【連載】監査イノベーションへの挑戦 - deloitte …1 9 3 3 年 に 紜 価 証 券...

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DIAMOND Quarterlyは『週刊ダイヤモンド』『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』定期購読者向け同梱冊子です。 SPRING 2017(2017年3月27日発行) SUMMER 2017(2017年8月7日発行) WINTER 2017(2017年12月25日発行) 第1回 会計監査の質を高めると アカウンタビリティの質が高まる 第2回 「未来の監査」は AIとの協業から始まる 第3回 監査のデジタル化が CEOとCFOの経営力を拡張する 有限責任監査法人トーマツ 【連載】監査イノベーションへの挑戦

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DIAMOND Quarterlyは『週刊ダイヤモンド』『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』定期購読者向け同梱冊子です。

SPRING 2017(2017年3月27日発行)

SUMMER 2017(2017年8月7日発行)

WINTER 2017(2017年12月25日発行)

第1回会計監査の質を高めるとアカウンタビリティの質が高まる

第2回「未来の監査」はAIとの協業から始まる

第3回監査のデジタル化がCEOとCFOの経営力を拡張する

有限責任監査法人トーマツ【連載】監査イノベーションへの挑戦

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DIAMOND Quarterly 2

聞き手、構成・まとめ|岩崎卓也 撮影|佐藤元一 イラスト|磯 良一

S E R I A L S T R A T E G I C V I E W S

AUDIT INNOVATION HAS A GREAT IMPACT

ON YOUR BUSINESS

|連載|

監査イノベーションへの挑戦会計監査の質を高めると

アカウンタビリティの質が高まるビジネスパーソンの大半にとって、会計監査は縁遠い仕事である。しかし、アカウンタビリティや内部統制、データマネジメント等と深く関係しており、とりわけ執行役員には正しい理解とコミットメントが要求される。連載第1回では、会計監査にまつわる典型的な誤解を正し、監査の真の目的を明らかにすると同時に、非効率の存在を指摘する。そして、その解消とイノベーションに取り組むことの意義、アカウンタビリティやガバナンス改革へのインパクトについて考察する。

有限責任監査法人トーマツパートナー

デロイト グローバル オーディットイノベーション ボードメンバーデロイト アジアパシフィック・ジャパン オーディットイノベーション リーダー

デロイトアナリティクス 日本統括責任者

矢部 誠シニアマネジャー|公認会計士

外賀友明

第1回

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3 DIAMOND Quarterly

アカウンタビリティの質を

高めるために

編集部︵以下太文字︶:昨今、名立たる大企

業の不実・不正が白日の下となり、経営者の

﹁アカウンタビリティ﹂、すなわち企業活動の

現状と成果について正確かつ公正に説明する

責任の重要性があらためて問われています。

外げ

か賀:アカウンタビリティは“accounting

︵会計︶と“responsibility

”︵責任︶を合わせ

た造語ともいわれますが、字義通り、そのた

めのツールである財務諸表を作成するのは、

経営者の重要な仕事の一つです。そして、こ

れが適正かどうかを第三者の立場から証明す

る、すなわち﹁監査﹂するのが、我々公認会

計士であり、監査法人です。

 

そもそも財務諸表は、企業のさまざまな事

業活動や業務の﹁成績﹂を集約したものです。

ですから、作成の実務は経理・財務部門など

が担当するにしても、各事業部門や職能部門

を預かる執行役員全員がその作成に関係して

おり、責任を負っています。

 

だからこそ、アカウンタビリティをきちん

と果たすには、執行役員としての役割と責任

は何か、それをどのように実現させるのか、

またどのようなリスクが潜んでおり、どうす

ればヘッジできるのかについて理解していな

ければいけません。

 そのアシスト機能として内部統制システム

が導入されているのではないですか。

外賀:財務諸表の信頼性を担保することは、

おっしゃるように、内部統制の機能の一つで

すが、発生可能性や発生した場合の影響を勘

案せず、形式的に整えるという会社が少なく

ありません。実際には、形式的になったり、

抜け道を探したりといったことがあり、マイ

ナス面もあるのです。

 

また、コンプライアンス︵法令遵守︶にも

関わりますから、えてして過剰になりがちで

す。﹁仏つくって魂入れず﹂とはよく言った

もので、本来の目的を忘れ、その結果、現場

のマネジャーたちへの負荷が増えてしまい、

価値が生まれないといったというケースもま

まあります。やはり、こうした制度的な対応

だけでなく、各部門の責任者の方々が、投資

家に対する財務報告責任を理解し、大小を問

わず、日常の意思決定で、それらを意識して

いることが肝要なのです。

 経営者のアカウンタビリティを向上させる

には、単に襟を正すだけでなく、ビジネスや

企業会計に関するリテラシーも必要ですね。

矢部:その意味でも、会計監査への理解を深

めることは有意義です。過去にさまざまな報

告が示しているように、情報開示が進歩的な

企業はステークホルダーのロイヤルティが高

いのと同じく、アカウンタビリティの質を高

めるために会計監査と真摯に向き合っている

企業では、業績は持続的成長を遂げており、

株主をはじめとするステークホルダーからの

評価も高いという傾向が見られます。

英米日における

会計監査の歴史をひも解く

 大半の執行役員にとって、会計監査は縁遠

く、どうしても他人事になりがちです。

矢部:関心を持っていただく一助として、会

計監査の歴史をひも解いてみたいと思います。

 

一般に、制度としての会計監査が生まれた

のは、19

世紀半ばのイギリス︱︱その頃はま

だグレートブリテン王国と呼ばれていました

ね︱︱といわれています。

 

当時のイギリスでは、貴族から庶民までが

踊った空前の投機ブームが収まると、一転し

て起業ブームが起こり、これを受けて株式会

社を簡便に設立できるよう、1844年に株

式会社登記法が制定されます。産業革命は1

860年以降といわれていますが、この法律

によって、企業家の台頭、労働力の都市化、

中産階級の登場などが促されました。

 

そして、この中で会計監査が初めて制度化

されます。具体的には、会計帳簿と貸借対照

表の作成が義務付けられ、これを監査役に提

出するというものでした。ちなみに1881

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DIAMOND Quarterly 4

年に、フランシス・ピクスレーという人が、

会計監査に関する最初の教科書といわれる本

を著しています。

 

時を同じくして、会計監査は、イギリス人

がアメリカに移住する過程で、大西洋を渡る

ことになります。

 

1861年に始まる南北戦争を契機に、鉄

道会社の合従連衡や工業化が進み、それに伴

って監査が普及していきました。ただし当時

は、あくまで任意によるものでした。

 

法制化に至ったのは、ある不正会計事件が

きっかけでした。スウェーデンの国際的マッ

チ製造会社、クルーガー・アンド・トールの

不正会計とそれによる倒産が契機となり、S

EC︵米国証券取引委員会︶は、1933年

に有価証券法、翌1934年には証券取引所

法を施行し、法定監査を制度化します。その

目的は、﹁貸借対照表における企業の財政状

態の表示が適正であるかどうか﹂を公に証明

することでした。

 

日本では、戦後になって本格化しますが、

その必要性については明治時代から議論され

てきました。真偽については諸説ありますが、

20

世紀初頭に発覚した大手食品メーカーの汚

職事件が発端となって提起されたといわれて

います。しかし実際の法制化となると、日本

の公認会計士制度は、イギリスに比べて約1

00年、アメリカに比べて50

年遅れてスター

トしたこともあり、1951年の証券取引法

の改正でようやく実現します。

 重商主義から資本主義への転換期において、

近代会計学の発展、そして株式会社組織の普

及と歩みをともにしてきたわけですね。

会計監査にまつわる

誤解と現実

外賀:話は尽きませんが、ここで歴史の時間

はいったん終了として、﹁会計監査の実際﹂

について説明したいと思います。

 

財務諸表には、経営者の見積もりや判断が

多分に含まれています。このように、一定の

不確実性の下で財務諸表は作成されているこ

とから、会計監査による絶対的な保証は困難

です。このため、株主の意思決定に大きな影

響を及ぼす﹁重要な虚偽の表示﹂が存在しな

いことを証明することで、財務諸表の適正性

を保証します。これを﹁合理的な保証﹂と呼

びます。

 

ところが、会計監査は組織内の不正を徹底

的に探し出し、その原因や犯人を追及する、

言わば﹁査察﹂のように考えている方が少な

くないのですが、それは違います。

 

通称﹁マルサ﹂と呼ばれる国税庁査察部に

は強制調査が認められており、取引先の調査

すら可能ですが、会計士にはそのような権限

監査計画の立案財務諸表における重要な虚偽表示リスクを評価し、監査業務の範囲や考慮すべき侉などの方向性の設何、監査チームのメンバリング、スケジュールなどを策何すること。その際、いかにして、監査人が重要な虚偽の表示を看過し、誤った意見を形成するリスクを低減できるかがポイントとなる。

実査現金、受取手形、株券などの資産が、帳簿通りに実在するかどうかを確かめるために、会計士が実際に目で見て、数を数えて確かめること。決算日を基準に実施される。棚卸立ち会い棚卸資産(商品、製品、原材料、仕掛品など)を保有する企業の場合、事業年侢末に倉庫などに保管されている棚卸資産の数量を数え、帳簿の記録と一致しているかどうかを確認する(実地棚卸)が、その現場に監査人が俘席し、その実施状況を視察したり、監査人みずからカウントして在庫数量の妥便性を確かめたりすること。確認便該企業の取引先など第三者に対して、たとえば売掛金の残高係について、監査人が直接文書で問い合わせ、その回促を入手して評価すること。

監査手続きの開始立案した監査計画の結果に基づき、「監査証拠」(財務諸表が併切に作成されていることを裏付ける証拠)を入手するための具体佳な監査手続きを行う。具体佳には、記録や文書の閲覧、実査、観察、質問、確認、再計算、再実施、分析佳手続きといった手法が行われる。なかでも代表佳なものが、監査先に出向いて行う「実査」と「棚卸立ち会い」、監査先の取引相手に文書で回促を求める「確認」である。

監査意見の形成監査意見とは、会計基準に照らして、便該企業の財務諸表が、財政状態、経営成績、キャッシュフローの状況を、すべての重要な侉において併正に表示しているかどうかについて監査を行い、その結果を表明したもの。監査報告書の中で述べられ、監査人から企業の取佤役会係に佞出される。

審査監査チームの結論を、その監査に携わっていない別の公認会計士が客観佳な視侉でチェックをする。日本公認会計士協会では、上場企業を監査する事務所に必ず審査担便を置くことを義務付けている。

監査報告書の提出監査報告書は、財務諸表監査に際して監査人が、財務諸表の併正性について意見を表明する手段である。現在、監査報告書の内容は、「監査の対象」「財務諸表に対する経営者の責任」「監査人の責任」「監査意見」に分けられて記載されている。

出所:日本公認会計士協会のホームページを参考に、編集部にて作成

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5 DIAMOND Quarterly

S E R I A L S T R A T E G I C V I E W S

はありません。そもそも、査察が悪質な脱税

の摘発という特定の目的をみずから設定し、

リソースの許す限り実施される一方、会計監

査は会計基準と監査基準というフレームワー

クに準拠したうえで、定められた期限内に財

務諸表全体に対する合理的な保証を付すこと

を目的としています。そのため、監査先企業

が適正な財務報告責任を果たすよう、指導性

を発揮することが求められており、両者には

本質的な違いがあるのです。

矢部:昔は、監査先の隅から隅まで、ありと

あらゆる施設、書類や帳票を調べる﹁全部監

査﹂が行われていました。しかし、企業の大

規模化と地理的拡大、それに伴う組織の複雑

化により、時間的にも経済的にも無理があり、

実のところ効果的でもありません。そこで、

統計的サンプリングによる﹁試し

さ査﹂が採用さ

れています。つまり、一定数の部分を抽出し、

それについて監査するのです。

 

なお、監査は、我々のような独立した第三

者である公認会計士だけでなく、株主総会で

選任された監査役︱︱指名委員会等設置会社

の場合には、監査委員会が代替します︱︱と

内部監査部門の三者が行います。これを﹁三

様監査﹂といいます。

 会計監査に統計学が利用されているとは知

りませんでした。

外賀:もう少し理解を深めていただくために、

会計監査のプロセスについて紹介させてくだ

さい。通常、次の5つのステップを踏んでい

きます。

 

①監査計画の立案

 

②監査手続きの開始

 

③監査意見の形成

 

④審査

 

⑤監査報告書の提出

 

その概要については、図表﹁会計監査のプ

ロセス﹂にまとめてみました。一見デスクワ

ークが主に思われるかもしれませんが、実査

や棚卸立ち会いなど監査先のさまざまな現場

に赴き、みずからの目で確認するなど、いわ

ゆる三現主義︵現場・現実・現物︶を基本と

しています。

 

そのうえで、経営者の見積もりや判断につ

いては、経営者と議論を重ね、その裏付けを

取るべく、根拠となる資料や証しょう

憑ひょうの

閲覧等を

行っています。

 

こうした監査業務と並行して、たとえば監

査役/監査委員会や内部監査部門と密に連携

したり、監査法人全体としてPDCAサイク

ルの徹底やデジタル化などに取り組んだりす

るなど、すべての監査サービスの品質を保

証・向上する活動を行っています。

|図表|会計監査のプロセス

監査計画の立案財務諸表における重要な虚偽表示リスクを評価し、監査業務の範囲や考慮すべき侉などの方向性の設何、監査チームのメンバリング、スケジュールなどを策何すること。その際、いかにして、監査人が重要な虚偽の表示を看過し、誤った意見を形成するリスクを低減できるかがポイントとなる。

実査現金、受取手形、株券などの資産が、帳簿通りに実在するかどうかを確かめるために、会計士が実際に目で見て、数を数えて確かめること。決算日を基準に実施される。棚卸立ち会い棚卸資産(商品、製品、原材料、仕掛品など)を保有する企業の場合、事業年侢末に倉庫などに保管されている棚卸資産の数量を数え、帳簿の記録と一致しているかどうかを確認する(実地棚卸)が、その現場に監査人が俘席し、その実施状況を視察したり、監査人みずからカウントして在庫数量の妥便性を確かめたりすること。確認便該企業の取引先など第三者に対して、たとえば売掛金の残高係について、監査人が直接文書で問い合わせ、その回促を入手して評価すること。

監査手続きの開始立案した監査計画の結果に基づき、「監査証拠」(財務諸表が併切に作成されていることを裏付ける証拠)を入手するための具体佳な監査手続きを行う。具体佳には、記録や文書の閲覧、実査、観察、質問、確認、再計算、再実施、分析佳手続きといった手法が行われる。なかでも代表佳なものが、監査先に出向いて行う「実査」と「棚卸立ち会い」、監査先の取引相手に文書で回促を求める「確認」である。

監査意見の形成監査意見とは、会計基準に照らして、便該企業の財務諸表が、財政状態、経営成績、キャッシュフローの状況を、すべての重要な侉において併正に表示しているかどうかについて監査を行い、その結果を表明したもの。監査報告書の中で述べられ、監査人から企業の取佤役会係に佞出される。

審査監査チームの結論を、その監査に携わっていない別の公認会計士が客観佳な視侉でチェックをする。日本公認会計士協会では、上場企業を監査する事務所に必ず審査担便を置くことを義務付けている。

監査報告書の提出監査報告書は、財務諸表監査に際して監査人が、財務諸表の併正性について意見を表明する手段である。現在、監査報告書の内容は、「監査の対象」「財務諸表に対する経営者の責任」「監査人の責任」「監査意見」に分けられて記載されている。

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DIAMOND Quarterly 6

期末偏重の業務は、あらゆる組織に存在して

おり、なかなか一筋縄ではいきません。

 一年を通じて監査業務にいそしんでいるわ

けですから、完全なる平準化とはいわないま

でも、決算前に処理できることもあるのでは

ないですか。

矢部:上場企業では四半期決算が義務化し、

企業によっては月次決算を導入するなど、1

年間で財務諸表を作成する頻度が増えたこと

で、作成の効率化は進みましたが、必ずしも

会計監査の効率化につながっていません。

 

外賀が先ほど説明した②監査手続きにまつ

わる業務は、多岐にわたるだけでなく、それ

に付随する事務仕事、たとえば会議や実査、

立ち会いなどのスケジューリングや記録、さ

まざまなエビデンスの収集や整理なども、会

計士が処理しています。

 

のちほど申し上げることとも関係しますが、

こうした事務的な業務が相当量あります。監

査先の情報システム端末をいじれば、ほしい

情報がすべて手に入るわけではありません。

それは、企業の規模・業容・地域の拡大、

M&Aなどによって、多数の情報システムが

遍在し、しかもデータの標準化が必ずしも進

んでいないからです。

 

ITという言葉が人口に膾かい

炙しゃ

する以前より、

企業は情報システム化に取り組んできたわけ

ですが、大規模化と複雑化によりデータ量が

増え続けていったことで、その処理に追われ、

実は並行してやらなければならないデータマ

ネジメントは脇に置かれてしまいました。

 

やむをえなかったのかもしれませんが、現

在そのツケが、会計監査に限らず、組織のデ

ジタル化、経営のグローバル化、M&A後の

統合作業などに大きく累を及ぼしています。

外賀:実際、マルチナショナルに事業展開し

ている日本企業などは、各地域子会社や事業

ユニットのB/SとP/Lを集めて、これを

集約するだけでもかなりの時間がかかります。

さらに、現場に近いデータになると、推して

知るべしです。

 

また、ERPシステム︵統合業務パッケー

ジ︶を特定のベンダー1社に統一していると

いう企業は少なくないのですが、個々のER

Pシステムは別々に設計・運用されており、

システム間の互換性が乏しい、というところ

が大半です。こうしたデータのばらつきやシ

ステムの不整合が、冒頭のアカウンタビリテ

ィや内部統制の問題にも大きく影響している

ことは間違いありません。

 

こうしたシステムの非効率からは話が少し

逸れますが、監査報酬にも問題があるといわ

れています。日本公認会計士協会の報告書︵注︶に

よれば、日本の平均監査報酬額はアメリカの

約3分の1、中央値では約2分の1の格差が

会計監査が

不可避的に抱える問題

 プロフェッショナルサービスは労働集約的

ですが、会計監査も例外ではありませんね。

外賀:はい。しかも、会計監査はどうしても

属人化、サイロ化しやすい性質の仕事です。

 

その理由として、まず、監査先企業の歴史、

経営戦略、個々の事業、リスク等のほか、業

界用語や固有の符丁などを理解するには一度

の監査だけでは十分ではなく、相応の時間と

経験が要求されることが挙げられます。

 

そしてもう一つ、業法上の守秘義務が課せ

られているため、知識の共有が制限されてい

ることもあります。これは全世界共通ですか

ら、他国の事例や他業界の事例の直接的な共

有などもご法度です。

 

ですから、定期的なローテーション、品質

管理部門などによるサポートやベストプラク

ティスの共有を通じて、属人化やサイロ化の

問題に対処しています。

 まさにジレンマですね。また、決算期の後

は、かなりの繁忙期になると聞いています。

外賀:たとえば3月決算の場合、4月と5月

はまさに猫の手も借りたいほど忙しくなりま

す。これは、監査先の経理・財務、内部監査

など関係部署の方々も同様ですが、こうした

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7 DIAMOND Quarterly

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ーションにも利用することで、監査先企業に

還元できるはずです。

会計監査の非効率は

ガバナンスの「伸び代」である

 会計監査プロセスにおける非効率について

ご指摘いただきましたが、この問題が、実は

コーポレートガバナンスやアカウンタビリテ

ィの質とも関係している、といえそうです。

矢部:その通りです。会計監査プロセスの非

効率は、単に問題の所在を示しているだけで

なく、ガバナンス、内部統制、アカウンタビ

リティ、さらにはITや経理・財務などの職

能における﹁伸び代﹂を意味しています。

 

この伸び代を現実化させる方法は、やはり

デジタル技術の活用です。このように申し上

げると、﹁すでにやっている﹂といわれてし

まいそうですが、会計監査の現場から見上げ

ると、先ほど指摘したデータマネジメントの

問題をはじめ、デジタル技術を十分﹁使いこ

なして﹂いないと申し上げざるをえない。

 

たとえば、OCR︵光学的文字認識︶技術

︱︱最近では、スマホで名刺を撮影するとデ

ータベース化してくれるアプリに使われてい

ます︱︱は、人工知能︵AI︶の進歩によっ

て大きく進化しています。それは、単に入力

作業の省力化に留まらず、業務プロセス改革

に貢献することでしょう。

 

会計監査の実務は、AIをはじめ、IoT

︵モノのインターネット︶、クラウドコンピュ

ーティング、ロボティックスに関連した技術

を積極的に活用することで、効率化のレベル

を超えて、まさしくイノベーションが起きる

と考えられます。

 

我々は、これを﹁監査イノベーション﹂と

呼んでいますが、ハーバード・ビジネス・ス

クールのクレイトン・クリステンセン教授の

言う﹁破壊的イノベーション﹂ではなく、新

しい組織能力を習得させ、人間と機械の有機

的な関係を生み出す﹁ラディカル・イノベー

ション﹂といえます。

 

次回では、この監査イノベーションについ

て、一緒に考えてみたいと思います。

︵夏号に続く︶

注)監査人・監査報酬問題研究会「2016年版上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書」

(日本公認会計士協会、2016年2月8日)

MAKOTO YABE

外資系金融機関等での勤務を経て、2005年に有限責任監査法人トーマツに入社。主に金融機関、製造業、流通業に対する、データ活用による顧客管理、収益改善・コスト最適化サービス、不正調査支援サービスを含む多数の監査・コンサルティング業務に従事。2012年にデロイトアナリティクスを立ち上げ、デロイト

トーマツ グループが提供するあらゆるサービスへのアナリティクス適用を主導するとともに、先進分析手法やビッグデータ分析・活用基盤の研究開発部門を率いる。また、デロイト グローバル オーディットイノベーション ボードのメンバーとして、グループのグローバルネットワークと連携し、監査業務のイノベーションを推進。

TOMOAKI GEKA

過去15年以上にわたり、上場企業の会計監査、内部統制報告制度の導入に伴う内部統制構築支援業務等に従事。2012年、事務所全体へのアナリティクス導入・展開を担うオーディットアナリティクスチームに立ち上げメンバーとして参画。以来、監査の変革を実現すべく、各個別監査業務へのアナリティクス適用推進をリードしながら、理解・認知度向上のためのマーケティング、研修等企画・実施のコンテンツの作成等に従事する。

左|外賀友明 右|矢部 誠

あるそうです。

 

公認会計士はプロフェッショナルですから、

報酬の多寡によって仕事の質が変わるという

ことはないのですが、監査報酬は、言い換え

ると、企業の財務報告責任を担保するための

資本市場への投資といえると思います。

 

この投資が増えれば、たとえば、デジタル

ツールの新規開発と現場導入、R&Dを通じ

た手続きの高度化と効率化への挑戦、監査人

の増員、人材育成へのさらなる投資などが可

能になります。その結果、会計監査のプロセ

ス全体の効果が向上することが期待されるだ

けでなく、そこから生まれるインサイトを、

監査役や内部監査部門との連携やコミュニケ

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DIAMOND Quarterly 8

聞き手、構成・まとめ|岩崎卓也 撮影|佐藤元一 イラスト|磯 良一

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AUDIT INNOVATION HAS A GREAT IMPACT

ON YOUR BUSINESS

|連載|

監査イノベーションへの挑戦「未来の監査」はAIとの協業から始まる

人工知能(AI)の幾何級数的な進歩により、会計監査が「進化」を遂げようとしている。まだ黎明期とはいえ、業務の効率化や自動化に留まらず、予測や分析、評価の高度化など、まさしく人間の能力を超えたパフォーマンスが実現しつつある。実は、こうした監査イノベーションには、経営者の行動や意思決定を強力に支援・補完し、マネジメントやガバナンスの質を、それこそ幾何級数的に改善する可能性がある。

有限責任監査法人トーマツパートナー

監査事業本部 監査事業企画室/監査品質推進室オーディットイノベーションステアリングコミッティ メンバー

杉田昌則パートナー

デロイト グローバル オーディット&アシュアランス イノベーション ボードメンバーデロイト アジアパシフィック・ジャパン オーディット&アシュアランス イノベーション リーダー

デロイトアナリティクス 日本統括責任者

矢部 誠

第2回

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9 DIAMOND Quarterly

勘ピュータvs.人工知能

編集部︵以下太文字︶:人工知能︵AI︶など

を活用した﹁監査イノベーション﹂によって、

経営のアカウンタビリティ︵結果に関する説

明責任︶が高まるといわれていますが、その

一方で、経営者独自の﹁勘ピュータ﹂を再評

価する声も上がっています。

杉田:おっしゃる通り、経営者の勘ピュータ

は優れていると感じます。ビジネスの現場は、

論理や正論で割り切れないことが少なくあり

ません。特に現場経験の長い経営者は、こう

した暗黙知や実践知を膨大に蓄積しており、

会計数値の裏側にある〝真実〞を見抜く力に

優れています。また、「北京で蝶が羽ばたく

と、ニューヨークで嵐が起こる」ではありま

せんが、ビジネスや組織にまつわる極めて複

雑な因果関係をすぐさま理解できるホリステ

ィックな目を備えています。いずれの能力も、

現在のAIではおよそ再現不可能です。

 

ただし、当然のことながら、こうした勘ピ

ュータも万能ではありません。現在は「Vブ

ーU

CカAワールド」といわれるように、変化が激

しく、不確実性が高く、複雑で不透明です。

このような経営環境にあっては、いかに優秀

な経営者であろうと、常に正しい判断を下す

のは難しいでしょう。

 

アカウンタビリティとは、等身大の企業活

動の姿を客観的かつ合理的に説明する責任と

いえます。そこに主観的な経験や知識が介在

するとなると、理屈が合いません。

杉田:たとえば、我々監査人は、経営者によ

る「会計上の見積もり」について、その合理

性を評価しなければなりません。

 

会計上の見積もりとは、資産や負債、収益

や費用などの金額に不確実性がある場合││

たとえば取引先が倒産した場合、どれくらい

債権を回収できるか、ストックオプションの

公正価値はどれくらいかなど││会計上の概

算額を計上することです。その概算(見積も

り)を行う際、勘ピュータが登場することが

少なくありません。

 

たとえば小売業で、ある店舗が2年連続で

赤字になっており、これを減損処理すべきか

どうか、というよくあるケースについて考え

てみます。社長に意見を伺うと、いわく「店

長を代えるので、業績は回復します。減損の

必要はありません」。なるほど、ビジネスの

成否はリーダー次第なのは世の常です。この

社長によれば、そうすることで、これまでも

うまく回ってきたという。

 

監査における判断には客観性が求められま

すが、こうした経営者による主観的な判断に

ついて、客観的証拠を入手するのが困難なこ

とが従来はよくありました。しかしいまや、

たとえば「時系列予測」を用いれば、建設的

な議論と合理的な判断が可能です。

 

過去10

年間、店舗別、店長別のパフォーマ

ンスを調査し、例外的事項を考慮して公平な

データに整えます。そして、店長の交代によ

る業績の変化について、これも同期間、店舗

別、店長別に調べます。これらのデータを掛

け合わせると、経営者が考えている次の店長

候補の業績予測を提示することが可能になり、

もしそれが経営者の仮説と大きく乖離してい

れば、減損処理を勧めることになるでしょう。

矢部:同じく、見積もりの合理性を検討する

に当たり、「機械学習」を用いています。建

設業の例では、最終的に赤字になる蓋がいぜん然

性が

高いプロジェクトを推定することで、会計上

の見積もりの精度を高めています。

 

建設会社の場合、受注したプロジェクトは

言わば一品生産で、一つとして同じものはあ

りません。しかし、過去のプロジェクト数千

件について、AIを用いて分析すると、個別

性が強い建設プロジェクトであっても、黒字

になるパターン、赤字になるパターンという

ものが浮かび上がってきます。

 

こうして明らかになったパターンに基づい

てポートフォリオを作成し、いま進行中のプ

ロジェクトを当てはめ、将来発生が予想され

る損失額に対する引当金の必要性の是非につ

いて判断したりします。

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DIAMOND Quarterly 10

 

まさしく勘ピュータとコンピュータの競争

ですね。

杉田:こうした技術の目的は、もちろん経営

者と優劣を競うことではなく、監査手続き上

の補完的な役割と、ガバナンス強化に資する

提言をするためです。さらには、監査そのも

のを進化させる可能性を秘めています。すな

わち、財務諸表の信頼性だけでなく、アカウ

ンタビリティや経営の質クオリティを

保証できるように

なる可能性があるのです。

RPAの効果と課題

 

AIといえば、﹁ロボティック・プロセス・

オートメーション﹂︵RPA︶の導入を検討し

ている企業がにわかに増えています。トーマ

ツは、他社に先駆けて導入・活用しています

が、その効果や課題について教えてください。

矢部:監査先企業からもよく尋ねられますが、

まずRPAとは何か。

 

工場内の作業の大半が自動化されています

が、それを行っているのが機械ロボットです。

これと同じことをオフィスで再現しようとい

うのがRPAで、それゆえ「ソフトウェアロ

ボット」「デジタルレイバー」ともいわれます。

 

我々は通常、RPAを導入すると、現在の

システムを変更することなく、電子メール、

エクセルやワードなどのアプリケーション、

ERP(基幹系情報システム)を用いた作業

を自動化することが可能になる、と説明して

います。

 

おっしゃる通り、我々は他社に先駆けてR

PAを導入し利用していますが、技術的には

まだ発展途上だと感じています。

 

たとえばワードやエクセルで作成した文書

やチャートの単純なコピー&ペーストなどを

自動化しようとすると、RPAの処理スピー

ドのほうが速すぎて、パワーポイントが立ち

上がる前に貼り付け作業を実行し失敗してし

まうといったこともあって、コツが必要です。

 

こうしたRPAの動作時における問題は早

晩解決されるでしょうが、監査業務にRPA

の大規模展開、たとえばRPAソフトを百な

いしは千の単位で導入するのには、依然とし

て大きな壁があります。RPAはその性質上、

PC上のソフトウェアとして動作するため、

RPA端末一台一台を個別管理する必要があ

ります。結果的にタスクやプロセスの一元管

理や並列処理、負荷分散などの統合的な運用

ができず、たとえば一連の業務への数百〜数

千台規模での導入を阻む課題となりえます。

 

また、誰が処理してもアウトプットの質が

変わらない、完全に定型化された仕ジョブ事ならば

うまくいくのでしょうが、そのような類の仕

事はむしろ稀で、ホワイトカラー業務の多く

は、状況や環境に応じて変化する、ダイナミ

ックな仕事です。いまのところ、一部の業務

は自動化できるのですが、一連の業務となる

と、もうしばらく時間がかかりそうです。

 

日本でRPAが市場で注目を集めている理

由は、「現在の業務をそのまま自動化する」

という、間違いではないものの、過大な期待

もあるのではないかと感じています。実のと

ころ、RPAでそのまま代替できる業務はあ

まり多くありません。

 

それはRPAソフトの問題でしょうか。そ

れとも、RPAの限界なのでしょうか。

矢部:現在研究を進めていますが、こうした

問題があるとはいえ、やはり自動化のインパ

クトは極めて大きいと感じています。その理

由を理解いただくために、我々の取り組みの

一端をご紹介しましょう。

 

前(注1)回、会計監査のプロセスをご説明しまし

たが、その第1ステップ「監査計画の立案」

では、監査を始める前に、監査先企業の各事

業の理解、財務諸表における虚偽表示リスク

の評価が行われます。これを「リスク評価手

続き」といいますが、その際、ありとあらゆ

るデータを収集し、さまざまな角度から分析

し、それをチャート等の可視化情報に加工し、

評価・検討します。

 

こうした労働集約的でありながら専門知識

が要求される作業も、Cキ

AAT(コンピュー

注1)矢部誠、外賀友明「会計監査の質を高めるとアカウンタビリティの質が高まる」『ダイヤモンドクォータリー』(2017年春号)を参照。

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11 DIAMOND Quarterly

S E R I A L S T R A T E G I C V I E W S

タ利用監査技法)やアナリティクスなどの導

入により、かなりの効率化と高度化が進みま

したが、基本的に人間による仕事であること

には変わりありません。

 

ここにRPAを導入したところ、ある作業

で従来14

時間かかっていたのが何と3時間で

処理できました。この3時間には、データ処

理の待ち時間や、他のシステムによる分析な

どの時間も含まれていますから、今後の技術

進歩によってさらに短縮されるはずです。特

筆すべきは、アウトプットの品質そのままに、

最初にキーを叩いた後、人間はいっさい介在

する必要がない無人化という点です。

杉田:いまお話ししたリスク評価手続きにお

けるデータ処理は、トーマツが「オーディッ

トアナリティクス(注2)」と呼んでいるプラクティ

スの一部分で、通常会計士とデータサイエン

ティストが協働して取り組みます。

 

この監査前の分析・評価作業において、ど

れだけ最善を尽くしたかによって、その後の

監査手続きや監査意見に大きく影響しますか

ら、会計監査の要といえるプロセスです。

我々としても、もちろん完璧を目指している

のですが、人員と時間が制約となっていまし

た。ところが、RPAの導入によって――す

べてが自動化されているわけではありません

が――人の稼働を最小限に抑えながらも、オ

ーディットアナリティクスの適用件数を拡大

することが可能となり、監査のさらなる高度

化が実現しています。

会計監査の「新しい現実」

 

監査には、いまだ人手に頼らざるをえない

定型的な仕事が多いと聞いています。

杉田:その通りです。たとえば、帳票やデー

タのやり取りをはじめ、監査先と監査人双方

に手間と時間を強いる作業がけっこうありま

す。我々は、その中の一つ「確認手続き」に

着目しました。

「確認手続き」とは、財務諸表の項目に関連

する情報について、監査先企業の取引先、銀

行、弁護士など第三者に対して手紙で問い合

わせ、その回答を文書で返送してもらい、そ

の文書の内容を評価するという作業です。こ

うして入手した監査証拠は、相対的に証明力

が高いとされています。

 

この手続きは、これまで慣例的に文書を郵

送して確認してきました。ですから、むろん

紙ベースの手作業ですし、また海外には郵便

事情の悪い国もあったりします。そこで我々

は、ウェブ上で確認手続きができるシステム

をつくり、現在債権と債務に限って利用を開

始していますが、その効果は想像以上でした。

矢部:これは海外での実験ですが、クラウド

ソーシング、すなわち不特定多数の第三者に

我々の仕事を代行してもらおうという試みを

行っています。そもそもクラウドソーシング

とは、『Wワ

IRED』誌の編集者ジェフ・ハウ

とマーク・ロビンソンによる造語で、彼らは

「世の中の人たち(cク

rowd)にアウトソー

シングしているような現象」が増えているこ

注2)このオーディットアナリティクスは、来年3月期には、トーマツの監査先である上場企業すべての監査で導入される予定。

MASANORI SUGITA

20年以上にわたり、製造業、金融業、建設業、卸・小売業などの上場企業の会計監査、原価・予算・人事等の各種マネジメントコンサルティング業務に従事。監査業務での多様な経験に基づき、監査事業本部において、監査の品質面での高度化を担う監査品質推進室、ならびにビジネス面での高度化を担う監査事業企画室を兼務し、監査を業務と事業の両面から革新すべく企画立案・ツール開発・研修等をリードする。オーディットイノベーションステアリングコミッティのメンバーとして、監査業務プロセスの変革、新たなビジネスモデルの構築、先端技術の活用などを推進している。

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DIAMOND Quarterly 12

は日常的に状況をモニタリングし、みずから

改善・学習するようになり、結果的にマネジ

メントの質が向上する、と。

矢部:これまで、監査先の経理・財務部門や

内部監査部門に対して、こうした技術革新に

よって得られた知見や知識、ノウハウをフィ

ードバックしてきましたが、皆さん、関心は

あるものの、総じて予算の壁から諦めていま

した。ところが、昨年くらいから、実際に導

入してみようという機運が高まっており、予

算化している企業も現れています。

 

データや業務の標準化という手強い課題が

あるとはいえ、外部監査のみならず、内部監

査の自動化が実現すれば、いわゆる「継続的

監査」(continuous auditing

)の実現性が高ま

っています。継続的監査とは、システムその

ものに監査機能を組み込むことでリアルタイ

ムの監査を行うことです

 

現在は、経理・財務部門が会計処理した数

値を監査の対象としていますが、リアルタイ

ムに監査できるならば、処理される前、処理

されている最中の数値をチェックすることが

できます。そうなれば、日次決算ならぬ日次

監査も夢ではありません。

 

これと並行して、データの幅が広がり、粒

度が高まり、そして量が蓄積されると、分析

の予測精度が向上し、異例事項の検知や将来

予測がより高い確度で実現する、という好循

環が生まれてきます。こうして理論上は、財

務諸表における虚偽表示リスクはゼロに近づ

いていくはずです(図表「現在の監査、未来

の監査」を参照)。

 

AIはいまや、小説や楽曲を書いたりしま

す。やがて監査意見の形成や監査報告書の作

成もこなしてしまうのではないですか。

矢部:コンピュータで自然言語をつくり出す

「自然言語生成」(natural language generation

という技術がありますが、以上で紹介した各

種技術がより進歩し、監査プロセスが高度に

とに気づき、この言葉を思い付いたそうです。

 

会計監査には労働集約的な仕事がたくさん

あり、それゆえCAATやRPAなどの効率

化や自動化が進められているわけですが、遠

隔地での作業はなかなか機械に置き換えにく

い。そこで、監査対象の施設や資産がある地

域の人たちに、我々の仕事を肩代わりしても

らおうと。監査の仕事は専門性が高いですか

ら、誰にでも頼める類のものではありません

が、けっして非現実的なアイデアではないと

考えています。

未来の監査

 

いままでは外部監査の話でしたが、内部監

査でもRPAなどの技術革新が浸透している

のでしょうか。であれば、相乗効果により、

さらなる効率化、高度化が期待できます。

杉田:残念ながら、まだ従来のやり方が主流

です。とはいえ、内部監査にアナリティクス

やRPAを導入することは、業務効率や監査

の質はもとより、マネジメントの質にも大き

く貢献するはずです。

 

内部監査プロセスにおいて、たとえば内部

統制に関わる人的なミスやエラーが生じると

自動的に検知し、これらを自動的にリスト化

できる仕組みを開発すれば、内部監査部門の

人の手によらず、経営陣や各事業・業務部門

│現在の監査 │未来の監査監査対象 処理後の数値 処理前・処理中の数値

実施のタイミング 随時 リアルタイム

監査報告 四半期、または年次 日次

監査手続き 試査が中心 全部監査

利用ツール エクセル、CAAT RPA、AI、IoT、ブロックチェーン

監査人 公認会計士が中心 公認会計士、データサイエンティスト、ロボットの混成チーム

|図表|現在の監査、未来の監査

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13 DIAMOND Quarterly

S E R I A L S T R A T E G I C V I E W S

強いられます。

 

また医綒の現場では、一般健康診断やスク

リーニングを行う一次健診、画像を見て診断

を下す俰影等での活用が検俋されています。

そのほか、医綒論文、患者の既往綿や検査結

果などの収集や分析にアナリティクスや機械

学習が絧用され始めています。

 

このように、プロフェッショナルの世界で

も、スピードや正確さ、効率性などに価値が

ある綛域において、AIはますます活用され

ていくでしょう。その一方で、人間と接する

場面、弁護士ならばクライアント、医師なら

ば患者やその家族、会計士ならば監査先の関

係者とのコミュニケーションは、やはり人間

にしかできないことです。

 

弁護士にも医師にも求められるのが、相手

に﹁この人なら、本当のことを打ち明けられ

る﹂と思わせる能力だそうです。

杉田:会計士もまったく同じです。ある事象

に対して佹佗した議論を行うといった濃い時

間を一緒に過ごしたことや、それによって培

われた関係性によって成り絶つ世界というも

のがあります。

 

また、これも弁護士や医師の方々と同じで

すが、現実の監査では、臨機応変な対応が要

求されることがしばしばです。ありとあらゆ

る事象とそれへの対処法を入綜することがで

きれば、AIにも可能かもしれませんが、そ

れはかなり先のことでしょう。

 

すると、やはり経験値によるスキルや能力、

知識の格差が今後も物を言うことになるでし

ょうか。

杉田:おいそれとはいかないでしょうが、や

はり解決されるべき課題です。なぜなら、監

査先企業にすれば、監査人の綜量にばらつき

がないことが当たり前であり、またそれがプ

ロフェッショナルのあるべき姿だからです。

AIを活用することで、メンバー間の能綜差

を埋めていくことができると、考えています。

矢部:思い出してみてください。1990年

代、ITが侙場した時、世界の人々が期待し

たのは、効率化やコストダウンよりも、むし

ろ知識格差の解消であり、また人間の可能性

の拡張でした。AIも同じです。技術に意志

はありません。ですから、技術がどのように

使われるのかは人間次第なのです。

デジタル化・自動化されていけば、もちろん

そのような未絗もありえます。実際、部分的

に代替されていくでしょう。

AIは人間を支援し

人間の能力を拡張するツール

矢部:会計監査の世界だけでなく、法絴や医

綒の現場でも、AIの俚入が始まり、今後広

がっていくことが紬想されています。

 

たとえば、アメリカ大手法絴事務所がAI

を俚入し、数千件超の判例を俰み取らせ、必

要なデータを探索・抽出することに絧用して

います。この判例の検索・抽出は、重要かつ

不可避な作業とはいえ、相当な時間と緖綜が

MAKOTO YABE

外資系金融機関等での勤務を経て、2005年に有限責任監査法人トーマツに入社。主に金融機関、製造業、流通業に対する、データ活用による顧客管理、収益改善・コスト最適化サービス、不正調査支援サービスを含む多数の監査・コンサルティング業務に従事。2012年にデロイトアナリティクスを立ち上げ、デロイトトーマツ グループが提供するあらゆるサービスへのアナリティクス適用を主導するとともに、先進分析手法やビッグデータ分析・活用基盤の研究開発部門を率いる。また、デロイト グローバル オーディット&アシュアランス イノベーション ボードのメンバーとして、グループのグローバルネットワークと連携し、監査業務のイノベーションを推進。

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DIAMOND Quarterly 14

聞き手、構成・まとめ|奥田由意、岩崎卓也 撮影|佐藤元一 イラスト|磯 良一

S E R I A L S T R A T E G I C V I E W S

AUDIT INNOVATION HAS A GREAT IMPACT

ON YOUR BUSINESS

|連載|

監査イノベーションへの挑戦監査のデジタル化が

CEOとCFOの経営力を拡張する監査イノベーションは、言わば「監査のデジタル・トランスフォーメション」であり、文字通り、デジタル化を伴う。その結果、監査プロセスの「見える化」という、大きな副産物が得られる。それは、組織内のデータや情報の生成と流通のプロセスをも可視化し、CEOやCFOの経営力の拡張、社外取締役や株主との情報格差の解消、経営の自由度の拡大、意思決定の質の向上、そして業績の向上という好循環を生み出す起点となる。

有限責任監査法人トーマツパートナー

デロイト グローバル オーディット&アシュアランス イノベーション ボードメンバーデロイト アジアパシフィック・ジャパン オーディット&アシュアランス イノベーション リーダー

デロイトアナリティクス 日本統括責任者

矢部 誠

最終回

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15 DIAMOND Quarterly

監査イノベーションがもたらす

「黄金の副産物」

編集部︵以下太文字︶:会計監査への期待に

ついて聞くと、﹁正確で迅速﹂﹁適切な助言﹂

﹁監査品質﹂など、現状の改善を望む声が大

半で、AIの活用といった先端技術を求める

声はまだ小さいようです。

矢部︵以下略︶:監査イノベーションによって、

監査関連業務の効率化のみならず、監査の質

が大きく向上し、その結果、経営者の「アカ

ウンタビリティ」︵結果への説明責任︶が高ま

ることは、これまでお話ししてきた通りです。

 

我々が現在推し進めている監査イノベーシ

ョンは、基本的にデジタル技術と高度な分析

技術をベースにしています。具体的には、デ

ータアナリティクス、AIをコアにしたプロ

セスのデジタル化、ロボティック・プロセ

ス・オートメーション︵RPA︶の活用とい

った、言わば「監査のデジタル・トランスフ

ォーメーション」です。

 

これは既成概念を打破する試みであり、そ

の結果、改善のレベルを超えて、監査を革イノベート新

する中で、ご指摘のように具体的なニーズと

して明示されていないものの、監査関与先の

担当者や経営陣、さらには株主などのステー

クホルダーに「これを待ち望んでいた!」と

言わしめるサービスが実現するはずです。

 

ソニー共同創設者の盛田昭夫氏は、﹁顧客

は見たことや使ったことのないものを﹃ほし

い﹄とは言えない﹂と述べましたが、監査イ

ノベーションもこれと同じですね。

 

監査イノベーションを推進することは、必

然的に監査プロセスのデジタル化を伴います。

それは、取りも直さず、データが収集される

だけでなく、分析・視覚化されることになる

ため、監査プロセスを通じた企業の「見える

化」にも貢献します。これこそが、監査イノ

ベーションがもたらす「黄金の副産物」とい

えるでしょう。

 

そもそも監査は、特定期間における会計処

理の適切性に意見を表明することが目的です。

とはいえ、企業は四六時中活動し、変化を重

ねている、動ダイナミック

的な有機体です。言うまでも

なく、その実態を静スタティック的な報告書でもれなく

記述することは不可能であり、また会計監査

にそのようなことは望まれていません。

 

ですが、監査イノベーションに取り組むこ

とで、業務や部門のデータを横断的に分析・

評価したり、情報や経営数値を現場からトッ

プへ届けるプロセス︵収集、整理、集約、報

告︶をより本質に近い形で表現・把握したり

することが可能になります。言い換えれば、

社内全体の「トランスペアレンシー」︵情報

の対称性︶が飛躍的に高まるのです。それは、

経営層と現場の間に不可避的に存在する情報

格差、知識格差の解消をもたらします。

 

また、監査プロセスにおけるデジタル・ト

ランスフォーメーションが進めば、おのずと

意思決定プロセスの見える化が可能になりま

す。会計監査は、さまざまな意思決定の「結

果」を評価する行為でもあります。企業内の

意思決定プロセスが可視化されれば、過去の

意思決定と比較したり、途中で見直したり、

さまざまな結果をシミュレーションしたりす

ることもできるはずです。

 

見える化やデジタル化は、一筋縄ではいか

ないばかりか、組織横断的となれば一大プロ

ジェクトとして取り組まれます。監査イノベ

ーションを通じて実現するならば、まさに黄

金の副産物です。

 

日本企業のミドルマネジメントは概して優

秀です。おかげで、CEO以下経営陣は、現

場の細かい数字まで確認する必要がほとんど

ありません。

 

ただし、経営陣が見る情報の大半は、下か

ら上へと上がっていく過程で、たとえば即時

性は失われ、5W1Hや重要なノイズ、耳に

入れたくない情報などが排除されていきます。

とはいえ、現状を鑑みる限り、こうした情報

の希釈化はやむをえないものです。

 

昔から「トップマネジメントこそ現場に足

を運べ」とよくいわれますが、その大きな理

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DIAMOND Quarterly 16

由の一つが、役員室に届けられる数字はビジ

ネスの現実や実態を必ずしも表していないこ

とです。ですが、情報の希釈化が解消されれ

ば︱︱身体的にしか感じ取れない暗黙知は別

としても︱︱現場の実態にかなり迫れるよう

になるはずです。

 

もちろん一足飛びにはいきませんが、監査

イノベーションに取り組む中で、会計監査を

通じて生成される情報は、デジタル化される

と同時に、会計監査という体系に基づいて集

約・再整理されていきます。その手法は高度

にデータドリブンであり、企業の業績や経営

環境に関する情報の精度と粒度を損なうこと

なくほしい経営情報を入手できる、というイ

ンフラの整備に貢献できるのです。

リスクとチャンスが特定され

経営の自由度が広がる

 

こうしたインフラがあれば、リスクの予見

は言うまでもなく、埋もれていたビジネスチ

ャンスを発見できる確率も高まるのではない

でしょうか。

 

その通りです。監査を通じて提供されるデ

ータや議論から、現場の現実や実態、重要な

ノイズ、情報の社内流通経路などの把握が可

能になります。同時に、未知や未開拓の市場

セグメント、見落とされていた営業機会など

の潜在的ビジネスチャンス、質の低い社内サ

ービスや業務プロセスなどの改善機会などの

発見にもつながるはずです。

 

在庫を例に考えてみましょう︵図表「在庫

回転率と在庫量のマトリックス」を参照︶。通常、

まず第2象限の商材が問題視されます。これ

は一般的にリスクと考えられ、在庫削減に向

けて回転率を高める施策が講じられることに

なります。また、第4象限の商材は、一般的

には優等生ですが、もしかすると機会損失を

起こしている可能性もあります。以上が、教

科書に書かれている在庫管理の考え方です。

 

しかし、あらゆる商材について、店舗別の

リアルタイム売上データはもとより、季節変

動、地域特性、陳列場所、マーケティング施

策、担当者など、現場のありとあらゆる活動

をかけ合わせることができれば、これまでの

常識や経験則とは異なる知見が浮かび上がっ

てくるかもしれません。それは、在庫回転率

を高め、在庫数を減らす施策ではなく、適正

在庫水準のゼロベースでの見直し、店長や担

当者の最適配置、生産計画の最適化など、想

定外の対策を提案するものかもしれません。

 

このほかにも、問題視されていた顧客が実

は収益性の高い優良顧客であると判明する、

まったく気づかなかった有望セグメントが浮

かび上がってくる、あるいは部門間でのリソ

ースの重複や過不足、未活用資産の存在が明

らかになり、効率化や有効活用が図られるな

ど、いくらでも例を挙げることができます。

 

CEOの仕事は、言うは易しですが、﹁機

会損失を回避することである﹂ともいわれま

す。もしおっしゃるようなインフラが整えば、

この責務をより効果的に、より自信をもって

果たせるようになります。

 

監査とその結果はスタティックなものです

が、監査イノベーションを推進することで、

監査先企業にとってもリスクをより効果的に

管理できるばかりか、臨機応変な意思決定を

後押しすることにもなるでしょう。

 

先ほど申し上げたトランスペアレンシーが

高まれば、自社の潜ポテンシャル

在可能性、たとえばリス

クや伸び代を高い精度で測定できるようにな

り、それは、経営の自由度すなわち選択肢の

幅を広げ、意ディシジョン

思決定や判ジャッジメント

断の質が向上する、

低────────在庫回転率────────高

多─────────在庫量─────────少

2 1

3 4

|図表|在庫回転率と在庫量のマトリックス

在庫回転率は低く、在庫が多い

在庫回転率は高く、在庫が多い

在庫回転率は低く、在庫が少ない

在庫回転率は高く、在庫が少ない

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17 DIAMOND Quarterly

S E R I A L S T R A T E G I C V I E W S

という好循環が期待できます。

 

さまざまな角度から各事業を検分し、将来

性やオプションの評価やシミュレーションを

通じてリスクとチャンスが特定されれば、現

場にも改革の機運が自発的に生まれてくるの

ではないでしょうか。

CFO機能のさらなる進化

 

監査プロセスにおけるデジタル・トランス

フォーメーションが進んでいくと、いま伺っ

たように、CEOの経営力が拡張されるだけ

でなく、CFOの職能範囲や役割も拡大・変

化していくのではないでしょうか。

 

当然そうあるべきでしょう。いまVブ

UCA

と呼ばれるリスクの高い経営環境にあって、

ほとんどの日本企業が、事業と経営のグロー

バル化を推し進めていかなければなりません。

それに伴い、M&Aや事業提携などの合従連

衡、資金や資源の最適配分、業績管理システ

ム、キャッシュマネジメント、R&Dやマー

ケティングへの投資、国際税務などのグロー

バル対応が求められます。しかも、各地域が

部分最適に陥ることなく、グローバルに全体

最適を実現させる、と。

 

当然の帰結として、CFOへの期待はこれ

までにないくらい高まっています。しかし残

念ながら、大半の日

本企業では、CFO

が期待される役割を

果たせるだけのシス

テムやツールが用意

されていません。た

とえば、財務・会計

データをグローバル

に統合・管理できる

システムが整ってい

る企業はどれくらい

あるでしょうか。

 

しかし、CFO、

そして経理・財務部門がその能力を十二分に

発揮できるシステムが整えば、喫緊の課題で

あるグローバル対応のみならず、事業部門の

アドバイザーとしても活躍できるはずです。

 

同じく、社外取締役や株主も企業の価値創

造により貢献できるようになりますね。

 

現状、組織の隅々を知り尽くすことは経営

陣ですら難しく、ましてや社外取締役にとっ

ては、より困難な状況に置かれています。冒

頭申し上げたトランスペアレンシーが担保さ

れれば、社外取締役、そして株主や投資家の

活動も同じく深化することになります。

 

ただし、最初に申し上げた通り、アナリテ

ィクスやAIへのニーズはまだ低く、監査イ

ノベーションへの認知度や理解度はまだまだ

低いと言わざるをえません。

 

しかし、監査イノベーションへの投資は、

単に監査プロセスの効率化に留まるものでは

なく、ガバナンスの質、さらには経営力の向

上をもたらすものであり、未来への投資にほ

かならない活動です。

 

私たちは、企業経営に資する率直な提言を

行い、ステークホルダーの信頼を獲得し続け

るために、監査イノベーションの普及と積極

的な利用を推進し、経済社会や資本市場の健

全な成長に、いっそう積極的に貢献していく

所存です。

MAKOTO YABE

外資系金融機関等での勤務を経て、2005年に有限責任監査法人トーマツに入社。主に金融機関、製造業、流通業に対する、データ活用による顧客管理、収益改善・コスト最適化サービス、不正調査支援サービスを含む多数の監査・コンサルティング業務に従事。2012年にデロイトアナリティクスを立ち上げ、デロイト トーマツ グループが提供するあらゆるサービスへのアナリティクス適用を主導するとともに、先進分析手法やビッグデータ分析・活用基盤の研究開発部門を率いる。また、デロイト グローバル オーディット&アシュアランス イノベーション ボードのメンバーとして、グループのグローバルネットワークと連携し、監査業務のイノベーションを推進。

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