黒部峡谷鉄道...

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黒部峡谷鉄道 EDV 形直流電気機関車 91 黒部峡谷鉄道 EDV 形直流電気機関車 ※水 みず しま なが ※本 ほん なみ あきら ※※神 こお ざき まさ 写真 1 外観 要旨 黒部峡谷鉄道株式会社(黒部峡谷鉄道)では、輸送力強化のため、新形直流電気機関車 EDV 形を導入した。 EDV 形は、国内の 762 mm 軌間の電気機関車では初めて、インバータ制御による三相かご形誘導電動機を主電 動機に採用するとともに、回生ブレーキを装備し、省エネルギー及び省メンテナンス化を図った高性能な電気機 関車である。また、心皿支持式 2 軸ボギー台車は、台車間に中間連結器装置を設けるなどの特徴をもっている。 以下、その概要について紹介する。 (編集部注:EDM 形直流電気機関車は本誌 196 号-1992 年 2 月参照) 1 はじめに 黒部峡谷鉄道は、1953 (昭和 28)年に地方鉄道法による 営業の免許を受け、黒部峡谷の山岳地帯を走行する日本で も数少なくなった軌間762㎜の特殊狭軌(ナローゲージ)を 採用している鉄道である。富山地方鉄道の終点のある宇 づき 駅から黒部川の急 きゅうしゅん 峻な峡谷沿いに欅 けやきだいら 平駅までを結ぶ全線 20.1 ㎞、標高差 375 m、平均勾配 18.5 ‰、最大勾配 50 ‰ の路線を営業している。路線は、全線直流 600 V で電化さ れており、主に直流電気機関車が単機又は重連で客貨車を けん引している。 開業時は、電源開発に伴う発電所建設の資材輸送に端を 発しているが、現在では、宇奈月駅と欅平駅との間で風向 明媚 な自然環境を満喫できる“トロッコ電車”の運行を通し て、多くのお客様にご利用頂いている。 今回、発電所改良工事に伴う資材輸送力の増加に対応す るため、旅客輸送列車及び資材輸送列車のけん引に対応し た新形直流電気機関車 EDV 形を製作することにした。 黒部峡谷鉄道の機関車は、路線上の制約及び自然環境上 の理由から、次のような特徴がある。 ①山岳地帯の 50 ‰の最急勾配及び急曲線をもつ路線で あるため、車両速度は最高 25 ㎞/h に制限している。 ②路線条件及び軌間 762 ㎜に適合した車両限界のため、 限られた車体幅、車体長及び全高の中に必要な機器を 納める必要がある。 ③軌道構造から、許容軸重が44.1 kN(4.5 tf)に制限され るため、搭載機器の小形化及び軽量化が必要である。 ④ 50 ‰勾配において、最大 43 t の客貨車列車を起動し、 連続した勾配区間を均衡速度 20 ㎞/h 以上でけん引 する性能が必要である。 なお、黒部峡谷の山岳地帯は、日本有数の積雪地域であ り、12 月~ 4 月中旬まで運休期間がある。 2 概要 黒部峡谷鉄道の標準形直流電気機関車 EDR 形、EDM 形などの従来機関車(従来車)は、抵抗制御によって、直流 主電動機を駆動する方式を採用しているが、今回の EDV ※  黒部峡谷鉄道㈱ 技術部 電気車両課 ※※ 川崎重工業㈱ 車両カンパニー 技術本部 設計部

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Page 1: 黒部峡谷鉄道 EDV形直流電気機関車EDV形は、国内の762mm軌間の電気機関車では初めて、インバータ制御による三相かご形誘導電動機を主電

黒部峡谷鉄道 EDV 形直流電気機関車 91

黒部峡谷鉄道 EDV形直流電気機関車※水みず

�島しま

 永なが

�人と

 ※本ほん

�波なみ

  暁あきら

 ※※神こお

�前ざき

 政まさ

�雄お

 

写真 1 外観

要旨黒部峡谷鉄道株式会社(黒部峡谷鉄道)では、輸送力強化のため、新形直流電気機関車 EDV 形を導入した。

EDV 形は、国内の 762 mm 軌間の電気機関車では初めて、インバータ制御による三相かご形誘導電動機を主電動機に採用するとともに、回生ブレーキを装備し、省エネルギー及び省メンテナンス化を図った高性能な電気機関車である。また、心皿支持式 2 軸ボギー台車は、台車間に中間連結器装置を設けるなどの特徴をもっている。以下、その概要について紹介する。(編集部注:EDM 形直流電気機関車は本誌 196 号-1992 年 2 月参照)

1 はじめに黒部峡谷鉄道は、1953(昭和 28)年に地方鉄道法による

営業の免許を受け、黒部峡谷の山岳地帯を走行する日本でも数少なくなった軌間 762 ㎜の特殊狭軌(ナローゲージ)を採用している鉄道である。富山地方鉄道の終点のある宇

奈な

月づき

駅から黒部川の急きゅうしゅん

峻な峡谷沿いに欅けやきだいら

平駅までを結ぶ全線20.1 ㎞、標高差 375 m、平均勾配 18.5 ‰、最大勾配 50 ‰の路線を営業している。路線は、全線直流 600 V で電化されており、主に直流電気機関車が単機又は重連で客貨車をけん引している。

開業時は、電源開発に伴う発電所建設の資材輸送に端を発しているが、現在では、宇奈月駅と欅平駅との間で風向明媚

な自然環境を満喫できる“トロッコ電車”の運行を通して、多くのお客様にご利用頂いている。

今回、発電所改良工事に伴う資材輸送力の増加に対応するため、旅客輸送列車及び資材輸送列車のけん引に対応した新形直流電気機関車 EDV 形を製作することにした。

黒部峡谷鉄道の機関車は、路線上の制約及び自然環境上

の理由から、次のような特徴がある。① 山岳地帯の 50 ‰の最急勾配及び急曲線をもつ路線で

あるため、車両速度は最高 25 ㎞/h に制限している。② 路線条件及び軌間 762 ㎜に適合した車両限界のため、

限られた車体幅、車体長及び全高の中に必要な機器を納める必要がある。

③ 軌道構造から、許容軸重が 44.1 kN(4.5 tf)に制限されるため、搭載機器の小形化及び軽量化が必要である。

④ 50 ‰勾配において、最大 43 t の客貨車列車を起動し、連続した勾配区間を均衡速度 20 ㎞/h 以上でけん引する性能が必要である。

なお、黒部峡谷の山岳地帯は、日本有数の積雪地域であり、12 月~ 4 月中旬まで運休期間がある。

2 概要黒部峡谷鉄道の標準形直流電気機関車 EDR 形、EDM

形などの従来機関車(従来車)は、抵抗制御によって、直流主電動機を駆動する方式を採用しているが、今回の EDV

※  黒部峡谷鉄道㈱ 技術部 電気車両課※※ 川崎重工業㈱ 車両カンパニー 技術本部 設計部

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2012- 9「車両技術 244 号」92

表 1 黒部峡谷鉄道 EDV形直流電気機関車 車両諸元会社・車両形式 黒部峡谷鉄道㈱・EDV 形

使用線区 黒部峡谷鉄道線 軌間(㎜) 762使用線区の最急勾配 50 ‰

用途 旅客列車けん引、貨物列車けん引 電気方式 直流 600 V車体製作会社 川崎重工業㈱ 製造初年 2011 年台車製作会社 川崎重工業㈱ 1 次製作両数 2 両主回路装置製作会社 東洋電機製造㈱ 車両技術の掲載号 244

主要寸法

長さ(㎜) 6 600連結面間距離(㎜) 6 900車体幅(㎜) 1 504(最大幅 1 521)

高さ(㎜) 屋根高さ 2 306屋根取付品上面 2 643.3

全軸距(㎜) 5 400台車中心間距離(㎜) 3 800車輪径(㎜) 860特記事項

車両性能

最高運転速度(㎞/h) 25

1 時間定格出力(kW) 168速度(㎞/h) 25引張力(kN) 23.72(14 ノッチ)

力行制御方式 VVVF インバータブレーキ制御方式 電気指令併用空気ブレーキ式抑速制御 抑速回生ブレーキ制御運転保安装置 EB 装置・ATS 装置列車無線 150 MHz 帯、10 W

電気駆動系主要設備

集電装置 形式/質量(㎏) -/182方式 空気上昇ばね下降式 Z 形

制御装置

形式/質量(㎏) ATR-M442-RG6017A/1 780(SIV 装置と一体)

制御方式 IGBT、2 レベル電圧形PWM インバータ

仕様

定格電圧:DC 600 V、制御電源:DC 100 V、装置構成:主電動機 2 個一括制御×2 群構成(2M1C×2 群)

主電動機

形式/質量(㎏) TDK6412-A方式 三相かご形誘導電動機1 時間定格(kW) 42回転数(min-1) 880特記事項 -

起動時定トルク域電流

力行(A/MM) 84.7(5 km/h 未満)78.2(5 km/h 以上)

ブレーキ(A/MM) -電気ブレーキの方式 発電・回生併用ブレーキ

ブレーキ抵抗器

形式/質量(㎏) R2154-A-M容量(kW) -冷却方式 空冷

空気ブレーキ設備

電動空気圧縮機

形式/質量(㎏) SL6-99/150圧縮機容量 720 ㍑/分圧縮機方式 連続 1 段圧縮スクリュー式

空気タンク 元空気タンク 240 ㍑供給空気タンク 90 ㍑

ブレーキ装置 形式/質量(㎏) -

補助電源設備

補助電源装置

形式/質量(㎏) ATR-M442-RG6017A/1 780(制御装置と一体)

方式 ダイレクト変換 2 レベルインバータ

出力 AC 440 V、AC 100 V、DC 100 V、DC 24 V

蓄電池

種類/質量(㎏) 24 V:PRN-75D26R/31100 V:ECT-40B19L/68

容量(Ah) 24 V:55/100 V:28(5 時間率)

主な用途 24 V:無線装置、灯具など100 V:制御機器類、灯具など

その他の主要設備

主幹制御器形式/質量(㎏) ES919-A-M/35.5

方式 縦形/逆転ハンドル・主ハンドル装備

速度計装置 DVF-11E

標識灯前部標識灯 HL685後部標識灯 HL685その他 -

その他 運転状況記録装置

台   車

形式 KW194車体支持装置 車体直結心皿方式けん引装置 心皿装置枕ばね方式 -軸箱支持方式 ペデスタル式軸ばね方式 重ね板ばね

上下軸ばね定数/軸箱(空車時)(N/㎜)

板ばね 650ゴムばね -総合 650

軸距(㎜) 1 600台車最大長さ(㎜) 3 130基礎ブレーキ てこ式踏面片押しブレーキブレーキ倍率 9.12制輪子 特殊鋳鉄制輪子ブレーキシリンダ×個数 2駆動方式 平歯車一段減速歯数比(減速比) 5.57(78/14)継手 -軸受 密封複式円すいころ軸受質量(㎏) 5 160

凡例 ●;駆動軸 <;パンタグラフ軸配置 B0-B0運転整備質量(t) 18軸重(kN) 44.1構体材料/構造 鋼製/箱形両運転台

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黒部峡谷鉄道 EDV 形直流電気機関車 93

(パンタ折りたたみ高さ)

図1 形式図

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形は、インバータ制御によって、三相かご形誘導電動機を駆動する方式を採用し、回生ブレーキの装備などの主回路構成を変更している。

車体は EDR 形と同様に、両端に運転室を備える箱形を採用し、先頭部には、前部標識灯及び後部標識灯を一体にした角形の標識灯及び重連運転用の電気連結器を備えている。また、屋根上にパンタグラフ、列車無線アンテナ及びブレーキ抵抗器を、床下に空気タンクを配置している。

3 車体3.1 外部デザイン

車体外部のカラーリングは、従来車のオレンジ色を基調とし、新規搭載した VVVF インバータの“V”の文字をイメージする白帯を追加している。3.2 運転室

運転室機器配置は、運転取扱いの共通化を図るため、従来車の機器配置をベースとしている。運転台周りは、運転士席の左手側に主幹制御器、右手側にブレーキ弁を配置し、正面の計器盤には、運転室の全幅に渡って、圧力計、速度計、引張力計、電圧計、各種スイッチ及び表示灯類、左隅柱に行路表差し、右隅柱に扇風機を配置している。また、運転士席の下部に温風暖房機、助士席の下部に緩衝空気タンクを設置し、前面の点検扉内部には遮断器盤、警報ブザーなどを配置している。なお、従来車では、運転士席の側寄りの床上面に電線ダクトを設けていたが、これを床下に移設することによって、足元空間を拡張している。

一枚窓の前面窓ガラスは、防どん対策のため、電熱線入

り合わせガラスを採用し、その上方に電動式窓ふき器及び洗浄水用のノズルを装備している。また、運転室両側には、下降窓付きの側引戸を設けている。

運転室内の照明は、LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)を用いた薄形の照明器具を天井前方に配置し、頭上空間及び明るさを確保している。さらに、運転士席の左上部に LED フレキシブルライトを装備し、部分照明も可能にしている。3.3 機械室

機械室内は、宇奈月寄(第 1 端)の仕切壁から車体中央部にかけて、主制御装置(VVVF)及び補助電源装置(SIV)を一体化した機器装置箱を設置し、車体中央部から欅平寄(第2 端)の仕切壁との間には、蓄電池、除湿機能付き空気圧縮機、遮断器盤並びに空気タンク、ブレーキ部品、砂まき電磁弁などの空気制御部品を配置している。また、第 2 端の仕切壁部には、ATS 装置、EB 装置、避雷器、運転状況記録装置、速度計補償器などの電気装置を配置している。限られた機械室空間にこれらの機器を設置するに当たり、配線・配管経路の選定は元より機器取付方法にも配慮している。

VVVF 及び SIV 装置を一体にした機器装置箱の着脱は、機械室部の屋根を取り外して行うが、その他の機械室の機器及び部品のメンテナンスは、側面に設けたの点検扉から行う。各種コック類及び定期検査などの際に取り外す部品については、この点検扉から手の届く範囲に配置し、着脱困難な大形機器は、スライドレールを利用して引き出す構造を採用し、メンテナンスの容易化を図っている。

4 台車台車は、従来車と同様に、台車枠の端ばりに連結器を取

り付けた心皿支持式 2 軸ボギー台車で、各軸に 1 台の主電動機をつり掛け支持で搭載している。従来車では、車軸への取付部に、すべり軸受を使用しているのに対し、EDV形ではメンテナンスの面で信頼性の高いころ軸受を採用している。

黒部峡谷鉄道の軌道は、軌間 762 ㎜で国内の普通鉄道としては最小のものであり、台車の左右方向の幅も限られていることから、主電動機などの機器取付スペースを確保するため、台車枠の側ばり、横ばり及び端ばりは、それぞれ1 枚物の厚板で構成している。また、台車枠を通して、けん引力を伝える構造のため、2 台の台車間に中間連結器を設けてある。

図 2 路線図

写真 2 パンタグラフ

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黒部峡谷鉄道 EDV 形直流電気機関車 95

図3 運転室機器配置

主幹制御器

手ブレーキ装置

つなぎ箱

換気装置

低圧端子台

腰掛

腰掛

フレキシブルライト

電動窓ふき器

EBブザー

行路表差し

連絡電話

インタミットリレー

低圧端子台

砂まき足踏

スイッチ

笛足踏スイッチ

洗浄水タンク

ブレーキ弁

NFB箱

計器盤

コンセント

扇風器

写真3 運転台

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写真5 台車

図6 動台車(KW194)

写真6 主電動機(つり掛式)

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写真4 VVVF/SIV装置

砂まき電磁弁

3/4 JM ちりこし

M5070-3/4 ちりこし

図4 機械室機器配置

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a)屋根上機器配置

供給タンク

元空気タンク

空気笛

空気笛

b)床下機器配置

図5 屋根上・床下機器配置

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図7 主回路つなぎ

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(11.8)

(9.80)

(7.84)

(5.88)

(3.92)

(1.96)

(kN/MM)

図8 カ行性能曲線

(11.8)

(9.80)

(7.84)

(5.88)

(3.92)

(1.96)

(kN/MM)

図9 ブレーキ性能曲線

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黒部峡谷鉄道 EDV 形直流電気機関車 101

軸箱支持方式は、ペデスタル式とし、ばねは、重ね板ばねを使用している。軸受は、密封式の円すいころ軸受を採用し、メンテナンス性の向上を図っている。

5 主回路及び補助回路5.1 主回路システム

主制御装置(VVVF)は、半導体素子に IGBT を用いた 2レベル電圧形 PWM インバータ方式を採用した。主回路の構成は、1 群当たり 1 台のインバータで 2 台(各台車の 1台)の主電動機を一括制御する 2 群構成となっている

(1C2M×2 群)。2 群の回路は、それぞれ独立した構成となっており、片群が故障した時も、正常な 1 群の回路のみで運転することが可能である。万一の短絡などの事故時は、主ヒューズ(MF)及び高速度遮断器(HB)によって、主回路機器を保護する。

制御回路は、抵抗制御方式の EDR 形との重連運転を可能にするため、車両間引き通し信号線を EDR 形と同様の構成としている。また、性能も合わせた設計を行っており、EDR 形と EDV 形とで重連運転を行っても円滑な走行が可能である。5.2 主電動機

主電動機は、次の特徴をもつ小形・軽量・完全密閉形の三相誘導かご形電動機を採用し、電気的及び機械的性能の向上並びにメンテナンスの軽減を図っている。

① センサーレス制御方式を採用し、回転検出器は不要とした。

② 主電動機本体の軸受は、電食を軽減するため、セラミック絶縁軸受を使用した。

③ 主電動機の冷却は、完全密閉構造のため、電動機内の循環風のみで行っている。

5.3 補助回路システム補助回路の電源系統は、AC 440 V(60 Hz 三相)、AC

100 V(60 Hz 三相)、DC 100 V、DC 24 V で構成し、DC 100 V 回路及び DC 24 V 回路には、それぞれ蓄電池を装備している。補助電源装置は、直接変換 2 レベルインバータ方式による静止形補助電源装置(SIV)を採用した。SIV の各出力の主な用途は、次のとおりである。

① AC 440 V:電動空気圧縮機駆動② AC 100 V:一部の灯具、ヒータ類③ DC 100 V:制御回路、灯具④ DC 24 V:列車無線、ATS 装置、窓ふき装置、灯具なお、重連運転時、一方の機関車の SIV が故障した場

合でも、正常な機関車の SIV から延長給電することによって、運用走行することが可能である。また、空気圧縮機の起動回路に、スター・デルタ方式を採用することによって、起動電流を抑制し、SIV への負荷を低減している。

6 ブレーキ装置ブレーキ装置は、空気ブレーキ及び電気ブレーキをもち、

それぞれ独立して操作し、作用させることができる。6.1 空気ブレーキ

空気ブレーキは、ME24CME 形ブレーキ弁の操作によ

って、ブレーキ力を得ることができ、ブレーキ力は、階段ブレーキ及び緩め作用で調整する。空気ブレーキには、機関車のみに働く直通ブレーキ、編成全車に働く常用ブレーキ、急減速が必要な非常時に使用することを目的とした編成全車に働く非常ブレーキがある。非常ブレーキは、ATS 装置及び EB 装置ともに連動して作動する。また、降雪時の走行を考慮し、耐雪ブレーキ機能をもっている。これらの空気ブレーキは、重連総括指令が可能である。

空気圧縮器は、除湿装置及びオイルマイクロフィルタが一体となったスクリュー式の SL6-99 形電動空気圧縮機(実吐出量 720 ㍑/min)を採用し、空気タンクは、容量 240 ㍑の元空気タンク、容量 95 ㍑の供給空気タンクなどを装備した。6.2 電気ブレーキ

電気ブレーキは、抑速制御を主目的としており、主幹制御器の操作によって作用させる。EDR 形は、発電ブレーキのみで電気ブレーキ力を得ていたが、EDV 形では、回生ブレーキ併用方式を採用している。電気ブレーキの操作時は、優先的に回生ブレーキを作動させるとともに、回生負荷の不足分については、屋根上に搭載したブレーキ抵抗器に電力を消費させ、ブレーキ力を補う制御を行っている。

7 保安システム7.1 ATS装置

ATS 装置は、速度照査機能及び絶対停止機能をもち、車両の安全を図っている。速度照査機能は、2 個 1 組で離して設置した速度照査地上子間を規定時間以下で通過した場合、速度超過と判定し、警報及び常用ブレーキを作動させ、その 5 秒後、非常ブレーキを作動させる。絶対停止機能は、絶対停止地上子の上を車両が通過すると、ただちに非常ブレーキを作動させる。7.2 EB装置

EB 装置は、運転中の運転士の異常を検知して、列車を停止させ、運転事故を防止することを目的に設置している。制御部は、プログラマブルロジックコントローラを採用し、走行中に運転士が 60 秒間所定の運転操作を行わない場合、表示灯を点灯、かつブザを鳴動し警告する。その後、5 秒以内にリセット条件の操作を行わなければ、非常ブレーキを作動させて、車両を停止させる。7.3 運転状況記録装置

万一の事故が発生した際の原因究明に使用することを目的に、列車走行に関する基本情報及び運転士の操作状況を記録する運転状況記録装置を設けている。さらに、本装置は、主要機器の作動状況も合わせて記録することによって、車両故障時の原因究明にも使用できる。

8 おわりにEDV 形直流電気機関車は、昨年の秋に搬入され、各種

性能試験の実施、乗務員訓練などを経て、本年 6 月から運用を開始している。最後に、本機関車がお客様や地域の方々に愛され、末長く活躍できることを願っている。