安原貞室著「かたこと」をよむ - yamaguchi...

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安原貞室 (上) 一内容の分類解明 一、 二、 三、 著者の安原貞室について かたことの内容と分類 著作の意図と姿勢 備考 本書はコ、●O(といふべき)を、△△といふはよ (わうし)」。と一条毎に、まず正語をか、げ、次にかたことを あげて之を評する形を基本型とし、言葉の弁正を目して下せら れている。私は先に「頭註かたこと」 (プリント私家版描頁) を印行した際、便宜上、各条にとおし番号をつけた所、全巻で は八○○条…1-23(巻一)24一皿(巻二)莇-鵬(巻三) 謝-晒(二四)一一枷(巻五)一になった。以下、この番号 を利用して条項をしめす。 一、著者の安原貞室(一六一〇一六七三)について マサアキラ 徳川初期の憐人つ名は正章、一嚢軒また腐磁極と号し、 京都三 条(左京区梅忠町、鳥丸東入)に紙商をい 称した。貞室とは42才で薙髪した後の俳号で ……ーー・電…i一・…-車…-1……通i-…i 六… (京都銀行三条支店) 7梅… (電々公社三条営業所) コカギや 鑑屋彦左衛門と 昨夏このあたりをあるい てみた。六角堂のみ旧態 をのこすが、梅魯町は今 は高層ビル街で、昔の面 影はなく、勿論貞室の遺 跡もみつからなかった。 16才の時、松永貞徳の門にいり、俳譜をまなんで貞門内語仙(野 きいむ かえでいりようとく 々口立圃 松江維舟 安原貞室 山本西武 北村季吟 鶏冠井令徳 高瀬梅盛)の一人にかぞえらる。著書に正章千句(千句独吟之俳 ひむうもり 諮)、氷室守、俳譜之註、貞徳終焉記など。又樹海集七巻、同追加 七巻を編し、別に本書かたことをのこした。みずからは俳譜人とし て世に処し、師の没後は花の本二世を称したが俳譜の実力はかなら ずしも之にともなわなかったと評せられる。しか乃にかたことは当 時としては特異の述作として価値をみとめられ、かえってこの方が (119) 安原貞室著「かたこと」をよむ(上) 一内容の分類解明と著作意図の推究1

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安原貞室著「かたこと」をよむ(上)

一内容の分類解明と著作意図の推究

一、二、

三、

目 次

著者の安原貞室について

かたことの内容と分類

著作の意図と姿勢

備考 本書はコ、●O(といふべき)を、△△といふはよし

(わうし)」。と一条毎に、まず正語をか、げ、次にかたことを

あげて之を評する形を基本型とし、言葉の弁正を目して下せら

れている。私は先に「頭註かたこと」 (プリント私家版描頁)

を印行した際、便宜上、各条にとおし番号をつけた所、全巻で

は八○○条…1-23(巻一)24一皿(巻二)莇-鵬(巻三)

謝-晒(二四)一一枷(巻五)一になった。以下、この番号

を利用して条項をしめす。

一、著者の安原貞室(一六一〇一六七三)について

マサアキラ

徳川初期の憐人つ名は正章、一嚢軒また腐磁極と号し、

京都三

条(左京区梅忠町、鳥丸東入)に紙商をいとなみ、

称した。貞室とは42才で薙髪した後の俳号である。

……ーー・電…i一・…-車…-1……通i-…iし

通名六…

転逸

(京都銀行三条支店)

町鳶7梅…

(電々公社三条営業所)

コカギや

鑑屋彦左衛門と

昨夏このあたりをあるい

てみた。六角堂のみ旧態

をのこすが、梅魯町は今

は高層ビル街で、昔の面

影はなく、勿論貞室の遺

跡もみつからなかった。

16才の時、松永貞徳の門にいり、俳譜をまなんで貞門内語仙(野

きいむ かえでいりようとく

々口立圃 松江維舟 安原貞室 山本西武 北村季吟 鶏冠井令徳

高瀬梅盛)の一人にかぞえらる。著書に正章千句(千句独吟之俳

ひむうもり

諮)、氷室守、俳譜之註、貞徳終焉記など。又樹海集七巻、同追加

七巻を編し、別に本書かたことをのこした。みずからは俳譜人とし

て世に処し、師の没後は花の本二世を称したが俳譜の実力はかなら

ずしも之にともなわなかったと評せられる。しか乃にかたことは当

時としては特異の述作として価値をみとめられ、かえってこの方が

(119)

安原貞室著「かたこと」をよむ(上) 一内容の分類解明と著作意図の推究1

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ア敦忠中縮 姉が小路殿

安倍ノ連(竹取物語)

安里上人(叡山)『一

イ 一休(大徳寺)

一条禅閤(兼良)

工 江ノ匡房

オ おつぼねの少将

力 鑑真

キ 季吟子

ク 鳩摩羅三蔵

ケ 兼好法師

笹踊法印(幽斎)

コ 行成大納言

江ノ帥

権六(假ノ名)

サ 作兵衛(〃)

シ 春屋国師

ス 垂仁天皇

セ 千石少弐

イエカキクケ

サシ

□かたこと全五巻にでる人名一覧

轡鮒耀暫獅説鶯魏議鶉鷲

伊勢物語 85条一休の仮名法語 49 3590易経(文言伝) 450准南子(人間訓) 140神楽歌(早歌) 99仮名遣の書 6270兼輔集 53金葉集 549公家名目抄 65源氏物語(桐壼) 10

〃 (帯木) 2151 〃 (夕顔)1829183 〃 (若紫) 345

0孔子家語 750古今集(1043番) 658玉出 441後撰集(635番) 3050散木(奇歌)集 46史記(滑稽列伝) 30仕付方の書 5910新古今集(1329番) 2860新撰六帖 40清少納言がふみ 800.節用集 442千字文 92

□かたこと全五巻にでる書名一覧(狛繍搬圃燗罰松)

今日の国語学界から注目されている。

著者の教養は、少年の頃よりまなんだ三寸修業よりえた物が中軸

で、本書かたことの成立も俳譜の学識の流露とおもわれるが、また

仏教徒としての素養もふかく、本書中、仏教の話に鴨ふれるもの29

条、それも浄紙(73猫)や台家・真言家(猫)はすくなく、大部分

は聖道門、特に禅・律に関するものなので、おのずとその属した宗,

派も推察される。

かたこと全五巻にでる人名一覧、書名一覧をつくってみたので左

に掲げる。この面における著者の読書傾向の一斑をしることがで

きよう。

条74

U9

6 4.

43

O5

X3

X9

O0

V32

3 =ノー=ノ 7 8 3

論佃

ノふ 理

假い三毛

(と国の

84

Q8

99

R3

O5

R4

V4

O0

O6.00

73536848

尚和何 生 秀

の某先 皇康斎

寺のの動天ノ幽

周假細

江宗

秀為

六河燈紫披禅導燈禄烈屋守袋理趣兵崎休泉

善十大筑東南花花福武文細布毛牧弥山利冷

セソタツトナパ フ

ホ モ ヤ リレ

( 120 )

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太平記竹取物語

茶ノ湯の書物徒然草(22段)○ 〃 (135段)

○定家仮名遣定家卿天福の伊勢物語

東披文集日本紀(神代紀) 106

仁王経百人一首○扶木抄

平家物語○本朝無題詩万葉集水鏡く一休仮名法語)

名目抄○孟子(梁恵王上)

○世一(檀弓上)

443条667

293

53

S4

62785

228

28828

44013

56946

28835923111

820聯灯会要釈迦牟尼三章 40論語(里仁) 870〃(子壷) 序○〃 (陽貨) 66

和名抄 304

タチツテトニヒフヘホマミモラレロ

←り

@貞室の学統

(一

Z〇二)

里魏巴/遼遠

絶難\

(歌学)

(一

ワ九五-一六六九)

1野々口立三一江崎

/犬子集論争に

\より破門さる

(一六〇聖旨一六八○)

1松江 維舟-池永

(一六一〇一一六七三)

一安原 貞室一安原

(一

Z一〇一一六八二)

1山本 西武-中島,

(一

Z二四一一七〇五)

一北村 季吟-山口

( ? 一一六七九す・)

幸和、服部 一腰

三水、上島 鬼貫

元次、乾 貞恕

随流、出口貞木

素堂、松尾芭蕉

i鶏冠井令徳-鶏冠井良次、

( ? i一六九九?)

1高瀬梅盛一内田 順也、

下その他

服部常春

伊藤貞徳

貞徳(承応二年一一月一五目没八三才)終焉記(一巻、、貞室著)にいう、

やつがれ〔貞室〕いかなるすぐせにや、いとわらはよりなれつか

ふまつりて、ことし二十九年、この道に足さし入ては二十六年、

〔この時42才、すなわち16才より師事〕一日もその御心にたがは

ず、……二とせあなたの葉月に、俳譜の判詞を乞ふ人あらば点を

合せよとゆるしのふみ下して、云々

む む

とあり、よって慶安四年八月、判者たるをゆるされ、やがて師の後

をつぎ花の本二世となる。

@ かたことの内容系統

り り

歌人は歌語を洗練したが、俳人は新境地の開拓に俗語を駆使し

た。

憐譜には連歌の徳の外に五つまさりたるたのしみ侍るとかや…:

む む

第.一に俗語を用ふる事(斎藤徳元-俳譜初学抄)

抑はじめは俳諮と連歌のわいだめなし。其の申よりやさしき詞の

む む

みをつづけて連歌といひ、俗言を嫌はず嘱する句を三子といふな

り。 (御三の序)

彼等はかくてあたらしい語法の工夫、特に語彙の研究につとめた。

俳譜者流の著作が、発句・付句をのせ、俳譜を論ずるかたわら、勤

む語を主とする語学の面にふれる事のおおいのはそのためである。貞

徳はその開拓者だが、彼の民草(慶安5、δ招)、御傘(慶安4、

一α図)をはじめとし、その門流から 一

斎藤 徳元俳話初学抄(寛永18、一象一)

野々口立圃 はなひ草(寛永20、ま蕊)

安原貞室著「かたことしをよむ(上) 1内容の分類解明と著作意図の推究1

( 12t )

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野々口立憲 言葉寄(刊行年不明)

、松江 重頼 毛吹草(正保2、一ひ金)

く る る

山本 西武 久流町(慶安3、一$O)

などあり、か、る雰囲気の中から、慶安3、一$O年に貞室のかたこ

と刊行をみるのである。

「かたことの内容系統」を図示すれば、 '

前駆一↓かたこと一Ψ後世への影響

iii )

徒然草などの言語美意識↓

貞徳などの言語矯正意識↓

櫛難.などの峯・字箏

醒睡笑などの話題 ↓

毛吹草巻二などの世話(諺)↓

その他: …:

・一V

かたこと(五巻)800条

(浮世鏡第三〔かたこと補遣〕310条

s

僅諺研究を

促進する

s

互話

採集の

気運をつ

がす

s

旦茜

ほし

類書をさ

曇つ

浮世鏡第三は零本で著者も刊行期も不明ながら、巻頭に

此巻より下は詞のあやまれるをしるし侍る也。これより寒きに俳

藷師貞室が片言の書五冊をあみて世におこなひぬ。これにもらし

たるをかき侍れば更にひとつ事にあらず。四一に是にもれたるは

回書にありと三三ふべし。

とあるにより、かたことの補遺たるをしる。収める片言は三一〇条

り む

ただし「詞のあやまれるをしるし侍る」にとどまり、よしあしの判

断、評語はみえない。かつ、かたこととは反対に、まずかたことを

か㌧げ、次に正言をあげている。文申に都の名所、寺号をならべ、

ひく所の地方語も近畿・中国を中心とするから、おそらくかたこと

の後、程とおからぬ期に、やはり京都で刊行されたものだろう。

文化の中心の東遷(京阪から↓江戸へ)

かたこと刊行がら四十年にして元禄をむかえ、文化も東遷の気運

む む む

つよく、言葉の面でもかつては吾妻言葉とさげすまれた江戸語が拾

頭、上方語と拮抗するにいたる。

かたことをうけて、「言葉なおし」や「諸国詞つかい」をとりあ

げた類書、末書は元禄頃から数おおくみられる。元禄四一騙重宝記

大全は諸国かた言を論じ、元禄六-男調法記(男重宝記)巻五では

かた言なをし、旧本諸国詞つかひをあげる。於調物類称呼が出るの

は、年代もくだって安永四年であるが、著者吾山は越谷出身で江戸

にすんだ人であり、全国および琉球までの方言を網羅し、とりあげ

方も東国を中心に江戸語がおおく、関西や上方語はその対照の形で

あっかわれている。

二、かたことの内容と分類

-、

篇次と体裁・刊本

全五巻、各巻頭には一、嘉多言 ご、急斜言 三、椴直言 四、

閑事故東 五、可太古止 と万葉仮名で表題をか~げる。

序文についで本文は全篇八○○条。はじめは「冥加」、「自在」と

(122)

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おも,いつくま\に、あるいは平素懸案の主題をとりあげているが、

やがて第三巻のなかばからは篇目をたて、

三三(後半) 時節 人倫並人名 衣服

巻四器財支藩病名木草虫魚鳥獣飲食国名

所並寺号

巻五 居所 誉詞 湯桶言葉 いはずしてもことかき侍るまじき

こと葉

とつぼき、最後の第八○○条を、雪 雨 霜 みぞれ 霧露 霰

O自然現象のおかしさを叙してむすんでいる。

刊本には慶安三年(一六五〇)京都中野道近刊、

〃 〃 荒木利兵衛刊、

の二種あり、字句には殆ど出入がない。前者が昭和6年、古典全集

に収録され、後者も同15年、国語学大系の19巻としてそれぞれ活字本

となり、一般人も入手しやすくなった。昭和47年、武蔵野書院刊の

近代語研究第三巻には荒木本を復刻、重要語句索引も付せられた。

2、かたことの意味

イ、幼児の未完成の言葉。

「かた」は物の一部分、また半分.をさす。蜻蛉日記上「ここなる

人かたことなどするほどになりてぞある」。など平安期の用法は幼

児のことばをさし、宇津層楼止「物も覚えず酔はし給へり。……と

いふ声も、かたことのやうなり。」も酒に酔って廻らぬ舌の声が小

児のかたことのようだの意。

、ロ、大人の至らぬ言葉め

乳母の草子の、 「短冊などにカタコトかきたるは膨みにくし」。

のごとく、室町期には大人の至らぬ言葉の意にもつかった。更に日

葡辞書に、「設っ.て正しからぬ発音をした言葉」のと解したのは音

声面を重視したもの。

ハ、 (貞徳や)貞室のいうかたことはすこし広義である。

貞室は38才の時、正章千句を編し、判者としての師貞徳の批正を

あおいでいるが、第三、蝦(カハヅ)の第38句、

とらまへたしや千年の鶴

の「とらまへたし」の語に対し、貞徳は

「世のカタコトをカタコトと知て態とは用ゆる例あれども、カタ

コトとしらで用ゆる岩屋コトは誹諾に用ゐざる法なり。コラユル

はよし、トラマユルは京童部のあさましきカタコトなり」。とき

びしく批判している。

ちなみに正章千句は追加百句をくわえて千百句のうち、長点をか

けられしもの一七二句、賞詞のおおい中に、-このカタコト「トラ

マユル」に対する叱言は目だつ。

師貞徳のこのかんがえ方、この姿勢は彼におおきく影響したにち

がいない。 (このトラマユルはかたことの脚条にもとりあげてい

る。)

貞室は日葡辞書の指摘するような音声学的意識はもちあわせてい

なかったが、師貞徳をうけて、後面内容一覧表にみられるごとく、

擾音、促音、拗音、略音、延音などの泣言、字音.字義のよみあや

まり・ききあやまり、「御」のつかい方、漢語の用法、さてはき~

安原貞室著「かたこと」をよむ(上) 1内容の分類解明と著作意図の推究1

( 123 )

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にくい言葉、耳にたつ言葉、いやしい言葉、いわずしてもことかく

まじき言葉などがひろくかたこととしてとりあげられている。

む む む む

徳川期の用語は、人により多少の差あり、しかし「かたこと」と

いえば概して地方の言葉、下層の言葉をさした。文字も「片言」

こう む

が多用されたが、脳頭節用集、書言字考、俳字節用集などは謹と

カタコト

.かいて「かたこと」とよませ、京伝の通言総籠の凡例には「砲

む む

ヲ不レ改」。と砲の字をかく。謹は諸橋の字書にもみえず、たゴし

ヒ ハウ

聖は「地がつらなる」意とあるが不明。砲は字書に「ことばがみ

だれる」とある。

む む

また方言という語も片言と近似した語感でつかわれたらしく、一

ムダクラベ

九の著作に方言競(文化12年)あり、三馬の浮世床初篇上には「…

一:きせるをせるきなどいふたぐひ、下俗の方言也。」という。

二、松岡の古語辞典8頁にいう、、「音便と誰とを同一視してはなら

む む

ぬ。……地方に現はれるもの一方言。個人的な僻一片言」。

「かたこと」の内容一覧表

、3、内容一覧表

かたことの全五巻八○○条は、各条長短さまざまで、とりあげら

れた内容も多岐にわたるが、その論法はたとえば

一、冥加といふこと葉のつかひやう有べしと云り。

㎜、いっこ・いつく・いっちなどいふべきを、どこといふはくる

しからず。

くぬぎ

謝、 樟をくのぎ〔はわうし。〕

む む

のごとく、まず正語を提示し、次にかたことをあげ、之に著者の意

見をくわえ、かたことに対しては良否の、あるいは許容の判定をく

だす。単なるかたことの羅列、記述ではない所に本書の面目があ

る。

今、かたことの内容の大概をしるために、各条の冒頭に提示され

た語だけのとりあげ方を一項目して分類してみると、およそ次のよ

うになる。 (数字の下に線を引いたものは、副次的分類の場合であ

る。)

( 124 )

とくせい む

98ソ政を とくせん

10

?ュを なつかなか

4260680231341714869307016038058

2339991112223344469123444666777

1111111111111222222222222

184662494163955067554069

892456667023345812457001

223333333444444455555666

0456781301956283844814670667135

1222225589911229945567778912677

11111122222222233333

402413415416452456505569

%75

備 考

紀三、名四浪速国、三

日浪華。今謂難波、設。

注云、論、此云与許奈

磨慮。 (音変化、音節

略などをきす。)

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訂七

かうそつ 0

31

]帥を かうしょつ

7たいりゃく 。

12

蝸ェを たいらく

万夢浄れ

濁 音 誰

清音三十威を@みん

略π読蓼し去がひなし

略冨じらふあしらふ

162163204217226266486495497572608671

1-g,li?l12,gg

2gg巨513221 222

1羅1420430

31

95102111

133176182183186251270285309314382385407409411429543554644645

中1上下

(中 下 略)

上 申 略

しやうじん

18

ク進 しやうじ

98窒��ワふ一湯のも

7 む む む

68

ゥまびすしき一ひすい

む む

いまそっと まっと

681798 1

453454462481494517530551559575578587601604607

18i

4550588693114143167170179185191

192195197269271315328330331333354357379400412434

6493119157210289295311318319321325'399

440447459460472506523526532557581582583589614626

4eZi 63i

450i

60

74677

58

付けたる嚢ま

上へ爾年郎営や・じゆ器彌

下へ

23不慮1ふりやうふてん

史π度毎応び乱と

112

352377378397451519592

444457477492511521522531577588638・656

373949136146161

177190194207211212224232233238273294301307312315341345349363391

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3

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第M

60c上略なれば苦 しかるまじき 職。18…下略なればは ねずとも苦し かるまじ。

M 68

安原貞室著「かたこと」をよむ(上) ー内容の分類解明と著作意図の推究1

( 125 )

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(音

韻)

連声

うむの下は濁るといふ

に把あめ。 .……………

二四はち詰

い・ひは同じければなり

は(ば)行・ま行相通

さとしゃは通へどもこ

匙には路べ・ル.…………■-…

同音の区別

五音相通

15i/ 183i 171i 282i 155ii 3921

347c( 曝明器1;

馨i…類

30,;i '1・(409)l

l講

6461・

281 iO91

1藪ill

i(盤鋼

il(293)ll s36599

342i 652

どうばう どうばう

4同朋を

堂坊と

3はいはず。 ・

共に唇音

濫抄)

(和字正

52

ワ音通じてもき

6㌧あしきか。

57

ワ音通じてもよ

6うしからぬか。

とうじみ

92

柏Sを とうし

3 んはわうし。

音1子

IT,

i聯1禄を

隙i?o

t 14

1 79

h6Sl iig

138 153

203223243'264

320334410637648

4みまさか

59?

い。

まさ

6きざはし 。

10

K きだはし

t

4.10

94^

=ノ広)

466 106467 125479 130493 139496 142499 150512 165514 171518 172524 180537 181538 189556 202558 208564 219573 225579 239598 250602 253612 259655 351672 367 370

371

380

394

395

408

421

448

464

8

をつそ

41

O所

をつす

651 567 488 365 41652 568 498 368 104657 570 500 372 109658 576 501 381 129

673 580 502 383 145676 584 504 384 168678 2e2 29Z ?8A? 16-9i

1741 586 508 390

590 509 403 175

591 510 419 178

597 520 422 188

603 525 424 189

610 528 425 196

613 529 427'200

615 533 428 214

616 534 432 215

617 535 435 216

618 536 436 218

620 539 438 229

621 542 443 247

623 544 446 .252 624 547 449 256

625 548 458 2571'

627 549 463 302

628 552 465・310 629 553 47童 3重3

630 560 474 323

632 561 475 355

633 562 476 358

635 563 478 359

639 565 484 360

17

( 126 )

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安原貞室著「かたこと」をよむ(上)

1内容の分類解明と著作意図の推究1

(歌

語)

璽塑'塑

塑塑麺

重 工語で解

言一-明

O O O

8、勿体なし

8

201291

303571

754

126134152154165

酉4297306

語語源をとくて、

40443147・3

4834854895135506“649675679

斜は……ななつめとい

ふこ㌧ろ……

6

互67135152

282283308

3171 349

326i三

二の使い方集甥諺三物につ5三三播

語意説明「

09003845098678659070161123

22344433244888706789934888

112222344444466666

言葉の使い方

1、

冥加といふこと葉のつ

かいやう有べし。

82 183 284 385 787 888 991 1794 3397 38

228 42249 44292 46293 47378 54642 55650 56674 57

7石58744 59

62 63 64 65 69 70 71 73 74 76 77 81

8しにん

15

?lを

しびとはよし

かな

72?シといふことを書にむ

む む む

かひてはかんなとよむべ

し。

71

72230231236267329335

・ 336

337338339340343 ・1

350383387392393398417508509

541549

599

158

745746747748749750751752753754

訓慮

三文

6いちへい

16

齦r

一ぺん

03

ノ桃緋桃をしろも㌧あか

5も㌧とはいふべからず。

まんぞく

4満足まんすう

41 503

158159160265272279441482594j '

595596605609

162

塑166

塑490

』一易

36

X子を も一うす

42カ字㊨篇に…

7

9

158

165189

742

Av猛幡ぎ子己

365366396400409435)

r453)

(517)

(s74)1 .

(583)

2.7 3 6 3重箱よみをふくむ

(四つ仮名の問題)

217705796067821233012073

14566884588129990368523

1111222223333456

( 127 )

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漢語の乱用を戒

懸罵言を戒しむ

文章、書札にか

く場合の戒

言 語 論

5B器鞍壷叢潮脚藷酉瑞

r4245

塑辺逃翌

28

286

290

643

(794

Qノーn∠り)

-・n∠24)

裡諺のうち

言はずしてことかき

侍るまじき詞

785786787788789790791792793794795796797

3567890123456789012345678901234

1555556666666666777777777788888

777777777777777777777777777777

格金

言言

13[45一52一75

2 7

醒睡笑と一致する

もの多し。

幼なことば

弼お乳ち

の人

ちい

おちい

305

故実をとく

三一t

66

数詞のよみ方

翅281

344

445

ま}穿よれ、おひなれ

厩(386)

571

593

忌みことば

ヨミ ひを かんなにてゆ

弼わると書

107

383

紛れことば

51

cひったりといふは、

た をと

板ひく音成べし。

nとふらふ(誌繋鎚塑71

187

733 702 656734 703 659735 704 660736 705 661737 706 662738 707 663

739 708 664740 709 665

743・710 666 '711 667 712 670 713 679

714 680 715 684 716 685 717 686 718 687 719 688 720 689 721 690 722 691 723 692 724 693 725 694 726 695 727 696 728 697 729 698 730 699 731 700 732 701

(混

語)

十寸%る坐らまゆる面

8.5

( 128 )

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都のことば

地 方 語

283

305

330

406

407

469

505

799

片田舎人の語ることば

15「B拶乃甥硲瀟瀟

坂東ことばあづまこ棄劣器留

69

北国こと葉

えぞが千島のこと葉

近江こと葉

近江丹波

豊後のこと葉

唐国人のことば

唐人口

南蛮言葉

5312881 602885353

654

53

( 129 )

4、

批正の評語のくだし方と判定の段階

評定のあり方は、当時ひろくおこなわれた志学の判者のそれを延

用したのであろう。評語はおよそ可否に二大別されるが、

ω 可とする場合

85よし 59よろし 48よき言葉 23やさしき言葉㈱しほらしき・

言葉 鋤可レ然 33ききょう侍る 20といふべし……(9種)

回 否とする場合

蝦悪し 脳わうし 拠あしき言葉 蹴俗語 9ひが言 脚かたこ

となり 75拙し 87耳にたつ 21うるさし ……

む む む む

のごとく評する。しかし元来かたことをとりあげたのであるから、

否とする場合がおおいのは当然で、その範囲もひろい。回の段階か

らさらに否定の程度が嵩じると、

窃せめて……といへかし 10いはぬにはしかじ 言うちうちにも

いふべからず 鵬仮にもいふことなかれ ㎜よくく謹み嗜みて

いふべからず のきびしいものまで、およそ否とする評語は44種

におよぶ。.

安原貞室著「かたこと」をよむ(上) 1内容の分類解明と著作意図の推究1

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'x

の 23如何 鰯如何と託り 10如何侍らん 76如何とぞ覚ゆ など

「如何」の語も非常におおい。一応疑問提示の形ではあるが、純

粋の疑問(たとえば67)はごくすくなくて、大方はやはり否定の

評。 尊

ぶ阻苦しからぬか 苦しがるまじ 鄭苦しからず の用法もおおい

が、之は「まあまあ……」と看過し許容した場合の判定語。そし

⇔ 鰯よしあし知侍らず 68出所知らまほし 磯可レ尋

などは、問題提起にとどめ、みずからは判定を遠慮した例であ

る。

さてしからば、その可否の判定は何によってくだされているの

か、何を基準としたのか、貞室がいかなる語を是としあるいは非と

したか、いだいていた国語観はどのようなものだったか、は前掲の

内容一覧表をみればおよそ見当もつくが、次章においてその面にも

ふれて論をす㌧めたい。

三、著作の意図と姿勢

㈹ 著作の意図と論述の工夫

1、序に「さたすき侍るころ独の子もたり。もとより家まっしけれ

ば、おほしたてぬるさまもはっかしのもり、めのとさへおさく

侍らて、みつよついつ㌧むつれあふ友達かたらひにも、いとった

なきかたことをのみ云侍る。佗しけれと、ひとつくいひしらせ

んもかきりしなけれは、そ㌧うに這一帖に記してかれにとらす。

これはみつから少年のむかしょり、いまか㌧る老のすゑまて、く

ちに馴ていひ侍を、きこしめし㌧おりく、しかり給へりし老師

の厚恩をおもひいつるま~書つけぬ。此つみてにかたはらいたき

今案をも、みなた㌧言葉もて記し侍るは、愚子か見ときやすから

んためなり。云々」

之によれば本書は

①、庭訓の書であり、

②、戴恩の記であり、

③、ついでに著者の近案をかきつらねるが、それも愚子の見ときや

すいように、だゴ言葉をもちいた。という。

そもそも序文とは、巻頭に述作の主旨、成立の由来などをのべる

ものだが、時あってか謙辞、謝辞が中心となることもある。読者を

来客にたとえれば、玄関の訪問者を客間に請じ、わが方の挨拶、近

況をのべるようなもの、ここでかならずしも楽屋裏をみせるわけで

はない。

この時点で、師貞徳は80才、二子元次は10才であるから、まず老

師に謝し、また幼児の成長をいのるのは当然である。

2、しかし本文八○○条を通覧すると、前掲内容一覧表がしめすご

とく、資料をひろく、たかくとりあげており、そのと者方も一子

へというより、一般大衆へよびかけている事を重視したい。しば

しば貞徳の教をひく(序10、28、の外、鰹、㎜には句作三を引

用)点も、戴恩の記であると共に、師承をたっとんで自説の正当

性を裏づける当時の慣習であり、また大衆説得に権威をもたせた

ものとおもわれる。

( 130 )

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3、

都人は「京こと葉こそ国の標準語」としてほ

こりをもつ

トゥ ヲ

ヨリ

孟子鍛蚊に、吾聞二二レ夏変・虚者【。未レ聞下変二於夷一盛上議。とあ

る。中央と地方との力の関係を説明したも,の。わが平安京は桓武以

来の都であり、その京ことばは国の標準語として、ながく都人士の

誇とする所であった。しかるにやまと朝廷の昔から、 「難がなく」

(枕詞)ごとき言葉とみなされ、 「だみたる声」とさげすまれた吾

妻言葉が、武士の勃興乏共に徐々に都にせまり、政権が鎌倉幕府

に、ついで足利幕府とつゴけば、都人士も「いつしか云も習はぬ坂

東声をつかひ」 (太平記一=)さらに、織豊時代をへて今や徳川の

時世となり、岐阜・尾張・三河の言葉が現実に進入してきている。

著者は「をれ」という語の主題の条に、

「尊氏公の世中を心のま㌧にしたまひつる比より、別てばやり出

侍りて」 (謝条)といい、

「応仁の乱れより都の風俗おほくことあろたまりて、あしう成行

侍しとかや」 (53)ともいう。

「治者の言葉が被治者の言葉を支配する」 (柳田国男)のは自然

の流とはいいながら、京ことばをこよなく愛する都人にとって、東

国風のダミ声、それに類したかたことは、きくにたえないものがあ

ったとおもわれる。

ロドリゲスは日本大文典(土井訳本六〇七ぺ)の離郷談の条にいう、

都の言葉遣が最もすぐれてみて、言葉も発音法もそれを真似るべ.

きである・けれども、都の人々も、ある種の音節を発音するのに少

しの欠点を持ってみることは免れない。」

地方語に、.特に東国語におされたとはいえ、京ことばはやはりもっ

ともすぐれた語であり、まねるべき言葉なのである。京にそだった

貞室が、誇とする京ことばの伝統をまもるべく、その俳話人として

の鋭敏な言語感覚と、師貞徳ゆずりの国語愛・規準語的美意識と

で、批正を念願するのは自然の事とうなずかれる。

さりながらかたことは田舎のみならず、既に都におよんでいる。

かたことは今やひろく都人士の口にのぼっていたのである。その矯

正は容易ではない。

4、

矯正の可能を信ずると共に、己も努力する

13条にいう、

かたこといひと名にたちたる人とても、干たびうごく口に填たび

湿たびに過べからず。七たび八たびはよろしきこと葉にて侍る物

なり。然らば一言づ、にても直し改むべきと、心にかけて働み侍

らましかば、いかに物おぼえのうとくとも、程なふ改め直すべ

し。物おぼえのさときかたは、只一二度き㌧てもおぼえ侍るべ

し。……人としてかたことを悔改めずば鳥にだもおとりたること

と云り。

とつよい信念の程をみせている。矯正を他入に要望すると共に、己

もまた不断に研鐙し修業したらしく、

出所しらまほしi1037㈹496882伽魏㎜躍脚脳潜窟 ・

可・尋141637091醜囎脇翌夕槻鵬鰻㈱槻

他日のために書付て置く1序鼠子鶴獅

安原貞室著「かたこと」をよむ(上) 一内容の分類解明と著作意図の推究1

(13t)

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などの語や条が目だつ。之をみても本書が単なる庭訓・感恩の書で

はなく一般人のかたこと批正と共に、みずからの勉学のメモ、こと

葉研修のおぼえがきが主であったことがわかる。

5、批正が角だたぬよう、叙述面での工夫

かたことを口にするのは今や都の人々である。かたこと補遺とも

いうべき浮世鏡第三には序で次のようにいう、

都は土地清らに零すなほなれば、音律かろくすみてた眠しとか

みなか

や。されども片言は夷中にまさりてお㌧く侍り。

と。かたことの矯正を要するのは、田舎人よりもむしろ都人であっ

たのである。とはいえ矯正の対象を露骨に名ざしたのでは共鳴をえ

がたい。そこで著者は表現に工夫をこらす。 ,

イ、 「愚子がためのいましめ」 (序53認猫珊珊)を標榜して愛児教

育に共感をもとめる。

ロ、 「田舎人がはなすかたこと」 (15131575糊鵬鰻鋤)

としてとりあげ、都人の誇をうしなわせぬようにする。その他

ハ、ある人の言葉18788珊脇鵬獅㎜

二、小賢しき人の三一鵬餅㎜、或説珊、一説纈

などの登場人物をもうけて対象を緩和する。また

ホ、 「児、喝食、女房」のこと葉(11212223鵬)、あるいは女房少

人の言葉(164)、若き人(鵬)の言葉をいましめる条が目だつ

が、之らもまた引合にだした配役のひとつともとれる。

へ、地方の方言も実際にとケあつかった。

坂東ことば一283048脱あづま言葉一2948 夷が千島のこと葉1

53 北国こと葉169 近江こと葉一60 近江丹波-蹴 豊後国一

蹴を

あげ、『此外も遠国のこと葉に、さぞめづらしきことおほから

ん。」1鵬 といい、更に

もろこしク

唐国人のこと葉一53 唐人ロー53鰻 南蛮言葉153 にも言及

している。

当時の俳壇は貞徳派の独壇場といってよく、貞室編の玉算集(

貞門の句集)は発句二六二〇余、付句五八○余、その作者は全

国にわたり六五八人におよぶ。故に貞室が全国の方言に接する

機会はすくなくなかったとおもわれる。

ト、かえりみて他をいうのではなく、都人としてのつよい省察もわ

すれてはいない。

「……京の者の口になれてむまれ付たること葉のやうにて、なを

りがたし。とりわきみつからなどはえなをし侍らず。田舎人のわ

らひ侍る京こと葉は是等第一なりとかや。 (246)

自己の今案についての(序)、また注についての(脚)反省も

「よくでている。 ,

かたことの著作動機については、昭和30年7月、「嘉多言の著作

及出版動…機とその内容価値に関する一考察」 (私家版、後に近畿

方言双書第五一昭和32年1月)という大田栄太郎氏の論がある。

大要は

「かたこと」著作の動機は、愛児のためのものではなく、一般大

(132)

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衆に対する国語意識の啓裳酒養であるとし、理由として

一、文章及用語について

如何 ……にや とかや 侍る鰍 など疑問型がおおい。

愚擬蒙昧 看経 調経 幽玄などの語は子供にはむつかしい。

二、敬語及その一類のことば

御盃をいたゴき侍らん の項をみても、敬語の問題は識者の間に

さえ誤りがあり、酒盛の礼儀などは子供に似つかわしくない。

三、綜合的にみて

序文に「……ふかく函底にひめてをのが言葉をつ㌧しむべし。他

人の為に記すにあらず ゆめ。」とあるごとく、「後年にみよ。

」という遺訓書であるかというに、 、

……まつ書付て置てこそ、人にもたつね明らむべし(巻三)

……物に書付て置くこそ、人にもたつね侍るぺけれ(巻五)

とあるのが、正に著者のいつわりのない執筆動機でなかろうか。

愛児元次だけへの言語教科書なら、もっと児童向に編纂さるべき

であるが、何かの拍子で急に上梓となったので、わが子にカタコ

トのあるのをおもいあわせ、之に因縁づけたものであろう。とい

い、さらに

かくみると、 「かたこと」を、当時としては画期的な子供への言

語教科書とみるのと、一般大衆に対する国語意識の啓蒙酒養とみ

一るのとでは、価値観がちがってくるが、貞室の国語及国語教育へ

の理解、京ことばに対する見解は傾聴に価するものである。

として、それらを箇条的に細説している。

㈹ 執筆にみる著者の姿勢

'

イ、庶人の身分を自覚し、僧家、武家に対しては敬遠の態度をと

り、特に公家のことは口にするをさける。

65、惣じて禁裡仙個の御ことは庶人の口にていふべきことにあら

ざれば、公家名目官爵の読かたなどは皆もらしつ。

輔、唐鞍、天子に着レ之給ひて臣下は不レ用。但野中には用ゆとか

や。そのほか……様々侍るよしなれど不知。

ロ、みずからを信ずること大なるも、謙虚さをうしなわないっ (序

麗)みずからもたえず修業した跡は、前述(前王㎜、序、襯、)の

語にもみえる。

貞徳終焉記にもみるごとく、彼は師に対し、人に対し温厚な人柄

であった。

む む

ハ、文章を「たゴことばでしるすのは愚子がよみやすからんため」

と序にいうが、理窟っぽい内容をもつ本書が、よんでは平易、時

に理論あり挿話ありで、おもしろいのは、著者のゆたかな文才を

おもわせる。

二、当時の発想として特に「創意にとむ」点は、

1、音声言語(口頭語)と文字言語(文章。書札)との区別を意

識していること。 (452834誤読など)

2、音韻・音調をとりあげている。 (216585蹴など)

3、唐人口・南蛮言葉などとあたらしい空気にもふれている。

(1新村博士は、師貞徳はキリシタンとふれあいのあった事を

といている。)

安原貞室著「かたこと」をよむ(上) 1内容の分類解明と著作意図の推究一

(133 )

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4、擬音語に着目し、巻二に5力条、巻五に69力条をとりあげて、

いること。

ホ、古をよし(53端など)とし、名目を尊重する姿勢は随所に続出

する。古典・故実がとうとばれる。

とうじみ

説、燈心を とうしん・とうずみなどはわうし。う・むの下は濁

るといふ事あり。……是は常に人のしらぬ名目なり。

48、……ぬかりといふは、吾妻こと葉なれどよきこと葉と云り。

……あづま路の道のぬかりの馬ざくり……などとよめりしも、む

かしの歌とかや。

た冒し典拠があっても、時代のちかい謡曲・狂言のこと葉には批

判をくわえる事もあり(35)、特に同時代の俳譜における作晶

や、判者の態度・評点に対しては、時にきびしい苦言を呈してい

る(9・15・28)。

へ、言へば言はる㌧もの、諄ふべからず。 (561)の態度

言葉は変化する。情勢の転移もあり、ふるい語があたらしい感覚

の語にとってかわられる場合もある。著者は古風をよしとする

が、しかし新風に順応するやわらかさももっていた。

4、右の三ケ条は、はやうより誤来りて人おほく云めれば、今更

改めがたし。……謬ふべからず。 (4の他、5謝躍鵬緬糀)

ト、京ことばとてもあしきあり(246)、地方語とてもよきものある

(48)をみとめる。

醐、其様なこと……といふべきを そんなこと、そがいなこと、

……そんなこっちやなどいふこと葉を……いふべからずと回り。

京の者の口になれて……なをりがたし。

48、……ぬかりといふは、吾妻こと葉なれどよきこと葉と量り。

鵬、 「その所々のこと葉なれば、いつれをよしあしともさだめが

たし。皆由緒あることにてもや侍らん。」などと寛容の態度をと

る。

以上のべたごとく、著者はみずからの信ずる規範意識を基に、か

たこと批正a信念と論述を展開しているが、態度は謙虚、文章は「

ただ詞しをもちいて平易流暢、発想は創意にとむ。尚古癖はある

が、言葉の変遷に対しては之を認容し、順応するゆとりもみせる。

関原の役後、わずか50年の時期にか㌧る書をみるは驚異である。

「按るに言語の転設を述べたるものにては読書尤も古かるべぐ、且

当時の俗語を知る為には益多かるべし。」とは国語学書目解題の評

である。 (49、9、10、稿)

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