重要課題解決型研究 事後評価 「テロ対策のための爆発物検出...

127
重要課題解決型研究 事後評価 「テロ対策のための爆発物検出・処理統合システムの開発」 責任機関名:東京大学 研究代表者名:越 光男 研究期間:平成17年度~平成19年度

Upload: others

Post on 29-Jan-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • 重要課題解決型研究 事後評価

    「テロ対策のための爆発物検出・処理統合システムの開発」

    責任機関名:東京大学

    研究代表者名:越 光男

    研究期間:平成17年度~平成19年度

  • 目次

    Ⅰ.研究計画の概要

    1.課題設定

    2.研究の趣旨

    3.研究計画

    4.ミッションステートメント

    5.研究全体像

    6.研究体制

    7.研究運営委員会について

    Ⅱ.経費

    1.所要経費

    2.使用区分

    Ⅲ.研究成果

    1.研究成果の概要

    (1)研究目標と目標に対する結果

    (2)ミッションステートメントに対する達成度

    (3)当初計画どおりに進捗しなかった理由

    (4)研究目標の妥当性について

    (5)情報発信 (アウトリーチ活動等)について

    (6)研究計画・実施体制について

    (7)研究成果の発表状況

    2.研究成果:サブテーマ毎の詳細

    (1)サブテーマ1 爆発物の高感度検出システムの開発

    (2)サブテーマ2 爆発物の安全な処理システムの開発

    (3)サブテーマ3 爆薬の学理とシステムインテグレーション

    Ⅳ.実施期間終了後における取組みの継続性・発展性

    Ⅴ.自己評価

    1.目標達成度

    2.情報発信

    3.研究計画・実施体制

    4.実施期間終了後における取り組みの継続性・発展性

  • 1

    Ⅰ.研究計画の概要

    ■プログラム名: 重要課題解決型研究 (事後評価)

    ■課題名: テロ対策のための爆発物検出・処理統合システムの開発

    ■責任機関名: 東京大学

    ■研究代表者名(役職): 越 光男 (教授)

    ■研究実施期間: 3年間

    ■研究総経費: 総額 807.0百万円 (間接経費込み)

    1.課題設定

    政策目標3: 安心・安全で質の高い生活のできる国の実現

    課題3-3: 国際テロ・犯罪から安全を確保する先端科学技術研究

    空港や新幹線の駅などで簡便に使用できる高感度で高選択性を有する迅速な爆薬検出装置と、検出

    された爆薬の安全でコンパクトな処理システムを開発することにより、安全・安心で快適な社会の構築に

    貢献する。大学における爆薬の学理の研究を基盤として爆薬テロ防止統合システム開発を行う。

    本研究プロジェクトの進展により、爆薬を用いたテロの脅威は大幅に低減され、より安全な社会が実現

    される。大規模な爆薬によるテロが起こった場合、爆発による直接的な人的・物的な被害もさることながら、

    国の経済の低迷を引き起こすことはアメリカの 9.11 テロによって如実に示されている。爆薬テロの防止は

    この意味で経済社会の健全な発展のためにも必要である。また、爆薬の検出器の検定や処理装置の認

    定のための機関がわが国には存在しないが、本研究の進展により装置の標準化と認定のための方法が

    明らかになり、爆薬処理装置の認定制度を確立することが出来る。

    本研究では単に爆薬検出・処理装置を開発するのみならず、爆薬の学理に関する研究を行い爆薬の

    起爆機構解明、影響評価法の開発を行う。これらの成果は爆薬テロのみならず産業爆薬や煙火(花火)

    などあらゆる火薬類・高エネルギー物質に適用可能である。本研究の成果によって、煙火(花火)や産業

    爆薬による事故の低減も期待できる。

    本プロジェクトで開発する爆薬処理装置は爆発物処理装置として汎用性があり、テロのみならず遺棄

    兵器の処理や地雷処理にも適用可能である。この面での大きな国際貢献が期待できる。

    2.研究の趣旨

    世界各地で C4(RDX を主体とするプラスチック爆弾)や多量の硝安系爆薬(ANFO)を用いたテロが

    頻発している。最近ではこうした軍用爆薬のほかに、簡単に入手できる原料を用いて容易に自作できる爆

    薬が多く用いられることが多く、テロに使用される爆薬が多様化する傾向がある。わが国でも、アセトンか

    ら容易に合成できるトリアセトントリパーオキサイド(TATP)などの爆薬を用いた事故・テロが懸念される。

    TATP は高校生でも簡単に合成でき、実際に事故も起こっている。こうした「手製爆発物」(Improvised

    Explosive Device, IED)は容易に入手できる材料で簡単に製作でき、わが国においても爆発物によるテロ

    は今すぐにでも起こっても不思議はなく、現在の社会は過去に例を見ない危険な状態にある。高性能爆

    薬や自作の爆薬、爆発物を超高感度に検出する技術の開発と、発見された爆発物の安全な処理システ

    ムの開発は真に緊急を要する課題である。

  • 2

    本研究の目的は、諸外国で頻発し、わが国においてもその発生が懸念される爆薬によるテロに対処す

    るため、不特定多数が集合する場所、空港・新幹線などで簡便に使用できる爆薬の超高感度検出装置

    を開発することにある。また、郵送できる数十g規模から航空機テロに使用される 10kg 級の爆発物を対象

    に、検出された爆発物を安全に保管・処理できるシステムを開発することも目的とする。これらの爆薬検

    出・処理技術の基盤となる爆薬の分子構造論的な特徴と起爆機構を化学反応論の立場から明らかにし、

    爆薬の同定法、爆薬類の不爆化・威力低減化の手法を確立する。

    3.研究計画

    本研究は以下の三つのサブテーマで構成されるが、各サブテーマの研究内容は以下の通りである。

    (1) 爆発物の高感度検出システムの開発

    既に三菱重工と東京大学において実績のある真空紫外光イオン化質量分析(VUV-SPI-TOF)法を

    用いた高感度大気微量成分検出法を高感度爆発物検出器に適用する。マルチターン TOF 法を導入し

    てコンパクト化・高分解能化を計る。イオン化方法の改良などで更なる高感度化をはかるとともに、従来の

    方法の問題点であった誤報率の低減と測定の簡便化、かつ測定の迅速化を実現する。さらにパルス中

    性子およびミリ波を用いた非開披爆発物検出システムを開発する。パルス中性子法、ミリ波を用いた爆薬

    検出の学理を確立し、VUV-SPI-TOF とのシステムインテグレーションを行うことにより、高精度で汎用の

    爆薬検出システムを構築する。この非開被検出システムではミリ波やパルス中性子法により得られた情報

    から爆発物を同定する手法の開発も重要な研究対象である。

    (2) 爆発物の安全な処理システムの開発

    空港や鉄道の駅などにおいて爆発物や爆発物と疑われるものが発見された場合、それらが爆発しても

    周囲に危害を及ぼさないよう、安全な爆発容器に保管しかつ安全に検査・処理することが必要である。爆

    発容器に関しては、爆発実験用に開発されたものがあるが、可搬で安全な保管・検査・処理を目的とした

    システムはなく、ここでは、爆発物を投げ込めば、爆薬が爆発しても外部に危険のない爆発物処理システ

    ムを開発する。爆発物処理容器としては、手荷物程度の 10kg 級爆発物を対象とした容器を開発する。本

    サブテーマは①爆発物処理システム数値設計技術の開発、②爆発物の処理容器の開発、の二つのプロ

    ジェクトよりなるが、爆発物影響評価シミュレーションおよびその検証実験、容器開発のための構造体開

    発などを含む。

    (3) 爆薬の学理とシステムインテグレーション

    テロに使用される爆薬を対象として、爆薬の起爆機構の解明と威力評価に関する研究を行う。量子化

    学計算を基盤として爆薬の物性および分子内エネルギー移動速度と起爆感度の関係を明らかにし、理

    論による起爆条件の予測を検証するために新規ナノショック技術を用いて各種爆薬の衝撃起爆感度を実

    測する。また、ANFO 系爆薬は容易に入手可能な原料で簡単に作製可能であるが、その起爆機構は特

    に興味深い。(原料の硝酸アンモニウムは農薬として常用されている。)通常極めて安定な農薬がなぜ爆

    発するのかを明らかにするための研究を実施する。

    また、当初設定した研究計画は以下の通りである。

  • 3

    研究開始後1年目の目標

    サブテーマ1:高感度検出システムの高速化のためのシミュレーションと試作準備を行う。

    サブテーマ2:テロに用いられる爆発物の威力評価実験と、その数値予測技術の開発を行う。

    サブテーマ3:ナノショックを用いた超高圧パルス発生技術および起爆過程モニター法を開発する。また

    爆発テロ被害の数値予測システムを設計する。

    研究開始後2年目の目標

    サブテーマ1:各検出システムの試作を行い、性能データの把握を行う。

    サブテーマ2:容器の耐久性評価手法を開発する。また 1kg 級処理容器を試作し処理実験を行い、容

    器の性能を評価する。

    サブテーマ3:衝撃起爆過程を時間観測し理論モデルを構築する。ANFO 系爆薬の衝撃感度測定を行

    う。また爆発テロ被害の数値予測システムを開発する。

    研究開始後3年目の目標

    サブテーマ1:高感度検出システムの実証試験を行い、性能評価を行う。

    サブテーマ2:10kg 級処理装置を試作し、実証実験を行う。

    サブテーマ3:爆薬感度のモデル化し威力評価法を確立する。ANFO について感度予測理論の検証を

    行う。また爆発テロ被害数値予測システムを公開する。

    4.ミッションステートメント

    現在最高性能の複数種(VUV-SPI-TOF、ミリ波、中性子)の検出装置を統合・高度化して、高性能爆発

    物や窒素不含有の新型爆薬の検出を、所要時間数分以内で検知率 99%以上を目標とする。高エネルギ

    ー物質の起爆機構を分子論に基づいて明らかにし、高性能爆薬 10kg を安全に処理できるシステムを開

    発する。質量分析法やミリ波や中性子用いた方法で得られる情報から爆薬を同定する方法を確立する。

    また分子論に基づいて爆薬の起爆機構を明らかにする。

  • 4

    5.研究全体像

  • 5

    6.研究体制

    本プロジェクトは化学と物理の学際領域の課題であり、また大規模実験装置が必要となることや複合技

    術の必要性から単一の研究機関では実施できない。例えば爆薬の爆発実験が必要であるが、そのような

    実験が出来る機関は極めて限られており、産総研の爆発安全研究センターの参加が必要である。高度

    分析技術の集大成である爆薬検出装置の開発や高強度処理装置の試作には産業界からの参加が必須

    である。プロジェクトの推進は東京大学が責任を持ち、爆薬の学理に基づいた安全な処理システムを開

    発する。

    テロ対策は単一の府省のみでは実行できないことは明らかで、総合的な取り組みが必要である。例えば

    郵便物によるテロ対策は郵政省の、外国からのテロリストの入国管理や新幹線を対象としたテロに対応す

    るためには財務省や国土交通省の協力が必要であるし、爆薬そのものの管理は経済産業省の管轄であ

    る。爆薬処理については消防研究所や防衛庁の研究所との連携も必要となる。本プロジェクトでは、産・

    官・学の研究者が一体となって研究開発を進める。

    なおミリ波によるバルク検出に関しては主として三菱重工が開発を担当したが、クロストークなどの技術

    課題の解決を図るため最終年度に東京大学廣瀬教授に参加いただいた。

  • 6

    実施体制一覧

    研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

    1. 爆発物の高感度検出システムの開発

    2. 爆発物の安全な処理システムの開発

    3. 爆発の学理とシステムインテグレーション

    (1) 爆発感度の温度依存

    (2) 爆発物の爆発威力評価

    (3) 爆発テロ被害予測技術と対策技術の開発

    (4) 爆発物検出の学理

    (5) システムインテグレーション

    (6) ミリ波・マイクロ波によるイメージングの学理

    4. 研究運営委員会

    三菱重工業㈱ 先進技術研究

    センター

    (独) 産業技術総合研究所 爆

    発安全研究コア

    (国) 東京大学大学院 工学

    系研究科

    (国)横浜国立大学大学院 環

    境情報研究院

    (独)産業技術総合研究所 爆

    発安全研究コア

    (国)東京大学大学院 工学系

    研究科

    科学警察研究所 爆発研究室

    (国)東京大学大学院 工学系

    研究科

    (国)東京大学大学院 工学系

    研究科

    岩村康弘

    (主席研究員)

    飯田光明(代表)

    新井 充(教授)

    小川輝繁(教授)

    飯田光明(代表)

    ◎越 光男(教授)

    中村 順(室長)

    廣瀬 明(教授)

    ◎越 光男(教授)

    ◎ 代表者

  • 7

    7.研究運営委員会について

    研究運営委員会委員一覧

    氏名 所属機関 役職

    ◎越 光男 (国)東京大学大学院 工学系研究科 教授 田村 昌三 (国)東京大学大学院 工学系研究科 教授 田中 知 (国)東京大学大学院 工学系研究科 教授 堀井 秀之 (国)東京大学大学院 工学系研究科 教授 水元 伸一 文部科学省 科学技術・学術政策局 安心・

    安全科学技術企画室

    室長

    佐藤 正典 総務省 消防庁 総務課 国民保護運用室 室長

    佐々木 隆文 経済産業省 原子力安全保安院保安課 火薬専門職

    田村 義正 国土交通省 技術総合政策局 技術安全課 課長

    藤崎 耕一 国土交通省 鉄道局 総務課 危機管理室 室長

    有澤 治幸 防衛省 技術研究本部 企画部計画 第 3 班長

    高橋 清考 警察庁 警備局 警備課 課長

    小田野 直光 (独)海上技術安全研究所 運航・システム

    部門 原子力安全技術研究グループ

    グループ長

    柳下 尚道 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 安全対

    策部

    部長

    柿野 滋 日本火薬工業会 専務理事

    小林 秋穂 (社) 全国火薬類保安協会 専務理事

    ◎研究運営委員長

    運営委員会等の開催実績及び議題

    <平成 17 年度>

    第一回(平成17年11月16日)

    議題: 研究実施計画、研究実施体制に関する審議

    アウトリーチ活動に関する審議

    第二回(平成18年3月27日)

    議題: 平成 17 年度研究成果の確認

    アウトリーチ活動に関する審議

    <平成 18 年度>

    第三回(平成18年6月7日)

    議題: 平成 18 年度研究目的に関する審議

    これまでの進捗状況に関する審議

    海外調査計画に関する審議

    アウトリーチ活動に関する審議

  • 8

    第四回(平成18年9月25日)

    議題: 平成 18 年度研究進捗状況に関する審議

    海外調査に関する審議

    アウトリーチ活動に関する審議

    第五回(平成19年3月28日)

    議題: 平成 18 年度研究成果に関する審議

    海外調査結果に関する審議

    アウトリーチ活動に関する審議

    <平成 19 年度>

    第六回(平成19年10月3日)

    議題: 平成 19 年度研究計画および進捗状況に関する審議

    海外調査に関する審議

    アウトリーチ活動に関する審議

    第七回(平成20年3月21日)

    議題:平成 17-19 年度研究成果に関する審議

    本研究の成果を今後に生かすための意見交換等

  • 9

    Ⅱ.経費

    1.所要経費

    (直接経費のみ) (単位:百万円)

    所要経費

    研 究 項 目 担当機関等 研 究

    担当者 H17

    年度

    H18

    年度

    H19

    年度 合計

    1. 爆発物の高感度検出システ

    ムの開発

    2. 爆発物の安全な処理システムの開発

    3. 爆発の学理とシステムインテグレーション

    (1) 爆発感度の温度依存

    (2) 爆発物の爆発威力評価

    (3) 爆発テロ被害予測技術と対

    策技術の開発

    (4) 爆発物検出の学理

    (5) システムインテグレーション

    (6) ミリ波・マイクロ波によるイメー

    ジングの学理

    4. 研究運営委員会

    三菱重工業㈱

    (独) 産業技術総

    合研究所

    (国) 東京大学

    (国) 横浜国立大

    (独) 産業技術総

    合研究所

    (国) 東京大学

    科学警察研究所

    (国) 東京大学

    (国) 東京大学

    岩村康弘

    飯田光明

    新井 充

    小川輝繁

    飯田光明

    越 光男

    中村 順

    廣瀬 明

    越 光男

    73.2

    39.6

    35.8

    3.9

    6.9

    3.6

    8.4

    13.0

    0

    5.3

    126.2

    52.9

    54.2

    6.7

    7.7

    1.8

    31.6

    6.4

    0

    4.1

    65.3

    97.8

    64.3

    7.7

    18.0

    2.4

    19.7

    9.5

    7.0

    2.0

    264.7

    190.3

    154.3

    18.3

    32.6

    7.8

    59.7

    28.9

    7.0

    11.4

    所 要 経 費 (合 計) 153.9 237.4 229.4 620.7

  • 10

    2.使用区分

    (単位:百万円)

    サブテーマ1

    サブテーマ

    2 サブテーマ

    3 研究運営 委員会

    設備備品費 105.1 11.5 57.0 0.0 173.6試作品費 40.0 32.2 0.0 0.0 72.2消耗品費 9.8 38.0 52.1 0.0 97.9人件費 59.6 37.3 35.7 0.0 132.6その他 50.1 71.3 9.3 11.4 142.1間接経費 79.4 57.1 46.7 3.4 186.6計 344.0 247.4 200.8 14.8 807.0

    ※備品費の内訳(購入金額5百万円以上の高額な備品の購入状況)

    【装置名:購入期日、購入金額、購入した備品で実施した研究テーマ名】

    ① 中性子発生管:2006 年 3 月,24.3 百万円,サブテーマ1 ② マルチターン型 TOFMS:2006 年 12 月,29.9 百万円,サブテーマ1 ③ Ge 半導体γ線検出装置:2006 年 9 月,27.7.百万円,サブテーマ1 ④ 爆発影響評価用並列計算機システム本体ならびに爆発影響評価用並列計算機システム高速

    ネットワーク装置:2007 年 12 月,7.9 百万円,サブテーマ2及び3 ⑤ ラマン分光解析システム:2007 年 11 月,16 百万円,サブテーマ3

    ⑥ サブナノ(ピコ)秒 Nd:YAG レーザ:2006 年 11 月,10 百万円,サブテーマ3

  • 11

    Ⅲ.研究成果

    1.研究成果の概要

    本プロジェクトでは爆薬の学理の研究を基盤として、テロ対策のための爆発物検出器の開発と、検出さ

    れた爆薬の処理装置の開発を行った。本プロジェクトで想定しているのは空港や新幹線の駅などにおけ

    るテロ対策で、爆発物を高速に(Walk throughで)検出する装置と、スーツケースなどに隠された爆発物を

    開けずに(非開披)検出する装置、および発見された爆発物をその場で安全に処理するためのコンパクト

    な装置を開発した。

    ① 爆発物の高感度検出システムの開発(サブテーマ1)においては、質量分析法に基づくコンパクトな

    高感度検出法、中性子を用いた非開披検出法、ミリ波を用いた非開披検出法の三つの検出法を開発し

    た。爆薬検出法の開発で得られた特に重要な成果は以下の通りである。

    a. 駅改札器内に設置が可能なコンパクトタイプの爆薬検出装置を開発した。この装置は従来の爆薬検

    出用質量分析器に比して同定が格段に容易かつ確実であり、かつ高速(1 秒以内)でコンパクトであ

    る。また TATP などのニトロ基を含まない爆薬の検出も可能である。

    b. パルス中性子を用いた元素分析により爆発物を非開被で検出する方法を開発し、実証試験装置を

    製作した。中性子照射により生じるガンマ線スペクトルに対してニューラルネットを用いた判定法を適

    用することにより衣類などと混在する条件下でも 10 分以内に高い検知率(100%)で TATP や TNT 模

    擬爆薬を検出できることを確認した。

    c. ミリ波を用いたウォークスルー検出可能な高速な非開被爆発物・銃刀可視化装置を開発した。多数

    の送・受信アンテナを高周波スイッチで切りかえ画像化する独自のシステムを開発したことにより、高

    速検出(移動するターゲットを 1 秒以内で画像化)が可能となった。

    ② コンパクトな爆発物容器の開発(サブテーマ2)に際して、構造解析計算コードと流体解析計算コート

    を組み合わせた連成系の数値解析手法を独自に開発した。これを用いた爆発シミュレーションにより効率

    的な爆発物処理容器設計が可能となった。計算コードの妥当性は爆発実験を実施して確認された。爆風

    を受ける構造物・容器に対する流体―構造連成解析手法が確立できた。10Kg の爆薬を安全に処理でき

    るコンパクトな処理容器を設計・製作し、実証試験を行い装置が実際に繰り返し使用できることを確認した。

    この処理容器は世界で最もコンパクトな10Kg 級爆発物処理容器である。

    ③ 上記の成果は爆薬の基礎学理(サブテーマ3)の研究に支えられて可能となった。基礎学理における

    検出装置開発に関する主要な成果は以下の通りである。

    a. 真空紫外イオン化質量分析法の爆発物検出に関して、爆薬のイオン化ポテンシャル、光イオン化質

    量スペクトルパターンのデータベースを構築した。また理論計算によりフラグメントイオンの生成機構

    を明らかにした。(サブテーマ 3.4.1)

    b. ミリ波非開被検出に関して、奥行き情報を得ることができる「変調複素振幅観測法」、「位相特異性拡

    散法」を新規に開発し、ミリ波検出の高速化に寄与した。(サブテーマ 3.6)

    爆薬処理法に関する基礎学理研究の主要な成果は以下の通りである。

    c. 爆薬の打撃感度に関して、硝酸アンモニウム油剤(ANFO)は低温ほど感度が高くなり、爆薬処理に

    おいて液体窒素などで冷却することが問題となる場合があることを明らかにした。(サブテーマ 3.1)

    d. ANFO などの非理想爆薬の爆轟特性値計測法を開発し、爆発威力の評価を行った。ANFO に微量

    の炭素粉を混入することにより威力が大幅に増加することを見出した。(サブテーマ3.2)

  • 12

    e. 流体―構造連成プログラムを開発し、爆発テロ被害予測を行った。ここで開発した方法は爆発処理

    容器の設計に用いられた。(サブテーマ 3.3)

    f. 爆薬の衝撃起爆過程を分子論的に明らかにした。衝撃起爆の律速過程は爆薬結晶のフォノンービ

    ブロン間のエネルギー移動であり、エネルギー移動速度と衝撃起爆感度は強い相関があることを明

    らかにした。(サブテーマ 3.4.2)

    g. レーザ衝撃波を爆薬に入射して爆薬分子の振動状態を時間分解ラマン分光により追跡する手法を

    確立した。(サブテーマ 3.4.2)

    h. 爆発物の分析探知に関する文献(550 報)検索により爆発物の物性・爆発特性に関するデータベー

    スを構築した。従来知られていなかった手製爆薬および最近問題になっている液体爆薬について爆

    発特性を実験的に明らかにした。このデータは処理容器設計に用いられた。(サブテーマ 3.5)

    (1)研究目標と目標に対する結果

    ①目標:高感度な質量分析により爆発物を検出する、ノンストップでコンパクトな爆発物検知装置を開発

    する。

    結果:9種類の爆発物について1秒以内に検知でき、駅改札機の幅(300mm)に収まる大きさに小型化

    した装置を開発した。

    ②目標:パルス中性子を用いた元素分析により爆発物の検出を行う、非開披で高精度な爆発物検出シス

    テムを開発する。

    結果:実際の手荷物に近い状況で TATP や TNT 等の模擬爆発物を 10 分以内に高い検知率で検出

    可能な装置を開発した。

    ③目標:大きな不審物の有無を 1 秒以内に判定する非開被ミリ波可視化装置を開発する。

    結果:移動するターゲット(1 リットルペットボトル)を 1 秒で画像化できる装置を開発した。

    ④目標:10Kg の爆発物を安全に処理できるコンパクトな容器を開発する。

    結果:10Kg 級爆発物処理容器としては世界最小の容器のプロトタイプを開発した。

    ⑤目標:爆発物検出・処理技術の基盤となる爆薬の分子構造論的な特徴と起爆機構を明らかにする。

    結果:検出に必要となる基礎データ(イオン化ポテンシャル、マスパターン、蒸気圧など)のデータベー

    スを量子化学計算や文献調査により構築した。爆薬処理装置設計基礎データ取得のために爆

    発特性(感度の温度依存、爆轟特性)を実測した。衝撃起爆とエネルギー移動速度との相関を

    明らかにした。

    (2)ミッションステートメントに対する達成度

    「高性能爆発物や窒素不含有の新型爆薬の検出を、所要時間数分以内で検知率99%以上」はほぼ達

    成された。高性能爆発物や窒素不含有の新型爆薬(TATP)は真空紫外イオン化質量分析装置では1秒

    以内に検出でき、ウォークスルー検出が可能である。中性子を用いた非開被検出では10分以内で30回

    の試行に対して検知率100%で検出可能である。真空紫外イオン化質量分析装置を用いた場合、手の油

    など不純物存在下でも高い同定精度を持っていることは確認できたが、検知率の定量評価は行っていな

    い。ミリ波非開被検出の画像化処理も1秒以内で可能である。ミリ波非開被検出は試験回数範囲内では

    100%検出できているが正確な検知率は算定できていない。

    「高性能爆薬10kgを安全に処理できるシステムを開発」については達成できた。すなわち、世界最小の

  • 13

    10Kg級爆発物処理容器のプロトタイプを完成させた。

    「質量分析法やミリ波や中性子用いた方法で得られる情報から爆薬を同定する方法を確立」についても

    達成できた。質量分析法に関しては質量スペクトルパターンが単純なイオン化法(真空紫外イオン化法)

    を採用し、また爆薬のスペクトルパターンデータベースを構築したことにより不純物存在下でも爆薬が同

    定できるようになった。中性子を用いた方法ではニューラルネットを用いる方法を新規に開発したことによ

    り高い精度で爆薬が同定できる。ミリ波に関しては、不審物自動検出のための判定指標を策定し爆薬な

    ど不審物の同定方法を確立した。

    「分子論に基づいて爆薬の起爆機構を明らかにする」に関しては、この課題研究のためのレーザナノ衝

    撃波パルスを爆薬に入射して時間分解ラマンスペクトル測定により分子振動励起過程を追跡する実験装

    置を開発した。さらに衝撃起爆の理論計算モデルを構築し、エネルギー移動速度と起爆感度の相関関

    係を明らかにした。これにより本課題もほぼ達成できた。

    本プロジェクトでは爆発物検出法として三つの方法を開発した。目標は駅などでのテロ対策を想定して

    「ウォークスルー検出可能で確実に爆発物検出できるシステムの開発」であった。テロ対策としての爆発

    物検出は極めて頻度の低い事象であり、個々の単一の装置ではこのように低い頻度の事象を確実に検

    出することは不可能である。しかしながら、本プロジェクトで開発した異なる原理の検出装置を組み合わせ

    る(統合する)ことにより極端に低い頻度の事象も確実に検出することが可能となる。すなわち、高速(1 秒

    以内)な真空紫外イオン化質量分析システムとミリ波非開被検出システムにより「スクリーニング」を行い、

    中性子非開被検出システムで確実に爆発物を同定するシステムを構築できる。本プロジェクトの目標は

    爆薬処理も含めた統合化システムの基本要素を開発することにあり、この目標はほぼ達成できた。

    (ただしこのような統合されたシステムを製品としてこのプロジェクト内で構築することは時間的にも経費的

    にも無理で、当初より想定していない。)

    以上まとめると、ミッションステートメントに関しては検知率の定量評価以外については達成できた。

    (3)当初計画どおりに進捗しなかった理由

    当初の年次計画にそって進捗した。

    (4)研究目標の妥当性について

    研究目標は大部分達成できており、目標設定もおおむね妥当であった。ミッションステートメント中で、

    爆薬検知システムの検知率 99%以上、という目標を掲げたが、この目標設定の妥当性には反省点が残

    る。

    爆薬検知の検知率を正確に求めるためには、空港や駅など爆薬以外の検出妨害物の存在する実際の

    場でのフィールドテストが必要である。また誤報率 1%(検知率 99%)という確率を実証するためには長期の

    テストが必要である。そのようなテストを実施するための予算的・時間的余裕はこのプロジェクト内では無

    理であった。したがって、このプロジェクトの範囲内で検証できる「検知率」を明確に定義しておく必要があ

    った。このプロジェクトでは検知システムの実証機を製作し、実験室レベルでの実証試験を行い「検知率」

    を算出する試みを行ったが、現場での検知率が正確に算定できているとは言いがたい。

  • 14

    (5)情報発信 (アウトリーチ活動等)について

    本プロジェクトはテロ対策を目的としていて、爆薬検知と処理に関する技術開発がその内容である。この

    ような研究の一般公開に関しては、例えば爆薬の検出法、検出限界、威力データなど注意を要する内容

    も多い。したがってアウトリーチ活動などの情報発信に関してもすべてを積極的に公開すべきかどうか微

    妙な点もある。この点に関してはプロジェクト開始当時から問題となり、運営委員会における議論と指導を

    基に活動してきた。

    5.1) 市民を対象としたアウトリーチ活動

    ・テロの脅威に対する啓蒙活動として公開市民講座を開催し、また公開爆発実験を行った。爆薬の威力

    を実感として理解いただくことを目的とした。

    <技術セミナー>

    平成 17 年 12 月 1、2 日 10 時―17 時

    グランドヒル市谷(東京都新宿区市谷本村町4-1)

    「爆発性物質によるテロ対策・探知技術セミナー」

    (社)全国火薬類保安協会、(社)火薬学会と共催

    参加者:約 70 名

    <公開市民講座>

    平成 18 年 1 月 26 日(木)10 時~12 時

    日立市 日立シビックセンター

    講演:「爆発物の威力について」

    横浜国立大学安心・安全の科学研究教育センター 田村昌三 教授

    「公開爆発実験の概要とポイント」 中国化薬株式会社 北島英二部長

    参加者:33 名

    <公開爆発実験>

    平成 18 年 1 月 26 日(木)13 時 30 分~16 時

    場所:日立セメント(株)太平田鉱山

    爆発実験:「TNT爆薬による爆発実験」 「含水爆薬による爆発実験」

    参加者:36 名

    ・公開科学技術講演会を開催した。

    第一回(平成 19 年2月20日) 場所:東京大学工学部 11 号館 参加者数:66 名

    第二回(平成 20 年3月21日) 場所:東京大学工学部 2 号館 参加者数:57 名

    ・ニュースレターを発行した。(年 1 回発行: 1 号(平成 18 年 3 月)-3 号(平成 20 年 3 月))

    ・プロジェクト紹介の英語版パンフレットを作成した。(平成 19 年度)

    ・ホームページを開設した。

    http://www.defence-terro.org/ ・研究内容のデモンストレーション用 DVD を作成した。 「爆発のシミュレーションの可視化」 基礎編 (平成19年3月) 応用編 (平成20年3月) 5.2) そのほかの情報発信 ・大学において本プロジェクトの紹介とテロ対策の科学技術について講義を行った。

  • 15

    東京大学教養学部 総合科目 E「安全・安心への科学技術」 2007.11.15

    ・火薬学会・安全工学シンポジウムなどで本プロジェクトの紹介と研究成果の発表を行った。

    安全工学会(2008.7.11)のオーガナイズド・セッションで本プロジェクトの成果発表予定

    全国火薬類保安協会主催「爆発性物質によるテロ対策・探知技術セミナー」に講師とし参

    加(越・中村)(2006-2008 年)

    TMS 研究会(質量分析学会分科会)でプロジェクトの紹介を行った。(2007.4.27)

    ・テロ対策に関する政府委員会メンバーとしてプロジェクトの紹介と提言を行った。

    国土交通省「爆発物等探知新技術検討会」でプロジェクトの紹介を行った。(2005.11.21)

    警察庁で本プロジェクトの紹介を行った。(2006.11.26)

    財務省「検査機器に関する談話会」メンバー(越)としてプロジェクト紹介と提言を行った。

    国際財務局長会議でプロジェクトの紹介を行った。

    7th ASEM Customs DG-commissioner meeting, Yokohama, 2007.11.12

    安全・安心日米イニシアチブ(FIS3)会議にメンバーとして参加(越、中村)した。

    First Workshop on the U.S.-JAPAN Framework Initiative for a Safe and Secure Society, Honolulu,

    2006.10.15-16

    U.S.-Japan Explosives Countermeasures Workshop, Washington, D.C, 2007.6.18-22

    日仏安全・安心科学技術協力に関する調査 (文科省安全・安心室)に参加した。 2007.3.5-8

    内閣府 「テロ対策のための研究開発タスクフォース」に委員(越、中村)として参加した。

    ・新聞記事など

    2006 年 1 月 11 日 読売新聞 (26 面)

    2006 年 9 月 4 日 日本経済新聞 (科学面)

    2006 年 9 月 25 日 セキュリティー産業新聞((5 面)

    2006 年 11 月 21 日 東京大学新聞(3 面)

    2007 年 10 月 10 日 セキュリティー産業新聞(4 面)

    2008 年 5 月 10 日 セキュリティー産業新聞(9 面)

    2006-2007 年 「東大は主張する」(東京大学新聞社刊) p.109―111

    (6)研究計画・実施体制について

    本プロジェクトは大学および産総研における基礎研究(サブテーマ3)、企業(三菱重工(MHI))におけ

    る爆発物検出装置開発(サブテーマ1)、および産総研における場悪初物処理装置開発(サブテーマ2)、

    の三つのタスクフォースから構成される。サブテーマ1および2は装置開発を主要目標とし、サブテーマ3

    は学理研究でサブテーマ1および2の装置開発のための基礎研究を目的としている。特にサブテーマ1と

    3、サブテーマ2と3との間の連携がプロジェクト遂行のために重要であった。

    この三つのタスクフォースに属する研究者間での情報交換および連携をとるために、運営委員会とは

    別に実施担当者会議を数ヶ月に一度開催した。また実施担当者のメーリングリストを開催し、適宜情報交

    換を図った。特に関係の深いグループ間(例えばサブテーマ1-1と3-4、1-3と3-6、2-2と3-5)では必要に

    応じて打ち合わせ会議を別個開催した。

    装置開発(サブテーマ1および2)と学理研究(サブテーマ3)の間の協力関係を以下に示す。

  • 16

    サブテーマ1:検出装置の開発(MHI) サブテーマ3:学理研究

    1-1 VUV-TOFMS装置開発 3-4 爆薬検出の学理(東大)

    1-2 中性子非開被検出開発

    1-3 ミリ波非開被検出装置開発 3-6 ミリ波マイクロ波イメージング(東大)

    サブテーマ2:処理装置開発(産総研) 3-5 システムインテグレーション(科警研)

    2-1 数値設計技術 3-3 テロ被害予測技術(産総研)

    2-2 処理容器開発 3-1 爆発感度の温度依存(東大)

    3-2 爆発威力評価(横国大)

  • 17

    (7)研究成果の発表状況

    1)研究発表件数

    原著論文発表(査

    読付)

    左記以外の誌面

    発表

    口頭発表 合計

    国 内 11 件 2 件 55 件 68 件

    国 外 21 件 3 件 22 件 46 件

    合 計 32 件 5 件 77 件 114 件

    2)特許等出願件数:国内 10件、国外 該当なし、合計 10 件

    3)受賞等: 1件

    越 光男: 衝撃波工学研究会 「Glass Memorial Award」, 2008.3.17

    4)原著論文(査読付)

    【国内誌】(国内英文誌を含む)

    ① Eisuke Yamada, Kunihiko Wakabayashi and Mitsuo Koshi:「Experimental and numerical analyses

    of carbon tetrachloride under laser-driven shock compression」 , Science and Technology of

    Energetic Materials (in press).

    ② Naoyuki Goto, Hiroshi Yamawaki, Kunihiko Wakabayashi, yoshio Nakayama, Masatake Yoshida

    and Mitsuo Koshi:「High pressure phase of RDX」, Science and Technology of Energetic Materials,

    291-300 (2005).

    ③ S. Ye, M. Izumo, M. Sakai, and M. Koshi: 「Phase transiton of sulfur during the nano-shock

    compression」, Sci. Tech. Energetic Materials, 67, 129-133 (2006)

    ④ 保前友高, 若林邦彦, 松村知治, 中山良男:「ゲル化水による爆風圧低減効果」, Science and

    Technology of Energetic Materials, 67, 182-186, (2006).

    ⑤ T. Homae, K. Wakabayashi, T. Matsumura and Y. Nakayama:, 「Attenuation of blast wave

    using sand around a spherical pentolite」, Science and Technology of Energetic Materials,Vol.68,3,

    90-93, (2007)

    ⑥ M. Izumo, Y. Shitano, S. Sivaprakasam, M. Arai, K. Ishikawa, Y. Nakayama:「A comparative

    study on impact sensitivity of explosive materials at low temperature conditions」,Science and

    Technology of Eergetic Materials ,in press, (2008)

    【国外誌】

    ① S. J. Ye and M. Koshi: 「Theoretical studies of energy transfer rates of secondary explosives」, J.

    Phys. Chem. B110, 18515-18529 (2006)

    ② Naoyuki Goto, Yuji Fujihisa, Hiroshi Yamawaki, Kunihiko Wakabayashi, yoshio Nakayama,

    Masatake Yoshida and Mitsuo Koshi:「Crystal structure of the high-pressure phase of hexahydro -

    1,3,5 – trinitro - 1,3,5 - triazine (γ-RDX)」, Journal of Physical Chemistry B, 23655-23659 (2006).

    ③ T. Homae, K. Wakabayashi,T.Matsumura and Y. Nakayama:「Dependence of Blast Attenuation

  • 18

    on Weight of Barrier Materials」, Materials Science Forum, 566, pp179-184,(2008)

    ④ A.Miyake, H.Kobayashi, H.Echigoya, T.Ogawa, S.Kubota, Y.Wada and Y.Ogata,:「Non-ideal

    detonation properties of ammonium nitrate and activated carbon mixtures,」 Int’ J. Modern Physics

    B, (in press)

    ⑤ Reiko I. Hiyoshi, Yuji Kohno, Osamu Takahashi, Jun Nakamura, Yoshitaka Yamaguchi, Shinya

    Matsumoto, Nagao Azuma, and Kazuyoshi Ueda:"Pressure-Induced Molecular Structural Change on

    Aromatic Nitro compounds", International Detonation Symposium, 23-28 (2006)

    ⑥ Reiko I. Hiyoshi, Yuji Kohno, Osamu Takahashi, Jun Nakamura, Yoshitaka Yamaguchi, Shinya

    Matsumoto, Nagao Azuma, and Kazuyoshi Ueda:"Effect of pressure on the vibrational structure of

    insensitive energetic material NTO", J. Physical Chemistry 110,9816-9827,(2007)

    ⑦ Reiko I. Hiyoshi, Jun Nakamura, and Thomas B. Brill: "Thermal Decomposition of Organic

    Peroxides TATP and HMTD by T-jump/FTIR Spectroscopy". Propellants, Explosives, Pyrotechnics,

    32 (2007), in print

    ⑧ R.Yamaki, and A.Hirose: "Singularity-spreading phase unwrapping, "IEEE Trans. on Geoscience

    and Remote Sensing, 45, 10 (2007) 3240-3251

    ⑨ S.Masuyama, and A.Hirose, "Walled LTSA array for rapid, high spatial resolution, and phase

    sensitive imaging to visualize plastic landmines," IEEE Trans. on Geoscience and Remote Sensing, 45,

    8 (2007) 2536-2543

    ⑩ R.Yamaki A.Hirose, "Weighted singular unit restoration in interferograms based on

    complex-valued MRF model for phase unwrapping," Int'l Symposium on Antennas and Propagation

    (ISAP) 2007 Niigata, Proc. (Aug. 20-24, 2007, Niigata) 812-815

    ⑪ G.M. Simangunsong, S.Kubota, T. Saburi, K. Katoh, S. Yoshino Y. Wada and Y. Ogata:

    「Dynamic Response of a Steel Pipe to Internal Blast Loading」, Materials Science Forum, 566, pp

    29-34,(2008)

    ⑫ Tei Saburi, Shiro Kubota, Masatake Yoshida, Simangunsong Ganda, Yuji Wada and Yuji Ogata:

    「Design and Experiment of Compact Projectile Accelerator Driven by Explosives」, Material Science

    Forum, vol.566 pp35-40,(2008)

    ⑬ Tei Saburi,Shiro Kubota, Yuji Wada, Yuji Ogata:「Experimental Impact Study using Explosive

    Driven Projectile Accelerator and Numerical Simulation」, Int. J. Impact Eng., in-print.

    5)その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Web等)

    ①Web 公開: http://www.defence-terro.org/ 2005- ②公開科学技術講演会:

    第一回(平成 19 年2月20日) 東京大学工学部 11 号館 参加加者数:66 名

    第二回(平成 20 年3月21日) 場所:東京大学工学部 2 号館 参加者数:57 名

    ③ニュースレター発行: 第 1 号(2006 年 3 月) 第 2 号(2007 年 3 月) 第 3 号(2008 年 3 月)

    英語版(2007 年 3 月)

    ④DVD 発行:「爆発のシミュレーションの可視化」

    基礎編(2007 年 3 月)、応用編(2008 年 3 月)

  • 19

    2.研究成果:サブテーマ毎の詳細

    サブテーマ1: 爆発物の高感度検出システムの開発

    (分担研究者名:岩村 康弘、所属機関名:三菱重工業株式会社)

    1.1 真空紫外光イオン化飛行時間型質量分析(VUV-SPI-TOFMS)による高感度システムの開発

    1)要旨

    駅改札器内に設置が可能なコンパクトタイプの爆発物検出装置を検討した。テロリストが爆弾を作成す

    る際に爆薬が手に付着するはずである。指紋に入り込んだ爆薬粉は洗浄する程度では簡単に除去する

    ことが難しく、テロリストが切符に触れた際には爆薬粉末が切符にも付着する可能性が高い。そこで、駅

    自動改札機内に設置した検出器で改札機を通過する切符に付着した爆薬の蒸気を検出することで、爆

    発物の駅構内への持込みを防止するシステムを開発することとした。本装置は当所にてダイオキシン計

    測装置として開発ずみの VUV-SPI-TOFMS を応用した。

    爆発物を迅速に VUV-SPI-TOFMS に導入する方法として、差動排気を用い、ラインの形状・材質を最

    適化することで、1秒以内の検知を達成した。また、TOFMS にマルチターン型 TOFMS(MULTUM)を適

    用し駅改札機に設置可能な大きさに装置を小型化した。

    2)目標と目標に対する結果

    目標:真空紫外光イオン化飛行時間型質量分析(VUV-SPI-TOFMS)システムによる高感度な質量分析

    により爆発物を検出する、ノンストップでコンパクトな爆発物検知装置の開発を開発する。

    結果:サンプリング方法として差動排気を用いることにより、爆発物蒸気を迅速に VUV-SPI-TOFMS に導

    入し、9種類の爆発物について1秒以内の検知を確認した。また、TOFMS にコンパクトかつ高分解能なマ

    ルチターン型 TOFMS を適用することにより、装置を駅改札機の幅 300mm に収まる大きさに小型化した

    (装置本体寸法:幅 300mm×長さ 1750mm×高さ 1000mm)。

    3)研究方法

    ①爆発物の物性等の把握

    VUV-SPI-TOFMS システムにより爆発物蒸気を検出するには、爆発物がどの程度の濃度で存在するか

    (蒸気圧)、爆発物がイオン化できるか(イオン化ポテンシャル)などの物性に関する情報が必要である。

    そこで、文献等より爆発物の物性データを調査した(イオン化ポテンシャルのように計測データ存在しない

    ものについては量子化学計算により推算した)。

    ②爆発物のイオン化条件の検討

    従来の水素の発光(121.6nm, 10.2eV)ではイオン化できない爆発物にも対応するため、アルゴンの発

    光(106.7nm, 11.6eV)を検討した。アルゴンガスを水素の励起を行う場合と同じキャビティを用いてマイク

    ロ波により励起し、発光スペクトルを分光器(図1)により計測した。

  • 20

    図1 真空紫外光スペクトル計測装置

    ③高速サンプリング方法の検討

    目標とする検知時間1秒以内を達成するために、高速かつ効率的に導入するための方法として図 2 に

    示す差動排気を検討した。改札機の切符投入口に見立てた気化フォルダにサンプルを挿入し、気化した

    爆発物蒸気を数百 sccm のサンプリング速度で採取し、その内 1sccm だけを VUV-SPI- TOFMS に導入し

    た。また、差動排気法は迅速サンプリングに貢献するだけでなく、段階的に減圧することで大気圧下に存

    在するサンプルを真空状態の分析装置に導入する機能も果たしている。吸着が全くないと仮定すると滞

    留時間が約 80~180ms となる条件で実験を行った。

    図2 高速サンプリング検討試験装置

    ④装置のコンパクト化

    改札機内に設置可能な大きさのVUV-SPI-TOFMSの試作を行った。装置を構成する部品の内、最も大

    きな容積を占める TOFMS にコンパクトな MULTUM を採用した。

  • 21

    ⑤マススペクトルデータベースの拡充と検知下限の見積もり

    爆発物および計測の妨害となる夾雑物のマススペクトルデータおよび検知時間を計測した。爆発物はト

    リアセトントリパーオキサイド(TATP)、2,4,6-トリニトロトルエン(TNT)など9種類を、夾雑物は指紋(手の

    油)、切符(インクなど)を計測した。また、各爆発物の検知下限を見積もった。

    4)研究結果

    ①爆発物の物性等の把握

    文献等より爆発物の物性データを調査しまとめた結果を表1に示す。得られた結果を元に以下の試験

    (サンプリング条件、イオン化条件の検討)を実施した。

    表1 爆発物の物性値

    ②爆発物のイオン化条件の検討

    図3に得られたアルゴンの発光スペクトルを示します。波長 104.8nm および 106.7nm にアルゴン由来の

    発光が観測された。また、図4に示すようにアルゴンの発光強度はガス圧が 6.5×102Pa 付近で極大をとる

    ことが分かった。よって、マイクロ波励起によるアルゴンガス発光によるイオン化が可能であることが分かっ

    た。

    物質名 分子量 沸点[℃] 融点 [℃] 蒸気圧

    イオン化ポテンシャル

    ( 量 子 化 学 計 算 )

    [eV]

    トリニトロトルエン(TNT) 227.13 240(分解) 80.1

    14Pa(100℃)

    1e-3Pa(25℃) 10.3

    2,4- ジ ニ ト ロ ト ル エ ン

    (2,4-DNT) 182.13

    300 ( 分

    解) 2.84e-2Pa(25℃)

    ニトロメタン(NM) 61.4 101 -29 11.3

    トリアセトントリパーオキサ

    イド(TATP) 222.1 250(分解) 91 6Pa(25℃) 8.63

    ヘキサメチレントリパーオ

    キサイドジアミン(HMTD) 208.17

    200 ( 爆

    発) 145

    ニトログリセリン(NG) 227.09 245±5

    13.2 ( 安 定

    型)

    2.2 ( 不 安 定

    型) 9e-2Pa

    2,3-ジメチル-2,3-ジニト

    ロブタン(DMNB) 176.17

    273(計算

    値) 2.76e-1Pa 9.42

    エチレングリコールジニト

    ラート(EGDN) 152.1

    114 ( 爆

    発) -22 7 Pa(20℃)

    RDX 222.12 206 2.4e-6Pa 10.37

    PETN(ペンスリット) 316.14 141.3 10.71

  • 22

    図3 アルゴンの発光スペクトル 図4 アルゴン発光強度のガス圧依存性

    ③高速サンプリング方法の検討

    差動排気部の配管材質、形状と検知時間の関係を詳細に検討した結果、イオン化チャンバを繋ぐキャ

    ピラリカラム長が輸送時間を支配することが判明し(図5)、図6に示す配管構造とすることでキャピラリカラ

    ム長さを 6 cm まで短縮した。

    2,3-ジメチル-2,3-ジニトロブタン(DMNB)10μg を計測した場合の結果を図7に示す。0 秒の時点でサ

    ンプルを気化フォルダに挿入し、信号が得られるまでの時間 0.5 秒を達成し、1秒以内の検知が可能とな

    った。

    図5 カラム長さと検知時間の関係 図6 サンプリングラインの構造

  • 23

    図7 DMNB の計測結果 (m/z 85 フラグメントイオン)

    ④装置のコンパクト化

    TOFMS としてコンパクトな MULTUM を採用することで、図8に示すような長さ 1750mm、幅 300mm、高さ

    1000mm に収まる装置を製作することが出来た。MULTUM の模式図を図9に示す。MULTUM はイオンを

    8の字型に周回飛行させることによりコンパクト化を実現しているだけでなく、イオンの周回数を増やすこと

    により高分解能化を容易に行うことが可能で、周回数を0から3周にすることで、分解能は 290 から 1700 に

    向上する(図10)。

    図8 コンパクトタイプ VUV-SPI-TOFMS 図9 装置の模式図

    図10 周回数と分解能の関係

  • 24

    ⑤マススペクトルデータベースの拡充と検知下限の見積もり

    爆発物のマススペクトルの例を図11に示す。図11に示した物質を含め計9種類の爆発物の

    真空紫外光でイオン化した場合のマススペクトルパターンを取得した。また、各爆発物の検知下

    限は、表2のようになった。夾雑物の無い状態では数 10~数 100ng の検知下限を有し、実際の運用上夾雑物となる切符のインク、皮脂が存在する環境下では、100ng から数μg の検知下限が得られた。

    (a) DNT (b) DMNB 図11 爆発物のマススペクトルの例

    表2 爆発物の検知下限(S/N=2)

    5)考察・今後の発展等

    爆発物のイオン化ポテンシャルデータの取得に際しては実験値が無く、本プロジェクトの共同参画

    者である東大 越研にて量子化学計算によりイオン化ポテンシャルを算出し、イオン化の可否を判断した。

    また、今回計測した爆発物の多くで、VUV 光による1光子イオン化にも関わらず、フラグメントイオンが多く検出された。図11に示した DNT の親分子イオン(m/z=182)ピークは検出されたものの強度は非常に小さかった。フラグメントイオンのピークは、m/z=165,119,89,77,63 などに検出された。m/z =165 のフラグメントイオンは、DNT のメチル基と隣接する方のニトロ基(2 の位置)から OH(m/z 17)が脱離したものと考えられる。東大 越研にて、真空紫外レーザー(10.5eV)にて計測した場合には、強い親イオンのピークが検出され、フラグメントイオンは m/z 165 に弱いピークが検知された。越研装置はイオントラップが無いことから、イオントラップ内でトラッ

    プ中にバッファガス(空気)と衝突乖離が起き、フラグメントイオンが多く生成していると推測

  • 25

    される。また、DMNB の場合、親イオンは m/z 176 であるが、微小な信号しか検知できず、m/z 85 に強いフラグメントイオンピークが検知された。東大 越研での真空紫外レーザーイオン化による計測でも親イオンは検知されず、m/z 84 に強いフラグメントピークが見られ、その他 m/z 30,43,58,69 などにもフラグメントイオンが検知された。同研究室での量子化学計算(Gaussian)を用いた解析により、VUV レーザーのエネルギー(10.5eV)以下でニトロ基が2つ乖離する挙動が得られ、DNT の場合と異なり光分解によりフラグメント化が起こっていることが示唆された。 今後はサンプリング部分を改良し、切符対応以外の改札機(Suica、Passmo 対応の改札機)にも適用可能な装置構成を検討する。また、本システムは迅速・高感度検知能力は爆発物以外の有

    害微量物質計測に対しても有用であると考えられ、他の物質への適用も検討していく

    6)関連特許

    基本特許(当該課題の開始前に出願したもので、当該課題の基本となる技術を含む特許)について

    出願日 公 開 ・ 公

    表日 登録日 発明の名称 発明者

    出 願

    人・権

    利 者

    出願番号 公開・公表番号 登 録 番

    1

    )

    2000.12.0

    1

    2002.06.1

    4

    2005.05.1

    3

    化学物質の

    検出装置お

    よび化学物

    質の濃度測

    定方法

    団野実

    鶴我薫典

    山越英男

    三 菱

    重 工

    業 株

    式 会

    特 願

    2000-367141

    特 開

    2002-170517

    特 許 第

    367622

    7 号

    2

    )

    2000.12.1

    3

    2002.06.2

    6

    2005.04.0

    8

    化学物質検

    出装置

    団野実

    山越英男

    鶴我薫典

    栗林志頭

    三 菱

    重 工

    業 株

    式 会

    特 願

    2000-379459

    特 開

    2002-181786

    特 許 第

    366497

    4 号

    3

    )

    2001.12.2

    8

    2003.07.1

    8

    2005.05.1

    3

    化学物質の

    検出装置お

    よび化学物

    質の検出方

    山越英男

    二見博

    団野実

    鶴我薫典

    栗林志頭

    三 菱

    重 工

    業 株

    式 会

    特 願

    2001-401970

    特 開

    2003-203601

    特 許 第

    367629

    8 号

    4

    )

    2002.12.0

    5

    2004.07.0

    2

    2005.10.0

    7

    マ イ ク ロ 波

    励起水素紫

    外光ランプ

    の光学特性

    回復方法

    坂井智嗣

    鶴我薫典

    山越英男

    栗林志頭

    団野実

    三 菱

    重 工

    業 株

    式 会

    特 願

    2002-354334

    特 開

    2004-186600

    特 許 第

    372792

    1 号

  • 26

    二見博

    山崎紀子

    5

    )

    2001.06.1

    3

    2003.08.1

    2

    2001.12.2

    0

    ハロゲン化

    有機化合物

    の検出装置

    およびハロ

    ゲン化有機

    化合物の濃

    度測定方法

    団野実

    山越英男

    越光男

    三 菱

    重 工

    業 株

    式 会

    特 願

    2002-510931 WO01/096852

    概要

    1) VUV ランプをイオン化以外の時間(イオンを引き出し、TOFMS を飛行させている時間)は OFF し、ノイズ源となるイオンの生成を抑制する。

    2)イオントラップにサンプルガスを直接吹き込むことで、ガス圧を局所的に高め、生成イオン量を増加させ

    ることにより感度を向上させる。

    3)イオントラップにイオンの共鳴周波数を印加し、MS/MS 分析することで、目的イオンと不純物と分離分

    析する。

    4)水蒸気をイオン化チャンバに導入し、VUV 光で酸素ラジカル等を生成し、MgF2 窓に付着するカーボン

    分をエッチングし、MgF2 窓の透過率の低下を抑制する。

    5)真空紫外光窓の交換機構・方法。

    7)研究成果の発表

    (成果発表の概要)

    1. 原著論文(査読付き) 該当なし

    2. 上記論文以外による発表 該当なし

    3. 口頭発表 該当なし

    4. 特許出願 出願済み特許:4 件

    5. 受賞件数 該当なし

    1. 原著論文(査読付き)

    該当なし

  • 27

    2. 上記論文以外による発表

    該当なし

    3. 口頭発表

    該当なし

    4. 特許出願

    出願・公告等の日付 「発明の名称」 発明者氏

    出願人名 特許等の種類・番号

    1) 出願日

    2006/09/07

    危険物検出装置 鶴我 薫典

    団野 実

    坂井 智嗣

    伊藤 岳彦

    岩村 康弘

    栗林 志頭

    三菱重工業

    株式会社

    特願 2006-243090

    2) 出願日

    2007/03/28

    試料導入装置および

    試料導入方法

    団野 実

    鶴我 薫典

    栗林 志頭

    三菱重工業

    株式会社

    特願 2007-084063

    3) 出願日

    2007/11/07

    試料導入装置、試料

    分析装置及び試料分

    析システム

    鶴我 薫典

    団野 実

    三菱重工業

    株式会社

    特願 2007-289682

    4) 出願日

    2007/12/26

    検出装置、検出シス

    テムおよび輸送機関

    鶴我 薫典

    岩村 康弘

    伊藤 岳彦

    茂中 俊明

    三菱重工業

    株式会社

    特願 2007-333911

    *研究成果のどの部分の特許なのか、概要を記入してください。

    1)爆発物をサンプリングしやすくする切符の構造および切符に付着した爆発物蒸気をサンプリ

    ング方法について

    2)爆発物を迅速に分析装置に導入するための方法(差動排気)について

    3)サンプリング方法(差動排気ライン)の配管形状について

    4)列車内に持ち込まれた爆発物の検知方法について

    5. 受賞件数

    該当なし

  • 28

    1.2 中性子を用いた元素分析による爆発物の非開披・高精度検出システムの開発

    1)要旨

    中性子による非開披爆発物検出システムは、VUVやミリ波でやや不審と思われる人物のスーツケース

    等に中性子を照射し、スーツケース等の内部に隠匿された爆発物をケースを開けずに、爆発物が入って

    いるかどうかを明らかにすることができる手法で、窒素を含まない最近の新型爆弾でも検知可能であるこ

    とが特徴である。

    本開発においては、鉄道テロなどにおいて致命的な事故を引き起こすと想定できる 10kg以上の爆発

    物が手荷物に隠匿された状況で、爆発物を数分以内に検出できる高精度爆発物検知技術を開発した。

    開発技術は、14MeV の高速中性子を被検査物に照射し、非弾性散乱によるγ線により元素を同定す

    るもので、実証試験装置をシミュレーションに基づいて設計・製作し、実際に検知できるかどうか実証試験

    を実施した。また、爆発物が隠匿されているかどうかは、ニューラルネットワークを用いた爆発物検出プロ

    グラムで判定を行った。試験の結果、実際の手荷物に近い状況での試験で、手荷物を開放せずに、

    10Kg 以上の模擬爆発物を 10 分以内に高い検知率(30/30)で検出可能であった。

    2)目標と目標に対する結果

    目標:パルス中性子を用いた元素分析により爆発物の検出を行う、非開披で高精度な爆発物検出シ

    ステムの開発。ミッションステートメントでは、高性能爆発物や窒素不含有の新型爆弾の検出を所要時間

    数分以内に検知率 99%以上を目標とした。

    結果:実際の手荷物に近い状況での試験で、手荷物を開放せずに、10Kg 以上の TATP など窒素を含有

    していない爆発物や TNT 等の模擬爆発物を 10 分以内に高い検知率(30 回/30 回)で検出可能であっ

    た。

    3)研究方法

    ①実証試験装置の設計

    まず、爆発物や通常物などの物質1gに対する高速中性子、熱中性子に対する応答のシミュレーション

    を行い、TATPなどの爆発物と衣類等の通常物のγ線スペクトルがはっきり異なっており、両者の識別が

    可能であることを確認した。次に、中性子による爆発物検知システムで重要な、中性子モデレーター(減

    速材、遮蔽材)の設計を行った。いくつかの方式を検討した結果、線源からの高速中性子は、そのまま爆

    発物に入射し、爆発物とは逆向きに拡散する中性子はモデレータで減速され、反射されて熱中性子とし

    て爆発物に入射することを利用した反射式モデレータ形式が最も効率よく爆発物検知ができることが分か

    った。この反射式モデレータを最適化したのが、図 12 に示すモデレータである。これらの材料は、ポリエ

    チレンが高速中性子減速用、鉛が妨害γ線遮蔽用、Biが高速中性子減速用、Cdが熱中性子遮蔽用で

    ある。Cdはモデレータ全体を 1mm の厚さで覆われている。

  • 29

    図 12 中性子モデレーターの構造

    ②爆発物検知実証試験装置の製作

    以上の設計に基づき、爆発物検出実証試験装置を製作した。図 13 に試験装置の写真を示す。中性

    子発生管からはDT核融合反応で発生する14MeVの中性子が発生する。中性子発生管で発生した中性

    子はモデレーターで反射ならびに一部は熱中性子化され、模擬爆発物に照射される。この中性子照射

    によって発生するγ線を手前の Ge 半導体γ線検出器で検出することで爆発物かどうか判定する。Ge 半

    導体検出器は、模擬爆発物から発生するγ線を効率よく検出するために、鉛ブロックによって遮蔽してい

    る。またモデレーター上部に設置した He-3 中性子検出器によって、中性子発生管で発生した中性子数

    をモニターしている。これらの装置は管理区域内に設置されており、測定用の部屋までケーブルを敷設し

    ており、中性子発生管の制御やγ線の計測等は全て測定室で行っている。

  • 30

    図 13 爆発物検知実証試験装置

    ③爆発物模擬物質に中性子を照射した際のγ線計測

    この試験装置を用いて爆発物模擬物質に中性子を照射し、γ線スペクトルを計測した。用いた物質は

    TATPの模擬としてトリアセチン(C9H14O6)の20kg入りの缶を用いた。また、爆発物と類似の元素組成ではな

    いが、窒素が入っている物質として尿素 CO(NH2)2 を用いた(質量 9kg)。これら 2 種類の模擬物質に中

    性子を照射した際のγ線の検出結果を図 13,14 に示す。バックグラウンドとあるのは、模擬物質を置かな

    い場合のγ線検出結果である。実験条件は、中性子照射量が~107(n/sec)、γ線検出器と模擬物質の

    距離が 1mである。 距離をある程度とっているのは、中性子によるγ線検出器による損傷を避けるためで

    ある。図 14-15 をみるとバックグラウンドではほとんど検出されていない、O や C のピークが模擬爆発物質

    を照射した場合には、はっきりと十分有意に検出されていることが分かる。なお、C の 4.4MeV のピークが

    ブロードになっているのは、C の非弾性散乱による励起準位の寿命が 42fs と非常に短く、中性子によって

    励起され運動するC原子核が静止する時間より短いため、C原子核が動いている最中に励起準位から基

    底状態に落ちることに起因するドップラー効果のためである。

  • 31

    図 14 TATP 模擬爆発物に中性子を照射した際のγ線スペクトル

    図 15 窒素系模擬爆発物に中性子を照射した際のγ線スペクトル

  • 32

    ④実手荷物模擬爆発物検知試験

    実際に手荷物の中に爆発物を隠匿している場合に、中性子によって検知可能かどうかを評価するため

    に、図 16 にあるようにスーツケースなどに模擬爆発物を入れ、衣類などを入れた現実的な状況で爆発物

    検知が可能かの試験を行った。その際、爆発物の形状によってγ線スペクトルが影響される可能性があ

    るため、図のようにターンテーブルを導入し、中性子発生管からの距離が平均化されるように工夫した。

    図17 に TNT を模擬した爆発物からの炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)に関係したγ線ピークとスーツケー

    ス単体の寄与のスペクトルを示します。このように、模擬爆発物から炭素や窒素、酸素のはっきりしたピー

    クが観測され、スーツケースの寄与はあまり大きくないことが分かる。

    図 16 実手荷物模擬爆発物検知試験

    図 17 TNT 模擬爆発物とスーツケースの C,N,O 関連γ線ピーク

  • 33

    ⑤ニューラルネットを用いた爆発物判定

    次に、実手荷物模擬爆発物検知試験のγ線データを用いて、爆発物判定を実施した。γ線スペクトル

    から、①爆発物か否か、②爆発物であるとしたらどのような爆発物か、を判定することを目的として、ニュー

    ラルネットを用いた判定ソフトを作成した。図 18 にこの判定ソフトの流れを示す。計測データから、H、C、

    N、O の各元素同士の比率(H/O、H/C、H/N、C/O、C/N、O/N)の 6 個の元素組成比データに変換し、

    あらかじめ与えた教師データと 6 次元空間で比較を行い、爆発物判定を行う。表3はその判定結果の一

    部を示している。最終的に同一条件での試験条件では、爆発物の質量が 10kg以上の場合、10 分以内

    にすべて爆発物判定成功(検知率 30/30)しており、唯一 18kg の水を爆発物と誤認した(誤認率 1/13)。

    また、爆発物がスーツケースに入っていて、他に衣類や紙・パソコンなどが混在する場合でも、爆発物が

    隠匿されていることを非開披で検出可能であった。

    図 18 γ線データからニューラルネットを用いた爆発物判定の流れ

    表3計測データによる爆発物判定の例

    計測データ 爆発物/通常物判定 種別判定結果TNT模擬(ポリエチレン4.4kg、尿素6.26kg、水5.63kg )+ソフトスーツケース 爆発物と判定 TNTと判定

    TNT模擬(ポリエチレン4.4kg、尿素6.26kg、水5.63kg )+ハードスーツケース 爆発物と判定 TNTと判定

    TNT模擬(ポリエチレン4.4kg、尿素6.26kg、水5.63kg )+ソフトスーツケース+パソコン

    爆発物と判定 TNTと判定

    空ソフトスーツケース 通常物と判定 通常物と判定

    TNT模擬(ポリエチレン4.4kg、尿素6.26kg、水5.63kg ) 爆発物と判定 TNTと判定

    空ハードスーツケース 通常物と判定 通常物と判定

    衣類:5.8kgソフトケース:4kg 通常物と判定 通常物と判定

    尿素14.58+ポリビン1.6+ソフトケース 爆発物と判定 尿素と判定

    尿素14.58+ポリビン1.6+ソフトケース(600秒照射) 爆発物と判定 尿素と判定

    空のソフトケース(600秒照射) 通常物と判定 通常物と判定

    尿素14.58+ポリビン1.6 (600秒照射) 爆発物と判定 尿素と判定

    尿素14.58+ポリビン1.6 爆発物と判定 尿素と判定尿素14.58+ポリビン1.6 (600秒照射) 爆発物と判定 尿素と判定

    トリアセチン18.64kg(600秒照射) 爆発物と判定 トリアセチンおよびベンスリットと判定

    空ソフトスーツケース 通常物と判定 通常物と判定

  • 34

    ⑥爆発物検知シミュレーション

    中性子発生管のモデル化を精緻にすること等により、計算により実験結果がほぼ再現できるようになっ

    た(表4)。そこで、模擬爆発物ではなく真の爆発物に中性子を照射した場合のγ線発生量をシミュレー

    ションにより計算し、H,C,N,O のピークの値を出し、それを爆発物判定ソフトに入力して爆発物の判定が

    可能かどうかを調べた。爆発物の質量は 15kg、中性子発生量 10^8(1/sec)、照射時間 5 分の条件である。

    その結果、TATP、TNT、RDX、ぺンスリット、硝酸アンモニウムなど代表的な爆発物のすべてについて、

    今回開発した手法によって判定可能であることが確認できた。

    表4 実験と計算の比較(特性γ線ごと)

    5)考察・今後の発展等

    14MeV の高速中性子による爆発物検知技術は、対象とする元素による特性γ線を検出する方法であ

    るため、ある程度のカウント数が必要であり数秒以内の検知は非常に難しいが、十分にデータベースを与

    えることができれば、数分でかなり精度良く元素組成の判定ができることが今回の研究で実証され

    た。また、窒素を含まない爆発物に対しても酸素の検出感度が高いため有効であることが明らか

    になった。ただし、炭素については本質的にドップラー効果があるため、ピークがブロードにな

    るが、今回用いた計測器がエネルギー分解能の良い Ge 半導体検出器であったため十分に判定可能であった。 従来、中性子による爆発物検知で用いられているγ線検出器は、分解能が悪いが感度の高い NaI

    や BGO などが主流であり、今回の試験で Ge 半導体検出器を用いることに対し、感度が悪いため否定的な考え方もあったが、実証試験でやはり分解能の良さは非常に有効であり、さまざまなバ

    ックグラウンド(スーツケース等の通常物)と爆発物との判定に威力を発揮した。やはり、あら

    かじめ何が入っているのか分からない対象物に中性子を照射してγ線を検出するという今回のよ

  • 35

    うな目的に対しては、分解能の良さは重要なポイントであるといって良い。 中性子を用いた手法は放射線の遮蔽が必要であるという特殊性があるものの、荷物を開けない

    で精度よく内部の物質が同定できるという特徴を有するため、今後は爆発物以外の用途にも適用

    できる可能性がある。また、当初の目的の鉄道用についても、質量分析やミリ波で問題があると

    判定された荷物の計測には充分応用できることが示せたため、今後ニーズに応じてフィールドテ

    スト等を実施して実用化を進めて行きたい。

    6)関連特許

    表にまとめてあるように、中性子関連で、研究で得られた反射式の中性子モデレーターに関する特許や、

    検出器の組み合わせで判定する際に、それらの検出器の性能と統合システムの性能の関係についての

    特許、また計測する際に爆発物からの真のγ線だけを効果的に遮蔽して爆発物検知の計測する方法に

    ついて特許を出願した。

    7)研究成果の発表

    (成果発表の概要)

    1. 原著論文(査読付き) 該当なし

    2. 上記論文以外による発表 該当なし

    3. 口頭発表 1 件

    4. 特許出願 出願済み特許:3 件

    5. 受賞件数 該当なし

    1. 原著論文(査読付き)

    該当なし

    2. 上記論文以外による発表

    該当なし

    3. 口頭発表

    第9回化学放射線治療科学研究会(平成 20 年3月13日(木)13:00-17:30、東大病院)

    (東京大学大学院工学系研究科原子力専攻弥生研究会共催、日本原子力学会加速器・ビーム科学

    部会共催茨城県「小型ライナック医療応用研究会」共催)

    “小型中性子源開発と応用”

  • 36

    4. 特許出願

    出願・公告等の日付 「発明の名称」 発明者氏

    出願人名 特許等の種類・番号

    1) 出願日

    2006/10/16

    中性子モデレータ及

    び中性子照射方法並

    びに危険物質検出装

    糠塚 重裕

    岩村 康弘

    西村 和哉

    澤村 英範

    加藤 道男

    三菱重工業

    株式会社

    特 願 2006-281903

    2) 出願日

    2007/9/27

    セキュリティゲートシス

    テム

    岩村 康弘

    伊藤 岳彦

    三菱重工業

    株式会社

    特 願 2007-250738

    3) 出願日

    2008/1/29

    爆発物検査装置 岩村 康弘

    伊藤 岳彦

    三菱重工業

    株式会社

    特 願 2008-018200

    1)反射式の中性子モデレーターについて

    2)検出器の組み合わせで判定する際に、それらの検出器の性能と統合システムの性能の関係

    について

    3) γ線を効果的に遮蔽して爆発物検知の計測する方法について

    5. 受賞件数

    該当なし

  • 37

    1.3 ミリ波を用いた非開披爆発物・銃刀可視化システム開発

    1)要旨

    ミリ波は衣類や皮革などを透過し,金属やプラスチック,セラミックスなどで反射する.更に,

    波長が数 cm から mm オーダーのため,ミリ波を用いて不審人物が隠匿所持している銃刀類や爆発物の外形を可視化することが可能である.本研究では,平面/直線形状のミリ波アンテナアレイ(配列)からミリ波をターゲットへ照射し,その散乱を同じアンテナアレイで受信し,信号処理することにより可視化する装置の実証試験装置を製作し,その性能を評価する.特に駅改札における

    高速検知を想定し,計測時間 1 秒以内を目標とした.

    2)目標と目標に対する結果

    目標:多数の送・受信アンテナを高周波スイッチで切り替えながら,ターゲットからの反射信号を取得し,

    画像化を行うミリ波可視化装置を開発する.大きな不審物の有無を所要時間 1 秒以内に判定するため

    の画像処理,判定手法を確立する.

    結果:ミリ波可視化装置の構成要素である,パッチアンテナや高周波スイッチの基礎特性を把握し,可視

    化装置を試作した.反射信号から合成開口法により画像化するソフトウェアを開発し,アンテナの適正

    配置を決定した.リニアアレイを用いることで,移動する模擬ターゲット(水入りの PET ボトル)を 1 秒程

    度で画像化できた。さらに、周波数多重化によっても、画像高速化が可能であることを確認した。一方,

    ターゲットの形状および反射率の大きさから,大きな不審物の有無を判定するための指標を決定した.

    3)研究方法

    ①ミリ波可視化装置の試作

    単一の発振器からのミリ波を、高周波スイッチで切り替えることにより、複数のパッチアンテナから順番に

    放射し,検知対象からの反射信号を取得するアクティブ方式の回路構成を考案した(図19)。この回路を

    構成するパッチアンテナ,高周波スイッチ,検波回路などの要素部品を選定・試作し,その特性を把握し

    た.これらを組み合わせることで,二次元のミリ波可視化装置を試作した(図 20).

    ターゲットからの反射信号(複素振幅)から,開口合成法によりある投影面におけるターゲット反射率を

    算出し,その絶対値または位相情報を用いてターゲットの可視化を行った。

  • 38

    図 19 ミリ波可視化装置の構成ブロック図

    図 20 試作ミリ波可視化装置の外観と内部

    ②1次元リニアアレイによる高速画像取得

    試作した可視化装置により、画像化を確認後、取得速度の高速化を図った。鉄道駅の改札での利用を

    想定した場合、ターゲットが 1 次元的に移動することを利用すれば、1 次元配置のアンテナで、2 次元の

    情報取得が可能である。アンテナを 1 次元にすることにより、サンプリング点数が大幅に減少し、データ取

    得の高速化が可能となる。合わせて高周波スイッチの制御、反射信号の取得(A/D 変換)のマイコン処理

    化により、画像取得時間の大幅低減を行った。

    画像化は、1 ラインのデータを取得するごとに1次元の合成開口法を適用し、逐次反射率データ変換し、

    順に並べていくことで 2 次元的な画像を作成する。

    また人が画像を見て判断することなく、爆発物を判定できるようにするため、ターゲットの大きさや反射

    率に対応した判定指標を検討した。まず、逐次変換された 1 次元の反射率データに対し、複数の閾値レ

    ベルを設定し、各レベルを超える素子の割合を算出する(図 21(a),(b))。これをターゲットの移動に伴うサン

    プリング毎に取得し、全サンプリング数のうち、前記の割合が、所定の値を超えるパーセントを各レベルご

    とに求めると図 21(d)のようなヒストグラムが得られる。 この判定指標を何通りかのターゲットに適用し、判

    アンテナ

  • 39

    定指標と画像化との対応を確認した。

    図21 反射信号からの判定指標の算出

    ③周波数多重化による画像取得高速化

    画像化処理のさらなる高速化のため、周波数分割(多重化)による並列処理を試みた。

    従来のサンプリング処理では、単一周波数を用いて, 時間ステップ毎に送信アンテナと受信アンテナを1個ずつ選択し、ミリ波を放射・受信していた。これに対して、周波数多重化方式では、各

    時間ステップで複数の送信アンテナから周波数の異なる送信信号を同時に放射することで, 複数のサンプル点でのサンプル処理を同時に行うことで、サンプリング処理の並列化を行う(図 22)。

    図 23 は、多重化を実現する原理的な回路構成を示す。ここでは簡単のために 2 周波での多重化処理モデルを示している.図 23 において, 搬送波(周波数 f0)の信号に対して 2 種類の変調信号(周波数 f1, f2)で振幅変調した送信信号(周波数 f0+f1, f0+f2)をそれぞれ送信アンテナTx1, Tx2 から同時に空間に放射する. ターゲットから反射した信号を受信アンテナ(Rx1)にて受信し, 搬送波にて I/Q ホモダイン検波した後, それぞれの IF 出力を変調信号(f1)でミキシングすることで、従来の個々に切り替えた場合と同等の情報を並列化(多重化)した分だけ、高速に取得できる。 本研究では搬送波周波数を 10.525GHz、変調信号を 100~190kHz に選定し、4 周波での検証

    試験を行い、本方式により 1 秒以内に画像化が可能であることを実証した。

    計測開始 計測終了

    アンテナ位置

    チャンネル番号

    合成

    開口

    後の

    振幅

    レベル1レベル2レベル3レベル4

    チャンネル番号

    合成