永久歯への既製金属冠修復が保険適用になりました...

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24 日本歯科大学 校友会・歯学会 会報 Vol.44 No.4 2019 2018 年 12 月より,株式会社モリタより販売され ている「PERMA CROWNʀ」を用いた永久歯への 既製金属冠修復が保険適用となりました。対象は, 障がい者や認知症の方,要介護者など,歯科診療に 制約がある患者さんに限られていますが,障害者歯 科に携わるうえで待ちに待った材料です。 既製金属冠修復は,印象採得を行わず即日修復が 可能で,歯質切削量が少なく歯面全体を覆うことが できる点が大きなメリットとして挙げられます。ま た材料の特性上鋳造冠よりも強度は劣りますが,脳 性麻痺などの咬耗や食いしばりが強い患者さんで は,すり減りやすく対合歯への影響が少ないことか ら,あえて既製金属冠にて修復を行うこともありま す。 障害者歯科分野では様々な場面で応用される既製 金属冠ですが,鋳造冠と同様に扱うと適合不良や, 容易に脱離してしまうといったことが起こります。 1.形成について 一般的な鋳造冠修復を行う場合,アンダーカット がないよう,全周をシャンファーやナイフエッジで 形成を行います。一方,既製金属冠修復ではスナッ プ維持を求めるため,アンダーカットを付与するよ う頰舌側面は最大豊隆部を境とした二面形成としま す(図 1) 。また隣接面は臨床的歯頸線上にステッ プができないよう形成を行います。この際にステッ プが残存してしまうと既製金属冠が入らない原因と なります。最後は支台歯全体が丸みを帯びるよう, 隅角を整え形成は終了となります(図2)。 かめ おか りょう 2.調整について 支台歯に適した既製金属冠を選択し,冠縁が歯肉 縁下 0�5 ~ 1�0mm になるよう金冠ばさみや,カー ボランダムポイントを用いて調整を行います。最終 的な辺縁の調整やスナップ維持の付与を行う際に は,Gordon のプライヤーを用います。 3. 合着について 臨床では,防湿が困難であることも多いため,合 着用グラスアイオノマーセメントを用いて合着を行 います。既製金属冠修復では,支台歯と既製金属冠 の間に多くのスペースが存在するため,少量のセメ ントでは脱離や二次う蝕の原因となることがありま す。気泡が混入しないよう既製金属冠内部いっぱい にセメントを入れ,合着を行います。 普段なじみがなく難しいように感じられる先生も いらっしゃると思いますが,要件を満たせば既製金 属冠修復はさほど難しいものではありません。多く の先生が日々の臨床に活用していただき,今後はエ ナメル質形成不全歯などのより幅広い症例で適応さ れることを期待しています。 附属病院 小児歯科・ スペシャルニーズ歯科センター 図2 形成終了後(左)と既製金属冠装着時(右) 図1 スナップ維持のための形成 開業医・卒業生の「?」に答えます。 (東京都 T . I . さん 76回) 質問者 永久歯への既製金属冠修復が保険適用になりましたが, 注意点など教えてください。

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Page 1: 永久歯への既製金属冠修復が保険適用になりました …koyu-ndu.gr.jp/images/shiritai/16t.pdf24 日本歯科大学校友会・歯学会会報 Vol.44 No.4 2019 2018年12月より,株式会社モリタより販売され

24 日本歯科大学 校友会・歯学会 会報 Vol.44 No.4 2019

 2018 年 12 月より,株式会社モリタより販売されている「PERMACROWNʀ」を用いた永久歯への既製金属冠修復が保険適用となりました。対象は,障がい者や認知症の方,要介護者など,歯科診療に制約がある患者さんに限られていますが,障害者歯科に携わるうえで待ちに待った材料です。 既製金属冠修復は,印象採得を行わず即日修復が可能で,歯質切削量が少なく歯面全体を覆うことができる点が大きなメリットとして挙げられます。また材料の特性上鋳造冠よりも強度は劣りますが,脳性麻痺などの咬耗や食いしばりが強い患者さんでは,すり減りやすく対合歯への影響が少ないことから,あえて既製金属冠にて修復を行うこともあります。 障害者歯科分野では様々な場面で応用される既製金属冠ですが,鋳造冠と同様に扱うと適合不良や,容易に脱離してしまうといったことが起こります。

1.形成について 一般的な鋳造冠修復を行う場合,アンダーカットがないよう,全周をシャンファーやナイフエッジで形成を行います。一方,既製金属冠修復ではスナップ維持を求めるため,アンダーカットを付与するよう頰舌側面は最大豊隆部を境とした二面形成とします(図 1)。また隣接面は臨床的歯頸線上にステップができないよう形成を行います。この際にステップが残存してしまうと既製金属冠が入らない原因となります。最後は支台歯全体が丸みを帯びるよう,隅角を整え形成は終了となります(図 2)。

亀かめ

岡おか

亮りょう

質問の回答者

2.調整について 支台歯に適した既製金属冠を選択し,冠縁が歯肉縁下 0�5 ~ 1�0mm になるよう金冠ばさみや,カーボランダムポイントを用いて調整を行います。最終的な辺縁の調整やスナップ維持の付与を行う際には,Gordon のプライヤーを用います。

3. 合着について 臨床では,防湿が困難であることも多いため,合着用グラスアイオノマーセメントを用いて合着を行います。既製金属冠修復では,支台歯と既製金属冠の間に多くのスペースが存在するため,少量のセメントでは脱離や二次う蝕の原因となることがあります。気泡が混入しないよう既製金属冠内部いっぱいにセメントを入れ,合着を行います。 普段なじみがなく難しいように感じられる先生もいらっしゃると思いますが,要件を満たせば既製金属冠修復はさほど難しいものではありません。多くの先生が日々の臨床に活用していただき,今後はエナメル質形成不全歯などのより幅広い症例で適応されることを期待しています。

附属病院 小児歯科・スペシャルニーズ歯科センター

図2 形成終了後(左)と既製金属冠装着時(右)

図1 スナップ維持のための形成

開業医・卒業生の「?」に答えます。

(東京都 T.I.さん 76回)

質問者永久歯への既製金属冠修復が保険適用になりましたが,注意点など教えてください。