関西大学『学の実化』 - kansai u · vol.8 no.3 自己点検 ......

1396
関西大学『学の実化』 Vol.8 No.3 自己点検・評価報告書 学校法人関西大学自己点検・評価委員会(大学部門委員会)

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  • 関西大学『学の実化』

    Vol.8 No.3

    自己点検・評価報告書

    学校法人関西大学自己点検・評価委員会(大学部門委員会)

  • 刊行にあたって

    関西大学 学長 楠 見 晴 重

    近年、世界は未曾有の国際金融危機に直面し、日本はその余波を受けて、政治的にも経済的

    にも変化の多い時代を迎えています。このような不透明な時代において、競争的資金の分配に

    よる教育・研究評価の導入・拡充、少子化による18歳人口の減少による入学定員未充足の大学

    の拡大等、高等教育を取り巻く環境は一層厳しさを増しており、各大学では、このような状況

    に対応するため、一層の自助努力と自己革新の必要に迫られています。

    本学では、1994年 4 月に関西大学自己点検・評価委員会を設置して以来、「関西大学『学の

    実化』自己点検・評価報告書」を 2 年に 1 度刊行しています。今回発行する本報告書で 8 回目

    の刊行となりますが、毎年刊行されている教育研究活動の全容を数値データで示す「データブ

    ック」と併せて広く学外に公表しています。これらは、本学の現状、そして今後の方策を知る

    ことができる貴重な情報源となっており、本学の構成員や各機関は、この報告書を基に自己改

    善・改革を積極的に行ってきました。

    2004年度に認証評価制度が導入されてからは、より実効性のある自己点検・評価が求められ

    るようになり、本学は、従来の第三者的立場で評価の公平性を保つことを基本とした体制から、

    執行に携わる者による自己点検・評価体制を実現させることを目的として、2009年 4 月に自己

    点検・評価体制を大きく変更しました。

    具体的には、従来の大学のみの自己点検・評価活動にとどまらず、学校法人が設置する併設

    校(初等中等教育部門)も含めた体制を整えることを主な目的として、学校法人関西大学自己

    点検・評価委員会を設置しました。この新しい委員会では、専務理事を委員長、学長並びに常

    務理事を副委員長とし、大学部門及び初等中等教育部門による自己点検・評価活動を総括する

    とともに重要事項について審議決定できることとしています。

    また、この委員会のもとに、従来の本学における自己点検・評価活動を継承した大学部門委

    員会を設置し、副学長を委員長、学長補佐を副委員長としています。それ以外の構成員につい

    ては、各学部・研究科や各機関に設置された自己点検・評価委員会の委員長等となっています。

    これにより、各機関の自己点検・評価活動と連携しつつ、全学的な活動が可能な組織を構築し

    ています。更に、自己点検・評価活動の客観性や公平性を担保するために、学外者による定期

    的な評価を実施できる体制を整えるため、外部評価委員会を設置しました。

  • 本報告書は、新体制となった自己点検・評価委員会のもとで作成された、初めての報告書と

    なります。基本的には、これまでの自己点検・評価報告書の形式を踏襲しておりますが、法人

    が毎年作成している中期行動計画との関連を考慮し、改善・改革の方向性を「今後の到達目

    標」として明確化する等、評価の方法や視点等について、様々な改善を図っております。

    新たな自己点検・評価体制は、自己点検・評価の成果を活かし、次なる改善に向けての原動

    力を生み出すことのできる実効性ある仕組みとなっています。今後、この体制を更に充実・発

    展させることにより、大学運営において基本となる、計画・実行・検証・改善という PDCA

    サイクルを機能させ、内部的な質保証システムへとつなげていきたいと考えています。

    我々は、この報告書に基づき、21世紀の知識基盤社会において「考動-自らの頭で自主的に

    考え、自律的かつ積極的に行動する-」を実行する関大人として、変革に挑み、新たな世界を

    切り拓くことができる人材の育成を、そして、変革の時代にも十分に対応でき、あらゆる分野

    で世界のために貢献できる知的リーダーの育成をめざして、今後も新たな取り組みを続けてい

    く所存です。

    最後になりましたが、これまで新たな自己点検・評価体制の構築に尽力された諸先生方、ま

    た、今回、点検・評価項目に従い仔細に検討し執筆してくださった各機関の方々、特に膨大な

    報告書を前に真摯に確認・点検作業に取り組んでくださった学校法人関西大学自己点検・評価

    委員会大学部門委員会委員の方々、とりわけ編集作業に尽力された委員長の黒田勇副学長、副

    委員長の新井 彦学長補佐に、衷心より感謝申し上げます。

    2010(平成22)年 3 月

  • i

    目 次

    刊行にあたって 関西大学学長 楠見晴重 巻頭

    第Ⅰ編 大学 1 理念・目的・教育目標 ··························································· 3

    1-1 理念・目的等 〈3〉

    1-2 理念・目的等の検証 〈4〉

    1-3 健全性、モラル等 〈4〉

    2 教育研究組織 ··································································· 5

    2-1 教育研究組織 〈5〉

    ア 学部・学科

    イ 大学院・専門職大学院

    ウ 研究所

    エ 教育推進部、研究推進部、社会連携部、国際部

    2-2 教育研究組織の検証 〈6〉

    2-3 文化交渉学教育研究拠点の概要と点検・評価 〈7〉

    3 教育内容・方法等 ······························································· 9

    3-1 教育課程等 〈9〉

    3-1-1 教育課程(学部) 〈11〉

    (1) 基礎教育と教養教育の実施・運営のための責任体制の確立とその実施状況

    (2) グローバル化時代に対応させた教育、倫理性を培う教育、コミュニケーション能力等の

    スキルを涵養するための教育の教養教育上の位置づけ

    3-1-2 履修科目の区分 〈14〉

    (1) 一般教養的授業科目の編成における「幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い、豊か

    な人間性を涵養」するための配慮の適切性

    (2) 外国語科目の編成における学部・学科等の理念・目的の実現への配慮と「国際化等の進

    展に適切に対応するための、外国語能力の育成」のための措置の適切性

    3-1-3 教育課程(大学院) 〈22〉

    3-1-4 インターンシップ、ボランティア 〈25〉

    (1) インターンシップ(ビジネス)

    (2) 学校インターンシップ

    (3) ボランティア

    3-1-5 正課外教育 〈31〉

    (1) 集中コミュニケーション講座

    (2) エクステンション・リードセンター

    3-2 教育方法等 〈34〉

    3-2-1 教育改善への組織的な取り組み(学部) 〈35〉

    3-2-2 教育・研究指導の改善(大学院) 〈36〉

    3-2-3 授業形態と授業方法の関係 〈37〉

  • ii

    4 国際交流 ······································································· 39

    4-1 国際交流(国内外との教育研究交流) 〈39〉

    ア 国際化への対応と国際交流の推進に関する基本方針の適切性・国際化への対応と国際交

    流の推進に関する基本方針の明確化の状況

    イ 国際レベルでの教育研究交流を緊密化させるための施策

    ウ 国内外の大学等との単位互換制度

    エ 外国人教員の受け入れ体制の整備状況・外国人研究者の受け入れ体制とその運用の適切性

    オ 海外の大学との学生交流協定の締結状況とそのカリキュラム上の位置づけ

    カ 発展途上国に対する教育支援

    キ 国際的な教育研究交流、学術交流のために必要なコミュニケーション手段修得のための配慮

    5 学生の受け入れ ································································· 57

    5-1 入学者受け入れ方針等 〈57〉

    5-2 学生募集方法、入学者選抜方法(学部) 〈58〉

    ア 一般入学試験・センター利用入学試験

    イ AO 入試(アドミッション・オフィス入試)実施の適切性 ウ 推薦入学における高等学校との関係の適切性

    エ 社会人学生の受け入れ状況

    オ 留学生の本国地での大学教育、大学前教育の内容・質の認定の上に立った学生受け入

    れ・単位認定の適切性

    5-3 学生募集方法、入学者選抜方法(大学院) 〈62〉

    5-4 入学者選抜の仕組み 〈62〉

    ア 入学者選抜試験実施体制の適切性及び基準の透明性

    イ 入学者選抜とその結果の公正性・妥当性を確保するシステム

    5-5 入学者選抜方法の検証 〈64〉

    ア 各年の入学試験を検証する仕組み

    イ 入学者選抜方法の適切化について、学外関係者等から意見聴取を行う仕組み

    5-6 入学者選抜における学生募集(広報)活動 〈65〉

    6 教員組織 ······································································· 67

    6-1 教員組織 〈67〉

    (1) 学生数と教員組織

    (2) 年齢構成等

    ア 年齢構成

    イ 専任・兼任(非常勤講師)の比率

    ウ 女性教員の占める割合

    エ 教員組織における社会人及び外国人研究者の受け入れ状況

    (3) 主要な科目への専任教員の配置状況

    (4) 教員間の連絡調整

    6-2 教育研究支援職員 〈70〉

    ア 教育補助者の状況

    イ 教員と教育支援職員との連絡体制

    6-3 教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続 〈71〉

    ア 学部・研究科に所属する教員

    イ 特別契約教授

    ウ 教育推進部・国際部に所属する教員

    エ 研究科における D○合、D合、M○合、M合の資格審査 オ その他の教育職員

    6-4 教育研究活動の評価 〈73〉

    ア 教員自らの評価

  • iii

    イ 教員間のピア評価

    ウ 学生による評価

    エ 社会的評価

    6-5 大学院と他の教育研究組織・機関等との関係 〈73〉

    7 研究活動と研究環境 ····························································· 75

    7-1 研究活動 〈75〉

    7-1-1 研究活動 〈75〉

    7-1-2 研究における国際連携 〈76〉

    7-1-3 研究所等における研究活動 〈76〉

    ア 東西学術研究所

    イ 経済・政治研究所

    ウ 法学研究所

    エ 先端科学技術推進機構

    オ ソシオネットワーク戦略研究機構

    カ 人権問題研究室

    キ なにわ・大阪文化遺産学研究センター

    ク 研究科を母体とする「文部科学省 私立大学学術研究高度化推進事業・私立大学戦略的

    研究基盤形成支援事業」研究プロジェクト

    7-2 研究環境 〈156〉

    7-2-1 経常的な研究条件の整備 〈156〉

    7-2-2 競争的な研究環境創出のための措置 〈165〉

    7-2-3 研究上の成果の公表、発信・受信等 〈168〉

    7-2-4 倫理面からの研究条件の整備 〈169〉

    8 施設・設備等 ··································································· 171

    8-1 施設・設備等の整備 〈171〉

    ア 施設の概要

    イ 省エネ対策と効果について

    ウ 建物の地震対策について

    エ 廃棄物対策について

    オ 風致地区と緑化について

    カ 記念施設等

    8-2 キャンパス・アメニティ等 〈178〉

    ア キャンパス・アメニティの形成・支援のための体制確立状況

    イ 「学生のための生活の場」(厚生施設等)の整備状況

    ウ 大学周辺の「環境」への配慮の状況

    8-3 利用上の配慮 〈183〉

    8-4 組織・管理体制 〈184〉

    ア 施設・設備の維持管理体制

    9 図書館及び図書・電子媒体 ······················································· 186

    9-1 図書館 〈186〉

    ア 図書、図書館の整備

    イ 情報インフラ

    9-2 博物館 〈194〉

    ア 理念と沿革

    イ 施設

    ウ 博物館の運営管理

  • iv

    エ 博物館収蔵の史資料

    オ 博物館の活動と社会貢献

    9-3 インフォメーションテクノロジーセンター 〈202〉

    (1) 概要

    (2) IT センターの組織 (3) 関西大学 IT 化の推進支援 (4) 研究支援体制の整備

    (5) 施設・設備等

    10 社会貢献 ······································································· 215

    10-1 社会への貢献 〈215〉

    (1) 地域社会との連携

    ア 地域連携センター

    イ 高大連携への取り組み

    ウ 公開講座

    エ NPO 法人関西社会人大学院連合(旧梅田大学院コンソーシアム〔関西経済連合会 インテリジェント・アレー〕)

    オ クラブ 1 日体験入部 カ 大学の開放

    キ 教育職員の社会的活動

    10-2 企業等との連携 〈220〉

    ア 産学官連携への取り組み

    イ 具体的事業の展開

    ウ 「受託研究」、「学外共同研究」、「委託研究」、「試験・分析」による外部資金の活用

    10-3 特許・技術移転 〈224〉

    ア 知的財産活動の進展

    10-4 産学連携と倫理規定等 〈226〉

    11 学生生活 ······································································· 228

    11-1 学生への経済的支援 〈228〉

    ア 奨学金その他学生への経済的支援を図るための措置の有効性、適切性

    11-2 生活相談等 〈234〉

    ア 学生の心身の健康保持・増進及び安全・衛生への配慮の適切性

    イ ハラスメント防止のための措置の適切性

    ウ 生活相談担当部署の活動の有効性

    エ 生活相談等を行う専門のカウンセラーやアドバイザー等の配置状況

    オ 学生生活に関する満足度アンケートの実施と活用の状況

    11-3 就職指導 〈240〉

    ア キャリア形成・就職支援体制の強化

    イ 2006年度採択の文部科学省・現代 GP の展開と完遂 ウ キャリアカウンセリング

    エ 社会動向に対応した就職支援活動の展開

    11-4 課外活動 〈249〉

    ア 学生の課外活動に対して大学として組織的に行っている指導、支援の有効性

    12 管理運営 ······································································· 254

    12-1 管理運営体制 〈254〉

    ア 全学的意思決定機関

    イ 大学の意思決定プロセスについて

  • v

    12-2 学長、学部長の権限と選任手続 〈257〉

    ア 学長の選任手続き

    イ 学長権限の内容

    ウ 学長の補佐体制

    12-3 教学組織と学校法人理事会との関係 〈259〉

    12-4 管理運営への学外有識者の関与 〈259〉

    12-5 法令遵守等 〈260〉

    ア 関連法令等及び学内規定の遵守

    イ コンプライアンス

    ウ 研究分野の不正行為防止

    エ 個人情報の保護

    オ 危機管理体制の整備

    カ 環境保全に向けた取り組み

    13 財務 ·········································································· 262

    13-1 中・長期的な財務計画 〈262〉

    ア 中・長期的な財務計画の策定及びその内容

    イ 「関西大学2010プロジェクト推進体制」の計画的実施とそれを支える財政基盤の確立

    13-2 教育研究と財政 〈265〉

    13-3 外部資金等 〈268〉

    13-4 予算編成、予算の配分と執行 〈270〉

    ア 予算編成方針と予算編成

    イ 予算の配分と執行

    13-5 財務監査 〈273〉

    13-6 私立大学財政の財務比率 〈274〉

    14 事務組織 ······································································· 277

    14-1 事務組織の構成 〈277〉

    14-2 事務組織と教学組織との関係 〈278〉

    14-3 事務組織の役割 〈279〉

    ア 教学に関わる企画・立案・補佐機能及び大学院の充実と将来発展を担う事務組織体制

    イ 学内の意思決定・伝達システムの中での事務組織の役割とその活動の適切性

    ウ 大学運営を経営面から支えうるような事務機能の確立状況

    エ 国際交流等の専門業務への事務組織の関与の状況

    14-4 スタッフディベロップメント(SD) 〈281〉 14-5 事務組織と学校法人理事会との関係 〈282〉

    15 自己点検・評価 ································································· 284

    15-1 自己点検・評価 〈284〉

    (1) 全学的な体制について

    (2) 大学部門委員会における取組みについて

    15-2 自己点検・評価に対する学外者による検証 〈286〉

    15-3 大学に対する社会的評価等 〈287〉

    (1) 入学試験における受験者数

    (2) オープンキャンパスの参加者数

    (3) ホームページへのアクセス数

    (4) 受託研究、共同研究、委託研究員受入及び指定寄付の状況

    (5) 外部ランキング調査

    (6) COE、GP の採択状況

  • vi

    (7) 入試問題に関する社会的な評価

    (8) 推薦入学への依頼に対する応答

    (9) 就職状況

    15-4 大学に対する指摘事項及び勧告等に対する対応 〈290〉

    (1) 文部科学省からの指摘事項への対応について

    (2) 大学基準協会からの機関別認証評価に関する指摘事項について

    (3) 専門職大学院認証評価に関する指摘事項について

    16 情報公開・説明責任 ····························································· 292

    16-1 財政公開 〈292〉

    16-2 点検・評価結果の発信 〈294〉

    16-3 情報公開請求に対する対応 〈295〉

    (1) 在学生に対する情報公開

    (2) 受験生に対する情報公開

    第Ⅱ編 学部・機構・大学院 法学部 ·········································································· 299

    法学研究科 ······································································· 351

    文学部 ·········································································· 379

    文学研究科 ······································································· 453

    経済学部 ········································································ 485

    経済学研究科 ····································································· 537

    商学部 ·········································································· 567

    商学研究科 ······································································· 623

    社会学部 ········································································ 665

    社会学研究科 ····································································· 727

    政策創造学部 ····································································· 765

    外国語学部 ······································································· 795

    外国語教育学研究科 ······························································· 825

    外国語教育研究機構 ······························································· 857

    総合情報学部 ····································································· 893

    総合情報学研究科 ································································· 947

    理工系 3 学部(システム理工学部、環境都市工学部、化学生命工学部) ·················· 985 理工学研究科 ·····································································1047

    心理学研究科(博士課程前期課程・後期課程) ········································1085

    法務研究科 ·······································································1113

    会計研究科 ·······································································1157

    心理学研究科(専門職学位課程) ····················································1277

    おわりに ········································································1313

    〔資料〕 1 自己点検・評価委員会の活動記録 ···············································1317

    2 点検・評価項目 ·······························································1319

    3 委員会規程 ···································································1387

    4 委員会名簿 ···································································1394

  • 第Ⅰ編 大 学

  • 第Ⅰ編 大学

    3

    1 理念・目的・教育目標

    1-1 理念・目的等

    関西大学の前身は、わが国が法治国家としての体制を整えつつあった明治19(1886)年に、関西最初の法

    律学校として大阪・西区京町堀に誕生した関西法律学校である。当時は、自由民権運動の高まりとともに、

    近代国家への発展をめざすため様々な法整備が進められ、法律に関する国民大衆への啓蒙、教育の必要性が

    高まっている時代であった。そこで、自由民権運動の活動家吉田一士が、司法省顧問ボアソナード博士に教

    えを受けた井上操ら大阪在勤の若き司法官に教育機関創設を働きかけ、大阪控訴院長児島惟謙の指導と協力

    のもと、「近代国家の構成員として必要な法知識の涵養と普及」を設立目的とした、関西法律学校を創立した。

    市民の法知識の涵養をめざす草創期の教育は、後年になって「正義を権力より護れ」という理念のもとに

    展開されるようになった。これが関西大学の建学の精神であり、以来本学は一貫して社会・市民の啓発と教

    育に取り組んできた。

    大正11(1922)年に大学令による大学(旧制)へ昇格した本学は、大学の教育研究の教育理念として、

    「学の実化(じつげ)」なるスローガンをうち立てた。

    その教育理念は「学理と実際との調和」「国際的精神の涵養」「外国語学習の必要」「体育の奨励」から成

    り立ち、その後、本学の学是として定着している。また、この学是を具体的に展開するため、いくたびかの

    変遷を経て、様々な教育目標が掲げられてきた。特に、この20年は、①「開かれた大学」構想の具体化、②

    「国際化の促進」、③「情報化社会への対応」を柱とする 3 つの教学の基本戦略を踏襲しながら、グローバル

    化する社会、情報化社会に対応することができる有為な人材の育成に努めてきた。なお、これらの理念・目

    的等は、ホームページをはじめ、『関西大学総合案内』や入試広報用の『大学案内』等を通じ、広く公開し

    ている。

    しかしながら、少子化による大学全人時代の幕開け、国公立大学の独立行政法人化や大学設置の規制緩

    和による競争の激化、第三者評価や競争的資金制度の導入等、私立大学を取り巻く環境は厳しさを増してき

    ている。各大学は、このような状況に対応するため、経営戦略を明確化し、教育・研究改革を推進し、個性

    が輝く大学へと自己革新する必要に迫られている。平成17(2005)年には、「関西大学の経営理念・基本方針

    -『強い関西大学』の構築に向けて-」を策定・公表した。そこでは、「教育」「研究」「社会貢献」という

    大学の 3 つの使命に基づき、「『知』の世紀をリードし、新しい『公共』を創造する力漲る21世紀型総合学

    園」となることを掲げている。そして、その理念の実現に向け「関西大学から世界へ」を合言葉に、グロー

    バルに活動できる地球市民の育成に努めている。

    現在、法学部、文学部、経済学部、商学部、社会学部、政策創造学部、外国語学部、総合情報学部、シ

    ステム理工学部、環境都市工学部、化学生命工学部の11学部に加え、法学研究科、文学研究科、経済学研究

    科、商学研究科、社会学研究科、総合情報学研究科、理工学研究科、外国語教育学研究科、心理学研究科

    (心理臨床学専攻(臨床心理専門職大学院)を含む)、法務研究科(法科大学院)、会計研究科(会計専門職

    大学院)の11研究科を設置し、各学部・研究科は学則にそれぞれの教育理念を明示し、それぞれの理念に従

    って教育・研究活動を推し進めている。更に、経済・政治研究所、東西学術研究所、先端科学技術推進機構、

    法学研究所、ソシオネットワーク戦略研究機構、人権問題研究室の 6 研究所を設置し、それぞれの研究所の

    設置目的に従って、より高度な研究活動を推し進めている。

  • 1 理念・目的・教育目標

    4

    1-2 理念・目的等の検証

    【現状の説明】

    本学では、建学の精神を時代に則して教育理念・目的として読みこなしてきた。設置基準改正に基づき、

    各学部、研究科においては、教育理念の検証を行い、その議論に基づくものを学則に明記している。また、

    本学では、学校法人のもとで「KU Vision 2008-2017」を取りまとめ、長期(10年)のビジョンを掲げ本学の将来像を見据えた教育研究活動を行っている。

    更に、2009年 4 月には、従来の大学教学を中心とした自己点検・評価委員会活動の実効性を高めるために、

    法人全体を含めた新たな学校法人関西大学自己点検・評価委員会へと改組した。このように、教学の立場で

    の理念目的の検討並びに法人も含めた自己点検・評価委員会のもとで、随時時代に則した建学の精神に基づ

    く理念・目的の検証を行っている。

    このような検討結果は、自己点検・評価委員会報告書並びに行動計画としてホームページのみならず、印

    刷物として公表している。

    【点検・評価】

    2 年に 1 度の自己点検・評価活動と、長期ビジョンに基づく戦略及び行動計画の策定・進捗状況報告により、理念・目的に応じた教育研究活動を検証しており、今後も継続した取り組みが必要である。

    1-3 健全性、モラル等

    【現状の説明】

    本学では、教育理念「学の実化(学理と実際との調和)」をもとに、「開かれた大学」構想の展開、「国際

    化の促進」及び「情報化社会への対応」を教育方針とした教育活動の実現のために、様々な規程を定めてい

    る。これらの規程には、「ハラスメント」に関するもの、「研究倫理」に関するもの、「賞罰・コンプライア

    ンス」に関するもの、「個人情報の保護」に関するもの等、すべての学生及び教職員に公正、安全で快適な

    環境のもとで、学習、教育、研究及び就業の機会並びに権利を保障することをめざす目的で定められたもの

    も多数ある。これらの規程を遵守することによって、大学としての健全性やモラルの確保をめざしている。

    【点検・評価】

    従来、大学としての健全性やモラル等を確保するために様々な取り組みがなされてきたが、社会情勢の変

    化の激しい昨今、時代に即した新たな取り組みや改善が求められている。このため、本学でも、従来の「関

    西大学セクシュアル・ハラスメント防止に関する規程」をハラスメント事象全般を拡大した「関西大学ハラ

    スメント防止に関する規程」に改編する等の取り組みを行っているが、今後も一層の努力と改善が求められ

    ている。

  • 第Ⅰ編 大学

    5

    2 教育研究組織

    2-1 教育研究組織

    【現状の説明】

    ア 学部・学科

    本学には、法学、文学、経済学、商学、社会学、政策創造学、外国語学、総合情報学、システム理工学、

    環境都市工学、化学生命工学の11学部が設けられ、それぞれが学生を受け入れ、学則に示した各学部及び学

    科の教育研究上の目的の実現に向けて専門教育を行っている。全学部の学生を対象とした外国語学の基礎教

    育は、外国語学部に所属する教員がその任にあたっている。

    高槻キャンパスにある総合情報学部を除いて、他の10学部は千里山キャンパスで教育・研究活動を行って

    いる。法学、文学、経済学、商学、社会学の 5 学部には、2003年 3 月まで第 1 部(昼間)のほか、第 2 部(夜

    間)が設けられていたが、1980年代から第 2 部に通学する学生の資質が変化するようになったことと併せて、

    第 1 部と第 2 部で学ぶ学生の一体感を醸成するため、第 2 部を天六キャンパスから千里山キャンパスへ移し

    た。その結果、教育を提供する体制を第 1 部と第 2 部に区分しておくことの有意性が薄れ、2003年 4 月に第 1

    部・第 2 部(夜間)制は昼夜開講制に改編された。すなわち、同制度のもとに、 1 講時から 7 講時の履修時

    間帯に応じてデイタイムコース(昼間主)とフレックスコース(夜間主)に区分して教育がなされるように

    なった。なお、社会学部は、2003年 3 月まで、第 1 部(昼間)と第 2 部(夜間)の教育課程に特徴を持たせ、

    異なった学科・専攻による構成とカリキュラムで運営されてきたが、 1 講時から 7 講時までにわたる系統立

    った教育メニューの提供といった教育体制に対応することが難しくなったため、フレックスコース(夜間

    主)を廃止した。しかし、残る 4 学部もデイタイムコース(昼間主)とフレックスコース(夜間主)からな

    る現行制度の見直しを行い、文学部が2006年 4 月から 2 コースを統合してデイタイムコースのみに改編し、

    法学部、経済学部、商学部が2007年 4 月から文学部と同様に改編されている。

    各学部の学科構成は、11学部のうち、法、文、経済、商、社会、政策創造、外国語、総合情報の 8 学部は

    単一の学科(それぞれ法学政治学科、総合人文学科、経済学科、商学科、社会学科、政策創造学科、外国語

    学科、総合情報学科、)からなっている。一方、システム理工学部は、数学科、物理・応用物理学科、機械

    工学科、電気電子情報工学科の 4 学科、環境都市工学部は、建築学科、都市システム工学科、エネルギー・

    環境工学科の 3 学科、化学生命工学部は、化学・物質工学科、生命・生物工学科の 2 学科となっている。い

    ずれの学部、学科においてもその教育目標を学則に記し、本学ホームページはもとよりそれぞれの機関が整

    備しているホームページに教育理念をより具体的に記述している。

    イ 大学院・専門職大学院

    本学の大学院には、学部を基礎とした法学、文学、経済学、商学、社会学、総合情報学、理工学、外国語

    教育学、心理学の 9 研究科が設置されている。研究科はいずれも博士課程の大学院で、前期課程と後期課程

    からなる。前者には16の専攻が、後者には13の専攻が設けられている。

    2004年 4 月には高度専門職業人を養成するための法務研究科(法科大学院)が、2006年 4 月には会計研究

    科(会計専門職大学院)が設置された。更に、心理学研究科の中に2009年度より心理臨床学専攻(臨床心理

    専門職大学院)が設置されている。これらはいずれも専門職学位課程の大学院である。大学院教育について

    も、学則に示した各研究科の教育研究上の目的の実現に向けた専門教育を行っている。

    ウ 研究所

    本学には、教育研究機関としての学部、大学院のほかに、主として研究活動を実践する機関すなわち経

    済・政治研究所、東西学術研究所、先端科学技術研究機構、法学研究所、ソシオネットワーク戦略研究機構

    及び人権問題研究室が設置されている。これらの機関では、本学独自のプロジェクト研究や、文部科学省の

  • 2 教育研究組織

    6

    「私立大学学術研究高度化推進事業(2009年度より、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業)」等に積極的に

    応募して採択された先端分野における大型のプロジェクト研究を推進している。これらの事業で得られた成

    果は学部と大学院の教育研究にフィードバックされるとともに、世界水準の研究拠点形成と若手研究者の育

    成をめざした取組に発展できるように整備充実を図っている。それぞれの研究機関はそれぞれの規程により

    目的、展開すべき事業等を明確に示した上で活動している。更に、2007年度文部科学省グローバル COE プログラムの採択を受けたプログラム「東アジア文化交渉学の教育研究拠点形成」を遂行するための組織とし

    て、文化交渉学教育研究拠点を設置している。文化交渉学教育研究拠点に関しても独自の規程を定め、規程

    に従い適切にその目的の実現をめざした教育研究活動を実施している。

    エ 教育推進部、研究推進部、社会連携部、国際部

    これまで、本学では、各学部教授会を意思決定単位とした教学運営が行われてきたが、本学が教育・研

    究・社会貢献・国際化を更に推進・拡充していくためには、体制の強化を図り、それにふさわしい新たな教

    学ガバナンスを構築することが求められていた。そこで、2008年10月の寄附行為改正を機に、大学としての

    方針、政策、総合的判断を、教授会自治を尊重しつつ意思決定できる体制を教育、研究、社会連携、国際の

    4 分野について「部」組織として構築した。各部は、担当副学長が統括し、副学長を委員長とした専門委員

    会のもとで、所管事項に係る協議及び意思決定機関として活動している。ただし、制度変更等所管事項を超

    える事項については、学部長・研究科長会議の審議に付している。以下にそれぞれの委員会の学内での位置

    づけを示す。

    教育推進委員会は、全学的に調整を要する教学事項を取り扱う協議・意思決定機関である。委員会は、各

    学部教学担当副学部長を委員として構成されている。

    研究推進委員会は、全学的視点から研究分野全般(研究所を含む)を取り扱う協議・意思決定機関である。

    委員会は、各学部研究担当副学部長を委員として構成されている。

    社会連携委員会は、全学的に調整を要する高大連携を含む社会連携事業に関する協議・意思決定機関であ

    る。委員会は各学部副学部長を委員として構成されている。

    国際委員会は、全学的視点から国際研究、国際教育、国際協力、国際戦略等を企画・立案し、実施する

    協議・意思決定機関である。委員会は各学部等の国際委員(教学主任をもって充てる)で構成されている。

    【点検・評価】

    本学は、従来からの伝統的な学部・研究科構成を維持しながら、現代の社会的動向やニーズに応えて、新

    設や改編を行ってきた。近年では、2007年 4 月政策創造学部の設置、工学部のシステム理工学部、環境都市

    工学部、化学生命工学部への改編、2008年 4 月心理学研究科の設置、2009年 4 月心理学研究科心理臨床学専

    攻(臨床心理専門職大学院)の設置が挙げられる。今後とも、学部・研究科のあり方を点検し、社会のニー

    ズや要請に柔軟に応えられるような組織の充実をめざしていく必要がある。また、2008年10月に発足した、

    教育推進部・研究推進部・社会連携部・国際部については、発足間もない状況であるが、設置主旨を十分発

    揮しているかについて、今後検証していく必要がある。

    2-2 教育研究組織の検証

    【現状の説明】

    本学は、大学全体の教育研究水準の向上を図る目的で、1993年 7 月に関西大学自己点検・評価委員会規程

    を制定し、1993年10月に自己点検・評価委員会準備委員会が発足、1994年 4 月に関西大学自己点検・評価委

    員会が全学の自己点検・評価活動を担う組織として設立された。この委員会は 2 年を一期として活動し、委

  • 第Ⅰ編 大学

    7

    員会の活動終了時に報告書にまとめ上げることを職務とし、大学の構成員や各機関は本報告をもとに相互に

    協力をして改善につなげてきた。

    2009年度からは、大学及び併設校のすべてを包括した新たな点検・評価体制を「学校法人関西大学自己

    点検・評価委員会」として発足させた。本委員会は、法人・大学及び併設校が一体となり、本学の充実・発

    展と社会への貢献のための内部質保証システムの確立と社会への積極的な情報の開示を、執行に近いところ

    で実りのある活動として行うものである。教学部門については、学校法人関西大学自己点検・評価委員会の

    もとに、大学部門委員会が設けられ、全学的観点に立って点検・評価を行うこととなっている。この点検・

    評価体制により、教育研究組織を含め、教育研究活動状況や管理運営等を検証している。

    また、この委員会には、外部評価委員会を置き、外部の有識者の意見を取り込む仕組みが用意されてい

    る。今後はこれらの仕組みを利用することによって、教育・研究の質の内部保証のみならず外部からの指摘

    のもとによる質保証を行う。

    一方、全学的な活動に並行して各学部等に係わる点検・評価事項は、各学部等に設置されている自己点

    検・評価委員会や学部執行部によって、それぞれの機関における活動の適切性を検証している。本学は、

    1994年の自己点検・評価委員会の発足以来、報告書等の刊行物の公表等により、社会的評価を受けてきた。

    全学的な事項については1952年に加盟した大学基準協会による相互評価(1998年 4 月 1 日付)、及び認証評価

    (2007年 4 月 1 日付)を受けてきた。

    また、学部個別の活動としては、旧工学部において、2002年度に先端マテリアル工学科(当時、材料工

    学科)が日本科学技術者教育認定機構(JABEE)による JABEE プログラムを受審し認定された。更に、2005年度、化学工学科と都市環境工学科が JABEE プログラムを受審し、認定されている。

    理工系 3 学部では、改組前の工学部として、自己点検・評価委員会の職掌事項に外部評価に関する事項を

    加えていた。それに基づいて、2002年度には研究活動に関する外部評価を、2004年度には教育に関する外部

    評価を受け、将来の学部改革、学科改革に資する貴重な意見、助言を得ている。

    【点検・評価】

    新たな自己点検・評価体制となり、従来の第三者的に点検・評価を行う組織から、より執行に近い立場で

    点検・評価を行う体制へと改編された。大学全体の組織体制を検討する上で、教学部門のみならず、法人も

    含めた執行に近い立場で点検・評価できることは、スピード感をもって改善・改革を行うために有効に機能

    すると考えられる。

    また、教学ガバナンスの再構築に伴い、教育推進部、研究推進部、社会連携部、国際部に代表される新

    しい教学組織が立ち上がったが、これらの組織が本来の目的に沿う活動ができているか等、それぞれの改善

    に向けた点検・評価を今後継続して行っていく必要がある。

    2-3 文化交渉学教育研究拠点の概要と点検・評価

    【現状の説明】

    関西大学文化交渉学教育研究拠点(Institute for Cultural Interaction Studies:以下 ICIS と略記)は、平成19年度文部科学省グローバル COE プログラムの採択を受けて、同プログラムにおける教育・研究活動の運営組織として平成19年 9 月に設置されたものである。ICIS は、拠点リーダー以下15名の事業推進担当者のほか、COE 助教 1 名・COE 特別研究員 2 名・COE ポスト・ドクトラル・フェロー 4 名・COE ディジタル・アーカイブズ・キュレーター 1 名・COE リサーチ・アシスタント(博士課程後期課程が対象)12名・COE ジュニア・アシスタント(博士課程前期課程が対象)13名等の拠点内でさまざまな役割を果たす若手研究者、及び国内外から招へいする COE 客員教授、本拠点での研究を希望する訪問研究員等の学外研

  • 2 教育研究組織

    8

    究者から構成され、これを G-COE 拠点事務室がサポートしている。 グローバル COE プログラムの採択に当たって、本学大学院文学研究科では大学院生の育成組織として新

    たに文化交渉学専攻を平成20年 4 月に開設したが、同プログラムのめざす若手研究者の育成と高度な研究推

    進を有機的に連関させ、拠点形成を円滑に進めるためには、大学院とは別個の組織体が必要と判断されたた

    め、ICIS の設置が決定された。 ICIS では、東アジアの諸文化の形成と発展を、絶えざる文化交渉の連鎖として捉える視点から、国家・

    民族という枠組を超え、人文学諸分野の融合をはかり、文化的複合体としての東アジア像の提示を目標に、

    人材育成と研究活動が推進されている。事業推進担当者は四半期ごとに教育・研究・組織運営の各方面での

    自己評価レポートを学長に提出し、グローバル COE プログラム学内評価委員会から点検と評価を受け、また国内外の有識者によるグローバル COE プログラム外部評価委員から世界的水準に照らしての評価とアドバイスを受ける。若手研究者も研究計画を提出し、審査の結果、研究費の支給を受け、毎年その達成度を評

    価される。このように ICIS では、きわめて厳格な自己点検・評価システムのもとに、拠点形成活動がチェックされる体制をとっている。

    【長所】

    ICIS は、本学のグローバル COE プログラムにおける拠点活動に携わる者すべてを、所属する部局を超えて結集した組織であるため、従来の大学院と比較して迅速な拠点内意思形成が可能となっている。また同

    プログラム遂行に当たっての大学全体の充実したサポート体制のもとで、若手研究者・院生らに専用の研究

    空間が与えられ、強い一体感のもとでの拠点形成が進められている。

    【問題点】

    拠点形成活動に対する文部科学省からの財政的支援は平成23年度で終了するが、その後の拠点の継続的発

    展をどのように構想するかが、当初からの検討課題である。とりわけ、文化交渉学という新たな視点から東

    アジア文化を探求するための人材養成のプログラムを有効に継承する方途が ICIS 開設以来、模索されてきた。

    【将来の改善・改革に向けた方策】

    拠点の継続的発展をはかり、かつ本学の特色ある人材育成と研究活動を一層明確にすることを目的として、

    現在は文学研究科のなかにある文化交渉学専攻を、平成22年 4 月に独立研究科「東アジア文化研究科(仮

    称)」として立ち上げることとした。この独立研究科は、グローバル COE プログラムにおける人材養成プログラムをほぼ継承するもので、既に認められている学位、修士(文化交渉学)・博士(文化交渉学)を授

    与する世界唯一の大学院となる。

  • 第Ⅰ編 大学

    9

    3 教育内容・方法等

    3-1 教育課程等

    前回の到達目標

    (1) 基礎教育と教養教育の実施・運営のための責任体制の確立とその実施状況について

    従来、全学部に共通の基礎教育と教養教育は、各学部で実施運営されている専門教育と異なり、全学

    的に組織された全学共通教育推進機構が責任主体として実施運営し、科目としては、①幅広い教養を意図

    した教養科目と保健体育科目、②外国語の習得をめざした外国語科目、③学部横断あるいは学際的内容を

    意図したインターファカルティ教育科目、そして④教職に関する科目を管轄してきた。運営組織として全

    学共通教育推進機構委員会とその事務局からなり、前者の機構委員会の下に六つの部門委員会を置いてい

    た(図Ⅰ-3-1参照)。

    図Ⅰ-3-1 全学共通教育推進機構組織図(2008年 9 月まで)

    全学共通教育推進機構が2000年 4 月に設置されて全学共通教育の責任体制が確立され、これを基礎にイ

    ンターファカルティ教育科目において新たな科目のカテゴリー化とその改善・改革を実施してきた。しか

    し、教養科目については1991年の大学設置基準の大綱化以降も従来のままであった。かつての「人文科

    学」「社会科学」「自然科学」という科目区分を踏まえた「人間・文化」、「社会・経済」、「自然・技術」の

    3 分野に区分され、個々の科目の名称や内容も伝統的で固定化していた。教養科目は制度的に硬直化して

    おり、多様で柔軟な学びを求める学生の要求・志向に適切に対応しているとは言い難いものとなっていた。

    また、導入教育に関しては「文章論入門(各テーマ)」と「情報処理論(各テーマ)」が設置されてい

    たが、クラス数はそれぞれ16クラス、13クラスであり、学生総数に比してけっして十分な数ではなかった。

    更に、全学共通教育推進機構が管轄する科目の大半が教養科目であったため、活動や関心の大部分が

    教養教育に向かい、FD や授業評価等、大学の教育体制全体を視野に入れて取り組むべき教育支援の課題についてはその提言と実施内容が部分的対処に留まっていた。

    組織の問題点としては、科目担当者が学部ごとの推薦を経て決定されるため、いわば「推薦母体の

    壁」が障害となって同一科目の担当者相互の連携や科目間の連携が十分に機能しているとは言い難く、一

    線で学生に向き合う科目担当者自身が科目の理念や内容に直接関与しつつ相互に情報を交換しながら改善

    に取り組みうる体制になっていなかった点が挙げられる。

    このような問題をはらんだ教養教育のあり方を改善するために、2004年10月12日付で学長から全学共

    通教育推進機構長に対して主として教養教育の改革に関する諮問がなされた(「教養教育を主とした学部

    部門委員会

    外 国 語 教 育 部 門委 員 会

    ( 設 置 2000.4 )( 実 施 2000.4 )

    ( 設 置 2000.4 )( 実 施 2002.4 )

    教 養 教 育 部 門委 員 会

    ( 設 置 2000.4 )( 実 施 2000.4 )

    F D 部 門委 員 会

    ( 設 置 2001.4 )( 実 施 2002.4 )

    ( 設 置 2000.4 )( 実 施 2000.4 )

    イ ン タ ー フ ァ カ ル テ ィ教 育 部 門 委 員 会

    ( 設 置 2000.4 )( 実 施 2002.4 )

    全 学 共 通 教 育推 進 機 構

    学 部 長 会 議

    授 業 評 価 部 門委 員 会

    大 学 協 議 会

    免 許 ・ 資 格 部 門委 員 会

    学 部 教 授 会全 学 共 通 教 育推 進 機 構 委 員 会

    (2006.8~)

    事 務 局

    教 務 セ ン タ ー

  • 3 教育内容・方法等

    10

    教育改革について(諮問)」)。これに対する答申、「全学共通科目」具体案の策定を経て、2007年 5 月16日

    に「全学共通科目の改編をめぐる実行案」が提示され、2008年 4 月から従来の教養科目、インターファカ

    ルティ教育科目、保健体育科目に代わって全学共通科目が導入された。その改革・改善の実を図ることが

    前回の到達目標であった。

    (2) グローバル化時代に対応させた教育、倫理性を培う教育、コミュニケーション能力等のスキルを涵養す

    るための教育の教養教育上の位置づけについて

    グローバル化時代に対応させた教育は、従来インターファカルティ科目の「テーマスタディ」におい

    て当該内容のテーマを設定することによって可能となっていた。また、倫理性を培う教育は教養科目の中

    の「倫理学(各テーマ)」において、そしてコミュニケーション能力は外国語科目の各言語に設定されて

    いる「コミュニケーションクラス」において、また文章力の養成と情報処理の基礎理論の修得は教養科目

    の中の「文章論入門(各テーマ)」と「情報処理論(各テーマ)」において、それぞれ実施されてきた。

    教養科目では各科目においてテーマを設定して授業を行い、またインターファカルティ科目の中の

    「テーマスタディ」では教養科目における学問分野を超えたテーマ設定ができるため、学生からの、そし

    て時代や社会からの要請に対して、柔軟かつ迅速に対応することが可能になっていた。この点が長所であ

    ったといえよう。

    しかしその反面で、「テーマスタディ」は、グローバル化時代に対応するテーマ設定が可能ではあって

    も、公募制による 1 テーマ 2 年間開講として運用しているため、必ずしも当該の内容のテーマが恒常的に

    設置されるものでなく、また数科目が連携をとって体系的に学生を教育する段階には至っていない。倫理

    性を培う科目は「倫理学(各テーマ)」のみであって多様性の面で十分とは言えず、スキル科目としての

    「文章論入門(各テーマ)」は2006年度で全学18クラス(クラス定員50名)であり、学生総数から見てけっ

    して十分とは言えなかった。

    これらの問題を解決・改善するのが前回の到達目標であった。

    (3) 一般教養的授業科目の編成における「幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い、豊かな人間性を涵

    養」するための配慮の適切性について

    かつての教養科目は 3 分野(人間・文化、社会・経済、自然・技術)に編成されており、学生の卒業要

    件として合計20単位以上の修得を学則で定めることによって、幅広い教養の涵養をめざしていた。また、

    インターファカルティ科目の「テーマスタディ」は、既存の分野を超えて学際的なテーマ設定を行うこと

    によって総合的な判断力を培うことをめざすものであった。教養科目を 3 分野に分けた科目編成は、諸学

    問の成り立ちにそった区分であり、その意味で各学部の専門教育と連関をつけやすく、専門教育の基礎教

    育的な役割をも担うことができた。したがって、このように編成された教養科目を満遍なく修得すること

    によって幅広く深い学問知を得ることができるのが、大きな長所であったといえよう。

    しかしこの長所は専門教育に視点を置いた際のものであり、特に高校を卒業したばかりの新入生にと

    っては、高校までの学習と専門的知の修得とのあいだに深い溝を感じたりして、教養科目修得への動機を

    見いだせないことも多かった。したがって 3 分野を満遍なく修得することによってはじめて幅広く深い教

    養が培える科目編成と履修方法自体が必ずしも適切に機能しているとは言えなかった。

    「全学共通科目の改編をめぐる実行案」(2007年 5 月)に基づき、上記の事態に対処すべく改革を進める

    ことが前回の到達目標であった。

    (4) 外国語科目の編成における学部・学科等の理念・目的の実現への配慮と「国際化等の進展に適切に対応

    するための、外国語能力の育成」のための措置の適切性について

    外国語科目の編成における学部・学科等の理念・目的の実現への配慮、及び「国際化等の進展に適切

    に対応するための、外国語能力の育成」のための措置いずれについても前回の到達目標としてここに取り

    上げるべきことは無い。

  • 第Ⅰ編 大学

    11

    (5) インターンシップについて

    インターンシップ募集ガイダンスには多数の学生が参加しており、その関心の高いことが理解できる。

    しかしながら、実際の応募者に対して約半数の学生しか就業体験できていない現状を鑑みると、学生

    のニーズに出来るだけ応えることが出来る環境整備、つまり受け入れ企業の拡充をはかることが大学の責

    務である。他大学においてもインターンシップの取組が増加しているうえに、採用を企図した独自の取組

    を展開する企業も増えていることから、本学のみでの受け入れ拡充を望むことは厳しい環境になりつつあ

    る。初動時に立ち戻って戦略的に受け入れ企業・団体の拡充施策を再考すべきであろう。

    (6) エクステンション事業について

    エクステンション事業関係では、大学の社会的評価につながる、司法試験、国家公務員Ⅰ種試験、公

    認会計士試験の難関試験での合格者を多く輩出するためには当センターにおいて「司法講座」「公務員講

    座」「公認会計士入門講座」を重点講座と定め、更に強化を図ることが必要である。

    3-1-1 教育課程(学部)

    (1) 基礎教育と教養教育の実施・運営のための責任体制の確立とその実施状況

    【現状の説明】

    2008年 4 月から導入された改革・改善策は、従来の教養科目、保健体育科目、インターファカルティ教育

    科目という枠組みを学生の学び方に合ったものに見直すことにより、教養教育に見られた硬直性を改善する

    ことを意図したものであり、骨子は次のとおりである。

    a.従来の教養科目は伝統的な学問分野に基づいた科目編成となっていたのに対して、改革後の全学共通

    科目は、A 群(自己形成科目群)、B 群(エンパワメント科目群)、C 群(オープンスタディ科目群)、K 群(関大科目群)という四つの科目群で構成される。これは、所属学部に関わらず関西大学の学生として人間性、社会性、国際性の面で人格を陶冶し、ひとりの人間として社会人に成長するプロセス

    を支援するものである。

    b.A 群(自己形成科目群)は人間性・社会性・国際性の 3 側面を意識的・自覚的に形成することを教育目的としている。それぞれの側面において、成長に必要な能力や姿勢に応じて「知の発見」、「知の継

    承」、「知の跳躍」という三つの区分が設けられており、全ての科目は教育目的と科目の性格によって

    構成される 9 区分に配置されている。

    c.B 群(エンパワメント科目群)は導入教育科目や文章力・思考力等のスタディスキル科目、健康・スポーツ・人間支援科目、キャリア教育科目からなり、学生の自己啓発を支援することをめざしている。

    d.C 群(オープンスタディ科目群)は所属の学部更には関西大学を超えて学びの場を広げようとするものであり、また K 群(関大科目群)は関西大学で学ぶ意味を歴史や地域との関わりの中で再確認することを意図している。

    なお、総合情報学部は大綱化以降に開設された学部であることから今回の改革・改善の対象となっていな

    い。また外国語科目も外国語教育研究機構及びその役割を引き継いだ外国語学部がその実質的な運営を担っ

    ているため今回の改革・改善の対象となっていない。

    2008年度新入生から新たに全学共通科目が導入されたことに伴い、全学共通科目の導入趣旨や各科目群の

    内容・性格等を新入生に理解してもらうリーフレット『関西大学全学共通科目』を配布しており、更に、外

    国語科目については、外国語教育研究機構、ついで外国語学部が『ことばの旅』を配布している。それぞれ

    の科目のシラバスは統一書式で作成され、Web System によって全学的に公開されている。履修登録の段階から学生はいつでもアクセスできる体制となっている。

    組織面では、2008年10月実施の全学的な組織改編に伴って全学共通教育推進機構及びそのもとにあった各

  • 3 教育内容・方法等

    12

    部門委員会は廃止となった。全学的な教育に関する諸施策を協議・決定する機関として新たに教育推進部が

    設置され、そのもとに置かれた全学共通教育推進委員会が全学共通科目と外国語科目を統括する体制となっ

    た。外国語科目については、大綱化以降に行われた改善・改革を継承しつつ、外国語教育研究機構及び外国

    語教育研究機構を前身として2009年 4 月に発足した外国語学部がその実質的な運営を担ってきている。なお、

    教員免許を中心にした各種資格関係科目の運営は教育推進部のもとに設置された教職支援センターが担い、

    FD や授業評価等は同じく教育推進部のもとに設置された教育開発支援センターが担っている。

    図Ⅰ-3-2 教育推進部組織図(2008年10月から)

    設置科目、内容面の長所については、後述する「3-1-2 履修科目の区分」を参照願いたい。

    組織・運営面についてみると、専門教育が各学部において教授会の審議決定のもとで行われているのに対

    し、全学に関わる教養教育等は、2000年 4 月に全学的な教養科目等の決定機関として全学共通教育推進機構

    が設置されて以来、この全学共通教育推進機構によって一元的・統一的な決定と運営が行われてきた。この

    一元的・統一的な決定と運営が最大の長所として挙げられる。特に、科目の設置から学生による授業評価と

    FD による授業改善に至るまでの一連の運営を、各学部・外国語教育研究機構の代表が構成する一つの組織内で行うことができるようになり、各学部の意見を尊重しながら迅速に全学的決定を行える体制がつくられ

    た意義は大きい。2004年にインターファカルティ教育科目として「生涯スポーツ・身体運動文化コース」及

    び「キャリア教育」が、2005年に「テーマスタディ」がそれぞれ迅速な決定をみて実施に移されたことや、

    2008年度に実施された教養科目から全学共通科目への改編・改革も、こうした一元的・統一的な組織形態に

    よるところが大きい。更にこの組織形態の長所は、2008年10月に発足した教育推進部の運営組織である教育

    推進委員会、及びそのもとで全学共通教育と外国語教育を統括・運営する全学共通教育推進委員会、FD・教育開発支援に当たる教育開発支援センター、免許・資格取得支援に当たる教職支援センターに引き継がれて

    いる。

    【問題点】

    全学共通教育に関する決定と責任は最終的に教育推進部(教育推進委員会)に帰する体制となっており、

    教務センター(事務組織)

    教 育 推 進 委 員 会

    教育推進部長(担当副学長兼任)、教育推進副部長2人、各学部の副学部長等

    全学共通教育推進委員会 教職支援センター

    業務 業務 業務

    全学共通科目の編成及び運営等

    各学部が行う外国語教育の大綱

    推進委員会への建議

    推進委員会からの諮問

    その他全学共通教育の推進

    教育開発支援センター

    教育内容・方法の改善の支援及び推進

    教育効果の評価方法の開発及び実施

    教員の教育力向上の支援及び推進

    全学的な教育システムの調査及び開発

    教材開発・改善の支援及び推進

    授業に関わる相談・改善

    授業に関わるスタッフ(TA、SA等)の 資質向上支援

    教育環境向上のための研究及び調査

    教育内容・方法に適した教育施設・  設備の立案、管理

    大学教育に関する学内外の情報、図書、資料の収集及び分析並びに情報の発信

    教職に関する科目の編成及び担当者

    教職課程認定申請手続等

    教育実習

    介護等体験

    教員免許申請

    教職に関する科目担当者会議

    教員免許状更新講習

    教員採用試験等、教員採用に係る就業支援

    教職課程に関する教育の改善を図る ために必要な企画及び運営

    教職課程に関する教育の改善を図る ために必要な調査・研究

    教務センター(事務組織)

    教 育 推 進 委 員 会

    教育推進部長(担当副学長兼任)、教育推進副部長2人、各学部の副学部長等

    全学共通教育推進委員会 教職支援センター

    業務 業務 業務

    全学共通科目の編成及び運営等

    各学部が行う外国語教育の大綱

    推進委員会への建議

    推進委員会からの諮問

    その他全学共通教育の推進

    教育開発支援センター

    教育内容・方法の改善の支援及び推進

    教育効果の評価方法の開発及び実施

    教員の教育力向上の支援及び推進

    全学的な教育システムの調査及び開発

    教材開発・改善の支援及び推進

    授業に関わる相談・改善

    授業に関わるスタッフ(TA、SA等)の 資質向上支援

    教育環境向上のための研究及び調査

    教育内容・方法に適した教育施設・  設備の立案、管理

    大学教育に関する学内外の情報、図書、資料の収集及び分析並びに情報の発信

    教職に関する科目の編成及び担当者

    教職課程認定申請手続等

    教育実習

    介護等体験

    教員免許申請

    教職に関する科目担当者会議

    教員免許状更新講習

    教員採用試験等、教員採用に係る就業支援

    教職課程に関する教育の改善を図る ために必要な企画及び運営

    教職課程に関する教育の改善を図る ために必要な調査・研究

    学 事 局(事務組織)

  • 第Ⅰ編 大学

    13

    その限りで現在の組織体制は概ね問題はないと思われるが、全学共通教育推進委員会の教育推進部における

    位置づけには考慮の余地があるように思われる。

    全学共通教育推進委員会は教育推進委員会のもとにあって、各学部選出の委員及び A,B,K 各科目群科目担当者( 3 名:教育推進部長推薦)、外国語科目担当者等で構成され、主として全学共通科目の個別具体

    的な編成や運営について審議し、その結果を教育推進委員会に建議している。教育推進委員会には各学部副

    学部長が委員として出席しており、全学共通教育推進委員会による建議事項はここで改めて学部の視点を交

    えて審議され、かつここで決定をみる。全学共通教育推進委員会は企画、立案は行うがそれらについて決定

    権を持たず、推進委員会への建議のための「作業委員会」と位置づけられる。

    また、教育推進部規程において、全学共通教育推進委員会の委員長は専任教育職員の委員のうちから委

    員会において選出するとなっている。全学共通教育推進委員会委員長は、「作業委員会」の委員互選による

    委員長であり、その意味で本来教育推進部の外に対して代表性は希薄である。しかし実務に当たって全学共

    通教育推進委員会委員長は―言うまでもなく教育推進部長の管轄の下に―関西大学の全学共通教育を代表

    しているかのような役割を求められることがある。

    【将来の改善・改革に向けた方策】

    全学共通教育の展開と学部の自律性の狭間にあって難しい問題をはらんでいるが、全学共通教育をより

    良い形で発展させるために、その運営母体としての全学共通教育推進委員会のあり方を見直していく必要が

    あろう。教育推進部における全学共通教育推進委員会の組織上の位置づけについても、本年度から全学共通

    教育推進委員長が教育推進部の教育推進企画委員会にオブザーバーとして出席するようになった点は従来に

    比して一歩前進とも言えるが、今後更に検討していく必要があるだろう。

    (2) グローバル化時代に対応させた教育、倫理性を培う教育、コミュニケーション能力

    等のスキルを涵養するための教育の教養教育上の位置づけ

    【現状の説明】

    グローバル化時代への対応については、全学共通科目の A 群(自己形成科目群)において「国際性」(地域・国際社会の一員)という観点が教育目的の 3 本柱の一つと位置づけられ、「国際理解」、「自然・環境」、

    「世界の中の日本」、「平和と戦争」、「時事問題」というサブ・グループのもとに多数の科目が設置されてい

    る。また、「国際性」を教育目的とした科目として、伝統的な学問分野からのアプローチ、総合的・学際的

    なアプローチの科目も多数用意されている。これらの科目によりグローバル化時代に対応した体系的な教育

    が可能となっている。

    A 群(自己形成科目群)においては倫理性を培う教育にも配慮されており、まず「人間性」(人格の陶冶)という観点から「自己と他者」、「自己をみつめる」といった科目が設置されている。また、「社会性」

    (成熟した社会人)という観点からは「倫理学を学ぶ」、「今日の道徳的ディレンマ」、「環境の倫理」、「企業

    と社会」、「技術と社会」といった科目が設置されており、これらの科目により今日の社会において求められ

    ている倫理性を適切に培うことができる。

    スキル科目に関しては B 群(エンパワメント科目群)に「スタディスキル科目」、「健康・スポーツ・人間支援科目」、「キャリア教育科目」という 3 種の科目グループを設けており、「スタディスキル科目」としては「文章力をみがく」、「スタディスキルを身につける」、「論理的に考える」が設置されて効果を挙げてい

    る。「健康・スポーツ・人間支援科目」には、「人間支援実習」、「関西大学におけるピア・サポートを考え

    る」、「学の実化寄附講座(かかわり学びの実践学)」が設置され、人と人の関わりを実践的に考える教育が

    行われている。これらの「人間支援科目」は、スキル科目でもありながら倫理性を養う科目の役割も果たし

    ている。

    また、「キャリア教育科目」としては講義科目として「キャリアデザイン I(働くこと)」、「キャリアデザ

  • 3 教育内容・方法等

    14

    イン II(仕事の世界)」、「キャリアデザイン III(私の仕事)」が設置されており、更に「インターンシップ(ビジネス)」、「インターンシップ(学校1-3)」によって実践的な学習の機会が提供されている。これらの科

    目(群)により、単なるスキル教育に留まるのではなく、導入教育から長期的なキャリアデザインを意図し

    たキャリア教育にまで至る総合的な科目体系が構築されている。

    いずれの分野についても「教養教育」において重要な分野と位置づけられており、その教育効果を十分に

    高めるべく科目の適切な設置が行われている。

    【長所】

    現在の全学共通科目の体系は、教育目的、教育分野、教育手法等様々な面に配慮されており、グローバル

    化時代に対応させた教育、倫理性を培う教育、コミュニケーション能力等のスキルを涵養するための教育い

    ずれにおいても既に適切な科目配置となっていると考えるが、今後更にそれらの教育を強化する必要が生じ

    た場合も柔軟かつ体系的に科目設定ができる制度となっている。このような制度の柔軟性・対応性こそが最

    大の長所であろう。

    【問題点】

    枠組みとしては概ね従来の問題点は克服されていると考えられるが、個々の科目群、個々の科目に注目す

    るといくつかの問題点や改善が望ましい点が浮かんでくる。

    まず、スタディスキル科目は「文章力をみがく」(春学期、秋学期各10クラス)、「スタディスキルを身に

    つける」(春学期20クラス、秋学期10クラス)、「論理的に考える」(春学期、秋学期各10クラス)という 3 分野からなるが、いくつかの問題をはらんでいる。①学部における初年次教育等との役割分担が明瞭でない、

    ②分野間で授業の目的・性格が明確に区別されていないところがある、③分野によって、あるいは学部によ

    って受講生の偏りが見られる、④各分野において、クラス間で教授内容に不統一が見られる、⑤全学的な教

    育に関する諸施策を協議・決定する機関として教育推進部が設置され、更に教育推進部に専任教員が配置さ

    れたにも関わらず、スタディスキル科目の運営主体が特定の学部のままとなっている等、効果的な実施・運

    営の観点から、速やかに改善を要する問題として指摘しなければならないであろう。

    また、昨今の若者の不安定になりがちな精神生活や、薬物乱用を含めて彼らを取り巻くリスクがますます

    多様になっている状況に鑑み、心身の健康を考え様々なリスクに対処する術を身につける科目が必要となろ

    う。これは広い意味で倫理性の陶冶にも繋がるものである。

    【将来の改善・改革に向けた方策】

    スタディスキル科目に関しては、上述の問題点を解消すべく全学共通教育推進委員会及び教育推進委員会

    において議論が進められており、既に改善の方向と具体案が示されている。

    また、心身の健康を考え様々なリスクに対処する術を身につける科目の設置については既に教育推進委員

    会を通じて全学的に了解されており、現在2010年度設置をめざして教育推進部において準備が進められてい

    る。この科目は、一面で学生に対する生活指導の性格を持つものであり単位を認定する科目としての設置に

    は異論もありうるが、差し迫ったリスクへの具体的な対処法を教授するとともに広く倫理性を陶冶すること

    にも繋がると期待され、多面的な議論を踏まえつつ前向きに取り組むべきものと考えられる。

    3-1-2 履修科目の区分

    (1) 一般教養的授業科目の編成における「幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い、

    豊かな人間性を涵養」するための配慮の適切性

    【現状の説明】

    前回の到達目標の項において指摘された問題を改善するために、「全学共通科目の改編をめぐる実行案」

  • 第Ⅰ編 大学

    15

    (2007年 5 月)に基づき、2008年 4 月から全学共通科目が実施されている。その骨子は上記の「3-1-1(1)

    基礎教育と教養教育の実施・運営のための責任体制の確立とその実施状況 【現状の説明】」において述べ

    られているとおりであるが、ここで改めて今回の改革の趣旨と内容を述べておく。

    1)全学共通科目の基本理念・目的 関西大学の 4 年間の教育の柱を成すのは、学部における学問領域に特化した教育を中核とする人間形成で

    あり、各学部の卒業生と呼ぶに相応しい学問水準を達成することがそれぞれの学部の教育目標となっている。

    同時に、社会の中では「関西大学の学生」という枠組みで認知される一人ひとりの学生が、学部の違いを超

    えて関西大学の学生に相応しい資質を伸ばし姿勢を身につけることもまた、大学が一体となって取り組むべ

    き教育目標である。このような認識のもと、関西大学における従来の教養教育が専門教育に対して階層化さ

    れ切り離された形で行われたのに対し、新たに導入された全学共通科目は、各学部での学問領域に特化した

    教育と有機的に関連しつつ、関西大学の学生に相応しい資質の伸張を図り、等しく修得すべき姿勢を育成す

    ることに重点が置かれている。換言すれば、「学の実化」という教育理念を反映し、社会に対して問題意識

    を持ち、広い視野から学ぶことで総合知を獲得し、同時にそれを社会の中で積極的かつ協調的に発揮する実

    際的な能力を備えることで自己決定が行える自立した個人を育てることが、関西大学の全学共通科目の目的

    である。

    図Ⅰ-3-3 関西大学の教育

    また全学共通科目は、大学の入り口において高校生から大学生への移行を支援する導入教育の役割を果た

    しつつ、更に、在学期間を通して学部教育を補完しながら分野横断的に学びを発展させる機会を提供し、加

    えて、大学から社会へとつながるキャリアデザインを入学時から自覚的に描くことを促し、修得した能力を

    自己実現のために有効に用いることができるように支援するという、幅広い役割を果たすことになる。同時

    に、関西大学の学生としてのアイデンティティを育むことで、在学中・卒業後を問わず生涯を通して関わり

    続けたいコミュニティとして本学が認識されるようになることも、全学共通科目の教育目的の一つである。

    全学共通科目

    自己形成科目 エンパワメント科目

    各学部科目

    オープンスタディ科目

    相互補完的

    相互補完的

    関大科目

    関西大学の教育 (学の実化)

  • 3 教育内容・方法等

    16

    図Ⅰ-3-4 全学共通科目の各科目群の主たる対象年次

    2)全学共通科目を構成する科目群

    上記のような基本理念・目的を実現すべく全学共通科目を次の四つの科目群により構成している。

    A 群(自己形成科目群):「高校生」から「社会人」へ至る成長を促す。 B 群(エンパワメント科目群):自己形成に必要な能力を育み、自己実現に向けて実践する。 C 群(オープンスタディ科目群):学部・大学を超えた幅広い学びの機会を提供する。 K 郡(関西大学科目群):関西大学の学生としてのアイデンティティを形成する。

    A 群(自己形成科目群)の性格と目的

    A 群(自己形成科目群)は、従来教養科目及びテーマスタディとして開講されている科目を、高校生から社会人に至る成長を育むプログラムとして再編成したものである。

    再編成に当たっては、A 群(自己形成科目群)の教育の目的として、「人間性」(人格の陶冶)、「社会性」(成熟した社会人)、「国際性」(地域社会・国際社会の一員)の三つを掲げ、それぞれの科目が学生のどのよ

    うな側面に働きかけながら、どのような人物へと教育していこうとしているかを明確にしている。これによ

    り、学生がそれぞれの科目を通して自分が何を修得すべきかを意識しながら履修することを促している。科

    目によっては複数の目的に対応するものもあるが、そのうちの主たる目的に沿って分類・配置が行われてい

    る。

    一方、同じ目的を掲げる科目であっても、その科目内容をどのように教えるか(学生側からすれば、その

    科目内容をどのように学ぶか)というアプローチを複線化することで、個々の学生の既習状況や関心の持ち

    方等多様な必要性にもっとも適した性格の科目を提供しうる。A 群(自己形成科目群)では、身の回りの事象・題材と結びついた学びによって洞察力や自己決定力を育む「知の発見」、既存の学問分野に対する知的

    好奇心や探究心を育む「知の継承」、更に、学問領域を意図的に超えた自由な学びの中から創造力や総合力

    を育む「知の跳躍」という、三つの異なるアプローチから科目が提供されている。

    このように、教育の三つの目的と科目の三つの性格から構成される 9 区分(グループ)の中から、学生は自らの必要性や関心に沿って科目を選択する。その選択を助けるために、各グループの中に、更に複数のサ

    ブ・グループが設定されている。例えば、「知の継承」という性格の科目では、三つの教育の目的の各々に

    対して「知の見取り図」と「知の探求」という二つのサブ・グループを置き、前者では学問分野のおもしろ

    さに興味を見出す手助けをし(学ぶ機会が十分でなかった学問分野でのリメディアル教育を含む)、後者で

    は更に�