高性能段ボール製空調エコダクトの開発...photo2 the fiberboard base material and an...

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大成建設技術センター報 第 41 号(2008) 高性能段ボール製空調エコダクトの開発 生天目 泰 *1 ・森田 深雪 *1 ・松尾 秀信 *2 ・山崎 章 *2 ・古田 拓 *3 ・川上 仁 *3 Keywords : Corrugated fiberboard duct, Carbon dioxide emission 段ボール製ダクト,CO 2 排出量削減, 1. はじめに 現在,換気及び空気調和に用いられるダクトの多く は,亜鉛メッキ鋼板を材料として作られている。さら に,結露防止のためにグラスウールなどの保温材を付 加して使用される場合もある。また保温機能が一体化 されたダクトが提案されているが,日本国内で使われ ているのはグラスウールダクトと保温フレキシブルダ クトである。 一方,包装材料に使用される段ボールは,軽量でか つ中空構造がもたらす断熱性を活かして建材分野にお いても広く利用されている。例えば,壁または屋根用 の断熱ボード,ふすまや畳の芯材,特異な例では自動 車の内装材料などとして使用されている。この段ボー ルをダクト用材料として利用するアイディアは古くか らあり,1970 年代には特許等 1)2) が出願されている。し かし,不燃性の付与とコスト面から実際に使用された 例は少ない。 写真-1 空調エコダクト Photo 1 Corrugated fiberboard HVAC duct 地球温暖化防止や資源の有効利用など環境問題への 意識が高まる中で,建築物においても環境に配慮した 建材を使用することが求められている。段ボールは古 紙の使用率が 90%を超えており,建材へ適用するうえ で資源の有効利用となる優れた材料と考えられる。 2. 段ボールダクトについて 材料は,厚さ 8mm の段ボールと厚さ 20μm のアルミ ニウム箔で構成されている。このダクトの単位重量は 約 1kg/㎡であり,従来の鋼板製ダクトと比べて約 5 分 の 1 である。 写真-2 両面アルミニウム箔貼り段ボール Photo2 The fiberboard base material and an aluminum surface 5 3 8 アルミニウム箔 板紙(ライナ) 板紙(中芯) 図-1 両面アルミニウム箔貼り段ボールの断面図 Fig.1 Section of the fiberboard base material and an aluminum surface *1 技術センター建築技術開発部建築生産技術開発室 *2 ㈱栗本鐵工所 *3 レンゴー㈱ 14-1

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Page 1: 高性能段ボール製空調エコダクトの開発...Photo2 The fiberboard base material and an aluminum surface 3 8 アルミニウム箔 板紙(ライナ) 板紙(中芯)

大成建設技術センター報 第 41 号(2008)

高性能段ボール製空調エコダクトの開発

生天目 泰*1・森田 深雪*1・松尾 秀信*2・山崎 章*2・古田 拓*3・川上 仁*3

Keywords : Corrugated fiberboard duct, Carbon dioxide emission 段ボール製ダクト,CO2排出量削減,

1. はじめに

現在,換気及び空気調和に用いられるダクトの多く

は,亜鉛メッキ鋼板を材料として作られている。さら

に,結露防止のためにグラスウールなどの保温材を付

加して使用される場合もある。また保温機能が一体化

されたダクトが提案されているが,日本国内で使われ

ているのはグラスウールダクトと保温フレキシブルダ

クトである。

一方,包装材料に使用される段ボールは,軽量でか

つ中空構造がもたらす断熱性を活かして建材分野にお

いても広く利用されている。例えば,壁または屋根用

の断熱ボード,ふすまや畳の芯材,特異な例では自動

車の内装材料などとして使用されている。この段ボー

ルをダクト用材料として利用するアイディアは古くか

らあり,1970 年代には特許等1)2)が出願されている。し

かし,不燃性の付与とコスト面から実際に使用された

例は少ない。

写真-1 空調エコダクト

Photo 1 Corrugated fiberboard HVAC duct

地球温暖化防止や資源の有効利用など環境問題への

意識が高まる中で,建築物においても環境に配慮した

建材を使用することが求められている。段ボールは古

紙の使用率が 90%を超えており,建材へ適用するうえ

で資源の有効利用となる優れた材料と考えられる。

2. 段ボールダクトについて

材料は,厚さ 8mm の段ボールと厚さ 20μm のアルミ

ニウム箔で構成されている。このダクトの単位重量は

約 1kg/㎡であり,従来の鋼板製ダクトと比べて約 5 分

の 1 である。

写真-2 両面アルミニウム箔貼り段ボール

Photo2 The fiberboard base material and an aluminum surface

53

8

アルミニウム箔

板紙(ライナ)

板紙(中芯)

図-1 両面アルミニウム箔貼り段ボールの断面図

Fig.1 Section of the fiberboard base material and an aluminum surface *1 技術センター建築技術開発部建築生産技術開発室

*2 ㈱栗本鐵工所 *3 レンゴー㈱

14-1

Page 2: 高性能段ボール製空調エコダクトの開発...Photo2 The fiberboard base material and an aluminum surface 3 8 アルミニウム箔 板紙(ライナ) 板紙(中芯)

大成建設技術センター報 第 41 号(2008)

本ダクト材料は,工場で所定寸法の材料の四辺をア

ルミテープでシールして防湿性を持たせ,折り曲げの

為の罫線と組立て形状保持のためのピン穴を加工して

いる。建築現場には平板の状態で搬入し,施工直前に

矩形状に組立てる。組立て作業は標準化されており,

特別な道具や技術がなくても組立てることが出来る。

3. 環境負荷の評価

今回はダクト本体を構成する材料についての環境負

荷を評価する方法としてCO2排出量を算出・比較するこ

とで,環境負荷の評価を行った。CO2排出量はLCAデー

タベース3) に基づき算出した。算出結果を図-2 に示す。

生産時のCO2排出量は鋼板製ダクトが 7.65 ㎏-CO2/㎡,

段ボール製ダクトが 1.94 ㎏-CO2/㎡と約 1/4 となった。

このことから,再生材であり単位面積あたりのCO2排出

量の小さい段ボールダクトは,地球温暖化防止や資源

の有効利用などにより環境負荷低減が期待できる。

鋼板製ダクト 空調エコダクト

ダクト用鋼板 76%

グラスウール 18%

アルミニウム  6%

段ボール  48%

アルミニウム箔 52%

7.65㎏-CO2/㎡

75%削減

1.94㎏-CO2/㎡

図-2 二酸化炭素排出量の比較

Fig.2 The amout of CO2 emission compared with steel duct

また,本ダクトを構成する段ボールとアルミニウム

箔の古紙利用率は約 75%であり,グリーンマーク表示

製品として承認されている。

4. 性能試験

4.1 概要

ダクトとしての性能確認を行なうため,圧力による

変形,空気漏洩量,結露,水分の透過について試験を

行った。試験に使用したダクトは,ダクト内寸法が

300mm×300mm で長さが 1500mm の矩形状である。

4.2 圧力による変形

試験方法はダクトの新標準仕様4)に従い,加圧試験の

範囲は常用圧力の 6 倍(制限圧力の 3 倍)について実

施し,図-3 の結果が得られた。今回の試験結果では,

常用圧力範囲での変形量は 0.5%以下,制限圧力範囲

では 1.0%以下,常用圧力の 6 倍である 3000Pa時でも

2.5%以下の結果が得られた。

指針では変形量はダクト幅の 3%以下にすることが

求められることから,実用範囲内での使用に支障がな

いことが確認できた。

0.0%

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

0.5%

1.0%

1.5%

2.0%

2.5%

3.0%

変形量[b/W]

静圧[Pa]

コルエアダクト □600×600

コルエアダクト □300×300

常用範囲

図-3 圧力変形試験結果

Fig.3 Results of modified pressure test

4.3 空気漏れ量

本ダクトの空気漏れ量は非常に微少であったため,

一般的な漏洩試験ではその漏れ量を測定することが出

来なかった。そこで今回は,ダクト内に圧縮空気を詰

めて密封し,圧力の低下速度を計測することにより漏

れ量を求めることとした。その結果を図-4 および図-5

に示す。

合わせ目からの漏れ量は低圧ダクトの制限空気漏れ

量の約 1%程度,接続部からの漏れ量は低圧ダクトの

制限空気漏れ量の約 50%程度となった(100Pa 時)。

これにより従来の鋼板製ダクトに比べ漏れ量が少な

い結果が得られた。

0.01

0.1

1

10

100

1000

10 100 1000

ダクト内静圧[Pa]

漏洩

量[m

3/h・

m]

測定値

低圧ダクトの制限空気漏れ量

高圧ダクトの制限空気漏れ量

図-4 漏洩試験結果(1)(ダクト合わせ目 - 流れ方向)

Fig.4 Results of leak test(1)

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大成建設技術センター報 第 41 号(2008)

1

10

100

1000

10 100 1000 10000

ダクト内静圧[Pa]

漏洩量[m

3/h・m]

測定値

低圧ダクトの制限空気漏れ量

高圧ダクトの制限空気漏れ量

図-5 漏洩試験結果(2)(ダクト接続部 - 周方向)

Fig.5 Results of leak test(2) 4.4 結露

結露試験においては,2 台の環境試験器を用いて送

風温度とダクト周囲の温湿度を制御し,ダクト表面に

結露が発生する条件を調べた。試験写真を写真-3 に,

試験結果を表-1 に示す。ここでは周囲温度 28℃で湿度

が 60%RH と 70%RH の 2 条件について示す。それぞれ

送風温度 11.6℃,16.3℃まで結露の発生は見られなか

った。

さらに,ダクト周囲で継続的に結露が発生する条件

で試験を行い,1 日経過させたダクトを分解して水分

の浸透を調べたが結露による影響は見られなかった。

表-1 結露試験結果

Table1 Results of vapor condensation test

雰囲気条件 給気条件

温度 湿度 送風温度 番号

℃ %RH ℃

観測結果

1 11.6 結露無し

2 28.0 60

11.2 一部に結露有り

3 16.3 結露無し

4 28.0 70

14.7 一部に結露有り

写真-3 結露試験風景

Photo3 Vapor condensation test

4.5 透湿度

通常段ボールは水分の増加とともに強度低下を引き

起こす。本材料は不燃性を付与するためにアルミニウ

ム箔を貼っていることから高い防湿性を有している。

この防湿性を確認するために材料を透過する水分量を,

「JIS Z 0208:防湿包装材料の透湿度試験方法(カッ

プ法)」に基づいて計測した。その結果を表-2 に示す。

通常の段ボールでは 2000 g/m2・24h以上の透湿度が

あるが,本材料では測定範囲以下となっており,多湿

環境下にあってもアルミニウム箔を通した基材への透

湿はほとんどないと推測される。

表-2 透湿度試験結果

Table2 Results of moisture permeance test 単位:g/㎡・24h

番号 試験体名 試験結果

1 段ボール(通常品) 2000 以上

2 防水段ボール 133

3 空調換気ダクト用

アルミニウム箔貼りダンボール 0

5. 部材の開発と展開

ダクトの施工においては,様々な形状のダクトが必要

となる。基材の加工・接続方法を新たに考案し,直管

だけでなく S 字部材,分岐部材など,様々な部材を提

供することができた。写真-4 に各種部材を示す。

S 字部材 曲がり部材 絞り部材

分岐部材 複層化ダクト

写真-4 製品ラインナップ

Photo4 Variety of duct

また,ダクトとしての性能が確立した事により,多

くの物件へ提案し展開を行っている。表-3 に 2008 年

7 月までの採用物件一覧を示す。また,写真-5~7 に

施工状況を示す。

14-3

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大成建設技術センター報 第 41 号(2008)

表-3 施工物件一覧表(2008 年 7 月現在)

Table3 list of construct

1 レンゴー京都工場 事務所棟

2 大成札幌ビル

3 レンゴー葛飾工場

4 レンゴー京都工場 工場棟

5 セッツカートン宇都宮工場

6 大成建設技術センター

7 サッポロファクトリー

8 レンゴー尼崎工場

9 栗本鐵工所創造技術研究所

10 神戸三田プレミアムアウトレット

11 住友生命勝どきビル

12 モリタ三田工場(写真-5)

13 ダイヤモンドシティ名取(写真-6)

14 安田女子大

15 北海道大学

16 トヨタ花本プロジェクト

17 京セラミタ R&D センター

18 帯広老健施設

19 豊田細谷町マンション

20 INA 研究所

21 ダイキン堺工場

22 神田外語大学7号館(写真-7)

写真-5 施工状況(モリタ三田工場)

Photo5 State of construct(MORITA factory at Sanda)

写真-6 施工状況(ダイヤモンドシティ名取)

Photo6 State of construct(Diamond City at Natori)

写真-7 施工状況(神田外語大学 7 号館) Photo7 State of construct

(Kanda University of International Studies)

6. おわりに

段ボールを基材とした空調用ダクトを開発し,環境

負荷の比較・評価,諸性能についての試験,および施

工事例についての報告をした。

本ダクトは,圧力による変形や空気漏洩量について

ダクトに求められる性能を満たしていることが確認で

きた。また,一般空調の結露防止性能を備えているこ

とが明らかになった。一方,環境負荷の評価では,従

来の鋼板製ダクトのCO2排出量の約 3 割と大幅に削減で

きることがわかった。さらに,材料の輸送及び施工性

においても軽量であり,梱包形状がコンパクトである

ことから,従来の鋼板製ダクトよりも効率化が図れる

ことがわかった。

参 考 文 献

1)平林茂広ほか;ダンボール積層板製ダクトの組立方法,

公開特許公報 昭 48 93145

2)高岡龍太;空調用段ボールダクト, 実用新案出願公告

昭 48-9694

3)(社)日本建築学会 地球環境委員会編;一般建築物用

LCAツール Ver4.01,2006

4)(社)空気調和・衛生工学会編;ダクトの新標準仕様・技

術指針・同解説,1993

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