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2020 年第 50 天文・天体物理若手夏の学校 集録 太恒

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  • 1

    2020年第50回天文・天体物理若手夏の学校

    集録

    太恒

  • 2

    太陽・恒星分科会

  • 3

    index

    太恒 1 石川遼太郎 深層学習を用いた乱流場の水平速度診断手法の開発

    太恒 2 正木寛之 ディープラーニングの活用した太陽光球における水平速度場予測

    太恒 3 石倉秋人 太陽黒点における磁場強度と力の関係について

    太恒 4 高畑憲 太陽表面における磁場要素の磁束、磁場強度、移動速度の関係

    太恒 5 木原孝輔 太陽高エネルギー粒子 (SEP)とコロナ質量放出 (CME)の関係性に対する統計的研究

    太恒 6 長澤俊作 超小型衛星で迫る太陽フレアからの熱的・非熱的放射の時間発展と粒子加速

    太恒 7 井上大輔 活動領域からのアウトフローと遅い太陽風の関連性の FIP効果による検証、および突発現

    象への応用

    太恒 8 清水公彦 低質量星におけるアルフベン波駆動の磁気回転風について

    太恒 9 岩崎巧実 狭帯域フィルターを使った金属欠乏星捜索

    太恒 10 北古賀智紀 多波長同時観測で迫るおうし座 UX星で生じた巨大フレアの特徴

    太恒 11 岡本豊 TESSとMAXIを用いた巨大恒星フレアにおける白色光フレアエネルギーと X線最大光

    度の関係

    太恒 13 山崎大輝 飛騨天文台 SMART-TEM偏光キャリブレーション

    太恒 14 木村なみ 京都大学飛騨天文台 SMART/SDDIを用いたフィラメント噴出・消失現象の 3次元速度場

    の導出

    太恒 15 田中宏樹 太陽の CaK線撮像分光観測による紫外線放射の推定

    太恒 16 森塚章惠 太陽表面リム境界近傍におけるドップラー速度観測から迫る対流の三次元構造

    太恒 17 古谷侑士 太陽光球中の磁気リコネクションで発生するジェット状構造の形成機構

    太恒 18 冨野芳樹 部分電離プラズマ中で起きる磁気リコネクションの数値的研究

    太恒 19 村上享平 太陽コロナを想定した磁気リコネクションの Hall MHD計算

    太恒 20 白戸春日 飛騨天文台 SMART望遠鏡を用いた光球 5分振動由来の磁気流体波の彩層へのエネルギー

    輸送の観測的研究

    太恒 21 栗山直人 大質量星進化後期において繰り返し発生する爆発的質量放出現象の輻射流体力学シミュレー

    ション

    太恒 22 西河笙太 ニューラルネットを用いた closure関係の研究

    太恒 23 長塚知樹 Wolf Rayet連星WR102-1の X線長期モニター観測

    森美南 CMEシミュレーション研究のレビュー: 修正フェロマックモデルの内部太陽圏における適

    村瀬洸太郎 K型主系列星 PW Andにおける自転に伴う Hα輝線の変化

    近藤芳穂 研究計画と学習したこと 太陽フレアの予測研究に向けて

    KANGYEONGMIN The Observation Properties of Solar Prominence

  • 4

    ——–index

    太恒1深層学習を用いた乱流場の水平速度診断手法の

    開発総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学

    専攻石川遼太郎

  • 5

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    深層学習を用いた乱流場の水平速度診断手法の開発

    石川 遼太郎 (総合研究大学院大学)

    Abstract

    太陽活動の 11年周期と相関せず表面に普遍的に存在する小スケール磁場の形成過程として、表面の乱流的

    な運動による磁場増幅が理論的に提唱されている。観測的な検証が必要であるが、水平速度診断に多くの制

    限がある。現在は粒状斑の模様の時間変化を追跡することで水平速度の推定を行う方法(LCT)が広く用い

    られているものの、この手法では乱流のような小スケールの構造を捉えることができない。本研究では多次

    元の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた深層学習によって、幅広い空間スケールに対応した

    新たな速度診断手法を構築した。CNNは入力画像に畳み込むフィルターを学習することで、画像の模様を

    検出する手法である。本研究では、観測可能な物理量である輻射強度や鉛直速度成分の空間構造 (画像デー

    タ)を入力として用いて、(1)一枚の画像から水平速度場を推定するモデルと、(2)時間的に連続した複

    数枚の画像から水平速度を推定するモデルを開発した。前者は一枚の入力画像に二次元のフィルターを畳み

    込むことで、粒状斑構造を学習して水平速度場を推定するモデルである。大きさの異なるフィルターが複数

    組み合わされた分岐・結合を伴うネットワーク構造を用いることで、幅広い空間スケールに対応したモデル

    が実現され、予測と答えの相関係数 0.90を達成した。さらに時間方向を含めた三次元のフィルターを使用し

    たものが二つ目のモデルである。時間変化の学習も合わせて行うことで LCTの考え方も取り入れられてい

    る。このモデルでは相関係数が 0.96まで向上し、粒状斑よりも小さい構造から大きい構造までパワースペク

    トル全体をよく再現できた。

    1 Introduction

    太陽光球面は対流運動に支配されており、粒状斑

    と呼ばれる対流セルで覆われている。光球面に普遍

    的に存在する磁場はこの対流運動に強く影響される。

    特に対流運動の水平速度と磁場の相互作用は2つの

    点で重要だと考えられている。1つは光球磁場の生

    成である。太陽光球に遍在する小スケールの磁場は

    太陽の 11年周期と相関しないことが知られており、

    このような磁場構造の形成機構として表面の水平速

    度場による磁場増幅(局所ダイナモ)が理論的に提

    唱されている。観測的な検証が待たれるが、そのた

    めには磁場ベクトルと速度ベクトルの両方を同時に

    観測する必要があり、困難をきわめている。もう一

    方は波動の生成である。100万度という高温の大気を

    持つコロナを加熱するためのポインティングフラッ

    クスは、ガスの水平運動が垂直磁場を揺らすことに

    よって発生していると考えられている。このポイン

    ティングフラックスの生成を定量的に評価するため

    には、水平速度の評価が肝要である。

    光球面におけるガスの水平速度を推定する手法と

    して局所相関追跡(LCT; November & Simon 1988)

    が広く用いられている。この手法は時間的に連続な

    2枚の画像の相互相関を計算して粒状斑パターンの

    移動を検出することで水平速度を推定する手法であ

    る。そのため、粒状斑よりも空間スケールの大きな

    速度構造を精度よく推定することができる。一方で

    粒状斑と同程度以下のスケールの速度構造の推定は

    困難であり、過小評価する傾向が強いことが知られ

    ている。(Verma et al. 2013)は LCTが実際の水平

    速度を 1/3程度に過小評価すると結論づけた。その

    ため、粒状斑と同程度以下の空間スケールの水平速

    度を高い精度で推定可能な手法の開発が必要である。

    (Asensio Ramos et al. 2017)は畳み込みニューラ

    ルネットワークを使用した水平速度推定手法を開発

    した。このモデルは対流セルよりも小さなカーネル

    を重ねて構成されており、2枚の連続した画像から

    水平速度を推定している。この手法では相関係数 0.8

    程度で推定可能であった。しかし空間スケールごと

  • 6

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    の精度検証は行われておらず、小さなスケールの運

    動をどの程度の精度で推定できているかわかってい

    ない。

    本研究では、畳み込みニューラルネットワークを

    用いたパターン認識の手法を応用することで、幅広

    い空間スケールに適応可能な水平速度診断手法の開

    発を目的とした。未発表の結果のため、概略だけの

    掲載とさせて頂きます。

    2 Methods

    学習に使用したデータは磁気流体シミュレーショ

    ンデータ(Masada & Sano 2016)を用いた。まず入

    力には垂直速度の空間分布を使用し、出力として水

    平速度の空間分布を設定した。まず畳み込みのカー

    ネルサイズが1種類だけで畳み込み層が1層の簡素

    なモデルを作成した。このモデルでは、カーネルの

    サイズを変更した時にモデルの性能がどのように変

    化するのかを調べた。また入力として1枚(同一時

    刻)の垂直速度分布を使用し、時間変化は含めなかっ

    た。出力も同様の1枚の水平速度場とした。次に分

    岐と結合を含むネットワークでサイズの異なるカー

    ネルを同時に使用したモデルを作成した。入力デー

    タは同じく、単一時刻の垂直速度分布を用いた。最

    後に分岐と結合を含むネットワークで時間方向にも

    畳み込みを行うモデルを開発した。このモデルでは

    入力として時間的に連続した複数枚の垂直速度分布

    および温度分布を用いて、時間方向も含めた畳み込

    みを行なった。

    3 Results

    単一のカーネルサイズだけで構成したネットワー

    クでは、モデルの性能がカーネルサイズに大きく依

    存した。対流セルのサイズよりも小さいカーネルでは

    対流セルの境界部分(以下、間隙)のみが学習され、

    セル構造自体を学習することができなかった。カー

    ネルサイズを大きくするほど大きな構造を学習可能

    になった。答えの水平速度場とモデルの出力でパワー

    スペクトルを比較すると、カーネルサイズを大きく

    するほど大きな構造のパワースペクトルをよく再現

    できる一方で、小さい構造のパワーを推定できない

    ことがわかった。またカーネルサイズが大きいほど、

    答えとモデルの出力の相関係数が高く、最大で 0.85

    であった。

    分岐と結合を含むネットワークでは、(1)対流セ

    ルよりも小さいもの(2)対流セルと同程度の大き

    さ(3)対流セル以上の大きさの3種類のカーネル

    を用いた。このモデルでは対流セルよりも大きなス

    ケールから小さなスケールまで幅広いスケールでパ

    ワースペクトルを再現できた。また相関係数は 0.90

    と非常に良い精度で水平速度を推定できることがわ

    かった。

    また、この分岐と結合を含むネットワークにおい

    て時間方向にも畳み込みを行うことで、時間変化を

    学習可能なモデルを開発した。このモデルでは幅広

    い空間スケールに対応しながら、相関係数が 0.96と

    より高い精度での推定が可能になった(図 1)。

    図 1: 分岐と結合を含むネットワークの結果。MHD

    シミュレーションの答え(左)とモデルの予測(右)。

    Reference

    November, L. J., & Simon, G. W. 1988, ApJ, 333, 427-442

    Verma, M., Steffen, M., & Denker, C. 2013, A&A, 555,A136

    Asensio Ramos, A., Requerey, I. S., & Vitas, N. 2015,A&A, 604, A11

  • 7

    ——–index

    太恒2ディープラーニングの活用した太陽光球におけ

    る水平速度場予測千葉大学融合理工学府先進理化学専攻物理学

    コース正木寛之

  • 8

    2020

  • 9

    2020

  • 10

    2020

  • 11

    2020

  • 12

    ——–index

    太恒3太陽黒点における磁場強度と力の関係について千葉大学融合理工学府先進理化学専攻

    石倉秋人

  • 13

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    太陽黒点における磁場強度と力の関係について

    石倉 秋人 (千葉大学大学院 融合理工学府)

    Abstract

    太陽黒点の輻射磁気流体計算をおこない、強磁場黒点の力学について調査した。一般的な黒点の磁気圧は、

    光球付近のガス圧よりも大きくなり、ガス圧のみでは黒点を支えることができない。黒点がどのような力学

    で支えられているのか、数値計算を利用して解析を行った。計算には輻射磁気流体計算コード R2D2(Hotta

    et al. 2019)を用いた。深部磁場の異なる黒点をそれぞれ計算し、その比較を行った。より強い深部磁場を持

    つ黒点の光球付近では、外向きの磁気圧、内向きのガス圧、内向きの磁気張力で釣り合った。少し深い層に

    なると、磁気圧とガス圧のみで釣り合い、磁気張力の影響は小さくなった。比較的弱い深部磁場を持つ黒点

    では、光球付近でも磁気張力の影響は小さく、磁気圧とガス圧が釣り合いの主な要素であった。

    1 Introduction

    黒点は太陽表面に表れる強磁場領域である。黒点

    の光球面での磁場強度は一般に 3000 G程度である。

    磁場を 3000 G とすると、その磁気圧は B2/8π =

    3.6×105 dyn/cm2となる。一方、光球付近のガス圧pは 7.6 × 104 dyn/cm2 程である。黒点内の磁気圧は、周囲のガス圧よりも大きい。だが、黒点は一週

    間程度の寿命を持つ。この間、黒点を支える力は釣

    り合っているはずである。黒点が安定して存在する

    時の力の釣り合いについて調べることが本研究の目

    的である。

    今回は数値計算を用いて研究を行った。太陽黒点

    の数値計算は Rempel et al. (2009)などで既に実行

    されており、現実の黒点をかなり忠実に再現するこ

    とが可能になっている。我々はこれをさらに発展さ

    せ、再現した黒点の深部磁場をパラメータとして変

    化させた 2つの計算を実行した。これら 2つの計算結

    果を比較し、黒点を支える力について考察を行った。

    2 Setup

    本研究では、我々のグループで独自に開発した輻

    射磁気流体コードR2D2(Hotta et al. 2019)を使用し

    た。計算したMHD方程式は以下の通り。

    ∂ρ

    ∂t= −∇ · (ρv) (1)

    ∂ρv

    ∂t= −∇·(ρvv)−∇p−ρgex+

    1

    4π(∇×B)×B (2)

    ∂B

    ∂t= ∇× (v ×B) (3)

    ρT∂s

    ∂t= −ρT (v · ∇)s+Q (4)

    p = p(ρ, s) (5)

    (1)式は連続の式、(2)式は運動方程式、(3)式は磁

    場の誘導方程式である。ここで x軸は太陽光球面に

    対し鉛直な軸として扱っている。(4) 式はエントロ

    ピーについて解いたエネルギー方程式。ここでの Q

    は輻射輸送方程式を解くことで求められる熱を表し

    ている。(5)式は、部分電離を考慮した OPALの状

    態方程式を使用した。空間微分については四次精度

    中央差分法、時間微分については四段 Runge-Kutta

    法を使用して計算している。計算領域は鉛直方向に

    6.144 Mm、水平方向に 49.152 Mm。解像度は鉛直

    方向に 32 km、水平方向に 96 km。グリッド数は

    (Nx, Ny, Nz) = (192, 512, 512)である。本研究では、

    xを鉛直方向、y, zを水平方向にとる。太陽の光球面

    を x = 0と定義する。

    水平方向の境界は周期境界条件である。下部境界

    では、速度、磁場について対称境界をとる。ただし、

    黒点内ではこれらが反対称境界になるよう設定し、

  • 14

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    黒点の崩壊を防ぐ。上部境界では、密度、エントロ

    ピー、水平速度は対称境界、鉛直速度については反

    対称境界を用いる。磁場については、Rempel (2012)

    の APPENDIX Bで説明されている境界条件のパラ

    メータα = 2のものを使用する。これは、ポテンシャ

    ル磁場から少し水平方向成分を大きくしたものであ

    る。これによって黒点の半暗部を再現する。

    黒点モデルについて、Rempel (2012)で使用され

    ているものを少し変更したモデルを用いる。黒点モ

    デルの式は以下の通り。rは黒点中心を軸とした円柱

    の動径方向を表す。

    Bx = Bphf(ζ)g(x) (6)

    Br = −Bphr

    2f(ζ)g′(x) (7)

    ここで、f と gは以下のような関数である。

    f(ζ) = exp

    (−(

    ζ

    rph

    )4)(8)

    ζ = r√g(x) (9)

    g(x) = exp

    (− (x− xtr)

    2 − (xph − xtr)2

    (xph − xtr)2log

    (BtrBph

    ))(10)

    g′は g(x)の x微分。ここで、Bph = 3000 Gは光球

    面での黒点中央の磁場強度、xph = 0 Mmは光球面

    の x座標の値、rph = 12 Mmは光球面での黒点半径

    を表す。また、xtr = −6 Mmの位置での磁場強度を深部磁場 Btr とし、今回はこれをパラメータとして

    10000 Gの場合と 4000 Gの場合で計算を行った。

    以上の黒点モデルを t = 0で計算領域中央に設置

    し、t = 8 hrまで計算を実行した。今回の解析では

    主に t = 4 ∼ 8 hrの結果を使用している。

    3 Results

    t = 6 hrでの放射強度図を Btr = 10000 Gのもの

    を図 1、Btr = 4000 Gのものを図 2にそれぞれ示す。

    より強い磁場を持つ黒点では、磁場により対流が抑

    制される作用が強く働きより暗く見えている。逆に

    10 20 30 40y [Mm]

    10

    20

    30

    40

    z [M

    m]

    t=6.00 [hr]

    Emergent intensity

    図 1: 放射強度図  Btr = 10000 Gの場合

    弱い磁場を持つ黒点では、比較的明るい放射強度を

    示す。

    これらの黒点の動径方向の力について t =

    4 ∼ 8 hr の時間平均、方位角平均を図 3 と図4 に示す。それぞれ Btr = 10000 G の黒点と

    Btr = 4000 G の黒点に対応する。光球面から

    −0.148 Mm,−0.404 Mm,−0.628 Mmの高さの層をそれぞれ上から示す。青色の線が磁気圧、赤色の線

    がガス圧、緑色の線が磁気張力をそれぞれ表してい

    る。Btr = 10000 Gの黒点の表面付近では、非常に

    強い外向きの磁気圧を、内向きのガス圧と、同じく

    内向きの磁気張力によって支えている。少し深い層

    では、ガス圧による内向きの力が磁気圧と釣り合う

    のに十分大きくなる。この層では磁気圧とガス圧で

    力の釣り合いがとれ、磁気張力は大きな影響を与え

    ない。Btr = 4000 Gの黒点の場合、表面付近でも磁

    気張力の影響は少ない。磁場がより小さくなってい

    るため、磁気圧も小さく、ガス圧とわずかな磁気張

    力で釣り合いを保っている。

  • 15

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    10 20 30 40y [Mm]

    10

    20

    30

    40

    z [M

    m]

    t=6.00 [hr]

    Emergent intensity

    図 2: 放射強度図  Btr = 4000 Gの場合

    4 Conclusion

    今回の研究から、黒点深部での磁場強度が、黒点を

    支える力の働きに影響を及ぼしていることがわかっ

    た。より強い深部磁場を持つ黒点では、光球面付近

    で外向きの強い磁気圧力に対して、内向きのガス圧

    のみでは釣り合うことができない。そこに内向きの

    磁気張力が加わることで、全体の釣り合いを保って

    いる。太陽の成層により、より深い層ではガス圧は

    大きくなる。これによって、太陽表面から 0.5 Mmほ

    ど深い層ではガス圧と磁気圧力だけで釣り合いが取

    れるようになり、磁気張力の影響は小さくなる。深

    部磁場が比較的弱い黒点の場合は、磁気圧力も比較

    的弱い。光球面付近でも磁気圧力とガス圧のみでほ

    とんど釣り合いが取れ、磁気張力の影響は少ない。

    より強い磁場を持つ黒点では、その光球面はより

    深い位置になる。深い位置でのより強い内向きガス

    圧が黒点を支える。それより上のガス圧が磁気圧力

    に満たない位置では、磁気張力が黒点を支える助け

    になる。磁気圧力、ガス圧、磁気張力の釣り合いが、

    黒点を支える力であることが示された。今後はさら

    0 5 10 15 20 25r [Mm]

    0.001

    0.000

    0.001( ( vv))r( p)r( (B 28 ))r

    ( (BB4 ))rtotal

    x =-0.148[Mm]

    0 5 10 15 20 25r [Mm]

    0.001

    0.000

    0.001( ( vv))r( p)r( (B 28 ))r

    ( (BB4 ))rtotal

    x =-0.404[Mm]

    0 5 10 15 20 25r [Mm]

    0.001

    0.000

    0.001( ( vv))r( p)r( (B 28 ))r

    ( (BB4 ))rtotal

    x =-0.628[Mm]

    図 3: 動径方向の力の時間方位角平均

    Btr = 10000 Gの場合

    に研究を発展し、黒点崩壊に関わる力の関係につい

    て調査したい。

    Reference

    Hotta H., Iijima H., & Kusano K., 2019, Science Ad-vances, 5, eaau2307

    Rempel M., Schüssler M., & Knölker M., 2009, ApJ,691, 640

  • 16

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    0 5 10 15 20 25r [Mm]

    0.0005

    0.0000

    0.0005( ( vv))r( p)r( (B 28 ))r

    ( (BB4 ))rtotal

    x =-0.148[Mm]

    0 5 10 15 20 25r [Mm]

    0.0005

    0.0000

    0.0005( ( vv))r( p)r( (B 28 ))r

    ( (BB4 ))rtotal

    x =-0.404[Mm]

    0 5 10 15 20 25r [Mm]

    0.0005

    0.0000

    0.0005( ( vv))r( p)r( (B 28 ))r

    ( (BB4 ))rtotal

    x =-0.628[Mm]

    図 4: 動径方向の力の時間方位角平均

    Btr = 4000 Gの場合

    Rempel M. 2012, ApJ, 750, 62

  • 17

    ——–index

    太恒4太陽表面における磁場要素の磁束、磁場強度、

    移動速度の関係千葉大学融合理工学府先進理化学専攻

    高畑憲

  • 18

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    太陽表面における磁場要素の磁束、磁場強度、移動速度の関係

    高畑 憲 (千葉大学大学院 融合理工学府 先進理化学専攻 物理学コース)

    Abstract

    太陽静穏領域の輻射磁気流体計算を行い、差動回転を模した強制流のある場合、太陽表面磁場の磁束、磁

    場強度、移動速度にどのような依存関係があるか調査した。これまでに Imada & Fujiyama 2018によって、

    太陽表面では平均磁場強度の強い磁場要素ほど、速く経度方向に流されていることが発見されている。これ

    は太陽内部の差動回転を反映していると考えられている。平均磁場強度の強い磁場要素ほど太陽内部深くま

    で貫いていると仮定すると、強い磁場はより速い差動回転の影響を受け、より速く経度方向に流されると説

    明することができる。本研究では、この仮定の妥当性を検証するため、磁気流体計算コード R2D2(Hotta et

    al. 2019) を用いて輻射磁気流体計算を行った。まず、差動回転を模した流れとして、最大速度 500 m/sで

    深さの 1 次関数となる水平流をおき、約 98 Mm × 98 Mm × 49 Mmの範囲で行った輻射磁気流体計算に

    より磁場を生成した。次に、光球の 2次元データに対し磁場強度や磁束の閾値を用いることで磁場要素を検

    出した。この操作を 17.5時間分の計算データに行い、述べ 73万個の光球磁場を自動的に検出・追跡し、磁

    場強度や磁束量ごとの流れ場を統計的に見積もった。結果として、大きな磁束や磁場強度をもつ磁場要素ほ

    ど速く流されることがわかり、Imada & Fujiyama 2018などで用いられている仮定の妥当性を確認できた。

    1 Introduction

    本研究の目的は、太陽光球で観測される磁場要素

    の運動への、差動回転などの太陽深部の流れの影響

    を明らかにすることである。平均磁束密度や磁束量

    など、磁場要素の特徴量とそれぞれの磁場要素の動

    きの関係を得ることによって、表面観測から太陽の

    内部情報を得ることを目的とする。

    太陽は、その中心部で核融合によりエネルギーを

    生成しており、太陽半径の 70%までは、光の放射に

    より、最後の 30%では熱対流によりエネルギーを輸

    送している。その結果として、光学観測が可能な太

    陽表面は、1 Mmほどのスケールを持つ熱対流セル

    である粒状斑で敷き詰められている。また、太陽表

    面には、乱流的な熱対流に伴って、大小様々なスケー

    ルの磁場が観測されており、本研究のターゲットは

    この乱流的な磁場である。

    太陽の対流層は、乱流的な熱対流で埋め尽くされ

    ている一方、日震学を中心とする研究によって、差

    動回転や子午面環流と呼ばれる大規模な流れが存在

    することも明らかになっている。このような大規模

    な流れは、磁束生成・輸送と言う観点で、11年の太

    陽活動周期を理解する上で重要だと考えられており、

    その詳細な性質はこれまでに多くの研究で調査され

    てきた。特に日震学では、太陽内部の流れは非常によ

    い精度でよく測られている (Thompson et al. 2003)。

    太陽表面で観測される磁場要素は、ある程度の深

    さまではコヒーレントな特徴を保ち、それ以上深く

    では、乱流的な熱対流に乱され、太陽表面で観測さ

    れる磁場との相互作用を無くしてしまうのではない

    かと考えられている。その上で、大雑把に考えると、

    平均磁場が強く磁束量の多い磁束要素はより深くま

    でコヒーレントな特徴を保っており、より深い場所で

    の流れの影響を受けると考えられる。そこで、表面

    の磁場要素の特徴量 (例えば、平均磁場強度・磁束量)

    とその動きの統計的性質、さらにはどこまでコヒー

    レントな特徴として続いているかを明らかにするこ

    とで、表面の磁場をセンサーとして、太陽内部の様

    子を明らかにすることができると考えた。観測的に

    はこのような試みはすでに行われている。太陽表面

    磁場を追跡する研究により磁場要素の平均磁場強度

    と移動速度の関係が調べられ、その結果、磁場強度が

    強い磁場は表面で観測される差動回転よりも先んじ

    て西に進むことがわかっている (Imada & Fujiyama

    2018)。これは、太陽深部の流れを反映したものと考

  • 19

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    えられるが、磁場要素と深さを調査した定量的な研

    究はこれまでに実施されていないために量的な議論

    ができないのが現状である。

    我々は数値シミュレーションを用いて、太陽光球

    を再現し、その磁場の統計的性質を定量的に明らか

    にすることとした。本研究では、我々のグループが

    開発した輻射磁気流体計算コード、R2D2を用いて

    磁気流体方程式を解く。また計算には、差動回転を

    模した大規模流れも人工的に発生させる。このよう

    にして得られた磁場データを解析することによって、

    太陽表面での磁場要素が深部での流れにどのような

    影響を受けるのか、磁場要素の特徴量とコヒーレン

    トな形状を保つ深さはどのような関係にあるのかを

    調査する。

    日震学は非常に精度の高い太陽内部場の測定を行

    うが、その測定にはある程度の長い観測時間が必要

    であり、瞬時の流れ場を追うことは難しくなってい

    る。本研究で定量的に表面磁場要素の動きと内部の

    流れをつなぐことができれば、その瞬間ごとの流れ

    を推定することが可能になり、太陽内部理解の大き

    な助けになると考えている。

    2 Methods

    本研究では、磁気流体計算コード R2D2(Hotta et

    al. 2019)を用い、磁気流体方程式を空間方向には四次

    精度中央差分を用い、時間方向には四段Runge-Kutta

    法を用いて解いた。

    ∂ρ

    ∂t= −∇ · (ρv) (1)

    ∂ρv

    ∂t= −∇·(ρvv)−∇p−ρgez+

    1

    4π(∇×B)×B (2)

    ∂B

    ∂t= ∇× (v ×B) (3)

    ρT∂s

    ∂t= −ρT (v · ∇)s+Q (4)

    p = p(ρ, s) (5)

    また、太陽の状況を再現するために、OPALで提

    供されている部分電離の効果を考慮した状態方程式

    をテーブル化して取り入れ、太陽光球での冷却を正

    確に見積もるため別途放射輸送方程式を解いた。初期

    の重力成層には太陽成層の標準モデルであるModel

    Sを用いている。水平方向には周期境界、上部境界

    と下部境界は鉛直磁場となるような境界条件を設定

    した。磁場の初期値は、水平方向に一様な 0.1 Gほ

    どの弱い磁場を与えた。そこから 4日ほど時間発展

    させると、乱流的な熱対流がダイナモにより太陽光

    球で観測されるような磁場を生成し統計的に定常な

    状態となる。その後、運動方程式に平均的な速度が

    ある値に緩和するような項 (6式)を加える。それぞ

    れの高さでの熱対流の典型時間の 5倍ほどとなるよ

    うな緩和時間を与えて、大規模な水平流を作り出す。

    この時、深部に向かうほど水平流が強くなるように

    する。定常状態に達した後、出力ケイデンスを 45秒

    に変更し、追跡用のデータを得るため 17 時間ほど時

    間発展させた。

    dvydt

    = −(vy(z)− vy0(z)

    τ

    )(6)

    ここで、zは鉛直方向、vy は水平平均、vy0は zの一

    次関数 (0∼500 m/s)、τ = Hpv (Hp :圧力スケールハイト)とした。

    今回の計算では、水平方向に 1024× 1024、鉛直方

    向に 512、全方向に格子間隔約 96 kmの一様グリッ

    ドを取る。計算領域は水平方向に 98 Mmほど、鉛直

    方向には、49 Mmほどを包括する。また、上部境界

    から 700 kmほど下に平均的な光学的厚さ 1の面が

    来るように計算を設定する。このような設定にする

    ことで、約 30 Mmのスケールを持つ超粒状斑構造

    が複数含まれ、現実に近いモデルでの計算が可能と

    なる。

    次に、このようにして得られた磁場データを解析

    する。観測が可能な光学的厚さが 0.01 となる面の

    磁場に対して、観測衛星 Solar Dynamics Observa-

    tory(SDO)専用の点拡がり関数 (Wachter et al. 2012)

    を用いてガウシアンフィルターをかけた (7式)。

    A(r) = e−(rw )

    2

    (7)

    ここで、r は対象となるグリッドからの距離、w =

  • 20

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    0.909 arcsec は 1/eとなるガウシアンの幅を表す。

    その後自動認識を用いて磁場要素を複数時間ステッ

    プに渡って追跡し、その動きから水平方向の速度を

    求めた。磁場要素の自動認識には飯田教授 (新潟大

    学)のコードを用いた。磁場強度、サイズ、磁束の閾

    値をそれぞれ 40 G、20グリッド、1017 Mxとし、閾

    値を超える磁場グリッドの塊を 1つの磁場要素とし

    た。磁場強度で重みづけした重心を磁場要素ごとに

    求め、ステップ間で最も重心間の距離が近いものを

    ペアとし、その距離から磁場要素の移動速度を算出

    した。追跡の際、最小の移動距離を 2グリッドとし、

    磁束の大きいものからペアを探した。

    3 Results

    図 1は光球磁場を検出した図である。磁場は数十

    Mmのスケールを持つ網目状に分布し、超粒状斑の

    構造が見られる。この検出を約 1400枚の 2次元デー

    タに行い、延べ 73万個の磁気要素を追跡した。

    0 10 20 30 40 50 60 70 80 90[Mm]

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    90

    [Mm

    ]

    b_th=40 G, t=0 s, N=815, R2D2

    80 60 40 20 0 20 40 60 80Bx [G]

    図 1: 光球磁場の検出。τ=0.01面での鉛直方向磁場

    をプロットした。赤と青の等高線はそれぞれ正負の

    磁場要素を表し、点は磁場要素の重心を表す。ここ

    では太陽動径方向を正の向きと定義した。

    図 2は光球における確率密度関数 (PDF: Probabil-

    ity Density Function)を表す。これまでの研究でよ

    く知られるように、磁束の分布はべき乗になってい

    る。べき指数は-2.09であり、観測の論文 (Parnell et

    al. 2009)のべき指数-1.85と概ね一致している。この

    ことから、今回シミュレーションした磁場データが

    現実の太陽に近いことがわかる。0 1 2 3 4|v| [km/s]

    10 2

    10 1

    PDF

    500 250 0 250 500vy [m/s]

    10 3

    PDF

    500 250 0 250 500vz [m/s]

    10 3

    PDF

    1017 1018 1019flux (all patch) [Mx]

    10 24

    10 23

    10 22

    10 21

    10 20

    10 19

    10 18

    PDF

    Slope is -2.09

    1017 1018 1019flux (tracked patch) [Mx]

    10 23

    10 22

    10 21

    10 20

    10 19

    10 18

    PDF

    Slope is -2.12

    1012 1014 1016 1018 1020 [Mx]

    10 24

    10 22

    10 20

    10 18

    10 16

    PDF

    102| Bx |(all patch) [G]

    10 7

    10 6

    10 5

    10 4

    10 3

    10 2

    PDF

    Slope is -1.18

    102| Bx |(tracked patch) [G]

    10 7

    10 6

    10 5

    10 4

    10 3

    10 2

    PDF

    Slope is -0.77

    0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.00.0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    PDF

    R2D2

    図 2: 太陽光球における磁束の確率密度分布 (PDF)。

    黒線はフィッティングを表す。

    図 3、図 4 は SDO の点拡がり関数をかけた磁場

    データを解析したものである。強い磁場強度を持つ

    か磁束が多い磁場要素ほど移動速度が速く、比例関

    係にある。これは、強い磁場はより深くの差動回転

    流に影響を受けていることを示唆している。200 G

    付近や 1020 Mx付近ではデータ数が比較的少ないた

    め誤差が大きくなっていることに注意されたい。

    1024 × 101 6 × 101 2 × 102| Bx | [G]

    400

    200

    0

    200

    400

    v yDe

    t [m

    /s]

    図 3: 磁場要素の磁場強度と移動速度の関係。横軸の

    |⟨Bx⟩|は、磁場強度を磁場要素それぞれのグリッド内で平均し絶対値を取ったものを意味する。横軸は

    logスケールで 100個のビンに切り、ビン毎に縦軸の

    値を平均した。黒線は標準誤差を表す。

  • 21

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    1017 1018 1019 1020flux [Mx]

    400

    200

    0

    200

    400

    v yDe

    t [m

    /s]

    図 4: 磁場要素の磁束と移動速度の関係。横軸は log

    スケールで 100個のビンに切り、ビン毎に縦軸の値

    を平均した。黒線は標準誤差を表す。

    4 Conclusion & Disucussion

    本論文では、数値シミュレーション、光球磁場要素

    追跡を用いて、磁場要素の磁場強度や磁束と差動回

    転の関係を調べた。結果として、強い磁場強度や多

    い磁束を持つ磁場要素ほど速く流されていることが

    わかった。これは、差動回転の深い部分の影響をよ

    り受けていること、つまり磁場が深くまで続いてい

    ることを示唆しており、最初の予想と調和的である。

    SDOによる観測の論文 (Imada & Fujiyama 2018)

    で得られた結果では、約 100 Gから 200 Gにかけて

    磁場強度と移動速度に比例関係があり、本論文が示

    す関係と傾向が一致している。太陽における実際の

    差動回転速度を今回の計算領域に当てはめると速度

    差は約 30 m/sであり本計算とは異なる。今回の計算

    では、深部の差動回転による影響を明確にするため

    このような値を設定した。

    Reference

    Hotta, H., Iijima, T. & Kusano, K. 2019, Science Ad-vances, 5eaau2307

    Imada, S.& Fujiyama, M. 2018, The Astrophysical Jour-nal Letters, 864:L5

    Parnell, C. E. DeForest, H. J. Hagenaar, B. A. John-ston, D. A. Lamb, and B. T. Welsch 2009, The As-trophysical Journal, 698:75–82

    Thompson, Michael J., Christensen-Dalsgaard, Jørgen,Miesch, Mark S.& Toomre, 2003, Annual Review ofAstronomy &Astrophysics, vol. 41, pp.599-643

    Wachter, R. Schou, J. Rabello-Soares, M.C. 2012, SolarPhys 275:261–284 ·

  • 22

    ——–index

    太恒5太陽高エネルギー粒子 (SEP)とコロナ質量放出

    (CME)の関係性に対する統計的研究京都大学理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻

    木原孝輔

  • 23

    2020

  • 24

    2020

  • 25

    2020

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    2020

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    ——–index

    太恒6超小型衛星で迫る太陽フレアからの熱的・非熱

    的放射の時間発展と粒子加速東京大学理学系研究科物理学専攻

    長澤俊作

  • 28

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    超小型衛星で迫る太陽フレアからの熱的・非熱的放射の時間発展と粒子加速

    長澤 俊作 (東京大学大学院 理学系研究科, Kavli IPMU)

    Abstract

    太陽フレアとは、わずか 1000秒程度で最大 1033 ergものエネルギーを解放する太陽系で最も激しい爆発的現象である。このようなエネルギー解放は反平行成分を持つ磁力線同士がつなぎ変わる磁気リコネクション機構によって磁場エネルギーが熱や粒子の運動エネルギーに変換されることで生じることは分かってきたが、未だモデルは確立していない。特に GOES衛星による 2バンド (1.6-12 keV, 3-25 keV)のみの軟 X線、および RHESSI衛星による 10 keV以上の硬 X線観測データを用いた従来のスペクトル解析では、加熱・ 冷却過程の詳細な追跡や加速電子の持つエネルギーを正確に見積もることは難しかった。そこで、本研究では、2016年から約 1年間太陽全面からの 0.8-12 keVの軟 X線観測を行なった超小型 CubeSat衛星MinXSS-1、及び RHESSI衛星の 10-100 keVの硬 X線観測データを組み合わせ、2016年 7月 23日に発生したMクラスフレアを対象に XSPECを用いてスペクトル解析を行なった。その結果、RHESSI 衛星のみを用いるよりも、熱的・非熱的成分を精度よく決定することが可能となり、得られたパラメータを元に熱電子の温度・エミッションメジャーの時間発展を高精度で求めることに成功した。また、フレア進行に伴う abundanceの時間変化についても調査を行なった。

    1 磁気リコネクション機構の統一的理解に向けて

    宇宙における粒子加速に伴う非熱的放射は、超新星残骸や活動銀河核ジェット、銀河団など様々なスケールで観測されている。これらを理解する枠組みとしてこれまではフェルミによる衝撃波統計加速が応用されてきたが、かに星雲のGeVフレアでの短時間の電子加速 [1]など依然として説明できない観測結果も多く、磁気リコネクションによる直接加速を用いたモデルが近年強く主張されている。磁気リコネクションとは反平行成分を持つ磁力線

    同士がつなぎ変わる現象で、磁気エネルギーが効率的に熱エネルギーや粒子の加速エネルギーに変換される。磁気リコネクションに対する完全な理解を得るには、リコネクション領域全体を俯瞰的に観測することで、粒子が一体「いつ」「どこで」「どのように」加速されているのか、まさにその現場を捉える必要がある。その中で太陽は我々最も近い恒星であり詳細な観測が可能なため、磁気リコネクションの

    様子を直接観測する場としてこれ以上のものはなく、他の天体での磁気リコネクション機構を解明する上でも重要な鍵となる (図 1)。

    図 1: 太陽フレアからの X線源 ([2]改変)

  • 29

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    2 太陽フレアからのX線放射太陽フレアとは、わずか 1000秒程度で最大 1033

    ergものエネルギーを解放する太陽系で最も激しい爆発的現象である。このようなエネルギー解放は磁気リコネクション機構によって磁場エネルギーが熱や粒子の運動エネルギーに変換されることで生じることは分かっているが、未だ詳細なモデルは確立していない。太陽フレアに伴い、加速された電子と周辺プラズ

    マとの制動放射(非熱的放射)、および加速電子により加熱された高温プラズマによる熱的放射としてX線が放射される。そのため、X線帯域でのスペクトル解析を元にこれらを分離し各々の時間発展を追うことは、フレアに伴う加熱、冷却および粒子加速の過程を理解する上で重要である。非熱的な硬 X線放射を観測することで、高エネルギーの電子が太陽表面に突入する「すでに加速された電子」の様子を知ることができた [3]。しかし、これまでの解析ではRHESSI衛星によるおよそ 10 keV以上の硬 X線観測データのみを用いるものが中心であり、特に熱的成分と非熱的成分の低エネルギー側のカットオフの決定精度が悪く、加熱・冷却過程の詳細な追跡や加速電子の持つエネルギーを正確に見積もることは難しかった [4]。また、1-10 keVの軟X線帯域の観測データは GOES 衛星による 2 バンド (1.6-12 keV, 3-25keV)のみであり、詳細なエネルギーバンド毎の解析は不可能であった。

    3 超小型CubeSat衛星MinXSSMinXSS (The Miniature X-ray Solar Spectrome-

    ter) とは CubeSat規格 3U (10 cm×10 cm×34 cm)の超小型人工衛星であり、コロラドのLaboratory forAtmospheric and Space Physics (LASP)の大学院生が中心に開発を行った。2016年 5月 16日に ISSから軌道投入され、2017年 5月 6日まで約 1年間、空間分解能こそはないものの近年の観測で唯一、0.8-12keVの軟X線帯域での分光観測を行った (図 2)。そのため、RHESSI、AIA/SDOなど他波長の観測データと組み合わせることで、よりフレアの理解を進めることが可能となる。Spectrometerとして、Amptek

    社の X123 Silicon Drift Detector を搭載しており、エネルギー分解能 0.15 keV ([email protected] keV)、最大カウントレート 8000 counts/s でフォトンカウンティング観測を行うことができる [6]。スペクトルは10秒ごとに取得され、1年間で 10個以上のM-Classフレアの観測に成功した (図 3)。

    10 cm 10 cm

    34 cmMinXSS: The Miniature X-ray Solar Spectrometer

    図 2: MinXSS CubeSat 衛星 ([5] 改変)

    20172016

    2016

    1 ~

    15 ke

    V Co

    unts

    /s

    52017

    5C -110 F

    5 7 9 11 1

    5

    図 3: MinXSSによる一年間の観測

  • 30

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    4 2016年 M7.6フレアの解析本研究では、MinXSSが観測したフレアで最大規模

    となる 2016年 7月 23日 5時ごろに発生したGOESM7.6クラスフレアを対象に解析を行った。0.8-12 keVのMinXSSによる軟X線観測データによるスペクトルが図 4であり、軟 X線帯域で詳細なスペクトルを得ることができる。これに加え、今回は RHESSI衛星の 10-100 keVの硬X線観測データを組み合わせて使用した。本解析ではスペクトル解析パッケージとして、通常 RHESSIの解析で用いられるOSPEXではなく、高エネルギー宇宙物理学分野で広く用いられているXSPEC[7]を用いた。XSPECは、物理モデルを検出器のレスポンス(有効面積、エネルギー分解能などを考慮)をたたみ込むことでカウント値とし、それを実観測のカウントスペクトルと比較することで Fittingを行っており(Forward fitting Method)、RHESSIとMinXSSなど複数の観測機器のデータに対して同時に Fittingを行うことができる。XSPECを用いるため、MinXSSと RHESSIのスペクトル観測データ、レスポンス情報を XSPECの入力形式に変換を行った。解析結果は、現在論文執筆中のため省略する。

    5 参考文献[1] Abdo et al. 2011, Science

    [2] Shibata 1999, NRO Reports

    [3] Matsusda et al. 1994, Nature

    [4] Holman et al. 2011, Space Science Reviews

    [5] Mason et al. 2016, Journal of Spacecraft and

    Rockets

    [6] Moore et al. 2018, Solar Phys

    [7] Arnaud. 1996, Astronomical Data Analysis Soft-

    ware and Systems V

    X123

    spec

    trum

    [cou

    nts/

    s/bi

    n]

    Energy [keV]

    GOES M7.6 Class Flare 2016-07-23 05:04:14

    Coun

    t rat

    e [c

    ount

    s/s]

    Elapsed Time [s] (Start from 2016-07-23 05:04:14)

    図 4: MinXSS 観測データによる軟 X線スペクトルの時間発展とライトカーブ

  • 31

    ——–index

    太恒7活動領域からのアウトフローと遅い太陽風の関連性のFIP効果による検証、および突発現象へ

    の応用京都大学理学研究科宇宙物理学教室

    井上大輔

  • 32

    2020

  • 33

    2020

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    2020

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    2020

  • 36

    ——–index

    太恒8低質量星におけるアルフベン波駆動の磁気回転

    風について東京大学総合文化研究科広域科学専攻

    清水公彦

  • 37

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    低質量星におけるアルフベン波駆動の磁気回転風について

    清水 公彦 (東京大学大学院 総合文化研究科)

    Abstract

    本講演ではまず Shoda et al.(2020)を紹介する。星の自転の観測から、低質量星は主系列の間に角運動量を

    失うことがわかっている。本研究は低質量の主系列星の自転と風の性質の進化についての研究で、恒星風の

    理論モデルを用いて質量損失率を測定し、自転進化と恒星風の関係を調べる。これまでの恒星風の理論的研

    究から、磁気制動トルクはアルフベン半径と質量損失率により規程されていることが知られている。よって

    アルフベン半径と質量損失率を同時に考慮した太陽風モデルを恒星風に一般化し、彩層とその中の波動を解

    像し、恒星風の加速を十分にカバーできるだけの領域でシミュレーションを行った。光球表面での開いた磁

    束をロスビー数の冪乗則に従うと仮定した結果、スピンダウン則Ω∗∝ t−0.55 が得られ、質量損失率は彩層

    でのアルフベン波の強い反射と散逸により Ṁw ∼ 3.4 × 10−14 で飽和する。アルフベン波駆動の磁気回転風モデルは主系列星の自転進化に支配的な役割を果たしていることが示唆される。

    この上で自分が行ったアルフベン波の擾乱の入射を変えた場合の計算結果について紹介する。

    1 Introduction

    恒星のダイナモ効果によって生成された恒星磁場

    はコロナ加熱や恒星風、コロナ質量放出などに大き

    く寄与する。これら諸現象は恒星の寿命にしたがっ

    て衰退していく。このような長期的な進化を理解す

    ることは、天文学における最も重要な課題の一つで

    ある。そのために、まず恒星の自転の進化を理解す

    る必要がある。

    恒星の自転は寿命と共にスピンダウンすることが

    知られているが、これは磁気制動という磁力線によっ

    てつながった物質が回転の過程で角運動量が外に輸

    送されて角運動量損失するのが原因である。磁気制

    動は回転の速い星ほど強くなるため、質量の低い星

    の自転周期は、初期の自転速度に関係なく、質量と

    年齢で定義された速度に収束することがよく観測さ

    れる。(Irwin & Bouvier 2009)そのため、恒星の年

    代測定に自転率が使われることがあり、ジャイロク

    ロノロジーと言われる。しかし、最近の研究では太

    陽の年齢よりも古い星では、ジャイロクロノロジー

    の法則から外れる可能性があることが示唆されてい

    る。その原因を理解するためにも、まず恒星が角運

    動量を失うメカニズム、すなわち磁気制動を考慮し

    た恒星風について正しくモデル化する必要がある。

    恒星風の理論モデルの既存の研究の問題点の一つ

    は、質量損失率とアルフベン半径が独立で議論され

    ていた点である。質量損失率とアルフベン半径は恒

    星風密度によって変化するため、本研究ではこの二

    つを同時にモデル化する。

    恒星風による質量損失率は彩層とコロナのエネル

    ギーバランスによって強く影響をうける。対流運動

    によって生じた磁気擾乱のエネルギーの一部は,アル

    フベン波と呼ばれる磁力線に沿って伝わる横波の形

    で上層大気に輸送され、恒星風を加速させる要因と

    なる。アルフベン半径は恒星の大規模な磁気と恒星

    風の加速に関係している。したがって、質量損失率と

    アルフベン半径を同時にモデル化するために、彩層

    とその中の波動(典型的な空間スケールは数 100km)

    を解像し、十分にカバーできるだけの大きなシミュ

    レーション領域が必要となる(代表的な空間スケー

    ルは恒星半径の数十倍)。本研究ではこれらの要求を

    満たす一次元太陽風モデルを用いて、恒星風のパラ

    メータ(質量損失率、アルフベン半径、トルク)の

    恒星自転率への依存性について調べた。

    2 Methods

    本研究では光球表面から磁気音速点を越えて広が

    る赤道上の恒星風をシミュレーションする。数値計

  • 38

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    算のコストを削減と単純化のために一次元軸対称性

    を仮定している。恒星表面から伸びる磁力線の構造

    は恒星の外へ開いた磁場構造と表面に閉じたループ

    状のものが存在する。開いた構造の磁場は恒星風を

    駆動させる。そのため、この磁力線に沿った軸対称一

    次元座標系を用いる。対応するスケール因子は hr =

    1, hθ = rfopen, hϕ = r となる。ここで重要なのが、

    開いた磁束のフィリングファクター fopen、

    fopen (r) =Φopen

    4πr2 |Br(r)|(1)

    である。ここでΦopenは開いた符号無し磁束と |Br(r)|は動径方向の符号無し磁場である。各シミュレーショ

    ンで Φopen は rに関して一定である。

    基礎方程式は重力、熱伝導、放射冷却を考慮した

    非相対論的MHD方程式である。理想気体の状態方

    程式は

    p = c1ρT, c1 = 1.36× 108 erg g−1K−1 (2)

    である。c1の値は数%のヘリウムを含む完全イオン

    化プラズマの状態方程式と対応している。シミュレー

    ションの概略図を図1に示す。

    図 1: 概略図

    fopenを決定する方法は確立されていないが、 See

    et al. (2019)によるとダイポール磁場が角運動量損

    失率を決定するのに十分であることから、単に開い

    た磁束がダイポール磁場に比例すると仮定する。さ

    らに、磁力線は彩層とコロナで 2段階に膨張すると

    仮定した。

    アルフベン波乱流は多次元的な過程であるため, 付

    加的な項がなければ一次元モデルでは再現できない

    ので、現象論的手法を用いて、速度と磁場の乱流散

    逸、Dturbv とDturbb を

    Dturbv =cd4λ⊥

    (∣∣z+θ ∣∣ z−θ + ∣∣z−θ ∣∣ z+θ )Dturbb =

    cd4λ⊥

    (∣∣z+θ ∣∣ z−θ − ∣∣z−θ ∣∣ z+θ ) (3)とする。ここで z±θ,∗ は Elsässer 変数 (=vθ ∓Bθ/

    √4πρ)である。

    境界条件として、内部では太陽のパラメータを元に

    T∗ =p∗c1ρ∗

    = 6000K, vϕ,∗ = R∗Ω∗

    Br,∗ = Beq,∗ = 1300G, Bϕ,∗ = 0(4)

    とした。添字の”∗”は光球表面の物理量であることを

    示す。MHD 波動を入射させる為に磁場に擾乱を与

    える。

    z+θ,∗ ∝20∑

    N=0

    sin(2πf tN t+ ϕ

    tN

    )/√2πf tN (5)

    周波数 f tN は 1×10−3Hz ≤ f tN ≤ 1×10−2Hzで、対流のターンオーバーの時間スケールに近似している。

    太陽型星 (M∗ = M⊙, R∗ = R⊙, Z∗ = Z⊙)のみを考慮し、自転率を変えて計算を行った。また、無回

    転で加える擾乱の成分を変えた場合も計算した。

    3 Results

    図 2は、様々な自転率での一定時間が経過し、系が

    準定常状態に到達した後に時間平均化を施した回転

    速度 vϕ(左側)、磁場の傾き −Bϕ/Br(右側)である。平均化時間は通常 1.2× 105[sec] ≈ 1.39[day]である。Prot = 24日 (赤実線)、12日 (オレンジ破線)、6日

    (緑破線)、3日 (青点線)である。vϕはある高さまでは

    図 2: 回転速度と磁場の分布 (Shoda.et.al 2020より)

    恒星風は恒星と光球の回転速度で共回転し、アルフベ

  • 39

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    ン半径以降は減少する。この挙動は磁化した恒星風の

    理論モデルを解析的に解いたWeber & Davis(1967)

    vΦ,WD ≈ rΩ∗ (r ≪ rA)

    vΦ,WD ≈ r2AΩ∗/r (rA ≪ r)

    −Bϕ,WD/Br ≈ rΩ∗/vr,∞ (r ≫ rA) 

    (6)

    と一致しており磁場についても一致している。

    図 3: トルクと自転速度 (Shoda.et.al 2020より)

    恒星の内部構造進化を無視し、剛体とすると恒星

    の回転進化は I∗dΩ/dt = −τw で表される。I は慣性モーメント、τwはトルクである。図 3にトルクと自転

    率の関係を示す。トルクはτw∝ Ωp+1∗ で近似すると、

    回転進化の解はΩ∗∝ t−1/pである。結果をフィッティ

    ングすると Ω∗ ∝ t−0.549 で、Angus et al.(2015)の観測結果によるとジャイロクロノジーは Prot ∝ t0.55

    であり、結果と一致している。

    図 4: 質量損失率と自転速度 (Shoda.et.al 2020)

    図 4に質量損失率の自転率の依存性を示す。菱形

    は fopen∗ を 10−3で固定した場合の結果である。Ṁw

    は低速回転領域ではΩ∗とともに増加し、高速回転領

    域では約 3.4× 10M⊙/year で飽和する。Shoda.et.al (2020)では、光球から注入する波は式

    (5) のθ成分のみである。これらの結果に加えて新

    たに、波の振幅は一定で、θ成分とφ成分両方に加

    えた場合についての計算を行った。光球から注入す

    る波の偏光成分に着目するので、光球の回転角速度

    Ω∗ = 0とした。この時の質量損失率を表 1に示す。

    表 1: 加えた擾乱の成分ごとの質量損失率擾乱の成分 θ成分 φ成分 両方

    Ṁw[10−14 ×M⊙/year] 0.63 0.51 1.43

    4 Discussion

    質量損失率が飽和する原因を理解するために、恒

    星風のエネルギー収支を議論する。アルフベン波の

    エルギーフラックスをLAとし、成分別に分解すると

    LA = LwavA + L

    rotA

    LwavA =

    [(1

    2ρv2θ +

    B2θ4π

    )vr −

    Br4π

    vθBθ

    ]4πr2fopen

    LrotA =

    [(1

    2ρv2ϕ +

    B2ϕ4π

    )vr −

    Br4π

    vϕBϕ

    ]4πr2fopen

    (7)

    Cranmer & Saar (2011) の近似式 LK, out +

    LG, cor ≈ LwaA, cor を採用すると質量損失率について次の関係が導かれる。

    Ṁw ≈LwavA,corv2g,⊙

    (8)

    ここで vg,⊙は太陽の脱出速度。図 5は様々な自転率

    ごとのアルフベン波のポインティングフラックスの大

    きさを示している。アルフベン波の輝度 LrotA が飽和

    していることは、図 4の質量損失率に対応しており、

    式 18の関係が成り立っていることが分かる。LrotA が

    飽和する原因を彩層のエネルギー収支を調べること

    で議論する。

    図 6は様々な自転率ごとのアルフベン波の光球か

    ら彩層での回転エネルギーフラックスとその損失率

    について示している。彩層でのエネルギー損失は主

  • 40

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    図 5: 自転率とエネルギーフラックス (Shoda.et.al

    2020)

    図 6: 光球から彩層でのエネルギーフラックスと損失

    (Shoda.et.al 2020)

    に乱流散逸とアルフベン波の横波と縦波の間のエネ

    ルギー変換で、以下のように定義される。

    Qturb = cdρ

    ∣∣z+θ ∣∣ z−2θ + ∣∣z−θ ∣∣ z+2θ4λ⊥

    εr↔θ = −vr∂

    ∂r

    (B2θ8π

    )+ vr

    (ρv2θ −

    B2θ4π

    )d

    drln (rfopen )

    (9)

    図 5のパネル b-dの乱流損失 (赤線)を比較すると回

    転数増加による乱流損失が増加しており、これが起

    因していると言える。まとめるとアルフベン波のエ

    ネルギーは回転が速い場合ほど彩層に散逸し、LrotAは回転の増加に伴って飽和し、質量損失率が飽和す

    ることがわかった。

    図 7: 光球から彩層でのエネルギーフラックスと損失

    図 7は擾乱の大きさは変えずに入射成分を変えた際

    のアルフベン波の光球から彩層での回転エネルギーフ

    ラックスとその損失率を表す。無回転、つまりProt =

    ∞であるから、先の考察から乱流散逸が減っており、モード変換と同等の損失になることが分かった。入

    射の成分を変えた場合、擾乱を両成分に加えた場合

    の方がエネルギー損失が現象した。これはθ成分の

    擾乱の大きさが 1/√2倍されたことによってモード

    変換によるエネルギー損失が現象したためと考えら

    れる。

    Reference

    Angus, R., Aigrain, S., Foreman-Mackey, D., & McQuil-lan,A. 2015, MNRAS, 450,1787

    Cranmer, S. R., & Saar, S. IH. 2011,ApJ, 741, 54

    Irwin, J., & Bouvier, J. 2009, in IAU Symposium, Vol.258, The Ages of Stars, ed. E. E. Mamajek, D. R.Soderblom, & R. F. G. Wyse, 363− 374

    See, V.,et al. 2018, MNRAS, 474,536-.2019, ApJ, 886,120

    Shoda et.al 2020, arXiv:2005.09817v2

    Weber, E. J., & Davis, Jr.,L. 1967, ApJ, 148,217

  • 41

    ——–index

    太恒9狭帯域フィルターを使った金属欠乏星捜索甲南大学自然科学研究科物理学専攻

    岩崎巧実

  • 42

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    狭帯域フィルターを使った金属欠乏星捜索

    岩崎 巧実 (甲南大学大学院 自然科学研究科 物理学専攻 M2)

    Abstract

    金属欠乏星とは、太陽と比べて重元素、すなわち金属の量が少ない恒星を指す。これらは金属がま

    だ少なかった時代の宇宙で誕生したため、古い星が多い。ゆえに金属欠乏星を観測することで、宇

    宙初期の情報を得ることができる。その金属欠乏星の捜索方法に、狭帯域フィルター (narrow band

    filter、以下 NB)を用いた観測がある。NB観測では、恒星からの光を対物プリズムに比べて少な

    い素子に集められるため、暗い天体でも観測できる。また見た目の距離が近い天体でも、NBは互

    いの光を分離できる。中でも、Ca+ の吸収線である Ca H & K線 (各々3968.5Å、3933.7Å)に高

    い感度を持つ NBが、金属欠乏星の捜索に有用である (Starkenburg et al. (2017))。この吸収線

    は、金属量の小さい恒星ほど強度が弱くなるという特徴があるため、金属量の比較に利用できる。

    NB400は、Ca H & K線を含む 3900-4000Åの波長の光だけを透過するため、同じ波長域に感度

    を持つ vバンドフィルターと比較すると、Ca H & K線に対して感度が高い。それにより、他の元

    素によるスペクトルに埋もれることなく、恒星の Ca H & K線を観測できる。

    本研究では、東京大学木曽観測所 105cmシュミット望遠鏡を使った金属欠乏候補天体の NB観測、

    ならびに西はりま天文台なゆた望遠鏡による候補天体の追観測を行う。一度に広範囲を観測できる

    この望遠鏡で、金属欠乏星を効率よく検出できる NB400を使うことで、多くの金属欠乏星候補天

    体をまとめて見つけられることが期待される。本講演では、Ca H & K線の NBを使った、105cm

    シュミット望遠鏡によるパイロット観測データを用いた金属欠乏星候補天体の捜索への利用につい

    ての議論を行う。また、2020年 2月に行った、兵庫県立大学西はりま天文台 2mなゆた望遠鏡を

    用いた金属欠乏星候補天体の追観測結果も合わせて紹介する。

    1 Introduction

    誕生直後の宇宙は水素とヘリウム、微量のリ

    チウムで占められており、現在のように多様な

    元素は存在しておらず、この時代に生まれた恒

    星は主に水素とヘリウムのみで構成されていた。

    このうち大質量星は寿命を迎えると超新星爆発

    を起こし、内部で合成した炭素や酸素といった

    重元素を宇宙空間に齎す。その後、重元素を含

    むガスから次世代の星が生まれ、その内部で重

    元素が合成され、超新星爆発によって宇宙空間

    に元素が放出される。さらに放出されたガスと

    星間ガスによって構成された星形成ガス雲から

    また次世代の星が生まれる、というサイクルを

    繰り返し、宇宙には重元素が増えていった。

    これら水素やヘリウム以外の元素は、まとめて

    金属と呼ばれる。また、恒星に含まれる金属の

    割合を表した指標を金属量といい、[Fe/H]とい

    う表記で表す。これは、恒星の鉄と水素の質量

    比と太陽の鉄と水素の質量比を常用対数で表し

    た数値であり、例えば金属量が太陽の 1/100な

    ら、[Fe/H] = -2である。太陽と比べ、金属をあ

    まり含まない古い恒星を金属欠乏星 (metal-poor

    star、図 1)という。金属欠乏星を観測すること

    で、その星が生まれた古い時代の宇宙の元素組

    成などの情報を得ることができる。

  • 43

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    図 1: 太陽と金属欠乏星のスペクトル

    (https://space.mit.edu/home/afrebel/group/

    Frebel Research Group.html)。

    2 Methods

    現在までに、HK Surveyなどのスリットレス

    分光 (Beers et al. (1985))から始まり、SEGUE

    などのファイバー分光 (Yanny et al. (2009))、

    そして Skymapperなどの狭帯域フィルター観測

    (Jacobson et al. (2015))と、様々な方法で金属

    欠乏星が探査されてきた。それに伴い、金属量の

    最小記録も次々と更新され、現在は Skymapper

    の狭帯域フィルター観測で [Fe/H] < -7.1の金属

    欠乏星が発見されている (Keller et al. (2014))。

    しかし、従来のスリットレス分光やファイバー分

    光といった観測方法では観測領域が限られ、ま

    た遠方クエーサーの観測と同時に行われたこと

    もあり限界等級が深く、13-14 等級よりも暗い

    金属欠乏星が多く発見されていた (Frebel et al.

    (2006), Yanny et al. (2009)、図 3)。一方で金属

    欠乏星の等級分布 (Suda et al. (2008)、図 2)を

    見ると、9-12等の明るい金属欠乏星があまり発

    見されておらず、凹みが見られる。これは、9-12

    等の明るい金属欠乏星の数が少ないというわけ

    ではなく、これらを発見するためには広い観測

    領域が必要なため、観測が行き届いていないこ

    とを示している。そこで、我々はこれまで観測

    が足りておらず、かつ高分散分光もしやすいこ

    れらの恒星に的を絞った狭帯域フィルターを用

    いた探査観測を計画している。具体的には約 20

    平方度の視野を持つ Tomo-e Gozenカメラを用

    いて北半球から観測可能である約 30000平方度

    の空について、金属欠乏星の探査を行う計画で

    ある。

    そのためのパイロット観測として我々は 2019年

    3 月、約 20 平方度の領域で狭帯域フィルター

    (narrow-band filter、NB) を用いた観測を行っ

    た。また今回は 4 種類の波長 400nm、436nm、

    520nm、860nm付近の光だけを透過する狭帯域

    フィルターを用いた。このうち 400nm付近の光

    を透過するNB400フィルターは、カルシウムイ

    オンの吸収線 (Ca H & K lines, 3968.5Å, 3933.7

    Å)を観測するのに適している。恒星のスペクト

    ルのうち、この吸収線は図 4右のように恒星の金

    属量によって強度が異なり、また図 4左の上部に

    位置する恒星ほど金属量は小さくなる (Starken-

    burg et al. (2017)、図 4)。

    図 2: SAGAデータベース上の金属欠乏星の V

    バンドでの等級の分布。(Suda et al. (2008))

    図 3: 従来の観測によって発見された金属欠乏星

    の等級。13-14等より暗い星が多く見つかってい

    る。(Frebel et al. (2006), Yanny et al. (2009))

  • 44

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    図 4: 金属量ごとの Ca H & K線の強度の計算

    結果 (Starkenburg et al. (2017))。赤は [Fe/H]

    = 0、橙は-1、緑は-2、青は-3となっている。黒

    い点線は NB400の透過する範囲を指す。

    3 Target Selection

    図 4より、観測で得られた図 5の左上部分に

    位置する恒星は金属量が小さいことが大雑把に

    予想されるが、パイロット観測で得られたデー

    タが少なかったため、ターゲットの選択は困難

    であると思われた。そこで、様々な表面温度や

    重力、金属量などのパラメータを持つ恒星の期

    待されるフラックスを計算し、gバンドや iバン

    ド、波長 400nmの光の等級を見積もった。さら

    に、機械学習を用いることで等級を計算した数

    十万天体のパラメータと金属欠乏 ([Fe/H] < -2)

    であるかとの関係を学習させ、その学習結果よ

    り、図 5の灰色で示された天体の中からなゆた

    望遠鏡による追観測のターゲットを選択した。

    図 5: 2019年 3月のパイロット観測で得られた恒

    星のパラメータ。右端のカラーバーはパイロット

    観測のターゲット天体の金属量に対応している。

    4 Observations and

    Discussion

    事前に選択したターゲットを対象に、2020年

    2月、なゆた望遠鏡による中分散の分光追観測を

    行った。また天体の大気パラメータを推測するた

    めに、得られたスペクトルについて波長 517nm

    付近のMgの吸収線が重なるような大気モデル

    を計算した (図 6)。その結果、高確率で金属欠乏

    であるとされた恒星は、2020年 2月の観測で実

    際に金属欠乏であることが示唆された(図 7)。

    しかし、悪天候により観測した天体数は予定の

    2割にとどまった上、スリットを広げて波長分

    解能を下げた、S/N比を優先する観測を行った

    ため、得られたスペクトルはおおよその見積も

    りのみ可能な質のものとなった。また、Tomo-e

    Gozenを用いた観測は年内にさらに行われる予

    定であり、なゆた望遠鏡による追観測も申請予

    定であるため、さらに多数の金属欠乏候補星か

    ら金属欠乏星を発見できることが期待される。

    図 6: 2020年 2月の追観測で得られた恒星のス

    ペクトルの例。赤線が観測スペクトル、緑、青、

    紫線はいずれも Teff = 5740[K], log(g) = 3.5,

    Vmic = 1.2 のモデル大気であり、best fit の青

    は [Fe/H] = -0.70、緑と紫はそれぞれ [Fe/H] =

    -0.60と-0.80である。

  • 45

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    図 7: 2020年 2月の追観測で得られたうち最も金

    属量が小さい恒星のスペクトル。Teff = 5460[K],

    log(g) = 1.8, Vmic = 0.4であったが、[Fe/H] =

    -1.21と推測され、[Fe/H] = -0.70の図 6よりも

    吸収線が弱いことがわかる。

    5 Conclusion

    宇宙初期に生まれたとされる金属欠乏星を観

    測することで、古い時代の宇宙の情報が得られ

    る。その金属欠乏星を捜索する方法として、Ca

    H & K の吸収線の強度によって星を狭帯域フィ

    ルターで分けるというものがある。シュミット

    望遠鏡での観測結果から機械学習を用いて金属

    欠乏星候補天体を探したが、追観測当日は天候

    不順もあり、観測数、スペクトルの S/N比も目

    標を下回った。また、得られたスペクトルから

    推測された金属量も図 8のようになり、[Fe/H]

    < -2の天体は発見できなかった。

    年内になゆた望遠鏡による追観測の申請を 2回

    行う予定でもあるため、機械学習の改善や、観

    測数、精度の高い大気パラメータを求めるため

    の S/N比の向上を目指す。

    Reference

    Beers, T. C., Preston, G. W., Shectman, S. A. etal. 1985, AJ, 90, 2089-2102

    Frebel, A., Christlieb, N., Norris, J. E. et al. 2006,ApJ, 652(2), 1585.

    図 8: 2020年 2月の追観測で得られた恒星の金

    属量のまとめ。最低値は [Fe/H] = -1.21、最高

    値は [Fe/H] = 0.13であった。

    Jacobson, H. R. Keller, S., Frebel, A. et al. 2015,AJ, 807(2), 171.

    Keller, S. C., Bessell, M. S., Frebel, A. et al. 2014,Nature, 506(7489), 463.

    Starkenburg, E., Martin, N., Youakim, K. et al.2017, MNRAS, 471(3), 2587-2604.

    Suda, T., Katsuta, Y., Yamada, S. et al. 2008,PASJ, 60(5), 1159-1171

    Yanny, B., Newberg, H. J., Johnson, J. A. et al.2009, ApJ, 700(2), 1282.

  • 46

    ——–index

    太恒10多波長同時観測で迫るおうし座UX星で生じた

    巨大フレアの特徴中央大学理工学研究科物理学専攻

    北古賀智紀

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    2020

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    ——–index

    太恒11TESSとMAXIを用いた巨大恒星フレアにおける白色光フレアエネルギーとX線最大光度の関係

    中央大学理工学研究科物理学専攻岡本豊

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    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    TESSとMAXIを用いた恒星フレアにおける白色光フレアエネルギーと

    X線最大光度の関係

    岡本 豊 (中央大学大学院 理工学研究科)

    Abstract

    巨大な磁気エネルギーの解放現象であるフレアは、太陽だけでなく近傍の恒星からも観測されており、M型

    星のフレア放射エネルギーは大きいもので 1035 erg にも及ぶ。太陽で起こる彩層蒸発現象がこのような巨大

    恒星フレアに適応できるかを知る上で、多波長による同時観測結果の比較は重要である。太陽フレアでは、

    可視連続光 (白色光)帯域での放射エネルギー (EWL)と、1–8 Åにおける X 線の最大光度 (LX)の間には、

    LX = 1025–1027 erg s−1 において、EWL ∝ LX∼1.0 という関係にあることが報告されている (Namekata et

    al. 2017)。このことは、非熱的粒子の彩層・光球突入の結果放射される白色光フラックスの時間積分と熱的

    放射である軟 X線フラックスが比例する、Neupert効果を示していると考えられる。この関係が恒星でも成

    り立つのか調べるために、6,000–10,000 Å の帯域で全天を測光観測をしている系外惑星探索衛星 TESS、及

    び 2–20 keV の帯域で全天を捜査観測しているMAXIに着目し、同時観測されているフレアの調査を行った

    ところ、2018年 8月 16日に dMe型星のけんびきょう座 AT星で生じたフレアが同時観測されていた。この

    フレアの 0.01–10 keV における X線の最大光度は LX = 7×1031 erg s−1 という巨大なものであり、MAXIと TESSのデータから LX と EWL をそれぞれ求めた。さらに、X線と可視光で恒星フレアを同時観測した

    先行研究 (Guarcello et al. 2019) のデータを基に、LX = 1029–1030 erg s−1 における LX と EWL を求め

    た。その結果、太陽及び恒星フレアにおける EWL–LX 関係は、6桁にわたって EWL ∝ LX∼1.0 であった。このことは、恒星フレアにおいても Neupert効果が成り立つことを示唆する。

    1 Introduction

     フレアとは、恒星表面で起こる爆発現象で、突

    発的な増光が様々な波長帯で観測される。太陽フレ

    アにおいては、硬X線フラックス (FHXR)と軟X線

    フラックス (FSHR)の間に ∫FHXRdt ∝ FSHR と

    いう関係が成り立つことがわかっており、Neupert効

    果と呼ばれている。この関係は、硬X線と軟X線に

    限らず、非熱的放射と熱的放射の間に成り立つこと

    も知られている。Namekata et al. 2017 では、非熱

    的粒子の彩層・光球突入の結果放射される白色光フ

    ラックスの時間積分 (EWL)と熱的放射である軟X線

    (1 – 8 Å)フラックスの間には EWL ∝ LX0.87±0.04という関係にあることが報告されており (図 1)、白色

    光と軟X線の間にもNeupert効果が成り立つことを

    示していると考えられる。白色光と軟 X線における

    Neupert効果は、彩層蒸発現象によって起こると考

    えられている。彩層蒸発現象とは、コロナからの非

    図 1: EWL と LX の相関図 (Namekata et al. 2017

    より)

    熱的な粒子の彩層への降り込みにより、彩層大気は

    急激に加熱されコロナに向かって上昇する現象のこ

  • 53

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    とであり、この上昇する加熱された彩層大気がフレ

    アループを形成し、ループ中の高温プラズマから軟

    X線が放射されるからである。

     このような、太陽フレアの発生メカニズムは近

    年の研究から解明されてきているが、恒星フレアに

    おいてはわかっていないことも多い。そこで我々は、

    恒星フレアや巨大恒星フレアと呼ばれる各天体にお

    ける最大規模のフレアにおいても白色光と軟 X線の

    間における Neupert効果が成り立つか調査を行うこ

    とで、太陽で起こる彩層蒸発現象が適応できるのか

    どうか調査を行った。

    2 Observations

     観測機器にはトランジット系外惑星探索衛星

    TESSとX線全天監視装置MAXIを使用した。TESS

    は 6,000 – 10,000 Å の帯域で測光観測を行っており、

    北天と南天をそれぞれ 13 の区画に分け各区画ごと

    に 27.4日間の観測を行っている。露光時間が 2分と

    短く、細かい光度変動も見逃さずに観測できるため、

    フレア検出に適していると考えた。MAXIは ISSに

    取り付けられた検出器であり、ISSの公転周期であ

    る 92分ごとに全天の 85パーセントを観測するため、

    突発増光天体を検出する性能に優れている。また、

    MAXIで検出されるフレアは各天体における最大規

    模のフレアだということがわかっている (Tsuboi et

    al. 2016)。MAXIのエネルギー帯域は、2 – 20 keV

    である。

      TESSが観測を始めた 2018年 7月 25日以降で

    MAXIが検出したフレアが TESSで観測されている

    かどうか調査を行い、2018年 8月 16日に dMe型星

    のけんびきょう座 AT星で生じたフレアが同時観測

    されていることがわかった。

    3 Methods

    白色光フレアのスペクトルは 10,000 K の黒体放

    射で記述できると仮定して放射エネルギーの算出を

    行った。放射エネルギーの算出には Shibayama et al.

    2013の方法を用いた。計算式は以下の通りである。

    Aflare(t) = (∆F/F)(t)πR2*

    ∫RλBλ(Teff)dλ∫RλBλ(Tflare)dλ

    (1)

    Lflare = σSBT4flareAflare (2)

    Eflare =

    ∫Lflare(t)dt (3)

    ここで、R* は星の半径、Rλ は TESSのレスポンス

    関数、Bλはプランク関数、Tflareはフレア時の温度、

    Teffは静穏期の温度、Fは静穏期の TESSカウント、

    ∆Fはフレアピーク時の TESSカウントと静穏期の

    TESSカウントの差分である。静穏期の TESSカウ

    ントにはフレア前の静穏期をフレアピークの時刻ま

    で外挿したカウントを用いた。

     また、MAXIで観測したX線フレアの解析では、

    スペクトル解析ソフトウェア XSPECを用いてスペ

    クトル解析を行った。熱的制動放射のモデルである、

    apecをモデルを使用してモデルフィッティングを行

    い、0.01 – 10 keV での光度を求めた。

    4 Results

      TESSとMAXIで観測したけんびきょう座 AT

    星のライトカーブを図 2に示し、同時観測したフレ

    アのライトカーブを図 3に示す。このフレアに対し

    て、3章で示した解析を行う。

    図 2: TESSとMAXIで観測したけんびきょう座AT

    星のライトカーブ

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    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    図 3: TESSとMAXIで同時観測したフレアのライ

    トカーブ

     白色光フレアの放射エネルギー算出に用いたパラ

    メータR*・Tflare・Teff・F・∆Fおよび、式 (1)∼(3)に各パラメータを代入することで求められたAflare(t)・

    Lflare・Tflareの計算結果をを表 1に示す。式 (3)で用

    いる積分時間は、移動平均を用いたフレア検出にお

    いてフレアと判定されたビンから算出した。

    表 1: 式 (1)∼(3)で使用するパラメータおよび計算結果パラメータ 値

    R* 0.7R ・⃝ (S.Messina et al. 2016)

    Tflare 10,000 K (Shibayama et al. 2013)

    Teff 3,200 K (Plavchan et al. 2009)

    F 1.80×105 electron s−1

    ∆F 1.42×105 electron s−1

    Aflare(t) 7.77×1019 cm2

    Lflare 2.88×1031 erg・s−1

    Tflare 3.23×1036 erg

      X線解析の結果から、0.01 – 10 keV での光度

    (Lx)は、

    Lx = 7.08(+9.97,−5.79)× 1031erg・s−1

    であった。

     ここで、MAXIのデータを用いたX線解析では

    エネルギー帯域を 0.01 – 10 keVにしたが、先行研究

    である Namekata et al.2017では太陽フレアの X線

    解析を 1.55 – 12.4 keV で行っているため、XSPEC

    を用いて 0.01 – 10 keV での光度を求めた。

     また本研究では、TESSとMAXIを用いた同時

    観測の他に、KeplarとXMM-Newtonでプレアデス

    星団にある 12 天体のフレアを同時観測した先行研

    究 (Guarcello et al 2019)のデータを基に、0.01 – 10

    keV での光度を求めた。

     これらの解析結果を用いて、0.01-10 keVにおけ

    る光度 (Lx)と白色光フレアの放射エネルギー (EWL)

    の関係を調べた。その結果 EWL ∝ LX0.943±0.037 であった。Lx vs EWL のグラフを図 4に示す。

    図 4: log(Lx) vs log(EWL)

    5 Discussion

    本研究の結果から、非熱的放射と考えられている

    白色光フレアのエネルギーは熱的放射である軟 X線

    (0.01-10 keV )フレアの光度に比例していることが

    わかった。このことは、太陽だけでなく、恒星フレ

    アや巨大恒星フレアにおいても Neupert効果が成り

    立つことが示唆され、恒星フレアや巨大恒星フレア

    における白色光と軟 X線の放射機構が太陽フレアと

    同じであることが示唆された。

    Reference

    [1] Namekata et al. 2017, APJ, 851, 91N

    [2] Tsuboi et al. 2016, PASJ, 68, 90

  • 55

    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    [3] Shibayama et al. 2013, ApJS, 209, 5S

    [4] Messina et al. 2016, Ap&SS, 361, 291M

    [5] Plavchan et al. 2009, ApJ, 698, 1068P

    [6] Guarcello et al 2019, AN, 340, 302G

  • 56

    ——–index

    太恒13飛騨天文台SMART-TEM偏光キャリブレー

    ション京都大学理学研究科附属天文台

    山崎大輝

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    2020年度 第 50回 天文・天体物理若手夏の学校

    飛騨天文台SMART-TEM偏光キャリブレーション

    山崎 大輝 (京都大学大学院 理学研究科 附属天文台)

    Abstract

    太陽フレアは太陽コロナで発生する磁気エネルギーの突発的 (∼ 10 min)解放現象である。太陽フレアの発生機構の理解には、60 sec以下の時間分解能で太陽大気の磁場データを取得する必要がある。SMART望遠鏡

    搭載マグネトグラフ (T