半導体での電子輸送問題:2...

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2009 年度 電気電子工学専攻 大学院講義 半導体光工学特論 高橋豊 半導体での電子輸送問題:2 次元電子系における移動度 (このテキストの内容は物理的には 3 次元、 2 次元ともに共通だが計算は 2 次元系を前提に 記述されている。) §1 予備知識:ヘテロ構造・2 次元電子ガス 異種(バンドギャップの値が異なる)半導体材料の接合面(ヘテロ接合とか量子井戸と呼ばれ )近傍のきわめて薄い領域(厚さ数ナノメートル)には電子が蓄積され「2 次元電子ガス」が 形成される。厚さ方向(z 方向)は矩形あるいは 3 角形に近い井戸形ポテンシャルに閉じ込め られ、エネルギー準位は量子化(離散化)される。一方面内(xy )では自由粒子として取り 扱うことが出来る。今後はこの xy 面内での運動のみに着目する。この2次元電子系に面 (x 方向あるいは y 方向)に電場を印加した場合の輸送現象(電気伝導)を半古典的ボルツマ ン方程式で取り扱う。 ここではGaAs(バンドギャップ小)AlGaAs(バンドギャップ大)からなる量子井戸を想定 する。このとき電子は薄い(10 nm程度)GaAsからなる面に閉じ込められている。半導体中で は電子質量はバンド構造のために軽くなり、GaAs中での有効質量m = 0.067m 0 程度である。 m 0 は真空中の電子質量)2 次元面内ではこの有効質量を持った自由粒子として取り扱う。 つまりエネルギー分散は 2 2 2 k k m ε = = 。電子の面密度nは典型的には 2x10 11 cm -2 (2x10 -3 nm -2 ) を扱う。化学ポテンシアル(フェルミエネルギー)をμとしたときに、 2 2 2 F k m μ = = で決まる フェルミ波数k F 0.112 nm -1 , Fermi energy μ = 7.15 meVで、この場合のフェルミ温度は 80K である。また平均粒子間隔は 22 nm程度になる。以下では運動量pに代わってp = ħkで与えら れる波数k (nm -1 )を多用する。 低温( < 20K)での電気伝導は電子と半導体中にあるイオン化不純物原子 (ドーピングのた めに意図的に導入される場合もあれば、不純物としてまぎれ込んでいる場合もある)との間 のクーロン相互作用で決まる。以下ではe-imp散乱 と略す。(温度が上昇すれば電子-フォノ ン散乱も寄与するがここではそれは考えない。) 以下では粒子の電荷を一般にqと書く。 q e = の場合が電子に相当する ここで数式の表記上の注意 。たとえばフェルミ・ディラック分布関数は波数kの関数なので と書くが、スペースを省くために同じ意味を、 () fk k f と表記する場合がある。 - 1 -

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Page 1: 半導体での電子輸送問題:2 次元電子系における移動度takahashilab.yz.yamagata-u.ac.jp/LectureNote2009b.pdf · 内(x 方向あるいはy 方向)に電場を印加した場合の輸送現象(電気伝導)を半古典的ボルツマ

2009 年度 電気電子工学専攻 大学院講義 半導体光工学特論 高橋豊

半導体での電子輸送問題:2 次元電子系における移動度

(このテキストの内容は物理的には 3 次元、2 次元ともに共通だが計算は 2 次元系を前提に

記述されている。)

§1 予備知識:ヘテロ構造・2 次元電子ガス 異種(バンドギャップの値が異なる)半導体材料の接合面(ヘテロ接合とか量子井戸と呼ばれ

る)近傍のきわめて薄い領域(厚さ数ナノメートル)には電子が蓄積され「2 次元電子ガス」が

形成される。厚さ方向(z 方向)は矩形あるいは 3 角形に近い井戸形ポテンシャルに閉じ込め

られ、エネルギー準位は量子化(離散化)される。一方面内(x-y 面)では自由粒子として取り

扱うことが出来る。今後はこの x-y 面内での運動のみに着目する。この2次元電子系に面

内(x 方向あるいは y 方向)に電場を印加した場合の輸送現象(電気伝導)を半古典的ボルツマ

ン方程式で取り扱う。

ここではGaAs(バンドギャップ小)とAlGaAs(バンドギャップ大)からなる量子井戸を想定

する。このとき電子は薄い(10 nm程度)GaAsからなる面に閉じ込められている。半導体中で

は電子質量はバンド構造のために軽くなり、GaAs中での有効質量m = 0.067m0程度である。

(m0は真空中の電子質量)2 次元面内ではこの有効質量を持った自由粒子として取り扱う。

つまりエネルギー分散は2 2

2kkm

ε = 。電子の面密度nは典型的には 2x1011 cm-2 (2x10-3 nm-2)

を扱う。化学ポテンシアル(フェルミエネルギー)をμとしたときに、2 2

2Fk

mμ = で決まる

フェルミ波数kFは 0.112 nm-1, Fermi energy μ = 7.15 meVで、この場合のフェルミ温度は 80K

である。また平均粒子間隔は 22 nm程度になる。以下では運動量pに代わってp = ħkで与えら

れる波数k (nm-1)を多用する。

低温( < 20K)での電気伝導は電子と半導体中にあるイオン化不純物原子(ドーピングのた

めに意図的に導入される場合もあれば、不純物としてまぎれ込んでいる場合もある)との間

のクーロン相互作用で決まる。以下ではe-imp散乱と略す。(温度が上昇すれば電子-フォノ

ン散乱も寄与するがここではそれは考えない。)

以下では粒子の電荷を一般にqと書く。q e= − の場合が電子に相当する。

ここで数式の表記上の注意。たとえばフェルミ・ディラック分布関数は波数kの関数なので

と書くが、スペースを省くために同じ意味を、( )f k kf と表記する場合がある。

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2009 年度 電気電子工学専攻 大学院講義 半導体光工学特論 高橋豊

§2 e-imp 散乱のみを考えた場合の電子輸送 2-1物理的イメージ:実空間、運動量空間

初めにスピン無偏極系での、e-imp 散乱のみがある場合について電子輸送を考える。この場

合の電気伝導度と e-imp 散乱時間 iτ (あるいは平均自由時間が2 iτ )の関係については電子物

性の教科書やキッテル「固体物理学入門」に直観的にわかりやすい説明がある。(たとえば

古い第 5 版では 6 章自由電子フェルミ気体 ページ156)

初めに実空間で考える。電子の分布に密度勾配がない場合をまず考える。電場が印加

されていない場合には伝導帯の電子は /kv k= m で与えられる熱速度でランダムに運動し

ている。(T → 0 の極限でもフェルミ粒子である電子はk = 0 からk = kFまでの準位を占めて

おり、それぞれの波数に対応する速度で運動している。)このときには電子速度の平均はゼ

ロになる。この様子を実空間で示すと下図左のようになる。

vk1

vk4 vk3

vk2

vk6 vk5

vk7

電場がない場合

E

電場を印加

E

不純物イオンとの散乱

電場が印加された場合には電子は力qE を受けて電場とは逆向きに加速される。このまま力

を受け続けると等加速度運動となり電子の速度は増加し続けるが、実際には電子は不純物

イオンとの衝突によってエネルギーと運動量を失う。衝突直後には電子は熱速度vkでランダ

ムな方向に動き始めるが、再び電場により加速されて電場とは逆向きの速度成分を持つよ

うになる。電場での加速と散乱によるエネルギー・運動量散逸を繰り返し、平均すると電

子はそれぞれの熱速度に加えて電場とは逆向きにドリフト速度vD で運動する。

この状況は運動量空間(k-空間)で見ると更に理解しやすい。電子の熱平衡分布関数は

フェルミ・ディラック型関数で与えられ、波数k=(kx, ky)の状態を電子が占める確率は次式で

与えられる。

( )2 2 2 2 2 2 2

2 2 2

1 1 11

1 1

( )( )

k x y Fk k k km m m

f ke

e e

β ε μ β μ β− ⎛ ⎞ ⎛ ⎞+−⎜ ⎟ −⎜ ⎟⎝ ⎠ ⎜ ⎟

⎝ ⎠

= = =+

+ +

(ここで 1/ Bk Tβ = )

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kx

ky

kx

ky

T → 0 T > 0

電場を印加する前の電子はそれぞれの波数k = (kx, ky)を持っており、T → 0 の極限ではkx, ky

は原点を中心にした半径kFの円内を一様に占めている(fの値は円内で1、円の外で0)。温度

が上昇するとfの値は半径kF近傍で 1 からゼロになだらかに変化する。これをフェルミ球(2

次元なので正しくはフェルミ円 ) と呼ぶ。 ( 上の図 ) 全電子の平均速度は

1 1av k

k k

v vN N

= =∑ ∑ km

で得られるが、電場が印加されていない熱平衡系ではそれぞれ

の電子速度のベクトル和は打ち消しあってvav = 0 になる。

これに上の図のようにx軸左向きの電場を印加するとすべての粒子はqEの力を受けて等加

kx

ky

kx

ky

E

Δkx

kxky

f f

1 1

横から見れば

ky

kxkF− kF

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速度運動で右側に動き出す。一つ一つの電子は加速度qEm

を受けるので、時刻tにおける全

電子の平均速度はqE

tm

になる。それぞれの電子が散乱を起こす時刻は異なるが、平均して

時間2 iτ に一回散乱を受けると考える。つまり 2 it τ= ですべての粒子が不純物散乱を受けて

エネルギーと運動量を失う。この後再び電場により加速されて、同じことを繰り返す。こ

の過程ではフェルミ円はその形を保ったまま中心が0 xqE

k 2 iτ< < を繰り返し動くが、散

乱時間よりもずっと長い時間で時間平均して見るとフェルミ円の中心は x iqE

k τΔ = にあ

る。つまりフェルミ円は右に だけシフトした分布になる。この考え方では電場を印加

されたe-imp散乱のある電子系の非平衡分布関数は

xkΔ

Shifted(or Drifted)-Fermi-Dirac分布関数

(Shifted-FDと略す)で表される。つまり平衡系の(重心の静止した)FD分布、

2 2

2

1 11

1( )

( )k k

m

f ke

eβ ε μ β μ− ⎛ ⎞−⎜ ⎟

⎝ ⎠

= =+

+

に対して非平衡分布関数(上に tilde ~をつけて表す)は

( ) iqE

f k f k τ⎛ ⎞

= −⎜ ⎟⎝ ⎠

となる。変位量が小さいとして展開すると

( ) ( ) ( )ii i k

k

qE qE f ff k f k f k f k qE v

k

ττ τε

⎛ ⎞ ∂ ∂= − = − ⋅ = − ⋅⎜ ⎟ ∂∂⎝ ⎠

ここで kk

f fv

k ε∂ ∂=

∂∂を使った。(下記の「数学的補足」参照) 更に

( )( ) ( )

k

f kf k f kβ

ε∂ = −∂

を使って、

( ) ( ) ( ) ( )i k i kk

ff k f k qE v qE v f k f kτ τ β

ε∂− = − ⋅ = ⋅∂

但し、 1( ) ( )f k f k= − とする。

ここで平衡分布からの変位を ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )f k f k g k k f k f kψ− = = と表すと、

( ) , ( )i k ik

fkg k qE v k qE vτ ψ τ β

ε∂= − ⋅ = ⋅∂

(2-1)

と書ける。この展開が出来る条件は「変位量が小さい」ことだが、このためには印加した

電場 E が十分に小さい必要がある。(強電場下での電子輸送はこのような方法では解けな

い。)

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↓******************************************************************************↓

補足1:F.D.分布関数に対する、よく出てくる関係式。

2 2

2

1 11

1( )

( )k k

m

f ke

eβ ε μ β μ− ⎛ ⎞−⎜ ⎟

⎝ ⎠

= =+

+

111 1

( )

( ) ( )( ) ( )

k

k k

ef k f ke e

β ε μ

β ε μ β ε μ

− − −= − = =+ +

( )21

1 11

( ) ( )

( ) ( )( )

( )( ) ( )

k k

k kkk

f k e e f k f ke ee

β ε μ β ε μ

β ε μ β ε μβ ε μ

β β βε

− −

− −−

∂ −= = − × = −∂ + ++

, ,k kk

x y k x k y k

f f f f f fv

k k k kkε ε

ε ε ε∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂⎛ ⎞ ⎛ ⎞∂ ∂= = =⎜ ⎟ ⎜ ⎟∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂∂ ⎝ ⎠ ⎝ ⎠

↑******************************************************************************↑

分布関数の中心が原点から x iqE

k τΔ = だけずれているということは、各電子の速度は熱速

度に変位分を加えた、 ˆk iqE

vm

τ+ ⋅ xe となる。(ここで はx軸方向の単位ベクトル。)この

ため全電子の平均速度は

ˆxe

ˆav i xqE

vm

τ= ⋅e となり、x軸方向に向かっている。この全体を平

均した流れが電流になる。このように電場を印加したことによって電子が平均して電場の

向きに進むことをドリフトと呼び、この速度をドリフト速度vDと呼ぶ。ここでは、

iD

qv

mE

τ= で、すべての電子がこの一定のドリフト速度で運動しているとみなすことが出

来る。散乱体が分布している物質中で電場による力を受けている電子は平均してドリフト

速度vDで電場に反平行に進み、ドリフト速度は電場の大きさに比例している。この比例係

数を移動度μnと呼ぶ。(移動度μnとフェルミエネルギーμとの区別に注意。)ここまでで考え

てきた物理的考察ではi

nqmτμ = という関係にある。

ここまで考えてきた例では印加電場により電子の分布が熱平衡からわずかにずれて、

これによって電流が流れる。(ドリフト電流) この場合非平衡分布関数は波数kには依存す

るが、位置と時間にはよらない関数になっている。しかし電場が印加されなくても電子密

度に空間分布があれば電子は密度の大きい場所から小さい場所に拡散して、拡散電流が流

れる。そのほかにも温度分布が場所に依存するとこれによる電子の流れも発生する。ここ

で局所平衡状態という概念を導入する。電子密度と温度が場所ごとに変化しても、それぞ

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れの場所で電子分布関数がその点での電子密度n(r)(あるいはこれと直接関係したフェルミ

エネルギーμ(r))と温度T(r)で決まるフェルミディラック分布関数で表現できる場合に、系は

局所平衡状態にあるという。つまり、

系全体が一様な電子密度と温度の場合の分布関数(真の熱平衡状態)

→ ( )1

1/( )

k Bk Tf k

e ε μ−=

+

系が局所平衡にあるときの分布関数 → ( )1

1( ) / ( )( , )

k Br k T rf k r

e ε μ−=

+

非平衡状態分布関数 ( , )f k r は、この局所平衡状態からさらにずれており、そのずれを ( , )g k r

と書いて表す。したがって、

( , ) ( , ) ( , )f k r f k r g k r= + (2-2) という形に表される。

↓******************************************************************************↓

補足2:フェルミエネルギーと電子密度の関係

(この部分だけ電子エネルギーにεkに代わってEを使っています。)

電子密度は分布関数を全波数で積分して得られる。(分布関数の定義) したがってスピ

ン片側当たりの電子密度は次の式で与えられる。

2

22( )

( )d kn f kπ

+∞

± ±−∞

= ∫

ここで積分結果が電子密度に一致するように 22( )π で割っている。(規格化因子である)

波数での2重積分は状態密度関数 g(Ε)を使って、エネルギーでの 1 重積分に置き換え

ることが出来る。(注意:g(Ε)はここでは状態密度関数だが、他の部分では分布関数の

平衡からのずれを表すのに使っている。まったく別物なので注意せよ。)

g(Ε)を状態密度(スピン片側当たり)としたときに、電子密度は分布関数を積分して

0

2 ( ) ( )n dEg E f E∞

= ∫ (スピン上下を独立に扱えば

0

( ) ( )n dEg E f E∞

± ±= ∫ )

で与えられる。但し、ファクター2はスピン上向きと下向きの和のためで、

3 2

2 21 1 22 2

/

( ) mg E Eπ

⎛ ⎞= ⎜ ⎟⎝ ⎠

(3 次元系)、 21 1 22 2( ) mg E

π= (2次元系)

2 次元系の場合には E に依存しないことに注意。(テキストによっては、スピン上下

をあわせて、 2 を状態密度と定義している場合があるので注意。) ( )g E×

特別の場合

①T → 0 (縮退系)

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このとき FD 分布は 0 < E < μで1になる。このため3D では

3 23 2

2 2 2 20 00

21 2 12 2 24 3

//

( ) ( ) ( )mmn dEg E f E dEg E dE E

μ μ μπ π

∞⎛ ⎞⎛ ⎞= = = =⎜ ⎟ ⎜ ⎟⎝ ⎠ ⎝ ⎠∫ ∫ ∫

ここで2 2

2Fk

mμ = なので、

3

23Fk

= になる。2D では 2m

π= 、または

2

2Fk

= 。

スピン上下を独立に扱えば

3

26Fk

±± = (3D)

2

4Fk

±± = (2D)

②一般の温度

3Dの場合には簡単な形の関係式は得られないが、2Dの場合には

( )2 12

lnmn eβμ

π β±

± = +

練習問題 この式を求めなさい。

↑******************************************************************************↑

↓******************************************************************************↓

補足3:フェルミエネルギーの勾配μ±∂∂r

と電子密度の勾配n±∂∂r

の関係

上記のように密度 n とフェルミエネルギーμは直接関係している。このため密度が位置

に依存する場合にはμも rに依存する。そして ( )n

grad n ±±

∂=

∂rと ( )grad

μμ ±

±∂

=∂r

間にも関係がある。

0 0

( )( ) ( , ) ( )

n r fdEg E f E r dEg E

r r∞ ∞± ±

± r∂ ∂∂= =

∂ ∂ ∂∫ ∫

ここで( ) ( ) ( ( )) ( ) ( )f E f E E r f E rr E r E r

μ μ± ± ± ± ±∂ ∂ ∂ − ∂ ∂= = −

∂ ∂ ∂ ∂ ∂なので、

0

( )( )

n r fdEg E

r E rμ∞± ±∂ ∂⎛ ⎞

= − ×⎜ ⎟∂ ∂⎝ ⎠∫ ±∂∂

となり、 / rμ+∂ ∂ は積分の外に出る。↑この式がn±∂∂r

とμ±∂∂r

の間の最も一般的な関係

式で、係数を0

( )f

G dEg EE

∞ ±±

∂= −

∂∫ とおく。以下いくつかの特別な場合を考える。

①T → 0 (縮退系)

このとき (f

EE

)δ μ±±

∂= − −

∂なので

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0 0

( ) ( ) ( ) ( )f

G dEg E dEg E E gE

δ μ μ∞ ∞±

± ± ±∂

= − = − =∂∫ ∫

従ってこの場合の比例係数 ( )G g μ± ±= 、つまりフェルミ面のおける状態密度に等しい。

(a) 2D では 22( ) mG g μ

π± ±= = → 22( )n r mr r

μπ

± ±∂ ∂=

∂ ∂

(b) 3D では

32

2 2 2 3 2 3 2 21 1 22 22 2 2

( ) m m m E m m k mg E Emπ π π

⎛ ⎞= = =⎜ ⎟⎝ ⎠ 2

=

なので、 2 22( ) Fmk

G g μπ

±± ±= = → 2 22

( ) Fn r mkr r

μπ

± ± ±∂ ∂=

∂ ∂

②高温度(Maxwell-Boltzmann 分布)

高温では の形になる。(「電子物性概論」第 14 章(「量子物理」教科書)、

Haug + Koch p96 (6.25)など参照)

kEkf e e ββμ± −

± ≈

ff

Eβ±

±∂

= −∂

なので、

0 0

( ) ( ) ( )f

G dEg E dEg E f EE

nβ β∞ ∞±

± ± ±∂

= − = =∂∫ ∫ →

( )( )

n rn r

r r∂ μ

β± ±±

∂=

∂ ∂③一般の温度:2D 系のみ

一つ前の「補足2」で示したように、

( )2 12

lnmn eβμ

π β±

± = + 。これより

22

1( )

( )n r

r me eπ β

βμ±

±+ = 。両辺を rで微分する。

2222 ( )( )( ) ( ) n rr m

r n re e

r m r

π ββμμ π ββ

±

±± ±∂ ∂=

∂ ∂。従って、

( )22 1 ( )( ) ( )rr ne

r m rβμ rμ π ±−± ±∂ ∂

= +∂ ∂

これは2D 系では任意の温度で成立する厳密な関係式。(3D ではこのような関係式は

得られない。)

練習問題 T → 0 の極限では① (a)の関係が得られることを示せ。

Maxwell-Boltzmann 分布では②の関係式が得られることを示せ。

↑******************************************************************************↑

2-2ボルツマン方程式:導出

セクション2-1に記した直観的議論で電子輸送の本質的な部分は理解できるが、より定

量的にそしてより一般的な場合を取り扱うためには非平衡分布関数 ( , , )f k r t の時間-空間

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-運動量変化を記述する微分方程式である「ボルツマン方程式」を解く必要がある。これ

までの議論で出てきたように電子の「分布」を取り扱うときには「実空間」での分布と「運

動量空間(k-空間)」での分布の両方を考える必要がある。実空間が 3 次元であるときには運

動する電子の分布は(x, y, z, kx, ky, kz)を座標とする 6 次元空間で取り扱う。(実空間が 2 次元

のときには(x, y, kx, ky)を座標とする 4 次元空間) このような位置と運動量を座標とする空

間を位相空間と呼ぶ場合がある。3 次元空間に存在しているわれわれは 4 次元や 6 次元空間

はノートに描くことも想像することも出来ないので、次に例として実空間が 1 次元、つま

り 2 次元の位相空間で考えてみる。たとえば電子が 2 個ある。ひとつは波数k1で運動し位置

x1にありもうひとつは波数k2で運動し位置x2にある。これを位相空間で表現すると次の左図

のようになる。

x

k

(x1,k1)

(x2,k2)

x1

k1

x

k

x+Δx

k+Δk

x

k k2

x2

分布関数 の意味: ( , , )f k x t

2( , , ) kf k x t xΔ Δ

πが位相空間中の「微小体積」 k xΔ Δ 中に存在する電子の個数を表す。(上

の右図を参照。) 2πで割る点に注意。全空間全運動量空間で積分した結果が全電子数N±に

一致するように 2πで割っている。つまり、 2( , , ) dkN f k x t dx

π∞ ∞

± −∞ −∞= ∫ ∫

次に位相空間中の微小体積中にある電子が微小時間Δ t でどのように変化するのか考えてみ

る。初めは散乱の影響を考えない。まず実空間(x 軸方向)での流れを考える。

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x

k

x+Δx

k+Δk

x

k vkΔt

微小体積に流入する電子

x

k

x+Δx x

k vkΔt

( , , )f k x x tΔ+

微小体積に流入する電子

k+Δk

( , , )f k x t

左側の図に示すように微小体積の左側、点線で囲まれた領域にある電子は速度vk (Δkは微小

量なのでvk ≈ vk+Δkとみなすことが出来る)で動いており、時間Δt経過後に微小体積中に入っ

てくる。点線の領域中の分布関数は(vkΔtとΔkが十分小さいので) ( , , )f k x t とみなすことが

出来るので、この部分に含まれている電子数は2

( , , ) kkf k x t v tΔ Δ π

である。これが微小時間

Δ t経過後に微小体積に外から流入する電子数である。

次に微小体積から流出する電子数を数える。右側の図で微小体積の右側、点線の中の

電子は微小時間Δt経過後に微小体積中から外に出て行く。この部分に含まれている電子数

は2

( , , ) kkf k x x t v tΔΔ Δπ

+ になり、これが微小時間Δ t経過後に微小体積の外に流出する電

子数 である。差し引き、微小体積中の電子数変化は (流入数 )- (流出数 )であり

( ) 2( , , ) ( , , ) k

kf k x t f k x x t v tΔΔπ

− + Δ となる。

次に運動量空間(k-軸方向)での流れを考える。

- 10 -

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x

k

x+Δx

k+Δk

x

k

k-空間で流入/流出する電子

k tΔi

( , , )f k k x tΔ+

x

k

x+Δx

k+Δk

x

k

散乱による変化

out-scattering

in-scattering

k tΔi

( , , )f k x t

実空間での「速度」vkに対応するのがk-空間ではdkkdt

=i

なので、図に示すように微小体

積の下側にある厚さ の部分にある電子が時間Δ t経過後に微小体積内に流入してくる。

この部分にある電子数は

k tΔi

2( , , ) k tf k x t xΔ Δπ

i

である。一方微小体積の上部にある電子はΔ t経

過後に微小体積内から流出する。この電子数は2

( , , ) k tf k k x t Δ xΔ Δπ

+i

である。

実空間と運動量空間での電子の流入と流出を合計すると、微小時間Δ t の間におけるこ

の微小体積中の電子数の変化2

kf xΔΔ Δπ

は次式で与えられる。

( )

( )

2 2

2

( , , ) ( , , )

( , , ) ( , , )

kk kf x f k x t f k x x t v t

k tf k x t f k k x t x

Δ ΔΔ Δ Δπ π

Δ

Δ

Δ Δπ

= − +

+ − +i (2-3)

1 行目が実空間の流れによる変化を、2 行目が k-空間での流れによる変化を表している。

ここまでは散乱を考慮しなかった。散乱を考慮すれば微小体積中の電子が時間Δ t の間

に散乱により運動量が変化して微小体積の外に出る(out-scattering)、あるいはこの領域の外

にあった電子が散乱により微小体積中に入ってくる(in-scattering)現象が起きる。不純物イオ

ンによる弾性散乱を考えると 1 次元系では散乱により運動量が反転するので(k, r) ↔ (−k, r)

という遷移が起きる。位相空間では上図右側に示すように「垂直」の破線矢印で示された

遷移になる。すべての散乱からの寄与をまとめて微小時間Δ t の間に体積 中の電子数k xΔ Δ

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の変化(in-scattering − out-scattering)を 2coll

f k x tt

Δ Δ Δ π

⎛ ⎞∂⎜ ⎟∂⎝ ⎠

と表現することにする。式(2-3)の右

辺にこれを加えて、

( )

( )

2 2

2

2

( , , ) ( , , )

( , , ) ( , , )

k

coll

k kf x f k x t f k x x t v t

k tf k x t f k k x t x

f k x tt

Δ ΔΔ Δ Δπ π

Δ

Δ

Δ Δπ

Δ Δ Δ π

= − +

+ − +

⎛ ⎞∂+⎜ ⎟∂⎝ ⎠

i

両辺を2

k x tΔ Δ Δ π

で割ると、

( , , ) ( , , ) ( , , ) ( , , )

kcoll

f f k x t f k x x t f k x t f k k x t fv k

t x kΔ Δ ΔΔ Δ Δ

⎛ ⎞− + − + ∂= + ⎜ ⎟∂⎝ ⎠

i

t+

微分の定義の基づき

0 0

( , , ) ( , , ) ( , , ) ( , , )lim , limx k

f k x t f k x x t f f k x t f k k x t fx x kΔ Δ

Δ ΔΔ Δ→ → k

− + ∂ − += − = − ∂∂ ∂

なので、

kcoll

f f f fv k

t x k t⎛ ⎞∂ ∂ ∂ ∂+ + = ⎜ ⎟∂ ∂ ∂ ∂⎝ ⎠

i

が得られる。これが実空間 1 次元系でのボルツマン方程式である。2 次元系、3 次元系では

k

coll

f f f fv k

t r tk

⎛ ⎞∂ ∂ ∂ ∂+ ⋅ + ⋅ = ⎜ ⎟∂ ∂ ∂∂ ⎝ ⎠

i

ここで , , (f f f f

)grad fr x y z

⎛ ⎞∂ ∂ ∂ ∂= =⎜ ⎟∂ ∂ ∂ ∂⎝ ⎠を意味し、内積は

, , ,k x k y k zk

f f f fv v v v

r x y z∂ ∂ ∂⋅ = + +∂ ∂ ∂

∂∂

、 x y zx y z

f f f fk k k k

k kk k∂ ∂ ∂⋅ = + + ∂

∂ ∂ ∂∂

i i i i

であることに注意せよ。

2-3ボルツマン方程式:右辺衝突項の導出

coll

ft

⎛ ⎞∂⎜ ⎟∂⎝ ⎠

の意味:

- 12 -

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2( , , ) x yk kf k r t x y

Δ ΔΔ Δ

πは位相空間中の点( , )x yk k x y, , 近傍の「微小体積」 x yk k x yΔ Δ Δ Δ

中に存在する電子の個数を表すので、 2( , )x y x y

coll

f k k k kx y t

t

Δ ΔΔ Δ Δ

π

⎛ ⎞∂⎜ ⎟

∂⎜ ⎟⎝ ⎠

はこの体積中で時

間Δ tの間に散乱によって変化する電子数を表す。

ここで散乱確率密度 を導入する。これは単位時間に波数k( , )W k k′ であった電子が散

乱を受けて波数 に遷移するk′ 確率密度を表す。つまり

2 22 2( , )

( ) ( )x y x yk k k k

W k k x y tπ π

′ ′Δ Δ Δ⎛ ⎞′ Δ Δ Δ⎜ ⎟⎜ ⎟

⎝ ⎠

Δ

は時間Δ tの間に位相空間中の微小体積 x yk k x yΔ Δ Δ Δ にいた電子が散乱によって微小体積

x yk k x yΔ Δ Δ Δ′ ′ に遷移する確率を表す。従って初めに位相空間中の微小空間 x yk k x yΔ Δ Δ Δ

にいた電子が時間Δ tの間にこの微小空間の外に出て行く確率は、 , xk ky′ ′ で積分することに

より次の式で与えられる。

2 22 2( , )

( ) ( )x y x yk k dk dk

W k k x y tπ π

′ ′Δ Δ⎛ ⎞′ Δ Δ Δ⎜ ⎟⎜ ⎟

⎝ ⎠∫∫

微小体積 x yk k x yΔ Δ Δ Δ から x yk k x yΔ Δ Δ Δ′ ′ に遷移する電子数を求めるためにはこれに始

状態k を電子が占めている確率 をかけて、更に終状態( , , )f k x t k′が空席になっている確率

1 ( , , ) ( , , )f k x t f k x t− = をかける必要がある。そうすると上記

coll

ft

⎛ ⎞∂⎜ ⎟∂⎝ ⎠

の意味を考えて、

2 22 2 2,

( , )( , )

( ) ( )x y x y x y x y

k k

coll out

f k k k k k k dk dkx y t W k k x y t f f

t

Δ ΔΔ Δ Δ

π π π′

⎛ ⎞ ′ ′∂ Δ Δ⎛ ⎞⎜ ⎟ ′= − Δ Δ Δ⎜ ⎟⎜ ⎟∂⎜ ⎟ ⎝ ⎠⎝ ⎠

∫∫

両辺を位相体積で割って

212

,

( , )( , ) ( )

( )x y x y

k k

coll out

f k k dk dkW k k f f

t π′

⎛ ⎞ ′ ′∂⎜ ⎟ ′= − −

∂⎜ ⎟⎝ ⎠

∫∫

で与えられる。但し、これは"out-scattering"なのでマイナスの符号がついている。これに対

して"in-scattering"つまり初めに状態k′にいた電子が散乱によりk に移ってくる電子数は

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212

,

( , )( , ) ( )

( )x y x y

k k

coll in

f k k dk dkW k k f f

t π′

⎛ ⎞ ′ ′∂⎜ ⎟ ′= −

∂⎜ ⎟⎝ ⎠

∫∫

で与えられる。合わせて

2

2 1 12

( , ) ( ) ( , ) ( )( )

kk k k k

coll

f d k W k k f f W k k f ft π ′ ′

⎛ ⎞∂ ′ ⎡ ⎤′ ′= − −⎜ ⎟ ⎣ ⎦⎜ ⎟∂⎝ ⎠∫∫ −

で与えられる。特に e-imp のような弾性散乱では ( , ) ( , )W k k W k k′ ′= なので、

2

22( , )

( )k

k k

coll

f d k W k k f ft π ′

⎛ ⎞∂ ′ ⎡ ⎤′= − −⎜ ⎟ ⎣ ⎦⎜ ⎟∂⎝ ⎠∫∫

となる。

以上の考察によりボルツマン方程式は

2

22( , , ) ( , , ) ( , , )

( , )( ) k kk

f k r t f k r t f k r t d kv k W k k f ft r k π ′

∂ ∂ ∂ ′ ⎡ ⎤′+ ⋅ + ⋅ = − −⎣ ⎦∂ ∂ ∂ ∫∫i

(2-4)

2-4不純物散乱における散乱確率密度W(k, k') 散乱確率密度は散乱の種類により異なる形をとるが、電子と散乱体(不純物イオン、フォノ

ン、他の電子)との間の相互作用で決定される。この導出のためには量子力学の教科書に出

てくる「摂動論」を使った「散乱理論」が必要になる。ここでは結果を述べるにとどめる。

(以下で記号 q は電子―電子散乱における運動量移行q k k′= − を表す。電荷を表す q と同

じ記号を使うので区別に注意。)

電子-不純物イオン散乱の場合,波数k の電子が不純物イオンとの相互作用により,波数k′

の状態に散乱される確率密度 ( , )W k k′ は次の式で表される。

22( , ) ( )i kW k k n k V kπ

kδ ε ε ′′ ′= −

ここでniは不純物イオン濃度、V はクーロン相互作用で,最後のデルタ関数はエネルギ

ーの保存を表している。記号 k V k′ は次の積分を表している。

2( ) ( )( )i k r t i k r tk V k e V r e d rω ω′ ′− ⋅ − ⋅ −′ = ∫

但しω = εk/ħ = ω' = εk'/ħで電子のエネルギーを表す。この積分は始状態の電子の平面波

(i k r te )ω⋅ − がクーロン相互作用 により散乱されて,終状態( )V r (i k r te )ω′ ′⋅ − になることを表し

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ている。cgs Gauss単位系でのクーロン相互作用2erεを使うと,この積分は 2 次元系では

22( ) ek V k V q

qπε

′ = =

となる。(各自求めてみよ) ここでε はGaAs中の誘電率で 12 91.ε = 、q k k′= − は運動量

移行である。(正しくは運動量は波数にプランク定数を掛けた値, ,k k′ である.) 電子

が 1 つだけ存在する場合にはこれで正しいが,多数の電子がいる場合には不純物イオンの

クーロン力は「遮蔽」を受けるために,少し修正が必要になる。ここではRPA遮蔽のstatic limitを使って、

22 1RPA ( )RPA

ek V k V qq

πε κ

′ = =+

という形になる。ここでκ はscreening wavenumberで今考えている低温の2次元系では 0.196

nm-1という定数値になる。(このあたりの詳細は省略。) この結果

10 70080 196

2( ) . [eV nm ].RPAV q

q=

+

となる。これらを使って散乱確率密度は次式で与えられることになる。

22( , ) ( ) ( )i RPA k kW k k n V qπ δ ε ε ′′ = −

この表現からわかるように e-imp の散乱確率密度は運動量移行q の大きさにのみ依存して

おり、 が成り立っている。 ( , ) ( , )W k k W k k′ = ′

2-5線形化:最低次の近似

原理的には上記の式(2-4)を解くことにより、未知の非平衡分布関数 ( , , )f k r t が得られ、こ

れを使って空間の各場所における電子の流れ、更には移動度をも求めることが出来る。(§

2-9を参照。) しかし式(2-4)に示されたボルツマン方程式は偏微分と積分の混じった方程

式(微積分方程式, integrodifferential equation)になっており計算機による数値計算によっても

解くことは難しい。そこで以下ではさまざまな近似を導入して解いていくことになる。

まず、定常状態を考えることにする。つまり短パルス光による光励起直後やパルス的

な電圧印加後の過渡的な変化を考えない。一定の大きさの電圧が印加され続けている場合

などを考える。このとき分布関数は平衡状態のそれからはずれているが、時間的には変化

しない。したがって分布関数は波数と位置座標の関数になり時間には依存しない。そのた

めにボルツマン方程式の時間微分項は消えてしまう。式(2-4)は次のようになる。

2

22( , ) ( , )

( , )( ) k kk

f k r f k r d kv k W k k f fr k π ′

∂ ∂ ′ ⎡ ⎤′⋅ + ⋅ = − −⎣ ⎦∂ ∂ ∫∫i

(2-5)

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また、温度は一定とする。(T は位置に依存せず一定値。) 次に非平衡分布関数を局所平衡分布関数 ( , )f k r とこれからのずれ ( , )g k r を使って表す。

( , ) ( , ) ( , )f k r f k r g k r= + (2-6)

(注意:§2-1式(2-2)でもこの形を導入したが、そこでは弱い電場が印加された場合を考え

て ( , )g k r の形はすでに決まっていた。ここではより一般的な場合を想定して、 ( , )g k r の

形は後から決めることにする。)

外力(電界の大きさ) や電子密度の空間変化が十分に小さい場合には電子の分布関数は平衡

状態のそれからわずかに変化しているだけと考えられる。従って平衡からのずれ ( , )g k r は

微小量とみなす。( )( , ) ( , )f k r g k r そして方程式の各項に式(2-6)を代入して、それぞれ

最低次で計算する。 (1)左辺(ドライブ項あるいはドリフト項と呼ぶことがある。)

1

k k k k

f f f f g g f fv k v k v k v k

r r r rk k k

∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂⋅ + ⋅ = ⋅ + ⋅ + ⋅ + ⋅ ⇒ ⋅ + ⋅∂ ∂ ∂ ∂∂ ∂ ∂

i i i

0次 次

k∂

i

この場合にはより高次の項である 1 次の項を無視して、最低次の項である 0 次の項だけを

残す。したがってドライブ項は局所平衡分布関数 ( , )f k r を使って計算することになる。

(2)右辺(衝突項)

2 2 2

2 2 2

0 1

2 2 2( , ) ( , ) ( , )

( ) ( ) ( )k k k k k kd k d k d kW k k f f W k k f f W k k g g

π π π′ ′′ ′ ′⎡ ⎤′ ′− − = − − − ′′ −⎡ ⎤ ⎡ ⎤⎣ ⎦ ⎣⎣ ⎦∫∫ ∫∫ ∫∫ ⎦

次 次

ドライブ項と同じように 0 次の項だけを残すかと思われるが、実は 0 次の項は以下の「補

足4」に示すように恒等的にゼロになってしまうので、最低次の項として 1 次の項を残す。

したがって右辺衝突項は平衡からのずれを表す関数 ( , )g k r を使って計算する。 ↓******************************************************************************↓

補足4:局所平衡分布関数 ( , )f k r による衝突項がゼロになる理由。

不純物散乱は弾性散乱なので波数ベクトルの大きさは等しい。| | | |k k′=

一方、次式で与えられる局所平衡分布関数は

2 2

2

1 11

1( ( ))/

( ) /( , )

k r kT k r kTm

f k re

eε μ μ− ⎛ ⎞−⎜ ⎟

⎝ ⎠

= =+

+

波数の大きさにのみ依存するので ( , ) ( , )f k r f k r′= 。これより衝突項の 0 次は常に

2

2 02

( , ) ( , ) ( , )( )d k W k k f k r f k r

π′ ⎡ ⎤′ ′− −⎣ ⎦∫∫ =

となり、消えてしまう。

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なお、ここでは e-imp 散乱の場合について示したが、電子-フォノン散乱、電子-電子散乱

など他の散乱の場合にも一般的に成立する事が示される。(証明は省略。)

したがって、ボルツマン方程式の衝突項は平衡からのずれ ( , )g k r を使って計算される。

0

coll coll collcoll

f f g gt t t t

=

⎛ ⎞∂ ∂ ∂ ∂⎛ ⎞ ⎛ ⎞ ⎛ ⎞= + =⎜ ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟∂ ∂ ∂ ∂⎝ ⎠ ⎝ ⎠ ⎝ ⎠⎝ ⎠

↑*****************************************************************************↑

以上の近似を使ってボルツマン方程式は

2

22( , ) ( , )

( , ) ( , ) ( , )( )k

f k r f k r d kv k W k k g k r g k rr k π

∂ ∂ ′ ⎡ ⎤′ ′⋅ + ⋅ = − −⎣ ⎦∂ ∂ ∫∫i

(2-7)

となる。

2-6衝突項:緩和時間近似

いくつかの近似を導入して式(2-7)に示すボルツマン方程式はだいぶ簡潔になったが、まだ

微分と積分を同時に含んだ微積分方程式になっており、見通しが悪い。(そう簡単には解け

そうにない。)そこで、更に衝突項に大胆な近似を導入する。

§2-1の議論からわかるように電子輸送における散乱・衝突の役割は外力(電場)によ

り加速された電子のエネルギー・運動量を元の熱速度に戻すことにある。つまり外力によ

り非平衡になった電子の分布を元の熱平衡分布に戻す働きをする。分布関数は

平衡状態 ⇒(外力)⇒ 非平衡分布kf k kf g+ ⇒(ある時間τ後に衝突)⇒平衡に戻る kf

平衡からのずれはある時定数τ で減衰してゼロになる。これを数式で表すと

g gt τ

∂ = −∂

となる。(この解は 0/( ) tg t g e τ−= という形になる。この解の形は平衡からのずれが時定数τ

で減衰することを示している。)これを使って、ボルツマン方程式 式(2-7)は

( , ) ( , ) ( , )

k

f k r f k r g k rv k

r k τ∂ ∂⋅ + ⋅ = −

∂ ∂

i

(2-8)

というきわめて簡潔な形になる。積分が含まれない、偏微分方程式の形になっている。各

種の散乱による電子の運動の変化はすべてτ というひとつの時定数の中に押し込められた

形になっている。この後しばらくの間はこの形を使って輸送現象を取り扱っていく。

2-7ドライブ項

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ここで左辺ドライブ項の形を具体的に求めておく。まず第1項、( , )

k

f k rv

r∂⋅

∂を考える。局

所平衡分布関数は式(2-2)の近くに示したように

( )1

1( ) /( , )

k Br k Tf k r

e ε μ−=

+

で与えられるので、微分変数を変換すると、(下記補足5を参照)

( , ) ( , ) ( ) ( )

k k kk

f k r f k r fr rv v v

r rμ μ

μ ε∂ ∂ ∂∂ ∂⋅ = ⋅ = − ⋅

∂ ∂ ∂ ∂ r∂

ただし、ここで式(2-5)の近くで仮定したように温度 T は位置に依存しない場合を考える。

↓*****************************************************************************↓

補足5:局所平衡分布関数は

( )1

1( ) /( , )

k Br k Tf k r

e ε μ−=

+

ここで、 ( )rμ のみが に依存している。変数変換r ( )kx rε μ= − を行うと、

xr r

μ∂∂ = −∂ ∂

また k

k

f fx x

εε

∂∂ ∂=∂ ∂ ∂

なので、

k

k k

f f f fxr x r x r

εr

μ με ε

∂⎛ ⎞∂ ∂ ∂ ∂∂ ∂⎛ ⎞∂= = − = −⎜ ⎟⎜ ⎟∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂⎝ ⎠⎝ ⎠ となる。

↑******************************************************************************↑

更に、「補足3」で示したように、n Gr r

μ∂∂ =∂ ∂

という関係があるので、

( , ) ( ) ( )k

k kk k

vf k r f fr n rv vr r G

μrε ε

∂ ∂ ∂ ∂⋅ = − ⋅ = − ⋅∂ ∂ ∂ ∂

∂∂

内積

という形になる。この項は密度勾配( )n rr

∂∂

による流れを表しており、「拡散項」と呼ばれる。

次に第2項( , )f k r

kk

∂⋅∂

i

を考える。運動量 p k= の時間微分が外力 /qE m になるので、

qEk

m=

i

である。また、局所平衡分布関数 ( , )f k r では、2 2

2kkm

ε = のみが k に依存してい

る。したがって、

2

k

kk k k

f f f fk vmk k

εε ε ε

∂∂ ∂ ∂ ∂= = =∂ ∂∂ ∂ ∂

なので、

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( , )

kk

f k r fk qE v

k ε∂ ∂⋅ = ⋅

∂∂

i

となる。この項は「外力項」と呼ばれる。

以上より、左辺ドライブ項は拡散項と外力項を合わせて次のように書ける。

( )1( , ) ( , )k k

k

f k r f k r fnv k qE vr G rk ε

∂ ∂ ∂⋅ + ⋅ = − + ⋅∂ ∂∂

i ∂∂

(2-9)

式(2-8)の緩和時間近似と式(2-9)を使うとボルツマン方程式は

( )1k

k

f gn qE vG r ε τ

∂∂− + ⋅ = −∂ ∂

(2-10a)

となる。

なお、右辺に緩和時間近似を使わない場合には式(2-7)よりボルツマン方程式は

( ) 2

21

2( , ) ( , ) ( , )

( )kk

fn d kqE v W k k g k r g k rG r ε π

∂ ′∂ ⎡ ⎤′− + ⋅ = − − ′⎣ ⎦∂ ∂ ∫∫ (2-10b)

という形になる。

2-8非平衡分布関数

式(2-10a)を g について解くと、

( )1( , )k

k

fng k r qE vG r

τε∂∂= − ⋅

∂ ∂ (2-11)

したがって、非平衡分布関数は、

( )

( )

1

1

( , ) ( , ) ( , ) ( , )

( , )

kk

fnf k r f k r g k r f k r qE vG r

fnf k r qEG r k

τε

τ

∂∂= + = + − ⋅∂ ∂

∂∂= + − ⋅∂ ∂

と書くことができる。もし、微分項の係数 ( )1 n qEG r

τ ∂ −∂

が微小量であれば、つまり電場

が小さく、密度勾配も小さければ、テーラー展開を逆に使って、

( )( )

1

1

( , ) ( , )

,

( , )

fnf k r f k r qEG r k

nf k qE rG r

f k k r

τ

τ

∂∂= + − ⋅∂ ∂

∂⎛= + −⎜ ∂⎝ ⎠

= − Δ

⎞⎟ (2-12)

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但しここで、 ( 1 nk )qEG r

τ ∂Δ = − +∂

である。この結果は重要である。ここで得られた非平

衡分布関数 ( , )f k r は局所平衡分布関数 ( , )f k r を運動量空間で kΔ だけ平行移動した関数

( , )f k k r− Δ で与えられることになる。つまり非平衡分布関数はシフト量を とする

Shifted-Fermi-Dirac関数になる。これは

§2-1で示した直観的描像で得られたのと同じ非平

衡分布関数がボルツマン方程式を使って得られたことになる。また、緩和時間近似で導入

した時定数τ は§2-1で導入した(e-imp散乱の)散乱時間τi と同じものとみなすことが出来

る。全電子はドリフト速度 /Dv k= Δ mを持つことになる。

2-9非平衡分布関数と輸送係数の関係

ここで非平衡分布関数と電子密度、電流密度との関係を求めておく。まず、(スピン片側あ

たりの)電子密度は分布関数を波数で積分することにより得られる。スピン片側当たりでは

2

22( ) ( , )

( )d kn r f k rπ

+∞

± ±−∞

= ∫

全電子密度は

( )2

22( ) ( ) ( ) ( , ) ( , )

( )d kn r n r n r f k r f k rπ

+∞

+ − + −−∞

= + = +∫

特に無偏極の場合には( 、( ) ( )n r n r+ −= ( , ) ( , ) ( , )f k r f k r f k r+ −= = )

2

222

( ) ( , )( )d kn r f k rπ

+∞

−∞

= ∫

電流密度は、もしすべての電子が同じ速度で運動していれば DJ qv n= となる。ここ

では速度は波数 k に依存しているので、電流密度は

( )2 2

2 22 2( ) ( ) ( , ) ( ) ( , ) ( , )

( ) ( )d k d kJ r q v k f k r q v k f k r g k rπ π

+∞ +∞

± ± ±−∞ −∞

= =∫ ∫ ±+

ここで、局所平衡系の分布関数 ( , )f k r± は k-空間で球対称なので

2

2 02

( ) ( , )( )d k v k f k rπ

+∞

±−∞

=∫

- 20 -

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と、消えてしまう。したがって電流密度は

2

22( ) ( ) ( , )

( )d kJ r q v k g k rπ

+∞

±−∞

= ∫ ± (2-13a)

で与えられる。特に無偏極の場合には

2

222

( ) ( ) ( ) ( ) ( , )( )d kJ r J r J r q v k g k rπ

+∞

+ −−∞

= + = ∫ (2-13b)

2-10ドリフト・拡散方程式

ここでは半導体中でのキャリア輸送の取り扱いで必ず出てくる電流密度と電場および密度

勾配との関係式(たとえば「半導体工学」で使った教科書「半導体素子」§4-6 を参照)

| | | |n n nJ e nE e D nμ= + ∇ n | | | |p p pJ e nE e Dμ= − ∇

がボルツマン方程式から直接得られることを示す。

式(2-10)から始める。

( )1k

k

f gn qE vG r ε τ

∂∂− + ⋅ = −∂ ∂

この式の両辺に をかけて、k( ) /k

v v k k m= = で(2 次元での体積)積分を行う。

まず左辺は

( )2

21

2( ) ( )

( ) k

fd k nv k qE v kG r επ

∂∂− + ⋅∂ ∂∫ (2-14)

ここで 2 つ目の は( )v k 1 n qEG r

∂− +∂

との間で内積をとることに注意。

--------------------------------------------------------------------------------------------------

この積分を数学的に実行するには、内積を書き下して、

( )2

21 1

2( ) ( ) ( )

( ) x x y yk

fd k n nv k qE v k qE v kG x G y επ

⎡ ⎤ ∂⎛ ⎞∂ ∂− + + − +⎜ ⎟⎢ ⎥∂ ∂⎝ ⎠⎣ ⎦∫ ∂

この式全体はベクトルになっている。その x 成分は

( )

( )

2

2

2 22

2 2

1 12

1 12 2

( ) ( ) ( )( )

( ) ( ) ( )( ) ( )

x x x y yk

x x y x yk k

fd k n nv k qE v k qE v kG x G y

f fn d k n d kqE v k qE v k v kG x G y

επ

ε επ π

⎡ ⎤ ∂⎛ ⎞∂ ∂− + + − +⎜ ⎟⎢ ⎥∂ ∂ ∂⎝ ⎠⎣ ⎦

∂ ∂⎛ ⎞∂ ∂= − + + − +⎜ ⎟∂ ∂ ∂⎝ ⎠

∫ ∫ ∂

y 成分は

- 21 -

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( )( )

2

2

2 22

2 2

1 12

1 12 2

( ) ( ) ( )( )

( ) ( ) ( )( ) ( )

y x x y yk

x x y y yk k

fd k n nv k qE v k qE v kG x G y

f fn d k n d kqE v k v k qE v kG x G y

επ

ε επ π

⎡ ⎤ ∂⎛ ⎞∂ ∂− + + − +⎜ ⎟⎢ ⎥∂ ∂ ∂⎝ ⎠⎣ ⎦

∂ ∂⎛ ⎞∂ ∂= − + + − +⎜ ⎟∂ ∂ ∂⎝ ⎠

∫ ∫ ∂

ただしここで1 n qEG r

∂− は k に依存しないので積分の外に出した。この積分を F.D.分布関

数 f に対して計算することになる。先は長い・・・。

+∂

-----------------------------------------------------------------------------------------

この k-積分は、緩和時間近似を使っている場合には、次のような物理的考察から数学

的な手続きを使わないで結果がでてくる。まず、式(2-13b)に示した電流密度の定義より

2

222

( ) ( ) ( , )( )d kJ r q v k g k rπ

+∞

−∞

= ∫

一方緩和時間近似では式(2-11)に示すように

( )1( , )k

k

fng k r qE vG r

τε∂∂= − ⋅

∂ ∂

これを上の式に代入して

( ) 2

212

2( ) ( ) ( )

( ) k

fn d kJ r q qE v k v kG r

τεπ

+∞

−∞

∂∂= − ⋅∂∫∂

(2-15)

内積

という関係式が得られる。

これに対して、緩和時間近似では非平衡分布関数は式(2-12)に示す Shifted-FD 関数で記述さ

れ、すべての電子はドリフト速度 ( )1/Dnv k m qE

m G rτ ∂= Δ = − +

∂で運動している。(熱速

度の部分は合計をとるとゼロになり消える。) このとき電流密度は

( )1D

q n nJ qv n qEm G rτ ∂= = − +

∂ (2-16)

で表される。式(2-15)の電流密度と式(2-16)の電流密度は同じものなので、

( ) ( )2

21 12

2( ) ( )

( ) k

fn d k n nqE v k v k qEG r m G rεπ

+∞

−∞

∂∂ ∂− = −∂ ∂∫ −

これを式(2-14)と比べると、左辺は

( ) ( )2

21 1

22( ) ( )

( ) k

fd k n n nv k qE v k qEG r m G rεπ

∂∂ ∂− + ⋅ = − − +∂ ∂ ∂∫ (2-17)

- 22 -

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という結果が得られる。(この関係は 2D, 3D ともに任意の温度で成立する一般的な関係式に

なる。#76 補足 2 参照。)

一方ボルツマン方程式の右辺衝突項に ( ) /k

v v k k m= = をかけて、k で(2 次元での

体積)積分を行う。式(2-13b)を使うと、

2

21

22( ) ( )

( )d k v k 1g k J

qτ π− =∫ τ

− (2-18)

以上の結果をまとめると、ボルツマン方程式

( )1k

k

f gn qE vG r ε τ

∂∂− + ⋅ = −∂ ∂

の両辺に をかけて、k で積分を行った結果、式(2-17)と(2-18)より次の関係式が得られる。 k

v

( )12n n qEm G r

∂− − +∂

12

Jqτ

= −

整理すると、

( )1q n qn nJ qE q nE qm G r m mG r

nτ τ τ∂ ∂= − + = −∂ ∂

(電子の場合は 、正孔の場合は| |q = − e | |q e= )この式は , n n

q nDm mGτ τμ = = で移動

度と拡散係数を与えると、半導体中の電流密度を与える式(以下でドリフト・拡散方程式と

呼ぶ)

電子: | | | |n n nJ e nE e D nμ= + ∇

n

(2-19a)

正孔: | | | |p p pJ e nE e Dμ= − ∇ (2-19b)

になる。

ボルツマン方程式からドリフト・拡散方程式が得られたことは、単に半導体の教科書

に書いてある結果を追認しただけではない。多くの教科書では移動度 nμ や拡散係数 は

典型的な値が表に示されている程度で、その値をどのようにして求めることが出来るのか

は何も示されていない。もちろん最終的には実験から求められるべき値であるが、理論的

にこれらを求める指針が示されていないのは不十分である。しかし、ここまでボルツマン

方程式から導出してきたことで

nD

nμ 、 が nD

, n n

q nDm mGτ τμ = =

という形で、「散乱時間」τと密接に関係していることが示された。ここまでの段階ではτ は

まだ決定されていない量であるが、以下に示すようにこの値はボルツマン方程式を解くこ

- 23 -

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とによって理論的に計算できる量である。したがってボルツマン方程式は移動度と拡散係

数という半導体素子の動作を決める上で重要な「輸送係数」を理論的に計算する手段を与

えてくれる大変に重要な道具ということになる。

2-11ボルツマン方程式を使った解法

2-1で示した直観的描像及び前節での議論が示すように、「散乱時間」τ はキャリア輸送

を特徴付ける重要な物理量で、これを求めることが必要になる。以下ではボルツマン方程

式を使って、(e-imp 散乱の場合に)τ がどのように計算されるかを示す。

式(2-10a)と式(2-11)に示したように定常状態に緩和時間近似を適用するとボルツマン方

程式は次の形になる。

( )1 ( , ) ( , )k

k

f k r g k rn qE vG r ε τ

∂∂− + ⋅ = −∂ ∂

これより g(k,r)を求めると、

( )1 ( , )( , )

kk

f k rng k r qE vG r

τε

∂∂= − ⋅∂ ∂

となる。一方、(緩和時間近似を使わずに)e-imp による衝突項を持つボルツマン方程式は式

(2-10b)に示されているように

( ) 2

21

2( , ) ( , ) ( , )

( )kk

fn d kqE v W k k g k r g k rG r ε π

∂ ′∂ ⎡ ⎤′ ′− + ⋅ = − −⎣ ⎦∂ ∂ ∫∫

衝突項の積分に上記の g(k,r)を代入すると、右辺衝突項は

( ) 2

21

2( , )

( )k k

k kk k

f fn d kqE W k k v vG r

τε επ

′′

∂ ∂⎡ ⎤′∂ ′− − ⋅ −⎢ ⎥∂ ∂ ∂⎣ ⎦∫∫

ここで、弾性散乱では ( k kk k )ε ε ′′= = であり、 ( , ) ( , )f k r f k r′= なので、

k k

k k

f fε ε

∂ ∂=

∂ ∂

となり、積分の外に出すことが出来る。したがってボルツマン方程式は

( ) ( ) ( )2

21 1

2( , )

( )k

k kk k

ffn n d kk

qE v qE W k k vG r G r

τε ε π ′v

∂∂ ′∂ ∂ ′− + ⋅ = − − ⋅ −∂ ∂ ∂ ∂ ∫∫

ここで、簡単のために系の密度が一様である場合を考える。つまり、 0nr

∂ =∂

で、電子

は電場によってのみ動く。(ドリフトカレントのみ) ボルツマン方程式は以下のようにな

る。

( )2

22( , ) ( , )

( , )( )k k

k k

f k r f k r d kk

qE v qE W k k vτε ε π ′

∂ ∂ ′ ′⋅ = ⋅ −∂ ∂ ∫∫ v

となる。但しここで、電場 とEk k

v v ′− の間で内積を取る。(密度勾配による項を残してお

いても以下の導出はまったく同じように行うことが出来る。この項を落としたのは単に式

が煩雑に見えるのを防ぐためだけである。) 両辺に共通のファクターを落とすと、

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( )2

22( , )

( )k kd kE v W k k v E v Eτ

π ′′ ′⋅ = ⋅ − ⋅∫∫ k

(2-20)

これからτ を求めると、

2

21 1

2( , )

( )k

k

v Ed k W k kv Eτ π

′⎛ ⎞⋅′ ′ ⎜ ⎟= −⎜ ⎟⋅⎝ ⎠

∫∫ (2-21)

e-imp 散乱時間はこの式(e-imp 衝突項積分)を積分することによって求めることが出来る。

実際に積分を計算してみる。次の図に示すように、波数ベクトル k の向きを x 軸に取る。

そうすると、

( )cos , cosk k E k k kv E v E v E v E Eθ θ θ′ ′ ′⋅ = ⋅ = −

但しここで、弾性衝突なので衝突前後での電子の速さは同じであることに注意。k k

v v ′= こ

れを式(2-20)に代入すると、

k'

k k

E

k'

(2

22cos ( , ) cos cos( )

( )k E k E k k Ed kv E W k k v E v Eθ τ θ θ θ

π ′′ ′= −∫ )− (2-22)

という形で与えられる。ここで散乱確率密度は2-4で与えたように、

22( , ) ( ) ( )i RPA k kW k k n V qπ δ ε ε ′′ = −

である。ここで q k k′= − で、弾性散乱なので k k′= 。したがって散乱確率密度は および kk′

と のなす角度k′k

θ ′ にのみ依存する。つまり ( , ) ( , )k

W k k W k θ ′′ ′= という形になる。また、空

間の対称性からW k( , ) ( , )k k

W kθ θ′ ′′ ′= − 。以上より、式(2-22)は

( )2

22cos ( , ) cos cos( )

( )k E k k E k k Ed kv W k v vθ τ θ θ θ θ

π ′ ′′ ′= −∫ −

積分を極座標に変換すると

θE

θk' q

θk'/2

22

sin kq kθ ′=

⎛ ⎞⎜ ⎟⎝ ⎠

- 25 -

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( )

( )

( )

2

2

2

2

2

12

cos ( , ) cos cos( )( )

( , ) cos cos cos sin sin( )

( , ) cos ( cos ) sin sin( )

k E k k k E k k E

k k k E k E k

k k k E k k E

v k dk d W k v v

k dk d W k v

k dk d W k v

E

τθ θ θ θ θ θπτ θ θ θ θ θ θπτ θ θ θ θ θ θπ

′ ′ ′

′ ′ ′ ′

′ ′ ′ ′

′ ′ ′= −

′ ′ ′= −

′ ′ ′= − −

θ

まず sin kθ ′を含む項のk

θ ′ での積分を考える。

0

0

( , )sin

( , )sin ( , )sin

k k k

k k k k k

d W k

d W k d W k

π

ππ

π

θ θ θ

kθ θ θ θ θ

′ ′ ′−

′ ′ ′ ′ ′−

′ ′= +

∫ ∫ θ ′

ここで第 1 項に対して積分変数の変換: kt θ ′= − 。これにより

0

0

0 0

0

( , )sin ( , )sin

( , )sin ( , )sin

k k

k k

dtW k t t d W k

dtW k t t d W k

π

ππ π

k

k

θ θ θ

θ θ θ

′ ′ ′

′ ′ ′

′ ′= − +

′ ′= − +

=

∫ ∫

∫ ∫

残るのは

2 12

cos ( , ) cos ( cos )( )k E k k k E kv k dk d W k vτθ θ θ θ θ

π ′ ′ ′′ ′ ′= −∫

これより

22 2

1 1 11 2 22 2( , )( cos ) ( , ) sin

( ) ( )k

k k k k kk dk d W k k dk d W kθ

θ θ θ θ θτ π π

′′ ′ ′ ′ ′

⎛ ⎞′ ′ ′ ′ ′ ′= − = ⎜ ⎟⎝ ⎠

∫ ∫

散乱確率密度を代入して

2 2

221 1 2 22

(| |) sin ( )( )

i kk RPA k k

nk dk d V k k

π θθ δ ε ε

τ π′

′ ′⎛ ⎞′ ′ ′= − ⎜ ⎟⎝ ⎠

∫ −

ここで波数 k'での積分をエネルギー積分に変換する。2 2

2kkm

ε ′′= なので、

2

kd km

ε ′ ′ ′= dk 、

2 2

2 221 1 2 22

(| |) sin ( )( )

i kk k RPA k k

n m d d V k kπ θ

ε θ δτ π

′ ε ε′ ′ ′⎛ ⎞′= − ⎜ ⎟⎝ ⎠

∫ −

エネルギーデルタ関数によりエネルギー積分はすぐに実行できて、

- 26 -

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2 2

31 1 22 2(| |) sini k

k RPA

n md V k k

θθ

τ π′

′⎛ ⎞′= − ⎜ ⎟⎝ ⎠

ここで前ページの図に示すように 22

sin kq kθ ′=

⎛ ⎞⎜ ⎟⎝ ⎠

なので、

2

23 2

21 1 22 2sin sinki k

k RPA kn m

d Vθ θ

θτ π

′ ′′

⎛ ⎞ ⎛ ⎞⎛ ⎞= ⎜ ⎟ ⎜ ⎟⎜ ⎟⎝ ⎠ ⎝ ⎠⎝ ⎠

更に、§1 で示したように22 1( )RPA

eV qq

πε κ

=+

なので

222 2

3 20

22

22

1 1 22

sin

sin

k

k

ik

k

n m e dπ

θ

θκ

π θτ π ε

+

⎛ ⎞⎜ ⎟⎛ ⎞ ⎝ ⎠= ⎜ ⎟

⎝ ⎠ ⎛ ⎛ ⎞⎜ ⎜ ⎟⎝ ⎝ ⎠

∫⎞⎟⎠

これで、e-imp 散乱時間を表す積分は 1 重積分まで簡単にすることが出来た。

更に、変数変換を行う: 2/kx θ ′=

( )

222

3 202

2

1 1 2 22sin

sin

i

k x

n m e xdxπ

κ

πτ π ε +

⎛ ⎞= ⎜ ⎟⎝ ⎠ ∫

被積分関数は 2/π を中心に対称なので(証明せよ)、

( )

222 23 20

2

2

1 1 2 42/ sin

sin

i

k x

n m e dxπ x

κ

πτ π ε +

⎛ ⎞= ⎜ ⎟⎝ ⎠ ∫ (2-23a)

となる。初等的な方法ではこれ以上積分は出来ない。(ように見える。)

ここまで e-imp 散乱時間τを求めてきたが、式(2-23)をよく見ればわかるようにτは入射電子

の波数の大きさ k に依存している。( k の向きには依存しない。)

( )

222 23 20

2

2

1 1 2 42/ sin

sin

i

k k x

n m e dxπ

κ

πτ π ε +

⎛ ⎞= ⎜ ⎟⎝ ⎠ ∫ x (2-23b)

2-6で緩和時間を導入したときにはτは定数であるように取り扱ったのだが、結果を見れ

ば実は k に依存しており、これに伴いこれまでの導出にいくつかの修正が必要になる。まず、

式(2-8)に示された緩和時間近似を使ったボルツマン方程式は以下のようになる。

( , ) ( , ) ( , )

kk

f k r f k r g k rv k

r k τ∂ ∂⋅ + ⋅ = −

∂ ∂

i

修正

(2-24)

- 27 -

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特に、緩和時間近似を使った場合には、式(2-10)に示めされた式は、次のように変更される。

( )1 kk

k k

kf gn qE vG r ε τ

∂∂− + ⋅ = −∂ ∂

修正

(2-25)

このセクションの初めから行ったボルツマン方程式の解法は、この式を出発点としてもま

ったく同じように行うことが出来て、e-imp散乱時間を示す式(2-23b)が得られる。(τkは k の

大きさにのみ依存する。したがって弾性散乱ではτk = τk'であることに注意。)

また、2-10に示されたドリフト・拡散方程式の導出は以下のような修正が必要になる。

まず、電流密度は式(2-13b)を使って得られる。

2

222

( ) ( )( )d kJ q v k g kπ

= ∫

ここで ( )g k は式(2-25)より

( )1 kk k k

k

fng qEG r

τ vε

∂∂= − − + ⋅∂ ∂

で与えられるので、電流密度は

( ){ }

( )

2

2

2

2

122

122

( )

( )

kk k k

k

kk k k

k

fd k nJ q v qE vG r

fn d kq qE v vG r

τεπ

τεπ

∂∂= − − + ⋅∂ ∂

∂∂= − − +∂ ∂

∫ (2-26)

内積

ドリフト・拡散方程式が得られる起源は電流密度が式(2-16)に示すよう形になるため。

( ) ( )1 1 ?kD

q nq n n nJ qv n qE qEm G r m G r

ττ ∂ ∂= = − + ⇒ − +∂ ∂

しかし、ここでわかったように kτ τ= なのでこのままではこの式は成立しない。そこでこの

式に代わって

( )1q n nJ qEm G rτ ∂= − +

∂ (2-27)

という形を仮定する。但しここで τ は kτ を何らかの方法(以下で示される)で平均した「平

均散乱時間」である。式(2-26)に示された電流密度の式(2-27)は同じものなので

( ) ( ) 2

21 12

2( )k

k k kk

q n fn n d kJ qE q qEm G r G rτ

τ v vεπ

∂∂ ∂= − + = − − +∂ ∂ ∫ ∂

- 28 -

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2009 年度 電気電子工学専攻 大学院講義 半導体光工学特論 高橋豊

( ) ( )( )

2

2

2

2

2

2

1 122

122

122

,

,

( )

( )

( )

kk k k

k

kx k k x k

k

ky k k y k

k

q n fn n d kqE q qE v vm G r G r

fn d kq qE v vG x

fn d kq qE v vG y

ττ

επ

τεπ

τεπ

∂∂ ∂− + = − − +∂ ∂

∂∂= − − +

∂ ∂

∂⎛ ⎞∂− − +⎜ ⎟∂ ∂⎝ ⎠

成分に分けて書くと、

( ) ( ) 2

22

2

2

1 122

122

,

, ,

( )

( )

kx x k k x

k

ky k k y k x

k

q n fn n d kx qE q qEm G x G x

v

fn d kq qE v vG y

ττ

επ

τεπ

∂∂ ∂− + = − − +∂ ∂

∂⎛ ⎞∂− − +⎜ ⎟

∂ ∂⎝ ⎠

成分: 

( ) 2

2

22

2

1 122

122

, ,

,

( )

( )

ky x k k x k y

k

ky k k y

k

q n fn n d ky qE q qEm G y G x

fn d kq qE vG y

ττ v v

επ

τεπ

∂⎛ ⎞∂ ∂− + = − − +⎜ ⎟∂ ∂⎝ ⎠∂⎛ ⎞∂− − +⎜ ⎟∂ ∂⎝ ⎠

∂成分: 

ここでそれぞれの cross term は以下に示すように消える。

↓*****************************************************************************↓

補足 6: ここでvxとvyのcross termは積分でゼロになることがすぐにわかる。極座標に変換

して積分を行う

2x yd k dk dk d kdkθ= ⇒ 、 ( ) cosx

kv km

θ= 、 ( ) sinykv k

mθ=

( )2 22

20 0

02

( ) ( ) cos sin( ) x y

k k

f fd k kv k v k dk dm

π

θ θ θε επ

∞ ⎡ ⎤∂ ∂= =⎢ ⎥∂ ∂ ⎢ ⎥⎣ ⎦∫ ∫ ∫

なぜなら ( )2 2

0

0cos sinkdm

π

θ θ θ =∫

↑******************************************************************************↑

したがって、

( ) ( ) 22

21 12

2 ,( )k

x x k xk

q nk

fn n d kx qE q qEm G x G xτ

τ vεπ

∂∂ ∂− + = − − +∂ ∂ ∫ ∂

成分: 

2

22

1 122 ,( )

ky y k y

k

q nk

fn n d ky qE q qEm G y G yτ

τ vεπ

∂⎛ ⎞ ⎛ ⎞∂ ∂− + = − − +⎜ ⎟ ⎜ ⎟∂ ∂⎝ ⎠ ⎝ ⎠ ∫ ∂成分: 

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2009 年度 電気電子工学専攻 大学院講義 半導体光工学特論 高橋豊

更に、 kτ 、 k

k

∂∂

は の向きには依存しない。空間の対称性より y 成分の式は座標を 90 度ま

わしてみれば x 成分に対する式と同じになる。つまり、

k

2 2

2 22 22 2, ,( ) ( )

k kk kk x k y

k k

f fd k d kv vτ τε επ π

∂ ∂=

∂ ∂∫ ∫

したがって、

( )2 2 22 2 2

2 2 21 12 22 2 2or, , ,( ) ( ) ( )

k kk kk x y k x k y k

k k

2 kk

k

f f fd k d k d kv v vτ τ vτε ε επ π π

∂ ∂= + =

∂ ∂∫ ∫ ∫∂∂

この表現を使えば、

( ) ( ) 22

21 1

2( )k

k kk

q n fn n d kJ qE q qEm G r G rτ

τ vεπ

∂∂ ∂= − + = − − +∂ ∂ ∫ ∂

そこで、「平均散乱時間」 τ を次式で定義する。

2

222( )

kk k

k

fm d k vn

τ τεπ

∂= −

∂∫

(練習問題:この式で表される τ の単位が s(秒)であることを示せ。)

そうすれば

( )1q n q nn nJ qE q nE qm G r m mGτ τ

rτ∂ ∂= − + = −

∂ ∂ (2-28)

但しここで移動度と拡散係数は

, n n

q nD

m mGτ τ

μ = = (2-29)

で表される。

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