鉄欠乏性貧血に起因して脳静脈血栓症を発症した一...

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鉄欠乏性貧血に起因して脳静脈血栓症を発症した一例 A case of cerebral venous thrombosis due to iron deficiency anemia 医療法人清仁会 水無瀬病院 脳神経外科 丸茂 岳、 細谷 和生 症例 48歳女性 現病歴)平成25年9月21日から37度台の発熱があり市販の感冒薬を内服 して解熱したが、24日より頭痛が増悪し、25日には右視野欠損も自覚した ため近医(内科開業医)を受診。脳卒中を疑われ同日当院脳神経外科を 紹介受診。 現症)自制内の頭痛、右視野欠損 既往歴) 3回経妊、2回経産。とくに持病なし。ピルの服用なし。 過多月経を自覚していたが、婦人科受診なし。 家族歴) 実母が60歳ころに小脳梗塞。 Labo data Hb6.7 Hct23.1 MCV65 MCH19.0 MCHC29.1 WBC8300 Plt44.4 PT12.3 APTT25.8 Fibrinogen 291 ATIII 100% D-dimer1.49 PR3-ANCA<1.0 MPO-ANCA<1.0 抗CLβ2GPI抗体<1.2 抗カルジオリピン 抗体IgG≦8U/ml ループス抗凝固因子1.18 ProteinS抗原量73% ProteinC 抗原量108% β2ミクログロブリン1.2 CRP0.05 CEA0.8 CA19-9 23 CA125 81 CA15-3 11.2 SCC0.5 治療経過 電解質輸液とエダラボン点滴 による保存的治療を行った。 経胸壁心エコー 弁膜症() Vegetation() PFO() 右左シャント() 心系に血栓() ホルターECG 洞調律 貧血には経口鉄剤投与。骨盤部MRIでは子宮腺筋症が認められた。 画像フォローで皮質下出血の増悪なし。 症状も速やかに軽快し、10月9日に後遺症なく自宅退院。 退院後すぐに産婦人科開業医紹介受診していただき、リュープリン(GnRHゴニスト)開始された。抗凝固薬は使用せず、経過観察中。 貧血の経過 背景 Central venous thrombosis(CVT)は、硬膜静脈洞や脳静脈が血栓により狭 窄あるいは閉塞し、還流障害により静脈圧が上昇することで静脈性梗塞や 出血を来して症候性となる疾患で、 全脳卒中に占める頻度が1%未満と稀 な病態であり、しばしば診断に困難を伴う。 脳静脈血栓症をきたしうる原因として、感染症、経口避妊薬やステロイドの 使用、癌、脱水、凝固異常、外傷などが知られている。今回我々は鉄欠乏 性貧血に起因した脳静脈血栓症の一例を経験したので、報告する。 考察 鉄欠乏性貧血は小児の脳静脈血栓症の原因として1990年に最初に症例 報告され 1) 、その後のreviewでは42例の小児脳静脈洞血栓症のなかで鉄 欠乏性貧血が21例で認められたと報告されている。 2) 成人の脳静脈血栓症と鉄欠乏性貧血の関連については、渉猟しえた範 囲で5本の症例報告がなされているのみであり、極めて稀な病態である。 鉄欠乏が凝固系の亢進をもたらす機序として以下の可能性が指摘されて いる。 3) 1.鉄欠乏は二次性血小板増多症を来すことが知られているが、機序は 明らかにされていない。血小板数が増えることで血栓形成は起こりやすく なる。 2.鉄欠乏により小球性赤血球が形成されるが、変形しにくく粘性が高 いため血行動態に影響して血管内凝固が起こりやすくなる。 発症時の血小板数増多は、先行する感冒などのウィルス感染が影響して いたと考えた。貧血が是正されることで二次予防は可能と考え抗凝固剤 は投与せず経過観察している。 結語 鉄欠乏性貧血に起因して脳静脈血栓症を発症した1例を経験した。 脳卒中1次予防においても採血や心電図など健診レベルの検査の重要 性を認識する必要がある。 筆頭演者は日本脳卒中学会へのCOI自己申告を完了しています 本演題の発表に関し、開示すべきCOIはありません 参考文献 1) Anita L. Belman et al. :Cerebral venous thrombosis in a child with iron deficiency anemia and thrombocytosis : Stroke 1990;21:488-493 2G. Sebire et al. :Cerebral venous thrombosis in children riskfactors, presentation , diagnosis and outcome :Brain 2005;128:477-489 3Massimo Franchini et al. :Iron and thrombosis :Ann Hematol 2008;87:167-173 65 71 76 86 89 6.7 7.3 8.6 11.5 14.2 44.4 30 34.7 36.4 25.9 0 20 40 60 80 100 9/25 10/2 10/9 10/16 10/23 10/30 11/6 11/13 11/20 11/27 MCV Hb Plt

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鉄欠乏性貧血に起因して脳静脈血栓症を発症した一例A case of cerebral venous thrombosis due to iron deficiency anemia

医療法人清仁会 水無瀬病院 脳神経外科丸茂 岳、 細谷 和生

症例48歳女性現病歴)平成25年9月21日から37度台の発熱があり市販の感冒薬を内服して解熱したが、24日より頭痛が増悪し、25日には右視野欠損も自覚したため近医(内科開業医)を受診。脳卒中を疑われ同日当院脳神経外科を紹介受診。

現症)自制内の頭痛、右視野欠損既往歴) 3回経妊、2回経産。とくに持病なし。ピルの服用なし。過多月経を自覚していたが、婦人科受診なし。家族歴) 実母が60歳ころに小脳梗塞。

Labo dataHb6.7 Hct23.1 MCV65 MCH19.0 MCHC29.1 WBC8300 Plt44.4PT12.3 APTT25.8 Fibrinogen 291 ATIII 100% D-dimer1.49 PR3-ANCA<1.0 MPO-ANCA<1.0 抗CLβ2GPI抗体<1.2 抗カルジオリピン

抗体IgG≦8U/ml ループス抗凝固因子1.18 ProteinS抗原量73% ProteinC抗原量108% β2ミクログロブリン1.2

CRP0.05 CEA0.8 CA19-9 23 CA125 81 CA15-3 11.2 SCC0.5

治療経過電解質輸液とエダラボン点滴 による保存的治療を行った。経胸壁心エコー 弁膜症(-) Vegetation(-) PFO(-) 右左シャント(-) 左心系に血栓(-)ホルターECG 洞調律貧血には経口鉄剤投与。骨盤部MRIでは子宮腺筋症が認められた。画像フォローで皮質下出血の増悪なし。

症状も速やかに軽快し、10月9日に後遺症なく自宅退院。退院後すぐに産婦人科開業医紹介受診していただき、リュープリン(GnRHアゴニスト)開始された。抗凝固薬は使用せず、経過観察中。

貧血の経過

背景Central venous thrombosis(CVT)は、硬膜静脈洞や脳静脈が血栓により狭

窄あるいは閉塞し、還流障害により静脈圧が上昇することで静脈性梗塞や出血を来して症候性となる疾患で、 全脳卒中に占める頻度が1%未満と稀な病態であり、しばしば診断に困難を伴う。

脳静脈血栓症をきたしうる原因として、感染症、経口避妊薬やステロイドの使用、癌、脱水、凝固異常、外傷などが知られている。今回我々は鉄欠乏性貧血に起因した脳静脈血栓症の一例を経験したので、報告する。

考察鉄欠乏性貧血は小児の脳静脈血栓症の原因として1990年に最初に症例報告され1)、その後のreviewでは42例の小児脳静脈洞血栓症のなかで鉄欠乏性貧血が21例で認められたと報告されている。2)

成人の脳静脈血栓症と鉄欠乏性貧血の関連については、渉猟しえた範囲で5本の症例報告がなされているのみであり、極めて稀な病態である。鉄欠乏が凝固系の亢進をもたらす機序として以下の可能性が指摘されている。3)

1.鉄欠乏は二次性血小板増多症を来すことが知られているが、機序は明らかにされていない。血小板数が増えることで血栓形成は起こりやすくなる。

2.鉄欠乏により小球性赤血球が形成されるが、変形しにくく粘性が高いため血行動態に影響して血管内凝固が起こりやすくなる。

発症時の血小板数増多は、先行する感冒などのウィルス感染が影響していたと考えた。貧血が是正されることで二次予防は可能と考え抗凝固剤は投与せず経過観察している。

結語鉄欠乏性貧血に起因して脳静脈血栓症を発症した1例を経験した。

脳卒中1次予防においても採血や心電図など健診レベルの検査の重要性を認識する必要がある。

筆頭演者は日本脳卒中学会へのCOI自己申告を完了しています本演題の発表に関し、開示すべきCOIはありません

参考文献1) Anita L. Belman et al. :Cerebral venous thrombosis in a child with iron deficiency anemia and thrombocytosis : Stroke 1990;21:488-4932) G. Sebire et al. :Cerebral venous thrombosis in children riskfactors, presentation , diagnosis and outcome :Brain 2005;128:477-4893) Massimo Franchini et al. :Iron and thrombosis :Ann Hematol2008;87:167-173

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