京都大学 生態学研究センター...センターニュースno....

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京都大学生態学研究センター 520-2113 滋賀県大津市平野 2 丁目 509-3 センター長 高林純示 Center for Ecological Research, Kyoto University 2-509-3 Hirano, Otsu, Shiga, 520-2113, Japan Home page : http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp 目 次 2008(平成 20)年度センター活動予定........................... 1 京都大学生態学研究センター運営委員会 (第 48 回)(第 49 回)(第 50 回)議事要旨............ 3 京都大学生態学研究センター協議員会 (第 59 回)(第 60 回)(第 61 回)議事要旨............ 5 生態学研究センター協議員・運営委員名簿.................... 7 センター員の異動................................................................ 8 2008 年度協力研究員リスト............................................... 9 研究会・実習等の開催予定................................................11 平成 20 年度インターラボ開催報告................................. 16 新センター員の紹介       谷内茂雄............... 17 生態研ライブラリーの紹介............................................... 19 生態研セミナー参加レポート............................................20 センターのプロジェクト紹介  大串隆之....................26 センター員の研究紹介     奥田 昇....................27 有村源一郎................29 今井伸夫....................30 塩寺さとみ................31 遠藤千尋....................32 センターを去るにあたって   酒井章子....................34 高津文人....................34 西村洋子....................35 INFORMATION ....................................................................36 編集後記................................................................................36 京都大学生態学研究センターニュース Center for Ecological Research NEWS 2008. 7. 20 No. 101 京都大学 生態学研究センター Center for Ecological Research Kyoto University -1- 2008(平成 20)年度センター活動予定 生態学研究センターにおける 2008 年度の活動予定は 以下の通りです。 センターニュース、セミナーなど、センターの最新 情報は、ホームページ(http://www.ecology.kyoto-u.ac.jpで公開しています。 1.共同研究 2007 年度から始まったグローバル COE「生物の多様 性と進化研究のための拠点形成 ―ゲノムから生態系ま で―」 (研究代表者:阿形清和)(文部科学省研究拠点形 成費補助金)、「アジア熱帯降雨林地域における土地利用 転換の広域影響把握と社会適応策の構築」(研究代表者: 北山兼弘)(日本学術振興会 アジア・アフリカ学術基盤 形成事業)、2008 年度から始まった「生物多様性を維持 促進する生物間相互作用ネッ トワーク ―ゲノムから生 態系まで―」(研究代表者:高林純示)(日本学術振興会 先端拠点事業 ―拠点形成型―)、 また流動連携機関であ る総合地球環境学研究所との 3 つの共同企画プロジェク トをはじめ、個人レベルでも活発な共同研究が進められ ている。

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Page 1: 京都大学 生態学研究センター...センターニュースNo. 101-3-京都大学生態学研究センター 運営委員会(第48回)議事要旨 日 時: 平成19 年11

京都大学生態学研究センター  〒 520-2113 滋賀県大津市平野 2丁目 509-3

               センター長 高林純示

Center for Ecological Research, Kyoto University

2-509-3 Hirano, Otsu, Shiga, 520-2113, Japan

Home page : http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp

目 次2008(平成 20)年度センター活動予定........................... 1

京都大学生態学研究センター運営委員会  (第 48回)(第 49回)(第 50回)議事要旨............ 3

京都大学生態学研究センター協議員会  (第 59回)(第 60回)(第 61回)議事要旨............ 5

生態学研究センター協議員・運営委員名簿.................... 7

センター員の異動................................................................ 8

2008年度協力研究員リスト............................................... 9

研究会・実習等の開催予定................................................11

平成 20年度インターラボ開催報告................................. 16

新センター員の紹介       谷内茂雄............... 17

生態研ライブラリーの紹介............................................... 19

生態研セミナー参加レポート............................................20

センターのプロジェクト紹介  大串隆之....................26

センター員の研究紹介     奥田 昇....................27

               有村源一郎................29

               今井伸夫....................30

               塩寺さとみ................31

               遠藤千尋....................32

センターを去るにあたって   酒井章子....................34

               高津文人....................34

               西村洋子....................35

INFORMATION ....................................................................36

編集後記................................................................................36

京都大学生態学研究センターニュース

Center for Ecological Research NEWS  2008. 7. 20 No. 101

京都大学

生態学研究センターCenter for Ecological Research

Kyoto University

-1-

2008(平成20)年度センター活動予定

生態学研究センターにおける 2008年度の活動予定は以下の通りです。センターニュース、セミナーなど、センターの最新情報は、ホームページ(http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp)で公開しています。

1.共同研究

 2007年度から始まったグローバル COE「生物の多様性と進化研究のための拠点形成 ―ゲノムから生態系ま

で―」 (研究代表者:阿形清和)(文部科学省研究拠点形成費補助金)、「アジア熱帯降雨林地域における土地利用転換の広域影響把握と社会適応策の構築」(研究代表者:北山兼弘)(日本学術振興会 アジア・アフリカ学術基盤形成事業)、2008年度から始まった「生物多様性を維持促進する生物間相互作用ネッ トワーク ―ゲノムから生態系まで―」(研究代表者:高林純示)(日本学術振興会

先端拠点事業 ―拠点形成型―)、 また流動連携機関である総合地球環境学研究所との 3つの共同企画プロジェクトをはじめ、個人レベルでも活発な共同研究が進められている。

Page 2: 京都大学 生態学研究センター...センターニュースNo. 101-3-京都大学生態学研究センター 運営委員会(第48回)議事要旨 日 時: 平成19 年11

センターニュース No. 101

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2.協力研究員

引き続き、協力研究員(Guest Scientist)を公募する。

3.公募型共同利用事業

2008年度公募型共同利用事業として、分野間の交流や若手研究者の育成の観点から、以下の 3件の研究会、3件の集中講義 &セミナー、3件の野外実習が採択された。開催の日程などの詳細は、センターホームページに掲載する。

〈研究会〉1)代表者 :仲岡雅裕

(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所 :教授)

『生物多様性・生態系機能の適応管理に向けた観測 体制の構築』開催予定日 : 2008年 7月 2日~ 7月 3日開催予定地 :北海道大学

2)代表者 :大河内直彦(海洋研究開発機構・地球内部変動研究センター :

グループリーダー)『安定同位体分析による生態系研究の最前線』開催予定日 : 2008年 8月 10日開催予定地 :芝蘭会館

3)代表者 :近藤倫生 (龍谷大学理工学部 :准教授)『空間構造と食物網』開催予定日 : 2008年 12月 18日開催予定地 :京都大学生態学研究センター

〈集中講義&セミナー〉1)代表者 :椿 宜高 (京都大学生態学研究センター :教

授)『生物多様性研究の新展開 :静から動へのパラダイムシフト(1)』

開催予定日 : 2008年 9月 16日開催予定地 :京都大学生態学研究センター

2)代表者 :椿 宜高(京都大学生態学研究センター :教授)

『生物多様性研究の新展開 :静から動へのパラダイムシフト(2)』開催予定日 : 2008年 11月 19日開催予定地 :京都大学生態学研究センター

3)代表者 :椿 宜高 (京都大学生態学研究センター :教授)

『生物多様性研究の新展開 :静から動へのパラダイムシフト(3)』

開催予定日 : 2009年 1月 20日開催予定地 :京都大学生態学研究センター

〈野外実習〉1)代表者 :奥田 昇(京都大学生態学研究センター :准

教授)『河川生態系の環境構造と生物群集に関する木曽実習』

開催予定日 : 2008年 8月 2日~ 8月 9日開催予定地 :木曽生物学研究所

2)代表者 :島野智之(宮城教育大学環境教育実践研究センター :准教授)

『陸上生態系における土壌ダニ類の野外調査法および分類法の習得』

開催予定日 : 2008年 9月 1日~ 9月 5日開催予定地 :北海道教育大学

3)代表者 :陀安一郎 (京都大学生態学研究センター :准教授)

『安定同位体実習』開催予定日 : 2008年 9月 8日~ 9月 12日開催予定地 :京都大学生態学研究センター

4.生態研セミナー

前年度にひき続き、月一回程度(第三金曜日)センター外の方々も自由に参加できるセミナーを開催する。場所は京都大学生態学研究センター第二講義室(会場への道順は、センターのホームページ参照)の予定である。

5.ニュースレターの発行

センターニュースは、印刷物として年に 3回(7月、11月、3月)発行する予定である。また、その内容は、センターのホームページでも公開する。センターの活動紹介の他、研究の自由な討議の場を提供していきたい。

6.共同利用施設

大型分析機器:DNA関係では DNAシークエンサー、全自動蛋白質一次構造分析装置、微量蛋白質精製分取装置、蛍光分光光度計、液体クロマトグラフアミノ酸分析計、自記分光光度計、超遠心機など、安定同位体関係ではガスクロ燃焼装置付質量分析計および水同位体比分析用自動前処理装置(MAT252)、元素分析計付質量分析計(コンフロ、delta S)が稼働している。

琵琶湖観測船:高速観測調査船「はす」、「エロディア」が稼動しており、観測調査、実習に利用される。これらの船舶は、旧センター所在地(下阪本)に係留されている。

シンバイオトロン:ズートロン、アクアトロン、水域モジュールが運転されている。

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センターニュース No. 101

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京都大学生態学研究センター 運営委員会(第 48回)議事要旨

日 時 : 平成 19年 11月 6日(火)    午後 1時 30分~午後 2時 20分場 所 : 京都大学吉田泉殿 1階セミナー室出席者 :運営委員 17名、幹事 1名

 前々回(第 46回)ならびに前回(第 47回)議事録(案)の昇任を得た。

(審議事項)1.山村教授の後任教員人事について  高林センター長より、「資料 1」に基づき、山村教授の後任教員人事の選考経緯、手順、候補者の経歴等の紹介並びに教授会の選考理由等について説明の後、意見交換を行い、可否投票を実施した結果、可 15票、否 0票、白票 1票で、教授会承認の候補者の採用が承認された。(可否投票―山内准教授退席)

2.その他・割愛依頼について  高林センター長より、「資料 2」に基づき、東京大学海洋研究所から依頼があった永田教授の割愛(平成20年 4月 1日付け)について、教授会で承認した旨の説明の後、永田教授から補足説明があり、意見交換の結果、了承された

  審議終了後、高林センター長より、2日連続で運営委員会を開催することになった経緯とお詫びが述べられ、併せて、翌日(7日)の会議について、審議内容の説明並びに会議への出席依頼があった。

※ 人事資料回収(文責:椿 宜高)

 

京都大学生態学研究センター 運営委員会(第 49回)議事要旨

日 時 : 平成 19年 11月 7日(水)    午前 9時 03分~午前 10時 40分場 所 : 京都大学吉田泉殿 1階セミナー室出席者 :運営委員 18名、幹事 1名

(審議事項)1.教員人事について  高林センター長より、「資料 1-1」に基づき、永田教授の後任人事(水域生態学)公募案について説明の後、意見交換を行い、日本文については一部文言を追加して公募案とし、英文については更に検討したうえで、ホームページに公開することについて了承された。  続いて、高林センター長より、「資料 1-2」に基づき、准教授の後任人事(生態科学)公募案について説明の後、意見交換を行い、対象分野を「熱帯生態学」に変更のうえ、日本文については文言を一部変更して公募案とし、英文については更に検討したうえで、教授の公募案と統一してホームページに公開することについて了承された

2.その他・今後の人事の進め方について

齋藤委員より、今後の人事の進め方について、若手を助教へ採用するなど人事を工夫すること、分野を限定しない公募を実施すること等を最優先に考えて、ベストな人事の実施について要望があった。 大串委員より、生態研と地球研とのあり方について、生態研の外部からの印象を求める意見があり、意見交換が行われた。

(文責:椿 宜高)

実験圃場林園:センター敷地内には、実験圃場、樹種植栽林園、林木群集実験植物園、CERの森、実験池があり、種々の野外実験に利用されている。

上記施設・設備の利用希望者は、事前に担当者に連絡してください。

DNAシークエンサー等関係:工藤安定同位体関係:陀安

観測船関係:奥田シンバイオトロン関係:奥田実験圃場林園関係:椿

7.協議員会、運営委員会

昨年度と同様、それぞれ数回開催される予定である。

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センターニュース No. 101

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京都大学生態学研究センター 運営委員会(第 50回)議事要旨

日 時 : 平成 20年 2月 8日(金)    午前 10時 00分~午前 11時 20分場 所 : 京都大学吉田泉殿 1階セミナー室出席者 :運営委員 22名、幹事 1名

議事に先立ち新任の事務方の紹介があった。

 前々回(第 48回)並びに前回(第 49回)議事録(案)の承認を得た。

(議 題)1.人事について・総合地球環境学研究所と生態研との交換人事について 高林センター長より、総合地球環境学研究所との交換人事についての説明並びに 2月 4日に人事委員会を開催した旨の報告があり、続いて、山内人事選考委員会委員長から、「資料 1」に基づき、候補者の経歴等の説明並びに選考委員会の結果について報告があった。意見交換の後、可否投票を実施した結果、可 21票、否 0票、白 1票の意見の分布を得て、教授会で決定した候補者の採用について承認された。※資料回収・割愛依頼について 高林センター長より、「資料 2」に基づき、酒井章子准教授に対する総合地球環境学研究所の割愛依頼について説明があり、審議の結果、承認された。※資料回収

2.名誉教授称号授与について  高林センター長より、「資料 3」に基づき、清水勇教授を名誉教授に推薦することについて説明があり、審議の結果、承認された。

3.外国人研究員について  高林センター長より、「資料 4」に基づき、外国人研究員の受け入れについて説明の後、受入教員並びに大串外国人研究員選考委員会委員長から補足説明があり、審議の結果、了承された。 ※資料回収4.地球研との連携について  高林センター長から、総合地球環境学研究所と生態学研究センターとの連携について、経緯の説明並びに今後の連携のあり方について説明があり、意見交換の結果、交流の幅を広げる形で連携の方向を模索することについて、了承された。

5.その他 ・新研究所設立構想について  高林センター長から、フィールド科学教育研究センターと生態学研究センターの統合による全国共同利用研究拠点としての新研究所設立構想を検討したい旨の報告があり、意見交換の後、了承された。

(報告事項)1.自己点検および外部評価について  高林センター長から、自己点検・評価(平成 19年

11月)、外国人による外部評価(平成 19年 11月)、日本人による外部評価(平成 20年 1月)を実施した旨の報告並びに、自己点検・評価報告書を作成し、近々送付する予定である旨の報告があった。

2.協力研究員について  高林センター長より、「資料 5」に基づき、3名を協力研究員として受け入れた旨の報告があった。

3.研究生の受入れについて  高林センター長より、「資料 6」に基づき、研究生 1

名を受け入れた旨の報告があった。4.研修員の受入れについて  高林センター長より、「資料 7」に基づき、研修員 1

名を受け入れた旨の報告があった。5.平成 20年度日本学術振興会特別研究員の受入れについて  高林センター長より、「資料 8」に基づき、日本学術振興会特別研究員 9名(新規 3名、継続 6名)を受け入れた旨の報告があった。

6.教員の兼業について  高林センター長より、「資料 9」に基づき、教員の兼業(12件)について報告があった。

7.外部資金の受入れについて  高林センター長より、「資料 10」に基づき、外部資金の受け入れ(4件)について報告があった。

8.その他・gCOEについて 大串 gCOE委員会委員長より、gCOEの生物多様性特別講座に採用となった有村源一郎准教授が生態学研究センターで共同研究を行うこととなった旨の報告があった。・京都大学附置研究所・センターシンポジウムについて 高林センター長より、3月 8日(土)に横浜新都市ホールにおいて開催される、京都大学附置研究所・センターシンポジウムについて案内があった。

 最後に教員人事の審議のために、3月に運営委員会の開催を予定していることが報告された。

(文責:椿 宜高)

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京都大学生態学研究センター 協議員会(第 59回)議事要旨

日 時 : 平成 19年 11月 6日(火)午後 3時 30分~午後 4時

場 所 : 京都大学吉田泉殿 1階セミナー室出席者 : 協議員 10名、 幹事 1名

前回(第 58回)議事録(案)の承認を得た

(議 題)1. 山村教授の後任教員人事について  高林センター長より、「資料 1」に基づき、山村教授の後任教員人事の選考経緯、手順、候補者の経歴等の紹介並びに教授会の選考理由等について説明の後、意見交換を行い、可否投票を実施した結果、全員一致(可10票)で、教授会並びに運営委員会承認の候補者の採用が承認された。

2.その他・割愛依頼について 高林センター長より、「資料 2」に基づき、東京大学海洋研究所から依頼があった永田教授の割愛(平成20年 4月 1日付け)について、教授会で承認した旨の説明の後、永田教授から補足説明があり、審議の結果、承認された。

 審議終了後、高林センター長より、2日連続で運営委員会を開催することになった経緯とお詫びが述べられ、併せて、翌日(7日)の会議について、審議内容の説明並びに会議への出席依頼があった。※ 人事資料回収

(文責:高林純示)

京都大学生態学研究センター 協議員会(第 60回)議事要旨

日 時 : 平成 19年 11月 7日(水)    午前 11時 05分~午前 11時 43分場 所 : 京都大学吉田泉殿 1階セミナー室出席者 : 協議員 10名、 幹事 1名

(議 題)1. 教員人事について 高林センター長より、前回(11月 6日)協議員会以降に開催された臨時教授会並びに運営委員会の審議

結果等について報告の後、「資料 1-1」に基づき、永田教授の後任人事(水域生態学)公募案について説明があり、審議の結果、文言を一部訂正のうえ、承認された。 続いて、高林センター長より、人事の背景について説明があり、「資料 1-2」に基づき、准教授の後任人事(熱帯生態学)公募案について説明の後、審議の結果、承認された。

 最後に、高林センター長より、今後の人事の予定並びに会議出席への謝辞が述べられた。

(文責:椿 宜高)

京都大学生態学研究センター 協議員会(第 61回)議事要旨

日 時 : 平成 20年 2月 8日(金)    午後 1時 35分~午後 2時 35分場 所 : 京都大学吉田泉殿 1階セミナー室出席者 :協議員 10名、 幹事 1名

 議事に先立ち新任の協議員並びに事務方の紹介があった。

 前々回(第 59回)並びに前回(第 60回)議事録(案)の承認を得た。

(議 題)1.人事について・総合地球環境学研究所と生態研との交換人事について 高林センター長より、総合地球環境学研究所との交換人事についての説明並びに 2月 4日に人事委員会を開催した旨の報告があり、続いて山内人事選考委員会委員長から、「資料 1」に基づき、候補者の経歴等の説明並びに選考委員会の結果について報告があった。意見交換の後、可否投票を実施した結果、教授会から推薦した候補者の採用について、全員一致で承認された。※資料回収・割愛依頼について 高林センター長より、「資料 2」に基づき、酒井章子准教授に対する総合地球環境学研究所の割愛依頼について説明があり、審議の結果、承認された。※資料回収

2.名誉教授称号授与について 高林センター長より、「資料 3」に基づき、清水勇教授を名誉教授に推薦することについて説明があり、

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審議の結果、承認された。3.外国人研究員について 高林センター長より、「資料 4」に基づき、外国人研究員の受け入れについて説明の後、受入教員並びに大串外国人研究員選考委員会委員長から補足説明があり、審議の結果、了承された。※資料回収

4.地球研との連携について 高林センター長から、総合地球環境学研究所と生態学研究センターとの連携について、経緯の説明並びに今後の連携のあり方について説明があり、意見交換の結果、交流の幅を広げる形で連携の方向を模索することについて、了承された。

5.その他 ・新研究所設立構想について 高林センター長から、フィールド科学教育研究センターと生態学研究センターの統合による全国共同利用研究拠点としての新研究所設立構想を検討したい旨の報告があり、意見交換の後、了承された。

(報告事項)1.自己点検および外部評価について 高林センター長から、自己点検・評価(平成 19年11月)、外国人による外部評価(平成 19年 11月)、日本人による外部評価(平成 20年 1月)を実施した旨の報告並びに、自己点検・評価報告書を作成し、近々送付する予定である旨の報告があった。

2.協力研究員の委嘱について 高林センター長より、「資料 5」に基づき、3名を協力研究員として受け入れた旨の報告があった。

3.研究生の受入れについて 高林センター長より、「資料 6」に基づき、研究生 1

名を受け入れた旨の報告があった。4.研修員の受入れについて

高林センター長より、「資料 7」に基づき、研修員 1

名を受け入れた旨の報告があった。5.平成 20年度日本学術振興会特別研究員の受入れにつ いて

高林センター長より、「資料 8」に基づき、日本学術振興会特別研究員 9名(新規 3名、継続 6名)を受け入れた旨の報告があった。

6.教員の兼業について 高林センター長より、「資料 9」に基づき、教員の兼業(12件)について報告があった。

7.外部資金の受入れについて 高林センター長より、「資料 10」に基づき、外部資金の受入れ(4件)について報告があった。

8.その他 ・gCOEについて 大串 gCOE委員会委員長より、gCOEの生物多様性特別講座に採用となった有村源一郎准教授が生態学研究センターで共同研究を行うこととなった旨の報告があった。

・京都大学附置研究所・センターシンポジウムについて 高林センター長より、3月 8日(土)に横浜新都市ホールにおいて開催される、京都大学附置研究所・センターシンポジウムについて案内があった。

 最後に、教員人事の審議のために、3月に協議員会の開催を予定していることが報告された。

(文責:椿 宜高)

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センターニュース No. 101

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京都大学生態学研究センター協議員・運営委員名簿

所 属 氏 名 任 期

第1号委員生態学研究センター 高林純示 平成 20年 4月 1日~平成 22年 3月 31日

第2号委員生態学研究センター 大串隆之 平成 20年 4月 1日~平成 22年 3月 31日

   〃 北山兼弘 〃    〃 椿 宜高 〃

  〃 山内 淳 〃

   〃 工藤 洋 平成 20年 5月 1日~平成 22年 3月 31日  第3号委員

放射線生物研究センター 小松賢志 平成 20年 4月 1日~平成 22年 3月 31日

東南アジア研究所 水野廣祐         〃

地球環境学堂 嘉門雅史         〃 理学研究科 加藤重樹 平成 19年 4月 1日~平成 21年 3月 31日

農学研究科 奥村正悟 〃 フィールド科学教育研究センター 白山義久 〃 総合博物館 山中一郎        〃

運営委員名簿

協議員名簿

所 属 氏 名 任 期

第1号委員 生態学研究センター 北山兼弘 平成 20年 4月 1日~平成 22年 3月 31日    〃 大串隆之 〃 〃 椿 宜高        〃

〃 山内 淳        〃

〃 工藤 洋 平成 20年 5月 1日~平成 22年 3月 31日    〃 陀安一郎 平成 20年 4月 1日~平成 22年 3月 31日    〃 奥田 昇 〃    〃 谷内茂雄 〃    〃 大園享司 平成 20年 7月 1日~平成 22年 3月 31日

第2号委員

理学研究科 戸部 博 平成 20年 4月 1日~平成 22年 3月 31日 理学研究科 堀 道雄    〃

農学研究科 二井一禎    〃 農学研究科 藤崎憲治 〃

農学研究科 平井伸博 平成 19年 4月 1日~平成 21年 3月 31日

Page 8: 京都大学 生態学研究センター...センターニュースNo. 101-3-京都大学生態学研究センター 運営委員会(第48回)議事要旨 日 時: 平成19 年11

センターニュース No. 101

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総合博物館 永益英敏 平成 20年 4月 1日~平成 22年 3月 31日

生存圏研究所附属生存圏学際萌芽研究センター 今村祐嗣        〃

フィールド科学教育研究センター 徳地直子        〃 地球環境学堂 藤井滋穂 〃第3号委員 北海道大学低温科学研究所 原 登志彦 平成 20年 4月 1日~平成 22年 3月 31日 東北大学大学院生命科学研究科 占部城太郎 〃 山口大学大学院医学系研究科 松井健二 〃

奈良女子大学共生科学研究センター 和田恵次 〃 九州大学大学院理学研究院 巌佐 庸 〃

同志社大学理工学部 武田博清 〃

    東京大学海洋研究所 永田 俊 〃 総合地球環境学研究所 川端善一郎 〃 石川県立大学 菊澤喜八郎 〃 同志社大学文化情報学部 重定南奈子 〃 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 齊藤 隆 〃

・有村源一郎氏が、2月 1日よりグローバル COE准教授としてセンターで研究を開始されました。・谷内茂雄氏が 4月 1日付けで、総合地球環境学研究所よりセンターの准教授として着任されました。・工藤洋氏が 5月 1日付けで、神戸大学よりセンターの教授として着任されました。・大園享司氏が 7月 1日付けで、京都大学よりセンターの准教授として着任されました。・三浦和美氏が 4月 1日付けで研究員(研究機関)として赴任されました。・荒木希和子氏、長泰行氏が 4月 1日付けで学振特別研究員として赴任されました。・浦野知氏、今井伸夫氏、鮫島弘光氏、喜多智氏、柴田淳也氏が 4月 1日付けで研究員(産官学連携)として赴任されました。

・植田浩一氏、小澤理香氏、塩寺さとみ氏、杉本貢一氏が 4月 1日付けで研究員(科学研究)として赴任されました。

・内海俊介氏、加賀田秀樹氏、福森香代子氏が 4月 1日付けで研究員(COE)として赴任されました。・安東義乃氏、岸茂樹氏、遠藤千尋氏、田中拓弥氏、福井眞氏が 4月 1日付けで教務補佐員として赴任されました。 

センター員の異動

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センターニュース No. 101

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 氏名        所 属 研 究 課 題

阿部健一 総合地球環境学研究所・教授 熱帯多雨林のポリティカル・エコロジー石川尚人 大学院人間・環境学研究科・教授 琵琶湖低層水の酸化還元環境の季節変動に対する湖底堆積物極表

  層部の磁気特性変化の応答に関する研究市岡孝朗 京都大学大学院人間・環境学研究科・准教授 熱帯雨林における生物間相互作用犬伏和之 千葉大学大学院園芸学研究科・教授 土壌中の窒素・炭素循環と微生物代謝今井一郎 京都大学大学院農学研究科・准教授 有害有毒赤潮の発生機構、発生予知、発生予防と駆除。沿岸域生

  態系の保全と修復内井喜美子 総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員 ウイルス感染履歴から推定するコイヘルペスウイルス病の発生・

  拡大への人為影響梅澤 有 長崎大学水産学部・助教 アジア・太平洋諸地域における水循環及び窒素循環の解明大河内直彦 独)海洋研究開発機構・グループリーダー アミノ酸の窒素同位体比を用いた食性解析大高明史 弘前大学教育学部・教授 水生貧毛類の分類と生態大竹昭郎 昆虫個体群生態学小川奈々子 独)海洋研究開発機構・技術研究員 アミノ酸の窒素同位体比を用いた食性解析越智晴基 タンガニカ湖シクリット科魚類の種間関係の多様性金子信博 横浜国立大学大学院環境情報研究院・教授 土壌動物による生態系形成神松幸弘 総合地球環境学研究所・助教 魚類のストレスホルモン動態に関する研究亀田佳代子 滋賀県立琵琶湖博物館・専門学芸員 生態系における鳥類の役割に関する研究川幡佳一 金沢大学教育学部・教授 浮遊動物の生態川端善一郎 総合地球環境学研究所・教授 水域生態系におけるウィルスの動態解析菊沢喜八郎 石川県立大学・教授 林園に植栽したブナの生産構造に関する研究桐谷圭治 日本応用動物昆虫学会名誉会員 外来昆虫、気候変動と昆虫、害虫管理と総合的生物多様性管理國井秀伸 島根大学汽水域研究センター・教授 汽水域に生育する水生植物の保全生態学的研究熊谷道夫 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター・環境情報  統括員 湖沼における低酸素水塊微細構造の形成過程と維持機構に関する

  研究

黒岩澄雄 環太平洋大学・理事 植物の物質生産.身近な環境問題小北智之 福井県立大学生物資源学部・講師 魚類の適応的分化に関する進化生態・進化遺伝学的研究紺野康夫 帯広畜産大学畜産科学科・准教授 農業景観における植物多様性酒井章子 総合地球環境学研究所・准教授 人間活動下の生態系ネットワークの崩壊と再生坂本一憲 千葉大学大学院園芸学研究科・准教授 共生微生物を活用した植物の生育促進と環境修復に関する研究崎尾 均 新潟大学農学部附属フィールド科学教育研究  センター・教授 水辺林の動態解明と再生・修復技術の開発佐竹 潔 国立環境研究所生物圏環境研究領域・主任研究員 小笠原諸島における水生生物の分類および生態に関する研究清水 勇 京都大学名誉教授 ミツバチの行動と生態に関する研究杉山雅人 京都大学大学院地球環境学堂・教授 琵琶湖における化学成分の動態鈴木 新 総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員 病原生物と人間の相互作用環竹内一郎 愛媛大学農学部・教授 浅海域生態系の環境保全に関する研究武山智博 新潟大学・博士研究員 水田生態系の生物多様性と食物網構造の解明只木良也 名古屋大学名誉教授、国民森林会議会長 森林の構造・物質生産・循環、遷移.森林の環境保全的働き、里

  山論

2008 年度京都大学生態学研究センター協力研究員 (Affi liated Scientist)

( 任期は 2010 年 3月 31 日まで、五十音順 )

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センターニュース No. 101

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谷田一三 大阪府立大学大学院理学研究科・教授 東アジア淡水生態系の生態地理学的研究Chidananda Nagamangala kanchiswamy

京都大学理学研究科・外国人共同研究者 カルシウムシグナル制御を活用した植物ー昆虫相互作用保全Thomas Ballatore 第一薬科大学・准教授 湖沼流域管理(特にアフリカとアジアでの研究).GISによる内

  陸流域 (Endorheic Basins)と塩湖の管理(特に温暖化による

  影響のモデリング)永田 俊 東京大学海洋研究所・教授 水域の生態系における生元素循環と生物多様性に関する研究中西正己 京都大学・総合地球環境学研究所・名誉教授 琵琶湖を対象とした生態系構造・機能に及ぼす人為的攪乱中野和敬 鹿児島大学名誉教授 東南アジア及びその周辺地域の焼き畑農業に関する生態学の総合

  指針長野義春 越前市エコビレッジ交流センター ・指導員 保全生態学のための体験学習を取り入れた環境教育の研究中山三照 大阪観光大学観光学研究所・主任客員研究員 地域生態学の視点から考察するコミュニティ形成と持続的な民間

  地域システム構築に関する研究成田哲也 元・生態学研究センター助手 淡水無脊椎動物の生態学的研究西村 登 金沢大学日本海域研究所・研究員 造網性ならびに止水性トビケラ類の生態学的研究西村洋子 港湾空港技術研究所・特別研究員 水域の浮遊性細菌を構成する亜集団の変動と支配野崎健太郎 椙山女学園大学教育学部・准教授 人間活動が河川の生物群集に及ぼす影響服部昭尚 滋賀大学教育学部・准教授 ウェットランドの景観構造と動物の空間利用原口 昭 北九州市立大学国際環境工学部・教授 土壌̶陸水系の生物化学的相互作用の研究原田英美子 京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員 ヤナギ (Salix sp. )を用いた重金属汚染土壌のファイトレメディエ

  ーション法の開発研究平井英明 宇都宮大学農学部・准教授 持続農業施行下におけるアロフェン質黒ボク土水田における土

  壌・植物体・生産物・温室効果ガスに関する研究藤原優司 山本造園・社員 人間活動下の生態系ネットワークの崩壊と再生本庄三惠 総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員 水域生態系におけるウィルスの動態解析水谷瑞希 福井県自然保護センター・主査 野生動物の保全・管理および被害管理 地理情報システムを用いた

  自然環境情報の解析と意思決定支援 環境保全、獣害対策等の

  地域活動における主体形成とそれに対する支援三田村緒佐武 滋賀県立大学環境科学部・教授 水圏における物質循環源 利文 総合地球環境学研究所・プロジェクト上級研究員 淡水域におけるコイヘルペスの動態解明箕浦幸治 東北大学大学院理学研究科・教授 東アジア古気候変動の復元宮下英明 京都大学大学院人間環境学研究科・准教授 琵琶湖における植物色素の分布と微小植物プランクトンの生態に

  関する調査森 豊彦 京の里センター・ 代表 自然環境・農業環境を利用したエコツーリズム森野 浩 茨城大学理学部・教授 端脚類(ヨコエビ類)の分類学的研究山中裕樹 総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員 水域環境の人為的改変が病原微生物と宿主との関わりに与える影

  響の解明山村則男 総合地球環境学研究所・教授 数理生態学の諸問題遊磨正秀 龍谷大学理工学部・教授 陸水生態系における改変と生物群集の応答湯本貴和 総合地球環境学研究所・教授 日本列島における人間̶自然相互関係の歴史的文化的検討米田 健 鹿児島大学農学部・教授 熱帯林の構造と炭素代謝若野友一郎 明治大学先端数理科学インスティテュート・  特任准教授 協力行動の進化、社会学習と個体学習の進化、とくに空間が入っ

  た場合の進化ダイナミクス渡辺 彰 名古屋大学大学院生命農学研究科・准教授 土壌圏における炭素の動態。腐植物質の化学渡辺 守 筑波大学大学院生命環境科学研究科・教授 昆虫類(主として蝶類と蜻蛉目)の生活史戦略

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詳細についてはホームページをご覧下さい。

『生物多様性・生態系機能の適応管理に向けた観測体制の構築』開催予定日 : 2008年 7月 2日~ 7月 3日開催予定地 :北海道大学問い合せ先 :仲岡雅裕 (北海道大学北方生物圏フィー

ルド科学センター厚岸臨海実験所 :教授) (e-mail : [email protected])

〈目的および内容〉 地球規模での環境変動および生物多様性の喪失が進行する現在、大規模かつ長期にわたる生物多様性および生態系の観測体制の確立、およびその観測結果を基にした生物多様性・生態系機能の順応的管理方法の構築が世界的な課題となっている。本研究集会においては、陸域から海洋にいたるさまざまな生態系において上記課題に取り組む研究者に話題提供してもらい、その現状と問題点、今後の展望について議論する。具体的には以下の 3課題に焦点を当てる。1 )生物多様性・生態系機能(生態系サービス)に関する理論と生物多様性観測の方法論2 )各フィールド拠点での事例研究紹介3 )生物多様性の適応管理の具体的提案 なお、本研究集会は、2007年 7月に開催されるICSA(International Conference of Sustainable Agriculture)

の一環として行われるものであり、本研究集会の成果に基づき、生態学的な側面から持続可能社会への提言を行う予定である。

『安定同位体分析による生態系研究の最前線』開催予定日 : 2008年 8月 10日開催予定地 : 芝蘭会館問い合せ先 :大河内直彦 (海洋研究開発機構・地球内

部変動研究センター :グループリーダー)(e-mail : [email protected])

〈目的および内容〉 各種安定同位体を用いた生態系の研究は、水循環・物質循環過程の解析から食物網構造解析まで幅広く展開している。本研究会は、安定同位体生態学の現状について最先端の知見を研究者間で共有し、今後の安定同位体生態学の展開について議論することを目的とする。

『空間構造と食物網』開催予定日 : 2008年 12月 20日開催予定地 :京都大学生態学研究センター問い合せ先 :近藤倫生(龍谷大学理工学部 :准教授)

(e-mail : [email protected])

〈目的および内容〉 生物間相互作用はそれぞれの生物個体群の空間的な分布の制限を受ける。したがって、種間相互作用のネットワークである食物網においても、それは例外ではない。食物網の構造やその動態は生息地の空間構造や生息地間のつながりかた、また、そこにおける生物の分様式と深く関係するだろう。本研究集会では、空間構造の食物網における役割に着目して、実証・理論の最近の知見を集積し、新たな研究の方向性を探ることを目的としたい。

研 究 会 ・ 実 習 等 の 開 催 予 定

研 究 会

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『河川生態系の環境構造と生物群集に関する木曽実習』開催予定日 : 2008年 8月 2日(土)~ 8月 9日(土)開催予定地 :京都大学理学部木曽生物学研究所(長野県

木曽郡木曽福島町)問い合せ先 :奥田 昇 (京都大学生態学研究センター:

准教授) (e-mail : [email protected].

ac.jp)

〈実習の目的〉 身近な自然である河川生態系の環境構造と生物群集について、体験を通じた学習を行う。特に、生物の分布に及ぼす環境構造の影響や食う・食われるの関係を通じて形成される生物間相互作用など、生態学的な自然の見方を身に付ける。 実習は京都大学理学部木曽生物学実験所(長野県木曽福島町)で行う。前半は、講義や基礎的な河川調査法の習得および生物の分類を通じて、河川生態学の研

究手法および河川生態系の基本構造を学ぶ。後半は、受講者各自、あるいは小人数のグループで、自由にテ

野 外 実 習

『生物多様性研究の新展開 : 静から動へのパラダイムシフト(1)、(2)、(3)』開催予定日 :(1)2008年 11月(詳細未定)

:(2)2008年 12月(詳細未定):(3)2008年 1月(詳細未定)

詳細は決定次第、センターホームページに掲載する予定

開催予定地 :京都大学生態学研究センター問い合せ先 :椿 宜高 (京都大学生態学研究センター :教

授)(e-mail :[email protected])

〈目的および内容〉 生物多様性の減少が重要な社会問題の一つとして認識されて久しい。多様な分野、様々な文脈で生物多様性の重要性が叫ばれ、その言葉としての新規性は薄れつつある一方で、生物多様性の実態の科学的な解明は、まだ遅々として進んでいない。その原因

の一つは、これまで生物多様性の静的な側面(あるいは平衡状態)にばかり焦点をあてて多様性を理解しようとしてきたことにある。地球上の生態系は、地球の歴史とともに変化して来た。近年になると、温暖化や森林破壊などの人間活動の影響が加わり、その変化の方向も速度も大きく変わりつつある。我々は、自然現象としての変化と、人間活動によって生じている変化を区別しながら、生物多様性の動的な姿とそれを生み出すメカニズムを理解すべき時に来ているのではなかろうか。  生物多様性の実態に迫る科学、すなわち「生物多様性科学」のこれからの方向性とその可能性を探ることを目的とし、国内の関連分野のトップクラスの研究者を交えた研究会を 3回シリーズで開催する。生物多様性研究の最先端の話題について講義をお願いし、それを踏まえて生物多様性科学の将来像について議論する予定である。

集 中 講 議 セ ミ ナー&

木曽川支流・黒川の全景

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ーマを定めて研究を実践してもらう。なお、主に藻類、底生動物(水生昆虫)、魚類などを対象とするが、研究テーマは必ずしも河川内にはこだわらず、周囲の動植物に関するものも可とする。最終日には、研究成果発表とそれに関する論議を行う。

〈担当スタッフ〉 奥田 昇・陀安一郎(京都大学生態学研究センター)、 中野伸一(愛媛大学農学部)

〈実習日程〉(天候などの都合により実習内容は変更することがある)

8月 2日(土) 午後 5時までに木曽生物学研究所集合、実習ガイダンス

3日(日) 河川生物一般野外実習(付着藻類、水生昆虫、魚類などの採集および同定)

4日(月)  〃5日(火) 河川生物生態自由研究

6日(水)  〃7日(木)  〃8日(金) データ解析および研究発表9日(土) 朝食後解散

〈対象学生〉  原則として、学部学生(三・四回生)と修士課程大学院生。特別な場合には博士課程大学院生も認める。

〈受講定員〉 数名程度(応募者が多数の場合には抽選を行なう)。

〈所要経費〉 受講費は不要。木曽生物学研究所までの往復運賃と、実習中の研究所における宿泊費(1泊 500円)と生活費(1日 3食で 1500円、シーツ代 全日程で 1000円)を各自負担。

〈受講証明書〉 受講者には受講証明書を発行する。

〈受講条件〉  受講学生は、「学生教育研究災害障害保険」等に必ず加入していること。

〈受講申し込み〉  受講希望者は、「公募実習受講願」に必要事項を記入の上、「学生教育研究災害障害保険」の写しを添えて生態学研究センター共同利用担当へ提出して下さい(封筒の表に「公募実習受講願在中」と朱書きすること)。

 「公募実習受講願」は、ホームページから入手いただくか、生態学研究センター共同利用担当へ請求して下さい。

〈受講願送付および問い合わせ先〉〒 520-2113 滋賀県大津市平野 2丁目 509-3

京都大学生態学研究センター 共利用担当TEL : 077-549-8200 FAX: 077-549-8201

Home page : http://ecology.kyoto-u.ac.jp/

e-mail:[email protected]

※公募は終了しました。

『陸上生態系における土壌ダニ類の野外調査法および分類法の習得』開催予定日 : 2008年 9月 1日(月)~ 9月 5日(金)開催予定地 :北海道大学総合博物館

(札幌市北区北 10条西 8丁目:JR札幌駅北口より徒歩 10分程度)

問い合せ先 :髙 久 元(北海道教育大学教育学部札幌校・准教授)(E-mail: [email protected].

ac.jp)

島野智之(宮城教育大学環境教育実践研究センター :准教授)(e-mail: satoshis@staff.

miyakyo-u.ac.jp )

〈実習の目的〉 土壌ダニ類は分解系を左右するきわめて大きな生態機能を有し、一部は生態系のうち分解系の解析には欠かすことのできない重要な要素であり、かつ、一部は捕食者として大きな割合を占め、分解者・微生物食者をコントロールしている。また、環境指標生物として国内外で多くの教科書などで取り上げられてきた。わが国では分類研究の実績が他の諸国と比較しても多い。また、生態研究は群集生態学として大きく発展してきた。しかし、近年の国際的なダニ学の発展と比較して、我が国では土壌ダニの総合的な生物学をまとめる機会がこれまであまりなかった。そこで、これまで我が国でも蓄積された分類の知識を学習しながら研究技術の習得をおこなうとともに、土壌ダニについて生物学的に総合的に捉えることを目的とする。本実習は土壌ダニ類を材料とした生態学または分類学的研究を実施しようとしている学部、あるいは大学院の学生を対象として、1)土壌ダニ類の基本的な分類体系と総合的知識を学び、2)森林において野外採集法、生態調査法を体験し、3)実験室において標本作製法・解剖法・同定法の基礎を習得することを目的に行なう。

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〈実施内容および担当教員〉(予定 :スケジュールは変更になる可能性があります。)

9月 1日(月) 第 1日 土壌ダニ研究入門(午後より)生態学的研究、土壌ダニ概説、一般的な土壌採取、ソーティング、標本の作り方

2日(火)第 2日 ケダニ亜目(午前) ケダニ亜目 概説・検鏡(午後) 検鏡・講義

3日(水) 第 3日 トゲダニ亜目、コナダニ亜目(午前、午後) コナダニ亜目 概説・検鏡

(午後) トゲダニ亜目 概説・検鏡4日(木)第 4日 トゲダニ亜目、ササラダニ亜目(午前)トゲダニ亜目 検鏡 (午後)ササラダニ亜目 概説・検鏡・講義

5日(金) 第 5日 ササラダニ亜目(午前) ササラダニ亜目 検鏡

現在のところ出講を予定している担当教員(50音順)岡部貴美子(森林総合研究所)唐沢重考(福岡教育大学)芝 実(松山東雲短期大学) 島野智之(宮城教育大学) 髙久 元(北海道教育大学)

〈対象学生〉 学部 3~ 4年生、大学院修士課程及び博士課程の大学院生

〈受講定員〉 8名(先着順)。

〈所要経費〉 受講費は不要。会場までの往復運賃と、実習中の宿泊費は各自負担。宿泊場所については各自で確保すること。

〈受講証明書〉 受講者には受講証明書を発行する。

〈受講条件〉  受講者は ,「学生教育研究災害障害保険」等に必ず 加入していること。

〈受講申し込み〉 受講希望者は、ファックス又は葉書に所属・住所・氏名・電話番号を記入の上、「公募実習受講願」の用紙を京都大学生態学研究センター共同利用担当へ請求して下さい。または、生態学研究センターホームページからも入手できます。受講願送付は北海道大学総合博物館事務室まで。

〒 520-2113 滋賀県大津市平野 2丁目 509-3

京都大学生態学研究センター 共同利用担当Tel: 077-549-8200 Fax: 077-549-8201

E-mail: [email protected]

Home page:http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp/

〈受講願送付先〉〒 060-0810 北海道札幌市北区北 10条西 8丁目北海道大学総合博物館事務室

(封筒の表に「土壌ダニ講座」と朱書して下さい)

〈問い合わせ先〉〒 002-8502 北海道札幌市北区あいの里 5条 3丁目 1

北海道教育大学教育学部札幌校 髙久 元

E-mail: [email protected]

Tel: 011-778-0340 Fax: 011-778-0340

 〒 980-0845 仙台市青葉区荒巻字青葉 149

宮城教育大学 環境教育実践研究センター 島野智之

E-mail: [email protected]

Tel: 022-214-3515 Fax: 022-211-5594

〈申込期限〉2008年 8月 8日(金)必着

『安定同位体実習』開催予定日 : 2008年 9月 8日(月)~ 9月 12日(金)開催予定地 :京都大学生態学研究センター問い合せ先 :陀安一郎 (生態学研究センター :准教授 )

(e-mail : [email protected])

〈実習の目的〉 近年、生元素の安定同位体分析は、環境科学や生態学における解析手段の一つとして広く用いられるようになってきた。本実習では、特に炭素・窒素の安定同位体比分析が、水域生態系・陸域生態系研究にいかに有効であるかを学習することを目的とする。実習には、サンプルの前処理、質量分析計を用いた分析、データ解析、結果のプレゼンテーションおよび議論を含む。また、期間中には同位体生態学の基本講義、および実際の安定同位体を用いた研究に関する講義も行う。 なお、今後生態学研究センターの共同利用として、質量分析計を用いた研究をしようと考えている方には、細部にわたる機器の使い方を勉強するオプションも用意する(個別に陀安〈[email protected].

ac.jp〉までご相談ください)。 この公募実習は ,京都大学理学部の「安定同位体実習」と合同で行う。

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センターニュース No. 101

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〈担当スタッフ〉陀安一郎、奥田 昇、半場祐子(京都工芸繊維大学)ほか

〈実習日程〉9月 8日(月)午前 10時~、生態学研究センター集

合安定同位体概論と実習ガイダンス、安定同位体手法の講義、質量分析計の立ち上げ(午後 5時終了予定)

9日(火) 午前 9時~午後 5時、生態学研究センター

講義、サンプル処理、安定同位体分析(1)10日(水) 午前 9時~午後 5時 ,生態学研究セン

ター講義、サンプル処理、安定同位体分析(2)

11日(木) 午前 9時~午後 5時、生態学研究センター

講義、サンプル処理、安定同位体分析(3)、発表準備と議論

12日(金) 午前 9時~午後 5時、生態学研究センター

同位体実習のまとめ、および成果発表

〈対象学生〉  原則として、学部学生 (三・四回生 )と大学院生。特別な場合には博士課程大学院生も認める。 なお、今後生態学研究センターの共同利用として、質量分析計を用いた研究をしようと考えている方にあっては、一般の研究者の方もオブザーバーとして参加可能(個別に陀安〈[email protected]〉までご相談ください)。

〈受講定員〉 4名程度(応募者が多数の場合には抽選を行なう)。

〈所要経費〉 受講費は不要。必要に応じ大津・草津付近での宿泊、昼食代は各自負担。

〈受講証明書〉受講者には受講証明書を発行する。

〈受講条件〉  受講希望学生は「学生教育研究災害障害保険」等に必ず加入していること。

〈受講申込〉  受講希望者は、「公募実習受講願」に必要事項を記入の上、「学生教育研究災害障害保険」等の写しを添えて、生態学研究センター共同利用担当へ提出して下さい(封筒の表に「公募実習受講願在中」と朱書すること)。「公募実習受講願」は、ホームページから入手いただくか、生態学研究センター共同利用担当へ請求ください。

〈受講願送付および問い合わせ先〉 〒 520-2113 滋賀県大津市平野町 2丁目 509-3

京都大学生態学研究センター 共同利用担当Tel: 077-549-8200 Fax: 077-549-8201

Home page : http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp

e-mail : [email protected]

※公募は終了しました。安定同位体比質量分析装置

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平成 20年度インターラボ開催報告奥田 昇(京都大学生態学研究センター)

開催日 :平成 20年 4月 8~ 12日参加者 :京都大学理学研究科生物科学専攻大学院生 41

 生態学研究センターでは、平成 19年度より京都大学理学研究科・霊長類研究所との 3部局合同による「生物の多様性と進化研究のための拠点形成―ゲノムから生態系まで―」と題するグローバル COEプログラムを実施している。「生物の進化と多様性」を包括的に理解するには、DNAレベルのミクロな視点と個体レベル以上のマクロな視点の双方から生命現象を階層横断的に捉えることが必要となる。言うは易いが、現在の細分化された生物学分野において、これを実践するのは容易なことでない。おそらく、多くの大学院生が研究室に配属されるや関連分野の論文漬けの日々を過ごし、運良く研究が軌道に乗ろうものなら、ますます興味が微に入り細に入ってしまうということも少なくないだろう。もちろん、研究を深化させることは悪いことではないが、残念ながらそのようなアプローチから新たな学問の創出というのはなかなか起こらないものである。そこで、専門の異なる3つの部局がそれぞれの持ち味を活かして、次世代の生物多様性研究を担う独創的な若手研究者を育成することを目的として、「インターラボ」と称する教育カリキュラムを導入した。ミクロの研究者の中には研究材料とする生物が自然界でどのような生態を持つのか全く知らない者も多いだろうし、逆に、生き物を追いかけて野山を駆け回っているマクロ研究者の中には DNAの解析を全く経験したことのない者も多いことだろう。本カリキュラムは、新大学院生が研究テーマを選ぶのに先立って、幅広い分野の研究に触れ、自身の研究人生の糧となるよう見聞を広めることを狙いとしている。 カリキュラムは 5日間に亘って実施され、原子炉実験

所、瀬戸臨海実験所、霊長類研究所などの施設を巡回しながら、最先端の研究トピックスや最新の機器に触れる機会を持った。当センターの施設見学は、4月 11日に丸 1日かけて実施された。午前中はプロジェクトリーダー・阿形氏たっての希望により、琵琶湖調査船「ハス」の体験乗船を行った。生態学研究センターの前身である大津臨湖実験所は 1世紀近く前に創設された本邦初の陸水学を専門とする研究機関である。琵琶湖の生物多様性研究の礎であると同時に、長きに亘る研究成果の蓄積が今日の琵琶湖の環境問題解決の一助となっていることを実感してもらいたいとの意図によるものである。芳しくない天気予報とは裏腹にうららかな春の陽光に包まれて、皆、爽快な琵琶湖クルージングを満喫していたようだ。 午後はセンター本館に移動し、各教員の研究および当センターが推進している 3つのグローバル COEプロジェクト、「陸上植物が作り出す生物群集ゲノミクスの解明(代表 :大串隆之)」「魚類の栄養多型の発現機構および湖沼生態系への波及効果の実験的検証(代表 :奥田昇)」「トンボ類の生息場所選択における至近要因と究極要因(代表 :椿宜高)」の紹介を行った。休憩を挟んで、プロジェクト研究で使用している実験施設や分析機器の見学を行った。朝早くから船に揺られ、さらに昼食を摂った直後の講義なのでさぞや眠たかろうと思いきや、誰もが居眠りすることなく目を輝かせながら研究の話に耳を傾けていた姿がとても印象的だった。この中から将来の生態学を牽引する若きリーダーが登場することを期待したい。  最後に、インターラボの運営にご協力いただいた、事務職員、技術職員、ポスドク研究員、TA、RAの方々には心からお礼申し上げたい。

始めての乗船体験に皆、興味津々熱心に講義に耳を傾ける参加者たち

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新センター員の紹介

 今年 4月、総合地球環境学研究所(地球研 :京都市)から生態学研究センター(生態研 :大津市)に着任しました。この小文では、私がめざしてきた数理生態学、生態研での数理生態学者としての抱負をお話します。 私は、1980年代後半に京大理学部の生物物理学教室で数理生物学を学びました。当時在籍した大学院の寺本研究室では、マクロな生物現象の理論(生態系モデル・群集論・進化論・疫学)とともに、ミクロな生物現象のモデル(発生・免疫・ガン)、数理工学的なシステム(オートマトン・神経回路網理論)、非線形力学系(カオス・フラクタル)など、知的好奇心をかきたてる多彩なテーマが、分野や研究スタンスの違いを超えて、活発に議論されていました。私の数理生態学の原点は、この時代の奔放な数理生物学であり、「本当におもしろい生命・生物現象の本質を、数理モデルをつくる試行錯誤の中で徹底的に考える」ことにあります。そしてモデリングの楽しさとつらさの同居した経験が、「数理モデル」こそが自分の生態学研究の主要な方法論であるという現在の自信になっています。とはいえ、大学院生時代は、確固とした自分のニッチ・将来の研究ビジョンが見出せず、いろんなテーマを放浪しながら、むしろ鬱々とすごしていました。先輩である東正彦さん(故人)と出会ったのはこういうときでした。 東さんは、数理生態学への圧倒的な自信と情熱を持った人で、システム論・ネットワーク論を生態学に持ち込んだ先駆者の一人です。単位取得退学後の 1994年、東さんが着任されたばかりの生態学研究センター分室(京大植物園の中にありました)に研修員として移りましたが、東さんからは、新しく生態学の拠点を立ち上げるのだ、という快い気概が、いつもびしびしと伝わってきました。忘れられないのは、ある日、「生態学ではいまだに個体群生態学、群集生態学、生態系生態学でばらばらな理論が群雄割拠している」などと私が偉そうな批判をしたときに、「生態学には、まだ進化生物学におけるような統合的な理論はできていない。だから、われわれがつくっていくんだ。」という東さんのことばです。この時代の東さんとの熱い議論が、理論家・数理生態学者として生態学に本気で取り組む出発点となりました。 学位取得後の 1997年、私は、EUの BIODEPTHプ

ロジェクトの理論担当ポスドクとして、パリのMichel

Loreau教授の下で働く機会を得ました。とはいえ、生物多様性と生態系機能の関係という、よくわからない領域で成果を出していけるのか大いに不安でした。パリ第 6大学の生態学研究部門と連携していたパリ高等師範学校(ENS)の生態学教室に私は在籍しましたが、Loreau教授、BIODEPTHのポスドクや ENSの若く優秀な大学院生たちと、雑談も含めてさまざまな議論をする中で多くのことを考えました。Loreau教授は、飛躍的思考をおこなうタイプではありませんが、オサムシの群集生態学から数理生態学に転向し、生態学の実験や野外研究に対するセンス、対話的な能力に優れるとともに、シンプルなモデルでひとつひとつ論理的に思考を積み上げることができる、バランス感覚のある研究者であり、気づいたときには、多くの生態学者の信頼を集めていました。 パリで私が体得したのは、数理生態学にとっても、取り組む問題を決める段階が一番のかなめであるということです。当時の生物多様性と生態系機能の関係のような、もやもやした段階こそが、生態学にとって新しい展望を切り開く大切な端緒となる。そういう段階でみんながカギとして共有するもやもやした問題意識を、数理モデルではっきりした形で切り出し、明確な概念や仮説として提示する、それによってみんなのものの見方や考え方を変え、研究の新しい地平を切り開いていくことができる。そういう根源的なレベルから問題を考えていくことで、数理モデルは、実験・野外の生態学者といっしょに新しい学問を切り開いていく武器になるし、国際的に評価される研究成果がだせる。パリでの研究生活は、数理生態学者として国際的に飛躍する方法を学んだ貴重な時期であるとともに、ヨーロッパの多様な文化が生み出す活力の秘密に触れることができた忘れられない時代です。 帰国後、生態研の環境保全に関するプロジェクトのポスドクとして、人の価値観が琵琶湖の富栄養化の制御にどのように影響を与え、どのようなフィードバックを受けるかというモデルをつくり、最初の成果を 2000年3月の生態学会で発表しました。しかし、その直後、東さんを含め、3名の生態研のスタッフとアメリカの研究者 2名の計 5名の方々が海難事故に遭遇しました。そ

私がめざす数理生態学 : 生態学研究センターでの抱負谷内茂雄(准教授)

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の後の数年間は、私にとっても試練の年月でした。私は、プロジェクトリーダーの和田英太郎さん、多くの関係者の皆さんとともに、プロジェクトの成果を「流域管理のための総合調査マニュアル」にまとめることに全力を傾けました。この間、数理生態学の研究は開店休業となってしまいましたが、このプロジェクトを通じて、環境問題に対して高い志を持って取り組んでいる方々に多く出会えました。数理生態学者としても、当時プロジェクトの推進委員で、国立環境研究所の森田恒幸さん(故人)から、科学者が環境問題に取り組む姿勢をはじめとして、多くのことを学びました。巨大な不確実性を孕んだ複雑系である地球環境問題においても、AIMというデータベースを備えた統合評価モデルを基盤としたシナリオ・アプローチによって、単発的な数理モデルやシミュレーションの限界を超え、研究者と政策決定者のコミュニケーションを実現することができるということ、それは実際、地球環境問題における方法論のブレークスルーでしたし、数理生態学が国際的に環境問題に貢献できる可能性を感じました。 その後、2001年に生態研から地球研に助教授として異動し、和田さんと「琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築」という分野横断プロジェクトを推進しました。ここでは、「流域ガバナンス」がどのように実現できるかをテーマに、琵琶湖の農業濁水問題を事例として、自然科学者による安定同位体を中心とした琵琶湖生態系の流域診断と社会科学者によるアンケートや聞き取りによる地域社会調査の連携によって、コミュニケーションをボトムアップから促進する方法を現地でのワークショップというかたちでまとめました。このようなプロジェクトを進めるかたわら、地球環境学や持続可能性科学の構築に必要な中心概念は何か、それは数理モデルによって明確に捉えられるかということを常に考えていました。 最後に、生態研での抱負をお話しします。生態研は、生態学の総合的基礎研究を目指す研究機関として、「生態学の基礎研究の推進と生態学関連の国際共同研究の推進」、「生物多様性および生態系の機能解明と保全理論」を、それぞれ 1期目、2期目の目標に掲げています。私は数理生態学者として、生態研を国際的な生態学・生物多様性研究の拠点のひとつに育てたいと思います。生態研の目標に即して言えば、理論部門は、「生物多様性および生態系の機能解明と保全理論」の理論構築に大き

な責任を負いますが、基礎的な理論に関しては、国際レベルで新しい展望を切り開く概念や仮説を、数理モデルによって世界に発信していきたいと思います。そこから、進化生物学を含めた群集生態学から生態系・生物多様性の根幹となる理論体系を内外の研究者と共同で構築していきたいと思います。 一方で、生態学だけで生物多様性や生態系の「保全理論」を構築することはできません。保全理論には、社会-生態系のダイナミクスとレジリアンスの解析、ガバナンスのための制度設計、持続可能な社会シナリオ、スケール間相互作用、複雑系管理とリスク管理など、急速に勃興しつつある地球環境学や持続可能性科学といった学際的なアプローチで生まれつつある概念や考え方が不可欠です。琵琶湖を例にとれば、琵琶湖生態系を持続可能な形で維持・再生するには、琵琶湖の状態を自然科学的に診断することが必要ですが、それだけでは十分ではありません。ドライバーとなるさまざまな人間活動が生起する琵琶湖流域あるいは琵琶湖-淀川水系まで視野にいれて、多様な問題意識を持ったさまざまな人が生活する社会-生態系として琵琶湖生態系を捉えないと、保全につながらない学問で終わってしまいます。具体的には、国や滋賀県の行政機関、大学や関係研究機関と協力し、ガバナンスを前提とした持続可能な社会構築の枠組みの中に琵琶湖の生態系を位置づけて研究する体制が必要ではないでしょうか。 さらに大きいスケールでは、地球温暖化やグローバリゼーションの文脈の中で、地球スケールの生態系の応答を視野にいれたときに、たとえば琵琶湖生態系はどういう影響を受けていくのでしょうか ?そのためのフィールド拠点としては、生態研をはじめ、多くの大学・研究機関や行政の蓄積がある琵琶湖流域(琵琶湖-淀川水系)とランビル・キナバル・デラマコットの研究拠点を含む DIWPA(西太平洋・アジア地域の生物多様性ネットワーク)での研究の実践的展開が可能ではないかと思います。生態学の基礎理論の地道な構築とともに、地球環境学や持続可能性科学と手を携えた、「地球生態学」ともいうべき新しいサイエンスを国際協力によって切り開いていく、生態研がそういう国内外の共同研究拠点のひとつになることをめざしていけたらと思います。そのとき、数理生態学は、生態学と環境学との橋渡しになれると思います。

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生態研ライブラリーの紹介(5)

 生物の体内時計に支配されたリズムは、概日リズム、概潮汐リズム、概半月周リズム、概月周リズム、概年リズムなどで、これらはフィールドで多様な様相で表われる。中でも最も盛んに研究が行われているのは、約 24時間の周期の概日性リズムに関するものである。これは自由継続性、明暗サイクルや温度サイクルへの同期性、温度補償性、位相変位応答などの性質を持っていて、生理学、分子生物学さらには、生態学的な視点から、多面的な研究が展開されている。 1980年代、アメリカ・モンタナ州のフラッドヘッド湖でベニザケの餌にするために小エビが放流された。しかし、サケが湖面近くにいる日中、小エビは湖の底辺近くでおとなしくしており、夜になるとプランクトン(ミジンコ)を求めて上がってくる。その時、サケはエビを捕らえることができず、しばらくすると小エビはサケの餌にもなるプランクトンを食べ尽くしてしまった。そのために、湖のサケは個体数を壊滅的に減らしてしまい、川に戻るサケの群れを狙ってやってきたハゲワシやクマなどの野生動物がこなくなり、それを観にやってきた何万人もの観光客もいなくなった。この有名なエピソードは、生物が生活やフィールドで示すリズム性や時間構造を理解することがいかに大事であるかを教えてくれている。 本書は生物リズムを支配する体内時計の生態的な機能を中心にまとめたものである。様々なフィールドにおいて、生物がその体内時計を、どのようにうまく生活に利用しているかを、時間生物学にたずさわる各分野の執筆者が 10章にわけて記述している。対象としては藍藻から高等植物、甲殻類、魚類、昆虫、哺乳動物、ヒトまでを含み、空間軸や時間軸スケールの異なる豊富な話題で構成されている。本書は時間生物学の知識やバックグラウンドの少ない読者のために、用語解説の章を設けている。例えば「アショフの法則」、「リズムの相対協調」、「日内休眠」などの用語について解説を加え、理解しやすくしてある。各章は次のような構成になっている。

第 1章「サンゴ礁に潜む月世界」第 2章「プランクトンの日周鉛直移動 :ミジンコが上が

ったり下がったり ?」第 3章「渓流に生きる :水生昆虫にとっての 24時間」第 4章「動物にとっての昼と夜 :昼行性、夜行性と眼の

構造」第 5章「動物の社会を支えるリズムの仕組み」第 6章「時間のすみわけによる生殖隔離」第 7章「気の長い概年リズムとその生態機能」 第 8章「植物の概日リズムの多様性とその適応的意義」第 9章「洞穴動物にリズムはあるか」第 10章「ヒトの生活を支配する体内時計のリズムと健

康」用語解説 

 なお本書は、京都大学生態学研究センターの公募研究会「生物リズムの生態機能に関する研究の諸断面」(平成 17年 9月に奈良女子大学においてに開催)と琉球大熱帯生物圏研究センター共同利用研究会「生物時計の多様性と生態機能に関するトピックス」(平成 18年 9

月に琉球大学瀬底実験所において開催)での研究成果をもとに企画・制作されたものである。

「リズム生態学」   東海大学出版会 : 清水 勇・大石 正編著   248 頁 : ISBN978-4-486-01780-6: 定価 2800円

清水 勇(京都大学名誉教授)

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第 195回日 時 : 2008 年 1月 17日(木)14:00 ~ 17:00

◉岡田直紀(京都大学大学院農学研究科) 「マングローブの硫黄吸収」◉今井伸夫(京都大学生態学研究センター) 「マングローブ林の成帯構造とその動態」

前期博士課程1年 菱田達也~マングローブ林の成帯構造とその動態~ マングローブの種多様性は世界を見れば大陸側で非常に高く、ポリネシアにいくに従い低くなっていく。演者はタイ、ラノーンでマングローブ林の動態とその生態構造に関する研究を行った。 まず、マングローブについての特徴を述べる。マングローブはその生育環境に適応し、様々な形態の根を持つ。(筍根、支柱根など)また種子散布の形態も特殊であり、多くは胎生種子のかたちで散布する。マングローブの立地地形は 2種類あり、河口部に形成されるデルターエスチュアリン型(河からのインプットがあり、地形発達の過程に対応している)とタイダルフラット型(サンゴ礁型、平坦面の上部に形成され陸からのインプットがない)がある。またマングローブ林における堆積物の深さは、立地変動史と密接な関係があり、例えば年1mmほどの緩慢な海面上昇に対して、マングローブ泥

生態研セミナー参加レポート開催場所:京都大学生態学研究センター第二講義室

前期博士課程1年 小野口 剛 第 195回の生態研セミナーでは、京都大学大学院農学研究科森林科学専攻の岡田直紀さんと、当研究センターの今井伸夫さんに講演していただきました。 今井さんは「マングローブ林の成帯構造とその動態」というタイトルで、タイ西岸の Ranong地区でのマングローブ林研究についてお話をなさいました。樹種組成が陸側から海側にかけて段階的に変化する成帯構造はこれまで個別の種が土壌や冠水環境の違いに応答した結果として議論されてきました。しかし今井さんは成帯構造の植生間で樹木の成長特性、撹乱耐性に違いがあり、それによって生じる更新パターンが現在のマングローブ成帯構造を維持しているということを明らかにされました。海側の植生では樹幹が大きく大ギャップができやすい環境にあり、Sonneratia alba やAvicennia

alba といったパイオニア種が定着しやすい。一方、内陸側では樹高は高いのですが、幹密度が高く細い木が多いため、生じるギャップは隣接木の巻き込みによるもので比較的小さく、耐陰性の種だけが定着することができます。このような機構が現在の種組成を維持する方向に働き、現在見られるような成帯構造の種構成があるということが示唆されました。 岡田さんは「マングローブの硫黄吸収」というタイトルで、硫黄同位体を用いたマングローブ植物の研究についてお話をなさいました。植物は硫黄を硫酸イオンとして吸収しますが、硫化物イオンは毒性があります。そしてマングローブ林が形成する環境において特徴的なのは、嫌気的土壌であることに加えて毒性の硫化物の濃度が高いことです。岡田さんは西表島においてマングローブ植物の葉、樹皮、材の中の硫黄の安定同位体比を測定したところ、マングローブ随伴種に比べ、真性マングローブのδ34 S値は小さい傾向がありました。こういった種は海水中の硫酸イオンではなく硫酸塩還元菌に由来する同位体比の小さな硫化物硫黄を吸収していると思われますが、硫化物を直接吸収しているのか根の周囲を酸化することで硫酸イオンに変え

てから吸収しているのかはまだ分かっていないようです。また、嫌気的な場所を好み、それに適応した根の吸収システムを持っている種はそうでない種に比べてδ34 S値が小さい傾向があり、種依存的であることがわかりました。同時に同種内で比べるとより嫌気的環境に生育する個体ほどδ34 S値が小さい傾向にあり、立地依存的でもあることがわかりました。岡田さんの研究ではマングローブ植物は根からの硫黄吸収システムの適応により、嫌気的土壌に生育が可能になっているということが明快に示されました。 今回の講演はどちらもマングローブに関するものでした。マングローブという土壌が水に覆われ嫌気的・還元的である特殊な環境では、その環境に適した種が生育することで種の多様性が保たれています。その多様性維持機構としての植物の適応を明らかにすることは生態学的に大きな意義があるだけではなく、今後予測される環境変動や改変に対して生態系がどう変化するかを予測する上で非常に有用であると思いました。

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炭を生産蓄積することによってその立地を維持してきた背景がある。また河口部のマングローブ林の特徴として、樹種組成が内陸側から海側に向かって不連続に変化する「成帯構造」が見られることがあげられる。これに従い、炭素貯蔵量も河川に近い場所では小さいが、泥炭林を形成するような内陸部の林では炭素貯蔵量が多い。このような成帯構造は林床地盤高の違い(これにより潮汐による冠水の頻度やその時間が変化する)によって生み出され、さらにそれが長期的な生態系発達に寄与している。他にも地上部の撹乱(ハリケーンなど)も森林の種組成や更新に影響を与えている。 演者は地形による生態特性と、その更新を調査した。例えば、ギャップセンサスを行ったところ、内陸部では大きなギャップが少なく海側では大きい。これは、撹乱頻度などと関連付けて説明される。また樹形を調査した結果、海側ではずんぐりした樹形が多かったのに対し、内陸の樹種はスレンダーな樹形が多い。これも海側は幹折れや立ち枯れが多いことに対し、内陸では根返りや隣接木の巻き込みが多いことによる。また稚樹の成長特性を調べた結果でも、ギャップ形成の形態との相関が見られ、海側の方が成長率が高かった。この他にも樹冠形のちがいなどのデータから以下のことが示唆される。海側は大きなギャップが多く、撹乱頻度も大きいためパイオニア(有占種)の定着に有利となる。しかし、陸側では小さなギャップができやすく、耐陰性の高い種(優占種)は定着可能だが、パイオニアは定着、成長を阻害されている。このように、種多様性の高いマングローブ林では、現在の種組成を維持する方向に圧が作用している。 次に生態系構造、冠水環境と土壌特性について述べる。これまでの知見では、マングローブ林の海側では窒素制限で、陸側ではリン制限といわれてきた。これでは、土壌―植生の関係が単純すぎる。そこで演者は、土壌環境の変化を 1種の場合と生態系全体の場合とで比較した。1種の場合は、チッソの再吸収効率が内陸で低下し、逆にリンの再吸収効率は内陸で増加した。このことは、既存の知見と同じ結果である。しかし、生態系全体の場合では、土壌栄養塩量が低下しても樹種交代が行われることで生態系の生産量低下が緩和されていることが分かった。

~マングローブの硫黄吸収~ ヒルギ科、ユリ科、アブラナ科などの植物は組織中の硫黄含有量が多い。その多くは 2次代謝産物として生産され、中には薬理作用をもつものも多い。 硫黄は硫酸イオンの形で取り込まれるか、硫化物イオンの形で取り込まれる。硫酸態の硫黄は水溶性で比較的

安定であるため、通常生物はこの形で硫黄を取り込むが、硫化物イオンは毒性が高く、これを取り込むためには様々な工夫をせねばならない。 自然界中での主な硫黄の安定同位体の存在比 34S/32S

比は、Cや Nに比べて非常に高くなっている。これは34Sが 4.21%も存在するためである。なお、硫黄の安定同位体比の表わし方は他の同位体と同様に以下の通りである。δ34 SCDT(‰ ) = (Rsa/Rst-1) × 1000

Rsa:34S/32S(サンプル) Rst:34S/32S(スタンダード) CDT:Canyon Diablo troilite

 さて、マングローブはその種多様性の中心が東南アジアにある。マングローブが生息している環境は通常、塩分濃度が高く、還元環境(酸欠)であり、毒性のある硫化物(硫化水素)の形で硫黄は存在している。このような環境に適応するために植物は、特殊な根を持たねばならない。 西表島の各所で、マングローブの樹皮(外側、内側)材(辺材、心材)の硫黄安定同位体比を測定した。Mangrove associatesの組織中のδ34 Sは海水に近い値を示したがMamgroveは海水の値と差を示した。これは、マングローブが海水中の硫酸イオンを使っているのではないことを示唆する。また、浦内川採取された葉、材のδ34 S値は海水に比べ非常に低く、ここでも海水中の硫酸イオンを使っているのではないことが示唆される。さらに、浦内川と船浦湾で土壌と水の硫化物、硫酸イオンのδ34 S値を測定したところ、表層から 10~ 30cmの範囲の値が、先の低いδ34 S値とリンクしており、マングローブはこの付近の硫黄を利用していることが示唆された。また、特殊な根の形態をしているものほど値が低くなっており、硫黄吸収の戦略として根の形態を変化させていることが分かる。 では、どのようにして硫黄を取り込んでいるのか、というメカニズムであるが、これには 2通り考えられる。①根の周囲を酸化し、有害な硫化物を硫酸イオンに変えてから吸収する②硫化物を直接吸収する マングローブにはいずれのメカニズムをとるものも見られ、このような戦略をとっているからこそ還元的な環境での生育が可能になった。 私は両演者の発表を聞いて、ここで得られた知見を今後どのように森林生態系保全、森林管理へと結び付けていけばよいのか、さらにはその場合現場との合意形成(理解されにくいジャンルであるだけに)の具体策は十分練らねばならないだろうと感じました。

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前期博士課程2年 酒井陽一郎「目で見えない土壌物質の循環と目で見える生態学の関 わり」  今回の生態研セミナーでは 3名のスピーカーをお迎えして行われた。三名とも、土壌有機物の動態を炭素と窒素に着目して行われた研究であったが、それぞれ異なるアプローチを用いており、非常に楽しんで聞く事ができた。 一人目の発表者は、ネバダ大学・横浜国立大学のRobert G. Qualls氏で、"Soil Development and Organic Matter

Accumulation in Two Contrasting Primary Successional

Ecosystem Chronosequences"という題でお話いただいた。噴火の際にできた泥流地と湖沼が後退してできた砂丘という異なる土壌環境を持つ二地点において、土壌有機物の経時的な蓄積傾向が異なる要因を解析されていた。具体的には、土壌有機炭素と窒素に着目し、泥流地においては遷移開始から少なくとも 850年間は双方が線形に増加していくのに対し、砂丘においては 400年ほどで有機炭素と窒素の量が最大になる、という違いが存在する。この原因に対し、明確な仮説を立て、それを検証する形で行われた発表では、泥流地においては古い年代における有機炭素の流出速度が低下するのに対し、砂丘においてはその速度が時間変化しないことから、土壌の性質の違いにより有機物の溶出速度が異なり、このため、上記二地点での差が生まれたと結論付けていた。私の研究対象である水域においては、溶存有機炭素は細菌群集の栄養源であり、流入河川の植生によってその量や影響が異なる事が指摘されている。今回の発表を聞いて、今後は植生だけでなく、土壌の起源についても考慮する必要性を感じた。 二人目の発表者は、横浜国立大学の金子信博氏で、"Soil development and carbon sequestration; is biodiversity a

matter?"という題でお話いただいた。Qualls氏が土壌の物理化学環境に注目したのに対し、金子氏は、針葉樹林は広葉樹林よりも土壌有機炭素・窒素の蓄積が大きいという森林間の違いを、生物的要因、特にミミズの働きに着目して研究されていた。ミミズが多数おり、植物種も

第 196回日 時 : 2008 年 2月 15日(木)14:00 ~ 17:00

◉ Robert G. Qualls (University of Nevada and Yokohama National University) 「Soil Development and Organic Matter Accumulation in Two Contrasting Primary Successional   Ecosystem Chronosequences」◉金子信博(横浜国立大学) 「Soil development and carbon sequestration; is biodiversity a matter」◉陀安一郎(京都大学生態学研究センター) 「Use of stable isotopes and radiocarbon in the study of soil ecosystems」

豊富な広葉樹林においては、土壌生物による硝化が促進されて C/N比が減少するのに対し、単一林になりやすい針葉樹林においては季節を通してミミズが少なく、リターなどの有機物が蓄積しやすいと考えられた。これらのことから、ミミズが「農耕」することで森林生態系における生物相の多様性までを左右しているという仮説を発表された。ミミズが土壌の有機炭素・窒素の蓄積に大きく影響しているだけでなく、生物相まで決定するという考えは非常に面白いと感じたが、同時に、野外調査で得られたパターンを実証する難しさを改めて感じた。 三人目の発表者は、京都大学生態学研究センターの陀安一郎氏で、"Use of stable isotopes and radiocarbon in the

study of soil ecosystem"という題で行われた。陀安氏の発表は、最初に安定同位体比を用いた生態学研究手法について概説した後、炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)を用いた熱帯地方でのシロアリの食物解析と物質循環の研究について説明された。通常、δ13Cは食物起源を、δ15Nは栄養段階を示すのだが、デトリタス食者による土壌の腐植化に従って上昇する。このため、土壌食性のシロアリは、他のシロアリと比較してδ15Nが高くなることを示し、安定同位体を用いた食性分析の利点について強調されていた。その後、δ13C・δ15Nに加え、放射性同位体であるΔ14Cを併用した手法の展望についてお話された。Δ14Cは時間経過と共に一定速度で崩壊することから、自然界の炭素循環における「時間」の指標物質として用いる事ができる。このため、上記三種の同位体を同時に用いることで、自然界における物質循環の解明を行う強力なツールになるとなり得るとのことであった。このような同位体を用いた手法は、目に見えない生物間のつながりや時間変化を、目に見える数値に変換して示す事ができるという点で、非常に有用なツールだと感じている。同位体研究の初期段階において、この手法は主に地球科学の分野で使われていた。このような他分野有用な手法にも注意を払い、自らの分野に持ち込んで用いる事も、生態学の発展において非常に重要な事柄であると再認識させられた。

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前期博士課程2年 直江将司「炭素と窒素に着目した土壌生態系の解明と手法としての同位体分析の展望」  第 196回の生態研セミナーではネバダ大学と横浜国立大学に所属する Robert G. Quallsさんと横浜国立大学所属の金子信博さん、本センター所属の陀安一郎さんのお三方に発表していただいた。 Qualls さんは「Soil Development and Organic Matter

Accumulation in Two Contrasting Primary Successional

Ecosystem Chronosequences」というテーマで、砂丘と火山でそれぞれ一次遷移が進んでいく中で、砂丘では土壌の有機態炭素と窒素の蓄積が 400年ほどでほぼピークを迎えるのに対し、噴火後の火山では少なくとも 850年たっても有機態炭素と窒素が線形に蓄積し続けている要因を追及していくものであった。考えられる要因として1.植物の純生産量が増加するため、2.有機態炭素と窒素が細かく分解しにくいため、3.風化由来の物質が有機態の分解を妨げるため、4.風化由来の物質が溶脱を防ぎ水溶性の有機態を守るため、といったものがあげられ、それぞれの検証の結果、要因 3が地点間の違いを生み出していると考えられた。はっきりとした問題設定を行ったうえで、詳細に要因を分析しており非常にわかりやすい研究であった。 金子さんは「Soil development and carbon sequestration;

is biodiversity a matter?」というテーマで、針葉樹林と広葉樹林で土壌の炭素・窒素の蓄積が大きく違っている原因を土壌動物、特にミミズの働きに求めるものであった。広葉樹林に比べ、針葉樹林では土壌の炭素と窒素の蓄積が大きい。ミミズの量が広葉樹林で大きいこと、ミミズを排除すると土壌の炭素と窒素の減少が確認されたことから、森林間の土壌の炭素と窒素の違いは主にミミズによるものであると考えられた。ミミズが土壌の炭素と窒素の蓄積にここまで大きな役割を持っていると

は考えていなかったので、大変興味を持った。また、ミミズによる土壌の炭素と窒素の蓄積の違いが植生にどのように還元されているかを明らかにできるとさらに面白くなるのではないかと感じた。 陀安さんは「Use of stable isotopes and radiocarbon in the

study of soil ecosystem」というテーマで、炭素と窒素の安定同位体比を用いた食物網構造の解析を分かりやすく説明していただいた。続いて、安定同位体を用いることでどのようなことが解明できたかを説明していただいた。具体的には熱帯のシロアリの食性解析を行っており、安定同位体比から食材性シロアリ、キノコシロアリ、土壌食性シロアリ、材/土壌中間食性シロアリに分類できたことから、資源利用様式を示す上で安定同位体が有効であることが示された。次に、炭素の放射性同位体を用いた研究についてお話いただいた。放射性同位体は本来極微量しか存在しないが、1960年代に核実験による副産物として大量に発生し、現在に至るまで減少し続けている。そのため、土壌の有機物の回転率を求めたり、生物体内の炭素の履歴の指標として用いることができるということであった。また、今後、安定同位体と放射性同位体を併用することで研究が飛躍的に進むということであった。生態学の目的とは関係なく生じた放射性同位体を生態学にうまく利用しているところに、面白さを感じた。一見関係のないものであっても、発想をうまく転換させて研究デザインに加えるというのは大切な視点だと思う。 全体として、今回のセミナーでは土壌の炭素と窒素に焦点を絞った発表がなされた。自身の研究では生物そのものの動態を研究対象としているので、目に見えない炭素と窒素を用いることで生物の栄養段階などの研究ができ、種間関係の解明にまで発展させることができることに驚きを感じ、また研究分野として魅力を覚えた。

第 197回日 時 : 2008 年 4月 18日(金)14:00 ~ 17:00

◉有村源一郎(京都大学大学院理学研究科) 「植物の害虫防御メカニズム ~マメから木まで、遺伝子から生物間相互作用ネットワークまで~」◉三浦和美(京都大学生態学研究センター) 「Soil development and carbon sequestration; is biodiversity a matter」

前期博士課程1年 西松聖乃 今年度最初の生態研セミナーでは、京都大学大学院理学研究科の有村源一郎さんと京都大学生態学研究センターの三浦和美さんにご講演頂いた。

 前半には有村源一郎さんが「植物の害虫防御メカニズム ―マメから木まで、遺伝子から生物間相互作用ネットワークまで―」というタイトルでお話下さった。 いくつかの植物は昆虫に摂食されるとと揮発性物質

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前期博士課程1年 原口 岳 今回のセミナーでは、GCOE特別講座に所属される有村源一郎氏と、京都大学生態学研究センターに所属される三浦和美氏に御講演いただいた。 有村氏は生理生態学的な観点から、植物の害虫防御システムを研究されている。今回の御講演では、導入部で植物の誘導防御の生理的機構を解説して頂き、中でも植物の発する SOS物質としての機能が知られているテルペノイドを軸に、有村氏の研究成果をお話下さった。 ポプラとヨトウガの 2者系で示されたのは、ガの食害という現象を植物が何らかの方法によって(ポプラの場合は主として特異的な植物体の損傷パターンによって)感知し、それに伴いジャスモン酸をはじめとするシグナルを経由して揮発性テルペノイドの生産が起こるという誘導防御機構であり、その時間・空間的なパターンであった。ポプラにおけるテルペノイドの生産は、第一に食害の起きた部位のみで生じる localな応答ではなく、非食害部位でも起こる systemicな現象であり、第二に日中のみ多量に生産されるという日周性を示す現象であった。氏は、この 2点についてより詳細な研究を行った。 まずこれらの現象を支配する遺伝子を特定し、その遺伝子を大腸菌に組み込むことなどによって、テルペノイド(ここではジャーマクレン D)生産がこの遺伝子に起因して起こる事を確認した。この遺伝子はジャーマクレン Dの日周性に伴い活性が変化する事も確かめられた。またポプラの上部と下部をそれぞれ食害させる事によって、この遺伝子を活性化するジャスモン酸などのシグナルが下方から上方へ移動するものである事も確かめられた。これらの研究を通じ、植物の誘導防御がシステミックに起きる経路が解明された。 システミックな反応が特異的な現象であったのに対し、揮発性テルペノイド生産の日周性は広く知られている現象だという。そこで有村氏は、リママメを材料にして葉への昆虫の食害を mimicする機械を用いて、夜の食害・昼の食害それぞれに対する植物の応答を調べた。すると、オシメンというテルペノイドについて、

によって SOS信号を発信し、それに反応して寄生バチや捕食者に害虫を退治してもらうという防御をおこなっている。その揮発物質に含まれるテルペンについて、有村さんは研究されてきた。 テルペン (terpene/terpenoid)は柑橘系の果物やハーブ、松ヤニなどに多く含まれる。その生合成経路としては、IPP(Isopentenyl pyrophosphate、イソペンテニル二リン酸)を共通した前駆体として、ER(endoplasmic reticulum, 小胞体)、細胞質ではメバロン酸経路を経てセスキテルペンが、葉緑体ではMEP酸経路を経てモノテルペンとジテルペンが生成される。この中で有村さんが研究対象としているのは主にセスキテルペンとモノテルペンだそうだ。 例えば、ポプラの葉が毛虫に食べられた時に発するにおいには揮発性物質が含まれるが、ハサミで人為的に葉を切ったときよりも多くの揮発性物質が放出されることがわかっている。この揮発性物質が出るのは切られた葉の切り口のみではなく、植物の種類によっては傷のない葉からもが出るそうだ。ポプラを用いた実験では、下部の葉に虫を置き、虫が逃げないようにメッシュバッグで覆った状態で、上部の傷ついていない葉からのにおいについて調べた。すると虫が葉を摂食した期間はにおいが出るが、虫を除去すると 2日目にはにおいが消えてしまうことがわかった。また、ポプラの若木では上部の葉を虫に摂食させた場合、下部の葉からは揮発性物質が出ない事から、シグナルが届いておらず、下部の葉を摂食させた場合には上部の葉にシグナルが届くことがわかった。これに対して、成木では上部の葉を摂食させた場合、下部の葉にシグナルが届かず、下部の葉を摂食させると一番上の葉だけにシグナルが届くことがわかった。 また、テルペンの放出の日変化についても調べ、テルペンが昼間にしか出ないこともわかった。 質疑応答では、テルペンは植物が出す揮発性物質の中でどのような位置付けをされているのか、テルペンの放出はどのような進化を遂げてきたのかについての質問が出された。 後半では三浦和美さんが「広食性昆虫の植物利用様式:なぜ広食性昆虫は多様な植物を利用できるのか ?」というタイトルでお話下さった。 草食性昆虫の食性幅は、広食性と挟食性に分けることができる。広食性の昆虫は複数の科の植物を摂食し、挟食性の昆虫は 1科の植物を摂食すると定義づけられている。挟食性の昆虫は多くの分類群で多数を占めている。一方、広食性とされている昆虫でも個体群によって利用する植物の科が異なる場合もある。そのため、個体レベルで広食性を示す昆虫はかなり少ない。三浦さんが研究対象とされているバッタはその例外で、個体レベルでも広食性を示すことが知られている。 三浦さんはこのバッタの幼虫を用いて実験を行い、摂食選好性と生存率が無関係であることや、バッタが硬い

葉、または軟毛が多い葉などの植物の物理的防御を克服し摂食できることを明らかにした。また、いくつかの植物には毒素を含むものがあるが、それらを複数種摂食した実験から、相乗効果が少ないことがわかった。 実験の方法や幼虫がそのような摂食行動をするかなどについて、活発な質疑応答がおこなわれた。 今回のセミナーでは植物と昆虫との関係を、お二人それぞれの視点から紹介いただいた。摂食されて揮発性物質を出すポプラと、複数科に渡って様々な植物を摂食するバッタのどちらからも、改めて生物の逞しさを感じることができた。

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食害が昼、夜のいずれの場合でも生産は昼に圧倒的に多い事が示された。対照的にいわゆる「ミドリの香り」を構成する成分は、食害時に多い事が示された。両者の比較からは、テルペノイド特有の生産の制御機構の介在が示唆される。更に、テルペノイド分泌のシグナルであるジャスモン酸については夜間の生産が多く、テルペノイドは蓄積されており朝になると放出されるのだという。 有村氏は今後、これらのテルペノイド生産が、植物と植食者・捕食者の 3者系にどのように作用しているのかをテーマに研究されるとの事である。そのために、テルペノイドの過剰発現型の遺伝子組換えシロイヌナズナを含む 3者系にどのような系の異常が認められるのか、或いは花の色と、揮発性物質の 2要因の変化によって、植物・動物間の相互作用がどのように変化するのか実験されるという。 一方、三浦氏は、広食性昆虫がなぜ多様なエサを利用可能であるのかをテーマに研究されてきた。今回の御講演では、そもそも狭食性昆虫が昆虫の中の大多数(およそ 75%)を占めている事を解説いただき、続いて広食性となり得た昆虫がどのような植物利用様式を示すのかという観点から行われた、キンキフキバッタを材料とした研究を御紹介いただいた。 狭食性の利点としては、植物の被食防御に対応するためのコストが少なくて済むという指摘がなされているという。しかしながら、植物間に共通する防御形質があるのならば、広食性である事のコストは減少するであろう。三浦氏は、植物間に共通する防御形質として、物理的防御を検討した。氏は、まず植物の物理的防御

形質の違いがバッタの死亡率に影響を及ぼしているかどうかを検討し、物理的防御の高い植物のみの採餌が、バッタの死亡率を低下させることを示した。すなわち、バッタは、物理的防御を回避する手段を獲得していることが示唆されたと言える。 しかし、三浦氏は、その植物のみを与えた時のバッタの成虫までの生存率とエサ選好性の間には相関がないことも見出している。つまり、バッタの広食性は、物理的防御のみが卓越したエサのみを食べるということでは説明できない。そこで、三浦氏は価値の低いエサでも、多種類を食べることで生存率は向上するかどうかを確かめた。その結果、質の低いエサ 2種を組み合わせて与えると、単一のエサに比べて生存率がよくなることがわかった。また、質が著しく低いエサであっても、多種を混合して与えると、質の良いエサ並みにまで生存率が上昇することが確かめられたという。これは、採餌量に対する転換効率の向上によって説明され、採餌量の増大とは関係がなかった。このようなエサ混合の効果を説明するロジックとしては、毒の希釈効果と栄養の相補的な効果が考えられるという。 以上の発表を通じて、植物と昆虫の相互作用を研究する上で、昆虫側からと、植物側からのアプローチの両方が必要である事を理解できた。両者の融合によって新たな知見が得られる可能性についても考慮しつつ、自分の課題に取組みたい。また、特に有村氏の御講演からは、血縁度など、何らかの指標としての DNAではなく「操作する対象としての DNA」という視点を得る事が出来た。御講演下さった御二方にこの場を借りて御礼申し上げる。

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センターのプロジェクト紹介

生物の多様性と進化研究のための拠点形成̶ゲノムから生態系まで(グローバルCOEプログラム)

大串隆之(教授)

 生態学研究センターは、理学研究科生物科学専攻(動物学系・植物学系・生物物理学系)および霊長類研究所と連携して、昨年度から、グローバル COEプログラム「生物の多様性と進化研究のための拠点形成̶ゲノムから生態系まで(拠点リーダ :阿形清和理学研究科教授)」を推進しています。平成 14年度からスタートした 21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための拠点形成」では、ミクロ生物学とマクロ生物学の統合をめざした大学院課程の教育環境づくりと新規な研究を行ってきました。本グローバル COEでは、この 21世紀 COE

プログラムを基盤にして、さらにゲノムを共通のキーワードに掲げることによって、研究拠点のさらなる発展を目指すものです。若い世代に、新しい教育環境と研究環境を提供することによって、新しいサイエンスが開花することをめざしています。 20世紀が分子生物学を中心とした「生物の共通基本原理」を追及した世紀だとすれば、21世紀はゲノム科学から生態学・行動学などのマクロ生物学分野を統合して「生物の進化と多様性」を理解する世紀と考えられています。しかし、「生物の進化と多様性」を理解するためには、多くの困難が待ち受けています。特に、考慮しなくてはならない要素が、ゲノムから細胞・個体・集団・群集さらには生態系にいたるまでの複数の階層にまたがっている点にあります。いろいろな要素を盛り込もうとすると焦点が曖昧になってしまうので、従来の研究では個別の階層や要素に限定したアプローチを原則としてきました。しかし、個別のアプローチに細分化された教育・研究体制では「生物の進化と多様性」を理解するにはきわめて不十分と言わざるを得ません。 本グローバル COEの目的は、21世紀 COEで始めた

分野間交流の成果と、そこで培われた研究の実績を活かして、階層横断的な教育と研究に積極的に挑戦し、「生物の進化と多様性」を研究する新しい世代の育成に取り組むとともに、新しい学問領域の創出を試みることです。特に、次の 3つの課題を目標に掲げています。(1)ゲノムを共通基盤とした学問分野を超えた教育カリキュラムを構築する。(2)階層を越えた研究と、新しい発想に基づく研究世代を取り込むことによって、ゲノム科学を基盤としたより実証科学的な生物多様性研究の新たな学問領域を創出する(実験進化学、進化霊長類学、進化生態系ネットワーク科学など)。(3)ここで構築された教育システムや研究成果をもとに、「生物学の知の体系化」を行い、京大発の新しい生物・生命科学教育プログラムを世界に発信する。さらに、階層横断的な教育によって世界的に独創的な研究者を育てるだけでなく、積極的に生物教育界やサイエンス出版・報道業界、生物多様性保全のための政策サイドで活躍できる人材を養成し、新しい生物学のスタンダードを全世界に定着させ、生物多様性の保全に貢献する。 生態学研究センターのミッションは、「生物多様性と生態系機能の解明と保全理論」です。本グローバルCOEは、現在のセンターのミッションを推進する上できわめて大事な役割を果たしていくことになります。さらに、このプログラムを通して、次期のセンターのミッションの中核に位置づけられる「生物多様性科学」の創出を目指しています。 本グローバル COEの詳しい内容については、ウェヴサイト(http://gcoe.biol.sci.kyoto-u.ac.jp/gcoe/index_j.php)を参照してください。

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水域の「何でも屋」を目指して 奥田 昇(准教授)

 現在、当センターの水域生態学分野と保全生態学分野を担当している。「専門は ?」と聞かれて、返答に悩むことがしばしばある。水の中に棲む生物あるいは水に関わるフィールドを扱っているという点で一貫性はあるのだが、生態学のどの分野が専門かというとこれといってない。そこで、たいていの場合、「水域生態学です」と答えるようにしている。もともと生態学とは無縁の学部時代を過ごしていたので、別段、生態学のどの分野がやりたいという強いこだわりはない。水辺の生き物を観察するのが好きという単純な理由でこの世界に足を踏み入れたようなものだ。大学院時代は魚類の行動生態学的な研究を行っていた。その頃から、進化生物学への憧れを抱くようになる。一方で、当時(1990年代)流行の兆しを見せていた保全生物学には全くと言っていいほど興味を示さなかった。人間の存在は生物の進化的背景の理解を妨げるノイズと捉えていたため、人間活動の影響が少ないフィールドでの研究を嗜好していたように思う。生態学に対する考え方は、前任地で沿岸環境科学分野に所属していた頃から徐々に変化した。それまでは種内の相互作用こそ重要と考えていたが、沿岸生態系やその構成種の動態を理解するには、異種間の相互作用、各生物種の生態機能、生物と環境の相互作用、そして、人間が引き起こす環境撹乱が生物に及ぼす影響といったものを無視するわけにはいかなくなった。また、沿岸という「場の環境」を理解するには、そこに流入する河川流域の生態系やその周囲に暮らす人間の活動にまで視野を広げなければならなかった。 最近、生態学で「急速な進化(Rapid evolution)」という言葉をよく耳にする。生物の進化が何万年も何百万年も前に起こった過去の出来事ではなく、私たちの認知可能な時空間スケールで起こりうる現象であることが次第に明らかとなってきた。そこには、人為撹乱に翻弄されながらも健気に生き抜く生物たちの柔軟な戦略を垣間見ることもできる。もちろん、そのような柔軟性を持ち得ない多くの生物種が絶滅の危機に曝されている現実を看過してはいけない。進化の研究にせよ、保全の研究にせよ、着目する現象を理解するには、対象とすべき生物群の階層性と時空間スケールを見定めなければならない。凝り固まった狭い視野から眺めていては自然界の真の姿を捉えることは難しいかもしれない。分野に囚われない研究スタンスをとる理由の 1つが、ここにある。 そういうわけで、色んな研究にあれこれと携わっているのだが、私の研究対象は「場へのこだわり」と「現象

へのこだわり」という観点から大まかに 2つに類別可能である。前者は「琵琶湖」という場所にこだわった研究、後者は「寄生―共生」という現象にこだわった研究である。今回は紙面の都合もあるので、「琵琶湖」に限定して、現在取り組んでいる研究の内容を紹介したい。

「琵琶湖の生物多様性に対する 3つの問い」 琵琶湖を世界有数の湖ならしめるのは、その大きさではなく、歴史の古さにある。世界で 3番目に古い淡水湖で 400万年の歴史を持つ。この長い歳月が、琵琶湖固有の水棲生物を数多く育んできた。琵琶湖の稀有な生物多様性に対して、いま、3つの問いかけをしてみたい。1

つ目は、琵琶湖の生物多様性を創り出した原動力は何か? 2つ目は、生物が多様化することによって、琵琶湖生態系の機能や安定性はどのように変化したか ? そして、3つ目は、人間の存在が琵琶湖の生物多様性や生態系機能に対してどのような影響を及ぼしたか ? 発した問いに逆行する形になるが、現在は 3番目の問いに答えるべく研究を進めている。

1)琵琶湖食物網の時空間動態 琵琶湖が世界的に有名な理由の 1つは、不名誉なことであるが、人間活動の影響で生態系が激変した古代湖の象徴とみなされているためである。富栄養化によって琵琶湖の水質が悪化したことは、皆さんもよくご存知だろう。しかし、水質というのは琵琶湖生態系の一側面であって、生態系全体を表すものではない。実際のところ、水質以外に生態系の何がどのように変化したのかということは全くと言っていいほど分かっていないのである。そこで、私は生態系の物質循環を担う主要な生物間相互作用である「食物網」に焦点を当ててみた。これまで古典的な食物網研究は直接的な行動観察や胃内容分析によって行われてきたが、定量性の問題や労力などがネックとなり、ごく一部の研究が注目されるに過ぎなかった。しかし、安定同位体分析によって食物網を解析する方法論が確立するや、食物網研究は飛躍的な発展を遂げるに至った。私たちの研究グループは、この安定同位体分析を利用して、琵琶湖の食物網構造を時間動態と空間変異に分けて解析することを試みた。 当センターの前身である大津臨湖実験所が創設したのは 1914年、今から 1世紀近くも昔のことである。その当時から琵琶湖で採集された生物標本が大切に保管されている。これらの安定同位体分析を行うことによって、

センター員の研究紹介

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食物連鎖長および各生物種の生態機能の変化を調べてみた。大きな変化は高度経済成長期に突入する 60年代後半以降に顕れた。また、各生物種の栄養段階の変化する時期も摂餌機能群ごとに異なることが明らかとなった。この研究成果は、人間が琵琶湖をどのように撹乱すると生態系にどのような影響が及ぶか予測する上で重要な示唆を与えてくれる。 さらに、琵琶湖の物理・化学環境の空間異質性に着目した。琵琶湖は南北に細長い地形のため、南部には温帯性の生物相が、北部には冷温帯性の生物相が形成される。さらに、その集水域に目を向けると、北西部は人口密度の低い急峻な山岳地帯、東部は水田地帯、南部は住宅街と異なる土地利用のパターンが見られる。その集水域から琵琶湖に流入する河川は数百本にのぼる。それぞれの河川から琵琶湖に運ばれる物質の種類と量は、人間の土地利用の違いを反映して、大きく異なる。これら気候・底質・水質などの物理・化学環境が様々な空間スケールで変化することによって、潜在的には同一の種プールを共有する琵琶湖の沿岸には場所ごとに異なる食物網が形成されると予測される。この食物網の空間異質性を支配する要因を探ることで食物網形成機構の解明を目指している。また、この研究は単に群集生態学的な興味にとどまらず、人間活動に対する生態系の応答の仕組みを理解する一助になると期待している。

2)琵琶湖の生物多様性と生息地ネットワーク 琵琶湖の生物の保全を考えるには、個々の生物種の生息に有効な空間スケールを把握することが重要である。琵琶湖在来魚の中には、沖合環境に適応した種であっても、繁殖や仔稚魚の揺籃場として沿岸や圃場・小水路を利用するものが多い。したがって、複数の生息地の連結するネットワーク構造として琵琶湖集水域を捉える必要がある。琵琶湖自体大きな水塊であるが、その集水域は滋賀県の面積にも匹敵する巨大な水系ネットワークを形成している。残念ながら、圃場整備や護岸工事などの人為撹乱によってこの生息地ネットワークが有効に機能しているとは言い難いのが現状である。魚類の各種生元素安定同位体比を分析することによって、生息地の利用実態を解明し、在来魚にとって住みよい生息環境造りに役立てる研究に取り組んでいる。

3)琵琶湖の生物多様性と生態系機能 琵琶湖の生物多様性が失われると生態系の機能や安定性はどのように変化するかという問題は、現在、精力的に取り組んでいる研究課題の 1つである。草本種の多様性が生態系機能に影響することを実証したティルマンらの大規模野外実験以降、相次いで、「生物多様性―生態系機能の関係」を検証する論文が発表されている。最近は、種内の遺伝的多様性が生態系に与える影響に焦点を当てた研究も目にするようになってきた。しかし、これ

らの多くが一次生産者や一次消費者の多様性に着目しており、高次消費者の多様性が生態系機能や安定性に及ぼす影響に着目した研究は多くない。 興味深いことに、琵琶湖に生息する魚類の中には栄養多型と呼ばれる食性と関連した形態の種内変異が見られるものが多い。これらが遺伝的多型によって維持されているのか、あるいは、表現型可塑性によって維持されているのか不明な点は多い。しかし、いずれにせよ、高次消費者となる魚類の種内に摂餌機能の多様性が存在することは事実である。捕食者の適応的な食性シフトが系の安定性を高める上で重要であることは理論的に予測されているものの、これを実証的に示した研究は私の知る限りまだない。現在、魚類の栄養多型が生態系機能および安定性に与える影響を検証するメソコスム(中規模人工生態系)実験を内外の研究者とともに進めている。 また、この研究は逆の見かたをすると、2つ目の問い、すなわち、種内に生じた多様性が生態系をどのように改変しうる潜在力を持つかに答えることにもつながるはずである。

4)琵琶湖の生物多様性の創出機構 琵琶湖の生物多様性はどのようにして創り出されたか?私の生態学の原点でもある進化生物学的な問いに答えることによって、私の琵琶湖研究は完結する。しかし、それがいつになるかは皆目検討がつかない。ひょっとすると、生涯をかけても解明できないかもしれない。未知数だからこそ、挑戦しがいのある魅力的な研究テーマである。温めているアイデアはあるが、今のところすぐに実行に移す予定はない。5年後、10年後に何らかの進展があれば、その時あらためて紹介したい。

 「何でも屋(Generalist)」というのは、よく言えば「視野が広い」、悪く言えば「何事においても浅はか」である。知識が浅い分、特定分野の「専門家(Specialist)」には到底敵わない。しかし、自然界において見られるように、変動する環境下においては有利なこともある。日本生態学会が創立して半世紀以上が経つ。その間、生態学者の人口は大幅に増え、学問的にも成熟期を迎えつつある。しかし、その一方で研究分野の細分化も著しい。特定の材料や特定技術への深化が進むことによって、同じ生態学でありながら共通の会話さえままならなくなっている。このまま研究を突き進めていくと、いつか袋小路に嵌ってしまうのではないかと不安に駆られることがある。 生態学を大きなクレードに例えると、そこから時間とともに様々な分野が分岐していく様を描くことができる。しかし、これらの枝の全てが無限に分岐し続けることはない。生態学者を受け入れる社会の収容力が有限である以上、限られた資源をめぐる争いは避けられない。ある分野は途絶え、また、ある分野は別の分野と融

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合することで生き長らえるだろう。生態学に対する社会の要請は、世相を反映して目まぐるしく変化すると予想される。時代が何を欲しているか、常にアンテナを張り巡らせて柔軟に対応できる戦略を身に付けることが肝要かもしれない。もちろん、全ての生態学者が「何でも屋」になる必要はない。「何でも屋」と「専門家」が協

同(Cooperation)することで双方の適応度を高められるのではないだろうか。 今後も、上記の研究テーマについて内外の幅広い分野の研究者と積極的に共同研究を進めていきたい。興味のある学生さんや研究者の方にご参加いただければ幸いである。

遺伝子組み換え植物を利用した生態学 有村源一郎(准教授)

 現在地球規模での温暖化が原因となって、地球上の生物の多様性はかつてない速度で失われている。このような警告は以前からなされていたものの、ほんの数年前までは我々(日本人)の身近な問題としてとらえることはなかったと思う。それがここ数年、テレビのワイドショーでは、食品の安全(農薬、BSE問題等々)、食品価格の高騰といった諸問題が連日取り上げられ、特別な学識を持った専門家でなくても誰もがこれらの危機を重く受け止めはじめているに違いない。生態学を学ぶ我々にとって、自然・生命科学の神秘を解き明かすことは今もなお重要であることには変わらないが、今後、温暖化などの人為的問題にも対応するための研究を取り入れていくことが重要である。 これらの諸問題への対策を図るべく、我々は生物多様性の維持促進機構を「生態系生物間情報ネットワーク」の視点から研究している。とはいうものの、自然界に何万通りとある相互作用ネットワークのメカニズムを垣間見ることは正直雲をつかむような話である。したがって、我々はテルペンという天然の有機化合物に注目し、テルペンを介した生物間の相互作用をモデルケースとした研究を行っている。植物のテルペンは果実、花、葉などからアロマ成分として我々を楽しませてくれるだけでなく、動物と植物間のネットワークを構築するシグナルとして機能している。その中でも植物と天敵昆虫の相互作用において、テルペンは最重要因子の一つといっても過言でないだろう。我々はこれまで、このテルペンが生合成されるメカニズム、テルペンの生物機能について長期研究してきた。この生態学研究センターでは、これまでの分子生物学的手法を用いて得

られた研究成果をマクロの研究領域に還元する意向である。具体的には遺伝子組み換えシロイヌナズナ、タバコ、トレニア植物を作成し、害虫と害虫の天敵である寄生蜂との相互作用を大型のバイオトロンで解析する。また、植物体の適応度として種子生産量および被食防御能力(害虫の成長率ならびに植物の被害度)についても野生株と比較する。生物の多様性保全をテーマに掲げる上で、テルペンを介した生物間相互作用が如何に有益に農生態系の保全に応用できるかについて問う意向である。 本研究はさらに、カルシウムにより活性化されるリン酸化酵素(CDPK)からの転写制御因子へのシグナル伝達機構とそれらの食害応答における生物機能にも着目している。穀物ならびにバイオ燃料作物から害虫防除能を有するカルシウムシグナルに関与した因子を同定し、遺伝子組み換え作物への導入を目指している。我々の研究テーマが温暖化する農生態系の保全を目指す立場からも、病害虫や温暖化環境に強い作物を創ることは重要な取り組みである。 先日幸運にも、筑波大学の鎌田博教授の講演を拝聴する機会があった。氏は、世界での組み換え作物の現状が「長期にわたり拒否の姿勢を保っていたヨーロッパ諸国でさえ今や組み換え作物産業を肯定し、今やアメリカに留まらず中国をはじめ世界中で、ダイズ、トウモロコシ、ナタネ等の遺伝子組み換え作物が商品化されている」ことを講演された。つまり、我々が組み換え作物と共存することはもはや避けられない事実であって、今後如何に自然生態系、農生態系の保全に関する諸問題に真摯に向き合うかが重要であろう。

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熱帯林生態系の持続的管理における低インパクト伐採の効果と将来予測 今井伸夫(産学官連携研究員)

 私は 2006年より、ボルネオ島マレーシア、サバ州最奥地のデラマコット森林管理区というところで、熱帯林生態系に及ぼす森林施業の影響について研究してきました。ここでは、その研究背景と内容を簡単に紹介したいと思います。 ボルネオ島の熱帯林には、広大な択伐施業を受けた後の二次林が広がっています。択伐施業は本来、既定のサイズに達した大径木のみを抜き切りしていく持続的な森林管理手法です。しかし現在残されている森林の大部分は、森林の回復力を超えた重度の択伐が繰り返し行われてきた二次林によって占められており、持続的な森林管理手法の導入が求められています。こうした背景のなか、最近、従来の破壊的伐採に代わる新しい森林管理の手段の一つとして「低インパクト伐採(Reduced-Impact

Logging; RIL)」が注目されています。RILとは、植生や土壌の攪乱を極力低減しようとする環境に配慮した伐採、搬出の手法です。しかし、従来の手法に比べてコスト高などが問題となっており、その導入は熱帯林のごく一部に留まっています。ここで、RILが森林の持続可能性に及ぼすプラス効果を科学的裏付けをもって明示することができれば、RIL普及への強い動機付けとなりえます。しかし RILに関するこれまでの研究は、木材生産活動にかかわる短期的な森林バイオマスの変化に関するものがほとんどです。樹木の組成や更新、森林の長期動態に対する RILの影響というのはほとんど分かっていません。持続的管理手法としての RILの有効性が十分に証明され認知されていないことが、RILの普及を妨げる要因の一つになっていると考えられます。 私は研究員として、前号(No.89)で北山教授が紹介されたサバ州デラマコットの熱帯林研究プロジェクトに携わり、RILが樹木群集や森林の炭素貯留機能に与える影響を調べています。デラマコット森林管理区では、1995年に RILが導入され持続的森林管理が行われてきました。管理区とその周辺には、RIL施業地や原生林、従来型の破壊的択伐が行われてきた森林などが見られます。そこで、この 3林分(原生林区、RIL区、従来型区)に調査区を設置し、その比較から RIL導入の効果を検証することとしました。これまでの熱帯二次林研究では、熱帯林は林分構造が複雑で低密度種が多いにもかかわらず、ごく小面積の調査区が用いられてきました。ここでは 2ha × 3か所 =6haの大きな調査区を設置したり多数の実生調査区を配置することで、より詳細に伐採影響を明らかにできるようにしました。その結果、RIL

区では森林のバイオマスや樹種数が従来型区ほど低下していませんでした。また木材として有用なフタバガキ

科樹種も、RIL区では比較的多く切り残され、その実生も従来型区の 10倍以上の密度で更新していました。このように、樹木群集の組成や構造に対する RILの有効性が明らかになってきました。 次に、森林の持つ炭素貯留機能に注目しました。私の調査地では、樹木の高さが 60m以上、直径は 1m以上に達します。この巨大な地上植生が熱帯林では大きな炭素貯留機能を果たしています。熱帯林では、その高温多湿な気候により土壌有機物の分解が速いため、他の生態系に比べて地下部に対する地上部の炭素貯留量の割合が高いことが知られています。したがって、熱帯における森林伐採は生態系レベルの炭素貯留量を著しく減少させることになります。また風化が進んでいる熱帯土壌には、植物に利用可能な栄養塩(特にリン)がごく低濃度でしか存在していません。そのため、森林から有機物を系外に大量に収奪し分解活性の高い表層土壌の流亡・緊密化を引き起こすような破壊的な伐採が長期間繰り返し行われれば、生態系レベルでの生産低下を引き起こしてしまう可能性があります。 こうした特徴を持つ熱帯林の持続的管理のためには、森林施業が炭素貯留機能に与える長期的な影響を明らかにする必要があります。その際、炭素 Cだけでなく、森林生態系の生産や分解を律速する可能性がある窒素 N

やリン Pなどの生元素との関わりも考慮する必要があると考えられます。また数十―百年スケールの長期効果を考えるならば、気候変化も考慮しなければなりません。しかし、それほど長期の直接観察は不可能であるため、施業の炭素貯留機能への長期的効果は依然よく分かっていません。 そこで、生態系レベルの CNP貯留量の実測調査とモデルを使った生態系の長期動態予測を試みました。各調査地で 1m深の土壌ピットを多数掘ったり植物体のコンポーネント(葉、樹皮、材)ごとに多数のサンプルを採取することで、まず生態系の各コンポーネントの CNP

濃度とその総貯留量をなるべく正確に測定できるようにしました。その結果、RILでは CNP貯留量が従来型伐採ほど低下しないことや、生元素(C、N、P)によって貯留量に対する伐採の影響度が異なることが分かってきました。次に、CENTURY炭素動態モデルによる生態系の長期動態予測を試みました。土壌の物理化学性、土壌、植物の CNP濃度、樹木生理など多くの情報を現地調査から収集し、モデルで原生的森林を再現しました。現在、これを出発点に、RILを含む様々な伐採シナリオや IPCC第四次報告(2007)に基づく気候変動シナリオを組み込んで、熱帯林生態系の長期動態を予測しよ

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熱帯山地林の林床環境と植物の特性について塩寺さとみ(科学研究研究員)

 熱帯雨林は種の多様性が高いことで有名ですが、生態的・形態的な多様性が多いことでもよく知られています。植物に注目してみると、葉の形や大きさから樹木の形(Halle, Oldeman & Tomlinson 1978)、生活形などにいたるまで多種多様なものを見ることができます。私はこれまで、この植物の機能の上での多様性に着目して研究をすすめてきました。 グヌン・ハリムン・サラック国立公園はインドネシア・ジャワ島西部の都市ボゴールの南西 20kmに位置しており、約 40,000ヘクタールの広さをもつ国立公園の内部はほぼ山地で、ジャワヒョウ、ジャワクマタカ、ジャワギボンの生息地として有名です。国立公園の中央にはオランダ統治時代から続いている茶畑のプランテーションが広がっており、茶の栽培に適した冷涼なすごしやすい気候です。私の調査地はその近辺標高 1,100 mの熱帯山地林でした。  樹木は葉で太陽光を受け、光合成を行って栄養を得ています。樹木の葉の寿命は、その構造と非常に密接な関係を持っています。というのも、葉が長い寿命を全うするためにはそれなりの対策が必要となるからです。長い寿命のあいだには、頭上から枝やその他色々なものが落ちてくるかもしれません。また、害虫や動物によって食べられる危険からも逃れる必要があります。このことから、葉の寿命が長くなればなるほど、植物はそれに対応した厚く、防御物質にとんだ葉を作らなければならないということができます。一方で、葉の寿命は光合成と密接な関わりを持っています。植物はその葉を作るのに費やした資源を光合成による稼ぎによって回収する必要があります。太陽からの日射量が同じ場合、薄い葉を一枚作るための資源は比較的少なく、そのような葉は光合成能力も高いので、容易に費やした資源を回収することができますが、厚い葉は葉を作るために多くの資源が必要な上に光合成能力も低く、その資源の回収には長い時間を要します。さらに、光が十分にあたる林冠の環境と非常に弱い光しか得られない林床の環境では条件が異なってきます。太陽からの照射光は林冠から林床に至るまでたくさんの葉によって遮られ、林床に到達するまでには非常に弱い光強度となっています。このように、光合

成を行う上で決して最適とは言えないような林床の環境であっても、そこには樹木だけではなく、草本、つる、着生植物など多くの植物が見ることができます。これらの植物が林床の暗い環境でどのようにして共存しているのかを葉の特性や葉寿命を通して比較するというのが私の研究のテーマでした。しかし、葉の寿命を調査することはなかなか容易なことではありません。熱帯山地林のように年間の季節変化があまり明瞭でない場所では、植物は一年中だらだらと葉をだし続けます。また、常緑樹ではその葉寿命が何年にもわたっていることは決して少ない例ではありません。私の調査では、毎月サンプル個体の葉の展葉と生死を一枚一枚確認することによって寿命の推定を行いました。林床の環境で 101種の樹木稚樹、草本、つる植物、着生植物という 4つの生活形の植物について葉の特性(葉の大きさ、LMA: 葉の面積あたり重量(g/m2)、窒素含量、硬さ、総フェノール、宿合型タンニンなど)を比較した所、生活形ごとにそれほど大きな違いはみられず、明るい場所に生育している植物と比較すると、一様に非常に薄い葉を持っていることが分かりました。これらの植物の葉寿命はおよそ 30~ 50

ヶ月であり、それぞれの生活形を比較しても、その葉寿命にほとんど違いはみられませんでした。明るい場所では一般に草本の葉寿命は比較的短いので、林床の草本ではかなり葉寿命が長くなっているといえます。また、葉の面積あたり重量(LMA)と葉寿命との関係を比較してみると、同じ LMAを持っている葉でも、その葉寿命は生活形によって異なっていることが分かりました。同じ LMAを持った葉の場合、つる植物ではより長い葉寿命を、樹木ではより短い葉寿命を示していました。生活形によってなぜこのような違いがでてくるのかはまだはっきりとしたことは言えませんが、それぞれの生活形特有の生き方の違いに起因しているのではないかと考えています。例えば、つる植物では葉をいつもなにかに寄りかからせる体制をとっているために、葉を固くして直立させる必要がない、また、樹木では逆に葉を光に向けて直立させなければならないために、ある程度の固さが必要になってくると考えることができます。厚い葉を作るためには、光合成により多くの資源を稼がなければなり

うとしています。 気候変動環境下で熱帯林を持続的に管理していく手法が求められています。本研究は、熱帯林の生物多様性や炭素貯留機能の解明に資するとともに、RILの持続

的森林管理手法としての価値を高めることを通じて熱帯林保護にも寄与できる研究になることを目指しています。

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ませんが、林床の弱い光の下ではそれほど多くの稼ぎを得ることができません。また、厚い葉は林床の弱い光が葉内の葉緑体に到達するのを妨げてしまいます。このようなことから、暗い林床では、植物は比較的均一で薄い葉をもち、長い葉寿命を維持していると考えられます。 このように、林床では植物の葉は必然的に薄くなるのですが、一方で、一枚一枚の葉の大きさというものは光による制限をそれほど受けません。樹木について考えると、ある樹木個体の総葉面積が一定である場合、葉の厚さは似たようなものであっても、小さな葉をたくさん作るか、大きな葉を少量作るかという選択の余地があるからです。樹木にとって葉を効果的に配置することは、限られた資源を利用して効率の良い光合成を実現するために重要であるので、葉の大きさは樹木の形(アロメトリー)を反映していると考えられています。様々な葉の大きさや枝の分枝パターンを持つ樹木がみられる熱帯林は、このような関係を比較・検証する上で最適な場所であるといえます。そこで、分枝様式の異なる 19種の木本の稚樹(10~ 400 cm)を用いて、葉の大きさと樹木のアロメトリー(一次枝数 vs. 樹高、樹高 vs. 樹高一割直径、総葉数 vs. 樹高一割直径)との関係について解析を行いました。19種のうち 5種は低木、あとの 14

種は高木の稚樹を用いました。ただし、ここでは、熱帯雨林と聞いて想像されるような非常に大きな葉を持つ種ではなく、葉面積が 15 ~ 100 cm2程度のものを扱っています。私が調査した熱帯山地林では、そのように大きな葉はヤシやクワズイモ、シダの仲間以外はまれなものでした。解析の結果、葉の大きさは一次枝数、総葉数、樹高と強い負の相関関係を示しました。このことから、葉の小さな種では、一次枝数、総葉数が多く樹高が高い、葉の大きな種では一次枝数、総葉数が少なく樹高が低い

という逆の傾向がみられることが分かりました。調査対象種のうち 5種は低木でしたが、葉の大きさや樹木のアロメトリーには、低木・高木による違いは見られませんでした。また、葉の大きさとアロメトリーの関係は、樹木個体が小さな時(直径 = 0.5 cm)とある程度成長した後(直径 = 2.5 cm)とでほとんど変化しませんでした。実際には、同じ幹直径で比較した場合、樹木が小さいときには、葉の小さな種の方が葉の大きな種よりも樹高が高いということが分かりました。このような結果は私にとって今ひとつ納得のいかないものでした。というのも、葉の大きなものは分枝が少なく、樹形もすらっとしているということが一般的に言われているからです。そこで、成長の段階によって、この関係性が変化して行くのかどうかについて検討を行ったところ、分枝パターンの違いによってこのような結果が得られていることが分かりました。一次枝に対して二次枝の数が多い種(おもに小さな葉の種に多い)では、成長にともなって分枝数が急激に上昇するために、樹木が小さいときには樹高が高いのですが、大きくなるにつれて樹高への投資が押さえられ、比較的低い樹高を持つようになることが分かりました。しかし、今回の結果は樹木の静的な状態での形を写し取ったに過ぎません。もしかしたら、実生サイズなどが葉の大きさによって異なっていたり、成長速度が一定ではなかったりするということが、このような稚樹の樹形形成の違いになんらかの影響を与えている可能性があります。 これらの研究から、熱帯山地林の林床の暗い環境というものが、植物の葉の性質を厳格に規定している一方、葉の大きさや樹木の形というような制限のかかっていない部分においては、植物は非常に多様な性質を示しているということがいえます。

けら芸「掘る」「飛ぶ」編遠藤千尋(教務補佐員)

 動物が巣や巣穴などの構造物をつくることで、どのように環境を改変し、構造物を介してどんな情報のやりとりが行われているのかということに興味をもち、身近にいておもしろそうな生きものとして、巣穴をつくる昆虫「ケラ」に出会いました。ヨーロッパやアメリカに分布するケラは、音を増幅する構造をした「鳴き穴」をつくることで知られています。しかし日本に生息するケラGryllotalpa orientalis(バッタ目ケラ科)では「鳴き穴」の存在どころか、基本的な生態に関するデータも断片的なものしかありません。土の中にいるため、探しにくい、

観察しにくい、最近みかけないなど、研究材料として不利な点もありましたが、「けら芸」(多芸だがどれも中途半端なこと)といわれるように、掘る、飛ぶ、泳ぐ、走る、鳴くことができるなんて、中途半端かどうかはともかく、十分に魅力的な昆虫です。 ケラを調査するには、わりと派手に土を掘りおこさなくてはならないのですが、幸い、兵庫県豊岡市のコウノトリの郷公園の湿地という恵まれた環境を調査地として使わせていただき、思う存分、掘ることができました。まずは、生活環をおさえるため、毎月採集してサイズを

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測り、成虫については成熟状態を調べることから始めました。また、同時に巣穴の跡をたどり、その大きさや形も記録していきました。成虫は年中みられるのですが、その中に、後翅の長さが短いものがいることに気づきました(図 1)。ケラの成虫は、普通、飛翔する(夏の夜、部屋にケラが飛び込んできたという話はよくききます)ことになっていますが、こんな短い翅で飛べるのだろうかと気になりました。そこで、短い翅の個体の季節推移と飛翔するかどうかを確認するため、毎月の穴掘り調査と平行して、飛翔個体を捕獲するためのライトトラップと音のトラップを用いて、飛翔個体の有無を調べたところ、6月から 9月の間のみ、飛翔個体がトラップにかかること、また土の中からも、同じ期間だけ、通常の翅の長さの個体がみつかること、それ以外の季節には(厳密には 9月と 6月には、両方のタイプがみられます)、成虫は翅の短い個体のみであることがわかりました。前翅の長さと後翅の長さの比をとると、体サイズにかかわらず 2つのグループに明確に分かれ、機能的な(飛翔能力のちがいを伴った)季節的翅型二型であることがわかりました。また、解剖してオスもメスも長翅型は飛翔筋があり、短翅型にはほとんどないことも確かめました。

 メスの解剖より、卵巣の発達や交尾経験の有無を調べた結果と、越冬態は成虫と比較的大きい幼虫の二形態あることと、体サイズの推移から、ケラの翅型二型はふたつの成長プロセスによって生じていることが推測されました。産卵期間(4~ 8月)のうち早い時期にふ化した個体はその年の 9月頃から短翅型の成虫に羽化し、交尾だけして成虫越冬したのち、産卵して死亡します。一方、産卵期間の後半にふ化した個体、あるいはなんらかの事情で成長が遅れた個体は、冬までに成虫にはなれず、幼

虫のまま越冬し、6月頃から長翅型の成虫に羽化し、すぐに交尾、産卵して 9月頃までに死亡します。つまり、近畿北部での生活環は一年一化です。季節的な多型の場合、世代が変わることにより、モルフ(型)が切り替わるので、多くの場合、多化性のはずですが、ケラの場合は、幼虫越冬と成虫越冬する個体がいて、異なるサイクルがずれてまわっているため、一年一化で季節的な翅型二型という一見奇妙な現象が維持されていることになります。 季節的に翅型が変わることの至近要因も究極要因もわかっていませんが、分散能力にかかる選択圧が季節的な要因(気温や降水量の変化による土壌環境の変化)によって、変化するのでしょう。短翅型は早く成虫になって、越冬前に交尾し、越冬後すぐに産卵を開始するという生き方、長翅型は比較的ゆっくり成長し、成虫になったら飛翔することで効率よく交尾相手や産卵場所を探す生き方をしていて、その結果、交尾シーズンが 4~ 10月、産卵期間も 4~ 8月という、比較的長い期間、繁殖活動することが可能になっているようです。 コオロギ上科のうちケラ科だけが、どの種も成虫越冬と幼虫越冬の二形態をもち、このため同種内で、生活環が一年一化から二年一化に切り替わることがしばしばおこりますが(二年一化の場合、一年目は幼虫越冬、二年目に成虫越冬したのち繁殖)、成虫越冬が短翅型と決まっているわけではなく、翅型との関係は単純ではありません。情報はまだ少ないのですが、ケラの生活環と翅型について、一年一化で長翅型のみの種(北アメリカ、Scapteriscus borellii, S. vicinus)もいれば、一年一化~二年一化で短翅型のみの個体群と長翅型のみの個体群のある種(北アメリカ、Neocurtilla hexadactyla)、オスだけ短翅型の種(オーストラリア、Gryllotalpa sp.)や、前翅・後翅ともに短い(鳴かない)種(南アメリカ、S.

abbreviatus)が知られ、短翅になる理由や仕組みにはバリエーションがあることが示唆されます。G. orientalis

でも、翅型二型の出現パターンと生活環と活動期間の関係が地域によってどのように違うのか、近畿より北方と南方の個体群で調べ始めていますが、二型の出現地域は限られているようです。 巣穴に関しては、単独性で、大きくは横穴部分と縦穴部分からなり、とくに横穴部分は分岐構造を発達させています。巣穴は常にメンテナンスされ、使用期間中、その構造は変化していきます。どのような状況のときに巣穴構造がどう変化するのか、つまりケラが環境の変化を認知した反応が、どのような巣穴構造の変化として現れるのかを調べていくことが、今後の巣穴研究の核心です。「鳴き穴」については野外で場所を特定するのが非常に困難で、まだデータがそろっていませんが、今後、「鳴き穴」の構造と音の増幅の関係や、翅型二型間での鳴き声と「鳴き穴」の比較も行っていく予定です。

図 1(Endo 2006, Eur. J. Ent より)左から長翅型オス、長翅型メス、短翅型オス、短翅型メス(黒矢印は腹部末端、白矢印は後翅末端の位置を示す)

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セ ン ター を 去 る に あ たっ て

酒井章子

 この 4月に、身分の上では約 4年間スタッフとして在籍した京大生態研を離れ、京都市上賀茂にある総合地球環境学研究所(地球研)に異動しました。 生態研には、地理的な場所(かつては京都理学部植物園内と下阪本)も変わりメンバーの多くが入れ替わってはいましたが、自分が大学院生として 5年間在籍した場所でしたし、少し休止状態であったマレーシア・ランビル国立公園での研究も再開しようと張り切って着任しました。あっという間だったようにも感じますが、大学院生の指導や講義、センター運営上のさまざまな仕事など初めてのことも多く、周りの方々に本当にさまざまなところで助けていただき、教えていただいた 4年間でした。どうもありがとうございました。 地球研では、1年前に生態研から地球研に異動された山村教授のプロジェクト「人間活動下の生態系ネットワークの崩壊と再生」(山村プロジェクト)にサブリーダーとして参加しています。このプロジェクトはモンゴルの草原とサラワクの熱帯林の対照的な生態系をフィールドに、生態系と社会が相互作用しながらどう変化していくのか、を明らかにすることを目指しています。 生態研は地球研の連携研究機関であり、地球研の発足から深いつながりがあります。生態研は、山村プロジェクトの前にもすでに 4つのプロジェクトを提案し、プロ

 1994年 4月から 2008年 3月までの実に 14年間を生態学研究センターにお世話になりました。自分が入った当初はセンター設立後の間もない頃であり、建物も京都分室と臨湖実験施設の 2つに分かれており、雨が降ると雨漏りするので皆でバケツを置いていったのをなつかしく思い出します。現在はそれとは比べ物にならない立派な建物が立ち院生の数も増え組織として発展してきた 14年間であったと思います。実感としても大変充実した研究生活を送らせていただいたと感謝しております。 博士をとるまでは生態学研究センターのセンター長

ジェクト推進のために教員が地球研に異動しています。山村プロジェクトは、2年前の立案の段階から、生態研内外の方々にアイデアや意見をいただいて、比較的スムーズにスタートさせることができました。これまでのプロジェクトの中でもとくに厚いサポートを生態研から受けているのではないかと思います。 籍は異動するものの、生態研には地球研連携部屋があり、研究の打ち合わせやセミナーのために今でも頻繁に生態研に通わせていただいています(そのような理由で、やや歯切れの悪い「去るにあたって」です)。地球研のプロジェクトは社会学、経済学など文系の研究者との共同研究です。その他流試合の中で、生態学はどう社会に貢献できるのか、アピールできるのか、いろいろと考えさせられます。まだまだ勉強が足りないことを痛感していますが、地球研での経験をまた生態研や生態学に還元していけるようにしたいと思っています。 というわけで、これからもよろしくお願いいたします。

も務められた和田英太郎教授のもとで、「失敗もどんどんしなさい」「お金を使ってもいいから良いデータをとって良い論文を書きなさい」といった方針のもと、伸び伸びと菌類の同位体組成と生態との関連性についての研究をさせてもらいました。その後の未来開拓プロジェクトや日本学術振興会の特別研究員では、研究テー

高津文人

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マを複数手がけながら、論文にまとめていく鍛錬の時代であったと感じております。藤田昇助教にモンゴル草原で草本や家畜の生態について教えてもらいながら、自分の分析手法である同位体測定を使って何を調査すれば面白いか考えていました。さらにその後は日本科学技術振興機構の CRESTプロジェクトの研究員として採用され、流域の健全性の同位体指標を構築する仕事に従事させていただきました。プロジェクトリーダーである永田俊教授からは「プロジェクト研究員として仕事をこなし

ていく術」や「5年間でプロジェクト成果をまとめるための事前の計画のたて方」を教えていただきました。また、調査や分析を実際に進めるにあたっては、陀安一郎准教授、由水千景技術員に実験計画の進め方について教授していただきました。 最後に自分を育ててくださった生態学研究センターの皆様に心より感謝いたします。 

(現所属 国立環境研究所 湖沼環境研究所)

西村洋子

 私は生態学研究センターには、修士課程から九年間、在籍しました。九年といえば、同じ頃に小学校に入学した子供が中学校を卒業してしまうような長い期間です。思い返してみると、本当に色んなことがあったなぁと様々な思い出がよみがえってきます。 修士課程では退官された中西正己先生の指導で琵琶湖の植物プランクトンの研究を始めました。調査・分析・洗い物で、琵琶湖と実験室を往復する大変な毎日でしたが、おかげで、調査のやり方から栄養塩の分析、植物プランクトンの同定・計数方法まで、陸水学の基本的な技術はこの時に学べたと思います。博士課程では、永田俊先生の指導で、もう一段階小さな生物、主に細菌の研究に取り組むことになりました。一般的には、植物プランクトンも細菌も同じ「微生物」でくくられてしまうことと思いますが、用いる手法は異なっており、また一からの出発でした。細菌だけにとどまらず、動物プランクトン・鞭毛虫からウイルスまで色んな微生物について、色んな手法を使って、色んな場所で色んな調査をやる、「色んな」づくしの研究をしていたと思います。 修士課程では毎週北湖へ、博士課程では隔月で北湖の北端から南湖の南端まで、頻繁に琵琶湖調査に出かけました。行くたびに毎回、湖も周りの山々も違った表情を見せてくれました。天候が悪く船がひっくり返ったらどうしようかと心配するほど荒れる琵琶湖、波一つなく鏡のように平らで輝く穏やかな琵琶湖。新緑・紅葉・雪、四季折々に湖の周りの山々も色彩を変化させました。滋賀県で生まれ育ち、近くにあったけれど、実は全然見ていなかった琵琶湖を隅々まで(?)見尽くした九年間でした。 また、センターでは韓国人・中国人・アメリカ人・フ

ランス人など世界の様々な国の人々と知り合う機会がありました。特に、キム チョルグさん(韓国)やヤン

ヤンヒュイさん(中国)と毎年年末に開いていた「日中韓餃子対決(韓国や中国では、餃子はおせち料理の 1

つ)」は、印象的でした。具・皮・ソース、どれをとってみてもそれぞれの国にこだわりの材料・配合があり、また包み方も異なっていました。同じ「餃子」といっても、国によって、形も味も全く違ったものが出来上がりました。日本とは違う面白い文化・食べ物に触れ、こんなところでも世界の広さを知ったと思います。 この 4月からは、(独)港湾空港技術研究所で特別研究員となりました。主に港湾や空港の建設技術や素材に関する研究をしている工学部系の研究所です。人工的に津波をおこす巨大な水槽や、水中の構造物の地震の際の影響を調べるための巨大振動装置など、研究所のあちこちに「世界最大級」と称される巨大な実験設備があります。私は、この中の海洋・水工部 沿岸環境研究領域という、沿岸生態系の研究をする研究部門にいます。研究所はペリーが来航したことで有名な旧浦賀の海岸に面していて、研究所三階の窓から毎日、東京湾を見下ろし、これは琵琶湖ではないのだなぁ、と不思議に思う毎日です。 最後になってしまいましたが、生態学研究センターの教員・院生・事務・技官の皆様、本当に長い間お世話になりました。ありがとうございました。

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編集後記

・今年度からセンターニュースの担当となりました谷内です。よろしくお願いいたします。・さて、生態研センターでは、今年度、私を含めて 4人の新規教員が着任します。これは、センター教員の 1/3

強にあたる構成員が入れ替わることになります。グローバル COEをはじめ、センターの今後の新たな取り組みにぜひご期待ください。

(谷内茂雄)

京都大学生態学研究センターニュース の問い合わせ先京都大学生態学研究センターニュース編集係  〒 520-2113 滋賀県大津市平野 2丁目 509-3

     Tel :(077)549-8200     Fax:(077)549-8201 E-mail:[email protected]

第31回 極域生物シンポジウムの開催について

日時 :平成 20年 12月 2日(火)~ 5日(金)場所 :大学共同利用機関法人 情報・システム研

究機構 国立極地研究所 講堂〒 173-8515 板橋区加賀 1-9-10

JR埼京線「板橋」駅より徒歩 15分、または都営地下鉄三田線「板橋区役所前」駅より徒歩 10分(東板橋体育館隣)

主催 :大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

概要 :国立極地研究所では南北両極域及びその周辺等で得られた研究成果につき、発表、討論を行うことを目的として毎年シンポジウムを開催しています。

 今回のシンポジウムは、「極域気水圏・生物圏合同シンポジウム 2008」として、一昨年に続き、気水圏グループと共同で開催します。前半(12月2日、3日午前)に気水圏セッション、中間(3日午後、4日午前)に合同セッション、後半(4日午後、5日)に生物圏セッションが予定されています。合同セッションでは、気水圏・生物圏にま

たがる境界領域研究として、新領域融合研究センターの「地球・生命プロジェクト」に関するセッションを企画しています。今年度は国際極年(IPY2007-2008)の 2年目にあたり、南極・北極域での活発な研究活動が進んでいることと存じます。現在、南北両極域で実施されている研究の成果を中心に、極域の生物に関する研究発表を広く募集いたします。ふるって御参加のほどお願い申し上げます。

問い合わせ先〒 173-8515 板橋区加賀 1-9-10

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構

国立極地研究所 生物シンポジウム事務局

TEL: 03-3962-4569(事務局直通)FAX: 03-3962-5743

E-mail : [email protected]

http://polaris.nipr.ac.jp/~penguin/indexj.html

コンビーナー :高橋晃周 TEL 03 (3962) 4764

飯田高大 TEL 03 (3962) 4774

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