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複雑流体現象の解明とそのモデリンググループ

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Page 1: 複雑流体現象の解明とそのモデリンググループW. Wagner 博士(ワイエルシュトラス研究所,1 か月間),F. Golse 教授(パリ第7 大,1 週間),P.-E

複雑流体現象の解明とそのモデリンググループ

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航空宇宙力学講座

教授 青木一生,助教授 高田滋,助手 小菅真吾

1. はじめに

21世紀 COEプログラムに関連して本講座で行った主な研究活動を以下にまとめる.

2. 研究内容

2.1 ボルツマン方程式による混合気体のすべり流の解析 本講座では,分子気体力学をもとに,低圧気体やマイクロスケールにおける気体などの非平衡気体,とくに混合気体の挙動の解明を行っている.その一例が,気体分子の平均自由行程が流れの変化のスケールに比べて小さい場合(弱希薄気体)の混合気体の振舞を記述する流体力学的方程式とその境界条件の導出である.分子気体力学の基礎方程式であるボルツマン方程式とその境界条件をもとに,平均自由行程が小さい場合の系統的漸近解析を行い,このような流体力学的系の導出を行っている.流体力学的方程式やその境界条件の型は,考える物理的状況によって異なるが,境界条件を定める問題は,最終的に線形化ボルツマン方程式に対するいくつかの基本的な半無限領域の問題,いわゆるすべり流の問題および温度,圧力の跳びの問題に帰着する.本講座では,二成分混合気体に対する線形化ボルツマン方程式の精密な差分解法を開発し,上記の境界条件を定める目的で,熱ほふく流,拡散すべり流,蒸発・凝縮による温度,圧力の跳びそのほかの基礎的な半無限領域問題を解析した.これらの各々は分子気体力学における古典的境界値問題であるが,ボルツマン方程式そのものによる直接的数値解析はこの研究が初めてで,今後の標準となるべき結果を確立した.ここでは,熱ほふく流および拡散すべり流に対する結果の一部を示しておく.

(a) (b)

0 0.5 1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

XA0

bI mB=mA = 24510

0 0.5 10

1

2

3

XA0

bII mB=mA = 105 42

図 1:熱ほふくすべり係数および拡散すべり係数

静止した平板(X1 = 0)に接した半無限領域(X1 > 0)を占める気体 Aと気体Bの混合気体を考える.[問題 I](熱ほふく流)平板の温度はそれに沿って一様な勾配 dTw/dX2をもち,平板から離れた遠方(X1 →∞)では混合気体の圧力と成分濃度は一様である.[問題 II](拡散すべり流)平板の温度は一様であり,遠方では混合気体の温度,圧力は一様であるが,成分 A の濃度は壁に沿う方向に一様な勾配 dXA/dX2をもつ.ただし,温度勾配,圧力勾配はともに小

さいとする.問題 I,II ともに,平板に沿う(X2方向の)混合気体の流れが誘起される.これらの流れは,平板から平均自由行程の数倍程度離れると一様な流れに近づく.この漸近的一様流の速度をそれぞれ vI

2(問題 I),vII2 (問題 II)

とすると,それらは次のように表せる.

vI2 =

√π

2

(2kT0

mA

)1/2 l0T0

bIdTw

dX2, vII

2 =√

π

2

(2kT0

mA

)1/2

l0bIIdXA

dX2.

ここに,kはボルツマン定数,mAは気体Aの分子質量,T0は各問題の適当に選んだ基準温度(たとえば,問題 IではX2 = 0における平板の温度,問題 II では平板の温度),l0は温度 T0,圧力 p0

(基準圧力.たとえば遠方における混合気体の圧力)で静止平衡状態にある気体 A の分子の平均自由行程である.剛体球分子気体の場合,l0 = 1/[

√2π(dA)2n0] = (2/

√πγ1)(2kT0/mA)1/2p−1

0 µ0,ここに dAは気体 Aの分子直径,n0 = p0/kT0,γ1 = 1.270042,µ0は基準状態に対応する粘性係数である.係数 bI は熱ほふくすべり係数,bII は拡散すべり係数とよばれ,分子間力のモデル,平

第5章 研究室研究紹介

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板における気体分子の反射則,遠方における気体 Aの代表的濃度XA0 ,および気体分子の力学的

特性(剛体球分子では,質量比mB/mA,直径比 dB/dA,ここにmB,dB は気体 B分子の質量,直径)に依存する.剛体球分子に対する bI,bII を dB/dA = 1の場合について図 1(a),(b)に示す.横軸はXA

0 である.問題 Iの流れは平板の温度勾配の方向,問題 II の流れは質量の小さい成分の濃度勾配の方向である.mB/mA = 1のとき,bI はXA

0 に独立(図の点線),bII はゼロとなる.

2.2 その他の研究 マイクロスケールや低圧環境の気体に対する流れの不安定性・分岐の研究を,ボルツマン方程式の系統的漸近解析および数値解析によって行っている.たとえば,蒸気・非凝縮性気体混合系に特有の不安定現象の解明,円筒間の気体における Taylor–Couette問題の研究などを行った.また,混合蒸気の蒸発・凝縮の半空間問題について,理論的および解析的研究を行った.さらに,2003年度に引き続き,熱遷移流(流路壁に沿って温度勾配があると,低温部から高温部に向かう流れが誘起される現象)を利用した非機械式真空ポンプの研究を行い,簡便な流体力学的モデルを構築した.これは,以下の 3.1で触れる日仏科学協力事業(共同研究)の主要テーマの一つである.このポンプを利用した混合気体の分離の研究も平行して行っている.

3. 国際交流

3.1 招へい COEの経費によりC. Villani教授(リオン高等師範学校,2週間),F. Filbet博士(オルレアン大学,3週間),京都大学教育研究振興財団の経費により T.-P. Liu教授(スタンフォード大,2週間),パリ第 7大学との協定により E. Ilisca教授(パリ第 7大,1か月間)を招へいし,研究協力を行った.また,日本学術振興会の経費(長期招へい,2国間協定による招へい,科学研究費補助金による招へい)その他により,A. Gusarov博士(バイコフ冶金学研究所,10か月間),W. Wagner博士(ワイエルシュトラス研究所,1か月間),F. Golse教授(パリ第 7大,1週間),P.-E. Jabin助教授(ニース大,1週間),D. Giordano博士(欧州宇宙機構,3週間),M. Frank博士(ダルムシュタット工大,1か月)を共同研究,研究協力の目的で招へいした.さらに,日本学術振興会とフランス国立科学研究センター(CNRS)との科学協力事業(共同研究)(日本側代表者:青木一生,フランス側代表者:P. Degond)の一環として,P. Degond教授,N. Ben Abdallah教授(トゥールーズ第3大学,各 1週間)を招へいした.

3.2 派遣 COEの経費により,安田修悟(博士課程 3年)が 2週間にわたってフランスのボルドー第 1大学に滞在し,研修を行った.また,上述の日仏科学協力事業の一環として,青木が 3週間,高田が 2週間,相手側のトゥールーズ第 3大学を訪れ,講演,共同研究,教授資格審査,博士学位論文審査を行った.さらに,青木はトゥールーズ第 3大学招へい教授として同大学を,日本学術振興会特定国派遣事業によるブラジル科学アカデミー招へい研究者としてパラナ連邦大学を,それぞれ 1か月間訪れ,講演,共同研究を行った.

4. 国際会議および講演会

2004年 9月 19日- 23日,京都大学百周年時計台記念館において,「第 6回流体・プラズマ力学の数学的側面に関する国際ワークショップ」をCOE主催により開催した.参加者は国外 73名[フランス (14),アメリカ (14),ドイツ (10),イタリア (10),オーストリア (5),スウェーデン (4),中国 (3),香港 (3),スペイン (3),スイス (3),カナダ (2),韓国 (1),シンガポール (1)],国内 26名で,そのほかにCOE関係の若手研究者,学生十数名が随時講演を聴講した.講演は 11件の 45分(プレナリー)講演,65件の 30分講演(2パラレルセッション)からなっており,プレナリー講演者は,Y. Brenier,F. Filbet,F. Golse,P.-E. Jabin,川島秀一,T.-P. Liu,C. Schmeiser,E. Tadmor,高田滋,G. Toscani,B. Wennbergであった.流体,プラズマのみならず半導体,交通,生物学などにおける様々な流れに対する流体力学的,運動論的,および微視的アプローチとその数学的側面について,広い視点から活発な討論が行われた.また,上記 3.1に挙げた招へい研究者およびそれ以外の研究者[K. Domelevo助教授(トゥールーズ第 3大),R. Rubinstein博士(NASA),S.-H.Yu助教授(香港市立大学),C. Bardos教授(パリ第 7大)]による講演会を計 8回実施した.

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航空宇宙基礎工学講座 流体力学分野

教授 稲室 隆二,助教授 大和田 拓,講師 杉元 宏

1. 研究目標

宇宙関連技術のマイクロスラスターやマイクロマシン(MEMS)などに見られる微小スケールにおける熱流動や気液二相流,高層大気や真空ポンプのような低圧気体の振る舞い,液晶やコロイドなどの構造性流体の流動現象,あるいは蒸発,凝縮,凝固を伴う地球大気現象などの複雑流に対して,マイクロスケールからのアプローチによりマクロスケールの現象を予測するメゾスケールの複雑混相流体力学の構築を目指して,理論解析,数値シミュレーションならびに小規模実験により研究を行っている.

2. 研究内容

現在,主に下記の 3つの研究テーマならびにそれらに関連する研究に取り組んでいる.

t∗ = 1.25 t∗ = 3.13

t∗ = 9.38 t∗ = 15.0

図 1: 液滴同士の衝突の計算結果例;We = 39.7(t∗ = tV/D,V:相対衝突速さ,D:液滴直径).

2.1 格子ボルツマン法による界面ダイナミクス解析法の開発 格子ボルツマン法とは,有限個の速度をもつ多数の仮想粒子の集合体(格子気体モデル)で流体を近似し,各粒子の衝突と並進とを粒子の速度分布関数に対する格子ボルツマン方程式を用いて逐次計算し,その速度分布関数のモーメントからマクロスコピックな流れ場(流速,圧力など)を求める非圧縮性粘性流体の数値計算法である.格子ボルツマン法の特徴は,1)アルゴリズムが簡単であり,また,並列計算に適している,2)質量および運動量の保存性に優れている,3)衝突項の形を変えるだけで単相流から混相流まで統一的に取り扱うことができる,ことである.図 1に二相系格子ボルツマン法を用いて計算した液滴同士の衝突・分裂の計算例を示す.その他,垂直ダクト内の液中を上昇する気泡

流の計算やマイクロチャネル内における二相流の流動特性の計算を行っている.

y

u

0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05

0

0.5

1

1.5

Hybrid (120 x 100)Hybrid (240 x 200)Reconst. II (120 x 100)Reconst. II (240 x 200)

図 2: 衝撃波と境界層の干渉問題における境界層の接線方向流速の収束の比較.Hybrid:新しい気体論スキームの結果,Reconst.II:従来の気体論スキームの結果.

2.2 圧縮性流れの気体論的高解像度スキーム気体論は近似リーマン解法に基づく従来のCFDスキームに代わる新しい圧縮性流れの数値解法を提供する.気体論的アプローチでは、特性の理論が気体論方程式の移流項の線形性によって劇的に簡単になるという利点があるが,流体力学方程式との関係を間接的に与える気体論方程式の漸近解析は一般の流体技術者になじみが薄く,また直接的な関係の欠如が誤差評価を難しくしている.これが同アプローチの理解,延いては普及の妨げになっている.本研究では気体論の初等的な知識のみを使って流体力学方程式と直接結びつく気体論スキームの理論を構築し

第5章 研究室研究紹介

Page 6: 複雑流体現象の解明とそのモデリンググループW. Wagner 博士(ワイエルシュトラス研究所,1 か月間),F. Golse 教授(パリ第7 大,1 週間),P.-E

(Lax-Wendroffの気体論的拡張),これを基に圧縮性Navier-Stokes方程式のロバストで効率的な高次精度気体論スキームを開発した(図 2).また香港科学技術大学のXu教授との共同研究では高次の希薄化効果を含む Burnett方程式に同理論を適用して高次精度気体論スキームを導出した.

図 3: 実験装置(熱駆動型真空ポンプ)

2.3 分子気体効果を利用したポンプ・気体濃縮装置の開発 低圧あるいはミクロな系の気体では,外力の有無に関わらず,温度場によってさまざまな流れが発生する.本研究では,この現象を利用した,運動する部品が不要な熱駆動型ポンプの開発を数値シミュレーションと実験により進めている(図 3).気体が混合気体の場合,温度駆動流・圧力駆動流の成分依存度が一般に一致しないため,ポンプ内部で混合気体の濃度が変化する.この現象を利用した,独創的な新しい混合気体濃縮法の開発にも取り組んでいる.

3. 国際交流

若手・中堅研究者と海外有力大学との相互交流や共同研究を推進している.H16年度は,稲室がH16.11.5~11.9にCOE経費で「台湾-日本非線形解析および応用数学合同会議」に参加し,研究発表を行った.また,フランスの Toulouse大学にH17.3.5~3.20まで滞在し,格子ボルツマン法の理論的根拠について議論した.大和田は米国のOld Dominion大学に H17.1.5~3.11まで滞在し,National Institute of Aerospaceにも所属する同大学の Prof. Luoと NASA Langley Research Centerの Dr. Rubinsteinと共同研究を行った.杉元はフランスの Toulouse大学に H16.11.4~11.20まで滞在し,熱駆動型ポンプについて Prof.Degondらと議論した.また,H17.8.22~8.26には,世界トップレベルの研究者を招聘して「流体力学の離散的数値解析」に関する国際シンポジウムを稲室が主催者になり京大で開催する予定である.

参考文献

[1] T. Inamuro et al., Lattice Boltzmann simulation of droplet collision dynamics, Int. J. Heatand Mass Transfer 47 (2004), pp. 4649–4657.

[2] T. Inamuro et al., A lattice Boltzmann method for incompressible two-phase flows withlarge density differences, J. Comput. Phys. 198 (2004), pp. 628–644.

[3] T. Inamuro and T. Ogata, A lattice kinetic scheme for bubble flows, Phil. Trans. R. Soc.Lond. A 362 (2004), pp. 1735–1743.

[4] T. Ohwada and K. Xu, The kinetic scheme for the full-Burnett equations, J. Comp. Phys.201 ( 2004), pp. 315-332.

[5] T. Ohwada and S. Fukata, Simple Derivation of High-Resolution Schemes for CompressibleFlows by Kinetic Approach, J. Comp. Phys. (2005), in Press.

[6] H. Sugimoto and Y. Sone, Vacuum pump without a moving part driven by thermal edgeflow, in Rarefied Gas Dynamics, edited by M. Capitelli (AIP, New York) submitted.

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航空宇宙基礎工学講座 推進工学分野

教授 斧 高一,助手 高橋 和生

1. はじめに

本研究室は,航空宇宙機の推進に関連する作業媒質である電離気体(プラズマ)および高温気体 (反応性気体) に関する基礎研究並びに応用研究を行う分野であり,それらの力学的性質と共に,構成要素 である原子分子やイオンの気相中での反応過程並びに固体表面との相互作用に関する研究にも重点を置

いています.実験を主体として数値シミュレーションを併用し,航空宇宙工学のみならず広く先端技術

における工学的諸課題も対象としています.具体的には,プラズマ科学-宇宙工学,環境・エネルギー

工学からマイクロ・ナノテクノロジーまで-,というテーマのもと,プラズマ,宇宙,半導体 (MEMSを含む) の分野で,研究を展開しています [1].

21世紀COEプログラム「動的機能機械システムの数理モデルと設計論」では,本研究室の多様な研究内容のうち特に基礎的な部分について,「電離気体(プラズマ)と固体表面が混在する系における“電離気体と固

体表面との相互作用に関するモデリングと現象解明”」 という課題のもと研究活動を行っています.“相互作用”とは力学ならびに物性を含み,対象とする系は気体と固体,場合によっては液体の相を含みます.

またその空間スケールは,ナノメートル (10−9 m) からメートル (101 m) までと極めて広く,時間スケールも,ピコ秒 (10−12 s) から時間 (104 s) までと極めて広い範囲にわたります.

2. 電離気体と固体表面との相互作用に関するモデリングと現象解明

2.1 微粒子を含むプラズマにおける“プラズマと微粒子との相互作用に関する研究” 微粒子プラズマは,プロセスや宇宙プラズマの分野で高い関心を持たれています.非平衡プラズマ中

のサイズ数マイクロメートルの微粒子は,イオンと電子の移動度の違いから負に帯電し,微粒子間には

クーロン相互作用が働きます.この相互作用エネルギーが微粒子の熱運動エネルギーを上回ると微粒子

集団は強結合状態となり,金属などの固体結晶に見られる規則正しい配列が微粒子により形成されます.

このような配列/構造をクーロン結晶と呼びますが,形成機構は明らかではありません. プラズマ中の微粒子は,イオン流下流方向に対してのみ有効な束縛力を他の微粒子に対して作用する

ことが検証されています [2].本研究では,この束縛力が生じる機構について,①ウエイクポテンシャル (微粒子の下流部に形成されるイオンの流れの構造/ウエイクに他の微粒子が閉じこめられる),②陰影効果 (下流部に形成されるイオン欠乏領域に,他の微粒子が閉じこめられる),の効果について分子動力学シミュレーションを行い,さらに平行平板型高周波プラズマによる微粒子プラズマ実験と比較して,

微粒子間に働く未知の相互作用の解明をめざしています. 2.2 プラズマと接した固体表面における“プラズマと表面微細構造との相互作用に関する研究” プラズマを用いた材料プロセス(微細加工や薄膜形成)にお

けるウエハ(基板)上には,マイクロメートルあるいはそれ以

下のサイズの微細なパターン構造が形成されます.プラズマか

ら基板表面に到達した粒子は,さらにこの微細パターン内を輸

送されて微細構造内の表面に到達し,表面での種々の物理的・

化学的反応過程を経てプロセスが進展します. 本研究では,微細構造内でのプラズマの粒子輸送と表面反応

過程について,モデリングとプロセス実験により機構解明をめ

ざしています.具体的には、プラズマを用いた微細加工 (プラズマエッチング) における基板表面に対して,粒子輸送と表面反応過程に関する現象論的モデリングを原子スケールで行い,ナノメート

ルスケールのエッチング形状進展シミュレーション方法を構築し

ました [3,4].高速のイオンが基板表面に入射し,表面下に侵入する過程,さらに固体表面内部にイオンが侵入・停止する過程をモ

P

Window (θ1≤θ≤θ2)

ψnP

X

Y

Z

Mask

Substrate

Energetic Ions Neutral Reactants

Surface InhibitorsEtch Products

Γi0

Γd0Γp

0

Γn0

Ion Sheath

Bulk Plasma

Etched SurfaceΓi (P)

Γd(P)Γp(P)Γn(P)

ϕ =ψ - θ

Etch Products Γps

θ1θ2

ϕ

θ

Γo(P)

Oxygen Γo0

Inhibitors Γ ds

P

Window (θ1≤θ≤θ2)

ψnP

X

Y

Z

X

Y

Z

Mask

Substrate

Energetic Ions Neutral Reactants

Surface InhibitorsEtch Products

Γi0

Γd0Γp

0

Γn0

Ion Sheath

Bulk Plasma

Etched SurfaceΓi (P)

Γd(P)Γp(P)Γp(P)Γn(P)

ϕ =ψ - θ

Etch Products Γps

θ1θ2

ϕ

θ

Γo(P)Γo(P)

Oxygen Γo0

Inhibitors Γ ds

図 1 プラズマプロセスにおけるプラズマ

と固体表面の微細構造との相互作用

第5章 研究室研究紹介

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ンテカルロ法によってモデル化し,さらに粒子輸送では,イオンの表面反射と中性種の表面再放出,およびイ

オンと電子による表面の電荷蓄積を,表面反応過程では,これまでのイオンアシスト反応過程に加え,化学エ

ッチング,物理スパッタリング,保護膜堆積,および表面酸化,の影響を取り扱っています. 2.3 固体壁に囲まれた微小空間における“微小プラズマの生成・維持機構とプラズマの微視的構造および流れ場に関する研究” ミリからマイクロメートルサイズの微小空間領域でのプラズマの生成・維持では,プラズマと固体壁

との相互作用の影響が大きく,微小プラズマの特性や力学的挙動は,大口径プラズマと比較して複雑で

す.固体壁でのプラズマ粒子の消滅,固体壁を構成する粒子のプラズマへの混入などが顕著で,プラズ

マ領域すべてが空間電荷層(シース)という状況も考えられます.さらに,微小空間領域でのプラズマ

流に関しても,領域すべてが境界層という場合もあり,流れの挙動も従来とは異なります. 本研究では,超小型衛星に適用できるマイクロプラズマスラスターの実現を念頭に,微小プラズマの

生成・維持とプラズマの微視的構造および流れ場に関し,モデリン

グと実験によって現象解明を進め,微小プラズマおよびプラズマ流

にかかわる機構解明を目ざしています.具体的には,軸対称表面波

励起マイクロプラズマについて,プラズマに関するグローバルモデ

ルとマイクロ波電磁界に関する2 次元FDTD法を適用し,さらに,マイクロノズル流れについて,2 温度モデルに基づくナビエ・ストークス方程式を解き、推進性能の評価も行いました [5].さらに,マイクロプラズマ源を試作し,微小領域でのマイクロ波励起マイク

ロプラズマの生成・維持,および微小オリフィスを通しての真空中

へのプラズマの超音速自由膨張を実証しました [6].

3. おわりに

本研究室の具体的な研究内容は,(1)先進的プラズマ・イオン源,(2)プラズマ基礎,(3)先進的プラズマ・ビームプロセス技術,(4)プラズマプロセス基礎,(5)マイクロ・ナノテクノロジー,に大別され,それぞれ複数の基礎的・応用的研究を進めています.応用的な研究ターゲットは,主に,プロセス用・宇

宙推進用プラズマ源 [7,8],および半導体を中心とした薄膜プロセス (微細加工,CVD,スパッタ成膜) [9-12] であり,産官学連携にも積極的に取り組んでいます. 参考文献 [1] 21世紀COEプログラム「動的機能機械システムの数理モデルと設計論」平成15年度 年次報告 (2004). [2] K. Takahashi, Y. Hayashi, and K. Tachibana: “Two-dimensional melting in a Coulomb crystal of dusty plasmas”, Jpn. J.

Appl. Phys. Vol. 38, No. 7B (1999), pp. 4561-4566. [3] Y. Osano and K. Ono: “A model of deposition of etch products and surface oxidation in chlorine plasma etching of

silicon”, Proc. Plasma Science Symp. 2005 and 22nd Symp. on Plasma Processing, PSS-2005/SSPP-22 (JSPF, Nagoya, 2005), pp. 583-584.

[4] Y. Osano and K. Ono: “An atomic scale model of multilayer surface reactions and the feature profile evolution during plasma etching”, Jpn. J. Appl. Phys. (submitted).

[5] Y. Takao and K. Ono: “Development and modeling of a microwave-excited microplasma thruster”, AIAA Paper 2004-3621 (AIAA, Reston, 2004). [presented at the 40th Joint Propulsion Conf., Fort Lauderdale, FL, 2004].

[6] Y. Takao, K. Ono, K. Takahashi, and Y. Setsuhara: “Microwave-sustained miniature plasmas for an ultra small thruster”, Thin Solid Films, 2005 (in press).

[7] H. Kousaka, K. Ono, N. Umemura, I. Sawada, and K. Ishibashi: “Plasma distribution in a planar-type surface wave- excited plasma source”, Thin Solod Films, 2005 (in press).

[8] 斧 高一,上坂祐之,石橋清隆,沢田郁夫: “プラズマ処理装置”,特願 2004-188474 (2004). [9] 斧 高一: “エッチング”,「新改訂・表面科学の基礎と応用」,日本表面科学会編 (エヌ・ティー・エス社,

2004),第 3編, 第 1章, 第 3節, 第 6項, pp. 958-968. [10] 斧 高一: “半導体プラズマプロセスシミュレーションとTCAD”, プラズマ・核融合学会誌, Vol. 80,

No. 11 (2004), pp. 909-918. [11] K. Takahashi and K. Ono: “Selective etching of HfO2 high-k gate materials over Si in C4F8/Ar/H2 plasmas”, Proc. 4th

Int. Symp. on Dry Process, DPS-2004 (IEEJ, Tokyo, 2004), pp. 369-374. [12] 斧 高一,北川智洋,井上 実,大沢正典: “半導体処理装置のクリーニング方法およびシリコン基板のエッチング方法”, 特願 2004-374107 (2004).

Ar flow

10 mm

図 2 マイクロプラズマの生成と、プラズマの真空中への超音速自由

膨張

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流体理工学講座 流体物理学分野

教授 木田 重雄,助教授 花崎 秀史,助手 後藤 晋

乱流現象の根本的な理解とその応用を目的として,組織構造による乱流運動の記述や混合輸送現象の解析を数値シミュレーション可視解析によって進めてきている� 本研究グループの本年度の研究活動を以下にまとめる�

�� 研究内容

��� 乱流の構造解析 乱流は時間的空間的に極めて複雑に変動し二度と繰り返すことのない流体運動であるが,その時空間構造を(近似的に)再現する周期運動が存在する� この周期運動は微小な撹乱に対して不安定なので「不安定周期運動」と呼ばれる� われわれは,平面クエット乱流と等方乱流において,それぞれ乱流の時空間構造を再現する不安定周期運動を数値的に得ている� まず,等方乱流の解析では,低波数の運動成分に定常外力を加えた高対称流において多くの周期運動を数値的に求めた.これらの周期運動はただひとつを除き,すべて乱流の特性を示さなかった.ところが,この例外ともいうべき周期運動は,乱流の時空間構造を忠実に再現するもので,エネルギーカスケード過程などが細部にわたって乱流のそれと酷似していることが観察された.この周期運動の時間発展,統計構造,状態空間における軌道の安定特性,エネルギースペクトル等々を詳細に解析した結果,特性の異なる �つの時間帯 �平穏期と活発期�の存在や,乱流運動の力学系としての安定特性など,乱流力学において本質的と思われる成果が得られた.つぎに,クエット乱流の解析では,パッシブ粒子をこの周期運動および対応する乱流運動に流し,拡散混合現象比較解析を行なっている.特に,低 �圧力渦法など本研究グループで開発した可視化法を用いて,渦構造が乱流混合をどのように強めているのかを分析している.また,これまでに得ている周期運動の空間格子点を �倍以上に増やし,より精度のよいデータを作成中である.

��� 乱流混合 乱流による強い混合や輸送の物理機構を理解することを目指して,乱流場とともに運動する粒子の集合の運動の統計性質を直接数値シミュレーションおよび理論解析によって研究している� まず,2次元乱流中の粒子対拡散は,レイノルズ数が十分に大きくて乱流場が統計的に自己相似である場合には,自己相似的な階層構造をなす秩序渦構造による連続した捕獲と放出によるものとしてモデル化できる� この簡単な描像に基づいて粒子対間隔の確率密度関数の時間発展を記述する方程式を導出すると,従来より知られるリチャードソンの拡散方程式が導出される�

また,導出された方程式の解析解は数値シミュレーションの結果をよく再現することが示された�

つぎに,乱流によって移流される流体線や面(流体粒子の集合として定義される曲線や曲面)は乱流の強い混合を反映して指数関数的にその全長や全面積が増大する� このときの伸長率は,乱流中の最小渦のもつ時間尺度(コルモゴロフ時間)�� の逆数で規格化されると期待されるが,実は ��

�� で規格化された伸長率はレイノルズ数とともに増大することを示した� このことは,流体線や面の伸長には最小長さの渦がもっとも強く寄与するが,それらの折り畳みには乱流中に存在するすべての長さスケールの渦からの寄与が無視できないことに起因していると考えられる�

��� 移動する海洋波上の気流構造 大気・海洋間の運動量や熱・物質の交換量の予測には海洋波(風波,水面波)と気流との相互作用の解明が重要である.これに関連して近年,静止波状壁面上の気流についての数値的研究が行われている� しかし,水面波が移動し,それに伴い液側表層に流れが存在する時の気流構造については殆ど研究されていない.平均風速の流線は,進行波と同じ速度で移動する座標系で見た時,臨界高度 ��(平均風速が水面波の位相速度と同じになる高度)で ���� �と呼ばれる閉曲線を描くが,こうした臨界高度近傍の流れと気流から水面波への運動量輸送との関係も不明である.本研究では,水面波が移動する簡略化された系として,水面波が形を変えずに一定速度で進む系(深水重力波の進行波)を想定し,気液界面で液側が深水重力波に伴う流れを持つときの気流場についての数値シミュレーションを行った� その結果,風波の発達率は,波齢(風波の位相速度 �と気流の界面摩擦速度 �� の比 ����)に大きく依存することがわ

第5章 研究室研究紹介

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かった� 例えば,波齢が大きい時 ����� � ���は,風波の発達率が負となり,対数領域での平均風速が増加する� 逆に波齢が小さい時は風波の発達率が正となり平均風速は減少する� また,水面波により生じる気流速度中の波状成分 �� (主流方向成分)と ��(鉛直方向成分)は,�� の近傍で急激に変化し,��� ��� (アンサンブル平均)は鉛直高度 � � �� で正だが, � � ��では逆に負となることなどがわかった�

�� 国際交流

��� 海外派遣 本 ��世紀 ��プログラムの援助を得て,花崎は平成 ��年 ��月 ��日~��日にシアトル �アメリカ�で開催されたアメリカ物理学会流体力学部門年会で研究発表講演を行なった.同じく,後藤は平成 ��年 �月 ��日~�月 �日にトロンハイム �ノルウェー�で開催された第 ��回欧州乱流会議に出席し研究発表講演を行ない,また,平成 ��年 �月 ��日~�月 �日には,ロンドン �英国�に滞在し,インペリアルカレッジの �� � ���������� 教授と乱流拡散に関する共同研究を行なった�

��� 国際会議 国際理論応用力学連合(������ � �! ���� �� � �� �" �#�!����� � $ �%&

%��$ ��#� ���)主催の国際シンポジウム「��' ��!� ��!���� � $ �#! � (�!)��)!� *&

(�+ �,�� � � �)!-)� � .� �'���」(要素渦と組織構造 *& その乱流力学における重要性)を本 ��世紀 ��プログラムの後援のもと,木田が代表となり,平成 ��年 ��月 ��日~��日の3日間,京都市国際交流会館で開催した� 国内から52名,海外から27名(イギリス5名,アメリカ9名,フランス6名,スペイン,ロシア,ポーランド,イタリア,オーストラリア,イスラエル,チェコスロヴァキア,各1名)の計79名の参加者があった�

要素渦とは,乱流を構成する最小の組織構造で,細長い管状の渦構造であり,多くの種類の乱流に共通に観測されている� 要素渦は乱流力学(混合や拡散・抵抗の促進など)において重要な役割を演じるとともに乱流の統計法則(間欠性などの)を特徴付ける基本的な組織運動である� その力学的重要性のゆえに,要素渦などの組織構造の操作は,乱流制御法の開発や乱流モデルの構築に有効な手段と考えられている� この要素渦を中心概念として,乱流の理論,予測および制御の研究における最近の新たな成果を総括し,今後の展開の方向を探ることが本シンポジウムの主たる目的であり,次のテーマなどが議論された�

まず「乱流場の構造と力学」の研究では,チャネル乱流の生成・維持機構を支配する2種類の渦構造(壁面近傍に局在する小規模組織構造とチャネル全体に広がる大規模組織構造)が特定され,互いに生成消滅を繰り返すその力学機構が明らかにされた� つぎに「乱流混合」に関する話題では,渦構造による物質輸送は,複数個の組織構造の協力作用により促進されることに加え,個々の組織構造の組み換え現象が重要なメカニズムであることが見出された� 同時に,組織渦構造の強い混合作用の働きを示す燃焼実験も披露された� さらに,「流れの方程式の数理的側面」の研究では,なめらかな初期条件から出発した流れが有限時間で爆発するかどうかという解の特異性の問題が高精度の数値計算によって調べられ,流れは運動方程式の非線形項を極めて小さくするように発展することが発見された�

参考文献

(� /�$� � $ (� 0���� ��1� + �!� ����� � ���������� �" '��!��� �-2�� ��!��#� + � ������ �!�

#�'�+ �)� �)!-)� �� 3!��� ���#� �)!�� �)!-� � "� ����4� ���&����

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熱流体工学講座 流体工学分野

教授 小森 悟,講師 長田 孝二,助手 伊藤 靖仁

1. はじめに

本研究室では,大気・海洋間での物質と熱の交換機構の解明とそのモデル化に関する研究を主な課題

として研究を行っている.大気・海洋間での物質および熱の交換量の正確な評価を行うためには,大気

乱流場や海洋乱流場に現れる種々の輸送現象の一つ一つを基礎実験を通して解明するとともに,それら

の乱流輸送現象を実験的知見に基づき忠実に表現する物理モデルを構築していくことが必要である.本

研究室では,風波乱流水槽,開水路実験装置および桂インテックセンターに新設した大型の大気・海洋

シミュレーション風洞水槽を用いて,大気・海洋間の物質および熱の輸送を支配する各種因子の影響を

明らかにすることをめざしている.

2. 研究の背景

人類による化石燃料の莫大な消費に伴っ

て発生する炭酸ガス(CO2)等の温暖化物質に

よる地球の温暖化が深刻な問題として取り上

げられるようになって以来,地球の温暖化予

測を正確に行うことが緊急の課題とされてい

る.この温暖化予測には,大気および海洋の

乱流中に現れる物質,熱,運動量の輸送現象

を表す数多くのサブモデルから構成される大循環モデル(GCM: General Circulation Model)が使用されて

いる.ところが,既往の気候モデルに使用されている個々の物理的サブモデルの妥当性が十分に検討さ

れていないため,温暖化の予測に大きな誤差が発生することが危惧されている.大気・海洋間の物質と

熱の交換速度は,図 1 に示すように種々の因子に影響されるものであり,サブモデルがこれらの効果を

正確に表していなければ大気・海洋間での正確な交換量を見積もることはできない.これらの点を考え,

現在,本研究室ではおもに以下の研究を行っている.

3. おもな研究内容

3.1 風波気液界面を通しての物質輸送機構および熱伝達機構の解明 これまでに,大気海洋間での物質

交換速度のパラメタリゼーションをめざして,風波気液界面を通しての物質輸送機構を明らかにしてき

た[1].また,物質と同じスカラ量である熱交換機構を解明するために,放射温度計等を用いて風波気

液界面を通しての熱輸送量を計測した.その結果,風波乱流場における液側熱伝達係数は風速との間に単

純な比例関係を持たず,低風速域では風速とともに増加するが,中風速域では横ばいの傾向を示し,さらに高

風速域では急激に増加するという,風波気液界面を通しての物質輸送と同様の挙動を示すことがわかった.

3.2 気液界面近傍の乱流構造の数値シミュレーションによる解明 これまでの実験研究から,うねりが

気液界面を通しての物質輸送に影響を及ぼすことが明らかになった [2] .そこで,実験では得ることが

非常に困難な風波気液界面の極近傍での乱流構造に関しては,三次元直接数値計算(DNS)を併用するこ

とによってその解明を行った.現在までに得られた知見は次の通りである.うねりが存在する場合には,

圧力抗力が増大することにより波状壁面に働く全抗力は増大するが,剥離流の形成により摩擦抗力は減少す

る.摩擦抗力は気流が液流に与えるエネルギを代表する値であることを考慮すると,うねりにより風波気液界面

での物質交換速度が減少する原因は,摩擦抗力の減少により物質移動を支配する表面更新渦の発生が抑制

されるためであると考えられる.また,実験的に求められる摩擦速度は、壁面に働く真の摩擦速度ではなく圧

力抗力も含めた全抗力を代表する値となる。したがって、摩擦抗力の指標としての摩擦速度を、従来の評価法

を用いて評価するのは適当ではない可能性がある[3] .

図1 大気・海洋間での物質および熱交換に及ぼす諸因子

(Turbulence)Water

Air(Turbulence)

CO Transfer2 Heat Transfer

Bubble

Buoyancy

U

Surface Contamination

Turbulent Eddies

Estimation by GCM

Rain

Droplet

Swell

τ=i ρu*2

第5章 研究室研究紹介

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3.3 崩壊を伴う風波気液界面を通しての物質交換に及ぼす気泡の巻き込みおよび飛散液滴の影響 風

波の崩壊に伴う気泡の巻き込みと液滴の飛散が物質交換速度に及ぼす影響を明らかにするために,界面

下に巻き込まれる気泡と飛散液滴の径および速度をレーザドップラ流速計と位相ドップラ式粒子計測

器(PDA)を用いて測定し,さらに三次元直接数値計算[4,5]を併用することにより,気泡と液滴が界面を

通しての全物質交換速度にどの程度寄与するのかを調べた.その結果,液滴の影響は無視できるが,液

流が塩水の場合,気泡が全物質交換速度におよぼす影響は大きいことがわかった[4,5].また,乱流場で

の液滴の合体に関する数値計算手法の開発も行っている[6].

3.4 気液界面を通しての物質交換に及ぼす降雨の影響 降雨が気液界面を通しての物質交換速度に及ぼ

す影響を解明するため,開水路気液界面上に降雨装置を用いて雨を降らせ,物質の交換速度の測定を行

った.その結果,降雨は気液界面を通しての物質交換を著しく促進させ,雨量が多い場合の物質交換速

度は風速 14m/s程度の風波乱流場での物質交換速度に匹敵することがわかった[7].

3.5 成層状態にある乱流場における運動量・熱・物質輸送機構の解明 海洋表層等の密度(温度)成層が

存在する乱流場や液流にせん断力が働く混合層流における運動量・熱・物質輸送機構の解明,およびそ

のモデル化を行っている[8] [9] [10].

4. 国際交流および講演会等

4.1 共同研究拠点形成 昨年度専攻間協定を結んだ中国海洋大学から教授1名を長期招聘することにより,

共同研究を行った. 4.2 講演会 京都大学時計台ホールにおいて International Workshop 2004 on Air-Sea Interaction

with Gas Transferを開催した(参加者数約80人).その他にも,カルファオルニア大学(アメリカ),ク

イーンズランド大学(オーストラリア),リヨン流体力学音響学研究所(フランス)の教授等による研究講

演会を行った. 4.3 派遣等 大西(博士課程学生)が一ヶ月間ケンブリッジ大学およびワルシャワ工科大学を訪問し,武

者修行を行った.

参考文献

[1] Zhao, D.,Y. Toba, Y. Suzuki & S. Komori, Effects of wind waves on air-sea gas exchange: Proposal of an overall CO2 transfer velocity formula as a function of breaking-wave parameter, Tellus B, 55, (2003), 478-487.

[2] 丹野賢二・小森 悟,風波気液界面近傍の乱流構造と物質移動に及ぼすうねりの影響, 日本機械学会論

文集(B 編) 70-691, (2004), 644-649. [3] 今城孝徳・長田孝二・小森悟,波状壁面上の乱流構造と抗力に及ぼすうねりの影響,日本機械学会

論文集(B編), (2005)印刷中.

[4] Kurose, R., H. Makino, S. Komori, Effects of outflow from the surface of a sphere on drag, shear lift and scalar diffusion, Phys. Fluids, 15, (2003), 2338-2351.

[5] 杉岡健一・小森 悟,風波乱流場での物質移動に及ぼす飛散液滴の影響, 日本機械学会論文集(B 編) 71-701, (2005), 7-14.

[6] 大西領・小森 悟,乱流中における同一径粒子間の衝突頻度に及ぼす重力の影響のモデル化,日本機

械学会論文集(B 編),(2005)印刷中. [7] Komori, S., N. Takagaki, K. Sugioka & K. Nagata, Promotion effects of falling droplets on mass transfer across

the air-water interface, Proc of International Conference on Multiphase Flow 2004, (2004), 73. [8] 長田孝二・佐藤他加志・小森 悟,強い安定密度成層乱流場でのスカラの逆こう配拡散に及ぼす分子拡

散の影響, 日本機械学会論文集(B編) 70-699, (2004), 2776-2784.

[9] Michioka, T., & S. Komori, Large-eddy simulation of a turbulent reacting liquid flow, AIChE. J., 50-11, (2004), 2705-2720.

[10] 伊藤靖仁・小森 悟,発達中の液相混合層における運動量および物質の輸送機構, 日本機械学会論文

集(B編) 71-701, (2005), 14-21.

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航空宇宙解析工学講座空気力学分野

教授 永田雅人,助教授 河原源太,助手 武田英徳,助手 板野智昭

1. はじめに

地球環境に占める流体の運動によって引き起こされる諸物質の輸送・混合特性を的確に把握するには,流体自身の回転(地球の自転によるコリオリ力)や熱(たとえば極・赤道間の温度差,マントル内部の放射性物質による発熱)の移流による運動の変化を正確に知る必要がある.一般に,層流(基本流)の速度が増加するにともない基本流は安定性を失い,2次流れ,3次流れへと分岐をくり返しながら乱流に遷移して行く.本研究室では Navier-Stokes方程式の厳密解を基本流とする層流から乱流への遷移過程を動的機能メカニカル・システムとして捉え,その過程における現象の解明に取り組んでいる.

2. 内部発熱流

平行な2つの境界によって隔てられた領域(チャンネル)を占める流体内部に発熱源を一様に分布させたときに生じる基本流は,よく知られた平面ポアズイユ流と同様,中心面に対し対称だが,平面ポアズイユ流と決定的に異なる点は Rayleighの不安定性条件を満足する変曲点を有することである.この流れの,2次元および3次元の線形・非線形安定性解析を行った結果,チャンネルが鉛直に設置されている場合は流れの方向に伝播する2次元流(横渦解)が超臨界分岐するが,チャンネルを鉛直からわずか1~2度傾けるだけでスパン方向に周期性をもつ縦渦解が先に分岐してしまうことが判明した([1],[2]).これら2次流れと基本流とでは運動量および熱量輸送特性が大きく異なる.現在,これら縦渦解と横渦解の非線形相互作用の解明に向けて解析を行っている.又,内部発熱による水平流体層での対流,鉛直ダクト内の流れ ([3])についても解析を行っている.

参考文献

[1] S. Generalis and M. Nagata, Transition in homogeneously heated inclined plane parallel shearflows, J. Heat Transfer, 125 (2003), 795-803.

[2] M. Nagata and S. Generalis, Transition in plane parallel shear flows heated internally, ComptesRendus Mecanique, 332 (2004),9-16.

[3] M. Uhlmann and M. Nagata, Linear stability of flow in an internally heated rectangular duct, Sub-mitted to J. Fluid Mech., (2005).

3. 自然対流

異なる温度に保たれた2枚の鉛直平板間に発生する流れの分岐は温度差に比例するグラスホフ数によって支配される. グラスホフ数が十分小さいと3次関数型の基本流が安定に存在するが,グラスホフ数が臨界値を越えると基本流は変曲点型不安定性を起因とした超臨界分岐を多段的に繰り返すことで乱流に遷移する. この流れの解析は自然対流における分岐が乱流遷移に果たす役割を知る上で極めて示唆に富んだ結果をもたらすことが期待される.当研究室では分岐解析と直接数値計算を相補的に用いることにより,基本解が不安定化してから

最初に乱流解が現れるまでのグラスホフ数の範囲で基本解から極めて多様な解(安定解と不安定解の双方を含む)が存在していることを新たに示した. 2次元横渦解,スパン方向へ流量を持つ3次元定常進行波解,3次元周期解,振幅を周期的に変動させながら横方向に進行する3次元周期的進行波解,2次元的斜め横渦解とそこから分岐する3次元定常解,3次元間欠解などが挙げられる.Nagata & Busse [1]によれば,グラスホフ数の増加に伴って2次元横渦解が不安定化した後に現れる3次分岐解は,横渦解の流れ方向の波長の倍波長をもった3次元定常解である. 興味深い点はこ

第5章 研究室研究紹介

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の3次元定常解が更に不安定化した直後に現れるカオティックな解が,前述した2次元横渦解の第2臨界グラスホフ数から分岐する進行波解や周期解の性質を多く持ち合わせている点である [2].現在,調べられた多様な分岐解と乱流遷移の関係をより綿密に調べることで自然対流の制御の可能性を模索するとともに,空気・水などプラントル数が非零の値をもつ広いクラスの流体を対象にした場合に解析を拡張している ([3]).

参考文献

[1] M. Nagata and F. H. Busse, Three-dimensional tertiary motions in a plane shear layer, J. FluidMech., 135 (1983), 1-26.

[2] M. Nagata and T. Itano, Numerical modelling of the transition from laminar to turbulent stages in asimple parallel shear flow, Conference Proceeding on Modelling Fluid Flow ’03 (edited by T.Lajos,J.Vad), 1 (2003), 588-594.

[3] M. Nagata, T. Itano and R. Nakamura, Generation of spanwise momentum in a simple shear layer,Presented at the 57th British Applied Mathematics Colloquium, (2005).

4. 回転・非回転平面せん断流

平面クエット流は最も簡単な速度プロフィールをもつ剪断流であるが,その乱流への遷移については依然として不明な点が多い.それは,線形安定性理論に基づく解析によると,平面クエット流の基本層流解が任意の有限レイノルズ数において安定であるためであり,系をスパン方向の軸まわりに回転させると,この流れの線形安定性は大きく変化する.回転平面クエット流では回転率の増加にともない,流れ方向に依存しない渦列をともなう2次元定常解(縦渦解)が層流解から超臨界分岐し,さらにこの縦渦解から3次元定常解(波状縦渦解)が分岐する.この波状縦渦解からのホップ分岐によって周期解が現われることが Nagata [1]により示されている.この振動不安定で生じる周期解のひとつを直接数値シミュレーションあるいはニュートン法によって数値的に求め,系の回転率およびレイノルズ数を変化させながら追跡した.その結果,この周期解は波状縦渦解からのホップ分岐によって現れるとともに,他方ではホップ分岐点とは異なる回転率において流れ方向に一様な縦渦解からのホモクリニック分岐によっても生成されることを明らかにした.さらに,回転率をゼロに近づけながら周期解を追跡することで,この解が非回転状態においても存在することを明らかにした([2]).非回転の平面クエット系においては,壁近傍乱流中のストリークや縦渦といった秩序構造の生

成・維持サイクルを再現する不安定周期解 [3]が乱流の観測される高レイノルズ数域において得られている.現在は上述の周期解とこの周期解との関連性を調べるとともに,乱流域に存在する不安定周期解を安定化することにより乱流を制御する試みに取り組んでいる.制御研究の初期段階として,カオス制御理論のうち最も基本的な Pyragasの外力法を用いて不安定周期解の安定化を試みている(本報告書中の「ミニマル平面クエット系の不安定周期軌道と乱流制御」参照).又,回転ポアズイユ流の分岐解析も行っている ([4]).

参考文献

[1] M. Nagata, Tertiary solutions and their stability in rotating plane Couette flow, J. Fluid Mech., 358(1998), 357-378.

[2] M. Nagata and G. Kawahara, Three-dimensional periodic solutions in rotating / non-rotating planeCouette flow, Advances in Turbulence, 10 (2004), 557–560, CIMNE.

[3] G. Kawahara and S. Kida, Periodic motion embedded in plane Couette turbulence: regenerationcycle and burst, J. Fluid Mech., 449 (2001), 291-300.

[4] D. P. Wall and M. Nagata, Nonlinear secondary flow through a rotating channel, Submitted to J.Fluid Mech., (2004).

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物性工学講座 熱流体物性学分野

教授 牧野俊郎,助教授 松本充弘,助手 若林英信

Abstract: We have focused on various complex systems from thermal engineering points of view. Three projects have been done this year: (1) thermal radiation from regulated surfaces, (2) control of microbubbles with ultrasonic waves, and (3) transport at vapor-liquid interfaces. Key words: Thermal radiation, Microbubbles, Gas absorption

1. はじめに

物性工学講座熱流体物性学分野(改組後は熱物理工学分野)では,「複雑系」に関する熱工学の課題と

して,表面の熱ふく射,固体/固体界面の接触熱抵抗,ミクロスケール・分子スケールにおける熱流体物

性,などのテーマを設定し,その研究を進めてきた.また,当研究室はアジアの熱工学の大学間学術交

流の拠点として,日中韓の3大学熱工学国際会議を継続開催するなどにより,リーダーシップをとって

きた.

2. 表面の熱ふく射の研究

2.1 熱ふく射物性 本研究室では,工学系を構成す

る表面の熱ふく射性質を研究してきた.その目的は,

系におけるふく射伝熱を適切に評価するためにふく射

分光学の基礎を明らかにすることにある.われわれは,

近紫外~赤外域のふく射の反射と放射のスペクトルを

同時に繰返し測定する広波長域高速スペクトル測定装

置を開発し,表面のふく射反射・放射現象のダイナミ

ックスを捉える研究を進めてきた.

2.2 熱ふく射診断 このスペクトル測定装置を基礎

として,測定された反射と放射のスペクトルを解析し,

表面の温度や被膜の厚さ・表面あらさなどを時々刻々

に診断する表面診断法を開発しつつある.この方法は,

非接触的に実時間診断するインプロセス表面診断法の

開発に発展しうるものである.

2.3 熱ふく射工学 酸化被膜をもつ金属表面から放

射される熱ふく射が明瞭な被膜干渉の挙動を示すこと

に注目し,このようなふく射干渉を制御することによ

って,所要の波長域のふく射を強く放射する放射体

(emitter)が得られる可能性を追求した[1,2]. 熱ふく

射分光学の実験と球面電磁波動論の計算を行って,この干渉現象を確認・説明し,その現象に基づいて,

身近な熱エネルギーから所要の波長のふく射を得て,これを光電発電に利用し電気エネルギーをより直

接的かつ有効に得る技術の開発をめざしている.

3. 固体/固体界面の接触熱抵抗の研究

3.1 接触熱抵抗の超音波診断 接触熱抵抗は,接触面の複雑なミクロ形状や接触面への印加圧力に強く

依存し,また,その状態は経時変化するので,その値を系の設計段階で見込むことは難しい.われわれ

は,接触面の外部から超音波を照射し,その接触面による反射波を測定・解析して接触状況を推定し,

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0

0.8

0.6

0.4

0.2

00.7 1 2 5 10

λ µm

R NN

ε N 1

20

RNNcalc

εNcalc

RNNexp3

RNNexp2

RNNexp1

εNexp3

εNexp2

εNexp1

Fig.1 Calculated reflectance and emittance of a film system, compared with experiments [2].

第5章 研究室研究紹介

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接触熱抵抗を推定する方法を提案・研究して,その実用化にむけて実験的研究を行っている.

3.2 結晶の界面における接触熱抵抗 積層薄膜をもって構成する電子回路の薄膜界面近傍においては,

界面における結晶のミスフィット・歪んだ結晶の局所的なアモルファス化のために,nmのオーダにおけ

る接触熱抵抗現象が生じる.この現象の要因は,原子の結晶格子を伝搬する弾性波が界面において散乱

されることによるもので,結晶のミクロ構造が解明の鍵とな

る.我々は,分子動力学法による格子振動伝搬の解析を行っ

ている [3, 4].

4. マイクロスケール・分子スケールの熱流体物性の研究

気液界面での輸送現象やマイクロ気泡のダイナミクスなど

について実験と分子動力学計算による研究を進め,熱工学・

化学工学のマイクロリアクター開発をめざす研究を進めてい

る.

4.1 マイクロ気泡ダイナミクス 10nm から 100μm 程度のマ

イクロ気泡について,超音波照射による振動制御の実験[5] や分子動力学法による界面吸着ダイナミクスの解明[6] を行っ

ている.

4.2 液体表面での気体吸収機構 海洋など電解質水溶液表面

における二酸化炭素吸収のメカニズム解明のため,大規模分

子動力学計算を行い,界面での物質輸送の速度と機構を調べ

た.

5. あじあ3大学との熱工学学術交流

本研究室では,あじあ3大学(京都大学・ソウル大学・清華

大学)の学術交流事業を進めてきた.平成16年度には,「第4

回あじあ3大学熱工学会議」を,21世紀COEプログラムの一

環として,12月14-16日の日程で本学において開催した.本学から牧野俊郎・小森悟・吉田英生・稲室

隆二ほか計19名,ソウル大学からJ.S. Leeほか計7名,清華大学からZ.X. Liほか計5名が参加した.

18 編の論文発表と企業訪問があり,会議録 “The 21st Century COE Program: Kyoto - Seoul National- Tsinghua University Thermal Engineering Conference, 2004", Kyoto University (2004) を刊行した.

文献

[1] T. Makino, H. Wakabayashi, M. Matsumoto, “Interference of Spherical Wave of Thermal Radiation Emitted by a Film System and a Grating System”, Proc. the First International Forum on Heat Transfer, Kyoto (2004) 185.

[2] T. Makino, H. Wakabayashi, “Interference of Spherical Wave of Thermal Radiation Emitted by a Film System and a Grating System”, Proc. 6th KSME-JSME Thermal and Fluids Engineering Conference, Jeju, Korea (2005) 179.

[3] M. Matsumoto, H. Wakabayashi, T. Makino, “Microscale Heat Conduction and Thermal Resistance: Lattice Vibration Analysis”, Proc. 1st International Symposium on Micro & Nano Technology, Honolulu (2004) 162.

[4] M. Matsumoto, H. Wakabayashi, T. Makino, “Thermal Resistance of Crystal Interface: Molecular Dynamics Simulation”, Heat Transfer – Asian Research, 34 (2005) 135.

[5] M. Matsumoto, K. Yasuoka, T. Kinjo, “Bubble at Molecular Scale”, Proceedings of Japan-US Seminar on Two-Phase Flow Dynamics, Nagahama (2004), 123.

[6] M. Matsumoto, T. Matsuura, “MD Simulation of a Rising Bubble”, Molecular Simulation, 30 (2004) 853.

Fig. 2 Adsorption of model surfactants on a moving bubble [6].

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熱流体工学講座 熱システム工学分野

教授 吉田 英生,講師 岩井 裕,助手 金丸 一宏,齋藤 元浩

1. 当研究室における研究の概要

本研究室では,次世代分散型エネルギーの担い手として脚光を浴びるマイクロガスタービン・燃料電

池のハイブリッドシステムの解析や各個別要素の性能向上に関する研究を中心に,種々の熱システムを

対象として,理論と実験の両面からその諸現象の解明と最適化に取り組んでいる.研究に際しては,既

存技術の延長線上にある着実な性能向上のみならず,例えば相変化を利用した軸受の高性能化や新たな

エネルギー変換過程の導入によるガスタービンの高性能化など,従来の機械システムに複雑な熱現象を

新たな視点で導入することで,飛躍的な性能向上が期待できる技術の開発やその基礎現象の解明にも重

点を置いている.また,機械システムのスケールを加工・組立て限界まで小さくしたマイクロシステム

では,スケール効果による表面張力・熱伝導の影響増大や流れの層流化などが顕著となり,熱流動現象

に関わる支配的要素が従来の機械システムとは異なる点に注目し,それらの効果を積極的に利用あるい

は抑制することで,ポンプ作用や発電等の新たな機能の実現が可能なマイクロシステムの開発にも力を

入れている.

以下では,本拠点活動における我々の主要な研究課題である「熱電変換を利用したマイクロ熱システ

ムの研究」と「往復動流中に挿入された円柱周りの流動と熱伝達」「ブラックホールと超音速流とのアナ

ロジーに基づくホーキング輻射理論の実験的検証」についてその概要を述べるとともに,本拠点活動と

関わりの深い研究についても併せて紹介する.

2. 熱電変換を利用したマイクロ熱システムの研究

矩形フィン形素子を利用したマイクロ熱電発電システム

近年研究が盛んなMEMSタービンなどのマイクロ熱機関では,炭化水素の化学エネルギーを利用できる

ため,その変換効率がわずか3%程度でもリチウムイオン電池のエネルギー密度を陵駕できる.そこで

我々は,変換効率の低さゆえにマクロなシステムではあまり利用されていないものの,可動部がなく温

度差があれば発電可能という利点を持つ熱電発電に注目し,熱電素子を利用したマイクロ熱電発電シス

テムの研究を進めている.熱電発電では素子両端の温度差が大きいほど出力も変換効率も大きくなるた

め,システムの小型化に際しては必要な素子両端温度差を確保することが重要となる.しかし,マイク

ロシステムでは熱伝導が支配的となって固体部(素子部)の等温化が問題となりやすく,従来のシステ

ムを単にスケールダウンするだけでは十分な出力や効率が期待できない.そこで本研究では,熱電発電

システムの小型化に伴う等温化の問題を回避可能なうえ,MEMS製造プロセスへの適用性を考慮したシン

プルな構造を持つマイクロ熱電モジュールを新たに提案し,その基本構成要素である矩形フィン形熱電

素子の発電特性を記述する数理モデルの構築とそれを利用したシステム設計理論の構築などを行った.

現在,開発した設計理論に基づいて実機の試作と性能実証試験を行っている.

3. 熱システムにおける複雑熱流動現象の解明とその応用

3.1 往復動流中に挿入された円柱周りの流動と熱伝達

蓄熱型熱交換器での利用を念頭に,これまでにも金属メッシュの蓄熱材としての性能評価が試みられ

ているが,未だその知見は限定的である.そのため,実用上は過去に蓄積されたデータと経験から蓄熱

材を選定することが一般的であり,要求仕様にあわせて最適な蓄熱材を設計することは現状では困難と

いえる.圧力損失を低く抑えながらも高い温度効率を実現するという目的のもとで,より能動的に金属

メッシュの最適設計を行うためには,蓄熱部における微視的な熱流動現象の詳細を解明することが不可

第5章 研究室研究紹介

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欠である.そこで本研究では,金属メッシュの基本要素を模した円柱および円柱群が平均速度ゼロで流

速が時間的に変動する往復流にさらされた場合の流動場と熱移動現象を明らかにし,最適金属メッシュ

設計法確立の一助となることを目指している.往復流下においては,ある半周期で円柱から放出された

カルマン渦が次の半周期で円柱付近まで押し戻され,そこでの伝熱現象に影響を与えるなど,流れのは

く離・再付着現象を伴う複雑な熱流動場が形成されるため,その詳細解明は基礎学術の視点からも興味

深い.本研究の実施により,往復流中に設置された円柱まわりの流れ場や円柱表面の熱伝達率と往復流

の振幅および周波数の関係,さらにその伝熱メカニズムについての知見が得られることは,将来の金属

メッシュ蓄熱材の最適設計に資するのみならず,平均流速ゼロの往復流中に物体が挿入される系の熱流

動場の基礎的知見としても有用と考えられる.

3.2 超微細多孔質表面からの水蒸発を伴うハイブリッド気体軸受

マイクロガスタービンでは高回転,高温かつ頻繁な起動停止がある運転条件から,軸受には抵抗が小

さく,高温下でも安定な気体軸受を用いることが望ましい.しかしながら,気体軸受では高速作動条件

下での不安定性,起動・停止時の摩擦,軸の過熱が問題となる.そこで我々は,軸受に超微細多孔質金

属を用いて軸受隙間に水を供給し,その蒸発を利用して高性能化させる新方式の軸受を提案している.

これは,起動・停止時には水潤滑によって軸と軸受の接触を回避できるほか,軸の高温・高速回転時に

は相変化を起こして軸を冷却しつつ気体潤滑(水蒸気潤滑)へと移行し,通常の動圧効果に加えて蒸気

発生による静圧効果を重畳させることで一層の軸心安定化を図るものである.この軸受の実現に向けた

研究として,理論面では蒸気発生モデルを組み入れたレイノルズ方程式と軸の運動方程式を連立して解

くことで軸の動特性解析を行っているほか,実験では超微細多孔質金属を用いた水潤滑・遷移潤滑・水

蒸気潤滑における軸の運動特性の観測や水供給制御も含めた軸受システムの開発に取り組んでいる.

3.3 ガスタービン高効率化のための全温一定膨張燃焼過程の導入

出力数~数十 kW のマイクロガスタービンは近年注目される分散エネルギーシステムを担う有力な候

補の一つであるが,その熱効率は再生サイクルを用いても 30%程度にとどまる.これは,ガスタービン

の小型化に際して避けることが困難な,タービン断熱効率の低下やタービン入口温度の低下という問題

に起因しており,さらなる熱効率の向上には別の観点が必要と考えている.そこで我々は,熱サイクル

を根本から見直し,従来の等圧膨張過程に換えて全温一定膨張過程という新たなエネルギー変換過程を

導入することで,最高温度の上昇を絶対的な要件としない熱効率の改善に取り組んでいる.具体的な研

究としては,前述のサイクル論的考察のほか,断熱膨張による作動流体のエンタルピー低下を補いなが

ら全温一定を維持するタービン内燃焼を安定に維持・制御するための,小容積・高速気流中における保

炎技術や高速混合技術の開発に実験,数値解析の両面から取り組んでいる.

4. ブラックホールと超音速流とのアナロジーに基づくホーキング輻射理論の実験的検証

ブラックホールで起こるホーキング輻射をラバルノズルで作られる擬似ブラックホールを用いて類似

の現象を観測することを目的とする.流体を音速で流すと下流側から発した音波は上流側に伝わらない.

この現象とブラックホールの光波がブラックホールの外に伝わらないという現象とのアナロジーによっ

て擬似ブラックホールを作り出す. 実際のブラックホールからの放射では,放出されるのは量子力学

的な粒子でありノズルでそれを観測することは不可能である.そこで,非量子的な対応物を次のように

考える.下流から音波を発しながらノズルの流れの流速を速くしていくと,流れが音速を超えたとき音

波は上流に伝わらなくなる.しかし,流れが音速になる瞬間にスロートを通過した音波はゆっくりでは

あるが上流に伝わる.この音波の振動数のパワースペクトル分布が,実際のブラックホールから放出さ

れる粒子数の分布に対応していることが知られている.現在,製作したラバルノズル内の超音速流に対

して下流よりスピーカーからの音波を浴びせ,上流側に伝わる音波を高感度マイクを用いて検出し,そ

のスペクトル分布を解析する実験を行っている.