電力・燃料トレーディングとアセット最適運 用によ …...背 景...
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背 景
わが国では,電力システム改革における「市場機能の活用」の副作用として,市
場リスクの増大が予想され,そのリスク管理手段として電力先物や LNG 先物が導入
されようとしている.再生可能エネルギー電源の大量導入も,将来的に市場リスク
の増大につながると懸念され,調整用火力電源の価値が増大し,その最適運用が一
層重要となる.
目 的
自由化で先行するドイツの電気事業者が行っているトレーディング戦略の基本的
な考え方を,ヒアリング調査及び文献調査により明らかにし,今後,わが国の電気
事業者がとりうる市場リスクへの対応策に関する示唆を得る.
主な成果
1. トレーディング部門への電源運用権の移転とその価値の評価方式
ドイツの主要な事業者のトレーディング部門は,発電部門から 3 年程度の電源運
用権を受け渡され,どの電源をどのように運転するかの決定権を持つ(図 1).その
対価として移転価格が受け渡されることで,発電部門は安定収益を得るが,トレー
ディング部門は電力・燃料価格の変動リスクを負う.移転価格は,電源の運転の 3年前に,オプション価格理論に基づいて,電源が実際に発電することで得られる収
入(本源的価値)と,価格変動に対応した柔軟な運転で獲得できる期待収益の増分
がもたらす価値(時間的価値)を反映したものとなる(図 2).ベース電源の価値は
ほとんど本源的価値であるのに対し,ピーク対応電源の価値はほとんどが時間的価
値になる.
2. 先物取引を用いた電源タイプ別のリスク・ヘッジ
収益変動リスクを負ったトレーディング部門は,電源のタイプによって異なるリ
スク・ヘッジの方法をとる.時間的価値の大きい火力電源については,市場価格の
変動に伴う電源価値の変化を,高頻度の先物取引で相殺する「デルタ・ヘッジ」と
呼ばれる方法で,電源価値の毀損を回避している(図 3).一方,主にベース電源と
なる原子力や水力については,市場流動性制約やリスク許容度制約注1)の中で,3 年
程度の時間をかけて,先物取引で売電価格を確定し,損失を回避している(図 4). 3. わが国の電気事業者への示唆
ドイツのように市場環境が整備されるのに伴い,短期のリスク管理におけるアセ
ット運用注2)の柔軟性の価値が重要になるため,わが国の電気事業者も,費用対効
果を踏まえて,徐々にその拡充を図っていくことが望ましい.ただし,ドイツのよ
ii ©CRIEPI
電力中央研究所報告 経 営
電力・燃料トレーディングとアセット最適運用による発電事業の収益管理
-ドイツ事業者の事例-
キーワード:�電力先物,燃料先物,電源価値,トレーディング,最適化 報告書番号:Y14012
うな市場環境の整備が進んでも,3 年を超える長期のリスク管理は,トレーディング
機能の強化だけでは対応できない点などに留意する必要がある.
今後の展開
電力市場に適用可能なファイナンス理論に基づき,わが国の電気事業者のトレー
ディング機能の強化によるリスク低減効果などについて,定量的な分析を行う.
注1)市場流動性制約とは,先物・先渡し市場の流動性が確保されずに,適正な価格でヘッジ取引ができない
という制約を表す.また,リスク許容度制約とは,経営サイドからトレーディング部門に課されるポジ
ション制約である. 注2)アセット運用とは,発電所・送電網・ガスパイプライン・ガス地下貯蔵設備・LNG タンク・貯炭場・運
搬船などのアセットを,その技術的・容量的制約の中で運用することを指す.
図 1 E.ON における発電部門からトレーディング
部門への運用権移転
3年 より遠い将来
発電所の運転 発電所の運転
電力・燃料・排出権の市場リスク管理
電力・燃料・排出権の市場リスク管理
アセット運用最適化 発電所への投資
市場トレーディング
現時点
トレーディング部門の責任
発電部門の責任
図 2 オプション理論における電源価値の意味
電源価値
スプレッド(卸電力価格-発電コスト)
0
スプレッド=0 のとき時間的価値は最大
本源的価値
実際に発電することで得られる価値
時間的価値
将来における電源の運用柔軟性の価値
関連報告書: [1] Y13004「欧州のエネルギー事業者におけるトレーディング部門の役割」(2014.03) [2] Y13021「電力取引における先物市場の活用―米国 PJM の事例―」(2014.04) [3] Y02013「電力経営におけるリアルオプションの価値評価手法と適用事例」(2003.04)
図 3 デルタ・ヘッジの一般的な考え方
(スプレッドがゼロから縮小したケース)
電源価値
0
スプレッド=0のときの電源価値
電源価値の毀損
スプレッドの売りの価値増加
スプレッドの縮小
スプレッド
デルタ(電源価値の曲線の傾き)
電源価値のデルタ(曲線の傾き)と同量のスプレッドを売り建てる(電力先物を売り,燃料先物を買う)ことで,スプレッドが縮小した場合でも電源価値の毀損とスプレッドの売りの価値増加が相殺される
スプレッドの売りのペイオフ
図 4 E.ON におけるフォワード・ヘッジの例 この例では,当年に想定するベース電源の供給量
について,実際の供給の 3 年前からフォワード・
ヘッジする(先物契約のポジションを徐々に積み
上げる)ことで,変動性の高い市場価格に比べて
平均的な価格で売却することが可能になる.ま
た,トレーディング部門への電源運用権の移転の
対価は,3 年前の先物価格をもとに算定される.
[ユーロ/MWh]
先物価格
ヘッジ取引による売電価格
当年の平均スポット価格
移転価格の算定期間
当年1年前2年前3年前
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関連研究報告書 [1] Y13004 「�欧州のエネルギー事業者におけるトレーディング部門の役割」(2014.03)
[2] Y13021「電力取引における先物市場の活用―米国PJM の事例―」(2014.04)[3] Y02013 「�電力経営におけるリアルオプションの価値評価手法と適用事例」
(2003.04)
研究担当者 遠藤 操(社会経済研究所 電気事業経営領域)
問い合わせ先 電力中央研究所 社会経済研究所 研究管理担当スタッフTel. 03-3201-6601(代) E-mail:[email protected]
報告書の本冊(PDF版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] ©2015 CRIEPI 平成27年4月発行