超高強度鋼部材のホットスタンピング 高張力鋼板の...

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超高強度鋼部材のホットスタンピング 豊橋技術科学大学 森謙一郎 http://plast.me.tut.ac.jp/ 成形中は柔らかく,成形品は超高強度 1. ホットスタンピング 2. 目的 3. 材料,酸化防止 4. プレス成形 5. ダイクエンチング 6. スマートホットスタンピング 高張力鋼板の冷間成形における問題点 大きなスプリングバック 焼付き 1.2GPa以上の冷間プレスは困難 SPCC, 440, 590, 780, 980, 1180MPa パンチ形状 低い延性 200 400 600 800 200 400 600 800 1000 0 50 100 150 0 温度 /℃ 引張強さ /MPa 伸び /% ホットスタンピング:成形荷重低下, スプリングバックなし,成形性向上 超高張力鋼板の高温引張特性 加熱 プレス成形 板材 後加工 ホットスタンピング 下死点保持 トリミング, 穴抜き ダイクエンチング フォルクスワーゲン パサート:骨格部材の17(2006) ゴルフ:骨格部材の28(2012年,23kgの軽量化) Audi A7 Sportback アルミニウム板材 アルミニウム鋳造材 アルミニウム押出し材 ホットスタンピング材 冷間プレス成形材 ドイツ ベントラー社における ホットスタンピング成形品 Front bumper Door beam B‐Pillar reinforcement A‐Pillar reinforcement Roof reinforcement Window shaft reinforcement Rocker panel reinforcement Crossmember reinforcement Rear bumper カナダ マグナ社における ホットスタンピング成形品 トヨタにおけるホットスタンピングの適用 プリウス(2009年) レクサスIS 新型プリウス: プラットフォーム TNGA ホンダ N BOX のセンターピラー 室外 室内 超高強度スティフナー アイシン高丘における ホットスタンピング成形品 豊田鉄工,ユニプレス,ワイテック, 東プレ,ジーテクト ドアインパ クトビーム フロントサイドメンバー テーラードブランク Aピラーリーン フォースメント ダッシュロアクロスメンバー フロントバンパーリーン フォースメント ルーフクロスメンバー リアバンパーリーン フォースメント ベルトラインリー ンフォースメント AP&T 社のホットスタンピング ホットスタンピング成形品の生産量 0 50 100 150 200 250 300 350 1984 1988 1992 1996 2000 2004 2008 2012 2016 2014: 2.5億個 生産量 100万個 /13万個 8万個 2018年予測: 5 – 6億個 2018年予測: 5 – 6億個 Schuler ボルボXC9040% ホットスタンピングの適用割合 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 骨格部材に占める ホットスタンピング部材の重量割合 [%] 1 2 16 7 1 5 20082013採用なし 採用なし 車体構造部品 衝突補強部品 日本 10%超えた車種 はまだない 鈴木貴之,素形材, 20147月号 1. ホットスタンピング 2. 目的 3.材料,酸化防止 4. プレス成形 5.ダイクエンチング 6. 次世代ホットスタンピング

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超高強度鋼部材のホットスタンピング

豊橋技術科学大学 森謙一郎http://plast.me.tut.ac.jp/

成形中は柔らかく,成形品は超高強度

1. ホットスタンピング

2. 目的

3. 材料,酸化防止

4. プレス成形

5. ダイクエンチング

6. スマートホットスタンピング

高張力鋼板の冷間成形における問題点

大きなスプリングバック 焼付き

1.2GPa以上の冷間プレスは困難

SPCC, 440, 590, 780, 980, 1180MPa

パンチ形状低い延性

200 400 600 800

200

400

600

800

1000

0

50

100

150

0温度 /℃

引張

強さ

/M

Pa

伸び

/%

ホットスタンピング:成形荷重低下,スプリングバックなし,成形性向上

超高張力鋼板の高温引張特性

加熱 プレス成形板材 後加工

ホットスタンピング

下死点保持

トリミング,穴抜き

ダイクエンチング

フォルクスワーゲン

パサート:骨格部材の17%(2006年)

ゴルフ:骨格部材の28%(2012年,23kgの軽量化)

Audi A7 Sportback

アルミニウム板材

アルミニウム鋳造材

アルミニウム押出し材

ホットスタンピング材

冷間プレス成形材

ドイツ ベントラー社におけるホットスタンピング成形品

FrontbumperDoorbeam B‐Pillarreinforcement

A‐Pillarreinforcement

RoofreinforcementWindow shaftreinforcement

RockerpanelreinforcementCrossmemberreinforcement

Rearbumper

カナダ マグナ社におけるホットスタンピング成形品

トヨタにおけるホットスタンピングの適用プリウス(2009年)

レクサスIS新型プリウス:

プラットフォームTNGA

ホンダN BOXのセンターピラー

室外

室内

超高強度スティフナー

アイシン高丘におけるホットスタンピング成形品

豊田鉄工,ユニプレス,ワイテック,東プレ,ジーテクト

ドアインパクトビーム

フロントサイドメンバー

テーラードブランク

Aピラーリーンフォースメント

ダッシュロアクロスメンバー

フロントバンパーリーンフォースメント

ルーフクロスメンバー

リアバンパーリーンフォースメント

ベルトラインリーンフォースメント

AP&T社のホットスタンピング ホットスタンピング成形品の生産量

0

50

100

150

200

250

300

350

1984 1988 1992 1996 2000 2004 2008 2012 2016

2014: 2.5億個

生産

量10

0万個

/1年

3万個8万個

2018年予測:5 – 6億個

2018年予測:5 – 6億個

Schuler

ボルボXC90:40%

ホットスタンピングの適用割合

05

1015202530354045

2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

骨格

部材

に占

める

ホッ

トス

タン

ピン

グ部

材の

重量

割合

[%]

1 2

16

7

1

5

2008年 2013年

採用なし

採用なし 車体構造部品

衝突補強部品

日本 10%超えた車種はまだない

鈴木貴之,素形材,2014年7月号

1. ホットスタンピング

2. 目的

3.材料,酸化防止

4. プレス成形

5.ダイクエンチング

6. 次世代ホットスタンピング

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コイル材

ブランキング

ロボット搬送

ローラー搬送

連続炉 ホットスタンピング

成形品

高温雰囲気

図2.3 ホットスタンピング工程

(c) ホットスタンピング

(a) 熱間鍛造

(b) 熱間圧延

加工しやすさ

加工しやすさ

ダイクエンチング

1500MPa級超高強度鋼部材

ホットスタンピングの目的図2.5 ホットスタンピングによって製造される

車体部材

Bピラー

Aピラー

ルーフレール

サイドシルバンパービーム

ルーフサイドレール

ドアインパクトビーム

トンネル

0 20 40 60

100

200

300

400

荷重

/kN

ストローク /mm

ホットスタンピング

590MPa

10 30 50

図6.12 ホットスタンピング部材の軸圧壊試験における荷重―ストローク曲線

小嶋啓達他,材料とプロセス, 22 (2009), 492-495.

現状の重量で衝突安全性向上

板厚減少:剛性低下

(a) フルラップ前面衝突 (b) オフセット前面衝突

(c) 側面衝突

自動車の衝突安全性の向上

(d) スモール・オーバーラップ衝突

スモール・オーバーラップ衝突

スズキ キザシ ホンダ アコード2013

オフセット衝突 スモール・オーバーラップ衝突

Aピラーにホットスタンピング材採用

写真2.2 ホットスタンピングで製造された黒色をしたセンターピラーの補強材

ユニプレス㈱

(a) 熱間 (b) 冷間衝突安全:18点 16点

ベントラー

熱間プレス成形

ホットフォーミング

ホットスタンプ

プレスハードニング

ホットプレス

ホットスタンピング:

鋼板を加熱,成形,ダイクエンチング

Hot stamping

ホットスタンピングの名称

成形

ダイクエンチング

粉末の熱間成形

1. ホットスタンピング

2. 目的

3. 材料,酸化防止

4. プレス成形

5. ダイクエンチング

6. 次世代ホットスタンピング

C Si Mn P B0.21 0.25 1.2 0.015 0.0014

マンガンボロン鋼 22MnB5

ホットスタンピングに使用する鋼板

焼入れ鋼板であり,ハイテンではない

o 硬さ: 254 HV900 ºC,急冷: マルテンサイト変態,500HV900 ºC ,空冷:焼なまし,165HV

o 焼もどしなし

ホットスタンピングに使用される鋼板の処理

80

60

伸び

(%)

マルテンサイト変態

20加熱前

熱延材

冷延材成形品

0 500 1000引張強さ (MPa)

1500 2000

焼なまし材

40

図3.1 ホットスタンピングにおける鋼板の温度履歴

時間

搬送

温度

900~950

成形加熱

ダイクエンチング

自然冷却

取出し

200

小嶋啓達,素形材,2014年7月号

放冷平板プレス

1 10 100 10000

200

400

600

800

1000

冷却時間 /s

温度

/℃

AC3823 ℃

AC1728 ℃

フェライトパーライト

ベイナイト

マルテンサイト

159172193216254310399445444445ビッカース硬さ

ホットスタンピング用鋼板の連続冷却変態曲線

700 800 9000

100

200

300

400

500

600

素板

加熱温度 /

硬さ

/HV

20

硬さ測定部

750 850

高強度化に要求される条件

相変態

フェライト:低温,体心立方格子,炭素をほとんど溶かさない

↓オーステナイト:高温,面心立方格子,炭素を多く溶かす

↓マルテンサイト:急冷,炭素が無理矢理溶けて硬化

加熱温度:900~950 ,冷却速度:20~30 /s以上,冷却温度: 200 以下,速やかに搬送

酸化防止なし:ショットピーニング

酸化防止あり:アルミ,亜鉛めっき,金属間化合物,数分

図3.6 雰囲気が制御されていない高温炉で950 に加熱された非めっき鋼板のハット曲げ成形品

酸化防止なし

対策① ショットブラストによるスケール除去工程の増加,精度の低下

アルミ,亜鉛めっき処理 加熱 搬送 プレス成形

対策② アルミ,亜鉛めっき処理によるスケール防止:鋼板コストの増加

加熱 搬送 プレス成形 ショットブラスト

酸化

酸化無し

図3.7 非めっき材の酸化スケールの除去

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表3.2 非めっき材,アルミニウムめっき材,亜鉛めっき材のホットスタンピングにおける比較

非めっき鋼板

アルミニウムめっき

亜鉛めっき

加熱時間 短 長 中

金型摩耗 大 小 中

金型凝着 小 大 中

スケール除去 必要 不要 不要

1. ホットスタンピング

2. 目的

3. 材料,酸化防止

4. プレス成形

5. ダイクエンチング

6. スマートホットスタンピング

(a) 冷間

(c) 熱間,26mm/s(b) 熱間,149 mm/s

写真4.1 成形速度を変化させたホットスタンピング成形品の比較

(a) 149 mm/s (b) 26 mm/s

550

900

200

/ ºC

725

375

熱間成形における高速と低速のサーモグラフィーで測定された温度分布の比較

変形

抵抗

温度

ストローク

温度:接触

温度:非接触

変形抵抗:接触

変形抵抗:非接触

冷却

板押え

鋼板

高温

低温ダイス

パンチ

くびれ

低温

(b) 低速

変形抵抗:大

変形:小

(a) 高速

変形抵抗:小

高温 絞り抵抗:小

絞り抵抗:大

高温低温

低温

素板

素板

変形:大

メカニカルサーボプレスによる高速成形

図4.5 ホットスタンピングにおける変形挙動に及ぼす成形速度の影響

冷間プレス成形590MPa

780MPa

980MP

1180MP

ホットスタンピング22MnB5

図4.10 板厚1.2mmにおけるフォーム成形のスプリングバック

0

0.4

0.8

1.2

1.6

1 2 3 4 5 6下死点保持時間 /s

スプ

リン

グバ

ック

量/°

図4.11 ハット曲げ加工におけるスプリングバックと下死点保持時間の関係

1. ホットスタンピング

2. 目的

3. 材料,酸化防止

4. プレス成形

5. ダイクエンチング

6. 次世代ホットスタンピング

(a)金型への設置:2秒 (b)スライド下降・成形: 3秒 (c)成形ダイクエンチ:10秒

(d)スライド上昇:1秒 (e)金型からの取出し:2秒

1ショットにおける時間

2~3spm

ビッ

カー

ス硬

さ/H

V20

0

100

200

300

400

500

1 2 3 4 5 6下死点保持時間 /s

素板硬さ ba c

bca

図4.12 下死点保持時間を変化させてハット曲げ加工を行った成形品の硬さ

図4.14 下死点保持における成形品と金型の接触状況とプレス成形

パンチ

ブランク非接触部分

ダイス

板押え

時間

プレス荷重

成形ダイクエンチング

非接触部分を急冷するために荷重の増大

接触圧力の増加:熱伝達に増加

1. ホットスタンピング

2. 目的

3. 材料,酸化防止

4. プレス成形

5.ダイクエンチング

6. 次世代ホットスタンピング

加熱 プレス成形板材 後加工

高価な板材酸化防止材

大きな加熱炉長い加熱時間

油圧プレス1段成形

現行ホットスタンピングの問題点

高額な設備低い生産性

狭い適用範囲

適用範囲

レ ー ザ 加工

自 動 車 の骨格部材

下死点保持:10秒程度

プレスへ

炉長

炉へ投入

加熱炉

1.6m

x1.6m = 24m20sec300sec

加熱炉

(a) 遠赤外線加熱 (b)高周波誘導加熱

非表面処理材: 49 s表面処理材: 72 s

鋼板

コイル電流

磁束 磁束

渦電流

加熱,成形

加熱 搬送 成形

温度低下酸化

炉加熱

通電加熱利点

小さい温度低下 プレス作業との同期 少ない酸化スケール 高い加熱効率

大型

通電型内加熱を用いた温・熱間プレス成形

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板材投入部

板材搬送装置銅電極

成形品排出装置

成形型

通電加熱, 成形+ダイクエンチ板材搬送 材料取出し

連続通電加熱ホットスタンピング

鋼板

通電加熱 成形

電極

電極押え

下型

直接水冷口上型トリム型

サーボプレス

板材供給 搬送成形品取出し

スマートホットスタンピング通電加熱ホットスタンピング装置の開発

㈱アミノ

成形後 トリム後

1) 金型急冷で焼入れを行うダイクエンチングによって,1.5GPa程度の引張強さを有する超高強度鋼成形品が得られる.

2) スプリングバックがほとんどなくなり,形状凍結性が高い.

3) 変形抵抗が減少して,成形荷重が大幅に減少する.

4) 延性が増加して,成形性が向上する.

5) グローバル生産に対して,鋼板が入手しやすい.

ホットスタンピングの利点1) 900~950 程度に加熱されるため,非めっき鋼板では

成形品表面の酸化が著しく,スケール除去のためのショットブラスト処理が必要になる.

2) 酸化防止のためのアルミニウムまたは亜鉛めっき処理鋼板はコスト増になる.

3) ダイクエンチングのための下死点保持などに時間が必要なり,生産性が低い.

4) 高温炉が非常に大きく,設備が高価である.5) 成形品が非常に高強度になり,トリミング,穴あけに

レーザ切断を用いているため,後加工費が高い.6) 小型部品では高温炉から取り出すと急激に冷却されて

熱間加工ではなくなるため,比較的大型である自動車ボディの骨格部材に適用が限定されている.

ホットスタンピングの欠点 ホットスタンピング入門

森謙一郎,日刊工業新聞社

第1章 自動車の軽量化第2章 ホットスタンピングの概要第3章 鋼板特性第4章 プレス成形・ダイクエンチン

グ特性第5章 加熱装置、プレス機械、金

型、搬送装置第6章 後加工第7章 通電加熱ホットスタンピング第8章 シミュレーションの利用第9章 今後の応用分野