側枝閉塞を回避し治療が 可能であった左前下行枝...

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沼澤 洋平 先生 足利赤十字病院 循環器内科 副部長 兼 部長代行 心臓カテーテル室長 術者 症例は LCX に PCI の既往がある 71 歳男性。外来にて施 行した負荷心筋血流シンチグラフィーにて心電図変化を伴 う LAD 領域の虚血所見を認めたため、精査目的で入院と なった。冠動脈造影上、LAD#6-#7 にかけてびまん性のプ ラークを認め、第一対角枝 #9 起始部の 99% 狭窄を含む True bifurcation lesion の所見であった(Fig.1)。LAD に 対して FFR を施行したところ、0.72 と有意な虚血所見を認 めたため、負荷心筋シンチグラフィーの所見と合わせて同 部位に対して PCI を施行する方針とした。 アプローチは左橈骨動脈 7Fr Glide sheath とした。まず LAD に ASAHI SION blue を 挿 入し、 第 1 対 角 枝 #9 に Protection wire とし て Passista を 挿 入 し た。LAD 及 び 対角枝の双方から IVUS を観察したところ、やはり対角枝の起始部を含むびまん性プラークを伴う True bifurcation lesion であることが確認された。 まず最も狭窄度の強い対角枝の入口部を canPass 2.0 × 20mm にて最大 10 気圧で拡張した。続いて LAD#6-#7 にかけて全体的に Lacrosse NSE 2.75 × 13mm にて最大 10 気圧で前拡張を行った。この状 態で対角枝より末梢の LAD#7 に Synergy 3.0 × 28mmを留置した(Fig.2)。 症例 CASE 1 主な使用システム Guiding catheter Profit 7Fr SS3.0SH(Goodman) Guide wire ASAHI SION blue(ASAHI INTECC)Passista(Japan Lifeline)Versa Turn(Abbott Vascular) Support catheter Corsair 135cm(ASAHI INTECC) IVUS View It(TERUMO) Balloon catheter canPass HARD 1.5 × 15mm(Japan Lifeline)canPass 2.0 × 20mm(Japan Lifeline)Pantera LEO 3.25 × 15mm(Japan Lifeline)Lacrosse NSE 2.75 × 13mm(Goodman) Stent Synergy 3.0 × 28mm(Boston Scientific)Ultimaster 3.0 × 28mm (TERUMO) Coronary Marketing Report Vol.66 側枝閉塞を回避し治療が 可能であった左前下行枝 True bifurcation lesion の一例 Fig. 1 RAO-CRA Fig. 2 LAO-CRA

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Page 1: 側枝閉塞を回避し治療が 可能であった左前下行枝 …る。先述した特性からPantera LEOは、術者の計画した通りの病変拡張が期待できるNCBと考える。特にステント近位部後拡張時

沼澤 洋平 先生足利赤十字病院 循環器内科 副部長 兼 部長代行心臓カテーテル室長

術者

症例は LCX に PCI の既往がある71 歳男性。外来にて施行した負荷心筋血流シンチグラフィーにて心電図変化を伴うLAD領域の虚血所見を認めたため、精査目的で入院となった。冠動脈造影上、LAD#6-#7 にかけてびまん性のプラークを認め、第一対角枝 #9 起始部の 99%狭窄を含むTrue bifurcation lesion の所見であった(Fig.1)。LAD に対してFFRを施行したところ、0.72と有意な虚血所見を認めたため、負荷心筋シンチグラフィーの所見と合わせて同部位に対してPCIを施行する方針とした。アプローチは左橈骨動脈 7Fr Glide sheathとした。まずLAD に ASAHI SION blue を挿入し、第 1 対角枝 #9 にProtection wire として Passista を挿入した。LAD 及び対角枝の双方から IVUSを観察したところ、やはり対角枝の起始部を含むびまん性プラークを伴うTrue bifurcation lesionであることが確認された。まず最も狭窄度の強い対角枝の入口部を canPass 2.0 × 20mmにて最大 10 気圧で拡張した。続いてLAD#6-#7 にかけて全体的に Lacrosse NSE 2.75 × 13mmにて最大 10気圧で前拡張を行った。この状態で対角枝より末梢の LAD#7 に Synergy 3.0 × 28mmを留置した(Fig.2)。

症例

CASE 1 主な使用システム

Guiding catheter Profi t 7Fr SS3.0SH(Goodman)Guide wire ASAHI SION blue(ASAHI INTECC)、 Passista(Japan Lifeline)、 Versa Turn(Abbott Vascular)Support catheter Corsair 135cm(ASAHI INTECC)IVUS View It(TERUMO)Balloon catheter canPass HARD 1.5× 15mm(Japan Lifeline)、 canPass 2.0× 20mm(Japan Lifeline)、 Pantera LEO 3.25× 15mm(Japan Lifeline)、 Lacrosse NSE 2.75× 13mm(Goodman)Stent Synergy 3.0× 28mm(Boston Scientifi c)、 Ultimaster 3.0× 28mm (TERUMO)

Coronary Marketing Report Vol.66

側枝閉塞を回避し治療が可能であった左前下行枝True bifurcation lesion の一例

Fig. 1 RAO-CRA Fig. 2 LAO-CRA

Page 2: 側枝閉塞を回避し治療が 可能であった左前下行枝 …る。先述した特性からPantera LEOは、術者の計画した通りの病変拡張が期待できるNCBと考える。特にステント近位部後拡張時

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Fig. 5 Fig. 6

側枝閉塞リスクの高い症例であり、近位部の処理には慎重な対応が必要と考えられ、Jailed Corsair Technique1) を施行する方針とした。対角枝にCorsair を挿入した状態でこれを Jail する形で LAD#6 に Ultimaster 3.0 × 28mmを最大 10気圧で 3回拡張を行いながら留置した(Fig. 3)。ステントバルーンを抜去した後、Jail された Corsair にゆっくりトルクをかけながら抜去した。直後の造影にてCorsair で保護されていた対角枝の良好な血流が確認された(Fig.4)。IVUS にてステント近位部の拡張が一部不十分であったため、後拡張を施行する方針とした。Versa Turn にて対角枝をリクロスし、Pantera LEO 3.25 × 15mmにてステント内を最大 12気圧で拡張した(Fig. 5, 6)。最終的に LADに Pantera LEO 3.25 × 15mm、対角枝に canPass Hard 1.5 × 15mmを用いてKissing Balloon Techniqueを施行した(Fig. 7)。最終造影にて対角枝入口部を含む良好な拡張を確認し、手技を終了した(Fig. 8)。

Fig. 3 LAO-CRA Fig. 3 LAO-CRA

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Fig. 7 Fig. 8

対角枝入口部の高度狭窄を含む LADのびまん性病変であり、側枝閉塞リスクの高い症例であったが、Jailed Corsair Techniqueを用いることで対角枝の血流を一度も低下させることなく治療することが可能であった。Jailed Corsair Technique は Corsair を Off-label で使用することになるものの、Jailed Balloon Techniqueと比較して側枝入口部を解離させるリスクが少なく、確実に側枝の血流を保護できる方法の一つと考えられる 1)。本症例の後拡張で使用した Pantera LEOは正確な病変拡張を可能にするショートバルーンショルダーを有したNon-compliant high pressure balloon(以下NCB)である。Pantera LEO は、市販されているNCBの中で特に強い拡張応力を有していることが体外実験にて推察されており、高圧拡張した際にバルーンが変形してしまういわゆる「ドッグボーン現象」が生じにくいため規格通りの正確な拡張が可能となる。加えてバルーン膜表面にパッチワークコーティングを施しているため拡張時のスリッピングが低減されている。先述した特性からPantera LEOは、術者の計画した通りの病変拡張が期待できるNCBと考える。特にステント近位部後拡張時の合併症の軽減や Stent elongation の予防対策として第一選択のNCBとなるであろう。本症例では実施していないが最近注目さているProximal optimization technique (POT)にも適しているNCBである。今後日本でもBVSを用いた PCI が増加していくことが予想され、ステントを用いた PCIと比較してより後拡張が重要視されるものと思われる。ステントよりはるかに視認性の悪く、最新のDES の 2倍近い厚みをもったストラットを有した BVSを適切に appositionすることにおいて、拡張力が強く、規格通りの正確な拡張が期待できるPantera LEO のような NCB が我々にとって重要なデバイスの一つとなることは言うまでもない。

考察

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2017-03-odp-01-s00654

[企画・発行]

〒 140-0002 東京都品川区東品川二丁目 2番 20号 天王洲郵船ビルTVI 事業部 TEL.03-6711-5232http://www.jll.co.jp

Coronary Marketing Report Vol.66

2003年 3月 慶應義塾大学医学部卒業2003年 4月 慶應義塾大学病院 内科研修医2005年 5月 北里研究所病院 内科2006年 5月 佐野厚生総合病院 内科2007年 6月 慶應義塾大学病院 循環器内科2011年 4月 足利赤十字病院 循環器内科2014年 4月 足利赤十字病院 循環器内科 副部長 兼 部長代行2015年 4月 足利赤十字病院 循環器内科 副部長 兼 部長代行・心臓カテーテル室長

沼澤 洋平 先生足利赤十字病院 循環器内科 副部長 兼 部長代行 心臓カテーテル室長

PROFILE

〈資格〉日本内科学会認定内科医  日本心血管インターベンション治療学会認定医  日本循環器学会認定循環器専門医  日本脈管学会認定脈管専門医  日本プライマリケア連合学会プライマリケア認定医  日本プライマリケア連合学会プライマリケア指導医

〈所属学会〉日本内科学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション学会、日本冠疾患学会、日本脈管学会、日本動脈硬化学会、日本不整脈学会、日本心臓病学会、日本心臓リハビリテーション学会、日本プライマリケア連合学会

販売名 : パンテラ・レオ PTCAバルーンカテーテル承認番号 : 22500BZX00314000製造販売業者 : バイオトロニックジャパン株式会社販売業者 : 日本ライフライン株式会社

1) Cardiovasc Revasc Med. 2017 Jan 17. pii: S1553-8389(17)30011-8. doi: 10.1016/j.carrev.2017.01.009.

参考文献