がら

は精神の安定性,積極性を適度にもちあわせてい

る面で共通点があるので当然の結果だといえる。

以上の人がら以外で被験者が比較的多い分裂型

の者は,さまざまな要求水準の型を示している。

そして,反応傾向としては不適応ともいえる無方

針型と停滞型がこの分裂型と自己顕示型に片寄っ

ていることはみのがせなし、。

(3) 精神健康度と要求水準

内田クレペリン精神検査による精神健康度と要

求水準の型について表6 でみると,被験者の精神J

健康度は高が25% ,中上が35% となっており,全

体的に高いといえる。特に要求水準が安定,慎重,

積極の適応反応型は他の型と比べて精神健康度が

高く,両者聞の関連が高いといえる。

また,要求水準設定場面の反応傾向で適応に問

題がある型には精神健康度が高い者より,中上~

中下の者が多いことも結果から明らかである。

さらにここで注目されるのは,全体のわずか15

%にすぎない要求水準の無方針型と停滞型の者が,

- 25 一

分裂型と自己顕示型であり,さらに精神健康度の

中下の者の半数がこの 2つの型であることである。

学習や練習の指導にあたる場合など,特に留意す

べき問題であろう。

ill 運動種目と要求水準

実験 I の被験者 100 名を運動種目別に分け,要

求水準の型と高さ,およびシュート成功率につい

て考察することにする。

まず,要求水準の型についてみると,バスケッ

トボール,バレーボール,水泳,テニス,体操,

卓球,バドミントンの選手は適応反応型が多い。

いずれの運動種目においても被験者の数に応じて

いろいろな型に分散しているが,陸上競技と剣道

の選手には適応型の者が全くいないとし、う結果が

でている。この両者は実験したバスケットボール

のシューティングには縁遠い運動種目であるが,

水泳,ダンス,体操などと比較して特異な反応を

示していることを考えると,偶然の結果であるの

か両種目経験者の特性であるのか疑問が残る点で

ある。

球技種目とそれ以外の種目を比較すると,顕著

な差異はみられないが,球技選手は実績追従型,

消極型がやや少ない。また, 目標執着型がノミスケ

ットボ{ル選手に多いことについては,本実験の

距離からのシュートはディフェンスがし、ない,い

わゆるノーマークの状態であればイージ{シュー

トとみなされているものであり,普段から高い確

率を要求されているために, 10 割の目標を崩さな

い者が数人いたからで、あると説明できる。

表7,図2に示すシュート成功率(AG)から

運動種目別の成績をみると,実験がパスケ v トボ

ールのシューティングであったために,当然,バ

スケットボ{ルが第 1位であり,次いで卓球,バ

ドミントン,バレーボ{ノレの JI 買である。このよう

に球技系の成績が優れているのは,一般に学習効

果の転移として知られる現象と考えられる。

要求水準( LA )は卓球,バスケットボール,

バドミントンの順に高く,体操,陸上競技,剣道

は低い。また, AG とLA の差である D 得点につ

いて図2でみると,実線と点線の差が大きいほど

GD (D得点)が大であることになる。この点か

らみれば卓球,バレーボール,水泳などは要求水

準のたてかたが積極的で、あり,ダンス,体操,陸

上競技,剣道などはやや消極的であるといえる。

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- 26 一

IV 動機づけと要求水準

この項は競争と協同の動機づけにより要求水準

や成功本数がどのように影響を受けるかをみよう

表7 運動種目別要求水準の型

ミ要三求二\水二準\タ二の\一イ一ご7-----一ク\一ラ\一ブ\一名1 一_N「一\

バスケッ ハレー水泳 テニス

トボーノレ ボール

21 18 14 12

1 安 定 型 4 6 7 4

2 慎 重 型 3 4 3

3 積 極 型 $ 3 2

4 実績追従型 2 2

5 目標執着型 3 1 1

6 野 ,t,, 型 1 1

7 i自 極 型 2 2 1

8 無方針型 1 1 2

9 停 滞 型 1 2 1

A. G. 6. 6 5. 3 4.7 5.0

L. A. 7.3 6. 3 5. 9 6.2

G. D. 1. 1 1. 1 1. 7 1. 1

とした実験E の結果についての考察である。

(1) 実験条件別にみた要求水準

表8 に示した各人の要求水準の型で明らかなよ

ダンス 体操 卓球 陸競 上技ノミドミ

剣道 計γ トγ

9 8 6 6 3 3 100

2 4 2 1 30

1 2 13

一1 2 1 14

1 1 2 8

1 1 1 1 9

1 1 4

3 8

1 2 1 8

2 6

5.1 4.3 5.8 4.3 5.4 4.0 5. 3

5.9 4.7 7. 7 4.9 7.2 4.7 6.4

0. 7 1. 2 2.0 0.8 1. 7 0.7 1. 2

表 8 パスケットボール選手のパーソナリティと実験条件別要求水準の型

u K の 震康神度 要実験求水I準の実験 E の要求水準 要求水準の型の

仮名y G の性格類型 人がら類型 条件I 条件E 条件E 条件町 変化数 傾 向

A A B 10 中上 8 7 2 2 7 3 やや消極的

B A 10 両 1 1 2 1 5 3 ほぼ安定

C A B 3 2 中上 7 4 4 7 7 2 やや消極的

D A B 5 中上 5 4 4 4 4 2 常に実績追従

E D' 5 中 2 7 7 5 7 3 やや消極的

F A B 7 中上 2 1 1 1 1 2 安 定

G B’ 9 中下 9 9 5 9 9 2 常に停滞

H D’ 1 中 1 1 5 3 1 3 ほぼ安定

I D’ 4 中 5 4 1 1 4 3 やや不定

J A B 10 中 なし 2 2 2 1 2 安 定

K AC 10 中上 なし 1 2 1 2 2 安 定

L A D 4 高 3 1 2 1 1 3 安 定

M D’ 3-ld 中上 なし 2 2 7 7 2 消極的

N D 7 高 4 4 4 1 1 2 ほぼ安定

。 AC 3 ld 中上 4 4 4 2 9 3 やや不定

p A ” 3 2 高 1 2 4 9 2 4 不 定

Q A B 3 ld 90 3 4 3 3 4 2 ほぼ安定

R B’ 7 両 3 3 3 3 3 。 常に積極的

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- 27 ー

すぐに消極型に転じてしまう A, Q, E の3 名は,

今後,自分の実力を維持し向上させるために態度

の変容が望まれる。

図3に示すように,動機づけを行なうと要求水

準は全体的にやや上昇するが,その上昇や変化の

しかたは動機づけの方法や被験者の実力(群)に

より異なる。この群は条件 Iの結果からランクづ

けをした際に便宜的に 6 名ずつに分け,それぞれ

上位群,中位群,下位群としたものである。

上位群は条件 I, N の要求水準がやや高いが,

下位群はほとんど変化を示さず, IL ill, N は全

く変化していなし、。これは両群とも自分の実力を

認識しているために,動機づけをしてもあまり効

果があがらないと推測できる。しかし,中位群は

条件E が87.2 点と他の条件を大きく上回っており,

全体の中でも最高の要求水準となっている。

このように,上位,下位の両群は対戦相手の実

力のいかんにかかわらず要求水準はあまり変化し

ないが,中位群は自分より実力が低い者と競争す

る場合に絶対に負けたくないという感情となって

あらわれ,動機づけが強烈な心理的作用として働

いているとみなすことができる。

ぃ、

AI

--げ/

一- A.G. (5.3)

--- L.A. (6.4)

。。ワanb

b

s

q

つd

ワμ

1

1

_.l 一ー」一一_J_一一J一一一!__ダ体卓|笠公益'°

土毛 主

競 FJ主ン

フー寸丈バレーボール

パスケyト

ドlレ

F

J

成功本数〆運

/却I種

道])]( 1'1 長スス汚℃

(2) 実験条件別にみた成功本数

動機づけが実際のシュート成功率に及ぼす影響

について表9 でみると,全体的に成績が向上して

いる。また,初回ランクと全体ラ γクでもわかる

ように,動機づけをすると要求水準のみならず実

際の成績もかなり変動,変化するといえる。

条件別にみると,条件W のシュート率は68. 7と

特に高く,条件 I の60.1 をはるかに上回っている。

この傾向は例外なくすべての群に共通していえる。

いし、かえると,動機づけをしない場合や競争の動

機づけよりも,協同の動機づけによる場合の方が

実際のシュート成功率ははるかに高いということ

である。これはやはり,チームゲームであるバス

ケットボールの特性からくるものと考えられるが,

被験者の多くが気が弱く,圧迫されそうな雰囲気

に耐えぬく力が不足しており,いわゆる根性不足

だと酷評できょう。

図4 で群別にジュート率の変化をみると,上位

群では条件E の実力差がある者との対戦成績が最

低で,中位群では条件E の実力が接近している者

との対戦成績が低くなっている。このことは対戦

相手の実力の程度に影響されることを意味してお

うに,動機づけをするとほとんどの者は要求水準

の反応傾向に変化があらわれる。その変化のしか

たは個人により異なるが,多くの者は自分のパタ

{ンといったものがある0 \,、L、かえると,全条件

にわたって要求水準の型が2種類以下である者が

過半数を占め,それ以外の者でもほとんどが2~

3回同じ型になっている。

顕著な反応を示した者は多く,被験者R はいか

なる条件下にあっても積極型であり, D は実績追

従型, F は安定型, G は停滞型とほぼ一定の反応

傾向をもっている。

さらに実験E のみについていえば, 2つのパタ

ーンの者が被験者A, C, E, G, I, J, K,

L, N, Qと10 名もおり,各人のパーソナリティ

を反映したパターンがみいだせそうである。この

うち適応反応の型の中での変化は問題はなく,対

戦相手の実力の程度に影響されて多少変化してい

るといえよう。しかしながら,望ましい適応を示

す状態にありながらも,わずかな動機づけにより

運動種目別要求水準図2

82.8 ,"' 81.5 32.5

凪\可ごと1ν~ーーで:上位群I ' I生 L、67.7 ,〆@,.中位'! ff

65.3/ 'v’

" ト0 - - -•-ー- --0 -一ーー@ー・下位群63.0 A

V .Q 、 61.0

go-

80

70

60

III N

50

す,,,.- 40-fず

JI

条件別にみた各群の要求水準

I

図3

会ノ、

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- 2 8 -

k 上位群には下位群の者と対戦した場合油断す

る者があり,中位群の者の多くは接戦に弱く,び

びりと表現されるような現象があるのであろう。

表10 でグループ別の要求水準と成功本数をみる

と,要求水準はAグループとDグループの 5人編

成のグループが高く,成員の数も動機づけの一種

として作用 Lたようである。しかしながら,意欲

に反して実績はあがらず,成功本数は C グループ

が非常に高く, B グループが第 2位であり, A グ

ループと D クールーフ。は劣っている。

A ク令ループはH やR のように自分の実力より 15

点以上も高い要求水準をたてる者がおり,全体的

表9 パスケットボール選手の要求水準と成功本数

初ラ仮

条 件 工 条 件 II 条 件 ]I[ 条 件 IV 全 体 全ヲ、J L A L A L A L A 、J

回ク 名 L A A G の L A A G の L A A G の L A A G の L A A G 体ク型 型 型 型

1 A 80 80 7 72 69 2 78 74 2 79 79 7 77. 2 75. 6 4

2 B 85 78 1 89 87 2 95 89 1 88 86 5 89. 3 85. 0 1

3 C 89 78 4 74 70 4 76 76 7 78 82 7 79. 3 76. 5 3

4 D 87 77 4 90 81 4 86 78 4 95 89 4 89. 5 81. 3 2

5 E 72 75 7 66 65 7 69 82 5 67 72 7 68. 5 71. 0 6

6 F 83 73 1 83 70 1 85 73 1 88 81 1 85. 0 74. 3 5

7 G 40 67 9 100 62 5 46 67 9 55 73 9 60.3 67.3 8

8 H 73 62 1 82 63 5 85 68 3 70 56 1 77. 5 62.3 10

9 I 72 62 4 87 74 1 73 58 1 92 83 4 81. 3 69. 3 7

10 J 68 60 2 76 70 2 75 64 2 82 69 1 75. 3 65. 8 9

11 K 70 60 1 56 54 2 54 45 1 65 59 2 61. 4 54. 5 14

12 L 69 58 1 66 58 2 73 61 1 81 68 1 72.2 61. 3 11

13 M 68 57 2 54 43 2 62 69 7 52 56 7 59. 0 56. 3 13

14 N 58 48 4 65 48 4 65 50 1 68 55 1 64. 0 50.3 15

15 。 58 47 4 63 55 4 56 54 2 60 77 9 53. 0 58. 3 12

16 p 52 46 2 51 33 4 50 41 9 53 51 2 51. 5 42.8 18

17 Q 80 40 4 62 42 3 64 48 3 62 48 4 67. 0 44. 5 17

18 R 62 32 3 71 54 3 69 52 3 71 54 3 68. 3 48.0 16

表10 クツレーア。別にみた要求水準と成功本数

·~ A グノレープ B グノレープ C グノレープ D グノレープ

{(反ランク名) L A A G 仮(ランク名〕 L A A G 仮(ランク名〕 L A A G 仮(ラ,, !1名) L A A G

1 A (1) 79 79 B (2) 88 86 C (3) 78 82 D (4) 95 89

2 日(8) 70 56 G (7) 55 73 F (6) 88 81 E (5) 67 72

3 I (9) 92 83 L (I 四 81 68 M (13) 52 56 J H日 82 69

4 K (11) 65 59 p (1 日 53 51 0 (15) 60 77 N (I 却 68 55

5 R U日 71 54 持点 65 持点 65 Q (17) 62 48

T 377 331 277 343 278 361 375 333

X 75. 4 66. 2 69. 2 68. 6 69. 5 72.2 74. 8 66. 6

S D 9.44 12. 25 15.47 11. 36 14.24 12. 09 14. 26

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90

に砂J主;乙ノ;」二位m,

---- - 1JJ 位m,63.5 61.5 _ι 6 0 . 5 _.,- "

・- - -ー----- 56.8 52.3 ,,・-ード{立群

45. 8 , '_ .....戸,

41.8 -’・’’「ー

I JI 皿 N

図4 条件別にみた各群の成功本数

にもやや高望みしすぎている。この傾向はD グル

ープも同様で, JやQのD 得点はひじように高い。

B グループではG の消極性が目立つほかは安定

した要求水準で、あり,成績も 1人分のノルマとも

いえる65 点を全体的に上回っている。

C グ、ループは上位の 2 名が安定した力を発揮し

てグループに貢献した。そしてクゃループ内で最も

ランクの低い O が77 点と自己最高点をあげたこと

が直接優勝につながったといえる。

要 約

要求水準とパーソナリティの関連および動機づ

けによる要求水準の変化を検討するために,パス

ケットボールのシューティングの実験を行なった。

方法は10 投ずつ10 試行で,各試行ごとの要求水準

と成功本数を整理して要求水準の型を決定した。

また,パーソナリティ把握のために矢田部ギルフ

ォード性格検査と内田グレペリン精神検査を実施

した。

実験 I の被験者は大学生の女子運動選手 100 名

である。実験E では大学生の女子バスケットボー

ル選手18 名を対象として,動機づけを行なわない

場合(条件 I) と,実力的に差がある者との競争

(条件Il),実力が接近している者との競争(条件

III),グループ成員の協同による他クゃループとの競

争(条件N )の動機づけを行なった。

以上の実験結果を要約すると以下のようである。

1. 要求水準の型では安定型が27.6% と最も多く,

次いで慎重型,実績追従型,積極型の順となり,

全体的には向上心や積極性もあり,一応現実的な

目標設定をする,いわゆる適応型が過半数を占め

ている。

-29-

2. パーソナリティと要求水準の関連は,矢田部

ギルフォード性格検査のA 型には安定型が多く,

D 型には安定型,慎重型,積極型,目標執着型の

者が多い。また,内田クレペリン精神検査ではお

だやか型,温和型,地道粘り型,粘着型の人がら

に安定型の者が多し、。

3. 運動種目別に要求水準をみると,卓球,バレ

ーボール,水泳などの選手が積極的であり,ダン

ス,体操,陸上競技,剣道の選手はやや消極的で

ある。

4. 動機づけをすると 8 割以上の者は要求水準の

型が変化するが,その変化のしかたは動機づけの

方法(条件)により異なる。しかしながら,多く

の者は自分のノミタ{ンといったものがあり,それ

ぞれのパーソナリティ特性を反映している。

5. 動機づけをすると要求水準は全体的にやや上

昇するが,動機づけの方法や被験者の実力(群)

によってその度合が異なる。条件別にみると上位

群では条件 I とN で,中位群では E とN で要求水

準が高くなっており,下位群ではIl, III, Nで全

く変化がみられない。

6. 実際のシュート成功率をみると,動機づけを

しないものや競争の動機づけの場合よりも協同の

動機づけの場合がはるかに高い結果となり,要求

水準とはやや異なる傾向である。

7. 実力的に差がある者同志の競争(条件Il)と

実力が接近している者同志の競争(条件直)の要

求水準を比較すると,上位群,下位群はあまり差

がみられない。しかし,中位群では条件E の要求

水準がE より高く,競争中目手の実力の程度に影響

されることがわかる。しかしながら,成功本数で

みると上位群と下位群は条件E がE よりも好成績

となっており,中位群で、は逆に条件直は最低の成

績である。

以上のように,要求水準設定場面の反応傾向は

パーソナリティ特性と深い関連があることがわか

り,ロッターらの学説を肯定できる。また,本研

究で対象とした運動選手の多くは積極性も向上心

もある現実的な要求水準をたてるといえる。そし

て競争や協同の動機づけをすると要求水準が変化

することも実験により明らかである。

今後,さらに実験課題を変化させて研究するこ

とにより,要求水準を適度に上昇させ学習意欲を

高めるために有効な動機づけの方法を検討したい。

Page 13: 要求水準に関する研究 - 天理大学...the personality test forms of “Yatabe-Guilford ”and “U chida-Kraepelin. ”As the experimental task each subject made 10 trials

- 30 ー

参考文献

(引用文献以外のもの)

1. 牛島義友他編,「教育心理学新辞典J金子書房,

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2. Gould, R. & Kaplan, N. “The Relationship of

“Level of Aspiration" to Academic and Persona-

lity -Factors. ”J. of Soc. Pcyd 叫 . Vol. 11, No. 1,

pp. 31 ~40, 1940.

3. Smith, C. H.,“Influence of Athletic Success and

Failure on the Level of Aspiration ”. Research

Quarterly. Vol. 20, No. 2, pp. 196 ~208. 1949

4. J.W. ムーア著,松田岩男監訳,「スポーツコーチ

の心理学」大修館 1973

5. 鷹野健次他編著「休育心理学研究J杏林書|先

1972

6. 松田岩男編「運動心理学入門」大修館 1976

7. 安田昭子「運動選手のパーソナリティと要求水準

について」,体育の科学 Vol. 26, No. 11, pp. 833 ~

838. 体育の科学社 1976