鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発 …...論文 kit progress 24...

10
題目 D e v e l o p m e n t a n d E v a l u a t i o n o f I n t r o d u c t o r y E d u c a t i o n a l M a t e r i a l s f o r E m b e d d e d S y s t e m s u s i n g T o y T r a i n T a k a s h i K A W A N A M I , S h u n p e i K A J I , D a i s u k e T A K A G O , R y o k o H A Y A S H I 組込みシステムはハードウェアからソフトウェアまで幅広い領域を学ぶ必要がある ため,従来,専門家でなければ開発は難しいとされていた.しかしながら,近年では Arduino など高度な専門知識を必要としないオープンソースハードウェアが誕生し, 誰もが組込みシステムの開発をはじめることができるようになってきている.本研究 では,主に中高生以上のプログラミング未経験者を対象とし,Arduino を用いた組込 みシステム入門教材の開発を行った.この教材はプログラミング入門から始まり,最 終的にはマイコンで鉄道玩具であるプラレールを制御する.本稿は教材の概要とこれ までの事例,その評価を論じる. キーワード:組込みシステム,教材開発,鉄道玩具 Development of embedded systems requires wide range of knowledge from hardware to software so that embedded systems were regarded as the specialist's work before. However, recent open source hardware systems such as Arduino do not require advanced skill, thus anyone can start to make simple embedded systems. This work deals with a educational materials using Arduino for junior high school students or over, inexperienced for programing. This material begins from the introduction of programing, ends to control ''plarail'', a kind of toy train, using micro-computer. This paper describes an abstract of the educational materials, case studies recently, and an evaluation. Keywords: Embedded Systems, Educational Materials, Toy Train 組込みシステムの開発は,これまでハードウェアとソフトウェアの両方を理解した専門家が行うもの であった.しかしながら, Arduino 1) などの比較的容易に利用可能なオープンソースハードウェアの登場 や,3D プリンタ等の普及によりメイカーズムーブメントが到来し,誰でも組込みシステムを用いたも のづくりができる時代に突入している.かつては玄人の趣味と考えられていた電子工作の注目度も高ま り,現在では非技術者である芸術家が自らの作品に組み込んだり,親子で楽しむなど敷居が下がってき ており,ハルロック 2) などの電子工作を題材とした漫画も人気を博しているほどである. 一方,小学生から高校生を対象とした ICTInformation and Communications Technology)教育も 近年盛んに開講されている.例えば,この教育分野に積極的に取り組んでいるプログラミング塾 Life is Tech!では 4 年間で中高生 10,000 人以上の生徒が受講しており,この分野の注目度の高さを確認でき 21 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価 KIT Progress 24

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Page 1: 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発 …...論文 KIT Progress 24 題目 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

論文 KIT Progress №24

題目

鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価 Development and Evaluation of Introductory Educational Materials

for Embedded Systems using Toy Train

河並 崇,鍛冶 俊平,鷹合 大輔,林 亮子 Takashi KAWANAMI, Shunpei KAJI, Daisuke TAKAGO, Ryoko HAYASHI

組込みシステムはハードウェアからソフトウェアまで幅広い領域を学ぶ必要がある

ため,従来,専門家でなければ開発は難しいとされていた.しかしながら,近年では

Arduino など高度な専門知識を必要としないオープンソースハードウェアが誕生し,

誰もが組込みシステムの開発をはじめることができるようになってきている.本研究

では,主に中高生以上のプログラミング未経験者を対象とし,Arduino を用いた組込

みシステム入門教材の開発を行った.この教材はプログラミング入門から始まり,最

終的にはマイコンで鉄道玩具であるプラレールを制御する.本稿は教材の概要とこれ

までの事例,その評価を論じる. キーワード:組込みシステム,教材開発,鉄道玩具

Development of embedded systems requires wide range of knowledge

from hardware to software so that embedded systems were regarded as the specialist's work before. However, recent open source hardware systems such as Arduino do not require advanced skill, thus anyone can start to make simple embedded systems. This work deals with a educational materials using Arduino for junior high school students or over, inexperienced for programing. This material begins from the introduction of programing, ends to control ''plarail'', a kind of toy train, using micro-computer. This paper describes an abstract of the educational materials, case studies recently, and an evaluation. Keywords: Embedded Systems, Educational Materials, Toy Train

1.緒言

組込みシステムの開発は,これまでハードウェアとソフトウェアの両方を理解した専門家が行うもの

であった.しかしながら,Arduino1)などの比較的容易に利用可能なオープンソースハードウェアの登場

や,3D プリンタ等の普及によりメイカーズムーブメントが到来し,誰でも組込みシステムを用いたも

のづくりができる時代に突入している.かつては玄人の趣味と考えられていた電子工作の注目度も高ま

り,現在では非技術者である芸術家が自らの作品に組み込んだり,親子で楽しむなど敷居が下がってき

ており,ハルロック 2)などの電子工作を題材とした漫画も人気を博しているほどである. 一方,小学生から高校生を対象とした ICT(Information and Communications Technology)教育も

近年盛んに開講されている.例えば,この教育分野に積極的に取り組んでいるプログラミング塾 Life is Tech!では 4 年間で中高生 10,000 人以上の生徒が受講しており,この分野の注目度の高さを確認でき

21鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

KIT Progress №24

Page 2: 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発 …...論文 KIT Progress 24 題目 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

題目

る 3).また,イギリスでは政府主導で公立学校のカリキュラムが改訂され,5 歳~7 歳でプログラミング

教育を開始し,14 歳~16 歳ではコンピュータサイエンスまでが教育領域となっている 4).さらに,日本

国内においても義務教育段階からのプログラミング教育の推進が,政府の成長戦略素案として挙げられ

ており 5),この分野の教材開発の需要が高まっている. このようにプログラミング教育の活性化と電子工作の敷居が下がったことで,組込みシステムを若年

から学ぶことが可能となってきている.また,これらの時代背景から組込みシステムに関する教育の特

集論文なども増えてきている 6,7,8). 本稿では,中高生以上を対象としたプログラミングと電子工作を学ぶ教材開発について報告する.本

教材の特徴は,プログラミングや電子工作の理論から始めるのではなく,まずは動かすことを体験して

ものづくりの楽しさを経験させ,それをきっかけとして受講者を本格的なプログラミングやものづくり

へ誘うようにしていることである.また,実際にものを動かす体験を盛り込んだ組込みシステム入門教

育を受けることで,身近な問題に対して自分でも解決できる可能性があることを気付かせることを教育

の目的とする.本教材では題材として,株式会社タカラトミーが販売する鉄道玩具であるプラレール 9)

を用いる.その理由は以下の通りである. レール,車両共に単純な構造 視認できる程度の速さで動く 加工しやすい大きさと素材 低コスト 認知度が高く,経験者が多い 課題設定が容易(レールの組み合わせで調整可能) 以降,第 2 章で本教材の教育プログラムの概要を述べ,第 3 章で具体的な教育事例の紹介,第 4 章

にてアンケート結果の評価,第 5 章では結果に基づく考察を行い,第 6 章において全体をまとめる.

2.教育プログラムの概要

2.1 学習対象

学習対象者としては,プログラミングおよび電子工作がまったくの未経験者を想定する.本教材で用

いるマイコン Arduino は C++言語ベースでありながらも単純な構造のテキスト言語であることから,

未経験者にとって馴染みやすい.しかし,多少のタイピングの経験および少し長めの文章を構成する能

力(論理的思考力),英単語に少しでも慣れ親しみを持っていることが望ましいため,中学生以上を対象

とする.小学生を対象にする場合は,まず Scratch10)などのビジュアルプログラミング言語からプログ

ラミングの概念を学ぶことが望ましいと考える.現時点での本教材の実施は 1 日(4 時間)もしくは 2日間(8 時間)であることから,ビジュアルプログラミング言語を扱う時間はないため小学生は対象と

しない. 2.2 学習目標

本教材は Arduino を活用しプログラミング技術や電子工作技術を用いて自ら作りたい組込みシステ

ムを提案することができ,それらを実現するための学習基盤の修得を目標とする.技術的な要素として

は,Arduino は既に用意されたセンサやアクチュエータに付属する豊富なライブラリを活用し組み合わ

せて開発することが多いため,(1)サンプルプログラムを読み解く力,(2)それらを改変して活用できる力,

(3)回路図(配線イメージ)を元にブレッドボード上に回路を作成できる力,をつけることを目標とする.

なお,本稿において組込みシステムとは,コンピュータをコンピュータそのものとして利用するもので

はなく,既に何かある製品等に組込まれ機能を向上させるものとして定義する.

22 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

Page 3: 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発 …...論文 KIT Progress 24 題目 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

題目

2.3 要素技術の習得

2.3.1 プログラミング入門

プログラミングの基礎として,(1)プログラムの流れ,(2)命令(関数の利用),(3)繰り返し,(4)条件分

岐,(5)変数,を理解する.ここで,初学者はコンピュータを用いたプログラミングをいきなり経験する

とコンピュータの操作等,プログラミング以外の部分での注意を必要とすることが多いため,この学習

では料理のレシピを例にプログラミングの要素を紙と鉛筆で確認することからはじめる.料理の例の後

は,2 人一組でペアとなり,紙の指令書を用いたロボットプログラミングのロールプレイを行う. 2.3.2 Arduinoを用いた電子工作

Arduino を用いた電子工作の基礎としては,(1)LED の点滅(L チカ),(2)ブザー,(3)光センサ,(4)距離センサ(赤外線近接センサ),(5)ステッピングモータ,(6)サーボモータの制御を学ぶ.Arduino を

使用した演習はサンプルプログラムをコピーアンドペーストして,まずは「動かす」ことを学ぶ.前述

のプログラミング技術入門で学んだ内容とリンクをさせながら内容を理解する.電子工作は配線イメー

ジを,実際にブレッドボード上で構成することができることを目指す. 2.3.3 組み合わせ演習

プログラミング技術と電子工作の要素技術をベースに,センサとアクチュエータを組み合わせる演習,

身近なものを改造する演習を提示し,それを実習することで要素技術の定着をはかる.

2.4 ファシリテータの活用

大学生スタッフをファシリテータとして受講者 2~4 人に一人配置する.ファシリテータの役割は,

単純に答えを教えるのではなく,どのように考えたら良いかの指示や,場合によって一緒に考えること

を行う.受講者のタイピング速度の問題もあり最終的にはコーディングを直接手伝う場合もあるが,ア

ルゴリズム(制御手順)は受講者に考えさせるようにする. 2.5 課題および発表会

プラレールを活用した課題は,ある程度の枠組みや例はあらかじめ示すが,基本は受講者がファシリ

テータと相談し考えて実装する.この際,できるだけ受講者がやりたい事を課題に組み入れるようにす

ることで,集中力やモチベーションの向上につながると考える.最後に自らがやりたかったこととやっ

たことをデモをしながら発表し,教員が各々の成果について講評を行う.この時,取り組みで苦労した

であろう点などをピックアップして褒めることで受講者の今後の意欲を高めることを狙う.

3.事例紹介

平成 25 年度石川県高等学校文化連盟理科部秋期行事の一環として実施した「高校生のためのコンピ

ュータ応用講座(楽しい組込みシステム入門)」(以降,高校生講座)11)と,中高生を対象とした 2014 KITサマーサイエンススクール「プラレール++」(以降,中高生講座)12)を元に事例紹介を行う.前者は午

前と午後各 2 時間ずつの 1 日コースであり,後者は午前と午後各 2 時間ずつの 2 日コースとなっている

が,両者ともおおよその全体の流れは図 1の本教育プログラムの流れに示すような内容で共通している.

どちらもプログラミングの未経験者を対象とし,プログラム入門から Arduino を用いた電子工作演習,

最終的には Arduino でプラレールを制御する課題というように段階的に取り組む. 講座を行った会場には,図 2 のような応用例を展示しておき,当日学ぶ技術のゴールを明確にする

ことでモチベーションを高めやすいようにも配慮した.この応用例は動画 13)でも確認できる.

題目

る 3).また,イギリスでは政府主導で公立学校のカリキュラムが改訂され,5 歳~7 歳でプログラミング

教育を開始し,14 歳~16 歳ではコンピュータサイエンスまでが教育領域となっている 4).さらに,日本

国内においても義務教育段階からのプログラミング教育の推進が,政府の成長戦略素案として挙げられ

ており 5),この分野の教材開発の需要が高まっている. このようにプログラミング教育の活性化と電子工作の敷居が下がったことで,組込みシステムを若年

から学ぶことが可能となってきている.また,これらの時代背景から組込みシステムに関する教育の特

集論文なども増えてきている 6,7,8). 本稿では,中高生以上を対象としたプログラミングと電子工作を学ぶ教材開発について報告する.本

教材の特徴は,プログラミングや電子工作の理論から始めるのではなく,まずは動かすことを体験して

ものづくりの楽しさを経験させ,それをきっかけとして受講者を本格的なプログラミングやものづくり

へ誘うようにしていることである.また,実際にものを動かす体験を盛り込んだ組込みシステム入門教

育を受けることで,身近な問題に対して自分でも解決できる可能性があることを気付かせることを教育

の目的とする.本教材では題材として,株式会社タカラトミーが販売する鉄道玩具であるプラレール 9)

を用いる.その理由は以下の通りである. レール,車両共に単純な構造 視認できる程度の速さで動く 加工しやすい大きさと素材 低コスト 認知度が高く,経験者が多い 課題設定が容易(レールの組み合わせで調整可能) 以降,第 2 章で本教材の教育プログラムの概要を述べ,第 3 章で具体的な教育事例の紹介,第 4 章

にてアンケート結果の評価,第 5 章では結果に基づく考察を行い,第 6 章において全体をまとめる.

2.教育プログラムの概要

2.1 学習対象

学習対象者としては,プログラミングおよび電子工作がまったくの未経験者を想定する.本教材で用

いるマイコン Arduino は C++言語ベースでありながらも単純な構造のテキスト言語であることから,

未経験者にとって馴染みやすい.しかし,多少のタイピングの経験および少し長めの文章を構成する能

力(論理的思考力),英単語に少しでも慣れ親しみを持っていることが望ましいため,中学生以上を対象

とする.小学生を対象にする場合は,まず Scratch10)などのビジュアルプログラミング言語からプログ

ラミングの概念を学ぶことが望ましいと考える.現時点での本教材の実施は 1 日(4 時間)もしくは 2日間(8 時間)であることから,ビジュアルプログラミング言語を扱う時間はないため小学生は対象と

しない. 2.2 学習目標

本教材は Arduino を活用しプログラミング技術や電子工作技術を用いて自ら作りたい組込みシステ

ムを提案することができ,それらを実現するための学習基盤の修得を目標とする.技術的な要素として

は,Arduino は既に用意されたセンサやアクチュエータに付属する豊富なライブラリを活用し組み合わ

せて開発することが多いため,(1)サンプルプログラムを読み解く力,(2)それらを改変して活用できる力,

(3)回路図(配線イメージ)を元にブレッドボード上に回路を作成できる力,をつけることを目標とする.

なお,本稿において組込みシステムとは,コンピュータをコンピュータそのものとして利用するもので

はなく,既に何かある製品等に組込まれ機能を向上させるものとして定義する.

23鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

Page 4: 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発 …...論文 KIT Progress 24 題目 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

題目

図 2 Arduinoでプラレールを制御した一例

図 1 本教育プログラムの流れ 図 3 スクランブルエッグのレシピの教材例

3.1 プログラミング入門教育の例

3.1.1 ステップ 1:レシピ作成演習

プログラミング入門教育の初めとして,料理のレシピを例に処理の流れを学習する.図 3 に実際に教

材として利用したスライドを示す.なお,スライド番号は左上から右上,左下,右下という順番で①~

④まで示している. 最初はスクランブルエッグのレシピを紙に書かせることである.スクランブルエッグは中高生以上の

生徒であれば 1 度は調理経験があると考え採用した.最初の指示ではかなり大まかなレシピしか書かな

いため,②のスライドにあるように卵を何個使うか,いつまで混ぜるかといった詳細を考えさせる. ある程度書いたところを見計らい,③のスライドのように,一般的な条件分岐の形式で書かせ,その

後④でこの考え方がプログラミングにおける条件分岐(if 文)として書くことができるという流れで講

義を行う. 3.1.2 ステップ 2:変数と手続きの学習

本稿においてスライドの紹介は行わないが,プログラムの流れを学んだ後,卵の数やその入れ物(ボ

ウル)を例に変数の概念も講義を行い,その後,C 言語に似た擬似言語を用いて変数と条件分岐,繰り

返しについて講義を行う.擬似言語のサンプルを示す際は,単に講義するだけでなく実行結果がどうな

るかを考えさせながら行う.

繰り返し

学習の段階

条件分岐

プログラミング入門

変数の概念

プログラミングの概念の学習

レシピ作成

プログラミングの処理の流れの把握

Arduinoを用いた電子工作

センサ

アクチュエータ

照度測定 距離測定

LED発光 ブザー鳴音 モータ制御

プラレール制御

アクチュエータとセンサの連携

踏切・駅・レーダなどの連携

踏切制御

(モータ+ブザー+照度測定+etc)

駅制御(モータ+

照度測定+etc)

レーダ作成(モータ+距離測定)

ロボットプログラミングのロールプレイ

プログラミングの概念の定着

① ②

③ ④

24 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

Page 5: 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発 …...論文 KIT Progress 24 題目 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

題目

図 4 ロールプレイの教材例 図 5 Arduinoを用いた電子工作の教材例

3.1.3 ステップ 3:ロールプレイ

次に変数,条件分岐,繰り返しの概念を用いながらロボットプログラミングのロールプレイを行う.

図 4 に実際に教材として利用したスライドを示す.①のスライドにあるように,二人一組で一人がプロ

グラマーとなり紙に指示書を書き,もう一人がロボットとなりその指示書通りに動き,ロボット役の受

講者がテーブルを 2 周するような指示書を作成するという課題を与える.指示書に書いて良い命令は②

に示しておく.進みが悪い場合は,③の左側の例をまず掲示し,講師もしくはファシリテータによるロ

ールプレイのデモを行う.そして,変数や条件分岐を使う例を考えさせ,最終的には④の右側の例の様

な指示書ができるまで講師やファシリテータと一緒に考えさせる.実際には数チームが思ったように動

かせていないことが多く,指示書を何度も書き換えながら正確な記述を目指す様子がみられた.ここま

でで紙を用いたプログラミング入門教育を終え,次から実際に Arduino を用いた電子工作と,そのプロ

グラミングへ進む.

3.2 Arduinoを用いた電子工作教室の例

Arduino を用いた電子工作は,まずはブレッドボードを使用せずにできる Arduino の開発環境に付属

している LED 点滅のサンプルスケッチ(Arduino 用のプログラムの事をスケッチという)から開始し,そ

の後ブレッドボードを利用して図 5 ①に示すように,回路配線図とスケッチを示しながら,センサやア

クチュエータを一つ一つ学ぶ.適宜,②のように必要なセンサ等を利用する上で必要な情報の講義を入

れ,④の様なセンサとアクチュエータを組み合わせる演習を行う.この演習においては,プログラミン

グ入門教育で行った紙の情報をもとにまずは考えさせ,進みが悪い場合はファシリテータと一緒にどう

いう状況のときに何をしたいのかを一緒に考えさせるようにしている.ファシリテータは答えをできる

だけ言わないようにし,受講者の思考を助けるアドバイスを言うように心がける.受講者にとってのこ

こでの大きな難関は,ブレッドボードを使っての電子工作であった.ブレッドボードの仕組みなどは講

義において紹介を行ったが,実際には列を間違えるなどの配線ミスが多く発生したため,ファシリテー

タが配線チェックに追われる一面もみられた. 3.3 プラレールを題材とした課題

プログラミングおよび Arduino でのセンサやアクチュエータ制御など要素技術を学習した後に,図 6のようなプラレールを題材とした課題の提示を行う.①②に示す初級向けコースは,車両は 1台のみで,

駅での自動発着や踏切遮断機の自動昇降などを課題例として提示する.②で示す課題はあくまで例であ

り,受講者は自らのスキルや自分がやりたい制御を考えて取り組む.この課題は図 7 のように 2 人 1 組

で取り組み,初級向けが完成したペアには上級向け課題も取り組ませる.上級課題は 2 台の車両をぶつ

① ②

③ ④

① ②

③ ④

題目

図 2 Arduinoでプラレールを制御した一例

図 1 本教育プログラムの流れ 図 3 スクランブルエッグのレシピの教材例

3.1 プログラミング入門教育の例

3.1.1 ステップ 1:レシピ作成演習

プログラミング入門教育の初めとして,料理のレシピを例に処理の流れを学習する.図 3 に実際に教

材として利用したスライドを示す.なお,スライド番号は左上から右上,左下,右下という順番で①~

④まで示している. 最初はスクランブルエッグのレシピを紙に書かせることである.スクランブルエッグは中高生以上の

生徒であれば 1 度は調理経験があると考え採用した.最初の指示ではかなり大まかなレシピしか書かな

いため,②のスライドにあるように卵を何個使うか,いつまで混ぜるかといった詳細を考えさせる. ある程度書いたところを見計らい,③のスライドのように,一般的な条件分岐の形式で書かせ,その

後④でこの考え方がプログラミングにおける条件分岐(if 文)として書くことができるという流れで講

義を行う. 3.1.2 ステップ 2:変数と手続きの学習

本稿においてスライドの紹介は行わないが,プログラムの流れを学んだ後,卵の数やその入れ物(ボ

ウル)を例に変数の概念も講義を行い,その後,C 言語に似た擬似言語を用いて変数と条件分岐,繰り

返しについて講義を行う.擬似言語のサンプルを示す際は,単に講義するだけでなく実行結果がどうな

るかを考えさせながら行う.

繰り返し

学習の段階

条件分岐

プログラミング入門

変数の概念

プログラミングの概念の学習

レシピ作成

プログラミングの処理の流れの把握

Arduinoを用いた電子工作

センサ

アクチュエータ

照度測定 距離測定

LED発光 ブザー鳴音 モータ制御

プラレール制御

アクチュエータとセンサの連携

踏切・駅・レーダなどの連携

踏切制御

(モータ+ブザー+照度測定+etc)

駅制御(モータ+

照度測定+etc)

レーダ作成(モータ+距離測定)

ロボットプログラミングのロールプレイ

プログラミングの概念の定着

① ②

③ ④

25鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

Page 6: 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発 …...論文 KIT Progress 24 題目 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

題目

からないように制御する必要があり,状態遷移から考えるなど比較的高度なプログラミングスキルが必

要となる.多くのペアはサンプルスケッチを組み合わせたり,ファシリテータのサポートをうけながら

形にしたが,一部のペアはサンプルスケッチを利用せずプログラムコードを 1 から作成し課題に取り組

んでいた.また,ペアでの取り組み方も様々有り,二人で相談して一つの仕掛けを作るチーム,個人ご

とに別々の仕掛けを担当するチームもあった.二人で相談しながら取り組むことは制御アイデアやプロ

グラミング方法など刺激し合うことができるため,より効率的な学習につながると考えられる.

図 6 プラレールを用いた課題の教材例 図 7 プラレールを用いた課題に取り組む受講者

4.実施結果と評価

第 3 章で示した事例 2 件についての実施結果とその評価を述べる.プラレールを用いた課題について

は高校生講座 11)では 12 名全員が,中高生講座 12)では 18 名中 16 名は自らが設定した目標におおむね達

成することができた.以降,各事例におけるアンケート調査の結果に基づき本教材の評価を行う.なお,

高校生講座 11)でのアンケートは満足度と自由記述のみの 12 件であり,中高生講座 12)でのアンケートは

満足度の他,いくつかの学習内容についての 17 件の回答を得た.したがって,満足度以外の評価につ

いては中高生講座 12)のアンケート結果のみとなる. 4.1 満足度の評価

講座全体の満足度評価を表 1 および表 2 に示す.両講座とも満足度は肯定的な評価のみとなってい

る.関連する自由記述を抜粋すると「コンピュータ上で書いていたものが実際に目に見える形で動くこ

とに感動した.」,「電子回路の知識は無いに等しかったが十分楽しめた.」,「プログラミングの難しさを

改めて知ったが,プログラミングを面白いと思えた.」というような意見が得られた.一方で,さらに実

習時間を増やし,課題設定レベルをさらに上げたチャレンジを望む声もみられた.中高生講座 12)で課題

を達成できなかった 2 名の参加者については,後述するプログラミング入門の教材に関するアンケート

で分かりにくかったと解答しており,講座の初期段階でのケアが不足していた事が原因であると考える.

しかしながら,講座そのものの満足度は高く,何らかの成長は感じられていると考えられる.

表 1 高校生講座の満足度評価 表 2 中高生講座の満足度評価

不満 やや不満 やや満足 満足0 0 2 10

不満 やや不満 普通 やや満足 満足0 0 0 4 13

① ②

③ ④

26 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

Page 7: 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発 …...論文 KIT Progress 24 題目 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

題目

4.2 プログラミング入門教育の評価

プログラミング入門教育に関するアンケート結果について述べる.表 3 はプログラミング入門に関す

る分かりやすさに関する結果である.双方の結果ともに概ね肯定的回答が多く,この表としては示せて

いないが,料理のレシピに例えた教育もしくは 2 人ペアとなったロボット制御ロールプレイのどちらか

を「やや良い」以上とした受講者が 17 人中 15 名となっており,複数の例を挙げての教材が理解度向上

につながると考えられる.「悪い」と回答した 1 名の受講者については卵に関するアレルギーを持って

いたため,自ら作る経験がなくまったく参考にならなかったという自由意見が記されており,この最初

の躓きがこの後の課題の達成に影響したと考えられる.以上の事から,教材例を作成するにあたり,よ

り多くの受講者の経験に基づくような教材例の作成が必要であることが反省点として得られた.

表 3 プログラム入門教育の分かりやすさ評価

表 4 はプログラミング入門者を対象とした,各プログラミング要素に関する理解度の評価である.複

数回答可としており,各要素の最大回答数は 17 である.プログラムの流れに関する概念の理解は概ね

達成できているとみられる.最も回答数の多かった「プログラムは書いた通りにしか動かない」は,試

行錯誤してプログラミングを行った上で,記述の足りなさ,記述の間違いを経験したことで気付くこと

ができることから,単にサンプルをコピーして実行しただけで無く,自ら考えプログラミングしていた

結果であると考えられる.「プログラムにおける変数」における理解が半数以下と少ないことに関して

は,教材例の修正が必要であると考えられる.

表 4 プログラミング要素毎の理解度の評価 表 5 Arduinoを用いた制御に関する理解度の評価

4.3 Arduinoを用いた電子工作教育の評価

表 5 は Arduino を用いてのセンサやアクチュエータの使い方がどの程度理解できたかを調査した結

果である.各要素技術において,×:理解できなかった,○:理解できた,◎:よく理解できた,の 3 択で

集計を行った.各要素技術の回答数は 17 である.各要素技術ともに概ね理解できた以上が回答されて

いるが,赤外線近接センサ,ステッピングモータ,サーボモータの使い方について理解できなかったと

いう回答が得られた.これらのうち赤外線近接センサとステッピングモータについては,必ずしもプラ

レールを制御する課題で使用する必要がなかったことから演習時間が短くなり理解度が低くなったと考

えられる.また,表 5 で示した要素技術を組み合わせて利用できるかという設問では,「それなりに理解

して使えた」「よく理解して使えた」と回答した受講者が 15 名となっており,この 15 名に関しては

Arduino を用いてプラレール制御を行うための基本的な能力をつけることができたと考えられる.

悪い やや悪い 普通 やや良い 良い料理のレシピ 1 1 3 7 5ロールプレイ 1 0 5 5 5

プログラミング要素 回答数プログラムは書いた通りにしか動かない 13プログラムは上から順に実行される 12プログラムにおける繰り返し 12プログラムにおける条件分岐 11プログラムにおける変数 7以前から上記を全て理解していた 1

Arduinoを用いた要素技術 × ○ ◎LEDの点滅(Lチカ) 0 6 11ブザーで音を鳴らす 0 9 8光センサ(CdS) 0 7 10赤外線近接センサ 2 6 9ステッピングモータ 2 7 8サーボモータ 1 6 10

題目

からないように制御する必要があり,状態遷移から考えるなど比較的高度なプログラミングスキルが必

要となる.多くのペアはサンプルスケッチを組み合わせたり,ファシリテータのサポートをうけながら

形にしたが,一部のペアはサンプルスケッチを利用せずプログラムコードを 1 から作成し課題に取り組

んでいた.また,ペアでの取り組み方も様々有り,二人で相談して一つの仕掛けを作るチーム,個人ご

とに別々の仕掛けを担当するチームもあった.二人で相談しながら取り組むことは制御アイデアやプロ

グラミング方法など刺激し合うことができるため,より効率的な学習につながると考えられる.

図 6 プラレールを用いた課題の教材例 図 7 プラレールを用いた課題に取り組む受講者

4.実施結果と評価

第 3 章で示した事例 2 件についての実施結果とその評価を述べる.プラレールを用いた課題について

は高校生講座 11)では 12 名全員が,中高生講座 12)では 18 名中 16 名は自らが設定した目標におおむね達

成することができた.以降,各事例におけるアンケート調査の結果に基づき本教材の評価を行う.なお,

高校生講座 11)でのアンケートは満足度と自由記述のみの 12 件であり,中高生講座 12)でのアンケートは

満足度の他,いくつかの学習内容についての 17 件の回答を得た.したがって,満足度以外の評価につ

いては中高生講座 12)のアンケート結果のみとなる. 4.1 満足度の評価

講座全体の満足度評価を表 1 および表 2 に示す.両講座とも満足度は肯定的な評価のみとなってい

る.関連する自由記述を抜粋すると「コンピュータ上で書いていたものが実際に目に見える形で動くこ

とに感動した.」,「電子回路の知識は無いに等しかったが十分楽しめた.」,「プログラミングの難しさを

改めて知ったが,プログラミングを面白いと思えた.」というような意見が得られた.一方で,さらに実

習時間を増やし,課題設定レベルをさらに上げたチャレンジを望む声もみられた.中高生講座 12)で課題

を達成できなかった 2 名の参加者については,後述するプログラミング入門の教材に関するアンケート

で分かりにくかったと解答しており,講座の初期段階でのケアが不足していた事が原因であると考える.

しかしながら,講座そのものの満足度は高く,何らかの成長は感じられていると考えられる.

表 1 高校生講座の満足度評価 表 2 中高生講座の満足度評価

不満 やや不満 やや満足 満足0 0 2 10

不満 やや不満 普通 やや満足 満足0 0 0 4 13

① ②

③ ④

27鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

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題目

4.4 プラレールを題材とした課題の評価

プラレールを用いた課題については,受講者が自ら目標を設定しその成果の達成度を 100 点満点で自

己評価をしてもらった.その結果は 100 点満点を含む 90 点以上 4 名,80 点台 4 名,70 点台 4 名,60点台 2 名,60 点未満 2 名,回答無し 1 名となっており,70 点以上を満足するレベルに達したと仮定す

れば,12 名の受講者が自己設定の課題についても概ね目標を達成していると考えられる.60 点台以下

と回答した受講者は自らが設定した課題を達成できなかったと自由記述で記されているが,時間の余裕

があれば達成できそうであるという回答もみられた.ほとんどのペアが初級向け課題で終了し,1 組の

ペアのみ上級向け課題にも取り組んだが分岐の制御のみで時間切れとなった.上級向けは制御状態も多

くなることから,講座のスタートを初心者と設定した場合は日程をもう 1 日増やすなどをしない限り完

成は難しいと考える. 4.5 本教材の教育目的に対する評価

表 6 に「今回の講座を受けて今後してみたいなということは何かできたか」という問の結果を示す.

複数回答可としており,各要素の最大回答数は 17 である.回答者 17 名全員が 1 つ以上のことに今後取

り組みたいと感じており,特にプログラミングに関する回答が最も多かった.このことから,本教材の

教育目的である「ものづくりの楽しさを経験させ,これをきっかけとして受講者を本格的なプログラミ

ングやものづくりへ導く」が概ね達成できたと考える.

表 6 講座終了後の気持ちの変化

4.6 大学生スタッフへの教育効果

本教材の目的とは別の要素ではあるが,受講者のコンピュータスキルは一様ではないため,受講者の

要望を聞き出し,その要望をどう実現させるかを導くファシリテータとしての経験は大学生スタッフに

おいても貴重な成長の機会となる.当然教えるという立場になることから事前の学習なども必要となり,

大学生スタッフへの教育的効果も成果の一つであると考える.本稿では,大学生スタッフ 6 名に対して

のアンケート調査結果を示しながら考察を述べる. まず,ファシリテータとしての役割から得たこととして,「説明する際にモチベーションを維持しても

らえるような口調で行う事ができた」,「子供達との知識の差を埋めるため,まずは何が分らないのかを

聞き足りないものを補うことで効率的に誘導できた」,「「できそう?」など積極的に声をかけることで,

質問しやすい雰囲気をつくることができた」,「数字よりもたとえ話の方が良く理解してくれることが分

った」,「受講生と一緒に考えることができた」というような回答が得られた.これらの回答から,学生

スタッフはファシリテータとしての役割を十分に理解し,一方的に教えるのではなく受講生に考えさせ

ることを意識しており,ファシリテーションを学ぶことができたと考えられる. 技術面で得たことまたは興味を得たこととしては,「プログラミングは表現手段にすぎず,何がやりた

いのかというアルゴリズム的な中身が重要であると気付いた」,「自分が教育職でなくても,近所の子供

を呼んで教えたいと思った」,「自分でも Arduino や電子部品を購入し,電子工作にのめり込むようにな

った」など,学生スタッフとして参加する以前よりも,個々人の観点でモチベーションの向上がみられ

た.また,「グループで違う仕掛けを作って,最後に大きなコースを作成させたい」や「レールだけでな

く車両の仕掛けを考えたい」など,本教材のさらなる拡張に興味を持った学生もいた.

今後してみたいこと 回答数プログラミングをもっと勉強したい 12プラレールを自分でも改造したい 9Arduinoを使って何かをつくりたい 10電子工作をもっとやってみたい 10

28 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

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題目

4.7 評価結果に対する考察

高校生講座 11)と中高生講座 12)の両講座では,プラレールそのものを女子生徒も含む全員が認知してお

り,半数以上の生徒が小さな頃に実際に遊んでいた経験をもっていたことから,自分が講座で学ぶ要素

技術がどう利用できるのかを直感的に理解できたと考えられる.また,プラレールの選定理由の一つと

しても挙げたが,視認できる程度の速さで動くことが,組込みシステムを学ぶ上の重要な要素である,

リアルタイム性と状態遷移の概念を容易に理解することにつながると考えられる.さらに,プラレール

は結果が視認しやすく,プログラミングを試行錯誤しやすいという点も優れた題材であると考えられる.

5.結語

本稿は,プラレールを題材とした組込みシステム入門教材を提案し,その概要,実施例,評価結果を

述べた.プラレールを用いた教材は受講者の興味を高めやすく,コンピュータの中だけで完結するので

は無く目の前でモノを動かす体験から,集中力の維持に繋がり満足度を高められることアンケート結果

から確認した.また,多くの受講者に対して,プログラミングや電子工作に対して今後のより高い目標

を設定するきっかけを与えることができた.さらに,学生スタッフの大学生に対しても,コミュニケー

ションスキルの向上,学習に対するモチベーションの向上などが確認することができた.

謝辞

本研究の一部は平成 24 年度文部科学省 大学間連携共同教育推進事業「高信頼とスマート化を実現

する組込みシステム技術者の育成」および平成 25年度文部科学省 地(知)の拠点整備事業(大学 COC

事業)「地域志向『教育改革』による人材育成イノベーションの実践」の支援のもとに推進されました.

参考文献

1)Arduino, http://arduino.cc/, 参照日 Aug. 18, 2015. 2)西餅, "ハルロック(1)," 講談社, 2014. 3)Life is Tech!, http://life-is-tech.com/, ライフイズテック, 参照日 Aug. 18, 2015. 4)Department for Education, "National curriculum in England: computing programmes of study,"

https://www.gov.uk/government/publications/national-curriculum-in-england- computing-programmes-of-study, Gov.uk, Sep. 11, 2013.

5)産業競争力会議, "成長戦略(素案)," 首相官邸, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai11/siryou1-1.pdf, Jun. 2013.

6)八木 透, 清尾 克彦(編), "小特集新しいものつくりの潮流:メイカーズムーブメントと工学教育," 工学教育, Vol.62, No.4, pp.3-51, 2014.

7)久住 憲嗣, 渡辺 晴美(編), "特集分野を超えたものづくりと教育-組込みシステム開発教育のため

のロボットチャレンジ-," 情報処理学会誌, Vol.56, No.1, pp. 50-85, 2015. 8)豊福 晋平, 上松 恵理子(編), "特集初等中等教育における ICT の活用," 情報処理学会誌, Vol.56,

No.4, pp.314-361, 2015. 9)プラレール, http://www.takaratomy.co.jp/products/plarail/, タカラトミー, 参照日 Aug. 18, 2015. 10)Scratch, http://scratch.mit.edu/, MIT Media Lab, 参照日 Aug. 18, 2015. 11)河並 崇, 鷹合 大輔, 林 亮子, "高校生のためのコンピュータ応用講座(楽しい組込みシステム入

門)," http://www.kanazawa-it.ac.jp/kitnews/2013/1195413_3527.html, 金沢工業大学, Nov. 9, 2013.

題目

4.4 プラレールを題材とした課題の評価

プラレールを用いた課題については,受講者が自ら目標を設定しその成果の達成度を 100 点満点で自

己評価をしてもらった.その結果は 100 点満点を含む 90 点以上 4 名,80 点台 4 名,70 点台 4 名,60点台 2 名,60 点未満 2 名,回答無し 1 名となっており,70 点以上を満足するレベルに達したと仮定す

れば,12 名の受講者が自己設定の課題についても概ね目標を達成していると考えられる.60 点台以下

と回答した受講者は自らが設定した課題を達成できなかったと自由記述で記されているが,時間の余裕

があれば達成できそうであるという回答もみられた.ほとんどのペアが初級向け課題で終了し,1 組の

ペアのみ上級向け課題にも取り組んだが分岐の制御のみで時間切れとなった.上級向けは制御状態も多

くなることから,講座のスタートを初心者と設定した場合は日程をもう 1 日増やすなどをしない限り完

成は難しいと考える. 4.5 本教材の教育目的に対する評価

表 6 に「今回の講座を受けて今後してみたいなということは何かできたか」という問の結果を示す.

複数回答可としており,各要素の最大回答数は 17 である.回答者 17 名全員が 1 つ以上のことに今後取

り組みたいと感じており,特にプログラミングに関する回答が最も多かった.このことから,本教材の

教育目的である「ものづくりの楽しさを経験させ,これをきっかけとして受講者を本格的なプログラミ

ングやものづくりへ導く」が概ね達成できたと考える.

表 6 講座終了後の気持ちの変化

4.6 大学生スタッフへの教育効果

本教材の目的とは別の要素ではあるが,受講者のコンピュータスキルは一様ではないため,受講者の

要望を聞き出し,その要望をどう実現させるかを導くファシリテータとしての経験は大学生スタッフに

おいても貴重な成長の機会となる.当然教えるという立場になることから事前の学習なども必要となり,

大学生スタッフへの教育的効果も成果の一つであると考える.本稿では,大学生スタッフ 6 名に対して

のアンケート調査結果を示しながら考察を述べる. まず,ファシリテータとしての役割から得たこととして,「説明する際にモチベーションを維持しても

らえるような口調で行う事ができた」,「子供達との知識の差を埋めるため,まずは何が分らないのかを

聞き足りないものを補うことで効率的に誘導できた」,「「できそう?」など積極的に声をかけることで,

質問しやすい雰囲気をつくることができた」,「数字よりもたとえ話の方が良く理解してくれることが分

った」,「受講生と一緒に考えることができた」というような回答が得られた.これらの回答から,学生

スタッフはファシリテータとしての役割を十分に理解し,一方的に教えるのではなく受講生に考えさせ

ることを意識しており,ファシリテーションを学ぶことができたと考えられる. 技術面で得たことまたは興味を得たこととしては,「プログラミングは表現手段にすぎず,何がやりた

いのかというアルゴリズム的な中身が重要であると気付いた」,「自分が教育職でなくても,近所の子供

を呼んで教えたいと思った」,「自分でも Arduino や電子部品を購入し,電子工作にのめり込むようにな

った」など,学生スタッフとして参加する以前よりも,個々人の観点でモチベーションの向上がみられ

た.また,「グループで違う仕掛けを作って,最後に大きなコースを作成させたい」や「レールだけでな

く車両の仕掛けを考えたい」など,本教材のさらなる拡張に興味を持った学生もいた.

今後してみたいこと 回答数プログラミングをもっと勉強したい 12プラレールを自分でも改造したい 9Arduinoを使って何かをつくりたい 10電子工作をもっとやってみたい 10

29鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価

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題目

12)河並 崇 , 鷹合 大輔 , 林 亮子 , "2014 KIT サマーサイエンススクールプラレール++ ," http://www.kanazawa-it.ac.jp/yumekobo/news/data/20th_science.pdf, 金沢工業大学 , 参照日

Aug. 18, 2015. 13)河 並 崇 , "Arduino で プ ラ レ ー ル 制 御 ( 駅 , 踏 切 , ポ イ ン ト 切 替 ) ," YouTube,

https://www.youtube.com/watch?v=4ifkomAg5Us, Oct. 10, 2013.

[受理 平成 27 年 8 月 21 日]

河並 崇 講師・博士(工学) 工学部 情報工学系 情報工学科 鍛冶 俊平 金沢工業大学 大学院工学研究科 博士後期課程 情報工学専攻 鷹合 大輔 講師・博士(工学) 工学部 情報工学系 情報工学科 林 亮子 講師・博士(情報科学) 工学部 情報工学系 情報工学科

30 鉄道玩具を活用した組込みシステム入門教材の開発と評価