少子高齢化問題における金融の役割 と可能性について1.1...

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少子高齢化問題における金融の役割 と可能性について 平成 25 年度・26 年度 持続可能な地域支援 WG 活動レポート 持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則 21 世紀金融行動原則) 持続可能な地域支援 WG 座長

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Page 1: 少子高齢化問題における金融の役割 と可能性について1.1 問題意識・ワーキンググループの活動 地域社会(少子高齢化)の問題に対し、金融機関は十分に社会的な問題を理解し、それ

少子高齢化問題における金融の役割 と可能性について

平成 25 年度・26 年度

持続可能な地域支援 WG 活動レポート

持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則

(21 世紀金融行動原則)

持続可能な地域支援 WG 座長

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1. はじめに

1.1 問題意識・ワーキンググループの活動

地域社会(少子高齢化)の問題に対し、金融機関は十分に社会的な問題を理解し、それ

を踏まえて、地域での問題解決型の金融を考えねばならない。そもそも、少子高齢化は、

将来に渡って社会システムを維持できるかどうかという問題である。また、環境面では、

人口減少は長期的に自然資本の増減とも関連性があると言える。

なお、地域の問題は地方に限ったことではない。本レポートでも記載している通り、都

市部の将来的な高齢化率等を考慮すれば、少子高齢化は都市部の金融機関においても深

刻な問題である。

これらの社会問題を背景とし、金融機関として取り組む具体的な施策及び課題解決につ

いて検討するため、平成25年度第1回運営委員会において、当ワーキンググループが

設立された。

当ワーキンググループでは、平成25年度及び平成26年度においてこの社会問題を掘

り下げ、今後の金融機関の具体的方策を探るため、皆が目を背けがちである少子高齢化

問題の実態を、正面から理解することに注力した。

初年度である平成25年度では、外部有識者を招き、まずは少子高齢化問題の基礎と実

態を学ぶことに注力した。また、第4回では3回の外部有識者の話をもとに、ワーキン

ググループ参加金融機関とともに、フリーディスカッションを実施した。

第1回:山崎史朗氏(消費者庁次長)よりご講演

第2回:高橋紘士氏(国際医療福祉大学大学院教授)よりご講演

第3回:中村 秀一 氏(内閣官房社会保障改革担当室長)よりご講演

第4回:第1回から第3回の活動を踏まえてのディスカッション

2年目に当たる平成26年度では、地域包括ケア等に力点を置き、有識者から追加で講

演をいただいた他、地域包括ケアの現場の視察や、少子高齢化問題に対して具体的に金

融機関がどのような取組ができるかの可能性を模索するディスカッションを実施した。

第1回:三原 岳氏 (東京財団 研究員 兼 政策プロデューサー)よりご講演

第2回:東埼玉総合病院(埼玉県幸手市)現地視察

第3回:今までの活動を踏まえてのディスカッション

第4回:自治体・不動産の切り口を交えてのご講演及びディスカッション

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1.2 本レポートの性格

本レポートは、当ワーキンググループの中で得られた知見や示唆を背景とともに説明し、

またそれらを踏まえたディスカッションの中で得られた、今後の金融機関が少子高齢社

会において担いうる役割や、可能性のある取組の切り口を整理したものである。

21 世紀金融行動原則に署名している金融機関は、本レポートを通して各金融機関が直面

する課題を改めて見つめ、金融機関が地域に貢献できる可能性を模索することを期待し

ている。また、かかる模索に当たっては、当ワーキンググループにおいて共に議論し、

解決策を見いだせることを期待している。

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2 各講演(平成 25~26 年度)の論点整理

2.1 H25 第1回:「日本の少子・高齢社会の現状と課題」

山崎史朗氏(消費者庁次長)

2011年厚生労働省社会・援護局長、2012年 9月から内閣府政策統括官、2013年 6月

28日の発令で消費者庁次長に異動。

<以下講演の内容>

高齢化問題は地方の問題と考えられがちであるが、都市部においても深刻な問題。介護

保険制度の推移は、2000年には10人であったものが2010年には6人に1人という状況。

都市部の介護制度はまだ十分ではなく、かつ今後高齢化が特に進むのが都市部であるた

め、予断を許さない状況。

出典)平成25年度第1回講演資料より

介護の点では、認知症が今後の大きな課題であり、現在 280万人であり、軽度認知障害

を含めると約 800万人がいるといわれている。

少子高齢化問題については、地域間格差が大きい。人口推移については、ステップ1:

高齢者の増加→ステップ2:子供の人口が減っていく(高齢者は横ばい)、ステップ3:

高齢者も減り出す(全国平均では、2060年目途)という流れで推移していくが、山口県

長門市等では、既に高齢者も減り出すというステップ3の段階に入っている。即ち、高

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齢化問題は、全国同じレベルで扱うことはできない。また、地域がステップ3に移れば、

猛烈な人口減少に突入する。

現在、既に地方で老人ホームを運営する企業や社会福祉法人は都市部の高齢者人口増加

を見据え、東京に進出し始めている。

我が国の介護基盤の強化等高齢者の保険福祉推進のために 1989 年に策定されたゴール

ドプランの下、先に高齢化が進んだ地方で多くの施設が造られたが、現在高齢者が地方

で減り始め都市部で増える傾向があるため、むしろ今後、医療・介護施設が急速に不足

する都市部での高齢化問題の深刻化が非常に懸念される。特に首都圏では、高齢者を含

む住民自身がこの問題に気づいていないため、解決への道筋が見えない。

出典)平成25年度第1回講演資料より

2.2 H25 第 2 回

「地域包括ケアシステムの構築における住宅政策と医療介護政策の再編」

高橋紘士氏(国際医療福祉大学大学院教授)

全国社会福祉協議会研究情報センター所長、社会福祉医療事業団(現福祉医療機構)

理事などを歴任。

<以下講演の内容>

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日本の社会福祉法人・医療法人は内部留保をため込んでいる傾向があり、これを地域で

還元することが必要。

高齢者の死後処理問題で私たちが想定していなかったことが起こり、例えば相続財産で

ある不動産で考えてみても、空き家率は地方では 15%を超え、都心でも 10%を既に超え

ている中で、高層マンションが引き取り手のない相続財産として残る等、今までの資産

運用の前提は通じなくなる。

日本では高齢者の「看取りの場所」が病院である割合が、海外に比べて非常に高い。戦

前は日本でも「看取りの場所」は多くが自宅であったことから、急激に病院での看取り

が増加したことになる。今後の高齢化の進展により、病床数が間に合わない地域におい

て、病院ででも自宅でも看取りができない、すなわち死に場所が見つからない状況すら

発生しかねない。各自が死に場所を確保するためには、自宅で死ねる環境を作る必要が

ある。そのためには「共助」のシステムが必要であり、「地域包括ケア」の役割が大き

い。

出典)平成25年度第2回講演資料より

日本は、住宅や都市計画においてこれまで高齢化を無視した空間設計をやってきた。ヨ

ーロッパでは公的性格の住宅が多く、また高齢者が過ごしやすいように配慮されている。

日本でも、たとえば障がい者、高齢者、若い学生が一緒に住めるような、今で言うコレ

クティブハウス型の施設を作る等、地域で生活を支えるという考え方を基本とした単な

る病院施設以外のいろいろな試みが広がってきており、事業計画・内容を考慮しての金

融機関の融資拡大に期待する。

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2.3 H25 第 3 回:「介護と認知症」

中村 秀一 氏(内閣官房社会保障改革担当室長)

2001 年 厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、2002 年 厚生労働省老

健局、2005 年 厚生労働省社会・援護局長、2010 年から現職。

<以下講演の内容>

介護保険がスタートした 2000 年は施設における介護費用の方が多かったが、次第に在

宅関係にかかる費用の方が増えてきている。特に通所介護費用が急増しており、ついに

介護老人保健施設の費用を抜いて特別養護老人ホームの費用に次ぐ位置まできている。

出典)平成25年度第3回講演資料より

高齢者の支援の現状は、介護施設(特別養護老人ホーム・老健施設・介護病院)に入っ

ている人の数は 92 万人で、65 歳以上全体の 97%が在宅と考えられている。また、要支

援・要介護認定者の 82%が在宅と考えられている。今後 2025 年、2030 年までに 600 万

人程度の高齢者人口が増えることを考慮すれば、その全てを介護 3施設(特別養護老人

ホーム・老健施設・介護病院)をつくり、入居させていくということは現実的ではなく、

今後どんな住まい方をしても、その建物の中にある介護サービスか、建物の外から調達

する介護サービスや医療サービスで高齢者の生活を維持できるようにしていかなけれ

ばならない。

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出典)平成25年度第3回講演資料より

現在、要支援の人は 100万人を超えており、要介護・要支援認定者全体の 25%を占める。

この要支援の人達に対しては、予防を重視した予防給付に変えようという議論がなされ、

今回の介護保険では、今後自治体や NPO、ボランティア等による地域支援事業を活用し、

地域での支え合いを増やそうと問題提起されている。

現在、全国の 65 歳以上の高齢者では、認知症の該当者の割合が既に 15%に達している。

今後、高齢者の増加が想定されるため、社会における認知症該当者の割合が増えること

となり、事態は深刻である。

年金に対する議論については、社会保証の中の年金シェアは、今後どんどん減っていく

ことが既に決定されており、国においては介護と医療が重要視されていく。

金融機関の役割:

〔ハード面〕

これから増える高齢者の6割が首都圏に集中してくる。しかし、首都圏では特別

養護老人ホームの数が非常に少ない。現在、都市の再開発や介護事業等を行う株式

会社と連携して参画する事業者が増加しており、今後このようなプロジェクトを一

層支えていくことが金融機関に期待される。

〔ソフト面〕

今後、生涯所得に対する年金の割合は、50%程度に下がっていくことになるので、

公的年金に対する、私的年金の補完機能が注目される。

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2.4 H26 第 1 回:「地域包括ケアの現状と地域金融機関への示唆」

三原 岳氏 (東京財団 研究員 兼 政策プロデューサー)

1995年時事通信社に入社し、経済部、高知支局、内政部で勤務。その間、財務省、国

土交通省、文部科学省、全国知事会などを担当し、税財政や地方行財政、公共事業、教

育などの政策決定過程を取材。2011 年 4月から現職。

<以下講演の内容>

人口の減少と少子高齢化が急速に進展する中、地域の持続可能性が問われている。こ

れまでの病院・施設中心の高齢者のケアには限界があり、国は在宅に力点を置いた共

助システムである「地域包括ケア」を推進している。

住民が自らの意思で生き方と住まい方を決め、そこに生活支援サービスや医療・介護

といった各種サービスが育つイメージ。これは一種のまちづくりであり、本質的には

商店街の振興と変わりない。

出典)平成 26 年度第1回講演資料より

しかし、地域包括ケアはサービスを整備するだけで完結するわけではなく、住民が主

体的に参画しなければ機能しない。同時に、地域ごとに異なる健康課題やケアに使え

る地域資源などを把握しなければならない。

国の政策で地域包括支援ケアセンターはその拠点として期待されており、医療等多職

種連携の下、地域包括ケアを支えていくことが期待されている。また多職種連携と地

域資源活用のため、「地域ケア会議」の設置が義務化され、また制度以外で高齢者を支

えるため、「生活支援コーディネーター」が設けられる。

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ただし、実際の医療・介護・福祉制度は縦割りで作られており、都道府県や市町村も

相互連携がとれていない。こうした課題に取り組む地域包括ケアのモデルが日本各地

で生まれている。国保病院に役場の健康、福祉部門を併設し、様々なサービスをワン

ストップで提供している宮城県の涌谷町、高齢化が進む団地横の東埼玉総合病院を中

心に様々な専門職だけでなく、住民や地域団体を巻き込んでいる埼玉県幸手市などが

好例。

これらの取組において、地域金融機関も役割の一部を担うことができるのではないか。

まず、地域によって異なる健康課題や疾病構造の把握、ケアに使える地域資源などを把

握しつつ、地域金融機関としてできることを探すべきではないか。

地域包括支援センターの存在すら知らない金融機関も多いが、情報発信など連携できる

余地があるのではないか。

2.5 H26 第 2 回:「地域包括ケアに関する幸手市現地視察」

中野 智紀氏(東埼玉総合病院 在宅医療連携拠点事業推進室 室長)

地域包括ケアシステムにおいて代表的な取組を行う幸手モデル(埼玉県)の視察を実施。前

半は東埼玉総合病院にて、在宅医療連携拠点事業室の中野氏より幸手モデルについての説

明を受け、その後幸手モデルの中で重要な役割を担っている地域の NPOを訪問し、ディス

カッションを行った。

<以下講演の内容>

埼玉県幸手市や周辺地域では、「医療資源の不足」という問題があるが、これを解決す

るために地域の医療機関が協力して診療にあたる「地域完結型医療」を推進。また、地

域医療 IT ネットワーク「とねっと」も稼働され、患者の医療情報を複数の医療機関等

で共有できる体制を実現。

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出典)平成 26 年度第 2 回講演資料より

地域包括支援センターの医療側の窓口として、在宅医療連携拠点を東埼玉総合病院に置

いているが、これは医師会を通して実施している事業。医師会を通すことで行政と医師

会の連携がスムースにできている。さらに介護との連携も図れる。

病院主体ではなく、住民主体の体制づくりを行っている。具体的には、地域で活動して

いる NPOやコミュニティデザイナーとともに活動している。

高齢化する地域コミュニティに潜在する未治療の疾病や健康生活リスクを吸い上げる

ための努力を行っている。例えば「暮らしの保健室」という地域にある相談室が幸手市

内外には 12 か所ある。ここで相談を受けた内容を医療、心理社会的問題、生活健康問

題などに分類し、医療に関係することは、総合病院やかかりつけ医へ紹介することで、

医療や介護へつなぐことが可能。

出典)平成 26 年度第 2 回講演資料より

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ディスカッション

幸手モデルの標準化は難しい。各地域の課題の違いを踏まえた、現状把握と判断の繰り

返しであり、それを解決するためにどのような情報を得るのか、その時に地域に適した

資源があるのかを知らないと動かせない。連携できる人・団体をつなぐことを繰り返し

てきた。

地域包括ケアシステムの幸手モデルは基本的に住民主体でないといけない。ただし、医

療のために住民主体になってくださいというのは難しい。同じ方向で進む方法としては、

住民にとっては街づくりである。また、街づくりと共有できるのは防災である。

埼玉県は元々東京のインフラを使っているので産業が育成せず、教育や医療等も不十分

なままここまできている。さらに医療介護の莫大なニーズがかかっているのがこの地域

の問題。

2.6 H26 第 4 回

第4回においては、環境不動産ワーキンググループと共催で開催し、少子化・高齢社会問題

と不動産の観点から金融機関の可能性について議論を行った。

<以下講演の内容>

「人口動態・少子高齢社会問題について」

中村 欣央 氏(株式会社日本政策投資銀行 地域企画部 担当部長)

人口減少社会に入っていく中で、問題点や課題解決策を考える必要があるため、「人口

減少問題研究会」を設置し、地域に焦点を当て、将来の人口減少が地域の経済・産業・

都市構造等に与える影響の分析と、人口減少に対応した地域企業・自治体の経営の方向

性、地域金融に期待される役割の考察を行い、2年間の研究の末、2014 年 6月に最終報

告書を公表した。

非常に人数が多い団塊ジュニア世代が 40 代に突入し、出産適齢期を過ぎてしまってい

る。そのため、国の少子化対策がすぐに効果をあげても我が国の人口減少傾向は変わら

ず、人口が減ることを前提に考えねばならないのが日本の現状。

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出典)平成26年度第4回講演資料より

都道府県別に年齢階層別の 30 年(2010~2040 年)の人口の推移を見ると、生産年齢人

口、年少人口はどの地域でも減ることがわかる。一方で、老年人口は、地方の県ではあ

まり増減しないが、急増する大都市圏や地方の中枢都市では、病院、介護施設不足の顕

在化が推測できる。

出典)平成26年度第4回講演資料より

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総務省の全国消費実態調査の世帯主の年齢階層別消費支出と年齢階層別の人口予測を

かけあわせて試算したグラフから、高齢世帯で比較的支出の大きい住宅設備修繕・維持、

リフォーム関係、医薬品は現状よりも消費が増えると予測でき、若年世帯が多く支出し

ている外食や洋服、さらに教育といったような分野は、平均以上に消費が縮小すると予

測される。

出典)平成26年度第4回講演資料より

地域別で見ると、人口減少が激しい東北、四国等の地域では、30年間で 2割前後消費が

減少すると予測される。

出典)平成26年度第4回講演資料より

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人口が減少していくと、需要面では、内需の縮小あるいは需要構造の変化が生じ、供給面で

は労働力が少なくなっていく。企業としては、高齢者市場や域外市場、海外市場を開拓しつつ、

付加価値の向上や、外部人材及び女性、高齢者等の有効活用を通して生産性の向上を図っ

ていくことが、大まかな対応の方向性かと思う。

出典)平成26年度第4回講演資料より

財政制約のもと、インフラの維持更新はある程度の選別が必要となる。内閣府の調査を

参考にすると、ほとんどの人が 1km以内と答えているが、70歳以上だと、500m以内が

一番多くなっている。当然、年をとると歩いて行ける距離は狭まってくる。したがって

コンパクトシティの形成が方向性の一つとして鍵となり、それに合ったインフラの維持

更新を行っていく必要がある。その際に、公有資産マネジメントという考え方や手法が

出てくる。また、実施団体に対しての、PPP 、PFIの活用も考えられる。

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出典)平成26年度第4回講演資料より

地域金融機関は、人口減少に伴い、より能動的に地域企業の成長支援を行い、地域経済

の拡大に貢献していくことが求められ、また資金面のみではなく、知的貢献も含めて支

援していくことが求められるだろう。その際、経営支援において、全国展開する専門機

関や専門家と連携して対応していくべきである。また、自治体と密接な連携体制を構築

することに加え、金融機関の有するネットワークを活用したヒト、情報の融通に関わる

媒介機能の強化も有効である。

これらを取り組むに当たっては、「企業」、「自治体」、「金融機関」、「教育機関・研究機

関」が一堂に介し、地域の経済・産業の情報を共有する、そのうえで政策の優先順位を

検討、あるいは成長戦略の作成、成長戦略の実現のための連携スキームを検討していく

という「地域経済連携広域プラットフォーム」の形成を提案している。

出典)平成26年度第4回講演資料より

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「少子高齢社会に求められる公共施設マネジメント」

遠藤 健 氏(株式会社 日本政策投資銀行 地域企画部 課長)

自治体に求められる公共施設マネジメントとは、保有する公共施設を総合的に把握し、

財政運営と連動しながら管理・活用する仕組みのことであり、単なる施設更新計画・保

全計画ではない。平成 26年 4月 22日、総務省から全国の自治体に対して、「公共施設

等総合管理計画」の策定要請が行われ、実質的に平成 28 年度末までの策定を求められ

ている。

平成 26年 10月の総務省の調査結果では、全国の自治体の99.7%と殆どの自治体が

「公共施設等総合管理計画」の策定を予定している。一方、分野別・地域別等の再配置

方針を含む計画策定にまで至っている自治体は、現段階では少数。

出典)平成26年度第4回講演資料より

人口減少下で国や自治体の財政制約は厳しい一方で、公的ストックの老朽化は急速に進

んでいる。現在ある公的ストックを維持する前提、かつ投資可能総額を 2010 年度以降

横ばいと設定した試算(平成 21 年度国土交通白書)では、今後、社会資本の新設は難

しくなるうえ、 更新できない公的ストックが全国で約 30 兆円にものぼるといわれて

いる。

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出典)平成26年度第4回講演資料より

公共施設マネジメントでは、定量的に可視化されたマネジメント方針の策定が有効であ

る。また、個別不動産の具体的なマネジメントへの移行に際しては、PPP、PFIの活用が

重要。

マネジメント方針の策定においては、公共施設の実態把握だけに留まるのではなく、人

口動態や財政状況を捉えることが必要である。例えば人口と施設配置の分析を行うこと

により、需要と施設配置のミスマッチの有無を把握することができ、効果的な計画策

定・実行に繋げることができる。

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出典)平成26年度第4回講演資料より

今後の施設維持・更新費用を試算した結果、将来に亘って維持できる公共施設が現状と

比べて大幅減を余儀なくされる見込となった場合には、保全計画や施設維持管理手法の

見直し等をあわせて実施することで、比較的現実的な公的ストックの減少幅に抑えるこ

とも想定可能。

公共施設の再編成においては、当行が実施したアンケート結果によると、約9割の住民

が公共施設の再編成に賛成し、かつ約9割の住民が利便性の低下をも許容している。こ

の分野の市民会議やワークショップを支援してきた経験を踏まえると、住民への丁寧か

つ透明性のある説明や情報提供を行えば、しっかりと住民として考えて頂き、的確な方

向に検討が進むと思われる。

今後、公共施設マネジメントの進展に伴い、遊休・低稼働となった公共施設の利活用が

求められる。特に学校は、少子化の進展に加え、文部科学省による統廃合基準の見直し

もあり、廃校や空き教室が増える可能性が高い。学校はコミュニティの拠点機能を担っ

てきたことから、用途を変換し、地域において活用されることが期待されており、全国

で既に様々な事例がある(例:にしすがも創造舎(劇場・稽古場)、世田谷ものづくり

学校(起業家育成施設)、東京おもちゃ美術館、ヘルスケアタウンにしおおい(高優賃・

保育園等))。

出典)平成26年度第4回講演資料より

自治体と民間が連携しながら持続的な街づくりの財源を確保する手法として、欧米では

BID(Business Improvement District:主に地権者が地域の発展を目的に必要な事業を

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行うための組織化と財源調達を行う仕組み)や TIF(Tax Increment Finance:プロジェ

クトの実施により生じる税収増を返済財源とする債券)を用いた手法がある。我が国で

も、BID 類似事例として、近時、大阪市と北海道倶知安町でエリアマネジメント関連の

条例が成立したところであり、今後の運用がおおいに期待される。

出典)平成26年度第4回講演資料より

【ポイント】

①自治体にとって、公共施設等総合管理計画の策定等、公共施設マネジメントは必ず取り組

まねばならないテーマであり、かつ金融機関にとっても貢献できる余地が大きい。

②一例として学校の利活用(コンバージョン)事例を取り上げたが、学校施設以外でも地域

には 遊休・低稼働の資産がある。地域課題を認識した上で、それらの地域資産を活用す

る視点で 知恵を出す必要があり、ここで金融機関がヒントを出せるのではないか。結果

として投融資機会の創出にも繋げられる。

③自治体と地域が連携した資金調達の手法の検討・構築についても、金融機関が貢献できる

余地があるのではないか。

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3 少子高齢化問題における金融の役割と可能性

3.1 役割と可能性に関する議論の整理

当ワーキンググループでは、少子高齢化問題における金融と役割の可能性について複数

回のディスカッションを実施してきた。また、地域包括ケアの理解を深める観点から、

埼玉県幸手市の東埼玉総合病院へと現地視察を実施した。これらの活動より、得られた

金融の役割と可能性について、以下に整理する。

〈金融機関の役割と可能性〉

【融資】

老人ホームほか介護事業者等少子高齢化問題と関連する事業性を見極めての融資

在宅を支援する介護サービスの供給が不足している。(H26 第 3回)

小規模介護事業者に対する売掛債権のファクタリング(H25第 4回)

リバースモーゲージの活用(H25第 4回)

リバースモーゲージの制度の観点のみならず、+αの踏み込んだ支援が必要。

(H26第 1回)

【保険】

生涯所得に対する年金割合減少に伴う、公的年金の補完機能を担う、私的年金の

提供。

本業とのシナジー効果を与え得る介護事業へのグループでの参入(H26第 3回)

【運用/証券】

クラウドファンディング、SRI 関連投資との連携により、地域の社会事業者の支

援を実施する。(H25 第 4回)

地域の少子高齢化に応じて立ち上がった市民ファンドを応援する。

(H26第 1回)

資産保有者の高齢化に伴う相続問題への対応強化(H26第 3回)

【共通】

認知症サポーターの拡大を通しての高齢者支援(H25第 4回等)

独居老人に対する見守りサービス/人との繋がりの構築

自治体との連携による公共施設のコミュニティスペースとしての活用

(H26第 1回)

高齢者宅の訪問時に、高齢者の人生設計を一緒に見つめるようなシートの共

Page 22: 少子高齢化問題における金融の役割 と可能性について1.1 問題意識・ワーキンググループの活動 地域社会(少子高齢化)の問題に対し、金融機関は十分に社会的な問題を理解し、それ

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有等を導入する。(H26 第 1回)

行政と連携し、見守りサービスの質を一層高める。(H26 第 3回)

地域の専門家や NGOとの連携を通しての地域包括ケアの支援(H25第 4回)

地域包括ケアセンターと金融機関との連携(H26第 1回)

東京の高齢者はコミュニティを有していない場合が多く、地域包括ケアの基

礎となる地域コミュニティを創出できる事業者の育成(H26第 3回)

公共施設のマネジメントにおける自治体と金融機関の連携

地域課題の共有や遊休・低稼働の資産活用における資金調達手法での連携

(H26第 4回)

3.2 さらなる可能性の模索(今後の活動方針)

少子高齢化問題における金融の役割と可能性に関して、3.1 のように当ワーキンググル

ープの途中経過として整理が実施できた。しかしながら、地域包括ケアを含む地域の少

子高齢化問題については、深掘りすればするほど、新たな課題が発見されることもわか

った。

また、少子高齢化問題は、幅広い業態の金融機関が深く関連する問題であることが再確

認できた。今後さらに取組の切り口等の整理を行うと同時に、各金融機関が取りうるア

プローチを結び付けることで、業界を超えた新たな価値の発掘や商品開発を行い地域に

貢献できる可能性も十分にあると考えられ、金融行動原則のダイナミズムを体現できる

のではないか。

当ワーキンググループでは、具体的な解決の糸口をさらに模索するため、引き続き少子

高齢化問題を採り上げ、議論していく予定である。来年度以降、より多くの金融機関が

当ワーキンググループに参加し、金融機関が少子高齢化問題解決に貢献できる幅広いア

プローチの発見と、解決への可能性を拡大できることを期待している。

以上