介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日...

37
介護費用の長期推計 20149191回持続可能な介護に関する研究会 京都大学経済研究所 中澤正彦 財務総合政策研究所 酒井才介 財務総合政策研究所 佐藤潤一

Upload: others

Post on 26-Jan-2020

4 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

介護費用の長期推計

2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会

京都大学経済研究所 中澤正彦 財務総合政策研究所 酒井才介 財務総合政策研究所 佐藤潤一

Page 2: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

問題意識 • 介護制度は、人々の長期的な行動に影響を与える。 – 家庭内の介護に携わる者の就労に大きく影響。 – 制度が不安定だと認識されると予備的貯蓄が増加。

• 「長期的な行動に影響を与える」→長期的に安定的な介護制度の構築が求められている。

• 介護需要の急増を認識し、それを踏まえ、持続可能な制度設計に取り組む必要。

• 持続可能性の評価のためには、介護費用の長期推計が必要。 – 厚生労働省の長期推計は2025年。しかし、それ以降も人口動態の変化は続くことから、本分析では、第2次ベビーブーム世代が80歳代後半となる2060年までを長期推計期間とする。

2 持続可能な介護に関する研究会

Page 3: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

参考:将来推計人口と平均寿命・余命

日本の将来推計人口 (2012年1月推計)

22,932 20,146 12,970 11,045

75,642 67,830

46,430 41,050

15,290

17,334

13,830

11,279

14,194 18,790

23,846

23,362

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 2060

千人

75歳以上

65~74歳

20~64歳

0~19歳

2010年1.28億

2060年0.87億

2050年0.97億人

2020年1.24億人

日本の平均寿命・平均余命の推移

(データ出所)国立社会保障・人口問題研究所

3

1961年 1973年 2012年 2060年

平均寿命 (男性) 66.0 70.7 79.9 84.1

平均寿命 (女性) 70.8 76.0 86.4 90.9

平均余命 (65歳、男性) 11.9 13.2 18.9 22.3

平均余命 (65歳、女性) 14.1 16.1 23.8 27.7

平均余命 (75歳、男性) 6.7 7.4 11.6 14.5

平均余命 (75歳、女性) 7.8 9.1 15.3 18.8

持続可能な介護に関する研究会

Page 4: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

参考:介護総費用対名目GDP比の推移と 厚生労働省の見通し

4

0.70% 0.92%

1.04% 1.14% 1.23% 1.27% 1.26% 1.31% 1.41%

1.56% 1.62% 1.73%

1.88% 1.94%

3.20%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 ~ 2025 ~ 2060

2006年度 地域密着型サー

ビス創設

2005年度 介護保険法

改正

2008年度 介護保険法

改正

2012年度 介護保険法

改正 地域包括ケアシステムの

構築

2012年度 厚生労働省の推計1

(改革シナリオ)

2.70%

2012年度 厚生労働省の推計2 (現状投映シナリオ)

(データ出所)社会保障審議会介護保険部会第46回(2013)「介護保険制度を取り巻く状況等」より作成 (注)2025年度は厚労省による推計値。「社会保障に係る費用の将来推計について<改定後(24年3月>(給付費の見直し)

持続可能な介護に関する研究会

Page 5: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

先行研究の紹介 • 介護保険総費用の長期推計に関する研究 ①田近・菊池(2004) →厚生労働省モデル(2004年推計)を再現し、認定率、在宅 利用者割合、在宅利用額割合など推計の基礎となるパラ メーターを変化させ、2025年までの介護費用を推計している。 ②岩崎・金・吉田(2006) →2005年時点での認定率・受給率・一人当たり費用が不変 のものとして、2050年までの介護費用を推計している。 ③北浦・京谷(2007)、北浦他(2009) →厚生労働省(2006)、内閣府(2007)、OECD(2006)等の介護 費用の長期推計の方法を検討し、2025年までの介護費 用の将来推計を行い、その平均伸び率の要因分析を 行っている。

5 持続可能な介護に関する研究会

Page 6: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

先行研究の紹介 • 介護保険総費用の長期推計に関する研究 ④上田・堀内・筒井(2011) →2009年時点での認定率、利用率を一定とし、一人当たり 費用は賃金上昇率で延伸している。特に在宅サービス一人当 たり費用は増加する傾向が観察されるため、利用限度額比率 を2025年まで上昇させている。 ※財政制度等審議会(2014/4/28)では、介護給付等支出の 2060年までの長期推計を公表している。長期推計の前提 は、上記の④上田他(2011)をベースにしている。 ⇒多くの先行研究の長期推計は「制度が安定」しているという 前提の下、推計を行っている。 ※ここでの「制度の安定」とは、認定率や利用率等が直近の実 績値が継続すると仮定して延伸することを言う。

6 (注)認定率とは人口に占める認定者の割合、利用率とは認定者に占める利用者の割合を指す。

持続可能な介護に関する研究会

Page 7: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

財政の長期推計の手法の流れ

• Blanchard et al.(1990) – 背景 1980年代前半 財政赤字と政府債務残高の増大(「unwise」と同時に「unsustainable」)

– 維持可能性の指標を提唱 「現在の政策が続くと将来どうなるかを示す」(明確、理解しやすい)

– 短期、中期、長期の財政のギャップを試算 • 国際機関や諸外国の財政当局の取組 • 日本では、北浦(2009)、上田(2012)、財政制度等審議会による試算(2014年5月30日「財政健全化」に向けた基本的考え方)

7 持続可能な介護に関する研究会

Page 8: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

上田(2012)『動学的コントロール下の財政政策 社会保障の将来展望』 経済環境を一定と仮定する部分均衡分析

(1) 人口構造の変化を前提とした“Age-related expenditure”(年齢関係支出:年金・医療・介護等の支出)の将来推計 人口構造の変化を踏まえ、現在の社会保障制度の下での「年齢別の一人当た

り給付・費用」を前提として、高齢者の増加による財政支出を推計する。 将来の給付・費用が、経済状況(賃金・物価)とどのように連動するかを考慮す

る。

(2) 税収・社会保険料の将来推計 (将来の収支ギャップの要調整幅の推計) 現在の制度の下での「GDPと税収・社会保険料の関係」を前提として、将来の

税収・社会保険料を推計する。 支出と収入の将来推計結果から、収支ギャップ、要調整幅を計算する。

(参考) European Commission(2012a) “The 2012 Ageing Report : Economic and budgetary projections for the 27 EU Member States (2010-2060)” European Commission(2012b) “Fiscal Sustainability Report 2012” [S0 indicator (short-term), S1 Indicator (medium-term), S2 Indicator (long-term)]

8 持続可能な介護に関する研究会

Page 9: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

年金、医療・介護の将来推計の経済前提

人口に関する前提: 国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」 2012年1月の出生率・死亡率中位ケース

経済に関する前提: 2023年度まで内閣府(2012)の「慎重ケース」 2024年度以降は「年金財政検証」(2009年2月)の長期的な実質賃金 上昇率(1.5%)、物価上昇率(1.0%)、運用利回り(4.1%)を使用

経済成長率・金利の前提(人口中位)

-2

-1

0

1

2

3

4

2010 2020 2030 2040 2050 2060

長期金利

名目経済成長率

実質経済成長率

9 (出所)上田・米田・太田(2014)

持続可能な介護に関する研究会

Page 10: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

10

上田他(2014)における年齢関係支出の推計

持続可能な介護に関する研究会

Page 11: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

11

• 「各サービスの要介護度に応じた一人当たり介護費の金額(CARE_PUS,G,t)」と「各サービスの要介護度に応じた利用者数(NUS,G,t)」の積から、将来の介護費総額を求める。

• 一人当たり費用は賃金上昇率で延伸する。また、在宅サービス一人当たり費

用は増加する傾向が観察されるので、利用限度額比率において2025年まで上昇させている。

tGGG

tGStGSS

t SUPCARENUPUCARECARE ,,,,, _)_(   +  ∑∑∑ ×=

介護総費用額 一人当たり 介護費の金額

利用者数 特定入所者 介護サービス費

介護総費用の推計方法【上田2012】

持続可能な介護に関する研究会

Page 12: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

介護総費用と年齢別認定率

年齢別要支援・要介護認定率 (2011年5月~2012年4月)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

12 (データ出所)内閣府、厚生労働省

× 年齢区分別人口 × 利用率 × 一人当たり費用 = 介護総費用 (注) 毎年、一人当たり名

目賃金上昇率で一人当たり介護費は上昇。

持続可能な介護に関する研究会

Page 13: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

介護総費用の財源

• 自己負担額の確定(総費用×実効負担率) • 残額を制度に基づき負担

– 50% 保険料(人口比 1号被保険者、2号被保険者)

– 50% 公費負担(国、都道府県、市町村)

13 持続可能な介護に関する研究会

Page 14: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

二つのシナリオの導入

• 制度浸透シナリオ(費用上振れシナリオ) – 総費用=人数×認定率×利用率×一人当たり費用 – 制度浸透期間中は、認定率が上昇(←申請率の上昇:需要サイド)するほか、利用率及び一人当たり費用が上昇(←供給体制の拡充:供給サイド)するシナリオ。

• 健康シナリオ(費用下振れシナリオ)

– 介護費用の長期推計に、 「長寿化」に関する人口統計学上の研究(Sanderson and Scherbov 2005, Nature, 金子2010)を反映させるシナリオ。

• 中澤他「高齢化・長寿化と社会保障」(近刊) – 具体的には、平均余命の伸長により健康な期間が長期化し、年齢階層ごとの認定率が長期的に低下するシナリオ。

14 持続可能な介護に関する研究会

Page 15: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

制度浸透シナリオ

15 持続可能な介護に関する研究会

Page 16: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

介護総費用の分解と「制度の浸透期間」

• 介護総費用= 人数×認定率×利用率×一人当たり費用

• 認定率…介護保険制度創設当初からしばらくの間(制度の浸透期間)は上昇する。客観的な方法で認定者が決定されるため、制度浸透期間後は年齢別の認定率は安定することが期待される。

• 利用率…認定者が介護サービスを受けられる率は、供給体制の充実度に依存している。制度の浸透期間は供給体制が充実し、利用率が上昇すると考えられる。

• 一人当たり費用…サービス単価は3年に一度改定される介護報酬で決められている。費用は供給体制に依存している。

→一人当たり費用と供給体制の関係について、簡単な回帰分析により関係を確認(後述)。

16 持続可能な介護に関する研究会

Page 17: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

介護費用の要因分析 ~年齢・要介護度別認定率の推移~

17

0.0%0.5%1.0%1.5%2.0%2.5%3.0%3.5%4.0%4.5%5.0%5.5%6.0%6.5%7.0%7.5%

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

【要支援1】 年齢層別認定率の推移

全体

40~64歳

65~69

70~74

75~79

80~84

85~89

90~94

95歳以上 0.0%0.5%1.0%1.5%2.0%2.5%3.0%3.5%4.0%4.5%5.0%5.5%6.0%6.5%7.0%7.5%8.0%

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

【要支援2】年齢層別認定率の推移

全体

40~64歳

65~69

70~74

75~79

80~84

85~89

90~94

95歳以上

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

【要介護2】年齢層別認定率の推移

全体

40~64歳

65~69

70~74

75~79

80~84

85~89

90~94

95歳以上

0%

5%

10%

15%

20%

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

【要介護1】年齢層別認定率の推移

全体

40~64歳

65~69

70~74

75~79

80~84

85~89

90~94

95歳以上

(データ出所)厚生労働省(2012)「平成23年度介護保険事業状況報告(年報)のポイント」より作成 持続可能な介護に関する研究会

Page 18: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

介護費用の要因分析 ~年齢層・要介護度別認定率の推移~

18

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

2003200420052006200720082009201020112012

【要介護3】年齢層別認定率の推移

全体

40~64歳

65~69

70~74

75~79

80~84

85~89

90~94

95歳以上

0%

5%

10%

15%

20%

25%

2003200420052006200720082009201020112012

【要介護4】年齢層別認定率の推移

全体

40~64歳

65~69

70~74

75~79

80~84

85~89

90~94

95歳以上

0%

5%

10%

15%

20%

25%

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

【要介護5】年齢層別認定率の推移

全体

40~64歳

65~69

70~74

75~79

80~84

85~89

90~94

95歳以上

(データ出所)厚生労働省(2012)「平成23年度介護保険事業状況報告(年報)のポイント」より作成

認定率は直近においても上昇している。

持続可能な介護に関する研究会

Page 19: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

介護費用の要因分析 ~サービス別利用率の推移~

19

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

50%

55%

60%

65%

70%

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

サービス別利用率の推移

居宅サービス利用率

施設サービス利用率

地域密着サービス利用率

(出所)厚生労働省(2012)「平成23年度介護保険事業状況報告(年報)のポイント」より作成

施設介護サービス利用率が低下傾向にある一方、在宅介護サービス利用率は上昇傾向にある。

持続可能な介護に関する研究会

Page 20: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

介護費用の要因分析 ~サービス・要介護度別一人当たり費用の推移~

20

50

70

90

110

130

150

170

190

210

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

在宅サービス要介護度別一人当たり月額費用

合計

要介護1

要介護2

要介護3

要介護4

要介護5

(千円)

150

170

190

210

230

250

270

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

地域密着型サービス要介護度別一人当たり月額費用

合計

要介護1

要介護2

要介護3

要介護4

要介護5

(千円)

190

210

230

250

270

290

310

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

施設サービス要介護度別一人当たり月額費用

合計

要介護1

要介護2

要介護3

要介護4

要介護5

(データ出所)厚生労働省「介護給付費月報」より筆者作成

(千円)

高い要介護度において在宅サービス、及び地域密着型サービスに係る一人当たり費用が伸びている。

持続可能な介護に関する研究会

Page 21: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

制度浸透シナリオの概要

① 年齢別の認定率及び利用率が一定と仮定=高齢化の影響は加

味しているが、今後高齢者が介護サービスを利用する度合いが変わらないという仮定(制度浸透期間が終了していると仮定)。

② 一人当たり費用は一人当たり名目賃金上昇率で延伸。 ① 在宅介護サービスについては、認定率、利用率は直近も上昇し

ている。→介護保険制度がまだ制度浸透期間内と考え、認定率、利用率を一定期間上昇させる。

② 供給体制が量的に拡大すれば、一人当たり費用も増加すると考えられる。→本研究では、介護従事者数の増加との関係を検証し、一人当たりの費用の上昇率を設定する。

(注)施設介護サービスは上田モデルと同様、人口に対する利用者の割合を一定と仮定。

21

上田モデル

制度浸透シナリオの概要

持続可能な介護に関する研究会

Page 22: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

制度浸透シナリオの設定①(認定率上昇)

平均余命等価年齢(健康寿命)は延びており(注)、制度浸透期間後であれば、年齢階層ごとの認定率は低下するものと考えられる。しかし、実際には、年齢階層毎の認定率は上昇している。 →制度浸透期間内と考えられる。 (注)2000年時点の65歳と平均等価余命年齢は、2010年には男女ともに67歳弱。

認定率が過去3か年(注)の平均伸び幅で機械的に10年間継続して上昇すると仮定。 (注)2010~2012年度。要介護度1の65~69歳の男性の場合、認定率は2012年の0.56%から毎年約0.04%ポイントずつ伸びて2022年以降は0.93%で一定と仮定。

22

認定率の設定

制度浸透期間内は介護認定率が上昇

持続可能な介護に関する研究会

Page 23: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

制度浸透シナリオ②(利用率上昇)

「施設から在宅」への政策的な対応がなされている中で、在宅サービスの利用率が上昇。そこで、在宅介護について、引き続き供給体制が充実し、利用率の上昇が当面継続することを想定する。 在宅介護について、65歳以上の認定者のうち介護サービス未利用者が新規に利用者となる割合の過去3か年平均(注)で、機械的に10年間毎年利用者が増加すると仮定。 (注)2010~2012年度。「T年の在宅利用者数=T-1年の在宅介護利用者数+α×(T年の在宅認定者数-T-1年の在宅利用者数)」として、αを要介護度別に求めた。例えば要介護度1の場合、αは平均22.3%となり、65歳以上の在宅介護利用率は2012年の80.2%から2022年に90.0%まで上昇する。

公的な介護サービスを利用していない者(私的介護等)の1%が10年間毎年新規で公的介護利用者となる。

23

参考:「Shift to formal care」シナリオ(EC2012a)

利用率の設定

制度浸透期間内は、供給体制が充実し利用率が上昇

持続可能な介護に関する研究会

Page 24: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

制度浸透シナリオ③(一人当たり費用増加)

介護産業は、現状、労働集約的産業であるため、一人当たり介護従事者数の増加を供給体制の量的拡大として考え、これが一人当たり介護費用に与える影響を回帰分析する。 具体的には、在宅介護について、要介護度別に、一人当たり介護費用を一人当たり介護従事者数(及びトレンド項)で都道府県パネルにより係数を推定。 log(一人当たり費用)=α+β×log(一人当たり介護従事者数)+γ×trend 一人当たり介護従事者が過去3か年(注)の平均増加率で機械的に10年間増加すると仮定。上記で求めた回帰係数β(一人当たり費用の一人当たり介護従事者数に対する弾性値)により一人当たり介護費用も増加すると設定。 (注)2010~2012年度。全国の一人当たり介護従事者増加率は平均2.4%で、2012年の0.45人から2022年に0.58人まで上昇。

24

供給体制の量的拡大が一人当たり介護費用に与える影響

一人当たり介護費用上昇率の設定

持続可能な介護に関する研究会

Page 25: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

(参考)都道府県パネルデータによる推定結果 要介護1(サンプル数288、修正決定係数0.97、固定効果モデル) log(cost)=6.915+0.221×log(emp)+0.015×trend (0.018) (0.019) (0.001) *** *** *** 要介護2(サンプル数288、修正決定係数0.98、固定効果モデル) log(cost)=7.098+0.102×log(emp)+0.016×trend (0.014) (0.014) (0.001) *** *** *** 要介護3(サンプル数288、修正決定係数0.97、固定効果モデル) log(cost)=7.469+0.140×log(emp)+0.018×trend (0.015) (0.015) (0.001) *** *** *** 要介護4(サンプル数288、修正決定係数0.95、固定効果モデル) log(cost)=7.691+0.128×log(emp)+0.010×trend (0.016 ) (0.017) (0.001) *** *** *** 要介護5(サンプル数288、修正決定係数0.93、固定効果モデル) log(cost)=7.874+0.145×log(emp)+0.014×trend (0.021) (0.021) (0.001) *** *** *** (注)()はSE、***は1%有意水準で有意であることを示す。costは一人当たり費用、empは一人当たり介護従事者数。 (データ出所)一人当たり費用は介護給付費実態調査、介護従事者数は介護サービス施設・事業所調査(回収率の変動要因を除去するため年度毎の集計値を回収率で割り戻して調整した)。

25 持続可能な介護に関する研究会

Page 26: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

制度浸透シナリオにおける介護総費用の将来推計

26

①認定率上昇、②利用率上昇、③一人当たり介護費用上昇の3要素を織り込んだ制度浸透シナリオとベースシナリオ(上田モデル)との比較

(%)

0

1

2

3

4

5

6

7

8

2010 2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024 2026 2028 2030 2032 2034 2036 2038 2040 2042 2044 2046 2048 2050 2052 2054 2056 2058 2060

制度浸透シナリオ

ベースシナリオ

シナリオ別介護総費用額対名目GDP比の推移 7.28%

6.42%

持続可能な介護に関する研究会

Page 27: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

健康シナリオ

27 持続可能な介護に関する研究会

Page 28: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

健康寿命と平均余命等価年齢

• 健康寿命 – 特定の年齢の人が健康を損なわないで自立して生活することが期待される平均年数。測定の難しさが指摘されている。

– 代替的な指標として、平均余命等価年齢(Sanderson and Scherbov 2005 , Nature)

• 2010年に65歳の平均余命 男性18.74年、女性23.80年。2060年時点で平均余命等価年齢 男性約70歳(70歳の平均余命18.34年)、女性約69歳(69歳の平均余命24.11年)

• 健康シナリオとして、健康寿命を踏まえた介護需要の算出 – 具体的には、長寿化に伴う健康寿命の伸長に伴い年齢別の要介護等の認定率が右にスライド。 28 持続可能な介護に関する研究会

Page 29: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

2000年時点での65歳と平均余命等価年齢の推移 わずか10年の間に2歳近く上昇

29

基準年 65歳

62

62.5

63

63.5

64

64.5

65

65.5

66

66.5

67

67.5

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

男性

女性

(データ出所)厚生労働省「簡易生命表」より筆者作成

(歳)

持続可能な介護に関する研究会

Page 30: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

EC2012a 健康シナリオ

持続可能な介護に関する研究会 30

・平均余命が延びた期間分は健康でいられると仮定。 ・平均余命が延びると、その分だけ介護を必要とする者の率が下がると仮定。 →例えば、2030年時点で50歳の人の平均余命が今と比較して2歳延びれば、2030年時点の50歳の介護を必要とする者の率は今日の48歳の介護を必要とする者の率に相当する。

「constant disability scenario」シナリオ(EC2012a)

Page 31: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

31

健康シナリオとベースシナリオ:要介護の認定率

持続可能な介護に関する研究会

Page 32: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

32

健康シナリオとベースシナリオの比較

6.42%

4.01%

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

7%

2010 2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024 2026 2028 2030 2032 2034 2036 2038 2040 2042 2044 2046 2048 2050 2052 2054 2056 2058 2060

シナリオ別介護総費用額対名目GDP比の推移

ベースシナリオ

健康シナリオ

持続可能な介護に関する研究会

Page 33: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

まとめ

33 持続可能な介護に関する研究会

Page 34: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

分析結果と今後の課題(1)

• 分析結果 – 幅を持って提示(費用上振れ、下振れの両パターンをシミュレーション、次ページ参照)。

• 認定率、利用率、一人当たり介護費用の推移を踏まえ、制度浸透シナリオを設定。

• 長寿化に伴う健康期間の長期化を踏まえ、健康シナリオを設定。

– 制度浸透シナリオは厚生労働省の長期推計(改革シナリオ、2025年GDP比3.2%)の上を推移。一方、健康シナリオは厚生労働省の長期推計の下を推移。2060年には、両シナリオ間の差はGDP比3%超。

34 持続可能な介護に関する研究会

Page 35: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

各シナリオの長期推計比較

35

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

6.0%

7.0%

8.0%

2010 2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024 2026 2028 2030 2032 2034 2036 2038 2040 2042 2044 2046 2048 2050 2052 2054 2056 2058 2060

ベースシナリオ

制度浸透シナリオ

健康シナリオ

シナリオ別介護総費用対名目GDP比の推移

4.01%

厚生労働省による2012年推計(改革シナリオ) 2025年GDP比3.2%

7.28%

6.42%

持続可能な介護に関する研究会

Page 36: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

分析結果と今後の課題(2)

• 考察 – 当面は、定期的に認定率、利用率、一人当たり介護費用の推移を観察し、制度浸透期間内かどうかを判断し、長期推計を見直していく必要。

– 総費用が下振れた場合として示した健康シナリオに近づけるための政策とそのコストについて、さらなる検討が必要。

• 今後の課題 – 一般均衡的な発想が必要。

e.g.家庭内介護の人が外で働く効果 – 地域包括ケアといった新しい制度を織り込むことが必要。

持続可能な介護に関する研究会 36

Page 37: 介護費用の長期推計 - mof.go.jp · 介護費用の長期推計. 2014年9月19日 第1回持続可能な介護に関する研究会. 京都大学経済研究所 中澤正彦

参考文献 安藤道人(2008),「介護給付水準と介護保険料の地域差の実証分析」,季刊・社会保障研究 Vol.44 No.1 足立泰美・上村敏之(2013),「地域密着型サービスが居宅・施設サービスの介護費用に与える影響」,会計検査研究(No.47). 岩崎千恵・金成愛・吉田元紀(2006),「介護保険の長期推計」,東京大学公共政策大学院. 上田淳二(2012),『動学的コントロール下の財政政策』,岩波書店. 上田淳二・堀内義裕・筒井忠(2011),「医療・介護費用の長期推計と将来の労働需要―2008年度の国民医療費等を踏まえた推計―」,Discussion Paper No.1017,京都大学経済研究所. 上田淳二・米田泰隆・太田勲(2014),「日本の財政運営において必要とされる収支調整幅の大きさ―動学的な財政不均衡に関する量的分析―」,『フィナンシャル・レビュー』第117号,財務総合政策研究所. 太田勲・中澤正彦(2013),「諸外国と日本の医療費の将来推計」,PRI Discussion Paper Series (No.13A-03) ,財務総合政策研究所. 金子隆一(2010), 「長寿革命のもたらす社会-その歴史的展開と課題-」, 人口問題研究66-3(2010.9)pp.11~31 北浦修敏(2009),「マクロ経済のシミュレーション分析~財政再建と持続的成長の研究」,京都大学学術出版会. 北浦修敏・京谷翔平(2007),「介護費用の長期推計について」,Discussion Paper No.0704,京都大学経済研究所. 厚生労働省(2006),「社会保障の給付と負担の見通し」,2006年5月 財政制度等審議会 (2014),「財政健全化に向けた基本的考え方」 田近栄治・菊池潤(2004),「介護保険の総費用と生年別・給付負担比率の推計」,フィナンシャル・レビュー74号 内閣府(2007),「経済財政モデル(第二次改訂版)資料集」,内閣計量分析室2007年3月 Blanchard, Olivier, Jean-Claude Chouraqui, Robert P. Hagenmann and Nicola Sartor ‘The Sustainability of Fiscal Policy : New Answers to an Old Question,’ OECD Economic Studies No. 15 European Commission (2012a), "The 2012 Ageing Report: Economic and budgetary projections for the 27 EU Member States (2010-2060)," European Economy, No.2, 2012 European Commission(2012b) “Fiscal Sustainability Report 2012” ,European Economy, No.8, 2012 OECD(2006),Projecting OECD health and long-term care expenditures :What are the main drivers? ,Economics department working papers No.477 Sanderson, Warren C., and Sergei Scherbov (2005)‘Average Remaining Lifetimes can Increase as Human Population Age,’ Nature Vol. 435 (June, 2005) • 統計資料 厚生労働省,「介護サービス施設・事業所調査結果の概況」 厚生労働省,「介護事業状況報告」 厚生労働省,「介護給付実態調査」 厚生労働省(2013),「日常生活圏域ニーズ調査の実施及び第6期介護保険事業(支援)計画の策定準備について」 厚生労働省(2014a),「平成23年度 介護保険事業状況報告(年報)」 厚生労働省(2014b),「社会保障に係る費用の将来推計について<改定後(24年3月)>(給付費の見直し)」 国立社会保障・人口問題研究所(2012),「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」

37 持続可能な介護に関する研究会