全学共通教育科目「県大生として学ぶ広島と世界」の実践と課題...

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全学共通教育科目「県大生として学ぶ広島と世界」の実践と課題 ⑵ 木 本 尚 美 1.はじめに 本稿は、平成27年度、全学共通教育の新設科目群「広島と世界」に開設された、「県大生として 学ぶ広島と世界」の授業計画および運営に関して、昨年に引き続き2年目の実践と課題について考 察することを目的とする。 県立広島大学では、平成26年度に検討が開始された全学共通教育科目の充実・改革を契機に、同 年には文部科学省・大学教育再生加速プログラムの採択 を受け、アクティブ・ラーニングの組織 的推進や学修成果の可視化に取り組んでいる。立地上、3キャンパスが遠く離れているということ は、ともすればマイナス面とみなされがちであるがこれをチャンスと捉え、3キャンパスの結び つき(Campus Linkage)の中で、能動的な学び(Active Learning)を達成してゆく、県大型アク ティブ・ラーニング「CLAL(Campus Linkage Active Learning)」 を目指し、昨年度本授業でも 導入を計画した。しかしながら、受講生の多さや遠隔講義システム運営上の限界もあり、討論やグ ループ学修の機会を十分設けることができなかった。それは、「グループワークがあってもよかっ たと思う。もう少し話し合いの時間を増やしたらいいと思う。」等、「学生による授業評価」調査の 自由記述にも端的に表れていた(木本 2015)。しかしこの課題は、平成28年度は広島、庄原キャン パスから各1名、三原キャンパスからは2名の協力教員が授業運営に関わるという全学的合意を経 て、幸いにも克服することができた。3キャンパスを遠隔講義システムでつなぎ、双方向授業を円 滑に実施するためには、各キャンパスにおいて授業運営に当たる教員の協力は不可欠であり、ここ に実質的全学出動態勢が実現したといえる。3月下旬には、科目代表教員を中心に担当者会議を開 催した。アクティブ・ラーニングが講義一辺倒の授業からの脱却を目指して提唱されていることを 踏まえると、いま求められている基本は、15回の講義の中にいくばくかのアクティブ・ラーニング を組み込むことと考え、講義とアクティブ・ラーニングの授業を併用するスタイルを採ることにし た。具体的には、アジア、欧米など国際交流協定及び覚書を本学と締結している大学がある国や地 域について講義した後、グループワークを通してそれらの国や地域と日本、および広島県と国際比 較するという枠組みに決定した。 以下では本年度の授業計画及び運営を考察し、受講生の自己評価等から本科目の教授法を検討 し、それを踏まえて新たな課題について述べる。 2.授業の運営 前述したように、本科目は通常の対面授業とは異なり、遠隔講義システムによってパワーポイン 1 http://www.pu-hiroshima.ac.jp/site/ap/ 参照(2016/11/18)。 2 http://www.pu-hiroshima.ac.jp/uploaded/life/19081_36019_misc.pdf 参照(2016/11/18)。 31

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全学共通教育科目「県大生として学ぶ広島と世界」の実践と課題 ⑵

木 本 尚 美

1.はじめに

本稿は、平成27年度、全学共通教育の新設科目群「広島と世界」に開設された、「県大生として学ぶ広島と世界」の授業計画および運営に関して、昨年に引き続き2年目の実践と課題について考察することを目的とする。

県立広島大学では、平成26年度に検討が開始された全学共通教育科目の充実・改革を契機に、同年には文部科学省・大学教育再生加速プログラムの採択1を受け、アクティブ・ラーニングの組織的推進や学修成果の可視化に取り組んでいる。立地上、3キャンパスが遠く離れているということは、ともすればマイナス面とみなされがちであるがこれをチャンスと捉え、3キャンパスの結びつき(Campus Linkage)の中で、能動的な学び(Active Learning)を達成してゆく、県大型アクティブ・ラーニング「CLAL(Campus Linkage Active Learning)」2を目指し、昨年度本授業でも導入を計画した。しかしながら、受講生の多さや遠隔講義システム運営上の限界もあり、討論やグループ学修の機会を十分設けることができなかった。それは、「グループワークがあってもよかったと思う。もう少し話し合いの時間を増やしたらいいと思う。」等、「学生による授業評価」調査の自由記述にも端的に表れていた(木本 2015)。しかしこの課題は、平成28年度は広島、庄原キャンパスから各1名、三原キャンパスからは2名の協力教員が授業運営に関わるという全学的合意を経て、幸いにも克服することができた。3キャンパスを遠隔講義システムでつなぎ、双方向授業を円滑に実施するためには、各キャンパスにおいて授業運営に当たる教員の協力は不可欠であり、ここに実質的全学出動態勢が実現したといえる。3月下旬には、科目代表教員を中心に担当者会議を開催した。アクティブ・ラーニングが講義一辺倒の授業からの脱却を目指して提唱されていることを踏まえると、いま求められている基本は、15回の講義の中にいくばくかのアクティブ・ラーニングを組み込むことと考え、講義とアクティブ・ラーニングの授業を併用するスタイルを採ることにした。具体的には、アジア、欧米など国際交流協定及び覚書を本学と締結している大学がある国や地域について講義した後、グループワークを通してそれらの国や地域と日本、および広島県と国際比較するという枠組みに決定した。

以下では本年度の授業計画及び運営を考察し、受講生の自己評価等から本科目の教授法を検討し、それを踏まえて新たな課題について述べる。

2.授業の運営

前述したように、本科目は通常の対面授業とは異なり、遠隔講義システムによってパワーポイン

1 http://www.pu-hiroshima.ac.jp/site/ap/ 参照(2016/11/18)。2 http://www.pu-hiroshima.ac.jp/uploaded/life/19081_36019_misc.pdf 参照(2016/11/18)。

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ト資料と授業担当教員の画像が3キャンパスの各教室に90分間同時配信されており、受講生との質疑応答などは担当教員に任されている。本年度の授業計画およびその形態と配信元は、表1のとおりであった。配信元は、広島キャンパスからが7回、庄原からは3回、三原からは2回であった。昨年同様、各回の担当教員のキャンパス間移動は諸般の事情により極めて困難なことから、配信元となるキャンパスの偏りは是正できなかった。また、本年度の受講生は広島キャンパス143名、庄原キャンパス148名、三原キャンパス122名、あわせて413名、昨年の262名を大幅に上回るクラスサイズで、広島および三原キャンパスの遠隔授業は、急遽、階段教室への変更を余儀なくされた。しかしながら、協力教員の支援により、キャンパス間連携がスムースにできたため、授業運営に関して、そのつど計画の見直しを図ることができた。配信元以外のキャンパスが不利益を被らないよう目配りすることもできた。

授業内容は大きく3段階を踏んでいる。すなわち、第1段階(第1回、第2回)は、留学経験者から「留学とは何か」を学ぶ、留学に対する動機づけの段階である。昨年度は卒業生から身近な留学体験を学ぶ機会を設定したが、それに加えて本年度は、かつて研究者としの留学経験をお持ちの学長にもご登壇いただいた。文化や生活様式の違いによって生じたアクシデントやカルチャーショック等の体験は受講生の感性を少なからず刺激し、あえて披露された失敗談は学長への親近感を抱かせたようであった。他方、留学に対して前向きで積極的な卒業生の姿勢もまた、受講生には

回数 内容 形態 配信元

1 オリエンテーション/研究者の留学経験(学長) 講義 広島C

2 留学経験とキャリア (卒業生) 講義 広島C

3 県大生として学ぶ本学の歴史と存在意義 講義 三原C

4 県大生として学ぶ広島県が抱える地域の問題 講義 庄原C

5 県大生として学ぶ本学の研究と社会貢献 講義 広島C

6 振り返り① (県大生として学ぶ編) 学生討論/発表 広島C

7 各国紹介(アジア編) 中国/韓国 講義 広島C

8 各国紹介(アジア編) インドネシア/台湾 講義 庄原C

9 各国紹介(アジア編) タイ/ハワイ 講義 広島C

10 振り返り② (アジア編) 学生討論/発表※ —

11 各国紹介(欧米編) イギリス/カナダ 講義 広島C

12 各国紹介(欧米編) ドイツ/フィンランド 講義 三原C

13 振り返り③ (欧米編) 学生討論/発表※ —

14 振り返り④ (まとめ) 学生討論/発表※ —

15 振り返り⑤ (全体まとめ) 学生発表 庄原C

※:遠隔授業とせず、各キャンパスで担当教員・協力教員のもとに授業を行った。

表1 授業計画と配信元

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興味深く受け止められたようであった。第2段階(第3回~第5回)は「県大生として学ぶ」視点を身につける段階とした。本学の歴史と存在意義、広島県の抱える地域問題の他、地域連携センターと宮島学センター教員の協力を得て、本学の学術研究や地域社会の活性化に向けた取組を解説した。そして第3段階は、第7回目から始まる各国紹介シリーズである。本年度新たにカナダを加え10カ国を、概ねアジア編(第7回~第9回)と欧米編(第11回、第12回)に分け、1回につき2カ国2名によるオムニバスとした。以上はすべて講義形態とした。もっとも講義を聴くだけでは、知識を活用したり、理解を他者に表現したりする力は育てられない。知識を獲得する時間と、それを踏まえた、書く、話す、発表するなどの活動の時間とを組み合わせた授業の創出により、思考は一層深まることになる。そこで、振り返りとして4回のアクティブ・ラーニングすなわち、能動的学修活動をその間に盛り込んだ。こうした授業形態は、全学出動態勢の実現により可能となったといえる。具体的には、第6回(振り返り①)に県大生を意識させるテーマを設定し、これに基づいてキャンパス別に学生討論を行い、その結果を遠隔システムにより口頭発表した。またアジア編と欧米編の各国紹介シリース終了後(第10回、第13回)と、まとめ(第14回)のあわせて3回分は、キャンパス単位で討論し、最終回は各キャンパスから選ばれた代表グループが、全体のまとめとして遠隔講義システムを用いて合同発表会を行った。グループの人数は10名前後を目安にメンバーを決定し、教員1人が数グループを支援することとした。

単位認定に関しては第1回オリエンテーションで学生に周知した。昨年度は個別課題の量や難易度にばらつきが生じ、必ずしも均一でなかったことから、本年度は第2回以降、レポートを課すこととした。昨年度も毎回授業の感想を提出させたが、出席確認が主たる目的で、採点の対象にはしなかった。本年度は、授業の要点・要旨および感想を600字程度で記すこととした。特にインドネシアとハワイの授業は、担当者の許可を得て英語での記述を求めた。オムニバス授業の場合、受講生はいずれか1名を選ぶこととし、担当教員には当該分の採点を依頼した。学生討論に関しては、採点基準等の詳細を事前に説明した。参考としてオリエンテーション時に、これまでの海外渡航・滞在経験を複数回答で受講生に問うたところ(図1)、受講生のうち7割は未経験であった。修学旅行による経験がが最も多く、全体では17.0%、各キャンパスとも1~2割程度であった。キャンパ

図1 海外渡航・滞在経験

0% 20% 40% 60% 80% 100%

広島C

庄原C

三原C

全体

70.6

74.3

70.2

71.9

16.7

14.2

21.1

17

10.3

8.8

7

8.8

1度もない

修学旅行

個人的な観光旅行

ボランティア活動

保護者の赴任などによる長期滞在

その他(語学研修・ホームステイ)

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ス間に有意差はなかった。前半の授業が終了した時点で、後半の授業改善の手がかりとすることを目的として「授業改善

のための中間アンケート」を実施した。自由記述には、配布資料の充実や、スライドのわかりやすさ等に関して高評を得ることができた。遠隔システムを使用した講義で、授業担当者が創意工夫を凝らした結果であろう。本学がこうした授業形態を導入して10年が経つ。当初戸惑いがちであった教員も授業改善を繰り返す中でしだいに遠隔システムの特質を理解していったものと思われる。反面、成績評価の対象としたレポートに関して、「レポートを書く時間が少ない。」という受講生の声が多く寄せられた。当初レポート用紙は資料といっしょに授業開始前に配布したため、受講生の中には、授業を聴きつつ要点・要旨および感想を記すものもいた。他方、2名の教員によるオムニバス講義では、前半の担当者に集中する事態が生じた。そこでレポートを記す時間をあらかじめ確保した上で、用紙の配布を授業終了直後に変更した。このことが、時間不足を招いたものと思われる。提出が昼休みにずれ込む受講生もいたため、レポート提出を授業時間外に別途設定する案が協力教員から出されたが、結局、限られた時間内で課題を終了させることを重視し、用紙の配布は授業の終盤とした。その代わりレポート課題は感想のみを記すという内容に変更した。

3.能動的学修の成果

あるテーマについて学生に討論させたいと考えた時、少人数授業であればクラス全体で討議することもできるが、多人数授業の場合はグループに分けて議論させた後に、全体で議論するなどの工夫が必要になる。本授業科目も多数の受講生に加えて遠隔講義システムを使用した授業であるためさらに周到な準備が求められる。そこで、次のような方法を採った。

まず関連する数回の授業を終えた段階でテーマを設定し、それに関する配布資料等を参考に受講生は事前学修をする。授業では個々に持ち寄った事前学修を基にグループ討論をし、出された意見を整理し、グループの結論をA4版用紙一枚にまとめ、班別に口頭発表する。

振り返り①は、県大生として本学の歴史、存在意義、教育・研究と社会貢献を学んだ内容を踏まえて2つのテーマを設定した。あらかじめ複数の資料を提供し、受講生はテーマ別に班に分かれてグループワークした後、キャンパスごとの結果発表を遠隔講義システムにより行った。

振り返り②は、各国紹介アジア編の終了直後に、振り返り③は、各国紹介欧米編終了直後に、それぞれ事前学修用の課題を与え、授業ではグループで討論し、遠隔講義システムは使用せず、それぞれキャンパス単位で発表を行った。

振り返り④は、まとめとして、「アジア・ヨーロッパの国々から日本が学ぶべきことは何か?」を課題として与え、振り返り③同様、キャンパス単位で班別討論をし、結論を口頭発表しあい、最終回に合同発表する際の代表グループを互選した。この間協力教員は代表メンバーの進捗状況を支援した。

最終日の振り返り⑤は、遠隔講義システムを使用し、代表6組のパワーポイントによる班別プレゼンテーションを順次行った。

なお、振り返り②から④の授業終了後、採点の対象にはしないことを告げて、受講生の取組姿勢を把握するために、アクティブ・ラーニングに関して自己評価を問うた。図2に「あなたは、本

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日のグループ討議のために資料を探しましたか。」の結果を示した。学生のまじめな気質は本学の特徴として他の学生調査等3でも証明されている。課題遂行の姿勢が良好なことは、自己評価からも読み取ることができた。3キャンパスとも毎回、「熱心に探した」比率が、「ある程度探した」を大幅に上回っていることが見て取れた。また、図3「あなたは、本日のグループ討議に主体的に参加しましたか。」は、広島キャンパスは回を重ねるごとに「主体的に参加した」の回答が増加していたし(第2回:67.2 %、第3回:69.2%、第4回:75.6%)、庄原キャンパスはほぼ8割の学生が、三原キャンパスでは9割が主体的に参加したと答えていた。

3 http://www.pu-hiroshima.ac.jp/soshiki/general-education/02-students.html 参照(2016/11/18)。

図2 グループ討議のための資料探し

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

広島C 庄原C 三原C 全体

67.2 61.7 70.256.5 51.7 57.9 57.9 57.9

68.4 60.4 56.9 65.2

26.3 33.125.2

40.8 44.1 35 38.0 42.1 28.135.1 39.7 29.6 探さなかった

少しは探した

ある程度探した

熱心に探した

100%

80%

60%

40%

20%

0%

図3 グループ討議への主体的参加

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

広島C 庄原C 三原C 全体

67.2 69.2 75.6 83.7 77.5 79.190.9 88.6 90.4

80.2 77.9 81.3

32.8 30.8 24.4 16.3 22.5 19.49.1 11.4 9.6

19.8 22.1 18.2 参加しなかった

ただ聞いているだけだった

主体的に参加した

100%

80%

60%

40%

20%

0%

県立広島大学 総合教育センター紀要 第2号

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図4「グループ討議に参加して、新たな学びがありましたか。」は、全体では5~6割の受講生が(第2回:65.9%、第3回55.6%、第4回62.9%)「おおいにあった」と答えており、「ある程度あった」を加えると9割以上(第2回:97.0 %、第3回94.3%、第4回96.4%)がグループ討議の成果を認めていた。受講生は事前学修を踏まえてグループ討議に主体的に参加し、他者と意見交換をしたことで新たな学びを獲得したといえる。

さらに、授業の終盤で実施した「学生による授業評価」調査の結果を昨年と比較したところ、当然のことながら能動的学修機会を問う設問、「この授業ではディスカッションやグループワークのような能動的学修機会がある。」(図5)のうち、「強くそう思う」の比率が昨年に比べて大幅に増加した(広島C:5.2倍、庄原C:3.3倍、三原C:3.3倍)のみならず、「わたしはこの授業に集中し、真剣に取り組んだ。」(図6)のうち、「強くそう思う」も、昨年より増えていることが明らかになった(広島C:18.7ポイント増、庄原C:5.4ポイント増、三原C:20.9ポイント増)。事前学修や課題の提示は受講生に知識獲得後の思考活動を促進させていると思われる。講義とアクティブ・ラーニングを組み合わせることにより、深い思考力が身につくといえよう。

図4 グループ討議における新たな学び

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

第2回

第3回

第4回

広島C 庄原C 三原C 全体

62.054.1 61.8 69.4

58.0 57.166.1

54.471.1 65.9

55.6 62.9

32.136.8

34.429.3

37.8 37.132.2

42.128.1 31.1

38.733.5

なかった

少しあった

ある程度あった

おおいにあった

100%

80%

60%

40%

20%

0%

図5 能動的学修の機会がある

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2015年 2016年 2015年 2016年 2015年 2016年

広島C 庄原C 三原C

12.9

67.5

16.0

53.5

25.8

85.255.4

30.8

45.7

41

63.6

14.8 全くそう思わない

そう思わない

そう思う

強くそう思う

全学共通教育科目「県大生として学ぶ広島と世界」の実践と課題 ⑵

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4.おわりに

平成28年度全学共通教育科目「県大生として学ぶ広島と世界」の授業計画および運営において、昨年度の課題を踏まえたうえで改善を試みた。改善された最大のポイントは、授業担当者以外に協力教員を全学的に配置することができた点にある。これによってアクティブ・ラーニングを導入することが可能になったといっても過言ではない。複数教員による態勢は、さまざまな調整がスムースに図れたのみならず、個別学修と協同学修を効果的に取り入れることを可能にした。

異文化・多文化理解の前提として広島県や本学を再認識し、地域と諸外国との関係性等について理解するという学修目標は、受講生の提出物や自己評価からおおむね達成することができたと思われる。もっとも、自己評価はあくまで認識レベルにとどまる。アクティブ・ラーニングは学修目標を達成する手段に過ぎないから、授業にディスカッションやグループワークなどの教授法を取り入れたからといって、自動的に学修成果が向上するという単純なものではない。受講生の活動のみが一見豊かに観えたとしても、頭の中が十分働いていないのでは意味がない。さまざまな活動が盛りだくさんあっても、それらが学修につながらなければ徒労に終わる。受講生の活動という手段が目的化され、体系的な理論や枠組みの修得が軽視されると、断片的学修にとどまり、知識が十分集積されない場合もある。従って教員には、ディスカッションを取り入れる場合、課題をどのように設定するか、どのようにディスカッションを進めるのか、どのような学修効果が期待できるのか、ディスカッションを通した学修が授業の目標につながるものであるのかなどを、十分に検討しておく必要がある。それと関連して発問と指示を効果的に与えることが求められる。実際、終盤で実施した「学生による授業評価」の自由記述には、グループワークの課題の曖昧さを指摘する声もあった。教員の発問と指示が与えられて初めて学生の活動が始まるため、アクティブ・ラーニングを効果的なもとにするには、教員の発問と指示の質を上げていくことが重要となる。加えて協同学修を効果的なものにするには、グループに貢献しない受講生、そもそもアクティブ・ラーニングを歓迎しない学生とどう向き合うのか、さらにはグループの学修成果を個々の成績にいかに反映させるかなど、評価者にとって悩ましい課題もある。能動的学修の成果は、教員の教育力にかかっているため協力教員間の連携が、なおいっそう求められる。

小笠原(2016)は、アクティブ・ラーニングの成立は30~40人のクラスに限られるとしながらも、

図6 この授業に集中し、真剣に取り組んだ

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2015年 2016年 2015年 2016年 2015年 2016年

広島C 庄原C 三原C

23.842.5

17.5 22.9 21.242.1

72.351.7

52.561.8 72.7

55.4

全くそう思わない

そう思わない

そう思う

強くそう思う

県立広島大学 総合教育センター紀要 第2号

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大規模クラスの場合、20~30人規模に分割した討論セッションを設け、ティーチング・アシスタント(TA)など授業補助者に支援させる仕組みが必要と述べている。また、そのためにはシラバスをマニュアル化し、一定水準の討論クラスを維持できるよう授業補助者の訓練、さらには、少なくとも形成的評価における授業補助者の支援が不可欠であると言及している。本学は現在、授業内外において学修支援を通じて自らが学ぶ喜びを感じ、生涯学び続けるアクティブ・ラーナーの育成を目標に、研修に基づく学修支援アドバイザー制度が途についたばかりである。近い将来、自己研鑽を積んだ多数のアクティブ・ラーナー達もまた、授業運営の一助を担ってくれるものと期待したい。

参考文献木本尚美,2015,「全学共通教育科目『県大生として学ぶ広島と世界』の実践と課題」『県立広島大

学総合教育センター紀要』第1号,pp. 31-38.小笠原正明,2016,「アクティブ・ラーニングの陥屛と構造的問題」,『IDE現代の高等教育』582,

pp. 4-8.

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