港湾施設における釣り問題研究会 · 第1...

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港湾施設における釣り問題研究会 平成21年9月 港湾施設における釣り問題研究会

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Page 1: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

港湾施設における釣り問題研究会

報 告 書

平成21年9月

港湾施設における釣り問題研究会

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目次

はじめに ……………………………………………………………………1

第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 ………………3 1 事故防止対策の状況 ………………………………………………3 2 事故の実態 …………………………………………………………3

(1) 転落事故の発生件数 …………………………………………3 (2) 転落事故の原因等 ……………………………………………4 (3) 港湾別の発生状況 ……………………………………………4

3 県民の意識等 ………………………………………………………5

(1) 県民からの意見等 ……………………………………………5 (2) 県民意識調査 …………………………………………………6 (3) 港湾所在市町の観光振興に関する意見 ……………………6

4 他の都道府県の状況等 ……………………………………………7

(1) 釣り施設として開放している事例 …………………………7 (2) 釣り施設を整備したことによる効果 ………………………7 (3) 国の取扱い ……………………………………………………8

5 関係する法令及び判例 ……………………………………………8

第2 港湾施設への立入規制及び釣り場としての開放に関する考え方 10 1 港湾施設への立入規制 ………………………………………… 10

(1) 立入規制の必要性 ………………………………………… 10 (2) 立入規制の程度 …………………………………………… 10

2 釣り場としての開放 ……………………………………………12

(1) 基本的な考え方 ……………………………………………12 (2) 開放する施設の選択及び開放に当たっての安全対策、マナー

対策等 ………………………………………………………15 (3) 開放に要する経費の負担及び釣り場の開設者 …………20 (4) その他の課題 ………………………………………………22

第3 まとめ ………………………………………………………………23

参考資料 1 港湾施設における釣り問題研究会設置要領 …………………………1

2 港湾施設における釣り問題研究会議事要旨 …………………………3

3 主な検討資料

(1)港湾施設における立入規制等の状況 ………………………………15

(2)港湾における転落事故等の発生状況 ………………………………22

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(3)他県において港湾施設の一部を釣り施設として開放している例…29

(4)港湾施設における釣り問題に関する県民意識調査 ………………30

(5)部分的な開放について検討の対象とする施設(新潟港) ………38

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はじめに

昨年 10 月、柏崎港の西防波堤で釣りをしていた 11 人が波にさらわれ海に

転落するという事故が発生した。当日は、海域は荒れて波は高く、防波堤に

残っていた釣り人の避難誘導や救助活動に当たっていた消防隊員の5人も

波にさらわれた。この時は、軽傷を負った者が何人か出たものの、釣り人、

消防隊員ともに命に別状なく、不幸中の幸いであった。

事故当時、現地には立入禁止の表示のほか、立入防止柵が設置され、施錠

もされていたが、消波ブロックを伝うなどして防波堤内に入る釣り人が後を

絶たない状況だった。

防波堤は、波が高い日などは当然であるが、天候にかかわらず転落すると

容易に上がることはできず、釣りを行うには大変危険な場所である。また、

岸壁等においては荷役作業が行われているほか、荷主の貴重な貨物が置かれ

ていることから、不特定多数の者が自由に出入りすることは、作業上・保安

上も問題である。このように、港湾施設は、関係業者の産業活動を中心とし

た施設であり、一般人の利用を想定した公園などとは根本的に性格が異なる

ものである。

港湾管理者である県は、このような港湾施設の性格を踏まえ、安全管理や

港湾機能の確保のため、防波堤や岸壁などの港湾施設を原則として関係者以

外立入禁止としてきたが、実態としては、これまでの対策によって、釣り人

の立入りや事故の発生を完全には防止できなかったところである。

このたびの柏崎港における事故を契機に、県民から県に様々な意見が寄せ

られた。その中には、釣り人の無謀な行動を批判する意見がある一方で、後

を絶たない事故を防止するためには、規制ばかりではなく、例えば、安全性

が十分確保され、かつ荷役作業などの本来の港湾機能にも支障がないことを

前提として、一定のルールの下で部分的に港湾施設を開放した方がよいので

はないか、また、それによって観光振興などにも役立つのではないかという

意見もあった。

県としては、このような意見を真摯に受け止め、港湾施設における釣りに

ついて、今後どのように対応していくべきか改めて検討する必要があると考

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え、釣り振興団体や港湾関係事業者、法律の専門家、観光振興や防災・人命

救助を所管する行政機関などで構成する「港湾施設における釣り問題研究

会」を設置することとした。

この報告書は、研究会における議論をとりまとめ、港湾施設への立入規制

と釣り場としての開放について、基本的な考え方を整理したものである。

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第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題

1 事故防止対策の状況

現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

して、港湾施設における釣りの危険性を周知して、関係者以外の立入り

を規制している。

釣り人の立入りが想定される港湾施設としては、外海からの波浪を遮

断して港内の静穏を保つ「防波堤」、水際に土地と一体的に設置して海

水の侵入や波浪から背後の土地を護る「護岸」、船舶の発着と物資の積

み卸しや人の乗り降りが行われる「岸壁」等が挙げられる。

防波堤のうち最も外海に面した、いわゆる「第一線の防波堤」につい

ては、基本的には、危険性の告知や立入禁止の表示を行い、立入防止柵

を設けて施錠を行っている。その他の防波堤については、危険性の告知

や立入禁止の表示を行っているものの、立入防止柵の設置及びその施錠

は実施している施設と実施していない施設がある。

岸壁や護岸については、防波堤と同様に危険性の告知や立入禁止の表

示は行っているが、荷役作業が行われ、また比較的波が穏やかなため、

立入防止柵は設置している施設と設置していない施設がある。

なお、これらの施設においては、関係者以外の立入りを想定しておら

ず、また、荷役作業等に支障になるため、基本的に転落防止柵等は設置

していない。

これらハード面における立入規制と併せて、職員による監視・パトロ

ールが行われているが、これは、港湾施設の状態を確認することを主目

的にしたものであり、釣り人の立入りを発見した場合においても、強硬

な退去指示や警察への通報等を行うと釣り人から強い拒否反応がある

ため、あまり積極的に行われていないのが実態である。

2 事故の実態

(1) 転落事故の発生件数

県では、前記のような立入規制を行っているものの、釣り人にとっ

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Page 7: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

て大型魚の釣果が見込まれる魅力的な施設であるため、防波堤を中心

に日常的に多数の釣り人が港湾施設に立ち入り、毎年相当数の事故が

発生している。

平成 14 年度から平成 20 年度までの7年間で見ると、釣り人の転落

事故(釣り人の転落事故である可能性があるものを含む。)は、27

件発生し、9人が死亡している。しかし、このほかに、転落しても自

力で上陸したり、他の釣り人等から救助されるなどして、件数として

把握されていない事故も相当数あるものと考えられる。

(2) 転落事故の原因等

釣り人の転落事故を発生施設別に見ると、大部分の事故は防波堤に

おいて発生し、一部岸壁等においても発生している。

事故の発生原因別に見ると、防波堤では高波によるものが大部分で、

そのほかに釣り人の不注意や強風が原因となっており、岸壁等ではす

べて釣り人の不注意が原因となっている。

転落後の状況別に見ると、防波堤では警察・消防・海保その他から

の救助や自力で上陸して助かった者が大部分であるが、死亡に至る例

もある。また、岸壁等では、自力で上陸できた者と死亡者が半々程度

となっている。

事故の発生月別に見ると、9月ころから 12 月ころに集中している。

転落者の居住地別に見ると、県内居住者がやや多いが、群馬県、長

野県及び福島県など隣接県の釣り人も少なからず転落している。

(3) 港湾別の発生状況

県内の港湾の中では、新潟港(東港区)が最も事故発生数が多い港

であり、中でも西防波堤で事故が多発している。特色としては、西防

波堤からの転落者の半数はバイクや自転車等二輪車の走行時に転落

していることである。これは、西防波堤は沖合に約3㎞突き出ており、

長い延長の施設上をその先端等まで移動する手段として、バイクや自

転車等二輪車を乗り入れることによるものと推察される。

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新潟港(西港区)においても、西突堤等防波堤において釣り人の転

落事故が見受けられる。

直江津港においては、岸壁等からの転落事故が数件あったものの防

波堤での事故はなかった。これは、西ふ頭から延びている西防波堤は、

西ふ頭自体がソーラス規制区域(SOLAS 条約に対応した国内法「国際

航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」による必要

な保安措置)として立入規制がより厳しく設定されており、厳重な柵

等で釣り人が入り込めないよう規制していることによるものである。

柏崎港においては、西防波堤から数件の転落事故がある。これは昨

年の事故の時点でも、乗り越えるのが困難な立入防止柵を設けていた

ものであるが、横の消波ブロックを伝うなどして釣り人が入り込んで

いたことによる。昨年の事故後、消波ブロック上にも有刺鉄線を張る

などして、立入規制を更に強化した結果、現在は立入防止柵の中に入

る釣り人はほとんど確認されていない。

姫川港においては、西防波堤において釣り人の転落事故があった。

なお、これら4港以外の港湾、すなわち佐渡島内の4港、岩船港及

び寺泊港の計6港においては、平成 14 年度以降、釣り人の転落事故

は確認されていない。

3 県民の意識等

(1) 県民からの意見等

昨年の柏崎港の事故以降、港湾施設における釣りに関し、県民から

県に対し数件の意見が寄せられた。内容は異なるものの、全体的には

「一部に無謀な釣り人やマナーを守らない釣り人もいるが、多くの釣

り人は自己責任を自覚し、安全に気を付けているので、立入りを認め

てほしい。規制を強化すればかえって危険な状況が生まれる。」とい

うように要約することができる。

また、新聞のコラムでも、「釣り客の安全意識やマナーの向上は不

可欠だが、締め出しでは問題は解決しない。立入りの実態や観光振興

の観点から考えると、一定の安全設備を設けた上で、施設の開放を検

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討してはどうか。」という意見が見られた。

(2) 県民意識調査

県では、前記県民からの意見等を踏まえ、より全体的・平均的な県

民意識を把握するため、県民意識調査(県内在住の 20 歳以上の男女

約 300 人に対して、男女別人口及び釣りをする者としない者の割合に

より、それぞれ調査対象者数を配分したアンケート調査)を実施した。

その結果、まず、港湾施設を釣り場として開放することに対する意

見として、「a開放した方がよい」が 9.6%、「b一定の条件を満た

せば開放した方がよい」が 71.1%、「c開放しない方がよい」が 13.8%

であった。

aとbの回答者が「開放した方がよい」と思う理由としては、「一

定のルールの下で開放した方が転落事故が減る」というものが

65.7%と最も多く、「釣りは健全な娯楽であり、ふれあいの場でもあ

る」が 54.2%であった。

bの回答者が想定する「一定の条件」としては、「ゴミの持ち帰り

などマナーを守ること」が 84.2%と最も多く、「開放しない危険箇

所への立入を厳しく規制すること」が 78.3%、「釣り人が自己責任

を守り事故の責任転嫁をしないこと」が 67.0%であった。

また、cの回答者が「開放しない方がよい」と思う理由としては、

「無謀な釣り人も多く、事故防止には立入規制の強化が必要」が

83.7%と最も多かった。

これらの調査結果を総括すると、「県民の多くは、一定の条件の下

で開放に賛成しているが、実際の開放に当たっては、安全面や環境面

など様々な課題を挙げて慎重な対応を求めている」と言うことができ

る。

(3) 港湾所在市町の観光振興に関する意見

県が行った港湾が所在する7市1町の観光振興所管課に対するア

ンケート調査によれば、「海釣りに訪れる人を観光客と考えて、その

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増加を期待しているか」という問いに対し、6市町が「はい」と答え

ており、また、「安全性の確保を前提として、港湾施設の一部開放が

望ましいか」という問いには、7市町が「はい」と答えている。

ただし、港湾施設の開放に当たっては、安全性だけでなく、ゴミの

放置や迷惑駐車、民間企業敷地への立入りなどのマナーの問題や防犯

上の問題をクリアする必要があるとの意見が付けられている。

4 他の都道府県の状況等

(1) 釣り施設として開放している事例

県が全国の主な港湾管理者を対象として、港湾施設の中で釣りを

行うことを認めている施設の有無等を調査した結果、67 の港湾管理

者のうち釣りを認めている施設があるというものが 27(40.3%)あ

った。

その代表的な釣り施設を見ると、比較的波が穏やかと思われる護

岸や緑地公園がほとんどで、防波堤で釣りを認めているのは4か所

のみとなっている。その4か所のうち3か所は延長 600m 未満の比較

的小規模の施設となっており、大規模な防波堤としては、名古屋港

の防波堤(2.5 ㎞)のみとなっている。ただし、名古屋港は、伊勢湾

の中に位置しており、高波の出現頻度は極めて低いことから、日本

海に直接面している新潟の港と単純に比較することはできないもの

と考えられる。

また、これらの釣り施設の安全対策としては、フェンス(転落防

止柵)、浮き輪、梯子などの安全施設の設置が多く、いくつかの釣り

施設では管理人の配置、注意喚起、荒天時の閉鎖などの管理上の対

策がとられている。

(2) 釣り施設を整備したことによる効果

釣り施設を整備したことによる効果を見ると、まず、安全性の向上

については、「危険箇所での釣りがなくなった」など効果があったと

するものが6件あるものの、「危険箇所での釣りはなくならなかった」

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Page 11: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

とするものも2件あった。

また、観光振興等については、市内外から釣り人等が増加し、観光

振興に役立ったとするものや、自然(海)に親しめる憩いの場の提供及

び賑わい作り等に寄与しているというものが合わせて 11 件あった。

(3) 国の取扱い

国(旧運輸省)では、海洋性レクリエーション志向の高まりを踏まえ、

平成3年に防波堤等の多目的使用について通知を発出し、安全対策等

に関する留意事項を示している。

5 関係する法令及び判例

港湾施設における事故防止について、直接的に定めている法令はない

が、施設の安全性に問題があって事故が発生した場合の損害賠償という

側面から見ると、国家賠償法を挙げることができる。また、国家賠償法

が適用されない場合にも、民法(第 717 条等)の適用を受けることがある。

なお、立入禁止措置を罰則で担保する根拠法としては、軽犯罪法が挙げ

られる。

また、港湾施設からの釣り人の転落事故について、直接的な判例は確

認できないが、参考となる判例は数多く出されており、これらの判例で

示されている「瑕疵」すなわち「施設の安全性が欠けている状態」につ

いての考え方を整理すると、おおむね次のとおりとなる。港湾施設にお

ける事故防止対策を検討する場合は、これらの考え方に十分留意する必

要がある。

ア 国家賠償法第2条第1項の「営造物の設置又は管理の瑕疵」とは、

「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいい、瑕疵が

あったかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用

状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断される。

イ 事故の発生が予測される営造物の設置・管理者は、その営造物自

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体の危険性の除去や、その営造物への立入禁止等の措置を講じて、

事故の発生を防止する義務がある。

なお、危険な状態に至った原因が設置・管理者以外の者の行為に

よる場合でも、そのことのみで免責されることはないが、設置・管

理者が危険性を予見できなかった場合は、責任を負わない。

ウ 営造物の安全性は、基本的に、その営造物の本来の目的・用法に

照らして事故発生の可能性があるかどうかによって判断され、営造

物の本来の目的・用法から逸脱した行動(設置・管理者が通常予測

することができない行動)に起因して事故が発生しても、基本的に、

設置・管理者が責任を負うことはない。

エ 危険性を内包する自然公物(河川、海等)を自由使用することに

伴う危険は、原則として、利用者自身の責任において回避すべきで

あるが、状況に応じて設置・管理の瑕疵を問われることがある。

一方、公共団体が自然公物を住民の利用に供するための施設を設

けた場合は、その利用者の安全を確保するため、事故の発生予防と

事故後の救助に必要なある程度の物的・人的措置を講じなければな

らない。

なお、河川での水難事故においては、設置・管理の瑕疵が肯定さ

れる場合も、「危険な場所への接近」を理由に、過失相殺が認めら

れることが多い。

オ 営造物の設置場所付近が子供の遊び場(生活圏)になっている場

合は、場所的環境として瑕疵を肯定する一要素とされることが多い。

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第2 港湾施設への立入規制及び釣り場としての開放に関する考え方

1 港湾施設への立入規制

(1) 立入規制の必要性

港湾は、国際貿易や国内流通の結節点として、また地域の産業、経

済、生活の基盤となる物流・人流の拠点として重要な役割を有する施

設である。

港湾施設のうち、防波堤は、悪天候時には電柱を倒壊するほどの波

浪が襲い、また天候に関係なく一旦転落すると容易に上がることがで

きない構造となっているなど、大きな危険要因を有している。

また、岸壁等ふ頭用地内では、クレーンやトラック等により荷役作

業が行われていて危険であるほか、荷主の貴重な貨物が置かれている

ことから、関係者以外の不特定多数の者が自由に出入りすることは、

作業上・保安上も問題がある。

港湾管理者(県)は、港湾本来の物流機能等を維持するとともに、

事故の発生を防止し、常に港湾施設を適正に管理する責任を有してい

る。

したがって、港湾施設で釣りをする危険性や港湾管理者としての事

故防止等の責任、港湾本来の物流機能への支障等を考慮すると、港湾

施設への立入規制は、今後も原則として継続する必要がある。

(2) 立入規制の程度

ア 立入規制の方法

立入規制の方法としては、大別して①規制表示(施設の入口付近

に危険性を告知するとともに関係者以外の立入りを禁止する旨の

看板等を設置すること)、②立入防止柵(施設の入口に進入の障害

となる柵を設置すること)、及び③退去指示等(施設に立ち入った

者に対し退去を指示し、又は警察に通報して退去への協力を求める

こと)がある。

規制表示については、施設の種別を問わず実施されている。

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立入防止柵については、防波堤においては実施されているが、進

入の障害となる程度は一様ではなく、忍返しや有刺鉄線などにより

通常の手段では進入不可能な柵を設置している例と、乗越えや迂回

により進入可能な柵を設置している例がある。すべて進入不可能な

柵を設置していないのは、構造的に難しい場合のほか、釣り人を完

全に閉め出すことによるトラブルや抵抗の大きさを考慮している

場合がある。

岸壁や護岸においては、立入防止柵を設置している例と設置して

いない例があり、設置している場合も、保安上特に重要な施設を除

いては、進入を阻止するためというよりは、規制表示を補完して注

意を喚起する意味合いが強く、進入可能な空間があるのが実態であ

る。これは、荷役作業のために関係事業者の出入りが頻繁にあるこ

とや進入経路の幅の大きさ等から、一般的に厳重な立入規制は困難

である一方、高波による危険性は比較的低いことによる。

退去指示等については、保安上特に重要な施設等を除き、基本的

には行われていない。これは、釣り人とのトラブルや抵抗の大きさ

を考慮してのものである。

イ 必要な立入規制の程度

立入規制は、各港湾施設の危険性の度合い(立入りや事故の実態

を含む。)、立入規制自体による円滑な荷役作業等への支障の度合

い等を総合的に勘案して、必要な程度を検討する必要がある。また、

港湾管理者の管理責任の視点から見れば、仮に事故が発生しても港

湾管理者が法的責任を負わない程度に実施する必要がある。

防波堤については、危険性が高い施設であることや、荷役作業等

は行われないため日常的に立ち入る必要のない施設であることか

ら、厳しい立入規制が必要であり、規制表示のほか、基本的に立入

防止柵が必要である。

また、立入規制の実効性を確保し、港湾管理者が法的責任を負わ

ないためには、立入防止柵は、通常の手段では進入不可能な構造と

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するか、又は乗越え等により進入可能な構造である場合は、現に立

ち入っている者に対して退去指示等を行うことが望ましい。

岸壁及び護岸については、防波堤と比較して危険性の程度が低い

ことや、厳重な立入規制を行うことの困難性を考慮すると、防波堤

と同程度の規制を行うことは現実的ではなく、規制表示を基本とす

る対応でやむを得ないものと考える。

ただし、規制表示は、分かりやすく丁寧なものである必要があり、

また、荷役作業への支障や危険な状況が認められる場合は、荷役作

業を行う事業者等の協力も得ながら、現に立ち入っている者に対し

て退去指示等を行う必要がある。

2 釣り場としての開放

(1) 基本的な考え方

ア 部分的な開放に向けた検討の必要性

既に述べたように、県内の港湾施設においては、関係者以外の立

入りを規制(原則禁止)しているが、実態としては、多数の釣り人

が立ち入り、相当数の転落事故が発生している。

転落事故の態様としては、高波により防波堤から転落する事例が

最も多い。事故の詳細な状況は不明であるが、元々立入禁止に違反

して釣りをしていることから、安全対策については、第三者による

管理は行われず、すべて釣り人本人の判断に左右される実態にあ

る。したがって、必ずしも釣りに適するとは言えない気象・海象条

件の下で釣りが行われ、高波によって転落する事故につながる例が

多いものと考えられる。また、転落した場合は、救命梯子等が設置

されていないことや、救命胴衣を装着していないことなどから、最

悪の場合、死亡に至るという事例も発生しているものと推測され

る。

これらの事故発生状況を踏まえると、より効果的な事故防止対策

を検討する必要がある。

より効果的な事故防止対策としては、すべての港湾施設について

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通常の手段では進入不可能な立入防止柵を整備するなど、立入規制

を強化する方向と、一定のルールの下に港湾施設を部分的に開放

し、安全対策を講じていない施設から安全対策を講じた施設に釣り

人を誘導する方向の二つの方向が考えられる。

いずれがより適切な措置であるかは、一義的に決まるものではな

いが、それ自体健全な娯楽である釣りを楽しみたいとする釣り人の

思いにできるだけ配慮することが望ましいこと、条件付きながら開

放が適当であるとする県民が多数いることや、開放により観光振興

等の効果も期待できることから、まずは部分的な開放の可能性等に

ついて検討することが適当である。

イ 開放に当たっての主な条件

港湾施設を釣り場として開放する場合は、開放によって港湾施設

本来の機能に支障が生じないことが第一の条件となる。

次に、開放する施設は、釣り場に適する(釣り人を引き付けるこ

とができる)場所的環境にあるとともに、釣り人の安全が確保でき

ること、並びに釣り場及びその周辺におけるゴミの放置や迷惑駐車

の防止など、釣り人のマナーが確保できることが不可欠である。

特に、安全の確保については、各港湾施設における危険要因を分

析しながら、その危険要因に対応した十分な安全対策を講ずる必要

がある。

また、開放に要する経費の負担等については、県民の理解が得ら

れる必要がある。

ウ いわゆる「自己責任による開放」

釣り人に多い意見として、「多少の危険はあっても、釣りは自己

責任(自分の安全には自分自身が責任を持ち、事故が起きても他に

責任を転嫁しないこと)で楽しむものであり、他に迷惑を掛けるわ

けではないので、自然(海)や県の財産(港湾施設)は県民に利用

させるべきである」との考え方がある。

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この考え方によれば、行政(港湾管理者)としては、港湾施設に

おける釣りの危険性を告知すること以外に特段の安全対策を講じ

ないで立入りを認めることができ、仮に事故が発生しても法的責任

は問われないということになる。

確かに、釣りは水難事故等の危険性を内在する行為であり、そ

の危険性を十分認識して行うのであれば、自ら危険に接近するも

のであることから、危険を回避する責任も、第一義的には釣り人

本人にあるものと考えられる。

しかしながら、国家賠償法や前記判例で示された考え方に照ら

せば、行政が公物を住民の利用に供する以上、行政としては、そ

の利用に伴って生ずる可能性のある事故を防止する責任を有し、

仮にその公物に通常有すべき安全性が欠けていた場合には、それ

によって損害を生じた者に対し、その損害を賠償する責任が発生

するものである。また、仮に本人がその損害賠償請求権を行使し

ない場合であっても、遺族等が行使しないという保証はない。

したがって、特段の安全対策を講ずることなく転落等の危険が

ある港湾施設を開放し、事故が発生した場合は、行政として法的

責任を全面的に免れることは困難であり、その意味で、「自己責

任による開放」という考え方は、採ることができないものと考え

られる。

また、結果として損害賠償請求権が行使されないこととなった

としても、「死亡事故の発生が予見されるような危険な施設」の

使用を認めることは、行政の在り方として容認されるものではな

い。

なお、これまでに発生した釣り人の事故に関し、港湾管理者で

ある県に対し損害賠償請求権が行使された例はなく、その意味で

自己責任の考え方が機能しているようにも見えるが、これは、立

入禁止に違反して発生した事故についてであって、港湾管理者が

釣りを行うことを認めて開放された港湾施設において発生する事

故とは、全く前提が異なることに留意する必要がある。

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(2) 開放する施設の選択及び開放に当たっての安全対策、マナー対策等

ア 港湾機能の維持から見た港湾施設の評価

海面に接する港湾施設のうち、岸壁については、本来荷役作業が

行われる施設であることから、そこで釣りを行うことは、危険であ

るばかりでなく、荷役作業の支障となり、また、転落防止柵等を設

置すればそれ自体が荷役作業の支障となるため、原則として釣りを

認めることはできない。

防波堤や護岸については、そこで釣りを行っても、基本的に港

湾機能には支障にならないと考えられる。ただし、航路や泊地に

届くような投釣り、港内道路への迷惑駐車等を行えば、港湾機能

への支障が生ずることから、開放に当たっては、一定の制約を伴

うものである。

イ 釣り場としての好適性から見た港湾施設の評価

釣果を重視し本格的な海釣りを楽しみたい釣り人は、外海に面し

た防波堤の開放を望んでいるものと考えられる。特に、第一線の防

波堤は、外海に長く突き出た形状であり、魅力的な場所と受け止め

られている。

一方、釣果は二の次で手軽に海釣りを楽しみたい釣り人は、近く

まで自家用車で行け、波が静穏な護岸や岸壁の開放を望んでいるも

のと考えられる。

ウ 危険要因から見た港湾施設の評価

港湾施設において釣りを行う際の危険要因(転落・転倒、救助・

避難困難等の要因)としては、次の要因が考えられる。

これらの危険要因のうち、現に転落事故の原因となっている主な

要因としては、高波が最も多く、次いで釣り人の不注意が多い。

不注意については、施設の種別を問わない転落原因となってい

る。一方、高波については防波堤における転落原因となっているが、

岸壁や護岸における転落原因とはなっていない。なお、防波堤にお

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Page 19: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

ける高波による転落については、安全な場所への避難距離の長さな

ど避難条件の悪さも相まって発生しているものと考えられる。

これら危険要因から見ると、港奥に位置する岸壁や護岸に比し、

外海に突き出た防波堤の危険度は明らかに高いと言える。

(ア) 外的要因(釣り人が直接制御できない要因)

a 自然条件

高波、強風、高潮、濃霧、降雨、降雪、落雷、地震、津波。

海面に転落した場合は、海水自体、潮流、海水温

b 物的条件

足場条件(狭い、不安定、凹凸)、周辺条件(落下面からの

高さ、落下面の状況、上陸困難な形状)、避難条件(避難場所

までの時間距離等)、荷役作業

c 利用条件

夜間利用(暗い)、過密利用

(イ) 内的要因(釣り人が直接制御できる要因)

釣り人の不注意等

エ 安全対策(危険要因への対応)

釣り場としての開放に当たっては、前記危険要因に対応して必要

な対策を講ずること(対策が困難な場合は開放しないこと)によっ

て、事故の発生を予防するとともに、事故が発生した場合に迅速な

救助が行われる体制を整備する必要がある。

事故の発生を予防する対策のうち、高波等の自然条件への対応と

しては、波高等の予報を活用するなどして、一定の基準に達した場

合に釣り場を閉鎖することが有効である。ただし、一定の確率で平

均的な波高の2~3倍の波が出現することに加え、予報そのものも

完全とは言えず、気象・海象が急激に変化することもあるため、予

報にすべてを依存することはできない。釣り人自身が、気象・海象

の変化に注意しながら、早めに退去するよう心掛けるとともに、釣

り場の開設・管理者としても、早めに退去の指示を行う必要がある。

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物的条件への対応としては、物的条件が釣りに適しない施設(箇

所)は釣り場として開放しないこと(可能な場合は釣りに適するよ

うに改良すること)が必要である。また、利用条件への対応として

は、一定の基準に達した場合に釣り場を閉鎖又は利用規制すること

が有効である。

内的要因(釣り人の不注意等)への対応としては、まず、釣り人

自身が、海釣りの危険性を十分認識し、注意を怠らないことが最も

重要であるが、釣り場の開設・管理者としても、適宜注意喚起を行

う必要がある。その際、釣り人が安全性よりも釣果を求めて行動す

る場合があることにも留意する必要がある。また、特に子供の利用

も想定するような場合は、不注意があっても転落しにくいように転

落防止設備を設置するなど、物的な対策も必要である。

なお、釣り場の開設・管理者が釣り人に対し、適切に退去指示、

注意喚起、情報提供などを行うためには、情報伝達設備の設置、巡

回・監視要員の配置等も必要である。

次に、事故が発生した場合の救助等の対策としては、例えば海面

への転落事故を例にとると、体力を維持しながら浮遊するための救

命胴衣の装着など、専ら釣り人自身が実施すべき対策と、浮き輪や

海面から釣り台に上がることができる梯子の設置、救助要員の配

置、救助機関への通報体制の整備など、専ら釣り場の開設・管理者

が実施すべき対策がある。

実際の開放に当たり、具体的にどのような対策が必要かについて

は、各港湾施設における危険要因の種類及び程度等に応じ、安全対

策に関し国が示している留意事項や他県で実施されている対策等

を参考として、釣り場として通常有すべき安全性の観点から慎重に

検討する必要がある。

なお、他県において類似の開放例がない施設については、安全を

最優先として、特に慎重に検討する必要がある。

オ マナー対策

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釣り人のマナーについては、「釣り糸や釣り餌などのゴミを放置

している」、「迷惑駐車をしている」などの指摘を受けることが多

い。これらの行為は、生活環境や自然環境に悪影響を与えるととも

に、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などの法令に違反し又はそ

の疑いがあるような行為でもある。多くの釣り人のうち、指摘を受

けるような行為を行っている釣り人がどの程度いるのかは不明で

あるが、公共の財産である港湾施設の開放に際し、マナーの確保は

不可欠である。

マナーの確保については、まず、釣り人自身が、適切に対応する

ことが最も重要であるが、釣り場の開設・管理者としても、釣り人

への指導、駐車場やトイレの確保等を通じて、マナー違反行為の防

止に努める必要がある。

カ 開放する施設の具体的検討(新潟港を例として)

研究会では、新潟港を例に、港湾機能への支障の観点から開放し

ても基本的な問題はないと考えられるいくつかの港湾施設につい

て、開放の可能性や開放に当たっての課題等を検討した。

危険要因を基に分類すると、護岸(西港区信濃川左岸護岸、東港

区東護岸)、外海に面した第一線の防波堤(西港区西突堤、東港区

西防波堤)、その他の防波堤(東港区第2東防波堤、東港区防波堤

(Ⅰ))の3種類の港湾施設である。

(ア) 護岸については、外海波浪の影響を受けにくく、気象・海象

の急変時にも避難が容易であるなど、安全性を確保しやすい条件

を備えており、経費の負担等の課題が解決できれば、最も開放し

やすい施設であると言える。

一方、釣果はあまり期待できないことから、多くの釣り人(特

に遠方からの釣り人)を引き付けることは難しいと考えられる。

このため、安全対策を講じていない施設から安全対策を講じた施

設に釣り人を誘導することによって事故防止を図ろうという開

放の主な目的に照らすと、護岸を開放する効果は、限定的なもの

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になると考えられる。

(イ) これに対し、外海に面した第一線の防波堤については、沖合

に約2~3㎞突き出ており、釣果を重視する多くの釣り人を引き

付ける魅力がある。

一方、安全性の確保については、大きな課題を抱えている。ま

ず、施設の性格上当然のことながら、外海波浪の影響を受けやす

い。高波が予想される場合は、釣り場を閉鎖することにより、高

波による転落事故の多くは防止できると考えられるが、時に平均

的な波高の2~3倍の波が現れることがあり、加えて、気象・海

象が急変した場合、特に沿岸海域での地震に伴う津波が発生した

場合を想定すると、防波堤先端付近の釣り人が迅速に退避できる

のか危惧されるところである。また、外海側には、消波ブロック

が敷設されており、足場が不良であるため、転倒や滑落の危険性

が高い。仮に開放するにしても、消波ブロック部分は立入禁止に

する必要があるが、外海側で釣果はより期待できることから、現

実に立入禁止を徹底できるのか危惧されるところである。

これらの危険要因に対し、十分な対策を講ずることができるか

どうかが、開放に当たっての第一のハードルになるが、同様の状

況にある防波堤の開放例は全国的にないことから考えても、この

ハードルは容易に越えられるものではない。また、研究会で具体

的に必要な安全対策まで示すことは困難であるが、対策に要する

コストも大きなものになると想定される。

なお、「そもそも海釣りにおいて 100%の安全性を求めること

は現実的な対応とは言えず、一方、立入規制を強化しても第一線

の防波堤への立入りを完全に防止することは困難であり、一定の

ルールの下でこれを開放しない限り実効ある事故防止は期待で

きない」との考え方を是とするならば、開放に当たっての第一の

ハードルを一定程度下げる要素になり得る。昨年の事故発生後に

立入規制を強化した柏崎港の西防波堤においては、その後釣り人

の立入りはほとんど確認されていないことから、立入規制の強化

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Page 23: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

が実効性を伴わないとする考え方を是認することはできないが、

一方で、海釣りは元々危険性を内在していることも否定できず、

安全性を追求するあまりに、現に海釣りの主要な場所の一つにな

っている第一線の防波堤から釣り人を完全に締め出すことが、住

民の幸福を目指すべき行政として最良の選択と言えるのか、議論

の余地もあると考える。第一線の防波堤を開放する場合の安全性

の確保については、前記のとおり大きな課題はあるものの、住民

(釣り人)の幸福追求の観点も念頭に置きながら、開放の可能性

を完全に排除することなく引き続き検討していくことが望まし

い。

(ウ) その他の防波堤については、護岸と比較した場合は、釣り場

としての好適性の程度は高い一方、高波や迅速な避難の困難性に

関し危険性の程度も高いと言え、また、第一線の防波堤と比較し

た場合は、釣り場としての好適性の程度は低い一方、危険性の程

度も低いと言える。

換言すれば、ある程度の釣果が期待できるとともに、安全性の

確保についても、第一線の防波堤に比較すれば、実行しやすいと

考えられる。

(3) 開放に要する経費の負担及び釣り場の開設者

ア 開放に要する経費の負担

釣りは、本質的には個人の娯楽であること、本人の意思によって

危険に接近する行為であることからすれば、釣りに伴う危険を回避

する責任は、第一義的には釣り人本人にあると言える。したがって、

釣り場の開放のために必要となる安全対策等に要する経費(施設整

備費及び管理運営費)も、最終的には釣り人本人が負担することが

基本とされるべきである。具体的には、釣り場の開設者が釣り人か

ら入場料(利用料)を徴収することなどが考えられる。

一方、釣り場の開放には、観光の振興、健全な娯楽の場の提供な

ど公共的な意義を認めることもできることから、行政が施設整備費

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Page 24: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

等について一定程度の負担をする(税金を充当する)ことも検討さ

れるべきである。地方財政が厳しい中で、実際に行政が経費を負担

して開放するかどうか、また、県、市町村等でどの程度の負担をす

るのかなどについては、他の施策との間での優先順位や住民の理解

が得られるかどうかなどを勘案しながら、行政として判断すべき事

柄であると考える。

イ 釣り場の開設者

釣り場が、緑地公園や親水公園などと同様に港湾施設の一部とし

て必要な施設であると判断されるのであれば、港湾管理者としての

県が開設することが適当である。

一方、そうでない場合は、港湾管理者としての県が開設すること

は適当でない。

港湾施設の一部として必要な施設であるかどうかは、港湾管理者

が判断すべき事柄である。

港湾管理者以外の開設者としては、民間、港湾管理者以外の行政

(市町村等)及び第三セクターが考えられる。これらのうち、いず

れが適当であるかについて一概に判断することは困難であるが、釣

り場の開設者は、安全対策について大きな役割を担うこと、管理に

瑕疵があった場合は損害賠償責任を負うことがあることからすれ

ば、一般的には、社会的な信用と十分な組織体制・財政基盤を有す

る団体が適当であると考える。

なお、港湾管理者が開設する場合は当然のことであるが、港湾管

理者以外の者が開設する場合であっても、釣り場の基本的な部分

(釣り台等)は港湾施設の一部を使用すること、開設者に対し港湾

管理者としての監督権限を行使できることなどから、事故が発生し

た場合は、港湾管理者としての法的責任が問われる場合があること

を留意しておく必要がある。

また、釣り場の管理に当たっては、指定管理者制度の活用等によ

り、民間のノウハウを取り入れた利便性の高い運営を行うととも

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Page 25: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

に、安全対策についても、最終的な責任は港湾管理者が負うとして

も、港湾管理者との間の取り決めにより、指定管理者等が中心とな

って安全確保に対応するような手法が考えられる。

(4) その他の課題

釣り場としての開放の主な目的は、一定のルールの下に港湾施設を

部分的に開放し、安全対策を講じていない施設から安全対策を講じた

施設に釣り人を誘導することによって、事故防止を図ることにある。

したがって、港湾施設の一部を開放した場合においても、開放しな

い施設(安全対策を講じていない施設)への釣り人の立入りが継続す

るようでは、開放の目的を十分達成することはできない。

このため、港湾施設の一部を開放する場合は、併せて、開放しない

施設への立入規制を強化する必要がある。

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第3 まとめ

研究会では、港湾施設における釣り人の事故を防止することを最上位の

課題と位置付け、立入規制と釣り場としての開放という相反する二つの視

点から議論を行った。

釣り人の立場、港湾関係事業者の立場、法律の専門家の立場、観光振興

や防災・人命救助を所管する行政の立場、港湾管理者の立場など、様々な

立場の委員やオブザーバーから有益な意見を得ることができた。

研究会としては、これらの意見を総合し、港湾施設への立入規制は、今

後も原則として継続する必要があるが、一定のルールの下に釣り場として

部分的に開放することにより、事故の発生防止や観光振興、健全な娯楽の

場の提供等の効果が期待できることから、開放により港湾機能に支障が生

じないこと及び安全対策等について十分な措置を講ずることを前提とし

て、真に危険な施設を除き部分的な開放を指向することが適当であるとの

結論に達した。

一方で、人命にも関わる課題の重大性に加え、釣り場を開設する場合の

施設設備や管理に要する経費、事故が発生した場合の責任など、開放に要

するコストの大きさ、ある程度の危険性は前提としながらより好適な釣り

場を求める釣り人の強い思いなど、配慮しなければならない多くの論点が

相互に関連し合い、開放すべき具体的な施設や具体的な安全対策等につい

ては、判断を留保することとした。しかしながら、今後これらの事項を検

討する際に留意すべき基本的考え方は、整理することができたと考える。

これまでの県(港湾管理者)の対応は、実態としては、「完全な立入禁

止」と「釣り場としての開放」の中間に位置する「緩やかな立入禁止」と

評価することができる。その対応の下で、釣り人にとっては(禁止を犯し

て)比較的容易に港湾施設に立ち入ることができ、一方、港湾管理者にと

っては事故が発生しても法的責任を問われることはなかったため、釣り人

と港湾管理者との間で、ある種の暗黙のバランスが成立していたとも考え

られる。

重大な事故が発生していない状況では、このような対応もあながち否定

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Page 27: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

されるものではないと考えられるが、多くの事故が発生し、死亡に至る例

も少なくない状況の下では、決して望ましい姿とは言えない。

県においては、研究会における議論を足掛かりとして、今後釣り人など

の関係者や関係機関と更に議論を重ねながら、港湾施設の部分的な開放に

向けて、具体的に検討を進めることを望むものである。

また、釣り人にあっては、立入規制を含めルールやマナーを守るととも

に、自らの命の重さを自覚し、安全に対し最大限の配慮をしながら、釣り

を楽しんでいただきたい。

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参 考 資 料

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港湾施設における釣り問題研究会設置要領

平成 21年 1月 30日制定

平成21年 3月 23日改正

平成 21 年 4 月 1 日改正

(目的)

第1条 港湾施設において後を絶たない釣り人の転落事故を防止するため、港湾

施設への立入規制(港湾管理の観点)と釣り場としての開放(観光振興の観点)の両

面から釣り問題を研究するため、港湾施設における釣り問題研究会(以下「研究

会」という。)を設置する。 (検討事項)

第2条 研究会は、次の事項について検討を行う。 (1)防波堤その他の港湾施設への立入規制に関する事項 (2)港湾施設を釣り場として開放することによる効果、開放に適する施設、開放

に際しての課題その他釣り場としての開放に関する事項 (3)その他釣り人の転落事故の防止等に関する事項 (組織)

第3条 研究会は、別表第 1 に掲げる者(以下「委員」という。)をもって構成する。 2 研究会に座長を置き、委員の互選によりこれを定める。 3 座長は、会務を総括し、研究会を代表する。 (会議)

第4条 研究会の会議(以下「会議」という。)は、座長が招集する。ただし、研究

会の設置後最初に開催する会議は、知事が招集する。 2 会議を開催するときは、別表第 2 に掲げる者(以下「オブザーバー」という。)に出席を求めるものとする。

3 オブザーバーは、座長の求めに応じ又は座長の許可を得て、発言するものとす

る。 4 委員(行政機関の職員に限る。)及びオブザーバーは、自ら会議に出席できない

ときは、代理人を出席させることができる。 5 座長は、必要に応じ、委員及びオブザーバー以外の者に会議への出席を求める

ことができる。 6 会議の公開については、座長が委員に諮って決定する。 (事務局)

第5条 研究会の事務局は、交通政策局港湾整備課が務める。 (その他)

第6条 この要領に定めるもののほか、研究会の運営に関し必要な事項は、座長が

定める。

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別表第1(第 3 条関係)

委 員 名 簿 所 属 等 氏 名

明治大学法科大学院教授 西埜 章

弁護士 三部 正歳

(財)日本釣振興会新潟県支部 事務局長 本間 陽一

(株)リンコーコーポレーション港運事業部 部長 水落 源一郎

柏崎市産業振興部観光交流課長 渡部 智史

新潟地方気象台防災業務課長 菊池 美弘

新潟市消防局警防課長 小林 昭次

新潟県警察本部地域部地域課長 田村 昌三郎

新潟県新潟地域振興局新潟港湾事務所長 後藤 勇夫

別表第2(第4条関係)

オ ブ ザ ー バ ー 名 簿 所 属 等 氏 名

北陸地方整備局新潟港湾・空港整備事務所管財管理官 野上 亮

第九管区海上保安本部新潟海上保安部警備救難課長 長谷川 真琴

新潟県産業労働観光部観光局交流企画課長 橋本 一浩

新潟県農林水産部水産課長 大塚 修

新潟県農林水産部漁港課長 瀬賀 富幸

新潟県土木部河川管理課長 鈴木 政義

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港湾施設における釣り問題研究会(第 1回)議事要旨

1 日 時 平成 21 年 2 月 17 日(火) 午前 10 時~正午

2 場 所 新潟県庁警察庁舎 4階大会議室

3 出席者 別紙名簿のとおり

4 議 題

(1)研究会設置要領説明

(2)座長選出

(3)資料説明

ア 港湾施設における釣り問題(現状、課題等)

イ 港湾施設における立入規制等の状況

ウ 港湾における転落事故等の発生状況

エ 港湾施設における釣りに関する県民意見

オ 他県において港湾施設の一部を釣り施設として開放している例

カ 公の営造物の設置・管理責任に関する法令及び判例の概要

キ 港湾施設における釣り問題研究会の検討スケジュール

(4)自由討議

5 委員等発言要旨

(1)港湾施設への立入規制について

○長年、港で(荷役作業等の)仕事をしているが、その横で釣りをしていることに非常

に危険を感じていた。(水落委員)

○防波堤は、波の力により(そこに設置された)電柱が倒壊するほど危険な場所である

ことから、釣り人には立ち入ってほしくないと思うものの、要請があれば救助するだ

けである。(田脇オブ代理)

(2)釣り場としての開放について

○安全に釣りができる場所が提供できればいいと思う。(水落委員)

○現状では、立入禁止の取締りは困難であり、きちんとした形で釣り場を確保できれば

いいことだと思う。(太田委員)

○現状を踏まえ、観光振興の面から見て、釣り人を閉め出すのは適切ではないと思う。(大

塚オブ代理)

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○いくら立入規制しても規制しきれない。とすれば、安全確保を前提として、本当に危

険な場所を除いて一定のルールの下、開放するのが賢明な選択と考える。立入禁止を

続ければ、ある意味の責任回避はできても死亡事故はなくならない。(本間委員)

○防波堤には県外からも多数の釣り人が来ており、ガソリン、お弁当、たばこ、お土産

などのために県内に(お金を)落としてもらえ、立派な観光資源になり得る。また、

安全確保のためには人材も必要となり、雇用創出にも貢献できる。(本間委員)

○一部を釣り場として開放しても、良いポイントに行きたい釣り人は立入禁止柵を越え

ても立ち入ると思うので、釣り人のための施設が必要なら、そのようなものも必要と

思う。(小林委員)

○渡船を利用しなければ渡れない離岸堤等での事故は極めて稀である。それは、渡船業

者が安全確保に十分配慮しているからである。渡船では、ライフジャケットを着用し

ていなければ一切離岸堤には上げず、万一の転落者に備え船による見回りを欠かさず、

悪天候の場合は船を出さないので危険を回避できる。陸続きの防波堤においても、こ

れと同様の状況を作れば事故は減少する。防波堤での転落事故は、時化の日に無理を

して出かけた釣り人が起こしている。(本間委員)

○波浪注意報が出るか出ないかくらいの状況で事故が起きているのかなと感じている。

注意報は 2.5m で発表しているが、時に 2~3倍の波が来ることを認識して、注意して

ほしい。(菊池委員)

○3~4km の長い防波堤では、先端で波が穏やかでも、帰るときには波が高く戻れなくな

る場合があり、そのような危険性の周知も必要である。(田脇オブ代理)

○安全基準を高めるほど釣り場としては不適になる。施設利用上どの部分を自己責任と

位置付けて安全基準をまとめていくかが議論の対象となる。(大塚オブ代理)

○釣り人は、餌を岸壁に残していくなどマナーが悪いと思っている。(水落委員)

○救助出動に行くと、釣り人の車が 3列駐車されていて通れないことがある。(小林委員)

○防波堤の安全確保にはそれなりの設備と人材が必要になるが、釣り人に多少の負担を

してもらうことも可能だと思う。(本間委員)

(3)危険性を十分承知して、自己責任での施設使用を求める釣り人に、安全性が十分と

言えない条件の下で施設使用を認める(危険性告知以外の立入規制を全くしない)こ

Page 33: 港湾施設における釣り問題研究会 · 第1 港湾施設における釣り問題をめぐる現状と課題 1 事故防止対策の状況 現在県は、港湾施設における釣り人等の事故防止に関する主な対策と

とについて

○行政が、自己責任だから放っておけるということはないわけであり、「自己責任に任せ

て何かをする」というのが(研究会での)結論にはならないのではないかと思う。(春

日委員代理)

○水難事故等があった場合は、消防、海保もそうだが、事の良い悪いにかかわらず(被

災者を)救助しなければならない。(太田委員)

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第1回港湾施設における釣り問題研究会出席者名簿

  委  員(敬称略)

 所  属  氏  名 備 考

 明治大学法科大学院教授  西埜 章

 弁護士   三部 正歳

 (財)日本釣振興会新潟県支部 事務局長  本間 陽一

 (株)リンコーコーポレーション港運事業部 部長  水落 源一郎

 柏崎市産業振興部観光交流課長  春日 俊雄(代理)猪俣課長代理

 新潟地方気象台防災業務課長  菊池 美弘

 新潟市消防局警防課長  小林 昭次

 新潟県警察本部地域部地域課長  太田 定昭

 新潟県新潟地域振興局新潟港湾事務所長  後藤 勇夫

  オブザーバー

 北陸地方整備局新潟港湾・空港整備事務所総務課長  筒井 茂

 第九管区海上保安本部新潟海上保安部警備救難課長  田脇 徹(代理)小開救難係長

 新潟県産業労働観光部観光局交流企画課長  橋本 一浩(代理)川口課長補佐

 新潟県農林水産部水産課長  大塚 修(代理)椛澤副参事

 新潟県農林水産部漁港課長  髙倉 信幸

 新潟県土木部河川管理課長  鈴木 政義(代理)星主査

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港湾施設における釣り問題研究会(第2回)議事要旨

1 日 時 平成 21 年3月 23 日(月) 午前 10 時~正午

2 場 所 新潟県自治会館 2階 201 会議室

3 出席者 別紙名簿のとおり

4 議 題

(1)資料説明

ア 釣り場として開放する場合の基準等に関する参考資料

(ア)国の通知

a 防波堤等の多目的使用について

b 港湾環境整備施設技術マニュアル

(イ)他県の港湾施設の例

(ウ)本県の漁港の例

イ 港湾施設における釣り問題に関する県民意識調査結果

ウ 検討資料

(ア)部分的な開放について検討の対象とする施設

(イ)安全設備の設置計画(例)

(ウ)港湾施設を部分的に開放する場合に事故防止対策等として考えられる事項

エ 検討事項(例)

(ア)港湾施設への立入規制について

(イ)釣り場としての開放について

(ウ)その他

(2)審議

5 委員等発言要旨

(1)港湾施設への立入規制について

○釣り人の立場からも、原則として立入禁止で問題ない。(本間委員)

○C(危険性告知+立入禁止表示+立入防止柵(乗越え・ブロックへの迂回で進入可能))

の場合で、釣り人が柵を乗り越え、管理者がそれを承知で容認しているというような

状況が続いているならば、裁判例からすると管理責任を問われる可能性が高い。仮に

訴えられても安心して戦うためにはB(危険性告知+立入禁止表示+立入防止柵(進

入不可能))まではやる必要がある。ただし、鍵を壊された場合でそれに気付く暇も

ない間に立ち入った人が事故にあっても管理瑕疵はないと考える。(三部委員)

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○「管理責任を問われても開放すべきだ」という意見があるとすれば、一つの考えであ

ると思う。一番問題なのは、実際に港湾施設内に釣り人が入り込んでいるが、一応禁

止表示と防止柵は実施しているから管理責任は逃れられるであろうというような「グ

レーゾーン」の対応であり、禁止すべきところはきちんと禁止し、開放するならきち

んと開放すべきと思う。(三部委員)

○危険性告知、立入禁止表示、立入防止柵があっても、柵を乗り越え多くの人が入り込

んで釣りをしているという実態を知っているのであれば、自己責任だけに任せておく

わけにはいかないのではないか。(座長)

○港湾管理者が釣り人を退去させようとすると、釣り人は「自己責任による開放」を主

張し、トラブルになる。警察からは「管理者が絶対に入れないという方針を出し、住

民に周知徹底されないと協力できない」と言われる。(後藤委員)

○国民の余暇活動が多様化し、防波堤等の目的外使用への要請が高まる中で、港湾管理

者が管理責任を問われないために厳しい姿勢をとることは、時代の流れにそぐわない

と考える。港湾管理者が、万一の事故において管理責任を問われないような新しい方

法、規制以外の方法を構築していかなければならないと思う。(本間委員)

○管理責任を問われない一定程度の策を講じる必要があるというのであれば、Bレベル

でやむを得ないと思う。(春日委員代理)

○大人への対応は、危険告知、立入禁止表示、柵の設置が基本となるが、子供への対応

は、その子供がどれくらい理解できるか、親がどのくらい言い聞かせているかという

親の責任も出てくると思う。(高倉オブ)

(2)釣り場としての開放について

○事故が起きれば最終的に行政の責任を問われるのは仕方ないが、だからといって、全

面的に禁止しろというつもりはなく、禁止すべきところはきちんと禁止して、開放す

べきところは、安全管理をきちんとした上で開放する、白黒つけた、メリハリのきい

たやり方が一番望ましいと考えている。県外者を含め、釣りをしたいという要望があ

るのであれば、最初から「予算がない」「安全面で問題がある」と言って切り捨てるの

ではなく、そこを何とか工夫・努力で、やれるようなやり方を協議して見出していく

のが一番良いのではないかと思う。(三部委員)

○釣り人(成年男子)は魚が釣れて楽しいところ(防波堤)、女性、子供、お年寄りはでき

れば車が横付けできて楽しめるところ(岸壁等)というのが、基本的な希望である。(本

間委員)

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○開放すれば当然そこに行政としての責任が発生してくると思うが、開放するなら防波

堤が一番釣り場に適していると思う。安全策を講じて開放できるのであれば、やはり

防波堤しかないと思う。ただ、開放すれば、子供や女性も容易に入っていけることと

なり、更なる安全対策が必要になる。釣りに対する安全な知識がそれほどない人が入

り込むようになると、危険も増えて来るものと危惧している。(春日委員代理)

○防波堤は消波施設であって、釣りをする場合は目的外使用となるわけであり、はたし

てそれで良いのか疑問に思う。管理者が行政となれば、最終的な責任はそこに行くも

のであり、(既存の)港湾施設の開放は難しいと思う。安心して利用できる釣り公園と

いうような設備を、きちっと行政が整備するという方向が良いと思う。(水落委員)

○他県では、一級の防波堤を開放している例はないので、新潟でこれを開放するとなる

と、他県以上の対策が必要と考えている。少なくとも防波堤で釣りをする場合は、も

しもの場合を考えて、ライフジャケットの義務化というような方向性をとらなければ

いけないと思う。また、管理・監視棟を近くに設置し、監視カメラや救命浮環の設置、

救命ロープ、救命梯子、監視船、救助船を常時配置するというような対策を講じる必

要があると思う。(本間委員)

○国から示されているマニュアルや他県で実施されているような対策については、基本

的に必要になるだろうと思う。(座長)

○延長が3km もある防波堤を開放するとなると、自転車若しくはオートバイ(又は車)

を使うようになる。その管理をどうするか。一般開放すると子供も入ることになるが、

そうすると、ライフジャケットの着用はどの程度義務付けるのか。また、気象の状態

に対する基準もきちっと設けなければならないであろうし、気象情報は誰が流すのか。

「波が高くなったからすぐ引き揚げなさい」となった時に、監視は誰がするのか。非

常に難しい問題があまりに多い。(小林委員)

○安全対策に要する費用については、安全確保がしてもらえるのであればお金を払って

でもそこで釣りをしたいという釣り人がほとんどである。(100 人のアンケートでは、

最低 100 円、最大 2,000 円、平均 630 円/1日)(本間委員)

○施設整備については、(資金面において)問題が多々あると思われるが、釣り場に関し

ては健全なレジャー施設の整備であり国の予算を期待できるのではないかと思う。(本

間委員)

○県の施設であるので、基本は県事業になると思う。市として開放を望むのであれば、

市も応分の負担をすべきだが、柵や通路の整備に億単位の経費を要するとすると、地

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元自治体がその何十%というような負担をすることは財政上厳しいと思う。(春日委員

代理)

○施設整備費まで含めてすべて釣り人に負担させるとなると、結構大きな金額になる。

国の補助金を利用できないか。(座長)

○安心して利用できる釣り公園というような設備を、きちっと行政が整備するという方

向が良いと思う。 (水落委員)

○港湾の環境整備マニュアルに沿った形で施設を整備するのであれば、膨大なお金がか

かると思う。今の国・県・市の財政状態を見ると果たしてできるのかと思う。釣り人

が負担するとなると、お金の管理の問題が出てくる。(小林委員)

○釣り場の開設・管理者は、社会的な信用と十分な組織体制・財政基盤を有する団体が

適当であるとする事務局案のとおりだと思う。例えば、第三セクター、公益社団法人

などが挙げられる。県内の有力企業や公益性のある企業から出資をいただいて、管理

組合のような新たな組織を設置し、そこが安全性の確保に責任を負うという基本スタ

ンスで、事故が発生した場合は、保険により対応することも検討していく必要がある

と思う。(本間委員)

○基本的に県には責任が及ばない形、方向性がいいと考えている。占有許可を出すこと

がいいと思う。(本間委員)

○県が港の護岸なり一部に親水公園を作って、その運営に当たっては、県が中心となっ

て、市、漁協、釣具店の団体などで運営協議会等を作って運営に当り、事故があれば

一定程度県が基本的には責任を負うというようなイメージである。小さい自治体では

そこまでやれない。(春日委員代理)

○いかに別の団体に開設・管理を任せても、最終的な責任が取れるかどうか必ずしも明

確ではなく、財政基盤がそこまでしっかりしているとは限らないということもあり、

また施設の所有は県ということになるので、ある団体に開設・管理を任せたからとい

って、それで一切県の責任が無くなってしまうということでもないという気がする。

(座長)

○どの団体が主としても、管理の委託を受けるとしても、施設の所有者である県なり国

の責任は最終的には問われてしまうものと思われる。絶対県なり国が責任を問われな

いというのは不可能だと思うので、そこを議論の出発点にしてはいけないのではない

かと思う。(三部委員)

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第2回港湾施設における釣り問題研究会出席者名簿

  委  員(敬称略)

 所  属  氏  名 備 考

 明治大学法科大学院教授  西埜 章

 弁護士   三部 正歳

 (財)日本釣振興会新潟県支部 事務局長  本間 陽一

 (株)リンコーコーポレーション港運事業部 部長  水落 源一郎

 柏崎市産業振興部観光交流課長  春日 俊雄

 新潟地方気象台防災業務課長  菊池 美弘

 新潟市消防局警防課長  小林 昭次

 新潟県警察本部地域部地域課長  田村 昌三郎 欠席

 新潟県新潟地域振興局新潟港湾事務所長  後藤 勇夫

  オブザーバー

 北陸地方整備局新潟港湾・空港整備事務所総務課長  筒井 茂(代理)野上管財管理官

 第九管区海上保安本部新潟海上保安部警備救難課長  田脇 徹

 新潟県産業労働観光部観光局交流企画課長  橋本 一浩(代理)川口課長補佐

 新潟県農林水産部水産課長  大塚 修(代理)藤田課長補佐

 新潟県農林水産部漁港課長  髙倉 信幸

 新潟県土木部河川管理課長  鈴木 政義(代理)長谷川河川海岸維持係長

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港湾施設における釣り問題研究会(第3回)議事要旨

1 日 時 平成 21 年6月5日(金) 午後 1時 30 分~2時 30 分

2 場 所 新潟県自治会館 3階 301 会議室

3 出席者 別紙名簿のとおり

4 議 題

(1)資料説明

ア 港湾施設における釣り問題研究会委員・オブザーバー意見等

イ 港湾施設における釣り問題研究会報告書(素案)

ウ 港湾施設における釣り問題研究会報告書(素案)の要旨

(2)審議

5 委員等発言要旨

港湾施設における釣り問題研究会報告書(素案)について

○「国家賠償法が適用されない場合は、民法(第 717 条)の適用を受けることになる」

としているが、国賠法の営造物責任が問われない場合で民法第 717 条の適用を受ける

場合はあまり想定しがたいので、「受けることになる」と明言するより「国家賠償法が

適用されない場合でも、民法(第 717 条等)の適用を受ける余地がある」というくら

いにしておいた方がよい。(三部委員)

○「(港湾管理者が原則として経済的な負担を負わないようにする)余地はある」として

いるが、書き物があるからといって港湾管理者が負担を負わない、ということではな

く、やはり中身の問題が大事ではないかと思うので、ここは(負担が)あるというこ

とで対応しておけば、それ以上悪くなることはないのではないかと思う。(瀬賀オブ)

○協定を結び、その協定の中で「県が責任を負うのではなくあなたが責任を負いなさい

よ」という取り決めをしておくだけではだめだということであろうが、指定管理者の

場合でも、地方自治体と法人との間で協定を結び、最終的な責任はあなたですよとい

うことを1行盛り込んであるのではないかと思う。それだけで必ず責任を負わなくて

済むということにはならないと思うが、これはこれとしてやむを得ないのではないか

と思う。(座長)

○書き物だけあったとしても、県に何らかの落ち度等があれば、その書き物自体が一部

無効であるとか、公序良俗違反で無効だという話になるケースもあるが、「余地はある」

と書いてあり、県としてなるべく事故時の負担を減らしておくのは当然なので、こう

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いう文章は入れておくべきだという意味で、書いておいた方がよいと思われる。(三部

委員)

○「港湾施設の一部を開放する場合は、併せて、開放しない施設への立入規制を強化す

る必要がある」と書いてあるが、開放する場所については、これから具体的に検討に

入るという状況で、報告書の段階では開放する場所は特定されていない状況である。

その中で、「必要な立入規制の程度」の中で、防波堤の立入規制については非常に厳

しくすべきとの意見が述べられているが、整合性はどうなってくるのか。このままの

報告書であれば、防波堤については厳しく規制せざるを得ないと思っているが、開放

する場所を設定しないまま規制が厳しくなるということで、現実問題として、釣り人

からは非常に問題視され現場としては非常に困った問題が発生している。この報告書

を受けて、現場としてどのように対応していくべきなのか、それらを含めて考えてい

ただきたいと思う。(後藤委員)

○部分開放しない反面、立入規制を強化する箇所が出てくるということになるが、強化

する部分をどこに設定するかについては、これからの行政の施策の問題であり、両者

がそんなに矛盾するということでもないと思われる。一方では立入規制を原則としな

がら、部分開放をするわけであり、せっかく部分開放したけれども、そちらの方にあ

まり釣り人が来ないで依然として立入規制している方に行ってしまったのでは困るの

で、それを強化しなければならないというのが報告書の立場だと思う。(座長)

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第3回港湾施設における釣り問題研究会出席者名簿

  委  員(敬称略)

 所  属  氏  名 備 考

 明治大学法科大学院教授  西埜 章

 弁護士   三部 正歳

 (財)日本釣振興会新潟県支部 事務局長  本間 陽一

 (株)リンコーコーポレーション港運事業部 部長  水落 源一郎

 柏崎市産業振興部観光交流課長  渡部 智史(代理)若月交流国際係長

 新潟地方気象台防災業務課長  菊池 美弘

 新潟市消防局警防課長  小林 昭次 欠席

 新潟県警察本部地域部地域課長  田村 昌三郎

 新潟県新潟地域振興局新潟港湾事務所長  後藤 勇夫

  オブザーバー

 北陸地方整備局新潟港湾・空港整備事務所管財管理官  野上 亮

 第九管区海上保安本部新潟海上保安部警備救難課長  長谷川 真琴(代理)田中救難係長

 新潟県産業労働観光部観光局交流企画課長  橋本 一浩(代理)川口課長補佐

 新潟県農林水産部水産課長  大塚 修(代理)池田調整係長

 新潟県農林水産部漁港課長  瀬賀 富幸

 新潟県土木部河川管理課長  鈴木 政義(代理)星主査