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金型表面の微細周期構造で 撥水性を改善した樹脂成形品 JST新技術説明会 【製造技術】 岩手大学 大学院 工学研究科 機械システム工学専攻 バイオ・ロボティクス部門 教授 山口 昌樹

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Page 1: 金型表面の微細周期構造で 撥水性を改善した樹脂成形品 - JSTロータス効果による 超撥水性. サメ肌で乱流を防 ぐ競泳水着. モスアイ(蛾の目)

金型表面の微細周期構造で 撥水性を改善した樹脂成形品

JST新技術説明会 【製造技術】

岩手大学 大学院 工学研究科 機械システム工学専攻 バイオ・ロボティクス部門 教授 山口 昌樹

Page 2: 金型表面の微細周期構造で 撥水性を改善した樹脂成形品 - JSTロータス効果による 超撥水性. サメ肌で乱流を防 ぐ競泳水着. モスアイ(蛾の目)

背景 ●検査に用いる検体は,生体から採取するため可能な限り少量に抑えたい

検査チップの撥水性を制御し,検体の利用効率を高めることで ,必要検体量を低減

検査チップには,廃棄における環境負荷が小さいバイオマスプラスチックを用いる

固体表面に,ミクロオーダーの凹凸を微細で周期的(微細周期構造)に施すことで,撥水性を付与(ロータス効果)

●医療用チップなどの感染産業廃棄物の焼却による二酸化炭素排出やダイオキシン発生は社会問題に

ハスの葉 (lotus) の表面に現れる水玉

必要検体量が少なく,廃棄における環境負荷の小さい医療検査チップの開発

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バイオミメティックスの新潮流 1950年代 Biomimetics (生物模倣) の提案 (O. Schmitt) 1970年代~ 化学・分子系バイオミメティック (第1世代) 人工酵素,人工生体膜など 2000年代~ ロボティクス (第2世代) 機械システムやセンサ 生物にヒントを得,生物を超える (Bioinspired)

ロータス効果による超撥水性

サメ肌で乱流を防ぐ競泳水着

モスアイ (蛾の目 )構造による無反射

ヤモリの繊維構造体を真似た接着剤

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新技術の基となる研究成果・技術 流動性の低いバイオマスプラスチックで,様々な形状の部品を実現するには,金型設計がキーテクノロジーの一つになる 金型表面へミクロンオーダーの微細周期構造を形成するために,V溝の2軸切削加工を採用 バイオマスプラスチックを用いて試作した樹脂成形品では,接触角を向上でき,撥水性を大幅に改善

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θ

0°≤ θ < 90° 90° 150°≤ θ ≤ 180° 親水性

濡れが良い 撥水性

濡れが悪い

θ θ

0° 超撥水性

液滴

1. 濡れ,撥水性と接触角の関係

従来技術とその問題点

撥水性の評価法には,静的撥水性(接触角)と動的撥水性(転落角)がある

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2. 撥水性の制御方法 因 子 (機 構) パラメータ 方 法

Ⅰ.材質 表面エネルギーと その分布

化学的制御:フッ素樹脂 (テフロン) 加工等 添加剤制御:界面活性剤等

Ⅱ.微細構造 i) 非周期構造

粒子寸法 粒子形状 分子構造

物理的制御:粒子のスプレー,自己組織化膜等

ii) 周期 (フラクタル) 構造 アスペクト比 ピッチ 溝寸法 溝形状

物理的制御:レーザー加工,機械研磨,自己組織化膜等

超撥水性は,撥水性高分子を塗布して「化学的に」付与されてきたが,フッ素樹脂等では剥離等の問題があり,長期的な効果は期待できない 表面の微細周期構造を制御することで150°を超える超撥水性を「物理的に」付与することが注目されている

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3. ロータス効果の原理

理論的には,親水性材料(真の接触角 θ1< 90 ° )でも,表面に占める割合A1を極端に小さくすれば超撥水性表面になる 表面の微細構造の制御だけで超撥水性材料を作り出せる可能性

:物質2 (空気) :物質1 (樹脂)

θ

周期凹凸表面での水滴のモデル

凹凸が多く粗い面において, 液体が入り込めない多数の空隙によって点接触をしている場合,接触角はCassie -Baxter の式で表される ここに, A1,A2:物質1と2が表面を占める割合 物質2が空気の場合はθ2=180°,つまり真の接触角θ1がある程度大きければ,見かけの接触角θ が150 °を越える

樹脂 空気

Cosθ = A1Cosθ1 + A2Cosθ2

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表面の微細周期構造 (ロータス効果) で樹脂成

形品に撥水性を付与する金型技術の開発により- 樹脂成形できるので,低コストで安定した撥水性が得られる

同一表面の撥水性を,部分的に制御できる 熱流動性の低いバイオマスプラスチックにも応用可能

新技術の特徴・従来技術との比較

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アスペクト比が1で,かつ型取り (転写) 後も同じアスペクト比が得られる2軸方向 (クロス状) のV溝加工を採用

Step 1. 微細周期構造の決定

1) 周期的な凹凸構造を有し, 2) 凹凸のピッチは5 - 20 µm 程度のサイズで, 3) 溝幅 (a) と 突起幅 (b) のアスペクト比 (a/b比) が2以下であること

l

d

(a) 従来の矩形溝のアスペクト(a/b)比

(b) V溝加工のピッチlと溝深さd

a b

d

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稜線(溝上~溝底) 溝底線

溝上線 ピッチl = 10 µm

ピッチ

l =

10 µ

m

評価用金型の加工パターン

2軸方向 (クロス状) のV溝加工を採用した金型材 (SKD11相当) 製20mm角の駒形を試作 (加工幅:10µm×300本 = 3 mm)

Step 2. 金型の加工

2軸切削加工金型 (駒型) の外観

20 mm

3 m

m

20 m

m

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材質 引張強さ σ [MPa]

縦弾性係数 E [MPa]

密 度 ρ [kg/m3]

ガラス転移点/融点 (非結晶性/結晶性)

Tg / Tm [°C] ポリエチレン

(PE) 13 - 31 1,400 0.92 – 0.97

-20/125 (結晶性) (0.1 MPa)

ポリスチレン (PS)

36 - 52 2,000 1.04 – 1.05 100/ – (非結晶性) (0.1 MPa)

ポリ塩化ビニル(PVC) 41 - 52 2,550 1.30 – 1.58 90/ – (非結晶性)

(0.1 MPa)

ポリ乳酸* (TE2000) 57 3,500 1.25

58/168 (結晶性) (60 MPa)

プラスチックの材料特性の比較

*ポリ乳酸のみ,特定の市販材料の物性を示す。3大汎用プラスチックについては,多数の文献の平均な値を示した *ポアソン比は0.36~0.38程度

Step 3. 樹脂の物性

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表面粗さの測定結果

被加工面に無電解(Ni-P)メッキでニッ

ケル皮膜を析出させた後,平板溝加工機を用いた切削加工で十nm オーダーの平坦化処理を行い, 10 µm ピッチの切削溝加工を施した

加工方法 表面形状 Ⅰ.母材 (SKD11相当品)

Ⅱ .2軸切削加工

金型による成形品 (周期構, l = 10 μm)

Ra = 0.05 μm

Ra = 0.16 μm

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*数値は母材の接触角との差を示し,カッコ内は接触角の絶対値を示す。

金型と樹脂成形品の接触角 (静的撥水性) 対象 母材表面 加工表面

Ⅰ.金型 ( 表面材質:Ni-Pメッキ)

Ⅱ. バイオマ

スプラスチック 成 形 品(100%ポリ乳酸)

(95.7°)

+37.5°(89.5°)

+20.6°(110.1°)

(52.0°)

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2軸切削加工金型による樹脂成形品の表面 (×2,000,周期構造,100%ポリ乳酸,TE-2000)

結果 2軸切削加工による微細周期構造を採用すること

で,バイオマスプラスチックにおいても,成形品の任意の表面の撥水性を向上できることを示した

接触角の初期値の差は,材質の表面自由エネルギーの影響 2軸切削加工では,接触角が 向上(135.5°)

特許出願:金型の微細周期構造,及びその加工方法

10 μm

トップデータ 135.5°

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1. 非侵襲性 :精神的・肉体的苦痛がない 2. 随時性 :いつでも1分程度で採取できる 3. 即時性 :分析時間が1分以内 4. 簡便性 :測定条件に制約が少ない 5. 携帯性 :測定器の携帯が可能 6. 経済性 :免疫法に比べ,分析コストが 1/100

わずか 30 µLの唾液を口から直接

採取し,試験紙の吸光度を測定することで,唾液採取も含めて1分で心身ストレスマーカー (唾液アミラーゼ活性) の分析が可能

唾液アミラーゼモニタ (ニプロ㈱,一般医療機器,届出番号27B1X00045000073)

本体:25,000円 (税抜) 検査チップ:200円 (税抜) 販売数:30万~50万検体/年

ストレス検査チップへの応用

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唾液アミラーゼモニターの検査チップ

撥水性を部分的に制御した検査チップ

撥水領域 撥水領域 親水領域

唾液検体

タンパク吸着による絶対値の変動を改善

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射出成形解析ソフトとして東レ3D-TIMONを用いて,100%ポリ乳酸を用

いた場合の熱流体解析を実施

3次元モデル (ウェルドの確認)

試作

バイオマスプラスチック製検査チップ

唾液転写部

高機能検査チップの成形 (1) 新素材 (ポレオレフィン) の唾液採取

シートの一体化

(2) バイオマスプラスチック (100%ポリ乳酸) 製本体の成形

バイオマスプラスチック製の唾液検査チップ

100%ポリ乳酸

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高機能検査チップの分析精度

従来製品 (ニプロ製市販検査チップ) と比較して,良好な相関性を実証

カーボンオフセットと,タンパク吸着による絶対値の変動を改善

R² = 0.9438

0

50

100

150

200

250

0 50 100 150 200 250試作した検査チップ (kU/L)

ニプ

ロ製

(kU

/L)

n = 20

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100%ポリ乳酸

25%ポリ乳酸

従来品

■メリット ・バイオマスプラスチックを用いた世界初の医療機器 ・バイオマスプラ(BP)マークの取得(日本バイオプラスチック協会認証) ・CO2排出量の削減(排出権取引) ■デメリット ・原材料費の上昇 ■BPマークを取得する場合のコスト試算 年間使用量:本体重量2 g × 50万個/年=1,000 kg 原材料費:ポリプロピレン単価 300円/kg × 1,000 kg = 30 万円 30 万円 / 50万個 = 0.6 円/個

ポリ乳酸25%混入時のコスト上昇: ポリプロピレン単価 300円/kg × 1,000 kg × 0.75 = 22.5 万円 ポリ乳酸単価 600円/kg × 1,000 kg × 0.25 = 15 万円 (22.5 万円 + 15 万円)/ 50万個 = 0.75 円/個 25% のコスト上昇

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成 果 1. 表面の微細周期構造 で撥水性を付与する金型 樹脂成形品で接触角を向上でき,撥水性を付与

(特許出願) 2. 検査チップの成形 撥水性の部分的制御で,採取部への被測定物質の吸着を低減し,分析精度を向上 3. バイオマスプラスチックの採用 カーボンオフセットを可能とするプラスチック成形技術

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ロータス効果 積雪・着氷・着霜

の防止

視界の確保

省エネルギー

セルフクリーニング機能

食品容器・包装材

雨粒を弾き飛ばす自動車,航空機,船舶の窓,メガネ,ゴーグル (フィルム化)

洗濯をしなくても済む衣類 家屋,ビルの壁の防腐・防錆

液体の輸送抵抗減少による省エネルギー化 屋根,アンテナ,電線,

輸送機器

快適で安全・安心な製品の実現

(水滴除去)

水切れの良い容器

想定される用途

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本技術に関する知的財産権

発明の名称 :金型,その製造方法,金型を用いた樹脂成形体の製造方法並びにその製造方法によって製造された樹脂成形体

出願番号 :特願2010-211444 出願人 :国立大学法人岩手大学 発明者 :山口 昌樹,佐々木 誠,廣瀬 宏一

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産学連携の経歴 1998年-1999年 NEDO提案公募事業 総括代表研

究者 2004年-2006年 農林水産省 先端技術を活用した農

林水産研究高度化事業 分担者 2004年- 大学発ベンチャーバイオ情報研究所

設立 2007年-2008年 JST産学共同シーズイノベーション

化事業 代表者 2009年-2010年 経済産業局戦略的基盤技術高度化

支援事業 統括事業代表者 (生分解性プラスチックの一体成型

加工による医療用具の高度化)

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お問い合わせ先

• 岩手大学 地域連携推進センター 知的財産移転部門 TEL: 019-621-6494 FAX: 019-604-5036 e-mail: [email protected]